10/09/27 13:22:04 l7xtM4g0
僕は兄になった。
健人として生きていかなければいけなかった。
僕はいらない
必要とされていない
そう感じる度、苦しくないようにと陶芸に打ち込んだ。
兄と同じ水準の作品を作ること。
それだけが僕が僕であるための証だった。
土練りも、ろくろによる成型も、高台を削る工程も、釉掛けも、
なにもかもが兄とは違った。僕には兄のような才能はなかった。
父は僕が作ることが出来た一番の作品をこともなげに割った。
こんなものを作りおって、といって。
なにが違うのかは、凡庸な僕にはわからなかった。
ただ壊される日々が毎日、毎日続いた。
でも僕は嬉しかったんだ。
兄がいなくなった事実は受け止めようのないくらいに辛かったけど、
それでも、父は僕だけを見てくれるようになったから。
どんなに厳しくても、泣いたことなんてなかった。
こうして父と兄の背中だけを見つめて生きていくんだと思っていた。
なのに、ひとりになることはとてもたやすいことだった。
どうして。
僕は、もう僕以外にだれも使うことのなくなった工房で肩を落とした。
そのときになって初めて涙が流れた。