10/08/09 13:58:02 qcQIKO9Q
「~♪」
しばらくしたある日。あたしは久しぶりに音無くんと一緒に川原へ、明日のオペレーション、モンスターストリームを行うための下準備に来ていた。鼻歌まで歌って。
川の主は以前かなでちゃんが釣り上げたから、今回は本当にただの魚釣り。危険はないはずだけど、一応念のためってことで。
だから別にモンスターストリームじゃなくてもいいんだけど、考え直すのもめんどくさいし、このままでいくことにした。
「どうしたゆり? 今日はなんか機嫌よさそうだな」
「え? そう見える?」
「ああ。なにかいいことでもあったのか?」
音無くんが不思議そうに問いかけてくる。そりゃあ、久しぶりに音無くんと一緒にいられるんだもの。頬も緩むし、自然と笑顔にもなるわ。おまけに胸の痛みも感じないし、もう最高ね!
今までは緊張して悶絶することが多かったけど、あれはきっとまだこの感情を完全に自覚していなかったからだろうし、音無くんへの恋心を本格的に自覚した今は、若干スッキリした気持ちになっていた。
遊佐さんにバレた、ということも少しは拍車をかけているんだと思う。だったら、もうバレたらバレたで開き直ってやるわ。そのほうがあたしらしいし。
だからと言って大っぴらに行動するのはまだ抵抗があるから、今は少しずつ外堀を埋めていけばいいと思っている。
「音無さん」
不意に背後から声が聞こえたので、歩みを止めて後ろを振り返ると、ある意味あたしにとってラスボス的存在の遊佐さんが立っていた。
え? この娘、なんでここにいるの? オペレーションメンバーには行き先を伝えてあるけど、遊佐さんやガルデモのみんなには伝えていないはず。ということは、ほかのメンバーから聞いたのかしら?
「あれ、遊佐? おまえ、どうしてこんなところにいるんだ?」
「音無さんとゆりっぺさんが二人で校内から出て行くところを見かけたので、付いてきました」
チラ、とこちらを軽く一瞥する遊佐さん。
う、あの日以来この娘、ちょっと苦手だわ。なんかあたしの心の中をすべて見透かされているような気がするし。
オペレーションの時は私情を持ち込まないけど、こういった私生活の中で出会うと、少しばかり警戒してしまう。なによりあたしの気持ちを知っているから、それを材料になにかしてきそうで。
百歩譲って戦線の女性メンバーにバレるならまだしも、仮にもほかの男性メンバーや音無くんにバラされでもしたら、あたしは今すぐにでも壁に頭を打ち付けて、自ら死を選ぶだろう。
いや、すでに死んでるから意味ないわね。じゃあ、この世界からの消滅かしら。
「付いて来た理由ですが、ちょっと音無さんにお聞きしたいことがあったので。少しお時間よろしいですか?」
「ああ、構わないよ」
「では失礼して」
遊佐さんはそう言うなり、音無くんに擦れ合うほど近寄ってきて――。