10/09/05 18:26:12 h/r4B0uX
カナが床に頭を打ち付ける直前で何とかその身体を抱きとめた俺だったが、正直途方に暮れていた。
腕の中のカナはお芝居とかタヌキ寝入りとかじゃなく、本気で気絶している。
さすがに先刻のカナの言葉を一から十まで鵜呑みにはできないが、同時に全部が嘘だと決めつけるのも憚られた。
少なくとも、カナの中では「ソレ」が事実なのだろう。
とりあえず、薄いボレロだけ脱がして赤いワンピース姿のまま、ベッドの上にカナの身体を横たえる。
いや、さすがに着替えさせるのはムリ! 服が皺になってるかもしれないが、どうせクリーニングに出すんだから構わないだろう。
それより、本当に何らかの問題がある─たとえば脳や神経系の疾患だとか、あるいは心理的な病気だとかだった時のコトも、一応考えておくべきかもしれない。
ひょっとして救急車を呼んだ方がいいのだろうか……と、俺が悩み始めた数分後、カナは呆気なく意識を取り戻した。
ベッドの上で、パチリと音がしそうな勢いで、双つの眼が開かれる。
「よ、よかった、カナ、目が覚め……」
「たんだな」と俺は続けられなかった。
スーッと人形のような動作でベッドの上に身を起こしたカナの様子が、明らかにヘンだったからだ。
「ふむ、ようやっと表に出られたか。この娘も、なかなか粘りおったものよ。或いはこれが「愛」の成せる業かのぅ……」
俺の方を見ようともせずに、何事かブツブツ呟いているカナに、俺は恐る恐る声をかけた。
「お、おい、カナ……大丈夫、なのか?」
「ん?」
今まで見せたこともないような胡乱げな目つきを向けてきたカナだが、すぐに俺の顔を見て、顔をほころばせた。
「おぉ、兄者か。うむ、大儀ないぞえ」