11/01/25 02:02:28 WBgrC66E
投下期待しつつ、スレ的にお薦めしたい本見つけたんで
ついで…と言うには長いが一応布教
子供向けレーベルでまったくノーマークだったのに完璧やられたぜ
「ファンム・アレース」香月日輪
外見年齢20代の青年と9歳の少女(婆さん口調)が追っ手をまきながら2人で旅する話
細かいネタバレ割愛でズバリ言うと、実年齢差は140歳近く
設定上、青年は少女の血で作ったエンゲージリングを左手薬指にはめている(※取れない)
契約の関係で片方が死んだらもう1人も死ぬので一心同体、一蓮托生
この年齢差ながら、旅の途中、恋愛的な意味でお互いを意識し合ったりが頻繁にある
夫婦ごっこしたり指輪プレゼントしたり、一緒に寝たり
青年が少女の下着姿は見慣れたとか言ったり色々半端なかった
っつかファンタジーだし、普通に体の関係もあるって言われても
納得するくらい普通にラブってた
エロ妄想がこんなに余裕な子供向けレーベルも珍しいと思った
601:総一郎と茜_四度目の6月 11 ◆DswpUl0rgY
11/01/25 18:44:11 RIGUeI7Q
>>600
ちょっと本屋に走ってくる
602:名無しさん@ピンキー
11/01/25 18:44:59 RIGUeI7Q
ああああああ、名前欄気にしないでください……orz
603:名無しさん@ピンキー
11/01/25 21:18:30 0/S1wQMH
>>602
開幕までに再度来てくれる事を待ってるぞw
604:名無しさん@ピンキー
11/01/25 23:24:09 vmGOjMcy
しかと見た<●><●>
605:名無しさん@ピンキー
11/01/28 18:37:27 M47Yy8gL
総一郎なら俺の膝枕で寝てるよ。
606:総一郎と茜_五度目の9月 0 ◆DswpUl0rgY
11/01/28 20:53:47 lr69GeGn
先日は失礼しました。投下します。
エロあり、マイナス思考。
607:総一郎と茜_五度目の9月 1 ◆DswpUl0rgY
11/01/28 20:55:37 lr69GeGn
「何度してもしてもし足りなくて、俺ってどこかおかしいのかな」
総一郎がそんな可愛いことを言っていたのは、確か付き合い始めて二年がたったころだった。
その後の長い年月がすっかりと彼を落ちつかせてくれたようで、近頃の総一郎はがっつくような求め方をしなくなった。
夜眠る前に、予定調和のセックスばかりをしている。はっきりと言ってしまえばマンネリなのだ。
時々それがとても、よくないことのように感じてしまう。
この五年で、自分は随分と欲張りになったと茜は思う。
彼がただそこにいてくれればいいと、それだけを願っていたはずなのに。
*
遠慮がちな物音で意識が浮上した。
薄暗い見慣れた室内の中を、ほのかな明かりが照らしている。
それがノートパソコンのディスプレイのものだと気がつくのに、数秒を要した。
先ほどから聞こえている規則的な物音は、キーボードをたたく音だと理解するのには、さらに数秒が必要だった。
ぼやけた視界に映る背中は紛れもなく恋人のものだ。
浅尾、と声をかけて、唐突に今日が金曜であること、彼がアルバイトの後に寄るとメールをよこしていたこと、
だけど自分が帰宅してすぐにシャワーを浴びたあとの記憶が全くないことを思い出した。
総一郎の顔を見るまで起きていようと思っていたのに、相当に疲れていたらしい。
いまだ続く暑さが、茜から体力と食欲を奪っている。
去年までは総一郎に合わせて規則的に食事をとっていたのだが、今年に入って研究が忙しくなってしまったらしい彼は、
まめに顔を出してくれるものの長い時間を一緒に過ごせなくなった。
そのこと自体を責めるつもりは毛頭ない。
研究は化学を志す者にとって大事なことだ。寝食を忘れるほど没頭すべきなのだ。
許せないのは、それを寂しいと思う自分自身だ。
「あ、ごめん……起こした?」
総一郎がゆっくりと振り向いてくれる。
彼からは自分の寝ぼけた顔が見えているのだろうか。こちらからは逆光になってしまい、まったく総一郎の表情は伺えない。
「ん……別にいい。……電気は、」
「ああ、いいよ。十分見えるし」
「だめだ……目がわるくなる」
「そしたら、センセイと同じ眼鏡にするよ」
彼はいつもそんな軽口を言う。
近視がどれだけ不便か知らないから、そんなことを言えるのだ。
もぞもぞと布団から左手を出して、そっと総一郎の洋服を握った。
どうしてそんな子供っぽい行動をとったのか、よく判らない。
総一郎はその温かい手を、茜の左手に重ねてぎゅっと握りしめてくれた。
温もりに安堵する。離したくなくて、その手を引き寄せ頬にすり寄せた。
センセイ? と、穏やかな声がする。
うっすらと目をあけると、思いのほか総一郎の顔が近くにあった。
らしくない茜に驚いているのは、自分だけじゃないようだ。
多分、自分は寝ぼけているのだ。総一郎もそれを確認するために、茜の顔を覗き込んでいるんだと思う。
寝ぼけついでに、ずっと思っていたことを言ってしまおう。
608:総一郎と茜_五度目の9月 2 ◆DswpUl0rgY
11/01/28 20:56:08 lr69GeGn
「……私は、いつまで君の先生なんだ?」
驚いたように犬のような両の瞳を見開いて、総一郎が押し黙った。
その、形のいいくちびるを薄く開いて、慎重に、言葉を選びながら総一郎が返事をよこす。
「俺が浅尾じゃなくなったら」
「浅尾は浅尾だろう?」
余りに当然なことだ。さらりと口に出してから、遅ればせながら総一郎が何を求めていたのか理解をした。
彼はその返事をどう受け止めたのか、一瞬だけ浮かべた困ったような表情をすぐに苦笑いの微笑に変えて、視線を手元のノートパソコンに戻した。
一度だけ懇願されて名前で呼んだ日のことを思い出した。
柄にもなく緊張をした。
どうにも口に馴染まなくて、やっぱり呼べない、と思ったまま今日まできてしまった。
ついでに、あの衝撃的な愛の告白の、夕焼けに染まった実験室を脳裏に描く。
あそこから始まった。
何度も手を握られて、抱きしめてもらって、髪を撫でられて、一緒にコーヒーを飲んだ実験室。
彼がすねて見せたり、自分が感情を露にさせられり、贈り物をしたり、言い争いだってした。
懐かしい思い出の場所だ。
途中から記憶はすり替わって、この部屋での出来事が主になる。
はじめてのキスは玄関で。極限に驚いた彼の顔を今でも覚えている。
はじめて、総一郎に食事を作ってもらった日のことも。
彼を殴った日に、コーヒーを入れてもらった。本気で手を挙げたのは後にも先にもあの時だけだ。
総一郎の18の誕生日に、一緒に朝を迎えた。
それ以来何度も何度も、求めあってセックスをした。
大学に合格して、高校から彼がいなくなって。こんなにさみしくなるとは予想だにしていなかった。
それからも同じ時を過ごせた今日までに、感謝している。
あまり喧嘩はしなかった。彼のこの優しさに、助けられてきた。
だけど、時々苦しくなる。
彼の未来を奪っていいのか、と。
ほんとうに、未来を重ねられるのか。間違った選択じゃないか。
だって総一郎はまだ、たったの21歳なのだ。
五年間を共にして今さらだけど、自分はいつか彼の邪魔になってしまうのではないかと、最近特に思う。
教師になる、と彼は言った。自分のような先生になりたい、と。
それだって、嬉しくてくすぐったかったけれど、自分の存在が彼の選択肢を狭めたのではないか、と胸を痛くした。
もしも、万が一彼と離れてしまったら、自分はどうなるのかとふと考えた。
もう一度、他の誰かとあんな風に一から始めるなんて到底無理だと思うし、総一郎との思い出を上書きして塗りつぶしてしまうぐらいなら、孤独に耐えた方がいい。
この温もりは、誰にもすり替えられない。
そんな後ろ向きなことを考えたら、得体の知れない感情に流されそうになり、茜は慌てて眼を閉じた。
パソコンの終了音のあとに、ぱたん、とふたを閉じる音がする。
次の瞬間、繋いだままのものと逆のてのひらが、探るように茜の額をなでた。
満たされている、と強く思った。だけと次の瞬間には潮が引くようにぽっかりと胸ががらんどうになってしまった。
胸が痛い。愛していて、愛されているはずなのに、どうにも歯車がうまくかみ合っていないような違和感がくすぶっている。
609:総一郎と茜_五度目の9月 3 ◆DswpUl0rgY
11/01/28 20:56:39 lr69GeGn
「センセイ?」
顔をのぞきこまれながら柔らかく呼ばれて、また満たされてすぐに虚しくなった。
珍しく心が不安定になりすぎていて苦しい。こんなのはほんとうの自分じゃない。どうしたというのだろう。
上体を持ち上げくちびるをぶつけて、彼を求める。
ちょっと驚いたように身を震わせた彼が、それでもゆっくりと熱い舌を絡ませて上手に呼吸と意識を奪ってくれる。
たっぷりとお互いの舌を味わいつくして、息が苦しくなったころに総一郎は名残惜しげに顔を離して、ほう、とためいきを落とした。
「どうしたの? なんか嫌なことでもあった?」
「……べつに?」
「疲れてる?」
「いいや」
「じゃあ、お腹すいてるの?」
「すいてない」
「眠い?」
まるで子供扱いだな、と苦笑する。
言われてみれば、少し眠いような気がしないでもない。
「なぜそんなことを聞く?」
「や、どうしたのかなーと思って」
どうもしてない、と小さく呟きながら、またくちびるを重ねる。
―なにか思うところがあるのは君のほうじゃないのか。
重なった温もりを引きはなして、よっぽど言ってしまおうかと思った。
それができなかったのは、キスが心地よすぎたせいと、総一郎の思うところが茜にとって望ましいものではなかったときに、受け止める自信がないせいだ。
自分はほんとうに弱くなった。
彼がどこを向いていても手放したくないなんて、ただの醜い執着だ。それは愛というものなのか。
くちびるが、体温が、かかる吐息が心地よすぎて離れられないだけじゃないのか。
違うと言いきれない自分の弱さが、どうしようもなく嫌になる。
今は何も考えたくない。厄介事は後回しにして、今はただこの温もりに身を預けてしまいたかった。
キスには応えてくれるけれど、背に回った手はそれ以上動いてくれない。
焦れったくなって、洋服の裾から手を差し入れた。
顔を離して、くびすじに口づける。
ぺろり、と煽るように舐めあげると、総一郎の温かい手がそっと背筋を撫で上げて身体がすぐに熱くなった。
してほしい。抱いてほしい、訳がわからなくなるほどめちゃくちゃに、愛してほしい。
心の中だけで呟いたはずなのに、もしかして声に出していたのかもしれない。
「する?」
色っぽく耳元でささやかれて、皮膚があわだった。
「…………うん」
自分でも驚くほど素直に頷くと同時に、服の間から素肌に熱い手が触れる。
体温が一気に上昇した。回転を始めていた思考が白く濁る。
腹を撫でていた総一郎のてのひらが、すると這い上がり乳房を包んだ。指先に掛かる絶妙な圧力が、快感となって全身を駆け巡る。
なにかを試すように、総一郎のくちびるが茜のそれに軽く触れては離れを繰り返す。
追いかければ浅く触れて、すぐに離れてしまいもどかしい。
焦らされているのだと理解したら、生意気だと軽く苛立った。
いい加減じれったくなったころに突然、熱い舌が割り込んできて口内を好き勝手に動き回った。
かと思ったら、あっと言う間に寝間着のボタンを外される。
ずいぶんと手慣れたものだと関心をした。
「センセイ」
キスの合間に囁かれる声は、間違いなく茜を愛しく思う音で安堵した。
610:総一郎と茜_五度目の9月 4 ◆DswpUl0rgY
11/01/28 20:57:22 lr69GeGn
彼はほんとうに駆け引きが上手くなってしまった。
嫌味なほど焦らしたかと思えば、するすると淀みない動きで茜の気持ちいいところを的確に攻めて、
熱っぽく耳元で囁いて、あっという間に自分を骨抜きにしてしまう。
文字通り、骨抜きだ。
まだキスと軽い愛撫だけなのに、甘いしびれが腰に響いて上体から力が抜けた。
ぐんにゃりとしてしまった身体から身を離した総一郎が、すばやくシャツを脱ぎ棄ててまた茜に向き合った。
寝間着の前を開かれて、上半身が無防備になる。
気恥ずかしくなって、両腕で胸を隠すような姿勢をとったけれど、すぐに解かれてしまう。
いまさらじゃん、とからかう様な声音で囁かれた。
確かに今更だ。だけどその声がまた茜の羞恥を誘う。
むき出しにされた乳房を包みこまれて、くちびるが落ちてくる。
湿った舌先が、立ち上がりかけた先端に軽く触れた。それだけの刺激で、びく、と肩がふれる。
含み笑いを漏らした総一郎のくちびるが、乳首を挟みこんで吸い上げた。
「あっ……ん、」
声が漏れる。その甘さに、また恥ずかしくなる。
こんなことぐらい、と自分に言い聞かせても、湧き上がってくるぞくぞくとした快感に逆らうことはできない。
総一郎は伸ばした舌を優しく慎重に、回すように使ってゆっくりと硬くなった頂きを転がしていく。
「やっ……」
何が嫌なんだろう。自分が判らない。
優しすぎてじれったい。もっと激しくしてほしいと、心も身体も思っているはずなのに、そんなことは絶対に口にできずに反対の言葉ばかりが出てきてしまう。
総一郎の肩に両手をおいて、逃げるように身をよじらせた。
指先に伝わる彼の体温に、また興奮する。
その手を滑らせて、肩甲骨を撫でてうなじをたどり、後頭部までたどり着く。
かき抱くように総一郎の頭を抱き寄せれば、乳首をきつく吸われて身体が浮き上がった。
「んぅ!」
とっさに逃げようとした身体を押さえ込まれて、快感をやり過ごせずに思考が白くなる。
「あっ、や、待て……んん!」
拒否の声などまるで届かないといったように、吸われた先端を熱い舌が触れてまた腰が揺れる。
反対の先端も、少しこわばった指で強くつまみ上げられた。
「浅尾っ……ふ、ぅん!」
全身がぞくぞくする。くすぐったい、逃げ出したい、でももっと欲しい。
自分の中に矛盾したいくつもの感情がうずまいて、形になる前にすべて解けて消えてしまう。
するりと衣服をすべて取り払われる。心細さに心がざわついて、奇妙な興奮が湧き上がってきた。
足の間に割りいれられた総一郎の指先が、敏感な部分を刺激する。
秘裂を押し広げられ、むき出しにされた花芽を指の先でちょんと弾かれて、息が詰まる。
もうどこが感じているのかよく判らない。
とにかく総一郎に触れられているところすべてが気持ちよくて―気持ちよすぎて泣きたくなる。
自分の感情が制御できない。
真っ白になる。また意識が飛んでしまいそうだ。
そう思ったとたんに、攻めが止まって現実に引き戻される。
611:総一郎と茜_五度目の9月 5 ◆DswpUl0rgY
11/01/28 20:58:03 lr69GeGn
「センセイ」
いやだ、そんな風に呼ばないで欲しい。
愛されているのだと思ったら、今以上に彼のことを愛してしまう。
それは現在の自分にとってとてもとても、苦しいことだ。
堪えるように指先に力を入れて、総一郎の気を引いた。薄闇のなかで、なに、と彼が小首をかしげたのがぼんやりとした視界でも判った。
「……も、……」
その先はとても口に出せなくて、ゆるりとくびを振った。
「もういいの?」
問われて素直に頷く。暗闇でもその仕草を認めた総一郎が、でも、と小さく言った。
そのまま彼は上体を折り曲げ耳元にくちびるをよせて、間近で低く囁いた。
「まだ、だめ」
言い切ると同時にぺろりと耳を舐められて、身体が跳ねた。
くちゃり、という粘着質な音が、ダイレクトに脳髄に響く。
「あっ、ん……っ!」
咄嗟に逃れようと身をよじる。無防備になったくびすじに吸いつかれて、また全身が震えた。
その間も、総一郎の指は柔らかな肉壁をこすり上げて、敏感な場所を刺激する。
いつの間にか二本に増えたそれは茜の体内でばらばらと蠢いて、どんどんと自分を追い詰めていく。
「あ、ああっ……ん、」
もう声が抑えられない。彼の肩に置いた指先に力がこもる。
体温が熱い、と思った。自分の身体も、きっと平素からは考えられないぐらい熱くなっているだろう。
そう考えた次の瞬間、声も出せないほどの波がやってきた。
―息ができない、苦しい、感じすぎて苦しい。早く、もっと、もっと……!
「んん!」
全身がびくりと痙攣し、あっけなく絶頂が訪れてやっと息を吐き出せた。
指の動きを止めた総一郎が、ゆっくりと上体を起こした。
呼吸が整わないままうっすらと瞳をあけると、間近に彼の両目があった。
総一郎がへら、と笑う気配がする。
降りてきたくちびるを大人しく受け入れながら、いいようにされている自分を改めて不思議に思った。
短いくちづけが終わり、茜がぼんやりと視線を彷徨わせながら呼吸を整えている間に、総一郎が手早く挿入の準備を終えて戻ってきた。
こちらからも何か仕掛けてやろうと考えていたのに、手際の良さに少し驚く。
恨み事を言う前に、準備が整ったそれをちらりと視界に入れたらどうしようもなく欲しくてたまらなくなった。
太ももに掛けられた手をそっと振り払って、上体を起こす。
「……なに?」
問いかけを無視して、総一郎の肩を押してから圧し掛かるように彼にまたがると、そっと彼自身に手を添えて先端をあてがった。
そのままゆるりと腰を落とす。目の前が白むほどの快楽が、背筋を駆け上がって脳天へと抜けた。
「あっ……あぁ、」
のろのろと、総一郎が自分の中に分け入ってくる。少しでも長く感じていたいのに、早くそれが欲しくて最奥がうずく。酷い矛盾だ。
動きが緩慢なせいで、入口がひくひくと物欲しげに蠢いているのが自分で判ってしまった。
「ぁ、ん」
媚びるような嬌声が漏れたと同時にやっとすべてが収まる。両腕を総一郎の首に回して、顔を覗き込む。
切なげに両目を細めた総一郎が、そのまま目を閉じてくちびるを重ねてきた。
腰を軽く揺らすと、重なった口のしたから総一郎の熱い吐息が漏れるのが、たまらなく愛おしいと、茜は思った。
612:総一郎と茜_五度目の9月 6 ◆DswpUl0rgY
11/01/28 20:58:53 lr69GeGn
しばらく密着を楽しんだあと、唐突に肩を押されて上体をベッドに沈みこまされた。
なに、と思う暇もなく、総一郎の腰が激しく動き、再び頭が真っ白になる。
「あ、あ……、あさおっ……!」
少しだけ残った理性が、彼を名前で読んでみようとしたけれど口をついて出たのはやっぱり「浅尾」だった。馴染み過ぎていて、こんな状況でとても違う名前など出て気はしない。
喘いでいるうちに、何も考えられなくなった。
ただ喉を反らせて甘い声をあげ、強すぎる快楽にさらわれないように総一郎にすがりつくだけだ。
「……く、センセ…も、いい?」
問われても返事もままならない。やっとの思いで、嬌声の合間に「うん」と紛れ込ませると、総一郎の動きがますます激しくなって苦しくなる。
苦しいのは肺なのか、胸なのか、判らないまま身体を揺さぶられ続けて、妙に泣きたくなった。
総一郎が、自分の肩に顔をうずめて低くうめいた。自身の内部でどく、どく、と彼が脈打つのが遮蔽物越しでも判った。
終わったんだ、という安堵と同時に妙な虚無感が襲ってくる。
それを誤魔化すように茜は、総一郎の頬にそっと手を添えてキスをねだった。
*
心地よいまどろみから意識を浮上させると、隣に恋人の姿はなかった。
代わりに枕もとの携帯電話がぴかぴかと光り、メッセージの受信を知らせている。
メールは案の定、総一郎からだった。
朝一番で実験があるから、起こさずに出ていったこと。時間ができたらまた来ます、と簡潔な連絡だ。
一読をすると、携帯電話を閉じて放り投げた。再び枕に顔をうずめる。
不覚にも、寂しいと思ってしまった。そういう感情は、己にはないと思っていたのに、総一郎に甘やかされているうちに、ずいぶんとわがままになってしまったようだ。
そばにいてくれないと、何もかもが駄目になってしまうような気がする。
一人で日常を送るのがやっとの体たらくだ。
近頃どうしてこんなに不安になるのか、茜には何となく判っている。
―原因は自分だ。
この関係を終わらせるべきだという自分と、だけど総一郎と離れたくないもう一人の自分がせめぎ合っていて苦しいのだ。
じゃあ決断を総一郎に委ねてしまおうと思ったころから、彼の態度が少しずつ変わってきたように思う。
考えすぎ、よくないマイナス思考だと自分に言い聞かせ、なんとか前を向こうとしたところに、忙しいからあんまり会えなくなるかも、と彼が言い出した。
結構じゃないか、と思ったはずなのに、だけど実際会えなくなると妙な不安が自分を襲う。
例えば、総一郎が自分と距離を置きたがっているのではないかという妄執。
若者らしく、もっと手軽な恋愛を楽しんでみたいのではないかという勝手な想像。
未来ある総一郎に、自分の存在はきっと重すぎる。
彼が自分のそばにいるのは、ただの惰性か、もしくは責任感からではないかという憂い。
でもそれを言い出す勇気も強さも、自分にはない。
同じことを何度も考えた。飽きるほど考えたのに、今日もまた無限回廊から抜け出せない。
思考の堂々巡りをしているうちに、一度開いた瞳が重くなってきてしまった。
そろそろ起きて、持ち帰りの仕事をしないといけない。
なのに身体が動かない。
あと少しだけ、眠ってしまおう。
眠ってしまえば、何も考えずに済む。
もしかしたらまた、起きたらそこに総一郎がいるかもしれないし、夢の中であの温もりに出会えるかもしれない。
ああ、せめてそんな幸せな夢が見たいと願いながら、茜は意識も思考も放棄した。
*
以上です。お付き合いありがとうございました。
613:名無しさん@ピンキー
11/01/28 22:55:36 mJjYK9iH
とりあえず、投下GJ!!
泣けてちゃんと読めないから、明日読む。
ていうか、家のモンが鬱陶しいので、明日落ち着いてからも一回読むよ。
614:名無しさん@ピンキー
11/01/28 23:40:47 JDg64QWX
相変わらずGJ
切ないよ・・・切な過ぎるよ・・・センセイ(つД`)
615:名無しさん@ピンキー
11/01/29 05:56:19 qQpkw6Gm
>>607-612
GJ!
なんだこの展開はあああああああああああああああ
どうなっちまうんだあさおおおおおおおおおおおおおおおおお
616:名無しさん@ピンキー
11/01/30 02:15:03 2aNDtbh9
生物の補習で何故か生物の先生に
『貴方は成績も悪いし何より字が汚な過ぎる!』
って注意されたな。
おかげで大分字は上手くなったけど
今でもたまに注意される
617:名無しさん@ピンキー
11/01/30 02:22:20 bYbkOaxU
>>616
のろけか?w
618:総一郎と茜_六度目の10月 0 ◆DswpUl0rgY
11/01/30 19:57:22 EKze9HVV
投下します。エロなし。
619:総一郎と茜_六度目の10月 1 ◆DswpUl0rgY
11/01/30 19:57:52 EKze9HVV
―秋の気配だ。
浅尾総一郎は唐突にそう思った。
通いなれた道をぶらぶらと歩く道すがら、普段は気にも留めない自動販売機の中身に「あたたかい」が加わっていると気がついたからだ。
もう10月なのだ。今年が終わるまで、あと2ヶ月と少ししかない。大学生でいられるのは、あとたったの半年だ。
両親や恋人がよく言う「一年はあっという間」が実感としてのしかかってくる。
特に今年は、卒論や試験で何かとあわただしかったせいだろう。
しかし恋人はいつも「社会人になってからが特に」というから、来年からはさぞ驚異的なスピードで時が流れるに違いない。彼女の言うことは大概正しい。
10月。改めて気がつく。もう10月なのだ。
相変わらずぷらぷらと歩きながら指折り数えてみる。
付き合い始めたのが17歳の10月だったから、まるっと5年経過したということか。
長かったようにも、過ぎてしまえばあっという間だったようにも思える。
5年という歳月は、自分たちに何をもたらしただろう。
17のころよりはできることが増えた、とは思う。だけど自分が茜につりあうかと聞かれたら、首を左右に振ることしかできない。
好き、という気持ちだけで隣にいるのが苦しくなったのは、いったいいつからだろう。
正確には思い出せないが、たぶん、自分と彼女の社会的責任の重さの違いに気がついたときだ。
高校生のころは年を重ねればそれだけ小笠原茜にふさわしい自分になれると、漠然と考えていた。
だけど実際は、誕生日をひとつ迎えるたびにその考えがいかに浅はかかと思い知る結果となる。
ただ年を重ねるだけではだめなのだ。
茜に甘えて頼ってばかりではいけないと判っていても、行動が伴わなくていつも反省していなくてはならない。
その葛藤はおそらく、茜のそばにいる限り続くのだろう。いっそ還暦を過ぎてしまえば気にならなくなるだろうがそれは、気の遠くなるほどの未来の話だ。
ため息をひとつ。
茜はたぶん、総一郎の到着を待っているはずだ。
―今から行ってもいいですか? 話があります。
そうメールを送って、茜にしては珍しく早く「○」の絵文字だけの返信が来たのは20分ほど前のことだった。
話があるなんて書かなければよかった。
でもただ行ってもいいかだけをたずねて、疲れてるから今日はダメ、なんて言われたら、せっかくの決意が鈍ってしまう。
今日は、ケジメをつけに行くのだ。
急がなくてはいけない。
もうひとつ息を吐いて総一郎は、小走りに駆け出した。
それから、見慣れた建物まではあっという間に到着した。勢いを殺さぬよう4階までを一気に駆け上がる。
さすがに息が切れる。ドアの前で軽く呼吸を整えて、呼び鈴を鳴らした。
初めてこのボタンを押したときのように胸が高鳴った。走ったせいばかりではない。呼吸が平静に戻っても、鼓動は勢いづいたままだ。
やがてがちゃ、と大げさな音が響いて、ドアノブが半回転をする。
ゆっくりとドアが開いて、隙間から見慣れた顔がのぞく。よく見知ったはずのその顔が、なぜか知らないひとのもののように見えて、一瞬ドキリとした。
「こ、んばんは」
上ずった総一郎の挨拶に、部屋の主はうん、と返事をして中へ招き入れてくれる。
その声音も、心なしか硬く聞こえた。
すれ違いざまに表情を窺おうとしたけれど、逆にこちらの顔色を見られるのも困る。一瞬の逡巡ののち、すっと彼女の目の前を通り過ぎたら、ずいぶんとそっけなくなってしまった。
何もかも気にしすぎだ。気負いすぎて上手く行かない。
いつもどおり、自然体に、と思えば思うほど、そのいつもどおりがどうだったかまったく思い出せないのだ。
620:総一郎と茜_六度目の10月 2 ◆DswpUl0rgY
11/01/30 19:58:26 EKze9HVV
いつも、ここに来たらどうしていたっけ。
上着を脱いで、腰を下ろそうと思っても普段どこに、どのように座っていたかが思い出せなくて立ちすくんでしまう。
振り返れば茜も、所在なさげに部屋の入り口付近で壁に半身を預けて佇んでいる。
観察でもされているのかと思ったが、焦点が合っているようなあっていないような、茶色い瞳は総一郎を映していないようだった。
そこでやっと、違和感の正体に思い至った。トレードマークの眼鏡をはめていないのだ。
眠るとき以外はめったにはずさないそれは、もはや彼女の顔の一部になっている。
くるりと部屋を見渡すと、ローテーブルの上にきちんと折りたたまれた眼鏡が鎮座していた。
「あ、もしかして寝てました?」
「うん……少しうとうとしていた」
「ごめんなさい」
「いや」
それだけを言うと、またぼんやりとした表情に戻ってしまう。
様子がおかしいのは寝起きだからか。いったいいつ起こしてしまったのだろう。
寝起きの悪い茜の頭は、現在正常に回転していないに違いない。
こんな状態で大事な話をして、聞いてもらえるのかと不安になる。
だからといって無理やり起きてもらうのも忍びないし、また今度にしようかと後ろ向きな考えが頭をよぎったが、慌ててそれを打ち消した。
きっとここで引いてしまったら、その「今度」は訪れないような気がする。
今日だと硬く決心をしてきたのに、彼女の顔を見ると簡単に揺らいでしまう自分が情けない。
このままでは駄目なのだ。きちんとした大人になると、決めたのだ。
「あの、センセイ」
誠意を持って呼びかける。
呼ばれた茜は眠たそうに瞬きを数度繰り返して、うつろな瞳で総一郎を見つめた。
目が合ってドキリとするが、彼女の弱い視力では総一郎など人影でしかないだろう。見えていない、と思えば何を構えることがあろうか。
「話、あるんですけど……いいですか」
「ああ、うん……あー、コーヒーでもいれようか」
「いえ、後で俺がやりますから、ちょっとここ、座ってもらえますか」
「……うん」
茜はのろのろと足を動かしてゆっくりと総一郎の目の前に立つと、一瞬だけちらりと彼を見上げたのちに腰を下ろす。
総一郎もタイミングを合わせるように、その場に正座をした。
膝を突き合わせて向かい合う二人の間に流れるのは、微妙な沈黙だけだった。
なんだこの空気。
総一郎はいたたまれなくなる。
でもこの重苦しい空気を作っているのは、紛れもなく総一郎自身だ。
やばい、と漠然と思う。
このままでは茜を不愉快にさせるだろうし、なによりこんな空気に自分自身が耐えられない。
「あの、」
「そういえば、メロンがある。実家が送ってきてくれたんだ。切ろうか」
さっさと終わらせてしまおうと顔を上げた総一郎と同時に、茜も口を開いて立ち上がろうとする。
とっさに右手を伸ばして、彼女の手首をつかんで引き止めた。
相変わらずのその温度の低さに驚く。
「それも」
ぐい、と引っ張って茜の注意を引く。びく、と肩を揺らした彼女は、総一郎の顔を見ないまま動きを止めた。
「あとで俺がやりますから、先に、聞いてもらえますか」
「……うん」
少し間をおいてから小さく頷いて、茜は元の位置に戻り、総一郎に倣って正座をした。
621:総一郎と茜_六度目の10月 3 ◆DswpUl0rgY
11/01/30 19:59:03 EKze9HVV
「話、二つあります。まず、これ」
かばんから封筒を取り出して見せて、茜に手渡す。
素直に受け取った茜は、やっぱり視線を封筒に落としたまま、これは、と尋ねた。
「採用通知。教採、受かりました。おかげさまです」
「えっ」
珍しく心底驚いた、といったような声を漏らして、やっと茜が顔を顔を上げた。
「えっ」
つられて総一郎も間抜けな声が漏れる。
「……ほんとに?」
「うそついてどうするんです。なに、その反応? 喜んでくれないの?」
「いや、違う……ごめん、驚いただけだ。まさかストレートで合格するとは」
「センセイが協力してくれたおかげです」
「いいや、君の実力だよ」
そう言って茜は柔らかく笑うと、書類を置いて自分の両手を総一郎の手に重ねた。
つめたい指先が、ぎゅっと総一郎のこぶしを握る。
やっと顔を上げた彼女は、総一郎の一番好きな顔で柔らかく笑った。
「おめでとう」
胸がつんと痛くなる。報われた、とたったこれだけのことで思ってしまう。
もちろんまだスタートラインに経つことを許されただけで、終わったわけではないけれど、先ほど一人でこの封筒を開けたときよりも、何倍もの幸福が総一郎を包んだ。
「……ありがとう、ございます。四月から頑張ります」
握りこぶしを作っていた手をくるりとひっくり返して、上に載っていた茜の指に己のそれを絡ませる。
両の手のひらどうしを合わせてぎゅっと握って、指の間が痛くなるほどきつく握って、もうひとつ、と声を絞り出すと、茜の顔から表情が消えた。
「もういっこ、あります。たぶん、すごく、困らせるけど、聞いてもらえますか」
茜は無言で頷いた。そのまま顔を伏せてしまったから、単にうなだれただけのようにも見える。
なんだってお見通しの茜のことだ。これから総一郎が何を言うのか、判っているに違いない。
できれば耳を塞ぎたい、と思ってるんだろう。胸が痛い。自分が少し可哀想になった。この予想が外れていればいい。
「あの、俺……このままじゃいけないって、ずっと考えてたんです。でも自分にはどうにかする資格も勇気もなくて、なんかずるずるしちゃったけど、」
胸が痛い、痛すぎる。緊張しすぎているせいだ。
握り締めた両手が震えている。自分のせいか、それとも彼女が震えているのかさっぱり判らない。
顔を上げてくれないかな、と思う。
どんどんと深くうつむいてしまって、だらりと垂れた長い髪がその頬を覆ってしまっていて表情がうかがえない。その状況がますます総一郎を不安にする。
いつも冷たくかんじられる茜の手から温度が消えた。
「結婚、してください」
茜が息を呑む音が聞こえた、気がした。
静寂が場を支配する。
つめたい空気だ。ああ、やっぱりこういう風になってしまうんだ。
「あの、軽い気持ちじゃないんです。今の俺と結婚したって、センセイにメリットなんてなんもなくて、むしろ迷惑かけ通しになるだろうし、
いろんな人が、たとえばセンセイのご両親とか反対するだろうし、
なんかそういうこと、色々考えたんだけど、だけど……センセイとずっと一緒にいたいんです」
622:総一郎と茜_六度目の10月 4 ◆DswpUl0rgY
11/01/30 19:59:35 EKze9HVV
この関係が壊れてしまうなら、いっそ何も言わないほうがいいんじゃないかと何度も考えた。
茜にそういうつもりで付き合ってるわけじゃない、と言われてしまえば、その後の関係に支障をきたす。
自分が茜にとっての「結婚したい相手」じゃないという事実を受け入れるということが、どうしても出来そうにないのだ。
いつか終わりの来るであろう関係に甘んじられるほど、達観もできない。
だから、自分たちに終わりなんてないという約束を取り付けるために、今の総一郎では到底現実的でない「結婚」の二文字を取り出したのだ。
「あ、もちろんすぐにってわけじゃないけど……でもできたら、来年中ぐらいに。就職したら忙しくなるから、一緒に暮らしたいけどケジメはつけないといけないでしょ」
まるで弁明をするかのようにつらつらと言葉を並べる。
でもどれだけ思いを積んでも薄っぺらでしかなくて、発言に説得力を持たせることができない。発言に行動と実力が伴わないせいだ。
「あの、だから……俺と、結婚してください」
お願いします、と言葉を結んで、軽く頭を下げた。もうこれ以上言うべきことはなにも見つからない。
採用通知が届いたら、これを言おうとずっと決めていた。もし不合格なら来年以降に持ち越しにするつもりだった。
採用を祈りながら通知を待った日々は、果てしなく永く思えて苦しい日々だった。卒論の忙しさと相まって、このところろくに眠れていない。
でも今日のこの日のために、茜に言うべき言葉をたくさん考えてきてはいたけれど、いざその時が来てしまうと頭が真っ白になってしまい、ありきたりなことしか伝えられなかった。
茜はどんな表情をしているんだろう。そして何を考えているんだろう。
この沈黙は、何を意味しているんだろう。
どんどんと不安になる。茜と付き合ってるうちに、マイナス思考が伝染したのかもしれない。
以前の自分なら、根拠のない自信がどこからか沸いてきていた。何もかもうまくいく、漠然とそう考えていた。
今思えば、あれが若さというものに違いない。
そうでなければ、高校生の身分で10も年上の、しかも恩師に告白なんてできなかっただろう。実に恐ろしい、そしてうらやましいものだ。
そのノリのまま「いつか結婚しましょうねー」とか「いつ結婚しますか」とか軽く伝えてきておけばよかったんだろうか。
いや、それではただの冗談に取られてしまう。全く意味がない。
とりあえず今ので、総一郎の本気は伝わった―と思う。
問題は、茜の返答である。
恐る恐る顔を上げると、視界に映った彼女のくちびるが小刻みに震えている気がした。
何ごとかを呟くためにそれを動かそうとして、上手くいかないように見える。
襲い来るプレッシャーに耐えかねて、暖かくなり始めていた茜の指をそっと開放した。
このままでは、彼女がもし断りたくてもそうできないかと考えたのだ。
名残惜しむようにゆっくりと、彼女の手から指を滑らせて身を引いて、―完全に離れてしまうその一瞬前に、
離したばかりの茜の手が伸びてきてすばやく総一郎の手のひらを握った。
そしてそのまま、少々乱暴にぐいと引かれて上体が傾く。
危ない、と思ったときには、茜の柔らかい身体が、総一郎の腕の中に納まっていた。
一体いつの間に何がどうなったのやら、彼女のほそい両腕が総一郎の首に回っている。
それにぐっと力がこめられて、ぐえ、という変な声が漏れた。
623:総一郎と茜_六度目の10月 5 ◆DswpUl0rgY
11/01/30 20:00:33 EKze9HVV
「セン、セイ?」
「……きみは、ちゃんと、考えたのか」
茜の震える声が、すぐ耳元で響く。吐息がかかってくすぐったい。
おずおずと両手を茜の背に回して、抱きしめた。
総一郎の首を絞める腕に、さらに力がこもる。
それに応えるように、総一郎も腕に力をこめて、ぎゅっと細い身体を抱きしめた。
「考えたよ、すげー考えた。胃が痛くなるぐらい考えたけど……これしか、答がなかった」
「後悔は、しないか?」
「しないと思う」
「…………断定しないのか?」
「ごめんなさい……えっと、後悔しません、ぜったいに」
「私は、君を幸せにする自信がないぞ」
「一緒にいてくれるだけで、十分幸せです。っていうか、それ逆でしょ。
俺だって自信なんてないけど、努力する。たくさん努力する、だから、」
「いい、君はただそばにいてくれれば、いい……」
語尾がかき消える。鼻先が、総一郎の肩口にぐいと押しつけられた。
抱きしめた背中が震えている。彼女の頬があたる、自分の首筋が濡れているような気がした。
「……センセイ、もしかして泣いてる?」
首にうずめられた頭が、左右に揺れた。そういえばベッドの中以外で泣いたところ、見たことがないかもしれない。
「ね、センセイ。顔見せて」
もういちど茜の頭が左右に揺れる。だめだ、と掠れた、情事の時のような声が漏れてどきりとした。
「なんで?」
問いかけても返事はない。
ねぇ、ともう一度呼びかけて、背中をぽんと叩いた。
総一郎の首に絡まった腕から力が抜ける。
ずっと正座をしたままだった足をゆっくりと崩して胡坐をかくと、その隙間に茜の足が忍び込んでくる。
もっと密着をしたいのに、互いの足が邪魔で二つの身体の間に空間ができてしまう。
身体なんていっそなくなって、一つになってしまえればいいのにと安っぽく思った。
そうすれば、彼女が今なにを考えているかも全部判るのに。
「……センセイ?」
しびれを切らして彼女を呼べば、小さく鼻をすする音ののち、小さな声がまた耳元で響いた。
「ひどい顔を、している……動揺した」
「動揺?」
「不意打ちだ。けっ、結婚だなんて、今まで一度も口にしたことなかったじゃないか」
「うん……ごめん」
言っても夢物語以上のものにならないから、とか、断られるのが怖かった、とか、言い訳はたくさんある。
そもそも、茜がそんなに動揺をしていることに驚いた。
そのことを詳しく聞きたくなったけれど、今は、言葉は無粋になってしまう気がした。
腕の中の温もりが、すべての幸せの象徴のように思えたからだ。
「君は、馬鹿だな」
「……うん、知らなかった? 高校生のくせに教師に愛を告白するような、馬鹿ですよ」
「知っていた。でもここまでとは、思わなかった」
ひでぇ言い草。そう呟いたら、小さな声だったにも関わらずきちんと茜の耳には届いたようで、苦笑の吐息が総一郎の肩にかかった。
くすぐったさに笑みが漏れる。
こうして、いつまでも二人で笑っていられる未来にしたい、総一郎は思った。
624:総一郎と茜_六度目の10月 6 ◆DswpUl0rgY
11/01/30 20:01:04 EKze9HVV
「もう、君を離してやれないぞ。いいのか?」
「うん……ってそれ、また俺のセリフ」
「ああ、そうか……すまない」
「あの……ちゃんと返事、聞かせてもらえますか。もう一回、言うから、顔あげて」
たっぷりの沈黙のあと、茜が身を起こす。
すかさずに頬を挟んで、両目をのぞきこんだ。
いつもより少しだけ熱っぽい瞳に、また緊張がぶり返してくる。
「ごめん、花とか指輪とか、なんも用意できてなくて……とにかく言わなくちゃって俺、テンパってて」
「いい、なにもいらない……きみだけいればいい」
たぶん、それは茜の本心なんだろう。
無欲に見える彼女が、総一郎だけを欲してくれている。それは、総一郎がずっと願っていた未来の形だ。
「センセイ…………結婚、してください」
「ん……ありがとう」
そう笑った茜の目じりが、きらきらと光っていた。
こめかみの髪をかきあげて、そこにくちづける。ぺろりと出した舌先が少しだけしょっぱくて―どうしようもなく嬉しくなる。
やっぱりセンセイ泣いてるんじゃないか。
その正体が嬉し涙だと確信をしたら、急に鼻の奥がつんと痛んだ。
幸せとは今が永遠に続けばいいと願う瞬間のことらしい。いつか茜が言っていた。
それを聞いてから、何度も幸せを実感してきたが、―今日が最高に幸せだと総一郎は思った。
願わくば彼女も同じ気持ちでいてくれますように。
潤みそうになる瞳をきつく閉じて誤魔化して、そっと茜のくちびるに、自分のそれを重ね合わせた。
*
以上でこの二人の話は終了です。
長らくのお付き合いありがとうございました。
625:名無しさん@ピンキー
11/01/30 20:04:08 pOkvD7Oz
リアルタイムGJ!!
いままで楽しませてくれてありがとう!
ハッピーエンドで良かったー
626:名無しさん@ピンキー
11/01/30 20:30:29 z6DmkrD3
GJ!!
どうなるかハラハラしたけど二人が幸せになってよかった、本当に。
627:名無しさん@ピンキー
11/01/30 23:30:17 Wrrbb5vV
GJ!!!
終わっちゃうのかー・・・寂しいけど、今までありがとう。
最近は投下されるの読むたびに、なんだか泣けちゃって。
いつもいつも楽しみにしてました。
投下お疲れ様でした。
628:名無しさん@ピンキー
11/01/30 23:34:03 5U8NOOFz
>>618-624
嘘だろ…、マジで本当に…、最終回、なのか…。
総一郎に結婚して下さいとプロポーズされたセンセイの如く、
俺も目から塩水が止まらない。
もう続きがないのかと思うと寂しくなるな…。
今まで良いものを読ませてもらった、ありがとう。
629:名無しさん@ピンキー
11/01/31 01:46:23 l+CsEFOI
泣いたーありがとうありがとう
また気が向いたら投下してくれたら嬉しい
630:名無しさん@ピンキー
11/02/01 14:45:40 viYCPwaf
お疲れ様!ホントに開幕前に来てくれてありがとう!
五度目の9月でしんみりしてしまったから
どうなることやらと心配しておったけど、良かったよ
白いコーヒーメーカー大活躍だな
631:名無しさん@ピンキー
11/02/01 23:37:03 NjqO7cIq
おまいら!
女教師と男子生徒ものをもっとだな
632:名無しさん@ピンキー
11/02/03 02:29:51 3dxetZAf
>>631
女教師ってエロいよなあ
633:名無しさん@ピンキー
11/02/03 20:14:20 +GlEpfAJ
このやろおおおおおおおおおおおおお
おめでとおおおおおおおおおおおおおおおおお
634:名無しさん@ピンキー
11/02/03 22:51:37 zw1L1KPn
えっ!?
635:名無しさん@ピンキー
11/02/05 14:19:29 9OgHMxlr
GJ!!!!
お幸せにいいいいいい
636:名無しさん@ピンキー
11/02/05 18:49:50 5cARoOAR
保管庫で今までに投下された作品を読んできたけど、
まだ未完っぽい作品の続きはまだかな(チラッ
637:名無しさん@ピンキー
11/02/05 20:54:28 r7bh/C01
楓ちゃんのその後が気になるぞ
どうなったんだろう…そわそわ
638:名無しさん@ピンキー
11/02/05 22:50:43 ooFnBL+P
俺も楓ちゃんのためにいつまで全裸待機すればいいんだと正直思いながらも今日も元気に全裸待機で眠るんだぜ
639:名無しさん@ピンキー
11/02/06 17:19:33 4HTZToS2
完結編で爽やかなBGMを聞きながら見ると目から汁がいっぱい出てくることを発見した
640:名無しさん@ピンキー
11/02/06 18:38:45 V0cUyqS6
楓ちゃんあの後どうなったんだろ。
あと遠子と英介の続きも気になる(´・ω・`)
641:名無しさん@ピンキー
11/02/09 19:33:12 QrhN4A6c
続きが気になる作品多過ぎ
642:名無しさん@ピンキー
11/02/13 20:42:46 yYtn7JC1
投下期待
643:名無しさん@ピンキー
11/02/16 16:22:19 KH5jkqKp
>>587-593
是非とも続きを
644:名無しさん@ピンキー
11/02/18 11:55:33 7Q0Di1ob
投下来い!
645:名無しさん@ピンキー
11/02/19 12:02:34 cq9c8mIU
年上の女の人が年下の男の子に激しく何度もセクロスされちゃって
「も、もう、無理」とか「お願い、少し休ませて」とか
「君みたいに若くないから、私の体が持たない」とか、
そういうセリフが最高にたまんねぇんだよ!
646:名無しさん@ピンキー
11/02/19 21:53:58.61 CZqawsWz
>>645
あぁ、年上の女性がそういうセリフを吐くのは堪らんな
647:名無しさん@ピンキー
11/02/20 04:16:03.70 Km4QnNoZ
そういうのが読みたい
648:名無しさん@ピンキー
11/02/20 18:41:03.05 QPZ+H/ek
>>645
おまえ、よく分かってるじゃないか
649:名無しさん@ピンキー
11/02/22 04:06:08.91 /at9lP9b
最近年の差に飢えてるんだが良い年の差ゲームはないかねえ
RPGとかで何かないすか
650:名無しさん@ピンキー
11/02/22 13:55:40.45 sAVeXek+
自分はやったことないもんで、詳しくは知らないけれど
PS1のSRPGに、主人公四十代の傭兵。ヒロイン十代の姫ってゲームがあったな。
651:名無しさん@ピンキー
11/02/22 14:46:09.00 WMuEfHv6
>>649
バウンティソード(31男←12女)
アヴァロンコード(将軍×少女)
東京魔人學園(男子高校生×女教師)
九龍妖魔學園紀(男子高校生×女教師)
東京鬼祓師(男子高校生×女教師)
一般RPGだとこの辺かな。ADVや乙女ゲー含めればもう少し増えるが
652:名無しさん@ピンキー
11/02/23 16:04:37.64 uSVWgZwQ
将軍と少女・・・実に良い響きだ