井上堅二 バカとテストと召喚獣でエロパロ 4問目at EROPARO
井上堅二 バカとテストと召喚獣でエロパロ 4問目 - 暇つぶし2ch700:名無しさん@ピンキー
10/06/07 13:10:26 JImXOFnW
エロくて良かったぜwだが何故だ…
何故アキちゃんのアナルを犯さないんだぁぁぁぁっ!

701:名無しさん@ピンキー
10/06/07 22:49:14 xIgZe9a1
葉月ちゃんのエロは犯罪ですか?

702:名無しさん@ピンキー
10/06/08 00:13:30 du5NoNkM
>>701
おk

703:名無しさん@ピンキー
10/06/08 00:18:18 fqj+Ax7p
バチコイ

704:名無しさん@ピンキー
10/06/08 00:43:42 Xi/gfbhF
優子主観で書いてんだけど、過去とかクラスの奴とか、勝手に設定作っちゃっても大丈夫かな?
具体的にいうと、優子のバカ嫌いは過去の~が原因で、みたいな

705:名無しさん@ピンキー
10/06/08 00:51:27 fqj+Ax7p
注意書きでオリ設定あり、とかにすれば問題はないかと
優子さん大好きなんで期待しちゃいますよー

706:名無しさん@ピンキー
10/06/08 00:52:39 GZWQ46Uk
明秀小説が一応ひと段落ついたんだが…

・エロなし
・日本語でおk部分多数あり
・そもそも話が余りすすんでない

これでもいいなら投下するけど。

707:名無しさん@ピンキー
10/06/08 00:59:35 FrQoUu5m
ひと段落付いてるならおk
エロなしもスレないので可

708:1/4
10/06/08 01:04:08 GZWQ46Uk
んじゃ投下するね。
つーか今気づいたが明秀というより秀明だな、こりゃ。

文月学園 某所

「ムッツリーニ、例の物は用意できたかの?」
「………ここに。」
「うむ、恩に着るぞい。」
「………この程度、俺には造作も無い。」
「クックックック……これでやっと明久をワシのものにできるわい。」
「………明久を呼ぶときは俺も一緒に呼んでくれ。」
「構わんが、どうするのじゃ?」
「………いい絵が撮れそう。」
「……編集し終わったらワシにもダビングしてくれ。」

『秀吉の異常な愛情 または僕が如何にして抵抗するのを止めて秀吉に抱かれるようになったか』

キーンコーンカーンコーン…
「ふう…ようやく終わった。」
いつものように退屈な授業を秀吉とにゃんにゃんする妄想で
切り抜けた僕は、早速帰り支度をしていた。
いよいよ待ちに待った週末だ。姉さんもいないことだし、思いっきり遊んで過ごそう。
そんなウキウキ気分で教科書や筆箱をしまっていると、秀吉が話しかけてきた。
「明久、週末は空いておるか?」
「特に何も予定は無いけど…なんで?」
「今は両親が旅行でいなくてのう。
その上姉上も今日から出かけるらしいのじゃ。」
ってことは……
「週末、秀吉は一人ってこと?」
「うむ。そこでじゃが、週末はワシの家に泊まりに来てくれぬか?
何分一人では不便でのう…」
秀吉と二人っきり…?
しかも、誰もいない家で!?
こんなチャンス逃す手は無い!
授業中の妄想も手伝って僕のビッグマグナムは最高潮に達しつつあった。
「も、勿論行くよ!二人っきりで熱い週末を過ごそうね!」
「二人っきり…?ムッツリーニも来るのじゃが。」

709:2/4
10/06/08 01:06:25 GZWQ46Uk
先ほどまで本物のマグナム銃と見まごう程の大きさに達しかけていた
僕のビッグマグナムはあっという間にデリンジャー並みの大きさに縮んでしまった。
「な、何でムッツリーニまで…?」
「どうしても来たいと言って聞かぬのじゃ。
あそこまで頼まれたら…待て明久!
そのカッターで何をするつもりなのじゃ!?」
「いやあ、ちょっとムッツリーニのリストを軽くカットしてあげるだけだよ。」
「さも大したことじゃないような言い方じゃが間違いなく致命傷じゃからな!?
頼む!後生じゃから止めてくれ!」
「そこまで言うなら……」
秀吉の頼みなら止めるしかないだろう。
ムッツリーニめ、寿命が延びたのを神に感謝するんだな。
「ところで、まさか雄二まで来るなんてことは無いよね……?」
「雄二は霧島と用事があるので来れぬ、と霧島が言っておった。」
よかった…悪友を二人も手に掛けるなんて僕には絶対出来ない所業だ。
一人だったら間違いなく手に掛けていたけど。
「明久君、何の話をしてるんですか?」
「二人で何話し合ってるの?」
そんな僕らの会話が気になったのか、姫路さんと美波が話しかけてきた。
く……これはまずい。迂闊に変なことを言ったら間違いなくお仕置きだろう。
どうやって切り抜けようか。
「いやあ、その……」
「何なの?はっきりしなさいよ!」
僕の態度がはっきりしない事に何かを感じ取ったのか、美波が執拗に問い詰めてきた。
姫路さんは問い詰めこそはしなかったが表情から明らかに僕に対する疑念が見て取れる。
ど、どうしよう…そうだ!秀吉に助けてもらおう!
すかさず秀吉にアイコンタクトを取ると、秀吉は小さく頷いた。
良かった、分かってくれたみたいだ。
「明久はムッツリーニとワシとで熱い週末を過ごすのじゃ。」
………へ?

710:3/4
10/06/08 01:10:16 GZWQ46Uk
「ひひひひひ秀吉!?何を言ってるの!?」
まさか秀吉自らバラすなんて!怒った姫路さんと美波の怖さは秀吉も分かってるはずなのに!
「……アキ?どういうことかしら?」
「私達が納得できる説明をお願いしますね、明久君。」
その顔はどう考えても説明しても納得してくれない顔だよ!
「まさか明久君が木下君と土屋君にまで手を出していたなんて…」
「アキは坂本一筋だと思ってたのに…」
「ちょっとぉぉぉぉぉ!ホモ疑惑は否定しないの!?
二人とも一体僕をどんな目で見てるのさ!?」
二人はそんな子じゃないと信じてたのに…
「まぁまぁ、姫路も島田も落ち着くのじゃ。」
爆弾発言をかました当の本人は反省の色一つ見せずに落ち着き払っている。
流石演劇部のホープなだけあるなあ。この状況下じゃまったく褒められないけど。
「落ち着くも何も…」
「ちょっと二人に話があるのじゃが、廊下まで来てくれぬか?」
なおも二人は食い下がろうとしたが、秀吉の真剣な表情を見ると
黙って頷いて秀吉と一緒に廊下に出て行った。
しかし、あんな真剣な顔した秀吉を見るのは初めてだ。
一体どんな話なんだろう?

「ワシが明久の……に……を……する……」

「まさか……木下君が……そんな過激なことを…」

「可愛い顔してやることはとんでもないわ…」

「明久の……写真をお主らに……」

「「本当に(ですか)!?」」

711:4/4
10/06/08 01:14:20 GZWQ46Uk
何の話をしてるかさっぱり分からないけど
なにやら三人とも興奮している様子だ。
姫路さんと美波をそんなに興奮させるなんて
秀吉は二人に何を話したんだろうか。
しばらくすると三人は戻ってきたが
姫路さんと美波の顔は熟れたリンゴよろしく真っ赤になっていた。
うーむ……何の話だったのか気になる……
「アキ、さっきは怒ったりしてごめんね?」
「明久君……あんな酷い言ってごめんなさい。」
おまけに機嫌まで元通りだ。
「ウチ達のことはいいから木下や土屋とのんびりしたら?」
美波が僕にそんな優しい言葉を!?!どういう風の吹き回しだろうか?
「美波、一体どうしたの?なんか変だよ?」
まさか胸が肘がちぎれるぅぅぅぅぅぅぅ!」
この痛み、やっぱりいつもの美波だ。
「いちいちうるさいわね!気を使う事ぐらい
ウチにだってできるわよ!」
「美波ちゃん、落ち着いて…
とにかく明久君、週末は皆さんでゆっくりしてください。
ただでさえ最近は忙しいみたいですし。」
姫路さん……なんて優しいんだ…
「ありがとう二人とも!
僕、楽しんでくるね!」
二人も認めてくれたことだし、ようやく気兼ねなく秀吉の家に―――

トスットスットスッ!(←僕の頬を何本ものカッターがかすめる音)

――― 行けなさそうだ。

TO BE CONTINUED……

712:名無しさん@ピンキー
10/06/08 01:17:54 GZWQ46Uk
この先秀吉による明久の処女略奪劇場を予定してるけど
ぶっちゃけると秀吉・ムッツリーニ・明久以外の出番はないと思う。

713:名無しさん@ピンキー
10/06/08 01:27:17 FrQoUu5m
>>712
乙。続き期待してる

714:名無しさん@ピンキー
10/06/08 02:20:18 4oCnSDXM
>>712
別に他の皆の出番はなくても問題ないぜw
期待してます

715:名無しさん@ピンキー
10/06/08 07:24:32 Vkd0GY3q
>>712
乙!!期待

716:名無しさん@ピンキー
10/06/08 22:41:26 4F54qOTT
あれ?久保君は?

717:名無しさん@ピンキー
10/06/08 23:44:23 8nGn9dnE
投下させていただきます

  ・明久×優子
  ・エロ無し
  ・優子の性格が丸め

エロ無しで申し訳ありませんがよろしくお願いします
 「勘違いから始まる恋もある」 序章 
次レスより投下します

718:勘違いから始まる恋もある
10/06/08 23:49:48 8nGn9dnE
「はぁ……」
学校からの帰り道、ついため息がこぼれる。
今日も疲れたなぁ。特別なイベントがあったわけでもないのに何故か疲労は溜まる一方だ。
朝から僕が美波に (雄二曰く) 失礼な事を言ってしまったらしく関節をおもいっきり極められた上にかなり怒られた。
昼には姫路さんが僕のところまで来て、天使ようなの笑顔で
『明久君。お弁当作りすぎちゃったので食べてくれませんか?』
と言ってくれた。目の前のかわいらしい弁当箱の中身はどう見ても一人分で、雄二達を巻き込む事もできずに一人で死地に旅立つしかなかった。
そんなわけで今日の午後は保健室で過ごすことになったんだけど、
「これぐらいならいつものことだったんだけどなぁ……」
結局放課後まで保険室にいたら、雄二が来てくれた。
帰る前に一応体温を測っておこうと思ったんだけど、体がうまく動かなかったから雄二に頼んだ。
雄二は面倒くさそうにしてたけど、弁当の件の罪悪感があったのかしぶしぶながら体温計を脇に挟もうとしてくれたところでふとドアの方を見ると―
頬を軽く染めながらも怒りの表情を隠さない美波と、何故か恐怖を感じる笑顔を浮かべた姫路さんが立っていた。
状況だけを見れば、僕は(体温計を挟むために)シャツのボタンを二つ程外していて、雄二はベットの上に軽く乗り出して僕の胸元に手を伸ばしている状態だ。
ともすれば誤解されそうなシチュエーションだけど、僕も雄二も性別はれっきとした男だ。変な勘違いをする人はいないだろう。
『やっぱりアキは坂本のことが好きなの!? ウチは一体どうすればいいのよっ!』
『男の子同士でなんていけません! 明久君にはちゃんと女の子を好きになってもらわないと困りますっ!』
と思ったのに何故か二人から一時間以上の説教を受けて、もう僕はボロボロだ。雄二はいつの間にか逃げちゃったし……。
「はぁ……」
またため息をつく。
最近、姫路さんや美波の思考がとても悪い方向に染まっている気がする。いくら雄二とはそんな関係じゃないと説明しても分かってもらえないんだよなぁ。
なんて言うか……、癒しがほしい。なんてことを考えてたら見知った顔を見つけた。あれは……
「おーい、秀吉ー」
帰り道に秀吉に会えるなんてついてる!普段は部活のある秀吉と一緒に帰れることは少ないしね。
「あら、あなたは……」
「秀吉は今まで部活? 大変だね。よかったら一緒に帰ろうよ」
「いや、アタシは」
「そういえば聞いてよ秀吉。さっき保健室で美波と姫路さんがね……」
「だから秀吉じゃ……」
「ひどいと思わない? そんなことあるはずないのに……って秀吉?」
何故か秀吉は顔を俯けてプルプルと震えている。もしかして具合が悪いんだろうか、よく見れば耳も少し赤くなってる。
「秀吉? どこか具合が」
そこまで言ったところで右腕をつかまれた。
「ひ、秀吉? なんで腕を、ってあれ感触がいつもより柔らかいたたたたたぁぁぁ!!関節が逆に!」
「だから秀吉じゃなくて優子よ! いい加減にしなさいっ」


719:勘違いから始まる恋もある
10/06/08 23:51:32 8nGn9dnE
ようやく腕を解放された僕は改めて木下さんに向き直る。
「ごめん。お姉さんのほうだとは思わなくて」
木下さんは息を整え、僕のほうをチラッと見てから
「分かればいいのよ」
全く……、なんて言って鞄を持ち直す。
しかし、見れば見るほど秀吉とそっくりだよなぁ。双子ってここまで似るもんなんだろうか、なんて考えていると、まだ少し機嫌悪そうに木下さんが口を開く。
「ていうか、顔見て判別しろとは言わないけど、制服が違うんだから気付きなさいよね」
確かに木下さんは普段の秀吉とは違い、(当たり前だけど)女子用の制服に身を包んでいる。
「いやぁ、秀吉ってたまに演劇の衣装のまま帰ってる時があるからさ。今日もそうなのかと思って」
と言い訳をすると、何故か木下さんは聞き逃せない事でも聞いたかのように表情を強張らせる。
「吉井君。今の話詳しく聞かせてもらえないかしら?」
口調こそ穏やかだけど、すでに右腕はロックされている。
「い、いやぁもう帰らないといけないし」
「まだ明るいし大丈夫よ。そこの喫茶店でも行きましょう」
逃げられないことを悟った僕は、仕方なく木下さんについていくことにした。

店内に入り、木下さんと向かい合って座った。
とっくに腕は放してくれているけど、帰らせてくれる気配は全くない。ウェイトレスに注文を済ませた木下さんはこちらに向き直る。
「さーて、あらいざらい話してもらいましょうか」
と言って、話を始めようとしたところで何かに気づいたようにして、問いかけてきた。
「あれ、吉井君は何も頼まないの?」
僕がメニューも見てないのを疑問に思ったようだ。だけど正直、喫茶店で飲食する余裕なんてない。
「うん、僕は水だけでいいよ」
まあ、水があるだけ十分だしね。
「ああ、そういえば吉井君は常に金欠らしいって秀吉が言ってたわね。アタシが奢るから気にしないで注文していいわよ」
「ええっ! さすがにそれは悪いよ」
「いいのよ。話が聞きたくてアタシが誘ったんだから。それに普段ろくなもの食べてないんでしょ? なんなら食べ物も頼んだら?」
いくらなんでも申し訳ないと思ったんだけど、木下さんはメニューを開いて強引に決めさせて注文してしまった。
「さーて、対価に料理が来るまできっちり話を聞かせてもらうわよ」
悪戯っぽく微笑む木下さんは本当に美人だと僕は思った。

720:勘違いから始まる恋もある
10/06/08 23:53:10 8nGn9dnE
「うん、だからね衣装を着ていたかったんじゃなくて、練習に熱中しすぎて下校時間を忘れちゃうんだって。それで着替える時間がなかったりするらしいよ」
「どれだけ演劇バカなのよ……。というか、それでも着替えくらいはしてきなさいよね。たまに、ただいまも言わないで部屋に行くのはそういうわけだったのね」
結局雑談に花が咲き、本命の会話ができたのは僕がパスタを食べ終わる頃だった。店に入る時は正直怖かったけど、いろいろ話したせいか雰囲気も悪くない。
「他にはバカなことやってたりしない? 正直Fクラスでどんな風に過ごしてるのか分かんないのよ」
「えーっと、ははは」
文化祭のチャイナドレスとかは知ってると思うけど、女の子物の水着を着ていたこととかは言ったらまずいんだろうなぁ……。
姉を持つ者として、姉に自分の学校生活がばれた時の恐ろしさは骨身にしみている。あの時秀吉は喋らないでくれたし、ここは気を強く持って
「吉井君? 隠すとあいつのためにならないし、アタシも誰かの関節を曲げたくなってきちゃうかもしれないのよねぇ」
ゴメン、秀吉。耐えきれないかもしれない……。
「なんてね、冗談よ。確かにやめてほしいことはあるけど、細かくグチグチ言うつもりはないしね」
なんて言って笑ってくれた。半分わかっていて目を瞑ってくれるんだろう、もしかしたら木下さんは結構優しい人なのかもしれない。
「ねぇ、それよりさっきの海に行った時の話とか聞かせてよ。楽しそうじゃない」
「あ、うん。そのときは僕の姉さんが車を運転してね……」

「あはははは! なによそれ、なんで吉井君達が女装するのよ!」
まさにお腹を抱えてって表現がふさわしいくらい木下さんは大笑いしている。
「だって! 仕方なかったんだよ。あの時の女子達には逆らえるような状況じゃなかったんだってば」
「だからって女装してコンテストに出るなんて……っぷぷ、ごめんやっぱり堪えられないわ。もー勘弁してよ」
僕もそろそろ勘弁してほしい。調子に乗って話し過ぎなければよかった。あの時のことを思い出して、古傷を抉られている気分だ。
「Fクラス代表の坂本君も女装したんでしょ? 写真とか残ってないの?」
「ないない! 絶対無いよ」
あの時はムッツリーニもこっち側だったから残ってないハズ……、いや、もしかして姉さんだったら……、マズイ帰ったら早急に探さなきゃ。
「あーもう、あらもうこんな時間」
ひとしきり笑って落ち着いた木下さんは、腕時計を見てそう言った。確かにもう陽もほとんど落ちている。
「そろそろ出ましょう。さすがにこれ以上遅くなるとまずいわ」
「そうだね」

721:勘違いから始まる恋もある
10/06/08 23:55:06 8nGn9dnE
会計は約束通り木下さんが全部支払った。でもやっぱり悪い気がして、木下さんを送りながらの帰り道、それとなく切り出してみた。
「ねえ木下さん。やっぱり僕の食べた分は払うよ」
「なによ、まだ言ってるの? 私が話を聞かせてってお願いしたんだから気にしなくていいわよ」
先程と同じように軽くあしらわれる。でもやっぱり釣り合ってないと思う。
「うん。でも僕は木下さんと話してて楽しかったし、僕ばっかり得して割に合わないと思うんだ」
そう言うと、木下さんはなぜか驚いたような顔でこっちを見てすぐに目をそらした。
「そ、それは良かったじゃない。アタシも結構楽かったし……」
なにやら小さな声で喋ってるけどよく聞こえない。
そういえば美波もよくこういう状態になるんだよね。女の子特有の喋り方なのかな?
木下さんは小さく息をついて、こっちに視線を戻した。
「そうね、じゃあ代わりにひとつお願いを聞いてもらおうかしら。携帯出してくれる?」
言われたとおりにポケットから携帯電話を取り出す。でも携帯なんて何に使うんだろう……ってまさか。
「ま、待って。写真は本当に入ってないよ!?」
もしかして女装の写真を渡せって言われるんじゃないだろうか。無いものは渡せないし、そもそもあったら僕は社会的に死ぬ。
僕の慌てる姿を見て木下さんはさっきと同じように一瞬驚いたような顔をすると、今度は軽く苦笑した。
「ふふ、違うわよ。いいから貸して。」
僕の携帯を手に取り開いて操作をし始める。
「あ、同じメーカーの機種ね。これならっと……」
カチカチとボタン操作をした後、いつの間にか取り出していた木下さんのものであろう携帯と向き合わせて……ってこれは赤外線通信?
「よしっ、完了。はい、アタシの番号とアドレスちゃんと登録されてる?」
「うん、ちゃんと登録されてるよ」
って、あれ?木下さんのお願いってアドレス交換ってこと?
「じゃあ、これからたまにメールとかするからFクラスでのこととかまた教えてよ」
なるほど。つまり監視役みたいなものか。うーん、でも秀吉のことを告げ口するみたいな真似はちょっと気がひけるなぁ。
「秀吉のことを言いたくないなら、今日みたいに面白いことを話してくれれば許してあげるわよ?」
僕の考えを読んだみたいに、笑みを浮かべながら木下さんが付け足す。もしかしたら監視なんて目的じゃなく、僕らのバカな話が聞いてみたいだけなのかもしれない。
「わかったよ。なるべく面白い話を用意しておくね」
「ええ、楽しみにしてるわ。うちはもうすぐそこだから、ここまででいいわ。ありがとう」
「うん。じゃあまたね、木下さん」
「またね、吉井君」

722:勘違いから始まる恋もある
10/06/08 23:57:09 8nGn9dnE
運動したわけでもないのに鼓動が少し速い。
玄関のドアを閉めて、ただいまと発声する前に深く深呼吸をして気持ちを落ち着ける。……顔赤くなってないわよね。
「姉上か、おかえりなのじゃ。どうかしたのかのぅ?」
ドアの音がしたのに声が聞こえてこないのを不思議に思ったのだろう。アタシと瓜二つの顔を持つ弟が玄関まで様子を見にきた。
「なんでもないわよ、ただいま秀吉」
努めて平静を装って返事を返す。なんとか普通に喋れたようだ。秀吉は特に気にもせず会話を続ける。
「姉上にしては珍しく遅かったのう。もう夕飯もできておるぞい」
「そう。着替えたらすぐ行くわ」
「今日は用事があるとは聞いていなかったのじゃが、何かあったのかの?」
「別に? ちょっと本屋に寄ってきただけよ」
「……また乙女小説なのかのぅ」
「それは通販で買ってるの知ってるでしょ。それにアタシだって普通の本も読むわ。ていうか人の趣味にいちいち口出ししないで頂戴」
口煩い弟を振り切って二階の自分の部屋に入る。鞄は椅子の上に置いて、着替えもせずにベットに倒れ込む。
今日のアタシはちょっとおかしい。吉井君からあのバカの話を聞こうとしたのはともかく、人の話にあんなに大声で笑って、帰り際には……。
スカートのポケットから携帯電話を取り出してアドレス帳を開く。あまり登録数の多くないヤ行に新しく登録された名前。
アドレス帳の中には男の子のものもあるけど、自分から男子にメールアドレス聞いたのは初めてだな……。
頬が熱を持ってる気がする。ま、まあ、弟のクラスメイトでもあるんだし仲良くしたっていいわよね。
でも……、
「楽しかったな……」
あんなに笑ったのはホントに久しぶり。別に常に優秀であろうとか、お堅く生きてきたつもりはないんだけど。
楽しそうに話す吉井君を見て少しだけ羨ましくなっちゃったのも事実。ついでにうちの馬鹿弟にまで同じ感情を持ってしまったのはちょっとくやしい。
ま、それはそれとして。
「彼に惚れちゃったら大変そうよね」
思わず笑いが零れる。海での話も何故女の子達が怒っていたのかの根本的な理由は分かっていないのだろう。
多分かなりの鈍感。その上、無自覚でああいうことを―木下さんと話してて楽しかったし、僕ばっかり得して―あ、ヤバい。今確実に顔赤い。
手に持ってる携帯の画面をもう一度見据える。アドレス交換してすぐその日にメールするのはどうなのかしらね。
ちょっと悩んだけど一通だけならと思って文章を打ち始める。意外とすらすらと言葉が出てきたことに少しだけ驚いた。
出来上がった文面をもう一度見直して、ほんの少し躊躇してから意を決して送信ボタンを押す。送信完了の画面が出てからまた内容を見直すと、ちょっとだけ恥ずかしい気がする。
返事はすぐ来るのかな。それとも……コンコンコン。
「姉上? 夕飯が冷めてしまうぞい」
「はいはい、いま行くから」
携帯はベットに置いたまま、部屋着のスウェットに手早く着替えてリビングに向かおうとドアを開けた。
ドアを閉める直前に何気なくベットの上を見ると、携帯のランプがメールの受信を知らせていた。

続く

723:名無しさん@ピンキー
10/06/08 23:58:56 8nGn9dnE
以上です。

次回予定 「二人きりの勉強会」編
書けたらまた投下しますのでよろしくお願いします。

724:名無しさん@ピンキー
10/06/09 00:34:34 4ZB4FLBO
よくやった!GJじゃ!
はよ続きを!

725:名無しさん@ピンキー
10/06/09 00:46:41 Vby/cjYU
なんという純なストーリーだ!
続きに期待GJ!

726:名無しさん@ピンキー
10/06/09 02:12:53 TSHiq9Hz
これは期待が高まりますね
純愛さいこー

GJ!

727:名無しさん@ピンキー
10/06/09 06:54:38 tittK1kE
GJ!
続き楽しみすぎる

728:名無しさん@ピンキー
10/06/09 17:37:55 lQnoC6wz
GJです!!!

729:名無しさん@ピンキー
10/06/09 18:18:00 OVREKHfP
優子ってツンデレだよね?

730:名無しさん@ピンキー
10/06/09 18:35:49 kBfCsOrY
このまま優子と明久が付き合ってそこに秀吉が割り込んで3Pに

731:名無しさん@ピンキー
10/06/09 18:38:12 H2iIP+gw
秀吉が優子と明久を侍らせるだと・・・?

732:名無しさん@ピンキー
10/06/09 20:32:28 5XCqAYjs
>>729
ツンデレはちょっと違う気がする
暴力は振るうけど別に態度がキツいわけじゃない、というか態度はむしろいい方

733:名無しさん@ピンキー
10/06/09 22:21:06 9gdc5o5v
要するに気恥ずかしくて素直になれない女の子だよな、明久が押せば倒れる

734:名無しさん@ピンキー
10/06/09 23:44:41 lW7OzD0w
優子さんは明久には基本的に暴力を振るわない
原作にあったのは例外

せんたく板は暴力が趣味、コミュニケーション

735:名無しさん@ピンキー
10/06/09 23:52:53 aMdoqp+K
ここからの展開が楽しみすぐるw

736:717
10/06/10 22:34:16 Ho54L3tj
717です。前回の明久×優子の続きを投下させていただきます。

 非エロ
 優子の性格が丸め

それと、今回から原作に対する独自解釈とオリ設定を若干含みます。
これらが苦手な方はご注意ください。
 「勘違いから始まる恋もある」
  二人きりの勉強会 前編
次レスより投下します。

737:二人きりの勉強会 前編
10/06/10 22:36:04 Ho54L3tj
「ねえ、さすがに酷すぎると思わない!? あのバカ河原でメイドの服着て発声練習してたのよ!?」
「あはは……、確かにそれはマズイと思うけど、今回の役はやりがいがあるって秀吉すごく張り切ってたみたいだしさ」
「それにしたって限度ってものがあるでしょう! 他人から見たらどうやっても頭が残念な子にしか見えないじゃない!」
電話口から聞こえてくる木下さんの声は興奮冷めやらぬといった感じだ。まあ、今回の件は僕でもちょっとどうかと思うしなぁ。
それとは別に、秀吉のメイド服はぜひ見てみたい。きっとものすごく似合うんだろうなあ。
「ほんとにアイツは……、アタシと同じ顔してるって自覚が足りないのよ! 私にまで変な噂が立ったらどうしてくれるつもりなのよ」
若干手遅れな気がしないでもない。そういえば一時期木下さんは下着を穿かない人らしいなんて噂があったんだけど、あれも秀吉が関係してるんだろうか。
……ちょっとだけ妄想してしまったのは健全な男子高校生なら仕方のないことだと思う。
「全く……バカって言葉が相応しいわ。熱中すると周りのこと全然見えなくなるんだから……って、聞いてる? 吉井君」
「あ、うん。聞いてる聞いてる」
危ない危ない。妄想の世界から戻れなくなるところだった。
「なんかごめんね? 一方的に喋っちゃって……」
「ううん。そんなことないよ」
喫茶店でいろいろ話したあの日から、木下さんとはよく話をしている。
とはいっても、直接会うなんてことはほとんどない。たまに学校で見かけても挨拶がてら喋るくらいだし。
会話手段はメールや電話。それも最初はメールだけだったんだけど、最近は電話も週に二、三回かかってくる。
内容も最初の頃は僕やFクラスでの話がメインだったんだけど、徐々に木下さんも自分のことなんかを話してくれるようになった。
共通の話題ってことで秀吉のこともよく話す。今日みたいに愚痴を聞かされることもあるんだけどね。
でも、最初に持っていたイメージより棘も少なく、何よりすごく楽しそうに話してくれる木下さんとの会話を、僕も楽しみにするようになっていた。
「なんかあいつの話すると愚痴ばっかりになっちゃうわね……。」
「大丈夫、そんなに気にしないでよ。でも、秀吉に直接注意したりはしないの?」
「え? もちろんしたわよ? ついでに曲がらないとこまで関節を曲げてあげたし」
その痛みを容易に想像できる自分が悲しい。
「でも反省はしてるみたいだけど、たぶん行動を改める気はないのよね……。またそのうち似たようなことで注意することになりそうだわ」
「あはは、秀吉は演技のことに関しては頑固だからねえ」
「こっちは笑い事じゃないのよもう……」
「どうにかするには秀吉を演劇から切り離すくらいしないとダメそうだよね」
冗談めかして言ってみた。
まあ、秀吉は誰に言われてもやめないだろうなぁなんて呑気に考えていると、なぜか木下さんは慌てたように口を開いた。

738:二人きりの勉強会 前編
10/06/10 22:39:00 Ho54L3tj
「あ、いやそこまで言うつもりは無いのよ? ほ、ほら確かにバカはバカなんだけど、あれはあれで頑張ってるみたいだし」
「あ、うん」
「部活動に全力で打ち込むっていうのも高校生の特権みたいなものだしさ、だからそれはそれで悪くないっていうか……」
「そうだね。秀吉すごく頑張ってるよね」
「いや、その……そう、かもしれないわね」
木下さんも理解はあるみたいだ。迷惑を被っててもこんな風に言えるなんて……。
失礼かもしれないけど、正直意外だ。
「ちょっと意外だな。木下さんってそういうのを良く思ってないのかと思ってたよ」
「……そうね、正直ちょっと前までは勉強を疎かにしてあんなことばっかりしてるのはいただけないって思ってたんだけど」
耳が痛くなるワードが聞こえた気がするけど気にしないでおこう。
「ちょっと前にね、秀吉にお願いをしたことがあったの。自分の体裁を守るようなことに秀吉を体よく使っちゃったんだけどね」
自身の失敗談を話すみたいに、木下さんは少し恥ずかしそうにしながら話を切り出した。
「その時のあいつを見て、アタシの考えって偏屈……っていうか、すごく視野の狭いものだったんだなーって思ったの」
話に相槌を打ちながら、木下さんって透き通ったすごく綺麗な声してるんだななんてことを考えてた。
「アタシはあいつに出来ないことがたくさん出来る。でもなんてことはなくて、あいつもアタシにできないことを難なくやってのけたのよ」
散々迷惑もかけられたんだけどね。と、苦笑しながら付け足す。
「くだらないってレッテル貼ってたものに悩まされて、バカだって思ってた弟に助けられたアタシはなんなんだってね。あの時は結構恥ずかしかったわよ」
「そっか、木下さんでもそういうこともあるんだね」
「ええ、まあね。ていうかなんで話しちゃったんだろう。この話秘密にしといてね、吉井君以外には誰にも話してないんだから」
「え、う、うん。わかったよ」
「うん。お願いね」
ちょっとドキッっとした。最近少しづつ仲良くなっている気はしてたけど、こんな風に話してくれるなんて。
ちょっと言葉に詰まっちゃったけど、流してくれて助かった。
「ま、だからって勉強を疎かにしていいわけじゃないんだけどね。テストも近いわけだし、練習があるとはいえあいつにも勉強させなきゃ」
そういえば、テストまでもう一ヶ月もない。
うう……頭が痛いなぁ。ひどい点を取れば姉さんにどんなお仕置きをされることやら。

739:二人きりの勉強会 前編
10/06/10 22:40:44 Ho54L3tj
「吉井君はテスト大丈夫なの?」
「あはは……」
「そう、ダメそうなのね」
何故分かったんだろう。
するとなにやら木下さんは考え事をしているみたいに小さく唸った。
「うーん、じゃ、じゃあさ今度の日曜日に勉強会でもしない?」
「勉強会?」
「そ、そうよ。ほら、一人でやるより分かんないところを聞けたほうが効率いいでしょう?」
うーん、確かにそうかもしれないけど。
「でも木下さんに迷惑じゃないかな?」
Aクラスの木下さんに教えてもらえるのはありがたいけど、僕が木下さんに教えられることなんて何一つないからメリットはないだろうし。
「ううん、そんなことはないわ。教えるのって自分の勉強にもなるし、秀吉にも勉強させたいから吉井君が来てくれれば、二人きりよりあいつも勉強する気になると思うし」
うーん、せっかくの休みに勉強したいなんて思わないけど、こんな機会はそうそうないしなぁ。
前回のテストの時もみんなで勉強していろいろ教えてもらえたから、(名前のミスさえなければ)割と点を取れたわけだし。
なにより今まであまり交流のなかった木下さんが、こんな風に心配して誘ってくれたのはすごく嬉しい。だったらせっかくだし……。
「うん、じゃあ大変かもしれないけどお願いしてもいいかな」
「う、うん! まかせて。Aクラス並にしてあげるわよ!」
それは、さすがに無謀なんじゃないだろうか。
「場所はどうしようか? 秀吉が場所知ってるし、スペースもそれなりにあるから僕の家はどうかな」
今は姉さんもいないし問題はない。そうすると部屋を掃除しなきゃいけないな。
「いやっ、ちょっとそれは……その」
「? ダメかな?」
「ダ、ダメっていうかまだ早いっていうか……」ゴニョゴニョ
何て言ってるんだろう? ちょっとよく聞こえない。
「木下さん?」
「そ、そうよ! 吉井君の家には参考書とか無いでしょう? 家にならあるからうちでしましょう!?」
あ、なるほど。そんなこと全然思いつかなかった。
「確かにそうだね。じゃあお邪魔してもいい……」
あれ? ちょっと待って。僕が木下さんの家に行くってことは……。うわっどうしよう。
「よ、吉井君どうかした?」
「い、いやその……女の子二人の家に僕が一人でお邪魔してもいいのかなって」
「……ちょっと待ちなさい。どう計算しても女はアタシ一人のはずよね?」
いやいや、ただの勉強会なんだ。変な考えを持ったら誘ってくれた木下さんに失礼だ。
でも、女の子の家に一人で行くのは初めてだし……。
「吉井君? ねえ、ちょっと聞いてる? あいつは男だからね!? ねえってば!!」

740:二人きりの勉強会 前編
10/06/10 22:42:30 Ho54L3tj
役目を終えた携帯を充電コードに繋ぐ。
「もう……確かに双子とはいえ女の子っぽい顔してるけど」
全く同じつくりの顔はともかく、無頓着な割に綺麗な肌とかに女のアタシが嫉妬しちゃったりすることはあるんだけど……。
正直、その認識は割と本気で改めてほしい。
乙女小説を読んでる私が言えることじゃないかもしれないけど、吉井君と秀吉が万が一「そう」なったらと思うと笑えない。やっぱりあれはフィクションだからこそよね。
ちょっとだけ頭が痛くなった。そして、それ以上に頬が熱をもってきた。
「誘っちゃった……」
実は以前から計画だけはしていた。
最近、吉井君とは少しづつ仲良くなれてる。ほとんど電話はアタシからだけど、メールは吉井君からもしてくれるようになった。
吉井君と話すのは楽しい。今までだったら恥ずかしくて人には言えなかった秀吉のバカな行動も話の種にして、あんなに大声で話しちゃった。
自分のことを見直すキッカケになった出来事も、内容はぼかしたけど喋っちゃったし。
どうもアタシは吉井君に対してガードが緩いみたい。
そもそも吉井君だって悪い。バカバカ言われてるのに、話すことは面白いし、私の話はちゃんと聞いて返してくれるし、なにより優しいし……。
自分の思考のダメっぷりにさらに顔が熱くなる。なんていうかこれはもう……。
違う違う! うん、たぶんそういうことじゃないハズ。大丈夫大丈夫、落ち着け私。
まあ、せっかく仲良くなれたのになかなか直接話す機会がなかったのよね。
見かけたら挨拶くらいはするんだけど、吉井君の周りっていつも人がいるからちょっと話しかけづらいってのもあるのよ。
坂本君、土屋君、うちの愚弟もいるし、姫路さんや島田さんもよくいるわね。
あとは吉井君と話してるわけじゃないんだけど、うちのクラスの久保君と、名前は分からないけど確かDクラスの女の子もよく見かけるのよね。
はぁ……、代表みたいに気にせず行ければいいんだけどな。
ま、でも約束もできたんだし前向きにいこう。さてと、じゃあ今のうちにっと。

741:二人きりの勉強会 前編
10/06/10 22:43:47 Ho54L3tj
コンコンコン
「秀吉。入るわよ」
む、姉上か。いいぞい。
弟の返事を確認してドアを開ける。
「何か用かの?」
「うん、まあね。あんた今度の日曜暇よね?」
「うむ、部活もないしの。」
「じゃあ、その日開けといてね勉強するから」
「? 姉上が勉強するのと儂になんの関係あるのじゃ?」
「なに言ってんの。アンタも一緒に勉強するのよ」
「え゛っ」
どういう反応よそれ。
「なんて声出してるのよアンタ」
「い、いや儂は別にいいのじゃ」
「ふーん、そう。知らなかったわ。テストも近いけど勉強しなくても余裕なくらいアンタ頭良かったのね」
「いや、そうではなくて……」
わかりやすく狼狽してるわね。そこまで勉強したくないのかしら。
「なによ、あたしが教えてあげるんだから喜びなさいよ。どうせアンタ一人で勉強しても、たいしてはかどらないでしょうに」
「その……怒らないで聞いてくれるかの?」
そう上目遣いで聞いてくる秀吉。……無駄に可愛いわね、これってナルシストになるのかしら。
「とりあえず、言ってみなさい。怒るかどうかはそれから判断するから」
秀吉はなにやら随分言いにくそうにしながら口を開く。
「昔、姉上に勉強を教えてほしいと頼んだ時にかなりキツく言われた覚えがあるのじゃ。じゃから、少々驚いてしまっての」
……確かにそんなことがあったわね。あれは中一の頃だったかしら。
あの頃から既に学力の差は明確で、秀吉の事を見下していたような気がする。
うーん、でも……。
「それは覚えてるけど、そんなにヒドイこと言ったかしら?」
すると秀吉は胸に手を当てて、ひとつ深呼吸をした。
『ハァ? なんでアタシがあんたの勉強なんか見てあげなきゃなんないのよ。勉強できないのは自業自得でしょう。そんなことで私の手を煩わせないで』
「と、言われたのじゃ」
……うん、まあ我ながら確かにきついなぁって思うけど、いちいち声真似までしなくていいわよ。
ていうか、数年前のことをそんなに明確に覚えてるって、何気に根に持ってるのかしら?
「確かに姉上が教えてくれるなら助かるのじゃが、なぜ急に? と疑問に思っての」
「どうでもいいでしょそんなこと。もう来年は三年生になるんだからアンタがいつまでも成績悪いままじゃ父さん達も心配するでしょ」
一応理由はあるんだけどね。たとえ誰に言おうが、アンタにだけは絶対教えてあげないわよ。
「そうじゃの。ではお願いするぞい姉上、ついでにこの宿題も教えてくれると……」
「ダメよ。宿題くらい自分でやりなさい」
「姉上はケチなのじゃ……」
うるさいわね、宿題を教えてもらったら意味ないでしょうが。恨みがましい視線を向けてくるバカは無視して自室に戻る。

742:二人きりの勉強会 前編
10/06/10 22:44:59 Ho54L3tj
「ふう……」
ベットに腰かけて携帯をチェックする。
お、新着メール一件。送り主は……予想通りの人物。
『日曜日は10時頃お邪魔するね。なにか飲み物でも持って行くよ。』
吉井君て意外と気を遣うのよね、気にしなくてもいいのに。
自然と頬が緩む。えーと、『わかったわ、教科書とかも忘れないでね』っと、送信。
はぁ……秀吉に吉井君も来るって言えなかったな。さらっと言えれば良かったんだけど、下手に追及されたら冷静に返せなさそうだし。
まあ、その日に言えばいいわよね。それより当日の事考えなきゃね。吉井君に苦手なとことか聞いとこうかしら。
そんなことを考えながら、ふと本棚のほうに目を移して……青ざめた。
ちょ、ちょっと待って。アタシこの部屋に吉井君を呼ぶつもり!?
男の子を部屋に入れるのが恥ずかしいとか言う前に、見せられないような小説やら、つい買ってしまったグッズやら致命傷クラスの危険物がたくさんある。
マズイ、これだけは見られたくない。特に吉井君には絶対に。押入れに全部入れられるかしら。
いっそ、秀吉の部屋でやるべきかな。でも、あいつの部屋にも参考書なんて全然置いてないし……。
しょうがない、ダンボールに入れて押入れに隠しておくしかないわ。入りきるかしらねコレ……。
結局この日は夜遅くまで部屋の整理をしなければならなかった。

「はぁふ……、眠いわね」
本日は日曜日。現在時刻は八時半、朝食も食べ終えたし身だしなみも整えた。時間には十分余裕がある。
昨日も確認のためのメールしたんだけど……、その後あまりよく眠れなかったのよね。
なんていうか遠足前の小学生じゃないんだから。と、自分自身にツッコミを入れたくなる。
父さんと母さんは朝早くから出かけて行った。帰りも遅いらしいしちょうどよかったわね。
「はあ……、なんか緊張するな」
男の子を家に呼ぶのは初めてだし。まあ、勉強が目的だし秀吉もいるから二人きりってわけじゃないし大丈夫よね!
唐突に誰かが階段を慌ただしく降りてくる。秀吉のやつ何をしているのかしら、足音を辿って洗面所へ向かう。
「あれ? アンタなんで制服着てるわけ?」
秀吉は休みなのに制服に身を包んで、身だしなみを整えるためにせわしなく動いている。
「おお、姉上。すまぬ! 実は急に部活の召集がかかってしまったのじゃ。勉強はまた今度にしてくれぬか」
「ハァ!? なに言ってんのよ! 日曜は開けとけって言ったでしょうが!」
「だからすまぬと言っておる。演劇部の外部コーチが今日になって都合がついたらしいのじゃ。先ほど電話があっての」
「だからって……先に約束してたじゃない! 今日くらい休みなさいよ!」
「それは無理な話なのじゃ。コーチは多忙じゃから今日を逃せばいつ練習を見てもらえるか分からん。電話でも全員必ず出席と言われたのじゃ」
言い争ってる間に準備を終えた秀吉はバッグを持って玄関に向かう。
「ちょ、ちょっと待ちなさい。秀吉!」
「すまぬ。お説教は帰ったら聞くのじゃ。夕方には帰るからの」
止める間もなく脱兎の如く飛び出して行った秀吉を見て、アタシはしばらく呆然としていた。
現在時刻は九時五分。吉井君が来るまで一時間を切っていた。

743:717
10/06/10 22:47:41 Ho54L3tj
以上です。
勉強会してない……前編というより導入編ですね。

次回予定 「二人きりの勉強会」 後編
明日か遅くとも明後日には投下したいと思います。

744:名無しさん@ピンキー
10/06/10 23:10:38 TRhQ3ewC
なんだこれ……なんだよこの素晴らし過ぎるSSはっ!
優子さん可愛すぎるだろJK!
GJなんだよ!後編にも期待なんだよ!!

745:名無しさん@ピンキー
10/06/10 23:11:40 uq+vLqUy
GJ!続きが楽しみすぎる

746:名無しさん@ピンキー
10/06/11 00:33:07 QIzuFr/v
秀吉空気よんだな

しかし、夕方の優子と明久のラブラブを見て嫉妬するんですね

747:名無しさん@ピンキー
10/06/11 22:49:20 iNC+5SRh
性的なことをしている最中に帰ってくるんだろう

748:717
10/06/11 23:43:47 0fmSAMAG
717です。二人きりの勉強会 後編 を投下させていただきます。

次レスより投下します

749:717
10/06/11 23:45:12 0fmSAMAG
えーっと、教えてもらった住所では確かこの辺だよね。途中のスーパーで買った飲み物とお菓子を持って、僕は木下家を目指していた。
「あ、ここかな」
表札に木下の文字。白を基調としたごく一般的な二階建ての住居、ここが秀吉と木下さんの家らしい。
さっそく玄関まで行ってインターフォンを鳴らす。
「はい」
「あ、えっと、秀吉君の友人の」
「あ、吉井君ね。ちょっと待って」
出たのは木下さんだったみたいだ。そういえば木下さんの家の両親とかはいるのだろうか。少し緊張するなぁ。
ガチャッと目の前のドアが開いて木下さんが出迎えてくれた。
「こんにちは。木下さん」
「いらっしゃい。どうぞ上がって」
「うん、お邪魔します」
玄関で靴を脱いで上がらせてもらう。休みだから当然だけど木下さん私服だ。
短めのスカートに素足でいるから、ふとももからスリッパを履いている足首まで露出していてすごく眩しくみえる。
「これ、飲み物とか買ってきたから」
「うん、ありがとう。あ、チョコレートも入ってる」
「勉強するなら甘いものがあってもいいかなって思って」
「そうね。でもなんか気を遣わせちゃってごめんね?」
「ううん、こっちこそ今日はお世話になります」
「ふふ、任せて。じゃあコップとか持って行くから部屋に行っててくれる? 階段上がって奥が私の部屋だから」
言われた通り階段を上がって行くと、二階には部屋が二つあった。正面にあるのが木下さんの部屋ってことは、こっちは秀吉の部屋なのか。
うーん、やっぱり女の子の部屋に入るのは緊張するなぁ。そういえば秀吉はどこにいるんだろう?
ドアノブを回してドアを開けると、女の子特有のいい香りが漂ってくる。木下さんの部屋は綺麗に整頓されていて落ち着いた感じの部屋だ。
いかにも女の子って感じのアイテムはあまりないけど、カーテンの色だったり、大きめのチェストが女の子の部屋ってことを意識させる。
部屋の真ん中にはガラステーブルと周りにクッションが置いてある。ここで勉強するのかな。
座ろうかどうか迷っていると後ろのドアが開いて、コップとお皿に乗ったお菓子をお盆に載せて持ってきた木下さんが入ってきた。
「あ、その辺に適当に座っていいわよ」
「うん。木下さんの部屋すごく綺麗だね」
「あはは、昨日頑張って掃除した甲斐があったわ」
なんて言ってお盆をテーブルの上に置く。オレンジジュースのふたを開けてコップに注いでいる。
「そういえば木下さんの親は今日は……」
「今日は二人とも出かけているわ。だから気にしなくて大丈夫よ」
「そうなんだ。ところで秀吉を見ないね」
と言うと、何故か木下さんが引きつったような笑顔になった。
「えーと、実はあのバカね今日になって急に部活の予定が入ったって言って、さっき学校に行っちゃったのよ」
そうだったのか、道理でさっきから見ないはずだ。
「そっか、秀吉も大変だね。日曜日なのに」
ってことは秀吉は今日参加できないのか、残念だなぁ……。つまりこの家には今、僕と木下さんと……あれ?
「二人だけ?」
つ、つまり僕はこれから木下さんと二人きりで勉強することになるの?
「そ、そうなるわね……」
テーブルの向かいに座ってる木下さんは顔を赤くして俯いている。多分僕も同じような表情になっていると思う。
うわぁ……どうしよう、こんな展開は予想してなかった。顔を赤くしてる木下さんもかわいいなじゃなくて! とりあえずこの空気を打破しなきゃ!
「あの、吉井君。もし嫌だったら……」
「じゃあ今日はいっぱい教えてもらえるね! 改めてよろしく木下さん」
「あ……うん! ビシビシ叩き込んでやるわ!」
こうして二人きりの勉強会は始まった。

750:717
10/06/11 23:46:13 0fmSAMAG
「じゃあまずは、数学ね。テスト範囲になりそうな辺りの問題をコピーしておいたから、まずはこれを解いてみて。隣に書いてある時間を目安にしてね」
「うん、わかったよ」
A4サイズのコピー用紙を数枚重ねてホチキスで閉じてある物を渡された。
「分からない問題はとりあえず飛ばして解いて。後でまとめて教えるから」
シャープペンを持って問題に立ち向かう。
さて、一問目……うーんこれはちょっと難しいな、パスしよう。
二問目……この問題は見たことがあるぞ、確か……ちょっと思い出せないな、パスしとこう。
三問目……うわ、グラフが出てる。これ苦手なんだよね、パスしよう。
一枚目は終わりか。じゃあ二枚目に……。
「ちょ、ちょっと待って。解ける問題ないの?」
木下さんが焦ったように問いかけてくる。
「うん、一枚目の問題は難しすぎて」
ちょっと最初から難易度が高すぎる気がする。もう少し簡単な問題から始めないとね。
「一枚目は基礎部分で簡単な問題で、二枚目以降徐々に難しくなっていくんだけど……」
あれ?じゃあ表裏間違ったのかな。プリントの束を裏返してみた。
……おかしい、日本語で書かれているはずなのに何一つ理解できない。もしかして暗号になってるんじゃないだろうか。
「かなり基礎的な部分からやらないといけないみたいね……」
「すいません……」
「ま、覚悟はしてたからいいわ。じゃあ教科書も開いておいて。えーっとこれはね」
そう言いながら身を乗り出して、プリントを覗き込んできた。
距離がかなり近くなる。シャンプーの香りかな?木下さんからはすごくいい匂いがする。
いかんいかん、せっかく教えてもらってるんだから真面目にやらなきゃ。―ってうわぁ!!
「ん? どうかしたの吉井君」
きょとんとして聞いてくる木下さんの今の姿勢は前かがみになっている。するとシャツの間に隙間ができて……み、見ちゃだめだ。
木下さんは僕の視線に気づいて、自分の胸元に目をやって……
「きゃあ!!」
と、甲高い声を上げて後ずさる。
「……見た?」
「見てないですっ!」
少ししか。
「そ、そう。ならいいわ。隣少し空けてくれる? そっちにいくから」
そう言って僕の隣に腰を下ろす。確かにこれならさっきのようなことはないだろうけど、距離がさっきよりずっと近くなってドキドキする。
「ふぅー、さて続けるわよ」
結局、午前の間ずっとこの距離感に翻弄されることになった。

751:717
10/06/11 23:47:23 0fmSAMAG
「さて、作り始めようかしら」
今アタシはキッチンに立っている。目的はもちろんご飯を作ること。
勉強に一段落ついたところで、丁度お昼時になったので昼食をとることにした。
最初こそ、頭を抱えたくなるような状況だったけど、勉強は思ったよりはかどっていた。
吉井君は確かに理解はあまり速くないし、お世辞にも優秀とは言えないけどその分、見栄を張らずに分からないことはちゃんと聞いてくるから教えやすい。
それに意外と集中力もあるみたい。うん、決して落ちこぼれなんかじゃない。世界史や日本史は結構点数取れてるみたいだし、努力し続ければAクラスにだって―
ってさすがにそれは言い過ぎかな。でももしそうなれば……ふふっ、ほんとにどうかしてるわね。
ちょっとしたハプニングもあったけどね。でも本当に見えてなかったのかしら、それはそれで勿体なかったような……。
バカなことを考えながら料理に使う食材を用意する。えっと、ネギと卵と焼豚で良かったわよね……あ、あと調味料とご飯か。
メニューはシンプルに炒飯を作ることにした。そもそも料理なんて全然しないアタシが凝ったものを作れるわけがないしね。
一応、レシピは見たし大丈夫なはず。というか炒飯くらい失敗しようがないわよね。
なんて私の考えは甘すぎる程に甘かった。
「むう、均等に切れないわね。ここを切ればいいかな……って、ひゃっ!!」
あぶな……指切るとこだったわ。
「よし、鍋温まったわね。えーと、卵なんてすぐ焼けるしご飯を先に炒めた方がいいわよね」
「やば、焼豚切るの忘れてたわ。うーん、なかなか小さく切れないわね。もっとこう………………うん! これならいいわ」
「ってご飯ご飯。あれ!? 焦げてる! あっ、油を引くの忘れてた! 油ってどこだっけ!? あーもう卵も入れなきゃ!」
「木下さん!? なんか大変そうだけど大丈夫!? 木下さん!?」

「…………」
「…………」
アタシ達の前にはとても炒飯とは呼べない物があった。料理は見た目より味って言ったって半分以上ご飯が焦げてれば食べなくても不味い事くらいわかる。
バカだなぁアタシ。変に見栄張らずに弁当でも買ってくればよかったのに。みっともないったらありゃしないわ。
よくよく考えれば、調理実習とかを除けば初めての料理なのよね。はは、妥当なんじゃない?この焦げご飯が。
「ごめんごめん。アタシ料理全然できないのよ、というかこれが初めて。ちょっと見栄張っちゃった。今お弁当買ってくるから待っててくれる?」
アタシがエプロンを外してキッチンから出ようとすると、吉井君はなぜか近くにあったスプーンを手にとって―目の前の焦げご飯を食べ始めた。
「ちょ、ちょっと吉井君!? なにしてるのよ!」
吉井君はアタシの言葉なんか聞こえてないみたいに次々とご飯を口に運んでいく。
「そんなことしなくていいってば! お腹壊すわよ!?」
ヒトの制止も無視して食べ続けている。力ずくで止めようとしたけどこっちに背中を向けてお皿を隠し、振り向いた時には既に全部食べきってしまっていた。
「もう! なんでこんなこと……」
こっちの言葉なんて意にも介さず、吉井君はアタシの方を見て、
「ごちそうさま。すごくおいしかったよ」
なんて笑顔で言ってのけた。
「ば、バッカじゃないの!? おいしいわけないでしょ!」
「そうかな? 食べてみたら全然いけたよ」
「全部失敗して、あんなに焦げてたじゃないの……」
「でも、食べても失神することもないしさ」
「なによそれ……全然フォローになってないじゃないバカぁ……」

752:717
10/06/11 23:48:44 0fmSAMAG
『木下さんの分も食べちゃったから僕が新しく作ってもいいかな?』
その提案を了承して、今はキッチンに吉井君が立っていてアタシは後ろから見ている。
泣いちゃった……。涙を流したのなんていつ以来だろう。
吉井君はやっぱりバカ。あんなこと今時ベタな恋愛映画でもやらないっていうのに……。そんな風にしてくれるなんて反則じゃないのよ、もう……。
キッチンに立つ吉井君は手際よく準備を整えていく。包丁さばきもアタシの危なっかしい手つきとは段違い。
「吉井君は料理上手なのね……」
「それなりにね。料理は家庭内で一番立場の低い人がやるもんだって教え込まれたんだよね」
「あはは、なにそれ。吉井君のお母さんは作ってくれなかったの?」
「うちの家庭は母さんの独裁……いや、姉さんもいるから独裁じゃなくて……」
冗談かどうか分からないことをぶつぶつ言いながらも手は止まらない。
「電子レンジ使ってもいいかな?」
「え、うん。いいけど……ご飯温かいのに使うの?」
「うん、水分を飛ばすために少し使うといいんだ」
へぇー、そんなこと知らなかった。
「あとは、炒める前に卵をご飯に絡めてっと」
勉強は苦手みたいだけど、料理はAクラス並みたい。
なんてね。そしたらアタシは間違いなくFクラスだわ。
吉井君の作った炒飯はお店で出てくる物と比べても遜色ない出来だった。もちろんアタシは本心から言えた。
「ごちそうさま。すごくおいしかったわ」

ちょっとだけ慌ただしかったお昼ご飯を終えて、また木下さんの部屋で勉強を再開していた。
木下さんが料理できないのは意外だったな。でも、なんでも完璧にできる人なんてそうそういるもんじゃないよね。
料理を作ったのが初めてだって言葉を聞いて昔を思い出した。僕も昔はじめて料理した時は同じように失敗したっけな。
でもその時、母さんも姉さんも父さんもみんなおいしいって言ってくれてすごく嬉しかった。
そのおかげで、料理を作らされる機会は多かったけど、料理自体は結構好きになれたんだっけ。
隣で自分の勉強をしている木下さんをチラッと盗み見る。
泣かれちゃった時は正直すごく焦った。とりあえず土下座はしておいたんだけど、あやまらないでほしいって言ってくれた。
その時の木下さんは見惚れてしまうような優しい笑顔をしていて、その……すごく驚いた。
美人なのは分かってたけど、普段のしっかりした雰囲気とは違うところを見れて、それを思い出すと……胸がドキドキする。
僕の視線に気づいたのか木下さんがこっちを振り向いた。
「あ、終わったの?」
「うん、一応できたよ」
僕の解いたプリントに視線を運んで、一通り読み終わると笑顔になってくれた。
「うん、解けるようになってきたわね。答えも合ってるし」
「ホント!? 良かった」
木下さんの教えのおかげだよね。すごく教えるの上手だし、理解が遅い僕にもきちんと分かるまで説明してくれる。
そのおかげで、自分でも問題が解けるようになったのを実感できる。今日はホントに来てよかったなぁ。
「さて、それじゃもう時間もあんまり無いし、最後にこのプリントやってみて。今日の復習になってるから。時間は……40分くらいを目安にね」
「うん、わかった。やってみるよ」

753:717
10/06/11 23:49:40 0fmSAMAG
「っと、よし。できた」
最後の一問を解き終わった。時間は……うわ、ぎりぎりだ。
でも、最初は全然解けなかったこのプリントも、今は空欄の一つもない。ちょっと自慢したくなってしまう。
「木下さん、出来た―」
声をかけながら隣に視線を向けると、木下さんはベットを背もたれにして寝ていた。
そりゃあ疲れるよね。出来の悪い僕に教えながら、合間には自分の勉強もしっかりやってたんだもん。
静かに寝息を立てる木下さんを見ながら最近のことを思い出す。
こんな風に、同じ部屋で二人きりで一緒に勉強したりするようになるなんて全然考えたこともなかった。
Aクラスで真面目で優秀な木下さんは、自分とは違う存在なんだって勝手に思ってた。
でも全然そんなことはなくて、普通に笑って、怒って、失敗して……こんな風に居眠りしたりもする。
最初に持ってたイメージとは違って、そして、そんな木下さんはすごく―
「うぅん……」
少し身じろぎしたけど、そのまま眠り続けている。
それにしても……やっぱり美人だよなぁ。寝てるのをいいことに木下さんの顔をまじまじと観察する。
肌もすごくきれいだし……うわぁ、まつげがすごく長い。それに、少し茶色が混ざった瞳は水晶のように澄んでいて……あれ、木下さん起きて―
「よ…しい くん?」
あ、僕いつの間にこんなに近づいて…、すぐに離れないと……はなれないと、いけないのに……
「きのした…さん」
「…………ん」
木下さんはまた目蓋を閉じて、僕はそのまま唇を……。
プルルルルルル!
うわぁ! この音は……携帯?
「あっ、え? あれ?」
木下さんは一瞬困惑したかと思うと、たちまち真っ赤になって携帯を握りしめてドアから出て行ってしまった。
あああ!! ぼ、僕はなんてことをしようとしてたんだ!
よりによってキ……うわぁぁぁ!
結局その後目一杯、自分の行為に身悶えしなければならなかった。

754:717
10/06/11 23:50:44 0fmSAMAG
弟の関節を曲がらない方向に思いっきり曲げてやろう。そう固く決意したのは三十分程前のこと。
あの最悪にタイミングの悪い電話は秀吉からのものだった。内容はというと。
『今日の夕食は儂らしかおらんからのう、弁当を買って帰るつもりなのじゃがなにがいいかのう』
しかも、わざわざ公衆電話から。もう盛大に力が抜けた。
ちなみに吉井君はもう帰っている。まあ、あんなことがあったわけだし。電話を終えて部屋に戻ったら、なんかすごく悶えてたっけ。
なんでもないようにされるよりはよかったかな。二人とも意識しちゃって大変だったけどね。
結局会話も続かず、プリントの答え合わせだけしてお開きにしちゃった。あの雰囲気じゃしょうがないわよね。
吉井君……あれはやっぱりキス……しようとしてたのよね?
あのとき電話が無かったら……しちゃってたのかな。
付き合ってるわけでもないのにな。でも……全然いやじゃなかった。ううん、むしろ……。
頭がボーっとする。鼓動はずっと速いままだ。
「アタシは……吉井君が、好き、なの、かな……?」
マズイ。口に出しただけで心臓がバクバクいってる。こんなんじゃ……もうごまかしようもないわよね……。
今日は吉井君のいろんな面に触れた。情けないとこ、真剣なとこ、凄いとこ、そしてなにより……とんでもなくお人好しでやさしいところ。
「アタシは、吉井君が、好き」
ふふっ、こんなにあっさり好きになっちゃうものなのね。アタシ惚れっぽいのかな?
違うよね。たぶん吉井君だから……うん、きっとそう。
よし、そうと決まったら早速メールでも送ろう。いつまでも気まずいまんまじゃイヤだしね。
と、思ったら携帯にメールの着信音。この前個別に設定した吉井君用の。
あたしより、吉井君のほうが早かったみたいね。携帯を操作してメールの内容を見る。
『今日はホントにありがとう! それで、もし迷惑じゃなかったらまた勉強教えてくれないかな? 僕も頑張りたいんだ』
渡りに船ってやつね。アタシも同じこと提案しようと思ってたわ。早速返信を打ち始める。
『迷惑なんかじゃないわ、もちろんいいわよ。そのかわりに今度お料理を教えてほしいな。いいかな?』
送信っと。うん、アタシも頑張ろう。勉強も、料理も、そして……恋愛も。
「ただいまなのじゃー」
いいとこに帰って来たわね。今ならお姉さまは気分がいいから右腕だけで許してあげるわ。

 続く

755:717
10/06/11 23:52:36 0fmSAMAG
名前欄にタイトル入れるの忘れてた……。
とりあえず以上です。
ベタなイベント満載の 「二人きりの勉強会」編 終了です。
次回予定 タイトル未定ですが おそらく完結編になります。ただ若干難航気味……
また、前、後編に分けての投下になりそうです。
それではまた。

756:名無しさん@ピンキー
10/06/12 00:31:51 Plr3jZuy
優子りんの可愛さにここまで悶えたのは初めてだよ。
本当に良い仕事してますな。
さあ、早く完結編とやらの執筆に戻るんだ!

757:名無しさん@ピンキー
10/06/12 00:37:00 62FxrdyH
なんというクオリティ・・・。
>>717・・・恐ろしい子・・・!

758:名無しさん@ピンキー
10/06/12 04:24:50 4Qi8CgjI
優子お姉ちゃんハァハァ……テラモエス……GJ……


759:名無しさん@ピンキー
10/06/12 13:19:22 MPPXPiAY
こんなの書ける人いるんだ
超GJ!!!

760:名無しさん@ピンキー
10/06/12 13:32:55 vfy6/XgC
GJ!優子さんかわいすぎるわ

761:名無しさん@ピンキー
10/06/12 15:01:19 0KUkew/J
gj!

762:名無しさん@ピンキー
10/06/12 15:13:22 UoXiE6Ws
続きを楽しみに待とうじゃないか

763:名無しさん@ピンキー
10/06/14 12:32:38 cIetY06+
遅くなったけどGJ!
続きが楽しみだ

764:名無しさん@ピンキー
10/06/15 10:37:24 2W2eCgx1
これは…
GJと言わざるをえない

純愛っていいね!

765:名無しさん@ピンキー
10/06/15 22:51:47 n6Wnb4yR
女性陣はともかく、明久はセックルについての知識はあるのかな?
てかまずその言葉自体知ってるのか?

766:名無しさん@ピンキー
10/06/15 23:20:00 LPebv6M4
知ってるだろ

秀吉の為に

767:名無しさん@ピンキー
10/06/16 02:25:38 Rz9hpiRj
そりゃ知ってるでしょ
参考書たくさん有るみたいだし

768:名無しさん@ピンキー
10/06/16 03:13:06 FtKdXJRc
わっふるわっふる

769:名無しさん@ピンキー
10/06/16 03:45:19 KTi46KKI
逆に保健以外を知らないんじゃ

770:名無しさん@ピンキー
10/06/16 22:01:06 7igSO45J
ところでさ
明久達って知り合ってまだ一年ちょっとしか経ってないんだよね
なのに何であんなにコンビネーションが優れてるんだ?
特にアイコンタクトの性能が異常なんだが

771:名無しさん@ピンキー
10/06/16 22:38:06 SeLUfsdb
馬鹿同志馬が合うんだろ

772:名無しさん@ピンキー
10/06/16 22:50:48 CSfbmhN/
学校は長時間クラスメイトと同じ教室に拘束されるからな
一年つっても一緒にいるのはかなり長い時間になる

773:名無しさん@ピンキー
10/06/16 23:02:53 1M9WHsei
高校までなら一年間は結構長い
他のクラスとあんまり交流がないなら必然的にクラスメイトとの仲も深くなる

774:名無しさん@ピンキー
10/06/17 12:39:43 IzTaugcS
しかし
それでもトランプのカード(ダウト)で
お互いが何を持ってないとかまで分かるって凄くね?

775:名無しさん@ピンキー
10/06/17 13:18:53 KRLibia0
セットを4等分して且つ自分の手が見えるから、どこが薄くてどこが厚いかくらいはすぐわかるだろ。
アイコンタクトの性能はニュータイプレベルだと思うが(カードどころか会話してるし)

776:717
10/06/17 22:34:44 hwKmo1fb
717です。続きが書けたので投下させていただきます。
   ・明久×優子
   ・エロ無し
   ・オリ設定などを少々含む

相変わらずのエロ無しですがよろしくお願いします。
「勘違いから始まる恋もある」 終章 前編になります。
次レスより投下します。

777:終章 前編
10/06/17 22:36:22 hwKmo1fb
「明久。帰ろうぜ」
「……」
テストまであと一週間となったとある日の放課後。雄二とムッツリーニが僕の席まで来た。
「ゴメン、今日はちょっと用事があるんだ」
「なんだ、またかよ」
「……付き合いが悪い」
「あはは、もう行かなきゃ。二人ともまた明日!」
遅れたら悪いし、急がなきゃ!
「なあ、ムッツリーニ」
「……怪しい」
「火曜日と木曜日か? あいつの付き合いが悪くなるの。」
「……土曜日も」
「しかもどんな用事か聞いてもバレバレの嘘でごまかしやがる。なんか情報掴んでないのか?」
「……決定的な証拠はまだ。ただ、町外れの図書館で目撃情報がある」
「図書館とは……また似合わねえ場所だ。しかも、駅前の市立図書館じゃなくてわざわざあっちに行ってんのか」
「……これから証拠を掴みに行く。どうする?」
「そうだな……隠し事してんのは気にくわねーし、何してんのか暴いてやるか」

「じゃ、ここでいいわ。いつも送ってくれてありがとね」
いつも通り木下さんを家の近くまで送る。もう道筋まですっかり覚えてしまっている。
「今日はちょっと遅くなっちゃったわね、吉井君大丈夫?」
「そういえば見たいテレビがあったんだよね、急いで帰らなきゃ」
「ふふ、テレビもいいけど今日渡したプリントもちゃんとやらなきゃダメよ?」
「うん、ちゃんとやるよ。じゃあまたね木下さん」
「うん、またね」
来た道を戻って家を目指す。なんとなく振り向いたら木下さんがこっちを見てたから大きく手を振ってみたら、笑顔で手を振り返してくれた。
木下さんの家にお邪魔した日に、これからも勉強を見てほしいというお願いをしてみたら、快く了承してくれた。
とりあえず、テストが終わるまで週に三回、火、木、土の三日をその日に設定した。
火曜と木曜は図書館で。人が少なく、少しくらい喋ってもいいのが利点ということで駅前のじゃなく、町外れにある方にした。
土曜日は僕の家でやっている。勉強との交換条件の料理を木下さんと一緒に作ったり、ちょっと早く切り上げてゲームしたりもする。
木下さんは結構負けず嫌いみたいで、対戦系だと僕に勝てないのがくやしいのか何度も挑戦してくる。
たまに木下さんが勝つとすごくはしゃいで喜ぶのがすごくかわいいんだよね。普段は落ち着いた性格だから余計にね。
勉強の方もかなりはかどっている。数学と英語を重点的に教えてもらい成果を発揮できるようになった。
この前の数学の小テストで満点をとったら何故か学園長直々に『……体調は大丈夫かい?』なんて失礼なことを言われたりもしたけど。
週に三日の勉強。あとは、宿題として木下さんが作ってくれるプリント。毎日勉強してることになるけど全然苦にならないんだよね。
むしろ、勉強会をするのが楽しみで、テストが終わったらこれも無くなっちゃうのかなって考えると、すごくイヤなんだよなぁ。
でも、テストが終わっても勉強見てほしいなんて、厚かましくて言えないよね……。

778:終章 前編
10/06/17 22:37:18 hwKmo1fb
はぁ……。
ちょっとだけ落ち込みながら歩いてると、二つの人影が近づいてきて……って、なんで!?
「よーう、明久」
「……奇遇」
「雄二!? ムッツリーニまで! こんなとこで何してんのさ」
「誰かさんが誘いを断るから二人で遊んでたんだよ。秀吉は部活だからな」
「……」コクコク
「それよりお前こそ何の用事だったんだ? この辺には滅多に来ないんだが何かあんのか?」
「え、いやー、えーと、あの、その」
「答えにくいなら質問を変えよう。いつの間に木下姉と親しくなったんだ? 接点なんて無かっただろうに」
「な、なんで木下さんが出てくるのさ!」
ポンポンと肩をたたかれ目の前に出されたのは……写真!? しかも僕と木下さんが二人で写ってる!
「……明久。言い逃れはできない」
「さって、詳しく話してもらおうか」

「ほー、なるほど。二人で勉強をねぇ」
「……妬ましい」
二人がかりの尋問に耐えきれずこれまでの経緯を話してしまった。
「しっかし木下姉と二人で勉強なんてよく続いてるな。あのお堅そうなのと居て楽しいのか?」
む、なんだよその言い方は。
「楽しいよ! 木下さんすごく教え方うまくて勉強も辛くないし、堅くなんて全然なくて、話をしてると時間忘れちゃうくらい―」
「こりゃあ随分とまあ……」
「聞いてんの!? だいたい木下さんのことよく知らないで……」
「そうだな、悪りぃ。知りもしないで勝手なこと言っちまった」
全くだよ! 木下さんってすごく優しくていい人なんだからね!
「そういや秀吉は知ってんのか? お前と姉が仲良くしてんの」
「え、うーん、どうなんだろう」
秀吉は最近部活動で忙しそうにしてるしあまり話せてないんだよね。あの時以来、木下家には行ってないし知らない……と思う。
「そういや、あいつ部活忙しいんだっけな。…………しっかし、大変だなこりゃ」
「そうだね。テスト前なのに大変だよね」
「そっちじゃねえ……ま、いいか」
「何が?」
「なんでもねえよ。お前に言っても分からん話だ」
なんかムカつく言いかただな。あれ? そういえばムッツリーニは何して……。
「ムッツリーニ、何してるの?」
なにか写真をまとめてるみたいだけど……。
「……明日、異端審問会に提出する写真を選んでいる」
「やめてよ! そんな写真をFクラスの連中に見られたら僕死んじゃうよ!」
「……裏切り者は死ねばいい」
くそっ、友達のはずなのに本気にしか聞こえない。こうなったら……背に腹は代えられない。
「ムッツリーニ、僕の秘蔵コレクション五冊とその写真交換してくれないかな」
「……そんなものには釣られない」ボタボタ
よし、明らかにあと一歩だ。
「じゃあ七冊にするから」
「……しつこい」ダラダラ
「やれやれ……」

779:終章 前編
10/06/17 22:38:17 hwKmo1fb
さてと、明後日は数学の日だから……あ、この問題集は使えそうね。明日の内にコピーしておかなきゃ。
後は、こっちの本から宿題用に使えそうなところを探して……と。
「よし。これで準備はオッケーね」
用意したものをクリアファイルに挟んで鞄に入れておく。
部屋にかかっているカレンダーに目を向ける。テストまであと七日かぁ……早いよ。
最近は一日一日が過ぎるのがとても速い。吉井君の勉強を見てあげるようになってから特にそう感じる。
吉井君は順調に進歩してる。この前なんか小テストで満点とったって聞いてアタシのほうがはしゃいじゃった。
木下さんのおかげだよ、なんて笑顔で言ってくれたし……アタシが教えたのが役に立てたのなら嬉しくてしかたなかった。
でも、その反面……その、別のほうの「進歩」はあんまりしてないのよねぇ。
あ、でも吉井君の家にはお邪魔したのよ! 吉井君がうちに来た時の何倍も緊張したわ。一人暮らしだってわかってたし。
でも、その時も普通に勉強してちょっとだけ遊んで……うん、健全な友達との付き合いよね。
あの時のキス未遂から、それらしいことは一回もない。まあ、特別な関係ってわけじゃないから当たり前かな。
でも、アタシ自身なにもアプローチ出来ないでいるのよね……。好きなんだって分かったのに。
今日こそは、って意気込んでも吉井君と一緒にいるとそれだけで満足しちゃうし。
進展させたいけど、このままで居るのもいいなんて都合のいい考えを持っちゃうのよね。
それに……、自覚しちゃったからこそ臆病になってるところもあるのかな……。
「だって……、しょうがないじゃない」
週に二回の勉強会の時は、吉井君がアタシを家まで送ってくれる。電話なんかも含めたらほぼ毎日話をしてる。
それで、休みの日には吉井君の家で一緒に過ごして……他人から見れば勘違いされてもおかしくはないくらい仲良くなれてると思う。
でもだからこそ、この関係を失うのが怖い。アタシと違って吉井君にはそんな気は全然無かったらと思うと……考えたくもない。
ただ、この関係を続けられる時間も残り少ない。テストが終わってしまえば、勉強会を続ける口実も無くなっちゃうし……。
終わりを迎える前にキチンと決着をつけなきゃいけないってことは分かっていても、どうしても勇気が出ない。
「テストの日が……来なきゃいいのに」
叶わない願いを口にしても状況は何一つ変わらないのに……ね。
コンコンコン
「姉上。ちょっといいかのう」
あれ、秀吉? なんだろ。
「いいわよ、入んなさい」
「失礼するのじゃ」
制服姿のままの秀吉が部屋に入ってくる。ちゃんと着替えなさいよね。
「何か用?」
「うむ、ちょっと聞きたいことがあっての」
聞きたいこと? 何だろ。まさか吉井君のことだったり……
「姉上は明久と交際しておるのかの?」
「な、なな、なんで……」
「何で、と言われてものう。違うのかの?」
「い、いや、なんでそんなこと……」
「姉上、正直バレバレなのじゃ。電話の声がたまに聞こえるし、家の近くまで送ってもらってるところなど見れば当たり前の発想じゃろう?」
予想外の攻撃に身を縮こまらせる。そっか、その辺の行動全部ばれてたのね。でも……。
「しかし、姉上が明久を選んだのも驚きじゃが、あの明久を陥落させるとは……」
「付き合ってない……」
「む? いまなんと」
「まだ付き合ってないって言ってんのよこのバカ!!」
「あ、姉上…その関節はそっちには曲がらなっ…………」

780:終章 前編
10/06/17 22:39:21 hwKmo1fb
「ひどい目にあったのじゃ……」
右腕を擦りながら恨むような目線を向けてくる。
「あ、アンタが変なこと言うから……」
「しかし姉上までもが明久とはのう。心中察するぞい」
「何を察するってのよ」
「大方、明久の鈍感さに悩まされておるのじゃろう? あやつは優しいが人の好意には鈍いからのう」
まあ、アタシがあんまり行動できてないってのもあるんだけど……でも、部屋で女の子と二人きりなのに意識してないっぽいしねぇ。
「確かにそういうところもあるわね……。ちなみにそれってアンタの体験談?」
「? どういう……な、何を言っておるのじゃ! 儂も明久も男なんじゃぞ!?」
「ふーん、なんにもないんだ。でもさっき機嫌悪そうだったわよね? 吉井君に彼女できると嫌なの?」
「いや、それはなんというか、その、釈然とせんというか、儂がどうこうという話ではなくてじゃな、た、多分友人に彼女ができた時の」
「もういいわよ、落ち着きなさい」
機嫌悪かったのは否定しないわけね。全く、どこまでこいつの言う事を信じていいのやら、でも彼氏を作るのに弟をライバルにするのはかなり嫌ね。
「い、今は姉上の話じゃろうに。コホン、それで明久のことが好きじゃと」
「……そうよ」
「できれば付き合いたいと」
「…………そうね」
「しかし中々うまくいかな」
「もういいでしょう! なんでアンタに全部言わなきゃなんないのよ!」
一体なにが目的なのよ!
「いや、姉上が後悔せぬようにと思っての」
「な、なによソレ」
「先ほど言ったように、明久に好意を寄せている者は他にもおる。しかもそ奴らはおそらく姉上よりずっと前からじゃろう」
「…………」
「ともすれば明日にでも何か起こるかもしれん。実際今迄にも近いことはあったからのう」
「…………」
「あまり躊躇しておるとその内……」
「出てって」
「む? なにか」
「今すぐ! ここから出て行きなさい!」
ドアを開けて体ごと押しやって、廊下に突き出したあとドアを閉めて鍵をかけた。
イライラがおさまらず、手近にあったクッションを投げつける。
「分かってる……わかってるわよ! そんなこと!」
なんなのよ! 勝手なこと言って! それが出来りゃ苦労してないってのよ!
「人の気持ちも知らずに……」
わかってるのよ……一歩踏み出さなきゃ何も始まらないことくらい……。
でも、それでも……怖いのよ……。

781:終章 前編
10/06/17 22:40:18 hwKmo1fb
木下さんから、明日の勉強会は無しにしてほしいという内容のメールが送られてきたのは、今日の朝だった。
どうやら体調が悪いらしい。学校を休むほどじゃないけど、ちゃんと教えられなさそうだからとのことだ。
心配だなぁ。僕の教師役が負担になって忙しくて大変だったんじゃないだろうか。
やっぱり勉強くらい一人でできないとだめなのかな……。
「明久君、ちょっといいですか?」
物思いに耽っていると、いつの間にか姫路さんと美波が近くに来ていた。
「アキ、何かあったの? 浮かない表情してるけど」
「え、ううん、何もないよ」
「そうなんですか? 私も気になったんですけど……」
まいった。どうやら顔に出ていたみたいだ。
「ほんとに何もないよ。テストが近いから確かに気分はよくないけどさ」
姫路さんは納得してくれたみたいだけど美波が食い下がってくる。
「でも最近、アキ勉強頑張ってるじゃない。テスト対策ちゃんとしてるんだと思ったんだけど」
「そういえばそうですね。最近授業もきちんと受けてるみたいですし」
最近ようやく先生たちが保健室行きを勧めることが無くなったんだよね。
「またテスト頑張んなきゃいけない理由でもあるの?」
「い、いや、もうそろそろ僕もしっかりしないとなーって思ってさ」
「嘘ね」
「嘘ですね」
何故僕の信頼度はこんなに低いんだろう。
「アキ? 正直に言わないと大変なことになるわよ?」
「明久君? 隠し事をされると私悲しくなっちゃいます」
あ、あれ?いつの間にこんなピンチに?
と、その時教室の扉が開いてある人物が入ってくる。あれは秀……じゃない木下さん!?
「アキ? どこ見て……あれ? あの人」
「Aクラスの木下さんですよね。どうしたんでしょう?」
なぜだろう、なんでかわからないけど今僕は窮地に追い込まれている気がする。木下さんは予想通りこっちに来て……。
「おはよ、吉井君」
「あ、うん。おはよう」
「今日はごめんね。これ、やる予定だったプリントね。宿題もその中にあるから」
「ごめん、体調悪いのに」
「熱は無いみたいだし、そこまでひどくないから大丈夫よ」
そう言って、笑顔を見せてくれた。そして、そのまま僕の耳元に顔を近づけてきて……って近っ!
「土曜日はちゃんと行くから……よろしくねっ!」
ポンポンって肩をたたいて戻っていった。耳に木下さんの吐息の感触が残ってて僕は……
「ねえアキ? 今のはどういうことなのか説明してくれるわよね?」
「もう明久君たら、お仕置きをしないといけないみたいですね?」
目の前の二人の鬼神をどうやって説得するかを考えながら、
「ふむ、吹っ切れたのならよいのじゃがの……」
という、秀吉のよく分からない呟きを耳にした。

782:終章 前編
10/06/17 22:42:26 hwKmo1fb
「んー、今日はちょっとケアレスミスが多いわね。本番では無くさなきゃダメよ?」
確かに今日の僕はちゃんと集中できてない。でも隣にいる木下さんを見たら、集中しろって言うほうが無理だってわかってもらえると思う。
今日はテスト前最後の週末となる土曜日。天気も良く例年のこの季節より気温が高くなってる中、先日の約束通りに木下さんが僕の家に来ていた。
それはいつも通りのことなんだけど……、今日の木下さんは、その……、肌をかなり露出させた服装なんだよね。
確かに今日は少し気温も高いし、おかしくはないんだけど……、どうしても木下さんの姿が視界に入って気になる。
薄手のカーディガンを脱いだ上半身は、肩の部分が紐になっている服を着てるために肩がすっかり露出していて、ちょっと覗きこめば胸元まで見えそうだ。
下は、木下さんの家で見た時よりも短いスカートで、足を組みかえたりするたびにふとももの奥まで見えてしまいそうになる。
この服装じゃ注意してても隠しづらいだろうから言ってあげることもできないし、まったく目を向けないなんて事ができるほど僕は無欲でもない。
結局、視界の端でチラチラ見ながらも、なるべく直接的に目線を向けないようにするのが精一杯の抵抗だった。
そんな風に翻弄されながらも時間は進む。最後の勉強会ももうすぐ終わりを迎えようとしていた。
「よしっと、これでテスト範囲はやりきったわね、お疲れ様。どう? 自信はついた?」
「うーん。どうなのかな? 確かに最初よりはずっと問題が解けるようになったと思うんだけど」
「そうね、短期間だから実感しにくいかもしれないけど大丈夫よ。頑張ったんだから自信持っていいと思うわ」
たぶんお世辞とかじゃなく本当にそう思ってくれているんだろう。現金なもので、木下さんにそう言われるとなんとなく自信が湧いてくる。
テストがほんの少しでも楽しみになるなんて以前の僕からしたら考えられないことだ。でもそれ以上に……。
「じゃあこれでおしまいね。こっちのプリントは見直し用だから、明日明後日の復習に使うといいわ」
「うん……、わかったよ」
せっかく仲良くなれたのに……、このまま終わっちゃうなんて……嫌だ。けど……。
「これで気を抜いちゃだめよ、明日以降もちゃんとやること。ほんとはテスト終わっても頑張ればすごく伸びると思うんだけど……ま、吉井君次第ね」
「あ、あの、木下さん」
「ん? なにか質問でもあるのかしら?」
終わらせたくないなんて言っていいのか? そもそも僕は何でこんなにも……。
後に続ける言葉が出ないまま口ごもっていると、僕より先に木下さんが口を開いた。
「ね、吉井君。アタシちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかな」
「へっ?」
予想外の木下さんの言葉に間抜けな声が漏れる。木下さんが僕に聞きたいこと? なんだろう。
「う、うん。僕でよければ」
「あのね……、今日のアタシの服装……どう思う?」
ふ、服装? そ、そりゃあいろいろ見えそうですごく気になってた……って、そんなこと言えないし……。
「え、えっと、すごく似合ってると思うよ」
邪な考えは捨てて無難な答えを返す。でも、なんで急に服のことなんて聞いてきたんだろう。

783:終章 前編
10/06/17 22:43:34 hwKmo1fb
いままで意識しないようにしてたのに、そんなこと言われると、白い肌とか、細い肩とか、柔らかそうな太ももが気になって……。
って、ダメダメ。木下さんはそんな気持ちで聞いたんじゃないはずだし、そんな風に考えちゃ失礼だよね!
「うん、そう言ってくれるのも嬉しいんだけど……」
葛藤している僕に、木下さんは更なる爆弾を投げつけてきた。
「その、なんていうか……アタシを見て、興奮……とかしてくれなかったかな、なんて」
え? き、木下さん、今なんて……。
「視線とか、ちょっとは意識してくれてるのかなって思ったんだけど……違ったかな?」
つまり……見てたのがばれてたってこと!? だから、えっと、と、とにかく謝らなきゃ!
「ご、ごめん! その見ないようにしてたんだけど……」
そのまま頭を下げかけた僕を制するように、木下さんはこちらに手を伸ばしてきて、その細く柔らかな指が頬にふれる。
「あやまらないで。吉井君が見たいなら……見てもいいのよ?」
「ええっ!? あ、あの、木下さん?」
狼狽している僕に木下さんは擦り寄ってくる。甘い香りが鼻腔をくすぐって、頭の中がボーっとしてくる。
そのうえ腕に感じる木下さんの体温や、胸元から覗く柔らかそうな膨らみが、なけなしの理性を削り取っていく。
これだけでも致命傷レベルなのに、木下さんは止まる様子がない。
「あんまりスタイルに自信あるわけじゃないけど……見るだけじゃなく、触ってみる?」
「で、でもそんなの……」
「だいじょうぶ、ここにはアタシ達以外誰もいないんだから……我慢なんかしないで?」
そのまま、木下さんは僕の首に腕をまわして顔を近づけてくる。
潤んだ瞳と上気した頬、わずかに荒くなった吐息はとんでもなく艶っぽい雰囲気を醸し出していて―
「あの時できなかったキス……しよ?」
「き、木下さん」
「優子、って呼んで……」
もはや数センチしかない距離がゼロになる寸前で―
「……ッ!! やっぱりだめだよ!」
僕は木下さんの肩を押し返した。
「きゃっ!!」
強い力で押してしまったためか、バランスを崩した木下さんは尻餅をついた。
「あ、ご、ごめん! つい力が……でも」
弁解をしようとする前に、体勢を戻した木下さんは顔を俯けながらも口を開く。
「あはっ、ごめんごめん。冗談が過ぎたわね」
「あ、あの」
「うん、冗談よ。そう全部冗談……。だから忘れ……」
言い聞かせるみたいに同じ言葉を呟いた後、そのまま立ち上がる。
「じゃ、じゃあ今日は帰るわね! テスト頑張ってね。もう大丈夫だと……思うから」
引き止める間もなく玄関に向けて走り出す。その背を追って同じように走って声をかける。
「木下さん!」
既に靴を履いて、扉に手を掛けてた木下さんは一度止まって顔を上げぬまま喋りだす。
「あの、吉井君……。よかったらこれからも普通に……仲良く……」
「木下さん……」
「ううん、ごめん……ね。さよならっ……」
ドアを出て走り去ってく木下さんを、僕は立ち竦んだまま見送るしかなかった。

784:終章 前編
10/06/17 22:44:40 hwKmo1fb
こんな時くらい見栄を張らずに、所構わず大泣きしちゃえればいいんだろうけどな。
生来の性格か、一滴の涙も流さず、無駄に走り続けることもなく自分の家まで辿り着いた。
ドアを開け、適当に靴を放り投げて、階段を上って部屋に入った。
ああ、でもやっぱり、誰も見てないところでも耐え続けられるほど強くはないみたいね。
部屋に入った瞬間ボロボロと溢れてきた涙を拭うこともせずに、そんな客観的な感想を抱いた。
涙が流れるのと同時に、さっきまで空っぽだった頭の中もぐちゃぐちゃに乱されていく。
「…………なんで」
なんで受け入れてくれなかったんだろう。アタシを見てくれていると思ったのに。
なんで何もしてくれなかったんだろう。あの状況なら何も邪魔は入らなかったのに。
違う、……ちがう! なんで……なんでアタシは……。
「姉上? 何かあったのじゃ?」
ドアの外から聞こえる弟の声。今は誰とも……ガチャ。
鍵を閉め忘れたドアはいとも簡単に部外者の侵入を許した。
「姉上、その」
「なに……勝手に、入ってきてんのよ。出なさいよ……」
「今日は明久の家に行ったのじゃろう? もしかして伝えたのかの……?」
「うるさいっ……、出て行けって言ってんでしょ……」
「その、明久は鈍感じゃから、一度失敗してもじゃな」
違う……あれは、あれは……。
「失敗じゃない……。あんなの失敗ですらないわよ……」
「姉上? 一体何が」
「ゴメン、秀吉……今は無理なの……。お願い……一人にして」
「……わかったのじゃ。」
……バタン。ドアが閉まっても変わらず泣き続けた。
分かってた。こんな手段に頼らずに真正面から想いを伝えれば良かったんだ。
自惚れかも、自信過剰かもしれないけど、そしたら吉井君だって少しは考えてくれたはずだ。
受け入れてくれる可能性は低かったかもしれないけど、それでも可能性はゼロではなかったはずなんだ。
吉井君が優しいのは知ってたのに。雰囲気に流されて女の子を傷つけてしまうかもしれないような事は絶対しないって分かってたのに……。
僅かな可能性を捨てて、絶対無理な状況を勝手に作って……こんなの、バカだって笑う気さえ起きないよ……。
「もう……なんでよ……バカ、バカ、アタシの大バカ……」
涙は枯れることもなく流れ続けて、頭の中ではずっと同じ言葉を繰り返していた。

785:717
10/06/17 22:47:57 hwKmo1fb
以上です。
似非でもシリアス風に書くのってやはり難しいですね……。

明日には後編+エピローグを投下しますので、またよろしくお願いします。
それでは。

786:名無しさん@ピンキー
10/06/17 23:15:01 GixWCO1m
前に投下された物もかなりのクオリティだったけど
今回はそれを更に上回る傑作だ。これは続きが楽しみでたまらないよ。
優子りんが可愛すぎて生きるのが辛いwww

さあ、早く執筆活動に戻るんだ!

787:名無しさん@ピンキー
10/06/17 23:37:46 6LvyZ3/j
優子さんを応援します

788:名無しさん@ピンキー
10/06/17 23:44:11 0h/IZf4c
もう優子さんがメインヒロインで良くね?

789:名無しさん@ピンキー
10/06/17 23:45:47 lR7SPiAu
あんなに嫌いだった優子が>>717さんのせいで一番好きになってしまった

790:名無しさん@ピンキー
10/06/18 00:01:28 4qgv8gy9
優子ってヒロインだよね?

791:名無しさん@ピンキー
10/06/18 00:07:46 JQJjrwy1
ヒロインは秀吉だろ?

792:名無しさん@ピンキー
10/06/18 00:10:50 6l+o3j+o
瑞希・美波「……」

793:名無しさん@ピンキー
10/06/18 00:12:50 JQJjrwy1
ごめんなさい、全員でした。
だから腕を曲がらない方向に曲げないでください。

794:名無しさん@ピンキー
10/06/18 00:21:40 axhcfLNk
アキちゃんがメインヒロインです。

795:名無しさん@ピンキー
10/06/18 00:27:24 2iujeG3q
翔子「・・・・・・メインヒロインは雄二・・・そこだけは、譲れない」

796:名無しさん@ピンキー
10/06/18 00:31:10 w1TgbvsG
これは秀吉も明久の事が好きな感じがするんだが

797:名無しさん@ピンキー
10/06/18 09:46:52 axhcfLNk
確実に好きでしょ

798:名無しさん@ピンキー
10/06/18 16:17:43 uCny3Fap
好きではあるんだろうね

秀吉目線でのストーリーがあれば
実際明久をどう思ってるのか分かるのにな

799:名無しさん@ピンキー
10/06/18 17:08:35 xBcMVX7P
>>798
遠まわしに作れっていってる気がするw

800:名無しさん@ピンキー
10/06/18 20:07:03 SojuezCj
姫路さんが明久を監禁するっていうシチュとかはどうですか?

801:名無しさん@ピンキー
10/06/18 20:59:56 +ZqxO1Cj
飯を食っても死ぬ。食わなくても死ぬ。恐ろしいシチュエーションだ

802:717
10/06/18 22:43:32 tSWbEDXL
717です。昨日の続きを投下させていただきます。
「勘違いから始まる恋もある」 終章 後編です。

次レスより投下します。

803:終章 後編
10/06/18 22:45:14 tSWbEDXL
週が明けて月曜日。頭の整理も出来ないまま、僕は学校に来ていた。
FクラスとAクラスでは校舎が違う。だから、今教室に来ている霧島さんのように意図的に行動しなければ、木下さんに偶然会ってしまうこともない。
情けないことに僕は、それをありがたいと思ってしまっていた。今、木下さんに会っても何も言える自信が無い。
土曜日はあの後、頭が真っ白なままだったし、昨日は逃避するように一心不乱にプリントで勉強をやり続けていた。
木下さんがなぜあんなことをしたのか、そして……、僕はなんであの時木下さんを拒んだのか。
自分が何をすればいいのか思いつかず、今日になってもただひたすらテスト勉強を続けていた。
「おい、明久。ちょっと面貸せ」
「雄二? なんだよ急に」
いつの間にか雄二が目の前に居た。
「いいから、さっさと来やがれ」
「いてっ、何すんだよ!」
雄二は強引に僕の腕を引っ張って連れ出そうとしてくる。反抗してるけど力じゃ雄二には敵わない。
「ちょっと、坂本!」
「坂本君!」
姫路さんと美波が雄二を引き止める。雄二はめんどくさそうに振り向いて言った。
「別に何かしようってわけじゃねえ。話を聞いてくるだけだ」
そうして教室のドアから出て行った雄二に、渋々ながらついていくことにした。


「一体何なんだよ雄二。」
「別に俺の意思じゃねえよ。ったく、翔子のやつ……」
「霧島さんがどうしたってのさ」
「なんでもねえよ。それより週末に何があったんだよ」
「……別に。なんにもないよ」
話す義理もないし、木下さんだって誰にも言わないだろうから僕が言わなきゃ済む話だ。
「嘘つけ。木下姉となんかあって、似合わねえツラして落ち込んでやがるんだろうが」
「……ッ!!」
知らないはずの話をピンポイントで当てられて、一瞬言葉に詰まる。

804:終章 後編
10/06/18 22:46:10 tSWbEDXL
「……そうだとしても、雄二に何の関係があんのさ」
「俺もそう言ったさ。落ち込みたいやつに構ってやる必要はねえ、とことん落ち込ませればいいじゃねえかってな」
「なんなんだよさっきから! ケンカ売ってんの!?」
雄二の言い草に腹が立って掴みかかる。けど、当の雄二は未だやる気なく頭を掻いている。
「で? なにがあったんだよ」
「…………」
「チッ……」
やっぱり、人に言うことじゃない。そう思って教室に戻ろうとすると……。
「なんでもねえってんならこの世の終わりみてえなツラしてんじゃねえよ。こっちまで気が滅入るだろーが」
「…………」
「たいしたことでもねーくせに、グチャグチャ落ち込みやがって……」
「……ッ!! 勝手に決め付けんなよ! 僕だって木下さんとちゃんと……もっと、もっと!」
「それを、ちゃんと伝えたのかよお前は」
「な……!」
伝える? 僕が?
「なにがあったのかなんて知らねーが、言うことを何も言わねーうちから何をそんなに悩んでやがる。お前が脳みそ振り絞ったところでたかがしれてんだろうが」
木下さんと一緒に過ごして、終わってほしくなんてなくて、もっと……この先も、僕は、僕は……。
「バカなテメーが出来ることなんてそう多くは……ぐほぉ!!」
まだ延々喋ってる雄二の腹目がけて正拳突きをお見舞いしてやった。
「て、テメェ、なにしやがる……」
「ふん! 雄二にだけはバカなんて言われたくないね! 自分だって霧島さんには本心を言わないくせに」
「なっ……本心も何も翔子は、ってか相談にのってやったのにぶん殴るってどういうことだテメェ!」
「そうだね。じゃあ今度お礼に霧島さんに、水族館のペアチケットでも渡しておくよ」
「なっ、正気か!? ふざけんな」
雄二を無視してダッシュで教室に戻る。ったく、あんな言い方するから素直にお礼言いたく無くなるんだよ。
ガラッ。 教室の扉を開けて中に入り、自分の席に座る。
机の上に置きっぱなしになっていた教科書を開いて、昨日やったプリントを見直して明日からのテストに備えることにした。
よしっ、まずは明日の数学だ。あれだけやったんだから絶対いい点数とってやる!


805:終章 後編
10/06/18 22:47:05 tSWbEDXL
文月学園には「試験召喚システム」という制度があり、それにはテストの点数が大きく関係してくる。
そのためテストの採点は普通の学校より素早く行われる。いつでも最新の点数で試召戦争を行えるようにと配慮されたためらしい。
とはいえ、さすがにテストが終わってすぐ戦争を仕掛けるようなクラスは無いんだけど……今の僕には都合がいい。
三日間のテストもさっきの時間で終了して、生徒が昼休憩をしている間に採点が終わり、もうすぐ結果が出ることになる。
手ごたえは悪くなかった。今までよりはずっといい点が取れたはず。
っと、前のドアから鉄人が入ってきた。
Fクラスだけあって、みんなさぞ絶望的な表情をしているかと思えば……クラスの大半が、何故か危険な笑みを浮かべていた。どうやら現実逃避を決め込んでるらしい。
「これから答案と成績表を返す。いつも通りその場で確認してもらうので、出席番号順に別室に来てくれ。受け取りが終わってもすぐに帰らず教室にいること」

コンコン
「失礼します」
「吉井か……、そこに座れ」
言われた通りに椅子に座る。
「これが成績表。こっちが各科目の答案と解答だ。採点の間違いが無いか確認してくれ」
渡された答案に目を通して、解答と見比べていると……。
「随分といい点数を取ったじゃないか。最近は授業もしっかり受けているようだしな、勉強に目覚めたのか?」
鉄人が唐突に尋ねてくる。正直、自分でも疑ってしまうほど良く出来ている。でも……。
「いえ、これは……すごく上手に教えてくれた人が居たからなんです」
「……ほう。つまりこの成績は今回だけってことか?」
「それは……分かりません。……でも、目標ができたんです!」
鉄人は無言でこちらを見据えてくる。
「今はまだ……全然遠い目標ですけど、それでも来年までに成し遂げたいことがあるんです! だから……これから一生懸命かんばります!」
「そうか……。まあ精々やってみることだ。ところで吉井、馬鹿の一念という言葉を知っているか?」
「へ? 馬鹿の一年?」
なんだそれ? いかにも見たくなくなるようなホームドラマのタイトルみたいだな。暗にバカにされているんだろうか。
「ふっ、まあいい。教室に戻るぞ。お前で最後だからな」
あ! そうだった。急がなきゃ行けなかったのに!
「先生! 早く行きましょう!」
「おいおい、なんだ急に」
Aクラス、まだ終わってないといいんだけど。


806:終章 後編
10/06/18 22:48:36 tSWbEDXL
帰りの挨拶が終わってすぐに教室を飛び出しAクラスの校舎へ向かう。
くっ、他のクラスのHRはほとんど終わってるみたいだ。この分じゃAクラスも……。
目的地のAクラスの周りにも人影がぽつぽつと見える。木下さんはまだいるだろうか。
Aクラスの教室の扉を開けて周囲を見渡す。木下さんは……いない。
もう帰ってしまったんだろうか。でも、この教室は広いうえに個人のスペースがあるから教室内にいるかもしれない。どうすれば……。
「……吉井?」
「あっ、霧島さん!」
教室内を見渡していた僕の前に霧島さんが立っていた。霧島さんなら知ってるかも!
「えっと」
「優子なら、HRが終わってすぐに帰った。ここ数日元気無かったから……心配」
……尋ねる前に返答が返ってきた。くそっ、やっぱり帰っちゃってたか……すぐに追いかけないと!
「吉井!」
走り出そうとした瞬間に霧島さんに呼び止められる。
「優子はいい娘だから……頑張って」
「……うん、わかってるよ。ありがとう、霧島さん」
今度こそ外に出るため走り始める。雄二の奴勝手に喋ってくれやがって……。もう一発殴っておけばよかったよ!
速度をつけて一気に階段を降りて玄関に向かう。一応Aクラスの下駄箱の方も確認したけど居なかった。
となると……、そのまま靴を履き替えてから外に出て、校門から木下さんの家がある方に向かって走った。

「ハッ、ハァッ……」
おかしい。木下さんの姿が全然見当たらない。このままじゃもう着いて―着いてしまった。
もはや見慣れた木下さんの家。中に居るのだろうか、それにしたって全力で走ってきたのに追いつかない程早く帰っているとは考えにくいんだけど……。
恐る恐るインターフォンを鳴らしてみる。…………反応がない。
もしかしたらどこか寄り道をしているのかもしれない。とはいえ心当たりなんて……。


807:終章 後編
10/06/18 22:49:48 tSWbEDXL
「明久?」
「はい? って秀吉!? なんでここに!」
「いや、お主はここを誰の家じゃと思っておるのじゃ……」
そ、そうだった。ちょっと落ち着こう。それに秀吉に聞けば……。
「えっと、秀吉、その、木下さんって……」
「姉上か? ふむ、まだ帰っておらんようじゃの。どこか寄り道でもしておるのか……」
秀吉にも心当たりが無ければどうする……、もう一度来た道を戻ろうか……。
「そういえば今日は木曜日じゃったのう」
「えっ? ……う、うん、そうだけど」
秀吉の発言の意図が分からず返事が遅れる。
「ここ最近姉上は火曜日と木曜日は帰りが遅かったからのう。同じ用事なのかもしれん」
「そ、そうなんだ」
相槌を打ちつつも少なからず気落ちした。その理由は知っているけど、勉強会は先週の土曜日でもう終わっている。今日帰りが遅いのとは関係―
「一昨日もテストで、学校は早く終わったというのに随分帰りが遅かったからのう」
「え?」
一昨日……つまり火曜日も?
「昨日は普通に帰ってきたのじゃがの。どこぞでテスト勉強でもしておったのか……姉上に聞いてはおらぬから分からぬがの」
勉強会はもう終わった……はず。でも火曜日と今日の帰りが遅いってことは、もしかしたら……。
「ところで明久よ。せっかくここまで来たのじゃから上がって行かぬか? テストも終わったし遊んでもいいじゃろう」
「……ありがとう。でも、また今度にさせてもらうよ。これから行くところがあるんだ」
「それは残念じゃな。……のう、明久」
「ん、何?」
「…………いや、気をつけるのじゃぞ」
「うん、またね秀吉」
「うむ、またな明久」
木下さんが居るであろう場所。目的地に向かって走り出す、居てくれるといいんだけどな。
言いたいことが……ちゃんと伝えたいことがあるんだから。
「……そうじゃの。嫌とは言わぬが……やはり少し寂しいのかもしれぬな」


808:終章 後編
10/06/18 22:50:51 tSWbEDXL
「ハァッ、ハァッ……さすがに……キツイ……」
さっきからずっと走りっぱなしだから、すっかり息が上がってる。ここにも居なかったら……いや、大丈夫!
もう何度も来てる見慣れた建物だ。入口から入って、テーブルのある閲覧室を覗く……。
「……いた」
閲覧室の一番奥のテーブルに突っ伏してる人がいる。文月学園の制服、ショートカットの茶色の髪。
その人の所へ近づいていく、足音をたてないようにゆっくりと。眠っているのかな……?
隣に立って、ひとつ息をつく。……よし!
トントン
「ん……あっ、すみません……え! よ、吉井君!」
「シーッ、ちょっといいかな。話があるんだ」
「えっ……でも」
「お願い、木下さん」
「……うん、わかったわ」
さすがにここでは話はできないので、一旦外に出る。建物の裏手に行けば周りを気にする必要も無いだろう。

建物の裏までまわって、足を止めて向き直る。木下さんは顔を伏せている。さて……と。
「まずは、これを見てほしいんだ」
さっき渡されたばかりの成績表を手渡す。それに目を走らせて、木下さんは口を開く。
「へぇ……、すごいじゃない……。総合はD、ううんCクラスレベルかも。数学と、世界史はBクラス並だし」
「うん、木下さんが教えてくれたお陰だよ。本当にありがとう」
「ううん、吉井君が頑張ったからよ。はい、返すわ」
成績表を受け取り鞄にしまう。ふう……ここからだな。
「それで……その、この前のことなんだけど……」
「…………吉井君、そのことは……」
「ごめん。無神経かもしれないけど、聞いてほしいんだ。僕はまだ何も言えてないから」
「…………」
木下さんはまた俯いてしまう。けど、やっぱり逃げちゃだめなんだ。
「あの時……その、木下さんに何もしなかったのは間違いじゃなかったと思う」
「……うん」
「僕は木下さんに……伝えたいことがあったから。先にそれをちゃんと言わなきゃダメだと思ったんだ」
「えっ……?」
さあ、言ってやれ。余計なことは考えずに、ずっとあった気持ちをそのまま。
「僕は、テストが終わったからって木下さんと一緒にいられなくなるのが凄く嫌だった」
「…………うん」
「勉強は好きじゃないけど、木下さんと勉強するのは楽しみで、なんでもないこと喋ってるだけで楽しくて、それがずっと続けばいいなって思ってて」
「……うん、うん」
「それで……僕は」
言いたい事なんて、最初から一つしかなかったんだ。

809:終章 後編
10/06/18 22:52:08 tSWbEDXL
すごく綺麗で、頭が良くて、怒ると怖くて、笑うとかわいくて、負けず嫌いで、意外と照れ屋で、何よりすごく優しい。
そんな木下さんを、僕は……僕は!
「僕は……優子さんのことが、好きなんだ!」
「…………吉井君!」
目の前にいた木下さんが勢いよく抱きついてきた。しっかり受け止めて背中に手をまわす。
「ホントに、ホントにアタシでいいの?」
「うん、木下さんじゃなきゃいやだよ!」
「ありがと……ありがとう。アタシも明久君のこと……好きだよ」
抱きしめる腕に力を加える。木下さんは顔をあげて、涙のせいで少しだけ赤くなった瞳でこっちを見つめて―
「今ならもういいよね……? キス……して?」
「……うん」
「…………んっ」
僕は初めて自分の意志で、好きな女の子にキスをした。

「ね、ねえ木下さん、そろそろ離れたほうが……」
「い・や・よ。このくらいはいいじゃない、恋人なんだし」
図書館からの帰り道、木下さんはずっと腕を絡めてきている。その……柔らかい部分を意識しちゃって大変なんだけど離してくれる様子は無い。
「で、でも誰かに見られちゃうかもしれないし」
こんな状況をFクラスの奴らに見られたら、どんな酷い目に会うか分からないし……。
「……ふーん。吉井君はアタシなんかと付き合ってるの知られたくないんだ、そうなんだ」
「なっ、そんなわけないよ! むしろ僕にはもったいなくて、みんなに自慢したいくらいだよ!」
「ありがとっ! それなら腕組むくらいいいわよねっ」
は、ハメられた……。でも、僕も嬉しいからいっか。
「そうだ、木下さんに頼みたいことがあるんだけど」
「あら、何かしら?」
「えっと、これから先も勉強教えてほしいんだ。来年の振り分け試験に向けての」
「うん、もちろんいいけど……ふーん、振り分け試験ねぇ。何か目標でもあるのかな?」
くぅ……、絶対分かってるくせに……。もう、知るか!
「せめて……来年くらいは木下さんと同じクラスになりたいから。もっと木下さんと一緒にいたいんだ」
すると、少しだけ木下さんも顔を赤らめて、嬉しそうにしてくれた。
「それなら、今までよりビシビシやるわよ? 絶対にAクラスになってもらうんだからね?」
「うん、頑張るよ」
「ふふ、その意気よ」
きっと大丈夫。木下さんとならきつくても耐えられるよ。

810:終章 後編
10/06/18 22:52:55 tSWbEDXL
「あ、ところで聞きたいことがあるのよね」
「うん、何?」
「えっと、アタシは初めてだったんだけど……、吉井君はどうなのかな、って」
「どうって、何が?」
「その、…………キス、が」
……察しろよ僕! 二人揃って赤くなる。でも、キス……か。そういえば……。
「えーっと、あの、あるって言うのか……むしろ、その」
しどろもどろになる僕を見て、木下さんは一気に不機嫌そうな表情になって……。
「ふーん、あるんだ。そうよねー、吉井君はモテるもんねー。前に誰かと付き合ってたとか?」
「ちっ、違うよ! モテてなんかないし、彼女がいたこともないよ! あれは、勘違いで……その」
「へー、じゃあ付き合ってるわけでもない女の子とキスしたんだ。アタシの時は拒否したのにねー」
「いや、あの時とは状況が違って、なんていうか、とにかく違うんだよ!」
だめだ、この誤解だけは何としても解かないと。
必死で言葉を探していると、木下さんが目の前に立って、両手で僕の顔を固定してきた。
「何回?」
「へ?」
「だから、何回したの? キス」
「い、一回だけだよ! あれは、ほんとに勘違いで……ん!」
「んっ…………」
訳も分からぬ内に唇を奪われた。一度目より少し長く唇が触れ合って、離れるのを名残惜しく感じる。 
「これで二回目だから……、アタシが一番よね?」
そういうこと、か。―嬉しい。木下さんの気持ちがほんとうに嬉しくてたまらなくて、思わずそのまま抱きしめた。
「絶対、絶対間違いなく、木下さんが一番で、誰より大好きだよ」
「……うん!」
大好きな人と気持ちが通じて、こうして抱き合えて……。告白して本当に良かったって、心の底からそう思えた。

811:終章 後編
10/06/18 22:55:06 tSWbEDXL
エピローグ

さて、今日は日曜日。秋晴れの空の下、僕は…………全力で走っていた。
「なんで、こんな時にかぎって寝坊しちゃうんだ僕は!」
木下さんに告白して恋人関係になってから今日で三日目、……まだ二日しか経ってないなんて思えないな……。

テスト明けの金曜日、校門をくぐった瞬間にFクラスの連中に取り押さえられて、有無を言わさず有罪判決&拷問三昧で、朝からボロボロになった。
それにしても……皆知ってたってことはつまり、(僕は誰にも言ってないから)木下さんから聞いてFクラスに広めた人物がいることになるよね……。
木下さんからその話を聞ける人で、尚且つFクラス所属……唯一の味方に裏切られた気分だ。
更に、その後には美波と姫路さんによる尋問が待っていた。
二人とも、まさに根掘り葉掘り聞いてきた。僕の話なんておもしろいのかな? まあ女の子は恋愛話が好きだって言うからね。
でも最後に二人揃って『私(ウチ)、まだ諦めません(ない)から!!』って言われたんだけど……どういう意味だったんだろう。
その時雄二は呆れた目で、何故かそこに居た霧島さんは出来の悪い子供を見るような目でこっちを見ていた。
……ホントに何だったんだろう?
お昼休みには木下さんが教室まで誘いに来てくれて、一緒に屋上でお弁当を食べた。しかも! なんと木下さんの手作り弁当!
何度か料理を教えたことはあったけど、正直こんなに短期間で上手くなっているとは思わなかったよ。
卵焼き、マカロニサラダ、ミニハンバーグなんかのおかずがあって、ご飯は炒飯にしてあった。
僕が教えたメニューを、お弁当として作るために何度も練習したらしい。なんていうか……こんなに幸せでいいんだろうかって気さえしてくるよ。
そのうえ……お互いに卵焼きを食べさせあったりもしたんだよね。さすがにかなり恥ずかしかったなぁ……。木下さんも顔を赤くしてたしね。
その後、教室に戻ったら……屋上での行動を監視カメラに押さえられていたみたいで、本日二度目の拷問を受けるはめに……これじゃ体が持たないな……ははは。


さて、本日は日曜日。普段より静かな駅の近くで、アタシは人を待っていた。
「待ち合わせの時間過ぎてる……、もう、寝坊でもしたのかしらね」
今日はアタシたちにとって初めてのデート。遅れている恋人の姿を探しながら、今日の予定を決めた時のことを思い出していた。


テストが終わって、週末に入った土曜日。テスト前までと同じように吉井君の家を訪問した。
新たな目標を掲げた吉井君の頼みを了承して、今までと同じ週三日の勉強会を続けることになった。
吉井君は今まで以上に集中して勉強に取り組んでいた。……その横顔に見惚れてたのは秘密にしておこう、うん、それがいいわ。
振り分け試験まではあと半年程。それまでにかなり成績を上げなきゃいけないけど……きっと大丈夫、吉井君ならできるはず。
そうなって来年、吉井君と同じクラスで過ごせるなら……どんなに楽しくなるだろうかと想像して心が弾む。アタシも頑張って教えなきゃね。
あ、あとやっぱり二人きりでいるのは緊張しちゃうのよね。まあ、今までもそうだったんだけど……。
でももう恋人同士なんだし……、何があってもおかしくないわけだし……、いろいろ考えちゃってやっぱり冷静でなんかいられないみたいだわ。
それに実際、休憩の時とか終わった後とかには寄り添って座って触れ合ったり……目線が合って、そのまま……キスしちゃったりしたし……。
あ、でもそれだけよ!? 正直、あの時のアタシは本当に混乱してたみたい。今じゃあんな大胆なことはとてもできそうにないよ……。
いっそ吉井君からきてくれればな……って、やっぱナシナシ! 今はすごく幸せだし……うん、しばらくはこのままでもいい……かな?
そのあと、帰り際に今日の事を提案してみた。
テスト後とはいえ気を抜けないのは確かだけど、適度な息抜きは必要だしね。……それに、ちゃんとしたデートをしてみたかったし。
吉井君も、勿論とばかりに了承してくれて今日の予定が決まったわけ。

812:終章 後編
10/06/18 22:56:05 tSWbEDXL
あっ、来た来た。うーん十五分遅れってところね。
「きっ、木下さんごめん。その、つい寝坊しちゃって……」
ふふ、ほんとに寝坊だったのね。今日が楽しみで眠れなくてとかだったら……さすがに自惚れすぎね。
「もう、せっかくのデートなのに遅刻なんて……」
そんなに怒ってはいないんだけど、ちょっと機嫌悪そうにしてみる。待たされたのは事実だしね。
「ご、ごめん。そのかわり何でも言うこと聞くから……」
そんなに簡単に人権を売り渡していいんだろうか。そもそも吉井君にして欲しいこと……ま、まあいっぱいあるけどここじゃあね……。あ、そうだ。
「じゃあ、お願いがあるんだけどいいかな?」
「あ、うん。何かな?」
付き合いはじめてたったひとつだけある不満をこの機会に直してもらおう。
「その、付き合ってるのに『木下さん』なんて呼び方は堅すぎないかなって思うんだけど……」
人のこと言える立場じゃないけどね。アタシも一度しか名前で呼べてないし。
「そ、そっか、なんか慣れちゃってて」
「ふふ、そうかもね。でも変えてくれたら嬉しいかな」
「うん、わかったよ。えっと……優子さん」
うん、やっぱりこの方が嬉しい。嬉しいんだけど……もう少し欲張ってみようかな。
「うーん、さん付けはちょっとねぇ。アタシたち同い年なんだし呼び捨てでいいのになー」
「うえっ!? ちょっとそれはハードルが高いんじゃないかと……」
「そんなことないない。はい、どうぞ?」
あ、困ってる困ってる。ホントは名前で呼んでくれただけで十分なんだけど……どうせならもっと嬉しいほうがいい。
「ほらほら、電車もうすぐだし遅くなっちゃうよ?」
うーん、ちょっと無理かな? まあ仕方がない―
「……よし、じゃあ行こうか、優子」
凄い、吉井君顔真っ赤。かく言うアタシもかなり危ないんだけど。うん、いい、これはいいわね……。
「うん、ありがとね! 吉井君!」
「って木下さんはそのままなの!?」
あ、また元に戻ってるわよ?
「だって吉井君が言う事聞くって言ってくれたのよね?」
「そ、それはそうだけど、その……」
ああ、吉井君といるだけで本当に楽しい。今も……これからも、ずっとこうしていられたらいいな。
でも神様になんて願わない。努力するのは自分、そして誰よりも感謝したいのは……。
「ね、ちょっと耳貸して」
「え? う、うん」
そういって肩を少し落としてくれた吉井君の耳元に口を近づける。

「ありがとう。大好きだよ、明久!」

<終>

813:終章 後編
10/06/18 22:58:38 tSWbEDXL
以上で、「勘違いから始まる恋もある」 全編終了です。
スルーしたことも多いですが(主にメインヒロイン達) あくまで明久と優子の物語ということでご容赦を。

原作などで優子さんの出番が少なめなのが悲しくて
かわいい優子さんが書きたい一心で、初めてSSに挑戦してみました。
拙い文章&表現でしたが、読んで下さった方に少しでも優子さんの魅力が伝われば嬉しいです。

GJをくれたり、感想を書いてくれた方々、励みになりました。本当にありがとうございました。
なにか思いついたらまた書くかもしれませんので、その時はよろしくお願いします。
それでは、また。

814:名無しさん@ピンキー
10/06/18 23:09:02 EPDcsgGJ
リアルタイム遭遇ktkr!
やべぇ甘すぎて脳味噌とろけそうw
近いのに遠くに感じてる二人に悶々としたけど、最後良かった、うん。
長編に加えハイクオリティなものを投下してくれた>>813氏に盛大なGJ! そして乙でした!
次回があるなら期待してます。

815:名無しさん@ピンキー
10/06/18 23:39:31 xNzbxJ8o
>>813
素晴らしい!! いいねぇ、両想いってのは( ̄▽ ̄)
ここまで完成度の高いSSは久し振りに読んだ

816:名無しさん@ピンキー
10/06/19 00:08:33 AXdMuuYF
す…凄すぎる。
かつてこんな完成度の高い優子SSを読んだ事があるだろうか?
本当にお疲れ様です職人様。次回作を期待しております。

817:名無しさん@ピンキー
10/06/19 00:08:57 4xwAIeIt
もう言葉はいらんやろ

818:名無しさん@ピンキー
10/06/19 00:34:58 6uS4AwWW
>>813
久しぶりにいい物を読ませて貰ったよ
ありがとう!

819:名無しさん@ピンキー
10/06/19 00:41:02 gGySEJQA
とてもよかったです!

また期待していますよ^^


次ページ
最新レス表示
レスジャンプ
類似スレ一覧
スレッドの検索
話題のニュース
おまかせリスト
オプション
しおりを挟む
スレッドに書込
スレッドの一覧
暇つぶし2ch