【友達≦】幼馴染み萌えスレ20章【<恋人】at EROPARO
【友達≦】幼馴染み萌えスレ20章【<恋人】 - 暇つぶし2ch900:名無しさん@ピンキー
10/10/25 18:31:36 60gs0TZn
>>912
お母さ~ん。GOOD

901:名無しさん@ピンキー
10/10/25 22:32:19 8fYs6JQ1
>>912
本当にGJです

>>915-916
違う人ってどーゆーこと?

902:名無しさん@ピンキー
10/10/25 22:35:53 8fYs6JQ1
すまん
なんでもなかった

>>912
もいちどGJ

903:名無しさん@ピンキー
10/10/26 00:05:53 u64J9Jk4
>>912
いいはなしだなぁ
末永くお幸せに…

904:名無しさん@ピンキー
10/10/26 08:16:55 87+IjQgx
>>912
ありがとうございます

905:名無しさん@ピンキー
10/10/27 17:11:27 xd2pxHvo
元々友達だったし、活動的でもあったのでジーパンとシャツが定番の彼女
ただブラつくつもりで近所だってのもあり…彼女は初デートにジャージで来た orz

俺「もう少しどうにかならん?ジャージはないだろ」
彼女「アンタとでかけるのになんでお洒落しなきゃなんないの」
俺「別にいいけどさぁ…なんか寂しい(TT)」
したら急に手を引かれ路地裏に連れ込まれ
「スカートだと履かない訳にはいかないよ」と言われ俺の手を尻に・・・

滲みの存在を忘れてた様で、それ以来ジャージは履いて来ないw




906:名無しさん@ピンキー
10/10/31 00:29:56 qL4SpWC8
俺の知り合いは幼馴染みに告白したら
幼馴染みがビックリし過ぎて体調崩して
3日学校休んだらしい
因みにその幼馴染みは幼稚園~高校まで
その3日以外は休んだ事無いとか

907:名無しさん@ピンキー
10/10/31 01:55:10 QyavKmdl
問題は幼馴染の返事次第でリアルの幼馴染の話するなよかいい幼馴染ですねかが変わることだが

908:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
10/10/31 02:10:05 4JZnHj+f
こんばんは。
>>866の続きを投下します。
『In vino veritas.』第二話です。
今回は素面です。

909:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
10/10/31 02:11:57 4JZnHj+f
 
 物事は一度目より二度目の方が難しい、という格言があったような気がする。
 ところで一度目を憶えてない場合、それはどうなるんだ?



      ◇   ◇   ◇



 買い物に出かけたのは、昼の一時を過ぎてからだった。
 華乃との話が済んだときにはもう十一時を回っていた。身支度を整えて朝食兼昼食を
摂るころには、すっかり午後になってしまっていた。
 戸締りをして、部屋を後にする。俺たちの住む部屋は一階奥の105号室で、廊下をまっ
すぐ抜けるとそのままマンションの出入口に出ることができる。
 外は快晴だった。空には雲のかけらさえなく、絶好のお出かけ日和だ。
 華乃はそんな空を仰ぎながら、ニコニコしている。
「なに笑ってんだよ」
「んー、いい天気だしね」
「晴れの日はいつもニヤニヤするのかお前は」
 気持ち悪いだろ。
「そんな不審人物になった覚えはないよ。そうじゃなくて、お出かけするの久しぶりだから」
「……そうか?」
 俺たちは並んで商店街へと歩き出す。
 華乃はなかなか規則正しい生活を送っている。講義もサボらず毎日出席し、バイトにも
精を出している。夜更かしは、してもせいぜい日付が変わるころまで。朝も七時には起き
るし、約束通り食事の用意も欠かさない。食事に関しては俺は別にそこまで律儀に守ら
なくてもいいと思っているが、料理は好きだからと、華乃がそれを怠ることはない。
 そんなわけで、華乃は活動的な毎日を過ごしている。外に出ない日はない。だから
華乃の久しぶりという言葉に違和感を覚えた。
「久しぶりだよ。涼二と一緒にお出かけするのは」
 あ。
「……そういえば最近ないな」
「そうだよ。誰かさんは本当に生活が不規則だもんね」
「すまん」
 俺の最近の生活は実に大学生らしいものだ。
 はっきり言ってしまうと、遊んでばかりだ。合コンには行かないが、友達とよく呑みに行く。
週に一回は麻雀も打つ。タバコはやらないが、酒や賭け事はそれなりに好きなのだ。
 それが原因で、華乃とは一日顔を合わせないこともある。
 華乃の作った料理を冷蔵庫から取り出すとき、いつも申し訳なく思うが、しかし俺はこの
生活を改める気はあまりなかった。
 部屋にいると、どうしても華乃を意識してしまうためだ。
 夜などは特にその思いが強くなる。華乃は俺の前だと無防備な姿をよくさらすし、幼馴
染みだからか遠慮がない。それが俺の心を大いに乱す。
 精神衛生上、大変よくない。そう思って夜遊びをするようになったのだが、しかしそんな
俺の意図も夕べの件で無駄になってしまった。
 まあ憶えてないので実感自体は薄いわけだが。気まずさだけがあるというのも理不尽な
話だ。

910:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
10/10/31 02:14:25 4JZnHj+f
「でも、これからはもう少し控えることになるんじゃない?」
「? なんで」
「だって、これから夜は忙しくなるよ」
 呼吸が鈍った。
「何驚いた顔してるの? 今から買いに行くのだって、それが目的でしょ」
 まったくその通りである。
 食料の買出しも兼ねてはいるが、一番の目的は、その、避妊具を買いに行くことだったり
する。
「い、いや、それは」
「……うーん、覚悟が足りないなあ」
 華乃は腕を組んで、わざとらしく唸った。
「もう少し度胸が必要だね。じゃないと、いざというとき女の子をリードできないぞ」
「悪かったな」
「ふふ、でもちょうどいいかもね」
 華乃は小さく笑った。
「何がだよ」
「涼二にとっても、いい練習になるってこと」
 俺は咄嗟に言葉が出ない。
「お互いこれで経験値を上げてさ、素敵な相手を見つけられればいいんじゃない?」
「そういうのは複数の相手とすることで鍛えられるんじゃないか?」
「それができるほど涼二クンは女の子の扱いに長けてるのかなー?」
「……」
 お前はどうなんだよ、と言いかけてなんとか止まる。
 こいつが他の相手と付き合うところを想像して、嫌な気分になったのだ。
 今のところ、それはないはず。大丈夫だ。
「まずはあれだ。服装から変えていく必要があるかもな」
「え?」
 俺は彼女の全身を上から下に順に眺めやった。
 無地のブラウスにジーンズ。体にフィットして活動的な華乃にはよく似合っているが、
ファッションとしては簡素にすぎる気がする。
「いつもジーンズ着てるよな」
「んー、そんなことはないと思うけど」
「スカートとか着ないのか? ワンピースとか」
 それを聞いて華乃の口元がUの字をうっすらと描いた。
「ほほーう、涼二クンはスカート姿をお望みかね」
「ちょっ、なんだその嫌な笑みはっ」
「いやいや、なるほどねー」
 華乃は腕を解くと、ブラウスの裾を軽くつまんだ。
「これくらいの軽い服装の方が、重くなくていいんだけどね。でも涼二がそう言うなら着て
みてもいいかな」
「別に俺は、」
「前にメイド服姿をご所望だった憶えがありますけど?」
「……」
 閉口するしかない。

911:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
10/10/31 02:15:35 4JZnHj+f
「男ってどうしてそんなにスカートが好きなんだろうね。今からの時期は寒いだけだよ」
 華乃はおかしそうに笑う。
「……スカートはともかく、シンプルすぎる服装はどうかと思うって話だ」
「涼二だって同じようなものじゃん」
 自分の服装を顧みる。ジーンズにジャケットを合わせた格好は、いかにも普通の組み
合わせだ。
「上着いっつも黒だし。もっと色合いを考えてさー」
「と言われてもな」
「無彩色ばっかり。たまには明るい色とかどう? 赤とか黄色とか。私の見立てでは
オレンジが似合いそう」
「そうか? なんかイメージしづらい」
 自分の容姿や服装のバランスを客観的に見るスキルは、俺には備わっていない。
だから色も無難なものを選んでいる。
「いや俺よりお前の話だよ。好きな奴にアタックしたかったら、もう少しおしゃれした方が
いいんじゃないか?」
 すると、華乃はぐっと顔を強張らせた。
 はっきり傷ついた表情を見て、俺は口をつぐむ。
 華乃はふいっ、と視線を前に戻す。
 前方に駅前の踏み切りが見えてきた。カンカンと鳴る音が響いてきて、遮断機が降り
ていく。
 俺たちは無言のまま歩く。
 踏み切りの前で止まったとき、華乃は言った。
「私は、別に告白する気はないよ」
 音に負けないようにだろう、やや張り上げた声だった。
「……なんで?」
 俺もまた大きな声で訊き返したが、それは単純に驚いたせいでもあった。
 練習って言ったじゃないか。
「いいの。私は今でも十分満足だから」
 華乃の表情は平静そのもので、ひどく落ち着いていた。先ほど見せた動揺も収まって
いる。
 その内心を推し測るのは難しかった。いくら幼馴染みといっても、心まで見透かせる
わけじゃない。むしろわからないことだらけで、俺は戸惑ってばかりだ。
 ただ、その顔は、
「私は……あなたが」
 電車の音が言葉をさえぎった。
 十両編成の車両が目の前を轟音とともに駆け抜けた。空間を突き抜けるような衝撃が
空気の震えから伝わり、思わず身を引いた。腹に響く振動は、電車の質量を実感させる
ように重い。
 特急だったのか、電車は駅には停まらず、そのままホームを通り過ぎていく。
 音が過ぎ去ると、またのどかな町の空気が戻ってきたような気持ちになった。耳に
微かに金属音が残っている。
 華乃は遮断機が上がるのを穏やかに見つめ、それからゆっくりと歩き出した。
「……華乃?」
 さっき何か言いかけたように思ったのだが、気のせいだろうか。華乃は俺の呼びかけに
「ん?」と反応したが、何も言い出さない。
「あ、いや……」
 うまく訊き返せず、俺は口ごもってしまう。
「変な涼二」
 おかしげに微笑む彼女の表情は、いつもと同じように柔らかかった。


912:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
10/10/31 02:16:57 4JZnHj+f
 
 商店街は線路を越えた反対方向にある。
 基本的に食料品・日用品などの買い物はここで済ませるが、アレが置いてあるのは
コンビニや薬局だろう。この辺りに薬局はあっただろうか。
「ゆっくり回ってみればいいんじゃない」
 華乃の適当な提案にうなずき、とりあえずぶらぶら歩き続けることにした。
 日曜日ということもあってか、スーパーへの買い物客が多く見られた。しかし商店街
全体で見ればそこまでにぎわっているわけではない。寂れているというより、のんびり
した空気が漂っている。靴屋、金物屋、米屋に八百屋、様々な店舗が建ち並んでいたが、
そちらにはあまり客は入っていない。何か作業をしながら、隣人同士で談笑していたりも
する。のどかな町並みだ。
「雑貨屋に置いてあったりするかな?」
 古本屋の隣にある店に目を向けながら、華乃はぽつりとつぶやいた。
「いや、どうなんだろう。というか、このあたりは全然わからん。スーパーにしか行かないし」
 帰り道、たまに買い物を頼まれることがあるのだ。
「入ってみようよ」
 華乃は楽しそうだ。
 そんな彼女を見ていると、不意に懐かしい思いにとらわれた。
 小さいころは二人でいろんなところに出かけた。小さな町の近所に限ったことでは
あったが、小遣い片手によくお菓子を買いに行ったものだ。
 家々の隙間や知らない道を一緒に歩くのが、妙に楽しかった。
 その思い出が穏やかな空気に交じって頭に流れ込んでくるような、そんな気分だ。
 促されて雑貨屋へと足を向ける。
 入口の前には花が並んでいた。中に入ると少し空気のこもったような埃っぽい匂いが
した。どこかで嗅いだことがあるように思えるのは気のせいだろうか。食品やお菓子
類は保存の利くものばかりで、カップラーメンやクッキーがそれなりに多く陳列していた。
奥には文具と事務用品が並び、隅の方に電池やカセットが置かれていた。
 俺たち以外に客の姿はなかった。たぶん近くのスーパーに客を取られているのだと思う。
「あ、これ懐かしい」
 声に誘われて見ると、ビスケットの入った袋が華乃の手にあった。一つ一つがアルファ
ベットの形をしたもので、昔よく食べた憶えがあった。
「食べ始めると止まらなくなるのね。だから涼二よく怒られてた。憶えてる?」
「……いろいろ言われたな。あまり食べ過ぎないようにしなさいって注意されたけど、
つい、な」
 節分の時に落花生を食べるのにも似た感覚だ、あれは。特別美味いわけでもないの
だが、中毒性があった。
「でも子どもはみんな好きだと思うよ。こういうお菓子」
「かもな」
「うん。これ買おう」
 華乃はそれだけを持ってレジに向かう。
「おい、他にはいいのか?」
「ざっと見た感じ、アレはないみたいだし、いいよ」
 とはいえ、俺は異性と付き合った経験が舞いので、アレの入った箱というものをじっくり
見たことはないのだが。ぱっと見でわかるものなのだろうか。一応見回してみたが、確かに
それっぽいものはなかった。絆創膏と湿布薬の箱が無造作に置かれてあるだけだった。
 俺はシャーペンの芯が残り少ないのを思い出して、それを買った。レジにいた店番の
中年女性は愛想のいい顔を見せていたが、あれはひょっとしたら俺たちみたいな若い
客が物珍しかったのかもしれない。
 今度からここに寄ってみるのも悪くない気がした。
 

913:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
10/10/31 02:18:57 4JZnHj+f
 
 しばらく二人で適当にぶらついた。
 目的のものはそっちのけで、いろいろなところを回った。節操なく冷やかして、何も買わ
ずに店を出る。それだけでなんとなく楽しかった。華乃の隣にいることが居心地よかった。
 思えばそれは久しぶりのことだった。最近の俺は華乃の隣にいることに気まずさばかり
感じていて、それをどこかで疎ましく思っていたのかもしれない。
 華乃は楽しそうに微笑んでいる。それは俺の知っている昔からの笑顔に限りなく近かった。
 大人になった分だけ、差異が出ているのかもしれない。俺たちは昔のように一緒になって
近所を走り回ることができない。
 それでもこうして一緒にいるのは、やっぱり仲がよかったためだろう。いくら幼馴染み
でも、普通は同棲まではいかないと思う。
 いつから俺はこの幼馴染みが好きだったのだろう。
 はっきり意識したのは同棲し始めたここ最近だが、それ以前からもなんとなく「いい」
とは思っていた。
 昔から華乃は明るいやつだった。活発というよりは快活な女の子だったと思う。はっきり
ものを言う性格だったし、俺に対しては遠慮も少なかった。その一方で細かい気遣いも
できる奴だった。
 一言で言えば、かっこよかったのだ。
 別に運動が人一倍できたり、成績が抜群に優れていたわけではない。俺よりは優秀
だったが、それもまあ並の範疇に収まっていたと思う。
 ただ、華乃はいつも堂々としていた。
 自分というものをはっきり持っていたのだろう。何かに流されたり、負けてしまったり、
そういうことがほとんどなかった。
 小学生のとき、クラスのいじめに正面から立ち向かったこともあった。俺は華乃に加勢を
したが、教師を介さずに解決させた辺り、華乃はいじめ側にも公平に動こうとしていたに
違いない。
 小林華乃は、つまりはそういうやつだった。
 自分の中に確かな芯を持っていて、それがぶれないでいる。
 どうして彼女がそうあったのかは知らない。しかしそれは同年代の中で少し違って
見えた。それが俺の目にとてもかっこよく映っていたのだ。
 俺は普通だ。自分でもそう思うし、周りもそう見ていたと思う。華乃はよく「涼二は優しい
よね」と言ってくれたが、それは褒め言葉じゃない気がする。
 だからだろう。彼女が他とは違うように見えて、それに憧れた。元はそんな幼心が理由
なのだろう。
 今でも基本的に彼女は変わらない。そんな彼女に、俺は今恋をしている。

914:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
10/10/31 02:19:47 4JZnHj+f
「薬局、ないね」
 しばらく歩き回ったが、結局アレの置いてそうな店はなかった。
「離れてるけど、線路沿いに行ったところにコンビニあるだろ。あそこに行くか?」
 いつもは徒歩ではなく自転車を使っていく場所だ。1㎞は離れているのであまり気は
進まないが、この際仕方ない。
「その必要はないでしょ」
「え、でも」
「あそこにあるんじゃないの?」
 華乃はすっ、と斜め前の建物を指差す。
 さっきから度々話題に上っていたスーパーだ。まだまだ客の出入りは途切れそうもない。
 俺はきょとんとなった。
「え、置いているのか? あそこに」
「え? 置いてないかな?」
 華乃は不思議そうに首をかしげる。
「最近はああいうところにもあるんじゃないの?」
「そうなのか? ……だったらなんで俺たちこんなに歩き回ってたんだよ」
 早く教えてくれればいいのに。
「もう、馬鹿。できるだけ入りたくないからに決まってるでしょ」
「どうして」
「……涼二、何を買うか本当にわかってるの? 恥ずかしいじゃない」
「……」
 確かに多くの客が出入りする場所で避妊具を買うのは恥ずかしい。いや、慣れれば
そうでもないのかもしれないが、できれば避けたいと思うのは至極もっともな意見で。
 別に忘れていたわけではない。ただ、まだ実感が伴わないために、そういうことに
まるで気が回らなかった。華乃と歩くのが楽しくて、そこに意識が行かなかったのも
あるが、
 ……今さらながらに、俺は隣に立つ彼女のことを意識した。
 さっきまでの思い出に浸るようなセンチメンタルな意識ではない。もっと現実的な、
鼓動が脳髄に響くような緊張を伴う意識だ。
 今朝の感触がよみがえる。裸の彼女が隣にいて、腕に、背中に感じた肌の温かさが、
「……エッチなこと考えてる?」
「えっ!? あ、ちが、」
「スケベ」
「―だ、だから違う、そんなんじゃ」
 華乃はくすりと笑った。
 それから耳元に唇を寄せると、囁くように言った。
「部屋に帰ったら、涼二の好きにしていいから」
 心臓が止まりかけた。
 慌てて華乃を見るが、すでに身を引いて視線を前に戻している。
「……」
 俺はカラカラになった喉を潤すために、何度も唾を飲み込んだ。
 

915:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
10/10/31 02:21:09 4JZnHj+f
 
 リビングのソファーに座り込み、俺はふう、と息をついた。
 華乃は買ってきた食材を冷蔵庫に仕舞っている。俺は雑貨の入った袋からおもむろに
『それ』を取り出した。
「……」
 そっけないデザインの箱。コンドームの箱はタバコのそれに似ているという話を聞いた
ことがあるが、今俺の手元にあるものは、タバコの箱よりは大きかった。白を基調とした
シンプルなデザインは、どちらかというと今日雑貨屋で見た絆創膏のものに近い。ぱっと
見ただけでは、コンドームとはわからないと思う。おかげで買いやすかった。
 夕べのことを、俺は憶えていない。
 たぶん中に出してしまったのだろう。罪悪感が拭えないのはそれも理由の一つだ。もし、
できていたら……。
 責任ならいくらでも取る。しかし華乃がそれを望むかどうかは別だ。俺はあくまでただの
幼馴染みで、彼氏ではない。そんな俺が責任がどうのと言ったところで、華乃に拒絶され
たらそれで終わりなのだ。
 だから、避妊に関しては相当気を遣う必要がある。華乃のために。
「検査とか、行かなくていいのか?」
 冷蔵庫の整理を終えて戻ってきた華乃に、俺は問いかけた。
 華乃は首をかしげる。
「夕べ俺は、お前に、その……」
 そう言うと思い至ったようで、華乃はああ、と声を上げた。
「別に大丈夫だと思うんだけどね」
「いや、大丈夫なわけないだろ」
「うーん、涼二がそう言うなら行くけど」
 何を呑気なことを言っているのだろうか。危機感がない。
「アフターピルって72時間以内に服用するんだっけ」
「さあ……いや、とにかく早めに行った方がいいだろ」
「今日はもう時間がないよ。明日明日」
「お前な……」
 俺のせいではあるのだが、それでも言うべきことはきっちり言っておかないと。そう思って
口調を強くすると、華乃はじっと俺の方を見つめてきた。
「別に責任取って、なんて言わないから。安心してよ」
「……」
 胸の内側が絞られるように苦しく、痛む。
 その言葉が俺にとってどういう意味を持つのか、こいつは知らない。
 そんなことを言われたら、俺はどうすればいい。
「華乃」
「ん?」
「シャワー浴びてくる」
「……ん、わかった。じゃあ私はごはん作るから……」
「いい」
 声が幾分低くこもる。
「え?」
「すぐ上がる。その後お前も入れ」
「……う、うん」
 華乃の戸惑った声に少しだけ安心した。まだ俺の言葉はこいつに届いている。
「明日、ちゃんと病院行こうな。一緒に」
 そう付け足すと、華乃は不安げな顔を崩して笑った。
「しつこいね、涼二は」
「ああ」
 まったくだ。
「……うん、ちゃんと行くから。ありがとう、心配してくれて」
 その言葉を聞いて、胸の痛みが治まった気がした。
 

916:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
10/10/31 02:22:43 4JZnHj+f
 
 バスルームから出てリビングでしばらく待っていると、シャワーを浴び終えた華乃が
ゆっくりと姿を現した。
 パジャマ姿だった。ピンクのそれは何度も見ているもので、しかしいつもより色っぽく
映る。風呂上がりのせいだろうか。
 華乃はそそくさと近寄ってきて、俺の隣に腰掛けた。
 彼女がいつも使っているリンスの匂いが、いつもより刺激的に感じる。
 華乃はそっと顔を伏せて、しばらく目を合わせなかった。
 ただ、ぽつりと言った。
「……部屋、行こ?」
 心臓の音がやけにうるさく響いた。
 しかし一方でどこか感覚が遠い。血液の流れが悪くなったかのように、全身が麻痺を
している、そんな気分にとらわれている。
 俺は震える手で華乃の手を取ると、そのまま立ち上がり、彼女の部屋へと入った。
 電気を点けると、白い光が部屋を明るく照らした。クリーム色の絨毯を踏み越えて、
正面のベッドにたどり着く。
 手をつないだまま、二人して腰掛ける。
 触れ合う手のひらを通して、互いの体温がほんのり伝わってくる。この緊張が相手にも
伝わっているかもしれないと思うと、どうにも気恥ずかしい。
 華乃はまた、今度は幾分深く、息を吐いた。
 ゆっくり首をめぐらして、こちらを見つめる。
 体格の分、少し見上げる形だ。自然と上目遣いになっていて、微かに赤くなった両頬が
いつもと違った印象を与える。
「……」
 特に言葉はなかった。ただ、訴えるような目が俺を突き動かした。
 上気した頬にそっと手を添えて、視線を間近で正対させる。
 華乃は俺にすべてをゆだねるように、目を閉じた。
 また、唾を飲む。
 しかし止まらない。俺はそのまま顔を近づけていく。
 顔をわずかに斜めに傾けて、小さく突き出した形のいい唇に、自分のものを重ねた。
「……」
 瞬間、華乃の体が少しだけ強張った。
 しかしすぐに体の力を抜くと、自分から唇を押し付けてきた。俺もそれに応えるように、
さらに深く求めた。
 心臓がますます音を強くする。
 柔らかかった。弾力のある唇はいつまでも塞いでいたいほど味わい深く思った。味わいと
いう言い方は過剰でもなんでもない。俺は華乃のみずみずしい唇を味わっている。
 名残惜しくも唇を離すと、華乃は息切れしたように呼吸を乱していた。キスをしていた
時間はせいぜい10秒くらいだったと思うが、興奮が息遣いを激しくさせていた。
 俺も少し息が速い。
 たまらなくなって、華乃を抱きしめた。
 それは愛しさに押された行動だった。想いが募りすぎて、気が狂いそうだ。
「……涼二?」
 予想外の行動だったのだろう。しかし俺は答えない。
 口を開けば、閉じた想いが一気に溢れてきそうで。
 華乃の体を抱きしめながら、膨れ上がった気持ちをゆっくり鎮めていく。この想いを伝え
ないように、俺は心の奥の小さな箱に、それをすべて封じ込めた。

917:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
10/10/31 02:24:41 4JZnHj+f
 ごまかすように、華乃の腰へと手を伸ばす。
「―」
 息を呑む気配。華乃の体が再び強張り始める。
 パジャマ越しに尻をなでると、今度ははっきりと震えた。その反応もまた新鮮だった。
 少し体を離して、隙間を作る。尻肉を右手で撫でながら、左手をその隙間に入れた。
「んっ」
 胸をつかんだ瞬間、華乃の口からとうとう声が洩れた。
 パジャマ越しにもはっきりわかるふっくらとした感触は、性欲をダイレクトに掻き立てる
ほどに強烈な快感を生んだ。まるで華乃への刺激が俺自身にも直結しているような、
そんな錯覚さえ起こしそうなほどに気持ちよかった。
 片手だけでは足りない。右手を腰から離し、もう一つのふくらみに触れる。
 肉に指が沈む様子は視覚的にもヤバいくらいに興奮する。鼻腔を甘くくすぐる匂いも、
口から微かに洩れ出る声も、何もかもが俺の心を煽るようだ。
 暴力的な欲が脳を支配する。まどろっこしいことはやめて、今すぐこいつと繋がりたい。
押し倒して、征服したい。そんな思いが俺の中にあったことに驚く。いや、あって当然だ。
俺だって男なんだから。こいつは本当にそのことをわかっているのか?
 体がむずむずする。指先に自然と力がこもる。
「涼二……痛い」
 華乃の声にはっとなった。
 思わず胸から手を離すと、華乃はなぜかはにかんだ。
「……なんだよ」
「ううん。やっぱり涼二は涼二だなあって、そう思っただけ」
 言っている意味がわからなかった。
 華乃は笑ったまま俺の手を取る。
「私にも興奮するんだね」
「……そりゃあ、な」
 お前だからこそだ。
「でも、我慢してくれてる」
「え」
「本当はもっといろいろやりたいんでしょう? でも涼二は、私を気遣ってくれる。それは
ちょっと嬉しいかな」
「……」
 なんだか随分都合よく解釈されているようだ。俺はうまく返答できない。
 そんなことを言われたら、意地でも理性を保つしかないじゃないか。
「華乃」
「うん」
「脱がすぞ」
「うん」
 華乃は素直にうなずくと、ベッドの上に上がった。
 俺も後に続き、華乃の真正面で膝立ちになる。華乃は邪魔にならないようという配慮か、
膝を斜めに畳んでいる。その体勢はいかにも女らしかった。
 ボタンに手をかけた。大きめのボタンは外しやすく、思ったより簡単に剥くことができる。
 前立てを開くと、下には何も着けておらず、白い素肌が露わになった。
 今朝も見たはずだが、改めて正面からしっかり見た体は、やはり惚けてしまうほどに
美しかった。
 欲を忘れそうなほど綺麗な体に見とれつつも、俺は衣服を剥ぎ取る。華乃は顔を朱に
染めてはいたが、体を隠したりはしなかった。

918:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
10/10/31 02:25:55 4JZnHj+f
「どう、かな」
 軽く上目遣いにこちらを窺う。俺は正直に答えた。
「綺麗だ」
「……似合わない台詞だね」
「練習が必要、か?」
「あまり言い慣れすぎるのもよくないかもね。たまに言うからぐっと来るんじゃない?」
 注文の多い幼馴染みだ。
「そんなに使う機会に恵まれるとは思えない」
「こら、私がいるだろ」
「たまに言うからぐっと来るんだろ」
 普段は、こんなこと言えない。
「こういうときでもないと、カッコなんかつかない」
「大丈夫。今の涼二はかっこいいと思うよ」
「……」
 じっと彼女を見ると、華乃は恥ずかしそうに目を伏せた。
「……あは、なんだか変だね。朝はあまり気にならなかったのに、今は……」
 どうしてだろう、とつぶやく。その赤らんだ顔には戸惑いの色が混じっている。
 それは今の状況に慣れていないせいだろう。ただの幼馴染みだった自分たちがこう
いう関係になるということに、まだ頭のどこかでついていけていないのだと思う。少なく
とも俺はそうだ。提案した側とはいえ、華乃だってそれをすんなり受け入れられるとは
思えない。
 それでも俺がこうして向き合っていられるのは、欲と想いがあるから。
 こいつが欲しいんだ、俺は。
「んっ……」
 二度目のキス。まだ慣れないが、それでもさっきよりは自然にできたと思う。華乃に
抵抗は見られなかった。
 口唇が唾液とともに深く繋がり合って、そのまま体に覆い被さるように押し倒した。
 さっきよりも大胆に求めた。唇を吸い、唾液を味わい、舌でなぶっていく。
 華乃は俺の肩をぎゅっと耐えるようにつかむと、キスにぎこちなく応えた。おずおずと
唇を開き、舌を受け入れ、自らのそれを絡ませていく。
 興奮のボルテージが一気に上がり、下半身が痛いほどに主張し始めた。寝巻き
代わりのジャージを内側から押し上げて、華乃の太ももに食い込むように当たっている。
キスをしながら思わずこすりつけると、一層気持ちよさがこみ上げてきた。
「ん……あ、涼二……それ」
 俺のものに気づいて、華乃が唇を離した。唾液が端から微かに糸を引いて、それが
いやらしく光る。
 華乃は俺の下半身にじっと視線を合わせている。俺は気まずくなって腰の押し付けを
止めた。
「……脱がないときつくない?」
「……」
 それはまあその通りなのだが、正面から言われると、反応に困る。
「……って、おい。何やってる」
 華乃の手が俺のジャージに伸びている。
「脱がすよ」
「いい。自分で脱ぐ」
「脱がしたいの。涼二ばかりずるいもん」
 そういう問題なのか。女も男を脱がしたいと思うのか。
 引っ掛かりを外すようにジャージのゴムが華乃の手によって引っ張られる。
 手術でもするかのように慎重な手つきでジャージがトランクスごと下ろされていき、
逸物が姿を現した。
 先ほどのキスや太ももの刺激もさることながら、幼馴染みに脱がされるという状況が
あまりに倒錯的で、もうすっかり俺のものは屹立していた。
「……綺麗な形じゃないよね、はっきり言って」
 確かに、客観的に見たらグロテスクなことこの上ない気がする。

919:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
10/10/31 02:27:01 4JZnHj+f
 と、
「っ」
 細い指が逸物をおもむろに撫でた。
「おい、華乃っ」
 慌てて制止の声を上げたが、しかし華乃の手は動きを緩めない。
 白い指先が下から上に皮ごと肉をなぞる。
 背筋がぞくりと震えた。
 華乃はただ俺のものを熱心に見つめ、上下にしごいている。
「う……」
 俺は快感に打ち震えながらも、それに負けないように動いた。
「えっ!?」
 俺の手が華乃の股間に伸びる。華乃は慌てたように俺の体を押しのけようとするが、
二人並んで横になっているこの状態では、ろくに力を入れることもできない。
 華乃の慌てふためく様子に構わず、まだ残っていた下のパジャマをショーツごと一気に
下ろした。
「ば、バカァ! 変態! なんてことするのよ!」
「いきなりズボン脱がして勝手にいじくってきた奴がそれを言うか?」
「そ、それはそうだけど……ひゃあっ!」
 剥き出しになった股間におもむろに手を入れると、華乃はびくっと身を強張らせた。
 手が太ももの内側に入る。
 すべすべした肌はしっとりと柔らかく、温かかった。
「そこはダメ……ダメ、なの……」
 どこかで聞いたことがあるような喘ぎ声だったが、俺はまたも無視して手をさらに上へと
すべらせる。
「涼二のバカ……変態」
 華乃は恥ずかしそうに顔をそむける。
「うっ」
 しかしそんな顔の態度とは裏腹に、華乃の手は俺の逸物をつかんだまま離さなかった。
 反撃をするように再び上下にしごき始める。油断していた俺は、その刺激に思わず声を
洩らした。
 顔をそむけながら華乃はつぶやく。
「そっちがそのつもりなら、私も勝手にするからね」
 細指が優しく躍る。俺の下半身で。
 指先が紡ぐ刺激は強烈で、俺は下っ腹に力を入れて懸命に耐えた。
 波が収まるのを待って反撃に転じる。
「ひゃっ」
 初めて触れたそこは、すでに潤んでいるようだった。
 どこか心許ないくらいに柔らかいそこは、熱と湿り気を帯びていて、また興奮を掻き
立てる。
 華乃の手が止まった。俺は秘部に指を這わせると、割れ目に沿って開くように撫でた。
「―っっ!」
 短い嬌声が部屋に響いた。
 こうも敏感な反応を見せられると逆に不安になる。何か間違ったことをしてしまったの
ではないかと。

920:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
10/10/31 02:28:57 4JZnHj+f
「か、華乃?」
 指の動きを緩めて、そっと声をかけた。すると華乃は、激しく息をつきながら言った。
「……おかしい」
「え?」
 ぎくりとする。
 華乃はまどろむようにぼうっ、とした目で俺を見つめる。その目はひどく扇情的に映った。
「すごくドキドキしてる……」
 膝まで下ろしたパジャマパンツが妙にエロい。
 俺はうまく答えられずに、口をつぐんだ。
 ただ、体は素直に動いた。
「あ……」
 そうしたいと思ったときには、俺はもう華乃を抱きしめていた。そのときの華乃があまりに
かわいく見えたから。
「……昔と変わらないね」
「……?」
 何のことかわからないでいると、幼馴染みはおかしげに笑った。
「小さいころ、困ったときにはこうやって私を抱きしめてたんだよ。憶えてない?」
 ……そうだっただろうか。というか、そんな恥ずかしいことをやっていたのか俺。
「こんないやらしい場面ではなかったけどね」
「……当たり前だ」
「そうだね」
 華乃は俺の胸をわずかに押しやって、隙間を作った。そうすると互いの目が適度な
距離で向き合えるようになった。
 間近で、俺たちは見つめ合った。
「でも、今はもう大人だから」
 こういうこともできるんだよ、と。
 彼女からのキスは、俺が彼女にするより何倍も優しく、嬉しかった。



 残った服をすべて脱ぎ去り、俺たちは生まれたままの姿で向き合った。
 仰向けに横たわる彼女の体をさえぎるものは何もない。白い明かりの下で、ほくろ一つ
ないその体は、ただ純粋に見とれてしまうほどに美しかった。
 芸術品に出会えたようなその感慨も、直接触れた瞬間、泡のようにはじけて消えた。
 きめの細かい肌は、指に溶けるようになめらかだ。
 奥から返ってきた弾力が、ともすれば夢心地になりそうな意識を現実に引き戻すように
妖しく誘う。
 頬をなで、髪をなで、華乃の体に俺のことを徐々に慣れさせていく。
 ぐっと顔を近づけて、胸の先端に口付けた。ぴくりと身じろぐ華乃の反応が嬉しい。
 左手で胸を揉みながら、右手を下腹部に差し込んだ。抵抗はなく、スムーズにたどり
着けた。
 潤いはまだ保たれている。これなら入るかもしれない。いや、こいつは痛くなかったと
言っていたが……。

921:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
10/10/31 02:30:23 4JZnHj+f
「……まだ……しないの?」
 華乃が控えめな口調で訊ねてきた。
「私は、大丈夫だよ」
「……具合がわからん」
「具合って」
「実質初めてなんだ。つい慎重になってしまう」
「……怖い?」
「……」
 最初はそういう思いも多少あったかもしれない。だが今は、
「他の相手だったらそう思ったかもしれない。だけど、お前なら大丈夫だ」
「遠慮しなくていいってこと?」
「いや。お前が変に気を遣ってうそをつく女じゃないってことを、俺は知ってるから」
 こいつは気遣いのできる女だが、下手なうそはつかない。つくならもっと上手に、優しい
うそをつく。相手を傷つけないうそをつく。
「私だって、けっこううそをつくよ」
「それは誰も傷つけないうそじゃないのか」
 すると、華乃は寂しげに目を細めた。
 どきりとする。以前にも、そして今朝も、同じような顔を見た。
「うん……そうだったら、いいな」
「……華乃?」
 華乃は不意に俺の首に腕を回すと、唇を重ねた。
 戸惑いながらもそれに応える。抱きしめなおして、深く繋がり合った。
 急に不安になった。俺はひょっとして、何か勘違いをしているのではないか。こいつが
こういう態度を見せるのは、何か重大な理由があって、それは俺にとっても大事なこと
なのではないか。
 俺が知らないだけで、どこかで誰かを傷つけたことがあるのかもしれない。
 しかしわからない。いくら幼馴染みでも、心の内側までは読めない。
 ただ、どんなにわからなくても、こうやって抱き合えること自体はどこまでも本物で、
確かなぬくもりが感じられた。
 唇を離すと、華乃は薄く微笑んだ。
「今の、すごく気持ちよかった」
「今のって」
「キス」
 微笑んだまま、華乃はささやく。
「私、もう我慢できないかも」
「……俺も、かな」
 がちがちに硬くなった逸物は、華乃の太ももに当たる感触もあって、すぐにでも射精
してしまいそうだ。
 俺は一旦離れると、買ってきたコンドームを手に取った。一つ取り出して自分のそれに
装着する。初めて扱うそれは意外なほど薄く、心許なく感じられたが、着け終えると具合は
悪くなかった。
 じっと待っている華乃の両脚を、ゆっくりと開いた。
 まともに正面から見るそこは、よく手入れがされていた。陰毛が綺麗に整えられている。
脚をさらに大きく開くと、毛群のやや下側に秘部がはっきりと見えた。
 さすがに恥ずかしいのか、華乃は声も出さない。
 俺も無言だ。いよいよとなると、心臓が止まりそうなほど痛くなる。

922:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
10/10/31 02:31:39 4JZnHj+f
 両脚の間に体を割り入れた。
 そのまま腰を持ち上げて、華乃のそこに、
「んんっ」
 思ったよりもずっと楽に入った。
 最初の一呼吸で半分くらいまで入り、そこからゆっくり奥に進入していく感じだった。
締め付けはあるものの、それほど苦ではない。むしろ襞々が先のくびれに引っかかる
感触が気持ちよく、気を抜けば瞬く間に放出してしまいそうだ。
 華乃はぎゅっと目をつぶっていた。
「……痛いのか?」
 心配になって訊ねると、華乃は首をゆるゆると振った。
「頭がヘンになりそう……」
「……どういう意味だよ」
「……言わせないでよ。これでも、恥ずかしいんだから……」
 声に熱がこもっている。息が少し上がっていて、肌から伝わる熱も高いように思った。
 本当に気持ちがいいのだろう。
 俺も気持ちいい。相性がいいというのは本当かもしれない。
 ろくに経験のない俺が、好きな女の子を喜ばせることができるなんて。
 偶然が働いたのだとしたら、俺は運がいい。少なくとも華乃を失望させることはない。
 奥まで到達したとき、言い知れぬ満足感が俺を包んだ。
「華乃」
「ん……涼二」
 繋がり合ったまま、またキスを交わす。
 それが気持ちを高めたのか、華乃の中がぐっと締まった。たまらず呼気を洩らす。
 腰がうずく。ゴム越しにも華乃の締め付けはなんともいえない快楽をもたらす。これで
動いたら一体どれほど気持ちよくなるのだろう。
「華乃、動くぞ」
「うん……」
 言うが早いか俺は腰を動かし始めた。
「あんっ……!」
 華乃の高い声が俺の耳を打った。
 同時にその響きが下腹部にまで伝わるような錯覚を覚えた。
 ゆっくりと体を引き、またゆっくりと腰を入れる。先端が奥に当たる瞬間が心地よい。
 亀頭だけじゃなく肉棒全体が絞られているようで、直接中で触れ合っているわけでも
ないのに、相当な快感だった。
「あっ、あ、あ、ん、んう、んん……っ」
 華乃の口から快楽の声が洩れる。
 その声に合わせるかのように、腰の動きが次第に速まっていく。
 華乃は羞恥からか、指を軽く噛んで声を抑えようとしている。しかしリズミカルに送り
込まれている衝撃に耐えられるとは思えない。案の定、華乃の口は開いていき、その
隙間から再びあえぎ声がこぼれ出した。
 目元が潤み、熱に浮かされたように惚ける華乃の顔は、今までに見たことがなく、
その姿にますます興奮した。

923:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
10/10/31 02:32:30 4JZnHj+f
 もっと深く繋がりたい。俺は無意識のうちに華乃の体を両腕で抱え、自分のものを
深々と突き入れた。
「あああっ!」
 甲高い嬌声が部屋に響いた。
 いわゆる対面座位の体勢だ。俺はさらに腰を振り、体ごとぶつけるように亀頭で奥を
叩いた。
 膣奥に突き刺すたびに肉の当たる音が鳴り、内側も合わせるように蠕動した。
「ああっ、あんっ、あっ、あっ、んん、やあっ、うん、あぁっっ!」
 華乃はもう羞恥などどこかに吹っ飛んでいるようで、俺の苛烈な攻めにひたすら声を
上げ、乱れた。
「華乃……華乃っ」
 何も考えられない。この高ぶりを満足させるために、ただただ彼女を犯した。
「だめ、りょうじ……だめ……っ」
 俺の名前を呼ぶ華乃。しかしその言葉もあまり意味を成しているようには見えない。
湧き上がる快楽の波に流されながら、とにかく俺の名前を呼んだだけのようだった。
 突いては引き、突いては引き、何度も性器をこすりつけ、睾丸にまで伝わるような
性感をひたすら味わった。
「りょ……じ、わたし、もう……っ」
 息も絶え絶えの様子で、華乃が訴えた。
「ああ、俺も限界……」
 動きを緩めることはしなかった。とにかく絶頂を迎えたくて、汗が滴るのにも構わず、
俺は全力で動いた。
「あああ、んっ! りょうじ、あっ、あっ、あぁんっ!」
 華乃も汗まみれになりながら、必死に俺の動きについてくる。みだらに腰を動かし、
乱れに乱れた。
 数瞬後、その高ぶりがようやく弾けた。
「ううっ!」
 ペニスの奥が震えた。呼吸さえ止まりそうな刺激に耐えられず、俺は膣奥で思う存分
射精した。
「うあっ……あああ、……ああ……」
 遅れて華乃が震えた声を出して、俺の体にしがみつく。
 俺は断続的に欲望の塊を吐き出し続けた。奥に残った液を最後まで搾り出したくて、
ペニスをぐい、ぐい、と二度三度奥にこすりつけた。
 ゴムの中とはいえ、華乃の膣内に入れたまま射精をするのはたまらなく気持ちよかった。
 すべてを吐き出し終えると、どっと疲れが襲った。全力で動いたために、呼吸も短距離を
駆け抜けたときのように荒かった。
 華乃は俺の胸に頭を預け、肩で息をしながら目を閉じていた。
 俺もぎゅっと彼女の体を抱きしめ、しばし余韻に浸った。
 

924:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
10/10/31 02:34:24 4JZnHj+f
 
 後処理をしてしばらくすると、華乃がぽつりとつぶやいた。
「すごかったね……」
「……ああ」
 本当にすごかった。
 俺にとって実質初めての性交は、夢のような出来事だった。
 幼馴染みを抱くということだけでも信じられないほどなのに、まさかここまで気持ちいい
ものだとは思わなかった。華乃の言ったことは大げさでもなんでもなかったのだ。
 相性がいい。いや、よすぎる。
 射精によって出た精液の量はいつもより多かった気がするし、男根の付け根辺りには
まだ少ししびれが残っていた。こんなこと、生まれて初めてだ。
 華乃はパジャマを羽織りながら、にっと笑った。
「どう? 『はじめて』の感想は」
「……どう答えりゃいいんだよ」
 いきなりの質問に頭が働かない。いや、働いたとしてもそんなこと答えられるか。
「私はよかったよ、すっごく」
 訊いてもいないのに華乃は感想を述べる。ちょっと顔が赤い。
 まったく。
「……病み付きになる奴の気が、よくわかった」
「……ハマっちゃいそう?」
 俺はそれには答えず、ベッドから降りると、ジャージをはき直してドアへと向かった。
「飲み物取ってくる。アクエリでいいか?」
「あ、うん」
 ドアを開け、外に出ようとしたとき、
「涼二」
 華乃に呼び止められた。
 振り返ると、華乃は穏やかな笑顔を浮かべながら、言った。
「ありがとう。初めてがあなたで、よかった」
 咄嗟に返事ができず、俺は小さくうなずくことしかできなかった。



 <続く>

925:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
10/10/31 02:35:50 4JZnHj+f
以上で投下終了です。
次もこれくらいのペースで投下できれば、と思います。

926:名無しさん@ピンキー
10/10/31 07:01:32 jWiQUvH9
グッジョブれす。

927:名無しさん@ピンキー
10/10/31 12:47:50 rbvK8ywc
GJすぐるぜ

928:名無しさん@ピンキー
10/10/31 13:54:39 Pa8LW5Xc
GJ!設定とか心理描写がめっちゃツボです。
あとタイトルがラテン語で「酒の中に真実あり」とは洒落てるね。

今後は隔週くらいのペースか。
続きが待ち遠し過ぎる……。

929:名無しさん@ピンキー
10/10/31 14:04:07 Rc0f/i0T
さすがです
次回も期待してます

930:名無しさん@ピンキー
10/10/31 23:49:20 IdmcA98B
GJです!
表現の上手さに感心しながらだったから集中して読めないじゃないか!!w

931:名無しさん@ピンキー
10/11/02 00:25:51 P0nYFIVp
今日ボクは見てはいけないモノをみてしまった。
幼馴染が露出狂だったのだ

932:名無しさん@ピンキー
10/11/02 09:04:47 JawyT+cl
(わたしを見て、わたしを見て、わたしを見て――っ!!)

933:名無しさん@ピンキー
10/11/02 11:04:47 NFD6v0ej
>>951
なんか柚木涼香の声で再生される・・・何故だ

934:名無しさん@ピンキー
10/11/02 12:50:16 5oVUwt43
むしろ幼なじみが責任持って存分に見てやることで
欲望を満足させてやるべき

935:名無しさん@ピンキー
10/11/02 21:24:03 +n8TXxuj
>>952
柚木さんと聞くとトッキュンしか思い浮かばん俺はそうとうにアレだな。
最初に出会ったキャラがキャラだけにな……

936:名無しさん@ピンキー
10/11/02 22:30:58 NFD6v0ej
>>954
俺は……多分、というか、間違いなく
うたわれるものらじおのせいだ

937:名無しさん@ピンキー
10/11/04 17:51:24 1QyGT4Rl
>>950該当スレにぜひお越しくださいませ☆

938:名無しさん@ピンキー
10/11/04 20:49:37 qdCWP5B3
えっ?該当スレはここだよ

939:名無しさん@ピンキー
10/11/04 21:42:06 0+N9U285
ここで露出愛好家と幼馴染愛好家の対決か!!
恨むな!全ては規制が悪いんだー

940:名無しさん@ピンキー
10/11/06 07:00:59 NlkdJsUN
最近近所で、コートを開いて全裸を晒す「痴女」が出没するらしい。
本当かよ遭遇した奴マジ羨ましー、などと悪友共とそんな話題で盛り上がったその帰り道。

「わ、わたしを見ろ!」

頭を覆う帽子にサングラス、大きなマスクを着けたコートの女が、俺の目の前でコートを広げていた。
身長は150㎝くらい。染み一つ無い白い肌に、小振りだが形の整った胸には乳首を隠す絆創膏を張り、茂みの無い秘部を前張りで隠している。
うわ噂はマジだったのか、とか見せるんなら隠してんじゃねーよ、とか半ばパニックに陥っていた俺の目に、信じられないものが飛び込んで来た。
キュッと締まったウエスト、その臍の向かって右側に見える、小さな黒子。俺の脳裏に、風呂場でそれをからかったせいで泣きじゃくる、小さな少女の姿が映る。

「…………愛美……か?」
「…………え? 嘘……慎……吾?」

木枯らしの吹く住宅街の片隅で。俺とコートから全裸を晒した幼馴染みは、まるでお見合いで初めて会った男女のようにいつまでも向かい合っていた。





こんな感じかね>露出狂幼馴染み

941:名無しさん@ピンキー
10/11/06 18:02:09 MkD1wRoI
よし、続きを頼む

942:名無しさん@ピンキー
10/11/06 18:10:27 Okmxe2+p
>>959
是非とも小説化してください

943:950
10/11/06 23:11:55 5uCFUB+3
書こうと思ったが無理だった。案だけ出してごめん。
①部活からの帰宅中、露出狂痴女に遭遇。その時は固まっている間に露出狂逃亡
②翌日、クラスにその露出狂そっくり少女が転校。それがかって引っ越した幼馴染だった。
と考えたがこれ以上思い浮かばない。
>>959様、是非ともお願いいたします。

944:名無しさん@ピンキー
10/11/07 03:06:09 UTB8NnS7
>>959
前張りとか絆創膏って訓練され過ぎだろwww

945:名無しさん@ピンキー
10/11/08 05:11:56 IM6BBk0B
見られたいのは彼だけだけどスリリングさを欲してしまい
積極的なアオカンを望む幼馴染みではダメかね?

946:名無しさん@ピンキー
10/11/08 08:04:35 HSCMOyzA
むしろお互いの葛藤をうまく描写してほしいところではある
特に男の側

947:名無しさん@ピンキー
10/11/12 08:46:15 B4BPowfT
次スレは?

948:名無しさん@ピンキー
10/11/13 15:01:47 8ExFLdHI
あまりに馴染み過ぎて部屋に二人きりでも女の子として意識して貰えないので薄着になってアピール。
それでも反応が無いので徐々にエスカレートしていって、最終的にハプニングを装って裸を見せる、

って路線でお願い。

949:名無しさん@ピンキー
10/11/13 16:31:23 TYJyGmGW
今の速度だと>>980でスレ立てかな
一個投下があったら即立てる必要があるけど

950:名無しさん@ピンキー
10/11/13 22:28:41 HHPYS1iU
前に、医者か床屋で読んだ、ヤングアニマルの「ゆびさきミルクティー」のエピソード
が良かったなぁ。
女子バスケ部長の勝気娘と、美術部のインドア系男子の幼馴染で、小学生の時に、女の
方が本物の恋心の照れ隠しに、悪戯の振りして男を押し倒してキスして、動揺した男が
「気持ち悪い」と言っちゃって泣かせたり。
ずっとギクシャクしていた関係を、主人公が掻き回して、最後に教室で「きみを取られ
たくない」って男幼馴染が泣きながら告白した後、女の子が泣き笑いを浮かべて、クラ
スメイトの衆人環視の中で、また自分からキスしたり。
最後に、美術室で絵のモデルやってもらいながら、バカップル会話やったりと、
自分の幼馴染属性を直撃するような内容だった。


951:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
10/11/14 00:49:27 zmneRkTn
こんばんは。
『In vino veritas.』第三話を投下します。
今回は酔いまくりですが、エロ無しです。

952:名無しさん@ピンキー
10/11/14 00:50:29 nZuygDPj
支援
私ももしかしたら何か小ネタを投下するかもー

953:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
10/11/14 00:51:04 zmneRkTn
 彼女が一緒に飲もうと言ってきた。
 それに少し衝撃を覚えたのは、幼馴染みと酒を結びつけることがすぐにはできなかった
せいだった。
 幼馴染みとはいえ、俺は彼女のことをまだまだ知らないでいるのかもしれない。



      ◇   ◇   ◇



 秋の寒空の下、俺は帰路に着いていた。
 時刻は午後六時を回っている。辺りはすっかり暗くなっていて、光の少ない細道を一人で
歩くのは少々心細かったりする。
 今日はバイトも友達との約束もなく、部屋にまっすぐ帰るつもりだ。
 華乃はもう先に戻っているだろうか。メールを送ったら「りょーかい」としか返ってこな
かった。いないならいないとちゃんと連絡が来るので、もう帰り着いているとは思うが。
今ごろは夕食の準備を進めているかもしれない。
 冬直前の寒風が、身を震わせた。
 こんな寒い日は、華乃の味噌汁であったまりたい。ああ、スープでもいい。シチュー
だったら最高だ。
 そういうことを考える度に、あいつと同棲しているという事を強く意識する。いや、これ
ではむしろ新婚気分だ。一方的な。俺は途端に恥ずかしくなった。道端で一人身悶える
様子はとても人に見せられるものじゃない。
 馬鹿なことをやってないで早く帰ろう。俺は家路を急ぐ。
 細道から商店街を抜けて、線路を渡る。あと五分ほどで着く。
 こんな風に急いで戻るのも久しぶりだ。
 ふと、昔を思い出した。
 幼馴染みの少女とこんな暗がりをよく一緒に歩いた。それは学校からの帰りだったり、
遠くまで遊びに行った帰りだったり、お遣いの帰りだったりした。
 そんな風に常に一緒にいたのも、せいぜい小学校までだった。中学校に上がったら、
部活や友人関係に変化が生じて、共有する時間はだいぶ減っていった。
 一ヶ月前のことを思い出す。買い物をして、一緒に歩いた帰り道。
 昔とは少し違う雰囲気ではあったが、やはりどこか懐かしかったと思う。
 あの日は正直それどころではなかったが、今思うととてもいい時間だった。
 またあんな時を過ごしたい。
 そう思っているうちにマンションに到着した。
 俺は入口を通り抜け奥まで進むと、105号室の扉を開けた。
 

954:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
10/11/14 00:52:59 zmneRkTn
 
 
「おかえり~」
 華乃の明るい声がリビングに入った俺を迎えた。
 ソファーにもたれるように深く座り込みながら、片手にはビール缶を持っている。俺は
呆れた。
「こんな寒い日にビールかよ」
「暖房入れてるじゃん」
「いや、それでも合わないだろ」
「んー、ビールだけじゃないから」
 テーブルには市販のカクテル缶がいくつも並んでいる。それを尻目に一旦部屋に戻った。
バッグと脱いだコートを置き、楽な服に着替えた。それから手洗いうがいを済ませて(しないと
華乃に注意をされる)またリビングに戻る。
 華乃の向かいに座りながらテーブルを眺めやると、酒以外にもいくつかつまみが並んで
いた。
「買ってきたのか?」
「涼二と一緒に飲もうと思って」
「……今日は飲む気はなかったんだけどな」
 そもそもこの部屋で飲むことはほとんどない。
「でも、今日は何も用事はないんでしょ?」
「そうだけど」
「じゃあいいじゃない。飲もうよ」
 ぐいっと手の中のビールを突き出す華乃。その顔には嬉しげな笑みがあり、実に楽し
そうだ。
「腹減ってるんだ。空きっ腹にアルコールはまずいだろ」
「あ、ちゃんとごはんは作ってるよ」
「じゃあ先に飯食う。そのあとなら飲んでもいい」
「うん。持ってくるね」
 華乃は立ち上がると、台所に行って準備を始めた。まだ酔ってはいないようだ。
 やがてテーブルに温かい食事が並べられた。炊き込みご飯と魚のアラが入った味噌汁。
刺身が綺麗に大皿に盛り付けられ、きゅうりの酢の物とオニオンサラダが脇を固める。
 俺から見れば十分豪勢な料理に見えるのだが、
「今日は飲みたかったから、メニューも少なめで」
 華乃から見ればそうでもないらしい。俺は素直に礼を言った。
「いつもどおりおいしそうだよ。いただきます」
「はいどうぞ」
 華乃も一応は箸を持っているが、特にお腹が空いているわけではないらしい。刺身に
だけ手をつけている。酒に合いそうだ。
 とりあえずは飲み気より食い気。俺は空腹を満たすために、箸を動かし始めた。
 

955:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
10/11/14 00:54:43 zmneRkTn
 
 
 食事を一通り済ませると、華乃がにっこり笑って俺の前にチューハイの缶を置いた。
「さあ飲もう!」
「元気だな……」
 すでに五本の缶を空けている。こいつ、結構飲めるクチだったのか。
 そして気づく。考えてみれば、華乃と飲むのは初めてだ。
「涼二がお酒飲めるのは知ってるけど、どういう風に飲むのか、どのくらい飲めるのかは
知らないからね。楽しみなんだよ」
「……」
 そのお酒のせいで、こいつは俺からひどい目に遭わされているはずなんだが。
 華乃はあまりひどいと思っていないようだが、こっちはちょっと気まずい。
 かといって断るのも難しい気がする。もう目の前に用意は整っていて、あとは飲むだけ。
 まあできるだけセーブして付き合うか。俺はフタを開け、少量口に含むように飲んだ。
 ん、
「……これ、結構いけるな」
 飲みやすい。缶チューハイは最近飲んだことがなかったが、これは口当たりがすっきり
していて、軽く飲むには最適だった。
「そう? 私は好きだけど、男の人には合わないんじゃないかと思ってた」
「俺、結構カクテルとか頼む方だぞ」
「え!? 日本酒とか焼酎飲むのかと思ってた」
「いや、飲むけどさ」
 そればかりだと楽しくないだろう。いろんな種類があるんだから、試さないと損だ。
「……あー、涼二ってあまりこだわらないタイプ?」
「特にはないな。店に飲みに行くときは、最初日本酒や焼酎飲んで、後から軽いのを
入れたり。まあ何でも飲む」
 友人と飲むときは、大抵居酒屋だ。相手の家で飲むこともあるが、そのときは缶では
なく瓶酒を買って飲むことが多い。
 あと、焼酎をロックで飲むのが好きだったりする。
「私はあまり焼酎とか飲まないなあ。なんかきついの。臭いのせいかな」
「飲みやすい焼酎もあるぞ」
「え、そうなの?」
 女性向けに作られた、口当たりのすっきりしたものがある。
「今度飲みに行こうよ」
「そのうちな。……おい、ちょっとペース速くないか?」
 六本目が空になった。華乃の手が七本目に伸びる。
「涼二がノリ悪いんだよー。男なら一気飲みでしょ」
 もう酔ってるのか?
「今日はたしなむ程度でいいんだよ。それよりこの刺身が旨い」
 鰤の刺身だ。まだ旬にはちょっと早いが、十分美味しい。いや、場所によってはもう食べ
ごろなのだろうか。味噌汁もダシが効いていて、一口飲むだけで思わず息をつきたくなる
ような、そんな深みがあった。
 華乃はにっこり笑った。
「それはねー、ハマチなんだけどね、すごく安かったの。魚屋さんに寄ったらまけてくれて」
 この間から商店街に並ぶいろんな店に立ち寄っているようで、たぶんそこの魚屋だろう。
養殖ものでも学生で鰤を買う奴はなかなかいないと思う。顔を覚えられているに違いない。
「そこの主人って男?」
「なにー? 急に」
「いや、前にもサービスしてもらったような」
 美人は得だ。加えてこいつは明るくて社交性もある。自覚があるかは知らんが。
「もしかして、嫉妬?」
「違う」
「こら、即答するな!」
「どう答えりゃいいんだよ」
 酔っ払いめ。俺は席を立つと、冷蔵庫から烏龍茶を取り出した。これでも飲んで酔いを
醒ましてほしい。
 

956:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
10/11/14 00:56:36 zmneRkTn
 幸い、華乃は素直に飲んでくれた。
「しばらくそれ飲んどけ」
「じゃあおつまみ食べる」
「それでいい」
 ここ最近俺のほうが世話焼きになっている気がする。
 華乃は袋に手を突っ込んで、ビスケットを数枚つかみ、口に放り込んだ。ばりぼりと
食べる様子はとても男らしい。俺じゃなかったら、百年の恋も冷める光景だ。
 よく見たら、そのビスケットには見覚えがあった。
「それ、このあいだ買ったやつか?」
 アルファベット型のビスケットだ。小さいころ、二人で仲良く食べていた。ここ数年見なく
なったと思っていたが、復刻したらしい。
「これ買ったの思い出してさ、それで今日飲もうかなって思ったの」
「……いや、なんでそうなる」
 お菓子を見たら飲むのか、お前は。
「シャンパンにケーキとか合うじゃない。お酒には比較的合うよ、お菓子は」
「……」
 まずシャンパンを飲んだことがないというのはさておき。
 スナック菓子なら合うように思うが、甘い菓子はどうにも抵抗がある。しかし今飲んで
いるチューハイはどちらかというとジュースに近いので、意外と合うかもしれない。
 試しに一つ食べてみた。
 口の中に甘さが広がる。まぶしたごまの風味に交じるわずかな塩気。
 ……悪くない。
 チューハイを飲む。軽くあおってからもう一枚食べてみる。
「合うでしょ?」
 華乃の笑顔がおもしろくない。だがまあ、
「まあまあだな」
「素直に合うって言えばいいのに」
「思い出補正かもしれないじゃないか」
 昔好きだった味が採点を甘くしている可能性はある。俺はアルファベット型のビスケットを
もう一枚つまんだ。
「こんな食べ方はしなかったけどな」
「まあねー。昔はお酒なんて気持ち悪い液体でしかなかったのにねー」
 そう言いながら烏龍茶を飲み干すと、華乃はテーブルの上にティッシュを広げた。袋の
中から一枚ずつビスケットを取り出して、ティッシュの上に丁寧に並べ始めた。
「なにやってるんだよ」
「アルファベットの定番をね」
 うきうきと楽しそうに華乃は袋を探る。
 こういう規則的に形の違うお菓子は、つい全種類確認してみたくなるものだ。このビス
ケットも果たしてアルファベット26文字がすべて揃っているのか。子供のころも同じことを
やった覚えがあるが、全部揃ったかどうか、記憶からは抜け落ちている。
 しばらく華乃は文字並べに熱中した。
 俺もやってみようか。そんな思いに駆られたが、しかし華乃が袋を独占しているので
やめた。邪魔はしないでおこう。俺はビスケットをあきらめて、隅に放置されたチップスを
代わりに食べた。

957:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
10/11/14 00:58:43 zmneRkTn
 数分後、華乃が歓声を上げた。
 見ると、きれいにビスケットが並んでいる。一列5枚で並んでいて、その数は……27枚。
 ん?
「『&』が入ってるとは思わなかったよー。ちゃんと全部揃ってたし、細かいね。これに
小文字まで入ってたら完璧だね!」
「見分けがつかない文字があるだろ」
「あ、そっか」
 明るい性質は変わらないものの、ちょっと頭の回転が鈍くなってるような気がする。
 しかし、これはこれでなかなか。
「楽しそうだね、涼二っ」
 それはお前だ。
 酒は場の空気を緩くしたり、騒がしくしたり、ときに混乱させたりする。今回は楽しい
雰囲気を生み出していて、俺はそれに浸るとともにほっとした。華乃が騒ぐせいか、
冷静になろうとする意識が働いている。
 前の反省もあった。もうああいう事態は起こしたくない。
「涼二、こっち向いてー」
 華乃の声に顔を上げると、目の前に『L』の文字が。
「はい、あーん」
「……」
「あーん」
「……普通によこせ」
「ダーメ。はい、あーん」
「……」
 まったく。
 しぶしぶビスケットを口で受け取る。さくっという音とともに、甘味が口の中に広がった。
 華乃はにっこり笑うともう一枚手に取る。
「はい、もう一枚」
 ため息が洩れる。
「暇なのか?」
「え? どうして?」
「お前の行動に必然性が感じられないから」
「涼二がつまらなそうにしてるから、盛り上げてやろうかと」
 二人しかいないのに盛り上げてどうする。
「二人で飲むときはこんなものじゃないか?」
「でも涼二つまらなくない?」
「いや」
 そんなことはない。
 俺はチューハイを飲み干すと、二本目を手にした。絵柄から察するにマスカット割りだ。
舌で転がすように軽く味を確認する。うん、これも悪くない。
「こういうゆったりした雰囲気は好きだから、普通に楽しんでるよ。市販の缶チューハイは
あまり飲む機会ないし、おもしろい」
「……本当に?」
「ああ。ていうかさっきお前『楽しそう』って言ったくせに、なんでそんなこと言うんだよ」
「涼二の反応が悪かったから心配になったの!」
 ノリが悪くてすまん。

958:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
10/11/14 00:59:37 zmneRkTn
「……この前のことは気にしなくていいんだからね」
 ぽつりと、華乃がつぶやいた。
「……は?」
 俺はぎくりとする。
 一瞬、心を読まれたのかと動揺した。
 華乃は烏龍茶の入ったコップを両手で抱えたまま、小さな声で続けた。
「涼二、お酒好きでしょ?」
「……それなりに」
「でも、この前のことがあってから、全然飲みに行かないじゃない。部屋でも飲まないし、
ずっと引きずってるんじゃないの?」
「いや、俺はそんなつもりは」
「遠慮ばかりしてたら楽しくないよ。私も嬉しくない。変な気の遣い方はしないでほしいな。
私だって涼二にはいっぱい迷惑かけてるし、でもそういうのを許せない間柄じゃないでしょ?
私たちは」
 そのときの華乃の顔は、いつもの聡明な幼馴染みの顔だった。酒のせいか少し赤くは
なっていたが、その口ぶりは俺のよく知る、彼女のかっこいいそれだった。
 こいつは、本当によくできたやつだと思う。
 俺のことをすべて理解しているわけじゃない。そして俺も、こいつのすべてをわかって
いるわけではない。阿吽の呼吸とよく言うが、人の思いはそんなに易くない。
 それでもこいつは俺を理解しようとしてくれる。
 15年近くそばにいながら、まだこいつは俺を知ろうと、わかろうとしてくれるんだ。
 それって、すごく嬉しいことじゃないか。
「酒のことを酒で流すって、結構無茶じゃないか?」
「私は洒落た趣向だと思うけど」
「まあ、あまり呑まれないようにとは思ってる。でもこう見えて楽しんでるぞ、ちゃんと」
「……ならよかった」
 華乃はほっと胸を撫で下ろした。
 そのまま生ビールに手を伸ばす。
「飲むのかよ」
「飲まなきゃ楽しくないじゃない」
「悪酔いするなよ」
「もう酔ってます!」
「……大丈夫そうだな」
 自分で酔ってると宣言するくらいなら大丈夫だと思う。
「まあいいか。楽しく飲めたらそれが一番だしな」
「うんっ、涼二もいっぱい飲んでね!」
 そういうわけにはいかないんだけどなあ。
 俺は苦笑しながらマスカット割りの味を楽しんだ。
 

959:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
10/11/14 01:01:56 zmneRkTn

 
 飲み始めて二時間が過ぎた。
 だいぶアルコールが体に回ってきた気がするが、まだ理性は保っている。
 全身が温まっている。柔らかい毛布に包まれているような気持ちよさが少しだけ眠気を
誘った。
 華乃はすやすやと隣で寝息を立てている。
 いつのまにか対面から移動して、並んで酒を飲んでいた。10本目を空けた辺りから
一気にペースダウンして、今は俺の左腕に抱きつくようにして眠っていた。
 セーター越しに感じる胸の感触が心地好い。
 とはいえ、このままほうっておくと風邪をひいてしまうかもしれない。俺は華乃の肩を
つかんで揺すった。
「起きろ、華乃。寝るならちゃんと部屋に戻れ」
「……んん」
 華乃は微かにうめくと、ぼんやりと目を開けた。
「あ、りょーじ」
「ほら、立てるか?」
「んー」
 華乃はしばらく俺の腕にすがりつくようにして動かなかったが、やがて少しずつ目が
覚めてきたのか、のろのろと立ち上がった。
 若干ふらついている。一人で戻れそうにないので、俺は華乃の腋の下に腕を通し、
正面から抱きかかえるようにして持ち上げた。
「ふえ?」
 さすがに驚いたのか、華乃は目を丸くした。しかし抵抗はなく、俺の首に腕を回して
くる。俺はそのまましっかり抱きかかえて部屋まで運んだ。思ったよりも軽く、いつまでも
抱いていたいとさえ思った。
 そっとベッドに座らせてやると、華乃は満面の笑みを浮かべた。
「ありがとー」
「どういたしまして。……華乃?」
 離れようとして、首に回された腕がそれを阻む。
 華乃は笑顔のまま俺の体を引き寄せた。
「うわっ……」
 急な動きに対応できず、俺は華乃もろともベッドに倒れこんだ。
 押し倒すような形になったため慌てて身を引こうとしたが、華乃に抱きしめられてうまく
いかない。
 すぐ目の前に、華乃の緩んだ顔がある。
 とても嬉しそうな様子で、俺は華乃がまだ酔っていることを悟った。
「……華乃、離してくれないか?」
「だめー」
「離してくれないと寝れないんだが、俺」
「いっしょに寝ればいいよ」
「……」
 まったく。

960:名無しさん@ピンキー
10/11/14 01:03:19 LxGy2Vov
支援いるかな?

961:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
10/11/14 01:04:24 zmneRkTn
「今すぐ寝るわけじゃない。俺はまだしばらく起きていたいんだ」
「んー……何かすることあるの?」
「いや、特にはないけど」
 まだ九時前で、寝るには早いだけだ。
 それを聞いて華乃はさらに笑みを深めた。
「じゃあさ、しよ?」
 反対に俺の表情は強張る。
 今この状況で、そんなことを言うこいつは完全に酔っ払っている。
 確かにこの一ヶ月間、俺と華乃はそういう関係を持ってきた。
 それは俺にとって、複雑な思いではあったものの、のめりこみそうなほど甘美なもの
だった。
 しかしそれは相手が正常なときに限っての話で、正直今は遠慮したい。
「やめとけ。お前、今日は飲みすぎだ。明日に響くぞ」
「明日は休みだもん」
「俺が、そういう気分じゃないんだ。明日になったらいくらでも相手になるから、今日は
とにかく休め」
「……わかった」
 案外あっさり華乃は引いた。
 ベッドの上に寝かせて布団をかけてやる。おとなしく言うことを聞いてくれるので扱い
やすいが、おとなしすぎる気がしないでもない。こいつが酔った姿なんて初めて見るから、
どう対応すればいいかもわからなかった。
「ねえ涼二」
 不意に華乃が名を呼んだ。
「あのね、お願いがあるの」
「……なんだ?」
 そのときの華乃は微かに不安げな様子だった。
 その憂えるような顔を、俺はこれまでにも何度か見ていた。何かにおびえるような、弱々
しい顔。
 普段の快活な彼女にはありえない、はかなくも見えるその姿は、前から気になっていた。
 もちろん華乃にも悩みくらいあるだろうし、常に明るくいられるわけじゃない。しかし、華乃が
俺の前でそういう姿を見せるのは、何か意味があるのではないかと思えるのだ。
 それを真正面から訊くのは、これまで少々はばかられた。でも、酒の入った今なら答えて
くれそうな気がする。
 華乃はおずおずと、遠慮がちに言った。
「あの、さっきみたいに、ぎゅってしてほしい」
「……そんなことしてないぞ」
 持ち上げて運びはしたが。
「少しの間でいいの。ダメ、かな?」
「……」
 俺は黙って華乃の上体を起こし、抱き寄せた。
 柔らかく、温かい。この感触は何度だろうと飽きはしない。
 胸が高鳴る。この想いを外に出さないよう、俺は静かに目を閉じた。
「ん……」
 華乃の吐息が首筋に当たる。
 腕は背中と頭に添えるだけだ。決して力は込めない。まるで子供をあやすように、俺は
背中を、頭を、そっと撫でてやった。
 華乃は安心したように、俺に身を預けてきた。
 俺を抱きしめる力は、酒のせいもあってかそこまで強くはなかった。ただ、どこかほっと
しているような安堵感を覚えていることは、体を通して伝わってきた。
 こういう風に華乃が甘えるのは、本当に珍しいことだ。
 そのことを嬉しく思うのは、こいつに悪いだろうか。

962:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
10/11/14 01:05:50 zmneRkTn
 目を、開ける。
「なあ、華乃」
「ん……?」
「何かに悩んでいるなら、何でも言ってくれよ。言えないことなら仕方ないけど、俺にできる
ことなら力になるからさ」
「……」
 華乃は、寂しげに微笑んだ。
 その顔に混じる微かな色が、俺の胸をざわつかせた。
 その色を消してやりたいのに、彼女の微笑みがそれを拒絶しているようで。
「優しいね、涼二は」
 その言葉に、俺はなぜか隔絶感を覚える。
「でも、大丈夫。こうして抱きしめてもらえるだけで私は安心できるから」
「……こんなことくらい」
「大丈夫だから」
 華乃はそっと顔を持ち上げると、微笑とともに唇を寄せた。
 彼女が俺に送るキスは、いつも優しく、温かい。
 俺はそれを受けると、何もできなくなってしまう。いたわるような優しさに包まれるようで、
安らぎとともにそれを受け取ることしかできない。
 ただ、そのときはなぜか、受身になりたくないと思った。
 たぶんその優しさが、どこか儚く見えたからだろう。
 俺は華乃をしっかり抱きとめると、そのキスに正面から応えた。お互いが混ざり合う
ように深い口付けは、依存し合っているようでもあった。
 舌を出し絡めると、気持ちが高ぶってくる。俺は興奮を抑えるのに必死だった。華乃の
ようにもっと優しくしたいと思うのに、それができているかわからない。そこまで気を回せ
ない。これは経験の少なさもあるだろうか。こいつだって俺と似たり寄ったりのはずなのに。
 少しは心に入り込めているだろうか。こいつの中に、俺はどのように存在しているの
だろう。
 唇を離しても、舌にはまだ余韻が残っていた。ひりひりしたしびれが、舌先から内側に
伝播していくようだ。まるで酒のように。
 自分も多少酔っているのかもしれない。
「……」
 華乃の目が俺の顔を捉える。不安定な今の心が読まれるんじゃないかと、つい目を
逸らした。
「……やっぱりいっしょに寝たいな」
「……」
 俺もできればそうしたい。
 しかしこれ以上はダメだ。このまま何もなく終わるわけがないし、こんな状態でこいつを
抱いても後悔するだけだろう。お互いに。
 少し惜しい気はするが、俺は体を離した。代わりに手を握ってやる。
「お前が眠るまでいてやるよ。そうすれば少しは不安もなくなるか?」
 華乃は眉根を寄せた。眠たげにも見えるその顔で、
「お母さんみたい」
「それはこっちの台詞だ」
「ふふ……、そう見える?」
「毎日炊事洗濯掃除とやってくれるからな」
「お母さんといけないことするの?」
「やめろ、気色悪い」
 手をつないだまま馬鹿な話を続けた。

963:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
10/11/14 01:06:55 zmneRkTn
 その手は赤く色づいていて、血潮の熱を感じさせた。同時に柔らかく、しなやかな指
先は銀細工のように繊細で綺麗だった。
 これを握れるのは俺だけだ。誰にも触らせたくない。
 このまま想いを吐露できればどれだけいいだろう。吐き出すことで人は楽になれる。
苦痛のような一瞬を迎えた後、吹っ切れたようにすがすがしくなれる。
 気を抜けば、すべてをさらけ出してしまいそうだ。しかし結局そこまで青臭くはなれな
かった。それができるのは子供の自分で、今は心を制御しなければならない時分で
ある。まああれだ。お酒を飲める歳になったのだから。
 だからこのときも、俺は何も言わなかった。
 心の中で何度も繰り返した言葉。それをまた浸るように内につぶやいた。
 俺は、お前が、



「好き……」



 思わず、固まった。
 華乃の口から発せられた、たった二文字の言葉。まったく同じことを考えていた俺は、
一瞬心を読まれてしまったのかと、本気で焦った。思わず目を見開いて、幼馴染みを
凝視してしまう。
 しかし華乃は、俺の様子には気づいてないようだった。目を閉じて、世にも穏やかな
表情で、静かな寝息を立てていた。
「……」
 しばらく動けなかった。
 まだ心臓がドキドキしている。手のひらがじわりと濡れていくのがはっきりわかった。
起こさないように慎重に華乃の白い手を外す。
 幼馴染みは目覚めない。
 今聞いた言葉は幻聴だったのだろうか。いや、そんなはずはない。まだそこまで酔っては
いない。
 誰に向かって発した言葉だったのだろう。
 決まってる。好きなものに対してだ。食べ物とかそういうオチの可能性もないことは
ないが、普通に考えるなら、好きな誰かに対してだろう。
 俺は、その相手が誰か知らない。
 華乃は教えてくれない。俺も無理には訊いていない。しかし、今初めて、その相手の
ことを心底憎く思った。
 こいつの心にその想いが根を張っている。夢の中に出るほどに。
 俺はこいつの何なのだろう。
 幼馴染み? セフレ? 単なるルームメイト?
 それとも、家族?
 最後のが一番当てはまる気がした。悪い意味で。それはつまり兄弟姉妹と同じような
もので。
 体さえつながっているのに、心がつながらない。
 俺はむなしさを抱えながら部屋を後にした。


964:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
10/11/14 01:08:51 zmneRkTn
 
 
 次の日、華乃は二日酔いで調子が悪そうだった。
「ねえ涼二……昨日私、変なこと口走ってなかった?」
 うつろな目で不安そうに尋ねてくる。俺は答えた。
「うんにゃ。どっちかっつーと、態度の方がな」
「?」
「お前は酔うと甘えだす」
「……甘えてた?」
「かなり」
「……」
 個人的には役得というか、非常に嬉しかったのだが、やはり恥ずかしいのだろう。
華乃は顔を真っ赤にしてうつむいている。
「……やっぱり、変だった?」
「いや、新鮮で面白かったぞ」
「それ全然褒めてないから」
 きっと睨まれる。二日酔いのせいでただでさえ目つきが悪いのに、さらに眉間にしわを
寄せるから、文字通り鬼の形相だ。はっきり言って怖い。
 しかし華乃はすぐに視線を外すと、はあ、とため息をついた。
「もういい。夕べの私が馬鹿だったってことで」
「いや、別に酒に酔うくらい、」
「そういう意味じゃない」
 じゃあどういう意味なのか。俺が問い掛けても、華乃は微塵も答えてくれなかった。



 <続く>

965:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
10/11/14 01:11:11 zmneRkTn
以上で投下終了です。
埋まるかなと思ったのですが、微妙に届かないようですね。
ちょっとスレ立て挑戦してみます。

>>971
>>979
支援ありがとうございました。

966:名無しさん@ピンキー
10/11/14 01:32:32 LxGy2Vov
乙でした。切ないね…。
スレ立ても乙。

次スレ
 【友達≦】幼馴染み萌えスレ21章【<恋人】
スレリンク(eroparo板)

967:名無しさん@ピンキー
10/11/14 08:45:41 7VIXRZcX
>>984
GJ!
スレ立ても乙!

968:名無しさん@ピンキー
10/11/14 10:47:42 ov0uBQQn

>>1000まで行くか、容量落ちか

969:名無しさん@ピンキー
10/11/14 15:38:54 HrbdD5Ek
立った新スレが立った!!

970:名無しさん@ピンキー
10/11/14 18:54:24 75U81thl
  フッ…  // !|lii                      // ヽ,
    |l|,.└''"´ ̄`ヽi|li          _  ニ   ,.└''"´ ̄`ヽ≡
   ,.'´  、、   ヽ  ヽ __ ̄ ̄ ̄      ,.'´  、、   ヽ  ヽ _
  ノ lヽ  j /、lヽ ト、  .'!|l    ̄ ̄ ̄     ノ lヽ  j /、lヽ ト、  三
|ilh'´ r'"イ .ノ\| .r=ァ レ'{ }   ̄ ̄  ̄  = h'´ r'"イ .ノ\| .r=ァ レ'{ ≡
{ヽ.,l  r=-       l11`○    ̄ ̄ ̄  {ヽ.,l  r=-       l11`三
o´レ1ヽ'、  ー=‐'    人ill|  `i|l __ _ o´レ1ヽ'、  ー=‐'    人ル ̄─
7' i|! ~' !|l|  il|  i|il!            =' レ~' `--─三- ─
i!| |i                       ○
                         /   ;   / ;  ;
                        // ヽ//    / ヒュンッ
                     ,.└''"´ ̄`ヽ、
                  :  ,.'´  、、   ヽ  /
                  ノ lヽ  j /、lヽ ト、  .',
                 h'´ r'"イ .ノ\| .r=ァ /レ'{ i/
                 {ヽ.,l  r=-       l11`○
                 o´レ1ヽ'、  ー=‐'    人ル 。
                7' レ// `--─‐/´
                  /;     ;  /
                   ;      ;/
           二// ヽ,
           ,.└''"´ ̄`ヽ≡
         ,.'´  、、   ヽ  ヽ _ 三
        ノ lヽ  j /、lヽ ト、  三    ─
      ≡h'´ r'"イ .ノ\| .r=ァ レ'{ 二    二
       {ヽ.,l  r=-       l11`三    ≡           ; .: ダッ
       o´レ1ヽ'、  ー=‐'    人ル ─  _           人/!  ,  ;
      =' レ~' `--─三- ─        _____从ノ  レ,  、

971:名無しさん@ピンキー
10/11/14 22:12:54 ENi5Kqae
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄○ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
           O 。
                 , ─ヽ
________    /,/\ヾ\   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|__|__|__|_   __((´∀`\ )< というお話だったのサ
|_|__|__|__ /ノへゝ/'''  )ヽ  \_________
||__|        | | \´-`) / 丿/
|_|_| 从.从从  | \__ ̄ ̄⊂|丿/
|__|| 从人人从. | /\__/::::::|||
|_|_|///ヽヾ\  /   ::::::::::::ゝ/||
────(~~ヽ::::::::::::|/        = 完 =

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                   ,.-―っ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                人./ノ_ら~ | ・・・と見せかけて!
           从  iヽ_)//  ∠    再  開 !!!!
          .(:():)ノ:://      \____
          、_):::::://(   (ひ
          )::::/∠Λ てノし)'     ,.-―-、   _
______人/ :/´Д`)::   (     _ノ _ノ^ヾ_) < へヽ\
|__|__|__( (/:∴:::(  .n,.-っ⌒    (  ノlll゚∀゚) .(゚Д゚llソ |
|_|__|_人):/:・:::∵ヽ | )r'        ー'/⌒ ̄ て_)~ ̄__ イ
||__|  (::()ノ∴:・/|::| ./:/         /   ̄/__ヽ__/
|_|_| 从.从从:/ |__|::レ:/      ___/ヽ、_/
|__|| 从人人从 ..|__L_/      .( ヽ     ::|
|_|_|///ヽヾ\ .|_|_     /⌒二L_    |
────       ー'     >ー--'

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        巛ノi
        ノ ノ                  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
     ノ')/ノ_ら      ∧_∧       | いきなり出てくんな!!
      、)/:./、      ( ´Д`)      | ビックリしたぞゴラァ!!!
     )/:./.:.(,. ノ)    `';~"`'~,.       \   ________
     \\:..Y:.(  ・ ''    :,   ,. -―- 、|/
_____ 从\、,. ,; .,、∴';. ・  ( _ノ~ヾ、ヽ
|__|_ _(_:..)ヽ:∴:@)       ノ(゚Д゚ #) )
|_|__|_人):|:・:::∵ヽノ)    (_(⌒ヽ''" `ー'
||__|  (::()ノ∴:・/|::|( \    \ \) )        _
|_|_| 从.从从:/ |__|::|ノ   \  ミ`;^ヾ,)∃        < へヽ\
|__|| 从人人从 ..| /:/ _,,,... -‐'''"~   /ー`⌒ヽ、  (( (゚Д゚llソ |
|_|_|///ヽヾ\ ./:/ _ \        /     /T;)   /~  ̄__ イ
──── ノ (,    \/__/__,ノ|__`つ  ヽ__/
             ´⌒ソノ`

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