【友達≦】幼馴染み萌えスレ20章【<恋人】at EROPARO
【友達≦】幼馴染み萌えスレ20章【<恋人】 - 暇つぶし2ch800:名無しさん@ピンキー
10/10/09 00:35:35 icIgwKtN
>>815
既に紫色の俺に死角はなかった

801:784
10/10/09 01:21:23 X97+pAGn
投下します
>>789の続きです
また途中までとなってしまって申し訳ない
つーか無駄に長すぎ・・・orz
続きはなるべく早く書けるよう善処します

802:全天星座
10/10/09 01:23:18 X97+pAGn
            ・
             ・
             ・ 
       
『どう、理恵。よく見える?』
『うん、すごく。あっ・・・あんな所にも星が・・』
『へー、やっぱり目だけじゃ全部見えないものなんだなー』
『アンタレスもすごいよ』
『アンタレスって、あの赤いやつのことだっけ?』
『うん。さそり座の、とっても真っ赤な星。雄也も見てみて』
『お、サンキュー。―おお、やっぱ双眼鏡でみると結構迫力があるな。さすが俺の星座』
『ねっ』
『すげー真っ赤だよな。はは、今日発表してたときの理恵みてー』
『・・・・』
『じょ、冗談だよ。そんなに見ないでくれ、頼むから』
『ごめん、私も冗談』
『・・・お前って、学校と家とじゃキャラ違うよな』
『えっ・・』
『学校じゃ全然しゃべらなくて暗いのに、家じゃこうだもんな』
『・・・・』
『まぁ、家というか、星を見ているときだけだけど』
『・・・・・』
『・・・あのー、理恵?』
『・・・・・・』
『・・・』
『・・・・・・・』
『いや、い、いいんだぜー、いっぱい、いっっぱい話しても。全然、何も悪いことじゃないってば』
『・・・・・・・・』
『なぁーー、理恵ってばー』

              ・
              ・
              ・


カラオケが終わり、解散したのは夜の11時過ぎであった。
静寂に満ちている夜道を俺は歩いてきた。もう我が家は目と鼻の先だ。
その時、
「雄也」
と声が聞こえた。もう何度も聞いている、俺を呼ぶあいつの声だ。

803:全天星座
10/10/09 01:24:55 X97+pAGn
「どうしたんだ、こんな遅くに・・・って、聞くまでもないか」
理恵は自宅の玄関の前に立っていた。
「それ、買ったんだな」
「うん」
理恵の傍らには、天体望遠鏡があった。
「いつ頃?」
「2年生になって、すぐかな」
なるほど。理恵がバイトを始めた理由が今になって分かった。
「何だ、教えてくれてもよかったのに」
「・・・ごめんね」
「いや、別に謝ることはねーよ。悪かった」
「雄也も別に―」
「なぁ、やっぱそれ使うとよく見れるか?」
「う、うん」
「へー、さすがだな。ちょっと触ってもいい?」
理恵は首を縦に振ってくれた。
俺は望遠鏡の前に歩み寄り、そっと撫でてみた。
すると理恵が、
「星、見てみる?」
と言ってきた。俺は―
「うーん、それは遠慮しとくよ」
「・・そう」
場を取り繕うため、何時間もぶっ通しで馬鹿騒ぎしたり歌っていたりしたから疲れていた。早くベッドに入りたかったのだ。
「そういえば、何の用だ」
「えっ」
「用があるから声かけたんじゃないのか」
「あっ、うん。その・・・ね」
「ああ」
「・・カラオケ・・・楽しかったかなって・・」
理恵にそう問われた少し狼狽した。「あまり楽しめなかった」とはさすがに言えない。
なぜなら、俺の脳裏でまだ、教室での理恵の悲しげな表情がちらついていたからだ。
一瞬だったから定かではない。
それを確かめようと思ったのだが、理恵は「何もない」といっていたし、今も憂いている様子はない。
でも、もし見間違えでなかったなら―
念には念を入れる必要がある。理由が分からないなら尚更だ。
ここで俺がマイナスの感情を顕にしたら、連鎖的に理恵も気分がふさぎこんでしまうかもしれない。
こいつのそんな顔は見たくない。ここは明るく振舞う必要がある。だから―


804:全天星座
10/10/09 01:27:20 X97+pAGn
「すげー楽しかったぜ。なにせ女子とのカラオケだもんな」
と答えた。
「藤代さんって知ってるだろ?同じクラスだし。俺その子とデュエットしてよ。
 彼女、歌がめっちゃ上手くてさ。俺なんか足引っ張りまくりで、竹之内に『引っ込めー』って言われて・・・」
俺は何とか面白いことを言って明るい雰囲気を作ろうとした。
だが、出てくる話は到底面白いものとは思えなかった。俺自身も内心ではそんなに楽しんでなかったのだから。
「最後は誰かが100点を出すまで歌い続けることになってな。
 歌いっ放しだからもう全員ヘトヘトだよ。おまけに俺は70点代ばっかで役に立てなかったし」
俺は笑っている顔を作りながら、理恵に話していた。笑っていれば、向こうもつられて笑顔になるかと思ったから。
「あまりにも皆ウマが合って楽しかったから、また集まって遊ぶことになってな。
 メアドも交換したし、やっぱいいね、野郎だけじゃなくて女の子とも遊ぶのは。仮に嫌なことがあってもすぐ忘れちまうよ」
だから今度はお前も一緒に―。そう言おうとした矢先、
「ふふっ」
という笑い声が聞こえた。俺は驚いて思わず口をつぐんでしまった。
こいつが声を出して笑うのは、本当に滅多にないことなのだ。
「よかったね。夢がかなって」
「えっ」
「高校に入る前に言ってたじゃない。
 『今度こそ女の子とも遊べるようなバラ色の青春を送るぞ』って。今の雄也の顔、凄く幸せそうだったよ」
そんなことも言ってたような気がする。今思えば何とも恥ずかしい台詞だ。
でもまぁ、俺が笑顔を降り注いでいたのが功を奏して、理恵もつられて笑顔になってくれたようだからよしとしよう。
それにしても理恵の奴、笑いの沸点が前より低くなったのだろうか。
いいことだ、と俺は思う。
そんな思いにふけっていた瞬間、
「ごめんね」
と突然謝られた。
「いっぱい遊んで疲れているのに、声かけちゃって」
「何言ってんだよ。そんなん気にするなって」
「ありがとう。・・・じゃあ、私もう家に入るね」
「ああ」
「遊んでいた疲れなんだから、寝坊しちゃダメだよ」
「当たり前だろ、寝坊なんかもう何年もしてねぇよ。
 昔とは違うんだ。お前の世話にはもうなんないから安心してくれ」
「・・・そうだよね、昔とはもう・・」
「何か言ったか?」
「ううん、おやすみ」
「あ、あぁ」
理恵は家に入っていった。天体望遠鏡を忘れたまま。
(ったく、大事なものだろうに―)
今更呼び戻すわけにはいかないと思ったので、道路側からは見えない死角に、望遠鏡を移動させておいた。


805:全天星座
10/10/09 01:29:20 X97+pAGn
            ・
            ・
            ・

『見てほしいものがあるんだけど、見てくれる?』
『わざわざ聞くなよ、そんな事。見せて』
『うん。これ・・・』
『このノートがどうかした?』
『星座の写真、まとめてみたの』
『おお、すげーじゃん』
『まだまだ少ないけど』
『どれどれ、はは、1ページごとに写真が貼り付けてあるのか』
『うん。見やすいと思って』
『俺の星座、さそり座は、っと』
『・・・・』
『・・・少し見難いな』
『使い捨てカメラで撮ったから』
『そうなんだ。でも、何となくは分かるからいいんじゃないか』
『はっきり撮るには、もっと良いカメラが必要なの』
『へー』
『それは、大きくなったら自分で買うから』
『な、何だよこっち見て。去年が特別だっただけなんだからな。双眼鏡なんて、あんな高いものプレゼントするの。
 今年の誕生日はいつものように1000円以内で買えるものだ。う、うぬぼれんなよ』
『・・・ごめんね』
『と、とにかく。これで夏休みの自由研究はできたも同然だな。今年はこれを出せよ』
『でも、これ全部の星座入ってないし、見辛いし・・』
『充分だって』
『そうかな』
『そうだって。それより、星座って全部で何個あるんだ』
『88個みたい』
『はちじゅっ・・・、気が遠くなりそうだ』
『ここからじゃ見えない星座もあるみたい』
『うへー』
『あと、日本からじゃ見えないものも・・・』
『・・・どうするんだよ、それ』
『大きくなったら、見に行くつもり』
『一人で?』
『・・・うん』
『なんだよー、それ。ずるいぞ、俺も連れて行ってくれよ』
『えっ・・・、来てくれるの』
『当たり前だろ。俺とお前の仲じゃねーか』
『・・ありがとう・・・』
『どーいたしまして』

『あっ、理恵』
『なに?』
『これ、作り直さなきゃだめだぞ』
『え・・・』
『ほらこのノート、60ページしかない。88個もあるなら全部入んないって』
『・・・・』
『へへ、お前ってたまに抜けてるところあるよな』
『・・・・』

806:全天星座
10/10/09 01:31:00 X97+pAGn
それから数日が経ち、もうすぐ夏休みに入ろうとしていた。
「あと一週間で夏休みだな」
2時間目の体育が終わり、体育着片手に教室へ戻る途中、竹之内が俺にそう言ってきた。
「あぁ、そうだな」
「お前、何か予定とかあるのか」
「いや、別に」
「寂しい青春だな」
「お互いにな」
俺達は苦笑した。
「あの子たちと遊べれば良かったんだけどな・・・」
竹之内がため息混じりにぽつりとつぶやいた。
「あの子たちって、藤代さんたち?」
「ああ。井上が言ってたよ。3人で短期のバイトするんだって」
「それなら別に遊ぶチャンスは・・・」
「泊りがけで行くんだよ。海の家に」
「なんでまた」
「イケメンサーファーと出会いたいんだとさ。・・・所詮俺達はお友達どまりだよ」
「そっか」
なぜだか分からないが、俺はあまりショックではなかった。
高校生活中に彼女を作るのは、俺の目標でもあるのに。
そのチャンスがなくなったと聞いても、別段残念だとは思わなかった。
その時、ポケットの中の携帯が震え始めた。
それを取り出し、メールであることが分かったので送り主を確認した。
―理恵である。
あいつからメールしてくるなんて滅多にないことだ。
早速内容を見てみる。そこには、

<今日、昼食を一緒に食べませんか>

という一文が書いてあった。
しかし、なぜ奴はメールだといつも敬語なのだろうか。
まぁそれは置いといて、せっかく珍しく理恵の方から誘ってくれたのだからそれに乗るとしよう。
理恵との食事なんて本当に久しぶりだ。
「悪い、竹之内。今日一緒に昼飯食えねぇわ」
「ん、そうか。じゃあ、俺は部活の連中に混ぜてもらって食うとするか」
「悪いな」
そう謝りながら、教室の扉を開けた。

807:全天星座
10/10/09 01:33:15 X97+pAGn
昼食の時間になった。理恵の返信によると、屋上で待っているそうだ。
あいつとはここ数日まともに会っていなかった。
それが急に飯を一緒に食べようなんてどうしたんだろう。
俺は少しばかり緊張しながら屋上へ赴いた。幼馴染みと食事をするだけなのだが―
扉を開けると、何人かのグループが楽しく会食している。
理恵は隅っこの方に一人で待っていた。
「よぉ」
俺はうつむいている理恵に声をかけた。
向こうは顔を上げて俺を見た。
「・・・・」
「どうしたんだ、早く座れよ」
「う、うん」
俺達はお互いに向き合って、弁当を同時に開いた。
「しかしまぁ、お前の方から飯に誘ってくれるなんて、正直びっくりしたよ」
「ごめんね、急に」
「いや、たまには悪くないだろ。お前と昼飯なんて、もう何年もなかったからな」
しばらく俺達は黙ったまま弁当を食べた。
やがて理恵が、
「望遠鏡、ありがとね」
と言ってきた。
「んぁ?」
「この前の夜に話したとき・・・」
そういえば、理恵が家に入れ忘れた天体望遠鏡を道路側からの死角に移動させたんだっけか。
「ああ、あれか」
「誰かに盗まれないようにって、隠してくれたんでしょ」
「まぁな。それより今度からは気をつけろよ」
「うん、本当にありがとう」
理恵は2回もお礼を言ってきた。
(よほど大事なものなんだろうな―)
しかし、そのお礼を直接言うためにわざわざ誘ったのだろうか。しかも数日前のことを。
そんなのメールで良かったどころか、気にしなくとも良かったのに。

808:全天星座
10/10/09 01:35:13 X97+pAGn
「それにしても、相変わらずうまそうだよな。お前んちの弁当」
「・・・・」
「おばさんって本当に料理上手だよな。うらやましいよ」
「あの・・・ね」
「うん?」
「これ、私が作ったの」
「へ?」
「お母さんに習って。それで高校に入ってからは自分で作ってるの」
「ま、まじかよ」
理恵は小さく頷いた。
「す、すげーじゃん」
そう言ったら理恵はうつむいてしまった。
そして、しばらく経って―
「食べて・・みる?」
と聞いてきた。
「お、いいのか」
「うん」
「サンキュー、じゃあこのたまご焼きを」
俺はたまご焼きをもらい、頬張った。
「おお、うめーじゃん」
「本当?」
「ああ、ここまで再現できるなんて、お前もすげーよ」
「何回も失敗したけどね。・・・ありがとう」
「そんじゃ、お返しにこれをやろう」
そう言って、俺はウィンナーを差し出した。
「好きだろ、お前。早く食べろよ」
理恵は少しためらっていたが、やがて「いただきます」と言って箸をつけた。
「なんだか懐かしいな、弁当のおかず交換なんて。ガキの頃を思い出したよ」
その言葉を発したとき、俺はあることに気付いた。
「あっ」
「どうしたの」
「そういえば、お前の誕生日・・・」
理恵の誕生日は7月の初めだった。もう2週間ほど経っている。
「過ぎちまったな」
「別にいいよ。気にしないで」
「でも、もう何年も祝ってないし」
「それはお互い様でしょ。だから気にしなくていいよ。覚えててくれただけでも嬉しいから」
「はぁ・・・」
確かに、今更祝うというのも変な感じだな。子供のとき以来、誕生日を一緒に過ごして祝い合ってないんだから。
でも、ささやかなプレゼントぐらいは―
「理恵」
「なに?」
「ウィンナー、もう1つ食べる?」
「・・・うん、ありがと」
俺の気持ちを察してくれたのか、今度はすぐに返事をして、ウィンナーを口に運んだ。

その後も俺達は他愛もない会話を続けていった。
こうして俺は、久しぶりの理恵との昼食を心底楽しんだ。

809:784
10/10/09 01:43:35 X97+pAGn
今回は以上です
次回でエロシーン&完結の予定ですが、また長くなるかも
投下がスローペースですみません

810:名無しさん@ピンキー
10/10/09 02:01:30 PFd7t5dn
>投下がスローペース
それほどでもないし、自分は全然無問題

待ってる

811:名無しさん@ピンキー
10/10/09 12:02:37 9DUlhucF
関係が進展しそうでしない、じれったい感じが素敵だ

812:名無しさん@ピンキー
10/10/09 21:31:24 or0GzqZp
gjでゅえす

813:名無しさん@ピンキー
10/10/09 21:46:20 ulyNEgz5
いやいや十分なペースそしてGJですよ!

814:名無しさん@ピンキー
10/10/09 22:43:49 VPZsy4BB
>>820-828
乙です!!
理恵ちゃん可愛い

次回は遂に……
楽しみにしてます

815:名無しさん@ピンキー
10/10/10 00:11:14 1rLUJeW+
このなんともいえない距離感がたまらない。

816:名無しさん@ピンキー
10/10/10 09:58:21 uytISV3i
幼馴染は、くっつくまでが至高だと触れ回ってもう5年になります

817:名無しさん@ピンキー
10/10/10 11:33:53 zlkDq4Yi
でもくっついたあとのイチャイチャドロドロだって美味しくいただくんだろ?

818:名無しさん@ピンキー
10/10/10 22:08:42 p+aiRm/S
くっついた後に一回くらい大喧嘩してピンチになっても良いと思うんだ

819:名無しさん@ピンキー
10/10/11 17:24:33 yASQpLmm
>>837
こども創る時期で揉めるんだよね

820:名無しさん@ピンキー
10/10/12 07:49:23 UliboI7u
猿になってて出来ちゃったから、中絶するかでもめるわけか。

821:名無しさん@ピンキー
10/10/12 10:57:51 VCjFeb2V
そんなのやだ


822:名無しさん@ピンキー
10/10/12 18:09:08 y3iLe63r
いえいえ子供の名前でです

823:名無しさん@ピンキー
10/10/13 02:28:32 PQXzN6ax
姉が今度幼馴染と結婚する。
だが自分には男の幼馴染しかいない(泣)

824:名無しさん@ピンキー
10/10/13 03:18:01 C04PxMuy
うちの姉も今月幼馴染と結婚したわ
保育園からの幼馴染で
付き合い始めて9年目で結婚

825:名無しさん@ピンキー
10/10/13 05:26:14 nco1TXBD
それなんてえrg点

826:名無しさん@ピンキー
10/10/13 08:34:31 N+j5a6Em
ん?という事は>>843にとっても幼馴染のはず…

827:名無しさん@ピンキー
10/10/13 11:13:04 IesXdZLd
サザエさんとカツオくらいの差があるんだろう

828:名無しさん@ピンキー
10/10/13 14:04:19 o9S6lGqH
>>843が男なら丸く収まる
女だったら…

829:名無しさん@ピンキー
10/10/14 03:07:37 IdhYQ2xY
だったら?

830:名無しさん@ピンキー
10/10/14 03:08:42 zESebDn4
隣の部屋のギシアン聞きながらお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんと言いつつオナニーだな

831:名無しさん@ピンキー
10/10/14 03:35:08 1s0h1Ja8
そっちかよw

832:名無しさん@ピンキー
10/10/14 19:52:35 vnRycKBH
>>849
マジキモい

833:名無しさん@ピンキー
10/10/15 00:40:13 9AaKVWAh
お前がな。

834:名無しさん@ピンキー
10/10/15 00:43:06 OshXnfK/
>>851
どうしたの?最近ずっと怖い顔してるよ
話してみてよ、あなたと私の仲じゃない
……そうだよね。もう話さなくなってしばらく経つもんね
中学生のころからかな、素直におしゃべりできなくなっちゃったのって
(省略されました・・全てを読むには俺に世話焼き幼馴染の女の子をください)


835:名無しさん@ピンキー
10/10/15 21:28:18 MtOZI1Y9
リアルの話は程々に、リアルな詳細はキモイ、とあれほど言われてたのに・・・。

836:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
10/10/16 23:48:30 lJF8ZAFc
投下します。

※注意・泥酔男が女の子を誤って押し倒してしまいます。
 そういうのが苦手な方はスルーしてください。

837:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
10/10/16 23:49:54 lJF8ZAFc
 
『In vino veritas. 』




「あんっ! あ……ん、ううっ、あっ、あぁん!」
 ベッドの上で、矯声が響く。
 正常位の体勢で相手を組み敷きながら、俺は柔肉の奥に男根を体ごと叩きつける
ように激しく動く。
 のし掛かるような形は体重もかかるため、あまり優しくはない動きだろう。される方は
たまったものじゃないと思う。
 しかし俺の下で、幼馴染みは少しも苦しげな様子を見せず、歓喜の声を上げていた。
「あっ、りょう……じ、きもち、いいよ、私……んんっ、変に、なっちゃうの……っ」
 快楽に染まりきったその喘ぎ声は、俺の興奮をいとも簡単に高めてくれる。普段の
快活な彼女を知っている分、そのギャップがたまらない。
 下半身が痺れる。彼女の中の熱に融かされそうになる。
「華乃……そろそろ、いいか?」
 こみ上げる射精感に息を詰めながら、俺は動きを速める。
「んっ、きてぇ、早くきてぇっ!」
 幼馴染みは下から押し付けるように腰を動かしながら、必死な顔で叫んだ。
「くう……」
 強烈な締め付けに俺の逸物はあっさり負けて、若さに満ちた精液を勢いよく放出した。
 薄いゴムの中に吐き出すと、魂ごと持っていかれそうな快感が脳を焼くように駆け
抜ける。
「あん、あ、あ、あ、あっ、ああああっ」
 幼馴染みも少し遅れて絶頂を迎えた。
「──っあ、はっ、……はあぁ……あ……あん、んう…………」
 だらしなく口を開けながら、幼馴染みはぞくぞく体を震わせる。
 最後の一滴までしっかり出し切ると、俺は大きく息をついた。脱力した体を幼馴染みに
預ける。
 彼女は俺の体を抱き止めながら、荒い息を吐いた。肩を上下させて、快感の余韻を
味わっていた。
「ん……涼二……」
 甘えるように彼女が唇を突き出す。
 まるで恋人のように。
「……」
 俺は複雑な思いにとらわれながらも、幼馴染みとキスを交わした。
 

838:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
10/10/16 23:51:57 lJF8ZAFc
 
      ◇   ◇   ◇



 小林華乃(こばやしかの)は幼稚園以来の付き合いになる俺の幼馴染みだ。
 幼稚園から小・中・高と同じ学校に行き、そのまま大学まで一緒になってしまった。
 つまりは腐れ縁というやつだ。
 互いの実家も同じ地区にあって程近く、家族ぐるみで親しい関係だったりする。
 俺は今、彼女と同棲している。
 大学二年に上がった頃、彼女が一緒の部屋に住もうと言い出したのだ。
 先に断っておくが、俺と華乃は付き合っているわけじゃない。
 最初はその申し出に当たり前だが驚いた。いくら幼馴染みでもさすがにそれは問題
だろうと、始めは断った。
 しかし華乃は引き下がらず、同棲することのメリットを並べ立てた。
「駅近くにいい部屋を見つけてさ、そこの家賃一ヶ月六万円なんだよね。折半なら今の
部屋より安くつくよ。あ、敷金は私が払うから心配しないで」
「もちろん食事は私が作るよ。私の料理の腕は知ってるでしょ?」
「おばさんにも了承取ってるから大丈夫。それに一人より二人の方が楽しいって!」
 『恋人同士でもない若い男女が同棲することの問題性』という俺の主張は、『私は
涼二を信頼してるから』という華乃の主観に基づいた意見によって却下された。
 言うことは全部言ったと、華乃は俺に一言、問いかけた。
「……ダメかな?」
「いや、別にそんなことは」
「ううん。もういい大人だもんね、私たち。さすがに同棲はまずいって涼二の意見も、
わかるの」
「……」
「だからさ、涼二がどうしてもダメっていうなら、無理強いはしないよ」
「……なんで俺なんだよ」
「え?」
「他に友達とかいるだろ。同性同士の方が安心できないか?」
 すると、華乃は一瞬目を細めた。俺の目にはそれが、寂しげな風に映った。
「女の子だけだと、怖いじゃない。いろいろとさ」
「……俺はボディガード代わりか?」
「そんなとこ」
 冗談めかした物言いは、どこか控えめだった。
「わかった。いいよ」
「え?」
 俺がうなずくと、華乃は目を丸くした。
「何を驚いてるんだよ。お前から言い出したことだろ」
「だって、なんか涼二、気が進まなそうな感じだったし」
「ちょっと驚いただけだよ。条件を見れば、どれもいいこと尽くめだしな」
 あえて、そういう言い方をした。
 華乃は、微笑んだ。
「三食付きで、かわいいお手伝いさんもついてくるから?」
「そのお手伝いさんは、料理の腕に定評があるからな」
「そこまで言われたら、とても手抜きなんてできないね。あ、リクエストにはできるだけ
応えるから。食べたいものがあるなら言ってね」
「じゃあリクエストついでに、お手伝いさんにはメイド服を着てもらおうかな」
「涼二ってああいうのが好きなの?」
「日本男子の七割は確実に好きだと思うぞ」
「……前向きに善処します、ご主人様」
 そんなくだらない話をして、俺たちは笑い合った。
 最後の一言にはちょっとドキリとしたけど。
 

839:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
10/10/16 23:53:05 lJF8ZAFc
 
 同棲を始めて二ヶ月ほど経ったある日の夜。
 俺はその日、友達と呑みに行って、かなり泥酔していたらしい。そのときのことを俺は
よく憶えていなかった。
 たぶん友達に送ってもらったのだろう。どうやって帰ってきたのかわからないが、俺を
迎える声が聞こえた。
「……涼二?」
 そんな呼びかけだっただろうか。気遣うような優しい声だった。
 ああ、この声。好きな声だ。
 昔からよく知っている響き。最近になってもう少し細かい調子を聞き取れるようになって、
その微妙な差異が俺を狂わす。
 二ヶ月間一緒にいた。
 ずっと幼馴染みだったのに、俺にはその生活がとても新鮮で、あいつの新しい一面を
どんどん見つけて、変に意識してしまう自分がいて、
 それをずっと考えないようにしていたんだ。
「ちょっと、涼二!?」
 くそ、甘いな。これは甘い。
 触るとあったかい。抱きしめるとやわらかい。こんなの俺は知らないぞ。
 ははは、こんなに気持ちいいものなのか。まったく、なんで我慢してたんだろう。
「りょう、じ……おねがい、はなして……んっ」
 甘い匂いがする。甘い味がする。甘い声がする。
 本当に、甘いよ。
「そこはダメ……ダメ、なの……んん……やぁっ」
 体が熱い。頭がくらくらする。なんでだろう。服は脱いだのに。
「りょう……じ。私……私は……」
 もう、何も考えないようにしよう。ただ、おぼれろ。
 …………。
 ……………………。
 

840:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
10/10/16 23:54:35 lJF8ZAFc
 
 はっ、と目が覚めた。
「……?」
 気づくと俺はベッドの上で横になっていた。
 外から光が射し込んできている。外はもう明るい。
 下半身には毛布の感触。服は……着てない。下もどうやら裸のようだ。
 俺は夕べのことを思い出そうとした。確か昨日は友人と呑んで、それから……ダメだ、
頭が痛い。
 だいぶ酔っ払ったのだろうが、パンツすらはいてないというのは少々怖かったりする。
「……えーと」
 見上げる先には白い天井。電灯を覆うアクリルカバーの見慣れなさに少し違和感を
覚える。……俺の部屋じゃない?
 二日酔いで痛む頭をなんとか働かせようとしたときに、ふと気づいた。
 左腕に何か温かい感触が、
「ん……」
 その、微かに洩れ出た声に、俺の心臓が大きく跳ねた。
 おそるおそる目をやると、隣には見知った幼馴染みの寝姿があった。
 同じ毛布をかぶっていて、そしてその身には何物もまとっていない。
 シーツに溶け込むような白い肌。腕に柔らかさとぬくもりを伝える乳房。肩口で揃えた
黒髪が少しだけ乱れていて、それが生々しさを強調させる。
 俺は、ごくりと唾を飲み込んだ。
 その音が聞こえたわけでもないのだろうが、華乃はわずかに身じろぐと、ゆっくりと
大きな目を開けた。
「……ん……あ、おはよー……」
 至極のんびりとした挨拶に、俺は咄嗟に返事ができない。
「あー、今何時かな……? のど渇いたよ。ちょっと水飲んでくるね」
 毛布からもぞもぞと抜け出そうとする華乃を見て、俺は狼狽した。四つんばいでベッドを
這う全裸の幼馴染みというのは、冷静に見るには気まずさが勝ちすぎる。
「お、俺が持ってくるからっ」
 彼女の返事も待たずに、俺は素っ裸のまま部屋を飛び出した。
 

841:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
10/10/16 23:56:50 lJF8ZAFc
 
 先に自室で服を着た。
 適当に選んだTシャツとジーンズを着て、洗面所に行って顔を洗った。水道水の冷たさに
気持ちが落ち着くと、それからようやく台所に向かう。冷蔵庫に500mlペットボトル入りの
スポーツドリンクがあったので、それを二本取り出した。
 華乃の部屋に戻ろうとして、しかし俺はドアの前で躊躇した。ひょっとして、まださっきの
ままじゃないだろうな?
 一応ノックをすると、いいよーという返事が返ってきた。ほっとしてドアを開ける。
 ベッドの上には身を起こした華乃の姿があった。
 しかし、
「なんで服着てないんだよ!」
 毛布で体を隠しているが、それだけだ。隠しているのは前だけで、肩から背中にかけては
素肌をさらしたままだった。
 華乃は億劫そうに上体を前に倒す。
「だって体だるくてさー。のども渇いたし、涼二が戻ってくるまでは別にこのままでいいかなー
って。それに毛布があるから」
「背中見えてる背中! 前屈をするな! ちゃんと隠せ!」
「もー、涼二は細かいなー」
 文句を言いながらも、華乃は再び上体を起こして、毛布を深くかぶった。
 それから華乃はペットボトルを受け取ると、一気に半分近く飲み干した。よほどのどが
渇いていたのだろう。口から離してふう、と息をついた。
「うまいか?」
「うん、ありがと」
「いや……」
 俺は迷いながらもベッドに腰をおろした。さて、何から聞くべきか。
「そんなに緊張しなくてもいいのに」
 華乃ののんきな声。
「夕べのこと、憶えてる?」
「……全然」
 華乃が顔をしかめる。
「あ、いや、なんとなく憶えてることはあるぞ」
「なに?」
「なんか、柔らかいものに包まれて、すごく気持ちよかったような……」
「……ふぅん」
 小さく、幼馴染みは笑った。
 それは嫌な感じではなく、どちらかというとくすぐったい笑みに見えた。
「……あのさ、やっぱり俺、」
「初めてだったんだよ」
 華乃の口調は随分軽かった。
 俺はしかしその言葉にぎくりとする。
「そ、それって」
「なに? 状況見れば夕べ何があったかわかるでしょ?」
「……」
「あ、違う違う。責めてるわけじゃないよ。……といっても、この状況じゃ何を言っても
責めてる風に聞こえちゃうかな。困った……どう言えばいいんだろう」
 華乃はしばし考え込むと、うんと小さくうなずいた。
「……ごめん、最初に言うことを間違えた。初めてかどうかは置いといて。そうじゃなくて、
えーと……涼二は酔っ払ってたんだから仕方ないよ。これは事故みたいなものでさ、
悪気があったわけじゃないんだし、大丈夫。涼二も若くて健康なオトコノコなんだから
こういうこともあるよ。仕方ないって。うん」
 どこかフォローに困る様子の華乃を見て、俺は頭を垂れた。
「ごめん。俺、お前にとんでもないことを……」
 俺に何ができるかって、こうして謝ることしかできない。それ以外に何ができる?
 

842:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
10/10/16 23:58:32 lJF8ZAFc
 華乃はあわてたように手を振った。
「いや、ホント平気だから! なんか申し訳ないし、謝らないでよ」
「だけど……」
「気にしないで。それに、痛くなかったしさ。それどころか……」
 と、そこまで言いかけて口をつぐむ。
 俺はそれを幸か不幸かばっちり聞いてしまって、
「……なんだ?」
「あ、いや、なんでもない! 忘れて」
 気になる。
「……それどころか、なんだよ」
「…………」
 華乃は顔を真っ赤にしてうつむいた。
 きわめて珍しい反応に、不覚にもかわいいと思ってしまう。
 だが別に困らせたかったわけじゃない。俺は発言を取り下げようとした。
「あ、無理には、」
「……もちよかったの」
 華乃の小さなつぶやき。
 俺は反射的に聞き返す。
「え?」
 華乃は顔を上げると、さっきまでのひょうひょうとした態度はどこへやら、赤面したまま
たたきつけるように答えた。
「だから、気持ちよかったんだってば!」
 涙目になって叫ぶ幼馴染みはこれまた新鮮だ。
 俺は返事に困った。
「……その、それって」
「初めてなのに、体が熱くなって、なんだか抑えられなくなって、全然嫌じゃなかったの。
聞いてたよりずっと気持ちよくって、怖いくらいだった」
「……」
「涼二は経験あるの? それであんなに上手かったの?」
「い、いや、俺は」
 思わぬ質問にうろたえる。
「……俺が誰とも付き合ったことないの知ってるだろ」
「……じゃあ涼二も」
「初めて同士、ってやつみたいだな。どうやら」
 俺はそのことを憶えていないのだが。不公平だ。
 華乃は訝しげに目を細める。
「……本当に?」
「うそついてどうする。逆ならまだしも」
 童貞だったと言っているのだから、そこは信じてくれ。哀しくなる。
「じゃあどうして……」
「相性がよかったんじゃないか? それが一番大事だって言うし」
「相性……」
 華乃はそのまま一人考え込んでしまった。
 それにしても、どうすればいいのだろう。
 俺たちの共同生活は、幼馴染みとしてお互いの信頼があったから成立していたものだ。
しかし俺はその信頼を壊してしまった。
 酒に酔って押し倒すなんて。
 今さらながら罪悪感が募る。
 もう元の関係には戻れないかもしれない。気にしないでと華乃は言ったが、いくらなんでも
この先同じ屋根の下で暮らすのは無理だろう。それだけで済めばまだいい。これまでの
ような気安い関係と距離感をこれからも保てるかというと……
 まったく、酒なんて呑むものじゃない。
 俺を信頼していると言ってくれたのに。

843:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
10/10/16 23:59:46 lJF8ZAFc
「よし、決めた」
 不意に華乃がつぶやいた。
 目を向けると華乃は、もう元の快活な表情に戻っていて、
「涼二」
「ん?」
「私を抱いて」
「……んん?」
 意味がわからなかった。
「あ、もちろん涼二が嫌ならいいんだけど」
「いや……って、は? 何? なんて言った今」
「だから、私を抱いて」
「抱くって……」
「ハグじゃないからね。エッチしてほしいって言ってる」
「―」
 聞き間違いではなかったらしい。
 だが、しかし、
「な、何のために?」
「んー、練習?」
 頭の痛みがひどくなった気がする。
「何の練習だ!?」
「男の人と付き合う練習……かな」
 華乃は神妙な顔つきで答える。
「私もさ、男の人と付き合ったことないんだよね。でもやっぱりそうなったらさ、『そういう
こと』は避けて通れないじゃない」
「……そのための練習、か」
「……うん」
 ひどい話だと思う。華乃も自分の提案のおかしさを自覚しているらしく、その顔には
あまり明るさは見られない。
「そんなの、普通は付き合いだしてからその相手とするものじゃないか?」
 練習とは言わんだろうが。
「そうかもしれないけど、私は涼二がいいの」
 不意を突かれて返事ができない。
「あ、心配しないで。別に付き合ってほしいなんて言わないから」
 手をひらひら振って、華乃は冗談めかす。
「その方がいいでしょ? 涼二の負担にはなりたくないし、押し付ける気もないの。ただ、
そういう関係もいいんじゃないかな、って思っただけだから」
「……わからねえよ」
 俺にはわからなかった。華乃がそんな関係をいいと思えることが。俺がどんな関係を
いいと思えるのかも。
「そんなの、ただのセフレじゃねえか」
「む、その言い方は気に入らない。訂正しなさい」
「だって本当のこと」
「デリカシーがない」
 華乃はぴっ、と俺に向かって指を差す。
「そうじゃなくてさ、私のわがままに付き合ってくれるパートナーとして見れるじゃない。
それってすごいことだよ。本当に信頼してなきゃできないことだから」
「……俺はお前の信頼を裏切ったんだぞ」
 言葉にすると心底自分が情けなく思えてくる。
 しかし、華乃は首を振った。
「ううん。涼二は私の信頼を裏切ってなんかいない。私のあなたに対する信頼は少しも
揺るがない」
「―」
 その、まっすぐな瞳に気圧されそうになった。
 彼女はなんの疑いもないかのような綺麗な目を、こちらに向けてくる。

844:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
10/10/17 00:01:42 lJF8ZAFc
 俺はたまらず目を逸らした。
「……夕べのことは憶えてないんだ」
「うん、それはさっき聞いた」
「だから夕べのことは、たまたまだっただけかもしれないんだ。お前はよかったと言うが、
それが本当だとしても、素面のときにお前とうまくやれるか自信がない」
 何を言っている。強まる困惑と二日酔いの痛みに顔をしかめながら、情けない言い訳を
口にしてしまう。
 華乃は口元を緩めた。
「じゃあ、もう一度試してみる?」
「!」
「憶えてないなら、今からでも試してみればいいよ」
「……」
 何が華乃をそこまでさせるのだろう。
 俺は唇を噛んだ。
「なんでそこまでしたがるんだよ。練習っていっても、こだわる理由なんかないだろ」
「それは……」
「好きなやつでもいるのか?」
「……」
 華乃の目が細まる。
 前にも、その寂しげな表情を見た気がした。
「……いるよ」
 しかし華乃のその答えの方が、俺を強く驚かせた。
「告白は?」
「してない」
「……。……なおさら俺が抱くわけにはいかないだろ。自分を大事にしろよ」
 失言だった。
「もう一度しちゃったもの。今さらじゃない」
「っ」
 そう言われたら返す言葉がない。こいつの初めてを奪ったのは俺なのだから。
 華乃はぶんぶん首を振った。
「違う。別に暗い話をしたいわけじゃないの。私はこれからも涼二と仲良くしていきたいと
思ってるだけ。でも涼二はどうせ言っても夕べのことを気にしてしまうでしょ。それが私は
嫌なの。出て行くなんて言わないでね。負い目を感じる必要なんか少しもないし、私は
こんなことであなたとケンカなんかしたくないんだから」
「……ひょっとして、俺が罪悪感を持つのを思って、そんなことを言ったのか?」
 そういう関係になってしまえば、そのうちそれが普通になって、夕べの出来事もまぎれて
しまうから。
「涼二は優しすぎるの。ぶっちゃけて言うなら、うじうじして男らしくないの」
「うるさいな」
「考えすぎってこと。私は今の生活気に入ってるし、今のままでいたいって思うの。でも
涼二が気にする以上、どうしてもぎこちなくなりそうだから。だったらちょっとだけ変化を
つけてみるのもありかと思って」
 それが解決策になるのかどうかは疑問だが、華乃の言い分はわかった。
 なら俺はそれにどう答える?

845:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
10/10/17 00:04:56 WkMnjd0i
「ひょっとして、私じゃ不満?」
「は?」
 煮え切らない俺を見て、華乃はそっと毛布を下に落とした。
 あらわになった、幼馴染みの裸体。
「おい……」
 俺は目を逸らそうとして、しかしその形のいい胸から視線を外せなかった。
 のどが鳴る。
 張りのある豊かな膨らみを両手で触りながら、華乃はうんうんうなずいて、
「胸はそこそこあると思うよ。おなかは……最近ちょっと太ったかも。脚はどうかな。
涼二は太いのと細いのどちらがいい?」
 まるで世間話のように軽い口調で訊ねてくる。白い素肌を隠すこともせず、華乃は
微笑んだ。
「……それとも、顔が好みじゃない? 涼二の好きな有名人って誰だっけ。誰が好き?」
「そういうのはやめろ」
「私じゃダメ?」
 自嘲するように嘆息し、肩をすくめる。
「仕方ないか。こればっかりは好みの問題で、」
「別にお前がダメなわけじゃない」
 一応、正直に答えた。
「お前は美人だし、スタイルもいい。俺にはもったいないくらいいい女だと思う」
「……ホメ殺し?」
 首を振って答える。
「急にそんなこと言われると照れるぜい」
「説得力がないぞ全裸女」
「……でもよかった。それならするのに何の問題もないよね」
 無視された。いやそうじゃなくて、
「やるとは言ってないぞ!」
「やらないとも言ってないじゃない」
 ああ言ってないな。悪かった。
「やらない。これでいいだろ」
「意地っ張り!」
 華乃は頬を膨らませて俺をにらみつけると、ふんっと鼻を鳴らし、ベッドに倒れこんだ。
目も合わせたくないとばかりに、うつ伏せになって顔をシーツに押し付ける。
 胸と同様、肉付きのいいお尻が丸見えになる。隠せ。ことわざか。
「どうしてもそういう目で見ることに抵抗を感じるんだよ」
 毛布を華乃の体にかけ直してやる。
「そりゃあ俺だって男だ。求められて嬉しくないわけがない。でも、だからっていきなり
迫られても、すぐには答えられない。自信もないし」
「……」
「だからさ、少し時間くれ。時間かければちゃんと答えられると思うから」
「ダメ」
 短い却下の声。
「時間おいたら絶対涼二断るもん。時間稼ぎしようって魂胆みえみえ」
「……俺に拒否権はないのかよ」
「ううん、もういいよ」
 華乃は突っ伏したままあきらめたように言った。
「私にはどうして涼二がそこまで拒むかがわからないけど、そこは自由意志だから。
さっきも言ったけど、本当に嫌だったらそれは仕方ないことだし」
「別に嫌ってわけじゃ」
「そういう中途半端がダメなんだよ。即断即決。じゃないとチャンス逃しちゃうよ」
 まったく。こいつはつくづく正しい。
 さっきみたいな売り言葉に買い言葉では、きちんと断ったことにはならないだろう。
 改めて答える必要がある。そして、こいつはそれを聞いたら、もう食い下がったりは
しない。こいつはそういう女だ。

846:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
10/10/17 00:06:27 lJF8ZAFc
 俺はどうしたいのか。
 常識とか倫理観とか、そんな当たり前を捨て切って、俺がしたいことはなんなのか。
 ……まったく。
「……ちょっと買い物行ってきていいか?」
「何買ってくるの」
「コンドーム」
 ベッドに背を向けて答えると、後ろで毛布のずり落ちる音がした。
「……受けてくれるの?」
「お前の熱意に負けた」
 ぶっきらぼうに答えると、背中にどんっ、と何かがぶつかってきた。
「りょーじ、それ本当っ?」
 不意打ちすぎた。急に抱き付かれて、俺はひどく慌てた。柔らかい感触が服越しに
伝わってきて。
「おま、急に抱きつくな!」
「だってだって断られると思ってたから! でもよかった。ありがとう!」
「いいから早く服を着ろよ!」
 いつまでその格好でいるつもりだ。
「うん、わかった! あ、買い物に行くんだよね。私も行く」
 ぱっと離れる。そのまま服を準備し始めるのを尻目に俺は部屋を出ようとして、
「あ、一つだけ教えて」
 ドアを開けたところで呼び止められた。
「どうしてOKしてくれたの? さっきまであんなに断りそうな様子だったのに」
「……」
 少し迷った。
「……変なやつに引っかかってほしくないからな」
「……へ?」
 目を丸くした華乃に向けて、俺はほんの少しだけ想いを吐露する。
「ボディガード代わりとして、変なやつを近づけたくないと、そう思った。なら、俺が虫除けと
して恋人役を演じるのも一つの手だ」
「……恋人役?」
「恋人にはなれないが、お前を守る本物が現れるまで、代わりを務めさせてもらう。これでも
結構心配してるんだぞ」
「……」
「好きなやつがいるんだろ? そいつがいつかお前の騎士になるかもしれないじゃないか」
「私は……」
 背中越しに聞こえた華乃のつぶやきはよくわからなかった。
 しばしの間の後、華乃は明るい声で言った。
「じゃあ涼二はしばらく私の騎士になってくれるの?」
「迷惑か?」
「まさか。言ったでしょ。あなたへの信頼は揺るがないって。今の私には最高のナイトだよ」
 はずむような華乃の声は俺の耳に心地よい。
 大仰なことだ。だが悪い気はしなかった。
「それじゃあシャワー浴びてご飯食べて、それから買い物に行こう!」
 買うものがアレなのは、まあ置いておこう。俺は苦笑とともに部屋を後にした。
 

847:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
10/10/17 00:09:01 WkMnjd0i
 
      ◇   ◇   ◇



 理由としては、彼女への説明だけでは少し足りない。

 俺はそのころ、かなり本気で華乃のことを好きになっていた。
 昔からなんとなく抱いていた想いは、二ヶ月で胸にはちきれんばかりになっていたのだ。
 明るい性格、歯に衣着せない物言い、一方で相手を気遣う優しさを持ち合わせ、容姿
だってかわいい。
 そんな彼女の近くにいて、惹かれない方がおかしい。
 しかし、彼女は言った。


『好きなやつでもいるのか?』
『……いるよ』


 まったく。
 これで俺から告白するわけにはいかなくなった。
 だから彼女の提案を受けたのだ。
 体だけでも繋がっていれば、彼女を振り向かせることができるかもしれないから。
 自分でも情けないと思う。
 卑怯だと思う。
 何が騎士だ。俺はそんな上等なものじゃない。
 きっとそういう役割が務まる奴は他にいるのだろう。華乃の好きな奴とか。
 それでも俺は、務まらない役割から降りる気はなかった。
 だって―俺は、小林華乃が大好きなんだから。



 <続く>


848:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
10/10/17 00:11:35 WkMnjd0i
以上で投下終了です。
何話か続けます。そんなに長くならないようにしたいです。

849:名無しさん@ピンキー
10/10/17 00:16:37 ZY4PvEkW
GJ!

…絶対待ってたよなぁ、この娘

850:名無しさん@ピンキー
10/10/17 00:18:36 09OOmeQz
やばいGJすぎるぜぃ
さすがかおるさとーさんだ
あなたの書く文章が好きです
これからもどのスレでも頑張ってください

続きwktk!!!!

851:名無しさん@ピンキー
10/10/17 00:26:04 UyCJBOUR
王道だ

852:名無しさん@ピンキー
10/10/17 01:23:16 SjhY6zDU
GJ
華乃視点を見てみたくもあるけど、そっち側は脳内補完で自由にニヤニヤするのでもいいか
続き期待してます

853:名無しさん@ピンキー
10/10/17 06:44:51 DHuHjnJc
うひょーGJだぜー!やっぱりうまいねえかおるさとーさんは。

854:784
10/10/18 02:12:14 zCrBBEnZ
>>827の続きですが、投下します
しかし、予定を守れずまたまた途中までとなってしまって申し訳ない
次こそ本当に必ずエロを書きます

855:全天星座
10/10/18 02:13:42 zCrBBEnZ
食事が済み、もうすぐ昼休みも終わろうとしていた。
今は屋上に誰もいない。俺達も出口へと向かっていた。
「雄也」
俺の名前を呼んで、前を歩いていた理恵が扉の前で立ち止まり、振り返った。
「その・・・もしよかったら・・」
何か言いよどんでいる。
「今日、一緒に帰らない?」
本当に、珍しいことは続くもんだ。まさか理恵が帰りの約束まで取り付けてくるなんて。
こんなことは恐らく初めてだろう。
子供の頃は、いつも俺のほうから「帰ろーぜ」と言っていたのだから。
「ああ、いいよ」
そう言った瞬間、理恵は瞠目した。
「・・・じゃあ、校門で待ってるね」
「分かった」
俺が返事をした途端、理恵は間髪いれず時計を見た。
「もう時間だから、行くね」
理恵は少し赤ら顔で微笑み、その後俺に背を向け、小走りに階段を下りていった。
こうして俺は屋上に一人取り残された。
あんなに急ぐなんて、もしかしたら次の授業は移動教室なのかもしれない。それに―
(あいつ、顔赤かったけど、夏の日差しにやられたのかな。大丈夫だろうか)
などと物思いに耽っていた俺を、チャイムが現実へと引き戻してくれた。

「待たせたな」
俺は校門の前に行き、先に待っていた理恵に声をかけた。
「ううん、私も今来たところ」
「そっか、じゃ帰ろうぜ」
「うん」
俺達は歩き出した。
高校から自宅まではそんなに時間がかからないので、徒歩で通っている。

「しっかしまぁ、今更言うのも何だけど、高校までお前と一緒の学校になるとはな」
「受験勉強、大変だったよね」
「入試の一ヶ月前くらいだっけか。『数学教えてくれ』って俺がお前に泣きついたのは」
「うん。久しぶりに家に来てくれた時の第一声がそれで、少し驚いたけど。
 そのあと、私達が同じ高校受けるって分かったんだよね」
中学のときは、本当に理恵との交流は少なかった。
同じクラスだったことはなかったし、一緒に登下校することもなかった。
せいぜい、廊下とかで会った時に会話する程度だった。
「でも俺、嬉しかったな」
「えっ」
「理恵が同じ学校に行くんだと分かって」
「・・・・」
「知り合いが一人でもいてくれたら、心強いからな。期待もあれば不安もある新生活だし」
俺がそう言ったら、それまで俺と顔を合わせて話していた理恵は、急に目をそらした。だが―
「・・・私も、嬉しかったよ。雄也と一緒の高校に行けて」
と言ってくれた。
やはり、人見知りの激しい理恵も同じ気持ちだったのだろう。
「受かることができたのも、お前の指導のおかげだよな。改めて礼を言わせてもらうよ」
「が、頑張ったのは雄也で、私の教え方なんてそんなに―」
「あーー、もう。こういう時は『どーいたしまして』でいいんだよ」
「ど、どういたしまして・・・」
俺が少し大声を出したら、理恵は驚いて俺の方を向き、小さくそう言った。


856:全天星座
10/10/18 02:15:20 zCrBBEnZ
そんな風に談笑しながら歩いていると、やがて十字路に出た。
ここを右折すれば、後は10分程まっすぐ歩くだけで俺達の家に着く。
そしてその道は、幼い頃の俺達が何度も一緒に歩いた道だった。
ガキの歩幅では長く感じた道も、今となっては短いものだ。
普段は何とも思わず通っているが、今日は理恵が一緒なので懐かしく思えてしまう。
ちなみに、今来た十字路を右折せず、そのまままっすぐ行けば俺達が通っていた小学校が見えてくる。
「懐かしいね」
理恵もそう思ったのだろう。
「ああ、そうだな」
俺達は昔を思い起こして、少し感慨にふけっていた。
言葉を交わさず歩いていたが、しばらくして理恵が沈黙を破った。
「ねぇ、雄也」
「ん?」
「昔、言ってくれたこと・・・覚えてる?」
「どんなこと言ったっけ」
「ここから見えない星座を見に行くときは、一緒に連れて行ってくれって」
そういえば、そんなことを言ったような気がしないでもない。かすかな記憶しかないが。
「ああ。それで?」
「その・・・」
理恵は押し黙った。だが、俺は何が言いたいのか察しがついてしまった。
「まさか・・・夏休みに、星座を見に旅行しようなんて言うんじゃないだろうな」
俺を見る理恵の顔は、まさに図星を指された表情だった。
「な、何言っているんだよ。年頃の男女が一緒に旅行なんて」
今日のこいつはどこかおかしい。急に昼飯や下校に誘ったり、挙句の果てには―
「お父さんもお母さんも、雄也となら良いって」
確かに俺はこいつの両親とは気心知れた仲だが。
だからって、大事な一人娘を男と旅行に行かせてもいいだなんて、あの人たちは何考えているんだ。
俺がそう思いをめぐらせ、逡巡していると、
「やっぱり、ダメだよね」
理恵がそう言ってきた。
「ごめんね。変なこと言って」
この言葉を最後に、理恵は口を閉ざした。

857:全天星座
10/10/18 02:16:18 zCrBBEnZ
俺達はまた黙って歩いていたが、その気まずさに耐えかね、今度は俺の方から口を開いた。
「俺とはダメだったけど、誰と行くつもりなんだ」
理恵は答えなかった。
「もしかして、諦めたのか」
小さく首を横に振った。
「じゃあ誰と―」
「一人で行くよ」
とんでもないことを言い出した。
「ば、馬鹿。一人でなんて危ないだろ。まして夜に出歩くんだから」
「大丈夫だよ」
俺は大丈夫ではない。女の子一人で見知らぬ土地を夜に出歩くなんて、どんな所でも危険だと思えるから。
それに、―偉そうに言うのもなんだが―理恵は容姿も悪くない。いや、むしろ俺は可愛い方だと―
本当に、ここ数年でますます女の子っぽくなったと思う。
だからもし、悪い奴らに何かされてしまったらと考えると、不安でたまらない。
なぜなら、俺はこいつの友人だからだ。友達を危険な目には合わせたくないに決まっている。
「やめろって」
「・・・でも、もう決めたから」
相変わらず、星のこととなると理恵は積極的かつ行動的になる。
こいつの星への情熱は、子供の頃からちっとも変わっていない。
「他にいないのか。一緒に行ってくれそうな人」
「うん。友達はみんな色々予定があるみたいだから」
「家族旅行で行けばいいじゃないか」
「二人とも働いているから、なかなか都合が合わないよ」
俺は考えあぐねてしまった。このままでは、本当に一人で行ってしまうだろう。

・・・俺の足りない頭に残された手段はもう、これしか残っていなかった。
だから、思い切って理恵に伝えた。

「分かった。俺も行く」
「えっ」
「俺もついていく」
「・・・本当?」
「ああ」
その途端、理恵は嬉しそうな顔をし、礼を言ってきた。
(全く、仮にも男と一緒の旅行なんだから、少しは警戒しろよな)
そう言いたかったが、手を出すとしたら本能に忠実な男という生き物、すなわち俺の方からなので、それは飲み込んだ。
代わりに俺は、自分自身を心の中で戒めた。

「で、どこに行くんだ」
理恵は俺の顔をまっすぐ見て、場所を告げた。
「宮古島、かな」

858:全天星座
10/10/18 02:17:39 zCrBBEnZ
          ・
           ・
           ・

『お母さん』
『なぁに、理恵』
『もう、来てくれないのかな』
『え?』
『もう、私と星みるの、嫌になったのかな』
『雄也くんのこと?』
『・・・・』
『大丈夫。そんなことないから』
『どうして分かるの』
『この時期の男の子はね。女の子と遊ぶのが何となく気恥ずかしくなる頃なの』
『・・・・』
『だから、今はあまり来てくれなくても、きっとまた来てくれるから』
『本当?』
『ええ、本当よ』
『じゃあ、待ってるね』

『理恵』
『なに?』
『もうクラス替えないけど、再来年、中学になったら、また雄也くんと同じクラスになれるといいわね』
『うん』
『あらあら、素直な子ね』

           ・
           ・
           ・


夏休みが始まり、今はもう8月の半ばである。
「それじゃ、行ってきます」
出発の挨拶をし、俺はキャリーバッグを引きずりながら理恵の家へと向かった。
玄関の前には、あいつとその両親が立っていた。
「おはよう、雄也くん」
俺が来たことに気付いたおばさんが挨拶をしてきた。仕事着に着替えているから、今日もパートに出かけるのだろう。
「おはようございます」
買い物帰りの彼女に、俺は道でよく会う。その度に、少し会話をしたりする。
「おはよう。すっかり大きくなって」
今度はおじさんが声をかけてきた。彼とは随分久しぶりに会う。
スーツ姿だから、こちらもこれから仕事に出かけるのだろう。
「ご無沙汰しています」
「すまないね。理恵のわがままに付き合わせてしまって」
「あ、いえ」
本当に、何の心配もしていないんだな。まぁ、信頼されているのは嬉しいが。
すると、理恵が一歩前に出てきた。
「おはよう」
「ああ、おはよう」
俺がそう言い終わった瞬間、理恵は自分の両親の方を向き、
「いってきます」
と挨拶した。
「いってらっしゃい。理恵、雄也くん、気をつけてね」
こうして俺達は家を出た。

859:全天星座
10/10/18 02:19:10 zCrBBEnZ
「それ重くないか」
理恵は、明らかに俺より大きいキャリーバッグを右手で引いていた。
「ううん、平気」
「女子だとやっぱり、男より荷物が多くなるんじゃないか」
「そうでもないよ。2泊くらいだし」
「まぁ」
「それに、必要なものはもうホテルに送ってあるから」
必要なもの―恐らく天体望遠鏡だろう。
確かにあれは荷物になるから、あらかじめ送っておいた方が無難である。
「そうか。でも、辛くなったらいつでも俺のバッグと交換してやるぞ」
「・・・うん、ありがとう」
本当は、どっちも俺が持ってやりたいんだが、理恵の性格上それは許してくれないだろう。

まず俺達は新幹線で東京駅へ行き、そこから羽田空港へと向かう。
東京に着いた俺達は、見渡す限りの人海に驚いた。
そして、何より東京での電車の乗り換えに四苦八苦させられた。
山手線に乗り、浜松町で降りる。その後、モノレールに乗り、ようやく羽田空港へと着いた。
時間にゆとりを持って家を早めに出すぎたせいか、飛行機の時間まではまだ余裕があった。
「いやー、疲れたな」
「・・・ごめんね」
「あ、その、・・・気にするなよ。ちゃんと言っただろ」
俺は東京に着いてからの道中、理恵のバッグを引きずってきた。
右往左往し、押し寄せる人の波を避けながら重い荷物を運んでいくのは、運動が得意でないこいつには少々辛かったようだ。
「飛行機の時間までまだまだだし、近くの喫茶店にでも入って休憩するか」
そう問いかけたら、理恵は首肯した。

860:全天星座
10/10/18 02:20:13 zCrBBEnZ
昼過ぎとなり、飛行機で出発のときが来た。直行便は取らなかったので、また飛行機を乗り継ぐことになる。
宮古島に着くのは、恐らく日が傾いている頃だろう。
やがて俺達を乗せた飛行機が離陸した。
空を飛んだことにより、今から泊りがけで旅行に行くのだという実感がようやくわいてきた。
それと同時に、とある罪悪感もまた押し寄せてきた。理恵に何度も感謝することで、払拭したつもりだったが。
「理恵」
俺は隣に座る相方に声をかけた。無言で首をこちらに向け、一瞥してきた。
「金、絶対にすぐ返すからな」
俺は情けないことに理恵から旅費を立て替えてもらっていた。
常日頃散々友達と遊び歩いているから、手持ちはもちろん貯金も微々たるものだった。
両親に小遣い数か月分の前借りを頼んでも、当然ながら答えはノーであった。
「でも、私が無理矢理誘ったから・・・」
「何言ってんだ。最終的には俺が自分で付いて行くって決めたんだ。必ず返す」
とはいったものの、当てがない。
俺も理恵を見習ってバイトでも始めようかな。でも、そうすると自由な時間が少なくなってしまう。
(せっかく3年間しかない高校生活なのに。もっと遊んでいたいじゃないか。どうせ大人になったら嫌でも働くんだし―)
などと考えてを巡らせていた俺に、理恵が、
「雄也、本当に返すのはいつでもいいよ。そんなに思いつめなくても・・・」
と言った。どうやら俺はかなり真剣な顔で思いつめていたらしい。
「ごめん、助かる」
再び感謝の念を表した瞬間、
「だからって、無駄遣いばっかりしちゃダメだよ」
という声が聞こえてきた。
「うっ・・・」
「雄也って、昔からそうだったよね」
理恵の言うとおり、俺はガキの時から金をもらえばすぐに使ってしまう奴だった。
この浪費癖を何とかしようと思ったが、思っただけで歳月は過ぎていった。
そういえば、無駄遣いばかりして俺が母さんに怒られていた傍らで、理恵が心配そうに見ていたこともあったな。
こいつは今、そのことを思い出したのだろうか。
だが、理恵の言葉にはまだ続きがあった。
「だから、雄也が双眼鏡をくれた時は凄く驚いたかな」
双眼鏡―確かいつぞやの誕生日にプレゼントしたことがあった。
あの時だけだな。俺が珍しくこつこつと小遣いを貯めていたのは―
何故そうできたのか、今ではもう分からないが。

その話題をきっかけに、沖縄までの機内では思い出話に花が咲いていた。
さらに、お互い疎遠気味であった中学時代の話もして、大いに盛り上がった。
俺達は遠い昔のようにまた、二人でいる時間を存分に楽しんだ。
―過ぎ去ってしまった日々を埋め合わせるかのように。

861:全天星座
10/10/18 02:21:11 zCrBBEnZ
宮古島のホテルに着いたときには、もう日の光はほとんど見当たらなかった。
俺達はまず各々の部屋に行き、荷物を置いてきた。
その後一緒に夕食をとり、それを終えてから星が見えてくる時刻まで、各自風呂や洗面を済ませておくことにした。

俺は自室で湯船につかりながら、考え込んでいた。
(理恵の奴、どうしたんだろう)
ホテルに着いてからというもの、あいつの様子が少しおかしい。妙にそわそわし、食事中も上の空であることが多かった。
(初めての土地に来て、緊張しているのか)
そうだとしたら、やっぱり付いてきて正解だったかな。あんな注意力散漫な状態だと、非常に危なっかしいから。
でも、きっと天体観測を始めたらすぐに活気付くだろう。とても楽しみにしているはずなのだから―
思考を止め、俺は浴室を出た。

理恵が俺の部屋まで迎えに来てくれた。天体望遠鏡と三脚、それに手さげを持っていた。
「随分な荷物だな」
俺が迎えに行くべきだった。自分の配慮のなさを反省した。
「望遠鏡と三脚、俺が持つよ」
「ありがとう」
理恵はもう観念しているのだろう。すぐに荷物を渡してくれた。
「じゃ、行くか」
「うん」

ホテルの前にはビーチがある。俺達はそこで天体観測をすることにした。他に人の姿は見当たらない。
少しばかりの人工光はあるものの、それでも外はたくさんの星が瞬いていた。
空を見上げれば辺り一面に広がる光の点が、実に壮観だった。
隣にいる理恵の顔を見てみると、心ここにあらずといった感じで見惚れていた。
そして、物凄く幸せそうな表情をしていた理恵の顔に、俺も一瞬見惚れてしまった。
それを誤魔化すかのように、少々咳払いをしてから声をかけた。
「やっぱ違うな、俺達の住む場所からみる星とは。こんな綺麗な風景なら毎日見たいと思うかもな」
「・・・・」
理恵は無言で俺の方を向いた。その顔は少し強張っているかのように見えた。

862:名無しさん@ピンキー
10/10/18 02:22:12 rBzLu5AL
支援

863:全天星座
10/10/18 02:22:27 zCrBBEnZ
「どうした?」
「う、ううん」
理恵は明らかに何か言いたそうだった。もう一度問うために口を開こうとしたが、その動作は、
「行こう、雄也」
という言葉に遮られた。
「あ、ああ」
俺達は波が足にかかる3歩手前くらいの位置に来た。なるべく星を近くで見るために。
理恵はそのすぐ後ろに天体望遠鏡をセットした。
「そういえば、ここに来ないと見えない星座って何なんだ」
「今の時期だと、ぼうえんきょう座かな」
「『ぼうえんきょう』って、これ?」
俺は理恵の天体望遠鏡を指しながら言った。
「うん、まぁ。星座全体の形はここ含めてもっと南の方じゃないと見えないの」
「へー、そんなんもあるんだな」
「でも、望遠鏡のおかげで星を見ることができるから、私はお気に入りの星座かな」
「お前は星座、いや星なら全部気に入っているだろ」
理恵は小さく頷いた。そして、少し後ろの方に下がり三脚もセットした。
地面においていた手さげから高そうなカメラを取り出し、さらにそれを三脚の上に固定した。
「そのカメラも三脚もバイトの金で買ったのか」
恐らくそうだろうと確信して聞いたのだが、理恵の答えは違った。
「これは・・・親が買ってくれたの。中学のときに」
俺は特に何も驚かなかった。理恵が星好きなのは当然おじさんもおばさんも知っている。
可愛い一人娘に高価なものをプレゼントしたとしても、別段不思議ではない。
まして理恵は、子供の頃からモノをねだらない奴だった。
だから、少しくらい奮発した代物を子供に送ったからといて、行き過ぎた愛情表現にはならないだろう。
「よかったじゃん」
「・・・うん」
そういって理恵は望遠鏡の前に立ち、星を覗き込んだ。
しばらく俺達はだまっていたが、やがて理恵が「あった」と言った。
「ぼうえんきょう座?」
「うん。見てみる?」
「ああ」
俺は望遠鏡を覗き込んだ。
「え、あれ・・・だよな」
「そうだよ」
「正直よく分からん。つーかちょっと暗くないか」
「他の有名な星座と比べればね」
「よく見つけられたな」
「それは・・・」
そう言った瞬間、理恵は言葉を続けずに押し黙った。
「理恵?」
俺は望遠鏡から目を離し、理恵を見た。

864:全天星座
10/10/18 02:24:29 zCrBBEnZ
理恵は少しそわそわしていたが、やがて俺の名前を呼び、それからこう言った。
「あの赤い星、分かる?」
理恵が指差した方を見てみると、その赤星が俺の目に飛び込んできた。
「分かるよ。昔、お前に何度も教えてもらったからな」
一呼吸置き、俺はその星の名前を告げた。
「アンタレスだろ。さそり座の」
そして、さそり座は俺の誕生星座でもある。
「ぼうえんきょう座は、さそり座の近くにあるから」
「そうなんだ」

理恵はカメラをぼうえんきょう座の方へ向け、何回かシャッターを切った。
写真を1枚撮るごとに、深呼吸していた。

その後、手さげに再び手を入れて、そこから懐中電灯と、一つのルーズリーフ用バインダーを取り出した。
だが、理恵はしばらくその場に固まっていた。その顔は、何かを思いつめているかのようだった。
声をかけようかと思った途端、あいつはそれらを手に持ち、俺の方に歩いてきた。

「雄也・・・その・・」
理恵の目が少し泳いでいる。
「何だ?」
「見てほしいものがあるの」
そう言って、バインダーと懐中電灯を俺の前に差し出した。
「これって、そんなにおどおどして渡すものか?」俺は微笑して尋ねた。
「・・・・」
「まぁ、いいや。拝見させてもらうよ」
懐中電灯を点け、その光をバインダーにあてる。
そこには何十枚ものルーズリーフがしっかりと固定されていた。
そのルーズリーフには、1面に1つずつ星座の写真が貼り付けてある。
各星座の写真の下に、名称と日付と、そして理恵の字で書かれたコメントが記されていた。
「これ、前にも・・・」
そうだ。確か小学生の頃、理恵はノートに星座の写真を貼り付けていた。
でも、俺は「これじゃ、全部入らない」と言った。
だから、バインダーにしたのだろう。ルーズリーフなら何枚も追加もできるし、順番を整理することも容易だ。
「作り直したんだ」
「うん」
何分か無言のままであった。
俺は理恵の作品を見るのに夢中だったし、理恵はそんな俺の様子を一歩下がった距離からじっと見ていたから。
半分くらいまでめくって見て、俺は感想をもらした。
「写真も、前のよりずっと綺麗だな」
日付を見てみると、ほとんどが中学のときのものだった。
あの一眼レフで撮影していたのだろう。
「・・・・」
理恵は相変わらず静かに俺を無言で凝視している。でも、なんだか落ち着かない様子であった。
(理恵?)
その様子が気になった俺は、バインダーを閉じてあいつの傍に向かおうとした。しかし―
「雄也、最後まで見て・・・くれる」
そう懇願されたため、俺は返事をして再び目を通し始めた。でも、今のあいつの声は若干震えていた。
(理恵の奴、どうしたんだよ一体・・・)
俺は理恵の近くに早く行きたいがために、ペースを少々速めて紙をめくっていった。
そして、最後のルーズリーフを見た。

その星座は、S字型に星が並んでおり、真っ赤な星が一際目立っていた。
俺の誕生星座―さそり座であった。
そのコメントには短く、

『雄也の星座。私の、大好きな幼馴染みの』

と記されていた。

865:全天星座
10/10/18 02:26:33 zCrBBEnZ
俺は、思わず理恵の方を見た。
理恵は伏目がちになっていた。
(と、友達として、だよな―)
無論、そうではないことは分かっていた。いくら俺でもそこまで鈍感ではないつもりだ。
理恵は、ここで俺に告白するつもりだったのだろう。だから、ホテルに着いてからはあんなにそわそわと―
まず直接伝えないのが、こいつらしかった。少し恥ずかしがり屋の、俺の幼馴染みだから。
「ごめんね・・・遠回りな告白で・・・」
やはりそうだった。理恵が俺のことを―
やがて、理恵は堰を切ったかのように話し始めた。
「・・・ずっと、好きだった。子供の頃からずっと・・・」
そんなに前から、なのか。
「でも、言えなかった。もし、断られたらと思うと―」
俺は言葉の続きを待ち続けた。
「私は、今のままでも十分だったから。たまに話しかけてもらえるだけで・・・」
理恵の声は震えていた。
必死になって自分の想いを俺に告げてくれているのだろう。
こんなに一方的に話してくる理恵を、俺は見たことないから。
「今まで雄也は男の子としか遊んでなかったから、私もどこかで安心しきっていた」
確かに、俺はこれまで女子と親しく話していたことはなかった。
「だけど、雄也が女の子と楽しそうに話しているのを見て、このままじゃいけないって・・・」
理恵と同じクラスの女子と、カラオケに行くために教室に集まり、談笑していた時か。
これで、あの時理恵が切なそうな表情をしていた謎が解けた。―やはり見間違えではなかったのだ。
「・・・だから雄也に彼女ができる前に、ちゃんと告白しようと思ったの。
 失敗してもいいから。ただ、雄也が彼女と楽しい学生生活を過ごす中で、私のことを忘れてしまう前に・・・」
―俺を買いかぶりすぎだよ、理恵。
ちょっとおしゃべりして、ちょっと遊びに出かけたぐらいで、彼女なんて俺にはできなかったよ。
それに、例え彼女ができたとしても、俺がお前を忘れるわけがない。
ガキの頃からいつもそばにいてくれた、お前のことを―
「ごめんね。こんなことのために、こんな遠くまで連れ出して・・・」
この頃、理恵が妙に積極的だったのは、このためだったんだな。
「でも、ありがとう。雄也とここで見た星空は、最後だとしても、最高の思い出になったよ」
礼を言いたいのは俺も同じだった。こんな綺麗な景色を見れた上に、何年も俺を好いていてくれたなんて―

866:名無しさん@ピンキー
10/10/18 02:27:02 2q3iTpz5
惜しみないGJを贈らせてもらう
続きも楽しみに待ってる

867:全天星座
10/10/18 02:28:19 zCrBBEnZ
そして、理恵は深呼吸をし、少しばかり潤んだ瞳で俺の目を見据えてこう言った。
「雄也、好きです。・・私と・・付き合って下さい・・」
もし波が来ていたら、その声はかき消されていただろう。それほどまでに、か細い涙声だった。
だが、俺にははっきりと聞こえた。そして、俺も自分の想いを乗せて返答をした。

「はい」

俺は、理恵と恋人同士となることを望んだ。
「・・・・」
「これからもよろしく頼むよ、理恵。だから、最後なんて言わないでくれ」
そう言い終わった瞬間、理恵の頬を一滴の涙が伝った。そして、その体はかすかに震えだした。
俺はそんな幼馴染みの前に行き、その震えを止めんばかりに彼女を抱き寄せた。
「ありがとう、理恵。長年慕ってくれてて」
「・・・・」
「俺も好きだよ、理恵のこと」
そう言って、俺は理恵の顔を覗き込んだ。その顔は、涙に濡れながら微笑んでいた。

・・・・・・・・・・・・・  

理恵からの告白はきっかけに過ぎなかったのかもしれない。
さそり座に書かれていたあのコメントを見たときから、俺の気持ちはもう固まっていたから。
もし、彼女が自分の口から何も言わなかったときには、俺の方から言い出していたことだろう。
「俺もお前が好きだ」と。

多分、俺は子供の頃から無意識に理恵のことを好きだったのだと思う。
今にして思えば、思い当たる節はかなりある。
―浪費癖のある俺が、大好きなお菓子や玩具を我慢してまでコツコツと貯金して双眼鏡を買えたこと。
―たった一人で星座を見に行くと言った幼い頃の理恵に、「俺もついて行く」と言ったこと。
―何となく理恵といるのが気恥ずかしくなって、友達との遊びを理由に距離を置くようになってしまったこと。
―思春期を向かえ、身近な異性、つまりは理恵を少しでも性の対象として意識しないように努めたこと。
特に最後のは決定的だ。中学に入って、理恵は体つきも本当に女の子らしくなっていったから。
ずっとそばにいれば、いつしか理恵に手を出してしまいそうで怖かった。それで今までの関係が崩れたりしたら。
まして、天体観測なんて夜にやるものだから、余計に行きづらかった。

小さい頃は理恵が喜びそうなことをやりたかった。
大きくなるにつれて理恵を避けるようになった。でも、たまには一緒に話したかった。
それらは全部、理恵のことが好きだったからだろう。

その感情を、理恵に告白されるまで自覚できなかったなんて、やっぱり俺は鈍感だな。

・・・・・・・・・・・・・

「でも、理恵」
夜のビーチで、俺は幼馴染みに話しかけた。
「もしもだぞ。もし、俺がノーって言ったらどうしたんだ」
「えっ」
「旅行は2泊3日だぜ。残りの日数、すげー気まずかっただろうな」
「・・・・」
「へへっ、本当にお前って、たまに抜けているところあるよな」
俺は理恵に笑いかけた。すると、向こうもつられて一緒に笑った。

俺達はしばらく笑い合っていたが、やがて理恵が微笑みを止めた。
それを契機に、お互い見つめあった。
そして、やがて理恵がそっと目を閉じた。
俺にはその意味が分かった。覚悟を決めよう、男として。

こうして俺達は、幾千の光点が瞬いている中で、口付けを交わした。

868:784
10/10/18 02:31:26 zCrBBEnZ
以上です
無駄に長くなってしまったことを本当にすまないと思う
次スレに行くまでには何とか完結させたいと思います

869:名無しさん@ピンキー
10/10/18 02:31:58 rBzLu5AL
GJ!
そしてまだ続く

870:名無しさん@ピンキー
10/10/18 03:01:25 UMRzM5Gl
かおるさとーさん、ありがとう

871:名無しさん@ピンキー
10/10/18 08:21:45 FBPS3crg
こんな幼馴染はいつ俺の前に現れるんだ・・・?

872:名無しさん@ピンキー
10/10/18 08:44:55 9w7s5PGU
iPhoneから書き込みテスト

873:名無しさん@ピンキー
10/10/18 08:49:21 9w7s5PGU
おお、書き込めた。

かおるさとー氏も784氏もGJ!
抜群の信頼感があるのにお互いの思いに無自覚だったり素直になれなかったりするのが幼馴染のいいところだよね。
この焦れったい距離感がうまく書けてて、続き読むのが待ち遠しいっす。

874:名無しさん@ピンキー
10/10/18 12:42:55 tJezQdDG
>>887
とってもとってもGJです。

875:名無しさん@ピンキー
10/10/18 16:16:53 EnXFHlW+
>>784
GJ!
気弱そうなのに沖縄旅行など思い切った行動。
美味しく頂きました

876:名無しさん@ピンキー
10/10/18 18:00:28 F+rjua+P
すごいの発見したぞ!
URLリンク(www.qrbeen.com)

877:名無しさん@ピンキー
10/10/18 22:16:19 LW0PUznl
お二人ともGJでした。小ネタ投下させて頂きます。
ハロウィンネタで幼なじみ成分少なくエロなしです。
嫌な方はスルーでお願いします。


オレ達が自室で寛いでいると、
「とりっくおあとりーとお菓子をくれなきゃ悪戯しちゃうぞ」
と、いきなり何の前フリもなく隣に座っていた幼なじみ兼恋人のA子が言い出した。
「何言ってんだ?てか、英語のつもりか?明らかに日本語の発音だろそれ」
オレはA子の戯れ言にいつも通りバッサリ言い捨てる。
「も~今日はハロウィンなんだよ~お菓子をくれないと悪戯されちゃう日なんだよB男君~」
顔をムスッとさせながらA子が言いつのってくる。
ハロウィンなのは知っているが、お菓子を上げないと悪戯される日って…どういう解釈の仕方なんだ…。
はぁ…と溜め息を吐きつつオレはA子に向き直った。
「じゃあ悪戯してみろよ」
「ふぇ?」
オレの言葉に間抜けな声を上げるA子。顔まで間抜けヅラになってるぞ。
「だから菓子なんて用意してなかったんだよ…だから悪戯しろよ」
「…」
オレの提案に面食らったのかA子が挙動不審な態度を見せる。
そんな顔も我が幼なじみながら、馬鹿わいい…と思ってしまうオレは
病院に行って検査してもらった方が良いのだろうか。


878:名無しさん@ピンキー
10/10/18 22:18:43 LW0PUznl
しばらくうーうー唸っていたかと思うと、急に顔を上げオレを見つめる。
「ふにゅ!」
変な掛け声と共にA子がズボンの上からオレの下半身…平たく言うとオレの息子をむんずと掴む。
「ふご!?」
いきなりの行動にオレまで変な声が出てしまった。
「な…何してんだお前は!?」
目の前でオレの息子をモミモミフニャフニャしているA子に声を掛ける。
あ…声が上擦ったかもしれん。
「ぶーB男君、前にここがオレの弱点だって言ってたから…」
そう言いながらも、なおも息子を揉んでくるA子。あ…マズい息子が少し固くなってきたかも。
「前にエッチした時に、その…おちんちんが弱いって言ってたから…だから悪戯です!」
勝ち誇ったように言いながら、延々と揉んだりさすったりしてくるA子。
「お前…馬鹿だろ!」
言うが早いかオレはA子をサクッと持ち上げベッドに連れて行った。
「ななな…なんでB男君~!?」
いきなりの事にA子はバタバタと手足を振り回すが、そんな物じゃオレの息子はおさまらないぜ。
「今度はオレが悪戯する番だからな…覚悟しろよ?」
そう言うとオレは恋人の唇を塞いだ。



以上です。

879:名無しさん@ピンキー
10/10/18 23:40:24 Ioa517Bn
>>887
GJ
続きが楽しみだ

880:名無しさん@ピンキー
10/10/22 22:15:39 U23hunTh
>>886
ありがとう。
ただA子より女とかつけた方が良かったかな

881:名無しさん@ピンキー
10/10/22 23:35:33 X4fEM9dr
その昔
プロジェクトA子というアニメがあってな…

882:名無しさん@ピンキー
10/10/25 00:43:40 AvnP/GC5
続き期待

883:784
10/10/25 01:32:26 RqLLFIW1
>>886の続きを投下します
今回がラストです
こんな長々とした文に付き合ってくれた人に感謝です

884:全天星座
10/10/25 01:35:38 RqLLFIW1
俺達はホテルに戻った。
望遠鏡やら三脚やらを置きに行くため、俺は理恵の部屋に寄った。
「ありがとう」
荷物を置いた瞬間、感謝の声が聞こえてきた。
「どういたしまして、っと」
時計を見てみると、もう真夜中を過ぎている。
理恵の方をちらりと見た。今はうつむいていて髪をいじっている。
(本当に、こいつと恋人同士になったんだよな・・・)
もちろんそうだ。その証を、先程ビーチでしたばかりなのだから。
(でも、恋人同士になったら普通は・・・その・・キスだけじゃなく・・・)
俺は、健全な思春期男子の例にもれず、とんでもない妄想をしてしまった。
そんな雑念を払拭するように、俺は理恵に言った。
「じゃ、俺も自分の部屋に戻るよ。おやすみ」
そして、この部屋を立ち去ろうとした。
―しかし、それは叶わなかった。理恵が俺の袖をつかんで引っ張ったのだ。
「ど、どうした、まだ何か用か?」
「・・・・」
「おーい」
反応がなかったので、もう一度尋ねた。その瞬間―
「行か・・ないで・・・」
消え入りそうな声で、理恵が俺にそう告げてきた。
「えっ」
「・・・・」
理恵は無言の上目遣いで俺を見つめいる。
その可愛らしい顔を見て、俺はますます情愛を感じた。そして、同時にある欲望も。
だが―
「な、何言っているんだよ。もう遅いから寝ないと・・・」その衝動を消そうと声を少し張り上げた。
しかし、理恵は俺の顔を見据えて袖を離さないでいる。
高鳴り続けている俺の鼓動は、一向に収まる気配がない。このままでは、本当に欲望の赴くままに行動してしまう。
そんな俺に、さらなる追い討ちがかけられた。
「一緒に・・・いて・・」
俺の心臓は爆発寸前だった。理恵だって子供じゃない。それがどういう意味か分かっているだろう。
「ば、馬鹿言うなよ。俺はおばさん達からお前を託されているんだぞ」
その信頼を、自らの手で裏切るわけには行かない。
「大丈夫だよ、雄也だから」
突然、俺は甘い香りと柔らかい感触に包まれた。―理恵が抱きついてきたのだ。
「お願い・・まだ・・・離れたくない。せっかく雄也に、好きって言ってもらえたから・・・」
もう、理性は残っていなかった。俺も理恵を抱きしめ、そしてゆっくりとベッドの上へと押し倒した。

885:全天星座
10/10/25 01:37:49 RqLLFIW1
「いいんだよな?」俺達は体勢を立て直し、ベッドに垂直に座って見つめ合っている。
理恵は静かに頷いた。
「今日は、・・・大丈夫な日だから・・」
「お前・・・」
「好きなこと・・何でもしてくれていいから・・」
おずおずしながら、俺の目をじっと見てこう言った。
「他の女の子とは・・・しないでね・・」
その言葉を聞き、俺の中で何かが弾けた。衣服を脱ぎ、まずは上半身を裸にする。
そして、今度は理恵の衣服を脱がすのを手伝った。
丸みを帯び、柔らかそうな肌色の上半身が現れ、今はブラジャーだけが着いている。
その谷間を見て、俺の愚息は膨れ上がっていく。しかし、ズボンがそれを妨げる。
俺は急いでジーンズを脱いだ。もう、身に着けているのはパンツだけである。
理恵の方を見てみると、ブラのホックに手をかけている。
やがてホックを外し終えたが、そのままブラをとることなく、手で胸を押さえている。
羞恥心からか、その頬は真っ赤に染まっている。
「それじゃ、見えないぞ」
俺がそう言ったら―意を決したのだろう―ゆっくりと手を離し、ブラを落とした。胸があらわになる。
理恵の乳房は、とても綺麗だと感じた。
当たり前だが、一緒に風呂を入っていた頃の体つきとはもう違う。立派に成長した女性の体だった。
胸は大きくもなく、かといって小さくもなく、形は凄く整っている。
それを見た俺は、もう欲情にかられるばかりだった。

「理恵」
俺は、最愛の幼馴染みの名前を呼びながら顔を近づけ、キスをした。
さっきの軽い口付けとは違い、今度はもっと踏み込んだものだ。理恵は目をつむり、すぐ受け入れてくれた。
「ん・・・ぁ」
理恵が吐息をもらす。俺はさらに舌を絡めていった。ぴちゃぴちゃと音がする。
「あ・・んぁっ・」
俺の舌は理恵の口内を侵食していく。とても甘い味だ。
「はぁ・・んっ・・・んぁ・・」
理恵の息遣いが少しばかり荒くなってきた。
だが、俺はもっと近くに理恵を抱き寄せた。その瞬間、乳房が俺の胸に当たった。
その感触は、何ともいえないものだった。

俺は深い口付けを止め、口を拭いながら理恵の顔を見た。
向こうも同様に口を拭い、俺を見ている。
右手を理恵の頭の後ろにやり、左手でゆっくりと体を押し倒した。
そして、そのまま左手で右の乳房をやさしくつかみ、揉んでみた。
最高に、柔らかい感触がした。
「あ・・やぁ・・」
理恵はかすかな声をもらす。どうやら気持ち良さを感じているようだ。
幼馴染みの聞いたことない嬌声に、俺は興奮しっぱなしだった。
もっと快楽を与えたくて、今度は両手で左右の胸を揉んでみた。
「んぅ・・あぁ・・ん」
その乳房の感触と、快楽の混じった切なげな声を聞いたことにより、俺の逸物はもうはち切れんばかりに勃っている。

886:全天星座
10/10/25 01:40:48 RqLLFIW1
右手で理恵の乳首をいじりながら、俺は左手を股間の方へと伸ばしていった。
スカートを脱がせ、理恵を下着一枚の姿にした。
その布の上から若干の膨らみに手をかけ、割れ目をなぞった。
「きゃっ・・・んぁ・・ん・・」
理恵は、秘部に触れられた瞬間驚いたが、すぐに俺の行為を許容してくれた。
「あぁ・・んぅ・・・ふぁあ・・あ・・」
今までの比ではないくらい、理恵は感じている。
俺はすぐさま最後の下着を脱がせようとした。
理恵も俺の意図に気付いたのか、協力してくれた。
そして、俺は思わず生唾を飲んだ。
理恵の大事な部分には、少しばかりの産毛が生えていた。―はじめて見る、“女”へと変貌を遂げた幼馴染みの性器。
「雄也、その・・・」
申し訳なさそうに理恵が声をかけた。顔全体が真っ赤だ。
「あ、悪い」
俺は理恵の大事なところを凝視しすぎていた。

今度は直に、割れ目の少し奥に触れてみる。
「あぅ・・」
再び嬌声が聞こえた。そして、その性器はもう充分濡れていた。
「ん・・あぁ・・・。ゆ・・うや・・」
理恵が俺の名を呼ぶ。それが合図なのだろう。
「理恵、じゃあ、入れるぞ」
「・・・うん」
俺は恐ろしいくらいに緊張している。だが、それは理恵も同じであろう。
だから、俺は平静を装って安心させなくてはならない。男の俺がリードしなくては。
俺は理恵の股を広げた。そして、その間に体を入れ、俺の男根を理恵の割れ目に近づけた。
ゆっくりと、挿入していく。
「ん・・んあぁ!」
突然、理恵が聞いたこともない大声を出した。やはり痛かったのだろう。
「り、理恵」
俺は情けなく慌てふためいた。そんな俺に理恵が、
「だ、大丈夫だよ」
と微笑みかけてくれた。
「ごめんね、驚かせて・・・。平気だから、最後まで続けて・・・」
その言葉に感謝し、俺の男根は理恵の中に侵入し続けていった。
「あっ・・ん、んっっ・・」
理恵は小さな声で必死に痛みに耐えている。彼女の両手はベッドのシーツを固く握り締めている。

887:全天星座
10/10/25 01:42:02 RqLLFIW1
何とか最後まで挿入できた。
この世のものとは思えないほどの気持ちよさが、俺に押し寄せる。
「理恵、入ったよ」
俺は労わるつもりで、彼女の頭を撫でてみた。
「はぁ・・はぁ・・んぁ・・」
理恵は荒い呼吸を上げている。ずっと痛みに耐え、頑張ってくれたのだ。
しかし、俺の方はというと、初めて味わうあまりの気持ちよさため、早くも射精感を感じていた。
だが、理恵が頑張ってくれた矢先に、俺だけ絶頂に達してしまうわけにはいかない。
一刻も早く、一緒に―
「動くぞ」
「・・うん」
その返事を聞き、俺は腰を前後に振った。
「ああぁ、あ・・あん・・」
理恵の艶っぽい喘ぎ声が響く。
「あっ、あ、あぁん・・」
その声は、とても俺を興奮させてくれるのだが、少し大きかった。ゆえに、
(部屋の外まで聞こえないだろうか?)
俺はそんな懸念を、欲情にまみれながら、頭の片隅に抱いた。
ここはラブホテルではない。もし、この喘ぎ声を誰かに聞かれたら―
俺は理恵と視線を交わした。
理恵は、そんな俺の思いを感じ取ってくれたのだろうか。右手で自らの口を塞ぎ、声を若干押し留めてくれた。
「んむぅ・・・ん・・んぁ・・」
幾分ボリュームの下がった、快楽のくぐもり声が聞こえる。
「ん、んぁ、ん、んぅ・・」
性交の最中でも、そんな風に気遣ってくれる様を見て、俺はますます理恵をいじらしく思った。

「理恵、もう・・」
何分かは堪えていたが、ついに限界を迎えた。こみ上げる射精感をこれ以上我慢できそうにない。
「んっ・・ん・・雄也・・」
彼女の方も、もうすぐでイキそうな様子であった。
とはいえ、いくら安全日だとしても中出しはまずい。
俺は、絶頂を迎える瞬間に逸物を抜いた。
そして、解放された男根から、勢いよく精液が飛び出した。白濁が理恵の裸体にかかる。
「はぁ・・・はぁ・・はぁ・・」荒い呼吸が聞こえる。理恵もどうやら一緒に絶頂を迎えたようだった。
かかった精液に少しも目もくれず、体を震わせて息を弾ませている。
俺はティッシュをとり、自らで発した液体を拭く。
そんな俺を、理恵は快楽の余韻を味わいながら見守っていた。

888:全天星座
10/10/25 01:44:01 RqLLFIW1
「シャワー、浴びてくるね」
「ああ。・・・悪いな」
「ううん。ありがとう、中に出さないでくれて」
そう言って、理恵は浴室へと入っていった。やはりその辺は、いくら安全日といえど気にしていたのだろう。

手持ち無沙汰になった俺は、少々自己嫌悪に陥っていた。
というもの、結局欲望に勝てず、嫁入り前の女の子とつながってしまったからだ。
だが、もう後悔しても遅い。・・・実際は、物凄く良かったから後悔なんてないのだが。
必ず責任はとろう。だから理恵と―
(いやいや、飛躍しすぎだろ俺。気が早すぎるって・・・)
などと、しばらく考え事をしていたら、理恵が一糸纏わぬ姿で浴室から出てきた。
「どうしたの?」
俺の様子を見るなり、すぐにそう尋ねてきた。これからも、こいつに隠し事はできそうにないな。
「お前の両親に、なんて顔を合わせればいいかなって」
俺は正直に胸中を打ち明けた。
「・・・・」
理恵は無言で俺の背後に行き、そしてそのまま抱きついてきた。
「理恵?」
「・・・大丈夫だよ」
体が密着しているため、ふくよかな胸の感触を感じる。甘い吐息が耳にかかる。体がびくりとした。
「だって、少なくともお母さんは、私が雄也のこと好きなの知っているから」
「えっ」俺は目を丸くした。
「旅行に行く前日、私になんて言ったと思う?」
「用心しなさい、とか・・・?」
「頑張りなさい、って」
・・・全く、あの人は。理恵の生みの親とは思えないくらい、その、…大らかな性格というか。
「それに、私の方から誘ったようなものだから」
「けど―」
「もう止めよう。私は、嬉しかったよ・・・」
それは俺も同様だ。振り向いて理恵を見る。目が合った瞬間、彼女が破顔した。
俺はまたもや欲情を感じてしまった。本当に、自分の若さ溢れる体が嫌になる。
もう逸物は最大限に膨れ上がっていた。落ち着いてくれそうにはない。
「理恵・・・もう一回いいかな?」
理恵は頷き、自らベッドへゆっくり倒れこんだ。そして、俺をじっと見つめ、
「雄也・・・」と俺の名を呼んだ。
こうして、俺達は再び愛し合った。

889:全天星座
10/10/25 01:45:22 RqLLFIW1
揺れを感じる。
「・・きて・・」
誰かの声が聞こえる。いや、この声は―
「起きて」
理恵だ。意識が覚醒する。俺を起そうとしているのだ。
俺はゆっくりと目を開けた。目の前には、慣れ親しんだ幼馴染みの顔があった。
「おはよう、雄也」
「・・・おはよう」
そう挨拶を交わし、俺は起床した。

理恵はすでに衣服を纏っている。時計を見てみると10時を過ぎていた。
夜遅くまで、行為に及んでいたツケであろう。
理恵は9時くらいに起き、洗面や着替えなどの身支度をしてから俺を起こしたそうだ。
「お前が起きたときに、一緒に起してくれたらよかったのに」
「だって、あまりにも気持ちよさそうに寝てたから」
そんな会話をしながら、俺も朝の身支度をしている。
「しっかし、久しぶりだよな、お前に朝起されるの。何年ぶりかな?」
理恵が首をかしげた。そのくらい、久々なのだろう。
「よし」俺は着替え終えた。「飯でも行くか」
「うん」
俺達は部屋を出た。

2日目の午後は、観光をし、そして夜には再び星を見た。
今は、また理恵の部屋にいる。
「これって、タイトルとかつけないのか?」
俺はバインダー、すなわち理恵が撮った星座写真集を手にして言った。
「うーん・・・」理恵はうなっている。
「まぁ、いいや。それにしてもよく集めたもんだよな」
再び目を通す。聞いたことのない星座も多く収められている。
そして、日付はほとんどが中学の時もの。多分、たった一人で撮り続けていたのだ。
俺は自省した。どうして一緒にいなかったのだろう。
理恵は俺のことを子供の頃から好きだといってくれた。
一緒にいて星空を撮っていれば―自惚れかもしてないが―この写真集は俺達にとってもっと思い出深いものとなったはずだ。
過ぎ去った時間はもうかえって来ない。
俺は理恵を一瞥した。その視線に気付いた彼女は、微笑みながら「どうしたの、また考えごと?」と聞いてきた。
その笑顔を見て、俺は吹っ切れた。
過ぎた時間を嘆いても仕方がない。これからが肝心だ。
理恵とたくさんの思い出を作っていこう。―子供の頃のように、二人で一緒に。
「何でもねーよ。ちょっと決心しただけ」
「何を?」
「帰ってからも、またお前と一緒に天体観測しようって」
理恵はとても嬉しそうな声で「ありがとう」と言ってくれた。

890:全天星座
10/10/25 01:48:26 RqLLFIW1
「じゃあ、部屋に戻るよ。明日は早いからな」
飛行機を乗り過ごすわけには行かないので、今日は情事をしないことにしていた。・・・ゴムもないしな。
「おやすみ」
「ああ、おやすみ」
理恵の部屋を出て、俺は自分の部屋まで戻りベッドに潜り込んだ。


飛行機の中で、理恵が俺に尋ねた。
「今年の冬休みも、宮古島に旅行していいかな?」
「・・・今度は何の星座だ?」
「レチクル座、かな」
「れちくる?」
「望遠鏡に、また小さな望遠鏡みたいなのが付いてたでしょ。ファインダースコープって言うんだけど」
「ほぅほぅ」
「本体は視界が狭いから、そのファインダーでまずは星を探すの」
「ふむふむ」
「それで、そのファインダー越しに見える、照準を合わせるための十字線をレチクルって言うの」
「へー、じゃあ十字型の星座なのか」
「ううん、ひし形」
「・・・何だよそれ」
「でも、今回見たぼうえんきょう座とは縁があるよね」
「確かに、今の話を聞く限り、望遠鏡とレチクルはいつも一緒だもんな」
「・・・うん、そうだよ。いつも・・・一緒なの」
こんな話を交えながら、俺達は帰路についていた。


見慣れた道を歩いている。俺達の家までと続く、理恵と子供の頃によく歩いたあの直線道だ。
「今日は、あまり見えないな」
夜空は雲で覆われていた。
「でも、月は見えるよ」
雲の隙間から、月だけが運よく顔を出していた。
「ホントだ」
しばらく俺達は無言だった。キャリーバッグを引きずる音だけが響く。
やがて、俺が声を出した。

891:全天星座
10/10/25 01:49:21 RqLLFIW1
「・・・俺達が初めて会った時のこと、覚えているか?」
夜に月を見た俺は、唐突に昔のことを思い出した。
「・・・うん」
「月を見ているお前に、俺が急に声をかけたんだよな」
「驚いて、何ていったらいいか戸惑っちゃったよ」
「はは、それは悪かったな」
「ううん。むしろ、ありがとう。あのとき声をかけてくれたから、今この時間があるんだよ、きっと」
「確かにな」
そして、もう一度俺は月を見た。そんな俺を見て、理恵も空を見上げた。
「綺麗な満月だったよな」
「中秋の名月だもんね」
「そうそう。その言葉も、昔お前から教わったな」
「・・・また、見たいね。二人で・・・」
理恵が俺を見つめてそう言った。その顔と言葉で、俺は何故だか照れてしまった。
それをごまかすために、冗談めかして
「けど、その日に限って、今日以上の曇り空で月が隠れたりして」
と言った。すると、理恵が少し悲しそうな顔で「あっ」と声をもらした。
そんな表情を見て、いたたまれなくなった俺はすぐに
「け、けど、今年がダメでも来年があるし、来年がダメでも再来年が―」
と告げた。そうしたら理恵が、
「・・・ありがとう・・・」
と嬉しそうにお礼を言ってきた。どうやら気を取り直してくれたようだ。

すると突然、理恵が自身のバッグを引きずる手を右手から左手に替え、右腕を俺の左腕に絡めてきた。
そして―
「雄也、大好き・・・」
と言ってくれた。
同じ言葉を返すのが気恥ずかしかった俺は、代わりにその小さな右手を握った。
理恵は少し驚いたようだが、すぐに握り返してくれた。
俺達はこのまま、手をつなぎながら自宅へと向かっていった。


892:全天星座
10/10/25 01:50:25 RqLLFIW1
季節は12月になり、俺達が付き合い始めて約4ヶ月が経った。
休日にはデートをしたり、夜には天体観測をしたり、・・・たまにはエッチをしたり―そんな風にして日々は過ぎていった。
俺は理恵のおかげで、思い描いていた理想の高校生活を過ごせている。

だが、いま俺はちょっとしたピンチを迎えていた。

「本当に、悪かった。ごめん」
「・・・・」
俺は現在、理恵の部屋にいる。昨日のことを謝りにきたのだ。
彼女はベッドの上で枕を抱えながら座って、俺を見ている。―ややふくれっ面で。
「あの雰囲気の中で、俺だけ帰るわけにはいかなかったんだよ」
実は昨夜、理恵との天体観測をすっぽかしてしまったのだ。もちろん、連絡は入れたが。
「男にも付き合いってものがあるんだからさ」
「それは分かっているけど・・・」
昨日は夜遅くまで、彼女に振られたという友達をみんなで慰めていたのだ。
俺は、この世の終わりみたいな顔していたそいつのことが気がかりだった。
それに何より、そんな奴の前で「俺、これから彼女と約束があるから」なんて言って抜け出せるわけがなかった。
「頼む理恵。今回ばかりは許してくれ、いや、下さい」
「・・・でも、昨日がピークだったんだよ。ふたご座流星群」
「うっ」
「すごく綺麗だったよ。一緒に見たかったのに・・・」
そう言って、理恵は枕に顔をうずめてしまった。

困った俺はある行動に出た。
理恵の机の上にあるバインダーの表紙にペンで文字を書いたのだ。
この先も、理恵と星を見ていくことを誓った証として。
「理恵」
俺が名前を呼ぶと、枕から顔を上げてこちらを見た。
「これ、いつか絶対完成させような。二人で一緒に」
俺は理恵にバインダーをつき出している。
「タイトルに偽りがあっちゃ、ダメだもんな」
そう言って俺は理恵の機嫌を直そうとした。
「・・・もう少し、綺麗な字で書いて欲しかったな・・・」
「なっ」
「ふふ、冗談だよ。ごめんね」
理恵が笑った。機嫌を直してくれたみたいだ。そして―
「ねぇ、雄也。今日も一緒に見てくれる?」
と言った。俺の返事は決まっている。
「いいぜ、もちろん」
その言葉を契機として、理恵はベッドから腰を上げて、俺の腕をつかんだ。
「行こう」
「ああ」
そう言って俺達は部屋を出た。今日も、星空を見るために。

部屋を出る直前、俺は手に持っていたバインダーを机の上に置いていた。
その表紙には、俺の無骨な字で『全天星座』と書かれていた。

[完]

893:784
10/10/25 01:56:11 RqLLFIW1
以上です
それでは失礼します

894:名無しさん@ピンキー
10/10/25 02:01:17 b1ZZENHB
GJ

リアルタイムで読めてよかった
ほんとかおるさとーさんの作品は安心して読めるな

895:512
10/10/25 04:08:02 GzRd6zGZ
どなたかこんな幼なじみを私にお譲りください。
とりあえず1ダースほど。

896:名無しさん@ピンキー
10/10/25 05:23:14 zkmnl54+
>>912
GJ! 星好きというのが最後までいい空気を醸し出してておもしろかった

>>913
違う人だぞ

897:名無しさん@ピンキー
10/10/25 09:03:06 wpkcYmee
>>912
GJです
理恵ちゃんが可愛い過ぎる

>>913
いや違う人だろw

898:名無しさん@ピンキー
10/10/25 09:33:13 27R0ovGP
>>912
最高でした・・・

899:名無しさん@ピンキー
10/10/25 11:22:38 nwa1c0c1
俺にもこんな幼馴染くれ、いや、下さい!
ちくしょう・・・ちくしょー!!

900:名無しさん@ピンキー
10/10/25 18:31:36 60gs0TZn
>>912
お母さ~ん。GOOD

901:名無しさん@ピンキー
10/10/25 22:32:19 8fYs6JQ1
>>912
本当にGJです

>>915-916
違う人ってどーゆーこと?

902:名無しさん@ピンキー
10/10/25 22:35:53 8fYs6JQ1
すまん
なんでもなかった

>>912
もいちどGJ

903:名無しさん@ピンキー
10/10/26 00:05:53 u64J9Jk4
>>912
いいはなしだなぁ
末永くお幸せに…

904:名無しさん@ピンキー
10/10/26 08:16:55 87+IjQgx
>>912
ありがとうございます

905:名無しさん@ピンキー
10/10/27 17:11:27 xd2pxHvo
元々友達だったし、活動的でもあったのでジーパンとシャツが定番の彼女
ただブラつくつもりで近所だってのもあり…彼女は初デートにジャージで来た orz

俺「もう少しどうにかならん?ジャージはないだろ」
彼女「アンタとでかけるのになんでお洒落しなきゃなんないの」
俺「別にいいけどさぁ…なんか寂しい(TT)」
したら急に手を引かれ路地裏に連れ込まれ
「スカートだと履かない訳にはいかないよ」と言われ俺の手を尻に・・・

滲みの存在を忘れてた様で、それ以来ジャージは履いて来ないw




906:名無しさん@ピンキー
10/10/31 00:29:56 qL4SpWC8
俺の知り合いは幼馴染みに告白したら
幼馴染みがビックリし過ぎて体調崩して
3日学校休んだらしい
因みにその幼馴染みは幼稚園~高校まで
その3日以外は休んだ事無いとか

907:名無しさん@ピンキー
10/10/31 01:55:10 QyavKmdl
問題は幼馴染の返事次第でリアルの幼馴染の話するなよかいい幼馴染ですねかが変わることだが

908:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
10/10/31 02:10:05 4JZnHj+f
こんばんは。
>>866の続きを投下します。
『In vino veritas.』第二話です。
今回は素面です。

909:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
10/10/31 02:11:57 4JZnHj+f
 
 物事は一度目より二度目の方が難しい、という格言があったような気がする。
 ところで一度目を憶えてない場合、それはどうなるんだ?



      ◇   ◇   ◇



 買い物に出かけたのは、昼の一時を過ぎてからだった。
 華乃との話が済んだときにはもう十一時を回っていた。身支度を整えて朝食兼昼食を
摂るころには、すっかり午後になってしまっていた。
 戸締りをして、部屋を後にする。俺たちの住む部屋は一階奥の105号室で、廊下をまっ
すぐ抜けるとそのままマンションの出入口に出ることができる。
 外は快晴だった。空には雲のかけらさえなく、絶好のお出かけ日和だ。
 華乃はそんな空を仰ぎながら、ニコニコしている。
「なに笑ってんだよ」
「んー、いい天気だしね」
「晴れの日はいつもニヤニヤするのかお前は」
 気持ち悪いだろ。
「そんな不審人物になった覚えはないよ。そうじゃなくて、お出かけするの久しぶりだから」
「……そうか?」
 俺たちは並んで商店街へと歩き出す。
 華乃はなかなか規則正しい生活を送っている。講義もサボらず毎日出席し、バイトにも
精を出している。夜更かしは、してもせいぜい日付が変わるころまで。朝も七時には起き
るし、約束通り食事の用意も欠かさない。食事に関しては俺は別にそこまで律儀に守ら
なくてもいいと思っているが、料理は好きだからと、華乃がそれを怠ることはない。
 そんなわけで、華乃は活動的な毎日を過ごしている。外に出ない日はない。だから
華乃の久しぶりという言葉に違和感を覚えた。
「久しぶりだよ。涼二と一緒にお出かけするのは」
 あ。
「……そういえば最近ないな」
「そうだよ。誰かさんは本当に生活が不規則だもんね」
「すまん」
 俺の最近の生活は実に大学生らしいものだ。
 はっきり言ってしまうと、遊んでばかりだ。合コンには行かないが、友達とよく呑みに行く。
週に一回は麻雀も打つ。タバコはやらないが、酒や賭け事はそれなりに好きなのだ。
 それが原因で、華乃とは一日顔を合わせないこともある。
 華乃の作った料理を冷蔵庫から取り出すとき、いつも申し訳なく思うが、しかし俺はこの
生活を改める気はあまりなかった。
 部屋にいると、どうしても華乃を意識してしまうためだ。
 夜などは特にその思いが強くなる。華乃は俺の前だと無防備な姿をよくさらすし、幼馴
染みだからか遠慮がない。それが俺の心を大いに乱す。
 精神衛生上、大変よくない。そう思って夜遊びをするようになったのだが、しかしそんな
俺の意図も夕べの件で無駄になってしまった。
 まあ憶えてないので実感自体は薄いわけだが。気まずさだけがあるというのも理不尽な
話だ。

910:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
10/10/31 02:14:25 4JZnHj+f
「でも、これからはもう少し控えることになるんじゃない?」
「? なんで」
「だって、これから夜は忙しくなるよ」
 呼吸が鈍った。
「何驚いた顔してるの? 今から買いに行くのだって、それが目的でしょ」
 まったくその通りである。
 食料の買出しも兼ねてはいるが、一番の目的は、その、避妊具を買いに行くことだったり
する。
「い、いや、それは」
「……うーん、覚悟が足りないなあ」
 華乃は腕を組んで、わざとらしく唸った。
「もう少し度胸が必要だね。じゃないと、いざというとき女の子をリードできないぞ」
「悪かったな」
「ふふ、でもちょうどいいかもね」
 華乃は小さく笑った。
「何がだよ」
「涼二にとっても、いい練習になるってこと」
 俺は咄嗟に言葉が出ない。
「お互いこれで経験値を上げてさ、素敵な相手を見つけられればいいんじゃない?」
「そういうのは複数の相手とすることで鍛えられるんじゃないか?」
「それができるほど涼二クンは女の子の扱いに長けてるのかなー?」
「……」
 お前はどうなんだよ、と言いかけてなんとか止まる。
 こいつが他の相手と付き合うところを想像して、嫌な気分になったのだ。
 今のところ、それはないはず。大丈夫だ。
「まずはあれだ。服装から変えていく必要があるかもな」
「え?」
 俺は彼女の全身を上から下に順に眺めやった。
 無地のブラウスにジーンズ。体にフィットして活動的な華乃にはよく似合っているが、
ファッションとしては簡素にすぎる気がする。
「いつもジーンズ着てるよな」
「んー、そんなことはないと思うけど」
「スカートとか着ないのか? ワンピースとか」
 それを聞いて華乃の口元がUの字をうっすらと描いた。
「ほほーう、涼二クンはスカート姿をお望みかね」
「ちょっ、なんだその嫌な笑みはっ」
「いやいや、なるほどねー」
 華乃は腕を解くと、ブラウスの裾を軽くつまんだ。
「これくらいの軽い服装の方が、重くなくていいんだけどね。でも涼二がそう言うなら着て
みてもいいかな」
「別に俺は、」
「前にメイド服姿をご所望だった憶えがありますけど?」
「……」
 閉口するしかない。

911:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
10/10/31 02:15:35 4JZnHj+f
「男ってどうしてそんなにスカートが好きなんだろうね。今からの時期は寒いだけだよ」
 華乃はおかしそうに笑う。
「……スカートはともかく、シンプルすぎる服装はどうかと思うって話だ」
「涼二だって同じようなものじゃん」
 自分の服装を顧みる。ジーンズにジャケットを合わせた格好は、いかにも普通の組み
合わせだ。
「上着いっつも黒だし。もっと色合いを考えてさー」
「と言われてもな」
「無彩色ばっかり。たまには明るい色とかどう? 赤とか黄色とか。私の見立てでは
オレンジが似合いそう」
「そうか? なんかイメージしづらい」
 自分の容姿や服装のバランスを客観的に見るスキルは、俺には備わっていない。
だから色も無難なものを選んでいる。
「いや俺よりお前の話だよ。好きな奴にアタックしたかったら、もう少しおしゃれした方が
いいんじゃないか?」
 すると、華乃はぐっと顔を強張らせた。
 はっきり傷ついた表情を見て、俺は口をつぐむ。
 華乃はふいっ、と視線を前に戻す。
 前方に駅前の踏み切りが見えてきた。カンカンと鳴る音が響いてきて、遮断機が降り
ていく。
 俺たちは無言のまま歩く。
 踏み切りの前で止まったとき、華乃は言った。
「私は、別に告白する気はないよ」
 音に負けないようにだろう、やや張り上げた声だった。
「……なんで?」
 俺もまた大きな声で訊き返したが、それは単純に驚いたせいでもあった。
 練習って言ったじゃないか。
「いいの。私は今でも十分満足だから」
 華乃の表情は平静そのもので、ひどく落ち着いていた。先ほど見せた動揺も収まって
いる。
 その内心を推し測るのは難しかった。いくら幼馴染みといっても、心まで見透かせる
わけじゃない。むしろわからないことだらけで、俺は戸惑ってばかりだ。
 ただ、その顔は、
「私は……あなたが」
 電車の音が言葉をさえぎった。
 十両編成の車両が目の前を轟音とともに駆け抜けた。空間を突き抜けるような衝撃が
空気の震えから伝わり、思わず身を引いた。腹に響く振動は、電車の質量を実感させる
ように重い。
 特急だったのか、電車は駅には停まらず、そのままホームを通り過ぎていく。
 音が過ぎ去ると、またのどかな町の空気が戻ってきたような気持ちになった。耳に
微かに金属音が残っている。
 華乃は遮断機が上がるのを穏やかに見つめ、それからゆっくりと歩き出した。
「……華乃?」
 さっき何か言いかけたように思ったのだが、気のせいだろうか。華乃は俺の呼びかけに
「ん?」と反応したが、何も言い出さない。
「あ、いや……」
 うまく訊き返せず、俺は口ごもってしまう。
「変な涼二」
 おかしげに微笑む彼女の表情は、いつもと同じように柔らかかった。


912:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
10/10/31 02:16:57 4JZnHj+f
 
 商店街は線路を越えた反対方向にある。
 基本的に食料品・日用品などの買い物はここで済ませるが、アレが置いてあるのは
コンビニや薬局だろう。この辺りに薬局はあっただろうか。
「ゆっくり回ってみればいいんじゃない」
 華乃の適当な提案にうなずき、とりあえずぶらぶら歩き続けることにした。
 日曜日ということもあってか、スーパーへの買い物客が多く見られた。しかし商店街
全体で見ればそこまでにぎわっているわけではない。寂れているというより、のんびり
した空気が漂っている。靴屋、金物屋、米屋に八百屋、様々な店舗が建ち並んでいたが、
そちらにはあまり客は入っていない。何か作業をしながら、隣人同士で談笑していたりも
する。のどかな町並みだ。
「雑貨屋に置いてあったりするかな?」
 古本屋の隣にある店に目を向けながら、華乃はぽつりとつぶやいた。
「いや、どうなんだろう。というか、このあたりは全然わからん。スーパーにしか行かないし」
 帰り道、たまに買い物を頼まれることがあるのだ。
「入ってみようよ」
 華乃は楽しそうだ。
 そんな彼女を見ていると、不意に懐かしい思いにとらわれた。
 小さいころは二人でいろんなところに出かけた。小さな町の近所に限ったことでは
あったが、小遣い片手によくお菓子を買いに行ったものだ。
 家々の隙間や知らない道を一緒に歩くのが、妙に楽しかった。
 その思い出が穏やかな空気に交じって頭に流れ込んでくるような、そんな気分だ。
 促されて雑貨屋へと足を向ける。
 入口の前には花が並んでいた。中に入ると少し空気のこもったような埃っぽい匂いが
した。どこかで嗅いだことがあるように思えるのは気のせいだろうか。食品やお菓子
類は保存の利くものばかりで、カップラーメンやクッキーがそれなりに多く陳列していた。
奥には文具と事務用品が並び、隅の方に電池やカセットが置かれていた。
 俺たち以外に客の姿はなかった。たぶん近くのスーパーに客を取られているのだと思う。
「あ、これ懐かしい」
 声に誘われて見ると、ビスケットの入った袋が華乃の手にあった。一つ一つがアルファ
ベットの形をしたもので、昔よく食べた憶えがあった。
「食べ始めると止まらなくなるのね。だから涼二よく怒られてた。憶えてる?」
「……いろいろ言われたな。あまり食べ過ぎないようにしなさいって注意されたけど、
つい、な」
 節分の時に落花生を食べるのにも似た感覚だ、あれは。特別美味いわけでもないの
だが、中毒性があった。
「でも子どもはみんな好きだと思うよ。こういうお菓子」
「かもな」
「うん。これ買おう」
 華乃はそれだけを持ってレジに向かう。
「おい、他にはいいのか?」
「ざっと見た感じ、アレはないみたいだし、いいよ」
 とはいえ、俺は異性と付き合った経験が舞いので、アレの入った箱というものをじっくり
見たことはないのだが。ぱっと見でわかるものなのだろうか。一応見回してみたが、確かに
それっぽいものはなかった。絆創膏と湿布薬の箱が無造作に置かれてあるだけだった。
 俺はシャーペンの芯が残り少ないのを思い出して、それを買った。レジにいた店番の
中年女性は愛想のいい顔を見せていたが、あれはひょっとしたら俺たちみたいな若い
客が物珍しかったのかもしれない。
 今度からここに寄ってみるのも悪くない気がした。
 

913:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
10/10/31 02:18:57 4JZnHj+f
 
 しばらく二人で適当にぶらついた。
 目的のものはそっちのけで、いろいろなところを回った。節操なく冷やかして、何も買わ
ずに店を出る。それだけでなんとなく楽しかった。華乃の隣にいることが居心地よかった。
 思えばそれは久しぶりのことだった。最近の俺は華乃の隣にいることに気まずさばかり
感じていて、それをどこかで疎ましく思っていたのかもしれない。
 華乃は楽しそうに微笑んでいる。それは俺の知っている昔からの笑顔に限りなく近かった。
 大人になった分だけ、差異が出ているのかもしれない。俺たちは昔のように一緒になって
近所を走り回ることができない。
 それでもこうして一緒にいるのは、やっぱり仲がよかったためだろう。いくら幼馴染み
でも、普通は同棲まではいかないと思う。
 いつから俺はこの幼馴染みが好きだったのだろう。
 はっきり意識したのは同棲し始めたここ最近だが、それ以前からもなんとなく「いい」
とは思っていた。
 昔から華乃は明るいやつだった。活発というよりは快活な女の子だったと思う。はっきり
ものを言う性格だったし、俺に対しては遠慮も少なかった。その一方で細かい気遣いも
できる奴だった。
 一言で言えば、かっこよかったのだ。
 別に運動が人一倍できたり、成績が抜群に優れていたわけではない。俺よりは優秀
だったが、それもまあ並の範疇に収まっていたと思う。
 ただ、華乃はいつも堂々としていた。
 自分というものをはっきり持っていたのだろう。何かに流されたり、負けてしまったり、
そういうことがほとんどなかった。
 小学生のとき、クラスのいじめに正面から立ち向かったこともあった。俺は華乃に加勢を
したが、教師を介さずに解決させた辺り、華乃はいじめ側にも公平に動こうとしていたに
違いない。
 小林華乃は、つまりはそういうやつだった。
 自分の中に確かな芯を持っていて、それがぶれないでいる。
 どうして彼女がそうあったのかは知らない。しかしそれは同年代の中で少し違って
見えた。それが俺の目にとてもかっこよく映っていたのだ。
 俺は普通だ。自分でもそう思うし、周りもそう見ていたと思う。華乃はよく「涼二は優しい
よね」と言ってくれたが、それは褒め言葉じゃない気がする。
 だからだろう。彼女が他とは違うように見えて、それに憧れた。元はそんな幼心が理由
なのだろう。
 今でも基本的に彼女は変わらない。そんな彼女に、俺は今恋をしている。


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