調教や洗脳などで悪の奴隷になるヒロインpart35at EROPARO
調教や洗脳などで悪の奴隷になるヒロインpart35 - 暇つぶし2ch95:INHUMAN
10/02/20 17:13:49 Wan8Bflt
ちょっと、あんたたち!!
こんなスレッドを立てて非人間的だと思わないの!?
そのうち削除依頼を出して、
消してもらうつもりだから、
覚悟してなさいよね!!

さあ、潰れるざます!
逝くでがんす!
フンガ~!!
まともに潰れなさいよ~!!


96:名無しさん@ピンキー
10/02/20 20:15:25 dpEzyqPr
ここまでブレイブストーリー無し

97:予定調和
10/02/20 22:09:43 Ma3l+j9N
火曜日に投下したSSに目を通してくださった方々、ありがとうございます。
エロシーンに該当する部分は投下のペースから考えて1ヵ月後くらいの投下になりそうです。
さくっと堕としてさくっとエロのSSのほうが需要がありそうですが、前回での主人公の発言通り
ねちねちと正義サイドを虐めて弱らせながら堕としていくのがこのSSの中心となります。合わないと思った方はNGで。

前回の粗筋
悪サイド、反撃開始。

それでは続きをどうぞ。

98:予定調和
10/02/20 22:14:48 Ma3l+j9N
私の地元は街灯もあまりないため夜になるとかなり暗くなる。駅前ですら寂れていて全く賑わっていないので、
黒の一族が住み着くには最適だったのだと今更になって気がついた。都会だと人目が多くて狩りもしにくい。
でも、それは月夜女様のように力が弱くて、自分たちが狩られる側でもあったときの話だ。一方的に狩る側に回ってしまえば、
そんなことは考えなくてもよくなる。それだけの力があれば、あいつらのことなんて気にする必要はないのだ。
真面目に試験を受けるのも馬鹿馬鹿しいので、テスト期間中はこの力についての理解を深めていた。
今までは空間転移、透明化、治癒くらいしか使ったことがなかったから、他にどんなことができるのか把握していなかった。
頭の中に知識としては入っていても、実際に使ったことのない部分のほうが多かったのだ。
どうしてこんなに便利なものを最初から使おうと思わなかったのだろう。
最初から遠慮なく使っていればわざわざ勉強なんかして大学に入る必要もなかったし、月夜女様も死ななくて済んだのに。
誰か仲間が欲しいと思った。もし世界が私に跪いても、1人だと手に余る。
いや、関係が対等な仲間じゃない。私の言うことを何でも聞いてくれる、下僕が欲しい。魔眼で洗脳したような操り人形じゃなくて、
黒の一族の手下。どうせ手下にするなら親しい間柄がいい。となると、まずは霊ちゃんかしら。
「ただいまおかけになった電話番号は、電源が入っていないか、電波の届かない……」
仕方がない、霊ちゃんは後回しでいいや。メールじゃなくて、久しぶりに声が聞きたいし。えーっと、次は……次は……次……
アドレス帳にはたくさん友達のアドレスが登録されているのに、改めて連絡を取ろうと思える友達がいなかった。
小学校卒業と同時にここに引っ越して、新しい中学校では周りは幼稚園からずっと同じメンバーで排他的だったから馴染めなかった。
勉強やスポーツで頑張ればどうにかなると思ったがそれは逆効果で、嫉妬からか露骨に冷たい態度をとられることもあった。
私は普通に皆に認められようと思っていただけなのに。
高校だと霊ちゃんと春香ちゃんにべったりで他の人とあまり仲良くしなかった。
そのときは不自由しなくても、せめて同じソフトボール部の人とはもっと仲良くなっておくべきだったのかもしれない。
春香ちゃんは多分会ってはくれないだろう、状況が状況だし。
「ねえお姉ちゃん、聞いて聞いて!うちの部が全国に行くことになったんだよ!」
「へえ、すごいじゃない。うちの部ってそんなに強かったっけ?」
「実は今年から三鷹っていう先生が赴任してきてね、その先生めちゃくちゃバスケが上手いの!教えるのも上手だし、
 何より『生徒に勝たせてあげたい』って思いがこっちまで伝わってくるっていうか……それに振る舞いがびしっとしててカッコいいし!」
要するに、きちんとバスケの経験があって指導力のある先生が顧問についた結果というわけね。
「それとね、これはもう聞いたかもしれないけど、今年のソフト部は2回戦敗退だったらしいよ。エースの人が怪我しちゃったとか」
「ふーん」
「それとさ、通学路にあるあの本屋が潰れて困ってんだよねえ……ひょっとしてお姉ちゃん、今日帰ったばっかりで疲れてる?」
空間転移で一気に帰ったのだから、疲れているはずがない。
「蘭、大事な話があるんだけど」
「え?ど、どうしたの、急に改まって」
「私ね、魔法が使えるようになったの」
「……えっと、冗談だよね?」
「冗談かどうかは自分の目で確かめてみて」
物質創造―テスト期間中に練習を重ねて、なんとか服くらいなら自在に作れるようになった。
力を手に入れたときには既に存在は認識していたが使い方が難しい上、
対価を払わずモノを手に入れるという行為に後ろめたさがあったから使わなかったのだ。
私はその力を使い、蘭の着ている服を変えてみた。純白のワンピース。
装飾のごてごてしたドレスはたまに失敗することがあるが、この程度ならもう楽勝だ。
「おおおー、本当だ。これさえできれば服買わなくても済むし、すごいよお姉ちゃん!」
「じゃあ今度は別の魔法を試すから、もっと近付いてくれる?」
ある程度蘭が近付くのを待ってから、私は椅子から急に立ち上がって蘭に抱きついた。
さあ、蘭……今から私が生まれ変わらせてあげる。
<ちょっとお姉ちゃん?……痛っ?!今度は……何の、魔法なの?声が、出せない……>
<それはね……蘭を黒の一族にする魔法だよ!! >
蘭の首に噛み付いて口が塞がっているので、頭に直接話しかける。
<黒の、一族?何、それ……嫌、私、そんなのになりたくない!離して!>

99:予定調和
10/02/20 22:18:49 Ma3l+j9N
ここからが肝心だ。月夜女様が私に力を与えてくださったときは、心はそのままで力だけ強引に押し付けた形になり、
覚醒に随分と時間がかかった。本来ならば、心を砕き、溶かしてドロドロにして、力を受け入れやすい形に再構成しないといけない。
一旦魔眼で先に私への隷属意識を縫い付けてからなら心の再構成は確実に成功するがそれは二度手間だし、
こうやって力を流し込むと同時に心を変容させていったほうがより早く力が体に馴染む、と月夜女様が叩き込んでくれた知識にある。
<大丈夫だから、そんなに怖がらないで。ねえ、蘭。この力を使うとね、世界征服も夢じゃないのよ>
<世界、征服?はは……お姉ちゃん、漫画じゃないんだからさあ……冗談はよしてよ>
蘭と会話を交わしながら、力を全身にじっくり浸透させていく。焦る必要はない。ゆっくり時間をかければ失敗しないはず。
<だって通常兵器は効かない、対策部隊も歯が立たないなんて、無敵以外の何者でもないでしょう?
 せっかく邪魔者が誰もいないんだったら、好きに暴れてみたいと思わない?>
もしかしたら世界には私に対抗できる勢力があるかもしれないが、少なくとも日本の中には私を阻むことができるものはいない。
ただ、世界征服は最優先の目的ではない。いかに晴川を苦しめるかが第一で、世界征服はその目的のための包囲網みたいなものだ。
<お姉ちゃんが他にどんな魔法を使えるのか知らないけど、そんなことしたら困る人がいっぱい出てくるよ。
 いくら自分が1番強いからって、していいことといけないことがあると思う>
<そんな弱者なんて私に何もかも搾取されるか、玩具にされてればいいんじゃない?どうして私がそんなことまで気を配らないといけないの?>
どうせぴいぴい文句を言うことしかできないのだ。そんなのは気にする必要がないし、目障りなら煮るなり焼くなりどうとでもできる。
私に歯向かったところで何もできやしない。
<酷いよ、それ。お姉ちゃん、どうしちゃったの?昔はそんな自分勝手じゃなかったじゃない……>
<昔は力がなかったから、自分勝手に出来なかっただけよ。
 それにね、蘭。その困る人に蘭が含まれるのなら、私は蘭にも同じことをしないといけないわ>
<え?>
<私に歯向かっているのだから、当然でしょう。でも自分の妹にそれは気が引けるから、
 一緒に世界を支配する側に来ないかって言ってるの。悪い提案じゃないでしょう?>
<う……うーん……>
蘭は何を迷っているのかしら?いつもべったりだった私とずっと一緒にいられる。強大な力も手に入る。
悪いことは何もない、いいことずくめじゃない。
<蘭は私のことが大好き。それは間違いないわね?>
<う……ん……>
<私も蘭のことが大好きよ。もちろん恋愛感情とか変な意味じゃなくて、妹としてね>
私のこれまでの行動から蘭への愛情は十分に伝わっていると思うが、
こうしてはっきり口に出すと自分の妹に愛の告白をしているようで恥ずかしい。
<お姉……ちゃん……>
蘭の意識が朦朧としてきたのがわかる。蘭の心が無防備になり、奥の柔らかいところが露になる。
<ぼうっとしてきた?気持ちよくなってきたでしょう。そのまま、ぼんやりしたままでいいんだよ……>
<んん……>
蘭の頭を優しく撫でて、反応が鈍くなったのを感じて背筋がゾクリとする。あともう一押し。
<蘭なら、私と一緒に来てくれるよね?>
<……やっぱり、お姉ちゃんは裏切れないよ>
頭がぼうっとして何も考えられないままの蘭から、心の奥底の言葉を引きずり出す。
<お姉ちゃんと2度と会えなくなるのは嫌だから、ついていくよ>
蘭のその選択は自由意志であるようで自由意志でない、鎖つきの自由意志。
<よかった。やっとわかってくれたのね>
力を受け入れる速度が上がっている。もう黒の一族である私を怖がることもない。蘭が自分から私の頭を自分の首に押し付けてくる。
<ずっと、こうしてたい……>
これまでも何かと私にべったりだった蘭だが、ここまで甘えられるのも久しぶりだ。最初に堕とすのを蘭にして本当によかったと思う。
<このまま、時間が止まればいいのに>
<そういう胸焼けしそうな甘い台詞は止めなさい>
<お姉ちゃん、ムードぶち壊しだよ……>
その甘い言葉とは裏腹に、蘭の心は手で直接触れられないほどに鋭く尖り、硬く、冷たく、原型を思い出せなくなるほど歪な形に変えられていた。

私はようやく蘭の首から口を離し、全身が弛緩した蘭をベッドに横たえる。体も十分に冷え切っていて、これならすぐに覚醒が始まりそうだ。

100:予定調和
10/02/20 22:22:58 Ma3l+j9N
「あれ、もう終わり?」
「そうだけど、もっとして欲しかった?」
「なんか全身がすーっと冷えていって、心の底から凍えて、私が私じゃなくなるような不思議な感じがしてとっても気持ちよかったよ。
 うーん、何て言うんだろ?例えようとしたけどそれっぽいものがないなあ……」
普通の人間に擬態していた変身を解く。既に黒の一族への警戒心は取り除いてあるので、蘭が怖がることもない。
「わあ、綺麗な翼……これって飛べるの?」
「もちろんよ。最初はちょっとコツがいるけど、そんなに難しくなかったし」
「最初は黒の一族が何なのかわからなくて怖がっちゃったけど、異形の怪物になるわけじゃないし、
 これなら普通の人間と大して変わらないじゃん。……暑いからクーラーつけよっか」
ベッドから立ち上がった蘭の顔は紅潮していて、汗ばんですらいた。
「暑いの?」
「うん。体が火照ってるみたいで。これってさっきの魔法の副作用?」
「そうね、そろそろよ」
「え、何が……ぐ……」
蘭が膝を折って床に手を付きぶるぶると震え始めた。なるほど、きちんと手順を踏めばこんなに早く覚醒するものなのね。
「はあっ、ああ……暑い、体が熱いよ……し、死にそう……」
「大丈夫、私のときもそうだったから。もう少し我慢して」
「あ」
そのとき、蘭の背中から服をビリビリに突き破って真っ黒な翼が生えてきた。大きさも私のものと全く変わらない。
「ふふ……これが私の翼かあ……えへへ」
蕩けた顔で生えてきたばかりの翼を撫でる蘭の手は爪が鋭く尖っていた。
目も先ほど三鷹先生について語っていたときのようにきらきらした輝きは失われ、紅い色で氷のように冷たい印象を与えた。
「彩―!蘭―!ご飯よー!降りてきてー!」
階下から親が呼ぶ声が聞こえる。黒の一族である私たちは普通の人間と同じ食事をとる必要はないが……。
「ちょっと、この力試してきてもいい?」
「命を粗末にしたらダメよ」
「殺すなってこと?えーいいじゃん、どうせいても邪魔なだけなんだし」
少しは躊躇いってものがないのかしら。あんなに大好きだったのに。自分を育ててくれた大切な親でしょう?
ああ、でも私も蘭のこと言えないか。
「違うわよ。殺してもいいけど、一撃で即死させるなんてもったいないことはするなってこと」
「なーんだ、そういうことならいいや。お姉様はやらないの?」
「せっかくだし、蘭に2人ともやらせてあげるわ」
しばらく蘭のワンピースが血に汚れていく様を眺めていたが、どうも手加減ができていないらしい。
ついさっき力をあげたばかりだから、それも仕方ないが。これからゆっくり経験を積んで、私の僕にふさわしくなってくれればそれでいい。



時を同じくして、霊華は途方に暮れていた
「参ったなあ。ケータイなくすとか……悪用されたらどうしよう」
また電話帳にアドレスを登録し直さなければならない。同じ学部の人、サークルの人、バイト先の人……はどうにかなる。
問題は今すぐ出会えない人。高校の友達とか……。
「地元に帰ったら久しぶりに遊ぼうってあーやと連絡とろうと思ってたんだけどなあ。
 まあ、クラス会は夏休みにやるって言ってたし、そのときに訊けばいっか!」

そのクラス会は2度と開かれることのないことを、今の霊華が知るはずもなかった。



黒の一族やホワイトウイングに関する情報が世間に全く漏れていないことを考えても、
晴川が警察やマスコミに何らかの操作を加えていることは明らかだった。
数えられる程度の業界の実力者を抱き込めば発信してもらいたくない情報を封殺することなど簡単なのだから、
まずはそれを逆に利用してあいつらを追い詰める。庶民感情の犯罪への憎悪や覗き見趣味を煽れば、立派なメディア・リンチの完成だ。
それに一旦火が付けば、あとは放っておくだけであいつらの情報も丸裸にできる。

101:予定調和
10/02/20 22:27:44 Ma3l+j9N
この戦いの目的は勝つことだけじゃない。勝つのは当然。どれだけあいつらを苦しめられるかが問題だ。
反省の言葉は要らない。反省したところで月夜女様を殺した事実が消えるわけではないから。
これからずっと、一生、罪を背負い続けるの。

8月下旬の午後7時ならば太陽は沈んでから時間があまり経っておらず、外はまだ十分に明るい時間だ。
その最中、恰幅のよい男が駅前で街頭演説をしていた。
「ぜひとも私、寺岡銀一朗に清き一票を……なっ、何だね君たちは!?」
大きな翼を広げて優雅に選挙カーの上に降り立った姉妹を見て、男は目を丸くした。
「あれ、おじさん私たちのこと知らないの?ダメだよ、最近のニュースくらいはチェックしとかないと」
「ちょっとそのマイク、私に貸してくれないかしら?」
一見選択肢が与えられているようで、拒否することは許されていない問い。
「まさか君は……月夜女姫!?ひいっ、命だけは助けてくれ!」
「ほんとに命だけでいいの?富と名声と健康を毟り取られてもまだ生きたいなんて、根性あるなあ」
「……」
全てを失い放浪する自分を想像したのだろうか、男は言葉を発することができずに青ざめている。
「蘭、やっちゃっていいよ。でもマイクは汚さないでね」
「ふふ、名前答えられたからサービスで楽に逝かせてあげるね、おじさん」
蘭がニヤニヤしながら素早くマイクを奪い取り、鋭い爪で男の喉を抉る。夥しい量の返り血で蘭の服はべとべとに汚れるが、
元々黒いキャミソールにロングスカートも黒だったので汚れはあまり目立たない。駅前の喧騒が一気にパニック一色に染まる。
「いいですかー皆さん。こうやって楽に逝けるのはすごく珍しいことだから、期待したらいけませんよー。はい、お姉様」
「今から1時間後に人・物を問わず無差別破壊をします。範囲は大体半径10キロ。巻き込まれたくない人はここから10キロ以上離れなさい。
 ……もっとも、10キロ離れたからといって身の安全は保障しませんけどね!アハハハハッ!!」
私がこうやって暴れる前に人を避難させるのは、無駄に人間を殺さないようにするからだ。
逃げ惑う人間を一気になぎ払うのも面白いが、いつもそれをしているとあっという間に人間がいなくなる。
人間がいなくなると私の精力を吸う相手もいなくなるからそれは困る。
足が竦んでしまったのだろうか。OLらしき人物が人気のなくなった交差点の真ん中でガタガタ震えている。
あのくらい怖がっていれば精力もかなり美味しくなっていることだろう……蘭もいないし、先に食べてしまおう。
「あうーーーっ!」
「あーっ!お姉様、摘み食い?!『1時間は人間を襲わない』って決めたのお姉様でしょ!ずるーい!」
ちっ、見つかったか。
「いや、この人があまりにも美味しそうだったから……つい」
「じゃあ私も貰う!」
「……そんなにがっつかなくても、分けてあげるわよ」
私だって最初は人の精力を啜ることに抵抗があったのに、蘭といえば覚醒してすぐに両親の精力を吸い尽くすほどに飢えていた。
味をしめた蘭は近所の人も無差別に襲い始めたので、人間がいなくならないように私がルールを決めたのだ。
無計画な乱獲は種の絶滅を早めるから避けなければならない。1時間で半径10キロだと、逃げ遅れた人間がそこそこ出てくる。
もし逃げられても範囲外にいる安心しきった人間を襲うだけ。もちろん蘭には内緒だ。

夜の闇を否定したいかのようにどんどん点けられていく照明を適当に壊していたら、予告していた1時間が過ぎたようだ。
ここからしばらくの間は蘭と別行動をとることにしている。2人でいるといつも獲物の取り合いになってしまうからだ。
それにしても、いくら私たちが全国を転々として暴れまわっているとはいえ、あいつらが全く反撃してこないのが気になる。
もう諦めたか、策を練っているのか。隠れていても事情を知らない人から臆病者と罵られ、私にボコボコにやられても多方面から非難の嵐。
どちらにしても詰んでいる。ここからどう動くのか楽しみで仕方がない。
力を存分に振るったせいで廃墟と化した元市街地を、女が足に包帯を巻いた男に肩を貸して歩いていた。
逃げ遅れたのだろうが、女のほうは男を置いて逃げれば助かっただろうに。つくづくお人好しな人物のようだ。
「もう少しで安全地帯ですから、頑張りましょう!」
「赤の他人の僕にここまでしてくれるとは、本当に申し訳ない。この礼は必ずさせてもらいます。お互い生きてここを抜けられたらですけど」
いきなり正面に回りこみ、2人の驚く顔を眺めようと思ったが……ん、この顔はどこかで見たことがある……?
「しまった、見つかった!」
「え……ど、どうしよう」

102:予定調和
10/02/20 22:31:20 Ma3l+j9N
「お前……もしかして、東さん?」
場の空気が凍る。あれ、やっぱり他人の空似だった?
「そういうあんたこそ……天道さんね?」
やはり間違いない。高校のときに私が徹底的に叩き潰してやった東典子だ。こんなところで出会うとは、世間は狭い。
「今のうちに私を置いて早く逃げてください」
ただの怪我人に興味はない。今はこの女を再び嬲ることができるという興奮で頭がいっぱいだった。
顔があのときほどやつれてないということは、あれから立ち直ったのかしら。
「久しぶりね東さん、元気にしてた?」
「私をどん底に突き落とした本人がよくもまあ……テレビで見たときになんとなくあんたに似てると思ったけど、
 まさか同一人物だったとはね。珠子を狂わせたのもあんたの仕業でしょ!」
「珠子?誰それ?」
「あんたを虐めてた北乃珠子さんよ!彼女、一人暮らしを始めてすぐに重度のホームシックになって、毎日高校で異常行動を起こすから、
 今は精神病院で軟禁されてるらしいわ。それも今の化け物になったあんたの姿を見れば納得だわ」
ああ、確かいたっけ、そんな人。こいつから言われるまですっかり忘れていた。
「北乃さんには実験体になってもらったのよ。すっかり忘れてたけど」
「実験体……?人の人生を壊しておいて、何とも思わないの!?」
この女は何を必死になっているのだろう。自分だって羽虫の1匹や2匹潰したところで何とも思わないくせに。
「そうね、あえて言うなら『因果応報』かしら?」
「どう見ても優等生にしか見えなかったあんたが、こんなえげつないことをしてるとは信じられないわ」
典子は足元に転がっている手ごろな大きさのコンクリートの破片を拾い、ぽんぽんと軽く上に投げた。
「生憎このくらいしか武器っぽいものがないけど、これでも当たれば結構痛いはずよ!」
刺々しい破片は一撃で致命傷を与えることは難しくても、打撲による戦力低下は十分に見込める武器だ。
弾数もここなら申し分ない。この女のコントロールも悪くない。
ただしそれは私が普通の人間だったときの場合だ。コンクリートの破片は闇界障壁に阻まれ、乾いた音を立てて地面に落ちた。
「え……何今の……」
「ククク……アーハッハッハ!ああおかしい。そんなくだらないモノで私を傷付けられると思ったの?」
目に映るこの女の追い詰められた表情が、これからの食事の最高の調味料だ。
「お前じゃ、私に敵わない。身の程を知りなさい」
口の端に冷笑を刻みながら、私はこの女の首を鷲掴みにしてそこに指の爪を食い込ませた。



月夜女姫がいる位置からそれほど離れていない地点では、蘭が若いカップルを見つけていた。
美男美女とまではいかないが、2人とも付き合いが長いのか垢抜けた容姿をしている。
「ごめんなさい……私が忘れ物を取りに行きたいって言ったばっかりに……」
「落ち着け弓子、まだ殺されると決まったわけじゃない」
「そうそう、まだ諦めるのは早いよ。私には言葉が通じるんだから」
もちろん、言葉が通じるからといって話が通じるわけではない。全ては蘭の気分次第だ。
「私の言うことに貴方たちが素直に従ってくれたら、命だけは助けてあげてもいいよ」
ニタニタ笑っているその顔を見ると嘘である可能性も大いに考えられる。しかし他の選択肢は用意されていない。
「えっ、ほんとに?」
「まずは2人の名前を教えて欲しいな」
「大谷弓子です」
「……叶野善治だ」
「ふーん。じゃああなたたち2人にやってもらいたいことは……大谷さん」
「私?」
蘭は何もない空間から抜き身の刀を生成すると、2人の前に放り投げた。
目立った装飾がないのに高級そうなオーラを纏ったそれは、岩石さえも斬れそうな煌きを有している。

「この刀で叶野さんの喉を突き刺して」

2人以上で逃げている人間を見つけた場合に、蘭がいつもしていることだった。カップルの場合は必ず女に男を傷付けさせる。
男女ともにいい反応が見られるのでこの催しを蘭は毎回楽しみにしていた。

103:予定調和
10/02/20 22:34:54 Ma3l+j9N
「え……善治……」
「弓子、いいんだ。俺はお前のためなら死ねる」
「おおっ、カッコいいねえ」
こんなに引き裂きがいのある絆は久々だよ、と2人には聞こえないように蘭はつぶやいた。
「でも、首を突き刺すなんてしたら善治が死んじゃうよお……ぐすっ」
「ああ、そこは心配しないでいいよ。たくさん人を殺してきてわかったんだけど、
 大量出血にさえ気をつければ、喉を刺されてもそう簡単には死なないはずだから」
「私たちが助かる道は、それしかないんですよね……善治、ごめん……」
喉を刺してもすぐに死なせないというのは本当だ。
蘭は満足する量の精力を吸い取ってもまだ息が通っていれば約束どおり生かして帰すつもりでいた。
こうして愛し合う者同士が傷付けあう図というのは何度見ても飽きないほどに美しい、と蘭は2人の姿に見蕩れていた。
しかし弓子は構えたままで一向に動こうとしない。
「……ダメ!私には出来ない……無理よ」
弓子が刀を足元に落としてしまうと、善治が駆け寄り抱きついてよしよしと頭を撫でている。何とも模範的な彼氏さんだと蘭は感じた。
「なあ、月夜女姫の妹さん。俺が自分で喉を突き刺すのはいけないのか?」
「それじゃあ見せ物にもならないじゃん。ただの自傷行為なんて面白くも何ともない」
「そうかよ……じゃあ、これであんたの喉を突き刺したほうが手っ取り早いかもな!」
地面に落ちた刀を拾い上げ、そのままの勢いで蘭に踊りかかる。蘭の喉元目掛けて突き出された刀は、先端が欠けて淡い紫の壁に突き刺さった。
「なっ、見えない壁が……」
思わず蘭と目を合わせてしまった善治は、その顔に浮かぶ怖いくらいの笑顔に腰が引けてしまう。
「ねぇ、私今とっても機嫌がいいの……だから特別に正しい人の愛で方を教えてあげる」
腰が引けたまま、あまりの恐怖に声も出せなくなった。間違いなく2人とも殺される。
弓子を守らなくてはいけないのに、善治は蘭の目の前から足が一歩も動かせなかった。
「邪魔」
善治を軽く振り払った蘭は、ゆっくりとした足取りで弓子に近付いていく。
「い、いや……来ないで……」
弓子は尻餅をついたまま怯えた表情で後ずさろうとするも、すぐに蘭に顎を掴まれてしまう。
「ちょっとの間、私のお人形さんになってもらうだけだよ。意識も感覚もそのままにしておいてあげる」
つまり、自分の意図しない動作が全て自分のやったこととして記憶に刻まれるということだ。
「ほら大谷さん、私の目を見て」
「あっ……」
泣きじゃくっていた弓子の目から涙が引いていき、感情が削ぎ落とされていく。数秒も経たないうちに虚ろな表情を善治に向けていた。
「じゃあ貴方にはこれを。重いから落とさないようにね」
先に生成した質素な刀とは全く異なる、禍々しい装飾が大量に付けられた諸刃の大剣が弓子の両手に握らされた。
普通の女性には手に余る代物ということが一目瞭然だが、眉をピクリとも動かさずに弓子はその剣を善治に向けて構えた。
「叶野さん、だっけ?早く彼女を解放してあげないと、火事場の馬鹿力の使いすぎで壊れちゃうよ」
「この……外道が!弓子、目を覚ませ!」
「……」
弓子は善治の言葉を完全に無視し、無言のまま大剣を横に薙ぎ払った。
振り回す大剣を刀で受けようとした善治だが、防御しきれずに吹っ飛ばされてしまう。刀が折れなかっただけでも幸運だった。
「くそっ!なんて力だ、パワーが違いすぎて受けきれん!」
「男と女だもの、そのくらいのハンデがないと平等じゃないじゃん。それに呼びかけても無駄だよ。聞こえてはいても返事ができなくしてあるからね。
 さて大谷さん、これから自分のすることをよーく覚えておいてね。あとで感想を聞かせてもらうから」
急所を狙わず、敢えて四肢を狙って攻撃してくる弓子の斬撃に善治の体力は瞬く間に奪われていった。
「やばいな、これは……」
振り下ろした大剣が地面に突き刺さると、それまで感情の起伏を封じられていた弓子の顔が初めて苦痛に歪んだ。
「ぜ……んじ」
「弓子、意識が戻ったのか!」
足をふらつかせながらも弓子に近付き両肩をがっしりと掴んで激しく揺すり善治は呼びかけたが、
返ってきたのは蚊の鳴くような小さな声だった。

104:予定調和
10/02/20 22:42:42 Ma3l+j9N
「これ、以上……善治を、傷付けたくない、から」
蘭の呪縛に抗い懸命に言葉を紡ぐ弓子の姿に、善治は胸が熱くなる。
リミッターを外していた反動が一気にきたのか、今の弓子は善治よりも疲れきっていた。
「あいつめ、弓子になんてことしやがる!」
自由に口がきけるうちに、これだけは伝えておかなければならない。
弓子はその一心で、思うように動かない頭を振り絞って善治に自分の意思を伝えた。
「わたシを、ころシて」
「は?何言ってんだ弓子……そんなの、できるわけないだろ!」
「ありゃあ、ちょっと術のかけ方が甘かったかな。お姉様みたいに上手くやるにはもっと練習がいるかも」
瓦礫の山の頂に座って2人の様子を眺めていた蘭が、翼をはためかせながら側に降りてくる。
「退いて」
蘭は自分より背の高い善治を片手で突き飛ばすと、再び弓子の顔を覗き込む。
小刻みに震えていた剣を持つ手がしっかり固定されたのを確認して、蘭はにっこりと微笑んだ。
「勘違いしてるかもしれないけど、この術は私が死んでも解けないよ。彼女が死ぬか、私が自分から術を解くかの2つだけ。
 貴方が死んだら術を解いてあげるけど、そうしたら彼女がどんな反応をするか、わかるよね?」
「なあ、1つ訊いていいか」
「別にいいけど、何?」
「俺たちはあんたの因縁の相手でもないし、あんたを狩るホワイトウイングでもない、ただの一般人だ。
 それなのにどうしてこんな残酷な仕打ちをする?」
「理由?そうだねえ、お姉様に『命を粗末にするな』って言われたのもあるけど、やっぱり1番の理由は……」
蘭が嗜虐的な笑みを顔面いっぱいに貼り付けて口にしたその一言は、2人の心を粉々に打ち砕いた。
「滑稽だからよ」
善治の瞳には、救いようがないほどに堕ちた悪魔の姿が映っていた。





「晴川さん、聞こえますか?」
「どうした、黒松?」
「月夜女姫を視界に捕捉しました。現在若い女性を捕食中で無防備ですが、どうしますか?」
「全員合流するまでその場で待機。前回5人がかりで敵わなかったんだ、単騎突撃は自殺行為に等しい」
「できるだけ早く来てくださいよ。『月夜女姫の妹』の目撃情報もありますし、合流されると今度こそ勝ち目がありませんからね」
「ああ、努力する」





この続きは次回までゆっくりお待ちください。

105:名無しさん@ピンキー
10/02/21 08:08:51 E02EIZkw
畜生、全裸は寒いんだぞ!

106:名無しさん@ピンキー
10/02/21 08:15:09 7GKQP223
SSを書いてみたのであげてみます。
URLリンク(www1.axfc.net)
>>97さんのすぐ後で申し訳ないですが……
パスは「oti]です。


107:名無しさん@ピンキー
10/02/21 14:14:33 sU+el2mT
嘘のようで本当にあった「漫画・アニメ・ゲーム」の展開ってスレで
538 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 13:30:53.17 ID:NM+oJFqbO

>>1
イナズマイレブン乙

仲間が闇落ちした→まさかの逆洗脳する


ってレスがあった
どんな展開だよ

108:名無しさん@ピンキー
10/02/21 14:32:45 s6JlePuu
>>107
・全国大会優勝
・学校に帰る
・宇宙人に学校が破壊されてる
・宇宙人相手に完敗
・宇宙人を倒すために史上最強のチームを作る旅に出る
・その過程で新たな仲間の加入とケガで離脱していくチームメイト
・宇宙人の総本山へ攻め込む
・宇宙人正体判明、最強の「ザ・ジェネシス」を倒す
・学校に帰る
・宇宙人の黒幕の補佐役の暗躍により離脱していった仲間たちが「ダーク・エンペラーズ」へと覚醒
・サッカーで味方全員KO状態(イナズマならよくあること)
・試合終盤に「みんな思い出せ」「サッカーやろうぜ」により逆洗脳
・世界大会編突入(今ココ)

109:名無しさん@ピンキー
10/02/21 14:58:33 rOxPVqyK
>>106
この司書さんは、勇者一行の子孫だったりするのかな

それはそうと、差し支えなければ、ロダに上げるよりも、スレに投稿された方が良い気がします。
ロダはいずれ消えてしまうので、後日になってスレのログを遡った人は、見ること9が出来なくなってしまうし、
ファイルをDLするとなると警戒する人もいるだろうから、読者が減ってしまうかと。

逆に、まだ推敲段階なので、ずっと残しておきたくないとかの理由で、敢えてロダを使われているのかもしれませんが。

110:INHUMAN
10/02/21 15:41:10 5gsrOuz3
ちょっと、あんたたち!!
こんなスレッドを立てて非人間的だと思わないの!?
削除依頼を出して消してもらうかどうか、
分からないけど覚悟してなさいよね!!

さあ、潰れるざます!
逝くでがんす!
フンガ~!!
まともに潰れなさいよ~!!


111:名無しさん@ピンキー
10/02/21 19:30:21 eR1DSWxD
コンシュマーゲームってお、これは!っていうものがあっても
物語の進行上元に戻って結局妄想で保管すること多いよね・・・

どこのメーカーでもいいから悪堕ちのまま終わるようなの出してくれないかな・・・

112:名無しさん@ピンキー
10/02/21 19:43:42 d7TfyMmk
ニッチすぎてそんなの売れんわw ラングじゃダメなの?

113:名無しさん@ピンキー
10/02/21 20:14:01 RBLiP39+
ジュエルペットで主人公(女)が操られて敵のボスと結婚式を上げさせられる展開になってるんだが
主人公がDQN過ぎてそのまま敵に回ったほうがいいんじゃねと思ったりしちゃうのがなんともなぁ・・・

ちなみにうつろ目あります
URLリンク(apr.2chan.net)
URLリンク(apr.2chan.net)
こんなの

114:名無しさん@ピンキー
10/02/22 00:10:40 DibdrhaO
>>111
つ「バハムートラグーン」

115:名無しさん@ピンキー
10/02/22 00:13:48 gDDNdzQ0
>>113
GJ!

116:名無しさん@ピンキー
10/02/22 02:17:04 LRP8wGEy
>>114
それは悪堕ちというか・・・
NTR・・・

117:名無しさん@ピンキー
10/02/22 07:29:14 GaxU/3rC
天外4、ルナ1、エストポリスetc
ヒロインがラスボスになるRPGは結構あるんだが殆どそのまま死なないのがなぁ

118:名無しさん@ピンキー
10/02/22 08:57:26 makSCuVE
サガフロ1のメイレンは、ラスト直前(本当に直前)で抜けて、
そのままラスボス化という鬼畜の所業をしてくれたな。
一軍で使ってると、先発メンバーがそのまま空いてしまうという。

結局エンディングで正気に戻るけど、
殺したいと思ったプレイヤーも少なくないだろうな。

119:名無しさん@ピンキー
10/02/22 09:15:47 QDMVJYrU
RPGじゃないが選択肢次第でヒロインがラスボスになると聞いてアイマスDSをちょっと思い出す

120:INHUMAN
10/02/22 10:40:30 zrtoeO/B
ちょっと、あんたたち!!
こんなスレッドを立てて非人間的だと思わないの!?
削除依頼を出して消してもらうかどうか、
分からないけど覚悟してなさいよね!!

さあ、潰れるざます!
逝くでがんす!
フンガ~!!
まともに潰れなさいよ~!!


121:名無しさん@ピンキー
10/02/22 12:09:44 Nnq55Qbr
>>120 が悪堕ちさせてもらいたがっている腐女子にしかみえない。

122:名無しさん@ピンキー
10/02/22 12:14:12 DibdrhaO
>>118
それいったらサガフロ3もだな

123:名無しさん@ピンキー
10/02/22 12:23:16 zrtoeO/B
>>121はスルー

124:INHUMAN
10/02/22 12:25:39 zrtoeO/B
>>120の修正

ちょっと、あんたたち!!
こんなスレッドを立てて非人間的だと思わないの!?
削除依頼を出して消してもらうかどうか、
分からないけど一応の覚悟はしてなさいよね!!

さあ、潰れるざます!
逝くでがんす!
フンガ~!!
まともに潰れなさいよ~!!


125:名無しさん@ピンキー
10/02/22 12:50:29 55rT5lNx
>>118
ゼノギアスのエリィさん…
装備品返してくれお(`;ω;´)

126:名無しさん@ピンキー
10/02/22 12:51:23 nhdW0AIx
>>122
ひょっとして、ロマサガ3の事か?

127:名無しさん@ピンキー
10/02/22 13:17:41 qcpXQTjy
アンリミテッドサガのことか

128:名無しさん@ピンキー
10/02/22 16:42:43 M9OOMfGm
メトロイドのダークサムスとか怖いつの!
GCだかのDOOMタイプだかは悪堕ちがあるとか聞いたけど
DOOMとか駄目なんだよなぁ

129:名無しさん@ピンキー
10/02/22 19:35:50 8mgXDMCe
>>107に書いてあったスレ見てたら、

640 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 15:39:35.78 ID:yUJh3rpQO
ヒロインが覚醒してラスボス化
倒したら主人公にヒロインが取り憑いて発狂
主人公が妹と弟をムシャムシャ

642 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 15:41:48.17 ID:FfFZ1RMS0
>>640
ディスガイア2?

っていうのがあったのが凄く気になる

130:名無しさん@ピンキー
10/02/23 00:41:57 TpW6MRlN
URLリンク(www.nicovideo.jp)
>>129
ニコ動にそのEND動画あるよ

131:名無しさん@ピンキー
10/02/23 01:22:51 quyrbJbF
ディスガイアってああいうの好きだね
3でもヒロインが生徒会に捕えられて人格改造されかけるし
未遂に終わったけど

132:名無しさん@ピンキー
10/02/23 08:32:48 ScdLZ+F1
>>131
文面だけ見るとすごくよさそうに思えるがズベ子はどうしてもエロに繋げん…

133:名無しさん@ピンキー
10/02/23 09:22:26 +kq6XFYD
奴隷になることってあんまり無いよね。
エロゲはともかく。

134:名無しさん@ピンキー
10/02/24 01:28:46 Qu9IY0/w
>>117
ヒロインがラスボス化して死亡というと魔装機神やニルファがあるけどどっちも憑依系だからなあ

135:名無しさん@ピンキー
10/02/24 07:20:10 hmJd3PAT
ガキの頃見たファンタジー形のアニメだったと思うが、洗脳、と言うか堕落って感じだったが
主人公と相思相愛だったヒロインがラスボス選んで最終話付近で殺されて、でも
「○○様のためなら云々」
とか発言して主人公号泣するシーンはかなり衝撃的だったな

歳は十八 心当たりある方教えてくれ

136:名無しさん@ピンキー
10/02/24 07:45:39 rpwgcsGH
Zガンダムのレコア(嘘)

137:名無しさん@ピンキー
10/02/24 14:52:40 lpoEpF9G
10年前後前でファンタジー
すごいよマサルさんとかか

138:名無しさん@ピンキー
10/02/24 15:40:50 2BqliCKd
>>135
ヴァイスクロイツ アニメ版?
ちょっと違うか・・・

139:名無しさん@ピンキー
10/02/24 16:29:45 9r+5PLAC
らいむいろ?

140:名無しさん@ピンキー
10/02/24 16:42:06 b6amXx95
ロードス島戦記英雄騎士伝 1998年
魔探偵ロキRAGNAROK 2003年
勇者指令ダグオン 1996年
アークザラッド2 1999年
スターオーシャンEX 2001年
コレクターユイ 1999年
神風怪盗ジャンヌ 1999年
犬夜叉一期 2000年

一応…このスレで洗脳操り憑依で近い年代調べて該当しそうなのはこんな奴だが。
M.C.Collectionさんで調べてwikiで打ち込んだけど>>135みたいなのは知らないなぁ…
言っているシチュエーションだけ見ると美味しいしスレ住民が見逃すはずないのだが…

141:名無しさん@ピンキー
10/02/24 17:15:55 hmJd3PAT
うーん、地上波だったと思うんだけどなぁ

まさかの再放送とかケーブルテレビとか
ガキの頃ケーブルテレビなんかあったっけ…

142:名無しさん@ピンキー
10/02/24 18:40:38 s9fdPwWo
ファンタジーの世界観をもっと詳しく

143:名無しさん@ピンキー
10/02/24 19:31:08 AHrtDmue
サクラ大戦だったりして
ていうか最近すぎてわかりづれぇw

144:名無しさん@ピンキー
10/02/24 19:48:03 9r+5PLAC
X4じゃねぇよな……流石に……

145:名無しさん@ピンキー
10/02/24 20:43:38 XQSwiMNq
マシュランボーかな?
洗脳シーンなかったっけ

146:名無しさん@ピンキー
10/02/24 21:08:31 uNmaplK7
>>143
TV版サクラ大戦には殺女は出なかった気が
上にも書いてあるらいむいろかと思うがあれファンタジーじゃないよなぁ

147:名無しさん@ピンキー
10/02/24 22:18:58 guoSIPnq
サクラ大戦モノの調教や洗脳ネタって同人誌でも意外と少なかったよな……。
ネタとしては美味しいはずなのに。

148:名無しさん@ピンキー
10/02/24 22:26:14 O3FiN/m6
>>145
あるにはあったけどアレ男が対象でしかも未遂じゃなかったっけ?

149:名無しさん@ピンキー
10/02/25 00:02:07 lpoEpF9G
ID:hmJd3PAT
ケーブルなら普及してたよ
再放送も含めるとよほど大昔のでなければプラス5年、今から20年前くらいまでが範囲?
・アニメ
・ファンタジー
・ヒロインが裏切るみたいな展開
・そのヒロインは死ぬ
・「~様のためなら云々」&主人公号泣

80年台ものまで遡らないとだめか・・・


150:名無しさん@ピンキー
10/02/25 00:38:38 /gdXfdjm
その頃だと135がまだ産まれてないんじゃ
再放送とかかもしれんが
後、ここというよりNTRスレの方が発掘しやすいかもしれんな…そういうシチュは

151:名無しさん@ピンキー
10/02/25 00:49:45 CxtzghEg
時代とか抜きにすれば逆転イッパツマンがそんな感じじゃなかったかしら

152:名無しさん@ピンキー
10/02/25 01:13:43 SRw3aqYS
いや、タイムボカンシリーズならあの頃再放送してても不思議じゃない気がする
もちろん地域にもよるだろうが、あるかも

153:名無しさん@ピンキー
10/02/25 02:43:05 rYO1P+/p
アニメじゃなくてラノベなら狗狼伝承がそれっぽいのかなあ
というかやっぱりNTRスレのほうが探しやすそう

154:名無しさん@ピンキー
10/02/25 07:11:35 Uk90FrBC
ラノベだったら「わたしの勇者様」とかあるけど
相思相愛ってわけじゃないしな…

155:名無しさん@ピンキー
10/02/25 07:17:19 FSofW3aB
エクセルサーガ見て勘違い
...無いな。

156:名無しさん@ピンキー
10/02/25 08:35:39 JqsrPhae
サイレントメビウス・・・?

157:名無しさん@ピンキー
10/02/25 09:11:48 zABUtYgB
ジェットマン…と思ったがこれはアニメじゃなかったw

158:名無しさん@ピンキー
10/02/25 12:29:55 Uk90FrBC
カテジナさん…

は、そもそもラスボスだしな…

159:名無しさん@ピンキー
10/02/25 12:31:24 Uk90FrBC
あと、熱沙の覇王ガンダーラとかは?

160:名無しさん@ピンキー
10/02/25 13:25:21 IonTSG/q
リューナイト?

161:名無しさん@ピンキー
10/02/25 14:01:03 vaPu0JXw
年代と何かの名前が分かれば・・・
URLリンク(lain.gr.jp)
この中から探して見てくれ

162:名無しさん@ピンキー
10/02/25 14:33:19 vD3whDY7
昔のだから、複数作品が記憶の中で混ざってしまってる可能性もあるでしょ。

163:名無しさん@ピンキー
10/02/25 15:57:13 uDNjB1gu
そういやアニメのドラゴンクエストって、ヒロインの女がバラモスに協力したの?
最期の方を見逃してたけど、女戦士だかもバラモスの手下だったかとか聞いた気もするし
バラモスを倒せたんだろか?
あと、ウテナだかチュチュだかとかも見逃してるんだよね

164:名無しさん@ピンキー
10/02/25 16:32:38 8MlLy15i
ドラクエは・・・と言う話だったのさ(AAのポカーンENDじゃないの

165:名無しさん@ピンキー
10/02/25 16:53:28 2pYNzeII
>>163
第二部で出てきたアドニスって男剣士の間違いじゃないか?
最後はバラモス倒して終わり

>>164
それは打ち切りの第一部
その後で続きの第二部やったんだよ
あまりにも第一部の最後がひどすぎてAAになったりしてるけど

166:名無しさん@ピンキー
10/02/25 17:11:05 VezNi9qW
レイアース(第1部)・・・・・・・なわけないか

167:名無しさん@ピンキー
10/02/25 17:43:04 cHSY7mpw
ドラクエの第一部の最後はわりと最近見たんだけど
そこだけ知らなかったから大いにふいた

168:名無しさん@ピンキー
10/02/25 20:23:12 8XAvqzQt
三国伝のラスボスこと天司馬さんは珍しいタイプだよね
邪神の魂と融合した割には闇に喰われて身体を乗っ取られるんじゃなく。事実上の制御に成功して大暴れだし

普通なら利用してるつもりが逆に利用されていて、精神を喰われて異形変化の後に悪堕ちなのに

169:名無しさん@ピンキー
10/02/25 20:35:09 MvbD0sFA
>>135がもの凄く気になる
>>161も見てみたけどヒロインが死ぬってのは結構少ない
ヒロイン以外の女キャラも含まれるのか
TVシリーズの再放送だったか、OVAっぽかったか
結構重い作風だったか、ロボやら巨神兵みたいなのは出て来たか
記憶を頑張って辿って欲しいw

「死ぬ」ってあたりからウィンダリア、マーメノイド、エルハザード、シュラト・・・この辺がぱっと思い浮かんだけど






170:名無しさん@ピンキー
10/02/25 20:41:13 Qbocd5FP
ヒロインが最終回直前で堕ちる…

ライト&ダーク?

171:名無しさん@ピンキー
10/02/25 21:40:23 MKW8p7pd
>>135
ウテナじゃね?

172:名無しさん@ピンキー
10/02/25 22:01:49 5vl+0L4g
次のポケモンレンジャーって悪の結社が洗脳機械使って世界を管理統合しようってストーリーみたいだ


対象はポケモンだけど

173:名無しさん@ピンキー
10/02/25 22:39:50 /MoStr8N
擬人化なら逝ける…かも
割とそういうネタあるっぽいし

174:名無しさん@ピンキー
10/02/26 01:58:17 vo6OERH6
>>163
一応当時見たはずだがそんな展開あったっけ?
たしか最序盤でヒロインがメダパニかけられて秘密をしゃべる…
みたいなのはあった気がするけど

175:名無しさん@ピンキー
10/02/26 06:38:57 NZBnGCYZ
女性が悪者になった姿を貼るスレが復活してたな。

176:名無しさん@ピンキー
10/02/26 07:17:22 7zdZKNUv
>>175
kwsk

177:名無しさん@ピンキー
10/02/26 19:46:16 NZBnGCYZ
「みーんな、なかーま」から行ける

178:名無しさん@ピンキー
10/02/26 20:05:52 Ma4C/aC8
ぐぐればいい話じゃね?

179:名無しさん@ピンキー
10/02/26 22:31:44 jwfedemh
♂勇者が魔王に性転換させられた挙句堕とされるって同人ないかな

180:名無しさん@ピンキー
10/02/26 23:31:25 TfZMXmaE
>>135の話で、昔なつかしの
「ライブアライブ」の中世編(アリシア姫)を思い出してしまった。
アニメじゃないから絶対違うんだけど。

181:名無しさん@ピンキー
10/02/27 00:26:11 rzoo2AaC
ヤマトタケル、じゃないよなぁ。

182:名無しさん@ピンキー
10/02/27 02:40:46 kQNEWe9b
ふたつ以上混じってると思う
レイアース第一部とあと何か別のと

183:名無しさん@ピンキー
10/02/27 03:34:32 2vsKUjT6
ヤマトタケルて最後姫死ぬんだったか?

184:名無しさん@ピンキー
10/02/27 03:51:49 RlQTbdw1
>>135
黒シスターのやつじゃね?
クロノクルセイドとかいうやつ

185:名無しさん@ピンキー
10/02/27 06:27:48 4du6YpVL
>>184
タイトルではぴんと来なかったから絵とかググれば見つかるかね

186:名無しさん@ピンキー
10/02/27 13:03:14 mPG+cG4M
クロノクルセイドではヒロイン元に戻って殺されてないんじゃ?

187:名無しさん@ピンキー
10/02/27 14:50:09 mkeLg2Uf
質問ですが、東方の悪堕ちシリーズはこのスレ的に大ヒットですよね?

188:名無しさん@ピンキー
10/02/27 14:51:41 bArhbNR4
別に

189:名無しさん@ピンキー
10/02/27 15:06:52 muJ23mYo
俺は大好物だが東方は荒れるから黙っとけ

190:名無しさん@ピンキー
10/02/27 15:21:05 NN7zOnbn
当方、東方はまったく触ってないからわからないけど
東方は荒れるから怖い。
コミケとかで辟易したし。

191:名無しさん@ピンキー
10/02/27 15:31:31 KF0EwEnJ
そこまで汚物のようにさけることもなかろう
悪堕ちはただでさえマイナーなジャンルだし


192:名無しさん@ピンキー
10/02/27 16:15:47 Fh3muRP7
流れをぶった切って久々に洗脳シーンを堪能したいんだが、誰かロイヤルブラッド2の女性捕虜データ持ってたら上げてくれないか?


193:名無しさん@ピンキー
10/02/27 16:19:37 WDyujOhc
流れをぶった切って著作権侵害のアップ依頼かよw

194:名無しさん@ピンキー
10/02/27 16:44:51 4VnRuWIp
墜ちたな・・・

195:名無しさん@ピンキー
10/02/27 17:21:24 4du6YpVL
なんて高度なギャグなんだ…

196:名無しさん@ピンキー
10/02/27 17:31:08 DgvpkiEs
ふふふ

197:名無しさん@ピンキー
10/02/27 18:23:13 yfr9Czkw
東方の悪落ちいいよねー!

198:名無しさん@ピンキー
10/02/27 18:28:23 mORJVtRU
192は乞食神だとおもふ
もんじゃ焼き

199:名無しさん@ピンキー
10/02/27 18:59:50 pOJVOG5g
突然すいませんが、SSを投下させていただきます。
洗脳装置系の話になっていく予定です。今回はオープニングで。


200:インストール
10/02/27 19:04:27 pOJVOG5g
 窓一つない、冷たいコンクリートの壁に囲まれた部屋。
 その部屋の中央に、一脚のベッドが設置されていた。牢獄に近い空間の中に、肌触りのいいシーツ、キングサイズの豪華なベッドは、あまりに不釣り合いだ。
異彩を放っている、と言ってもよい。
 だが、この場で真に異彩を放つものがある。
 それはきらびやかなベッドの上にあった。
「あ……あああ……」
 シーツの上で仰向けになり、声にならないうめき声を上げる女性。
 両手足は、鋼鉄の枷でベッドにつながれており、一足たりともベッドから離れることができない状態。
 衣服は何も身に着けていない。全裸だった。
形のいい、釣鐘型の胸は、激しく上下運動を繰り返し、槍のように鋭くとがった桃色の乳首は、冷たい空気に反応してか、かすかな震えを見せていた。
 膝を天に突き出し、股でMの字を形作るその格好で、下腹部の黒々とした茂み、またその奥にある女の秘境を、一切隠すことなく外部に開放していた。
 彼女は、すっぽりと頭部を覆う、暗い紫色をしたヘルメットをかぶせられていた。
 頭頂部に備えられた赤いランプがまがまがしい。
「あ、あ、あ……」
 頭部のヘルメットが隠すせいで、呻きを上げ続ける彼女の表情を窺い知ることは出来ない。
 身ををよじり、膝をもじつかせ、ベッドシーツを強く握りしめる手から、彼女の表情を推測せねばなるまい。
 ぽた、ぽた。
 静かに、一定のリズムで刻む音がある。
 彼女のすぐそばの、機械制御式の点滴台から滴る薬物の音。そこから彼女の首筋にかけて、極細ながらも上部なチューブがつながっていた。
 鎖よりも弱い素材ではあれど、このチューブも彼女にとっては、自らを拘束し続ける枷の一つに数えられるものであった。
緩やかだった彼女の動作が、だんだんと激しいものに変化していく。腰が持ちあがり、上下に激しく振られる。
 そのたびに鎖の擦れ合う、じゃらじゃらとやかましい音が部屋中に響く。漏れる声も、だんだんと大きく、高く、淫らに変化していく。
「あああああっ!!ひっ!!いいいい!!!」
 呻きはいつしか悲鳴となった。左右に激しく振り乱す頭。限界まで開かれた口。何かから逃げようとでもするかのような、身のよじり。
 乳房は左右上下、思い思いの方向へ動きまわる。
 あらわな股間の口から、とろとろと流れる温かい液体。止まらないヴァギナの痙攣を、外からでも見てとることができた。
 さらに声は高く、高く上りつめる。動作もますます激しさを増した。頑丈な枷が頼りなく見えるぐらい、彼女の乱れようは半端なきものだ。
 ベッドにいるのは人ではなく、盛りの吠え声を上げ続ける獰猛な獣ではないかと思わせるほどに。
 身体が震える。震えは激しく、ケイレンと呼ぶに値する反応へと姿を変えた。
「いやああああああ!!」
 コンクリートに反響する、絶叫。性感が限界を越え、荒々しいオーガズムを呼び起こす。 
 10数回目に及ぶ、「女の悦び」は、先ほどまでと同じように、性感体への接触を通じることなく、全てがヘルメットから与えられる暗示の力によって呼び起こされたものだ。
 肉体に触れずにオーガズムを引き出す、俗に「エナジー・オーガズム」と呼ばれる悦楽の最境地は、彼女を一匹のメスへと変えるのに、十分すぎるものだった。
 1分を越える、狂悦の絶頂の叫びの後、突然、糸が切れでもしたかのように、女は声を止め、身体を弛緩させた。半開きにした唇の端からは、口内にたまった唾液があふれ出し、
 下の陰唇からも、熱い液体がとめどめもなく流れ落ちる。彼女の心身の虚脱とともに、ヘルメットの赤いランプは、しばらくの点滅の後、静かに消えた。女陰が、ヒクリ、と動き、液体を垂れ流す。シーツのやらしい染みがさらに拡げられた。
 この部屋にはもう一人、ベッドで狂う女を見つめる人物がいた。
 ベッドの脇の椅子に座り、テーブル上に広げたノートパソコンを見つめる、白衣の研究者然とした女。可愛く束ねたポニーテール、冷たく光る銀色の眼鏡。
 彼女が向かっているノートパソコンは、端子を通じて、ベッドの上で拘束されている女のヘルメット、そして投与を繰り返す点滴台につなげられていた。
 彼女は冷静な声で言う。
「大分、抵抗も弱くなったわね。いい調子よ」

201:インストール
10/02/27 19:07:20 pOJVOG5g
画面上に映るのは、女性のかぶったヘルメットから送信される、脳波のデータ。
 一定の感覚で波打つ緑色の線が、彼女の精神の揺らぎを指し示している。
 白衣の女性が、マウスをクリックすると、現在の作業の進捗状況を現す数値が現れた。「23%」
 思ったよりも早い。白衣の女性は静かにほくそ笑んだ。ベッドでよがり狂いながら、
 シーツを必死につかみ、はしたなく声を上げる、美しき「お嬢様」は、中々教育熱心のようだ。
 データを見ながら、白衣の女性は、パソコンに多色に光るCDを挿入した。そして、パソコン横に置かれたマイクに向かって報告する。
「プログラム番号・3番に移行します」
 ゆっくりとパソコンに飲み込まれていく、3枚目のCD。パソコンはすぐにデータを認識し始めた。
 女が操作していくと、すぐにパソコンは「洗脳プログラム」を起動させ始めた。
 プログラムは、端子を通じて黒紫のヘルメットへと流れ込む。それを受けてヘルメット頭頂部のランプは、再び凶悪な赤色に灯り始めた。
 脳に直接流れ込むプログラムは、彼女の深い眠りを無理やり覚醒に導き始める。
「い……や……」
 虚脱状態だった女性の口から、僅かな抵抗の言葉が漏れる。だが、既に長時間プログラムの沼の中で「調教」を受けてきた彼女は、耳に注ぎこまれる、一定の周波数の音を感じ取るとすぐに、抵抗をやめて、意識を研ぎ澄ませ始めた。
 点滴台から再び、人間の理性を麻痺させ、自我を浸食する催眠薬、通称「ピュアハート」が滴っては、彼女の体内に染み込んでいく。
 しばらくして、ヘルメットから流れる音のトーンが変化した。音は、耳から脳へ、そして体全体へ巡り、彼女の快楽中枢を煽ってゆく。
 
「はあ……」
 溶けるように、熱く、淫らな響き。それが、彼女が洗脳プログラムに身を委ねた合図だった。
 ゆっくり、ゆっくりと、身体を駆け巡る性感。ちりちりと身を焼く興奮。
 彼女は再び、暗示を心に刻み込み始めた。当人には意識は無い。
 だが、快感に身をくすぶらせながらも、徐々に、今まで築き上げてきた人格が壊され、別の誰かとしてプログラムされていく自身を、心の奥底で感じずはいられなかった。


202:インストール
10/02/27 19:11:04 pOJVOG5g
「どうですか、先生。いい感じに仕上がってきていますよ。あなたのお嬢様は」
 製薬メーカー、「ヤマイメディカル」の社長室。社長の山居は、手をぶるぶるとふるわせ、苦渋を舐めるような表情を眼前の男に向けていた。
「どうしたのですか。折角、御社が開発なさった麻薬を使って、麗子嬢を喜ばせて差し上げているのに」
「麻薬ではない!!」
 怒りをぶつける山居の声に、男は大げさに、驚いて見せた。 
「これは、これは……ははっ。先生らしくもない」
「『クリア・ハート』は催眠導入剤だ。このような、恐ろしいことに利用するものでは……」
「言い方が悪かったですか。ではこう言いましょう。―ドラッグ、ヤク、『ピュアハート』。はははっ。
 御社の技術力は大したものですな、先生。私の発明した洗脳教育プログラムは、ピュアハートなくしては完成しないのですからね」
 愉快そうに笑いながら、男の目は、テレビ画面に注がれていた。映るのは、ベッドで裸体をさらす山居社長の令嬢、麗子。
 そして、プログラムを遂行する―。
「アンリ、先生はもっと自社の薬の力を見たいそうだ。もう少し投与してやれ」
 手元のレシーバーを口元に寄せて、男は言った。邪悪な意思に染まる瞳を「先生」に向けて。
「やめろ!」
 狼狽し、突進してきた山居を軽くいなして、男は言った。
「これは先生らしくない。私を今どうこうしても、麗子嬢は戻ってくるどころか、その無骨な手をかすめて行ってしまうだけですよ。
 たとえ、私を拷問したとしても、お嬢様の居場所を知ることは不可能であることは先に言ったでしょう」
 画面内では、マイクに向かって語りかける白衣の女、アンリが一言、〈0.2グラム投与〉と、冷たい報告を口にしていた。
 アンリがパソコンを操作し始めると、隣のベッドであられも無い姿をさらし、ヘルメットから送信されるプログラムによって「教育」を受ける麗しき令嬢の様子が、僅かに変化を見せ始めた。
〈ア―アアア―〉
 令嬢の声がどこか機械的な、抑揚のない声に変化した。投与された薬が、プログラムと深く結びつき、効果をさらに高めた。結果、彼女はさらに深いトランスに導かれ、無感動な人形へと変えられていったのだ。
 それでも、与え続けられる性感を感じるだけの意識はとどめているのだろうか。それとも、体が心とは別に、勝手に反応しているにすぎないのかもしれない。
 麗子嬢は、鎖につながれた中で出来る最大限の動作で、体に堆積し続ける澱のような性感に、ただ耐えていた。 
 現地から遠く離れた社長室のモニタからも、その異様な光景ははっきりと見ることができた。
 男が持つモニタのリモコンを操作すると、画面の拡大・縮小、音量調整、視点変更と、好みの設定に変更することができる。臨場感ある映像を見せつけられる山居の精神は、ずいぶん前から疲弊していた。
〈ア!……ヒッ、ヒッ!〉
「麗子っ!」
 愛娘の悲鳴に心を乱されながらも怒りに肩を震わせる山居を見据えて、男はさらにたたみかける。
「さあ、先生。何度も言いますよ。お嬢さんをあなたとは全く縁のない『別人』に変えたくないのでしたら、早く用意してくださいよ。
 何、先生なら簡単なことだと確信しているからこそ、こう何度もお願いしているのではないですか」
 街の象徴となって久しい、リンテンビルディング、その最上階での出来事である


203:インストール
10/02/27 19:12:13 pOJVOG5g
オープニングは以上です。改行等、読みにくくなってしまいすいません。

204:名無しさん@ピンキー
10/02/27 19:22:47 1vHJKISK
頑張ってくださいね。
続き楽しみにさせていただきます。

205:名無しさん@ピンキー
10/02/27 20:58:21 rmN7PsPV
麗子の堕ちっぷりに期待。続き待ってます。


206:名無しさん@ピンキー
10/02/27 23:38:21 tEsQXTlR
無限のフロンティアに笛の音で他人の意識を操るキャラが出てきたぜ
一戦闘すれば正気に戻るから足止めにしか使えないようだけど
モチーフはハーメルンの笛吹きかな

207:名無しさん@ピンキー
10/02/27 23:56:12 BwRZCc6J
> お嬢さんをあなたとは全く縁のない『別人』に変えたくないのでしたら、早く用意してくださいよ。

『別人』に変えて欲しいと思ったのは私だけではあるまい。

208:名無しさん@ピンキー
10/02/28 00:10:28 90bDe3nf
>>206
発売前に公式のキャラ紹介見て期待してたが、
さすが旧バンプレの中の人はわかってるな
角煮のbsmhスレによると外見の変化がないらしいんで少々がっかりだが

209:名無しさん@ピンキー
10/02/28 00:55:54 LGmP6HWm
>>174
あれメダパニなのかw
喋るというか、記憶を探られてる感じだったな。

ヨギの爺様やらアリアハンの王様は喋らされてたが
女性が全くノータッチだったのが残念だった。

210:名無しさん@ピンキー
10/02/28 04:16:55 bR4WNmnQ
Magical☆Girlっていうところが出してる同人ゲーの新作で
第一作目のヒロイン二人が悪堕ちして出てきたので一応報告
ただ尺がかなり短い(Hシーン1つしかない)ので
悪堕ち目的で買うのはあまりおすすめしないけど・・・

211:名無しさん@ピンキー
10/02/28 10:11:54 ztK1AmDy
>>135
真夜中の探偵 ナイトウォーカー
主人公が吸血鬼で、ラスボス戦で瀕死になったヒロインを吸血して命は救ったものの
ヒロインはどんどん病んでいく……

……という夢オチだった。
別に敵に寝返ってはいなかったしちょっと古いから違うだろうけど
主人公号泣で思い出した。

ラストがアッーーな展開で俺も号泣した。

212:インストール
10/02/28 21:50:35 kZXfpOPT
先日に続いて、SS「インストール」を投下させていただきます。
今回は催眠成分がありますが、エロはありません。
前回はオープニング、今回で1話目になります。

213:インストール
10/02/28 21:52:07 kZXfpOPT
 病院内の丸椅子に腰かけてはいるものの、古鳥舞実が行っているのは受診ではなく、とある事件に関する捜査だった。
 だが、彼女の子供っぽい外見のせいで、どうも雰囲気にしまりがない。
「催眠剤……ですか」
 目の前に座る女医は、白衣の上に聴診器をかけていた。あごに軽く手を当てた格好で、考えるそぶりをしていた。
 どこかのんびりとした、優しいお姉さん然とした人だ。
 ここが診察室ではなく、病院の先生達が短い休憩をとる仮眠室である筈なのに、白衣の人と向かいあっているだけで、
 診察を受けているような気分になってくるのはなぜだろう。白衣が患者に与える影響は大きいという話は本当なのだなと、漫然と舞実は思った。
 催眠剤は危険性があるのですか?それが先ほど舞実が女医にした質問である。
 捜査中の事件に、期待の新薬として名高い、催眠剤「クリアハート」が関わっている可能性があると、本部から指令があったため、
 古鳥捜査官はこうして病院に足を運び、専門家の意見を仰いでいるのだ。
 あごに当てた手を離し、女医は再び話し始めた。
「催眠剤に関わらず、どのような薬も使いすぎれば毒ですからね」
 女医は、ポケットから小さな紙の箱を取り出した。「クリアハート」。半年前に、病院で広く使われるようになった新薬である。
「これなんかもですね、やっぱり、過ぎると毒ですよ」
 言葉を続けながら、彼女は箱の中から1枚の銀紙を取り出した。錠剤が6つ、封入されている。
「私たちが患者さんに渡すのは1つだけですね。これはメーカーさんからも強く言われていることでして」
 どこかのんびりとした女医の声は、患者さんに安心感を与えるのだろうなと感想を心で述べながら、舞実は尋ねた。
「このクリアハート、具体的にはどのような作用があるのですか」
「効果はですね、脳の神経系に働きかけて、不安や興奮を抑えるのが主ですね。
 飲むと、1分ほどで身体の緊張がほぐれて、心もとてもリラックスできる状態になります」
 17歳、優秀なる事件捜査官。なのに、未だに診察室では落ち着くことができなくなる舞実には、それは夢の新薬に思えた。 
「それとですね。副作用で、ちょっとだけ、眠くなったりしますね。ほんの少し、まぶたが重くなるぐらいですか。
 それぐらいのかる~い眠りです」
 女医の聞くかぎり、それほど怖い薬ではなさそうだ。催眠と聞くと、どうしてもテレビで見るような、
 操り操られの世界を思い浮かべてしまう。例えば、恥ずかしいことをぺらぺらと喋らされたりとか。
 女医が、かる~い優しい声で続ける。
「クリアハートが使用されるようになるまでは、鎮静催眠薬を使用していたのです。これも、クリアハートと同じような、
 緊張感を和らげ、不安を取り除く作用を持っています」
「効果は同じなのですか?」
「ほとんど変わりません。ただ、用法が違いますね。鎮静催眠薬は主に不眠治療に使いますが、クリアハートは催眠療法に使うのです」
 そこで女医は舞実の前で大きく伸びをした。
「ごめんなさい、昨日あまり寝ていないものですから」
 仮眠室を借りての意見交換は酷だったのだろうか。
 気になさらずにと女医は続けた。
「他の病院さんでもそうではないですかね。クリアハートを不眠治療に使うと言うのはあまり聞かないですから」
「でも作用は同じですよね」
「効果は同じでも、効きかたがまた違いますね。この新薬のほうが、鎮静催眠薬よりも、
 より深いリラックス感を患者さんに与えることができます。でも睡眠の方面には効果が薄いです」
 再び言葉を切る女医。今度は腕時計を見始めた。
「すいません、忙しいみたいなので後日……」
 舞実が申し訳なさそうに言うと、女医はもっと申し訳なさそうに「ごめんなさい、特に意味はないのです」と返した。
 小さく咳払いをしたあと、女医は続けた。


214:インストール
10/02/28 21:52:35 kZXfpOPT
「催眠療法を患者さんに適用するのに大切なのは、まずある程度の信頼関係を築くこと、そして緊張をほぐしてあげることですね。
 この新薬は、その内の、緊張感をほぐす効果があるのです」
「信頼関係が大切、ですか」
「医療は患者さんと信頼しあうことから始まるのです。特に『催眠』という分野に関しては、テレビで放送されます、
 催眠ショーのイメージがありますから、誤解される方もおりまして。なかなか、信頼感を持つことは難しいです」
「え、テレビで大人が子供みたいになったり、動物のようになったりするのは、あれはただの演技ですか?」
 舞実の言葉に、女医は少し困ったような苦笑いを見せた。
「いえ、あれも催眠の力で出来ることの一つです。でも、あれは受け手が心の中で与えられる暗示を『許可』しているからできることなんですね。
 催眠状態は、意識を失って、簡単に操られる状態を指すのではないのです。意識はちゃんと、はっきりしていますし、誘導者の声も理解できます。
 ですから、催眠状態にあっても、嫌な暗示をはねのけることも可能です」
 一つ誤解を解いた上で、舞実は質問を変えた。
「事件の被害者はどんな状態なのでしょう?クリアハートの大量摂取が原因なのだといわれていますが」
 舞実の質問に、女医は先ほど見せた、あごに手を当てる格好をとる。小説の名探偵が、難しい事件を推理する時にみせる格好みたいだ。
「どうでしょうね。大量に薬を投与されるとああなるものなのかな?私たちは容量を守っていますから……」
「今のところ、クリアハートはまだ店頭販売は禁止されていましたよね。裏の市場では、ダウナー系のドラッグとして出回り始めているようですけれど。
 たしか、「ピュア」という名前だったかな」
「依存性はないようですけどね~」  
 舞実が捜査している事件は、女性ばかりが何日間か行方不明となった後、昏睡状態で発見されるという怪事件だ。
 現代の神隠しと呼ばれ、メディアを騒がせると同時に、世の女性の恐怖心をあおり続けている。
 被害女性の体内から、クリアハートの成分が多量に検出されていることから、事件を引き起こす何者かが、新薬を悪用していると見られている。
 薬の発売元、「ヤマイメディカル」も相当の打撃を受けているとのことだ。
 依存性はない、その言葉を聞き、舞実は自分のことのように胸をなでおろした。
 舞実がここ、里の水病院に足を運んだのも、目の前の専門家、綾野女医が事件の被害者の一人を担当しているからであるのだが、
 まだ専門家をしても上手く説明できないのが現状であるようだ。
「患者さんはどのような状態ですか」
「一応、意識があるのは見て取れます。ペンライトを目にかざして揺らしますと、光を追う反応を見せますし。
 けれど、表情がなく、ぼんやりとした感じですね。目はまるで焦点があっていないようですし、大きな音を立てても、
 何の反応も示しません。催眠でもなく、睡眠でもない、私どもも、手に余るというのが本音ですね」
 綾野女医の説明は、舞実にとって、もうひとつ、ピンとこない話ではあった。催眠について説明を受けはしたものの、
 「催眠術」のイメージが未だ根強く残る彼女にとっては、患者の様子が催眠状態ではない、という言葉も、いま一つ納得がいくものではなかったのだ。
 そこでふと、思いついたことがあり、舞実は切り出した。
「先生、一回、私に催眠をかけてもらえませんか。時間が無ければ無理は言いませんが、どのようなものなのか、知るのもいいかなと思いまして」
「良いですよ。誤解を解くにも丁度よいでしょうし。やってみましょうか」


215:インストール
10/02/28 21:53:10 kZXfpOPT
清潔感のある診察室の中で、舞実はベッドに横たわり、綾野女医の声を聞いていた。
「……では始めましょう。今から古鳥さんは、気持ちよくリラックスするために、深い催眠状態に入っていきます」
 綾野女医の、相手をリラックスさせる優しい声は、ベッドに横たわる舞実にも作用していた。聞きなれた筈の声は、
 先ほど服用したクリアハートの効果を受けてか、とても心地よいものとして感じることができた。
 ぼんやりとした、眠気にも似た心地の中で、舞実はクリアハートの効果を実感していた。
 ベッドに横になる前に、1錠の薬をコップ半分の水と一緒に飲み込んだ。すると、その後すぐに、体からゆっくりと緊張が抜け、
 入れ代わりにとても心地よいリラックス感が体中に染み込んできた。まぶたが僅かに重く、考えるのがなんだか面倒になってきた。
 なぜこの薬が一部でドラッグ扱いを受けているのか、分かった気がした。
 綾野女医に促され、ベッドに横になると、すぐに舞実は、うとうととする気持ちよさの中で、
 ぼんやりと視線を天井に彷徨わせはじめたのだった。

「では、まず深呼吸を始めましょう。私の指示するタイミングで、ゆっくりと……体中の力が抜けていくのを感じながら……」
 
 吸って、吐いて。
 
 吸って、吐いて。
 
 もっと深く吸って、ゆっくりと吐きだす。
 
 呼吸と一緒に、舞実の胸が緩やかに膨らんでは縮んでいく。
 指示に従って、深呼吸を繰り返していくと、  
 だんだんと力がぬけて、体がベッドに沈み込むような感じを覚えた。
 手、足、お腹、胸、頭。
 力が抜け、ベッドに身体を完全に預けるような格好をとり始める。
「では、深呼吸しながら、天井にぶら下がっている、クマのぬいぐるみを見てください。しっかりと、目を離さないで……」
 白い天井に、紐で吊られた、小さなクマのぬいぐるみが見えた。僅かに頬笑みを浮かべているようにも見える、可愛いクマのぬいぐるみ。
 それをじっと見つめながらも、指示に従って深呼吸を繰り返す。
 まぶたが重い。
「まぶたが重く感じるかもしれません。でも、クマさんを頑張って見続けてください。まだ、まぶたは閉じないでください」
 閉じたくなるまぶたを頑張って開き、ぬいぐるみを見つめる。それでも、徐々にまぶたは下がって閉じようとする。
 そのたびに、綾野女医の声に励まされながら、よりクマのぬいぐるみに意識を向けた。

216:インストール
10/02/28 21:53:43 kZXfpOPT
「つらくなってきましたか。では、目をつむってみましょう。私が10から、0まで、順に数えていきます。
 私が0といえば、すっとまぶたが下りていきます。それまで我慢して、じっとクマさんを見つめていてください。
 0で、すとーん、と落ちていきます」
 綾野女医がゆっくりと数えていく。10から9。ゆっくりと降りていく数。じれったくなるような早さだった。

「……8……7……6……」

 舞実は頑張ってまぶたを開き、クマのぬいぐるみを見ながらも、数字を数える声を聞いた。

「……5、4、321」
(えっ?)

 何の前触れも無く速まるカウントに、目はクマを見ながらも、舞実は心の奥底で混乱する意識を感じた。
 1秒にも満たない混乱は、彼女が懸命に保とうとしていた集中力を一気に切り落とした。
「0」
 パチンと、指が鳴る音が聞こえた。まるで電気のスイッチを切るような、軽い音。

 すとーん。

 まぶたが落ち、ぼやけていた視界は、あっという間に暗闇に閉ざされた。
「落ちます。落ちていきます。沈みます。何も考えません。ただ落ちます。どんどん落ちます。落ちてください。
 気持ちいい。落ちるのが気持ちいい」
 何も考えない舞実。次々と与えられる誘導、暗示。従う舞実。沈む意識。
 既に真っ暗な筈の視界は、もっと暗く、深くなっていくようだった。視界だけではない。
 意識自体に、もやもやとした霧がかかったよう。霧が、舞実から現実を切り離していく。 
 考えることが面倒。初めての感覚なのに、当たり前のように抱く安心・安らぎ。
 深いはずなのに、意識がある。意識があるのに、何も考えない。
 考えられないのではなく、考えたくない。
 辿りついた先は、暗くて、とても不思議なところだったが、そこは舞実にとって、気持ちのいい、素晴らしい空間だった。
 気がついた時には、舞実と綾野女医との間に、確かな信頼感が築かれていた。


217:インストール
10/02/28 21:56:10 kZXfpOPT

「手を叩きます。……はい、目を開きましょう」
 パン、と手を叩く音で、舞実は驚いたように目を開いた。
 あれだけ深いところにいた筈の舞実は、手拍子と共に一息で現実に帰ってくることができた。
 朝、気持ちよく目が覚めたときのような、清々しい気分。
「気持ちよくまぶたが開いたと思いますが、あなたはまだふわふわとした、催眠状態にいます。
 今もまだ、考えるのが面倒に思えるのがその証拠です。ですから、私がもう一度、指をならす音を聞けば、
 またさっきの深いところへ戻っていくことができます」
 確かに考えるのが面倒だ。すっきりと目覚めたのに、早くさっきのところに戻りたいという気持ちがある。
 最初感じていた、催眠に対する恐怖心は無く、むしろ催眠状態を楽しむ気持ちが強く溢れていた。
 綾野女医の、やさしい指示が聞こえる。
「パチン、と指を鳴らす音で、あなたはもう一度、すとん、と目をつぶります。我慢できずに落ちます。
 我慢する必要はありません。いいですね。……では、天井のクマさんを見ましょう」
 舞実はクマのぬいぐるみを見つめた。
「じっと。……次は右に目を動かしましょう」

 右に視線を移動する。壁にかかるカレンダーが見えた。

「クマさんを見てください」

 もう一度、真上のクマを見る。

「左を見ましょう」

 左を見る。

「右に目を動かして」

 パチン。

(あっ)

 眼球が右の壁のカレンダーを向く前に、まぶたが落ち、意識はずーん、と深くなる。

「さっきよりも深い。ふかーい。気持ちいいですねー」

 また、考えるのが面倒になる、けれど、意識はある、不思議な世界へ、落ちる。
「深い。ただ深い。どんどん深く」
 ふわふわと漂う意識。沈み込む心。楽しい。気持ちいい。

「そこはさっきよりも深いですか?ではもう一度目を覚まします。一気に現実へ。……はい」
 
 パン

 すっきりとした目覚め。まるで朝起きたような パチン

(     )

 パチン パチン パチン
 


218:インストール
10/02/28 21:56:37 kZXfpOPT
「これからあなたは催眠の世界から現実に戻ります。催眠の世界と同じぐらい、楽しくて、おもしろくて、
 嬉しいことがいっぱいの、素晴らしい現実の世界です。1から10数えますので、ゆっくりと、体に力を入れていきましょう。
 10で催眠は解けますが、解けた後も、あなたが望むなら、またこの世界に戻ってくることができるでしょう。
 だから安心して、元気に、起きることができます」
「1。体が温かい」
「2。体に力がみなぎる」
 舞実の手が、ぴくっと動いた。
「3。4。5。ほら、私が数えている間にも、元気が溢れてくる」
 楽しい気分、高揚感が舞実の心に訪れる。
「6。早く色々なことを考えたい。7。早く体を動かしたい」
 ふうっと、体が持ちあがる感覚。意識の海の底から、すうっと体が浮きあがる。
「8。目を閉じている筈なのに、なんだかまぶしい。9。ほら、あの音が聞こえます。10」
 パン。
 

219:インストール
10/02/28 21:57:13 kZXfpOPT

「すごく気持ちよかったです。体が軽くなったし、元気がでてきましたし」
 ベッドに腰掛け、はしゃぐ舞実に、綾野女医は優しく微笑みかける。
「古鳥さんが体験されたのが催眠です。これを応用して、私たちは患者さんの悩みを解消しているのです」
 綾野女医は、二つのコップにお茶を注ぎ、一つを舞実に勧めた。
「本当は、もっとじっくり時間をかけて催眠状態に入ってもらうのですが、クリアハートを使用すると、
 格段に短い時間で深い催眠状態に入っていただけるようになります。催眠に中々入れない人も、この薬を服用すれば、
 楽に深い催眠に入ることができるようになりますし。本当に助かっていますよ」
 熱いお茶をうまそうにすすりながら、綾野女医は言った。
 麻薬のような扱いで裏市場に出回ったり、奇怪な事件に使用されたりで、またたく間に悪評が立ったクリアハートだが、
 ホームグラウンドではかなりの活躍をしているようだった。考えれば、モルヒネも麻薬と同等の扱いをされることがあるが、
 実際は痛み止めで使われる薬であるし、抗がん剤も、激しい副作用があるからと、使われないことも多いようだが、
 多くの人をがんから救っているの薬なのだ。どの薬も、使いどころによって見せる顔が変わるのだろう。 
 催眠療法ですっきりしたところで、舞実は本題に入った。
「患者さんは、催眠状態でも、睡眠状態でもなさそうなのですね」
「そうですね。あのような状態はちょっとおかしいです。意識はある筈なのに、意思がない状態です。まるで……」
 言葉を探すように、綾野女医は目をつむった。
「……まるで『催眠術』の中にいるような」
 さきほど、「催眠」を説明した女医とは思えない発言だった。舞実は思わず「えっ?」と声を漏らしてしまった。
 女医はあわてて言葉を継ぐ。
「もちろん、あれは催眠ではないですよ。……ですが、実際に患者さんと接して思うのです。
 フィクションの世界で、術者が催眠術を解くまで、催眠にかかったまま解けずにいる、という話が出てきますでしょう。
 あれに似ているかなと」
 舞実が持っていた催眠のイメージ。術者によって意識を意のままに操られる女性。ほくそ笑む催眠術師。
「私がメーカーに尋ねた話では、クリアハートの大量摂取は、体に大きなダメージは無いものの、長い倦怠感、
 思考力の欠如が引き起こされると聞きました。ですが、それでも意識を失うだとか、あのような状態になるとは……」
そこで、綾野女医は考え込んでしまった。長い時間が流れたあと、彼女が継いだ言葉は、「私には何とも言えません」だった。
「薬の大量摂取の影響かどうかは分かりません。けれど、クリアハートだけでは、あのような状態にはならないと思うのです」
 これは医者の勘です、と女医は付け足しだ。

220:インストール
10/02/28 21:57:52 kZXfpOPT

「桜木さ~ん。少し目を開きますね~」
 綾野女医は、ベッドに横たわる患者にやさしく語りかけた。そして、閉じられたまぶたをゆっくりと開く。
「すこしまぶしいですよ~我慢してくださいね~」
 そう言って、綾野女医は、胸ポケットからペンライトを取り出す。スイッチがオンになると、
 温かさを感じさせるオレンジ色の光が先端からのびた。
 女医の様子を見ながら、なるほどと舞実は思った。事件の被害者、桜木真帆は、まるで女医の言葉など、聞こえてもないようだった。
 だが、綾野女医の向けるライトには、はっきりとした反応を見せる。右へ光が行けば、右へ、左へ移れば、左へ。
 しっかりとした動きで光を追う彼女の様子を見れば、意識があるのだと思いたくなる。
「今はこんな状態です。薬はもう、切れていてもおかしくは無いとは思うのですが」
 綾野女医は、聴診器を耳に付けて、桜木真帆の胸元にベルを当てた。
 始終、反応を見せないのに、なぜライトには反応するのだろう。女医の話では、音には反応しないらしい。この違いは何なのだろう。
 昏睡状態と自分達は片づけているが、彼女はそもそも「眠り」の状態にあるのだろうか。
 考え出すときりがないが、担当者の綾野女医は、舞実とは比較にならないほど広く想像の根を伸ばしている。
 それでも皆目、分からないのだ。

「あ……あ……」

 突然、小さくか細い声が、桜木真帆の口から洩れた。舞実が驚いて、横になる桜木真帆を見ると、彼女は口だけではなく、
 まぶたをもしっかりと開き、光なき瞳で天井を仰いでいた。
「い、今反応が」と希望の声をだした舞実だが、綾野女医は残念そうな顔をした。
「ときどき、声をだすことはあるのですが、こちらから声をかけても反応はないのです」
 そう言いながらも、まだあきらめ切れてはいないようだ。
 綾野女医は、必死に「桜木さん。聞こえますか。桜木さん」と繰り返し呼びかけていた。
だが、その甲斐むなしく、桜木真帆は心持大きいこえで「はあっ……」と喘ぐ声を出したあと、また目を閉じ、静かになってしまった。
「睡眠状態でもなければ、催眠状態でもない」
 桜木真帆から手を離した綾野女医は、つぶやくように言った。誰に宛てた物でもない、むなしさが漂う声だった。


221:インストール
10/02/28 22:00:06 kZXfpOPT
1話はこれで終わりです。オープニングで出てきた登場人物は3話目で登場予定です。
あと、今回も誤字脱字があると思います。ごめんなさい

222:名無しさん@ピンキー
10/03/01 00:14:34 7QkiBH5i
>>211
ナイトウォーカー懐かしい
トライガンがやってた頃だったな……

223:名無しさん@ピンキー
10/03/01 01:58:34 ztX0NxOw
おいおい投下してんだからスルーすんなよ。
嘘でも続きが早く読みたいです!ぐらい書いてあげろよ。
投下直後に黙殺とか前にもあったが、反応してあげようや

224:名無しさん@ピンキー
10/03/01 02:31:51 INdUPcKk
露骨なほど作者を叩きやすくするための煽り
同じマイナージャンルを愛好する数少ない同志なんだから、
もっと純粋に楽しんでもいいではないか

>>221
投下乙
催眠シーンと端正な文章につき、これからに期待
しかし悪堕ちはまだ出てきてないため、これ以上の感想は控えさせてもらう
これから何回か分けて投下する雰囲気だが、くじけることも多々あるだろう
ご武運を

それとおそらく知ってるだろうが、催眠スレも一応ある


225:名無しさん@ピンキー
10/03/01 03:49:34 XPJUN7EO
>>221
乙です
元ネタがよくわからないのだがオリキャラってことでいいのかな?

226:名無しさん@ピンキー
10/03/01 03:54:44 HBHJW0W3
続きが早く読みたいです!







嘘です

227:名無しさん@ピンキー
10/03/02 20:06:06 Q9R6ycVn
てす

228:名無しさん@ピンキー
10/03/02 21:18:42 SvYcTtWw
復帰すなあ

229:名無しさん@ピンキー
10/03/02 21:38:14 1ou2reEL
調教や洗脳などで悪の奴隷になるサーバー

230:名無しさん@ピンキー
10/03/02 23:41:03 pl1yre+v
ある意味悪に落とされたなww

231:名無しさん@ピンキー
10/03/03 04:43:17 4eC64vY7
>>223
SSはどうでもいいって奴もいるんだしスルーすんなと言われてもなぁ
そういうのはSS楽しみにしてる奴に任せた方が良いだろ

232:名無しさん@ピンキー
10/03/03 07:23:10 933j44dP
まーた荒らしと荒らしに気づかないやつが言い合いを始めるのか

233:名無しさん@ピンキー
10/03/03 10:05:13 nrnsqtOp
これはゴルゴムの仕業だな
間違いない

234:名無しさん@ピンキー
10/03/03 12:10:51 5QqlcH9O
そうやって何でもウリのせいにすれば良いニダ
まあ実際、ウリのせいニダ゙けどね

235:名無しさん@ピンキー
10/03/03 14:32:47 XBUanv71
というか他人にどうこうしろと言いながら自分は何もしないで
さらに「嘘でもいいから」とかつまらないと言っているのと同じだし
そんな奴が最悪だろう

236:名無しさん@ピンキー
10/03/03 15:00:22 hKRULkbV
アイルで魔受胎2出るみたいだな
前作よかったから期待したい

237:名無しさん@ピンキー
10/03/03 15:14:42 933j44dP
あれって、「何この抜きゲー」って思ってやったら
内容が意外にしっかりしててビックリした記憶がある。
でもまぁ、悪堕ちではないような気もする…

238:名無しさん@ピンキー
10/03/03 15:15:52 RAJBwOHb
別にSSの感想を書こうが雑談を書こうが強制は良くない
>>223みたく感想を書けとか大きなお世話、反応したくなるようなSSなら、言わんでも書く
上手い下手以外に好みかどうかもあるし、書き手も気にせず投稿すればよし
煽ったり、けなしたり、ヨイショしたり、そういうのは個人ね感想に留めて押し付けはしない


239:名無しさん@ピンキー
10/03/03 15:21:55 Pc8Z+4Xh
>>237
洗脳装置あり異形化ありの上に悪堕ちENDばかりじゃん
あれを悪堕ち作品といわずしてなにを悪堕ちというのか

240:名無しさん@ピンキー
10/03/03 15:23:45 u+Mbe0vT
魔受胎ってやったことないけどそんなにいいのか?

241:名無しさん@ピンキー
10/03/03 15:27:15 317Wyb7W
kwsk

242:名無しさん@ピンキー
10/03/03 16:29:17 hKRULkbV
HPできてるよ

243:名無しさん@ピンキー
10/03/03 17:52:23 2n1hJKAG
>>240
メインっ子が気に入ったならいいと思う
個人的には敵方の女と親友キャラの堕ちパターンの方が良かったんだが
どちらもシーンが少なくてちょっと物足りなかったな

244:予定調和
10/03/03 23:03:01 4ftfFKS3
前回投下したSSに目を通してくださった方々、ありがとうございます。

前回の粗筋
蘭陥落。それと、いのちだいじに。

それでは続きをどうぞ。

245:予定調和
10/03/03 23:11:20 4ftfFKS3
ホワイトウイングで接近戦を担当している黒松冬子(くろまつとうこ)は、倒壊したビルの影から月夜女姫の様子を伺っていた。
呼吸を整え、バンデージを巻いた拳を握り直す。冬子が晴川から叩き込まれたのはルールのある1対1の一般的な格闘技ではなく、
純粋に相手を壊す武術だった。ナイフすら闇界障壁で弾かれてしまうため武器は一切使えず、
あくまで殴る、蹴るでしか黒の一族にダメージが与えられない冬子だったが、元々武道を嗜んでいたこともあり、
相手の飛び道具をかわして懐に入れるようになってからは敵の障壁を崩して攻撃の起点を作るのに重要な役割を担っていた。



本部を襲撃し、わたしたちを撃退したあの黒の一族の個体は「月夜女姫」と名前が付けられた。最初に誰が呼び始めたのかはわからない。
いつの間にかテレビや新聞でもそう呼ばれていたし、容姿も月夜女にそっくりで違和感がなかった。
しかし月夜女という名前自体は世間に広まっていないはずなので、月夜女姫自身が名乗り始めたのだろうと晴川さんが言っていた。
本部が襲撃されてから、わたしたちは各地の基地を転々としながら月夜女姫の行方を追っていた。
晴川さんはあり余るほどのお金とコネを持っていて、放浪生活でも初めのほうは大して苦に感じなかった。
でも、その財力とコネをちらつかせて従えていた協力者が次々と月夜女姫に引き剥がされていき、
それまで存在すら世間から隠されていたホワイトウイングがマスコミに丸裸にされた。
もちろんわたしたちの顔も割れ、「日本の平和を裏で守ってきた正義の戦士」なんて一時期は持ち上げられたけど、
次第に誰が流したのかわからない根も葉もない噂がこびりつき始めた。
月夜女姫とその妹が各地で暴れ始めてからはわたしたちが役立たずと罵られるようになり、晴川さんも様々な嫌がらせをされていた。
さらには予め1時間の避難する時間を与える慈悲深さ、それと清々しいまでの残虐さを併せ持つギャップ、
何者も寄せ付けない強さと美しさで月夜女姫を崇拝する人さえ出てくる始末だ。
あの人間離れ……いや、現実離れした美貌にわたしも少し羨ましいと思わなくもないけど、
それを足しても街を壊して暴れまわっている化け物を崇めるなんて馬鹿げてる。
何がカリスマよ。どうせ自分の住んでいる街が襲われたら一目散に逃げるくせに、人の苦労も知らないで。
なんで正義側のわたしたちが世間から叩かれなきゃいけないのよ。月夜女姫の印象操作のせいにしても、わけがわからない。
しかし、このまままた5人で月夜女姫を襲撃したとしても倒せる可能性はかなり低い。
なにしろ1回フルメンバーで挑んで、本体に傷1つ付けられずに負けているのだ。傷を付けたのは月夜女姫を守る強力な障壁だけ。
今まで戦ってきた黒の一族にも全員闇界障壁は存在していたけど、普通の銃とかは防げてもわたしたちの魔力を使った攻撃には無力だった。
御神刀でひびが入ったということは完全に無敵じゃない。それでも今のわたしたちの火力では壊すことがほぼ不可能な強度だった。
どんな強固な障壁も例外なく壊せてきたわたしの拳もあれには通用しない。
1回目の戦闘で苦戦しても、2回目で対策を立てれば倒せたこれまでの敵とは違う。
勝てる気がしない。でも、戦わなくてはならない。わたしたちが戦わなければ、黒の一族がこの国を破壊し尽くすだけだから。
今わかっている唯一の弱点は、わたしたちと違って月夜女姫は戦闘慣れしていないこと。そこを突くしかない。

で、どうしてわたしがこんなところに1人でポツンといるのかというと、索敵だ。
月夜女姫は街を破壊するときのみ単独行動することがわかっていて、ヘリコプターなんて目立つものを使うと2人がかりで襲われることもわかっている。
1人でも勝てそうもないのに、2人だと勝率は絶望的だ。
なので、大人数でバラバラに効率よく索敵して、後から合流するという作戦になった。
大人数とはいえ実際に戦うのは私たち5人だけだからそれ以外の人はあんまりいないけど。
今回はたまたま襲われた街の近くにわたしたちが滞在していて、月夜女姫の単独行動のうちに見つけられたというまたとないチャンス。
これを逃したら次はないかもしれない。
後は合流を待つだけだけど……通信機の位置表示を見ると全員かなり離れている。これは間に合うか―
「ねえ、そこの貴方。面白そうな機械持ってるじゃん。私にも見せてよ」
「しまった!」

246:予定調和
10/03/03 23:15:41 4ftfFKS3
月夜女姫を注視するあまり、後方の警戒が疎かになっていた。まさかこんなに近くに妹のほうがいるなんて!
ここはまず身の安全を確保しないと。それから仲間に連絡!
わたしは妹のほうから距離をとるべく、かつ月夜女姫に見つからないように瓦礫の隙間を全速力で駆け抜けた。
「晴川さん、妹のほうの襲撃を受けました!引き付けつつ、街の中央を目指します!」
「わかった!それと……」
引き付けるとは言ったものの、落ち着いて周りを見渡すと誰もいなかった。ひょっとして速く走りすぎて振り切ってしまったかしら?
「いっただきいー♪あれ、このマークって……ホワイトウイング?」
信じられない……あの速さについてくるどころか、回り込まれた?そんな!?
「おい、どうした黒松!応答しろ!」
「貴方がお姉様の言ってた晴川さん?はじめまして、天道蘭です♪」
ん、天道?どこかで聞いたことがあるような……。
「なっ、お前、黒松をどうした!」
「え、黒松?それって……」
「返して!」
通話に意識が向いている今なら取り返せると思ったけど、能力が未知数のこいつには無謀な賭けだった。
「嫌」
蘭は2メートルほど飛び上がり、わたしが拳を空振りした隙を狙って脳天に踵落としを食らわせてきた。
頭の中がぐらぐらして平衡感覚が保てなくなる。
もし蘭の履いているものが踵の尖ったハイヒールだったならば、これだけで頭が割れて即死していてもおかしくない。
「そうそう晴川さん。黒松さんだけど、早く助けてあげないとお姉様が何をするかわからないよ。何されるんだろうねえ……」
クスクスと影のある笑い方をして、蘭は通信機を地面に叩きつけると靴のつま先でグリグリと液晶部分を割って使い物にならなくした。
あの分だと通信機は生きているかどうかわからない。
「じゃあ黒松さん、何して遊ぶ?」
一瞬清廉な顔立ちに戻った蘭の顔が、すぐに狂気に塗り変えられた。

逃げることも叶わず、わたしは完全に蘭の玩具にされていた。
姉の月夜女姫と同じ性能の闇界障壁を持つだけでなく、姉より力を使いこなしていて戦闘自体も上手い。
おまけに得意の接近戦で打ち負けるとなれば、最初に蘭に見つかった時点でわたしの運命は決まっていたのかもしれない。
「黒松さん、治癒術かけてあげるからもう1ラウンドやらない?」
「ふざけ、ないで……ぐ……見下すのも……はあ……いい加減に……」
もう、体が倒れないように支えるだけの力しか残ってない。
動き辛そうなロングスカートのくせに月夜女姫とは段違いのあの機敏な動作……思い出しただけでさらに戦意が削がれる。
「だってさあ、私がかなり手加減したのにこれでしょ?まさかさっきので全力でした、なんてことはないよね?」
「……」
悔しいけど、言い返せなかった。少し組み合っただけで、それほどまでに力の差があることを痛感したから。
これでは5人全員で挑んでも簡単に殲滅させられるかもしれない。
そうなると他のメンバーに出直してきたほうがいいと伝えたいけど……通信機は壊されている。
「ちょっと、ほんとにさっきので全力なの?どいつもこいつも張り合いがない……こりゃあ5人揃って本気の半分でやっとちょうどいいくらいかなあ」
嘲弄されることに慣れていないわたしに、蘭の一言一言が鋭利な棘となって心に突き刺さっていく。
明らかに手を抜かれてるのは感じられたけど、まさかここまで差があるとは。
時間稼ぎならできた気がした……でもそれは「できた」わけじゃなくて「わざとさせられた」だけだったみたい。
もう1人誰かがここに近付いてくるのを感じる。急いでいないということは、わたしの仲間じゃない。と、いうことは……。
「蘭、さっきホワイトウイングの通信機を拾ったんだけど、誰か見かけてない?」
心身共に傷だらけでこの姉妹に1人で対峙することになろうとは。早く誰か助けに来てくれと祈る以外にわたしに何ができる?
でも……ここで皆と合流してもこの姉妹を撃退できるだけの戦力が5人合わせても足りそうにない。
撃退どころかわたしを助けて逃げることすら難しい。
「ああ、それならこの人、黒松さんのだよ」
「えーと……蘭がボコボコにしすぎて、よくわからないのだけれど」
今のわたしの顔って、そんなに酷いの。服は上下ともビリビリに破れボロ布同然になっていたし、
全身傷だらけで骨も何箇所か折れているのはわかるけど、顔は鏡がないからよくわからない。
「まあ、この見覚えのある黒のリボンで纏めたツーサイドアップは間違いなく黒松さんね」

247:予定調和
10/03/03 23:18:27 4ftfFKS3
これからこの2人に好きなだけ弄られ、精力を吸われ尽くされて死んでしまうの?
ホワイトウイングに入ってから、命の危機を感じたことはこれが初めてじゃない。
何度も死にかけたし、敵の罠に嵌められて泣きたくなるような状況も経験した。
それでも諦めなかったから、黒の一族を残り数体のところまで追い詰められたんだ。
心を折られなければ、まだ勝機はある。いざというときに安心して背中を任せられる仲間がわたしにはいる。皆を信じよう。
「可愛い顔が台無しよ……痛かったでしょう。よく我慢したわね」
「……」
「それにこんなにボロボロになっても立っていられる精神力、賞賛に値するわ」
「あなたに褒められても嬉しくないんだけど」
何をするつもりなのよ。褒め殺しでわたしが心変わりするとでも?
「そんなに刺々しくしないで。これから私たちと一緒にやっていくんだから」
「……はあ?わたしがあなたたちに手を貸す?全く、悪い冗談だわ」
普通の人間と黒の一族は永遠に相容れない存在なの。仲良く共存なんてできるわけがない。
人間を食べる黒の一族に協力しろだなんて、こいつは自分の言っていることの意味がわかっているのかしら。
「私も蘭も、元々は普通の人間だったの」
「それは初耳だわ……本当に?」
「あら?晴川は私が人間から変化するところを見てるはずだけど、聞いてないの?」
もし月夜女姫の言っていることが本当なら、今後黒の一族はどんどん増えていく。そうなると世界が廃墟と化すのもますます早くなる。
むしろ既に数え切れないくらいに黒の一族が増えているのかも……大変!早くこのことを皆に知らせないと!
「それで、今まで何人の人間を黒の一族に堕としたの?」
「まだ私は蘭だけよ。そしてお前が2人目」
「あなたの味方になってホワイトウイングの皆に迷惑をかけるくらいなら、死んだほうがマシよ!」
こういう状況のときの模範解答のような台詞が、口から出せた。
だが、意地に体がついてこなかった。
「生きたい」という生命にとって当たり前の欲求が、わたしの理性を押さえ込んでいた。
「そう言って実際に舌を噛み切って死ねる人間は殆どいないけどねえ。怖くないよ、最初はチクッとするけどすぐ楽になるから」
「そうそう。さあ、力を抜いて……」
「あなたが魔眼を使うことくらい、晴川さんから聞いてるわよ!」
目を逸らしたから噛み付かれる瞬間はわからなかったけど、噛み付かれた首筋だけでなく、全身を鋭い痛みが駆け回った。
「いっ……」
<これからゆっくりお前を真っ黒に染めてあげるからね>
何なの、この感覚は……頭の中に月夜女姫の声が響いてくる。
その言葉は脳に直接刻まれるような強制力さえ感じられて、自意識を保つのが急に難しくなる。
<勝手にわたしの中に入ってこないで……頭がおかしくなりそう>
<お前が黒の一族になれば、今やっている街の無差別破壊はやめてもいいわ>
<信用できないわ。他にもっと酷いことをやるつもりね>
<しないわよ。大体、そんな約束も守れないような人が、わざわざ避難する時間を設けると思う?>
<それもそうね……>
頭のネジを1本ずつ外されているような危険な心地よさ。
脳を直接撫でられているような不快だけど癖になる不思議な感覚。
このままでは手遅れになる、一刻も早く引き剥がさないと、とは思っていても力がまるで入らない。
<それに、私たちの目的は普通の人間との共生よ。晴川みたいに黒の一族だけを一方的に排除しようとするほうが間違っていると思わない?>
言われてみればそうだ。能力が発現してから晴川さんに「黒の一族は存在しているだけで世に災厄をもたらすから排除しなければならない」と言われて、
今まで特に何も考えずに黒の一族を討伐してきたけど、盲目的な行動だったのではないかと思えてくる。
<私は晴川のような過激派さえいなくなれば、これまで黒の一族を駆逐してきたホワイトウイングを許してもいいと思ってるわ>
<晴川さんが、わたしたちを洗脳していたというの?>
この時点で既に冬子の体は完全に月夜女姫にもたれかかる姿勢になっていて、
手足はだらりと垂れ下がったままで時折ピクッと痙攣する以外に動きはなくなっていた。きりりと引き締まっていた顔はもう面影もなく、
ぼんやりと開かれた口からは甘い声が漏れ始めている。
<そう。月夜女様があいつに殺された時は悲しくて、悔しくて、涙が止まらなかった……>
どうしてだろう。月夜女を散々痛めつけたのはわたしなのに、まるで自分の大切な人を亡くしたように胸が痛い。
どれがわたしの感情で、どれが月夜女姫の感情なのかわからなくなってきた。

248:予定調和
10/03/03 23:22:48 4ftfFKS3
<お前がしている行為は、殺人と大差ないのよ>
<そんな……>
そう言われると、罪悪感に押し潰されそうになる。今まで数え切れないほどの黒の一族を狩ってきた。
直接手を下したのは全部晴川さんだけど、わたしがしたのはその手助けに違いない。
冬子が意思を感じられない目からぽろぽろと涙を流す様を蘭が興味深そうに覗いていた。
<でも大丈夫。お前がやったことは全部晴川のせい。そうでしょう?>
<……その通りです……>
すーっとしみこんで来る声を聞き続け、なんだか瞳孔が広がっているような気持ちいい感覚に浸ってる。
<素直に答えてね。自分を捻じ曲げた晴川が憎い?>
<はい……憎いです>
月夜女姫の質問に肯定するたびに、底なし沼に引きずり込まれているような気分に陥る。
まだ頭の片隅では質問に疑問符が浮かんでいるのに、体が先走って制御できていない。
気付いたときにはもう沼の水面が首の辺りまで達しているようで、自力で出られそうになくなっていた。
<私は晴川に復讐しようと思っているのだけど、協力してくれない?>
<はい、わかりました……つきよ、め……ひめ、さ……ま>
会話に流されるままに月夜女姫様に心からの隷従を誓った瞬間、邪な力が魂を汚していく早さが急激に上がる。
でも、それでいい。真夏の生暖かい風が冷え切った私の体を撫でるのが気持ちいい。
ん?何か背中がムズムズして……。
<もう、大丈夫そうね>
月夜女姫様が口を離して数秒も経たないうちに、ボロ布同然だった服の隙間から立派な黒い翼が生えてきた。同時に全身が発火しそうなほど熱くなる。
「う……ああ……ああああアアアア!!」
両手の爪がギリギリと音を立てて鋭く伸び、暗くてよく見えなかった周囲の様子もはっきり見えるようになった。
黒の一族は暗闇だとこんなふうに見えているのか。元の裸眼の視力も悪くはなかったけど、これなら遠くの仲間も格段に見つけやすい。
「おめでとう。これでお前もただの人間から私の手駒に昇格ね」
「はい、ありがとうございます」
うふふ、月夜女姫様に認めてもらっちゃったあ。嬉しい。この期待を裏切らないように、しっかり働かないとね。
「これから言う私の指示に従いなさい。蘭も聞いておいて」
月夜女姫様の手足となって働けることの喜びに心が震える。
ああ、今なら月夜女姫様を崇拝する人間が出てくるのもわかる気がする。なんとなく、私の心が月夜女姫様の鎖に縛られているのがわかる。
晴川に従っていたときにはない、魂の呪縛による強制力に頭と体が突き動かされる。それがたまらないほどに心地いい。
人間の精力ってどんな味がするのか、今から楽しみね。



晴川たちホワイトウイングが現場に駆けつけたときに見たものは、蘭に足蹴にされている冬子だった。
蘭は短い髪をかきあげて晴川たちを紅い瞳で一瞥すると、ニヤリと不敵に笑った。
「黒松!しっかりしろ!」
「あ、晴川さん……?」
「ギリギリセーフってところだね。もう十分サンドバッグにして遊んであげたから、黒松さんは返してあげるよ。それっ!」
「きゃっ!ん……」
乱暴に蹴飛ばされてホワイトウイングに返された冬子は、服が血をたっぷりと吸っていて見るからに痛々しい。
「おいおい、助かるのかこれ……足が変な方向に曲がっちゃってるけど」
「ごめん、なさい……皆が来るまで、持ち堪え、ごぼっ!」
「治癒は私に任せて!皆さんは黒の一族の相手をお願いします!」
上は涼しげなキャミソールで、下は動き辛そうな薄手の生地のロングスカートという華美な装飾のない服を身に纏った蘭は、
敵が目の前に現れたというのに余裕を崩さなかった。
「今日はほんとについてるよ。さっきは若いカップルを襲ったんだけどさあ、女のほうの反応が最高だったね。
 操って彼氏を痛めつけさせてから意識を戻してあげたら『もう嫌……生きていけない……』だってさ!
 彼氏を傷付けたくらいで自己嫌悪に浸ちゃってんの。『殺してください』って言うからゆっくりじっくり殺してあげようと思ったら、
 今度は死ぬのが怖いって泣き叫ぶの。それが楽しくて楽しくてさあ……くくっ、お腹が捩れるかと思ったね」
「こんな悪魔がまだ生き残っていたとはな……人の心を弄ぶその行為、最低だな」
倒れた冬子と治療に徹する秋生を庇うようにして、残りの3人が前に出る。

249:予定調和
10/03/03 23:27:08 4ftfFKS3
「さらにこうやって正義ぶってるおっさんも虐めることができるんだから、ラッキーとしか言いようがないね!」
「そうやって調子に乗っていられるのも今のうちだよ!」
春香の影に隠れて密かに力をためていた夏菜が、急に飛び出して一気に蘭との間合いを詰める。
「これでも食らいな、デビルバニッシュ・デュアルアサルト!!」
夏菜が圧縮された高密度のレーザーを蘭に放つが、間一髪で避けられてしまう。
しかしレーザーは闇界障壁を貫通し、蘭本体にもそれなりのダメージを与えていた。
「いてて。へえ、なかなかやるじゃん」
「ふっふっふ。レーザーを極限まで圧縮することにより、類稀な貫通力と衝撃波による追撃ができるようにしたのがこの技よ!」
「馬鹿!暢気にこっちを向いて技の解説なんぞしてる場合か!」
「夏菜ちゃん、危ない!」
春香が横から夏菜を押し倒したことにより、蘭が放った光弾は夏菜には当たらずにコンクリートの破片を細かくしただけで済んだ。
「もー、夏菜ちゃんはいちいち技名を叫んで使用後はポーズをとらないと気が済まないの?」
「テンションが上がらないのよ。冬子だって毎回叫んでるじゃん、『せぇい!』とか『とぉっ!』とか」
「あなたと一緒にしないでもらえるかしら?」
春香と夏菜が振り向くと、腰に両手を当てて不満そうな顔をした冬子が立っていた。
「あ、冬子ちゃん。もう戦えるの?」
「ええ、流石白石さんだわ。もう腕も足も全く問題なし。それより、お喋りしながら勝てる相手じゃないわ、集中して!」
月夜女姫と同じ魔法を防ぐ闇界障壁を持つものの、硬さは夏菜か冬子の攻撃で壊せるくらいで無敵というほどではなかった。
その代わり月夜女姫より戦い慣れしていて、致命打になる閃光弾や晴川の攻撃は確実にかわしてくる。
攻撃も広範囲を一気に焼き払う術が厄介だが月夜女姫ほどの威力はなく、このままいけば何とか倒せそうには見えた。
「やっぱりこのくらいがちょうどいい刺激ね」
蘭に焦りは見えないものの初めに見せていた余裕は消え去り、確実にその体に疲労を蓄積させている。
「まだ……やれる!」
4人が一斉に蘭に飛びかかろうとしたとき、後衛にいる秋生が声を張り上げた。
「皆さん、待ってください!何か違う気配が近付いてきています!」
いち早く別の存在の接近に気付いた秋生が背後を振り返ると、月明かりでも大きな翼が確認できる距離に月夜女姫がいた。
「白石、どうした……くそっ、出やがったか!」
「蘭、いい加減遊びすぎよ。朝になっちゃうじゃない」
ここで晴川は後一歩まで追い詰めた蘭の討伐を諦め、全員に逃走を指示した。
いくら片方が手負いとはいえ、以前負けた相手が同時に襲ってこられては勝ち目がない。
「素直に逃がしてあげると思った?」
蘭は自分のほうに向かってきた5人に対し、両手を広げてまだ戦意があることを明らかにする。
「そのボロボロの体で、止められるものなら止めてみろ!」
「満身創痍なのはお互い様でしょ」
今なら逃げ切れると思ったが、逃げるのに成功したのは冬子のみで残りの4人は挟まれたままだった。
閃光弾は使い切っていてもうない。しかしまだ煙幕が残っている。
「それに私、まだ治癒術使ってないし」
ホワイトウイングが身を削ってやっと追い詰めたと思っていたのに、蘭に焦りが全く見えなかったのはそういうことだったのだ。
「次に会うときは必ず倒す」
まさか平和を守る正義側の自分たちがその言葉を吐くことになるとは思いもしていなかった晴川は、
次の月夜女姫の一言により逃走すら安易にできるものではないと思い知らされる。
「そういう台詞は必ず逃げられる状況で言うものじゃないの?」
初回の交戦での月夜女姫の射撃の精度は最低ランクと言ってよいほど未熟だった。前回はそれを物量でごまかして当てていただけだ。
距離をとれば弾幕の密度も薄くなり避けるのは容易いと晴川は考えていた。
だが、煙幕を2人にぶつけて視界を奪い逃げ出した晴川たちは足元に走る赤黒い線に気付く。
「どこに逃げようと無駄よ。どんな避け方をしようと関係なく当たる術を編み出したから、大人しく力の差を思い知りなさい」
「晴川さん、上にも!」
「何だこの馬鹿でかいのは……」
巨大な魔法陣が夏の夜空に描かれていた。魔法陣自体が大きすぎるのでどのくらいの高さに描かれているのか目測ができない。
足元の魔法陣は端が見えないほどに大きい。
お前たちがどこに逃げようと関係なく当たる―つまり、この魔法陣の覆っている部分全てが術の有効範囲。

250:予定調和
10/03/03 23:34:59 4ftfFKS3
「白石、上だ!上に目一杯障壁を向けろ、お前なら防げる!」
「それ、無駄だよ。だってお姉様のこの術、足元からもくるから。
 ついでに言っておくと、貴方程度の障壁の強度じゃお姉様の術は防ぎきれないよ」
晴川たちの背後から攻略のヒントとも絶望を加速させる覆しようもない事実ともとれる言葉を蘭が投げつける。
「ぐあああああぁぁぁぁああああぁっ!」
足元と頭上の魔法陣から大量の黒い稲妻が発生して天と地を紡ぎ、身を貫く。
1方向からの攻撃しか防げない晴川たちにはこの術に対抗できる方法など、ない。
幸いなのは、月夜女姫が殺傷力を抑えたおかげで動けなくなるだけで済んだという点だ。命までは取られていない。
月夜女姫に思いっきり顔を踏みつけられて、ようやく晴川の意識がはっきりしてくる。
「お前たちを生かすも殺すも私の気分次第ということがこれでわかったかしら?」
「この……悪魔め。調子に、乗るな」
月夜女姫の暗示が効いているのか、ここまで完璧にやられても晴川は強気な姿勢を崩さない。
その態度が暗示の優秀さを示し、ますます月夜女姫に自信をもたせる。
「まだそんな態度がとれるの。本当に気丈ね。その気丈さに免じて、今日はこれで終わりにしてあげる」
敵に情けをかけられて晴川は自尊心を傷付けられたが、自分の命が月夜女姫の手の上であることは否定できない事実なので言い返せない。
「次は私のほうから遊びに行くから、ビクビク怯えながら待ってなさい。
 それじゃあ頑張ってね、せ・い・ぎ・の・み・か・た・さ・ん♪あははははは……」
陽が山の隙間から顔を出す頃にはこの地に大きな傷跡を残した2人は別の場所に移動したらしく、
廃墟と化した元市街地でホワイトウイングのメンバーだけが絶望に打ちひしがれていた。





俺が黒の一族を狩り始めたのは、偶然やつらを見かけたときの単なる生理的嫌悪感からだった。
普通の人間にはありえない色の紅い目に猫のように縦に裂けた瞳孔、大きくて先がツンと尖っている耳、
背中から生えている黒い翼はフィクションによくいる悪魔にしか見えない。それに人目を忍んで夜にこそこそと人間の精力を吸っている。
少なからず人間に危害を加えているのだ、それを駆除して何が悪い。俺はやつらを蚊やゴキブリと同じ害虫としか見ていなかった。
さらに当時の俺には駆除するだけの金とコネがあった。やつらを狩るためだけに俺は私兵集団「ホワイトウイング」を組織し、
同時に数えられる程度の業界の実力者を抱き込みうるさいマスコミや警察を黙らせた。
しかしその害虫の駆除には想定外の障害があった。
やつらを殺そうにも銃器、刃物、爆発物、毒ガスと様々なものを試したが、闇界障壁という奇妙なバリアのせいで全て効果がないのだ。
おまけに怪しい術まで使ってくる。ますますやつらを野放しにするわけにはいかなくなった。
古今東西のあらゆる武器を試しても駄目な中、とある神社に祀られている御神刀を使ってみてはどうかという意見があった。
俺は仏だの神だのといった類は全く信じていなかったが、他に頼るものもないので試しに実戦で使ってみると、
驚くことに闇界障壁を無視して攻撃することができた。その後の調査で闇界障壁を無効化できるのはおそらく俺だけであること、
黒の一族を殺すには翼を切り落とすのが最も有効であることを知る。
ある程度数を狩るとやつらも警戒してきて、こちらが逆に撃退されることもあった。
御神刀以外では閃光弾しか効かないので、私兵集団といってもまともな戦闘員は俺だけだった。
この状況を打開したのが俺の最も信頼できる友人、白瀬大喜(しらせだいき)の発明した薬だった。
魔法覚醒剤と名づけられたそれは、素質のある者が接種すれば闇界障壁を無効化できる力が備わるという画期的なものだった。
しかし素質のある者というのが「15歳から25歳の日本人女性の極一部」という縛りがきつい。
「15歳から25歳の日本人女性」の条件に当てはまる人間の時点で約650万人しかいない。
さらに素質の無い者が接種した場合の死亡率が0.05%という危険な薬だったが、背に腹は代えられない。


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