10/02/26 02:27:56 hd3Y5JvY
「あ、っ……ま、まゆみちゃん。久しぶり。もう退院したんだ」
「ええ。あれ、お兄ちゃんから聞いてないですか?」
「あ、あー聞いていたかもしれないな」
相変わらずの他人行儀な態度に胸をチクチクさせながら、適当に回答する。
実は言うと、母さんは未だにまゆみちゃんと会っているようで、
逐一まゆみちゃんの情報を伝えてくるから、ある程度の近況は知っていたりする。
「それで、夜遅くにどうして?」
「あ、コンビニ帰りなんだ。これ」
まゆみちゃんはプリンやヨーグルトが入ったビニール袋を胸の前に上げて、ぶらぶらと振った。
なるほど、玲奈ちゃんの家は住宅街にあるし、まゆみちゃんの家も住宅街にある。
この近くを通っているならいつか会うのは当然のことなのか。
今度から気をつけよう。彼女の顔を見るのはつらい。
「……………………ねぇ」
玲奈ちゃんは急に現れた女の子に話を中断され、訝しげな表情をしていた。
言い換えると、不機嫌の極みのような表情だ。
「えっと……ちょっといい? 小波くん。この子、誰?」
「あ、ごめん。この子は湯田くんの妹でまゆみちゃんって言うんだ。
まゆみちゃん、この人は野球部の元マネージャーのきりし」
「れ・い・な・ちゃ・ん」
「も、元マネージャーの玲奈ちゃん」
ギロリと睨まれ、その迫力に急いで訂正する俺。
女の子は怒らせると怖い人が多いってのは湯田くんが良く言ってたが、玲奈ちゃんは人一倍怖い気がする。
というか、「玲奈ちゃん」と呼ぶのは二人きりの時だけって言っていなかったはずなのだが、
どういうわけか、この紹介で不機嫌の極みから、更に三倍ほど不機嫌になったようだ。今ならオーラで人を殺せる。
「まぁいいけど。……それで、小波くんの何?」
「それは……」
もちろん、『他人』だ。
今の俺とまゆみちゃんの関係は『他人』『知り合い』『顔見知り』程度でしかない。
『友達』ですらないのだから、『恋人』なんてありえない。
たとえ、俺と彼女が二ヶ月前までは恋人で、他人となったキッカケが事故というどうしようもない事だったとしても。
冗談で口に出すことすら躊躇しなくてはならない。
だから―
「知り合いだよ」