10/02/16 04:24:36 GfVESOT6
『あ、小波さん、お弁当持ってってくださいね?』
『小波さん小波さん、今日は肉じゃがです』
『小波さん? ちゃんとお掃除しないとダメじゃないですか』
『あの、今日出された課題で分からないところがあって……その、勉強見てください』
―最近の典子ちゃんが可愛い。
いや、容姿で言うなら1年と少し前に会ったあの時から、変わりなく美少女だったし、
性格だって―お父さんのこともあり少し暗かったが―優しい良い子だったんだけど。
何故だか典子ちゃんを見ていると落ち着かなくなった。
……典子ちゃんは、可愛い。
一緒に暮らすようになってから数ヶ月経ち、俺は以前よりもまして典子ちゃんの魅力に浮かされているのだった。
勉強机に向かい、高校受験に向けて猛勉強している典子ちゃんの後姿を見つめる。
今やっているのは数学だ。
時折り、計算が合わないのか、ノートに書く手を止めて、顔の左サイドでまとめた髪を人差し指で絡めている。
その仕草にもドキッとした。
「どうかしましたか?」
俺の視線に気付いたのか、振り返って首を傾げる典子ちゃん。
「な、なんでもないよ」
「……?」
ごめんね。
慌てて取り繕って、心の中でそう呟く。
君を守ると言って、お父さんの代わりになると約束したのに、今では君に欲情している。
そんな自分が情けない。
今勉強しているのだって、無理をしてでも推薦を取って、高校に入った時の学費を少しでも減らそうと、
つまりは、俺の負担を減らそうと頑張っているのだ。
典子ちゃんは基本的に成績優秀だし、授業態度も良好だから、
今目指している高校に入るだけなら、普段やっている自習だけで十分のはずなのに。
サラリーマンになって間もなく、そして中途採用扱いな故に安月給な俺のフォローをするために、必要のない苦労を背負っている。
「……っ」
思わず声に出して、今すぐ抱きしめたくなった。握りこぶしを作って、ぐっと堪える。
部屋から出よう。今はいない開田くん(実家に帰ってしまった。南無)の方の部屋へ行って、気を静めよう。
そう思い、俺は立ち上がった。
「ちょっと隣の部屋に行ってくるね。
典子ちゃんは勉強頑張って。でも、ツラくなったらすぐに止めるんだよ」
「はい、分かりましたー。もう、過保護ですよ?」
典子ちゃんは元気に挨拶をした後、ほっぺたを少しだけ膨らませて、拗ねた目をしてそう言った。
「そうかな?」
「そうです」
そうだろうな。俺だってそう思う。過保護に扱っていると思う。
それがいつからか愛情表現となっているのも否定できない、するつもりもない。
だから―、
「それは、俺が典子ちゃんのこと、大好きだからだろうね」
「なっ、なっ、何を恥ずかしいご冗談を?!」と顔を赤くして口をパクパクさせている典子ちゃんを尻目に、俺は部屋を出た。
もちろん、嘘じゃない。冗談でもない。大好きだ。
少し道端で転んだだけで「傷はないのか!? 頭は打ってないか!? 救急車は!!?」と大慌てするくらい過保護なのも、
それは愛情からくる一種の表現なんだ。
……愛情の中に性欲が入っているってのが、悩みモノであり、後見人として問題なんだけどね。