【ととモノ。】剣と魔法と学園モノ。8【エロパロ】at EROPARO
【ととモノ。】剣と魔法と学園モノ。8【エロパロ】 - 暇つぶし2ch163:二番煎じ
10/04/02 00:42:10 6+YHaVEw
ご無沙汰しております、二番煎じです。
エイプリルフールネタは投下が間に合わずに過ぎたので消しました。ので、エイプリルフールネタではありません。
初のエロ有りです。少ないです。
では、どうぞ。

164:森での出来事、アイツの秘密 1/9
10/04/02 00:43:12 6+YHaVEw
フェアリー一行は魔女の森へ来ていた。
既に初めの森や剣士の山道では物足りなくなっていたからだ。
「ンー……疲れたネー。目眩がしそうだヨー」
クラッズが目を擦りながら溜息を漏らす。
エルフがクラッズのその様子を見て、同じく口を開く。
「クラッズもですのね……。フェアリーが道を盛大に間違えたおかげで、ワープをし過ぎたからですわ!」
エルフがフェアリーをビシッと指差し、怒号を上げる。
フェアリーはというと、申し訳なさそうに苦笑いを浮かべていた。
「まぁまぁ、マップは大分埋まったんだから……喧嘩しないでー?ほらっ、転移札もあるし、今日は学園に戻ろうよ?」
フェルパーが自分のポーチから転移札を一枚取り出す。
ヒューマンがそれを受け取り、皆に向かって口を開く。
「フェルパーの提案もあるし、何より雨も降ってきた。疲労も溜まってるだろうし、一旦帰ろうか?」
「えっ?あら、本当ですわ……」
「うえー、なんか僕も湿ってきたよ……」
エルフが雨を確認するとフードを深く被る。
フェルパーは顔をゴシゴシと拭っていた。
「じゃあ使うぞ。俺の周りに集まってくれ」
ヒューマンが転移札を掲げると光に包まれ、あっという間に魔法球の前へとワープしていた。
「やっぱりワープは速いなぁ……。さ、帰ろうか?」
フェアリーがいつものようにワープの感想を述べた後全員が魔法球に手を触れ、またもやあっという間に学園の校門前へとワープしていた。
「じゃあ一旦解散!雨に濡れたから風邪を引かないようにね?」
「この服気に入ってましたのに……。乾かしてきますわ」
「私は翼のお手入れをしてきますね」
フェアリーが解散宣言をした後、皆が思い思いの事をするべく散っていった。
「フェルパーは行かなくて良いのかい?」
「僕?これから寮に行ってシャワーを浴びるつもりだよー」
「覗くなよ?」
「覗かないよ!」
「フェアリーじゃなくて……コイツだよ」
「小生はより人間らしく人形を扱うための研究を……」
それからクラッズにムッツリスケベや変態などの罵声を浴びせていると、目の前に一人のヒューマンが現れた。
他の冒険者には目もくれず、明らかに自分達を待っている様子だった。
「あの……ちょっと、良いんだな?」
「うわっ、デ……」
「駄目だよヒューマン!せめてメタボって言わなきゃ……」
「顔が油でテッカテカだネー……」

165:森での出来事、アイツの秘密 2/9
10/04/02 00:43:58 6+YHaVEw
フェアリー達が小声でヒソヒソと話しているときにも、メタボヒューマンはフェルパーを見ながら息を荒げている。
そんなメタボヒューマンを見ながらフェルパーが口を開いた。
「え?僕……です、か?」
フェルパーは自分を指を向けると、メタボヒューマンはテンションが上がったように鼻の穴を広げる。
「そっ、そそそ!クゥッ、ボクっ娘良いんだな!」
「しかもあれか……ちょっとイタい奴か……」
「イタいと言うか、ヤバいというか……」
「小生も初めて見たヨー……」
少し離れた所でフェアリー達がコソコソと話している内にフェルパー達の話も進んでいく。
「というわけで、魔女の森に来てほしいんだな」
「ここじゃ、駄目……です、か?」
「仲間を待たせてるんだなー……。人見知り萌え!」
さすがに困った様子でフェルパーがフェアリーをちらりと見る。
フェアリーはそれに気付き、フェルパーへと駆け寄った。
「どうしたんだい?」
「僕と話したい人がいるから、魔女の森へ来てくれって言われて……」
「んー……嫌なら断っても良いんだよ?」
「仲間を待たせてるって……」
「えー……それじゃあ僕も行っていいなら」
良いよ、と言おうとしたところで話を聞いていたメタボヒューマンが叫んだ。
「ちょっと待てい、そこのフェアリー!ついて来るのは許さんが、ジェラートタウンまでなら許してやるんだな!」
ビッシィと指を真っ直ぐに指されるフェアリー。
その指を自分の口元に戻し、メタボヒューマンはニヤリと笑う。
「ただし、お前だけなんだな。他の奴らは認めーん!」
フンフンと鼻息を荒げ、いやらしい笑みに変わっていく。
さすがにフェルパーも気持ち悪く思ったのか、フェアリーの後ろに隠れる。
が、メタボヒューマンが先に行ってしまおうとしていたので諦めて後をついて行った。
「……よし、行ってこいフェアリー。あのメタボ野郎に制裁を与えてやるんだ」
あんなヤツと同種だなんて……と呟き、グッと拳を握ってフェアリーに見せる。
「いや、まだ制裁を与えるって決めた訳じゃ……。それに何もやらないだろうしさ?」
「まぁ、行ってきなヨー。小生は来いって言われても行かないだろうしネー?」
「む……まぁ、何もないと信じて俺達は待ってるからな。ただし、三十分たってもフェルパーが帰ってこなかったら突撃しろ」
「了解だよ、ヒューマン」
フェアリーはヒューマンと同じく拳をグッと握り、ヒューマンに見せる。

166:森での出来事、アイツの秘密 3/9
10/04/02 00:44:57 6+YHaVEw
ヒューマンがニッと笑ってフェアリーの肩を叩き、フェアリーも先に行ってしまったフェルパー達を追いかけた。
「さて、俺も雨に濡れたバッカスの剣とか防具の手入れをしてくるか」
「……小生は初めの森で昼寝でもしてくるヨー」
「初めの森で?まあ、服も乾くからな。気を付けろよ」
クラッズは人形を頷かせ分かったの合図を送り、初めの森へと向かって行った。

「―フロトル!」
詠唱が終わったメタボヒューマンは声高らかに叫ぶ。
初めから浮遊しているフェアリーを除くフェルパーとヒューマンが地面から軽く浮いた。
「我等が大事なお姫様に傷は付けれないんだなー」
「……にゃあ」
明らかに不快そうな顔を浮かべるフェルパーに、フェアリーがボソリと声をかける。
「大丈夫?」
「僕、あの人は生理的に受け付けないよー……」
ただでさえ人見知りな上、相手の気持ち悪い外見に性格と、フェルパーがドン引きする条件は万全だった。
「大丈夫、自分もさ。」
ボソボソと会話をしながらフェアリーはニコッと笑う。
フェルパーの不快そうな顔が解れかけたときメタボヒューマンは叫んだ。
「ジェラートタウンに着いたから、そこのフェアリーには退場を願うんだな!」
「宿を取ってるから。待ってるよ」
フェアリーはそう言うと、フェルパーに手を振り宿へ向かって行った。
「ささ、魔女の森へ行くんだな。目印を付けて進んだ道で仲間を待たせてるんだなー」
メタボヒューマンはフェルパーの背をぐいぐい押し、魔女の森へと連れていった。
「目印を付けて進んだ道か……。先回りして様子を見ようか」
そこに誰かが居たことはまだ誰も知らない―

メタボヒューマンは地図を片手に、誰もが惑わされる樹海をスイスイと進んでいく。
と、そこで雨がまた降ってきた。
「ん?雨なんだな。好都……いや急ぐんだな」
メタボヒューマンがフェルパーの手を掴み、走り出す。
フェルパーが不快そうな顔を浮かべているのを知るはずもなく、例の目印を付けて進んだ道へと移動する。
「いたいた。連れて来たんだなぁー!」
メタボヒューマンは仲間と思わしきバハムーンに向かって走り出す。
バハムーンはこれまたバンダナに眼鏡、そして男なのに制服は男物ではなく女物を着ている異様な風貌で、フェルパーは尻尾を思わず逆立ててしまった。
「おい、お前の言った通り……だな!」
「我が……を間違うはずがないんだな、隊長殿!」
遠くにはいたが、一部の会話が聞こえてきた。

167:森での出来事、アイツの秘密 4/9
10/04/02 00:45:47 6+YHaVEw
フェルパーは近寄りたくない気持ちを堪え、半ベソをかきながらのたのたと近づいていく。
ある程度近づいたところで、先程の異様なバハムーンがフェルパーに声をかけた。
「君、かわいいね!よかったら我々の猫娘愛好パーティーに入らないかい?」
「へっ……?」
フェルパーは思わず素っ頓狂な声を上げる。
自分の事をなめ回すように見つめる気持ち悪い人に、そのような事を言われたのだ。
フェルパーはそのまま口を半分開けてバハムーンを見る。
「もちろん、君に選択権はない。なぜなら、我々は二年であり、断ったら実力行使するからだ!」
フェルパーはサアッと血の気が引く。
噂でエルフから聞いたことがあったのだ。
『フェルパーの種族を狙って猥褻な行為を繰り返す二年がいて、襲われた人は寮に篭るようになってしまった』、と。
「我々と一緒に来たまえ!楽しいことをしてやろう!」
バハムーンはフェルパーの腕をがっしりと掴む。
「に……にゃあ!嫌ぁ!」
嫌がるフェルパーはというと、必死の抵抗でバハムーンの顔を引っ掻く。
バハムーンは一瞬腕から手を離し、折らんばかりに力を込めてまた腕を掴む。
「てめぇ……しょうがねぇ、野郎共!コイツを黙らせろ!」
明らかに怒りの表情で近くの岩陰に向かって叫ぶが返事も何もない。
「おい、いつまでも隠れてないで出てこい!」
バハムーンがそう叫ぶと、ようやく一人出てくる。
が、出てきたと同時に倒れ込んでしまった。
そしてヒョッコリと岩にもたれかかり、人形を弄っている男が出てきた。
「あれ、ごめんネー?お仲間さんだったノー?」
「クラッズ!?」
フェルパーが驚きの表情をする。
そして、バハムーンが怒号を上げた。
「おい、テメェ!そいつに何した!?」
バハムーンの顔に焦りの表情が浮かぶ。
それを見てニヤリと笑い、他にいた三人を引っ張りだして放り投げる。
「ンー?ちょっと麻痺してもらっただけだヨー?」
そういうと、急にクラッズのおちゃらけた目が鋭くなりメタボヒューマンとバハムーンを見つめる。
するといきなりメタボヒューマンが叫びだした。
「うわっ、敵?隊長殿はどこに行ったんだな!?」
「なっ、敵!?敵なんかどこに……いた!見つけた!殺す!」
メタボヒューマンはパチンコをバハムーンに向かって構え、バハムーンはナックルをメタボヒューマンに向かって構えた。
「サー、行こうカー」
自由になったフェルパーの手を握り逃げようとするクラッズ。

168:森での出来事、アイツの秘密 5/9
10/04/02 00:46:30 6+YHaVEw
しかし、クラッズは背中に気配を感じ、次の瞬間魔法壁ごと吹き飛ばされた。
フェルパーは振り返ると怒りに満ちた表情のバハムーンと、その後ろに血まみれのメタボヒューマンが横たわっているのを一瞬で把握した。
「幻惑とは小癪な野郎だ……」
クラッズはムクリと起き上がり、バハムーンを睨みつける。
「混乱だったか。麻痺とか石化だったら良かったものの……」
フェルパーは訳が解らないといった様子でクラッズを見る。
そこでフェルパーはいきなり激しい恐怖を感じ、寒気や吐き気等に襲われ意識を失った。
クラッズが異変に気付きメタボヒューマンを見ると、メタボヒューマンはニヤリと笑い、そして力尽きた。
「彼、幅広い魔法を使うね。うちの剣豪気取りの馬鹿ヒューマンとは全く違う」
「当たり前だ。奴は受けれる学科は全て受けた。経験は浅いが幅広く対応出来るからなぁ?」
バハムーンはゴソゴソと鞄を漁り、一枚の札を取り出す。
そしてクラッズに向かってハッと笑い、フェルパーを抱えたまま光に包まれ消えてしまった。
(奴が行きそうな場所は分かっている……が、リーダーへの報告が先だな)
クラッズも鞄から帰還札を取り出し、魔女の森から脱出した。

クラッズは急いで宿に向かい、宿帳を確認した後にフェアリーがいる部屋へと向かった。
「フェアリー!フェルパーが……さらわれた!」
ノックもせずにいきなりドアを開けたため、フェアリーがビックリしてベッドから体を起こす。
「クラッズ!どうしてここに……ていうか、フェルパーが!?」
「詳しい説明は後!いる場所は分かってる!」
クラッズはフェアリーの手を引っつかみ走り出す。
宿から出る際にはフェアリーに金を支払わせ、魔女の森へと向かっていった。

「う……」
フェルパーが目を覚ました時には雨は降っておらず、ここが洞窟というのを理解するのには時間がかからなかった。
「よう、お目覚めかい?」
焚火を焚きながらバハムーンはフェルパーを見る。
フェルパーは言い知れぬ恐怖と寒さで歯をカチカチ鳴らせ、小刻みに震えていた。
「フィアズが抜けきってねぇのか。そっちの方が好都合だけどな」
バハムーンが横たわるフェルパーに手を伸ばし、無理矢理髪を引っ張り上体を起こさせる。
「ふんふん、今回は当たりだな。かわいい顔だし……」
「……!?」
バハムーンはおもむろにフェルパーの胸を掴む。
フェルパーは悲鳴を上げたつもりだったが、声が出なかった。

169:森での出来事、アイツの秘密 6/9
10/04/02 00:47:14 6+YHaVEw
「胸もでかい。いつぞやとは大違いだな」
乳房を揉みしだきながらバハムーンは笑う。
しかしフェルパーには握り潰されている感覚に近く、苦痛以外の何ものでしかなかった。
「制服が邪魔だな。まぁ、ゆっくり楽しませてくれよ?」
バハムーンは懐からダガーを取り出し制服を下着ごと切り裂いていく。
制服が切り裂かれていくにつれ、あらわになっていく乳房をバハムーンは何の躊躇いもなく握り潰す。
「にゃあっ、ああぁ……」
苦痛と恐怖で体をガタガタと震わせながら、痛みで顔をしかめるフェルパー。
しかしバハムーンが力を緩めることはなく、更に荒々しさを増す。
「さって、いつコイツを慰めて貰おうか?」
制服のスカートとパンツを脱ぎ捨て、バハムーンは既に大きくなっているモノをさする。
痛みで顔をしかめていたフェルパーの顔が絶望の物へと変わった。

「クラッズ、ここからどう進むんだい!?」
「そこを真っ直ぐ行って左!立ち止まらないで!」
フェアリーとクラッズは全速力で迷いし者が集う場所へと向かっていた。
クラッズの魔法壁を駆使しながら無理矢理駆け抜けているため、道中出て来た敵が後ろから迫っていた。
「そこの洞窟!早くー!」
「クラッズも急いでー!」
洞窟に入ったところで、フェアリーが固まった敵の群れにアクアガンを炸裂させ一掃する。
「ハァ……ハァ……で、次は?」
「此処から真っ直ぐに行って……ヒュー、それから道なりに行けば大丈夫だよ……ゲホッ」
よほど疲労していたのであろうフェアリーとクラッズはヒーラスで回復した後、また全速力で目的地へ急ぐ。
「まだ、まだ着かないの!?」
「そこ曲がって曲がって曲がって曲がればもう着くはずだから!」
クラッズに言われた通り、四回角を曲がるとそこには……
「にゃっ、い、ゃぁっ……!」
「もともと雨に濡れてたからなぁ、滑りが良いよ!」
パンッ、パンッと響く音。
パァンッ!と一際大きな音が響くと同時にバハムーンのモノからフェルパーの顔目掛け白濁が飛び出し、顔を白濁でドロドロにする。
「にゃああぁぁ!何、コレ……熱、い……!」

170:森での出来事、アイツの秘密 7/9
10/04/02 00:48:07 6+YHaVEw
「あ、あぁ……うっ、げっ!」
「あちゃ、遅かった……。じゃあ小生はここで見てるからお姫様を助けて来ると良いよ」
クラッズは外していたシルクハットを見てはいけないモノを見ないよう深く被り、フェアリーを横目で見る。
フェアリーはというと、その光景に耐え切れず嘔吐していた。
やがてフェアリーの顔は怒りの表情へと変わり、叫びだしていた。
「……サマ、貴様あぁぁ!」
フェアリーは素早く詠唱を開始し、詠唱が完成したと同時に叫ぶ。
「ダクネスガン!」
闇の球がバラバラに散らばりながらもバハムーンへと襲い掛かる。
バハムーンはフェアリーの怒号に気付き、フェルパーの乳房から自分のモノを引き抜き、ダクネスガンの範囲外へと逃げる。
「あっ、馬鹿……!」
恐怖で動けないフェルパーの前にクラッズがかろうじて魔法壁を張る。
魔法壁は数発のダクネスガンを飲み込み、そして砕け散った。
冷静になってきたフェアリーはフェルパーの元へと飛んで行き、リフィアをかける。
「あ、ありがとう……僕、怖かったよー!」
フェルパーはフェアリーに抱き着き、声を上げて泣いた。
フェアリーは優しくフェルパーの頭を撫で、声をかける。
「大丈夫?まずその汚らしいモノ、拭いてあげるよ」
汚らしいモノと言われ、バハムーンは顔を歪ませる。
そんなバハムーンなど気にも止めずにフェアリーはフェルパーを一旦離し、高級な布で顔、髪、乳房など、体中についた白濁を丁寧に拭う。
そしていつも着ている服を脱ぎフェルパーに渡す。
「大きさが合わないけどこれを着て、あっちにクラッズがいるからそっちで待ってて……」
やー、制服姿なんて久し振りだな、などと呟きながらフェルパーがクラッズの元へ行ったのを確認する。
そして転移札を取り出し、それを掲げるとフェアリーが光に包まれる。
「転移札……?ハッ!背後に回って襲撃なんて見え見えだ!」
スカートをはき直し、バハムーンは後ろを向く。
すると、先程見ていた方向から声が聞こえた。
「考えすぎ、さ」
バハムーンは背中にグッと手を押し当てられる。
急いで振り返ろうとするが、既に遅かった。
「―サンダガン」
冷たく放たれた言葉と同時にバハムーンの体に電流が流れる。
「アガ、ァガガガガッ、アアアァァ!」
「……終わった、ね。君は雨に濡れた、と言っていたから」
全身がピクピクと痙攣しているバハムーンに向かってニコリと笑うフェアリー。

171:森での出来事、アイツの秘密 8/9
10/04/02 00:48:56 6+YHaVEw
フェアリーはバハムーンを尻目に、クラッズの方へと飛んでいく。
「……!フェアリー、後ろっ!」
フェルパーが叫び、フェアリーが咄嗟に横へと避ける。
飛んできたダガーはフェアリーの右手の一部をえぐり、飛んでいった。
フェアリーが振り向くとバハムーンが不敵な笑みを浮かべていた。
「……!サンッ……」
サンダガンを詠唱する前にフェルパーが弾丸の如く飛び出していき、次の瞬間にはミスリルソードでバハムーンの首を跳ね飛ばしていた。
「フェル、ぱぁ?」
フェアリーが口をパクパクとしており、クラッズがやれやれといった表情をする。
フェルパーはミスリルソードを鞘に納め、フェアリーの方へと歩き出す。
「……ごめんなさい!僕があんな怪しい奴に付いていったばかりに、こんな目にあわせちゃって……」
「いや、その……いや大丈夫だよ。じゃなくて!フェルパー、あれ……」
フェアリーがバハムーンだった物を指差す。
「どうせ救助されるでショー?あんな変態、放っておいてもいいヨー」
クラッズがへらへら笑いながらフェアリーに近づく。
どうやらいつものクラッズに戻ったようだ。
「そう……だね。じゃあ、学園に戻ろうか!」
フェアリーはそう言うと帰還札を取り出し掲げた。
ジェラートタウンに帰還し、魔女の森の魔法球を使って学園へと戻る。
フェアリー達は心なしかほっとした顔になっていた。
「今度こそ僕はシャワーを浴びたいよ……。まだ髪もべとべとするし……」
「念入りに洗った方が良いよ。せっかくサラサラした綺麗な黒髪なのに……」
「はーい、フェアリーは保健室ネー」
フェアリーはクラッズに連れられ保健室へ、フェルパーは自分の寮へと戻っていった。
そして夜、食堂にはヒューマン、クラッズ、エルフ、セレスティア、フェルパーが揃っていた。
「よう!ようやく来たな。」
「遅いですわ!食事のリズムが狂えば生活のリズムも狂いますわよ!」
「まずお腹ペコペコだよー」
「右に同じく、だネー」
「では報告しながら食べましょうか」
「の前に……どうしたの?皆集まって……」
それからの話を聞くかぎりではクラッズが重要な話があるらしく集まったらしい。
「実は小生……」
「ねー、クラッズ。あの時に使った幻惑って何?」
「話を聞いてれば分かるヨー。実は小生、両親が暗殺専門の忍者だったんだよネー」
「「「「!?」」」」
「にゃ?」

172:森での出来事、アイツの秘密 9/9
10/04/02 00:49:43 6+YHaVEw
「幻惑も忍者の技の一つでネー。小さいときから忍者の基礎から技まで全部叩きこまれて」
遠い目でほうっと息を吐くクラッズ。
「い、今でもできるの?」
「今はあんまりだネー。情報収集、追跡はお手の物だヨー。」
「じゃあ、あの時に言った『ついて来いって言われても』と『初めの森で昼寝』は……」
「あのメタボ君が例の……フェルパーを性的な意味で襲う二年だって知ってたから、ネー。それと言われても言われなくても『追跡』はするつもりだったからネー」
クラッズの発言に場が凍り付く。
「さ、先に言えー!馬鹿クラッズ!」
「うるさいナー、剣豪気取りの馬鹿ヒューマン」
「な、なぜ忍者学科ではないのですか?」
セレスティアが気をきかせ話題を変える。
「忍者だと見たくない物を見ちゃうからネー、おちゃらけていられる人形使い学科を選んだんだヨー」
クラッズはヒヒヒと笑い、そしてフェアリーへと話題をふる。
「そういえばフェアリーって、怒ると恐いよネー?」
「そうなの?意外ですわね」
「んー、強いて言うなら、自分は大切なモノを守るときには抑制が効かないんだよね」
「僕って物なの?」
「人の意味の者かもしれないヨー?」
「オホン!で、次はフェルパーに質問だよ?フェルパーはどうして」
「フェアリー……右手大丈夫か?」
ヒューマンがフェアリーの右手の包帯を見て心配した表情を浮かべる。
「待って、言いたいことを忘れるから!えーと……そうだ!どうしてミスリルソードを持ってたんだい?」
「そ、それは……クラッズが……くれて……」
どんどんフェアリーから顔を背けていくフェルパー。
「クラッズ、どうやって……」
「麻痺させた奴が持ってたから貰ってきたんだヨー」
フェアリーが頭を押さえてやれやれといった表情で首を振る。
そこでヒューマンが話しかけてきた。
「フェアリー、右手……」
「え、あぁ、大丈夫だよ。自分は左利きだから」
「えぇ!?」
「意外ですわ……」
「それは馬鹿にしてるのかな?」
「気付かないものですね……」
「にゃあ」
「そんな、セレスティアにフェルパーまで……」

嫌な思い出も良い思い出に変えていこう。
きっと懐かしく思えるときが来るから……
そう心に決めたフェアリーとフェルパーだった。


後日、救助された猫娘愛好パーティーの方々は保健室で治療された後、退学処分を受けましたとさ。

173:二番煎じ
10/04/02 00:55:21 6+YHaVEw
ありがとうございます、二番煎じです。

まさかのバハムーンモノになってしまいました。
今だにフェルパーはフェアリーと関係を持たず。南無。

次からはもう少しエロを増やせるよう精進します。

では。

二番煎じは逃げ出した!

174:名無しさん@ピンキー
10/04/04 00:59:17 6YmXP+j7
乙です
猫娘愛好パーティー……作りたくなる気持ちはよくわかるw

175: ◆BEO9EFkUEQ
10/04/13 00:06:18 CEAvcnhM
こんばんは、新入生の時期の四月ですね。

新たに色々縛って始めた記録が、やたら劇的な展開になったので長編にしてみました。
願わくば活気の呼び水にでもなることを祈って。
もはや毎度のことながら長いので、お暇なときにでも読んでもらえれば幸いです。

176:流れ星の英雄~序章(1/5)~ ◆BEO9EFkUEQ
10/04/13 00:07:52 CEAvcnhM
死亡者数、11名。うち、ロスト3名。
この月は死亡者数、ロスト人数ともに少なく、とても平和な月だった。

新入生の訪れる季節。毎年のことながら、この時期は新入生のことが話題となる。この年は、新入生の当たり年だともっぱらの噂だった。
それというのも、イノベーター、あるいは特待生と呼ばれる生徒が、一挙に七人も入学したのだ。年に一人いるかいないかという逸材が、
これほど大量に来ることは珍しく、在学者にしろ教師陣にしろ、彼等にはそれなりの期待というものがあった。
だが程なく、彼等は再び違う話題で盛り上がることとなる。
必ず数人はいる、極端に素行の悪い生徒。もちろん、度が過ぎれば学校側としても何らかの処置は下し、そもそもが血の気の多い生徒の
多い学校である。新入生が粋がったところで、先輩連中の痛烈な洗礼を浴びるのが常である。しかし、この時ばかりは勝手が違った。
その、才能溢れるイノベーターと呼ばれる生徒のうち、三人が恐ろしいほどの問題児だったのだ。

冒険者養成学校という、一般の学校とはまた違った教育を施す場所とはいえ、やはり学校には違いない。そのため、ここにもいくつかの
委員会が設置され、多くの生徒はその中のいずれかに所属している。
そのうちの一つ、風紀委員。そこに与えられた部屋の中で、一人の女子生徒が頭を抱えていた。彼女の前にある机には、いくつかの
書類が重なっている。
「……まったく、本当に…!今回ばかりは、手を焼きますわね…!」
エルフらしい端正な顔を歪め、彼女はそう独りごちる。いくつかの書類を手に取り、パラパラとめくった後、再び頭を抱える。
「新年度早々、こんな問題を……何を考えているんですの、まったく…!」
いくら読み返したところで、問題がなくなるわけでもない。それでも、彼女は書類をめくり、ぶつぶつと独り言を呟いていた。
その時、コンコンと控えめなノックの音が響いた。
「どうぞ、開いてますわ」
「失礼しますよ、委員長」
現れたのは、柔らかな笑みを湛えるセレスティアだった。その腕には新たな書類と、湯気を立てるカップがある。
「紅茶でもいかがですか?働き詰めでは、疲れますよ」
「……できれば、その紅茶だけ頂きたいところですわね」
「すみませんが、こちらも預かっていただかねばなりません」
大きな溜め息をつき、エルフは紅茶と書類を受け取る。
「加害者と被害者の資料です。目を通すのが面倒ならば、わたくしが説明いたしますが」
「しばらく書類は見たくないですわ」
「そうですか、わかりました。では…」
「その前に、ちょっとよろしくて?」
口を開きかけたセレスティアを遮り、エルフが口を開く。
「その堅苦しい喋り方、何とかなりませんの?」
「一応、業務中ですので」
苦笑いを浮かべつつ答えるセレスティアに、エルフはまた溜め息をついた。
「今は、わたくしとあなたの、二人しかいませんわ。どうか、いつもの口調に戻してくださらないかしら?」
その言葉に、セレスティアはどこか軽く見える笑みを浮かべた。
「……それも、そうですね。では、改めまして…」
「おーっと、委員長に副委員長、デートの最中お邪魔するよ」
突然、窓際から響いた声に、二人は驚いて振り返った。するとそこには、一人のフェアリーの男子が座っていた。フェアリーとはいえ、
大きさはクラッズと同程度であり、種族の中では比較的大柄な部類である。

177:流れ星の英雄~序章(2/5)~ ◆BEO9EFkUEQ
10/04/13 00:08:47 tozwUNnz
「フェアリー!あなた、また窓から入ってきたんですの!?」
「やれやれ、君も風紀委員だろう?風紀委員が風紀を破るって、どうなんだい?」
それまでと全く違う口調で、セレスティアが尋ねる。口調としては普通なのだが、それまでの言葉遣いと比較すると異様に軽く聞こえる。
「あ~、魔が差した。で、お二方。それは例の話かい?」
「大体、デートの最中って……わたくしと彼は、風紀委員としての話をしてたんですの!」
「あーそう。悪い悪い、魔が差したんだよ。で、例の話なんだね?風紀委員として、僕もその話を聞く権利があるよね?」
強引に話を捻じ曲げ、フェアリーは当たり前のように席に着いた。
「……まあいいですわ。では、副委員長、お願いしますわ」
「わかった。じゃ、まず最初の件から行こうか。私の持ってきた資料で言うと、一枚目と四枚目から九枚目だよ」
しばらく見たくないと言っていたにもかかわらず、エルフはしっかりと資料に目を通す。
「まず、加害者はバハムーンの男子。戦士学科所属。この間の入学生、イノベーターの一人だね。ヒューマンの男子と口論になり、
そこから乱闘に発展。きっかけは、バハムーンが彼をゴミ呼ばわりしたことらしいね。結局、ヒューマンとそのパーティは、
彼一人の手によって壊滅。全員が保健室送りだって」
「へーえ、六人相手に勝ったんだ。さすが、イノベーターだね」
フェアリーも勝手に資料を取り、エルフと一緒に眺めている。
「次、二枚目と十枚目。加害者はドワーフの女子。学科は戦士で、さっきと同じくイノベーターの一人」
「……野蛮な種族らしいですわね」
エルフが眉をひそめ、呟いた。
「被害者はエルフの男子。きっかけは……面会謝絶だから、まだわかってない」
「面会謝絶だって?すごいな、それ」
「まあ、ねえ?エルフとドワーフは、種族的に気が合わないから……きっと喧嘩の理由は、大したことじゃないんだと思うよ」
「あら?この男子……え、この被害者もイノベーターですの!?」
エルフの声に、フェアリーも驚いて資料を覗き込む。
「そう、イノベーター同士の喧嘩なんだ。彼は私と委員長と同じく、魔法使い学科だったから、肉弾戦では分が悪かっただろうねえ」
「これだから、この種族は嫌いですわ!後衛の学科に、平気で手を上げるなんて…!」
「あ、ちなみに彼女もファイアを撃たれて怪我をしてる。どっちが先に手を出したかはわからないけど、怒るのも無理はないね」
「新入生にファイア…」
それが何を意味するかは、エルフにもよくわかっていた。いくら初歩の魔法とはいえ、ほとんど訓練を受けていない新入生に放てば、
一撃で死に至ることもあるのだ。まして、校内でファイアを詠唱するのは、立派な校則違反である。
「わお、やるねえ。どうだい、委員長?同種族がそんな真似をしたっていうのは、どんな気分だい?」
皮肉っぽく尋ねるフェアリーを、エルフは睨みつけた。
「……う、うるさいですわ。きっと、向こうが先に手出ししたに決まってますわ」
「ま、これはこれでいいだろ?次、最後。三枚目と十一、十二枚目」
「さぁて、今度はどんな化け物かなー」
楽しそうに言うフェアリーを、エルフがギロリと睨みつける。

178:流れ星の英雄~序章(3/5)~ ◆BEO9EFkUEQ
10/04/13 00:09:31 tozwUNnz
「加害者、フェルパーの女子。格闘家学科。やっぱりイノベーター。被害者は……私達と同じ学年の二人」
それには、エルフもフェアリーも驚いた。一年もこの学校にいれば、新入生相手など怪我一つせずに勝ててもおかしくはないのだ。
「この子はちょっと特殊で、真剣道部に顔を出したらしいよ。で、稽古を見学していたところ、突然ダガーを抜刀。瞬く間に二人を
切り伏せ、三人目に襲いかかったところで、部員総出で取り押さえたって話」
「ちょっと待って。ダガー?二年の、真剣道部の部員が、ダガーで?」
「そう、ダガー。被害者二人の得物は、日本刀にサーベル。一人は油断してたにしろ、もう一人は実力で負けたってことだね」
説明が終わると、エルフは深い溜め息をついた。そして、疲れた目でセレスティアを見上げる。
「それで……わたくしが一番気になることは、どうしてこの三人が、今も野放しになってるんですの!?」
「そこだよねえ、問題は」
今度はセレスティアも、エルフと共に頭を抱える。
「バハムーンは、相手が多勢に無勢ってことで。ドワーフも、相手がファイアを詠唱したことで。フェルパーも、相手が
真剣道部員であったこと、場所もその道場だったことで、全員が厳重注意で済んでるみたいだよ」
「まして、学校としては貴重な特待生。そう簡単に、手放したくないんだろうさ」
軽い調子で言うフェアリーの言葉は、二人の気をさらに重くさせた。
学校側から処分が下っていれば、それで話は終わりなのだ。しかし、実質ほとんどお咎めなしの状態であり、風紀委員としては、
この危険人物達を野放しにはしたくない。また問題を起こされれば、それはこちらも少なからず責任を問われるからだ。
となると、彼等が再び問題を起こす前に、何とかしなければならない。かといって、こんな相手を何とかできるほどには、
まだ実力がない。
二人が悩んでいると、フェアリーはおかしそうに笑った。
「いいじゃん、僕達で何とかすれば。お目付役がいれば、学校側にも面目は立つしさ。ていうか、あっちもそれを望んでるんだろうし。
そうでもなきゃ、こんな資料は寄越さないだろ?」
「私達がかい?けど、この三人をどうやってまとめるって言うんだい?」
「それは、これから考えることさ。ま、力でまとめるなんて真似、魔法使い二人とレンジャー一人じゃ無理だろうけど」
そう言ってフェアリーは笑うが、その目は本気だった。
「それに、考えてみなよ。人数差を跳ね返す戦士に、同じイノベーターを瀕死に追い込む戦士、そして武器を持った先輩二人相手に、
ダガー一本で勝つ格闘家だぜ?こんな実力者、滅多にいないよ」
「……つまりあなたは、この三人の力を利用しようって言うんですの?」
エルフのなじるような声に、フェアリーは笑顔で答えた。
「いいんじゃん?あいつらの力、利用させてもらおうよ。僕らだって旨みがなきゃ、やってられないって。押し付けられた難役も、
見方を変えりゃチャンスだってこと」
「自己の打算だけで、何かを利用するなんて論外ですわ!わたくし達が為すべきことは、彼等を更生させることでなくって!?」
「ははは、あんな問題児を更生ねえ。鉄拳制裁でもするのかい?返り討ちが関の山だと思うけどねえ。それよりは、僕ならうまく操って
利用するよ。それとも、委員長は規律の名のもとに、力無き正義を信奉し続けるかい?ははは」
エルフは悔しさに歯噛みするが、言い返すに足る案もない。結局、この問題児達を力で従えるなどというのは、到底無理な話なのだ。
「まあまあ、二人とも。あまり熱くなりすぎないように」
そこへ、セレスティアがやんわりと間に入る。

179:流れ星の英雄~序章(4/4)~ ◆BEO9EFkUEQ
10/04/13 00:11:20 tozwUNnz
「委員長、私も彼の案には賛成だよ」
「副委員長、あなたまでっ…!」
「いやいや、誤解しないで。私達に大きな権限や力があるなら、彼等を従えることはできると思うよ。でも、力で従えたとしても、
それは永続的なものじゃない。それよりは、彼等に手綱を付けて、それを握ってしまうのがベストだと思うんだ」
「それは……確かに、できるならそれがいいとは思いますわ」
「よしっ、話は決まりだね!」
そう言うと、フェアリーは早速窓から外へと飛び出した。
「だからフェアリー、君も風紀委員なんだから、窓から出入りしないの」
「魔が差した。まあとにかく、そうと決まったら早いとこ、あいつら見つけなきゃね。これ以上、被害が出る前にさ」
フェアリーが飛び去ってしまうと、残ったエルフとセレスティアは軽い溜め息をついた。
「……彼って、きっと悪の実一口齧っただけで、性格『悪』に変貌するよねえ」
「あれで中立的だというのが、信じられませんわ」
「でもまあ、彼みたいな人材も必要だよ。善にしろ悪にしろ、中立的にしろ、一面だけでは風紀なんて守れないし、作れない」
そう語る彼を、エルフは何とも言えない目で見つめる。
「……わたくし、今もあなたが委員長になればよかったのにと思ってますわ」
「私?はは、それはダメだよ。君みたいに、しっかり規律を守ろうという人が、頂点にいなきゃね」
「もう……あの時と同じこと言うんですのね」
僅かに非難の色を込めて、エルフはセレスティアを見つめる。そんな彼女に、セレスティアは優しく微笑みかけた。
「まあ、この話はまた今度にしようよ。今は、私達がやるべきことをしなくっちゃ」
「それもそうですわね。さあ、大仕事が始まりますわ」
そして、二人は揃って風紀委員室を出ていく。外は春らしく、暖かな陽気に満ちていた。

180:流れ星の英雄 第一章~流星群~(1/15) ◆BEO9EFkUEQ
10/04/13 00:13:04 tozwUNnz
春の陽気に誘われ、外へと出て行くのは、何も虫や草木だけではない。
とある校舎の屋上に、一つの影が現れる。真っ赤な尻尾をゆっくりと揺らめかせ、のんびりした足取りで歩く姿は、人によってはトカゲを
連想させるだろう。あながち遠いわけでもないが、それを本人に言えば、恐らく次の瞬間にはブレスによって灰にされるだろう。
ゆっくりと、バハムーンは屋上を歩く。そして、入り口からちょうど死角になっている部分に来ると、ごろりと寝そべった。
しばらく、彼はそのまま空を見上げていた。やがて、その目がゆっくりと閉じられ、呼吸も小さな寝息となる。
それは実に平和そうな、まさに春の一コマだった。その、僅か数分後までは。
突然、彼は髪を掴まれる痛みに飛び起きた。しかし立ち上がるより早く、そのまま何者かに引きずり起こされる。
「てめえ、誰に断ってここで寝てんだよ」
「ぐっ…!?」
「邪魔だぁ!!」
次の瞬間、バハムーンは床に投げ出された。だが、即座に受け身を取り、突然の襲撃者を睨みつける。
「……なんだぁ、その目?あたしとやる気かよ?」
小柄で、ふさふさした体毛に包まれた、獣のような種族。女ながらにバハムーンの巨体を片手で投げ飛ばす辺り、いかにもドワーフらしい
怪力の持ち主である。
「貴様……死にたいのか」
「てめえがあたしに勝てるつもりか?はっ、てめえの脳みそ、どんだけイカレてんのか、頭カチ割って見てやるよ」
言うが早いか、ドワーフはバハムーンに殴りかかった。だが、バハムーンは彼女の拳が届く前に、その顎を蹴りあげた。
「ぐあっ!?」
「チビの劣等種が、粋がるな!」
彼の拳は、相手が女であろうと容赦はなかった。直後、彼女の鼻面に拳が叩きこまれ、鼻血が噴き出す。
完全に、意識まで断ち切ったはずだった。しかし、次の瞬間。
「何…!?」
不用意に突き出していた腕を、ドワーフはしっかりと捕えた。そして、未だ闘志を失わぬ目でバハムーンを睨むと、思い切り腕を
引っ張る。咄嗟に踏ん張ってそれに耐えた瞬間、彼女はその勢いを利用して拳を突き出した。
「ぶあっ!!」
今度は、バハムーンの鼻面に拳が叩きこまれる。一瞬飛びかけた意識を辛うじて繋ぎ止め、バハムーンは何とか床を踏みしめる。
二人はしばし睨みあった。お互い、必殺の拳を叩きこんだはずなのだが、相手はまだ立っている。
「……へえ、少しゃあやるみてえだな」
「劣等種が……ここで倒れていれば、余計な苦痛もなかったものをな」
二人は同時に距離を詰め、お互い一歩も引かずに殴り合った。
状況は、一見バハムーンが有利だった。さすがに身長差がありすぎ、ドワーフの拳が届かない範囲からも、彼の拳は届いてしまうのだ。
だが、よく見ればバハムーンも決して余裕ではなかった。
どんな攻撃を叩きこもうと、ドワーフは決して倒れなかった。普通の者ならとっくの昔に失神しているような攻撃に、
彼女は耐え抜いてしまうのだ。それどころか、無理矢理耐えることで作り出した隙を突き、逆にバハムーンを殴り返している。
そもそも失神以前に、彼の拳は相手の闘志を砕いてしまうほどの威力がある。しかし、ドワーフの目は決して闘志を失わない。

181:流れ星の英雄 第一章~流星群~(2/15) ◆BEO9EFkUEQ
10/04/13 00:14:03 tozwUNnz
しばしの殴り合いの後、二人は同時に距離を取った。ドワーフの方がボロボロにはなっているが、バハムーンの方もかなり
息が上がっている。むしろ、精神的には彼の方が追い詰められているようにも見える。
「貴様……なぜ倒れない」
「てめえこそ、いい加減倒れやがれ。うぜえんだよ」
「貴様なぞに、やられるものか」
「やられろよ。さすがに疲れんだよ、うざってえ。それより……って、おい!」
「む…」
二人は同時に、先ほどバハムーンが寝ていた場所に視線を移した。そこではいつの間にか、フェルパーの女の子が丸まっていた。
「てめえ、そこどけよ!そこはあたしの場所だ!」
「いつから貴様の場所になった。俺の場所だ」
二人の声に、フェルパーは耳をピクリと動かし、続いて大儀そうに顔を上げると、大きな大きな欠伸をした。
「ふあ~~~~ぁぁぁ……んむー?もう喧嘩はやめちゃうの?いいよ、続けてて。面白いもん」
「見せもんじゃねえんだよ!いいからどけぇ!!」
容赦のないドワーフの蹴りが襲う。だが、フェルパーは一瞬の間に身を翻し、それをかわした。
「速えっ…!?」
「あはははっ!遅いよ!当たらないよ!んなーぅ!」
一声、猫そのものの鳴き声を発すると、逆にフェルパーがドワーフに蹴りかかる。直後、パパパン、と小気味良い音が響き、ドワーフが
僅かによろめく。
「あはっ、あははは!私も遊ぶ!強そうだもん!だからね!私も遊ぶの!」
ドワーフから突如狙いを変え、フェルパーはバハムーンに襲いかかる。咄嗟に繰り出された拳を容易くかわし、直後フェルパーは
地を蹴り、空中で体を捻った。
「んなぉ!」
「くっ!」
首めがけて振り下ろされた足を、辛うじて防ぐ。フェルパーは蹴った勢いを利用し、そのままバハムーンと距離を取る。
その後ろに、いつの間にかドワーフが立っていた。
「んにっ!?」
「調子に乗んな、くそ猫が!」
フェルパーの体を掴み、ドワーフは軽々と頭上に持ち上げる。直後、思い切り腕を振り下ろし、地面に叩きつけた。
しかし、フェルパーは空中で身を翻し、両手足で着地してしまう。ドワーフもすぐに気付き、追撃しようとした瞬間、
背中にゾクリと冷たいものが走った。
フェルパーの腕が動く。咄嗟に体を反らした瞬間、ドワーフの頬に鋭い痛みが走った。
「つっ…!?」
思わず距離を取る。頬に触れてみると、手にはべっとりと赤い血がついていた。
「あははっ、すごいすごい!ねっ!すごいねっ、私の攻撃避けたよね!あははっ!そういうの大好き!」
フェルパーが顔を上げた。その目は異様な輝きを放ち、血の滴るダガーをより恐ろしげに見せている。
「だってだって!そういう人殺すのって、すっごく楽しいんだもん!」
「な……んだ、こいつ…!?」
「狂ってやがる…」
さすがのドワーフとバハムーンも、思わずそうこぼす。
「ねっ!あはははっ!殺すよ!いいよねっ、ねっ!?んなーぅ!」
ダガーを振りかざし、フェルパーが襲いかかる。あまりに危険な存在の乱入に、二人の関係は即座に変化した。

182:流れ星の英雄 第一章~流星群~(3/15) ◆BEO9EFkUEQ
10/04/13 00:15:41 tozwUNnz
目の前で振りまわされる刃物にも臆さず、ドワーフはそれを紙一重で避けていく。その隙に、バハムーンはフェルパーの横に回り込み、
射程に入った瞬間殴りかかった。
その腕目掛けて、ダガーが襲いかかる。咄嗟にバハムーンは腕を引き、体ごとフェルパーにぶつかる。
「あうっ!」
「くっ…!」
吹っ飛ぶ直前、フェルパーはバハムーンの肩を切りつけていた。幸い傷は浅いものの、切られたという事実は思いの外強い衝撃となる。
「あははー!真っ赤真っ赤!血がいっぱい!あっついの、もっといっぱい出してよ!んまぁーお!」
再びバハムーンに襲いかかるフェルパー。切られた痛みが強く感じられ、バハムーンは相手から距離を取る。
「こっちも忘れんな!」
その横から、ドワーフが飛び込んだ。フェルパーはそれに応えるように狙いを変え、ドワーフに襲いかかる。
「んなぅ!!」
顔面を蹴りが襲い、怯んだ瞬間ダガーが突き出される。何とか体を捻ってかわし、ドワーフは大きく息をついた。
「へっ、ちんたらやってるんじゃねえよ。来やがれ!」
構えを完全に解き、ドワーフはフェルパーと正面から向かい合った。そんな彼女に、フェルパーは狂気に満ちた視線を送る。
「あはっ、あはははは!!殺すよ!?殺していいよね!?いいんだよね!?あははぁー!!んなぉーう!!」
楽しそうに叫び、フェルパーは飛びかかり様、ドワーフの首にダガーを振るった。
鋭い刃が首筋を捉える瞬間、ドワーフの手がフェルパーの腕を掴んだ。
「ええっ!?そんなっ!?どうして捕まるのぉ!?」
「怖がんなけりゃ、そんなもん素手と変わりねえんだよ!」
素早く腕を持ち替え、相手の肩を極める。途端に、フェルパーは悲鳴を上げた。
「いっ、痛い痛い痛いよぉー!!痛いのやだぁー!!」
「ああそうかい。その腕、へし折ってやる!!」
肩を極めたまま、ドワーフはもう片方の手を引いた。そして、肘に掌底を叩きこもうとした瞬間、フェルパーは無理矢理体を捻り、
そちらに肘の内側を向けた。
「痛ぁっ!」
「ちっ!」
辛うじて折られずに済んだとはいえ、その痛みにフェルパーはダガーを取り落とした。そこに、バハムーンが走った。
ダガーを拾い上げた瞬間、一瞬早く気付いたドワーフが顔面を蹴り飛ばす。
「ぐうっ!」
フェルパーを突き飛ばし、今度はドワーフがダガーを拾う。しかし、突き飛ばされたフェルパーは地面に手をつき、逆立ちの姿勢から
体を捻ると、ドワーフの腕に足を振り下ろした。
「うあっつ!」
「んなーぁ!渡さないよ!」
「貴様にも渡しはしない!」
フェルパーがダガーに手を掛けた瞬間、バハムーンはその刃を踏みつけた。ただ、あまりに強く踏みつけたため、その刃はぐにゃりと
曲がり、もはや使い物にならなくなってしまった。
凶器がなくなり、瞬時に三人は現状を把握した。そして、動物的直感ともいえる感覚で、次に取るべき行動が決まった。

183:流れ星の英雄 第一章~流星群~(4/15) ◆BEO9EFkUEQ
10/04/13 00:16:22 tozwUNnz
バハムーンとフェルパーが、最も傷ついているドワーフへ襲いかかる。ドワーフは咄嗟に守りを固め、その攻撃を何とか凌ぐ。
「畜生……やっぱ、そうなるよな…!」
ぼやきつつ、ドワーフは二人の猛攻に何とか耐える。急所を守り、ただただじっと来るべき機会に備え、様子を窺う。
バハムーンの突きを受け止め、フェルパーの蹴りを避ける。さらに飛んできた肘を両手で受けると、がら空きになった脇腹へフェルパーが
蹴りを放つ。
直後、ドワーフは足を上げ、その蹴りを膝で防いだ。
「いったぁーい!!!」
「なめるからだ!」
すぐさま踏み込み、フェルパーの腹へ拳を叩きこむ。それはみぞおちへ直撃し、たまらずフェルパーはその場に崩れ落ちた。
「げほっ……おえぇ…!」
腹を押さえ、嘔吐するフェルパーに追撃を掛ける瞬間、バハムーンが拳を突き出す。ドワーフは咄嗟に向きを変え、攻撃を受け止める。
その後ろで、フェルパーが立ち上がった。だが、ドワーフは振り返りもしない。
「んなおぉーう!!」
興奮した鳴き声を上げ、フェルパーはバハムーンに襲いかかった。まともに攻撃を受け、傷ついた今、元気なバハムーンが残っては
困るのだ。となれば、必然的に次の行動は絞られる。
「ちぃ!劣等種が、使えねえ…」
ますます激化する戦闘。そして、再び三人が拳を交えようとした瞬間、突如その中心に小さな雷が落ちた。
「うお!?」
「わっ!」
「ふぎゃ!?」
三者三様の反応を示し、三人は慌ててその場を飛びのく。振り向くと、そこにはエルフとセレスティアが立っていた。
「そこまでですわ。あなた達、その大騒ぎを今すぐおやめなさい」
「なんだ、てめえ?」
ドワーフが詰め寄ろうとすると、セレスティアがさりげなく間に割って入る。
「彼女は、風紀委員長ですよ。わたくしは同じく、副委員長。風紀委員としては、このような事態を見過ごすことはできないのです」
「風紀委員だか何だか知らねえが、偉そうに」
バハムーンも不快らしく、忌々しげに呟く。
「実際偉いさ。僕等は君等の先輩だし、そっち二人は委員長に副委員長だからねえ」
「ん?」
突然上から響いてきた声に、三人は頭上を見上げた。その視線とすれ違うように、フェアリーは地面に降り立つ。
「虫けらか…」
「チビ妖精かよ…」
「んなーん、飛んでるー。トンボみたいー」
「君等こそ、トカゲに犬に猫じゃないか」
フェアリーの言葉に、ドワーフとバハムーンの眉が吊り上がる。
「貴様…!」
「よし、てめえそこに直れ」
「フェアリー、遊びにきたのなら帰ってくださらない?」
エルフが睨むと、フェアリーは肩を竦めた。

184:流れ星の英雄 第一章~流星群~(5/15) ◆BEO9EFkUEQ
10/04/13 00:17:10 tozwUNnz
「魔が差したんだよ。わかったわかった、もう黙る」
フェアリーがセレスティアの後ろに隠れると、改めてエルフが口を開く。
「あなた達のしていた行為は、校則ではっきりと懲戒の対象になっていますわ。それはわかっていらして?」
「関係あるか、カスが」
「ぐっ……あ、あなたのような獣には、確かに関係ないし、理解もできないかもしれませんわね…!」
「てめえも喧嘩売ってんのか。やんならあたしは構わねえぞ」
どんどん泥沼化する状況に、セレスティアは苦笑いを浮かべる。
「まあ、まあ。お二方、少し落ち着いてください」
「貴様のその喋り方、何とかならねえのか。聞いててうざってえんだが」
バハムーンが言うと、セレスティアは一瞬きょとんとし、すぐにまた笑顔を浮かべる。
「あ、普通でいいかい?なら普通の喋りにしようか」
「……あ、ああ」
思わぬ変貌ぶりに、バハムーンも少し意外だったらしく、素直に頷いてしまう。
「えーと、まず君達のしてたことは懲戒の項目、7番と8番に当たるね。校内での私闘、決闘の禁止。そして武器類の必然性なき抜刀、
使用の禁止。さらに言うなら、君達は以前も騒ぎを起こしてるから、1番の、性行不良で改善の見込みがない者、にも当てはまるかもね」
「……だったら何だってんだ?退学か?あるいは停学か?」
その質問に、セレスティアは一瞬考え、そして答えた。
「いやいや、私としても君達みたいな新入生に、そんな処分下すのは気が引けるよ」
「ちょっと、副委員長…!」
小声で、エルフが話しかける。
「処分を下すのは、わたくし達でなくて校長…!」
「いいからいいから、ここは私に任せて」
コホンと咳払いをし、セレスティアは続ける。
「ただ、これが続くようなら何らかの処分は必要だよね。このままだと退学はないにしても、停学まではあり得るかな」
「そんなもの、別に怖くもないがな」
「けど、知ってるかい?停学中も寮の使用はできるけど、その間、金銭的な補助は一切なくなるんだよ」
「ちょっと待て。金銭的な補助?それ、どういうことだ?」
ドワーフが尋ねると、セレスティアは僅かに笑った。
「例えば、寮の宿泊は100ゴールドだよね。三食付きで武器の手入れ道具も揃ってる。ところが、この三食及び武器の手入れ物品が、
外部の者と同じく有償化する」
「お……おいおいおい、ちょっと待てよ!!」
それを聞いた瞬間、ドワーフは明らかに慌て始めた。
「たとえば何か!?おにぎり一個作ってもらったら、それだけで30ゴールド取られるのか!?」
「そうなるね」
「じゃ、豪華な弁当と同じだけの夕飯食ったら…!」
「もちろん、1000ゴールドだよ」
「てことは、抑えても年間最低1095000ゴールド取られて、三日にいっぺんアイスクリーム食うだけで1155225ゴールドも
かかるってことか!?」
「え?……え、ええっと、そう……だね……計算速いな…」
「しかも手入れ用具もだろ!?砥石一つ取ったって、毎日じゃあ洒落になんねえ…!それに油も…!」
今までの威勢はどこへやら。ドワーフはすっかり耳も尻尾も垂らし、怯えた子犬のような目つきでセレスティアを見つめる。

185:流れ星の英雄 第一章~流星群~(6/15) ◆BEO9EFkUEQ
10/04/13 00:18:17 tozwUNnz
「……な、なあ、頼むからそれは勘弁してくれ…。な、何でも一つぐらいは言うこと聞くからさ…」
「さあて、ねえ。口先だけでは、私も学校側も納得させられないし…」
「本当だって!絶対嘘なんかつかねえよ!!反省文でも何でも書くから、頼むからそれだけは勘弁してくれってぇ!!」
これで一つ片付いたと、セレスティアは心の中でほくそ笑む。
「あははー!さっきと大違い!頑張って稼げばいいだけなのに、変なのー!」
その様子を見ていたフェルパーが、おかしそうに笑う。そんな彼女に、フェアリーが話しかける。
「おいおい子猫ちゃん。そう簡単に言うけどね、それだけ稼ぐのは僕等だって大変なんだぞ」
「んにーぅ、ちょっと外でモンスター殺せばさ!遊んでるうちにお金なんか手に入るよ!」
「君は遊びで生き物を殺すんかい」
「そうだよ!だってさ!強い相手殺すと、すっごく気持ちいいよ!ねえねえ!君も強い!?強いの!?」
とんでもない危険人物だと、風紀委員の三人は暗澹たる気持ちになった。こんな人物を御する手段など、思いつくわけもない。
その時、バハムーンが口を開いた。
「そうなったら、こちらから退学でもすればいいだけの話だろう。別に気にするほどのことでもない」
「でも、二度とこの学園に入学できなくなるよ。別に一人で頑張るって言うなら私も止めないけど、学校の支援がないと大変だよ」
「そうだよ、お前は余計なこと言うなよな。あたしまで巻き添え食って退学とか停学になったらどうするんだよ」
ドワーフはセレスティアの脅しに完全に屈したらしく、バハムーンに食ってかかる。
「そんなこと、俺の知ったことじゃない」
「だろうな。お前みてえな脳なしには、一歩先のこと考えるのも一苦労だろうよ」
「……貴様」
バハムーンは大股でドワーフに歩み寄ると、突然その尻尾を捻り上げた。
「あぐっ!?てっ……てめえ、卑怯だろっ……尻尾狙うとかっ…!」
バハムーンが腕を上げると、小柄なドワーフの足が地面から離れる。尻尾だけで吊るされる痛みに、ドワーフの顔が歪む。
「生意気な口をきくな。この尻尾、このまま捻じ切って貴様の口にでも突っ込んでやろうか?あるいは、下の口なんてどうだ」
ドワーフは何とかバハムーンの腕を掴み、痛みから逃れようとしていたが、その言葉を聞くと顔を歪ませつつも、にやりと笑って見せる。
「……へぇ、そりゃあいい考えだ。想像するだけでゾクゾクする。けどさ、あたしは欲張りなんでね」
自分から腕を離すと、ドワーフはバハムーンの尻尾を握り返した。
「ぐっ…!」
「前だけじゃ足りねえから、尻の方にこっちも欲しいところだな」
思わぬ反撃に、バハムーンの力が緩む。足が地面に着いた瞬間、ドワーフは彼に寄り添うように体を寄せた。
「ああ、それにちょっと口寂しいから、こいつを咥えさせてほしいなあ。それなら、あたしは構わないぜ」
もう片方の手で、ドワーフはバハムーンの股間を握りしめた。急所を強く掴まれ、バハムーンの額に脂汗が浮かぶ。
「貴様っ……本当に、捻じ切ってやろうか…!?」
「うあっ…!いいぜ、やれよ……三つ穴責めなんて、すっげえゾクゾクする。なあ、ほら、さっさとやれってば…!」
一体どこまで本気なのか、二人は人目も憚らずに応酬を続ける。その様子を、エルフは顔をしかめて見ており、フェアリーは興味津々と
いった表情で見つめている。セレスティアは、ドワーフがバハムーンの股間を掴んだ辺りから目を背けている。
その背けた先に、フェルパーがいる。その様子がおかしいことに気付いたのは、少し経ってからだった。
顔は真っ赤に染まり、目は真ん丸に見開かれている。耳の内側までもが薄っすらと桃色に染まっており、体は小刻みに震えている。
一体どうしたのかと声をかけようとした瞬間、フェルパーが叫んだ。
「やーっ!!!やぁーっ!!!エッチなのやだーっ!!この人達嫌いーっ!!!」
叫ぶや否や、フェルパーは二人に襲いかかる。突然のことに驚きつつも、二人はすぐさま手を離し、その場を飛びのいた。

186:流れ星の英雄 第一章~流星群~(7/15) ◆BEO9EFkUEQ
10/04/13 00:19:11 tozwUNnz
「な、何だよてめえ!?」
「ばかぁ!!変態!!あっちいけー!!」
「……なーるほど。この子は意外や意外、純情系か」
そう呟くと、フェアリーはにやりと笑った。そして、後ろからフェルパーに忍び寄る。
「へいへい、子猫ちゃん。そんなに足ガバガバ上げてると、パンツ丸見えだよ」
「え…」
それを聞いた瞬間、フェルパーは顔だけでなく、全身を真っ赤に染めた。
「やだぁーっ!!!もうやだーっ!!!私転科するぅー!!!普通科に転科するぅー!!!わぁーん!!!」
本気で泣きながら、フェルパーはスカートを押さえてぺたんと座りこんでしまった。
「あー、そうそう。君みたいな問題児はさ、先輩なんかに目を付けられると厄介だよ?服全部脱がされて、購買に売られて、有り金全部
巻き上げられるとか、そんなことも珍しくないんだ」
「やだぁーっ!!!そんなのやだぁー!!!何でもするからエッチなことしないでぇー!!!うわぁーん!!!」
「……フェアリー…」
エルフはフェアリーを睨みつける。その目は『適当なことを言うな』と言っているが、フェアリーは無視を決め込んだ。
「もちろん、僕等だってそんな目に遭わせるつもりはないよ。そりゃもはやいじめだからね。でも、君が目を付けられてる可能性は、
結構高いよ。君、真剣道部で暴れただろ?」
「フェアリー」
「まあ見てなって……おほん。だから、君は僕等と共に行動するようにしてほしい。そうすれば、そんな手出しはさせないよ」
「ひっく……ひっく…!ほ、ほんと…?」
「本当だって。これでも僕は風紀委員だぜ?」
「じゃあついてく……ついてくから、エッチなことしないでぇ…」
これで二つ片付いたと、セレスティアとフェアリーはアイコンタクトを送り合う。だが、問題のバハムーンが口を開いた。
「どうやら、貴様等は俺達を従わせたいようだが、貴様等が何を言おうが、俺は従う気はない」
「へーえ。学校全てを敵に回して、やっていくつもりかい?僕達にすら勝てないのに?わざわざ自滅の道を突っ走っていくなんて、
高尚な種族様のお考えは、僕みたいな小妖精には理解できないなあ」
その言葉に、バハムーンの眉が吊り上がる。
「……貴様等如きが、俺に勝てると?」
「僕一人ならまだしも、僕等を相手に勝てると思ってるのかい?君、よくそんなおつむでこの学校に入れたよね」
「ちょっとフェアリー、わたくし達まで巻き込むつもりですの!?」
エルフがなじるように言うが、フェアリーは涼しい顔である。
「ああ、悪いね。魔が差した。まあいいじゃん、結果が良ければさ」
「だからと言って、わざわざ喧嘩を売る必要はないだろ?まったく……私は、君に喧嘩を売るつもりはないよ。できれば、大人しく
従ってくれた方が…」
言いかけるセレスティアを遮り、バハムーンが口を開いた。
「貴様等如きが、俺に意見するな。従わせたきゃねじ伏せてみろ」
既に、バハムーンはやる気である。風紀委員の三人は、お互いの顔を見合わせて溜め息をついた。
「……仕方ないね。やるしかないか」
「副委員長!これは校内での私闘、及び必然性なき武器の抜刀に…!」
「委員長~、降りかかる火の粉は払わなきゃ。必然性もあるし、僕等は風紀委員だ。相手が暴力で来るなら、少々の暴力は仕方ない。
それに……もう、あちらさんやる気だから、止めらんないよ」

187:流れ星の英雄 第一章~流星群~(8/15) ◆BEO9EFkUEQ
10/04/13 00:19:51 tozwUNnz
エルフはまだ何か言いたそうだったが、もはや回避は不能と判断したのだろう。大きな溜め息をつくと、仕方なく杖を構えた。
「フェアリー、私達援護はするけど、それ以上は…」
「わかってるよ副委員長。それに、殺しはしないから安心して」
「おい、でけえの。そのうるせえ羽虫ぶっ潰しちまえよー」
ドワーフもフェアリーが相当に嫌いらしく、バハムーンを煽る。
「うるさいなあ、そこの犬。弱い犬ほど……なんて、よく言うよね」
「……おいトカゲ、そいつだけは死んでも潰せ」
「黙れ。貴様の指図など受けるか。それに、言われずともそのつもりだ」
「あー、ちなみに君が負けたら、ちゃ~んと従ってもらうよ?三対一だから、やっぱなし!なんてのはなしだぜ?」
「ふざけるな!俺がそんな真似をすると思うか!?」
「思うよ。できれば『負けたらちゃんと従います』って、誓約書でも欲しいぐらいだよ」
「誓いを立てればいいんだな?」
言うなり、バハムーンは折れたダガーを拾うと、自分の掌を切りつけた。
「おいおい、何を…!?」
「祖先の血に誓って、俺は嘘をつかん。これで満足か!?」
「……無駄なプライドの高さも、こういうときはありがたいね」
呆れたように呟き、フェアリーは笑った。
「よし、いいだろう。君から来ていいぜ」
「そうか。なら……灰になれ!」
バハムーンがブレスを吐きかける。それが目前に迫っても、フェアリーは動かない。
「二人とも、頼むぜ」
「仕方ありませんね…!副委員長!」
「いつでもいいよ、委員長」
二人は杖をかざすと、同時に叫んだ。
「絶対壁、召喚!」
見えない壁に、ブレスが弾かれる。目の前で消えるブレスを見て、フェアリーは笑う。
「おいおい、これでどうやって灰になればいいんだい?もうちょっとまじめに頼むよ」
「何だと…!?なら、直接潰してやる!」
バハムーンが殴りかかる。だが、拳がフェアリーを捉える瞬間、その姿が消えた。
「速え!?」
「おー!速い!速いねっ!んなーぅ!」
横で見ていたドワーフとフェルパーが、同時に声を上げた。直後、バハムーンの動きが止まる。
「うっ…!」
喉元に、弓が押し当てられる。弦にかけられた矢が、それ以上の行動を封じてしまう。
「動いたら手を離す。もちろん、君が攻撃しても手は離れる。君に許可することは一つだけだ」
「………」
「『参りました』って言えよ。君の負けだ」
ギリッと、弦が軋む。バハムーンは悔しげに歯噛みするが、もはや勝敗は決していた。
「…………ま……参った…」
「……ま、いいだろ。じゃあ誓いは守れよ」
踵を返し、悠々と歩き去るフェアリーを、バハムーンは何も言わずに睨みつけていた。その横で、ドワーフが苛立たしげに溜め息をつく。

188:流れ星の英雄 第一章~流星群~(9/15) ◆BEO9EFkUEQ
10/04/13 00:20:32 tozwUNnz
「ちっ!あーあ、白けっちまうぜ。そいつぐらい潰せよな、てめえはよぉ」
「……そのつもりだったが、あいつは俺より……くっ…!」
相当に悔しかったらしく、バハムーンは他の者に背を向けると、どっかと座りこんでしまった。
「なっさけねえ。そうやって拗ねてりゃ、てめえは強くなんのかよ」
「敗者に鞭打つような真似をして、あなたは楽しいんですの?」
エルフが、実に苛立たしげな声を出す。
「強い相手には媚びへつらい、自分より弱い相手と見ると、徹底的に潰す。まさしく獣……いえ、『けだもの』ですわね」
「あ~~~~、うざってえなてめえは…!てめえこそ、権力の傘がねえと何にもできねえ、ひ弱なくそ妖精じゃねえかよ。そもそも、
てめえは委員長らしいけどよ、他の奴の方と違って全っ然仕事してねえよな。てめえみてえのが上にいたんじゃ、他の奴は大変だな」
「何ですって…!?」
「お?どうしたんだよ、そんな顔真っ赤にしてよ?図星突かれて、怒っちまったかぁ?」
「はいはいはいはい、君達そこまで。委員長、少し落ち着いて。それから君は、委員長を挑発しない。あんまりそういうことすると、
私だって怒るよ」
例によってセレスティアが間に入り、二人を窘める。さすがに彼には、二人ともあまり強い態度を取れない。
「ちっ……そんな奴を庇える、お前の気がしれねえよ」
「一緒にいるうち、わかってくれるかもね。それより、君ひどい怪我じゃないか。鼻なんか折れてるのに、よく平然としてられるね」
セレスティアはドワーフにヒールを唱え、折れた鼻を治してやる。しかしドワーフは、それ以上の治療を拒む。
「やめてくれ。情けなんかかけられたくねえ。それにこんな怪我、すぐ治る」
言いながら、ドワーフは絆創膏を取り出し、切られた頬に張り付ける。そんな彼等を尻目に、エルフはバハムーンに近づく。
「あなたも、相当な怪我をしてますわね。わたくしが治して差し上げますわ」
「……いい」
背中を向けたまま、不機嫌に言い放つバハムーン。しかし、エルフは意に介さない。
「そうもいきませんわ。これから共に行動するのですから、わたくしには前衛の状態を万全にする義務がありますわ」
勝手にヒールを唱え、怪我を治す。バハムーンは黙って、されるがままとなっている。
「……礼は言わん」
「別に、そんなものどうでもよくってよ。誓いさえ、守ってくれれば」
「………」
「んにぅー、私は?私は?」
「君、大した怪我してないじゃん」
尻尾をパタパタしながら尋ねるフェルパーに、フェアリーが冷静に突っ込む。
「お腹殴られたよ!あと肩グーってされた!」
「お腹か。じゃ、ちょっと見せてごらん。ほら、遠慮するなよ。思いっきり制服捲ってくれ」
その意味を理解した瞬間、フェルパーの顔が真っ赤に染まる。
「いい!やっぱりいいもん!自分で治すー!」
「そりゃあ残念。気が向いたら、いつでもどうぞ」
「ところで、君達はずいぶん激しい喧嘩してたみたいだけどさ、一体この大騒ぎの原因は何だったんだい?」
セレスティアが尋ねると、ドワーフはバハムーンを一瞥する。
「あいつが、あたしの日向ぼっこの場所盗りやがったんだよ」
「……俺が先に寝ていたんだ。そもそも、あそこは俺の場所だ」
「私もね!寝てたら蹴られそうになったんだよ!でもねでもね!みんな強そうだから私も遊んだの!」
「………」

189:流れ星の英雄 第一章~流星群~(10/15) ◆BEO9EFkUEQ
10/04/13 00:21:11 tozwUNnz
つまり、日向ぼっこの場所の奪い合いである。フェルパーは少し事情が違うらしいが、そもそもの発端は変わらない。
「やはり、このけだものが仕掛けたんですのね」
「うぜえなてめえは。言いてえことがあるなら…」
「お二方、もうやめよう。とにかく、この件は私達が預かる事にして……三人とも、明日からは私達と一緒に行動してもらうよ。いいね」
セレスティアが言うと、三人は黙って頷いた。
「よし、じゃあそういうことで。三人とも、これからよろしく頼むよ」
後は問題ないだろうと判断し、風紀委員の三人は揃って階段を下りる。フェアリーはさっさと自分の部屋に戻ったが、
エルフはまた風紀委員室に戻ると言う。
「よろしければ、あなたも来てくださらない?」
「私?別にいいよ」
とくに用事もなかったため、セレスティアは二つ返事でそれを受け入れる。部屋に戻ると、エルフはしっかりと戸締りを確認し、叫んだ。
「あの獣どもはまったく…!規則を何だと思ってますの!?信じられませんわ!守るべきものを平気で破るような者達など…!
絶対に許せませんわ!」
「……ストレス溜まってるんだね、委員長。でも、彼等の言うことも、一理はあるよ」
「副委員長!」
エルフがなじるように叫ぶが、セレスティアは続ける。
「どんな正義でも、無力ならばないも同然。力こそが正しいっていうのは、あながち間違いじゃない。私達だって、『校則』という名の
力の元に、従わないものをねじ伏せてる。もっとも、こんなことを風紀委員の私が言ってたなんて、秘密だよ?」
最後に冗談めかして言うと、エルフはしばらくセレスティアを睨んでいたが、やがて小さな溜め息をついた。
「最近の君は、溜め息が多いね」
「多くもなりますわ……特に、今日みたいな日は」
「ん?」
ふと見ると、エルフの顔はどこか悲しげだった。そんな彼女に、セレスティアも表情を改める。
「……わたくしは、どうしてもあのドワーフが嫌いですわ。なのに、あなたは誰とでも平等に振る舞える…」
「ディアボロスは苦手だよ、私だって」
「わたくしは、委員長なのに……誰にでも平等であるべき立場なのに、それができない…。それに先程も……あなたやフェアリーは、
彼等を容易く従わせた。なのに、わたくしはただ衝突するばかりで……何も……な、何もっ……できなかった…!」
唇を噛みしめ、エルフは涙を流す。そんな彼女を、セレスティアは後ろから抱き締めた。
「だから私は、君を委員長に推したんだよ。その理由、わかるかい?」
「……?」
「私もフェアリーもね、彼等を従わせるために、何の躊躇いもなく嘘をついた。それに、喧嘩の仲裁にもサンダーを使ったし、
とにかく規則を破りまくってるんだよ」
「でも……でも、それは仕方のないことで……わたくしは、そういう行動を取れるあなた方が、羨ましい…」
「……委員長、君は委員長だ。頂点に立つ者が規律を守らなくては、誰に規律を守れなんて言える?」
優しく言いながら、セレスティアはエルフの涙を拭ってやる。
「でも、上に立つ者に、欠点があっては…」
「違う、違うんだよ委員長。それは欠点じゃない。それに、あまり完璧すぎる人が頂点に立てば、誰しもそれに寄りかかる。ドワーフや
ディアボロス相手にはつい厳しくなっちゃうとか、その程度の欠点なら、むしろあってくれた方が嬉しいよ。それに…」
一度言葉を切ると、セレスティアはエルフを強く抱きしめた。
「……君が間違いを犯しそうになれば、私がそれを止める。君が辛くて倒れそうなら、私が君を支える」

190:流れ星の英雄 第一章~流星群~(11/15) ◆BEO9EFkUEQ
10/04/13 00:21:56 tozwUNnz
言うなり、セレスティアはエルフの肩を掴み、自分の方へ向けさせた。そして考える隙を与えず、その唇を奪う。
エルフは一瞬、驚きに目を見開き、しかしすぐそれに応じる。唇を吸い、互いの唾液を交換し、自身の舌で相手の舌を、歯を、
口蓋をなぞる。
セレスティアの手が、肩から腕へと下がっていく。さらに腕から腹をなぞり、腰を通り、前面の大きく開いたスカートの中へと侵入する。
「んんっ…!ん、ふぅ…!」
ピクッと、エルフの耳が震える。セレスティアの指が下着の上から割れ目を擦り、その度にエルフは抗議するように身を捩る。
そんな抗議を無視し、あるいはむしろ楽しんでいるかのように、セレスティアは指での刺激をさらに強める。軽く沈みこませて前後に
擦り、指先で小さく尖る突起を撫で、下着ごと指を中へと沈ませる。さすがに、そこまで来るとエルフも本気で抵抗し、彼の腕を
強く掴んだ。
「機嫌、損ねちゃったかい?」
「ん……もう、相変わらずですわね。そんな意地悪…」
「わかってるよ。これ以上はしない」
「それなら最初から……んぅっ!」
甘く耳を噛むと、エルフは弾かれたように体を震わせる。
「み、耳は、あまり……ふぅ、あっ…!」
噛んだまま舌で撫でれば、たちまち体を強張らせ、その手はギュッとセレスティアの袖を握る。そんな彼女の姿を楽しんでから、
セレスティアは口を離した。
「ふふ、君はやっぱり耳が好きなんだね」
再び、スカートの中へ手を這わせる。そして、ショーツの中に手を差し込むと、微かに水音が響く。
「んあっ…!」
「ここも、もうこんなになってる。……そろそろ、いいかい?」
「もう……少しぐらい、ゆっくりしようとは思いませんの?」
「場所が場所、だからね」
そう言い、セレスティアはいたずらっぽく笑う。それはエルフもわかっているようで、仕方ないというように溜め息をつく。
「……いいですわ」
エルフが答えると、セレスティアは再びキスを迫る。唇を重ね、腰を抱き寄せると同時に体重を掛けた。
抗うこともなく、エルフはそのまま机の上に押し倒される。セレスティアは彼女のショーツに手を掛け、ゆっくりと引き下ろす。
太股を通り、膝まで来ると、セレスティアは手を放した。パサリと、ショーツが足首に落ちる。
「……いくよ」
エルフは答えず、代わりにセレスティアを見つめると、こくんと頷いた。
自身のモノを押し当て、反応を確かめるように、ゆっくりと腰を突き出す。先端に秘唇が開かれ、少しずつ中へと飲み込まれていく。
「んぅっ……ふぅ、あっ…!あくっ……ああっ!」
エルフはギュッと目を瞑り、両手で口を押さえる。声を上げるまいと必死に我慢しているのだが、それでも抑えきれない声が漏れる。
その間にも、セレスティアのモノはどんどん奥へと侵入し、やがて腰と腰がぶつかりあい、パン、と軽い音を立てた。
「くっ……全部、入ったよ…」
「んうぅ…!はぁ……はぁ…」
「……動くよ、委員長」

191:流れ星の英雄 第一章~流星群~(12/15) ◆BEO9EFkUEQ
10/04/13 00:22:34 tozwUNnz
返事を待たず、セレスティアは腰を動かし始める。部屋の中に、二人の荒い息遣いと、エルフのくぐもった喘ぎ声が響く。
セレスティアが動く度、エルフの下で机がガタガタと音を立て、同時に結合部から水音が響く。
「んん……うあっ…!あっ…!」
エルフの体はじっとりと汗ばみ、蒸れた匂いが鼻孔をくすぐる。そんな彼女の耳を、セレスティアは優しく撫でる。
「はぁ、はぁ…!委員長、気持ちいいよ」
それを聞いた瞬間、エルフは固く閉じていた目を薄っすらと開けた。
「い……やぁ…!その呼び方……んっ…!いつもみたいに……あっ!……んぅ……いつもみたいに、呼んでぇ…!」
なじるような、甘えるような、あるいはその両方を含んだ声。セレスティアは優しく笑い、彼女の頭を撫でる。
「わかったよ……可愛いよ、エルフ…」
「うぁ……セレスティア…!」
二人はどちらからともなく抱きあい、貪るようなキスを交わす。あまりに激しいため、時々カチッと歯の当たる音が響く。
しかし、二人はそれでもキスをやめようとはしない。
突き上げる度、エルフの中は強く彼のモノを締め付ける。熱くぬめった彼女の中はそれだけでも気持ちよく、また彼の動きに
必死に応えようとするエルフの姿は、何とも可愛らしい。
そんな彼女に促されるように、セレスティアの動きは徐々に性急なものとなっていき、エルフを抱く腕にも力が入る。
「くぅ……エルフ、そろそろ、私…!」
「んあぁ…!そのまま……わた……くしの、中に…!中にぃ…!」
縋るような声で言うと、エルフはセレスティアの腰に足を絡め、ぐいぐいと引き寄せる。
「はあっ……エ、エルフっ……エルフ!」
一際大きな声で彼女を呼ぶと、セレスティアは思い切り奥へと突き入れた。同時に、彼のモノがビクンと動く。
「あああっ!!……あぁ……中で……動い、て…!」
陶然とした声で呟くエルフ。体の中で彼のモノが跳ね、その度にじわりとした温かみを感じる。その温かさが、彼女に大きな幸福感を
もたらす。
全てを彼女の中に流し込むと、セレスティアは大きく息をついた。そして、未だ陶然とするエルフの頬を優しく撫でる。
「………」
それに対し、エルフも嬉しそうな微笑みを返す。言葉はなくとも、二人の間にはしっかりと心が通っていた。
どちらからともなく、啄ばむようなキスを交わす。それはお互いの立場など入り込む余地のない、純粋な恋人同士の姿だった。

192:流れ星の英雄 第一章~流星群~(13/15) ◆BEO9EFkUEQ
10/04/13 00:23:12 tozwUNnz
ショーツを履き直し、最後に乱れたスカートの裾を直す。それを終えると、エルフはセレスティアの方へ向き直る。
「もうよろしくってよ、副委員長」
「案外早いね、委員長」
先程までの光景が嘘のように、二人はいつもの姿に戻っていた。呼び方も戻っているが、それはむしろいつもの関係に戻るため、あえて
そう呼び合ったのだろう。
「ほとんど脱いでいないからですわ。あ、でも背中の方…」
「見た感じ、平気そうだったよ。少なくとも、気になるほどの皺はないよ」
「そう、それは……って、副委員長、見たんですの!?」
「え?あ、あ~……ははは、ごめんよ委員長。つい、ね」
「……フェアリーみたいに、『魔が差した』って言うんですの?」
「ま、そんなとこかな」
いたずらを見つかった子供のように笑うセレスティア。そんな彼に、エルフは呆れた視線を向ける。
「まあ、いいですわ。そんなことより、明日からのことを考えなくてはいけませんわね」
「大丈夫だよ、委員長なら。それに委員長だけじゃなくて、私達もついてる」
セレスティアがそう軽く言ってのけると、エルフは僅かに表情を変えた。
「……あなたはずるい方ですわ」
「え、何が?」
突然口調が変わり、セレスティアも何事かと表情を改める。
「あなたはわたくしの全てを知るのに、わたくしはあなたの心を知りませんわ」
「知る必要もないよ。私は、委員長のことを信じてる。それに、君のすることは間違いがない」
「だから、ずるいと言うんですわ。あなたはいつもわたくしを、自由という鎖と、期待という首輪で縛りつけますわ」
「でも、君はその首輪をつけない自由もある。それを望んで付けるのは、君。違うかい?」
意地悪く笑うセレスティアに、エルフも呆れた笑顔を浮かべた。
「本当に、ずるい方ですわ」
「ははは。でも、君を信じているのは本当さ。私と違って、君は必ず規律を守る。たとえそれが、君自身を縛るものだとしてもね。
そんな君を支えられるっていうのは、私にとってこの上ない幸せなんだよ?」
「……なら、わたくしはその『期待』に、応えねばなりませんわね」
一種、諦めのような表情が見て取れる笑いを浮かべるエルフ。そんな彼女に、セレスティアは優しく声を掛ける。
「大丈夫。君はうまくやれるよ」
「随分と自信たっぷりに言うんですのね」
「水は低い方に流れるからね」
その言葉に、エルフは首を傾げる。しかしその意味を尋ねても、セレスティアはただ曖昧に笑うばかりで、結局彼の言葉の真意は
分からずじまいだった。

193:流れ星の英雄 第一章~流星群~(14/15) ◆BEO9EFkUEQ
10/04/13 00:23:49 tozwUNnz
その翌日から、風紀委員の三人と、問題児三人の冒険が始まった。委員長であるエルフが次々に課題や依頼を請け負い、問題児三人は
嫌々ながらも、それらを真面目にこなす日々が続く。
元々の実力は折り紙つきである。彼等が依頼をこなせなかったことは一度もなく、むしろほとんどが役不足と言っていいほどだった。
学校の方でも、問題児を監視し、なおかつその意識を依頼に向けさせる風紀委員のことは評価しており、彼等三人の成績にも
多少色がつくことが増えている。そのおかげで、最近はフェアリーも自身の単位の少なさを心配することは減っている。
六人が共に行動するようになり、数週間が経過した。今、一行は新たな課題を終え、次の課題までの手持無沙汰を解消するため、
初めの森へ来ている。とはいえ、一行はもはやここでは敵なしであり、実質はほぼピクニックである。
「この面子、最初はどうなることかと思ったけど、案外うまくやれてるよね」
地面に座り、おにぎりを頬張りながらフェアリーが言う。
「わたくし、未だにあのドワーフだけは好きになれませんわ。いえ、むしろ知れば知るほど嫌いに…」
「委員長、委員長、その先は言っちゃダメだよ。仮にも仲間なんだから」
苦笑いを浮かべ、エルフを慌てて遮るセレスティア。だが、そんな彼等の会話は、他の三人には聞こえていない。
木漏れ日の当たる草の上、バハムーンが大の字になって寝ている。風にさわさわと揺れる木の葉に混じり、木の上で寝ているフェルパーの
寝息が微かに響く。
そこへ、最後まで食事をしていたドワーフが近づく。しかし、木漏れ日の当たる場所は狭く、バハムーンが寝ているおかげで、
ほぼ占領状態である。
「……あたしの場所ねえな、畜生…」
そう呟くと、バハムーンが薄っすらと目を開けた。
「……隣なら空いてるぞ……寝たきゃそこで寝ろ…」
眠そうな声で言うと、バハムーンは寝返りを打つ要領で体半分ほどの隙間を空けてやる。
「うるせえ、あたしに指図すんな。寝る場所はあたしが決める」
言いながら、ドワーフは彼の隣に寝転ぶと、静かに目を瞑った。程なく、辺りに都合三人の寝息が響く。
そんな彼等の様子を見ながら、エルフがポツリと呟く。
「……最近ようやく、あなたの以前言ったことの意味がわかった気がしますわ」
その言葉に、セレスティアは笑みを浮かべた。
「水は低い方に流れるってことかい?ま、見ての通り、良くも悪くもってことなんだよね」
優しげな笑みで、昼寝する三人を見つめ、セレスティアは続ける。
「君ならわかるかな。一匹狼とはよく言うけど、別に狼だって一匹が好きだからそうしてるんじゃない。ただ、自分がいるべき群れが
見つからないだけなんだよね」
「それが僕等って?ぞっとするねえ」
フェアリーの言葉を、セレスティアは爽やかに無視する。

194:流れ星の英雄 第一章~流星群~(15/15) ◆BEO9EFkUEQ
10/04/13 00:25:31 tozwUNnz
「彼等は、まさにそれだよ。およそ、仲間なんて望めない。でも、誰しも自分が認められる相手がいれば、心を許すとまでは
いかなくたって、多少なりとも気を緩められる。そうすれば、毒気だって多少は抜けるものだよ」
「認めているというよりは……獣同士、共通の趣味が日向ぼっこだからだっていうだけにも見えましてよ」
「ははは、可愛いじゃない。それに、趣味が共通してるなら、すぐに仲良くなれるものだよ」
フェアリーはおにぎりを食べ終えると、おもむろにフェルパーの寝る木の下へ移動した。そして、下からじっと彼女を見上げる。
「……何してるんだい?」
「いや、パンツでも見えないかなーと」
「そこの風紀委員。今すぐやめないと学校か委員をやめてもらいますわよ」
「わかったわかった、魔が差したんだって。そう怒らないでよ」
「……男子としては、正しい行動だけどねえ…」
「副委員長、何か言いまして!?」
「いえいえ、何も。な~んにも」
恐らく、先行きは苦難の連続であろう一行。しかし、まとまることそれ自体が大いなる困難であった彼等にとって、先に待ち受ける
苦難など一片の不安にもなり得ない。むしろ、この先にはそれ以上の苦難などないかもしれない。
学園きっての問題児と、学園の秩序を預かる立場の風紀委員。
そんな、歪な一行の旅は、まだまだ始まったばかりである。

195: ◆BEO9EFkUEQ
10/04/13 00:27:15 tozwUNnz
以上、投下終了。
序章のレス数間違えてしまって申し訳ないorz なんであんなミス…。
不定期になるかもしれませんが、よろしければお付き合い願います。

それではこの辺で。

196:名無しさん@ピンキー
10/04/13 13:05:21 AjwWk/66
GJ。過疎化進んどるなぁ……。

197:名無しさん@ピンキー
10/04/14 00:39:29 BAy2RJ1K
GJ!
やっぱり氏の書くストーリーはいいな
今度のパーティーも楽しみすぎる

個人的には殺人狂なのにカマトトなフェルパー萌え

198:名無しさん@ピンキー
10/04/14 01:12:17 fJ+g3Ibb
GJです
今回のパーティーも楽しみに待ってます

だが三角関係パーティーがあれで終わりと思うとさみしいな・・・
うまく繋がって出てきそうな気もするがw

199:名無しさん@ピンキー
10/04/14 18:56:43 3WwItqdF
GJ
>>196
PS3で2のリメ?移植?が来るから少しは盛り上がるかも
書き手さんたちは買うつもりなんだろうか? 

200:名無しさん@ピンキー
10/04/16 07:33:08 6Fnil+rJ
乙!獲物いたぶる気があるけどおぼことか猫可愛いなw

正直PS3の方にはあんま期待できそうにないけど
氏が居ればこのスレは安心だわ

201:名無しさん@ピンキー
10/04/16 18:48:49 PJ+JFTiK


「にゃあ」

「ん?どうしたフェルパー」

「にゃぅ……ゴロゴロ」

「なんだ、甘えたいのか。ほれ、こっちこい」

「ふにゃー♪」

「ちょ、待て!舌ザラザラしてんだからそんな強く舐めたら……アッー!!」



飼い猫が可愛くてやってしまった。今は反省している。

後、氏は大変GJでございます。

202:名無しさん@ピンキー
10/04/18 10:29:01 MD2Ry0FI
新参者だが初投下します。ダンテ×ディアボロス♀(戦士)

作中のセレスティアの口調が定まってないのはセレスティア本来?の丁寧口調と
親友に対するタメ語がごっちゃになってる、という設定です。

203:Distance1
10/04/18 10:31:34 MD2Ry0FI
「はい、ミルクティー淹れましたよ~」
「ありがとう・・・・・・う~ん、いっぱい買い物したから疲れたぁ」
買ってきたものを床に置き、真っ先にベッドに突っ伏すディアボロス。2~3回ベッドの上でゴロゴロと転がると、ルームメイトであり、
一番の親友であるセレスティアの淹れてくれた紅茶を啜る。
「ディア、いっぱい買ってたもんね」
紅茶を啜りながら、戦利品をちらりと見やる。
この二人の女子生徒は、つい先程まで買い物に出かけていた。巷で大人気のGJブランドの新作コスメを買いに行ったのである。
「新作コスメも無事ゲットできたし、これはもう決戦は近い!って感じですね」
「?!?!違うから!ただ、ほら、私たちGJブランド気に入ってるでしょ?だから新作も買いに行っただけで、別にダンテ先生に見てほしいとかそんなんじゃないから!」
「うんうん、私は別にそんなことまで言ってないんだけどね。っていうか勝手に口走ってますよディア」
頬を赤く染めて抱き枕を抱きしめているディアボロスを、可愛いなぁと思いながらクスクスと笑う。
「セ・・・・・・セレスはヒュマ君と両想いだから笑っていられるんだっ!私の気持ちなんてわかってくれないんだっ!」
「あ~!そういうこと言います~?」
まぁ確かにヒューマンとセレスティアの場合、入学したその日にお互いが一目惚れであって交際しているのだが。
このディアボロス。教室では割りとクールで凛としており、元々整った顔立ちを嫌味のない程度のナチュラルメイクを施し、背筋を伸ばして堂々と教室に入って来る様は、
さながらカリスマモデルのようで、周囲の目を引くのに十分な存在である。
隣を歩くセレスティアが可愛い系統で、ディアボロスは綺麗系統とすら言われており、種族関係なしで二人そろって男女共に人気のある生徒だ。
 そんな彼女が唯一持ち前のカリスマ性を発揮できずにいるのが、担任教師のダンテである。
彼を目の前にすると頬を僅かに赤らめ、立ち居スタイルもモデルスタイルから急にしおらしくなり、うまく振舞えない。そんな様子を見れば、誰もがわかってしまうだろう。
実際、彼女に告白しようと思っていた男子生徒も、その様を見て諦めたくらいだ。中には諦めずに逆に燃えている者もいたが。
「もっと自然と先生の傍にいたい・・・・・・ううん、自然じゃなくてもいい。しどろもどろになったっていい。ただ先生の傍にいる時間が、もっと欲しい・・・・・・」
「・・・・・・そうですよね。好きな人とは傍に居たいですよね・・・・・・あっそうだ!」
ディアボロスの打ち明け話を聞き入れていたセレスティアに、ピンと案が浮かぶ。
「放課後に剣術指南を受けてみたらどうですか?」
「剣術指南?」

204:Distance2
10/04/18 10:32:48 MD2Ry0FI
セレスティアはにっこりと微笑みながら言葉を続ける。
「はい。実はヒュマ君、放課後にダンテ先生に剣術指南を(強制的に)受け(させられ)てるんですよ。何でも、剣の才に恵まれているのにも関わらず、
普通科なのが納得できないらしくて。ディアも戦士科だから、きっとOKもらえますよ」
「へぇ~・・・・・・そうなの?・・・・・・セレス、なんで今まで黙ってたの?」
「うっ!それは・・・・・そ、そうですよねぇ~私の付き添いということで一緒に見学してれば・・・・・・気づきませんでした」
実際は、ヒューマンがダンテのことを「鬼人」だの「もう疲れた」だの「身体が保たない」だのとブツブツ文句を言ってるのがあまりにも情けなく、
逆に笑いがこみ上げてくるので、見られたくなかったからである。
コホン、と咳払いをして改めて進める。
「だから早速明日指南していただけるよう、今からお願いしに行きましょう!さっき買った戦利品を使って、ね?」
「・・・・・・うん。そうだ、これ見てセレス」
小さな紙袋の中から、桜色のリップグロスを取り出す。
「わぁ・・・・・・綺麗な色ですね」
「うん。色があんまり濃いと逆にケバイかなと思って。それでね、これ使うと意中の人をメロメロにするという効果があるらしくて・・・・・・」
もちろん、ディアボロスも完全に信じているわけではない。商品に対する、所謂キャッチフレーズでしょと思っている。
だが、作ったのがあのジョルジオ先生だと思うと、本当に何かしらの効果があるんじゃないかと期待してしまうのである。
「あぁなるほど!早速試してみるん、です・・・・・・ね・・・・・・?」
じーっと。
ディアボロスがセレスティアを見る視線が痛い。
「あ・・・・・・あの?」
「セレス、貴女これ使って試してみて頂戴」
「えぇぇぇぇぇ~?!なんで私が!」
「いいじゃないのよ!親友を助けると思って!ヒュマ君とは両想いなんだから、これ使ってチューの一つもぶちかましてきなさいっ」
「ふ・・・・・・ふぇぇ・・・・・・・」
まだ納得出来てないセレスティアに、テキパキと手際よくメイクを施していき、効果があるかどうかの実践してみることにした。


205:Distance3
10/04/18 10:33:54 MD2Ry0FI
「お~いセレス」
「あっヒュマ君!」
リップグロスの実験台の二人が、学生寮の廊下に集まった。ディアボロスは、二人から少し離れた柱に隠れながら様子を見る。
(ごめんねセレス・・・・・・付き合わせちゃって・・・・・・)
胸中で親友に詫びながらも、効果があるかどうかが気になってしまう自分が少し嫌だった。
「それで、用は何かな?」
「うん、あのね・・・・・・」
顔を赤らめながら、セレスティアはヒューマンの前でクルッと一回転し、ポーズを決める。「どう?似合います?」
微笑んでいたヒューマンの顔が、ビシッと引きつった。
(お・・・・・・おばか――!!!それじゃあ一番何を見て欲しいかわからないでしょぉ――!!!)
現にヒューマンは、セレスティアの何が変わったのかまったくわからないでいるようだ。帽子か?!服装か?!アクセサリーか?!と、
悩んでいるのがディアボロスの位置からも分かる。
対してセレスティアは、気づいてくれると確信してるかのように期待に満ちた瞳だった。
迂闊だった。セレスティアが少々天然だったことを、忘れていた。ディアボロスがそう思ったとき、ヒューマンがセレスティアの両肩に手を置き、
真剣な瞳で答える。
「うん。よく似合ってるよセレス」
「あ・・・・・・うん・・・・・・えへ・・・・・・嬉しい」
バカップルだ。
気づいていないくせにごまかしたヒューマンはある意味すごいと思ったが。
それでも、似合うと言われて嬉しそうに微笑むセレスティアを見ると、良かったねと言いたくなってしまうディアボロスがいた。
ヒューマンと短く何かのやり取りを終えて別れると、セレスティアはディアボロスの元へと駆け寄ってきた。
「似合うって言われました!」
「そう。良かったわねセレス」
効果があったかどうかの役には、まったく立たなかったけどね。
はぁ、と重いため息をついて顔をしかめる。そんなディアボロスの様子などセレスティアは気にもせずに、
「ディア、別の作戦も立てませんか?」
「?何よ?」
「モンスターに襲われるところを先生に助けてもらうという、古来より伝わるラブイベントです!」
「あ、貴女、何気に楽しんでない?」
「そんなことないですよ。恋愛成就のためですよ。ほら、もうモンスターの準備もしておきました」
ニッコリと微笑み、遠くを指差す。指差す方角には、ヒューマンがモンスターの入ったゲージを運んでいた。
(絶対、楽しんでる。)

206:Distance4
10/04/18 10:34:57 MD2Ry0FI
今度はセレスティアが柱の陰に隠れる。隣にはゲージを運んだついでに、とヒューマンが居た。
(ディア嬢は何してるんだ?)
元々整っている顔を、嫌味のない程度のナチュラルメイクを施したディアボロスは、さっきから廊下に立ったまま、俯いている。時折、キョロキョロと辺りを見回したりしていた。どこか寂しげなその瞳に、一瞬強く惹かれた。
ヒューマンには目もくれずに、落ち着いたトーンでセレスティアは告げる。
(シッ。恋する乙女は、片手でバハムーンをも嬲り殺せるのです)
恐ろしいな。
そう思った。例え話なんだろうが。そんなことを聞いてしまうと、さっきから辺りを見回す姿が、手頃なバハムーンの生徒を探してるかのように見えてきてしまった。
(てかさ、ダンテ先生学生寮なんかに来んの?)
(それは大丈夫。『ヒュマ君が話がしたいそうなので学生寮に来て欲しいと言ってました』って伝えときましたから)
しれっとセレスティアは答えた。
(おい!俺ダシにされてるよ!!別に話なんかねぇよぉぉ!!!!)
ヒューマンが小声で絶叫してる中、例え話とはいえ、妙な疑惑を着せられた当のディアボロスは、軽く後悔していた。
(何してるんだろ、私・・・・・・)
先生の傍にいたい。それは間違いない。彼に対し、仄かな想いを抱いてるのは、何も自分だけではないのだ。油断していたら、それこそブーケトスを受け取るのは自分になる。それだけは断固拒否したい。
でも。
実際まともに会話ができるのだろうか?最後にまともに会話したのはいつだった?
そんなことを考えていると、視界の端に、件の彼が入ってきた。
ハッと顔を上げた。セレスティア達が隠れている反対側の廊下から、ダンテが歩いてきた。
どうしよう。逃げたい。
今なら不自然にならずに逃げられるだろう。別に学生寮に来て欲しいと直接頼んだわけではない。踵を返し、歩いてしまえばいい。
でも、自分の我侭に振り回され、今でも後ろに控えているセレスティアは?彼の傍にいたいという、本当の自分の気持ちは?
ええい。ままよ。
意中の彼に、声をかけた。
「ダンテ先生!」
「?何だ」
一際高い身長。鋭い眼光ながら、整った顔。ディアボロスの意中の彼が今、彼女の目の前にいる。
足が震える。言葉が出ない。情けなくも、若干涙がこみ上げてきた。
「どうした」
「あっ・・・・・・」
いけない。しっかりしなくては。このままでは彼を困らせてしまう。
一度目を瞑り、深呼吸。
(お願い神様、魔王様、ジョルジオ先生。私に力をください)
パチッと目を開き、ダンテから一歩下がる。両手を後ろで組み、軽く前屈み。上目遣いで彼を見つめて唇に指を立て、言う。
「これ新作のリップグロスなんです。どうです?似合ってますか?」

207:Distance5
10/04/18 10:35:39 MD2Ry0FI
わっと廊下を行き交う人たちがざわめいた。学園でもトップクラスに入るであろう容姿端麗なディアボロスのこの行動は、まるでドラマの1シーンのようであった。
だが当の本人は、かなり緊張していた。顎に手を置くダンテにマジマジと見つめられ、ものすごく嬉しいが、ものすごく恥ずかしい。
 そして口を開いた彼の一言がこれだった。
「お前は前衛だったよな」
「え?はい」
「前衛に立つものが、そこまで身だしなみに気を使うのか?」
甘い返事は最初から期待してなかったが、まさかこんな返事が返ってこようとは。飽きれを通り越して軽く笑いがこみ上げてくる。
ディアボロスはダンテを指差し、若干詰め寄る。
「前衛だからこそ、身だしなみに気を使うんですよ。だったら先生は、私に裸やジャージ姿で戦えとでも?」
「そんなことは言ってない」
ディアボロスの反論に、呆れたようにため息をつく。もう一度彼女を観察すると、あることに気づく。
「そういえば前衛の割には傷がないな」
「はい。有難いことに防具は優先的に私に買っていただいてもらってるんです。それにセレスが念入りにヒールをかけてくれますから」
「そもそも、何故お前が前衛なんだ?」
「あぁ・・・・・・それはですねぇ・・・・・・。入学以来組んでいるパーティがヒュマ君(普通科・前衛)セレス(魔法科・後衛)お兄ちゃん(忍者・後衛)だから、必然的に」
「そうか、必然か」
どうしても回復が間に合わなかったり、戦力不足だと思ったときはスポット参戦としてゲストを呼ぶが、基本的にはこの四人の仲良しメンバーである。また、ゲストが大抵賢者や魔法使いなどの後衛になるので、前衛が足りなくなるのである。
でも・・・・・・と、胸の前で手を組みながら俯いて、打ち明ける。
「私だって、好きで戦士をやっているんじゃないんですよ?」
「・・・・・・・・・・・・」
俯いたまま、打ち明ける。
「本当は、私だって人形遣いとか、アイドルになりたかった・・・・・・」
「・・・・・・フ・・・・・・」
頭上から笑い声が聞こえた気がして、ハッと顔を上げると、腕組したまま顔を伏せて笑っているダンテがいた。
「・・・・・・先生?・・・・・・笑いましたね?」
「・・・・・・笑ってない」
「い~え!絶っ対!笑いました!!」
「笑ってない」

208:Distance6
10/04/18 10:36:37 MD2Ry0FI
表情をいつもの無表情に戻して、きっぱりと断言した
が。
「・・・・・ははははは!!!!!」
普段のダンテからは想像もつかないほど、大笑いされた。結構真面目で、恥ずかしい独白だったのに。
「せっ・・・・・・せ~ん~せ~い~~~~~~~~!!!!!」
顔を真っ赤にして、拳を振るディアボロス。その拳を余裕で手で押さえ回避するダンテ。
「悪い、悪かった。だが・・・・・・」
普段勇ましく剣を振るい、モンスターを一閃する彼女が後衛でウサギのぬいぐるみを振り回してる姿を想像すると。
「・・・・・・・・・・・・」
「ま・・・・・・まだ笑ってる!!!!!もう!何が可笑しいんですかっ!!!!」
先生にだからこそ、打ち明けたことなのに。結構真面目で、恥ずかしい独白だったのに。
でも。
(・・・・・・あ・・・・・・なんかこれって、結構いい感じじゃない?)
現にこのやり取りは、後方に控えているセレスティア達や廊下を行き交う生徒たちからは、じゃれあってるようにしか見えなかった。
ダンテが見てない隙に、後方のセレスティアにジェスチャーで大きく合図する。
(中止!作戦は、中止よ!!)
(・・・・・・あれは、ディアからの作戦中止の合図・・・・・・)
柱の陰に隠れながら、親友の作戦中止の合図にため息をつく。
(んもぅ!!あんなにいい感じだったのに作戦中止ですか・・・・・・折角、モンスター捕まえたの・・・・・・に・・・・・・?ヒュマ君、ゲージの中身は?)
(へ?)
後ろを振り返ると、ゲージの扉が開いており、中身は空っぽだった。
(やべッ!すぐ使うと思って鍵かけなかったんだ!!!てかアレじゃね?ディア嬢に真っ先に向かってるヤツ!!!!)
(きゃぁぁぁぁぁ!!!ディア~!!気づいて!!!)
が、肝心のディアボロスはダンテの方を向いていたうえに、良い雰囲気に若干浮かれていたので背後にまで気が回らなかった。
なので、笑っていたダンテが急に無表情になり剣を抜いたときは驚いてしまった。
「えっ・・・・・・」
後ろを振り向いたときには、もうすぐ目の前にモンスターはいた。ギュッと目を閉じると、ダンテの振るった剣によって倒されたモンスターの断末魔が聞こえた。
「敵に背後を取られるな!!それで後衛を守れるのか!実戦では言い訳は通用しないぞ」
「はっはい!すみません先生!!」
さっきまでの良い雰囲気から一転してピリピリとした雰囲気になる。後方の位置からは会話が聞こえないが、流石に今のダンテの怒鳴った声はセレスティア達にも聞こえた。⑤
(どうしよう私たちのせいで・・・・・・)
セレスティアの不安を他所に、ダンテは踵を返して、その場を後にしようとする。
こんな空気のまま、別れたくない!そう強く思ったディアボロスは、この土壇場で持ち前の頭脳とカリスマ性を発揮し、ある案が浮かぶ。
ダンテの背中に、ディアボロスは思い切り抱きついた。
「うわっ!お前・・・・・・!」
「あ~ら先生。敵に背後は取られちゃいけないんじゃなかったですか?」
「敵・・・・・・って・・・・・・今の場合は」
「『実戦では言い訳は通用しない』です」
ダンテの背中から離れて真正面に向かい合い、先程自分が言われたことを言ってやる。二人はそのまま睨み合う。そして。
「・・・・・・ははは・・・・・・」
「・・・・・・ふふふ・・・・・・」
もう一度、笑いあう。
「どうやら私たちは、まだまだ修行が足りないみたいですね」
「みたいだな」
ディアボロスは前屈みになり、上目遣いで、本題を切り出す。
「では、そんな私に明日の放課後、剣術指南をしていただけますか?」
――リップグロスの効果があったかどうかは分からなかったけれど、ディアボロスは自然とダンテといる時間を作ることが出来たのであった。

209:Distance7
10/04/18 10:37:47 MD2Ry0FI
夜の屋上。思いの外、夜風が気持ちいい。
 夜風に吹かれながら、ディアボロスは月を見上げる。
――今日はいろいろあったな
 昨日の放課後のやり取り。そのとき交わした約束を、先程果たしてきた。先程というよりは3時間ほど前だが。
 残念ながら先約(=ヒューマン・強制)もあったので二人きりではなかったが、時には文字通り手を取り、密着して教えていただいたりもした。いろいろな意味で顔が火照ってしまったので、屋上に来たのである。
「・・・・・・やっと、見つけた・・・・・・」
 声の聞こえた方を振り向くと、ディアボロスの男性が屋上の入り口に立っていた。
 セミロングの群青色の髪に、ややつり目の赤い瞳。マスクで覆われた顔は、夜ということもあって表情が分かりづらい。首に巻かれたマフラーが、夜風に吹かれてなびいている。
「お兄ちゃん・・・・・・」
 兄妹。なるほど、言われなくてもわかったであろう。同種族同士というだけでなく、男と女の違いはあるが、単純に二人はよく似ていた。
「どうしたの?」
「・・・・・・こんな時間になっても部屋に居ないと、セレスが心配してた」
「あ・・・・・・そっか。ごめんね、心配かけちゃったね」
一度ペコリと頭を下げると、両手を広げてくるりと一回転する。
「お兄ちゃん。私、この学園に入ってよかった。お兄ちゃんが家を出て全寮制の学園に入ると聞いたときはすごく心配したのよ。お兄ちゃんは口数が少ないから。だから私がフォローしなきゃ、って思ってついてきたの。けどね・・・・・・」
顔を赤らめて照れながら、けれどもハッキリとした口調で。
「大切な人を見つけたよ、お兄ちゃん」
「・・・・・・・・・・・・」
ニッコリと満面の笑みの妹の頭を優しく撫でて、手を引く。
「・・・・・・戻ろう。夜風の当たり過ぎは良くない」
「あ、待ってお兄ちゃん。私まだここにいたい」
「・・・・・・・・・・・・?」
「大丈夫。あと30分くらいで戻るから」
言われて少し考えた。が、一度言ったら聞かない娘だったと彼は知ってるので、もう一度頭を撫でて屋上を後にした。
去り行く兄の背中を見送り、別段月が好きなわけではないのだが、もう一度月を見上げる。
――私はいつから先生のことが好きになったんだっけ
ふと、そんなことを思った。入学したその日は、まだ好きじゃなかった。むしろ引いていた覚えすらある。だって自分のクラスの生徒を見て開口一番に言った言葉が「軍隊に入ったつもりでいろ」だかなんだかだったのよ?有り得ない、有り得ない。
好きになる要素0かつマイナス要素100だったハズ。
「・・・・・・絵になるな」
「えっ・・・・・・」
いつの間にか、ダンテが近くに居た。入り口付近とかならまだしも、ディアボロスから近くもないが、遠くもない距離だ。けれどもこの位置なら視界には入っていたはず。


210:Distance8
10/04/18 10:39:14 MD2Ry0FI
(まったく気づかなかった・・・・・・)
そして思った。今のこの二人の距離が、まるで自分たちの関係の距離のようにも思える。ただの教師と生徒ではなく、けれども恋人でもなく。
ただ他の生徒よりは仲が良いというだけ。この距離を越えて、親密な関係になりたい。
「こんな時間にここで何をしているんだ?」
「えと、月を、見てて」
そういうとディアボロスは慌てて月を指差し、見上げる。ディアボロスの横に立ち、それに倣ってダンテも月を見上げる。
寄り添っている、とまではいかない。若干空間がある。けれどもこの二人の間には誰も入り込めないだろう、という雰囲気がある。
これで間に入ろうと思うものは、空気の読めない馬鹿だけであろう。
――こんなに近くに居るのに、この見えない距離はなんなの?
不意に、思い出してしまった。
ダンテに想いを寄せている、別の女の子。
彼女は自分が悪いとはいえ、この屋上でダンテに見事に突き放された。
それを目の前で見たディアボロスは、ダンテに対して酷いとも、ましてや彼女に対して突き放されて良かったとも思わなかった。
ただただ、怖かった。
いつか自分も、あんな風に突き放されてしまうのだろうか――と。
(いつか、私も――)
自然とディアボロスはダンテの腕に抱きついた。ダンテも一瞬驚いたが、無理に振りほどこうとしなかった。
「先生、今日は剣術指南を教えていただいてありがとうございました」
彼女の言葉に一瞬、目を見開いたが、ダンテは何も言わずに微笑を浮かべた。
――違う!
確かに、今日のお礼も大事。でも、本当に伝えたいことは、もっと大切なことは、
「・・・・・・先生」
足が、震える。
でもいつかは、伝えなければいけないことなんだから。
顔を、上げて。
「私、は、」
腕を放して、正面に向き合う形になり、
「私は、先生のことが好きです」
気づけばダンテに抱きつき、唇を重ねていた。
「なっ・・・・・・」
突然の告白に動揺しているダンテを余所に、ディアボロスはまるで今まで溜めていた想いが溢れ出るかのように呟く。
「先生、私は先生のことが好きです。何でなのかな。いつからだったのかな。分からない。思い出せない。でも、ずっと、伝えたかったんです。先生、先生・・・・・・」
そのまま事切れたのか、ダンテに抱きついたまま、彼女は気を失い、眠りに付いた。
「・・・・・・なんなんだ、一体・・・・・・」
抱きついたままの彼女を支えながら、ダンテは深い溜息をついた。


211:Distance9
10/04/18 10:42:55 MD2Ry0FI
「ん・・・・・・」
「あっ目、覚めました?」
セレスティアが少々心配そうな表情でディアボロスを覗き見る。ディアボロスはゆっくりとベッドから起き上がり、周囲を見回す。
(私と、セレスの部屋・・・・・・ええと・・・・・・)
何があったんだっけ?と記憶を探る。確か放課後にヒュマ君と一緒に剣術指南を先生から受けて、屋上に行って、夜風に吹かれて・・・・・・
「ディア!屋上で倒れたらしいですよ!!やっぱり剣術指南って大変でしたか?男子と女子じゃ体力が違いすぎるもんね・・・・・・あぁでも!ここまでダンテ先生が運んでくれたんですよ!
横抱き、所謂お姫様抱っこです!ミニスカートだからパンチラしたかもしれないですが少なくとも先生には見えてな・・・・・・あれ?先生には見えていいのかな?むしろ他の生徒に見られた方がまずい?」
セレスティアがいつもの無意識の天然が発動し、自身の頭の中でぐるぐると答えをめぐっているのを余所に、彼女の発言からディアボロスは先程のことの記憶を甦らす。
(屋上・・・・・・そうだ、私は屋上に行って夜風に吹かれながら先生とお話して)
 突然告白をして、勢いでキスをした挙句、気を失った・・・・・・?
「・・・・・・きゃ――――!!!!!!!!!!!」
「ひゃっ?!だ、大丈夫だよディア!!パンチラなんて誰も見てないですよきっと!」
「いや、そんなパンチラ話じゃなくって・・・・・・あぁ、私、ダンテ先生のところに行かなきゃ!!今すぐ!!」
「待ってくださいディア!」
今にも部屋から飛び出そうと走りかけたディアボロスの腕を、セレスティアは慌てて掴む。
「セレス!止めないで!」
「行くのはいいんですけどお風呂に入ってから行きましょう。もう九時です。ついでに経緯なんかも聞かせてください」
「・・・・・・・・・・・・」

212:Distance10
10/04/18 10:43:42 MD2Ry0FI
肩紐と胸元と裾の部分にひらひらのレースを使われた色違いのお揃いのネグリジェ(ちなみにセレスティアがピンクで、ディアボロスは水色)を着て、セレスティアはディアボロスの髪をドライヤーで乾かしながら話を纏める。
「つまり、告白の返事を聞きに行くんですね?」
「・・・・・・うん・・・・・・」
本当は恥ずかしくて会いたくないけれど。それでも明日教室でいきなり会うと、絶対変な行動を取って、授業をサボりそう。クラス中のみんなにも笑われるような気がする。
「ディアは思い立ったらまず行動!ですからね。そんなところも魅力的です。でも・・・・・・」
カチンとドライヤーをOFFにし、時計を指差す。
「何だかんだでもう十時越えてます。今から会いに行くのは警備が面倒というか、先生のいる寮も鍵がかかってるかもしれないし、それにネグリジェだし」
「大丈夫!」
すくっと立ち上がり、余裕に満ちた表情で、
「忍者の妹、嘗めるんじゃないわよっ」
「いえ、でも、ディア兄さんはこの学園に入ってから忍者になったんじゃ・・・・・・」
と言ったが聞こえてないみたいだし、昨日まで消極的だった親友がやる気になってるのだから、いいかな、とセレスティアは思うことにした。
「ただしっ!ちゃんとこの部屋に帰ってきてくださいね?そのまま先生の部屋に、と、泊まるのはナシです!(フラれたショックで)学園を抜け出して森とかに逃げ込むのもナシです!」
「森?・・・・・・うん、わかった。・・・・・・」
鏡で一度身だしなみをチェックする。流石にお風呂上りなのでメイクは落としてしまったが、保湿を保つために桜色のリップグロスだけつける。
「じゃ、行ってくるね」
「うん。行ってらっしゃい」

213:Distance11
10/04/18 10:46:13 MD2Ry0FI
肩にジャケットを羽織っただけのラフな格好でベッドに腰をかけ、ダンテは武器の手入れをしていた。頭の中では、屋上での突然の告白を思い出しながら。
『私は、先生のことが好きです』
気づいていた。
彼女の自分に対する態度が他の者とは違うことは、気づいていた。けれどもそれは単純に他のクラスメイトよりは信頼を寄せられているというか、
セレスティアを始めとする彼女のグループメンバーへ向ける好意と同等のものだと思っていたのだから。
「・・・・・・・・・・・・」
自分は、どうなのだろう。彼女からの突然の告白。嬉しいかと聞かれたら、・・・・・・嬉しい。それは間違いない。どんな形であれ、好意を向けられるのは嬉しいものだ。
では、彼女の想いに応える事が出来るか?と聞かれたら、・・・・・・分からない。
ダンテはディアボロスとの今までのやり取りを思い出してみて、あぁそうか、と納得した。
自分に対する態度だけしおらしかったのも、放課後に剣術指南を受けたいといったのも、純粋に、好意からだったんだと今にして理解できた。
その時。
ダダダダダダダダ――ッと廊下を勢いよく走る音が部屋の中まで聞こえてきた。
そしてつい今まで考えていた件のディアボロスがいきなり、アポも取らず、ノックもせず、必死の形相で、しかもネグリジェ姿で部屋に入り込んで、抱きつかれた。
「せっ、先生――!!!!!!!!」
「な、何だ?!」
ディアボロスはうわーっと涙を流しながら、肩で大きく息をしていた。ブツブツと「ごめんなさい、ごめんなさい。忍者の妹とか言って調子に乗ってました」と呟きながら。
夜で、ネグリジェで、涙を流す女。つまり。
「・・・・・・強姦魔でも出たのか?!」
「うっ・・・・・・はうぅ・・・・・・ち、違います」
荒い息を整えて、ゆっくりと深呼吸をし、言う。
「ダンテ先生のところの行こうと思ったら、意外と広くて、そもそも部屋分からなくて、扉が少し開いてる部屋を覗いたら、ジョルジオ先生が爽やかな汗を流しながらステッキで素振りしてるし、
また別の部屋の扉が少し開いてたから覗いてみたら「この液体を入れれば・・・・・・フフフ、完成です」とか言いながらヴェーゼ先生が怪しげな薬作ってるし・・・・・・なんでみんなちゃんと扉閉めないの?!・・・・・・あ~怖かった」
一息に感情を捲くし立てたおかげで、ディアボロスは落ち着きを取り戻した。そして慌ててダンテから離れる。
「あっごめんなさい!!えっと、私・・・・・・先生の気持ちが、知りたくて」
自ら本題を切り出すディアボロス。誤魔化してもしょうがないと気持ちを割り切っていたのだ。
「・・・・・・。俺は・・・・・・」
「あっ!待って!私、セフレでもいい!!」


214:Distance12
10/04/18 10:46:53 MD2Ry0FI
瞬間、ビシッと頭を叩かれた。
「あいたっ!!」
「そういうこと言うな」
うぅ~と唸り、頭を押さえながらディアボロスはダンテを見つめる。
「女の子叩くの、善くないです。古くから伝わる決まりごとです。ましてや、こっちに悪気がなかったにも関わらず・・・・・・」
「ツッコミだ、ツッコミ」
「うわー!なにその先生らしくない切り返しの仕方!」
うーうーと文句を言うディアボロスを見ていると、自然と笑みがこぼれてくる。・・・・・・彼女とのこういうやり取りは、素直に楽しいと思う。
その時の彼女の反応の一つ一つが、可愛いと思う。・・・・・・愛しいと思う。
(でも、それでも俺は・・・・・・)
人質にされている「大切なあの子」を救わなければ。囚われの身になっているあの子を措いて自分だけが幸せになるなんて、・・・・・・出来ない。
『だから想いに応える事が出来ない』――だからこのままの関係で十分に嬉しい。こうしてじゃれ合っているだけでダンテは嬉しい。
けれどもディアボロスは違う。その距離を越えたがっている。
考え込んでしまったダンテを見て、ディアボロスは表情を曇らせた。そしてベッドから立ち上がりペコリと頭を下げた。
「先生、ごめんなさい・・・・・・勝手に告白したくせにそのうえ返事を今すぐ出せなんて、図々しいですよね。やっぱりいいです、ごめんなさい。忘れてください」
踵を返してドアに向かうディアボロスの腕を、ダンテは掴む。振り向くディアボロスの瞳には涙が浮かんでいた。
(馬鹿だな、俺は・・・・・・)
ディアボロスの涙を見て思い知らされた。
「あの子」もとても大切だけど、「この娘」もとても大切だ、と。
そのまま、ごく自然な動きでディアボロスは抱きしめられる。
「なっ?えっ、えぇ?な、なになになに?」
「・・・・・・・・・・・・」
「えっとえっとえぇと、あぁ、そっかぁ、油断した敵を窒息死させる練習ですね?いやいやいや、でもこれでは窒息死させるには優しすぎるというか、むしろ相手喜ぶんじゃないかなとか、あ、あはは」
予想してなかった突然の行動に動揺し、しどろもどろに言葉を続ける。
「せっ先生、離してください、でないと、でないと好きっていう意味で捉えちゃいますよ?」
「そう捉えていい」
「えっ・・・・・・」

215:Distance13
10/04/18 10:47:27 MD2Ry0FI
その言葉と、より強く抱きしめられたことによって、ディアボロスの動きが止まる。
「・・・・・・嬉しいです、先生。同じ気持ちでいてくれるとは、まったく思ってなかったんです。他の生徒よりは近しい関係だとは思っていましたが、どこかお兄ちゃんが私に接するのと同じなような感じにも思えて―」
瞬間、ディアボロスの鼓動がドクンと跳ねた。
「お兄ちゃん」という単語を出したとき、一瞬ダンテの顔が曇った気がして、嫌な予感がして、・・・・・・そんな表情して欲しくなくて、だからディアボロスは動揺を隠し、何か話題がないかと思考をフル回転させていると、今更ながら気づいた。
「うわっうわわ、先生、上半身、何も着てな、」
「お前が飛び込んで抱きついてきてジャケット落ちたんだろ」
「うぅ、すみません。・・・・・・てかそもそも、ちゃんと着てたら落ちなかったんじゃ」
「自分の部屋でどんな格好でいても自分の勝手だ」
「うぅぅ、そう、ですけど、うぅ~・・・・・・」
「お前もそんな格好で男の部屋に来るな」
言われて改めて自分の格好を見る。淡いブルーの、普通に女の子らしいネグリジェだと思うんだけど・・・・・・確かに丈は短いけど。
「変ですか?このネグリジェ。セレスと色違いのお揃いなんだけどな。レースがひらひらで可愛いのに」
「そうじゃないだろ、この場合」
ベッドに座り無邪気な笑顔を覗かせるディアボロスを見る限り、異性に寝巻きを見られることに何の抵抗もないものと思われる。
「でもね、先生。セレスとお兄ちゃんに見られるのはいいんだけど、他の人、男性は嫌かなぁ。だから迅速にこの部屋に来たんですよ。先生は見られても全然構わないですからね」
あぁ、もう。
この女、男を無意識に誘ってるんじゃないだろうか。
そう思うと、ダンテの腕が自然とディアボロスの身体に伸びる。が、ディアボロスは慌てて回避する。
「わ、わわわ、ダメダメ!」
「それでよくセフレでもいいと言えたもんだな」
「うわー!なんか、なんかムカついた!・・・・・・けど、うん」
自分から回避したくせに、ディアボロスは自らダンテに抱きついてきて、
「初めてはホントに好きな人と、って・・・・・・決めてたから、だから」
ディアボロスはダンテに爆弾を投げてきた。
「先生、しましょ?・・・・・・私の初めて、貰ってくれます?」


次ページ
最新レス表示
レスジャンプ
類似スレ一覧
スレッドの検索
話題のニュース
おまかせリスト
オプション
しおりを挟む
スレッドに書込
スレッドの一覧
暇つぶし2ch