10/03/11 00:24:30 tbv7teIj
だが、来るはずの痛みが来ない。恐る恐る目を開けると、拳が目の前で止まっていた。
「……殴る気も失せた。貴様をここで殺したところで、何が変わるわけでもない」
拳を引くと、彼は軽く息をついた。
「それに、貴様にはまだ謝っていない相手がいるだろう?俺や、貴様の連れには素直に謝れたんだ。あいつに謝れないなんてことは
ないだろう」
その言葉に、彼女は黙って頷く。
「貴様とて、俺と同じバハムーンだ。種族の恥を晒すような真似をしないと、信じている」
何だか狐につままれたような顔の彼女に、彼は手を差し出した。
「帰るぞ。そんな所にへばりついていても、何ができるわけでもない」
彼女はしばらく躊躇っていたが、やがておずおずとその手を掴む。
彼女を引き起こすと、彼は汚いものでも触ったかのように、手をズボンで丁寧に拭った。
「帰還札は持っているか?」
「あ、うん、持ってる……じゃあ、使うね」
光に包まれ、消える二つの影。彼は気づかなかったが、帰還札を使う直前、彼女は隣の彼を、どこかうっとりした目で見つめていた。
中継地点でクラッズとドワーフを探してみたが、二人は既にランツレートまで戻っているらしく、バハムーンの二人組もその後を追う。
寮の入口で彼女と別れ、部屋に戻ってみると、ドアの鍵は開いているようだった。
「ドワーフ、いるか?」
「……ん」
消え入りそうな、小さな声。中に入ってみると、ドワーフはベッドの上に膝を抱えて座り込んでいた。
「……大丈夫か?」
「ん……って、お前こそ大丈夫かよ…?」
言いながら、ドワーフはバハムーンにヒールを使う。普段ならメタヒールを使うところなのだが、今は精神を集中できないのだろう。
隣に座ると、バハムーンは優しくドワーフの肩を抱いた。
「すまなかった。お前を一人にするべきではなかった」
「いいよ……オレが言ったんだから…。お前のせいじゃねえって…」
ドワーフは弱々しくも、何とか笑顔を見せた。だが、その笑顔が余計にバハムーンの胸を痛める。
「……ところで、あの女はどこに行った?俺を置いて帰りやがって」
「あ、ごめん。それ、オレもあの子も交易所で気づいたんだけど、追いつかれたら殺されるって泣いちゃったから、つい…」
「……どうせ、ここに帰れば結果は同じだというのにな。あいつは部屋にいるんだな?今からでも遅くは…」
そう言って立ち上がろうとしたバハムーンの服の裾を、ドワーフがギュッと掴む。
「……行かないでくれよ……お願いだから、一緒にいて…」
普段からは想像もつかないほどに、か細い声。その目には涙が溜まり、今にも零れ落ちそうだった。
「ドワーフ…」
「思い出しちまうんだよ……オレ……女の方で、イかされて…!オレ……オレ…!」
「わかった、もう黙れ。そんなこと、もう口に出す必要もない」
バハムーンはドワーフを抱き寄せると、零れた涙を舐め取るようにキスをする。
「バハムーン…!」
「そんな記憶など、すぐに忘れさせてやる。今は、俺だけを感じていろ」
言うなり、バハムーンは強くドワーフを抱き寄せ、その唇を奪った。さすがに一瞬驚いたものの、ドワーフはそれに抗うこともなく、
無遠慮に侵入する舌へ、甘えるように舌を絡める。
130: ◆BEO9EFkUEQ
10/03/11 00:25:08 tbv7teIj
ドワーフの平たく長い舌の感触を楽しみつつ、バハムーンはその服に手を掛けた。片腕はドワーフを強く抱き寄せたまま、もう片方の
手で器用にボタンを外していく。やがて、全てのボタンが外されると、ドワーフは袖から腕を抜き、脱がせるバハムーンを手伝う。
舌を絡ませ、不意に唇を離す。ドワーフが追い縋るように舌を突き出すと、バハムーンはそれを舐めるように舌で触れ、再び唇を重ねる。
いつもより、ずっと長いキス。時に焦らし、時に欲望のままに、二人はその感覚を貪るように味わう。
バハムーンが、ズボンに手を掛ける。ベルトを外し、止め具を外すと、ドワーフは脱がせやすいように尻尾を垂らす。
ズボンを丸めてベッドの下に放ると、バハムーンはすぐに下着へ手を掛ける。それも同じようにして脱がせた時、ドワーフが不意に
胸を押した。それに気付き、バハムーンは唇を離す。
「ん、どうかしたのか?」
「……あ、あのさ…」
ドワーフは一度視線を逸らし、どこか言い辛そうに口を開く。
「前も、似たようなことあっただろ…?あん時も、オレ、初めてだからって狙われて……今回も、初めてだってわかったら狙われて…」
「おい、ドワーフ…」
「だ、だからっ!」
叫ぶように言うと、ドワーフは怯えたような目でバハムーンを見つめる。そして、震える手を伸ばし、自分から秘部を広げて見せた。
「し、知らない奴に、奪われるくらいなら……お、お前に、その、こっちの初めても、もらってほしい…」
そんなドワーフを、バハムーンは何とも言えない表情で見つめる。やがて溜め息をつくと、ドワーフの頭にそっと手を置いた。
「……俺は、女とヤるつもりはないぞ」
その一言に、ドワーフはビクッと耳を垂らした。
「そ、そんな言い方しなくたってっ……だって、だって……オレ…!」
今にも泣きそうな顔になるドワーフの頭を、バハムーンは優しく撫でた。
「お前は、男だろう?」
「え…?」
「聞こえなかったわけではあるまい?お前は、男だろう?」
「……そ、そうだけど、でもっ…」
「体は女でも、お前は男だろう?」
「……うん」
ようやく頷いたドワーフに、バハムーンは微笑みかける。
「だから、俺はお前と付き合っているんだ。俺は女とヤる趣味はない。……だがな」
ドワーフの頭を優しく撫でつつ、バハムーンは続ける。
「もし、お前が本気でそう望むなら、俺はそれに応えよう。しかし俺とて、いきなりそんなことを言われても覚悟が決まらん。
だから、しばらく待て」
「しばらくって……どれくらいだよ…?」
「そうだな、ひと月もあれば十分か。それでもし、ひと月後もお前が今と同じように望むのなら……その時は、俺も覚悟を決める」
少し不服そうではあったが、ドワーフはその言葉に黙って頷いた。
改めて、バハムーンはドワーフを抱き寄せる。そして服を脱ぎ、自身のモノに唾を付けると、ドワーフの耳元に囁く。
「悪いが、少し我慢しろ」
聞き返す間もなく、ドワーフの後ろの穴にバハムーンのモノが押し当てられる。次の瞬間、バハムーンは思い切り腰を突き出した。
「んぐ、あっ…!うあ、あああぁぁっ!!」
抱き締められ、身動きの取れないままに、ドワーフが悲鳴を上げる。いつもならば、ドワーフの愛液を絡めて入れているのだが、
バハムーンはそこに触れようともしない。
131: ◆BEO9EFkUEQ
10/03/11 00:25:51 tbv7teIj
「い、痛いっ……痛てえよ、バハムーンっ…!」
「ドワーフ……すまん、我慢してくれ」
「あぐっ!うっ!バハ……んむぅ…!」
ドワーフの口を自身の唇で塞ぎ、バハムーンは腸内を激しく突き上げる。バハムーンが動く度に、滑りの悪い結合部に痛みが走る。
だが、体内を突き上げられる度、鈍い痛みと快感が走り抜ける。そして、重ねられた唇と、絡まり合う舌の感触が、痛みを和らげる。
「ふ、ぁ…!んっ……むぅ…!」
痛みから逃れるように、ドワーフは積極的に舌を絡め、バハムーンの体にしがみつく。それに応えるように、バハムーンもドワーフを
強く抱き締める。全身で感じるお互いの温もりが、二人の快感をさらに強めていく。
快感が高まるにつれ、痛みが消えていく。最初はバハムーンのモノを拒むようにきつく締め付けていたドワーフも、徐々に彼のモノを
優しく受け入れるようになっていく。
「くっ……ドワーフ、もうっ…!」
「んあぁ…!いいよ……お前の、オレの中にっ…!」
ドワーフはバハムーンに全身で抱きつき、彼のモノを強く締め付けた。同時に、バハムーンが低く呻いた。
ビクンと、体の中で彼のモノが跳ねるのを感じる。それを感じる度に、ドワーフの中にえもいわれぬ快感が湧きあがる。
強く腰を押し付けていたバハムーンが、ゆっくりと腰を引く。だが、そのまま引き抜くのかと思っていると、彼は再び強く
突き上げてきた。完全に油断していたドワーフは、予想外の快感に悲鳴を上げる。
「うああっ!?お、お前っ……あぐっ!お、終わったんじゃ…!?」
「生憎と、一度ぐらいで治まりはしないんでな。それに、お前だって足りないだろう?」
「オ、オレはっ……あうっ!バハムーン、もうやめっ……んあっ!!」
出されたばかりの精液が、腸内で激しく掻き混ぜられる。溢れた精液が結合部を伝い、それが潤滑剤となってドワーフの痛みを消し去る。
それによって、ただでさえ強くなっていたドワーフの快感は、一気に跳ね上がった。
「バハムーンっ……ま、待って!!オレ、もうっ……あぐぅ…!い、イっちまうよぉ!!」
だが、彼は動きを止めるどころか、ますます強く突き上げる。ドワーフはベッドのシーツをぎゅっと掴み、必死に耐えていたが、
それもすぐに限界が来た。
「も、もうダメっ……ああっ、ああああぁぁぁ!!!」
ドワーフの体が反り返り、ガクガクと震える。だが、バハムーンは動きを止めたりなどせず、なお激しくドワーフの腸内を突き上げる。
「ああっ!!あっ!!バハっ……ま、待てぇ!!オレ、今イってっ……う、動くなぁぁ!!!」
途切れることのない快感。ただでさえ敏感になっているところをさらに犯され、ドワーフの快感は限界以上に跳ね上がる。
「うあああぁぁ!!!やめっ……ぐぅ、あああぁぁぁ!!!」
再び、ドワーフの叫び声が響く。細かく何度も達してるらしく、ドワーフの体は反り返り、足はピンと伸びてぶるぶる震えている。
腸内はバハムーンのモノをさらに引き込むかのように蠢動し、唯一尻尾だけが、それ以上の動きをやめさせようとするかの如く、
結合部を隠すように閉じられる。
「くっ……ドワーフ、また出すぞ!」
「あぐぅぅ!!も、もうやめっ……これ以上っ……これ以上、イけねえよぉ!!バハ……あああぁぁぁ!!!」
ドワーフが叫ぶと同時に、腸内がギュッとバハムーンのモノを締め付ける。それに促されるように、バハムーンは再びドワーフの体内に
精液を注ぎ込む。
モノが跳ねるのに合わせ、バハムーンはドワーフの奥深くを突き上げる。その度に、大量の精液と空気が腸内で掻き混ぜられ、
ガボガボと大きな音が響く。その音までもが、激しく犯されている事実を認識させ、ドワーフに強すぎるほどの快感を与える。
132: ◆BEO9EFkUEQ
10/03/11 00:26:33 tbv7teIj
「はあっ……はあっ……うああぁ、あ…!」
もはや何度目かわからない絶頂を迎えるドワーフ。しかし、さすがにもう叫ぶ元気もないのか、今までと違って力なく呻くだけである。
汗だくになった体からは徐々に力が抜けていき、目は今にも閉じられそうになっている。
「バハムーン……オレ……もぉ……無理ぃ…」
力ない声で言うと、とうとうドワーフの全身から力が抜けていった。バハムーンが突き上げる度に、その口から小さな呻き声が漏れるが、
もう今までのように叫び声をあげたりはしない。呼吸もすっかり浅くなっており、意識は既になくなっているらしかった。
「はぁ……はぁ……ドワーフ…!」
そんなドワーフの体内に、バハムーンは三度目の精を注ぎ込む。さすがにバハムーンも疲れており、これ以上しようという気は
起こらない。
ゆっくりと、ドワーフの中から引き抜く。
「う……ぁ…」
無意識に反応するのか、ドワーフの体がピクンと震える。それとともに、あまりに激しく犯されて、すぐには閉じなくなった肛門から、
精液がどろりと溢れ出た。
それを軽く拭き取ってやると、バハムーンはドワーフの体を抱きしめた。
「……もし、お前の望みが変わらなかったとしても…」
聞こえていないと知りつつ、意識のないドワーフの耳元で、そっと囁く。
「俺はお前を、放しはしない」
そう言い、バハムーンはドワーフをさらに強く抱きしめた。体毛が肌をくすぐり、汗ばんだ体からはいつもより強く匂いが感じられる。
そうして目を瞑っているうち、いつしかバハムーンも眠りに落ちていた。
一方、クラッズの部屋では夜が更けてからも、クラッズの叱責の声が響いていた。
「ほんっと、信じられないよ!どうしてドワちゃんにまで手ぇ出すわけ!?しかも、あの二人は恩人だよ!?」
「ごめんなさいぃ……クラちゃん、もう許してぇ…!」
「そもそも、ドワちゃんにちゃんと謝ったの!?それもしないで、許してとか言ってるんじゃないよね!?」
未だに怒り心頭のクラッズに、泣きそうな顔で謝り続けるバハムーン。
「あ、謝ろうとしたけど……バハ君に、来るなって言われたんだもん~…!」
「だからって、さっさと引き下がるの!?」
「だ、だって……すっごく怖い顔で言われたんだよぉ…」
「……う~……それは、まあ、じゃあしょうがないけど……あとで、ちゃんと謝るんだよね?」
若干、クラッズの口調が和らぐ。それを聞いた瞬間、バハムーンの顔にホッとした表情が浮かんだ。
「う、うん。ちゃんと謝る……だから……ゆ、許して、くれる…?」
「……謝ったらね」
溜め息混じりに言うと、クラッズはもう一度彼女を睨んだ。
「ああ、それからちゃんと謝るまで、エッチ禁止ね」
「え……そ、そんなぁ~…!」
「何?文句があるの?」
和らいだと思った表情が、再び鬼のような形相になっていく。元の目つきが悪いだけに、その迫力も凄まじい。
「ドワちゃんに好き勝手しておいて、色んな人に迷惑かけておいて、許してもらわないうちからやりたいことやるんだバハちゃんは!?」
「ご、ごめんなさいごめんなさい!!わかったよぉ!!言うこと聞くから怒らないでぇ!!ふええぇぇ…!」
泣き出すバハムーンに、再びボルテージを上げていくクラッズ。二人が眠れるのは、まだまだずっと先のことのようだった。
133: ◆BEO9EFkUEQ
10/03/11 00:27:10 tbv7teIj
一ヶ月後、ドワーフとバハムーンはいつものように朝食を取っていた。相変わらずハニートーストやアップルパイなど、甘い物中心の
メニューである。
「ふー、ごちそうさまっと」
「速いな。朝食ぐらい、もっとゆっくり食えばいいものを」
「いいだろー別に。それに、これぐらい普通だって」
「……前は俺より遅かったと思うんだがな?早食いは太るぞ?」
「お前はどうなんだお前は。俺は三つだけだけど、お前それで八個目じゃねえかよ。大食いは太るぞ」
「俺はゆっくり食ってるからいいんだ」
「よくねえよ」
いつも通りの会話。いつも通りの日常。いつもと変わらない、当たり前の風景である。
だが、ここ最近は、それにも少しだけ変化が訪れていた。
食事を終えたドワーフは制服を着ると、鍵を持ってドアへと向かう。
「さてと、それじゃあオレ、行ってくるなー」
「また、あの女のところか?お前も飽きないな」
「いいだろー。だって、お前以外ではようやく、初めてできたまともな友達なんだから」
「ま、そうだろうな。別に俺とて、止める気はない。ゆっくり遊んでくるといい」
「安心しろって、ちゃんと夜までには帰るからさ。へへっ」
そう言ってドアに手を掛けるドワーフの背中に、バハムーンが声をかける。
「……夜と言えば、あれからちょうどひと月だな」
「うっ…」
ドワーフの体毛が、ぶわっと逆立つ。
「確か今日の夜には、お前のもう一つの初物がもらえるという話だったが…」
「ううう、うるせえー!!その話はなしだっ!!もう言うなっ!!あああ、あん時は頭ん中ぐちゃぐちゃで、どうかしてたんだよ!!」
全身ぼさぼさにして叫ぶドワーフを、バハムーンはニヤニヤしながら見つめる。
「そうか、それは残念だな。二度目の初物をもらえるというのは、なかなか魅力的だったんだが」
「嘘つけぇー!!お、お前だってそんなん嫌だろ!?だからもう、その話はなしっ!!もう言うな!!いいな!?」
「はっはっは、わかったわかった。今回は諦めておいてやろう」
「次回はもうねえよ!!」
乱暴にドアノブを掴み、捻じ切らんばかりの勢いで回す。そこでふと、ドワーフの動きが止まった。
「……けど、ありがとな。あん時、あのままやっちゃってたら……オレ、きっと一生後悔してた」
「俺は、お前の彼氏だからな。お前のことは、理解しているつもりだ」
そう言うバハムーンに、ドワーフは恥ずかしそうな、それでいて嬉しそうな笑顔を向けた。
「へへっ、お前のそういうとこ……オレ、大好きだぜ!」
返事も待たず、ドワーフはそのままドアをすり抜け、出て行ってしまった。だがその直前、尻尾がぼさぼさになっていたのを、
バハムーンは見逃さなかった。
「……意外と恥ずかしがりなのも、変わらんな」
小さく笑い、九個目のハニートーストを取った瞬間、部屋のドアがノックされる。ドワーフかとも思ったが、それならばわざわざ
ノックする必要がない。
134: ◆BEO9EFkUEQ
10/03/11 00:27:48 tbv7teIj
「誰だ」
尋ねるも、返事はない。バハムーンは忌々しげにハニートーストを置くと、勢いよくドアを開けた。
「……おはよう」
そこにいたのは、あのクラッズと一緒にいるバハムーンだった。
「帰れ」
冷たく言い放ち、ドアを閉めようとする。しかし彼女は隙間に足を突っ込み、さらにドアに手を掛けて抵抗する。
「か・え・れ!」
「待って……いきなり、ひどい…!」
怪力の二人に掴まれ、ドアがメリメリと悲鳴を上げる。
「そもそも貴様、俺に何の用だ。いや、何があろうと俺は貴様に用はない。帰れ!」
「待ってってばっ……せ、戦闘訓練……付き合ってほしいなって…!」
それを聞いた瞬間、彼はいきなりドアから手を放した。突然抵抗がなくなり、彼女は勢い余って倒れそうになる。
「なんだ、そういうことか。貴様を叩きのめせるというなら歓迎だ。行くか」
「……負けないもん」
そして、二人は連れ立って体育館へ向かう。その光景を見た者は、とうとう彼が女にまで手を出すようになったと勘違いし、結果として
彼等の行く先は、海を割った聖人の奇跡の如く、人波が避けていくのだった。
体育館に、激しく床を踏み鳴らす音が響く。それに加えて、荒い息遣いと武器のぶつかり合う音。
ガツンと一際大きな音が響き、木剣が床を転がる。直後、これまたゴツンと鈍い音が響いた。
「い……痛い…!」
「ふん、その程度か?手加減してやってるんだ、少しぐらいは手応えがないとつまらんな」
ど真ん中を占拠するバハムーンの二人組。彼女の方は頭を押さえてうずくまっており、彼の方は物干し竿をくるくると回している。
「そんなに長いの使ってるのに、手加減とか…」
「なんだ?素手でやれというのか?やっても構わんが、俺は素手の方が得意だぞ」
とは言いつつ、長大な物干し竿をまるで体の一部のように操る姿は、決して手加減をしているように見えない。
「……君が素手なら、私の方が強いよ…!」
「ほ~う?貴様、俺を舐めるなよ」
彼女が木剣を拾うと同時に、彼は物干し竿を投げ捨てた。
「素手より武器を持った方が有利だというのは、戦士や侍の…」
「隙あり!」
突然、彼女は不意打ちで木剣を振り下ろした。その速度は、常人なら目で追えないほどに速い。
が、彼はそれを平手で打ち払うと、彼女の腹に蹴りを叩きこんだ。
「ぐっ…!」
たまらず体を折った瞬間、彼は上から彼女の腰を掴み、その巨体を逆向きに軽々と持ち上げた。そして一瞬の間を置き、その体を
思い切り床に叩きつける。止めとばかりに、彼はぐったりした彼女の尻尾を掴むと、片手で放り投げた。
135: ◆BEO9EFkUEQ
10/03/11 00:28:46 tbv7teIj
「うぅ……げほっ…!」
「不意打ちしておいてそれか?情けない奴だ」
「……く、悔しいよ…!私だって、自信あったのに…!」
必死に涙を堪える彼女に、彼は溜め息をついた。
「貴様の剣は、確かに速い。だが、攻撃が雑すぎる。その大振りばかりで、今まで生き残ってきた腕は認めるがな」
「……どうすればいいの…?」
「それは自分で考えろ。一言言うなら、牽制ぐらいは覚えておけ」
何だかんだ言いつつ、質問にも答えてくれる彼に、彼女はどこか嬉しそうな目を向ける。
「……君って、優しいし、強いし、すごいよね…」
「褒めても何も出ないぞ」
「私、今まで友達、クラちゃんしかいなかったから……君みたいに、強い人と友達になれて、嬉しいな」
「おい、待て。俺がいつ貴様と友達になった?やめろ、俺は女と付き合う趣味はない」
「大丈夫、私も男の子と付き合う趣味ないから…」
「……その割に、貴様、ドワーフには好き勝手してくれたな」
その言葉に、彼女は首を傾げる。
「だって、あの子って女の子…」
「よし、貴様いい度胸だ。今日は死の淵に辿りつくまで、存分に戦闘訓練をしようじゃないか」
「え、え…?だって、ほんとにあの子……ま、待って待って!!わ、私そういうつもりじゃっ……ゆ、許してぇー!!!」
どちらかというと、彼女に付きまとわれて迷惑そうな彼。とはいえ、彼としても彼女のような存在は珍しく、また同種族でもある。
彼女を心の底から嫌っているわけでは、決してない。
それ故か、本気で逃げ回る彼女を追いかけ回す彼の姿は、どこか楽しげにも見えるのだった。
その頃、ドワーフは寮の屋上でクラッズとお喋りを楽しんでいた。元々、種族的な相性も良かっただけに、二人はもはや無二の親友とも
言える存在になっていた。
「あはは。でも、ちょっと困ることもあってさ…」
「んお?何かあったのか?」
「ん~~~……君と、バハ君と仲良くなってからさ、私の数少ない友達がすごい勢いで逃げてったんだよね…」
「あ~……それは、なんか、悪りいね。でも、その程度で離れちまう奴なんて、最初っから友達になんてしない方が賢明だよ」
「……なんか、ちょっと納得しかけた。でも、うん、その考えもありかなあ…」
「ま、あいつの受け売りなんだけどさ」
二人は大きな声で笑い、一頻り笑ってから同時に溜め息をついた。
「……バハちゃんも、問題児だからなぁ…。いい子なんだけど……って、そうそう。ドワちゃ……くん、あれからバハちゃんと話した?」
クラッズが尋ねると、ドワーフは不機嫌そうに顔をしかめた。
「……するかよ、話なんて」
「でも、その、ね?バハちゃん、あれはあれで気にしてるんだよ。ドワ……君に謝ろうとしてるけど、いっつも話聞いてもらえないって、
嘆いてるんだよ」
「君には悪いけど、オレ、あいつだけは絶対に許せねえよ」
「許してあげて、なんて言わないし、言えないよ。でも、せめて謝るのを聞いてあげるだけでも、ダメかな…?」
そう言い、クラッズは不安げにドワーフを見上げる。そうされると、さすがのドワーフも少し心が揺らいだ。
136: ◆BEO9EFkUEQ
10/03/11 00:29:28 tbv7teIj
「そ、そんな目で見るなよ……オレが悪者みたいじゃねえか…」
「ご、ごめん。そんなつもりはないんだ。でも…」
「……わかったよ。今度会ったら、話ぐらいは聞いてやる。それでいいか?」
「ほんとに!?ドワちゃ……ドワ君、ありがとう!」
何の衒いもない、満面の笑み。その顔を見ると、ドワーフの胸は自然と高鳴った。そして、前から思っていたことを、
ついに尋ねてみようという決心がついた。
「……なあ、ちょっと聞いていいか?」
「あ、うん?なあに?」
「あのさ、もし君が、あいつと会ってなくて……オレも、あいつと会ってなかったとして、もし最初にオレと君が会ってたら……その…」
「……うん、それで?」
言葉に詰まってしまったドワーフに、クラッズは優しい声で問いかける。
「あの……もし、オレと君だけで会ってたらさ、オレと付き合って……くれた、かな…?」
「……ん~…」
その質問に、クラッズは難しい顔をして考え込んでしまった。そしてたっぷり一分ほど悩み、重い口を開く。
「……私、今でこそバハちゃんと、その、付き合ってるっぽくなってるけど、ほんとはそういう気なかったし……だから、ね、ドワ君が、
体の方は女の子だってわかったら……たぶん、付き合ってなかったと思うな……君には、悪いけど」
今度はドワーフが黙りこむ。だが、こちらは比較的すぐに笑顔を浮かべた。
「そっか……そうだよなー。いや、ありがとな。はっきり言ってもらえて、すっきりした。君って優しいよな」
「ドワ君だって、似たようなものじゃない?ていうか、私達って意外と似てる?」
「言われてみれば、そうかもな。性格も似てるっちゃあ似てるし、その気がなかったのに同じ性別の奴と付き合う羽目になったりな」
二人はまた大きな声で笑い、そしてまた大きな溜め息をついた。
「……な~んで、こうなったんだろうな…」
「お互い、運がないんだよ……ああ、でもその相手がすっごく強いし、冒険者としての運はあるのかなあ?」
「まあ……それはそうかも。それに、オレは君と会えただけでも、結構運あると思うけどな、へへ」
恥ずかしげに笑うドワーフを、クラッズは笑顔で見つめた。そして、耳にそっと唇を寄せる。
「ね?付き合うのは無理だけど、これぐらいならしてもいいよ」
「へ?」
振り向いたドワーフの首を掻き抱き、唇を重ねる。驚くドワーフの唇を吸い、ちゅっと可愛らしい音を立てて唇を離す。
137: ◆BEO9EFkUEQ
10/03/11 00:30:09 tbv7teIj
「……これぐらいなら、浮気にはならないよね?それに、前のお礼してなかったし、君ってその辺の男の子より、
ずっとかっこいいからさ」
そう言い、いたずらっぽく笑うクラッズ。ようやく状況を理解したドワーフは、全身の毛を逆立てつつ尻尾をぶんぶん振り始める。
「い、いきなりそういうことするなよなー!びっくりするじゃねえかよ!」
「えへへ、ごめんごめん。でも、ほら。『体が女の子だってわかったら』付き合わなかったってだけで、それ以外は百点満点なんだよ?」
「……くぅ~っ、逆にそれ、すっげえ悔しいぞー。でも、ま……いいけどな!」
すっかり上機嫌のドワーフと、ちょっと恥ずかしげに笑うクラッズ。だが、そんなひと時の恋人気分も、一瞬で打ち破られる。
「わぁーん!!やだってばあ!!もうやめてよぉー!!」
「待て貴様ぁ!!言いだしたのは貴様の方だぞ、責任は取れぇ!!」
階下の叫び声に、二人は飛び上がらんばかりに驚いた。慌てて下を見ると、体育館からバハムーン二人組が飛び出してきたところだった。
「バハちゃん!?ちょっ……追い回されてる!?」
「うわっ、あの野郎、素手じゃねえか!?おいこら、バハムーン!!よせって!!殺す気かてめえはー!?」
だが、屋上からの声は届いていないようで、二人はそのまま走っていく。それを見て、ドワーフとクラッズは顔を見合わせた。
「……助けに行くか」
「そうしよ!バハ君の方、お願いね!」
「わかってる!」
そして、二人は大急ぎで階段を駆け下りていく。
「待てぇ!!貴様も戦士なら逃げるなぁ!!」
「うわぁーん!!クラちゃん、助けてぇー!!」
「おいバハムーン、待てってばぁー!!」
「バハちゃん、こっちこっちー!!そっちに逃げないでー!!」
奇縁によって繋がった者同士。普通なら決して繋がることのなかった彼等は、更なる奇縁によって繋がりを持った。
それが幸運なのか、不運なのか、傍目からは判断できない。多少の波風が起こった点に関しては、不運とも言えるだろう。しかし、
新たな仲間となれたことを考えれば、幸運とも言える。周りからすれば、問題児が合流したことで、もはや悪運の領域だろう。
だが、鬱陶しくも、実力のある仲間。可愛らしく、守りたくなる相手。初めて出会った、尊敬できる力を持つ仲間。限りなく理想に近い、
一緒にいたいと思う相手。
そんな、普通ならば探すことすら難しい仲間と、出会うことのできた彼等。多少の不運はあれど、彼等はやはり、幸運なのかもしれない。
138: ◆BEO9EFkUEQ
10/03/11 00:34:26 tbv7teIj
以上、投下終了。
こいつらは扱い辛いけど動かしやすいなあ。
どうでもいいけど2を最初からまた初めてみたら、最後の最後でまたもメインのデータに上書きしたorz
それではこの辺で。
139:名無しさん@ピンキー
10/03/11 23:50:32 l5xb5jS5
お疲れGJ
幸せな終わり方をしたのは解る……が、不完全燃焼なのがもどかしい…!
男は度胸、何でも試してみるもんさで突き抜けて欲しくもなかったりするようなですます
140:名無しさん@ピンキー
10/03/13 00:40:21 xVOwyKy9
乙です
いまでこそ丸くなったがバハ男もバハちゃんと同じ事やってたなw
色々あったが良い仲間になれてなによりだ
みんな何時までも幸せでいてほしいね・・・
141:二番煎じ
10/03/14 01:05:08 kaS6d/VL
どうも、二番煎じです。
前回投稿から早一ヶ月…投下ネタはホワイトデー。
少し長いので少し時間をかけて投稿します。
ではどうぞ。
142:White Day's 1/9
10/03/14 01:16:37 kaS6d/VL
-フェアリーPT:男性陣-
「で、だ。前回のバレンタインの時のことは覚えてるな?」
「あぁ、『一日遅れのバレンタイン』でしょ?忘れるはずがないよ」
「小生は忘れたくても忘れられないバレンタインだったけどネー、ヒヒヒ!」
「……俺、今まで生きてきた中でそんな皮肉を込めた笑い、聞いたことねぇよ……」
今日はホワイトデー。
バレンタインデーとは打って変わって恋する青年の為の日……ではなく、チョコレートを貰ったお返しをする日である。(ヒューマン談)
こうしてヒューマン、クラッズ、そしてフェアリーと男三人でフェアリーの寮に集まり、話し合いをしていたのである。
「まぁ、だ。あの出来事を繰り返さない為にだな……フェアリー!ぬかりはないな?」
「耳に胝が出来るほど聞かされたからね……ちゃんとフェルパー達には昨日のうちに言っておいたよ」
「よぅし、よくやったフェアリー!それじゃあ今日の探索は休み!ホワイトデーの作戦を練るぞ!」
「小生は別にお返しはいらないよネー?」
「却下」
その後クラッズとヒューマンの言い争いが続いたが、フェアリーが場を静めクッキーを買わせるべく購買へと向かわせた。
-フェアリーPT:女性陣-
「それにしても……フェアリーにしては珍しいよねぇ?『急遽、明日は探索は休みにするから』なんて」
ワッフルを口に運びながらフェルパーはエルフ達に話しかける。
どうやら女性陣は食堂で話し合っていたようだ。
「それでしたら、きっとホワイトデーだからではないでしょうか?」
ケーキを食べていたセレスティアがフェルパーの疑問の答えを返す。
「ほわいとでー?」
「貴女……本当に何も知らないんですわね」
優雅にパフェを食べていたエルフが食べる手を止め、フェルパーを見る。
「ホワイトデーというのは、殿方が女性にチョコを貰ったお返しをする日ですの。バレンタインの時にチョコをあげてなければ、当然お返しは貰えませんけど」
「へー……僕の暮らしてた所ではそんなことしてなかったからなぁ……。あ!じゃあ僕はお返し貰えないのか……」
食べかけのワッフルを皿に置き、耳を伏せて悲しそうな顔をする。
「チョコはあげてなくても、気持ちはあのキスで届いたはずですよ。元気をだしてください」
セレスティアがニコリとフェルパーに微笑みかける。
「うん……そうだよね!」
フェルパーもセレスティアに笑い返す。
その様子を見ながらエルフは微笑んでいた。
143:White Day's 2/9
10/03/14 01:17:35 kaS6d/VL
-???PT:女性陣-
「渡せるかな?渡せるかなぁ?うー、緊張してきたぁ~!」
そう言い落ち着き無くパタパタと歩き回っているのは、見た目よりずっと年下に見えるクラッズだった。
「ふむ、リーダー殿も女の子に戻ることがあるのだな。普段からでは想像もできん」
ディアボロスがクラッズを小馬鹿にするように平然と言い放つ。
「そういうお主が手に持ってるそれはな~に~?」
「あっ、こら!返せ!やめて!」
大事そうに抱えていた小袋をクラッズに取られ、顔を真っ赤にしながら取り返そうとする。
「この口調の割には純情乙女め!だからあの男共にドMと罵られるのだぞ!」
ビシッとディアボロスを指差し、そのままほっぺをグリグリする。
「ええい!返せ!」
「あー、わしのチョコレートクッキー返せー!」
「私のだ!そしてどうしてチョコレートクッキーだとわかった!」
「匂いと感だ!レンジャー学科舐めるなぁ!」
「無駄なことにレンジャースキルを発揮するな!罠解除率零のダメレンジャーめ!」
「五月蝿い、お主が解除してみろ!気配バレバレのダメ忍者め!」
寮内に言い争いが虚しく木霊した……
-クラッズPT:男性陣-
パシン
「で?あのドMとダメチビは何をやっているんだ?」
カチャ
「どうやらバレンタインの時にチョコレートを渡せなかったとかでー……」
パシン
「チョコレート関係の物を渡しに行くらしいお」
カチャ
「へー……まさか俺達にじゃないよな?バレンタインの時に貰ってないし」
パシン
「ロン。平和、混全帯口九、二盃口、混一色、ドラ二で三倍満だドワーフ」
「ノームてめぇ、俺に何の恨みがあって三倍満だコラ!」
「早くよこせ、子三倍満で二万四千円だ」
ぐちぐち言いながらもノームに二万四千円を払うドワーフ。
「あーあ、なけなしの金が……」
「勝てば良いんだよ」
「知ってらい!コノヤロー!」
ニヤリと黒い笑みを浮かべるノーム、うっすら涙を浮かべるドワーフ。
バハムーン、フェアリーがやれやれといった表情をし、バハムーンが口を開く。
「ほら、凹むなドワーフ。もう一局やろうぜ」
「うぃ、今度こそ負けねーぞ!」
ジャラジャラと音を立てまた麻雀をやりはじめる。
「よーし、今度はおいらが親だお!」
フェアリーがさっと手牌を見た後に口をあんぐりと開ける。
「て……天和……だと……?」
「「なにぃ!?」」
「まぁいいや、元はドワーフの金だ」
なんだかんだで平和だった。
144:White Day's 3/9
10/03/14 01:18:00 kaS6d/VL
-フェアリーPT:男性陣-
「な……何で俺らが……」
「力仕事は自分には堪えるよ……」
「小生は今回は見学ということデー……」
「却下」
現在フェアリー達はクッキー生地を練っていた。
何故こうなったかというと、クッキーを買いに購買へ行ったところ、トレネッテに『手作りの方が思いが伝わる』と言われ、手作りせざるをえなくなったからである。
「あーもう!やってられん!」
「モンスターを相手にしてる方がっ!楽だよっ!」
「二人ともエプロン似合ってるヨー、ヒヒヒ!」
「クラッズ!お前も生地作りをしろー!」
ヒューマンの怒号が響いたが結局クラッズがクッキー作りに参加することはなかった。
-小一時間後-
「やっとできた……」
「後は焼けば良いんだよね?」
「あぁ、後はオーブンで」
「ファイヤー!」
クッキー生地を炎が包みこむ。
薄く伸ばされた生地は火力に耐え切れずに灰になってしまった。
「あ……阿呆ー!フェアリー、おま、ゲフンゲフン!お前なんてことを……!」
「お、落ち着いて!焼けば良いっていうから……」
「火力が強すぎだ!」
「一からやり直しだネー、ご愁傷様、ヒヒッ!」
そこでまたヒューマンの怒号が響き、フェアリーが謝り倒していた。
-クラッズPT:女性陣-
二人は罵り合っていた時に(主にクラッズが)散らかした物を片付けながら会話する。
「あの人達、何処にいるかなー?」
「食堂じゃないか?」
「よーし、食堂へ行こー!」
片付ける手を止め、クラッズが扉の方へと走っていきそのまま蹴り飛ばす。
扉は凄い音をたてながら外れんばかりに勢いよく開いた。
「お、おい勘弁してくれ。ここは私の寮であってリーダー殿の寮じゃ」
「細かいことは気にしない!さぁ、出発ー!」
まだまだ散らかっている部屋、若干壊れている扉を見て少し涙目になりながらも先へ行ってしまうクラッズの後を追いかけた。
145:White Day's 4/9
10/03/14 01:18:24 kaS6d/VL
-フェアリーPT:女性陣-
「やっぱり……毎日の日課が潰れるとやることがありませんわね」
そう言いながらもパフェを食べる手を止めないエルフ。
「エルフは食べ過ぎだよー。食堂のパフェ、制覇しちゃうんじゃない?」
「既に二十六種類目ですからねぇ……」
「う、五月蝿いですわね!量が少ないからですわ!」
エルフにそのように言われ、フェルパーは並べられたパフェの容器を見る。
「これ……結構大きいんじゃない?」
「う……そ、そうですわね……。でもわたくしは食べても太らない体質だから食べてるのですわ!」
「いくら太らないからといって食べ過ぎは毒ですよ」
セレスティアに窘められ、エルフはそっぽを向いた。
「魔法使いは頭の回転を良くするために甘いものが必要でしてよ!……だからあと四種類だけ、ね?」
セレスティアに顔を向け直し、片目を瞑りお願いする。
普段はお願いはしない彼女だが、そうしまで食べたい位パフェが好きなのだろう。
「しょうがないですねぇ……あと四種類だけですよ」
やり取りの一部始終を見て、フェルパーがのほほんとした顔で笑う。
「何か親子みたいだねー。セレスティアがお母さんで、エルフが娘?」
「そうですか?」
「確かに……セレスティアは良いお母さんになれそうですわね」
「エルフさんまでからかわないで下さい!」
言葉こそは怒っていたが、セレスティアは満更でもない顔をしていた。
「……どうしたのかな、あの人達。三回目だよ、ここ通るの」
フェルパーが人を視線で追う。
視線の先にはクラッズどディアボロスの女の子がいた。
「え?あぁ、あの人達、まだ居たんですわね。大方誰かと待ち合わせかしらね?」
「手に小さな袋も持ってますしね……。あれ、探し人が居なかったのですかね?」
三人は諦めた表情をした女の子達が食堂から出ていくのを見届けた。
146:White Day's 5/9
10/03/14 01:18:46 kaS6d/VL
-クラッズPT:女性陣-
「誰かなー、食堂にいるって言ったのは?」
食堂から出た後、クラッズはディアボロスに抱き着き頭をグリグリしていた。
「痛い痛い、私は『食堂じゃないか』と言っただけで、食堂にいるとは一言も」
「五月蝿いドM!少しは抵抗したらどうだ!」
「えぇ!?そこ怒るとこ!?」
クラッズに怒られ、ようやく抵抗し始めるがクラッズが離れる気配はない。
「そんなんじゃわしは離れんぞぉー!」
変なところで変な力を発揮してしまったクラッズにディアボロスは迷惑極まりないといった表情をする。
不意にクラッズの押さえ付ける手が緩んだ為、ディアボロスは慌てて抜け出した。
「スンスン……何か良い匂いがする。こっちかな?」
「そうか?私には何も匂いなどしないが……」
「レンジャー学科舐めるな!」
「関係ないだろう!」
クラッズが匂いのする(と思われる)方へとドンドン進んで行ってしまうので、ディアボロスはついて行かざるをえなかった。
-フェアリーPT:男性陣-
「出来た……」
「出来たんだねぇ……」
「良い匂いだネー」
フェアリー達はこんがり焼き上がったクッキーを見てやり遂げた表情を浮かべていた(クラッズ以外)。
「後はこのクッキーを袋に詰めて……」
「リボンを巻いて……」
ヒューマンが手際よくクッキーを袋に詰め、フェアリーがそれにリボンを巻いていく。
「小生にも一袋わけて欲しいナー?」
「例の如く却下だ」
ヒューマンとクラッズがまた言い合いをしていたが、フェアリーは違うことを考えていた。
(フェルパー……喜んでくれるかな?)
思わずにやけ顔になるフェアリー。
リボンを巻き終え、ヒューマンに三個、自分で三個持ち、調理室から出た時に不意に声をかけられた。
「あーっ、見つけたーっ!」
「いたーっ!?」
147:White Day's 6/9
10/03/14 01:19:08 kaS6d/VL
-フェアリー・クラッズPT:男性・女性陣-
不意に叫ばれたため、ヒューマンとフェアリーが驚いたよう目の前のクラッズとディアボロスを見る。
「どうだ、わしの嗅覚は!」
「まさか……本当にいるとは」
クラッズとディアボロスが何やら会話をしているが、ヒューマンがお構いなしに話し掛ける。
「み、見つけたって……君達、俺達を探してたのかい?」
「はい!その……バレンタインの時にどこにもいなくて渡せなかったので、今日チョコレートクッキーを持ってきました!」
バレンタインの時に見つけられなかったのはそれもそのはず、夜遅くまで探索をしてその後はフェアリーの寮に集まっていたからである。
「チョコレートクッキーって、私のと被って……」
「早い者勝ちでしょ?」
「えー……」
「まぁ、そんなわけで……受け取ってください!」
クラッズが小袋を前に差し出す。
だが……
「え、自分?」
「はい!」
クラッズがチョコレートクッキーをあげたのはフェアリーだった。
ヒューマンは自分に来ると思ってたのか何ともいえない表情をしている。
「え、え?あ……有難う」
「そして私のために用意してくれたと思われるクッキーを貰って行きますね!」
そう言うや、 クラッズはフェアリーの持っていた小袋を一つ引ったくり、何やら叫びながら逃げて行った。
「あっ、待って!こ、これは私からのバレンタインプレゼントです……だ!」
ディアボロスはヒューマンに小袋を押し付けるように渡すと、急いでクラッズを追いかけに行ってしまった。
二人はとても速いスピードですぐに見えなくなってしまった。
148:White Day's 7/9
10/03/14 01:19:28 kaS6d/VL
-フェアリーPT:男性陣-
「ディアボロスか……。苦手な種族に好かれちまったな、俺も」
「恋愛に種族は関係ないヨー?」
「いや、わかってる……と?フェアリー、どうした?」
フェアリーは何かボーゼンと立ち尽くしていた。
「いや、フェルパーへのメッセージカードを入れたのを持って行かれて……」
「あー……それはそれは。立ち尽くしたくなるわな」
「逆にあのクラッズの子が可哀相だヨー、今頃告白したは良いけど実は相手に彼女いましたー、なんてサー」
クラッズがヒヒヒと笑い、フェアリーを見る。
「ん、んー……何か悪いことしたなー……」
「まぁ、持ってかれたからには仕方ねぇよ。さ、エルフ達と合流しようぜ」
ヒューマンがフェアリーの背中を押し、エルフ達を探しに行った。
149:White Day's 8/9
10/03/14 01:19:52 kaS6d/VL
-フェアリーPT-
「おーい!なんだ、食堂にいたのか」
「うわぁ……なにこれ、パフェの容器?」
食堂へ真っ先に向かい見事にビンゴした。
そしてエルフ達に近付き、フェアリーがまずこの状況の感想を述べる。
「あら、探索を休んでまで今までどこにいましたの?」
「まずこのパフェは誰が食べたのか教えてくれ」
「エルフだよー。今三十種類食べ終わ」
「フェルパー、余計なことを言わないで頂戴!」
「モゴモゴ!」
フェアリーとセレスティアが苦笑いを浮かべる。
そして思い出したようにフェアリーが小袋を二つ取り出しエルフとセレスティアに渡した。
「はい、バレンタインのお返しだよ」
「まぁ、良いんですか?」
セレスティアがニコリと微笑み小袋を受け取る。
「あら……別にお返しなんて大丈夫でしたのに」
エルフは口ではそんなことを言いながら、嬉しそうな顔をしていた。
「俺も用意してるから受け取ってくれ」
「小生は用意してないから悪しからずだヨー」
ヒューマンがエルフ達に小袋を配る。
「わざわざ有難うございます」
セレスティアはやはりニコリと微笑みながらヒューマンを見る。
「意外ですわね、貴方のお返しは期待してませんでしたのに」
「フェアリーのは期待して俺のは期待してなかったのかよ」
「まぁ受け取ってあげますわ」
冷やかしながらも嬉しそうな顔をするエルフ。
そしてフェルパーが嬉しそうな声をあげる。
「わーい、ありがとう!甘いかなー、食べるのが勿体ないよー!」
口の端から涎を少し垂らしながら幸せそうな顔をする。
「フェアリーはフェルパーの分を用意してませんの?」
「あ」
フェアリーはエルフに言われ、思い出したようにこれまでのいきさつを話した。
「……という訳なんだ。」
「うにゅう……」
「だから自分はこれで許してもらおうと思うんだ」
そう言うとフェアリーは周りを見渡し、パーティー意外に誰も見てないことを確認するとそっとフェルパーの唇に自分の唇を重ねた。
「はいはい、お腹一杯ですわ」
「だな」
「ですね」
「だネー」「そんな……しょうがないよ」
「……僕は積極的になってくれて嬉しいよ」
フェルパーが猫独特の顔でニッコリと笑うと、フェアリーの手を握る。
フェルパーの顔はほのかに赤くなっていた。
フェアリーもニコリと笑うとフェルパーの手を握り返した。
150:White Day's 9/9
10/03/14 01:20:18 kaS6d/VL
-クラッズPT-
「ただいまー」
「……ただいま」
「よぅ、ダメチビとドMか。お帰り」
「……で?何でバハムーンとドワーフはパンツ一枚なの?」
「麻雀やってたら、払うものがなくなってだな……」
「うぃ、同じく……」
「今日はついてるお!」
「確かに、フェアリーはツモ率が高いね」
不審者を見るような目でバハムーンとドワーフを見るクラッズ、言い訳をするバハムーンとドワーフ、ホクホク顔のフェアリー。
ノームは相変わらずのポーカーフェイスだった。
「そ、そんなことよりお前等はどうだったんだ?」
「ふっふー、バッチリ!ちゃんとクッキーも貰ってきたし、メッセージカードも入ってる!」
「ほう、メッセージカードまで?」
「というよりリーダー殿、あれははたして貰ったと……」
「ドMはつべこべ言わない!それではメッセージカードを読み上げます!」
リボンをほどき、袋の中からメッセージカードのみを取り出し読み上げはじめる。
-フェルパーへ
バレンタインから一ヶ月たち、今日はホワイトデーですね。
もうパーティーを組んでから半年たったのに、君と出会ったことを昨日のことのように鮮明に思い出せます。
こんな頼りない自分だけど好きになってくれてありがとう。運命を信じるなら君との出会いは運命と信じます。
フェアリー-
「……」
メッセージカードを読み終わり、クラッズが口をあんぐりと開けたままになる。
「り、リーダー殿」
「……」
「ご愁傷様、だね」
「……」
クラッズの行った行為が、フェアリーとフェルパーの愛を深めたのかは定かではない。
むしろ、どちらでも愛は深まっていただろう。
しかしフェアリーを積極的にしたぶん、クラッズの行為は良い方向へ転がったのだろう。
クラッズの恋は終わってしまったが、ディアボロスの恋はどうなったのか?
それもまた別のお話。
151:二番煎じ
10/03/14 01:28:42 kaS6d/VL
有難うございます、二番煎じです。
バレンタインでは充実しなかったので今日も充実しなそうです。
皆様は楽しい一日を過ごしてください。
今回は二パーティー同時進行してみましたが扱い切れずグダグダに……
複数パーティーを扱い切れる職人さんを私は心より尊敬します。
ではでは、今日はこれにて。
体が動かない……
152:>>34 ホワイトデー1/3
10/03/18 11:22:55 vsa5PVFP
ホワイトデー…それはバレンタインデーが貰った男性が女性に送り返す日である。
男によっては一番大変な日でもある。ホワイトデーの朝…
「おはよーさん」
「おはよう」
「おはよー」
まあいつものと変わらない日常ではあるが…
「そういや今日はホワイトデーだな」
「ん?そういやそうやったな」
「フェル男。お前はどうするんだ?確かチョコは貰っているはずだろ」
「ああ、ちゃんと用意してあるで」
「ヒュム子とバハ子とノム子…ん?1つ多くないか?」
「ああ、それはセレ子はんの分や」
「セレ子って…ヒュム男のパーティーの女子だな。貰っていたのか」
「まあせやけどな…でもあん時のセレ子はん様子おかしかったしな…」
「?…どういう事だ?」
「ああ、実はな…」
1ヶ月前~バレンタインデー夕方~
「あの…フェル男さん」
フェル男に話しかけてきたセレスティアの女子のセレ子(職業:戦士)
「ん?セレ子はんか、何の用や?」
「実は…ちょっと作りすぎてしまいまして…受け取ってもらえませんか?」
「え!?わいにくれるんでっか!?」
「は、はい…良かったら是非…(小声で)本当はフェル男さんのために作った手作り本命チョコ…私からの気持ちです…」
「ん?なんかゆうたか?」
「い、いいえ!何でもありません!」
「セレ子はん…顔真っ赤やで?風邪でもひいたんとちゃうんか?」
そういってフェル男はセレ子のおでこをさわる。
「!!」(顔真っ赤&爆発)
「セレ子はん?」
「い、いいえ!フェル男さん!!私は大丈夫です!熱はありませんから!!」
「なんであわててるんや?」
「そ、それより、お礼はフェル男さんの特製クッキーでいいです!」
「へ?わいの特製クッキー?そんなんでええんでっか?」
「それでいいです!それじゃ失礼します!!」
そういって、大慌てでセレ子は行った
「…セレ子はん?」
「というわけや」
「(フェル男もちゃっかり本命貰ってるじゃないか…)まあ…その何だ、彼女の気持ちは早く答えてやった方がいいぞ」
「は?なんでや?」
「それはだな…」
「シクシク…」
今の声にフェル男とエル男はドワ男のいる方向に向けた、何故か隅っこだが…
「さっきから聞いてりゃ…甘ったるい事言って…俺は羨ましく…羨ましくないからなぁ!!」
「ふっ…ドワ男君、どうやら君と僕は同じ存在…」
突然現れたノームの男、名前はノム男(職業:格闘家)
「ふざけんなぁ!!お前のようなバトルマニアに一緒にするな!!」
「はっ…どこが違う?何故違う…?」
「あいっかわらずむかつく言い方だぜ!!今ここで叩き潰す!!」
「はたして狂戦士の君に僕のスピードについてこれるかな…?」
「うっせえ!勝負だ!!」
「のぞむところ!!」
そう言って、ドワ男VSノム男のバトルが切り落とされた!!
「ほっといたほうがええな…」
「教室に行こう…」
フェル男とエル男はドワ男とノム男を置いて教室へ向かった…
153:>>34 ホワイトデー2/3
10/03/18 11:23:57 vsa5PVFP
-教室
「よ、おはよーさん」
「おはよう」
フェル男とエル男は教室に入って3人の女子に挨拶した。
「おはようさん2人とも」
「おはよう、エル男君、フェル男君」
「おはようございます…」
挨拶を返した女子軍。順番にバハ子(職業:竜騎士)ヒュム子(職業:人形遣い)ノム子(職業:レンジャー)
「そういえば…ドワ男さんがおられませんが…」
「ドワ男ならノム男と勝負の最中や」
「またかい、あの2人は」
「本当にバトルが好きなんだね2人とも」
「いや、そういうわけじゃないが…」
「そういえばフェル男さん…今日はホワイトデー…」
「わかってるわい。お前らの分のバレンタインのお礼をちゃんと持ってきてるで」
「わざわざ悪いね、急がせるような事して」
「ありがとうございます…」
「フェル男君のクッキー美味しいし、仕方ないよ、それよりエル男君今日は…」
「ああ、わかっているよ」
エル男はそういうと、ヒュム子は嬉しそうに微笑んだ。
「ん?なんや2人ともどっかいくんか?」
「ああ、まあな」
「デートだよ」
「デートですか…羨ましいです」
「そういやフェル男、あんた彼女いないのかい」
「ん?彼女なんておるわけないやろ」
「そうなんですか…?もてそうな感じをしていますが…」
「そういえばクッキーの袋が1つ多いのはなんでだい?」
「ああ、それはヒュム男のパーティーのセレ子はんの分や」
「セレ子さん…ふふ…」
「セレ子ねえ…フェル男…あんたまんざらじゃないのかい?」
「お前らもエル男のような事言うなあ」
フェル男がそういって、辺りをみわたしたら悩んでいるヒュム男パーティー一同がいた
「なんやヒュム男、悩んだような顔して」
「ん?フェル男か…実は俺のパーティーの1人が風邪を引いてな…」
そういえば、セレ子がいないのである。
「セレ子さんが心配なんだけど、今日僕達は探索に出なくちゃならなくて…」
「それで、セレ子の穴とセレ子を見てくれる奴を探してて悩んでいるんだ?」
「セレ子はんが…やっぱ熱があったんやなあん時」
「ん?熱があったって…俺のチョコ渡した時は普通だったぞ?」
「へ?」
「そうだフェル男さん、フェル男さんのパーティーで空いてる人いる?」
「今日はエル男とヒュム子はデートで無理やし、ドワ男は手伝う気ならんやろうしな…」
「あと、フェル男さんも無理…」
「は!?ノム子、なんでわいも無理に入ってるんや!?」
「何故なら…フェル男さんは、セレ子さんを見る役だから…」
「お?フェル男、セレ子を見ててくれるのか?わりぃなー」
「なんでやねん!?わいも空いてるで!!」
「(無視)なので、あいてるのは私か…バハ子さんだけです…」
「ノム子とバハ子か…今日は仕掛けが多いしノム子に頼むかな」
「はい…わかりました…よろしくお願いします…」
「だからわいは…」
「いいじゃないか、どの道渡さなきゃならないんだろう?バレンタインのお礼を」
「そらそやけど…」
ノム子によりフェル男は強制的にセレ子の面倒を見ることになった。
154:>>34 ホワイトデー3/3
10/03/18 11:24:55 vsa5PVFP
―自由時間
「はぁ…まさかわいがセレ子はんの面倒見るなんてな・・・まどちみち渡さなきゃならんけどな」
保健室や食堂などで体温計や氷(詰め替え用)などを持ちながらセレ子の部屋に向かうフェル男の姿があった
「ノム子も変な事ゆうたしな…」
―自由時間前
「フェル男さん、頑張ってください…」
「何を頑張るんや!?」
「まあ、そんな事ゆうててもしゃーないか」
そうこういってるうちにセレ子の部屋の前まで来ていた。
トントン…ドアをたたいた
「どうぞ…」
ドアの向こうからセレ子の声が聞こえた
「はいらせてもらうで」
ドアを開けると寝込んでいるセレ子がいた。
「あ、フェル男さん…お見舞いに来てくれたんですか…?」
起き上がろうとするが
「あかんでセレ子はん!ちゃんと寝てなきゃ!」
「すみません…フェル男さんにも用事があったでしょう…?」
「暇やったし、別にええで」
「あの…それでヒュム男さんの探索は中止になったんですか?」
「いや、わいのとこのノム子を代理で探索に行ったで」
「そうですか…私だけこんな姿に…」
「いや、風邪はちゃんと治さんなあかんで…バレンタインのときも真っ赤やったし」
「いえ、熱はあったわけじゃありません…あれは…」
「あれは?」
「いいえ、気にしないでください…」
「そっか…セレ子はん、一応バレンタインのお礼を持ってきたんやけど…」
「あの…あの時の私のチョコ…美味しかったですか?」
「おう、美味かったで、義理の中では」
「義理…ですか…」
そういってセレ子の顔を伏せてしまう
「(小声)私のフェル男さんの想いはまだ足りないでしょうか…もっと頑張らなくちゃ…」
「ん?セレ子はんなんかゆうたか?」
セレ子は顔を出しながら
「いいえ、なんでもありません…」
「せやせや、はいわいのクッキー。元気になってから食いや」
「ありがとうございます…(小声)そして、フェル男さん、大好きです…」
「ん…?なんか聞こえたような…」
「気のせいです…」
会話のやり取りも恋への第1歩…フェル男がセレ子はフェル男が好きだと気付くのは、
恋の到来を告げるまで延々と流れる、練習曲(エチュード)の終焉より、先か…後か…。
―同時刻、ヒュム男パーティー
「しまったなー…バハ子連れてくるんだったな…爆裂拳使えねー」
「でも、罠感知はノム子さんはピカイチですわよ」
「本当だよ、ヒュム男お兄ちゃんは罠でメデューサで私たちを石にさせたりとか」
「それゆえその罠に自分は避けたりとかね…」
「頼りなくて悪かったな!それと避けて悪かったな!!」
「本当にクラ子ちゃん達が石になった時大変だったんだよ…重いから…」
「私の所はそんなにありません…あともしもの時の妖精の粉は持っていたほうがいいですよ…」
155:名無しさん@ピンキー
10/03/18 11:28:25 vsa5PVFP
どうも>>34の者です。いい加減名前があったほうがいいかな…?
遅くなりましたが、ホワイトデーSS投下です。
ホワイトデーの結果は、バレンタインの時と同じ結果…
しかし、フェルパー♂Xセレスティア♀はめずらしいかな…?
アイドルより、フェルパー♂Xセレスティア♀になる予感…
156:名無しさん@ピンキー
10/03/19 14:37:29 ebyJNgwo
ないほうがいいだろ。
157:名無しさん@ピンキー
10/03/21 22:00:00 FZQsWH2S
あってもいいとは思うけど、結局は本人次第じゃないか?
どっちも一長一短だし、自分でいいと思える方にしてほしいな
158:二番煎じ
10/03/23 00:38:46 OIvHrFSO
今晩は、二番煎じです。
最近活気が薄いですね…
自分が投下すれば無言になるように感じてきましたので、少し自重します。
今回はフェアリーPTの小ネタです。
ではどうぞ。
159:フェアリーのお話、エルフの恋話
10/03/23 00:40:15 OIvHrFSO
-フェアリー寮-
ヒューマンがフェアリーのことをジロジロと見つめ、クラッズに何かを耳打ちする。
耳打ちされたクラッズはというと、ヒューマンのようにフェアリーを見つめ、何かを発見したような顔になる。
「ん……二人とも、そんなに自分を見てどうしたの?」
「そういえばサー……」
「フェアリーって他の同種族より大きいよな?」
身長も俺くらい(170前後、本人談)あるし、と言いながらヒューマンはおにぎりを頬張る。
それを聞き、フェアリーはポリポリと頭をかく。
「うん……そうなんだよね。生まれた時は同種族と同じ位だったんだけど……成長がヒューマン並だって、親にも気味悪がられたよ」
飛ぶことにはなんら問題もないけどね、とフェアリーは笑う。
「へぇ……」
「そういえば、ジョルジオ先生も大きいよネー……」
あー、とフェアリーとヒューマンが頷く。
「まぁ、色んな人がいるからな!フェアリーはフェアリーさ!」
「そうそう、気にすることないヨー」
「二人共……」
この後、フェアリーが友情を噛み締めながら泣いたことは言うまでもない。
-その頃のジョルジオ先生-
「ばっくしゃい!……誰かが噂してるのかしら?」
-エルフ寮-
「そういえばエルフさん……もうアレは大丈夫なのですか?」
「アレ?」
「はい、バレンタインの時は照れ隠しのようにしてたのに、先日のホワイトデーの時は何ともなかったので……」
「だからアレってなんですの?」
イライラしてきているエルフを見てフェルパーには聞こえないように耳打ちする。
「ほら……エルフさん、フェアリーさんに片想いだったじゃないですか」
「なっ!なんで知ってますの!?」
「エルフさんは態度でバレバレですよ?」
耳まで真っ赤にし冷静さを失うエルフ。
セレスティアはというと、なぜかニコニコしていた。
「にゃぁ?」
フェルパーが不思議そうな表情をしてエルフとセレスティアを見る。
エルフは冷静さを取り戻したのか、フェルパーに悟られないようにセレスティアに耳打ちをする。
「吹っ切れましたわ。他の女性が好きな殿方を盗るなんて出来ませんし、振り向かせることだって……」
それを聞くと今度はセレスティアがエルフに耳打ちをする。
「ジョルジオ先生にメイクしてもらってはどうですか?」
「そういう問題ではありませんわ!」
寮にエルフの怒号が鳴り響いた。
-その頃のジョルジオ先生-
「ぃえっくしょい!あー……風邪かしらん?」
160:二番煎じ
10/03/23 00:42:39 OIvHrFSO
小ネタが書きたくなったので投下しました。
やめて、首飛ばすのだけは勘弁して!
ではでは、昔みたいな活気が戻る事を祈ります…
161:名無しさん@ピンキー
10/03/23 18:54:18 nZyeVQHN
乙乙
GJ先生はほんといい脇役だよなw
てか単に過疎なだけだから、そこまで気にすることもないと思うぞ
162:名無しさん@ピンキー
10/03/26 17:15:47 mgt9a78F
それは困る
むしろじゃんじゃん投下してくれ
163:二番煎じ
10/04/02 00:42:10 6+YHaVEw
ご無沙汰しております、二番煎じです。
エイプリルフールネタは投下が間に合わずに過ぎたので消しました。ので、エイプリルフールネタではありません。
初のエロ有りです。少ないです。
では、どうぞ。
164:森での出来事、アイツの秘密 1/9
10/04/02 00:43:12 6+YHaVEw
フェアリー一行は魔女の森へ来ていた。
既に初めの森や剣士の山道では物足りなくなっていたからだ。
「ンー……疲れたネー。目眩がしそうだヨー」
クラッズが目を擦りながら溜息を漏らす。
エルフがクラッズのその様子を見て、同じく口を開く。
「クラッズもですのね……。フェアリーが道を盛大に間違えたおかげで、ワープをし過ぎたからですわ!」
エルフがフェアリーをビシッと指差し、怒号を上げる。
フェアリーはというと、申し訳なさそうに苦笑いを浮かべていた。
「まぁまぁ、マップは大分埋まったんだから……喧嘩しないでー?ほらっ、転移札もあるし、今日は学園に戻ろうよ?」
フェルパーが自分のポーチから転移札を一枚取り出す。
ヒューマンがそれを受け取り、皆に向かって口を開く。
「フェルパーの提案もあるし、何より雨も降ってきた。疲労も溜まってるだろうし、一旦帰ろうか?」
「えっ?あら、本当ですわ……」
「うえー、なんか僕も湿ってきたよ……」
エルフが雨を確認するとフードを深く被る。
フェルパーは顔をゴシゴシと拭っていた。
「じゃあ使うぞ。俺の周りに集まってくれ」
ヒューマンが転移札を掲げると光に包まれ、あっという間に魔法球の前へとワープしていた。
「やっぱりワープは速いなぁ……。さ、帰ろうか?」
フェアリーがいつものようにワープの感想を述べた後全員が魔法球に手を触れ、またもやあっという間に学園の校門前へとワープしていた。
「じゃあ一旦解散!雨に濡れたから風邪を引かないようにね?」
「この服気に入ってましたのに……。乾かしてきますわ」
「私は翼のお手入れをしてきますね」
フェアリーが解散宣言をした後、皆が思い思いの事をするべく散っていった。
「フェルパーは行かなくて良いのかい?」
「僕?これから寮に行ってシャワーを浴びるつもりだよー」
「覗くなよ?」
「覗かないよ!」
「フェアリーじゃなくて……コイツだよ」
「小生はより人間らしく人形を扱うための研究を……」
それからクラッズにムッツリスケベや変態などの罵声を浴びせていると、目の前に一人のヒューマンが現れた。
他の冒険者には目もくれず、明らかに自分達を待っている様子だった。
「あの……ちょっと、良いんだな?」
「うわっ、デ……」
「駄目だよヒューマン!せめてメタボって言わなきゃ……」
「顔が油でテッカテカだネー……」
165:森での出来事、アイツの秘密 2/9
10/04/02 00:43:58 6+YHaVEw
フェアリー達が小声でヒソヒソと話しているときにも、メタボヒューマンはフェルパーを見ながら息を荒げている。
そんなメタボヒューマンを見ながらフェルパーが口を開いた。
「え?僕……です、か?」
フェルパーは自分を指を向けると、メタボヒューマンはテンションが上がったように鼻の穴を広げる。
「そっ、そそそ!クゥッ、ボクっ娘良いんだな!」
「しかもあれか……ちょっとイタい奴か……」
「イタいと言うか、ヤバいというか……」
「小生も初めて見たヨー……」
少し離れた所でフェアリー達がコソコソと話している内にフェルパー達の話も進んでいく。
「というわけで、魔女の森に来てほしいんだな」
「ここじゃ、駄目……です、か?」
「仲間を待たせてるんだなー……。人見知り萌え!」
さすがに困った様子でフェルパーがフェアリーをちらりと見る。
フェアリーはそれに気付き、フェルパーへと駆け寄った。
「どうしたんだい?」
「僕と話したい人がいるから、魔女の森へ来てくれって言われて……」
「んー……嫌なら断っても良いんだよ?」
「仲間を待たせてるって……」
「えー……それじゃあ僕も行っていいなら」
良いよ、と言おうとしたところで話を聞いていたメタボヒューマンが叫んだ。
「ちょっと待てい、そこのフェアリー!ついて来るのは許さんが、ジェラートタウンまでなら許してやるんだな!」
ビッシィと指を真っ直ぐに指されるフェアリー。
その指を自分の口元に戻し、メタボヒューマンはニヤリと笑う。
「ただし、お前だけなんだな。他の奴らは認めーん!」
フンフンと鼻息を荒げ、いやらしい笑みに変わっていく。
さすがにフェルパーも気持ち悪く思ったのか、フェアリーの後ろに隠れる。
が、メタボヒューマンが先に行ってしまおうとしていたので諦めて後をついて行った。
「……よし、行ってこいフェアリー。あのメタボ野郎に制裁を与えてやるんだ」
あんなヤツと同種だなんて……と呟き、グッと拳を握ってフェアリーに見せる。
「いや、まだ制裁を与えるって決めた訳じゃ……。それに何もやらないだろうしさ?」
「まぁ、行ってきなヨー。小生は来いって言われても行かないだろうしネー?」
「む……まぁ、何もないと信じて俺達は待ってるからな。ただし、三十分たってもフェルパーが帰ってこなかったら突撃しろ」
「了解だよ、ヒューマン」
フェアリーはヒューマンと同じく拳をグッと握り、ヒューマンに見せる。
166:森での出来事、アイツの秘密 3/9
10/04/02 00:44:57 6+YHaVEw
ヒューマンがニッと笑ってフェアリーの肩を叩き、フェアリーも先に行ってしまったフェルパー達を追いかけた。
「さて、俺も雨に濡れたバッカスの剣とか防具の手入れをしてくるか」
「……小生は初めの森で昼寝でもしてくるヨー」
「初めの森で?まあ、服も乾くからな。気を付けろよ」
クラッズは人形を頷かせ分かったの合図を送り、初めの森へと向かって行った。
「―フロトル!」
詠唱が終わったメタボヒューマンは声高らかに叫ぶ。
初めから浮遊しているフェアリーを除くフェルパーとヒューマンが地面から軽く浮いた。
「我等が大事なお姫様に傷は付けれないんだなー」
「……にゃあ」
明らかに不快そうな顔を浮かべるフェルパーに、フェアリーがボソリと声をかける。
「大丈夫?」
「僕、あの人は生理的に受け付けないよー……」
ただでさえ人見知りな上、相手の気持ち悪い外見に性格と、フェルパーがドン引きする条件は万全だった。
「大丈夫、自分もさ。」
ボソボソと会話をしながらフェアリーはニコッと笑う。
フェルパーの不快そうな顔が解れかけたときメタボヒューマンは叫んだ。
「ジェラートタウンに着いたから、そこのフェアリーには退場を願うんだな!」
「宿を取ってるから。待ってるよ」
フェアリーはそう言うと、フェルパーに手を振り宿へ向かって行った。
「ささ、魔女の森へ行くんだな。目印を付けて進んだ道で仲間を待たせてるんだなー」
メタボヒューマンはフェルパーの背をぐいぐい押し、魔女の森へと連れていった。
「目印を付けて進んだ道か……。先回りして様子を見ようか」
そこに誰かが居たことはまだ誰も知らない―
メタボヒューマンは地図を片手に、誰もが惑わされる樹海をスイスイと進んでいく。
と、そこで雨がまた降ってきた。
「ん?雨なんだな。好都……いや急ぐんだな」
メタボヒューマンがフェルパーの手を掴み、走り出す。
フェルパーが不快そうな顔を浮かべているのを知るはずもなく、例の目印を付けて進んだ道へと移動する。
「いたいた。連れて来たんだなぁー!」
メタボヒューマンは仲間と思わしきバハムーンに向かって走り出す。
バハムーンはこれまたバンダナに眼鏡、そして男なのに制服は男物ではなく女物を着ている異様な風貌で、フェルパーは尻尾を思わず逆立ててしまった。
「おい、お前の言った通り……だな!」
「我が……を間違うはずがないんだな、隊長殿!」
遠くにはいたが、一部の会話が聞こえてきた。
167:森での出来事、アイツの秘密 4/9
10/04/02 00:45:47 6+YHaVEw
フェルパーは近寄りたくない気持ちを堪え、半ベソをかきながらのたのたと近づいていく。
ある程度近づいたところで、先程の異様なバハムーンがフェルパーに声をかけた。
「君、かわいいね!よかったら我々の猫娘愛好パーティーに入らないかい?」
「へっ……?」
フェルパーは思わず素っ頓狂な声を上げる。
自分の事をなめ回すように見つめる気持ち悪い人に、そのような事を言われたのだ。
フェルパーはそのまま口を半分開けてバハムーンを見る。
「もちろん、君に選択権はない。なぜなら、我々は二年であり、断ったら実力行使するからだ!」
フェルパーはサアッと血の気が引く。
噂でエルフから聞いたことがあったのだ。
『フェルパーの種族を狙って猥褻な行為を繰り返す二年がいて、襲われた人は寮に篭るようになってしまった』、と。
「我々と一緒に来たまえ!楽しいことをしてやろう!」
バハムーンはフェルパーの腕をがっしりと掴む。
「に……にゃあ!嫌ぁ!」
嫌がるフェルパーはというと、必死の抵抗でバハムーンの顔を引っ掻く。
バハムーンは一瞬腕から手を離し、折らんばかりに力を込めてまた腕を掴む。
「てめぇ……しょうがねぇ、野郎共!コイツを黙らせろ!」
明らかに怒りの表情で近くの岩陰に向かって叫ぶが返事も何もない。
「おい、いつまでも隠れてないで出てこい!」
バハムーンがそう叫ぶと、ようやく一人出てくる。
が、出てきたと同時に倒れ込んでしまった。
そしてヒョッコリと岩にもたれかかり、人形を弄っている男が出てきた。
「あれ、ごめんネー?お仲間さんだったノー?」
「クラッズ!?」
フェルパーが驚きの表情をする。
そして、バハムーンが怒号を上げた。
「おい、テメェ!そいつに何した!?」
バハムーンの顔に焦りの表情が浮かぶ。
それを見てニヤリと笑い、他にいた三人を引っ張りだして放り投げる。
「ンー?ちょっと麻痺してもらっただけだヨー?」
そういうと、急にクラッズのおちゃらけた目が鋭くなりメタボヒューマンとバハムーンを見つめる。
するといきなりメタボヒューマンが叫びだした。
「うわっ、敵?隊長殿はどこに行ったんだな!?」
「なっ、敵!?敵なんかどこに……いた!見つけた!殺す!」
メタボヒューマンはパチンコをバハムーンに向かって構え、バハムーンはナックルをメタボヒューマンに向かって構えた。
「サー、行こうカー」
自由になったフェルパーの手を握り逃げようとするクラッズ。
168:森での出来事、アイツの秘密 5/9
10/04/02 00:46:30 6+YHaVEw
しかし、クラッズは背中に気配を感じ、次の瞬間魔法壁ごと吹き飛ばされた。
フェルパーは振り返ると怒りに満ちた表情のバハムーンと、その後ろに血まみれのメタボヒューマンが横たわっているのを一瞬で把握した。
「幻惑とは小癪な野郎だ……」
クラッズはムクリと起き上がり、バハムーンを睨みつける。
「混乱だったか。麻痺とか石化だったら良かったものの……」
フェルパーは訳が解らないといった様子でクラッズを見る。
そこでフェルパーはいきなり激しい恐怖を感じ、寒気や吐き気等に襲われ意識を失った。
クラッズが異変に気付きメタボヒューマンを見ると、メタボヒューマンはニヤリと笑い、そして力尽きた。
「彼、幅広い魔法を使うね。うちの剣豪気取りの馬鹿ヒューマンとは全く違う」
「当たり前だ。奴は受けれる学科は全て受けた。経験は浅いが幅広く対応出来るからなぁ?」
バハムーンはゴソゴソと鞄を漁り、一枚の札を取り出す。
そしてクラッズに向かってハッと笑い、フェルパーを抱えたまま光に包まれ消えてしまった。
(奴が行きそうな場所は分かっている……が、リーダーへの報告が先だな)
クラッズも鞄から帰還札を取り出し、魔女の森から脱出した。
クラッズは急いで宿に向かい、宿帳を確認した後にフェアリーがいる部屋へと向かった。
「フェアリー!フェルパーが……さらわれた!」
ノックもせずにいきなりドアを開けたため、フェアリーがビックリしてベッドから体を起こす。
「クラッズ!どうしてここに……ていうか、フェルパーが!?」
「詳しい説明は後!いる場所は分かってる!」
クラッズはフェアリーの手を引っつかみ走り出す。
宿から出る際にはフェアリーに金を支払わせ、魔女の森へと向かっていった。
「う……」
フェルパーが目を覚ました時には雨は降っておらず、ここが洞窟というのを理解するのには時間がかからなかった。
「よう、お目覚めかい?」
焚火を焚きながらバハムーンはフェルパーを見る。
フェルパーは言い知れぬ恐怖と寒さで歯をカチカチ鳴らせ、小刻みに震えていた。
「フィアズが抜けきってねぇのか。そっちの方が好都合だけどな」
バハムーンが横たわるフェルパーに手を伸ばし、無理矢理髪を引っ張り上体を起こさせる。
「ふんふん、今回は当たりだな。かわいい顔だし……」
「……!?」
バハムーンはおもむろにフェルパーの胸を掴む。
フェルパーは悲鳴を上げたつもりだったが、声が出なかった。
169:森での出来事、アイツの秘密 6/9
10/04/02 00:47:14 6+YHaVEw
「胸もでかい。いつぞやとは大違いだな」
乳房を揉みしだきながらバハムーンは笑う。
しかしフェルパーには握り潰されている感覚に近く、苦痛以外の何ものでしかなかった。
「制服が邪魔だな。まぁ、ゆっくり楽しませてくれよ?」
バハムーンは懐からダガーを取り出し制服を下着ごと切り裂いていく。
制服が切り裂かれていくにつれ、あらわになっていく乳房をバハムーンは何の躊躇いもなく握り潰す。
「にゃあっ、ああぁ……」
苦痛と恐怖で体をガタガタと震わせながら、痛みで顔をしかめるフェルパー。
しかしバハムーンが力を緩めることはなく、更に荒々しさを増す。
「さって、いつコイツを慰めて貰おうか?」
制服のスカートとパンツを脱ぎ捨て、バハムーンは既に大きくなっているモノをさする。
痛みで顔をしかめていたフェルパーの顔が絶望の物へと変わった。
「クラッズ、ここからどう進むんだい!?」
「そこを真っ直ぐ行って左!立ち止まらないで!」
フェアリーとクラッズは全速力で迷いし者が集う場所へと向かっていた。
クラッズの魔法壁を駆使しながら無理矢理駆け抜けているため、道中出て来た敵が後ろから迫っていた。
「そこの洞窟!早くー!」
「クラッズも急いでー!」
洞窟に入ったところで、フェアリーが固まった敵の群れにアクアガンを炸裂させ一掃する。
「ハァ……ハァ……で、次は?」
「此処から真っ直ぐに行って……ヒュー、それから道なりに行けば大丈夫だよ……ゲホッ」
よほど疲労していたのであろうフェアリーとクラッズはヒーラスで回復した後、また全速力で目的地へ急ぐ。
「まだ、まだ着かないの!?」
「そこ曲がって曲がって曲がって曲がればもう着くはずだから!」
クラッズに言われた通り、四回角を曲がるとそこには……
「にゃっ、い、ゃぁっ……!」
「もともと雨に濡れてたからなぁ、滑りが良いよ!」
パンッ、パンッと響く音。
パァンッ!と一際大きな音が響くと同時にバハムーンのモノからフェルパーの顔目掛け白濁が飛び出し、顔を白濁でドロドロにする。
「にゃああぁぁ!何、コレ……熱、い……!」
170:森での出来事、アイツの秘密 7/9
10/04/02 00:48:07 6+YHaVEw
「あ、あぁ……うっ、げっ!」
「あちゃ、遅かった……。じゃあ小生はここで見てるからお姫様を助けて来ると良いよ」
クラッズは外していたシルクハットを見てはいけないモノを見ないよう深く被り、フェアリーを横目で見る。
フェアリーはというと、その光景に耐え切れず嘔吐していた。
やがてフェアリーの顔は怒りの表情へと変わり、叫びだしていた。
「……サマ、貴様あぁぁ!」
フェアリーは素早く詠唱を開始し、詠唱が完成したと同時に叫ぶ。
「ダクネスガン!」
闇の球がバラバラに散らばりながらもバハムーンへと襲い掛かる。
バハムーンはフェアリーの怒号に気付き、フェルパーの乳房から自分のモノを引き抜き、ダクネスガンの範囲外へと逃げる。
「あっ、馬鹿……!」
恐怖で動けないフェルパーの前にクラッズがかろうじて魔法壁を張る。
魔法壁は数発のダクネスガンを飲み込み、そして砕け散った。
冷静になってきたフェアリーはフェルパーの元へと飛んで行き、リフィアをかける。
「あ、ありがとう……僕、怖かったよー!」
フェルパーはフェアリーに抱き着き、声を上げて泣いた。
フェアリーは優しくフェルパーの頭を撫で、声をかける。
「大丈夫?まずその汚らしいモノ、拭いてあげるよ」
汚らしいモノと言われ、バハムーンは顔を歪ませる。
そんなバハムーンなど気にも止めずにフェアリーはフェルパーを一旦離し、高級な布で顔、髪、乳房など、体中についた白濁を丁寧に拭う。
そしていつも着ている服を脱ぎフェルパーに渡す。
「大きさが合わないけどこれを着て、あっちにクラッズがいるからそっちで待ってて……」
やー、制服姿なんて久し振りだな、などと呟きながらフェルパーがクラッズの元へ行ったのを確認する。
そして転移札を取り出し、それを掲げるとフェアリーが光に包まれる。
「転移札……?ハッ!背後に回って襲撃なんて見え見えだ!」
スカートをはき直し、バハムーンは後ろを向く。
すると、先程見ていた方向から声が聞こえた。
「考えすぎ、さ」
バハムーンは背中にグッと手を押し当てられる。
急いで振り返ろうとするが、既に遅かった。
「―サンダガン」
冷たく放たれた言葉と同時にバハムーンの体に電流が流れる。
「アガ、ァガガガガッ、アアアァァ!」
「……終わった、ね。君は雨に濡れた、と言っていたから」
全身がピクピクと痙攣しているバハムーンに向かってニコリと笑うフェアリー。
171:森での出来事、アイツの秘密 8/9
10/04/02 00:48:56 6+YHaVEw
フェアリーはバハムーンを尻目に、クラッズの方へと飛んでいく。
「……!フェアリー、後ろっ!」
フェルパーが叫び、フェアリーが咄嗟に横へと避ける。
飛んできたダガーはフェアリーの右手の一部をえぐり、飛んでいった。
フェアリーが振り向くとバハムーンが不敵な笑みを浮かべていた。
「……!サンッ……」
サンダガンを詠唱する前にフェルパーが弾丸の如く飛び出していき、次の瞬間にはミスリルソードでバハムーンの首を跳ね飛ばしていた。
「フェル、ぱぁ?」
フェアリーが口をパクパクとしており、クラッズがやれやれといった表情をする。
フェルパーはミスリルソードを鞘に納め、フェアリーの方へと歩き出す。
「……ごめんなさい!僕があんな怪しい奴に付いていったばかりに、こんな目にあわせちゃって……」
「いや、その……いや大丈夫だよ。じゃなくて!フェルパー、あれ……」
フェアリーがバハムーンだった物を指差す。
「どうせ救助されるでショー?あんな変態、放っておいてもいいヨー」
クラッズがへらへら笑いながらフェアリーに近づく。
どうやらいつものクラッズに戻ったようだ。
「そう……だね。じゃあ、学園に戻ろうか!」
フェアリーはそう言うと帰還札を取り出し掲げた。
ジェラートタウンに帰還し、魔女の森の魔法球を使って学園へと戻る。
フェアリー達は心なしかほっとした顔になっていた。
「今度こそ僕はシャワーを浴びたいよ……。まだ髪もべとべとするし……」
「念入りに洗った方が良いよ。せっかくサラサラした綺麗な黒髪なのに……」
「はーい、フェアリーは保健室ネー」
フェアリーはクラッズに連れられ保健室へ、フェルパーは自分の寮へと戻っていった。
そして夜、食堂にはヒューマン、クラッズ、エルフ、セレスティア、フェルパーが揃っていた。
「よう!ようやく来たな。」
「遅いですわ!食事のリズムが狂えば生活のリズムも狂いますわよ!」
「まずお腹ペコペコだよー」
「右に同じく、だネー」
「では報告しながら食べましょうか」
「の前に……どうしたの?皆集まって……」
それからの話を聞くかぎりではクラッズが重要な話があるらしく集まったらしい。
「実は小生……」
「ねー、クラッズ。あの時に使った幻惑って何?」
「話を聞いてれば分かるヨー。実は小生、両親が暗殺専門の忍者だったんだよネー」
「「「「!?」」」」
「にゃ?」
172:森での出来事、アイツの秘密 9/9
10/04/02 00:49:43 6+YHaVEw
「幻惑も忍者の技の一つでネー。小さいときから忍者の基礎から技まで全部叩きこまれて」
遠い目でほうっと息を吐くクラッズ。
「い、今でもできるの?」
「今はあんまりだネー。情報収集、追跡はお手の物だヨー。」
「じゃあ、あの時に言った『ついて来いって言われても』と『初めの森で昼寝』は……」
「あのメタボ君が例の……フェルパーを性的な意味で襲う二年だって知ってたから、ネー。それと言われても言われなくても『追跡』はするつもりだったからネー」
クラッズの発言に場が凍り付く。
「さ、先に言えー!馬鹿クラッズ!」
「うるさいナー、剣豪気取りの馬鹿ヒューマン」
「な、なぜ忍者学科ではないのですか?」
セレスティアが気をきかせ話題を変える。
「忍者だと見たくない物を見ちゃうからネー、おちゃらけていられる人形使い学科を選んだんだヨー」
クラッズはヒヒヒと笑い、そしてフェアリーへと話題をふる。
「そういえばフェアリーって、怒ると恐いよネー?」
「そうなの?意外ですわね」
「んー、強いて言うなら、自分は大切なモノを守るときには抑制が効かないんだよね」
「僕って物なの?」
「人の意味の者かもしれないヨー?」
「オホン!で、次はフェルパーに質問だよ?フェルパーはどうして」
「フェアリー……右手大丈夫か?」
ヒューマンがフェアリーの右手の包帯を見て心配した表情を浮かべる。
「待って、言いたいことを忘れるから!えーと……そうだ!どうしてミスリルソードを持ってたんだい?」
「そ、それは……クラッズが……くれて……」
どんどんフェアリーから顔を背けていくフェルパー。
「クラッズ、どうやって……」
「麻痺させた奴が持ってたから貰ってきたんだヨー」
フェアリーが頭を押さえてやれやれといった表情で首を振る。
そこでヒューマンが話しかけてきた。
「フェアリー、右手……」
「え、あぁ、大丈夫だよ。自分は左利きだから」
「えぇ!?」
「意外ですわ……」
「それは馬鹿にしてるのかな?」
「気付かないものですね……」
「にゃあ」
「そんな、セレスティアにフェルパーまで……」
嫌な思い出も良い思い出に変えていこう。
きっと懐かしく思えるときが来るから……
そう心に決めたフェアリーとフェルパーだった。
後日、救助された猫娘愛好パーティーの方々は保健室で治療された後、退学処分を受けましたとさ。
173:二番煎じ
10/04/02 00:55:21 6+YHaVEw
ありがとうございます、二番煎じです。
まさかのバハムーンモノになってしまいました。
今だにフェルパーはフェアリーと関係を持たず。南無。
次からはもう少しエロを増やせるよう精進します。
では。
二番煎じは逃げ出した!
174:名無しさん@ピンキー
10/04/04 00:59:17 6YmXP+j7
乙です
猫娘愛好パーティー……作りたくなる気持ちはよくわかるw
175: ◆BEO9EFkUEQ
10/04/13 00:06:18 CEAvcnhM
こんばんは、新入生の時期の四月ですね。
新たに色々縛って始めた記録が、やたら劇的な展開になったので長編にしてみました。
願わくば活気の呼び水にでもなることを祈って。
もはや毎度のことながら長いので、お暇なときにでも読んでもらえれば幸いです。
176:流れ星の英雄~序章(1/5)~ ◆BEO9EFkUEQ
10/04/13 00:07:52 CEAvcnhM
死亡者数、11名。うち、ロスト3名。
この月は死亡者数、ロスト人数ともに少なく、とても平和な月だった。
新入生の訪れる季節。毎年のことながら、この時期は新入生のことが話題となる。この年は、新入生の当たり年だともっぱらの噂だった。
それというのも、イノベーター、あるいは特待生と呼ばれる生徒が、一挙に七人も入学したのだ。年に一人いるかいないかという逸材が、
これほど大量に来ることは珍しく、在学者にしろ教師陣にしろ、彼等にはそれなりの期待というものがあった。
だが程なく、彼等は再び違う話題で盛り上がることとなる。
必ず数人はいる、極端に素行の悪い生徒。もちろん、度が過ぎれば学校側としても何らかの処置は下し、そもそもが血の気の多い生徒の
多い学校である。新入生が粋がったところで、先輩連中の痛烈な洗礼を浴びるのが常である。しかし、この時ばかりは勝手が違った。
その、才能溢れるイノベーターと呼ばれる生徒のうち、三人が恐ろしいほどの問題児だったのだ。
冒険者養成学校という、一般の学校とはまた違った教育を施す場所とはいえ、やはり学校には違いない。そのため、ここにもいくつかの
委員会が設置され、多くの生徒はその中のいずれかに所属している。
そのうちの一つ、風紀委員。そこに与えられた部屋の中で、一人の女子生徒が頭を抱えていた。彼女の前にある机には、いくつかの
書類が重なっている。
「……まったく、本当に…!今回ばかりは、手を焼きますわね…!」
エルフらしい端正な顔を歪め、彼女はそう独りごちる。いくつかの書類を手に取り、パラパラとめくった後、再び頭を抱える。
「新年度早々、こんな問題を……何を考えているんですの、まったく…!」
いくら読み返したところで、問題がなくなるわけでもない。それでも、彼女は書類をめくり、ぶつぶつと独り言を呟いていた。
その時、コンコンと控えめなノックの音が響いた。
「どうぞ、開いてますわ」
「失礼しますよ、委員長」
現れたのは、柔らかな笑みを湛えるセレスティアだった。その腕には新たな書類と、湯気を立てるカップがある。
「紅茶でもいかがですか?働き詰めでは、疲れますよ」
「……できれば、その紅茶だけ頂きたいところですわね」
「すみませんが、こちらも預かっていただかねばなりません」
大きな溜め息をつき、エルフは紅茶と書類を受け取る。
「加害者と被害者の資料です。目を通すのが面倒ならば、わたくしが説明いたしますが」
「しばらく書類は見たくないですわ」
「そうですか、わかりました。では…」
「その前に、ちょっとよろしくて?」
口を開きかけたセレスティアを遮り、エルフが口を開く。
「その堅苦しい喋り方、何とかなりませんの?」
「一応、業務中ですので」
苦笑いを浮かべつつ答えるセレスティアに、エルフはまた溜め息をついた。
「今は、わたくしとあなたの、二人しかいませんわ。どうか、いつもの口調に戻してくださらないかしら?」
その言葉に、セレスティアはどこか軽く見える笑みを浮かべた。
「……それも、そうですね。では、改めまして…」
「おーっと、委員長に副委員長、デートの最中お邪魔するよ」
突然、窓際から響いた声に、二人は驚いて振り返った。するとそこには、一人のフェアリーの男子が座っていた。フェアリーとはいえ、
大きさはクラッズと同程度であり、種族の中では比較的大柄な部類である。
177:流れ星の英雄~序章(2/5)~ ◆BEO9EFkUEQ
10/04/13 00:08:47 tozwUNnz
「フェアリー!あなた、また窓から入ってきたんですの!?」
「やれやれ、君も風紀委員だろう?風紀委員が風紀を破るって、どうなんだい?」
それまでと全く違う口調で、セレスティアが尋ねる。口調としては普通なのだが、それまでの言葉遣いと比較すると異様に軽く聞こえる。
「あ~、魔が差した。で、お二方。それは例の話かい?」
「大体、デートの最中って……わたくしと彼は、風紀委員としての話をしてたんですの!」
「あーそう。悪い悪い、魔が差したんだよ。で、例の話なんだね?風紀委員として、僕もその話を聞く権利があるよね?」
強引に話を捻じ曲げ、フェアリーは当たり前のように席に着いた。
「……まあいいですわ。では、副委員長、お願いしますわ」
「わかった。じゃ、まず最初の件から行こうか。私の持ってきた資料で言うと、一枚目と四枚目から九枚目だよ」
しばらく見たくないと言っていたにもかかわらず、エルフはしっかりと資料に目を通す。
「まず、加害者はバハムーンの男子。戦士学科所属。この間の入学生、イノベーターの一人だね。ヒューマンの男子と口論になり、
そこから乱闘に発展。きっかけは、バハムーンが彼をゴミ呼ばわりしたことらしいね。結局、ヒューマンとそのパーティは、
彼一人の手によって壊滅。全員が保健室送りだって」
「へーえ、六人相手に勝ったんだ。さすが、イノベーターだね」
フェアリーも勝手に資料を取り、エルフと一緒に眺めている。
「次、二枚目と十枚目。加害者はドワーフの女子。学科は戦士で、さっきと同じくイノベーターの一人」
「……野蛮な種族らしいですわね」
エルフが眉をひそめ、呟いた。
「被害者はエルフの男子。きっかけは……面会謝絶だから、まだわかってない」
「面会謝絶だって?すごいな、それ」
「まあ、ねえ?エルフとドワーフは、種族的に気が合わないから……きっと喧嘩の理由は、大したことじゃないんだと思うよ」
「あら?この男子……え、この被害者もイノベーターですの!?」
エルフの声に、フェアリーも驚いて資料を覗き込む。
「そう、イノベーター同士の喧嘩なんだ。彼は私と委員長と同じく、魔法使い学科だったから、肉弾戦では分が悪かっただろうねえ」
「これだから、この種族は嫌いですわ!後衛の学科に、平気で手を上げるなんて…!」
「あ、ちなみに彼女もファイアを撃たれて怪我をしてる。どっちが先に手を出したかはわからないけど、怒るのも無理はないね」
「新入生にファイア…」
それが何を意味するかは、エルフにもよくわかっていた。いくら初歩の魔法とはいえ、ほとんど訓練を受けていない新入生に放てば、
一撃で死に至ることもあるのだ。まして、校内でファイアを詠唱するのは、立派な校則違反である。
「わお、やるねえ。どうだい、委員長?同種族がそんな真似をしたっていうのは、どんな気分だい?」
皮肉っぽく尋ねるフェアリーを、エルフは睨みつけた。
「……う、うるさいですわ。きっと、向こうが先に手出ししたに決まってますわ」
「ま、これはこれでいいだろ?次、最後。三枚目と十一、十二枚目」
「さぁて、今度はどんな化け物かなー」
楽しそうに言うフェアリーを、エルフがギロリと睨みつける。
178:流れ星の英雄~序章(3/5)~ ◆BEO9EFkUEQ
10/04/13 00:09:31 tozwUNnz
「加害者、フェルパーの女子。格闘家学科。やっぱりイノベーター。被害者は……私達と同じ学年の二人」
それには、エルフもフェアリーも驚いた。一年もこの学校にいれば、新入生相手など怪我一つせずに勝ててもおかしくはないのだ。
「この子はちょっと特殊で、真剣道部に顔を出したらしいよ。で、稽古を見学していたところ、突然ダガーを抜刀。瞬く間に二人を
切り伏せ、三人目に襲いかかったところで、部員総出で取り押さえたって話」
「ちょっと待って。ダガー?二年の、真剣道部の部員が、ダガーで?」
「そう、ダガー。被害者二人の得物は、日本刀にサーベル。一人は油断してたにしろ、もう一人は実力で負けたってことだね」
説明が終わると、エルフは深い溜め息をついた。そして、疲れた目でセレスティアを見上げる。
「それで……わたくしが一番気になることは、どうしてこの三人が、今も野放しになってるんですの!?」
「そこだよねえ、問題は」
今度はセレスティアも、エルフと共に頭を抱える。
「バハムーンは、相手が多勢に無勢ってことで。ドワーフも、相手がファイアを詠唱したことで。フェルパーも、相手が
真剣道部員であったこと、場所もその道場だったことで、全員が厳重注意で済んでるみたいだよ」
「まして、学校としては貴重な特待生。そう簡単に、手放したくないんだろうさ」
軽い調子で言うフェアリーの言葉は、二人の気をさらに重くさせた。
学校側から処分が下っていれば、それで話は終わりなのだ。しかし、実質ほとんどお咎めなしの状態であり、風紀委員としては、
この危険人物達を野放しにはしたくない。また問題を起こされれば、それはこちらも少なからず責任を問われるからだ。
となると、彼等が再び問題を起こす前に、何とかしなければならない。かといって、こんな相手を何とかできるほどには、
まだ実力がない。
二人が悩んでいると、フェアリーはおかしそうに笑った。
「いいじゃん、僕達で何とかすれば。お目付役がいれば、学校側にも面目は立つしさ。ていうか、あっちもそれを望んでるんだろうし。
そうでもなきゃ、こんな資料は寄越さないだろ?」
「私達がかい?けど、この三人をどうやってまとめるって言うんだい?」
「それは、これから考えることさ。ま、力でまとめるなんて真似、魔法使い二人とレンジャー一人じゃ無理だろうけど」
そう言ってフェアリーは笑うが、その目は本気だった。
「それに、考えてみなよ。人数差を跳ね返す戦士に、同じイノベーターを瀕死に追い込む戦士、そして武器を持った先輩二人相手に、
ダガー一本で勝つ格闘家だぜ?こんな実力者、滅多にいないよ」
「……つまりあなたは、この三人の力を利用しようって言うんですの?」
エルフのなじるような声に、フェアリーは笑顔で答えた。
「いいんじゃん?あいつらの力、利用させてもらおうよ。僕らだって旨みがなきゃ、やってられないって。押し付けられた難役も、
見方を変えりゃチャンスだってこと」
「自己の打算だけで、何かを利用するなんて論外ですわ!わたくし達が為すべきことは、彼等を更生させることでなくって!?」
「ははは、あんな問題児を更生ねえ。鉄拳制裁でもするのかい?返り討ちが関の山だと思うけどねえ。それよりは、僕ならうまく操って
利用するよ。それとも、委員長は規律の名のもとに、力無き正義を信奉し続けるかい?ははは」
エルフは悔しさに歯噛みするが、言い返すに足る案もない。結局、この問題児達を力で従えるなどというのは、到底無理な話なのだ。
「まあまあ、二人とも。あまり熱くなりすぎないように」
そこへ、セレスティアがやんわりと間に入る。
179:流れ星の英雄~序章(4/4)~ ◆BEO9EFkUEQ
10/04/13 00:11:20 tozwUNnz
「委員長、私も彼の案には賛成だよ」
「副委員長、あなたまでっ…!」
「いやいや、誤解しないで。私達に大きな権限や力があるなら、彼等を従えることはできると思うよ。でも、力で従えたとしても、
それは永続的なものじゃない。それよりは、彼等に手綱を付けて、それを握ってしまうのがベストだと思うんだ」
「それは……確かに、できるならそれがいいとは思いますわ」
「よしっ、話は決まりだね!」
そう言うと、フェアリーは早速窓から外へと飛び出した。
「だからフェアリー、君も風紀委員なんだから、窓から出入りしないの」
「魔が差した。まあとにかく、そうと決まったら早いとこ、あいつら見つけなきゃね。これ以上、被害が出る前にさ」
フェアリーが飛び去ってしまうと、残ったエルフとセレスティアは軽い溜め息をついた。
「……彼って、きっと悪の実一口齧っただけで、性格『悪』に変貌するよねえ」
「あれで中立的だというのが、信じられませんわ」
「でもまあ、彼みたいな人材も必要だよ。善にしろ悪にしろ、中立的にしろ、一面だけでは風紀なんて守れないし、作れない」
そう語る彼を、エルフは何とも言えない目で見つめる。
「……わたくし、今もあなたが委員長になればよかったのにと思ってますわ」
「私?はは、それはダメだよ。君みたいに、しっかり規律を守ろうという人が、頂点にいなきゃね」
「もう……あの時と同じこと言うんですのね」
僅かに非難の色を込めて、エルフはセレスティアを見つめる。そんな彼女に、セレスティアは優しく微笑みかけた。
「まあ、この話はまた今度にしようよ。今は、私達がやるべきことをしなくっちゃ」
「それもそうですわね。さあ、大仕事が始まりますわ」
そして、二人は揃って風紀委員室を出ていく。外は春らしく、暖かな陽気に満ちていた。
180:流れ星の英雄 第一章~流星群~(1/15) ◆BEO9EFkUEQ
10/04/13 00:13:04 tozwUNnz
春の陽気に誘われ、外へと出て行くのは、何も虫や草木だけではない。
とある校舎の屋上に、一つの影が現れる。真っ赤な尻尾をゆっくりと揺らめかせ、のんびりした足取りで歩く姿は、人によってはトカゲを
連想させるだろう。あながち遠いわけでもないが、それを本人に言えば、恐らく次の瞬間にはブレスによって灰にされるだろう。
ゆっくりと、バハムーンは屋上を歩く。そして、入り口からちょうど死角になっている部分に来ると、ごろりと寝そべった。
しばらく、彼はそのまま空を見上げていた。やがて、その目がゆっくりと閉じられ、呼吸も小さな寝息となる。
それは実に平和そうな、まさに春の一コマだった。その、僅か数分後までは。
突然、彼は髪を掴まれる痛みに飛び起きた。しかし立ち上がるより早く、そのまま何者かに引きずり起こされる。
「てめえ、誰に断ってここで寝てんだよ」
「ぐっ…!?」
「邪魔だぁ!!」
次の瞬間、バハムーンは床に投げ出された。だが、即座に受け身を取り、突然の襲撃者を睨みつける。
「……なんだぁ、その目?あたしとやる気かよ?」
小柄で、ふさふさした体毛に包まれた、獣のような種族。女ながらにバハムーンの巨体を片手で投げ飛ばす辺り、いかにもドワーフらしい
怪力の持ち主である。
「貴様……死にたいのか」
「てめえがあたしに勝てるつもりか?はっ、てめえの脳みそ、どんだけイカレてんのか、頭カチ割って見てやるよ」
言うが早いか、ドワーフはバハムーンに殴りかかった。だが、バハムーンは彼女の拳が届く前に、その顎を蹴りあげた。
「ぐあっ!?」
「チビの劣等種が、粋がるな!」
彼の拳は、相手が女であろうと容赦はなかった。直後、彼女の鼻面に拳が叩きこまれ、鼻血が噴き出す。
完全に、意識まで断ち切ったはずだった。しかし、次の瞬間。
「何…!?」
不用意に突き出していた腕を、ドワーフはしっかりと捕えた。そして、未だ闘志を失わぬ目でバハムーンを睨むと、思い切り腕を
引っ張る。咄嗟に踏ん張ってそれに耐えた瞬間、彼女はその勢いを利用して拳を突き出した。
「ぶあっ!!」
今度は、バハムーンの鼻面に拳が叩きこまれる。一瞬飛びかけた意識を辛うじて繋ぎ止め、バハムーンは何とか床を踏みしめる。
二人はしばし睨みあった。お互い、必殺の拳を叩きこんだはずなのだが、相手はまだ立っている。
「……へえ、少しゃあやるみてえだな」
「劣等種が……ここで倒れていれば、余計な苦痛もなかったものをな」
二人は同時に距離を詰め、お互い一歩も引かずに殴り合った。
状況は、一見バハムーンが有利だった。さすがに身長差がありすぎ、ドワーフの拳が届かない範囲からも、彼の拳は届いてしまうのだ。
だが、よく見ればバハムーンも決して余裕ではなかった。
どんな攻撃を叩きこもうと、ドワーフは決して倒れなかった。普通の者ならとっくの昔に失神しているような攻撃に、
彼女は耐え抜いてしまうのだ。それどころか、無理矢理耐えることで作り出した隙を突き、逆にバハムーンを殴り返している。
そもそも失神以前に、彼の拳は相手の闘志を砕いてしまうほどの威力がある。しかし、ドワーフの目は決して闘志を失わない。
181:流れ星の英雄 第一章~流星群~(2/15) ◆BEO9EFkUEQ
10/04/13 00:14:03 tozwUNnz
しばしの殴り合いの後、二人は同時に距離を取った。ドワーフの方がボロボロにはなっているが、バハムーンの方もかなり
息が上がっている。むしろ、精神的には彼の方が追い詰められているようにも見える。
「貴様……なぜ倒れない」
「てめえこそ、いい加減倒れやがれ。うぜえんだよ」
「貴様なぞに、やられるものか」
「やられろよ。さすがに疲れんだよ、うざってえ。それより……って、おい!」
「む…」
二人は同時に、先ほどバハムーンが寝ていた場所に視線を移した。そこではいつの間にか、フェルパーの女の子が丸まっていた。
「てめえ、そこどけよ!そこはあたしの場所だ!」
「いつから貴様の場所になった。俺の場所だ」
二人の声に、フェルパーは耳をピクリと動かし、続いて大儀そうに顔を上げると、大きな大きな欠伸をした。
「ふあ~~~~ぁぁぁ……んむー?もう喧嘩はやめちゃうの?いいよ、続けてて。面白いもん」
「見せもんじゃねえんだよ!いいからどけぇ!!」
容赦のないドワーフの蹴りが襲う。だが、フェルパーは一瞬の間に身を翻し、それをかわした。
「速えっ…!?」
「あはははっ!遅いよ!当たらないよ!んなーぅ!」
一声、猫そのものの鳴き声を発すると、逆にフェルパーがドワーフに蹴りかかる。直後、パパパン、と小気味良い音が響き、ドワーフが
僅かによろめく。
「あはっ、あははは!私も遊ぶ!強そうだもん!だからね!私も遊ぶの!」
ドワーフから突如狙いを変え、フェルパーはバハムーンに襲いかかる。咄嗟に繰り出された拳を容易くかわし、直後フェルパーは
地を蹴り、空中で体を捻った。
「んなぉ!」
「くっ!」
首めがけて振り下ろされた足を、辛うじて防ぐ。フェルパーは蹴った勢いを利用し、そのままバハムーンと距離を取る。
その後ろに、いつの間にかドワーフが立っていた。
「んにっ!?」
「調子に乗んな、くそ猫が!」
フェルパーの体を掴み、ドワーフは軽々と頭上に持ち上げる。直後、思い切り腕を振り下ろし、地面に叩きつけた。
しかし、フェルパーは空中で身を翻し、両手足で着地してしまう。ドワーフもすぐに気付き、追撃しようとした瞬間、
背中にゾクリと冷たいものが走った。
フェルパーの腕が動く。咄嗟に体を反らした瞬間、ドワーフの頬に鋭い痛みが走った。
「つっ…!?」
思わず距離を取る。頬に触れてみると、手にはべっとりと赤い血がついていた。
「あははっ、すごいすごい!ねっ!すごいねっ、私の攻撃避けたよね!あははっ!そういうの大好き!」
フェルパーが顔を上げた。その目は異様な輝きを放ち、血の滴るダガーをより恐ろしげに見せている。
「だってだって!そういう人殺すのって、すっごく楽しいんだもん!」
「な……んだ、こいつ…!?」
「狂ってやがる…」
さすがのドワーフとバハムーンも、思わずそうこぼす。
「ねっ!あはははっ!殺すよ!いいよねっ、ねっ!?んなーぅ!」
ダガーを振りかざし、フェルパーが襲いかかる。あまりに危険な存在の乱入に、二人の関係は即座に変化した。
182:流れ星の英雄 第一章~流星群~(3/15) ◆BEO9EFkUEQ
10/04/13 00:15:41 tozwUNnz
目の前で振りまわされる刃物にも臆さず、ドワーフはそれを紙一重で避けていく。その隙に、バハムーンはフェルパーの横に回り込み、
射程に入った瞬間殴りかかった。
その腕目掛けて、ダガーが襲いかかる。咄嗟にバハムーンは腕を引き、体ごとフェルパーにぶつかる。
「あうっ!」
「くっ…!」
吹っ飛ぶ直前、フェルパーはバハムーンの肩を切りつけていた。幸い傷は浅いものの、切られたという事実は思いの外強い衝撃となる。
「あははー!真っ赤真っ赤!血がいっぱい!あっついの、もっといっぱい出してよ!んまぁーお!」
再びバハムーンに襲いかかるフェルパー。切られた痛みが強く感じられ、バハムーンは相手から距離を取る。
「こっちも忘れんな!」
その横から、ドワーフが飛び込んだ。フェルパーはそれに応えるように狙いを変え、ドワーフに襲いかかる。
「んなぅ!!」
顔面を蹴りが襲い、怯んだ瞬間ダガーが突き出される。何とか体を捻ってかわし、ドワーフは大きく息をついた。
「へっ、ちんたらやってるんじゃねえよ。来やがれ!」
構えを完全に解き、ドワーフはフェルパーと正面から向かい合った。そんな彼女に、フェルパーは狂気に満ちた視線を送る。
「あはっ、あはははは!!殺すよ!?殺していいよね!?いいんだよね!?あははぁー!!んなぉーう!!」
楽しそうに叫び、フェルパーは飛びかかり様、ドワーフの首にダガーを振るった。
鋭い刃が首筋を捉える瞬間、ドワーフの手がフェルパーの腕を掴んだ。
「ええっ!?そんなっ!?どうして捕まるのぉ!?」
「怖がんなけりゃ、そんなもん素手と変わりねえんだよ!」
素早く腕を持ち替え、相手の肩を極める。途端に、フェルパーは悲鳴を上げた。
「いっ、痛い痛い痛いよぉー!!痛いのやだぁー!!」
「ああそうかい。その腕、へし折ってやる!!」
肩を極めたまま、ドワーフはもう片方の手を引いた。そして、肘に掌底を叩きこもうとした瞬間、フェルパーは無理矢理体を捻り、
そちらに肘の内側を向けた。
「痛ぁっ!」
「ちっ!」
辛うじて折られずに済んだとはいえ、その痛みにフェルパーはダガーを取り落とした。そこに、バハムーンが走った。
ダガーを拾い上げた瞬間、一瞬早く気付いたドワーフが顔面を蹴り飛ばす。
「ぐうっ!」
フェルパーを突き飛ばし、今度はドワーフがダガーを拾う。しかし、突き飛ばされたフェルパーは地面に手をつき、逆立ちの姿勢から
体を捻ると、ドワーフの腕に足を振り下ろした。
「うあっつ!」
「んなーぁ!渡さないよ!」
「貴様にも渡しはしない!」
フェルパーがダガーに手を掛けた瞬間、バハムーンはその刃を踏みつけた。ただ、あまりに強く踏みつけたため、その刃はぐにゃりと
曲がり、もはや使い物にならなくなってしまった。
凶器がなくなり、瞬時に三人は現状を把握した。そして、動物的直感ともいえる感覚で、次に取るべき行動が決まった。
183:流れ星の英雄 第一章~流星群~(4/15) ◆BEO9EFkUEQ
10/04/13 00:16:22 tozwUNnz
バハムーンとフェルパーが、最も傷ついているドワーフへ襲いかかる。ドワーフは咄嗟に守りを固め、その攻撃を何とか凌ぐ。
「畜生……やっぱ、そうなるよな…!」
ぼやきつつ、ドワーフは二人の猛攻に何とか耐える。急所を守り、ただただじっと来るべき機会に備え、様子を窺う。
バハムーンの突きを受け止め、フェルパーの蹴りを避ける。さらに飛んできた肘を両手で受けると、がら空きになった脇腹へフェルパーが
蹴りを放つ。
直後、ドワーフは足を上げ、その蹴りを膝で防いだ。
「いったぁーい!!!」
「なめるからだ!」
すぐさま踏み込み、フェルパーの腹へ拳を叩きこむ。それはみぞおちへ直撃し、たまらずフェルパーはその場に崩れ落ちた。
「げほっ……おえぇ…!」
腹を押さえ、嘔吐するフェルパーに追撃を掛ける瞬間、バハムーンが拳を突き出す。ドワーフは咄嗟に向きを変え、攻撃を受け止める。
その後ろで、フェルパーが立ち上がった。だが、ドワーフは振り返りもしない。
「んなおぉーう!!」
興奮した鳴き声を上げ、フェルパーはバハムーンに襲いかかった。まともに攻撃を受け、傷ついた今、元気なバハムーンが残っては
困るのだ。となれば、必然的に次の行動は絞られる。
「ちぃ!劣等種が、使えねえ…」
ますます激化する戦闘。そして、再び三人が拳を交えようとした瞬間、突如その中心に小さな雷が落ちた。
「うお!?」
「わっ!」
「ふぎゃ!?」
三者三様の反応を示し、三人は慌ててその場を飛びのく。振り向くと、そこにはエルフとセレスティアが立っていた。
「そこまでですわ。あなた達、その大騒ぎを今すぐおやめなさい」
「なんだ、てめえ?」
ドワーフが詰め寄ろうとすると、セレスティアがさりげなく間に割って入る。
「彼女は、風紀委員長ですよ。わたくしは同じく、副委員長。風紀委員としては、このような事態を見過ごすことはできないのです」
「風紀委員だか何だか知らねえが、偉そうに」
バハムーンも不快らしく、忌々しげに呟く。
「実際偉いさ。僕等は君等の先輩だし、そっち二人は委員長に副委員長だからねえ」
「ん?」
突然上から響いてきた声に、三人は頭上を見上げた。その視線とすれ違うように、フェアリーは地面に降り立つ。
「虫けらか…」
「チビ妖精かよ…」
「んなーん、飛んでるー。トンボみたいー」
「君等こそ、トカゲに犬に猫じゃないか」
フェアリーの言葉に、ドワーフとバハムーンの眉が吊り上がる。
「貴様…!」
「よし、てめえそこに直れ」
「フェアリー、遊びにきたのなら帰ってくださらない?」
エルフが睨むと、フェアリーは肩を竦めた。
184:流れ星の英雄 第一章~流星群~(5/15) ◆BEO9EFkUEQ
10/04/13 00:17:10 tozwUNnz
「魔が差したんだよ。わかったわかった、もう黙る」
フェアリーがセレスティアの後ろに隠れると、改めてエルフが口を開く。
「あなた達のしていた行為は、校則ではっきりと懲戒の対象になっていますわ。それはわかっていらして?」
「関係あるか、カスが」
「ぐっ……あ、あなたのような獣には、確かに関係ないし、理解もできないかもしれませんわね…!」
「てめえも喧嘩売ってんのか。やんならあたしは構わねえぞ」
どんどん泥沼化する状況に、セレスティアは苦笑いを浮かべる。
「まあ、まあ。お二方、少し落ち着いてください」
「貴様のその喋り方、何とかならねえのか。聞いててうざってえんだが」
バハムーンが言うと、セレスティアは一瞬きょとんとし、すぐにまた笑顔を浮かべる。
「あ、普通でいいかい?なら普通の喋りにしようか」
「……あ、ああ」
思わぬ変貌ぶりに、バハムーンも少し意外だったらしく、素直に頷いてしまう。
「えーと、まず君達のしてたことは懲戒の項目、7番と8番に当たるね。校内での私闘、決闘の禁止。そして武器類の必然性なき抜刀、
使用の禁止。さらに言うなら、君達は以前も騒ぎを起こしてるから、1番の、性行不良で改善の見込みがない者、にも当てはまるかもね」
「……だったら何だってんだ?退学か?あるいは停学か?」
その質問に、セレスティアは一瞬考え、そして答えた。
「いやいや、私としても君達みたいな新入生に、そんな処分下すのは気が引けるよ」
「ちょっと、副委員長…!」
小声で、エルフが話しかける。
「処分を下すのは、わたくし達でなくて校長…!」
「いいからいいから、ここは私に任せて」
コホンと咳払いをし、セレスティアは続ける。
「ただ、これが続くようなら何らかの処分は必要だよね。このままだと退学はないにしても、停学まではあり得るかな」
「そんなもの、別に怖くもないがな」
「けど、知ってるかい?停学中も寮の使用はできるけど、その間、金銭的な補助は一切なくなるんだよ」
「ちょっと待て。金銭的な補助?それ、どういうことだ?」
ドワーフが尋ねると、セレスティアは僅かに笑った。
「例えば、寮の宿泊は100ゴールドだよね。三食付きで武器の手入れ道具も揃ってる。ところが、この三食及び武器の手入れ物品が、
外部の者と同じく有償化する」
「お……おいおいおい、ちょっと待てよ!!」
それを聞いた瞬間、ドワーフは明らかに慌て始めた。
「たとえば何か!?おにぎり一個作ってもらったら、それだけで30ゴールド取られるのか!?」
「そうなるね」
「じゃ、豪華な弁当と同じだけの夕飯食ったら…!」
「もちろん、1000ゴールドだよ」
「てことは、抑えても年間最低1095000ゴールド取られて、三日にいっぺんアイスクリーム食うだけで1155225ゴールドも
かかるってことか!?」
「え?……え、ええっと、そう……だね……計算速いな…」
「しかも手入れ用具もだろ!?砥石一つ取ったって、毎日じゃあ洒落になんねえ…!それに油も…!」
今までの威勢はどこへやら。ドワーフはすっかり耳も尻尾も垂らし、怯えた子犬のような目つきでセレスティアを見つめる。
185:流れ星の英雄 第一章~流星群~(6/15) ◆BEO9EFkUEQ
10/04/13 00:18:17 tozwUNnz
「……な、なあ、頼むからそれは勘弁してくれ…。な、何でも一つぐらいは言うこと聞くからさ…」
「さあて、ねえ。口先だけでは、私も学校側も納得させられないし…」
「本当だって!絶対嘘なんかつかねえよ!!反省文でも何でも書くから、頼むからそれだけは勘弁してくれってぇ!!」
これで一つ片付いたと、セレスティアは心の中でほくそ笑む。
「あははー!さっきと大違い!頑張って稼げばいいだけなのに、変なのー!」
その様子を見ていたフェルパーが、おかしそうに笑う。そんな彼女に、フェアリーが話しかける。
「おいおい子猫ちゃん。そう簡単に言うけどね、それだけ稼ぐのは僕等だって大変なんだぞ」
「んにーぅ、ちょっと外でモンスター殺せばさ!遊んでるうちにお金なんか手に入るよ!」
「君は遊びで生き物を殺すんかい」
「そうだよ!だってさ!強い相手殺すと、すっごく気持ちいいよ!ねえねえ!君も強い!?強いの!?」
とんでもない危険人物だと、風紀委員の三人は暗澹たる気持ちになった。こんな人物を御する手段など、思いつくわけもない。
その時、バハムーンが口を開いた。
「そうなったら、こちらから退学でもすればいいだけの話だろう。別に気にするほどのことでもない」
「でも、二度とこの学園に入学できなくなるよ。別に一人で頑張るって言うなら私も止めないけど、学校の支援がないと大変だよ」
「そうだよ、お前は余計なこと言うなよな。あたしまで巻き添え食って退学とか停学になったらどうするんだよ」
ドワーフはセレスティアの脅しに完全に屈したらしく、バハムーンに食ってかかる。
「そんなこと、俺の知ったことじゃない」
「だろうな。お前みてえな脳なしには、一歩先のこと考えるのも一苦労だろうよ」
「……貴様」
バハムーンは大股でドワーフに歩み寄ると、突然その尻尾を捻り上げた。
「あぐっ!?てっ……てめえ、卑怯だろっ……尻尾狙うとかっ…!」
バハムーンが腕を上げると、小柄なドワーフの足が地面から離れる。尻尾だけで吊るされる痛みに、ドワーフの顔が歪む。
「生意気な口をきくな。この尻尾、このまま捻じ切って貴様の口にでも突っ込んでやろうか?あるいは、下の口なんてどうだ」
ドワーフは何とかバハムーンの腕を掴み、痛みから逃れようとしていたが、その言葉を聞くと顔を歪ませつつも、にやりと笑って見せる。
「……へぇ、そりゃあいい考えだ。想像するだけでゾクゾクする。けどさ、あたしは欲張りなんでね」
自分から腕を離すと、ドワーフはバハムーンの尻尾を握り返した。
「ぐっ…!」
「前だけじゃ足りねえから、尻の方にこっちも欲しいところだな」
思わぬ反撃に、バハムーンの力が緩む。足が地面に着いた瞬間、ドワーフは彼に寄り添うように体を寄せた。
「ああ、それにちょっと口寂しいから、こいつを咥えさせてほしいなあ。それなら、あたしは構わないぜ」
もう片方の手で、ドワーフはバハムーンの股間を握りしめた。急所を強く掴まれ、バハムーンの額に脂汗が浮かぶ。
「貴様っ……本当に、捻じ切ってやろうか…!?」
「うあっ…!いいぜ、やれよ……三つ穴責めなんて、すっげえゾクゾクする。なあ、ほら、さっさとやれってば…!」
一体どこまで本気なのか、二人は人目も憚らずに応酬を続ける。その様子を、エルフは顔をしかめて見ており、フェアリーは興味津々と
いった表情で見つめている。セレスティアは、ドワーフがバハムーンの股間を掴んだ辺りから目を背けている。
その背けた先に、フェルパーがいる。その様子がおかしいことに気付いたのは、少し経ってからだった。
顔は真っ赤に染まり、目は真ん丸に見開かれている。耳の内側までもが薄っすらと桃色に染まっており、体は小刻みに震えている。
一体どうしたのかと声をかけようとした瞬間、フェルパーが叫んだ。
「やーっ!!!やぁーっ!!!エッチなのやだーっ!!この人達嫌いーっ!!!」
叫ぶや否や、フェルパーは二人に襲いかかる。突然のことに驚きつつも、二人はすぐさま手を離し、その場を飛びのいた。