イナズマイレブンでエロパロpart5at EROPARO
イナズマイレブンでエロパロpart5 - 暇つぶし2ch505:名無しさん@ピンキー
09/12/14 23:32:14 E6586aq0
・同性愛描写注意
・初代スレ759と849、二代目スレ106の続編です
 別に読まなくても問題ありませんが、読んだほうが話がわかりやすいです
・根幹はゲーム、そこにアニメと個人的な理想と妄想を入り組ませた設定です
・ゴールデン2話以降、入院組メイン
・今回もオリキャラ注意報、喋る







腹部を痛めての入院生活からはや数日。
手術当日、特に慌しいこともなく穏やかな日和。
開始予定時刻は本日正午。それまでの間、何をしようか。
しばらく考えたところでガラリと開いた扉に関心が向いた。
「おっはよー、仁」
「おはよう」
予想通りの相手に挨拶する。暇つぶしの対象として認識されている相手。
しかし昨晩だけでなく朝一にまで顔を合わせることになるとは。
「折角だけど、今日は持て成しできない」
言いたいことは色々あるけれど、とりあえず遠回しに拒絶の意思を伝える。
「いや、ちょっと避難させて」
「…今度は何やらかしちゃったの?」
「ちっがーう!ボクのせいじゃないから!」
聞くと、4人で暇つぶしにゲームをしていると、思いのほか盛り上がって
ハイテンションになったところで、運悪く丁度巡回の最中だった看護師に見つかってしまい
こっぴどく叱られ、現在の病室内は説教部屋へと変貌しているとのことらしい。
「ドア付近のベッドで助かったよ…」
「それは幸運だったね」
目の前の相手に労わりの言葉を掛けつつ、逃げそびれたらしい他のメンバーに心の中で合掌する。
「じゃ、そういうことなんで。
 持て成さなくてもいいからしばらく留まらせてね」
理由が理由なので容認することにする。
話がひと段落ついたので、栞をはさんだ読みかけの本を取り出し、ページを捲った。
…そういえばこの本は、松野に黙読を散々邪魔された本でもあった。
持て成しは不要の条件があれども、放置は少々良心が痛む。
ならば、また邪魔をされる前に先手を打っておこうか。

506:名無しさん@ピンキー
09/12/14 23:32:42 E6586aq0
「松野」
「ん?なーにー?」
「この本、この前の読みかけ。
 松野も読んでたやつだし、また一緒に読む?」
カバーを見せながら呼びかけるが、返ってきたのは歯切れの悪い返答だった。
「あ、えーっと…」
「どうする?また横から覗く?」
来るならどうぞという意味で、ベッドの端をポンポンと叩いた。
「え?………そこで?」
「うん?」
そんなに変な事を訊いただろうか、小首をかしげながら問い直す。
「………いや、今日はいいや。ありがと」
「…そう?」
「代わりにさ、その、他の本借りてもいい?」
言うや否や、そそくさと横の棚に積まれた本の束まで移動された。
「いいよ、好きなものどうぞ」
いつもは喜んでちょっかいを出してくるであろうに、珍しい展開となった。
まぁいい。こちらは邪魔をされずに集中できるし
あちらも読書で時間つぶしができるしで一挙両得だろう。
「えと…じゃ、コレで!」
顔を合わせてから言いたいことは山ほどあったが、うやむやにされそうだという予感と
本を選んですぐに距離を取った相手に、声を掛けてまで呼び寄せるのは至難の業で
今まで通り水に流したほうがよさそうだ。
物事をうやむやにしているのは自身のほうかもしれないが。
たまにはこんなことがあってもいいだろう。


読書するのに最適な静かな空間に、扉を叩くノックの音。
「影野さーん。
 手術の支度をさせてもらいますねー」
もうそんな時間になっていたのか。
「あー…じゃあボク部屋に戻るね」
言い終え、読みかけの本を閉じ伸びをしている。
「それ、持ってっていいよ」
「ん、さんきゅ。じゃ、またねー」
訪れた看護師と入れ替わりに松野が病室から出て行った。
「はい、では影野さん。
 まずこのお薬を飲んでもらって、それから処置させてもらいますねー」

処置や前準備で色々と大変で、手術予定時刻にはあっという間であった。
現在カラカラと音を立てるキャスター付きのベッドで運ばれている。
側を歩くのは医療スタッフと、ひとり足りない元同室のメンバー。
「松野センパイは病室で爆睡中です」と答えたのは宍戸だったか。
麻酔が効いてきて、ずいぶん意識が朦朧としてきた。
そのまま手術室に到着したらしく、聞こえてくる声援が遠くに感じられた。


麻酔が切れてきたと思う頃、辺りは真っ暗で手術などとっくに終了したのだろう。
今までの腹の痛みとは種類が違う、じくりとしたものではなく
内臓を丸ごと握りつぶされるかのような感覚。
「ぎ……ぐぁあ………!」
とてもじゃないが眠れるわけがない。
真夜中に、医療機器の電子音と己のうめき声を延々と聞かされていては
睡眠妨害もいいところだろう。
ただでさえ彼らは行動制限されているのに、更にストレスの原因にはなりたくない。
痛覚が支配する中で、改めて個室に移された理由をかみしめた。

507:名無しさん@ピンキー
09/12/14 23:33:04 E6586aq0
傷を治すために手術を受けたのに、以前よりも酷くなっているように感じるとはどういうことだ。
医師も医師だ、もっと痛み止めを注入してくれればいいのに。
痛みのせいで吹き出る嫌な汗がつっと目尻を通り頬を伝った感じがした。
「うぁぅぅぅ…!」
声の出だしでほんの、極々僅かではあるが和らぐ気がする。
またすぐに痛みが戻ってくるのだが。
短くうめいて、切って、またうめいてを繰り返す。
点滴の管が刺されていないほうの熱っぽいてのひらを
シーツの冷えた部分に押し付け、握り締めた。
熱くなればまた別の場所へと移動する。
足を動かすと別方向からの痛みが腹部に走り、悲鳴が漏れる。
「ぐっ…ぁぁあぁああ……!」
腕が動く範囲のシーツが全て熱が移って温くなり、行き場をなくした手を額に押し当て
自身の髪を強く握り締めると、その手を取られてしまった。
「駄目、髪の毛なんて引っ張ったら」
どこかで聞いた声、親だろうか。
付き添いのために泊り込んでいるといったところなのだろう。
正直、残られても何もしてもらうことなんて無いのに。
…戻ってくれたほうがいい。
先ほど取られた自身の手は、髪を引っ張ることを中断させられて
そのまま相手の両手に包まれるように握られた。
労わりの気持ちはありがたいが、その手の中はとても生暖かく
冷たさを求める今の状態では非常に申し訳ないが解放して欲しい。
悪いと思いつつ手を振り払い、また備え付けられた腹部の臨床器具を掛け布団の上から引っ掻いた。
「ぃた…痛い……」
言っても仕方の無いことだが、つい口から出てしまう感覚の名前。
うめき声に痛みの主張が入り混じり始めた。
「うん…痛いね。仕方ないけど、苦しいね」
頭を撫でられながら、同意される。
先ほど乱したらしい髪を手櫛で梳かれたあと、放り出された手を布団の中に入れられ
病室を出て行く音を聞いていた。


「はい、はい。影野さん、聞こえますか?」
「…ぅ………」
この病室は人の出入りが多すぎる。
暗くてよく見えないが、声から察するに医師だろう。
「聞こえていたら手を握ってくださいねー」
こちらは看護師か。指示通りに強く握る。
「はい、影野さん。
 今から鎮痛剤を追加しますのでね…
 今よりも痛みが少しは楽になるかと思います」
時間にして数秒、薬剤が注入されたらしい。
「はい終わりました。
 まぁ、しばらくはこれで大丈夫でしょう」
「何かありましたら手元のナースコールを押していただくか
 また付き添いの子に呼びに行ってもらうかしてくださいね」
作業を終えた医療スタッフが出て行き、また電子音が耳にうるさい空間になる。
「少しはマシになった?」
「……っうぅううぅう……」
楽になった気はしないでもないが、痛みが消え去ったわけではない。
「やっぱ、すぐには効かないか…」
期待した返答ではなかったために、半ば諦め気味に言い放たれた言葉。
自傷気味な笑い声に、額の汗が拭かれるのをされるがままに受けていた。

508:名無しさん@ピンキー
09/12/14 23:33:29 E6586aq0
東側の空から朝焼けの光が弱く差し込もうかという時刻。
あれから一睡もすることはなかった。
ずっと荒く息を吐き、うめき声をあげ続け、シーツを握り締めていた。
それでも目覚めた直後よりかはまだマシだった気がする。
薬のおかげか、はたまた緩やかに流れてくる風のおかげか。
一晩中ずっと付き添っていた親が団扇で扇ぎ続けていた。
して欲しいことは無かったはずだったが、これはありがたかった。

「量を抑えたとはいえ、本来なら連続投与は致しかねないのですが…」
あれから数時間後に来た医師に愚痴られもしたりしたが
痛み止めの薬剤を少量は追加してもらったり。
体には良くないと思うけれど、今は痛みが多少楽になるほうを優先させたい。
鎮痛剤の効能が現れ始めるのはそれから更に数時間後であった。

普通に喋れるようになるのに数分、夜が明けきり部屋が明るい。
「んぅう……」
うめき声ばかりだった自身の声に、まともな言葉が混ざり始める。
「おはよー、仁」
目の前に立っていたのは親ではなく、小さな団扇を持つ松野であって。
「松、野……?」
「おはよ」
「…おはよう…」
繰り返される朝の挨拶になんとか応対する。
「やっと喋れるようにはなったんだね」
「まだ、痛い…けど」
「うん…わかるよ。声、苦しそうだもん」
「……続けて…」
「え?」
「風、気持ちいいから…」
沈んだように見えた表情に、先ほどとは違う種類の笑みが零れた。
「ふふ、りょーかい。ボクに感謝しなね」
「ん、ありがと…」
満足げに言う彼に、素直に感謝の意を述べる。
するといつもの調子を取り戻したのか、よくできました、と少々からかい紛いに返された。
「ねぇ、いつまで続けよっか?」
「まかせる…でも、できれば……長く」
「はいはい患者サン」
軽口を叩く彼には、先ほど見せた憂いはもうなくなっていた。

あれからどれ位の時間が経過しただろうか。
途中、何度も扇ぐ手を交代しながら続ける松野があくびをする。
「ふぁ~…」
「疲れたの、なら…もう…」
「うぅん、ちょっと休憩したらまたやるよ」
先程からずっとこの調子だ。
扇ぎ続けて腕がだるいのに、それでも食い下がらない。
「できれば長く続けてって言ったのは仁じゃん」
「けど…」
そうなるまでやって欲しいとは望んでいない。
「ボクが勝手にやってることだから仁は気にしなくていーの。
 …よし、休憩終わり」
全然休んでおらず、疲れなど癒せていないくせに再開しようとする。
そこまで食らいつこうとする理由は何なのか。
「俺、寝るから。
 松野も…適当に、切り上げ…」
「はいはい、わかってるよ。
 満足したらやめるから……おやすみ」

509:名無しさん@ピンキー
09/12/14 23:33:51 E6586aq0
手術後から二度目の夕暮れ時。
目覚めたときは既にその時刻を経過していた…これが昼夜逆転というものか。
松野もさすがに帰ったらしく、安堵したと同時に一抹の寂しさを感じる。
「………ぅ…」
そうなると、意識は自然と腹部の痛覚に集中する。
昨晩よりも幾分マシとはいえ何か、気を紛らわせそうなものは無いか。
枕元に置かれた一冊の本。…昨日、逃げ込んできた松野に貸したもの。
他の本はベッドから少々離れた位置にある棚に積まれており
寝たままで手を伸ばすのは困難だ。
薄暗い橙色の光に照らし、手に取った本をそのまま読み進めた。


「仁ー、助けてー」
「…また説教部屋?」
「今日の昼食にカボチャが出てきたんだけどね
 しょーりんが「好き嫌いは駄目です」ってボクに無理やり食べさせようと…」
身振り手振りで説明をする松野を通して
食に関しては特に厳しい目を持つ後輩の不満そうな顔を思い浮かべた。
少林寺の肩を持ちたいところだが、目の前の彼の機嫌を損ねさせるわけにもいかない。
「やっと流動食が食べられるようになった俺からしたら羨ましいな」
手術前から絶食を強いられて、ようやく食べ物を口にした自身の素直な感想。
「あ、そっか。ごめん。
 …えっと、流動食ってどんな味?おいしいの?」
「正直、まずい。
 食感も悪いし、薄味どころか無味無臭で塩分が欲しい」
「…あはは、何それ」
どうやら話題の根本を逸らすことに成功したらしい、ほっとする。
「ふふ…まずいけど頑張ってるんだ。なら今度からボクも頑張ってみようかな…?」
「今度、じゃなくて今すぐ頑張ってください」
開けっ放しにされた出入り口から、追ってきたらしい不機嫌な顔をした少林寺と
何とか彼をなだめようとする宍戸が立っていた。
そのまま室内に居る松野の腕を取り、引きずるようにして元の病室へと戻ろうとする。
「ちょっと、しょーりん何すんだよ!放してよー!」
仁助けて!という悲鳴が遠ざかっていく。
「……すみません、お騒がせしました」
事のてん末を唖然と眺めていると、宍戸が謝罪のあと一礼し、ふたりを追いかけていった。

やつれた松野が戻ってきたのは数分後のこと。
「おかえり」
「…ただいま……」
そのままベッドの足元付近に突っ伏した。
「食べ終わるまでずっとしょーりんが見張ってんの。
 宍戸は役に立たないし、半田は我関せずだし…もう何なの……」
「それは災難だったね」
その様子がありありと思い浮かび、笑い出しそうなのをぐっと我慢しながら本で顔を隠す。
「あー、その本…」
気持ちを切り替えたらしい松野の興味が本に移った。
「うん、この前松野に貸したやつ」
「あのとき仁寝てたから、分かりやすいところに置いといたの。
 けどまだそれ読みかけなんだよねー」
「…読み終わったから返してくれたんじゃないの?」
何故そんな中途半端な状態で返却したんだ。
「えー、だって、また一緒に読んだらいいじゃん。
 ……ねぇ、となり行っても…いいかな?」
前回誘ったときは断ったくせに、まったく彼は気まぐれだ。
「…どうぞ」
嫌いな食べ物を凄い状況下で克服してきたのだ。
それくらいの矛盾は流してもいいだろう。
「へへ…ありがと」
心なしか満足げな表情をしているので、これで良しとしておく。

510:名無しさん@ピンキー
09/12/14 23:34:29 E6586aq0
手術後から二度目の夕暮れ時。
目覚めたときは既にその時刻を経過していた…これが昼夜逆転というものか。
松野もさすがに帰ったらしく、安堵したと同時に一抹の寂しさを感じる。
「………ぅ…」
そうなると、意識は自然と腹部の痛覚に集中する。
昨晩よりも幾分マシとはいえ何か、気を紛らわせそうなものは無いか。
枕元に置かれた一冊の本。…昨日、逃げ込んできた松野に貸したもの。
他の本はベッドから少々離れた位置にある棚に積まれており
寝たままで手を伸ばすのは困難だ。
薄暗い橙色の光に照らし、手に取った本をそのまま読み進めた。


「仁ー、助けてー」
「…また説教部屋?」
「今日の昼食にカボチャが出てきたんだけどね
 しょーりんが「好き嫌いは駄目です」ってボクに無理やり食べさせようと…」
身振り手振りで説明をする松野を通して
食に関しては特に厳しい目を持つ後輩の不満そうな顔を思い浮かべた。
少林寺の肩を持ちたいところだが、目の前の彼の機嫌を損ねさせるわけにもいかない。
「やっと流動食が食べられるようになった俺からしたら羨ましいな」
手術前から絶食を強いられて、ようやく食べ物を口にした自身の素直な感想。
「あ、そっか。ごめん。
 …えっと、流動食ってどんな味?おいしいの?」
「正直、まずい。
 食感も悪いし、薄味どころか無味無臭で塩分が欲しい」
「…あはは、何それ」
どうやら話題の根本を逸らすことに成功したらしい、ほっとする。
「ふふ…まずいけど頑張ってるんだ。なら今度からボクも頑張ってみようかな…?」
「今度、じゃなくて今すぐ頑張ってください」
開けっ放しにされた出入り口から、追ってきたらしい不機嫌な顔をした少林寺と
何とか彼をなだめようとする宍戸が立っていた。
そのまま室内に居る松野の腕を取り、引きずるようにして元の病室へと戻ろうとする。
「ちょっと、しょーりん何すんだよ!放してよー!」
仁助けて!という悲鳴が遠ざかっていく。
「……すみません、お騒がせしました」
事のてん末を唖然と眺めていると、宍戸が謝罪のあと一礼し、ふたりを追いかけていった。

やつれた松野が戻ってきたのは数分後のこと。
「おかえり」
「…ただいま……」
そのままベッドの足元付近に突っ伏した。
「食べ終わるまでずっとしょーりんが見張ってんの。
 宍戸は役に立たないし、半田は我関せずだし…もう何なの……」
「それは災難だったね」
その様子がありありと思い浮かび、笑い出しそうなのをぐっと我慢しながら本で顔を隠す。
「あー、その本…」
気持ちを切り替えたらしい松野の興味が本に移った。
「うん、この前松野に貸したやつ」
「あのとき仁寝てたから、分かりやすいところに置いといたの。
 けどまだそれ読みかけなんだよねー」
「…読み終わったから返してくれたんじゃないの?」
何故そんな中途半端な状態で返却したんだ。
「えー、だって、また一緒に読んだらいいじゃん。
 ……ねぇ、となり行っても…いいかな?」
前回誘ったときは断ったくせに、まったく彼は気まぐれだ。
「…どうぞ」
嫌いな食べ物を凄い状況下で克服してきたのだ。
それくらいの矛盾は流してもいいだろう。
「へへ…ありがと」
心なしか満足げな表情をしているので、これで良しとしておく。

511:名無しさん@ピンキー
09/12/14 23:35:16 E6586aq0
個室に移って以来、ずっと誰かしらの訪問が続いている。
担当医師と看護師はもちろんのこと、元同室のメンバー、そして両親。
「もう痛みもほとんど無いし、近いうちに元の病室に戻るだろう、って」
「そう、母さん安心したわ。
 にしても…あんたゲームなんて持ち込んでたの?」
元同室メンバーの中でも特に松野の訪問回数が多く
棚の上に積み上げられた本に混じり、彼の私物が不釣合いに置かれている始末である。
「…それは俺のじゃない」
「なら、あの松野って子の物?帽子をかぶった…」
「知ってるの?」
「ああ、手術の日の夜に、付き添いについて看護師さんに色々聞いてたら
 「ボクが側についています」って言ってきた子だからね。
 よく印象に残っている」
「え…?」
両親が知っているとは予想外だ。
「そのときの松野くんの熱意に負けてしまって…
 申し訳なかったけど、彼に任せてその日は帰らせてもらったよ。
 …いい友達を持ったな」
「………」
「そろそろ日も暮れてきたし、私達は帰るわね」
「あ…うん」
両親が帰った後の病室で、ひとり物思いにふける。
『ボクが側についています』と主張し、両親を説得させたという証言。
当時、気付いてなかったわけではない。
痛み止めを打ち終えたあと、看護師は『付き添いの"子"』と言っていた。
もしそれが両親ならば『親御さん』などの言葉を選び『子』など言わないはずだから。
それに松野と両親の声を聞き間違えることなど、あり得ない。
ただ自身が認めたくないだけだ。
「………」
ぶんぶんと頭を振り、思考を霧散させる。
手持ちぶたさを紛らわせるために、読みかけの本に手を伸ばそうとしたときだった。

「失礼しまーっす!」
スライド式の扉が勢いよく開けられ、次にまた勢いのいい声が聞こえてきた。
「宍戸、一発芸いきまーす!」
そこに立っていたのは元同室メンバーの後輩だった。
本当にこの病室には訪問者が多い。
「四次元アフロ~、少林寺収納~」
しゃがみ込み、となりに居る少林寺を頭の中に収めてしまった。
「はい不思議~、宍戸のアフロは小宇宙~!」


……
………

どうリアクションしていいのかわからない状況に、沈黙が流れる。
「……ぇ、あ、あの~……センパ、イ…?」
「………」
何なんだ、とか、本当に収納できてあぁ凄い、とか、でも首の腱は大丈夫だろうか、とか。
色々感想はあるのだが、でもこのいきなりの訪問にどう対応していいのかわからない。
「ぶふぁぁああ――ッ!!!」
室内からは死角になっていて見えないが、側に控えていたらしい半田がその静寂を破る。
相当こらえていたらしく、腹筋が崩壊する勢いで笑い転げていた。
「寒ッ!!やりやがった…アヒャひゃはは!!コイツら!!!
 『四次元アフロ』って…ひ――ッひっひっはっぁははははは!!
 げほっ、げほッ!! な、何なの?!!ふひふははッははは!!くるしい……!
 く、苦し―ッゴホッ!!っはっはっはっはっはっははははははは!!!!」
ヒィヒィ言いながら床を叩き付けており、廊下なので音がとても響いていた。

512:名無しさん@ピンキー
09/12/14 23:35:52 E6586aq0
「半田センパイ!!笑いすぎですって!!!」
「ししど、あとはお願いね」
「しょーりん!!やめろ!逃げるな潜り込むな!!!」
とりあえず、大笑いしている半田を見て笑うのが正しいリアクションなのかと思い
「わー…おもしろーい……」
便乗してぱちぱちと拍手をしながら先程のギャグを褒めてみた。
「ちょ!!!逆効果ッッッ!!!!!!」
「か、影野センパイまで……」
結果、更に半田を笑わせ、宍戸を絶望させる羽目となった。

笑いすぎて声が枯れたらしい半田と、傷心の宍戸を部屋に招き入れる。
「ぁー……生き返った。サンキュー仁」
未だ涙目の半田から先程渡したお茶入りの紙コップを受け取った。
「急に来て、ちょっと驚いたよ…」
「いや、ちょっと遊んでて。
 負けた奴は罰ゲームで仁の病室前で一発芸……ぶッッ!!!!」
「……モウ…ヤメテクダサイ……」
ゴメンゴメンと謝罪の言葉を述べながら、髪から抜け出てきた少林寺と共に宍戸を慰めている。
「罰ゲーム、か…」
明るいとは言えない単語が妙に引っかかり、誰にも聞こえない音量でぽつりと漏らす。
そういえば、部屋の隅でうずくまる宍戸、そのすぐ側に少林寺と半田。
あとのひとりはどこに居る?
「マックスなら部屋で爆睡中」
「え…?あ、そう……」
無意識のうちに松野を探していたことと、それを見抜かれてしまったことに赤面する。
「お前ら仲良いもんなー、いっつも一緒に居るし」
「……別に、あっちから勝手にちょっかい掛けられてるだけで……」
「え…そうなんですか?」
どん底から這い上がってきた宍戸が話に混ざってきた。
「だって影野センパイと一緒に居るときの松野センパイ、すごく輝いてますよ?
 いつもはふてぶてしいっていうか…あ、いえ、別に不満があるってわけじゃなくて…」
「そ。なーんか自己中っつーのかな…?
 悪い奴じゃないんだけど、ときどき意味わかんねーんだよな、あいつ」
割り込めないほどに結束が固いと思っていた、彼らの口から語られる松野への本音に驚く。
「お前ら同じ時期に入ってきたし
 よく一緒に居るしで仲良いって思ってたんだけど…」
今までの概念が崩されていく。
「けど…この前の、あの夜の騒ぎのとき…
 次の日、何事も無かったように振舞っていたのは…?」
入院初日の夜に起こった、あの事件について問うてみた。
「えぇ…!?」
意外だ、と言わんばかりに三人の顔が合わさって戸惑った。
「仁には来てねーの?謝罪メール」
「メール?何それ…?」
「次の日に松野センパイから一斉送信されたやつなんですけど…」
宍戸が困ったように説明するので、慌てて携帯のメール画面を起動する。

新着メール あり
-----------
from:松野
sub :(無題)
昨日はごめんなさい
   -END-

-----------

513:名無しさん@ピンキー
09/12/14 23:36:14 E6586aq0
自らを器用だと称する彼の、なんて不器用な謝罪。
病院だからと、電源を切っていたのが災いした。
しばらく絶句していると、おずおずとした様子で問いかけられる。
「影野センパイ…?」
「来てた…」
「おいおい…メール不精にもほどがあるだろー…
 マックスが仁にだけ送らないとかありえねーしな」
呆れ気味に言われ、反省する。
「にしても…皆のほうが仲が良いと思ってたのに、意外だ…
 だから謝罪無しでも変な空気がないものだと…」
「別に仲悪いわけじゃないけど、俺らも俺らで結構ぶつかり合いはあるし。
 あの日は特別激しかったけどまぁ暴走はいつものことっつーか。
 メールが無かったとしても引きずるつもりは元からねーけど
 でもやっぱ、わだかまりは残っちゃうし、何より当事者が気の毒じゃん」
側に待機する少林寺の表情が若干強張った。
「まーそれは向こうも薄々気付いてたっぽいからいいとして。
 仁の手術の日のマックスは結構甲斐甲斐しかったぞ。
 付き添いで泊ろうとしてたお前の両親を説得しちゃうし。
 なら俺らも交代でやるって言ったら凄い勢いで断られたし」
「…え……?」
半田の口から語られる、あの夜の真相。
「看護師から患者だから寝てなきゃ駄目とか言われたけどごり押しで却下。
 で、夜中に騒がしいと思えば「痛み止め追加してやれ」って医者に食って掛かってたり。
 けど薬の投与の決まりがあるとか何とかで揉めてたけど、あいつゴネまくってたなー。
 それを「勝手にちょっかい掛けられてるだけ」ってかわいそーじゃね?」
おそらく冗談半分で言っているのであろうが
話を聞いていた自身は、そのままの感想を口に出していた。
「……なんで、そこまでしてくれるの…?」

「あのさ、仁。
 お前、俺らに遠慮してねー?」
笑顔から一転、真顔になり問いかけられた。
「そんな事、は…」
図星すぎて、言葉にできない。
「そうですよ。さっきから一歩引いてるみたいな意見ばっかりですし。
 オレたち仲間じゃないですか」
「仲間…」
完全に復活した宍戸の言葉の一部を、言い聞かせるかのように繰り返した。
「仲間で…いいの?」
「何言って…当たり前だろ」
「今更ですよ」
苦笑気味に返される。
何が目立ちたいだ。何が自身の存在感を出したいだ。
仲間だと言ってくれる存在が近くにありながらも、それに気付かないとは。
孤独から脱出したいと願いながらも、自分自身が殻に篭っていれば無意味なことだ。
目からウロコ、というか。申し訳なさと感謝の気持ちが溢れてくる。
「…気付けてよかった。ありがとう、みんな」
例のメールも、変に先入観を持ってしまっていた事についても。

「ねぇ、かげのセンパイ」
今まで黙っていた少林寺が袖口を引っ張りながら呼びかけてくる。
「かげのセンパイも、オレのこと
 皆と同じように『しょーりん』って呼んでくれませんか?」
「え…?」
呼び名に関しても、遠慮するなということだろう。
皆の間で好意と信頼が改めて成立したのだから、と回りくどく考えた末に。
「…しょうりん……」
「えへへ、はい。よくできました」
さも嬉しそうに微笑まれ、こちらも貰い笑いしてしまう。
自身にも、彼にも。もう胸に巣食う闇は消滅したのだろうと思いたい。

514:名無しさん@ピンキー
09/12/14 23:36:55 E6586aq0
「ふふ…仲間か」
遠慮は要らないことを逆手に取り、先日の出来事をネタに茶化しながら質問する。
「なら俺も好き嫌いしたら食べ終わるまで監視されちゃうの?」
「はい、センパイといえども容赦しません」
「おっと」
「こえーよ」
若干目が本気のマジレスを貰いながらも、心の壁が壊れた今。
その後の談笑は弾んだものとなった。

「少し寄るだけのつもりだったのに、随分長居しちゃったな…」
「オレたちそろそろ戻りますんで。
 センパイも早く、こっちに戻ってきてくださいね」
各々が挨拶をしながら出て行くのを見送る最中、また袖口を引っ張る感覚。
「…まつのセンパイは、悪い人じゃないから」
「………」
話題が重なり、すり替わってしまったあの話の核心部分。
「しょーりーん?」
「今行く!」
ついて来ていないことに気付いたふたりの呼び掛けに、慌てて後を追う姿を黙って見送った。

またもひとりになった静かな空間に戻った病室内。
短い時間で多くの概念が崩れ去った有意義なひととき。
変わった視点、変わった後輩の呼び方。
ふと以前、違う人物から同じニュアンスの言葉を言われたことを思い出す。
―「ねぇ、仁。『マックス』って、呼んで?」
脳裏によぎる、先程まで居なかった彼の過去の声。
どんどん他人の証言から明らかになっていく当時の出来事。
なぜそこまで己のためにしてくれるのかの予想はあらかたついている。
彼との間に信頼が無いわけではない。
ただ種類が異なる好意が認められないだけだ。
そして最後の「…まつのセンパイは、悪い人じゃないから」
「…知ってる」
半田たちの言うとおり、いつも一緒にいたからこそ。


「仁、仁ってば」
また深く考え込んでいたらしい、呼び戻される。
「…その癖、いいかげん直したほうがいいよ」
「うん、ごめん…」
軽い挨拶をされた後の注意。
これは確実にこちらが悪いので素直に謝罪する。
「で、何か用事?」
「何も」
「………」
「嘘、冗談だってば。
 声聞きたくなったから来た。だから何か喋って」
「……凄く理不尽なんだけど……」
松野が思いつきで行動することは珍しくは無いが
急に振られても話題など特に思いつかない。
「はーやーくー」
「………」
今まで彼のことについて悩んでいたのに
その張本人を目の前に喋れと言われても、とても無茶な要求だ。
…待てよ、ならばそれについて話せばいいのではないだろうか。
他に話題は思いつかないのだから。

515:名無しさん@ピンキー
09/12/14 23:37:27 E6586aq0
「メール、届いてた」
「…え?」
「あの夜、松野がしょうりんに…」
「その話はパス」
「次の日に一斉送信したアレ」
「だからその話は嫌だってば!」
やはりあの事件は松野本人にも、しこりが残っているらしい。
だが何か話せと要求したのは松野だ。
「病院だからって電源切ってて確認したのは最近。
 ごめん、返信しなくって」
「…はいはい、院内で電源切ってて偉かったねー。
 じゃあこの話はこれで終了」
あまりにも嫌がっているのでこの話題は要望どおり終わらせる。
「それと手術の日の夜の付き添いのことだけど…」
「…その話もダメ。やめて」
「やめない」
「ちょっと?!」
話せと言ったのはあちら側なのに随分と要求が多い。
あれもダメこれもダメだと話題が尽きてしまうので強引に話を進めさせてもらう。
「親が残るって言ってたのを説得して帰らせたとか
 患者だから付き添いダメって禁止されたのをごり押ししたとか
 痛み止めの投与のことについて医者と揉めたとか」
「………」
「この話とメールの話、全部半田たちから聞いた」
「………あいつら……」
中断の要求を突っぱねてからそっぽを向かれてしまい表情は確認できないが
非常に不機嫌な声で返された。
「半田たちも交代しようかって言ったらしいけど断ったんだって?」
「別に。ひとりでも大丈夫だったからだよ」
そんなに嫌なら話題を変えるなり部屋に戻るなりすればいいのに。
機嫌を損ねつつも相槌を打っている、この自称器用の器用貧乏は。
しかしそれを言うと当り散らすだろう、指摘した瞬間は優越感に浸れるかもしれないが
その後のまわりの被害を考えると酷くハイリスク・ローリターンな行為だ。
「親からも「松野くんによろしく」ってきいてる」
「あっそう!」
「鎮痛剤も…」
「もうさ、いいかげんに…」
さすがにちょっと意地悪だったかもしれない。
限界が近い相手のために、そろそろ核心に迫ったほうがいいだろう。
「…松野、聞いて。
 あの夜とても痛かったから、松野が掛け合ってくれて助かったし。
 付き添って、ずっと風を送り続けてくれたことも」
「………」
「本当にありがとう、マックス」

「……ぇ………え?」
いたたまれなくなって今度はこちらが顔を背ける。
「あ、あの…仁?」
あぁもう、そんなに嬉しそうな声を出すな。
恐らく己の視界の反対方面で痛いほど凝視しているのであろう相手に。
「…俺からの話はこれでおしまい。今度はそっちが何か話して」
「………」
覚悟はしていたつもりでもダメージが桁外れだ。
相手に嫌な事をすると、その嫌な事がはね返って来るという故事成語を
今まさにこの身をもって証明することになるとは。
空耳と思っているのか、戸惑っているのかは不明だが何も返答が無い。
この病室は自室、先程までの相手の立場とは違い戦術的撤退はできない。
相手から待ちの姿勢を崩す様子は伺えない。
詰んだ。完璧に自爆だ。
「……何でもいいから話して………マックス」

516:名無しさん@ピンキー
09/12/14 23:38:10 hC5rzvL6
最初は只のつまらない意地だった。
それがずっと続き、もはや行き着くところまで行き着き、引き返せなくなった。
今になって思う。これはサッカー部に入部するまでの自分と同じ。
自分を変えたいと願っていたのに、同じことを繰り返すとは今まで何ら変わっていない証。
どんどん孤立していく状況に仕方ないとあきらめ逃げた過去と
心情吐露した相手への返事を考えることを放棄し逃げた過去と。
ぐだぐだと考えを廻らしていると、ついに相手が口を開ける。
「あはっ…!
 あははははっ!じーん!!」
高らかに笑い、ベッドへとダイブしてきた。
「呼んでくれた!やっと『マックス』って呼んでくれた!!」
「呼び方くらいでそんな…」
互いに抱く好意は種類が違うものの、好意ということには変わりない。
信頼は元より成立している…仲間なので。
そう強く念じる。
「だって呼んでくれたんだもん!」
「…別に付き合い方変えたりするわけじゃないんだし」
呼び方は変わったけれども。
今までの変化球に対し、ストレートすぎる感情表現。
「うん!仁だいすき!!」
相手にとっては、呼んだという事実が最重要であとは二の次らしい。

散々じゃれつかれた後に、疑問に思っていたことを問うてみた。
「あの時どうして腕がだるくなっても扇ぐのをやめなかったの?」
するとフッと相手の声のトーンが下がった。
「……役に、立てたんだよね?」
「うん…?」
急にどうしたのだろうか。疑問を混ぜた回答を返す。
「よかった…」
起こしていた己の上体に擦り寄りながら呟いている。
「もう、苦しくならないよね?」
「うん…たぶん」
痛みも無く、臨床器具も取り外されたので。
「たぶんじゃなくて!…約束して」
すっと目の前に小指が差し出されたので、己も同じように差し出し、絡めた。
離れてからもしばらく小指を眺めて、満足そうに微笑んだ。
「信じる……ありがと、仁」
近かった距離を更に詰められ密着状態になり、口元に柔らかい感覚を残された。


ちゅっと音を立てながら一瞬で離れた唇。
またこの手か。内心戸惑いつつもできる限りの冷ややかな対応をする。
「…何やってんの」
「何って…キス。
 友達になったんだから、次のステップ行かないと」
先程の殊勝な態度はどこへやら、いつも通りの口調で説明していた。
「次って何?」
「恋人」
「…付き合い方を変えるとは言ってないよね?」
思考回路がぶっ飛んでいる相手を嗜めるように問いかけた。
「うん。つか今の仁が好きだから変えられたら困る」
「だったら…」
「関係の名前が"友達"から"恋人"になるだけで、付き合いそのものは変わらないよー」
「納得できるかそんな屁理屈!」
「別に納得しなくてもいいから」
先程のやり取りから、自然と膝上付近に腰を下ろしていた相手に押し倒された。
今までの態度はこの状況を作り出すためのものでは、と疑う。
嵌められた、完璧に油断した。
「じゃ、はじめよっか」
電光を背に陰を落とした彼の表情を見て、やられた、と後悔するのは遅すぎた。

517:名無しさん@ピンキー
09/12/14 23:38:35 hC5rzvL6
両手とも指の間に指が絡められシーツに縫い付けられている。
脚は掛け布団の中にあり、それごと上に跨られている。
「ちょっと…嫌だ、って」
また無抵抗のままやられてしまうのか。
近づいてきた顔に反射的に背け、自然に晒された首筋に吸い付かれた。
「……っひ………ぅ………」
つい出てしまった変な声に気を良くしたのか、重点的に首を攻められる。
動かせないとわかっていてもつい手を動かそうとしてしまい
その度、相手の指に力が込められる。
何度も吸い上げられ、位置が変わり
「…ぅわぁ………っ!」
耳を弱く噛まれ驚いてまた声をあげた。
膝を曲げたりなど、無意味な行動をとってしまう。
「敏感だよね、仁」
たのしい、とか。面白がらせているなんて冗談じゃない。
「……ふざ、け………」
「ふざけてない、本気」
今度は反対の耳を口に含まれる。
耳の裏側を舐め上げられる感覚に身を竦ませた。
動くと帽子の横にぶら下がる房が喉の皮を掠める。
「いや…嫌だ……」
すると、片方の手が開放された。
しかし相手の手も自由になり、手のひらから離れたところに触れようとする。
慌てて阻止しようと相手の手首を掴んだ。
その様を横目で見た後、腕を引き自身の指先に口付けられる。
「仁のこと、好きだし」
癪に障る。何が好きだ。
力ずくで押さえつけて、抵抗を封じているくせに。
これだから性的行為は。
「嫌だ。…こんな、無理やり……!」
わずかな間、相手の動きが止まった気がするがすぐに顔が近づいてくる。
また口でも狙っているのだろう。
「嫌だ…!嫌だ!!」
離被架はもう無いのに、行動を制限される新たな檻。
ほとんど動かせない、縛り付けられた四肢にできる限り力を込め
唯一自由な首を振りせめてもの抵抗を試みた。

今まで押さえつけられていた手の拘束の力が緩む。
隙を見逃さず、思い切り振り払う。ぱしりと渇いた音が辺りに響く。
「押しなよ…ナースコール」
興奮し、叫んだおかげで荒い息をついている最中に言われた。
「今の状況見たら引き剥がされて接触禁止令くらい軽いよ」
「………」
無言で続きを促す。
何がしたいのか、相手の心理が見えない。
「せいぜい暴力って処理されるだろうし。
 心配しなくても仁は手術後だから殴られる側だって思われるよ」
行為はやめるくせに、出て行く意思は無いとか。
「それから付き添いの件ね。
 前、苦しそうなのに全然役に立てないってすごく嫌だったから。
 風はすごく寝汗かいてて、熱いのかなって思って勝手にやった」
「ま…」
聞き捨てなら無いセリフにストップをかけようとするが、相手は止まってくれない。
「もう、早く押しなよ…
 何するかわかんないよこのままじゃ」

518:名無しさん@ピンキー
09/12/14 23:39:00 hC5rzvL6
「今、なんて言ったの?」
「だから早く押せと…」
「違う、その前」
「…『心配しなくても仁は手術後だから…』」
「そうじゃなくて。『前、凄く嫌だったから…』」
中間分を省略して言いたいことを伝える。
「…今は関係ないじゃん」
「なら何でさっき言ったの」
「………」
黙秘権を行使する相手に返答を催促する。
「答えて…マックス」

「…ずるいよ、仁」
あだ名呼びの効果は抜群だ。己にもはね返る諸刃の剣だが。
「で、何について言わせたいの?」
熱の無い、はすっぱな物言いをする相手。
「前っていつ?」
「……仁が、必殺技完成させた日………」
「………」
あの衝撃の日か。
確か、かなり相手に迷惑を掛けた日でもあるはず。
「あ、あのとき、苦しそうで、何しても全然楽になってくれなくて…
 手術のあとも、あのときみたいに苦しそうにうめいて…」
やはり。彼にかなりのショックを与えてしまっていたのだと改めて思う。
「ごめん…」
「謝らないで!」
怒られてしまった。
「謝らないでよ…」
「うん…」
「今度は、役に立ちたかった…それだけだから」
言い難そうに自白したあと、俯く。
「わかった。…ありがとう」
頑なに扇ぎ続けた動機や、痛み止めの件の交渉を辞さなかったのは
あの時の決意からだったのか。
「けど、いつでも寝れるからって徹夜しなくても…」
「…別に。寝貯めしてたし」
「"寝貯め"……?」
聞き慣れない、新たに出てきた単語に反応する。
「な、なんでもな…」
「話して」
慌てて訂正の言葉を言い終える前に阻止。
「…部屋に戻った後、手術が終わる頃まで寝てました……」
事前に寝ていたので、真夜中に起きていても平気だったということか。
朦朧とした意識の中で、爆睡中だという言葉を聞いたことを思い出した。
「…ダメだったらどうするつもりだったの?」
"寝貯め"がその通りの意味ならば。
もし両親が納得しなければ、もし付き添いを許可されなかったら。
「知らない…!そんなもしも理論」
「もし…」
「あー!もー!!知らない知らない!!!」
もう話を聞いていない。
考え込むのが己の悪い癖なら、感情のブレーキが利かないのが相手の欠点といったところか。

「ねぇ!もういいよね!!」
もはや自暴自棄になり、ナースコールに手を伸ばしている。
「押すから!もう押しちゃうから!!」
押させるわけにはいかない、再び手首を掴んだ。

519:名無しさん@ピンキー
09/12/14 23:39:23 hC5rzvL6
そのまま落ち着けといわんばかりに肩を掴んで揺さぶる。
まだ話は終わってない。
「聞いて。
 寝貯めとか無計画すぎる。
 本当に、失敗したらどうするつもりだった?」
「………」
「………」
二度目の黙秘権には無言の圧力で応対する。
「……知らない」
予想通りの返答。終いにはお互い無言に。

「馬鹿でしょ。
 自分の生活リズム崩してまで真夜中に付き添いとか」
「…仁?」
「けど、嬉しかった。…ありがとう、マックス」
未だ微動だにしない相手を抱き寄せた。
完敗だ。彼はどこまで己が好きなんだと熱に犯された頭で考える。
「…ボクのこと好き?」
相手の気持ちに応えたいという思いはあるが
「友達としてなら」
最後の最後で照れに対する防御壁が形成されてしまう。

逃げないと決めたのだ、自分を変えるのだと。
覚悟を決め自分から唇を重ね合わせた。
彼からのものとは違う、激しさを伴わない触れ合わせるだけのものだが。
離れてから確認した相手は、驚いた様子で硬直していたけれどそれは数秒だけで。
「…"友達"はこんなことしないよ」
クスクスと笑いながら正論をぶつけられた。
「ねぇ言ってよ仁。ボクのこと好き?」
「……言ってほしいのなら、言わせてみて」
あだ名のように。
自身の中で答えは出ており、相手の予想通りかつ望むもの。
認めたくは無いが、"友情"だろうが"愛情"だろうが好意という意味では変わりまい
と自分で自分を納得させた。
「…何ソレ……じゃ、覚悟しといてよね」
しかしこの答えで喜んでいる彼は潜在的Mの素質があるのではないか。
M野なだけに。
答えない代わりに先程の行為を再開させた。


「……いいんだよね?」
何も言わず、もう一度口づける。
「じゃ、許可貰ったんで。
 嫌って言っても、もうやめないけど」
「平気」
本当は万全な体制ではなく、少々めまいがしている。精一杯の強がりだ。
直後にまた押し倒され、口を吸われた。
咄嗟に距離を置くために伸ばしてしまった腕の力を緩め、代わりに相手の服を強く握る。
もう片方の手は頭上にある鉄でできた円柱のベッド枠を握った。
何かを握り締めていないと突っぱねてしまいそうな己への自戒のために。
「………ん…」
唇を割り、進入してきた舌を噛まないように招き入れる。
口腔内を縦横無尽に動き回り口蓋を舐られた。
その舌を捕らえ、己のものと絡ませた。
「ぅ……」
離れ際に漏れる吐息と、つっと繋がった唾液の橋が重力に逆らわずに唇から頬に垂れてくる。
追って近づく口に、今度は何も言わずに舐め取られるのを受け入れた。

520:名無しさん@ピンキー
09/12/14 23:40:12 hC5rzvL6
服を掴む手をはなし、代わりにシーツに爪をたてた。
独特の音を立てながら爪痕に沿って波の皺が寄る。
緩やかに引っかき続けている間、上半分の衣服を捲り上げられ
切開痕を避けながら、まるで労わるかのように手のひらで円を描くように腹を撫ぜられた。
次第に撫ぜる面積が広がり、横腹にも届く。
「……っ!」
咄嗟に手首を掴んで行為を中断させてしまった。
「ぁ……ごめ……」
慌てて手をはなす。
「ごめん、続けて」
動きを再開した手が蠢くのは予想通り横腹で、声が漏れないよう先程の自身の手で口元を覆った。

腹部から胸部へと移動した手は現在、乳首を中心に攻め立てている。
両手で同時につまんだり、押しつぶしたりといいように弄ばれている。
己はというと、覆うだけでは間に合わず指を噛んで刺激をやり過ごすことに必死だった。
「……っ…!」
「噛んじゃダメ、痛いでしょ」
引き剥がそうとされるがそれには応じない。
こっちにやめさせたいのなら、そっちも弄るのをやめろ。
「やれやれ…仁ってばホントにもー……」
諦めた様子で呟かれ、そのまま今度は腕に愛撫の手が伸びた。
頭上の柱を掴んでいた方の腕に沿わされ、ツッと指先でラインをなぞる。
「――っ!!!」
腋に添えられた瞬間、思わず相手の手ごと挟んでしまった。
「え?! ちょ、ちょっ仁!?」
驚かれ、腋以外の愛撫の手が止まる。
「……っ! 手、どけて…!抜いて!」
「抜けって言われても…こんなに力まれたら無理だってば!」
それでも抜こうと試みる相手の指が、挟まれた状態で同時にうごめき、腋に刺激が送られる。
その動きを封じるために、さらに挟む力を強めてしまう。
「っ!……やめっ…ちょ、マックス!」
「だってこうでもしないと抜けないじゃん」
「動かすな!」
「だったら力抜いて!」

やっとのことで腋から手が引き抜かれ、安堵の息をついていた。
変な疲労感というか、とても嫌な疲れ方をした。
「仁…感じすぎ」
「………放っといて」
「だってさ、首もダメ胸もダメで腋はあんなんとか。弱点多すぎでしょ」
「………」
こっちだって、あんなに刺激に弱かったとは思わなかった。
「ねぇ何で?」
「知らないよ…あんなところ触られたことなんか今まで無かったんだ……」
「………
 ふ~~~~ん………」
何か良からぬことを思いついたような声に不安になる。
「……何?」
「ん、他のところはどうなのかなって。全身性感帯かどうか調べさせてよ」
「――っ! ぃ…嫌、だ」
あまりの言い草に禁句が口から出てしまった。
「嫌って言ってもやめないよって、ちゃんと仁も了解したじゃん。
 だからだーめ!」
逃げようと身体を引くも、相手の動きのほうが素早くいとも簡単に捕らえられてしまい
再び自由を奪われた四肢と、覆いかぶさってくる相手の映像が飛び込んできたのだった。

521:名無しさん@ピンキー
09/12/14 23:40:33 hC5rzvL6
「平気な場所より感じるところの方が多いって、ちょっとヤバくない?」
あの言葉から、地獄と呼ぶにふさわしい愛撫の嵐が始まった。
行動から言葉まで、あらゆる抵抗を今まで以上に封じられた状態で。
「先天的な全身性感帯ってホントに居たんだ…」
感心するかのように呟く目の前の相手を息も切れ切れの状態で小突いた。
「ごめーん、今のへこんだ?」
散々喘がされたこちらの気持ちを理解させるには、同じ体験をさせた方が手っ取り早い。
見下ろしてくる身体に己の体重を掛け同じ目線に引きずり落とすと、途端に相手の顔色が変わる。
「え…あ、あの。マジ怒っちゃった? ご、ごめんなさ…!」
手を掛けると「ひっ」と身を竦ませる相手の首筋に噛み付き、手を腰付近に這わせた。
「ぎゃーー!!!なにすんのさ!仁の変態!!へんたい!!!」
同じことをしておいて非難してくるとは何て奴だ。
ほぼ手加減なしで繰り出される攻撃を受け流し、更に進めようとすると
間髪いれずに再び弱点に手を差し込まれて撃沈してしまった。
「あまい」
「…っ!抜いてって、ば……!」
「仁ほど敏感な人なんて滅多に居ないし、こんなのでボクが負けるとでも?」
何やら喋っているようだが、生憎こちらは腋に挟まれた手を抜こうと必死だ。
動かされては堪らないので片方の手で固定し、もう片方の手で引っ張り出そうと力を込める。
「…イタズラする仁にはお仕置きね」
「――っ!!!」
腋に気を取られ、ガードが薄くなっていた下半身に手が伸ばされた。
「ひっ……!ああぁ!!」
更なる弱点を弄ばれている。阻止しようと掴みかかるがもはや意味の無い抵抗だ。
「や…だ、っぁあ!!やめて……!!」
「ほらーこっちでも感じてね~」
腋と股間と同時に攻め立てられ、わけのわからない感覚に翻弄され
禁じ手だの禁句だのを構うことなく連呼してしまう。
「あはっ!いい声!もっときかせてね~」
「このっ…はぁ……!へんたい……!」
「……は~~~ん……」
先程言われた言葉をそのまま返してやると、途端に相手の表情が曇った。
「そんなこと言っちゃうんだ?」
「んんぅ…!」
「どういうことなのかなぁ…?自分の立場わかってないのかなぁ…?」
瞬間、腋から手が離れ、次に下着ごとずり下ろされ性器を露出させられた。
「!!」
「もっと鳴かせちゃる」
言うが早々に咥え込まれ、口と舌とで追い詰められていく。
「う……わぁぁああ……!!」
一度体験したことのある感覚が再び襲い掛かってくる。
ついこの間に行ったことで学習したのか、弱いところを徹底的に追い立てられていった。

次第に湧き上がる快感、そろそろ限界が近い。
「まっ…やめ……も…ぅ……!」
脚の間にある帽子を掴む指に力を加え引き離そうとするがその意図が伝わらない。
「ぁ…ああぁ……!」
「!!」
下肢が爆発したかのような絶頂、そして開放感。
荒く息をつく自身の傍らで同じく咳き込む相手が見える。
「けほっ!ちょっと…ごほっ!イくときはちゃんと合図…!」
「ご…ごめ……」
涙目で訴える姿にひどく申し訳ないという感情が湧き上がり、謝罪しようとしたときに。
ふと、以前言われた台詞を思い出した。
「抵抗、無いんじゃなかったの?」

522:名無しさん@ピンキー
09/12/14 23:40:54 hC5rzvL6
「…何の話?」
まだ落ち着かず涙目のまま睨みつける相手に問い詰められたので。
「『本当は飲んでもよかったんだけどね~』…」
あのときに言われた台詞をそのままリピートして聞かせる。
「…ぁ」
思い出したのだろう、次第に頬に朱が混じっていく様を見ていた。
「ばっ…馬鹿馬鹿!!仁の馬鹿!!なんでそーゆーくだらないことばっか覚えてんの?!」
照れ隠しで力の篭った拳を振り回されるのを必死でガードして。
見つめられたので逆に見つめ返してやると、いたたまれなくなった相手側から視線をそらされる。
「だっ…大体!あのときは、仁が抵抗あるからって…遠慮してあげただけで…
 そのっ、今だって性行為嫌いだって言うし、だから、かわいそうだって思って…!」
今まで憎たらしい発言ばかりだった彼が、あまりにも面白い反応をするものだから
あのとき不発に終わってしまった復讐を、いまいちど。
「え?ちょっと…?」
確かに性行為に関していい思い出など全く無くトラウマさえ抱える程で。
今でも限界ギリギリの綱渡り状態ではあるが。
「べつに、遠慮とか要らないけど?」
「うわぁあああぁあぁああ?!」
やられた通りの仕返し、自身の躊躇いごと奴の性器を頬張ってやった。
「ヤだ!!何やってんの仁!?やめてやめて!!」
髪を強く引っ張られたり、頭を押しのけようとしたりと慌しい。
「そんなことしなくてもいいから!やめてってば!!バカ!痴漢!へんたい!!」
しかし、こうも罵られながらの行為は…心情的に、とてもよくない。
やかましく吠える口を手で塞いでやった。
「ん―!む――ッ!!」
相手の片方の手が、口を塞ぐ手を外すようにと回ったため
こちら側への暴行が若干弱まったような、そんな気がした。


相手の行為を模倣しているつもりなのだが、どうにも上手くいかない。
やはり経験の無いまま見よう見まねでやってみても駄目なのだろうか。
「むぅ――っ!」
そういえば、ずっと口を塞いだままだった。
このままだと窒息で死んでしまうかもしれない、そろそろ開放しないとまずそうだ。
確実に罵倒雑言の嵐だろうなと覚悟を決めて手を外した。
「ぷはっ!!…げぇっほ!!…じ…じん……」
相当に息苦しかったのか、いつもの威勢のいい声では無い。
咳き込むマックスの背を呼吸が楽になるように撫でた方がいいかと考え
行為を中断しようとした矢先に。
「ぁああ―っ!!」
外そうとして、焦るあまり思わず立ててしまった歯が決定打になったのか。
甲高い悲鳴を上げながら吐精され、もろに顔面に受けてしまった。
「………ぁ」
「…仁のばか……」
とても弱々しい声で呟かれた己への中傷は、意外にもその一言だけであった。

やはり無理をしたのかもしれない。
先程浴びた精液は手早く拭き取ったものの、未だどろりとした感覚が残っている。
聞いた悲鳴が過去の忌々しい記憶を呼び起こし、くらりとふらついた。
「…ふっ……ぅ…」
嫌な汗が吹き出る。
今はこちらが加害者側だというのに、まったくどちらが被害者なんだか。
荒ぶる気持ちを抑えるため比較的楽な姿勢をとり、深呼吸している際に声を掛けられた。
「ねぇ、仁…」
同じく隣りで呼吸を整えるマックスからの呼び掛け。
「何…?」
己のコンディションをなるべく悟られないように返答する。
このタイミングで何用なのだろう?続けざまに発せられる言葉を待った。

523:名無しさん@ピンキー
09/12/14 23:41:26 hC5rzvL6
「苦しくなんてないよね?」
問い掛けというよりも、諭すかのような口調。
「約束したもん、もう苦しくならないよね?」
再び差し出される小指。
数分前に行われた行為を繰り返す。
「平気」
眩暈、吐き気、嫌悪感。今の不調を頭の片隅に追いやった。
「嫌だと言ってもやめない、じゃなかったっけ?」
「…うん、そうだった」
若干茶化す言い方に同意された後、俯いたマックスから雫が零れる。
「泣いているの…?」
小指を絡めていない側の手で彼の目元を拭うと、濡れた形跡があった。
「………なんでもない!」
手が振り払われ、勢い良く身体を捕まれ逆方向に向けられてしまう。
「さっきの口封じが、苦しかっただけだから」
「…あの……」
「振り向かないで!
 ……今からやること、ちょっと、見られたくないから」

背中から聞こえる控えめな水音と抑えられた喘ぎ声。
羞恥心か、はたまた以前同じシチュエーションで気分を害した己に対する気遣いか。
暫くしてから全てが止み、マックスから「向いていいよ」と許可が下りる。
振り向いてからすぐに膝の上を陣取られて、性器をなぶられる。
「ちょっ…!」
抗議の声も飲み込まれ、喰らい尽くそうとせんばかりに呼吸を奪われた。
「ごめんね…余裕ないや」
息継ぎの合間に、ついでという感じで説明された。
「そんな、がっつかなくても…ふぅう!?」
喋っている最中に再び唇をむさぼられ、開いた口から舌が挿入された。
角度を何度も変えながらどんどん深く繋がっている間にも、性器を弄る手は休まらない。
最後に軽く吸われ、唇で唇を噛まれた後、名残惜しげに離されていく。

「"こっち側"って、すごく負担かかるから」
「…うん」
「だから、任せて。仁は…あの……」
「………」
無言のまま、身体に置かれた相手の小指に自身の小指を絡めた。
「…上出来」
ニヤリと笑い、膝立ちになった彼がゆっくりと腰を下ろしていく。
「ぅうう……っ…ああッ!!」
耐え切れずに漏れる悲鳴が痛々しい。
「…くっ……!」
指で弄られているときとも、口に含まれたときとも違う感覚に身震いした。
先程から忘れようとしている脳を揺さぶられるような頭痛と合い混ざり、微妙な感覚を残す。
「痛…痛い……!」
元々、性行為のための部位ではない。
違う使い方をしているマックスへの負担は、行為前の説明よりも壮大なものなのだろう。
「痛い!痛い痛い!!ぁああああ!!!!」
肩口に噛み付かれ、性器に添えられていた手は
ほぼ半分まで沈んだ頃に背中へと回され、思い切り爪を立てられている。
こちらも中々痛い。
「ぃ…っ大丈夫…大丈夫だから」
あやすというよりも、先程から繰り返している「大丈夫」は自己暗示に近い。
「…大丈、夫。だいじょ…ぶ」
…苦しくなんか無い。
互いに必死だった。
片や壮大な痛みと。片や過去のできごとからくる体調不良と。互いに戦っている。
意識を飛ばしそうになりながらも約束の象徴として絡めた小指は
滅茶苦茶な状態になっても尚解かれることは無く
あらゆる意味で繋ぎとめるために一層強く繋がったままであった。

524:名無しさん@ピンキー
09/12/14 23:41:55 wJjcjbFm
気だるい感じから覚醒すると、マックスを抱える形でベッド端にもたれ掛かっていた。
どうやら努力もむなしく、最中に意識を完全に飛ばしたらしい。
マックスもマックスで脱力し、自身を支柱にしてもたれ掛かり動かなくなっている。
「腹上死…」
縁起でもないことをぼやくと、天罰が下ったのか頭痛が襲い掛かってきた。
ズキズキ痛むこめかみを押さえながら、未だ繋がったままの状態から脱しようとする。
相手が痛みを感じない今のうちにやるべきことだろう。
結合部は酷く汚れており、おまけにぬめり気が酷い。直視しないように慎重に引き抜いた。
「……う…」
どちらからともない呻きが漏れ、引き離れる。
「…気色悪い」
感覚と、自分自身が。さっさと身奇麗にして外の空気でも吸ってくるに限る。
まだ身体の都合で行動制限があるが
空気が篭った室内よりも病室前ロビーのほうがマシだろうと考えつつ。

部屋に戻るとマックスが呆然として宙を仰いでいた。
「起きたの?」
「……うん、ついさっき」
「ティッシュとかタオルとか要る?」
「あー…うん、そこ置いといて」
けだるいのだろう。今は動きたくないという気持ちがわかる。
「落ち着いたら早めにやった方がいい、心地悪いだろうし」
「…仁ってさぁ……」
「………何?」
「…やっぱいいや、なんでもない」
言おうとして中断されると余計に気になったが、そうか、と軽く流すことにしておいた。

しばらく経って、まあ明言するのも面倒な色々な雑用ごとを終えてから
マックスがベッド上でくつろぐ自身に体重を掛けてきた。
ちょっかいをかけにきているのか、甘えているのか。真相は彼しかわからない。
「重い。狭くなるからそっちの椅子行ってくれない?」
「やだ、めんどい。動くのだるい。もうちょいつめてよ」
「………」
自業自得、だが連帯責任でもあるので従う。
「……これでいい?」
「はいどーもー。
 …けど意外だったなー。あれだけ性欲無いとか言ってた仁がヤッてくれるなんて」
「ちょっと外出てくる」
「行かせないし」
阻止され再び腰を下ろす。下ネタは苦手なのにこれこそ自業自得というもの。
「黒歴史。魔が差した。若気の至り。一時の気の迷い。未熟さ故のあやまち」
「そこまで言う?
 でもさ、好きかどうかは言わないくせに」
「………」
「順序逆じゃない?」
正論すぎて何も言えない。
ついでにコイツは己の気持ちを確信している。
「ねー仁、それってどうなの?」
「………うるさい」
「なーにー?きこえなーい」
本気で向き合えないこちらの心境など露知らず、顔を覗き込もうとする相手が心底憎たらしい。
「…結局は変わるきっかけが欲しかったのかもしれない」
ネガティブ方向へ自己完結してしまう悪癖、思い込みの類。
だからといって、己が最も嫌悪する
性的行為という手段を用いたのは我ながら飛躍しすぎとは思うが。
それが祟って、今では別方面の嫌悪やら羞恥やらが入り混じって
混沌とした感情を抱くようになってしまった。

525:名無しさん@ピンキー
09/12/14 23:42:23 wJjcjbFm
気だるい感じから覚醒すると、マックスを抱える形でベッド端にもたれ掛かっていた。
どうやら努力もむなしく、最中に意識を完全に飛ばしたらしい。
マックスもマックスで脱力し、自身を支柱にしてもたれ掛かり動かなくなっている。
「腹上死…」
縁起でもないことをぼやくと、天罰が下ったのか頭痛が襲い掛かってきた。
ズキズキ痛むこめかみを押さえながら、未だ繋がったままの状態から脱しようとする。
相手が痛みを感じない今のうちにやるべきことだろう。
結合部は酷く汚れており、おまけにぬめり気が酷い。直視しないように慎重に引き抜いた。
「……う…」
どちらからともない呻きが漏れ、引き離れる。
「…気色悪い」
感覚と、自分自身が。さっさと身奇麗にして外の空気でも吸ってくるに限る。
まだ身体の都合で行動制限があるが
空気が篭った室内よりも病室前ロビーのほうがマシだろうと考えつつ。

部屋に戻るとマックスが呆然として宙を仰いでいた。
「起きたの?」
「……うん、ついさっき」
「ティッシュとかタオルとか要る?」
「あー…うん、そこ置いといて」
けだるいのだろう。今は動きたくないという気持ちがわかる。
「落ち着いたら早めにやった方がいい、心地悪いだろうし」
「…仁ってさぁ……」
「………何?」
「…やっぱいいや、なんでもない」
言おうとして中断されると余計に気になったが、そうか、と軽く流すことにしておいた。

しばらく経って、まあ明言するのも面倒な色々な雑用ごとを終えてから
マックスがベッド上でくつろぐ自身に体重を掛けてきた。
ちょっかいをかけにきているのか、甘えているのか。真相は彼しかわからない。
「重い。狭くなるからそっちの椅子行ってくれない?」
「やだ、めんどい。動くのだるい。もうちょいつめてよ」
「………」
自業自得、だが連帯責任でもあるので従う。
「……これでいい?」
「はいどーもー。
 …けど意外だったなー。あれだけ性欲無いとか言ってた仁がヤッてくれるなんて」
「ちょっと外出てくる」
「行かせないし」
阻止され再び腰を下ろす。下ネタは苦手なのにこれこそ自業自得というもの。
「黒歴史。魔が差した。若気の至り。一時の気の迷い。未熟さ故のあやまち」
「そこまで言う?
 でもさ、好きかどうかは言わないくせに」
「………」
「順序逆じゃない?」
正論すぎて何も言えない。
ついでにコイツは己の気持ちを確信している。
「ねー仁、それってどうなの?」
「………うるさい」
「なーにー?きこえなーい」
本気で向き合えないこちらの心境など露知らず、顔を覗き込もうとする相手が心底憎たらしい。
「…結局は変わるきっかけが欲しかったのかもしれない」
ネガティブ方向へ自己完結してしまう悪癖、思い込みの類。
だからといって、己が最も嫌悪する
性的行為という手段を用いたのは我ながら飛躍しすぎとは思うが。
それが祟って、今では別方面の嫌悪やら羞恥やらが入り混じって
混沌とした感情を抱くようになってしまった。



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