09/12/14 23:19:51 2btl0YWR
「ね~え?じーんー」
ニコニコしながらこちらを眺めてくる。
あちらの気分は上々なのだろうが、あいにくこちらは最悪だ。
「本当は飲んでもよかったんだけどね~
仁は抵抗あるだろうから、かわいそうだしね~」
鼻歌でも歌い出しかねないほど上機嫌に言葉を紡いでいる。
「気持ちよかったでしょ?」
「……腹が、痛い」
とりあえず一方的に喋り倒すこいつを黙らせたい。
今の自分の状態を口に出すことからはじめてみた。
「…そっか……
イくときって自然と下腹に力入るもんだからね……」
腹をゆっくり撫でられた。
「ごめんね。
ボク、ウッカリしてた。痛かったでしょ…?」
「………」
このようにしんみりされてしまえば、何も言うことができない。
計算なのか、天然なのか。
とりあえず卑怯だ。
「…下半身、寒いんだけど」
原因は自分だが、この場の空気にいたたまれなくなり
後片付けを要求する。
「…え?あ、ごめんね」
暫く無言で腹を撫で続けていた手が止まる。
テキパキと、手際よく全てが元に戻された。
「…で、そろそろ本気で戻ったほうがいいんじゃない?」
「…そうだね、そうする」
この薄暗い病室内で、時計を確認することができない。
ならばと携帯電話に手を伸ばそうとして、やめた。
おそらく今、消灯時間を迎える一歩手前くらいの時刻だろう。
「じゃあね、仁。
また来るから、バイバイ」
「………」
もう来なくていいから。
言い返すのも面倒くさくなって、無言で見送ることにした。
いや、目線を合わせていないので『見送る』は誤用かもしれない。
もう考えたくない、シカトでいいか。
全てのことに投げやりになってしまったところで、都合よく睡魔が襲ってきた。
明日はまた色々なことがあるのだろう。
特に手術がある。
折角眠くなったのだ、このまま身を委ねよう。
このまま瞼を閉じ、何を考えることも無く夢の中へ。
せめて次に目が覚めるときは、どうか変なことに巻き込まれませんように。
祈りにも似たこの願いを胸に、意識を手放していったのだった…
終了