◆女性に捕食されるされるスレ◆ 二口目at EROPARO
◆女性に捕食されるされるスレ◆ 二口目 - 暇つぶし2ch402:名無しさん@ピンキー
10/02/13 23:08:17 wTfcKqBp
>>401はスルー。

403:名無しさん@ピンキー
10/02/14 01:13:01 7jQqbMIZ
INHUMAN

人間(の中に)に入る

丸呑み

 千絵

404:名無しさん@ピンキー
10/02/14 18:20:20 VjkYEO7V
>>403
ひとの なかに いる!

405:名無しさん@ピンキー
10/02/14 18:51:38 VwER58Jz
テセラックはQ方向にいる!

406:名無しさん@ピンキー
10/02/14 19:04:05 +U2M1HBy
良く分かったな
俺ぜんぜん分からんかったよ

407:名無しさん@ピンキー
10/02/14 21:32:37 IUaEbkVJ
三次元は四次元に丸呑みされているんだと考えると
なんかドキドキしてきた。

408:名無しさん@ピンキー
10/02/14 23:44:40 mhHZHKaz
なんつー酷いこじつけだ

409:名無しさん@ピンキー
10/02/15 00:39:08 +2SFiRfK
ピクシヴで丸呑みって検索

410:名無しさん@ピンキー
10/02/15 00:50:09 u2vyHmxg
っつーかみんなピクシブ見れるの?

411:名無しさん@ピンキー
10/02/15 01:20:57 DUoN+LyJ
登録制だが無料だし少なからず居るんじゃね

412:名無しさん@ピンキー
10/02/15 02:24:22 PBN6et1K
絵が描けないからなぁ。

413:名無しさん@ピンキー
10/02/15 02:38:59 UatyAKMb
ミルダケタダ、ミルダケタダネ、シャチョサン

414:名無しさん@ピンキー
10/02/15 03:13:16 idek24Z6
前に腐肉さんの漫画化した人もピクシブだったが…なんか最近あのサイト重い

415:腐肉(P.N.)
10/02/15 05:07:21 CwOsGmA2
蓮杖千絵と小山内佳奈は、来るべき決戦に向けてエネルギーを蓄えておかねばならなかった。
カラオケボックスは理想的な餌場だ。獲物が悲鳴を上げても問題は無し、密室性が高く、平日の日中ともあれば邪魔が入る心配も無い。
佳奈は我ながら良い考えを思いついたものだと得意になっていた。千絵がカウンターの従業員を平らげると、佳奈は素早くシフト表をチェックした。
千絵が個室の方に向かうと、佳奈はもう一人の従業員を始末すべく、廊下の突き当たりのドリンクバーを目指した。
20代半ばと思われる太った女性が彼女に背を向けカクテルのグラスをマドラーでかき回していた。
佳奈は肩に掛けたスポーツバッグを徐に床に降ろすと、中から布で覆った例の凶器を取り出した。
太った従業員は彼女の存在に気付いていない。佳奈は残忍な笑みを浮かべて刀を振り下ろした。
スライサーは本来、人間の頭蓋骨を真っ二つに叩き割るほど強靭な刃物ではない。それを成し得たのは単に佳奈の文字通り怪物的な腕力によるものだった。
太った女性には何が起こったのかさっぱり分からなかった。急に視界が滲み、手にしたカクテルグラスにどこからか赤い液体が数滴ぽたぽたと落ちてきた。
それが自分の顎の辺りから突き出した鋼色に鈍く輝く刃物の切っ先から垂れている自らの血だと気付いた瞬間、彼女は絶命した。
佳奈は女性の下顎骨で閊えているスライサーを、そのまま力任せに下へ振り切った。飛び散った血しぶきは僅かだったが、
制服のスカートが調度真ん中の辺りでぱっくりと分かれてはらりと落ちるや否や、女性の身体は左右対称に真っ二つに割れ、床に崩れ落ちた。
「きゃああああああああああ!!!!!!!」
その時、佳奈の背後で悲鳴がした。振り向くと、一人の女性が廊下の向こうに立ちすくみわなわなと震えている。大方タイミング悪くトイレにでも立ったのだろう。
「何?」
悲鳴を聞きつけ、離れた個室の扉が開いた。
顔を覗かせた中年の男は、2本の長い刃物を手にした佳奈と、床に屑折れた血塗れの店員の亡骸を見るなり、野太い叫び声を上げて扉を閉めた。
佳奈は無言で踵を返し、中年男性は無視してつかつかと廊下を女性の方に向かって歩き出した。途中、スライサーをぶんと一振りして付着した血液を払った。
女性は脅えた目で彼女を凝視したまま数歩後ずさり、すぐに廊下を反対側へ駆け出した。
仕事が早く掃けて友人とちょっとこの店に立ち寄っただけであった彼女は、パニックに陥っていた。
あまりに混乱していたため、廊下の角で妊婦のように腹をぽっこりと膨らませた少女とすれ違った事にも気付かなかった。
少女はちょっと女性を振り向くと、すぐに廊下の向こうからやってくる佳奈を認め、逃げる女性を無視して廊下を進んだ。
千絵はすれ違い様に、佳奈に向かってハイタッチの姿勢で左手を上げた。
両手に刃物を握っていた佳奈はタッチする代わりにスライサーの研ぎ澄まされた刃を千絵の鋭い爪に当ててカンっと乾いた音を立てた。
佳奈が廊下の角を曲がって姿を消した途端、金属が有機体を切り裂く湿った音が木霊した。
廊下の向こうの壁に血が飛び散るのをちらりと見てから、千絵は先ほど中年男性が身を隠した個室のドアを蹴り開けた。蝶番が砕け、ドアは内側に吹き飛ぶ。
中から太い悲鳴が聞こえる部屋に、千絵は無言で踏み入った。次の瞬間、血しぶきが上がった。
血しぶきはドアの無くなった部屋から飛び出し、廊下の反対側の壁を赤く染める。
やがて巨大な口が肉を呑み込む下品な音だけが、店内を満たした。
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416:腐肉(P.N.)
10/02/15 05:10:18 CwOsGmA2
「ねぇ、佳奈?」
ぼってりと膨れた腹を抱え、ドリンクバーの前の地べたに脚を広げて座ると、千絵は言った。佳奈は隣で、店員の裂けた頭から脳髄をすすり出しながら、千絵の方を向く。
「昨日の話…ごめんね、叶えてあげられなくて。」
ずびっと音を立てて、佳奈は柔らかい薄桃色の髄の最後の一欠片を吸い込む。
「何が言いたいかって言うと…その… 足手まといなんて、思ってないから。佳奈が居なかったら私、今頃死んでたかもしれない。
だから、佳奈がこうなってしまった事も、もう私のせいだとか思わない。佳奈はどっちにしろ、私と一緒に最後まで戦ってくれたと思う。怪物でなくても。」
佳奈はごきゅっと音を立てて頬張った脳を呑み込むと、微笑んだ。
「私にとって、千絵は千絵だよ。怪物なんて、思ったこと無い。これが私たちの、あるべき姿なの。」
そう言って佳奈は親友の腹にキスをした。その優しい唇の感触に千絵の腹は微かに震える。
「ごめんね、私こそ我がまま言って。」
「謝らなくていいよ。私が…」
その後は、口付けに遮られた。やがて千絵は立ち上がると、どこかの個室に置いて来た上着を探して持ってきた。
佳奈にそれを渡すと、自分も肩から引っ掛けて言う。
「さて、まだ日暮れまで時間があるけど、どっか行きたいところある?」
千絵は、立ち上がろうとして自分の腹の重みでよろけそうになっている佳奈に手を貸した。
「出来れば、腹ごしらえが出来る場所がいいなっ。まだ足りない…“あいつ”と戦うには。」
すでに消化が進み小さくなり始めている腹をさすって千絵が言う。
「あんまり食べ過ぎると、メインディッシュが入らなくなるよ?“あいつ”を食べるんだから。」
佳奈はそう言いながら少し考えるように俯くと、顔をぱっと輝かせて言う。
「動物園に行きたいなっ!」
「今から?もうすぐ閉園なんじゃないかな…。」
千絵は廊下に掛かった時計にちらりと目を遣り残念無念というように呟く。
「それでも良いよ。今なら、入れるでしょ?」
佳奈は無垢な笑顔を千絵に向ける。千絵は敵わないと知っている。
「ねっ?」
千絵は折れて仕方ないな、というように笑う。
「…それもそうか。修学旅行の時とは、違うもんね。」

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カラオケ店“エコーズ”から19人の人間が消滅した頃、“劔持”と表札の掛かっているとある民家の前に、一人の警官が現れた。
と言っても、伊豆波辰朗の姿を一目見て警官であると判別できる人間はそう居ないだろう。
ジャンパーにニット帽というカジュアルな服装に身を包んだ彼は、周囲の様子、特に家の中の様子を覗いながら玄関の前に立つと、2度チャイムを鳴らした。
返事は無い。それはそうだろう。
彼や村雨の推測が正しければ、この家の住人である劔持夫妻は、5日前に突如現れた蓮杖千絵と小山内佳奈、通称“オブジェクトD”及び“オブジェクトE”によって既に殺されている。
そして彼が監視している2体の怪物は、今日の昼過ぎに家を空けた。だが恐らく現在、家の中には拉致された西東京事件の生存者、周防美里が監禁されている筈である。
最悪の場合、殺されているかも知れない。
それだけでも確かめようと、伊豆波はこっそり裏口に回ると、勝手口の鍵を出来るだけ傷の残らないようにしてこじ開けた。
家の中に入ると、伊豆波の心臓は早鐘のように鳴った。家には誘拐された少女以外無人である筈なのは分かっている。
だがそこは何か、人が立ち入ってはならないような空気に満ちていた。まるで獣の檻である。いつでも銃を抜けるように右手を脇腹のホルスターに掛けると、
伊豆波は足音を立てぬよう抜き足差し足して台所を横切った。台所のゴミ箱から、恐らく人間の骨と思しき焼け焦げた塊が覗いていた。
あの日の午後、村雨オフィスで聞いたとおり、彼が相手にしているのは正真正銘の人を喰う怪物なのだ。
最初は信じられなかったが、今は、彼の30年余りの人生で培った価値観、この世界に対する見る目が全て覆されてしまっている。
だが今は、すでに死んだ人よりも、これから救える可能性のある人の事を考えるべき時だ。伊豆波は腐臭を放つ残骸を無視すると、廊下へ出た。
すぐに階段下の地下室へ通じる扉に目が行くが、その前に居間や浴室をチェックする。二階からも物音はしない。
完全に無人である事を確認すると、伊豆波は地下室へ通じる扉を開けた。中から強烈な腐臭と鉄の臭い…血の臭いが立ち込める。
もう手遅れかもしれない。そんな予感を胸に覚悟を決めると、伊豆波は軋む木の階段を降り始めた。


[続]

417:名無しさん@ピンキー
10/02/15 13:32:51 ratlpaL2
GJ!!投稿早いですね

418:腐肉(P.N.)
10/02/15 19:00:33 slHcAvc5
窓の無い地下室は昼でも真っ暗で、一寸先も見えない。
ただ噎せ返るような悪臭が壁のように待ち構えるのみだ。伊豆波は打ち放しのコンクリート壁を手で探り、電灯のスイッチを見つけた。
天上からぶら下がった裸電球に光が灯る。照らし出された地下室は、悪夢のような光景だった。
糞のように茶色く変色した、肉の削がれた人骨が数体、汚らしい粘り気のありそうな液体を床に染み付かせて転がっている。
その周囲を蝿が舞い、数匹の鼠が慌てて逃げて行った。
地下室の中央に、古い木製の椅子に歪んだ金属でがんじがらめに縛り付けられた少女の姿があった。伊豆波は骸骨を避けながら彼女に駆け寄る。
「周防美里か?」
彼は声を殺して尋ねる。
「大丈夫か?」
「ん…」
少女は呻き声を上げた。服はずたずたに裂かれ殆ど裸で、血塗れだがその血は既に乾いており、襤褸のように身体に貼り付いている。
両肩に癒えかけた歪な深い傷がある。それから…。
伊豆波は視線を下に移して驚いた。少女の裂けたスカートの中に、ぐちゃぐちゃになった肉が見えた。
血は止まり皮膚も再生しかけて、もはや古傷のように見えるが、それは明らかに女子の肉体ではなかった。
そこにあったものが、引き千切られた痕跡である。そして縛られた“少女”は、自らの手で股座をまさぐっている。
本来性を感じる部分を奪われ、代わりに肛門を刺激して自慰をしている。
伊豆波はその光景にしばし呆然としたが、すぐに状況を飲み込み、辛抱強く話しかけた。
「君は弟の方か。」
“少女”は黙って頷こうとした。鉄の枷が首に巻き付いているので頭は動かせなかったが、伊豆波はそれをイエスと受け取った。
「やはり、姉が… 周防美里は、怪物なんだな?」
「うっ…」
周防美和は掠れる声で呻いた。歪な鉄のロープが喉を圧迫しているようだ。
「待ってろ、今外してやる。」
伊豆波は屈み込み、少年をがんじがらめにする金属の拘束具に手を掛けたが、びくともしない。恐らく、元は何かの柄か配管だったものだろう。
それをこんなにもぐにゃりと曲げてしまうとは、何と言う怪力だ。伊豆波は何度か首の部分だけでも外せはしないかと力の限り引っ張ったが無駄だった。
「すまんな…。」
彼は息を弾ませながら呟く。
「でも心配するな、今すぐここから連れ出してやるから。」
彼は椅子ごと少年を運び出そうと、ぼろぼろの椅子の背に手を掛けた。その時少年が呻いた。
「だめ…」
「何だって?」
「見つかる…」
「心配要らない、守ってやるから。」
「お姉ちゃんが…」
その言葉を聞いて、伊豆波は手を止めた。

419:腐肉(P.N.)
10/02/15 19:01:23 slHcAvc5
「姉の居場所を知っているのか?」
「うぅ…」
少年は細目を開けて伊豆波を見つめた。
「千絵…おねえちゃんと、佳奈おねえちゃん…連れて行く。行かなきゃ…」
「あの2人を、お前の姉のところへ案内するんだな?」
伊豆波は興奮気味に少年の放す内容を纏めて繰り返す。少年は頷こうとして顎を動かした。
「お姉ちゃん… あいつらを殺す。」
「お前の姉が、蓮杖千絵と小山内佳奈を殺すのか?」
「うん…」
伊豆波は背筋を冷たいものが駆けるのを感じた。恐ろしい事だが、一方でそれはある種の喜びだった。
“オブジェクトD,E”を“C”に引き合わせる。相打ちにするために。
こんなにも物事が上手く進むとは思っても見なかった事だ。しかもこの少年は、自らその罠を仕掛けその役を買って出ようとしている。
「よし…」
伊豆波は呟いた。彼が嫌悪していた人間、村雨の思考が、今や彼の心を支配しようとしていた。
目的のため、目の前の囚われの少年を犠牲にしようとしていた。
「君は、私に会った事は絶対にあの2人には言っちゃだめだ。予定通り、あの2人を姉の元に案内するんだ。」
伊豆波は声を震わせ言った。
「そうすれば、我々もあの2人を殺すのに協力する。大丈夫、君の安全は守ってやる。もちろん、君のお姉さんも。」
伊豆波は少年に微笑んで見せた。空虚な、偽りの微笑を。
「やれるか?」
「うん…」
少年は言った。
「よし…。」
伊豆波はごそごそとポケットを探ると、警官が証拠品を入れる透明な密封袋を取り出した。中に小指の爪ほどの黒いチップが数個入っている。
伊豆波はその内の一つを取り出すと、美和に見えるように目の前に掲げて言う。
「これは発信機だ。これを身につけていれば、私たちには君の居場所が分かるからね。これを飲むんだ。飲めるか?」
伊豆波はチップを少年の口元に持っていった。
「大丈夫、身体に悪いものじゃない。薬のカプセルと同じくらいのものだ。」
少年は口を開けて舌を延ばすと、チップを受け取り口に含んだ。
首を締め付けられており飲み込むのに多少時間がかかったが、彼は無事に発信機を体内に納めた。
「よし…。」
伊豆波は立ち上がり言うと、少年の方を向いたまま階段の方へ一歩下がった。
「心配するな、ちゃんと離れたところから見張ってるからな。」
そう言って彼は地下室の明かりを消した。離れて行く刑事の足音を聞きながら、周防美和は心の中で呟いた。
姉は、あの男も殺すだろう。殺して喰い千切って、ばらばらにして、呑み込んで…。


[続]

420:名無しさん@ピンキー
10/02/15 23:04:15 DUoN+LyJ
美和の精神ぶっ壊れたか・・・南無

421:名無しさん@ピンキー
10/02/15 23:45:52 Ypj3kdg4
だれか美和くんにぶっといおちんちんつけてあげて!

422:名無しさん@ピンキー
10/02/15 23:58:18 99/qCd+I
>>421
うっかり佳奈さんの体液を口にして二重感染してたらどうする
なんかうじゅるうじゅると変なもの生えてきたらどうする

423:名無しさん@ピンキー
10/02/16 00:37:42 e2yuOryk
>>422
佳奈たんなら「でもこれってスレ違いよね」とか言いながら
生えてきたのを次々にばくばく食べてくれるはずだ!

というかそもそも美和くんのちんこ切れたのって
佳奈たんが絶頂したときにうっかり食い千切ったんであって
実は事故だよね?

C,D,Eと先に進むたび獣としての能力と本能が劣化していくというのは
つまりオブジェクトたちに未来がないことを示していて悲しすぎる。
そして何故千絵より上位であるはずのCは地下に閉じこもっているのか。
獣が身を隠すときは……と考えていくと今後の展開はヤバすぎる気がするぜ。

424:腐肉(P.N.)
10/02/16 22:29:50 /rIO2ksi
太陽は桃色の残光を暗くなった空に残しビルの向こうへ消えた。木津三平は腰から懐中電灯を取り出すと、石畳の通路を照らしながら檻の間をゆっくりと歩き始めた。
夜の動物園は気味が悪いが、閉園直後のこの時間にはまだ飼育員もかなり残っていると思うと少し気が楽だ。
夜間も警備員の他に必ず3人は常駐しているのだが、それでも、一人で見回りというのは心細い。基本的に肉食獣は夜行性で、檻の向こうの闇や、
薄明かりの灯った小屋から唸り声や身じろぐ音がする度に、木津は肝を冷やす。早くこんな仕事を辞めて転職したかった。彼は溜息を吐き、再び檻の間を歩き始めた。
昼間は子供や家族連れで賑わう楽しげな通路も、夜にはただ閑散と寂しく、不吉な獣の臭いが立ち込める。だがどうだろう。その日は心なしか、臭いが薄く感じた。
檻の中から唸り声も、毛皮の擦れる音も聞こえない。動物が興奮するので、檻の方には懐中電灯を向けてはいけない事になっていた。
そこで木津は目を凝らして、鉄格子の中の暗闇を見た。その中にいる獣を確認しようとしたのだが、何も見えない。檻のプレートには“ジャコウネコ”とある。
つまり、夜行性だ。妙だな、山猫をどこかへ移したのだろうか?その時、ベルトから下げた無線機がザザっとノイズ音を吐き出し静寂を破った。
木津は驚き飛び上がりそうになりながら、無線機を引っ掴む。今夜のもう一人の警備員である韮澤の声が、機械からくぐもって聞こえた。
「木津さん、“ゴリラの森”ってもう通りました?」
「いや、まだだ。」
「センターから連絡で、飼育員2名がまだ戻らないそうです。」
木津が蛍光盤の付いた時計に目を遣ると、7時を回ったところだった。そろそろ清掃員や土産物店のスタッフ、夜勤ではない飼育員などは皆帰ってしまった頃だ。
「遅いな。」
彼は呟く。
「ええ、そうなんです。何かトラブルかも知れないんで、確認お願いできますか?」
韮澤が言う。
「了解。」
木津は答えると、園内の一番端にあるゴリラの区画へ向かった。ゴリラはとても敏感な動物で、閉園後は檻の脇にある飼育小屋の屋内へと入る事になっていた。
木津が“ゴリラの森”と呼ばれるゾーンに近づくにつれ、明らかな異常が判明してきた。
ガラスで仕切られた檻の明かりが点いている。閉園後は担当飼育員が消灯するはずだ。
という事は、閉園前か閉園直後から、担当飼育員はここへ来ていない。木津はごくりと唾を飲み込むと、意を決して飼育小屋の方へ向かった。
ステンレスの扉をノックすると、ゴンゴンという重い音が響いたきり、返事は無い。ノブを回してみると、カチャリと音を立てて扉はゆっくりと開いた。
木津は鼓動が早まるのを感じながら、懐中電灯を小屋の中へ向ける。だが中は電気が点いていた。入ってみると、そこに人の姿は無かった。
檻の戸は閉められ、掃除用具や餌やり用具は整然と並べられ何一つ乱れた所は無い。木津はほっと胸を撫で下ろし、懐中電灯を下げた。だがすぐに妙な事に気づいた。
ゴリラが居ない。外のケイジにも姿は見当たらなかったし、檻の鍵はしっかりと鎖で巻かれ錠がかけられている。
木津は檻を一周しようとしてふと、鉄格子の端が大きく歪んでいるのを発見し愕然とした。だがゴリラの腕力をもってしても、動物園の檻を捻じ曲げる事など不可能だ。
そんな事は重機でも持ち込まない限り不可能だ。ゴリラは逃げたのではない。まさか、盗まれたのだろうか?
木津は慌てて無線機のスイッチを入れ韮澤を呼んだ。
「韮澤、今ゴリラの檻だ。鉄格子がひん曲げられて、ゴリラが消えてる。」
すぐに韮澤のくぐもった声が応え、木津は少しほっとした。
「何ですって?何頭?」
「全部だ。一頭残らず消えてる。飼育員も居ない。」
ややあって韮澤が言う。
「すぐ、そっちへ行きます。」

425:腐肉(P.N.)
10/02/16 22:31:34 /rIO2ksi
プツッという音と共に交信が終わると、木津はすぐに飼育小屋を離れた。
気味が悪くて中で待ちたくなかったのだ。外へ出て、韮澤の駆けて来る足音がしないかと耳を済ませる。
その時彼は気付いた。遠くを走るかすかな車の音や水の流れる音以外、園内は静まり返っている。全くの無音なのだ。
動物園には300種以上の生き物が飼育されている。そのうち彼の居る区画だけでも大型哺乳類が40頭は居る筈だ。
それが1匹たりとも物音一つ立てずにじっと静止しているなどという事がありえる筈が無い。
木津は背筋に走る悪寒と戦いながら駆け出した。シロクマの檻に近づくと、彼は規則に反し囲いの中に電灯の光を向けた。
途端に信じられない光景が飛び込んできた。ずたずたにされてところどころ血で汚れた毛皮と、折り重なる肉の削がれた骨の山だ。シロクマのものだけではない。
恐らくゴリラのものと思われる巨大な頭蓋も転がっていた。木津は元々動物好きという訳ではなかったが、そのあまりの惨たらしさに思わず口に手を当てて顔を背けた。
犯人は何の目的でこんな事をしたというのだ?以前外国の動物園で、毛皮を剥ぐ為に飼育動物が殺されるという事件があったと聞いた事があるが、これはまるで違う。
毛皮は残骸の中に打ち捨てられている。まるでより強い捕食動物が食い荒らした跡のようだ。その時足音が聞こえ、木津は素早く振り返った。
韮澤の懐中電灯が弾むように近づいて来るところだった。
「木津さん…!大変です!!」
若い声が叫ぶ。彼は木津に追いつくと息を整える間もなくまくし立てた。
「あっちでトラが死んでます。クマも1頭残らず消えてる!鳥と、猿とか小型動物だけ無事ですが、何かにひどく脅えて隠れています。」
「飼育センターに連絡したか?」
木津は韮澤の背中をなだめるようにさすって尋ねる。
「それが…繋がらないんです。」
「一人もか?」
その時また何かの足音が聞こえ、2人の警備員は顔を上げた。途端に、2人は胃袋に氷水を注ぎ込まれたかのようにその場に凍りついた。
巨大なライオンが2頭、彼らめがけて駆け寄ってくる!
「ああああああああっ!!!!!」
韮澤が情けない声を上げ、その場にくず折れる。彼の肩を掴んでいた木津も、全身の力を奪われ韮澤に釣られて地面にへたり込む。
あの猛獣どもが果たして、他の動物をこんなにした犯人なのか?そんな疑問が彼の脳裏を過ぎった。2頭の百獣の王は、何かから逃げているように見えたのだ。
次の瞬間、空から何かが降ってきて先頭の雄の上に着地した。雄ライオンは頭を踏み抜かれ、その場に倒れると動かなくなった。
ふさふさの美しい鬣はあっと言う間に血で汚れたモップのように変わり果てた。
2人の警備員がライオンの死骸から視線を上げると、美しい色白の少女が身体中を獣の血に染め立っていた。
腹が異様に大きく膨らみ、その重みで倒れそうになっている。
少女は警備員らを無視してライオンの上に覆いかぶさると、素手でバリバリと毛皮を剥ぎ取り、露わになった湯気を上げる真っ赤な肉を食い千切った。
もう一頭の雌ライオンは逃げようとして再び警備員の方へ駆けて来る。
「ひぇっ…!」
韮澤が声を上げたその時、彼らの背後のシロクマの囲いから何かが飛び出し、雌ライオンを捕らえた。
それは見たことも無いような巨大な蛸の足のような桃色の触手だった。
触手がライオンの体を締め上げると、お手拭を絞ったように猛獣の身体は捩れ、バツンと音を立てて毛皮がはち切れた。百獣の王の断末魔が夜の動物園に木霊する。
「あれっ、いつの間にか観客が居るよ、佳奈。」
背後で何者かの声がして、木津と韮澤は跳ねるようにして振り返った。そこにもう一人別の少女が長い髪を妖艶に夜風になびかせ立っていた。
少女の胸の辺りから巨大な触手が延び、ライオンを捕らえていた。彼女は深さ5メートルはあろうかというシロクマの囲いの堀の上に、浮いている。
いや、よく見ると、腹の辺りから出ている別の触手を梯子のようにして囲いの中に立っているのだ。
少女がにっと笑うと、触手はライオンの肉を絡めたまま物凄い速さで引っ込み、胸元の亀裂に消えた。少女の腹がびくんと震え、また少し大きくなる。
少女は天を仰ぐと、獣の咆哮のような、いやそれよりも大きく耳を劈くようなゲップをした。木々が震え、無数の鳥が危険を察知して飛び立った。


[続]

426:名無しさん@ピンキー
10/02/16 23:10:41 cTJGvGps
>>425
佳奈に触手実装きたー

427:名無しさん@ピンキー
10/02/17 00:16:50 RrOkMsot
もはや底無しの食欲ってレベルじゃねぇw
クラス全員食べたのがまだ少ない方だったとは・・・

>>426
触手を出したのは千絵で佳奈は普通にそのままいってるぞ
俺も一瞬勘違いしたけど

428:名無しさん@ピンキー
10/02/17 01:48:23 YgByKE8l
熊やゴリラより強い千絵タン・・

429:INHUMAN
10/02/17 11:21:30 N4adS/tA
ちょっと、あんたたち!!
こんなスレッド立てて恥ずかしくないの!?
そのうち削除依頼を出して、
消してもらうつもりだから、
覚悟してなさいよね!!

さあ、潰れるざます!
逝くでがんす!
フンガ~!!
まともに潰れなさいよ~!!


430:名無しさん@ピンキー
10/02/17 17:52:15 LYSdBwNd
これが昼間だったら、ジェノサイドモードに…

431:腐肉(P.N.)
10/02/17 20:41:37 scEF7fpH
千絵はシロクマの囲いの淵に脚をかけると、するすると触手を“第二の口”に仕舞いこみ、地上に降り立った。
何十頭もの獣たちを呑み込んだ重みで、着地の際に地震のように地面が震えた。
それが引き金であったかのように、韮澤はがばっと起き上がると言葉にならない叫び声を上げ一目散に逃げ出した。
すぐに再び千絵の胸元ががばっと大きく裂け、触手が弾丸のように延びると逃げる青年の足を捕らえた。
韮澤は勢い余って地面につんのめり、石畳に顔面を酷く打ちつけた。
「いやだ…いやだ…!」
鼻からどくどくと血を流しながら、韮澤は石畳の間に指をかけて這い逃げようとする。
だが残酷無比な怪物はするすると触手を引き上げ、韮澤の身体は石畳の上を打たれながらずるずると引きずられた。
「いやだあああああ!!!!」
韮澤はがむしゃらに腕をばたつかせてもがくが、その指がもう石床を捉える事は無かった。
彼は怪物の足元まで引きずられると、そのまま触手にぐいと持ち上げられあっけなく怪物の胃袋に吸い込まれた。
「あっ…あああっ…!」
木津はわななきながら、無意味に怪物に向かって腕を延ばした。そんな事で身を守れるべくもないと知りながら。
彼が今目にしているそれこそ、まさしく百獣の王、最強の生物だった。彼は抵抗する気力も挫かれ、あっと言う間にばくりと呑み込まれた。
雄ライオンを食い尽くした佳奈が千絵の元へふらふらと歩いてきて、彼女の足元に跪いた。一瞬何かを期待する様な目を千絵に向けると、目を瞑ってあんと口を開ける。
太く巨大なチューブ状の触手が千絵の陰門を押し開けて現れ、佳奈の唇に触れた。佳奈は触手に手を添え、フェラチオするかのようにそれをぱくりと咥える。
千絵の胃袋から触手を伝い、噛み砕かれてどろどろのペースト状になった肉が佳奈の口に流れ込んだ。
「んっ…くっ…」
佳奈は気持ち良さそうにそれを飲み下し始めた。喉がごきゅんごきゅんと規則的な音を立てる。親鳥から餌付けされる雛のように。
佳奈の捕食能力では、千絵ほど効率的に獲物を狩る事が出来ないからだ。千絵は自分の呑み込んだ分を喜んで佳奈に分け与えた。
これから2人が向かう戦いを前に、佳奈も十分栄養を取っておかねばならない。千絵は股座から出た太い肉棒に夢中で吸い付く佳奈の髪を、指で鋤く様にして撫でた。
触手の感じる佳奈の小さな舌や唇、添えられた小さく冷たい手の感触が、全て千絵の性感を刺激し、親友にしゃぶられて千絵は何度も絶頂に達した。
やがて胃袋が満たされると、佳奈は触手から口を離し小さくゲップをした。
「もう…いいの?」
千絵は頬を赤らめて尋ねた。
「んっ…」
佳奈はこくんと頷き、触手の先端から垂れそうになっている最後の一滴を舌で掬い取った。
その際触れた舌先の温かくちょっとくすぐったい感覚で、千絵はもう一度果てた。
佳奈は千絵が触手を仕舞う前に、何度も何度もそのいきり立つ肉の管にキスをした。
生き残った動物たちは、圧倒的な力を持つその2匹の獣たちが去るまで身を潜め、地獄のような一時を味わっている。
人間で言うなら調度「生きた心地がしない」といった感じだろう。
お陰で辺りはしんと静まり返り、2人が口付け合うチュッという音だけが響いた。やがて千絵が言った。
「…行こうか。」
その口調は静かだが、確固たる決意がその小さな胸に秘められている事を佳奈は悟った。
「うん。」
彼女は答え、立ち上がった。
--------------------------------------------------------------------------

432:腐肉(P.N.)
10/02/17 20:43:48 scEF7fpH
11時過ぎに、2人は劔持家へ帰還した。その頃にはもう消化は粗方終わり、千絵は元の体型に戻っていた。佳奈はまだ少し胃が張っていたが、動く分には支障ない。
11時半を回った頃、2人は地下室に監禁していた周防美和を連れて家を後にした。すぐさま、待機していた伊豆波辰朗他数名の監視者が追尾を開始する。
美和の服は佳奈が切り裂いてしまったため、代わりに自分の、彼には少し大きめのワンピースにフード付きのパーカーを着せて顔を見えないようにしている。
千絵も捕食の時によく羽織っている愛用のパーカーに身を包んでおり、端から見ると千絵、佳奈、美和の順に大中小と背の違う姉妹のようにも見えた。
だが実際のところ、佳奈の背負ったナップザックには2本のスライサーが忍ばせてあったし、千絵は美和がまた逃げようとした時のために、常に彼の首筋に手を這わせていた。
その柔らかく冷たい強靭な指の感覚は周防美和をぞくぞくさせたが、千絵はそんな事を知る由も無い。
3人は最寄りの駅から地下鉄に乗ると、いつも美和が線路に降りる駅まで移動した。
到着したのは深夜過ぎで、ホームは最終電車をに間に合った飲み屋帰りのサラリーマンや芝居帰りの女性などで混み合っていた。
3人はホーム内にあるトイレに身を潜め、終電をやり過ごし、やがて最終電車が居なくなりホームに人が居なくなると、3人はトイレから抜け出した。
改札を潜ったは良いが終電には乗り遅れてしまった人々が、ホーム反対側の改札口の駅員に払い戻しを求めて殺到していた。
千絵たちは駅員がその対応に気を取られている隙を見て、ホームの端から線路へ飛び降りた。
「ここからは歩きますよ。」
美和が言った。千絵の指に、声帯の振動が伝わる。3人は闇の中へ足を踏み入れた。途端に、視界から暗黒以外のものが消える。
「どのくらいかかるの?」
千絵の隣りから佳奈の声が尋ねる。
「わかりません…移動してます。目印を辿って行かないと…」
返事を誤りその場で殺される場合を恐れ、美和の声が僅かに震えた。
「急ご。」
千絵はそう言うと、美和を先頭に立たせ歩き出した。千絵の目は瞬時に暗闇に慣れるが、佳奈はまだよく見えないらしく、咄嗟に千絵の腕に縋りつく。
「大丈夫、手、繋いで行こう。」
千絵はそう言うと、佳奈の小さな手をぎゅっと握り締めた。普通の人間である美和はまだちっとも慣れていなかったが千絵の手に首を掴まれているので離れずに済んだ。
「目印ってどれ?」
千絵が尋ねる。
「…骨です。」
「何の?」
「…地下鉄には、今は使われない線路とか待避用の駅がいくつもあって、ホームレスが住み着いてるんです。」
応えはそれで十分だった。千絵は、いつぞや故郷の橋の下で食い殺したホームレスの砂のような味を思い出して顔を顰めた。
彼女がまだ怪物になったばかりの頃の事だ。佳奈に自分の正体を打ち明けたあの夜。あれから半年も経っていないと言うのに、随分と懐かしく感じた。
10分足らずで、先回美和が訪れた時に踏み入った待避駅に繋がる線路の分かれ目に出た。美和は、壁に据えられた蛍光灯の僅かな光を頼りに、薄暗い線路を注意深く見渡す。
「あった。」
やがてそう言うと美和は、先日行ったのとは別の、もっと先へ伸びている線路の方を指差した。
なるほど気をつけていないと砂利と同じに見えるが、確かに人骨と思しき破片が線路の隅に転がっていた。
「やっぱり移動してます。どのくらい先に居るか…」
「行って見ないと分からない、ってこと?」
千絵が言うと、美和は「はい」と小さく頷く。その時、トンネルの真ん中に並ぶ柱の向こうを電車が轟音を上げて過ぎ去って行った。
地下鉄の乗客は滅多に窓の外など見ないが、もしその時たまたま延々と続くガラスの向こうの暗闇に目を遣っている者が居たなら、線路の真ん中で立ち尽くす3人の少女
(正確には1人は少年で、残りの2人も人間では無いが)を発見した事だろう。
だがそれでも、その人物は仕事帰りに飲んだ酒か、自分の目の錯覚のせいにしてやり過ごすだろう。この街では誰もがそうして生きているように。

433:腐肉(P.N.)
10/02/17 20:44:46 scEF7fpH
電車が過ぎ去ると、千絵は車輪とレールが擦れる轟音の残響が残るトンネルの奥を見つめた。配線がむき出しになった裸の蛍光灯だけの粗末な照明が、埃っぽい壁面に沿って、
まるでヴァージンロードを縁取る白い薔薇の花のように並んでいる。トンネルは少し先でカーブして先が見えなくなっているが、奥から吹き付ける生ぬるい風と、
その空気の流れが歌う混声合唱のような音が、その闇の底知れなさを物語っていた。3人は骨の欠片を辿って歩いた。
電車に乗っている時は分からないが、地下鉄の線路は思ったよりもくねくねと曲がりくねり、1時間もすると自分たちが今どの辺りの地下を歩いているのかさえ分からなくなった。
途中、電車が終わり一日の仕事を終えもぬけの殻になった駅のホームをいくつか通過した。しまった後も地下鉄のホームには常に明かりが点いているし、
清掃員や見回りの駅員がまだうろついている可能性があるので、駅を通過するときは3人は身を屈め、ホーム下の待避スペースを通った。
「その電線に触れないように。感電します。」
美和が注意を促した。
また、線路の途中に駅がすっぽり納まるくらいの異様に広い空間が突如現れる事もあった。待避用の空間なのか、それとも駅が作られる予定だった場所かも知れない。
東京の地下には、普段人間たちの目に触れない未知の世界があった。
打ち捨てられた誇りっぽく汚れた空間、忘れ去られ錆び付いた存在、それはまるでこの街のほころびのようだった。そんなものが地下に巡らされている。
“あいつ”の墓場には打って付けの場所だな、と千絵は思った。歩き続けてかれこれ2時間近くが経過した。ただでさえ体力の衰えている美和は足を引きずり始め、
佳奈も埃っぽく重圧的な地下の空気に当てられ気分が悪くなってきていた。だが千絵は、その足で鉄のレールを踏みしめれば踏みしめるほど、
その先に待つ最大最強にして極上の“獲物”の事で頭がいっぱいになっていた。
守るべきものがある彼女にとって、それがどれだけ危険な事か、この時はまだ彼女は気付いていなかった。そしてその時、親友が彼女の想いの裏で、別の考えを巡らせている事も。

-------------------------------------------------------------------------------

3人が地下に潜ると、追尾していた伊豆波以下7人の捜査官たちは途方に暮れた。
彼女らが地下鉄の線路を辿って“C”を探そうとしているのだとしたら厄介だ。真っ暗なトンネル内で尾行など出来る筈が無い。
「少年に埋め込んだ発信機はせいぜい1kmが圏内だ。もたもたしていると見失うぞ。」
伊豆波は苛立ちを隠そうとせずに言った。
「だからと言って地上から追っても何の意味も無い。増援を要請するべきだ。」
別の捜査官が言う。伊豆波は焦っていた。あれからずっと彼の脳裏に、椅子に縛り付けられた少年の姿が焼きついてはなれない。
発信機は、地上と地下に隔てられれば通信できなくなる可能性がある。一刻も早く決断せねば。
「一人残って村雨に連絡して増援を要請。奴らは間違いなく、線路を辿る。半分は地上から、残りはぎりぎりの距離を保って地下を追尾する。
地上部隊は増援隊と合流したら、一つ先の駅から地下へ入れ。」
「もしそれまでに“D”が“C”と遭遇した場合は?」
「まず、それまでに何かあったら、地下部隊だけで何とかするしかない。」
「それがどうした、今にもシグナルが消えようとしているんだぞ!早く追わねば、あの少年まで犠牲にする事になるんだ!」
伊豆波は声を張り上げた。何としても、少年だけは助けねばならない。理性で考えれば、彼が少年に発信機を飲み込ませた時点で、あの少年は捨て駒だった。
人類を怪物から守るための尊い犠牲となっても、仕方ない。そう思っていた。だがここへ来て伊豆波は、あの日村雨のオフィスで捨て切れていなかった枷を思い出したのだ。
良心という名の。彼自身の、一児の父親としての感情を。彼の心はその枷と人類の未来との間で揺れ動いていた。
どうちらも同時に守ってみせる、などと、簡単に言える状況で無い事だけが唯一確かなことだった。


[続]

434:名無しさん@ピンキー
10/02/17 22:09:50 AiNurZen
いよいよか・・・

435:名無しさん@ピンキー
10/02/18 07:42:15 ycBOjajg
フェラ餌付けエロス!

436:腐肉(P.N.)
10/02/18 20:37:34 YmYRBNWd
監視班からの連絡を受けた村雨はすぐに対策本部職員及び警視庁に非常事態宣言を発令した。何としても、この夜のうちにけりを付けるつもりだった。
伊豆波ら5名が地下鉄へ入って15分後、警視庁からの増援が到着した。地上班2名は渋谷付近で合流し、渋谷駅から地下鉄へ侵入した。
渋谷駅では2つの路線が終わる。そこから入れば、先回り出来る筈であった。
警視庁からの応援は、通常装備の機動隊の他に、地下での捜索のための探知機なども含まれた。
電波の届かない地下で最も有効なのは、動く物体を捕らえるソナーである。彼らはそれを頼りに、怪物たちを探した。
探知機を付けた少年を追跡中の伊豆波班からの連絡は、地上の班を経由して彼らにも伝えられた。だが土壇場で伊豆波が立てたプランには唯一誤算があった。
それは地上班からは伊豆波班の位置が分からない事である。渋谷駅から侵入した機動隊は、最新設備を有しており、常にその位置は上空のヘリから追跡されるが、
数時間前まで“オブジェクトD,E”監視任務に当たっていた伊豆波ら5名は、八手康久が行方不明になって以降義務付けられた無線発信機を身に付けていたが、
地下からは電波が届かない上、探知範囲は1kmだった。どこかで一つ間違えば、計画は破綻する。ビルの上を渡した綱を歩いて渡るような、危ない作戦である。
渋谷上空を飛ぶヘリの中で、村雨は舌打ちした。この任に就いて以来、初めて不安を感じた。
若い伊豆波捜査官が彼の助言を無視し感情に走ったせいであるのは分かっていたが、もうどうしようもなかった。賽は投げられてしまった。
そうかと言って、後は神のみぞ知る、などと何もせず暢気に構えている気は無かった。
「渋谷駅周辺を閉鎖。一般人と車両の立ち入りを禁じてください。」
村雨は眼下に広がる霞んだ街の明かりを見下ろしながら無線で指示を出した。それから身を乗り出し、パイロットに尋ねる。
「そこの交差点に着陸できますか?」
パイロットは足元まで広がっている曲面ガラスの窓からちらりと下を見遣り、頷く。村雨はその応えに満足したが、顔色一つ変えずに言う。
「では降りてください。」
この戦いが終わるまで、彼はその表情を変えるつもりは無かった。何が起ころうと。


437:腐肉(P.N.)
10/02/18 20:38:42 YmYRBNWd
「しっ!」
暗闇の中で突然千絵は足を止め、唇に人差指を当てて言った。
そんな事をしても誰にも佳奈と美和には見えない事は分かっていたが、背後から人の声が聞こえた気がしたのだ。
「…何?」
しばらく待っても千絵が何も言わないので佳奈が尋ねる。
自分たちの歩いてきたトンネルの向こうから風と共に吹き抜けてくる音に耳を澄ませながら、千絵は呟く。
「人間…複数。来る。」
佳奈と美和の動揺が、淀んだ空気越しに千絵にも伝わった。足元のレールに微かに感じる振動から、どうやら鉄道の上を歩いているようだと分かった。
千絵には、夜中に地下鉄の線路を歩く人間が、彼女らの追っ手以外に居るとは考えられなかった。だとすれば、取るべき対処は一つであると、千絵はすぐに決断した。
「2人で歩ける?」
千絵は彼女の手をぎゅっと握り締めている親友に小声で尋ねた。
「うん…ちょっとは目が慣れたから…」
佳奈はそう応えたが、その目は不安げだ。だが千絵には、佳奈が心配しているのは自分の事ではなく、千絵の事であると分かっていた。
それは千絵が一人で追っ手に立ち向かおうとしているという事だった。
「もし…銃を持ってたら…?」
佳奈が言った。握った手に更に力が籠もる。千絵は安心させようともう片方の手でその小さな手を包み込むと、微笑んだ。
「喰い千切ってやるよ。」
それから、そっと親友の手を離した。佳奈の指は縋るように千絵の手の平を撫でたが、彼女の手に包まれると自然と力が抜けてしまった。
それから急に、佳奈の手を包むのは冷たい張り詰めた空気だけになった。千絵は佳奈と美和を残し元来た道を数歩戻ったところで振り返って言った。
「先、行ってて。すぐに追い付く。大丈夫、私、強いから。」
そして目にも留まらぬ速さで、その場から消えた。
佳奈は親友の消えた暗闇を見つめ耳を済ませたが、遠くの方で砂利の転がるような音が微かに聞こえたきり、何も聞こえなくなった。
千絵の察知した“追っ手”がどのくらい離れたところに居るのかすら分からない。
佳奈は溜息を吐くと進行方向に向き直り、彼女を待ち受ける、地の底へ続くぽっかりと開いた真っ暗な口とのようなトンネルと対峙した。


[続]

438:名無しさん@ピンキー
10/02/20 01:41:43 CbFh/43D
展開にワクテカ

439:INHUMAN
10/02/20 17:17:03 Wan8Bflt
ちょっと、あんたたち!!
こんなスレッドを立てて非人間的だと思わないの!?
そのうち削除依頼を出して、
消してもらうつもりだから、
覚悟してなさいよね!!

さあ、潰れるざます!
逝くでがんす!
フンガ~!!
まともに潰れなさいよ~!!


440:腐肉(P.N.)
10/02/20 17:30:05 XhDKocBx
伊豆波辰朗は5人の捜査官らと共に線路に沿って地下のトンネルを進んでいた。
所々蛍光灯の照明が設置されているものの、奥は肉眼では殆ど暗闇であるため、懐中電灯を装備していた。
先頭を行く伊豆波が手にした、モニタの付いた手鏡のような探知機は、劣悪な電波環境の中時折周防美和の発信するビーコンを受信し、
画面上に点滅する光点として表示していた。
当然尾行を悟られるのを恐れた彼らは、目標が電波圏外になるぎりぎりの距離を保っていた。
だがそれらの光は、怪物の目に彼らの居場所を知らせるには十分過ぎた。
かつてとある地方高校の陸上部のエースだったその少女が、人体を可能な限り速く前へと押し出す美しいフォームで走る音が、
あるいはその脚力でコンクリートの地面が砕ける音が彼らの耳に届く前に、怪物は彼らの内の一人を血祭りに上げた。
全力疾走していた千絵は勢い余って伊豆波の真横を通り過ぎ、しんがりを努めていた捜査官にもろに跳び蹴りを食らわせた。
地下鉄のトンネルの天上ぎりぎりまで飛び上がった少女の脚が、弾丸のような速さで哀れな警官の身体を粉砕した。
まず足の当たった腹の部分が拉げ、体内で臓器が破裂した。次の瞬間には受け止め切れなかった衝撃が全身に拡散し、肉が文字通り、弾けた。
脆い皮膚を突き破り、筋肉と分離した骨格が身体から弾き出され、がしゃんと音を立てて線路を打った。
その音で初めて、残りの4名は異変に気付いた。
それが何の音か仲間たちが把握するより先に、千絵は第二の口を大きく開くとしんがりの肉を触手で絡め取って胃袋に収めた。
呆然と見つめる4人の警官の頭から血糊が降り注いだ。彼らの手にしたライトが、返り血で赤くなった光で怪物の姿を照らし出した。
服を脱ぐ時間が無かったため、千絵のお気に入りのパーカーは前が破れた状態で彼女の肩から垂れ下がっている。
真っ白な肌を血が赤く染めていた。
「邪魔するな。」
怪物が口を開いた。18歳の少女の声だが、それは4人の内彼女を初めて目にする3人の闘志を砕くのに十分な凄みを帯びていた。
2人はその場にへたり込み、もう1人は線路の上をふらふらと後ずさった。伊豆波だけが微動だにせず、まっすぐ千絵を見つめていた。
彼は瞬時に、自分の愚かさと、そのせいで作戦が失敗した事を悟った。
それから、彼はこの惨めな闇の中で、誰にも見取られずに死ぬのだという事も。
千絵は跳び上がると、腰を抜かして埃っぽい地べたに尻餅を付いた状態で倒れている一番手前の捜査官の胸に着地した。
肋骨が音を立てて砕けたかと思うと、千絵は再び飛び上がる。
地面に打ちつけられた弾みで浮き上がった彼の身体を、触手が素早く締め付け、あっと言う間に腹の中へと引きずり込んだ。

441:腐肉(P.N.)
10/02/20 17:30:47 XhDKocBx
すらりと締まった筋肉質な脚が、もう一人の捜査官を横殴りに蹴り上げる。埃を巻き上げながら宙を舞う彼の身体に、待ち受けていた第二の口が齧り付く。
捜査官の身体に深々と無数の牙が突き刺さり、そのすぐ後ろに立っていた伊豆波に血しぶきがかかる。
伊豆波が最後に見たのは、仲間の身体を半分咥えたまま彼に迫ってくる巨大な口だった。最後に彼の脳を過ぎったのは、自分の愚かさに対する後悔や無念や、
まして悲しみでも怒りでもなく、息子と一緒に見たアニメ映画に登場した巨大な肉食恐竜の姿だった。
千絵の下顎が蜘蛛の口のようにぱっくりと縦に2つに割れ、彼の顔面に横から齧り付いたかと思うと、ゴリンと音を立てて彼の頭部を半分、骨ごと喰いちぎった。
齧られた林檎のように凸凹と汚い断面を見せ、伊豆波の頭はこてんと後ろに仰け反り、小さな噴水のように血を吹き出した。
伊豆波の残りの部分が宙に浮かんで消えてしまうと、彼が手に持っていた探知機はレールの上に落ちてガチャンと音を立て、画面から一切の光が消え去った。
襲撃から仲間が皆殺しにされるまでの僅か10数秒ほどの間に、逃げ出した1人の警官は無線機で地上班と連絡を取ろうとしていた。
「…こ…こちら監視班溝口、“オブジェクト”と遭遇、襲撃を受けた…!」
だが地上班は既に渋谷駅から地下へ潜っており、無線機の向こうからはザーッという乾いたノイズしか聞こえなかった。その時何かが彼の身体に巻き付いた。
「ひぁあっ…!!!」
溝口という名のその男は悲鳴を上げた。見ると腹の辺りを巨大な蛸の脚のような、毒々しいピンク色の触手が締め付けている。
彼の身体は乱暴に捻られ後ろを向かされた。彼は怪物と対面する。
「誰に電話かな?」
千絵が言った。喋りながらも、腹の亀裂からは垂直に流れ出るように更にたくさんの触手が彼の身体めがけて延びて来る。
溝口は手足や首も触手に捕らわれ、地面から持ち上げられた。
エナメル革の靴先が地面から離れると腹の触手が一層強く彼を締め付け、夕食のホットドッグを戻しそうになる。
「まだ他にも居るのかな?」
千絵は触手を少しずつ腹の中に引き戻して溝口を手繰り寄せながら訪ねた。
溝口は触手に首を絞められているのとパニック状態に陥っている事から、口をぱくぱくさせるだけで声が出せない。
やがて少女の顔が目の前までやって来た時、その可愛らしい大きな瞳に世にも恐ろしい残酷な光が宿った。少女は小さな声で囁いた。
「喋らないと、喰い殺すぞ?」
その囁きはトンネル中に木霊し、近くで聞く太鼓の音のように、血管や筋肉、内臓に至るまで彼の全身を内側から震わせた。
彼女は俺を喰おうとしている。俺の命など何とも思っていないどころか、こいつは人間という存在自体をただの餌としか見ていないのだと理解した。
恐怖や畏怖などと言った言葉では言い表せない、これまで感じたことの無い感覚が彼の全身を麻痺させる。
「うあぁあああああああ!!!!!あああああああああ!!!!!」
それが彼の答えだった。
その情けない叫びで、彼の30余年間の人生は幕を降ろした。千絵は触手を使って溝口の身体を頭上に掲げ持つと、力いっぱい捻ってその脆い肉を絞り上げた。
あっと言う間に次々と骨が砕け内臓が破裂する。
悲鳴がごぼごぼという液体から泡の吹き出る音へと変わり、口からだらりと血反吐が流れ出たかと思うと、絞った雑巾のように全身から身体中の血液が流れ出た。
その血を頭から浴びた千絵が口を開けて天を仰ぐと、土砂降りの雨のような血飛沫が舌を伝って喉を潤した。
砕けた骨と擦り切れた皮だけになった溝口の残骸を線路の脇に打ち捨てると、千絵は元来た道を急いで逆戻りし始めた。
予想外の食事で容積が増えたために来た時ほどのスピードは出ないが、すぐに佳奈たちに追いつける筈だと思っていた。
後になって千絵は、あの時佳奈と美和を2人で残した事が最大の過ちであったと気付くのだが、その時にはもう全てが手遅れになっていた。


[続]

442:名無しさん@ピンキー
10/02/20 18:04:15 8jFw97Jx
GJ。
はじめは軽く捕食もののSS読んでるような軽い気持ちだったんだけど、
もう今ととなっちゃぁ、このストーリーの次がみたくてみたくてしょうがない。
腐肉さん天才だ。

443:名無しさん@ピンキー
10/02/20 19:32:10 joTovp2h
捕食描写も容赦ねぇww
ホントよくこんないろんなシチュ思い付くな
GJ

444:名無しさん@ピンキー
10/02/21 02:20:02 TJt2COZz
なんというタルカス

445:名無しさん@ピンキー
10/02/21 02:48:03 MsiHOf0g
こりゃゴリラも敵わんわな

446:INHUMAN
10/02/21 15:47:32 5gsrOuz3
>>439の修正

ちょっと、あんたたち!!
こんなスレッドを立てて非人間的だと思わないの!?
削除依頼を出して消してもらうかどうか、
分からないけど覚悟してなさいよね!!

さあ、潰れるざます!
逝くでがんす!
フンガ~!!
まともに潰れなさいよ~!!


447:名無しさん@ピンキー
10/02/21 18:40:59 K3IQ+dA/
>>446
何か萌える

448:腐肉(P.N.)
10/02/21 19:40:09 nKHc0mhU
「おねえちゃんっ…痛っ…痛いよ…」
美和は耐えかねて声を上げた。佳奈は彼の腕を掴んだまま引き摺る様にトンネルを先へ進む。
彼の肩の関節が不穏な軋みを上げ、不快な振動が身体に伝わる。
様子がおかしい、と美和は思った。千絵のいないこの状況下で、合流する前に先に美里に遭遇したらどうするつもりなのだろうか。
その時、佳奈が彼の腕をぐいっと一際強く引っ張ったかと思うと、そのまま彼の身体を持ち上げ横抱きに抱え、急に駆け出した。
「ちょっ…おねえちゃん…!」
美和は怖くなって悲鳴を上げた。自分の身体を軽々と抱きかかえる佳奈の顔を見上げると、そのこに不気味な笑みが浮かんでいる。
叫んでも暴れても少年には目もくれず、その目は真直ぐに前を、2人を飲み込もうと待ち受けるトンネルの暗闇を見据えていた。
出来るだけ早く、千絵から遠ざかるんだ。
それが佳奈の思惑だった。千絵よりも先に、周防美里を見つけるために。怪物を見つけ、捕らえる。
親友がその怪物を食べてしまう前に、佳奈はあの怪物が必要だった。
佳奈は、千絵と同じになりたかった。千絵に生殖能力が無いのであれば、別の女と交わっても彼女は構わなかった。
全ては千絵と並んで歩くために。
身も心も、千絵と同じ生き物になる事を佳奈はまだ諦めていなかった。周防美里には、彼女の願いを叶える能力がある。
彼女の中に、ヒトとしての死、怪物としての新たな命を産み落とす能力がある。
千絵が食べてしまう前に、佳奈は周防美里から産卵を受けるつもりだった。千絵の居ない今、美和が彼女の手中にある今がチャンスだ。
千絵がすぐには追いつけない距離まで離れて、美和を殺す。
彼女ら怪物は、鋭い嗅覚を持っている。自分のテリトリー内で最愛の弟が殺されれば、周防美里はすぐに気付くはずだ。
後は向こうから、佳奈の元に出向いてくれる。尤も、千絵が先に佳奈を見つけてしまった場合、計画は頓挫する。
千絵が先か、怪物が先か、それだけは神のみぞ知る、といった所だ。佳奈は胸の高鳴りを感じた。
怪物たちにも神々が居るのだとしたら、彼女はその小さな胸の中でその神に祈っていた。

------------------------------------------------------------------------------

同じ頃、渋谷駅から侵入した機動隊も何やら異変を感じ取った。
村雨管理官本人の率いる別動隊が新たに渋谷駅周辺に集結しているという連絡を受けた直後だった。
最初に異変に気付いたのは、ソナーを持っていた1人の警官だった。
潜水艦の探知にも使用される海自開発のシステムを応用した携帯型探知機で、伊豆波が持っていたものよりも数段に精度が高い。
その薄暗い画面に、一つの光点が現れた。
「前方より未確認物体、接近中。」
警官が言った。途端に場の空気が凍りつく。先陣を切っていた、元“オブジェクトD”監視班だった2人の内1人が尋ねた。
「ヒトか?」
「…いえ、もっと巨大です。」
「電車じゃないのか?」
「深夜3時だ。それに東京地下鉄には今夜一切の回送電車は運行を休止させた。」
「村雨隊か…?」
隊員たちはひそひそとあれこれ推論を言い合いながら、前方のトンネルに目を凝らした。
だが、伊豆波隊と違い彼らは懐中電灯ではなく暗視ゴーグルを装着していた。
光源のために敵から察知される恐れは減るものの、視界は酷く狭かった。
彼らにはまだ何も見えていない。代わりに、ゴーッと言う轟が聞こえてきた。
電車の音のようだが、明らかに違う。線路を滑る車輪のような一定のリズムではなく、もっと不規則な、どちらかと言うと足音に近い。

449:腐肉(P.N.)
10/02/21 19:41:05 nKHc0mhU
巨大なものがトンネル内を、天上や壁を擦りながら4つ脚で移動しているような音。次の瞬間、唐突に“それ”は彼らの前に姿を現した。
第一印象は巨大な裸体。実際にその通りだった。それはトンネルの幅一杯に四つん這いになった巨大な少女だった。
自動車程の大きさの腕に支えられた胴体には、銅鐸のような乳房が二つぶら下がっている。その上に子牛ほどの大きさの顔が乗っていた。
まだあどけなさの残る少女の顔だが、引ん剥いた眼球を血走らせ、牙をむき出した口からはだらだらと唾液を垂らし、機動隊員たちを見下ろしている。
これが周防美里の成れの果てだった。2ヶ月間東京の地下に蔓延る、地上の世界から忘れ去られた生命を食い尽くした結果である。
巨人は吠えた。その叫びは轟となってコンクリートに囲まれた地下世界を震わせ、突風となって探索者たちを襲った。
そして逃げる間もなく彼らは巨大な手に捕らえられた。軽自動車くらいなら軽々握り潰せそうなその手は一度に7人の人間を掴み取り、巨人の口へと放り込んだ。
少女の口がばくんと閉じ、頬がもぐもぐと動いて中から無数の骨が砕ける音、ぐちゃぐちゃと肉の磨り潰される音が聞こえたかと思うと、巨大な少女はそれをごくんと飲み下した。
生き残った6人の警官たちは、暗視ゴーグル越しに緑色にぼやける視界を頼りに、トンネルを引き返し一目散に逃げ始めた。
彼らの何十倍もの大きさを誇るその少女は、一足先に踏み出すだけで瞬く間に歩幅をつめる。
その内の1人は少女に追いつかれたものの、あまりのサイズの違いに存在自体を気付かれずに、その巨大な手の平で押し潰されて死んだ。
少女の口からカメレオンの舌のような長い触手がビュルリと飛び出した。
ただしそれはドラム缶ほどの直径のある、全長10数メートルに及ぶ舌で、生き残りの5名全員が一瞬でその餌食となった。
粘着質の液体に覆われたその巨大な舌は5人の人間を絡め取り、彼らが、自分の足が地面を離れたと認識する前に、物凄い速さで少女の口の中へ彼らもろとも引き込んだ。
巨人は「ごきゅん」と音を立てて5人をいっぺんに丸呑みにすると、轟くようなゲップを放った。
それからいつの間にか手にへばりついていた潰れた人間の死体をべろりと一舐めで舐め取ると、それも呑み込んだ。
僅か1分の間に13人の人間を飲み込んでも、巨人の腹は一向に膨れない。ここ数日、彼女はろくに食べていなかった。
めぼしい餌場、即ちホームレスの溜り場となっていた廃駅などは最初の一月のうちに漁りつくしてしまい、
最近はたまにふらりと迷い込んだ鉄道管理局の人間などにありつけるばかりだった。だが身体はどんどん大きくなり、そろそろトンネル内を移動するのも限界に近い。
その時、彼女は遠くの方から懐かしい臭いを感知した。この世で唯一、彼女にとって餌以外の意味を持つ人間、弟の臭い。
弟が会いに来てくれた。美里は嬉しかった。こんな姿になっても、弟だけは彼女を見捨てないで居てくれる。
8月のあの日、彼女の姿を見るなり悲鳴を上げた良心とは違い、弟だけはずっと彼女を愛してくれる。彼に会いに行こう。
弟なら、彼女がこの地獄のような地下迷宮から抜け出せる方法を思いつくかも知れない。美里は喜びと期待を胸に、膝を付いてトンネル内を移動し始めた。
彼女の皮膚は千絵よりも弱く、身体中あちこち壁や天井にぶつけて擦り傷だらけだったが、それでも彼女は気にせず前に進んだ。
弟が居る限り、彼女は何も不安に思ったりする事は無いのだ。痛みを感じる事も、恐怖することも。


[続]

450:名無しさん@ピンキー
10/02/21 20:09:37 FjhzxkY8
案の定異形化進むと理性失って規格外の化け物に成り果てるんですね。
クレイモアの覚醒者や彼岸島の邪鬼みたいだ。
佳奈が死亡フラグ立ちすぎてどうあがいても絶望。

451:名無しさん@ピンキー
10/02/21 21:02:32 wNkJpYGU
佳奈の生んでもらう発想は分かってたが流石に美里の姿と美和殺しは想定外
というかこんな姿の美里でも食べられてる描写を読んで興奮する俺って・・・

452:名無しさん@ピンキー
10/02/22 00:31:16 lHngdUcC
ナンテコッタ…

453:名無しさん@ピンキー
10/02/22 02:39:30 xBrCNNtp
伊藤潤二の絵柄で美里の姿を再現して欲しい

454:名無しさん@ピンキー
10/02/22 03:13:25 nl8AgIj2
なぜ伊藤潤二www

455:名無しさん@ピンキー
10/02/22 09:26:40 xBrCNNtp
「元人間」をこれでもかと言うくらいにグロテスクに破壊する描写が得意だからさ。
美里見て、富江の細胞移植されまくって改造された館の娘思い出した。

456:腐肉(P.N.)
10/02/23 00:55:12 0XO4oX4m
渋谷駅前では、第二機動隊が村雨の指揮の下今まさに地下へ潜入しようとしているところであった。
鼻の良いマスコミはすでにこの異常事態を嗅ぎつけ、封鎖の外に野次馬と一緒に集まっている。村雨の知る限り彼の管轄で情報操作はなされていなかったが、
どこからともなく地下鉄サリン事件のような大規模なテロルが発生したという噂が流れ、今のところマスコミはそれを信じきっているようだ。
好きに報道するが良い。遠くで光るカメラのフラッシュや、次々に到着するテレビ局のバンを横目で睨みながら村雨は思った。
彼の邪魔さえしなければ、連中が何をしようと構わない。事実を隠すのは、後からだっていくらでも何とでも出来るのだ。
その時、バスステーションの端に建てられた臨時対策本部テントから岡崎が彼の方へ駆けてくるのが見えた。地下で何かあったのだろうか。
村雨は駆け寄る部下へ向き直る。岡崎は肩で息をしながら、それでいてはっきりとした口調で告げた。
「地下からの連絡が途絶えました。」
村雨は胃の中に冷たい氷水を注ぎ込まれたような感覚に襲われた。
「伊豆波班に連絡して…」
震える声でそう言いかけるのを、岡崎が遮る。
「連絡を絶ったのは地下の班、両方です。」
村雨は、いっその事感情を表に出してわめき散らせたらどんなに楽だろうと考えた。考えうる最悪の事態だ。
だが彼は表情を崩さず、尚対処法を見出すべく思考に努めた。
「時間は?」
「ほぼ同時です。“D”と“E”が二手に分かれている可能性があります。」
「あるいは“C”の出現か…。」
村雨が考え込むように呟いた。その時、テントから防弾服を着用した男が1人、2人の下へ駆け寄ってきた。
「越後班の発信機が反応しています。」
彼は岡崎と村雨の顔を交互に見ながら告げた。
「生存者か?」
岡崎が尋ねる。
「それが…物凄い速さでトンネル内を移動しています。」
「…喰われたか…。」
岡崎が舌を打つ。
「追いましょう。」
村雨が言った。
「しかし、危険です。」
岡崎は反論したが、すぐに村雨の目を見て何を言っても無駄だと言う事を悟った。彼の瞳には、怒りと決意が炎となって燃え上がっていた。
「機動隊第二班をここから地下へ。発信機の反応を地上から追えますか?」
「かろうじてです。目標が高速で移動しているため、急がないと圏外になる可能性があります。」
「では我々が。」
村雨が岡崎に向かって頷いた。岡崎はすぐに、車を用意するため走り去った。岡崎と入れ替わりに、スーツ姿の別の男が村雨に近づいた。
「市ヶ谷から連絡です。状況の報告を求めています。」
「…軍人の出る幕ではありません。放って置いて下さい。武力があっても、彼らには何も出来ない。」
村雨はそう言ってその場を離れた。
数分後、ソナーを積んだ機動隊のバンが、村雨以下数名の捜査官を乗せ渋谷駅を後にした。
時を同じくして、17名から成る機動隊第二班が地下鉄銀座線の駅から地下へ突入した。
深夜だったが、その模様はテレビで日本中に中継され、レポーターは「テロリストは構内に潜伏中と見られます」と告げた。
--------------------------------------------------------------------------------

457:腐肉(P.N.)
10/02/23 00:56:52 0XO4oX4m
どこかの駅のホームに差し掛かった時、佳奈は足を止めた。
背中や、美和を抱いた胸の辺りに汗をかき、膝ががくがくと震える。もう走れない。だがここまでくれば、千絵が追いつくのに最低でも7,8分はかかる。
佳奈は少年を線路中央の排水溝の上にそっと下ろした。
美和は地面に足が付いても、佳奈の首に巻きつけた腕を離そうとせずぶら下がったままで、佳奈が腕を外すと地面に倒れ込んだ。
佳奈は辺りを見渡した。ホームは蛍光灯の無機質な明かりに照らされ、冷たく緑掛かって見える。
表示には「明治神宮前」とある。いつの間にか、線が変わっていたようだ。
佳奈は線路に倒れる美和を持ち上げホームに乗せると、自分もひょいと跳び上がった。タンと石床に足を付く音が、無人の駅に響き渡った。
佳奈は、足元に転がる少年をちらりと見下ろした。自分は身体を動かしたわけでも無いのに息を切らし、心底脅えきった目で彼女を見上げている。
佳奈は美和の腕を掴むと、ずるずるとホームの奥のベンチまで引き摺って行き、そこへ横たえた。それから徐に肩にかけたナップザックの紐を緩める。
胸の高鳴りを感じた。それは単純に、人を殺す喜びだった。
ましてや、彼のペニスを喰いちぎったあの時から、佳奈は目の前の少年を殺したくて仕方なかったのだ。
「ちぃちゃんの“アレ”はどうだった?きもち、よかった?」
佳奈は布の袋から、ナプキンに包まれミイラのようになった刃物をするりと引き出した。
「もう感じる場所が無くて残念だね。」
少年はそれを目にすると「ひっ」と短く悲鳴を上げる。佳奈の笑みが邪悪に歪む。
「優しく殺して貰えると思ったら大間違いだよ?」
「約束…したよっ?」
美和は瞳に涙を浮かべ懇願するように佳奈に言った。
「お姉ちゃんの所に案内する。う…嘘、吐いてない!ちゃんと案内するっ…!」
佳奈は少年の訴える声に心地良く身体を震わせ、無言でスライサーを包むナプキンを一枚一枚剥がし出した。
べっとりと付着した血が乾きかけていて、ナプキンはぺたぺたと貼り付いている。佳奈は儀式の場にふさわしい言葉を考えた。
少年が最期に聞く事になる言葉だから、それは重要なものでなければ。千絵ならば、何と言うだろう?
黒く汚れたナプキンの最後の一枚を剥がし終えたとき、佳奈は考えあぐねて一言だけ発した。
「にゃん。」
次の瞬間には佳奈は美和に切りつけていた。先ずは2本の刀で両の腕を同時に、切断しない程度に深く抉る。
「ぎぃああああああああ!!!!!!!」
美和は絶叫するとベンチから跳ね起き、よたよたと後ずさった。白い石の床に真っ赤な血が止め処なくぼたぼたと零れ落ちる。
佳奈は美和の鳩尾の辺りめがけて強烈な蹴りを見舞った。美和は仰向けに倒れ、ホームの床を滑って5,6メートルほど先の柱に激突した。
移動の後を、血の跡がなぞる。こうして血の臭いを撒き散らせば、“あいつ”がいち早く察知するだろうと考えたのだ。
佳奈は、痛み以外の感覚を無くした腕をだらりとぶら下げて柱に縋って立ち上がろうとする美和の足首の辺りをスパンと勢い良くスライサーで撫で付けた。
腱の切れる手ごたえが刃物から伝わる。少年はむき出しの脚から血を噴き出して再び床に倒れた。
美和の泣き叫ぶ声を無視して、佳奈は間髪入れずに少年の服を引き千切った。血で染まったパーカーがずたずたになって、少年の腹が露わになる。
美和は無意識のうちに、片手で尻の穴をまさぐっていた。だがあまりの苦痛に、性的快楽への逃避もままならない。彼を突き動かすのは単なる習慣だった。
もはや尻の裂ける痛み以外、背徳や興奮も何も感じない。だが地下に閉じ込められていた僅か24時間の間に身についた癖が、彼の指を肛門に這わせていた。
佳奈は、まだ毛も生えていない、うっすらと腹筋の浮き出たその白く柔らかな肌をぺろりと舐めると、ど真ん中に刃物を突き立てた。

458:腐肉(P.N.)
10/02/23 00:58:28 0XO4oX4m
少年の悲鳴にごぼごぼと液体の噴き出す音が混じり汚く濁ったかと思うと、口から黒っぽい血が溢れ出した。
佳奈はナイフをすっと下に引き、少年の腹を掻っ捌いた。音も無く傷口が開き、次の瞬間少々粘り気のある血がじわりと湧き出した。
佳奈は少年の腹に出来た血の池に手を突っ込むと、中身をぐいと引っ張り出し、それをホームに投げ捨てた。
べちゃっと汚い音を立てて着地した内臓は衝撃で飛び散り、白い床をどろっとした血に塗れた肉片で覆った。
佳奈は更に少年の臓物を、おもちゃ箱の中身を散らかす子供のように次から次へとホームに撒き散らした。
美和の指が血と汚物の感触を捉えたかと思うと、肛門に繋がる部分が丸ごとぶちっと音を立てて千切られ、体外へ引きずり出されて打ち捨てられた。
やがて果てしない苦痛の末、周防美和の心臓は、佳奈の小さく凶暴な手でわしづかみにされ停止した。
佳奈は美和が死んだことを気にも留めず、小さな赤い塊を肉体から引き抜くと、ぽいと投げ捨てた。
その頃には、2人の周囲の床は一面真っ赤に染まり、天上にまで肉片の一部がこびり付きぽたぽたと血の雫を滴らせていた。
佳奈は手を止めると、息を荒げ天を仰いだ。調度真上から血が滴ってくる。
佳奈は口を開けて、冷たくなった血液が舌の上に落ち喉へと流れる感触を味わった。
その時初めて、佳奈は彼女の後ろに何かが居るのに気付いた。背筋に悪寒が走る。
佳奈は徐に舌を口の中に引っ込めた。行き場を無くした血の雫がぽたりと頬の上に落ちる。
彼女は恐る恐る顔を下ろし、人形の首を回すようにゆっくりと後ろを振り向いた。
ホームの終わり、線路の上に、巨人が立っていた。
構内はトンネルよりも天井が高かったが、それでも身を屈めている。身の丈10メートルは在ろうか。
極端に猫背になったその姿勢が、周防美里の“獣らしさ”をより強調していた。
巨人は血走った目をホームに横たわる空っぽの少年の残骸に、次に佳奈に向ける。
佳奈は笑みを浮かべた。
千絵が「どうして“あいつ”は地下から出てこないのだろう」と言っていたのを思い出した。これが、周防美里が地上に現れなかった理由だ。
こんな化物が、出て来られるはずが無い。更には、彼女に勝てるはずが無い。ましてや、“産卵させる”など。
佳奈は笑った。それは諦めの笑みだった。それから、一筋の涙がぽろりと目じりから毀れ頬を伝った。
それは愚かしい作戦を企てた自分を呪うものでも、自分の死に対する哀れみや後悔でも無かった。
もう、千絵に会えない。
佳奈が最後に考えたのは、ただ一つその事だけだった。
彼女の身体の倍はあろうかという巨人の手が、佳奈の上に振り下ろされた。
佳奈はホームに仰向けに横たわり、上から巨大な手で押さえつけられた。
背中に、ぐちゃぐちゃに潰れた周防美和の肉を感じた。
それがクッションになっているが、巨人に圧し掛かられて彼女の肋骨はめきめきと悲鳴を上げている。
片方の腕と脚の骨は既に折れているようだ。遂にはバキッと音を立て、肋骨が砕けた。
「ぐ…ふっっ…!」
巨人の手に胸を握り潰されそうになり佳奈は咳き込んだ。途端に視界が赤く染まる。
それが自分の吐いた血のせいだと気付くのにそう時間は掛からなかった。
だがその時にはすでに、包丁の刃ほどもある牙がずらりと並んだ巨人の口が、彼女の頭上に迫っていた。


[続]

459:名無しさん@ピンキー
10/02/23 06:37:40 ZC+oT8sV
佳奈が小物っぽいなw

460:名無しさん@ピンキー
10/02/23 11:35:48 6zeRLwhC
予想はしてたが… 佳奈タソ(´;д;´)
てかここにきて最近人減ってきてる気がするのは俺だけか?

461:名無しさん@ピンキー
10/02/23 14:13:40 oznuhPq/
ひたすらROMってる人間だっていっぱいいるよー
オレも前スレからいるが初カキコだもん

462:名無しさん@ピンキー
10/02/23 16:33:26 c2l0xDYh
もう少し佳奈が理性的に考えられたら・・・
惜しいキャラを失った

>>460
ずっと見てるが、明らかに増えてる
腐肉さんの投稿ペースが速いから反応遅いだけで最初と比べて何倍も居るっぽい

463:名無しさん@ピンキー
10/02/23 17:39:24 68nbn6lv
自分も途中参加の人間。
正直エロパロ板にあり得ないような投稿ペースだから他の板に比べて少なく見えるんだろう

あと、ここ最近はクライマックスの緊迫感のせいで何となく書き込みにくかったり
息が詰まるような感覚というか
wktkしすぎというか

464:名無しさん@ピンキー
10/02/23 19:41:34 KpemxuI2
いや、まだ佳奈は死亡していない!
まだ……

465:名無しさん@ピンキー
10/02/23 20:01:53 IUZACzeA
単純に最近まで携帯規制に引っ掛かってたのでROMってた。いつも楽しみにしてます。

466:名無しさん@ピンキー
10/02/23 21:54:03 qDYLggSI
最近見つけてまだ過去ログ分読んでないんだが、そうか、もうクライマックスなのか……。

467:名無しさん@ピンキー
10/02/24 01:56:49 PTvQeGNF
佳奈たん…

468:INHUMAN
10/02/24 15:21:03 x8th8BjV
ちょっと、あんたたち!!
こんなスレッドを立てて非人間的だと思わないの!?
削除依頼を出して消してもらうかどうか、
分からないけど一応の覚悟はしてなさいよね!!

さあ、潰れるざます!
逝くでがんす!
フンガ~!!
まともに潰れなさいよ~!!


469:腐肉(P.N.)
10/02/25 00:36:49 5/0Ph4cJ
佳奈の脳裏を過ぎるのは、千絵の事ばかりだった。佳奈がいなくなってしまったら、彼女はどうするだろう?
悲しんでくれるだろうか?悲しむことは、まだ出来るだろうか?
あの不器用な怪物は、一人で生きていくことなど出来るのだろうか…。
嫌だ。千絵を一人にしたくない。だが彼女の命はもう尽きる。千絵を守るどころか、また足手まといになってしまった。
佳奈は自分の死が、今後一生親友を苦しめることになるだろうと分かっていた。それでも千絵は怒ったり、腹を立てたりせず、きっと優しく微笑んで…。
巨人の牙が彼女の柔らかい肉に深々と突き刺さる瞬間、佳奈は呟こうとした。
「ごめんね、千絵…」
だがその声は音になる前に、込み上げてきた血反吐に呑まれ、トンネルの饐えた空気を震わせることなく、彼女の胸の中だけに閉じ込められた。永遠に。
涙の乾いた頬に鮮血が飛び散り、佳奈は死んだ。

----------------------------------------------------------------------------------

千絵は少し離れたところで、怪物の気配を感知した。佳奈の力が予想以上に発達しており、追い付けずに途方に暮れていた所だった。
正直、千絵は佳奈に自分を撒く事が可能であるなどと思っても見なかったのだ。と同時に、一抹の不安も感じていた。
佳奈がそれほどまでに急ぐ理由は何だろう?周防美和が逃げたか。いや、それならばこれほど掛からずに捕らえられるだろう。
別の追っ手だろうか。だがもはや例え銃を持っていようと、人間は佳奈の適にはならない。となると、考えられる可能性は一つ、“あいつ”と遭遇した事だった。
それまで千絵は佳奈の気配を辿っていたのだが、少し前に不意にその気配が薄らいだ。
替わって強烈に彼女の全感覚を刺激したのは、忘れもしない、あの6月の終わり、あの忌まわしいホテルで出遭った、あの少女の存在だった。
“あいつ”が近くに居る。そう思っただけで千絵は、佳奈の身に起こり得る最悪の可能性についての考えを閉ざしてしまった。
千絵はトンネル内を疾走した。自分の足音が反響するコォンという耳を劈くような音も、耳を掠める風の音も聞こえない。
その時の千絵には“あいつ”の肉に深々と爪を立て八つ裂きにするイメージしか沸かなかった。駆け抜ける彼女の姿は、もしそこに人が居たとしても
目にも留まらなかったであろうが、彼女が足を着いたレールは拉げ、コンクリートの基盤にはクレーターのような同心円状の皹が入った。
ふと前方に明かりが見えてきた。駅のホームらしい。千絵は減速した。ふわっと埃が舞い上がり、視界が霞む。
その時、心臓に小さな針でも刺されたかのような衝撃が彼女を襲った。そのまま心臓が止まってしまったのかと思うほど、胸が締め付けられるように苦しい。
目の前に、ホーム全体を覆い尽くす程の巨人が蹲っていた。
控えめ(と言っても、巨人サイズだが)な乳房と性器から少女である事が分かるが、“それ”は人間離れした獣のように4つ足で立ち、地面にある何かを貪り食っていた。
千絵はぽかんと口を開けて、その後姿を呆然と眺めていた。無論、ホームに散らばった血や肉片が目に入らなかった訳ではない。
だが彼女には思考することが出来なかった。“母”との対面はどんな気分がするのだろうと、この2ヶ月あれこれ考えてきたが、そんな事は全て記憶から吹き飛んだ。
ホームの一角の、ひび割れて瓦礫を敷き詰めたようになっている部分に、見覚えのある金属片を認めた時も、彼女は何一つ考えることが出来なかった。
それが、彼女の親友がいつも大切に持ち歩いていた愛用の凶器の断片である事は、見つけた時から分かっていた。
だがその折れたスライサーの意味するところの事実を、彼女は拒否しようとしていた。
巨人がぼうぼうに伸びた髪を振り乱して頭を上げた。何かを呑み込んだようで、喉がごくんと鳴る。
ふと周防美里は、トンネルの入り口から小さな人が自分を見つめているのに気付き振り向いた。
美里はあくびをする犬のように口を開くと、「げふっ」と小さくゲップをした。
口の周りが血で汚れている。千絵には、感じることが出来た。巨人の胃の奥から込上げてくる親友の香りを。
“あいつ”の口から漂う、彼女が愛した、あの血の臭いを。

470:腐肉(P.N.)
10/02/25 00:37:50 5/0Ph4cJ
佳奈の脳裏を過ぎるのは、千絵の事ばかりだった。佳奈がいなくなってしまったら、彼女はどうするだろう?
悲しんでくれるだろうか?悲しむことは、まだ出来るだろうか?
あの不器用な怪物は、一人で生きていくことなど出来るのだろうか…。
嫌だ。千絵を一人にしたくない。だが彼女の命はもう尽きる。千絵を守るどころか、また足手まといになってしまった。
佳奈は自分の死が、今後一生親友を苦しめることになるだろうと分かっていた。それでも千絵は怒ったり、腹を立てたりせず、きっと優しく微笑んで…。
巨人の牙が彼女の柔らかい肉に深々と突き刺さる瞬間、佳奈は呟こうとした。
「ごめんね、千絵…」
だがその声は音になる前に、込み上げてきた血反吐に呑まれ、トンネルの饐えた空気を震わせることなく、彼女の胸の中だけに閉じ込められた。永遠に。
涙の乾いた頬に鮮血が飛び散り、佳奈は死んだ。

----------------------------------------------------------------------------------

千絵は少し離れたところで、怪物の気配を感知した。佳奈の力が予想以上に発達しており、追い付けずに途方に暮れていた所だった。
正直、千絵は佳奈に自分を撒く事が可能であるなどと思っても見なかったのだ。と同時に、一抹の不安も感じていた。
佳奈がそれほどまでに急ぐ理由は何だろう?周防美和が逃げたか。いや、それならばこれほど掛からずに捕らえられるだろう。
別の追っ手だろうか。だがもはや例え銃を持っていようと、人間は佳奈の適にはならない。となると、考えられる可能性は一つ、“あいつ”と遭遇した事だった。
それまで千絵は佳奈の気配を辿っていたのだが、少し前に不意にその気配が薄らいだ。
替わって強烈に彼女の全感覚を刺激したのは、忘れもしない、あの6月の終わり、あの忌まわしいホテルで出遭った、あの少女の存在だった。
“あいつ”が近くに居る。そう思っただけで千絵は、佳奈の身に起こり得る最悪の可能性についての考えを閉ざしてしまった。
千絵はトンネル内を疾走した。自分の足音が反響するコォンという耳を劈くような音も、耳を掠める風の音も聞こえない。
その時の千絵には“あいつ”の肉に深々と爪を立て八つ裂きにするイメージしか沸かなかった。駆け抜ける彼女の姿は、もしそこに人が居たとしても
目にも留まらなかったであろうが、彼女が足を着いたレールは拉げ、コンクリートの基盤にはクレーターのような同心円状の皹が入った。
ふと前方に明かりが見えてきた。駅のホームらしい。千絵は減速した。ふわっと埃が舞い上がり、視界が霞む。
その時、心臓に小さな針でも刺されたかのような衝撃が彼女を襲った。そのまま心臓が止まってしまったのかと思うほど、胸が締め付けられるように苦しい。
目の前に、ホーム全体を覆い尽くす程の巨人が蹲っていた。
控えめ(と言っても、巨人サイズだが)な乳房と性器から少女である事が分かるが、“それ”は人間離れした獣のように4つ足で立ち、地面にある何かを貪り食っていた。
千絵はぽかんと口を開けて、その後姿を呆然と眺めていた。無論、ホームに散らばった血や肉片が目に入らなかった訳ではない。
だが彼女には思考することが出来なかった。“母”との対面はどんな気分がするのだろうと、この2ヶ月あれこれ考えてきたが、そんな事は全て記憶から吹き飛んだ。
ホームの一角の、ひび割れて瓦礫を敷き詰めたようになっている部分に、見覚えのある金属片を認めた時も、彼女は何一つ考えることが出来なかった。
それが、彼女の親友がいつも大切に持ち歩いていた愛用の凶器の断片である事は、見つけた時から分かっていた。
だがその折れたスライサーの意味するところの事実を、彼女は拒否しようとしていた。
巨人がぼうぼうに伸びた髪を振り乱して頭を上げた。何かを呑み込んだようで、喉がごくんと鳴る。
ふと周防美里は、トンネルの入り口から小さな人が自分を見つめているのに気付き振り向いた。
美里はあくびをする犬のように口を開くと、「げふっ」と小さくゲップをした。
口の周りが血で汚れている。千絵には、感じることが出来た。巨人の胃の奥から込上げてくる親友の香りを。
“あいつ”の口から漂う、彼女が愛した、あの血の臭いを。

471:腐肉(P.N.)
10/02/25 00:41:06 5/0Ph4cJ
すみません間違えて前編を2度投稿してしまいました。2つめは無視してください。
↓以下後編

472:腐肉(P.N.)
10/02/25 00:41:31 5/0Ph4cJ
「うわぁぁぁぁああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
千絵は力の限り叫んだ。腹筋が悲鳴を上げ、喉が張り裂けそうになる。ホームの壁や天井にに反響した自分の声で鼓膜が破れそうになる。
だがそんなものはどうでも良い。彼女の怒りが、彼女が怪物になってからの歳月で感じた全ての悲しみを起爆剤として爆発した。
千絵は地面を蹴って跳び上がった。巨人の目が彼女を追い、巨大な手が持ち上がる。
だが千絵は美里の攻撃を避けようとせず、迫り来る巨大な手にしがみ付くと、力いっぱいその指を圧し折った。巨人が悲鳴を上げる。
すぐに千絵は巨人の手を蹴り上げる。その衝撃で、美里の手の甲が砕けた。千絵は彼女の顔面にしがみ付くと、第二の口を目一杯開け、巨大な唇に齧り付いた。
無理矢理に口を閉じさせられ、美里は唸り声を上げる。顔面に千絵を張り付けたままぶんぶんと首を振るが、千絵は離そうとしない。
そしてバツンと音を立て、千絵は巨人の顔の皮膚の一部を噛み千切った。
「あああああああああ!!!!!!!!」
美里は悲鳴を上げ、巨大な手で血の噴き出す顔面を押さえた。その間に千絵はホームの端に着地すると、戦利品をごくんと呑み込んだ。
ほんのりと、佳奈の血の味がした。
美里が手を離すと、唇から頬にかけての肉を失い、骸骨のように並んだ歯がむき出しになった顔が露わになる。
巨人は地響きを上げ後ずさった。脅えている。周防美里はこの小さな捕食者に、彼女が放つ禍々しい殺気を前に震え上がった。
彼女はそれが、彼女自身の産み落とした“娘”であると気付いていた。
今となっては身体が人間の数十倍の大きさだが実年齢は14歳なので、“母親”としての自覚などは無かったし、どうして彼女がここに居るのかも分からなかった。
だが一つだけ分かった事は、今彼女の目の前にいる小さな少女は、彼女よりもはるかに強いいきものだという事だ。
そしてその剥き出しの敵意はただ彼女だけに向けられている。
大きさでは解決できない力の差は歴然だった。戦意を喪失した美里は、逃げ道を求めて周りを見回した。トンネルは逃げ込む前にやられてしまう。
それに逃げ込むのに成功しても、移動するにも窮屈な彼女は、あの圧倒的なスピードに敵う筈が無い。
美里は意を決した。外に出るしかない。
巨人は狭い構内で勢い良く立ち上がると、背中を思い切り天井に打ち付けた。天上に皹が入り、コンクリートの破片や石綿が雨のようにホームに降り注いだ。
千絵が瓦礫の山を避けて跳び回っている間に、巨人は石の天井に再度激突した。がらがらと音を立てて屋根が崩れる。
千絵は瓦礫に押し潰されないよう一旦獲物から飛び退いた。
穴の空いた天井の向こうから、ホームよりも明るい改札階の照明が射し込む。ばたばたと人の足音と、何かを叫ぶ声が聞こえる。
夜勤の駅員が何人か残っていたのだろうか。
美里は天井の穴に手を掛けると、危なっかしくぶら下がった鉄骨とコンクリートを引き崩した。穴が自らの巨体が通れる幅まで広がると、素早く穴の中に姿を消した。
地震のような轟音と地響きに、慌てて宿直室から駆け出して来た駅員らは、信じられない光景を目の当たりにした。
改札の向こうの床がパンケーキのように膨らんだかと思うと、次の瞬間黄ばんだタイルが、まるで反発する磁石のように跳ね上がり、次の瞬間床が崩れ落ち、
地下から巨大な人間が姿を現したのだ。
駅員たちは彼らの仕事場を守るために命を掛けられるほど、彼らの仕事を愛しては居なかった。そこで彼らは悲鳴を上げると一目散に逃げ出した。
すぐに後から、身を屈めつつも低い天井に頭や背中を擦りつけながらタンクローリーほどもある巨大な少女が這い出てくる。悪夢のような光景だった。
3つある出口のうち、哀れにも3番出口を選択した1名は、地上へ続く階段を駆け上る途中、追いついてきた巨人の小型自動車ほどもある足に踏み潰されて即死した。
周防美里は、地下鉄の出口を覆う屋根を吹き飛ばすようにして地上に出た。2ヶ月ぶりの地上の空気はひんやりと冷たかった。
脱出の際、コンクリートの天井を突き破った背中はざっくりと何箇所も切れており、夜風が染みて刺す様に痛かった。
彼女は苦痛に悲鳴を上げた。端から見ると、それは雄叫びのようにしか聞こえなかった。


[続]

473:名無しさん@ピンキー
10/02/25 00:57:06 HKNqjdRC
佳奈ちゃん…(´;ω;`)

474:名無しさん@ピンキー
10/02/25 18:34:02 PThLC2+x
まあ因果応報なんだけどね

475:腐肉(P.N.)
10/02/26 00:35:29 ElJ+3x95
最終電車が過ぎ去ってからも、JR原宿駅周辺やライブハウスの出入り口辺りに屯していた奇抜なファッションの若者たちは、突如現れた巨人を見て驚愕した。
殆どの人々の最初の反応は悲鳴だった。それから命の惜しい者から順に、できるだけ怪物から遠ざかるように逃げ出した。
携帯電話を取り出して写真を撮影しようとする者も中には居たが、巨人の咆哮を耳にするや結局は一目散に避難する人々の列に加わった。
途中、地下鉄の出口から逃げ出してきた生き残りの駅員たちも彼らに合流した。
神宮前交差点で、彼らは猛スピードで駆けてきた黒い警視庁のバンに危うく撥ねられそうになった。
死に物狂いの形相で掛けて行く人々に気を取られ、バンは交差点の真ん中で急停車した。
「何事です?」
後部座席から村雨が尋ねた。逃げ惑う人々はもはや理性を失った暴徒のようで、バンが目に入らないのか体当たりするようにもろにぶつかったり、
迂回すればよいものをわざわざ乗り越えて逃げてゆく者もあった。その時、原宿駅の方から獣の雄叫びのような音が聞こえ、地面が大きく揺れた。
「地震か!?」
捜査官の1人が叫ぶ。だが次の瞬間、紅葉した並木群の向こうに、表参道の木々ほどもある巨大な人影が現れた。
全裸で、見たところ若い女性のような身体つきだが、身体を労わる老人のように腰を曲げてズシンズシンと地鳴りを上げて歩いている。
「何なんだあれはっ!!!?」
ハンドルを握る岡崎がパニックに陥り叫んだ。
「“オブジェクトC”…周防美里です。」
村雨は考えうる唯一の可能性を解答として述べた。
「“地下鉄の怪物”…。」
捜査官の1人が恐怖に声を引きつらせて呟いた。
「あ、あれがここに居るという事は、蓮杖千絵と小山内佳奈は…!?」

------------------------------------------------------------------------------

巨人の脱出した後の地下鉄のホームには、引き千切られた電線から放電するバチバチという音と、それに順ずるように痙攣する蛍光灯のビーッという音だけが響いていた。
不幸にも逃げ遅れ、幸運にも巨人や崩落のの餌食にならなかった一人の駅員が、恐る恐る天井の穴からホームを覗き込んだ。
ひび割れた天井にしぶとく残っていた破片の一部がとうとう力尽きてホームに落下する。
もうあの化物のようなやつが居ないのが分かると、一先ず安心してほっと息を撫で下ろした。
その時、下から人の声が聞こえた気がした。幼い少女の、呻くような声。
「誰か…居るのか?」
駅員は恐る恐る声をかけた。すると、線路に落ちた瓦礫の山がむくりと動いた。
「ひっ…!」
駅員は短く悲鳴を上げ、ひび割れて凸凹した床に仰け反った。まだ別の巨人が出てくるのではないかと恐れた。
だがそれきり音は止んだので、もう一度穴からホームを覗いて見ると、先ほどの瓦礫の下から真っ白な小さな腕が見えた。
「大変だ…」
彼は呟くと、ホームへ続く階段へ向かって駆け出した。ホームは酷い有様だった。一面が暦や埃で覆われ、まるで紛争地帯だ。
駅員は瓦礫の山に駆け寄ると、小さな腕を引っ張った。瓦礫に埋もれているらしく、動かない。彼は我を忘れて瓦礫の一つに手を掛けると、力いっぱい動かそうとした。
ざらざらのコンクリートに曝され、手の平から流血する。その血が巨大な瓦礫を伝い、ぽたぽたと少女の腕に垂れた。
と次の瞬間、自動販売機ほどもある巨大なコンクリートの塊が下から押し上げられるようにして持ち上がった。

476:腐肉(P.N.)
10/02/26 00:37:49 ElJ+3x95
駅員は驚いて瓦礫から手を離すと1,2歩後ずさった。瓦礫に躓いて転びそうになる。
そこへ、今まで彼が居たその場所に、数百キロはあろう巨大な石塊がズーンと音を立てて倒れた。
その下から現れたのは、全裸に近い格好の少女だった。黒っぽい血と土埃に塗れて汚れているが、かなりの美少女だ。
長く美しかったであろう髪はほつれ、所々に何かの破片が絡み付いている。
「き、君、怪我を…」
駅員はすぐに我に変えると、血塗れの少女に声をかけた。
少女はその時初めて彼に気付いたように、驚いて彼に視線を向けると、自分の身体を見下ろして言った。
「ああ…大丈夫、これ私の血じゃない。」
少女は瓦礫の山から降りようと一歩踏み出して顔をしかめた。
「…痛い。」
「当たり前じゃないか、こんな瓦礫の下に居たんだ。」
駅員は少女に駆け寄ると、露出した身体を抱いてよいものか一瞬躊躇い、中庸策として肩に手を掛けた。
少女は呆然とホームを見渡した。今や瓦礫に埋もれて、元の床も、その上に散らばった周防美和の残骸も、佳奈の名残も見る影も無い。
そこはかとない悲しみが込上げてきた。その感情は胸を裂くような痛みとなって彼女の全感覚を苛んだ。
「…痛いよ…。」
千絵は呟いた。泣きたかった。声を上げて、赤ん坊のように泣き叫びたかった。
今隣に居る優顔の男が誰なのかは知らないが、彼の肉を引き裂いて泣きたい気分だった。
だが涙は出ない。それは今の彼女にとって、最も残酷な事に思えた。
「ともかく、ここから出よう。またあの化物が現れでもしたら…」
“ばけもの”。
その言葉に千絵は反応した。思い出した。なぜこんな事になったのかを。“何が”彼女から佳奈を奪ったのかを。
思い出した。“あいつ”の中に、佳奈が居るんだ。
千絵は無意識のうちに第二の口を開いていた。驚愕と困惑、恐怖の表情が目の前にあった。
駅員は、彼の助けようとした少女が怪物に変貌するのを見て言葉を失った。
次の瞬間、千絵は彼の身体をばくんと呑み込み、跳び上がった。天井に開いた穴を跳び抜け改札階に出ると、口を閉じる。
まだ呑み込み切れて居なかった憐れな駅員の手足の一部が千切られてぼとぼとと床に落ちたが、今はそれを惜しむ間は無い。
千絵は駆け出した。ピコーンと間抜けな音を立てて切符を提示しない乗客を阻もうとする改札機を蹴り飛ばして破壊すると、
巨人の重みに耐えかね半壊して凸凹のスロープのようになった階段を地上へと駆け上がった。


村雨はバンを出ると、逃げる群集にもみくちゃにされながら巨人へ近づいた。
「村雨さん、危ないです!」
背後で岡崎が叫ぶ声が聞こえたが、村雨の視線は周防美里に釘付けだった。
長い間の地下での暮らしがたたり、どうやら夜のネオンの光でも彼女にとっては眩しいらしい。
巨人は目を瞬かせながら、途方に暮れたように辺りを見渡し地団駄踏んだ。
「代々木公園上空にヘリを飛ばしてください。民間機の飛行は一切禁じます。それから…」
村雨は襟元に仕込んだ無線機に向かって言った。
「…これは市ヶ谷の出番かも知れません。」
その時、破壊された地下鉄の出口から何かが飛び出してきた。人のようだが、あまりのスピードにその正体を目視できない。
その“何か”は叫び声を上げると、ふわりと宙に舞い上がった。その刹那、村雨には夜風に靡く黒く長い毛髪が見えた。
「あれは何です!?」
耳元のイヤーフォンから雑音交じりの岡崎の声が尋ねた。
「人間…ですか?」
「いいえ、恐らく…」
村雨は指で眼鏡を押し上げると、もう一度目を細めて見ようとした。
夜空に高く舞い上がった“それ”は、目にも留まらぬ速さで巨人に蹴りを食らわせ、大地を揺らして車道に倒れ込む巨人の上に着地した。
「…あれは“オブジェクトD”です。」
村雨は無線機に向かって呟いた。
「…自衛隊の出動要請はもうしばらく待ちましょう。」


[続]

477:名無しさん@ピンキー
10/02/26 01:38:31 o0RfpeQS
>>476
>彼の肉を引き裂いて泣きたい気分だった。
が悲しいな
変質するってこういう事だよね

478:名無しさん@ピンキー
10/02/26 04:31:17 9UEOiD88
相変わらずGJ
正直、変異してからの佳奈は調子こき過ぎてて見ていて良い気分はしてなかった

479:名無しさん@ピンキー
10/02/26 12:17:21 NKKCkjI+
女王蟻と兵隊蟻の対決か。

480:腐肉(P.N.)
10/02/28 01:16:44 KWjx4aiy
「うぉおおおおおおおっりゃぁぁああああああ!!!!!!!」
千絵は腹の底で煮えたぎる怒りを全て叫びと力に換え、ありったけの力を込めて仰向けに倒れた巨人の腹を殴りつけた。
巨人は口から夥しい量の血反吐を吹き上げて身を捩った。弾みで千絵はその巨体から落ちそうになる。
その隙に息を吹き返した巨人は、腹の上のバランスを崩した小人を払い除けると起き上がり、木々の見える方へと駆け出した。
途中国鉄の線路の上に掛かった歩道橋を踏み崩し、腰の位置ほどを走るケーブルに引っかかったが、力ずくでそれを振り切り、代々木公園へと逃げ込んだ。
すかさず千絵は地面を蹴って空高く跳び上がると、一跳びで原宿駅を飛び越え森の中へ飛び込んだ。
傷ついた巨人は、腰を屈めて木々の間をよたよたと歩いた。歩くたびにズシンと地面が揺れ、身動きすればすぐに居場所がばれてしまう。
だが肩や背中の傷からは今もだらだらと血が流れていたし、千絵に殴られた腹は脈打つようにじんじんと痛んだ。彼女はぼろぼろだった。とても戦うことなど出来ない。
冗談じゃない、あんなパンチをもう一発食らえば、死んでしまう。美里は呻き声を上げて、一時的にでも身を隠せる場所を探して辺りを見回した。
その時、腰の辺りに激痛が走った。あの小さな怪物がとうとう追い付き、跳び蹴りを食らわせたのだ。美里は衝撃で身体を制御できずに、前につんのめった。
秋の訪れと共に茶色く変色し脆くなった葉を散らして、木々をなぎ倒しながら森の中に倒れ込んだ。ぎざぎざに裂けた木々の太い枝や幹の残骸が深々と肉に突き刺さる。
「ぎやあああああああ!!!!!!!」
美里は悲鳴を上げた。だが千絵は容赦無くその身体を蹴りつけ、その巨大な顔の前に立つとぐいと散り散りになった髪の毛を引っ掴み、力の限り投げ飛ばした。
タンクローリーほどの重量はあろうかという美里の身体はふわりと宙に浮いた。視界がぐるぐると回転したかと思うと、彼女の巨体は重力に負けて落下し始めた。
怪力に投げ飛ばされた巨人は森を飛び出し車道に着地した。いや、落ちた、と言った方が正確だろう。
身体のバランスを取れないまま勢いに負けてごろごろとアスファルトの上を転がると、フェンスを突き破り国立競技場の第一体育館の建物に激突して止まった。
金網の一部が千切れて背中の肉に食い込んでいた。駐車場を転がった際に押し潰したと思しき自動車のドアパーツが腿の辺りに深々と突き刺さっている。
もう嫌だ…。
美里の目に涙が浮かんだ。痛み。それは彼女が地上を捨てて以来、忘れていたものだった。
その時、ズンッと音を立てて、第一体育館の特徴的な変形屋根の上に千絵が降り立った。
千絵の足元でコンクリートの尖塔に皹が入り、巨人の上にぱらぱらと破片を降らせた。
血と泥に塗れた白い肌の下で身体中の筋肉が隆起し、髪を振り乱したその姿は鬼神のようだった。荒ぶる鬼は、巨人と同じく涙を流しているように見えた。
美里は、星一つ無い薄汚れた都会の夜空を背にしたその恐ろしくも美しい姿に一瞬見惚れた。だが千絵が屋根を蹴って再び美里の元へ跳びかかろうとした瞬間、
痛みと恐怖を思い出し、巨人は咄嗟に身を屈め、半円盤状に突き出た屋根の下、出入り口となるガラス戸を突き破ると館内に逃げ込んだ。
千絵は自分の身体を止められず、ほぼ垂直にアスファルトの上に落下した。彼女のかかとが地面を砕き、猛烈な土煙と破片を巻き上げて駐車場に巨大なクレーターを穿った。
その様子は公園の外からでも確認出来た。外から見た人には、爆発のように見えたかもしれない。
千絵の蹴りの衝撃で、地震のような振動が東京都心全域に伝わり、その余波で周辺に立つ老齢の並木の何本かがメキメキと音を立てて倒れ、体育館の屋根の一部が崩落した。
「く…っ…」
千絵は思わず声を漏らした。踵から腿の辺りまでしびれるような衝撃が走り、続いて激しい痛みが骨を駆けた。どうやら腓骨と脛骨が粉砕されたらしい。
肉離れも起こしているようだ。立ち上がろうとして、千絵はよろめいた。激痛が走る。その時、体育館の中から壁を突き破るような音が聞こえてきた。
千絵は全部で1千本近くある歯の全てを食い縛って直立した。
砕けた骨は使い物にならなかったが、残った筋肉の力だけで脚を動かし、巨人が入り口に空けた大穴に向かって前進した。
必ず“あいつ”を殺してやる。その想いだけで、千絵は駆け出した。

481:腐肉(P.N.)
10/02/28 01:19:28 KWjx4aiy
巨大な鉄のテントのような形をした体育館の中は意外と狭く、巨人の通った形跡は至る所に残っていた。床に落ちた血痕、壁を擦った血の跡、所々欠けた天井。
体育館独特の冷たい臭気が、2人が故郷を発った日の、あの虐殺の体育館を思い出させた。あの時の気持ちが甦る。世界の全てを壊してしまいたくなる、凶悪な衝動。
千絵は煮えたぎる残虐な獣の心と全身の痛みに苛まれ、虚ろな目でひたひたと傷だらけの裸足の足でスタジアムへ続く階段を上がった。その先に“あいつ”の臭いがした。

-------------------------------------------------------------------------------------

周防美里はアリーナの真ん中に身体を横たえた。照明は落ちていて、スタジアムは真っ暗でひっそりと静まり返っている。
美里は背中に手を延ばし、深々と肉を抉っている金網の破片を引き抜いた。血がぼたぼたと垂れ、新たな傷口に冷たい外気が当たった。
美里はすすり泣いた。彼女には理解出来なかった。なぜ自分がこんな目に合わねばならないのだ。
彼女は、弟を殺したあの小さな少女を喰っただけだ。あの子は、あの化物にとってそれほど大切な存在だったのだろうか。
だが彼女は、自分と弟の絆ほど強い関係がこの世に存在するなど、想像も出来なかった。
一方で、彼女やあの小さな怪物のようなけだものにとって、“誰か、自分以外の者を愛する”、“大切にする”などという人間的な感情が許されるとも思って居なかった。
その矛盾が彼女を殺した。人間としても、怪物としても。もはや彼女には生きる目的も、気力も無い。
美里は一時的に苦痛から逃れるため、腿に刺さった金属片を抜き取ると、ぐったりと冷たい木の床に沈み込むように身体を広げた。
“あの子”が、とどめを刺しに来てくれるのを待って。
千絵が階段の先の扉を開けると、そこは観客席の真ん中だった。ずらりと並んだ暗い無表情な座席たちの向こう、開けたアリーナの中央に巨大なものが横たわっていた。
血を流し、荒く掠れるような息をして、彼女を見つめていた。千絵は傷んだ身体に鞭打って、一跳びに観客席を飛び越えるとアリーナに降り立った。
千絵は巨人に歩み寄った。巨人は、彼女を怪物へと変えたあの夜と何ら変わりのない、無邪気で罪の無い少女の顔をしていて、その頬を大粒の涙が伝っていた。
「ふざけんなよ…」
千絵は呟いた。
「何でお前が泣いてるんだ!!!!」
千絵の哀しげな叫び声が、テントの中のようなスタジアムに木霊した。この中に居ると、まるで中世のフリークショウの見世物になったような感じがする。
見世物になった怪物は一人ぼっちで、檻の中に立っている。今だけは、どこまでも自分勝手にわがままに振舞っても良い。そんな気がした。
千絵は気分が悪かった。彼女は、彼女の心から彩を奪って渦巻く靄の様な不快な感情を拳に込めて、力の限り巨人に向かって突き出した。
あまりに強く握っていたので、拳の先で肉が捩れる感触も、骨を砕く手応えも千絵は感じなかった。
だが、巨人の身体は大きく仰け反って車に轢かれた動物のようにぐしゃりと音を立てて動かなくなり、美里は無言で千絵の一撃の壮絶さを物語った。
巨人、周防美里は死んだ。仰向けに倒れた巨体は、ぐったりと首を横へ向け、口を開いている。
下顎が半分に割れ、牙のずらりと並んだ顎が蜘蛛の口のように縦に開き、だらりと空を掴んだまま硬直していた。
千絵は足を引き摺りながら美里の巨大な亡骸の上によじ登って、獣の死に顔を一瞥すると、丸座椅子ほどある巨大な乳房の間に立った。
それから屈み込むと、傷だらけの巨人の腹に深々と爪を突き立て、硬くなった肉を一瞬で切り裂いた。
綺麗な一直線の切り口から真っ黒な血があふれ出し、アリーナの清潔で無機質な木床に広がった。
千絵が切り口に手を掛けて押し広げると、くぷんと音を立てて大蛇のような腸がはみ出した。それを脇へ遣り、千絵は巨人の腹から巨大な胃袋を引きずり出そうとした。
それは大きな血に染まったゴミ袋のようで、千絵が持ち上げようとすると破れて内容物が土砂のように巨人の腹の上にぶちまけられた。


[続]

482:名無しさん@ピンキー
10/02/28 01:24:04 rJ2UAQfL
千絵が負けるところは想像つかなかったが、
まさか母親をも圧倒するぐらい強くなってたとは・・・

483:腐肉(P.N.)
10/03/01 01:36:40 7c2Azwhm
恐らく機動隊の身に着けていた防弾チョッキの一部であろう黒っぽい硬い繊維がたくさん出てきた。
だがその他には、形の分かるものは僅かに残った溶けかけの骨しか無かった。
千絵はどろどろのペーストのようになった肉を掻き回した。佳奈の臭いがした。ふと、千絵は他のものより比較的小さな頭蓋骨の欠片を見つけた。
眼球や脳はとうの昔に溶け出しており、骨も顔面の半分が解けて穴の開いたのっぺらぼうのようにつるつるしていた。
だが千絵には、それが佳奈であるとすぐに分かった。千絵はその愛しい骨を胸に押し当てると、ぎゅっと抱きしめた。
佳奈の骨が未発達な薄い乳房に食い込み、痛い。
千絵は泣いた。涙を流して泣いた。佳奈のあの優しい顔を二度と見れないのが悲しくて泣いた。
あの柔らかく温かな肌に触れることがもう叶わないのが辛くて泣いた。
彼女のために、最も運命を狂わされた少女。ただ千絵と友達だったというだけで、人間としての人生を奪われ、自らの力に押し潰された哀れな少女。
例えどんなに愚かでも、千絵はその少女が大好きだった。
だが止め処無いと思われた涙はすぐに枯れ、千絵は咽び声を上げるしか出来なくなった。
そして猛烈な食欲が、彼女の肉体の大部分を占める広大な胃の奥から込上げてきた。
千絵は佳奈の頭蓋を口に含むと、一思いに噛み砕いた。骨は小さな欠片となって、喉の奥へと消えていった。次に彼女は巨人の胃の中から出てきた肉を呑み込んだ。
水を飲む動物のように腹這いになって、液化した肉を吸い込んだ。そう時間は掛からなかった。
その間に、佳奈と過ごした時間の記憶がぼんやりと脳裏に浮かんではすぐに消えた。
千絵は引きずり出した胃袋と腸も食べた。引き裂いて、喰い千切って、思い切り豪快に食べ散らかした。それでもまだ彼女の食欲は留まる処を知らない。
千絵は美里の亡骸に齧り付くと、その巨体から肉をむしり取って食べた。
人間とは違う味がした。今まで食べたどの生き物よりも濃厚で、一種の酩酊を引き起こした。
その甘い肉は彼女を酔わせた。千絵は恍惚の表情を浮かべ、無我夢中で巨人の肉を貪り食った。
あまりに勢い込んで呑み込んだので、しばしば吐き気が込上げてきた。胃袋が満腹を訴えてゲップを連発したが、それでも千絵は食べるのをやめなかった。
村雨たちが機動隊を引き連れ第一体育館に突入する頃には、千絵の腹ははち切れんばかりにぱんぱんに膨れ上がっており、その傍らに巨大な白骨が横たわっていた。
骨にはもう殆ど肉が残っておらず、頭皮と髪の毛の一部以外、顔面からは眼球や歯茎まで削げ取られていた。
機動隊は観客席をぐるりと巡ると、次々にアリーナの中央へ銃を向けた。村雨他黒服の男たちはアリーナの入り口で立ち尽くしその壮絶な光景に目を見張っていた。
千絵は口を隠そうともせず最後のゲップを盛大に放つと、ゆっくりと彼らを振り返った。
殆どの捜査官は彼女の目を見ただけで怖気づいて数歩後ずさったが、村雨だけは逆に一歩彼女へ歩み寄った。
その時、スタジアムの照明がパッと点灯し、アリーナは眩い光に包まれた。目を瞬かせる千絵に向かって、村雨が口を開いた。
「蓮杖千絵、君を拘束します。」
千絵はぼんやりとした目で村雨を見つめ、不意にふっと笑った。
「村雨さん…でしたっけ。まだ私を人間扱いするんですか。」
千絵はくっくと喉の奥で笑おうとしたが、吐き気が込上げてくるので止めて代わりに上を見上げた。無数の照明が彼女の頭上で輝いていた。
観客席からたくさんの防弾服にヘルメット姿の男たちが、彼女に向かって銃を向けていた。
「君にまだ理性が残っているなら、大人しく我々と一緒に来てください。」
村雨が無表情に言った。光を受けて眼鏡が不気味に光っている。千絵はその奥で彼女を見ているであろう瞳を真直ぐ見据えて尋ねた。
「私は、人間か?」

484:腐肉(P.N.)
10/03/01 01:43:06 7c2Azwhm
村雨は眼鏡のブリッジを指で押し上げると、少し躊躇いながら言った。
「…いいえ、違います。」
「じゃあどうしてこんなに苦しいんだ!!!!」
千絵は叫んだ。機動隊の銃を持つ手に力が籠もり、スタジアムに緊張が走るのが分かった。千絵は泣き出しそうな声で呟いた。
「答えてよ… 捕まえるんでしょ?私の全てを解き明かして見せてよ…。」
だが涙はもう出なかった。彼女は今なら、周防美里が最後に見せた涙と、諦めたような穏やかな表情の意味が分かった。
もう、嫌だ…。
千絵にはもう、生きる気力も、目的も、何も無かった。これほど力が漲っているのに、身体は海の中を果てしない深淵へ沈んでいくようにだるい。
彼女の中の獣は今もはっきりと目を覚ましているのに、動物園の脅えた猿のようにひっそりと息を潜めている。生き地獄、と言ったところか。
彼女はその倦怠に身を委ね、ふらふらとよろめいたかと思うと、その場にがくりとくず折れた。遠くの方で叫び声が聞こえた。
「今だ、確保!急げ!」
ばたばたと駆け寄る足音がして、何かが彼女の手足をきつく押さえつけ、持ち上げた。巨大な拘束具のようなものを装着させられる。
痛みは無い。彼女の身体は、重く沈みこむようで、それで居てふわふわと浮遊しているようだ。彼女の身体は固定され、屋外へと運び出された。
空はまだ暗い。排気ガスや二酸化炭素で汚れて透明度を失った空気に、人工的に生み出された街の明かりが反射してぼんやりと発光して見える。
秋の夜は長く、まだ明けそうに無かった。それからややあって、耳元で誰かが囁いた。
「死なせはしない。」
彼女は意識を失った。

----------------------------------------------------------------------------

その夜の内に関係各所に通達が回り事態の終息を伝えたが、騒動から一夜が明けてもまだ、代々木公園周辺は封鎖されたままだった。
マスコミには作られた物語が流され、世間には当初の報道通り地下鉄内で爆弾テロ未遂があったと発表された。
死傷者は、不幸にも崩落した地下鉄千代田線の明治神宮前駅で駅員を務めていた男性の1人のみとされ、
機動隊員や伊豆波を始めとする捜査官らの死は歴史の闇に葬られることとなった。
だが代々木体育館周辺で爆発があったとの目撃情報や、同時刻に東京全域を襲った局地的な地震との関連も囁かれた。
中には原宿の地下から“巨大な怪物”が出現するのを見たと証言する者もいたが、彼らの記憶は例の如く、三流記事の肥やしとなって終わった。
9月の丸の内線の事件と違い今回死傷者が1名だったためか、大々的な報道合戦は2,3日で下火となり、瞬く間に都市の住民からは忘れ去られた。
年が明ける頃には地下鉄利用者の人数も元通りに戻るだろう。だが一つだけ、“地下鉄の怪物”の噂だけは、都市伝説となって後世に残ることとなる。
東京で地下鉄に乗る際、好奇心旺盛で想像力豊かな人々は、自分なりに“怪物”の姿を想像し、ほんの一瞬だけ興奮と一抹の恐怖を胸に抱き、
そうした魑魅魍魎の類の居ない平和な世界に生を受けた事を感謝し、弱肉強食の掟とは縁のない幸福な日常生活へと再び埋没して行くのだった。
だが怪物は確かに実在する。それを知る極僅かな人々にとっては、これが真の始まりである。
その中心となる、悪夢の物語からただ1人生き残った少女は、事件の2日後、環境庁の施設の片隅で目を覚ました。


[続]
-----------------------------------------------------------------------------
遅くなりましたが>>459-468ありがとうございます。リアルタイムに感想などいただけるのがこの掲示板の良いところで一番嬉しいです。
これで周防美里編が終わります。後はエピローグ的なエピソードをいくつか考えているので、もうしばらくお付き合いいただければ幸いです。

485:名無しさん@ピンキー
10/03/01 07:33:28 Y9Bc3xri
ついにメインストーリー終了か・・・
今までお疲れ様でした、いつも楽しみに読ませてもらいました
エピローグも楽しみにしています

486:名無しさん@ピンキー
10/03/01 07:36:14 Xj3KQ/9F
腐肉さんGJ!!

一人になった千絵が不憫だ・・・

487:ますたー
10/03/02 23:17:29 FM0yfRAB
将来、同人誌描きたくてがんばっています。
友達の小説の絵描いたりしてるんですが・・・ 
すごく絵描きたいなw

488:名無しさん@ピンキー
10/03/03 00:38:50 57qrWF35
GJでした
ついに半年に渡り連載されてきたこのSSもメインストーリーは一段落ですか
エピローグ次第ではまだ続く可能性も捨てきれない
楽しみです


>>487
自分もいつかはコミケデビューしたいです
良かったらロダにうpよろしくです

489:名無しさん@ピンキー
10/03/03 01:03:16 PDu6Awd/
もはやSSのレベルをこえて一大叙事詩だな

490:名無しさん@ピンキー
10/03/03 16:07:21 6uLmxCCI
こんなマイナーフェチの場にここまでクオリティの高いSSが投下された奇跡

491:名無しさん@ピンキー
10/03/03 20:14:03 6kP1L4WW
しかしこの性癖は絵師にもSS職人にも愛されてるな
昔からポツポツ見かけてはいたがこれ程までとは

492:ますたー
10/03/03 21:56:38 0X64VFK7
千絵ってどんな髪型でしたっけ?

493:腐肉(P.N.)
10/03/04 04:16:18 NZ+mCnqM
「気分はどうですか?」
村雨はマイク越しに、厚さ100cmのアクリルガラスの向こうの蓮杖千絵に尋ねた。
千絵がいる部屋は鋼鉄と衝撃吸収剤でガードされ、水族館の水槽よりも更に分厚いガラスで仕切られている。
「君の友人の…小山内さんは残念でした。」
村雨の声はキーンという耳障りな音と伴に、スピーカーを通じて千絵の部屋へ届けられた。
千絵は耳を塞ぎ、スピーカーのボリュームを下げろとジェスチャーで伝えようと、ガラス越しに指でつまみを捻る手振りをした。
村雨は背後でオーディオを制御する技師に向かって支持すると、再びガラスに向かって言った。
「君の声もこちらへ届くようになっている。私は君と、話し合いに来たのだからね。」
千絵は村雨を睨み付けると、徐に口を開いた。村雨や数名の職員のいる部屋のスピーカーから、少女の声が聞こえた。
「…私は話すことなんて無い。どうせ殺すなら、今やったら?」
千絵は自棄っぱちに吐き捨てるように言った。村雨は意外そうな顔をする。
「言ったろう、死なせはしない、と。」
千絵は内心動揺した。気を失う直前に聞いたあの声は、この男だったのか。だが彼女には理解できない。
彼らはてっきり、怪物を殺すために活動しているものと思っていたからだ。
「自殺の可能性は?」
村雨はマイクを切って傍に居る白衣の男に尋ねた。
「無い、とは言い切れません。獣には自らの命を絶つという衝動はありませんが、彼女は“半分人間”、ですから。」
村雨は頷くと、再びマイクのスイッチを入れ千絵に言った。
「君にはこれからいくつかの、あー…検査を受けて貰いたい。」
「何が目的?」
千絵は訝しげに尋ねる。村雨は怪物に向かって不敵に微笑むと、彼女に背を向け、戸口へと歩みながら言った。
「検査が終わったら教えてあげよう。君がそう望むのなら、ですが。」
村雨はマイクを切ると、それを金属のテーブルに置いて部屋を出た。白衣の職員たちが彼に続く。
やがてガラスの向こうに誰も居なくなったかと思うと、千絵の居る部屋の天井がガコンと音を立てて、スライドしながら開いた。
「拘束具、用意。」
遥か上の方で、マシンガンのような銃で武装した男が号令を出す。白衣の男たちがぞろぞろとやって来るのが見えた。
その後ろから、肉屋が肉を吊るす台と外科手術の台が合体したような器具が現れる。あれに繋がれるなんて、千絵は御免だった。
「いいよ、自分で行くから。」
千絵は溜息を吐くと、床を蹴って跳び上がった。彼女の身体はふわりと浮き上がり、10メートル以上の高さにある天井の扉から外へ出て、上の階に着地した。
白衣の男たちが悲鳴を上げて拘束器具の後ろに後ずさり、武装したガードマンが震えながら彼女に銃を向けた。
「大丈夫、取って喰いやしないって…今更。」
千絵は両手を上げて投げやりに呟いた。
「検査、受けるんでしょ?どこへ行けば良い?自分で歩くから。」
白衣の1人が、恐る恐る廊下の奥を指差した。千絵は示された方に歩き出した。白衣の男たちは彼女に道を空けるため飛び退いた。
後ろから7,8メートル距離を置いて、ガードマンが銃を構えたまま、おずおずと着いて来た。千絵は何だかその様子が可笑しかった。
ラボのような部屋に通された千絵は、銃を向けられながら、身長・体重を始めあらゆる身体データを計測され、レントゲン、CTなど通常の医療検査から、
第二の口内部の構造調査まで身体の内外ありとあらゆる箇所を調べられた。初めて第二の口を開いた時には、白衣の研究員たちは仰天して床に尻餅をついた。

494:腐肉(P.N.)
10/03/04 04:22:35 NZ+mCnqM
検査が終わると、千絵は元の地下室に戻された。
脚の骨折は2日間眠っている間にほぼ直っていたが、10メートルほどの高さを跳び下りるのは嫌だったので、帰りはエレベーターを使わせて貰った。
数時間後、ガラスの向こうに村雨が現れた。
「気分はどうですか?」
スピーカーから村雨の冷徹な声が尋ねた。
「…お腹空きました。」
千絵はぼそりと呟いた。
「それは失礼。では食べながらで良いです。」
村雨がそう言うと、天窓が開き、簡易エレベーターで食肉処理場から直接運ばれてきたような牛の姿をほぼ留めたままの骨のついた牛肉の塊が丸々1頭分降りてきた。
千絵は訝しげに村雨を睨んだ。
「…毒は入っていませんよ。」
村雨は肩を竦めて見せる。千絵は皮を剥がれた肉牛に歩み寄ると、それに触れるなり悲鳴を上げた。
「冷たっ!」
「解凍が間に合わなかったのでね、すみませんが。」
千絵は溜息を吐くと、凍った牛の後足の辺りをかりかりと齧り始めた。
村雨は満足げにその様子を見ると、背後に控えた白衣の研究者からファイルを受け取って話を始めた。
「話に寄ると君は彼らに非常に協力的だったようで…感謝します。」
村雨はファイルを開きぱらぱらと書類を捲り、ガラスに向き直った。
「結果は非常に興味深いですね。まず君の身体構造についてですが…興味深い。
肋骨が消滅し、代わりに筋肉の束、君が“触手”と呼ぶものが寄り集まって骨格のようなものを形成している。筋密度は人間の数十倍。
骨盤も退化し、支えるべき臓器が無くなっている代わりに、首から下の肉体ほぼ全てが消化器官を備えた巨大な胃袋だ。
消化構造についてはまだまだ分からない事が多いが、摂取した質量を一瞬で消化し殆ど全てをエネルギーに変える…」
「あの…その話長い?食事中に聞きたくないんだけど。」
千絵は肉牛の後足をばりばりと噛み砕きながら言った。
「自分の身体について知っておくのは重要だと思いますがね。」
「私が知りたいのはもっと全体的な事なんだけど。」
千絵は反論した。
「良いでしょう…。だがこれだけは尋ねたい。君は、生殖について考えたことがありますか?」
千絵は思わず、口に咥えた凍った肉の塊をぼとりと床に落とした。
「はい…?」
「君はこれまでの“オブジェクト”と違い、生殖機能までもが退化しています。」
「それ女子高生にする質問?」
千絵は村雨を睨んだ。さっきから睨んでばかりだ。千絵は未だにガラスの向こうのあの男が好きになれなかった。
「本来、生命体の生存目的は種の繁栄です。」
村雨は無視して続けた。
「“オブジェクト”も最初はそうでした。だが君たちは僅かな時間でこれほどの進化を遂げ、遂には生殖機能を失うに至った。
種が生殖を放棄するのはどういう場合か、分かりますか?」


[続]
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>>492 千絵は黒髪ロングです。前髪とか詳しくは決めてないです。
描いていただけるととても嬉しいですし、終了後も別の形で皆さんに楽しんでいただけたら幸いです。


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