◆女性に捕食されるされるスレ◆ 二口目at EROPARO
◆女性に捕食されるされるスレ◆ 二口目 - 暇つぶし2ch100:名無しさん@ピンキー
09/11/28 20:38:56 G9V6uN2W
このスレのフインキって仲良くて好き

101:96
09/11/28 21:44:05 BIttaFmt
リロードしてなかったから気がつかんかったorz
>>95
なるほど、つまりレイミアは人間くらいなら丸呑みできるよ、という事は示されている訳ですな…
画像はまぁあったらよかったけど、無いなら無いでMPで補完できる

エロゲって興味魅かれるものがなくて買ったこと無かったんだが、買ってみるかなw


102:名無しさん@ピンキー
09/11/28 21:56:35 9AgSZTXN
>>100
こういう言葉遣いを見ると千絵を連想してしまう
そういえば腐肉さんの小説ってあのペースなのに誤字がほとんど無くてすげぇ

>>101
エロゲ初心者の俺でも楽しめたから、魔物娘大丈夫ならオススメ
女性主導が多いから苦手な人は・・・ってこのスレにM以外は居ないかw

103:名無しさん@ピンキー
09/11/28 22:20:39 EmNJnvd0
>>101
値段も比較的お手頃だから良いよな

>>102
逆にSなイートミーってどんなだろうなww
「食えよ・・・」みたいな?ww

104:名無しさん@ピンキー
09/11/29 02:01:35 0/ClduRa
>>100
他のスレが結構殺伐としてるからな・・・
俺も食い系スレの中では一番好きかも

105:名無しさん@ピンキー
09/11/29 02:47:19 jIe0bQu8
>>100
雰囲気(ふんいき)

106:名無しさん@ピンキー
09/11/29 03:20:03 /yRFSvE2
>>105
釣り針がでかすぎるぞw
折角いい流れなんだから汚すなw

107:名無しさん@ピンキー
09/11/29 07:27:43 S54Ubsx7
今日はメン・イン・ブラック2が放送されるね。

108:名無しさん@ピンキー
09/11/29 13:02:12 ZSaOKZ+6
>>102
内容的にココかどうか微妙だけど一寸法師的なシチュがいいわ
M性質とはちょっと違うし立場として逆だから書きにくいだろうし見る側は探すのに困るんだよね

他にも男だけど女視点で見てる俺なんてのもいるんだぜ

109:名無しさん@ピンキー
09/11/29 21:33:25 /cD96ZkF
>>107
MIB2よく知らなかったけど、開始早々おっきしたwww
おまえさんのおかげだ、ありがとう

110:名無しさん@ピンキー
09/11/29 23:53:08 6JaHhao2
脳に触手を入れるシーンだけ見れたんだけど
他にもいいシーンはありましたか?

111:名無しさん@ピンキー
09/11/30 00:22:52 jhjRiX9y
>>110
もし、しょっぱなの丸呑みシーンを見逃したんなら
レンタルビデオ屋に走るといいよ

112:名無しさん@ピンキー
09/11/30 19:48:22 RGS0tSsu
3次はちょっと…

113:名無しさん@ピンキー
09/11/30 20:22:43 Hx+35b/J
>>112
あらゆるモノを二次に変換してこそ変態紳士

114:名無しさん@ピンキー
09/12/01 00:20:59 fOe5ljqg
>>112
大事なのはきっかけだあとは応用にすぎない

115:腐肉(P.N.)
09/12/01 02:51:44 3A0GTD/U
新学期が始まると、学校は文化祭ムード一色になった。特に3年生は部活も終わり、高校生活最後のイベントとあって張り切っているようだ。
千絵はと言うと、まだぼんやりと、あの少女の事を考えていた。
あれからニュースや新聞の隅々に目を凝らして見たが、あれ以降目立った手掛かりは見つかっていない。
だが何となくだが、千絵は、彼女がまだ東京近辺にいるような気がしていた。
かつて彼女の目の前で、大切な人を喰い彼女を犯し、貪欲な食欲を満たすためにさらに大勢の人間を呑み込んだあの怪物は、どんな味がするのだろう。
あいつを呑み込むのは、どんな感じなのだろう…。気付けば千絵は、そんな事を考えていた。
一方、目立たないが実はクラス委員という顔を持つ佳奈は、文化祭準備に追われ忙しそうにしていた。
最近、彼女に急接近してきた人物がいる。真面目なタイプの堀切英次は、もう一人のクラス委員で、クラス展の準備で佳奈とは毎日のように顔を突き合わせていた。
千絵にはすぐに、彼が佳奈に対し少なからぬ好意を抱いているのが分かった。
佳奈に接する態度、口調、佳奈が近くに居るときの表情、少し離れているときの視線、その全てがそれを物語っていた。
佳奈の方はどう思っているのだろう?
ある放課後、2人が重そうな段ボール箱を抱え、笑いながら並んで歩いているのを見た千絵は、突如感じたことの無い不安に襲われた。
あの男、喰ってやろうか…。そんな考えが浮かばなかったと言えば、嘘になる。
だが千絵は、そこまで佳奈を束縛したくなかった。だがら、佳奈に直接、さり気無く尋ねてみるなどという事もしなかった。
私は大人だからな!
それが余計に千絵を無気力にした。変わらないのは食欲だけだ。

文化祭まで一週間となったある日の授業中、突然教頭が教室にやって来た。
生え際の後退した額を落ち着きなく撫でながら、教頭は担任とクラス委員の佳奈や堀切らに指示を出すと、クラス全員を教室から連れ出した。
連れて来られたのは、生徒指導室前の廊下だった。そこには何人かの警官が立ち、ごった返す生徒たちを整理していた。
どうやら、他のクラスからも何人か呼び出されたようだ。人ごみを掻き分け、千絵はようやく佳奈と話をすることが出来た。
「何事?」
佳奈は青ざめた顔で千絵を見た。
「行方不明の人たちの事で…聴取、取り直すって…。」
その時、警官に肩を捕まれ、千絵は自分の列に戻された。佳奈の動揺した顔が、生徒たちの肩の向こうに消えた。
千絵も佳奈ほど動揺はしていないものの、気がかりではあった。
今になって、どうしたと言うのだろう。新しい証拠でも出たのだろうか?
千絵が頭を悩ませていると、見覚えのある顔が目の前を横切った。
「福沢さん。」
一瞬名前が出てこなかったが、千絵は福沢刑事がまだ近くに居るうちに、彼を呼び止めた。
「ああ、蓮杖さんか。」
福沢は振り向くと、挨拶をした。その顔は、どうやらここで千絵に声をかけられるのを予想していたようだった。
「何事です?」
千絵はそれとなく探りを入れてみる事にした。
「うん… 実は、また君に迷惑をかけてしまう事になりそうだ。」
福沢は顔を強張らせて小声で言った。その時、職員用玄関の方から黒服に身を固めた男たちが現れた。
数名の警官に先導されながら、生徒たちの間を縫って通ると、生徒指導室へ入っていった。
「どういう…どういう事です?あの人たち、警察の人じゃないんですか?」
「環境庁の連中です。」
福沢は、彼らが消えた生徒指導室の戸を渋い顔で見つめながらそう言うと、「他の子に言うなよ。」と付け加えた。
「私たち地元警察が事件を解決できないものだからと…。」
「事件?」
福沢は悲痛そうに千絵の顔を見つめた。
「例の…ホテルの事件。」
千絵は混乱した。疑問はたくさんある。
「何で…4ヶ月も経ってるんですよ?ていうか、何で環境庁なんですか?」
「連中は我々にも何も言わずに…。」
「蓮杖千絵さん。3年C組の蓮杖千絵さん、居ますか?」
生徒指導室から再び姿を現した黒服の一人が、廊下のざわめきの中に呼びかけた。
「…という訳だ。」
福沢は千絵に向かって肩をすくめた。
「はい、ここです…。」
千絵は手を上げると、前へ歩み出た。
「入ってください。」
黒服の男が、生徒指導室の戸を開けて中へ促した。
千絵はちらちらと男の顔を見ながら、言われるがままおずおずと入室した。後ろから福沢も付いて入った。


116:腐肉(P.N.)
09/12/01 02:52:58 3A0GTD/U
教室の中は、いつもとまるで違っていた。
中央に長机が置かれ、黒服が3人、何かの面接のように座っており、その前にパイプ椅子がちょこんと1脚置かれていた。
「蓮杖千絵さんですね、かけてください。」
中央の黒服が言った。千絵は黙って腰掛ける。
「村雨です。」
黒服は簡潔に自己紹介した。
「どうも…。」
「福沢君とは、もうお知り合いですか?」
「ええ、以前にも…。」
「結構。」
村雨は千絵が言い終わらないうちにぴしゃりとそう言って、隣の男から分厚いファイルを受け取りぱらぱらとめくった。
「その後、お加減はどうですか?」
村雨はファイルに目を落としたまま唐突に尋ねた。
「体調は良いです。」
千絵は言葉にありったけの不審感を込めて返答した。
「どこか変わったところは?」
「いいえ。」
「結構。では、思い出していただきたい。」
村雨は顔を上げた。分厚い眼鏡のせいで分からなかったが、まだ若いようだ。
「事件の夜の事。君が、あー… 例の宿泊兼休憩施設で出くわした、出来事の事。」
「全部警察の人に話しました。4ヶ月前に…。」
「本当にそれで全部ですか。」
村雨の彼女を見る目つきに、千絵は胸騒ぎを覚えた。
「君は当時、覚えていないと答えていますが… まぁ、ショックというのもあるでしょう… だが今なら思い出せるかな?
最後に君の彼氏、末永雅人君を見たとき、彼に何が起こりましたか?」
「ちょっと、いい加減にしてください。」
福沢が口を挟んだ。
「彼女は事件の被害者なんです。まだ時間が…」
「時間をかければかけるほど、彼女が思い出せない内に脳の中で記憶は薄れていき、事件は広がって行くのですよ。」
村雨は福沢を遮った。
「ついでに、予め言っておきますが私は行方不明者は全員すでに死亡していると考えています。これからはそのつもりで話を進めますが、よろしいですか?」
千絵は身構えた。背後に福沢刑事の哀れみと同情のこもった視線を感じる。無言で座ったままの残りの黒服共が、余計に部屋の空気を悪くする。村雨は続けた。
「では別の切り口で。あの夜、君は何か変わったものを見ませんでしたか?例えば獣とか、人間でない何か。」
千絵は、巨大な胃の中に大量の氷水が注ぎ込まれたような感覚に襲われた。
この男は、怪物の存在を知っている…。


[続]

117:名無しさん@ピンキー
09/12/01 03:47:04 DyIT8ga+
わくわく

118:名無しさん@ピンキー
09/12/01 08:14:17 fOe5ljqg
続きキター!!(゚∀゚)
シリアスな展開に・・・

119:腐肉(P.N.)
09/12/02 23:49:36 psKtlOeX
「何の話です?」
凍りつく千絵の後ろで、困惑した福沢刑事が再び声を上げた。
「君はあの事件が本当に、あー… 人間に犯行が可能だと思いますか?」
「熊か何かがラブホテルに侵入し客を襲って、何人かはその場で食い白骨を残し、残りの被害者を運び出して森へさらったとでも?」
普段冷静な福沢の言葉に、侮蔑と嘲りが籠もる。
「熊…とは私は言ってませんがね。」
村雨は小声で呟くと、再び千絵に目を向けた。
「例えば先月の半ば、東京で起きた市営団地住民全員失踪事件。それから同日隣りの県で起きた精神病院の患者及び職員皆殺し事件。これが人間の仕業かね!」
村雨が机の上のファイルをトンと叩いた。
「それと私と、どういう関係が…。」
言いかけた瞬間、千絵はしまった!と思った。
千絵は失言に気付き口をつぐんだ。心臓が早鐘のように響き、自らの思考の愚鈍さを呪った。
「関係?それは君が生き残った少女だからですよ、蓮杖さん。」
間髪入れずに村雨は返答する。
「が、学校の皆は?なぜ全員取調べを受けるんです?」
「あー…。」
村雨はちらりと福沢の顔を見て、やれやれというように溜息混じりに話を始めた。
「例の事件以降、この辺りで妙な行方不明事件が多発しているんですよ。何件かは君もご存知でしょう?
ああ、君のお父さんもそうです。予兆も無く、突然消える。中には小学生なんてのも居ます、それも複数ね。
消えた人々に関連も無い。だが最も初期に、最も集中していた場所が… どこだと思います?」
村雨は無表情のまま、左の人差し指をぴんと立てると、床を指差した。
「ここ、県立第一南高等学校なんです。びっくりしました?」
村雨の吊り上がった眉が千絵を威嚇している。
「例の宿泊兼休憩施設の事件で、この学校の前校長を含む3人が犠牲になった。
そして半月後、末永雅人と同じ部活だった菅原啓一、続いて虐めに遭っていた岡田旬が消えた。私はそこの福沢君と違って、一連の失踪事件が無関係とは思わない。
ですから、これからは”新しい目”を以って調査せねば。すなわち、地元警察が別個に調査していた一連の事件に関連性を見出す目でね。」
村雨は切れ長の目を見開いて見せた。
「だがその前に、気になることがある。蓮杖さん、生き残った少女、あなたの存在だ。あなたは菅原、岡田とも…同じクラスですね。」
千絵は背筋を強張らせた。
「待ってくれ、あんたまさかこの娘が何か…」
福沢が狼狽して呟いた。今度は制止された訳では無かったが、言葉は最後まで口に出されない内に部屋の中のどんよりと重い空気の中に消えてしまった。
今、福沢はどんな目で千絵を見ているだろう。
村雨捜査官の言葉によって、少女を信じる心に何らかの疑念を植え付けられただろうか、それともまだ彼女を哀れな被害者だと思っているだろうか。
千絵には分からなかった。
村雨は向き直ると、千絵に向かって微笑んで見せた。場を和ませようとする彼なりの努力だったのかも知れないが、千絵はその笑顔にぞっとした。
「蓮杖千絵さん、もう一度尋ねます。あなたは、4ヶ月前の事件について、本当にもう何も覚えていませんか?
そして一連の失踪事件に関して、何か知っていることはありませんか?」


120:腐肉(P.N.)
09/12/02 23:53:17 psKtlOeX
蓮杖千絵への聴取が終わり、青ざめた顔の少女が部屋から出て行ってしまうと、村雨は「ふぅ」と大きく息を吐き出し、椅子の背もたれに寄りかかった。
「あなたの言う通り、美しい少女ですね。」
村雨はくっくっと不気味に笑う。
「それに強い。あれだけ揺さぶりをかけても、動揺したのは一度きり。私はそう思いましたが、どうでした?二度かな?」
村雨は隣の黒服にいたずらっぽく尋ねた。
「言ったでしょう、彼女は被害者ですと。残念でしたな、何も得るものが無くて。」
福沢が村雨を睨み付けて勝ち誇ったように言った。
「いえいえ、大きな収穫ですよ。」
村雨が笑った。福沢の表情が変わる。
「やはりあなた方は、我々の知らない事情をご存知のようですね。」
「この世にはあなた方の知らない事情がたくさんありますよ。」
「差し支えなければ、我々無知な地元警察にも開示願いたいですな… あんたら何を隠してる?」
福沢は村雨に詰め寄った。村雨は困ったように笑うと、少しして口を開いた。
「こう申しておきましょう。我々の敵は、我々が今まで知らなかった相手だ。あなた方警察はおろか、この世界さえも。
それがいつからこの世にいるのか、はたまたこの世のものなのか、それさえも我々は知らない。」
「あんた何を言って…。」
福沢の言葉は遮られた。
「そして私は、先の少女が十中八九、何か知っていると思います。我々の知らない事情をね。」
福沢は顔を強張らせた。目の前にいるいかにもエリートタイプのこの男が、自分をからかっているのだろうかと考えて。
「福沢刑事、次の生徒を呼んでもらえますか?」
村雨はそう言いながら眼鏡を押し上げると、隣の黒服に向かって呟いた。
「蓮杖千絵… 予想以上だ。もしかすると、彼女自身が…。」
福沢は黙って戸を開け、廊下に並んだ不安げな子供たちの顔を見渡した。蓮杖千絵の姿はもうそこには無かった。
福沢は今や、足場の悪い建設現場に一人取り残されたような気分だった。つい先月までは、厄介だがまだ「人知の範囲内」の事件の担当として、
いつも通りの内容の職務をこなしていた。厄介ではあったが。
それが黒服共の突然の登場によって、一変だ。彼は警察内での立場などは気にもしなかったが、それどころか事件は、彼のこれまで
生きて来た中で培われてきた価値観や信念そのものを揺るがすような方向へ進んでいるような気がする。
無論、あの理屈っぽい眼鏡の言う事を鵜呑みにするつもりはないが、事態が尋常ではない事は確かなようだ。おまけに彼は蚊帳の外。
こういう時、ただ見守る事しか出来ないのが福沢は何よりも嫌だった。
彼を警官にしたその正義感は、一人の少女が苦むのを見過ごすなどという事は許さなかった。
黒服共は信用できない。ならもう一度、私に出来る範囲で、一から事件を洗いなおしてみよう。
蓮杖千絵が何か知っていようといまいと、彼女の助けになるには、それしかない。
彼はそう決意した。


[続]


121:名無しさん@ピンキー
09/12/03 00:24:15 I/jt39AR
福沢刑事優しいなぁ。
フラグビンビンだけどw
しかし話が面白い。
エロパロとかそういうヤマしいこと関係なしに、
純粋に小説読むの楽しんでいる俺がいる。

122:名無しさん@ピンキー
09/12/03 01:15:36 sz2g+ZUj
こうなってくるとやっぱり漫画化、映像化に期待だな。

123:名無しさん@ピンキー
09/12/03 07:15:45 3yZo89Ab
>>122
その前に書籍化が抜けてるぜ


124:名無しさん@ピンキー
09/12/03 20:28:50 3SDFwWwx
てか前から思ってたんだけど腐肉さんて物書きの仕事してたりするのかなぁ?
誤字もたまにしかないし文章が普通のSS職人っぽくない

125:名無しさん@ピンキー
09/12/03 21:36:19 3yZo89Ab
文章も面白いし誤字も少ないってことは
最強だな!!

126:名無しさん@ピンキー
09/12/03 23:10:21 f7FEb7ap
腐肉氏はIMEは何を使ってるんだろう?ATOKかな?

ところで、これ↓見て試してみたけどMS-IMEよりは断然良いね。

「Google 日本語入力」はATOKやMS-IMEを超えることはできるのか、実際に使って実用に耐えるかどうか試してみた
URLリンク(gigazine.net)

127:腐肉(P.N.)
09/12/04 05:17:53 Icf4nKa4
千絵は指導室を出た後、まだ何事か把握できないまま困惑した表情で待つ生徒たちの好奇の目(もう慣れっこだ)をすり抜けると、まっすぐ教室へ戻った。
佳奈に声をかけようかと思ったが、隣に堀切英次が居るのに気づくと、黙って横を通り抜けた。
不安げな顔の佳奈を無視するのは心苦しかったが、今はそれよりも胸の中のもやもやした不安と緊張の残骸を表に出すまいと必死だった。
その日の授業は丸々潰れ、3年の担任たちは「受験生の大切な時期に生徒たちの時間を奪うな」と新任校長に抗議した。
千絵が佳奈と話したのは、放課後になってからだった。開口一番はいつものように、「大丈夫?」だった。
千絵はいかに大丈夫じゃなかったかを説明した。青ざめた佳奈は、いくつか質問して補足を促した後、黙りこくってうつむいてしまった。
「それより、いいの?文化祭準備。」
千絵は平静を装って尋ねた。急に、この不安が自分の正体がばれそうだという危機感から来るものなのか、佳奈が自分のもとを去って
しまうのではないかという心配から来るものだったか分からなくなった。
「いいの、家の都合って言ってあるから…。」
それを聞いて、千絵は少し安心した。少なくとも今日これからは一緒に居られる。だがすぐに別の不安が首をもたげた。
何を考えているんだ、私は。
以前なら自分の正体に関してこんなに動揺することは無かった。獣が自己防衛に移るのは、もっと目前に危機が迫ってからだからだ。
それなのに、今はあの黒服の男の事を考えただけで胃が縮み上がる。
「身体検査とかされたらどうしよう…。」
佳奈が唐突に言った。

「レントゲン、どんな風に写るのかな…。」
「多分、胸に歯が付いてるだろうね。」
千絵が言う。
「その村雨って人、殺しちゃえば?」
「意味無いよ、あいつはただの手先だもん。あいつが消えたところで、環境庁から別の役人が来るだけだと思う。
それに、このタイミングであいつが死ねば私への疑惑が強まるだけだ…。」
2人は下校途中、何度も対策を考えては堂々巡りを繰り返した。少女たちに出来る事は、ただ嵐が過ぎ去るのを待つのみだった。初めからその解答は出ていたのだ。
そしてこの見慣れた道を2人で帰る事が、この先そう何度も無いであろう事も、少女たちは薄々気づいていたのかも知れない。


それから数日、福沢や村雨からの接触は無く、気配を感じる事も無かったのだが、千絵は大人しく過ごした。
無論、人は食べていない。夜になるとどうしても食欲が抑え切れず、閉店間際のスーパーに出かけては大量の生肉を買い込んできて飢えを凌いだ。
精神的な落ち着きを少し取り戻すと、またしてもあの少女の事を考えるようになっていた。今頃どこにいるのだろう。人知れず、また誰かを喰っているのだろうか。
そう考えただけで、千絵の中で獣が疼いた。
学校では環境庁による集団聴取の日以降、聴取された生徒は他の生徒たちから質問攻めにされ、武勇伝のようにその時の様子を語って聞かせていた。
学校中で4ヶ月前の事件の噂が再燃した。未知の生物説を初め、伝染病説などが取り沙汰されたが、どれも現実味は無く子供たちが面白おかしく
話をする話題というだけのものだった。
誰一人そんなもの信じては居なかったが、この茶番を楽しまない手は無いとばかりに、千絵のクラスでも毎日その話題で持ちきりだった。
デリカシーの無い生徒たちは千絵の周りにも取り巻いてあれこれと尋ねたり、自分なりの推理を披露したりで、千絵が特に拒まなかったせいもあり、
いつの間にか休み時間になると千絵の机の周りに人が集まるようになっていた。


128:腐肉(P.N.)
09/12/04 05:24:26 Icf4nKa4
佳奈は少し離れた自分の席から、ちらちらと心配そうに千絵の様子を伺っていた。たまに堀切英次がやって来ると、笑顔でなにやら話し込んでいるようだった。
その光景を目にする度に、千絵は心が痛んだ。最近、千絵と二人で居るときの佳奈はいつも不安げで、あまり笑わない。
「ねぇ、蓮杖さんは進路どうするの?」
不意に、それまで数えるほどしか話した事の無い女子生徒が千絵に話しかけた。千絵の周りに固まった連中の話題は、いつしか事件とは全く関係ないものに変わっていたようだ。
「えっ?」
話の流れを聞いていなかった千絵が戸惑っていると、別の生徒が尋ねた。
「大学、どこ受けるとかもう決めてる?」
「わ、私は…。」
千絵は口をつぐんだ。これまで、佳奈も周りの皆もそうしているから、何となく受験勉強の真似事をしてはいたが、考えてみれば進学など可能だろうか?
彼女にはもう両親が居ない。今は小山内家の世話になっているし、父の口座から下ろした家族の「遺産」も生活に困らない程度は残っているが、
大学の学費にはとうてい及ばない。かと言って、就職、だろうか…。
「分からない…。」
千絵は思った通りを素直に口に出した。
「ええ、嘘!?」
「千絵、成績優秀なのに。」
「陸部も、途中で辞めなきゃ私大とか専門ならスポーツ推薦取れたかも知れないのにな。」
周囲の生徒たちが口々に言う。将来の事を思うと不安に押し潰されそうになる。自分が何をしたいのか、千絵には分からなかった。
「千絵、ちょっと良いかな。」
その声に振り向くと、佳奈が神妙な面持ちで立っていた。
「どうしたの?」
「来て。」
佳奈は千絵の手を引くと、すたすたと教室を出た。
普段生徒の来ない、屋上へ通じる階段の踊り場まで来ると、佳奈はくるりと千絵に向き直って言った。
「もう少し目立たないようにした方がいいよ。」
「目立ってる?」
「目立ってる。」
佳奈はぴしゃりと言った。
「私だって、好きで目立ってるんじゃない。」
「そう?」
棘のある言い方だ。
「佳奈、言いたいことがあるなら…。」
「千絵は疑われてるんだよ、あの人たちに!」
佳奈はふいに大声で言った。
「わかってるよ…。」
「大人しくやり過ごすしか無いって決めたのに、クラスで目立って…。」
「好きで目立ってるんじゃないってば。」
「私は心配してるだけだよ…。」
千絵は段々腹が立ってきた。
「私だって怖いよ、なのに一番傍に居て欲しいときに佳奈は…」
「私のせい!?」
佳奈は涙を溜めた目で千絵を睨みつけた。それを見た瞬間、千絵は自分の愚かしさを反省した。この数日の佳奈に対する感情は、全て自分のわがままではないか。
甘えるなよ、獣のくせに…。
千絵が謝る言葉を探していると、始業のチャイムが鳴った。
「あのさっ…」
だが千絵がそう言いかけた時には、佳奈はすでに千絵に背を向け、教室へ戻るために階段を降りて行くところだった。千絵は言葉を続けられず、とぼとぼと数歩後ろに付いて教室まで戻った。

-----------------------------------------------------------------

完全に機を逃してしまった。千絵は、あの時無理にでも引き止めて謝ってしまえば良かったと後悔した。
休み時間になると佳奈は机にうつ伏したままで、眠っているのか泣いているのかも分からず近寄りがたい。堀切でさえ、その日はもう佳奈に近づかなかった。
放課後になると、佳奈はすぐに生徒会室へ行ってしまい、一人ぼっちで取り残された千絵は野球部の男子たちに引っ張られて、校門に立てる文化祭用のアーチを体育倉庫から出す力仕事を手伝わされた。
それが終わると千絵は学校をうろついて佳奈の姿を探したが、文化祭まで後2日とあって庶務に追われてあちこち駆け回っているらしく、中々見つからなかった。
家に帰れば話す機会はあるからと、千絵は諦めて先に帰宅した。
佳奈の部屋で1人、千絵は空腹紛れにベッドに蹲った。毛布や枕から佳奈の匂いがする。
千絵は毛布にぎゅっと顔を埋めると、夕食まで眠る事にした。


[続]

129:腐肉(P.N.)
09/12/04 05:25:57 Icf4nKa4
>>124 ものかき… なれたら良いんですけどね…でも職業になったらきっとここにこうやって書くの程楽しく無いのだろうな、とも思います。
>>126 普通の、MS-IMEを使っていますよ。

130:名無しさん@ピンキー
09/12/04 07:32:39 oDn1zPyB
うまく仲直りできると良いな・・・

131:名無しさん@ピンキー
09/12/04 14:48:46 HqvmGfWH
アニメ「SAMURAI DEEPER KYO」第22話「機械仕掛けのドールズ」(DVD巻之八)で
ヒロインが歳世という敵の女に取り込まれるシーンがあった。
相手の体にズブズブとはまっていく感じ。
↓この動画の最初の方にある。
URLリンク(www.youtube.com)
歳世、体内から攻撃されて殺されてたけど。

流れぶった切ってスマソ。

132:名無しさん@ピンキー
09/12/04 20:26:55 D+WQkB8P
原作もアニメも難ありきなあのGENNKAI TOPPA作品か
懐かしい

133:名無しさん@ピンキー
09/12/04 22:06:12 oDn1zPyB
>>131
あの光り輝く境界部分には
肉々しいわれらのアヴァロンがきっとあるのだ

134:名無しさん@ピンキー
09/12/04 22:27:41 4EiBDHye
狂の漫画は人食い女性が多かったから妄想材料としては中々
直接食ってる描写がほとんど無かったのが残念だった

135:名無し@ピンキー
09/12/05 05:32:52 gY1VWpqD
しばらく見ない間に続きが…しかも千絵が乙女だー!!!

136:名無しさん@ピンキー
09/12/05 10:55:23 dzu+RnqA
良スレを発見したww
マニアックな割に勢いあるな

137:名無し@ピンキー
09/12/05 15:44:03 QeLAKH3y
腐肉氏のおかげだな。俺も正直2スレ目行くと思ってなかった。
最近捕食展開から離れてるがこれはこれでハラハラさせられて良い。

138:名無しさん@ピンキー
09/12/05 16:53:40 JnulAqj6
前スレで絵を提供してくれてた方々も忘れちゃならないな
ラミア絵描いた人とかのおかげで多少なりとも加速したし
腐肉氏の小説が一段落したらまた絵張ってくれるらしいし期待

139:名無しさん@ピンキー
09/12/05 22:00:29 v5RSZYpl
毎回楽しみで
すぐに足を運びたくなるんだ

140:名無しさん@ピンキー
09/12/06 01:36:55 enHxkNoX
パワプロクンポケット12に食べる所はあったよ
色々と違う気もするが

141:名無しさん@ピンキー
09/12/06 03:18:53 8MwNv+sp
女の子の方を食べるってことか。
嫌いじゃないけどスレ違いだな。

142:腐肉(P.N.)
09/12/06 06:18:16 Ae17CU8W
千絵が目覚めた時、隣りで佳奈が眠っていた。
しまった、どれくらい眠っていたんだろう?
時計を見ると、9時半を回ったところだった。疲れて帰ってきて、眠ってしまったのだろう。
夕食、食べたのだろうか?
千絵は佳奈の顔を覗き込んだ。だが、閉じた目の下に涙の流れた跡があるのに気付き、どうしても起こせなくなってしまった。
仕方なく千絵が1人で階下へ降りて行くと、佳奈の母が居間から顔を出した。
「あら、起きたの?」
「はい、すみません、眠っちゃって…。」
千絵が照れて笑うと、佳奈の母が台所へ連れて行ってくれた。
「ご飯、取ってあるから。起こそうとしたんだけど、佳奈がね、千絵ちゃん今日運動部の手伝いで重い荷物運んで疲れてるだろうって言うから、
起きるまで待ってたの。佳奈ももう寝ちゃったかしら?」
「そうみたいです…。」
佳奈の母がラップに包まれた皿を電子レンジで温めている間、千絵は涙が出そうになるのを必死で堪えた。佳奈は、どこから見ていたのだろうか。
どんな気持ちで、千絵を見ていたのだろうか。
食事が終わると、千絵は部屋に戻り、眠ったままの佳奈をぎゅっと抱きしめた。折れてしまいそうな小さな身体で、佳奈は今どんな夢を見ているのだろう。
そう言えば事件以来、夢を見たという記憶が無い事に、千絵はその時初めて気づいた。
千絵の中に残った僅かな感情が、それはとても寂しい事なのだと告げていた。

-----------------------------------------------------------------------

「あのさっ、佳奈…。」
登校途中に、千絵は勇気を振り絞って声をかけた。獲物に忍び寄る獣でも、これほど緊張はしないだろうという程、千絵は緊張していた。
少し前を歩いていた佳奈は、立ち止まって振り向いた。
「佳奈、ごめんね。私…。」
そう言い切らないうちに、佳奈はぴんと立てた人差し指を千絵の唇に押し付けた。
「もういいんだよ。」
佳奈は微笑んだ。
「私は、千絵の傍に居る。何があっても。この先どうなっても、それは変わらないから。ごめんね、くだらないことで苛々して。」
千絵は涙が出そうになるのを堪えた。
「ほーら、もう泣かないの。」
「泣いて…ない。」
佳奈は自分より一回り背の高い千絵の頭をそっと撫でた。千絵は鼻水を啜り上げながら「ありがとう」と呟いた。
「行こ、遅刻するよ。」
「ん…。」
千絵は佳奈に見つからないように、ぽろりと一筋だけ流れた涙をそっと手で拭った。それが2人の間を通う、共犯以上の絆の証だった。

143:腐肉(P.N.)
09/12/06 06:20:29 Ae17CU8W
----------------------------------------------------------------------
その日は午前で授業は終わり、午後からは翌日開催される文化祭の準備に当てられる予定だった。
生徒たちは昼が近づくにつれそわそわし出し、授業中にも拘らず心ここにあらずといった風にぼうっと遠くを見るような目で空を見つめていた。
千絵もその1人だったが、理由は違った。彼女は今後の身の振り方について、少しばかり考えを巡らせていた。
実は昨日まで、街を出ることも考えていたのだ。佳奈と喧嘩してしまった以上、小山内家に留まる理由も無いと、その場の自棄で考えてしまった。
今や状況が変わったわけだが、佳奈との仲直りは千絵にとって負の側面も持っていると気付いたのだ。
なぜなら、千絵が街を出ると言ったら、佳奈は確実に一緒に来るからだ。これ以上佳奈に迷惑はかけたくなかった。佳奈は普通の人間だ。
人間は人間として一生を送るべきだ。怪物は怪物として。自然界の摂理だ。
それにもしもの事が起こった時、佳奈は千絵と違って自分の身を護れない。夏休みの出来事が教訓だ。
もしまたそうなったら、あの時のように千絵が彼女を救うことが出来る保障など無いのだ。
「もしもの事」…。
何だ、もしもの事って?
警察に追われるとか?もしくは環境庁の連中か?
いや、違う。
千絵が考えていたのは、「もしも、“お母さん”と出くわした場合」だ。
千絵は怪物少女の色素の薄い冷たい目と、鋭い牙を思い出し、ぶるっと身震いした。
その時、誰かが彼女の名前を呼んだ。
千絵がはっとして顔を上げると、担任の白石が教室の戸口に立って手招きしていた。
気付けば授業はもう終わって昼休みになっており、教室はざわざわと騒がしかった。
千絵が一緒に弁当を食べようと机を寄せ合う生徒たちの間を縫って戸口までたどり着くと、白石は不安げな目を彼女に向けた。
「こないだの警察の人がまた来ててね、話したいって言うんだけど…。」
警察?環境庁では無いのか?
千絵はふと疑問に思った。
「蓮杖さんが話したく無いって言えば、帰ってもらうことも出来るのよ?」
「あ、いえ… 大丈夫です。話せます。」
白石の目が不安から哀れみモードへ切り替わった。大方、辛いのに気丈に振舞う健気な少女とでも思っているのだろう。
千絵は白石について階段を降りると、購買に群がる生徒たちを通り過ぎ、しんと静まり返った1階廊下までやって来た。
そこには「応接室」がある。他の教室から離れていて、千絵を含め多くの生徒たちは卒業するまで縁の無さそうな場所だ。
白石は2度ノックしてドアを開けた。千絵が入室すると背後でドアが閉まり、廊下を足音が遠ざかっていった。千絵は、応接室に2人きりになった。
待っていたのは福沢刑事だった。
千絵は大して驚きはしなかった。ただ、少し残念ではあった。千絵は彼に対して「人間的」な意味で好意を抱いていたからだ。
彼が今日わざわざここまで来たという事は、今日でお別れという事になるかも知れないと千絵は思った。


[続]

144:名無しさん@ピンキー
09/12/06 16:20:14 tG+7ZIoN
うまく仲直りできてほんによかった
また、別れの予感が・・
GJ!!

145:腐肉(P.N.)
09/12/07 05:18:28 bgb+4O+6
「座って。」
福沢は会議テーブルを指して重々しげに言った。千絵は言われるがままふかふかした椅子に腰を下ろす。
蓮杖千絵と対面して、福沢刑事はまだ迷いを捨てきれずに居た。
彼女に、自分の調べた事実を伝えるつもりで、覚悟をしてここへ来たはずだった。
だが彼女に何と言って尋ねれば良い?もし自分の勘違いだったら?彼は深く息を吸って目の前に座る可憐な少女に向き合い、口を開いた。
「正直に話して欲しい。」
福沢刑事は慎重に言葉を選び言った。
だがやはり動揺しているのか、あるいは千絵に親近感を持たせる作戦か、いつもの丁寧な口調ではなくなっていた。
「君は何か知っているね。」
「何か、というのは?」
千絵は落ち着き払って尋ね返した。
「ホテルの事件に関して。行方不明の同級生に関して。それから、君がアルバイトで配達担当をしていた地区の不明者について。」
そこまで調べたのか、と千絵は感心した。
「調べさせてもらった。」
千絵の心の声が聞こえたように、福沢はそう付け加えた。
「それから、もしかしたら先月の精神病棟の一件に関しても。」
千絵は少し驚いた。当推量で言っているのだろうか?緻密に計画を立てたつもりだし、証拠になるようなものは残していないはずだ。
「出来れば、このような結果になって欲しくなかった。」
福沢は本心からそう言った。心の中では、まだ彼女が無関係であって欲しいと望んでいる。
「だが調べれば調べるほど、全ての事件と君に何らかの接点が見えてくる。」
「常舞病院の事件も、というのは?」
千絵は好奇心から尋ねた。
「病院の名前を知っているんだね…。」
福沢刑事が残念そうに呟いた。いや、だがあれ程報道されていたのだし、日本中の話題になった。
近くだし、病院の名前をいちいち覚えている女子高生が居ても不思議は無い。
福沢の脳は瞬時にそんな事を考えた。
「一見関連性の無かった、一人暮らしの老人や青年が消えた事件やなんかでも、もう一度調べてみたら多くの場合、
生存が確認できる最後の消息は書留郵便の受け取りサインだった。
問い合わせれば、誰が担当だったかすぐに分かる。証拠は何も無い。どの事件も。
村雨という男がああ言ったが、あくまで行方不明事件で被害者すら見つかっていないんだ。
病院の事件に関しても、目撃証言も、有力な証拠は何一つ。
だが、もしも君が関係しているという前提で調べるなら、バスの運転手にこう聞けばいい。
『あの日、高校生くらいの女の子が乗らなかったか』と。精神病棟行きのバスなんて、君
くらいの年の女の子が普段そんなに利用するものじゃない。」
「そう…ですか。」
あまりに完璧な推理に千絵はそれしか言えず、居心地の悪さを紛らわせようと脚を組んだ。
やはり佳奈の考えた変装がまずかったか。だから私は、夏にあんな格好じゃあ余計に目立つって言ったのに。
それはさておき、福沢刑事は自身の推理を披露して、これからどう運ぶつもりだろう?
千絵は何も言わずに福沢の出方を見守る事にした。
「何も私は、君が犯人などと荒唐無稽な事を言うつもりは無いよ。」
福沢は力無げに笑った。
やはり、そうなるか、と千絵は思った。福沢はまだこれが「行方不明事件」だと思っている。
総勢100人を超える人間を、「普通の」女子高生である私が短時間でどこかへ連れ去るなりして消すことは、普通に考えれば不可能だと
結論付けるだろう。だがこのまま白を切り通せるとも思えない。
「…犯人に、喋るなと脅されているのかな?」
千絵が黙っているので、福沢はそんな事を尋ねた。
「ここは安全だよ。先生方にもしばらくこちらには来ないようにと言ってあります。」
相変わらず千絵はだんまりを決め込んだまま、長い脚を組みなおして会議テーブルの木目をぼんやりと眺めた。


146:腐肉(P.N.)
09/12/07 05:19:46 bgb+4O+6
「…お友達と一緒の方が、話しやすいですか?」
福沢のその言葉に、千絵は顔を上げる。
「友達?」
「小山内佳奈さん。」
千絵はどきりとして身体を強張らせた。なぜ佳奈の名前が出てくる?それは、私たちが友達で私が今小山内家に厄介になっているのは周知だが、
少なくとも事件に関して今まで佳奈の名前が出たことなど…。
「なんで…佳奈が…?」
千絵は呟くように尋ねた。
「さっき言ったように、私がバスの運転手を訪ねた時、彼は『2人いた』と答えました。あの日ちょうど小山内家の面々は家を留守にしていた事も、調べれば…。」
その続きはもう耳に入らなかった。福沢刑事は危険だ。私だけでなく、佳奈の存在にも気付いた。放っておくわけにはいかない。
福沢刑事の目の前で、蓮杖千絵は椅子から勢い良く立ち上がった。来客用の重そうな椅子が絨毯に覆われた床に倒れるまでの一瞬のうちに、少女の制服の前が開き、
真っ白く柔らかそうな肌が顕わになったかと思うと、その真ん中に亀裂が走った。
ブラジャーが乳房の間でプツリと切れたかと思うと、蓮杖千絵の可愛らしい口元から腹の辺りまでが一気に裂けて、巨大な口が現れた。
「何だこれは…!!」
その間抜けな一言が、福沢刑事の最期の言葉となった。
一瞬の出来事だった。巨大な口は福沢に頭からかぶりつき、彼の身体は少女の腹の中に消えた。
「千絵!?」
その時、応接室の扉が勢い良く開いた。千絵が振り向くと、息を切らした佳奈が戸口に立っていた。
「千絵、だいじょ…。」
千絵の肌蹴たブラウスと膨れた腹が目に入ると、佳奈はそこまで言って言葉を切った。
「警察の人、食べたの?」
「うん。」
千絵は軽くげっぷして答えた。
「慌ててたから…あーあ。」
絨毯の上に落ちた薄橙色のブラジャーを拾い上げると、カップの真ん中で切断され2つになっていた。
「午後はノーブラかなぁ。」
その時、どこか遠くの方で、重い金属が落ちるような鈍い音が響いた。
千絵は違和感を感じてふと見下ろすと、大きく歪に膨れた腹にコインより一回り小さいくらいの穴が空き、血が流れ出していた。
「あれ…?」
そう言って、黒っぽい血に指で触れた瞬間、千絵はめまいを感じてその場に倒れた。
「千絵!!」
悲鳴を上げて駆け寄る佳奈の脚が見えた。
警察って、本当に銃持ってるんだ…。
一瞬そんな事を考えたが、腹の中でまた福沢が震えるように身動きするのを感じると、千絵は腹筋に力を入れた。
腹の中で福沢の骨が砕け、握りしめた金属の武器が拉げるのが分かった。
次の瞬間、傷口から水鉄砲が発射されたように、血がビュっと噴出して絨毯を湿らせた。


[続]

147:名無しさん@ピンキー
09/12/07 20:54:12 GLGUWjQL
福沢さぁああああん…

148:名無しさん@ピンキー
09/12/07 21:29:57 YPLt/Etp
千絵ちゃんに食われたい

149:名無しさん@ピンキー
09/12/07 23:16:40 Fxg6C0ia
福沢さんがついに・・・

150:名無しさん@ピンキー
09/12/08 03:15:40 xj9btg3k
千絵ちゃんのげっぷを嗅ぎたい

151:名無しさん@ピンキー
09/12/08 15:36:01 UtnQuKeT
URLリンク(www34.atwiki.jp)
フェチ板の某スレのまとめwikiなんですけど、
女が人食う作品の情報も少し載っています。
イエロードラゴンがあらわれた!の第2話はトラックを丸呑みにすると
書かれていますが、そのトラックに人間乗っています。

152:名無しさん@ピンキー
09/12/08 18:24:34 fvTY3OPf
つか、ここもいい加減保管庫作るべきかね

153:名無しさん@ピンキー
09/12/09 00:17:14 +7bbZsTu
前の専ロはもう機能してないんかね?
最近めっきり更新してないみたいだけど
URLリンク(girlfriend.is-a-chef.org)

154:名無しさん@ピンキー
09/12/09 00:23:10 8J/zNpfe
線路に完成したSSとか保管しようよ
腐肉さんの完結したら保存しようよ
ピクシブに上げてた千絵、佳奈絵も本人の許可とれるなら保存しようよ

155:名無しさん@ピンキー
09/12/09 00:54:41 9BbvVPpB
俺は千絵タンの胃袋に保存されたいです

156:名無しさん@ピンキー
09/12/09 08:44:29 1Z3Osza7
すぐに消化されるよ

157:名無しさん@ピンキー
09/12/09 22:14:27 +7bbZsTu
>>156
うまいww

158:名無しさん@ピンキー
09/12/10 00:43:05 K8zRT8Tw
>>155
無茶しやがって・・・

159:名無しさん@ピンキー
09/12/10 05:38:25 URayF09A
>>156
それでも構わん!

160:名無しさん@ピンキー
09/12/10 05:44:43 pp8ddQHQ
消化されるのもいいがずっと保存されるのもいいな
ヤンデレみたいに

161:名無しさん@ピンキー
09/12/10 07:52:57 h/aLH8E7
>>160
おや?
新ジャンルじゃないか?
そのシチュは好きかも

162:名無しさん@ピンキー
09/12/10 17:49:05 TxfpBkRa
>>161
キョウコの人のはあれ違うのか?

163:名無しさん@ピンキー
09/12/10 19:35:42 LtMXxsC5
ずっと保存されたい派って異端か?
俺がそうなんだが

164:名無しさん@ピンキー
09/12/10 19:42:52 PEP7+EG/
キョウコは保存してなかったっけ?

165:名無しさん@ピンキー
09/12/10 22:15:56 h/aLH8E7
>>162,164
確かにされてたな
嗚呼、保存されたい

>>163
キミとはうまい酒が飲めそうだ

166:腐肉(P.N.)
09/12/10 23:03:13 EWocQ0dp
「佳奈、ドア…。」
千絵の絞るような声を聞くと、佳奈は慌てて応接室のドアを閉め、再び千絵に駆け寄った。
「千絵、待ってて。」
そう言うと、佳奈は垂れてくる髪を指でかき上げ、徐に傷口に唇を当てた。
「佳奈、何…してんの…?」
千絵が喘ぎながら言う。
「前に千絵がやってくれたみたいに、する。」
馬鹿だなあ、佳奈がそんな事をしても… そう言いかけたが、千絵は何も言わなかった。口の周りを真っ赤にしながら懸命に傷口を舐める佳奈を見たら、何も言えなくなった。
その様子は妙に艶かしく、淫靡だった。気付くと千絵は自分の舌で傷口を舐めていた。時折佳奈の舌と触れ合う度に、千絵は喜びと血の味を感じた。
やがて血は止まった。しかし傷はまだ生々しく口を開けて疼いている。
「痛い…?」
「ちょこっとだけ…。」
千絵は笑って見せたが、その無理な作り笑顔が余計に佳奈を心配させた。
念のためしばらく保健室で休ませて貰おうと、佳奈に付き添われて千絵はよたよたと歩いて行った。
本当はもうそこまで痛くなかったが、膨れた腹を見られないように前屈みになって歩いた。さながら逮捕された容疑者だ。
保健室へ行ってみると、保健教諭の柿原は不在だった。あれこれ聞かれるよりは都合が良い。佳奈はガーゼと包帯を失敬して来て、千絵の腹に丁寧に巻きつけた。
「応接室、片付けてくる。絨毯もともと赤だから、そんなに目立たないと思う。」
「ありがとう…。」
千絵はベッドに横たわり弱弱しく礼を言った。
「もし先生に刑事はどうしたか聞かれたら、『帰った』って…。」
「『知らない』の方が良いんじゃないかな、また今度みたいな事になった時のために。」
「そうだね…。」
千絵はそう答えたが、一抹の不安が心に残った。福沢がここへ来ることを、他の警察の人間は知っているだろう。
もしかしたら福沢が単独で動いていたのかも知れないが、いずれにせよ彼が千絵に会った直後に消えたことはすぐにばれる。
そうなれば、村雨だけでなく他の人間も千絵を怪しむだろう。もう誤魔化しきれない。
その時は…。
「午後の準備も、無理しなくて良いからね。」
佳奈はベッド脇から千絵の顔を覗き込んだ。
「大丈夫。佳奈は、行って。」
佳奈はこのまま彼女を1人で残して行きたくなかったが、しばし考えあぐねた挙句、渋々頷いた。
「じゃあ…また後でね。」
そう言って佳奈は、千絵の頬にチュっと口付けた。千絵はぽっと顔が赤くなるのを感じた。腹の傷が疼いた。
「クラス展の準備に区切りが付いたら、出来るだけ早く戻るからね。」
佳奈は可愛らしく微笑むと、頬を少し桃色に染めながら保健室を出て行った。
キスされた…。
1人になった保健室で、天上を見つめながら千絵はしばらくぼうっとしていた。
佳奈の唇の感触、こめかみに当たる温かく甘い香りの吐息、髪の毛が当たってちょっとくすぐったい感じを思い出しながら。
千絵は込上げてきたよだれをじゅるりと飲み込むと、煩悩を追い払おうと目を瞑った。そのまま意識が遠のいていき、千絵は眠りに落ちた。

167:腐肉(P.N.)
09/12/10 23:09:13 EWocQ0dp
「千絵、起きて。」
重い瞼をゆっくりと上げると、目の前に佳奈の顔があった。
「ん…」
どのくらい時間が経ったのか、辺りは少し薄暗くなり始めており、保健室の電気は佳奈が出て行ったとき同様消えたままだったので、千絵は周りの状況を見ようと
少し身体を起こそうとして、無意識に声を漏らした。見ると、佳奈はつい今までどこかの展示の手伝いをしていたらしく、腰からガムテープやらカッターナイフ
やらが顔を出したポーチを下げている。佳奈の後ろには唯香や恵や、クラスの女子が他にも何人か立っていた。
「何時…」
千絵はまだぼんやりとしたままの頭で思考するのに必要な情報を得ようと尋ねた。
「4時過ぎだよ。これから合唱練習。」
「具合どう?」
佳奈の肩越しに恵が尋ねた。
「起きれそうだったら、合唱練習だけでも来れるかな、と思って。」
千絵は皆に見えないように布団の下で手を延ばし、腹の傷の辺りを恐る恐る触ってみた。傷はもう大分良くなっているようだった。
「無理しなくて良いからね?」
佳奈は横目でちらりとクラスメイトたちの様子を伺いながら言った。
「んにゃ、大丈夫…。」
そう言って千絵は起き上がろうとした。
「あぁ、待って!」
佳奈が慌てて制止する。千絵は、どうしたのだろう?というように佳奈の顔を見上げ、次の瞬間、ブラウスの腹部に血がついている事を思い出した。
「ああ!え、えっと… あ、汗かいちゃったな。悪いけど、ジャージ取ってきてもらっても良いかな…。」
千絵は慌てて布団を肩の所まで引っ張り上げながら、咄嗟にそう言った。
「私行って来る!皆は先に体育館に行ってて。」
そう言って佳奈は保健室を飛び出して行った。他のクラスメイトたちも見舞いの言葉を口にしつつ、ぞろぞろと保健室を出て行き、千絵は再び1人になった。
クラスの人からこんなに心配されたのは初めてだ。普通の友達。思えば、今が一番普通の高校生らしい時を過ごしているのかも知れない。さて、羊の皮を被った
狼は、果たして羊たちの群れをいつまで欺き続ける事が出来るのか…。そんな事を考えているうちに、佳奈が体操着を持って戻ってきた。千絵はベッドから起き
上がると、佳奈の目の前でブラウスを脱ぎ捨てた。
「んん…。」
佳奈が恥ずかしそうに目を背けた。
「ん?」
そう言えばブラジャーをしていなかった。
「な、何よ今更…!」
正直千絵も少し恥ずかしかったが、ここで胸を隠したりしたら何か負けな気がして、強がった。その時、ふと眩暈を感じ千絵はふらりとベッドに腰をついた。
「大丈夫…?」
「ん…ちょっとふらっと…。」
「着せたげる。」
佳奈はそう言うとジャージの上を手に千絵の隣りに腰を下ろした。
「ひ、1人で着れる…。」
千絵がそう言いかけているうちに、佳奈は千絵に抱きつくように手を回し着がえさせていた。千絵は黙って従った。
「はい、できた。」
「お母さんみたいだよ。」
「うるさいな。」
2人はそう言い合いながら保健室を後にした。廊下に出た途端、千絵は再び眩暈を感じた。と同時に、胃の中で濁流が物凄い速さで渦を撒くような感覚に襲われた。
「ちぃちゃん本当に大丈夫?」
「うん…。」
千絵は腹の辺りに手を当てながら、佳奈に付いて歩いて行った。
「お腹、出てないかな…?」
千絵が不安げに言う。
「ジャージだし、ちょっと屈んでれば気にならないけど…」
「いつもならとっくに消化されてるのに…。」
千絵は恥ずかしそうに呟くと、忌々しげに腹を摩った。
「撃たれたんだもん、仕方ないよ。」
その時遠くの方で雷が鳴り、ぽつぽつと落ちてきた雨が窓を伝って歪な線を描き始めた。
「降ってきたね。」
「帰る頃には止むといいなぁ…。」
千絵は胸騒ぎを禁じ得なかった。悪天候や胃のむかつきだけではない、何か嫌な予感が全身の全ての感覚に警告していた。だが、この時が後戻りできる最後の
チャンスだなどと知る由も無く、千絵は体育館に足を踏み入れた。

[続]

168:名無しさん@ピンキー
09/12/10 23:45:25 yxW2upga
惨劇の予感!

169:名無しさん@ピンキー
09/12/11 00:10:21 XVxu2+r8
やべー続きが気になるw

170:名無しさん@ピンキー
09/12/11 00:49:45 86z1cw6U
活気があるのはいいが、わざわざ他スレ出向いてまで自慢するなと言いたい。

171:名無しさん@ピンキー
09/12/11 01:00:13 XVxu2+r8
え?

172:名無しさん@ピンキー
09/12/11 01:45:50 pCdFIpN+
>>162
キョウコって誰?つーか、どの作品か教えてちょ

173:名無しさん@ピンキー
09/12/11 07:32:03 Nt6lOLJy
>>170
向こうで出た煽りをこっちの犯行と言われても・・・

>>172
スレに投稿された漫画の一つ目二つ目の主人公

174:名無しさん@ピンキー
09/12/11 07:54:38 gVobeHo8
>>172
あれはいいものだ・・・

175:名無しさん@ピンキー
09/12/12 08:00:55 IXoKLA39
ちょっとー
かじられ派っていないの?
女の子の小さいお口に噛み付かれたい俺希少種?

ケンタッキーとかかじってる子をみるとキュンとなる。

176:名無しさん@ピンキー
09/12/12 14:03:21 sjskieUp
ぱないの

177:名無しさん@ピンキー
09/12/12 19:38:17 IhBVoTTj
>>175
仲間

178:名無しさん@ピンキー
09/12/13 01:58:13 d7Us3GR9
ロマサガ3のいけにえの穴思い出した

179:名無しさん@ピンキー
09/12/13 07:35:12 MFbJefte
>>178
それは女がかじられるじゃなかったっけ?
(実際は女が持ってきた肉)

180:名無しさん@ピンキー
09/12/13 19:04:58 yAKdcvdn
>>178
つ「ねこいらず」

181:名無しさん@ピンキー
09/12/14 09:03:21 Fa5NT1cM
ちょっとスレチかもしれないが、
今週の少年ジャンプに載ってる読み切りで
頭から蛇生えてる女がその蛇でネズミ丸呑みにするシーンあった。

182:名無しさん@ピンキー
09/12/14 20:19:55 tV3ZMjNd
>>181
ねずみだけといわず
オレモクッテクレー

183:名無しさん@ピンキー
09/12/14 23:25:38 HKCEzWAQ
ビジターという海外SFドラマで
エイリアンの女が人間の姿でハムスターを丸呑みしていた。
喉の膨らみが胃の方に下がっていく表現がされていた。 
そのエイリアンは人間も食料にするので、
小さくされたら・・・・

184:名無しさん@ピンキー
09/12/15 05:11:58 DoTPnlWi
ハムスターぐらいだったら人間の女も頑張れば丸呑みできそう
まあ誰もやりたがらないと思うがw

185:腐肉(P.N.)
09/12/15 06:21:03 0jb3+RpV
体育館に到着する頃には豪雨になっており、激しい雨が屋根を叩く音が、生徒たちの歌声に混じって広く冷たい体育館に反響していた。
2人が体育館に入ってきたのを見ると、ステージの前に立ち指揮棒を振っていた堀切英次は、手にしたタクトをぴたりと止めた。
「蓮杖さん、もう大丈夫なの?」
堀切が尋ねた。口を利くのは初めてだ。
「うん、大丈夫…。」
千絵はそう言ったものの、まだ熱がある時のように頭がぼんやりしていた。
佳奈に手を引かれて他の生徒たちの間に入りステージ上に立つと、照りつけるライトが目を刺す様だった。そのあまりの眩しさに、千絵は目を細める。
「千絵、ほんとに大丈夫…?」
隣りに立っていた唯香が心配そうに尋ねた。
「へ、平気…。」
千絵は目を細めたまま、正面を向いて、腹の出っ張りがばれない程度に直立しようと努めた。だが先ほど感じた胃の中の不快感は、今や吐き気に変わっていた。
そんな千絵の苦しみを他所に、堀切英次は再びタクトを上げた。ピアノの伴奏が始まり、最初のパートが歌い始める。
「ひとはただ、かぜのなかを」
千絵は自分がどのパートだったかも思い出せず、突然襲ってきた頭痛に顔をしかめた。
「まよいながら、あるきつづける」
再び眩暈がして、スポットライトの光が目の前で大きくなったかと思うと、視界が真っ白にぼやけた。
「そのむねに、はるかそらで」
耳鳴りがする。
「よびかける、とおいひのうた…」
周りの音が聞こえなくなった。と同時に、聞こえてきたのは自分の鼓動と、傷口で疼く血の流れる音。
千絵はふらりとよろけ、ステージ上に並んだ段上から脚を踏み外した。
まずい!
そう思った瞬間、ジャージがはじけた。千絵の意識が働くよりも早く、第二の口が勝手に開き、胃の中の異物を体外へ吐き出した。
黄ばんだ胃液や、粘液に混じったどろどろに溶けた肉や、消化しきれず明らかに人骨の形を保ったままの白い塊がステージ上にぶち撒かれた。
次の瞬間、音が戻ってきた。千絵の耳に飛び込んできたのは、何重にも重なり合った悲鳴の不協和音だった。もうピアノの音も聞こえない。
千絵の前に居た恵や数名は胃液をもろに浴びて体中から湯気を上げてのた打ち回っていた。
パニックに陥った生徒たちは、千絵や溶け行く級友達から離れようと、ステージ上でもつれ合った。
押し合いへし合いしていた生徒たちは、やがて塊のようになっていっせいにステージからフロアへ転落した。
誰もが少なからず落下の打撃を受けたために、一瞬悲鳴は途絶えてパニックは収まった。
替わりにうめき声が広い体育館にこだまする中、千絵は口から涎を垂らしながら、息を荒げてステージ上で屈み込んだ。吐いてしまったお陰で随分と気分は楽になった。
ステージから落下した生徒たちは、自分たちがまだ無事な事に気づくと、何か動きが無いかと息を殺してステージを見上げた。一瞬、水を打ったような静けさが体育館を包んだ。
次の瞬間、級友達の見守る中、壇上で一際高い指揮台の上に怪物が現れた。
同級生の蓮杖千絵の姿をしているが、その目は獰猛に光り、下顎から腹まで裂けた巨大な口の奥で、鋭い歯と巨大な触手のような舌が獲物を狙っている。
今自分の目にしているものが現実かどうかを考える余裕もなく、再びパニック状態となった生徒たちは一目散に逃げ出した。


186:腐肉(P.N.)
09/12/15 06:24:44 0jb3+RpV
何人かは不幸にも踏みつけにされてその場で命を落とした。だがステージから離れる事に成功した生徒らも、体育館から脱出する事は叶わなかった。
なぜなら、体育館の出入り口の戸は、咄嗟に気転を利かせた小山内佳奈の手で外から鍵がかけられていたからだった。
真っ先に戸口に押し寄せたのは男子たちだった。ロックされている事に気づくと、彼らは死に物狂いで滅茶苦茶に戸を叩いた。
だがそんな事で簡単に壊れる筈は無く、やがて彼らは後から押し寄せてきた生徒たちに押し潰された。
千絵の友人であった椎名唯香も、戸口に押しかけた生徒の1人だった。彼女には何が起こっているのかも分からず、とにかく悲鳴を上げ続けていた。
きっと多くの生徒がそうだったろう。
ふと何かの気配を感じて振り向くと、次の瞬間には彼女の身体はピンク色の肉の塊のようなものに絡め取られて、物凄いスピードで体育館の床を引きずられていった。
千絵はごきゅんと下品な音を立てて椎名唯香の身体を呑み込むと、腹の中でその肉を咀嚼した。
呑み込まれても唯香は悲鳴を上げ続けていたが、その甲高い声はやがてぐちゃぐちゃという有機体の潰れる音にかき消された。
その様を見せ付けられた生徒たちはますますパニックに陥った。だが何の行動も取れないうちに、次々に巨大な触手に捕らえられていった。
窓から逃げようとした生徒たちも触手の犠牲となった。辛くもそこから逃げ延びた生徒も、延々と体育館の中を触手と鬼ごっこするうちに力尽き、
立ち止まったところで命運尽きることとなった。

ただ1人、堀切英次は多くの生徒が餌食とされてからも生き残っていた。
いち早く体育倉庫に隠れた彼は、倉庫の窓から脱出を試みようとしていた。やっとのことで、窓の前に立ちはだかっていた巨大な跳び箱
をどかした彼は、窓ガラスを叩き割らん勢いで窓を開けた。
力ずくで跳び箱を動かしたせいで、指がじんじんと痛む。
彼はその指を窓枠にかけると、力いっぱい身体を引っ張った。外の空気と、降りしきる雨雫が顔に触れた。生き延びた。
助かった!
そう思った瞬間、何かが首元を掠めた。堀切は窓枠にしがみついたまま、ぴたりと動きを止めた。
何だろう?外から何かが、彼の首に向かって飛んできた。
堀切英次は体中の血の気が引いていくのを感じた。ふと、人影が目に入った。
窓の前、降りしきる雨の中に、ずぶ濡れの小山内佳奈が、髪の毛やスカートの裾から雨を滴らせて立っていた。
いち早く体育館の出口を封鎖した佳奈は、窓から逃げようとする者を止めるために、ずっと外で待っていたのだった。
その手には、クラス展準備で使うために腰のポーチに入れていたカッターナイフが握られている。
むき出された刃から、雨に混じって薄くなった血がしとしとと滴っていた。
「こふぁっ…。」
堀切英次は、噎せ返るような咳をした。すると、自分の口から真っ赤な血が霧吹きのように噴出し、小山内佳奈の可愛い顔を汚した。
「ごめんね、英次君。」
佳奈は冷たく言い放ち、カッターナイフを持っていない方の手でトンと堀切英次の額を軽く押した。
首から大量の血が溢れ出て、堀切英次の身体は急速に力を失っていき、剥がれたシールのように窓枠から離れると、体育倉庫の中にぐしゃりと落ちた。
その時、体育倉庫の扉が吹き飛び、触手が進入してきた。触手は床にくず折れた堀切英次の死体を見つけると、その身体を乱暴に引きずって行った。
途中で倉庫の戸枠に何度もぶつけられ、その度に堀切の首からどくどくと流れる血がひとしきり撒き散らされると、やがて級友の死体は視界から消えた。

[続]

187:名無しさん@ピンキー
09/12/15 08:06:46 vOVmjcWZ
クラス全員分か・・・
すごい量だろうね
GJ!!


188:名無しさん@ピンキー
09/12/15 11:28:37 B4n7IEBi
バイオハザード2のG第5形態みたいになりそうだな

189:名無しさん@ピンキー
09/12/15 15:46:19 LXdqDao+
なぜ俺のクラスには千絵がいなかったんだろう・・・

190:名無しさん@ピンキー
09/12/16 00:25:19 3wMkVarh
>>184
昔、鼠を丸呑みするサイトがあってだな。

191:名無しさん@ピンキー
09/12/18 12:08:37 ZmtDl5wS
肉食女性に喰われたい

192:名無しさん@ピンキー
09/12/18 20:04:31 vAdSk/C3
完全体キスショットにバリバリ食べられたい

193:名無しさん@ピンキー
09/12/19 22:16:29 SyhlOA6G
丸呑み派の私はラミアさんだな

しかし、最近かじられるシチュにもときめくものが・・・・

これが恋か・・・

194:名無しさん@ピンキー
09/12/19 23:12:19 ScqcvuDi
>>193
ナカーマ

195:名無しさん@ピンキー
09/12/20 00:30:17 ka0C5Mpm
ラミアと恋人になって呑んだり吐かれたり

196:名無しさん@ピンキー
09/12/20 01:49:38 kkvGCzZ2
キングコングのピラニアドンを見てみなさい

197: ◆PpGNqLuSAo
09/12/20 08:00:40 iPBBLjQW
陣亥大輔シリーズ 第二話 森のラミアさん
ニア 始める

あらすじしか無い為始められませんでした
作者の気まぐれをゆっくりお待ちください

話の構成だけ出来て文章が出来ないのはよくある事
腐肉さんの作品が完結したら本気出そう・・・うんきっと出るよね
予告で少しでも自分で鞭打っとかないと永遠に完成しない気がするから困る

>>193-195
予告でスマンね


198:名無しさん@ピンキー
09/12/20 08:44:09 yZ/VmApq
巨大マンコ
URLリンク(xhamster.com)

199:名無しさん@ピンキー
09/12/20 12:04:31 kbAWbvnG
>>197
おお、ハーピィの人か!!

いい子にしてまってるよ

200:名無しさん@ピンキー
09/12/20 14:25:54 ka0C5Mpm
wktk

201:名無しさん@ピンキー
09/12/21 19:53:53 L93gWCUb
>>195
それいいな

ラミアさん「またなのぉ? しょうがないわねぇ」

みたいな感じで何回も呑んでほしい

202:名無しさん@ピンキー
09/12/22 20:31:52 dfzA6Usl
食べてくれそうな娘を見つけたけど貼ってもいいんだろうか…

203:名無しさん@ピンキー
09/12/22 22:34:01 y2Uer3i8
貼ってくれないと判断できん

204:名無しさん@ピンキー
09/12/22 22:56:41 LdFaY4sR
h抜いて貼ればおk

205:名無しさん@ピンキー
09/12/22 23:34:34 dfzA6Usl
URLリンク(mrank.tv)
ここのオリジナルにいる「なんとかからの物体くろこ」ってところにいる娘

206:名無しさん@ピンキー
09/12/23 08:42:10 BWWKU+xq
なんていうか非常にがっかりした
j e n

207:名無しさん@ピンキー
09/12/23 12:30:22 GCixeA0Q
>>205
16位の子か

ケータイの画像掲示板?

画像がケータイ向けでクリックすると広告が出てくるって

注意を書いたほうがいいかも

208:名無しさん@ピンキー
09/12/23 18:06:09 g8l7k0sH
いろいろ酷いな

209:名無しさん@ピンキー
09/12/23 23:17:11 GCixeA0Q
FF13なかなか面白いんだけど

FF4みたいにラミアさんやアラクネさんが出てコナインダヨ

人食い美女モンスターを出してクレー

210:名無しさん@ピンキー
09/12/25 12:47:48 q7OOFyv7
INHUMAN!! , INHUMAN!!

こ、この、
ジャ、ジャンルの、
ス、スレは、
非人間的なんだな。。。

だ、だから、
こ、これで、
か、完結して、
つ、潰れなきゃ、
な、ならないんだな。。。

さ、さようなら。。。



211:名無しさん@ピンキー
09/12/25 19:18:07 gEjkRv2k
>>210
もう星へ帰るんだね、バイバイ

212:名無しさん@ピンキー
09/12/25 19:30:35 8+iVmKrx
ベッキー・クルーエルに喰われたい

213:腐肉(P.N.)
09/12/27 06:11:08 WNw7SqMx
佳奈はカッターナイフをその場にぽとりと落とした。急に膝ががくがくと震えだし、思わず濡れた地面に尻餅をつくように腰を下ろした。
深く息を吸い込むと、水溜りの水をばしゃばしゃと掬い、顔にかかった血を流した。
「…鉄臭い。」
そんな言葉が口を突いて出た。
これまで千絵と行動を共にし、人の死は散々見てきたが、今、佳奈は初めて自らの手で人を殺めたのだ。
それなのに、随分とつまらない感想しか出てこないんだな。
「はは…。」
佳奈は力なく笑い、しばらくその場にへたり込んでいた。雨はますます強くなるし、水溜りも広がっていて冷たいはずだったが、
今の佳奈は不思議とその冷たさを感じなかった。
そうだ…千絵…。
やがて佳奈は自分の悪魔的所業の動機を思い出した。クラスメイト全員を死に追いやった理由。
千絵…。
肉体的にも精神的にも佳奈は疲れ切っていたが、その名前を心の中で呟くたびに、不思議と力が沸いて来るような気がした。
佳奈は、壁の向こうに居る千絵の鼓動を感じるような気がした。まるで千絵の心臓が、自分の心臓のすぐ隣にあるかのようなに。
佳奈は体育倉庫の窓枠に手を掛け、陸上部で鍛えた跳躍を生かして自分の身長よりも高い窓枠をひょいと飛び越えると、再び体育館内に侵入した。
念のため窓の鍵を閉めると、佳奈は恐る恐る倉庫を出た。途端に、吐き気をもよおす悪臭が鼻を突く。
そこに広がっていたのは、地獄のような光景だった。
ガラス窓やステージの暗幕、バスケットボールのリングにいたるまで、ありとあらゆる箇所に血や肉片やどろどろした液体が塗りたくられており、
床の面積の半分が血溜りに覆われていた。
肉を削がれて骨が剥き出しになった死体がいくつも、食い荒らされた臓物を散乱させて血の池に浮かんでいる。
中央には、バスケットボールコート半分を埋め尽くすほどに触手を広げた触手の群れが巨大なピンクのイソギンチャクのように鎮座していた。
その一本一本に生徒たちが捕らえられており、中には四肢をばらばらに千切られ弄ばれている者、口や肛門から触手に侵入され内側から肉体を破壊され
赤いぼろ雑巾のようになった者もいた。
だが人の形をしていなくとも、彼らはまだ幸せだろう。
多くの生徒はまだ生きたままだった。
裂けるまでペニスを嬲られ、それでも尚も射精し続けている男子が居た。
尻の穴から口までを触手に貫通された状態で自慰をしている男子も居る。
女子の殆どは犯されていた。千絵の舌によって膣口を裂かれ、丸太が入るほどの大きさに広げられながら、
それが至高の快楽であるかのように喘ぎ声を上げ続けている者もいる。
佳奈は口に手を当てた。そうでもしないと、胃の中の物が込上げてきそうだったからだ。
それら残酷絵巻の中心に、肉の玉座に座るように、どこでものを感じているのか分からないような虚ろな目をした千絵の姿があった。
陵辱されるクラスメイトたちを恍惚の表情で見下ろしながら、口から延びた舌で自らの性器を一定のリズムで弄っている。
千絵にとって、もはや食欲と性欲との間に差は無くなっていた。血の匂いは彼女の股間と乳首を疼かせ、肉の味は彼女をエクスタシーに導いた。
千絵は、自分の舌に絡みつく感触を全て味わった。
最初に呑み込んだ唯香が、次第に抵抗する力を弱めながら胃の中で溶けて行く感覚。
壊れてぐちゃぐちゃになってもなお硬くなるペニスを握り潰す感触、そこから垂れ流される血の混じった精液。
女子生徒の膣口を押し広げ子宮をずたずたに裂く快感も、臓器を絡め取り体内から引きずり出す時の手応えも、
その全てを絶頂へ至るための糧とした。


214:腐肉(P.N.)
09/12/27 06:12:46 WNw7SqMx
「千絵…。」
佳奈は、今しがた息絶えた女子生徒を跨いで千絵に近寄った。
足元に転がる遺体は、まるで腹を裂いて皮膚を裏返したように、一見したところ人だと分からない程に見るもおぞましく変形させられている。
「ち…え。」
佳奈は吐き気を堪えながら親友を呼ぶ。千絵はぼんやりとした目のまま、ゆっくりと佳奈の方を顧みた。
「あぁ… 佳奈かぁ。」
千絵はにやりと笑みを浮かべた。その微笑みは佳奈の背筋を凍りつかせた。恐怖に顔を引きつらせる佳奈に、千絵はそっと手を延ばして言った。
「だいじょうぶ、佳奈はたべない。」
それから延ばした手で優しく佳奈の頬を撫でた。千絵の手にべっとりと付いていた血が、佳奈の頬に線を描いた。
「んっ…!」
千絵は喘ぎ声を上げ、佳奈から手を離した。どうやら今の千絵は感覚器官の全てが性感帯となっているようだ。
佳奈の皮膚の“味”が触覚から伝わり、千絵を絶頂に至らしめたのだった。
「くっ… はぁっ、はぁ…。」
千絵は喘ぎながら身を捩った。長く白い四肢が、膨らんだ胴体に巻き付くのを見て、佳奈は頬を赤らめた。性器が疼く。
千絵と交わりたい、と思った。今の千絵の身体なら、叶わぬ事では無い様に思えた。
だが佳奈がそんな事を考えて居る間に、千絵はするすると舌を腹に開いた第二の口へ収めてしまった。
まるで巨大な蛸を呑み込んでいるようだ。触手に絡み付いていたクラスメイトたちの残骸は血の池の上にぼとぼとと無残な音を立てて落下した。
触手を全て仕舞っても千絵は巨大に見えた。大きく膨れた腹のせいで、身長もいつもの倍ほどに見える。
「みんな、食べちゃった…。」
それでも、生徒の殆どは虐殺して肉だけ食い荒らしたから、丸呑みしたのはほんの数人だったのだが、
千絵は腹の重みで、立っているのがやっとというように肩を落とした。
しばらく、体育館に沈黙が流れる。屋根を叩く雨の音が大きくなった。
「逃げようか…。」
やがて佳奈が言う。
「逃げ切れるかな…。」
千絵はいつもの、人事の様な口調で呟いた。
「この世界のどこにも、怪物の居場所なんて無いんだよ。」
そう、最初から分かっていた事だ。千絵は諦めたように笑った。
「でも、一緒に居るもん。」
佳奈が言う。千絵はその言葉がとても嬉しかった。
「家に帰って、荷物取って来る。その間、どこかに隠れて居られる?」
「本気?家出するつもり?」
千絵は戸惑った。恐れていた通りだ。
「あのね、」
佳奈は千絵の目を真直ぐ見て、諭すように言った。
「環境庁もいるんだよ?この状況で私だけ無事に済む訳無いでしょ。共犯なんだよ?」
佳奈の目は揺ぎ無い。
「千絵が怪物なら、私ももう怪物の仲間入りなの、分かった?」
千絵は唖然としていたが、やがて諦めたように笑った。

2人は体育館の惨状をそのままにして、誰にも気付かれずに学校を後にした。
佳奈が小山内家に荷物を取りに戻っている間、千絵は裏の森の中に隠れていた。
裸だったが、今や福沢に撃たれた腹の傷も例の吐き気も消え、満腹感で身体は温かく気持ちが良かった。
木々の合間を縫って落ちてくる雨の雫でさえ、心地よく感じた。
重たい身体を巨木の間に寝かせ、千絵は横になった。日が暮れ始めており、ただでさえ悪天候で暗い空は刻々と闇へと変わりつつあった。
こうしていると、まさに獣だな、と千絵は思った。いつかこんな暮らしをする日が来るかも知れない。森の中で、裸で… 佳奈と一緒に。
その妄想に、千絵は恥ずかしくなって顔を赤らめた。そんな羞恥も秋の夜は無言で包み込み、やがて千絵は眠りに落ちた。


[続]

215:名無しさん@ピンキー
09/12/28 02:02:40 bs3AZ7bb
続きキター!!

216:名無しさん@ピンキー
09/12/28 23:28:29 kRxLpbRp
貫通された状態でオナニーする男子パネェ
俺もペニス潰れるまで嬲られた後食べられたい

217:腐肉(P.N.)
09/12/30 05:00:57 e8o9RbMz
小山内小枝子は調理場に立ち、夕飯の支度をしていた。
明日は、娘たちの学校の文化祭がある。今日は準備で帰りは遅くなるだろう。
お腹を空かせて帰ってくる娘たちのために、小枝子は切りそろえた野菜を、まな板から鍋の中に注ぎ込むように入れた。
“娘たち”。
小山内小枝子は微笑んだ。
この4月に長男が大学へ進学し家を出てからというもの、1人で家に居る時に一抹の寂しさが心を過ぎるようになった。
おかしなものだ。佳奈は学校に行っているし、それは圭介が高校生だった頃も同じだと言うのに。
母親とはそういうものだ。
だが千絵が来てからのこの数ヶ月、小枝子はそんな寂しさを感じなくなった。娘が2人になったようだ。
尤も、千絵がいつまで小山内家の娘で居られるのかは分からないし、遅かれ早かれ来年には2人も進学やら就職やら、それぞれの道を歩み出す。
今までとは別の道を。母親が添って歩くことの出来ない道を。
だがそんな事は考えなかった。佳奈は、千絵が一緒だととても楽しそうだ。
年頃になるにつれて減って行った口数と笑顔が、最近は毎日見ることが出来る。今はそれで十分だった。
ある意味、母小枝子も、娘同様、将来への不安から目を背けていたのである。
スープの味見をしようと、湯気の立つ黄金色の液体を御玉で掬い上げた時、ふと2階から物音が聞こえた。
小枝子はびくりとして、思わず御玉を取り落とした。その様は娘そっくりだった。
何だろう?掃除の時に、窓を閉め忘れたのだろうか…?
小枝子は、まるでそうすれば天上が透けて2階の様子が見えるかのように、天上を凝視した。
再び物音がする。風ではない。誰かが、何かを探しているようだ。母の脳裏に、この所頻発している猟奇事件の報道が過ぎる。
小枝子は、まな板の上の、野菜の汁が付いた三徳包丁を手に取ると、ゆっくりと台所を出た。

-----------------------------------------------------------------------

佳奈は薄暗い自分の部屋で、部活の合宿用のスポーツバッグに手当たり次第に下着を詰めていた。
千絵の荷物も、彼女が最初に小山内家にやって来たときに持ち込んだ、父親の旅行用トランクから、持ち運びが便利なバックパックに詰め替えた。
修学旅行用に買った物だ。その時、階段の軋む音が聞こえた。佳奈はびくりとして、ショーツを握ったまま手を止めた。
何者かが、足音を殺して2階の廊下を近づいてくる。
今の佳奈は五感が研ぎ澄まされているらしく、スリッパがフローリングを擦るほんの微かな音が聞こえた。
母に見つかってしまった…。どうしよう?隠れようか?でも今からでは間に合うまい。
それに佳奈の部屋には、不信感を抱いた母親をやり過ごせるようなスペースは無い。
佳奈は、手の平が不気味に硬くなったように感じた。この感覚は初めてではない。そう、つい一時間ほど前に、カッターナイフを握った感触。
それを肉に突き刺したときの手応え…。
娘は決意していた。新たな道を歩み出す事を。新たな世界に飛び込む事を。怪物の世界に、親友と2人で。その世界に母親の居場所は無かった。
その時ゆっくりと扉が開いた。部屋に廊下の光が挿し込み、娘は母親と対面した。
小枝子は状況が飲み込めずきょとんとした顔で、手から包丁をぶら下げて戸口に立っていた。
なぜ娘が部屋に居るのだ?いつ帰った?なぜ下着が部屋中に散乱している?小枝子はそれらの疑問を総括する質問をした。
「ど、どうしたの… 佳奈?」
暗がりの中で、娘はすっくと立ち上がった。その時母は何かがおかしいと気付いた。
娘の顔からは、いつもの困ったような笑みや、可愛らしい瞳に滲み出る優しさが消えていた。


218:腐肉(P.N.)
09/12/30 05:07:21 e8o9RbMz
「ちょっと、佳奈… どうしたの?」
母はうろたえ、繰り返した。娘は黙ったまま母の方へ歩み寄る。小枝子は思わず後じさった。
暗がりの中で、娘の輪郭が幽霊のようにゆらゆらと揺らいで見えた。それは、恐怖だった。
佳奈の顔が廊下を照らす電灯の光の下に現れた。小枝子ははっと息を呑んだ。一瞬、確かに娘の目の中に別の生き物が宿っているのを見たのだ。
「誰…?」
母は無意識にそんな言葉を口に出した。手が勝手に動き、小山内小枝子は、実の娘に向かって、包丁を突き出した。
考える余裕など無かった。冷たい包丁の柄を握り締めた手が、がたがたと震えている。
その時、佳奈の目から一筋の涙が零れ落ちた。その目は優しい少女の目に戻り、突きつけられた刃を透かして母親の目を真直ぐ見据えた。
「おかあさん…」
佳奈は呟く。
「ごめんなさい。」
次の瞬間、佳奈は母親の手を掴むと物凄い力で捻り挙げた。手首の骨がへし折れる音に続き、ステンレスの刃が肉を貫く不気味な音が廊下に響いた。
小山内小枝子は何が起こったのか分からなかった。瞳を涙で濡らした娘の愛しい顔が視界から消え、フローリングの床しか見えなくなった。
小山内小枝子は、廊下に倒れた。腹から突き出た包丁から、関節が一つ増えた腕が離れ、倒れた時の衝撃で刃が更に深く子宮を抉った。
おびただしい量の血が溢れ、静かに床を濡らしていく。遠のく意識の中、小枝子のぼやける視界に、自分を置き去りにして遠のいていく娘の足が映った。
娘は道を歩み出した。そうか。
そう思うと、小枝子は何故か、この結末を納得した。まあ、母親とはそういうものだ、と。
次の瞬間、彼女の人生で最大の哀しみと寂しさ、孤独と恐怖が押し寄せてきた。小枝子は声を上げて泣きたかった。
だがそうしようと息を吸い上げたのを最後に、彼女は動かなくなった。量の瞳から毀れた涙が、静かに頬を伝い、冷たくなっていく血の海にひたと落ちた。

--------------------------------------------------------------------

雨上がりの森の中は、日が暮れると同時に急に寒くなった。
千絵は少し前に目を覚まし、巨木の根元に腰掛け佳奈が戻ってくるのを待っていた。
そろそろ帰ってきても良い頃だ。何か、あったのだろうか…。途中で捕まったりしていなければ良いが。
千絵はやきもきしながら、木々の間の暗闇を眺めていた。生き物の気配がしない。当然だろう。本能に従う獣なら、千絵のような怪物には近寄らない筈だ。
千絵はむき出した白い腹を撫でた。夜露で少し濡れて、どこからか射す僅かな光を受けててらてらと艶かしく光っている。
「げふぅっ。」
辺りに誰も居ないのを良い事に、千絵は臆面も無くげっぷをした。級友たちを消化する音が、遠くの雷鳴のように森の静寂を破った。
「ん… 良い音。」
千絵は満足そうに呟いた。
本当なら体育館に留まってクラスメイト全員を存分に味わいたかったのだが、泣く泣くいくつかの死体は齧っただけで残して来てしまった。
これからどんな生活が待ち受けているのか…
しばらく人の肉は食べれない、どという事にもなりかねないのだから、無理してでも食い溜めしておけば良かったと、千絵は後悔した。
「もう2,3人なら入ったのにな…。」
その時、人の気配を感じた。そう遠くない。
佳奈だろうか?
目を凝らすと、藪の向こうにちらちらと何か光るものが見える。続いて、男の声。
「こっちの方だ。」
「本当に何か聞こえたのか?」
もう一人居る。千絵は藪の中に身を隠した。次の瞬間、懐中電灯の光が彼女の頭上を掠めた。


[続]

219:名無しさん@ピンキー
09/12/30 11:10:04 OtKIyWgU
GJ!!

220:名無しさん@ピンキー
09/12/31 01:37:12 U0rlwkAk
GJ!

221:腐肉(P.N.)
09/12/31 05:46:33 lr8o2dW7
「熊じゃないだろうな…。」
片方の男が脅え声で言う。
「この辺にゃ犬よりでかい動物は居ないよ。」
千絵は少し首を伸ばして男たちの姿を見ようとした。その時、目の前がぱっと明るくなったかと思うと、男の叫び声が響き渡った。
「誰だ!?」
見つかってしまったようだ。千絵が目を瞬かせ、ライトの向こうの様子を見ようとしていると、男は相棒を呼んだ。
「おい、坂本!ちょっと来てくれ!」
もういいや。
千絵はやけっぱちになってすくと茂みから立ち上がった。
「あー… 何か、羽織るもの持ってきてくれないか?」
懐中電灯の男が困惑したように相棒に叫んだ。
「何だよ羽織るものって?そんなもん… おおっと…。」
相棒がやって来て千絵の姿を見るなり、足を止めて目を背けた。その隙に千絵は2人の男を観察した。
闇に溶け込む黒い制服は、一目瞭然、警官だった。
銃を持っていないだろうか?
千絵は男たちの手元に目をやったが、手にしたのは懐中電灯だけのようだ。
「えぇっと… こ、こんな時間に何してる?その… こんな所で?」
最初の男がどもりながら尋ねた。藪の中に裸の男が隠れて居やしないかと、懐中電灯を下に向ける。どうやら、この2人は高校で何が起こったかまだ知らないようだ。
しめた、と千絵は思った。腹の隙間を埋めるチャンスだ。
「君、1人か?」
「服を着ろ。」
坂本と呼ばれた相棒が横から口を挟んだ。
「あ、あの、道に迷ってしまって…。」
千絵は徐に藪を掻き分け、警官たちの方へ歩み寄った。
以前の千絵は演劇部などにはまるで興味は無かったが、演技力はこの身体になってから身に付いたものの一つだった。
「おっと…。」
「ちょっと、君…!」
うろたえる間抜けな警官たちを他所に、千絵はその身体を単三電池で点灯する光の下へ現した。
「良かったら、案内してくれませんか…?」
千絵は息がかかるほど坂本に近づいた。近くで見るとまだ若く小柄で、千絵と同じくらいの背丈だ。
「こらこら、君ね、」
最初の警官がそう言いながら千絵の肩に手をかけた瞬間、千絵は牙をむき出し、警官の顔面に被り付いた。警官の悲鳴が闇を劈く。
遠くの方で、その音に驚いた鳥たちが木々から飛び立つ音が聞こえた。
千絵が警官から離れると、男の顔は鋭利な刃物でまるまるそぎ落とされたように綺麗になくなっており、骨や脳の断面をむき出し、
血を噴出しながら枯葉の中にどさりと倒れた。
「う、嘘だろ…。」
坂本は唖然とした顔で、無様に倒れた相棒と、口の周りに飛び散った血をぺろりと舐める千絵の顔を交互に凝視した。
「確かめてみたい?」
千絵は満面の笑みで坂本に語りかけると、目にも留まらぬ速さで彼の身体を押し倒した。あまりに一瞬の事で、坂本は地面に打ち付け
られた痛みも感じず、軽い脳震盪に似た症状を起こした。頭がくらくらし、ピントを調節している最中のように時々視界がぼやける。
そこへ千絵が現れた。坂本の腰の辺りに、むき出しの恥部を押し付け、のしかかる。少女とは思えない異様な重さに、坂本はうめき声を漏らした。
「どこから齧って欲しい?」
千絵は白く美しい手で坂本の顔を撫でた。
「ここかな?」
坂本は涙を流し、哀願するような目で首を横に振った。
「一番好きな処にしなよ?だって、多分最初の一口で死んじゃうから。」
千絵は嬉しそうな目で坂本の身体を、首から腹にかけて指でなぞる。するとその鋭利な爪で、漆黒の制服にすっと切れ目が入った。
「やっぱりここかな?」
千絵の指が、股間のふくらみで止まった。
坂本は首をぶんぶんと横に振った。恐怖と、声が出ない苛立ちから顔をくしゃくしゃに歪めて、金魚のように口をぱくぱくさせている。
そうしている間に少女は凄まじい力で、ズボンを毟り取るようにしてあっと言う間に脱がせてしまった。縮み上がったペニスがむき出しになる。
千絵はぺろりと舌を出し、悪戯っぽくにやりと笑うと、その可愛らしい顔を恐怖に戦く一物へ近づけた。
「ひゃぁうっ!!」
坂本は情けない悲鳴を上げる。
その時千絵の小さな口が、かぷりと彼の小さな陰茎を優しく挟んだ。
「あっ… あうっ…。」
坂本は安堵で身体中の力がみるみる抜けていくのを感じた。ただ一箇所、少女の口に含まれたペニスを除いて。
千絵はあっと言う間にいきり立った坂本から口を離した。唾液が糸を引く。少女は坂本の上に覆いかぶさるようになると、顔を覗き込んだ。


222:腐肉(P.N.)
09/12/31 05:47:55 lr8o2dW7
次の瞬間、彼女の下顎から恥部にかけての腹ががばっと縦に裂け、ずらりと並んだ鋭く残忍に光る無数の歯が現れた。
「きゃああああああああ!!!!!!!!!」
坂本は声の限り叫んだ。巨大な第二の口は糸を引く唾液を散らし、坂本の身体を包み込んだ。
「ギャあああああああああああ!!!!!!!!!!!」
坂本はまだ悲鳴を上げている。千絵はけたけたと笑い声を上げながら、その身体を銜えたまま持ち上げ一気に呑み下した。
それから彼女は落葉に埋もれた顔の無い男の身体の首根っこを掴み、片手で軽々と持ち上げた。
「ちょっと、何してんの!?」
その時、甲高い声が木々の間に響いた。
「信じらんない、あんなに食べたのに…。」
巨大なバッグを抱えた佳奈が、ぷりぷりしながら木々の間をこちらへやって来る。
「夜食だよ。」
千絵はそう言うと、顔無し死体をぱくりと口に放り込んだ。
佳奈は茂みの前にどさりと荷物を降ろすと、打ち捨てられたままの坂本のズボンを拾い上げた。
「警察…?」
「そうみたい。でも学校の事はまだ知らないみたいだった。」
佳奈は顔をしかめた。どうやらズボンに付いたべとべとの唾液に触れてしまったようだ。
「でも、そんな訳無いよ。学校の横通ってきたけど、グラウンドがパトカーとか消防車みたいなので一杯だったよ。」
千絵は返事の代わりにげっぷをした。
「もう、汚いな!」
「だって出ちゃうんだもん!」
千絵は早速自分のバッグを漁って着るものを引っ張り出していた。
「でも、もしかしたら気付いてないのかもしんないよ?」
ふと思いついたように千絵が言う。
「何に?」
「私が犯人だって。だって、死体の半分は呑んじゃったし、誰が犠牲者か識別するのも時間がかかる。」
「そうか… じゃあ案外、しばらく自由に行動できるかも!」
「でも何にせよ、まだ村雨が居るから、今夜中に街を出た方が良いかも。」
「そうだね。」
膨らんだ腹の前で、きつくなったジーンズのボタンを留めようともがいている千絵に向かって、佳奈が楽しげに尋ねる。
「で、どこに行く?北?南? 王道なのは北だよね! あ、でもメキシコって南か…。どっちが良い?」
「どこでも良いの?」
千絵はジーンズを諦めてワンピースに着替えたようだ。夏用なので少し肌寒そうだ。
「ちぃちゃんの好きなところ、どこでもっ。」
「じゃあ私、東京行きたい。」
千絵は興奮気味に言う。頭の中にあったのは、例の少女の事だった。
何故かまだ、東京近辺に潜伏しているような気がしていた。例え違っても、近くへ行けば、また何か消息が分かるかも知れない。
そうしたら…。
「東京かぁ。」
佳奈はスポーツバッグを肩に掛けると、千絵に先立って歩き出した。
「修学旅行以来だね。」
「良い?」
「うん、良いよ!人も多そうだし、食べるのにも困らないしね。」
佳奈はにやりと千絵を振り返った。その時千絵は、親友のその笑みにどことなく違和感を覚えた。
何となくだが、今までとは違うものを。
だが2人で並んで歩きながら、東京へ行ったら何をしたい等と話して居る内に、そんな考えは脳裏の奥へと鳴りを潜めた。


[続]

223:名無しさん@ピンキー
09/12/31 14:32:45 LwC0TjjD
gj

224:名無しさん@ピンキー
09/12/31 14:56:24 WxVuo0FG
来年就活迫る実家暮らしの俺からしてみると、母親殺しはエグかったぜ。
幸せな家庭が一瞬で奪われる、親子関係の話になると胸がキュンとなる。

225:名無しさん@ピンキー
09/12/31 18:44:30 gBAZ7cLV
しかも千絵はそれ知らないんだよな・・・

226:腐肉(P.N.)
10/01/02 13:59:17 pu/Xsm+A
[幕間]
第一南高校の校庭及びグラウンドはお祭りのような騒ぎだった。
無論、本番を翌日に控えた文化祭の前夜祭などではない。企画されていた前夜祭は中止され、生徒は文化祭実行委員も含め全員、速やかに帰宅を命ぜられた。
代わりに櫓の周りに詰め掛けたのは、警察、消防、いち早く情報をキャッチした日本中のマスコミと、近所の野次馬連中だった。
遅れて到着した村雨定夫は、悲痛な面持ちでカメラに向かい事件の惨状を述べるレポーターを尻目に、ビニルシートで一面覆われた体育館へと向かった。
さながら巨大なビニルハウスのような建物に近づいたその時、透明のカーテンの向こうから鑑識の制服を纏った男が駆け出して来たかと思うと、その場にへたり込んで激しく嘔吐した。
村雨は彼を無視し、カーテンの脇に立つレインコート姿の捜査官からゴム手袋を受け取ると、張り付いたゴムを引っぺがしながらカーテンをくぐった。
「これはまた派手にやらかしたな…。」
体育館内の様子を一目見るなり、村雨は思わず口に出して言った。
装着したゴム手袋をパチンとはじきながら、彼は血塗れのバスケットコートの下で指揮を執っている、しわくちゃのコートを着た男に近づいた。
足元で3年C組の哀れな生徒たちの固まりかけた黒い血がひたひたと撥ねて革の靴に付いたが、村雨は気に留めなかった。
「環境庁です。状況は?」
村雨はコートの男に話しかけた。
「吉祥警部です。状況は…まぁ見ての通りです。」
コートの男は自己紹介し、辺りを見渡した。
「ええ、さながら血池肉林と言ったところですかね。」
村雨のジョークは、吉祥警部を不快にさせたようだったが、彼はこの痩せた黒縁眼鏡の男を睨んだだけで、すぐに仕事にかかった。
「損傷が激しく、個人の特定はおろか人数すら定かではありません。確認できる遺体は計16体。内男性7、女性9。ですが… 3年C組の生徒が全員、行方不明になっており、恐らくは…」
「ええ、血の量からして、全員ここで死んだのでしょう。」
そう、恐らく、1人を除いて…。
村雨は赤一色に染まった体育館を見渡した。あちこちで、ビニル製の滅菌服のようなものを着た男たちが、肉や骨の破片を拾い、本来なら遺体を乗せる筈の担架の上に集めている。
先ほどの若い鑑識同様、口を手で押さえては外へ飛び出していく者もちらほら見えた。
「ご苦労様。後は我々が引き継ぎます。とりあえずこの場を片付けてください。」
村雨は吉祥警部に指示を出した。
「ちょっと待ってください。まだ鑑識が…。」
吉祥は抗議する。
「この場合、重要なのは“喰われた側”ではないんです。食べ粕に用はありません。」
村雨は冷たく言い放った。
「あんたら…何を隠している?」
吉祥は村雨を睨み付ける。
「…あなた方警察は、誰も彼も同じ事を言うんですね。そう言えば彼、福沢刑事、でしたか?彼はどこです?見当たりませんね。」
吉祥の顔色が変わった。
「…福沢も行方不明だ。昼にこの学校を訪問していた事が分かっているが…目的は不明だ。」
「ではお悔やみを申し上げます。」

227:腐肉(P.N.)
10/01/02 14:02:19 pu/Xsm+A
村雨の冷酷な言葉に、再び吉祥は怒りで顔を歪ませた。
「我々には何も話せない、と?」
「話せないのではなく、話しても無駄だから話さないのですよ。」
「…では、パトロール中の警官には何と伝えれば?」
「何も伝える必要はありません。“ここでは何も起きなかった”。分かりますか?今宵この場所で40人もの哀れな学童が、有望な前渡を絶たれ
無残にも肉の破片にされてしまったという事実を、抹消するのですよ。では、さっさとこの反吐を片付けてください。」
村雨はそう言い残すと、再び血の池の中、肉片を踏みしだきながら去って行った。
建物から出ると、上空をヘリが飛んでいた。サーチライトの光が眩しく辺りを照らし出す。
「あれはどこのヘリです?」
村雨はカーテンの外で待機していた黒服に尋ねた。
「民間です。恐らくテレビ局かと。」
黒服は答えた。
「今すぐ飛行禁止命令を出してください。それから、あちらの方々にもお引取り願うよう。」
村雨は遠巻きに校舎を取り囲みカメラのフラッシュを瞬かせている集団に目を遣り言った。
「本部に通達、対象は蓮杖千絵で確定。すぐに捜索を開始してください。尤も、もう遅いかも知れませんが…。」
村雨は遠ざかっていくヘリに一瞥くれると、車に乗り込んだ。
「発見しても手出しはせずに追尾するんだ。」
「しかし民間の犠牲は…。」
「この際、多少の犠牲は目を瞑りましょう。更に大勢を護るためだと思えば良い。」
車が動き出し、マスコミを押し出すように正門を突破した。
カメラのフラッシュが黒塗りの車体を光らせたが、ガラスには遮光がしてあるので外からは中が見えない。
フラッシュライトに照らされながら、村雨は興奮を禁じえなかった。待ち侘びた瞬間がついに訪れるのだと思うと、ぞくぞくする。
「うまくすれば、彼女がオリジナルの元へと導いてくれるかも知れない…。」

---------------------------------------------------------

その頃、千絵と佳奈は県境に達そうとしていた。
検問が敷かれている場合等を考慮した結果、歩いて行くのがやはり最も安全だという結論に至ったのだ。
かなりの距離だったが、スタミナを補給したばかりの千絵には何ら苦で無かった。佳奈も不平一つ言わずに付いて来る。
意外とタフなのだ、この子は、と千絵は何故か鼻が高い。
高速道路沿いに歩いて数時間すると、何も無いドライブインに辿り着いた。夏休みに、常舞病院へ行く2人がバスを降りた所だ。
時計を見るともう深夜3時を回っており、セルフの給油所も閉まっていた。その殺風景さは、2人に急激に疲労感を思い出させた。
自動販売機の他にはトイレしか無く、2人は仕方なくトイレの個室で身を寄せ合って朝まで眠る事にした。


[続]
----------------------------------------------------------
あけましておめでとうございます。
新年初の投稿が中途半端なところになってしまってすみません。

228:名無しさん@ピンキー
10/01/02 14:59:12 HWaoWsG/
最初は普通?の捕食系SSだと思ってたのにここからどこまで大きくなるんだろうか

しかし、どんどん書き方が上手くなってきて読んでて読みやすいし面白いな

229:名無しさん@ピンキー
10/01/02 16:30:43 O9dLQ3Io
GJ!!
今年もwktkさせていただきます。

230:名無しさん@ピンキー
10/01/02 19:38:16 wszWXsS7
GJ!
楽しませて貰いました

231:名無しさん@ピンキー
10/01/03 22:00:59 JSnwJq/i
久々に見にきたら腐肉さん復活!GJ!
今年もよろしくおねがいしやすぜ

232:腐肉(P.N.)
10/01/04 05:11:27 28XebKjS
じりじりと焼け付くような日差しが、フロントガラスを付き抜け、運転席の大蔵慎太郎の目を眩ませる。9月も半ばだと言うのに、夏が再来したように暑い日だった。
彼はダッシュボードから古臭いデザインの汚れたサングラスを取り出してかけた。
「パパ、クーラー上げて。」
後部座席から生意気な声が飛んできた。コンソールボックスの上に裸足の足をどんと乗せ、シートにだらりともたれた娘の輝子。
慎太郎は黙ってクーラーのスイッチを強に合わせた。娘の脚がちらりと目に入る。まだ小学生だと言うのに全く、いつの間に毛を剃る事など覚えたのだ。
「ママおっそい!」
輝子は苛立った。暑さのせいもあるが、恐らく今回の紀美子の急な帰省の巻き添えで、学芸会に出られなかった事をまだ根に持っているのだ。
それは慎太郎も同じだった。こんな半端な時期に有給まで使って妻の実家へ行くなんて。それについては妻紀美子とも散々口論になったが、結局彼が折れた。
だと言うのに、病院に駆け付けたら看護士に「峠は越えました」とあっさり言われ、翌朝には目を覚まして姪夫婦にいつもの嫌味と愚痴をぶちまけていた。
叔父の無事への安心と嫌気から、一家はこの週末妻の実家に滞在する予定をキャンセルして早々に引き上げてきたのだ。
全くあの調子では、あの爺は当分死なないだろう。
「パパ、ラジオ下げて。」
再び、後部座席からの指令。
慎太郎は相変わらず黙ったまま、昨日この近くの高校で1クラス丸まる全員が“行方不明”になった事件を伝えるアナウンサーの声を、車内から追い出した。
その時、殺風景なドライブインにぽつんと佇むトイレから誰か出てくるのが見えた。
紀美子の奴、やっと出てきたか。大方、功が愚図ったのだろう。功は4歳になるが、まだおむつが外れない。
慎太郎は時計に目をやった。もう30分以上も経っていたのか。
だが次に顔を上げた時、そこに居るのが妻と息子ではないと気付いた。女子高生くらいの少女が2人、大きな荷物を抱えてこちらに向かって歩いてくる。
ふと見ると、背の高い方の少女の腹が異様に膨張している。
妊婦だろうか?もしかして産気付いたとか…。
面倒事は御免だと念じる慎太郎の思いを他所に、少女の1人がこんこんと助手席の窓を叩いた。慎太郎は溜息を吐きながら窓を開ける。
後部座席で娘が「あれ誰?」と不満そうに尋ねている。
「すみません、乗せてもらえませんか?」
背の低い方の少女がにこやかに言った。慎太郎は内心苛立ちながら尋ねる。
「どうかしたのか?」
その時、突然後部ドアが開き、背の高い美少女が乗り込んできた。
「ちょっと、君…!」
慎太郎がそう言いかけた時、信じられない事が起きた。少女の服が、手も触れないのにはらりとはだけ、大きく膨らんだ腹がぱっくりと2つに裂けた。
後部座席に座っていた輝子は甲高い悲鳴を上げ逃げようとドアに手を延ばしたが、すぐに少女の細い腕にがちりと捕まってしまった。
だが何より慎太郎を恐怖させたのは、少女の腹の中にあったものだった。そこにはぐちゃぐちゃの死体が2つ。それぞれに、妻紀美子と息子功の頭が付いていた。
「う、うわぁっ…!!」
慎太郎は娘の前なのを忘れ、思わず悲鳴を上げた。その時、功がぴくりと動き、ゆっくりと頭をもたげた。
「パ…ぱ…。」
功は搾り出すような声で父を呼んだ。耐え難い苦痛から救い出して欲しくて、父に乞うた。その顔は解けたバターを被ったようにどろどろだ。
慎太郎は、それが骨だと気付くまでに時間がかかった。息子の目から、どろりとした赤い液体が流れ出た。
それが涙なのか血なのか判る前に、彼の目の前で肉の壁がバクリと閉じ、瀕死の息子を押し潰した。
「げぇ゙うっ!」
千絵は堅く閉じた第二の口の裂け目を満足げに撫でながら、耳を劈くような大音量のゲップをした。千絵の腕に捕らえられた輝子は悲鳴を上げた。
それに釣られて慎太郎も悲鳴を上げ、逃げ出そうと運転席のドアに手を掛けた。

233:腐肉(P.N.)
10/01/04 05:13:37 28XebKjS
「ちょっと、逃げないでよ、おとうさん。」
助手席から声がした。いつの間にか、背の低い方の少女が乗り込んで来ていた。こちらもかなりの美少女で、まだにこやかに微笑んでいる。
「逃げたら娘さんを餌にする。」
佳奈は凄んだ。先ほどまでの可愛らしさはどこへやらだ。
「大丈夫だよ、そんな大変なお願いじゃない。東京まで乗せて。でなければ、出来るだけ近くまででいい、次の拾うから。」
後部座席の怪物が、少女の声で言った。慎太郎は取っ手に手を置いたまま、ごくりと唾を飲み込んだ。
「い、言う事を聞いたら…。」
「そしたら食べないであげる。」
助手席の佳奈が続けた。
「パパ…。」
怪物に首を締め上げられた輝子が涙を流した。慎一郎は、久々に娘の顔を真直ぐ見た気がした。
「大丈夫だ、必ずパパが助けてやる。」
慎一郎は掠れる声で娘に言った。
「じゃぁ、出発進行!」
佳奈が前を指差し、高らかに宣言した。慎太郎は震える手でエンジンを掛けると、車を発進させた。
かくして、焼けるような暑い日の昼下がり、2人の少女の逃走劇が幕を開けた。
車内は恐ろしく静かだった。実際には佳奈が勝手にラジオを入れていたし、時々流れる曲に合わせて鼻歌を歌っていたし、
運転手の妻子を消化中の千絵は時折小さくゲップをした。
その度に彼女の腕の中で、大蔵輝子は恐怖しすすり泣いた。だが、慎太郎にとっては無音も同然だった。
目の前で潰された、愛する息子の無残な姿が脳裏を過ぎる。初めての風呂、ハイハイ、歩行、初めてパパと呼んだ時の事を思い出した。
大きくなったらキャッチボールをしよう、山へキャンプへ行こう、やがて大人になったら息子と杯を交わす… そんな夢は、もう叶わない。
泣きたかった。だが涙が出ないのは、後ろで娘を人質にしている怪物への恐怖心のためだろう。
そして妻紀美子の死に対しては何の感情も起こらない自分に対する嫌悪のためだった。
だから慎太郎は、検問に気付かずに危うく前の車両に追突する所だった。大型のパジェロの尻が迫ってくるのを見て、慌てて急ブレーキをかけた。
「何?」
後ろから千絵が顔を出した。慎太郎は思わず身を引く。
「検問。」
「マジ?結構離れてるのに…。」
「ていうか、何の検問だろ?昨日の…まだバレてない筈だよね…。」
慎太郎は恐る恐る、助手席と運転席の間から覗いた怪物の顔を横目で見た。顔だけ見れば、先ほどのおぞましい光景を忘れるくらいの美少女だ。
慎太郎の心から一瞬恐怖が薄れ、彼は少女の横顔に見とれた。
「さて、作戦その一。」
その時突然少女がくるりと振り向いた。慎太郎はどきりとして身を縮めた。
「あんたがパパ、全員娘。作戦その二、あんたが先生で私たち生徒。」
「その子どうするの?」
佳奈が後ろの輝子を指差して尋ねる。
「…妹?」
千絵がそう言うと、輝子はひくりと身を震わせて泣き出した。
「さ、作戦、一で…。」
慎太郎は呟いた。
「だよねっ。じゃあよろしく、パパ。」
千絵は運転手に笑いかけ、顔を引っ込めた。慎太郎の顔に息がかかる。甘い、むかつくほど甘い香り。
それが息子と妻の肉の匂いだと分かっていたが、慎太郎は胸が高鳴るのを感じた。
それは、これから警官を騙そうとしているからなのか、それとも、あの少女に「パパ」と呼ばれたからだろうか。
「ね。」
慎太郎ははっと我に返る。助手席の少女が話しかけてきた。
「妙な事したら、殺すよ? …パパ。」
その残忍に輝く目に心底脅えながら、慎太郎は震えるように頷いた。


[続]

234:名無しさん@ピンキー
10/01/04 13:09:56 M9YurgLO
GJ

235:名無しさん@ピンキー
10/01/06 03:12:06 Tnv8MZYT
これまた面白い展開だな

236:腐肉(P.N.)
10/01/07 00:54:48 kRJVL5GE
休日とは言え9月のこんな半端な時期の昼間に、片田舎の高速を走る車などそう居ない。すぐに前の車が動き、千絵たちの車の番が来た。
警官が2人歩み寄り、慎太郎は運転席の窓を開けた。外からもわっとした熱気が車内に流れ込む。
「どうも、この近くで失踪事件がありまして…。」
警官の1人が額の汗を拭いながら言った。
「ご苦労様です。」
「高校生、なのですが… 失礼ですが、娘さんですか?」
警官は車内を覗き込んで尋ねた。
「そうです。」
千絵と佳奈は声を合わせて答えた。少し遅れて輝子が「…です」と呟く。
「どちらから?」
「盛岡にある妻の実家です。これから埼玉に戻ります。」
「そうですか…。」
警官は後ろに立つもう一人と顔を見合わせ、軽く合図すると再び向き直った。
「結構です。どうぞ。」
「あ、あのっ。」
慎太郎は警官に声をかけた。何を言うつもりか、自分でも分からなかった。だが、娘を救えるチャンスかも知れないと、必死だった。
助手席の少女の視線を感じる。後部座席から「ひっ」という短い悲鳴が聞こえる。
慎太郎が振り向くと、怪物が警官からは見えないように、娘の耳たぶに唇を這わせかぷりと噛み付いた。
「どうしました?」
「そ、その高校生、何かしたんですか?」
警官の声に、慎太郎は咄嗟にそう尋ねた。
「いいえ、そういうのではないです。ただ奇妙な事件がありまして、高校の一クラス全員が、突然行方不明になったらしいです。」
その時、後部座席から千絵が顔を出した。
「パパ、この子トイレ行きたいって。」
警官はどうぞ、というように進行方向へ向かって手を差し出した。
「すみません…。」
慎太郎は何に対して謝っているのか分からなかったがとりあえずそう言って車を発進させた。
「お気をつけて。」
警官たちの姿が遠のくと、助手席の少女が運転席に身を乗り出した。
「さっきのどういう事かなぁ、パパ?」
「い、いや…」
佳奈は言い訳しようとする慎太郎を遮った。
「その行方不明のクラスってね、私たちのクラスなの。」
再びひょっこりと顔を出した千絵が、にこりと微笑み言った。
「皆、喰った。」
それから2人の少女はくすくす笑いだした。
「あ、そこで停めて。」
ふと千絵がドライブインの看板を指差し言う。
「えっ?」
「言ったじゃない、この子トイレだって。」
「あ、ああ…。」
見ると輝子は本当にトイレに行きたそうに、千絵の膝の上でもじもじしている。慎太郎は急いで斜線を出てドライブインに入った。

237:腐肉(P.N.)
10/01/07 00:59:26 kRJVL5GE
佳奈が輝子をトイレに連れて行っている間、千絵と慎太郎は車内で2人取り残された。ラジオは消え、クーラーが冷気を吐き出す音だけが響いている。
慎太郎はバックミラー越しにちらちらと後ろの少女を覗き見た。もう腹は少ししか膨れていない。慎太郎は再び息子の最期を思い出し、目を背けた。
「気になる?」
その時後ろから声がし、慎太郎はびくりと震えた。シートの間から千絵がひょっこりと顔を出す。
「安心しなよ、食べないから。運転手居なくなると困るもん。」
「あ、ああ…。」
慎太郎は恐る恐る振り向くと、可愛らしい少女の顔が彼の脅えた目を覗き込んでいた。
「喉渇いたんじゃない?」
千絵は尋ねた。
「さっきから凄い汗だもんね?」
そう言うと、千絵はドアを開けて外へ出、運転席のドアを開けた。じめじめした空気の壁が押し寄せ、少女が背にした太陽の眩しさに慎太郎は目を瞬いた。
「売店、行こ?」
千絵が慎太郎の手を引いた。
「ちょっ…君、いいのか?君の友達が…。」
慎太郎は、助手席から向けられる殺意の籠もった視線を思い出し、背筋を振るわせた。
「千絵、っていうんだよ。あの子は佳奈。売店行こうよ、私も喉渇いた。」
千絵は慎太郎の手を引いてずんずん歩き出した。慎太郎は慌てて後ろ手にドアを閉めた。
慎太郎は売店で缶ジュースを2本買い、1本を少女に与えた。少女はものの数秒でそれを飲み干すと、下品なゲップをした。慎太郎は怪物に、もう1本買い与えた。
車に戻ると、千絵は2本目もさっさと飲み干し、手持ち無沙汰に缶をぺしゃんこに潰して遊び出した。
「き、聞いても良いかな…。」
何度も何度も潰されては引き伸ばされてぐしゃぐしゃにされたスチール缶をバックミラー越しに見つめながら、慎太郎が口を開いた。
「何?」
「君は…」
「千絵。」
「ち、千絵…さんは、何者なんだ?」
「随分ストレートに聞くんだね。」
慎太郎の顔から血の気がさっと引くのをバックミラー越しに見た千絵は、からからと笑った。
「だから、大丈夫だってば。 私自身よく分からないけど、とりあえず人間じゃ無いよ。人間の記憶はあるけど、生まれたときから人間じゃない。
まあ、まだ生まれて半年も経って無いんだけどね…。」
慎太郎は、余計分からなくなったがそれ以上突っ込んで聞くのは止めた。
「と、東京へ行きたいと言ったね。」
「ん。」
「どうしてだ…?」
千絵は少し考えるように鏡を見つめ、もごもごと呟いた。
「運命の人を探しに、とか…。」
「えっ?」
その時、後部と助手席のドアが同時に開き、佳奈と運転手の娘が戻ってきた。
「あちぃー…。」
佳奈がクーラーの前に顔を突き出して項垂れた。
「お姉ちゃん、あたしも…。」
後部座席から輝子が顔を出した。
「おぉ、じゃあおいで。」
佳奈は輝子の身体を後ろから引っ張りだし、自分の膝に座らせた。とりあえずこの佳奈という子がトイレの間娘を優しく扱ってくれたようで、慎太郎は安心した。
「おじさん、埼玉まで行くんだよね?」
佳奈が尋ねた。
「あ、ああ…。」
「後どれくらい?」
「一時間もかからない。夕方には着く筈だ。」
---------------------------------------------------------------------
その頃、時速270kmで山間を駆け抜ける新幹線の中で、村雨の部下、岡崎は一本の電話を受けた。通話後、岡崎はデッキから座席に戻った。
隣の座席で、村雨が数日振りの仮眠を取っていた。岡崎が村雨を起こそうと肩に手を延ばした瞬間、眼鏡の向こうの切れ長の目がぱちりと開いた。
「見つけました。」
岡崎は報告する。村雨の寝ぼけ眼は一瞬でいつもの鋭い眼光を取り戻した。
「よし。」
車内アナウンスが流れ、新幹線は一時間後に東京駅に到着すると告げた。

238:名無しさん@ピンキー
10/01/07 19:10:55 3DX4f+e8
GJ!!

239:名無しさん@ピンキー
10/01/07 19:19:17 Pzzs/8ZJ
[続]がないから続きを20時間待機してたがそんなことはなかったぜ

240:名無しさん@ピンキー
10/01/07 21:53:30 UVb5D1wd
>>239
ムチャしやがって・・・・

241:腐肉(P.N.)
10/01/10 06:02:13 wjDMwITd
>>239
本当にごめんなさい!お詫び(?)にいつもより多めに書きました。
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空が桃色へ移り行く頃、千絵と佳奈を乗せた大蔵家の自家用車は埼玉県郊外のインターチェンジ手前の待避するスペースで停車した。
「ありがと、ここからなら歩ける。」
千絵はそう言って、後部座席の下に置いてあった荷物を引っ張り出した。外は日中に比べれば幾分か涼しくなっていたが、湿度は相変わらずでべたべたと肌に纏わり付く様だ。
「東京まで歩かなくても、降りてしばらく行ったところに駅がある。大宮まで出て乗り換えれば良い。」
慎太郎が言った。
奇妙な感じだ。この数時間の間に、この怪物のせいで家族が半分になったと言うのに、なぜここまでしてやるのか自分でも分からなかった。
なぜ愛着を持つのか…。
その時、何か液体の飛び散る音がした。ふと見ると、フロントガラスに黒っぽい液体が飛び散っている。
血だ…!
慎太郎は急いで愛娘の方を振り返ろうとした。だがその時、ぐらりと首が揺らいだ。下を見ると、どす黒い血がシャツを染め、革のシートの縫い目に溜まっている。
「えっ…。」
これは俺の血なのか…?
なぜだ?
首から血の前掛けを垂らしたような姿の大蔵慎太郎は、その疑問に答えが見出せないまま、ハンドルの上に覆いかぶさるように倒れた。
力の抜けた身体の重みでクラクションが鳴り響いた。佳奈は急いで運転手の遺体を蹴ってハンドルから落とすと、後部座席の幼女の方を向いた。
大蔵輝子は何が起こったのか分からないという顔で佳奈を見上げた。その顔には、父親の血の飛沫が付着している。
輝子は顔についたそれを掌で拭うと、真っ赤に汚れた自分の手を見つめた。
「ふぇ…。」
喉からそんな音を漏らし、泣き声を上げかけたその時、佳奈の手にしたカッターナイフがびゅっと音を立てて幼女の視界を横切った。
次の瞬間、フェルト張りの車の天上に鮮血を吹き上げた。佳奈は返り血を防ぐために助手席の陰に身を隠した。幼女の身体は前のめりに倒れ運転席に支えて動かなくなった。
「佳奈…?」
開け放した後部ドアの向こうで、千絵がきょとんとして首をかしげた。薄暗い車内で、佳奈の目が異様な光を帯びているのが見える。
その向こうの車道を、ヘッドライトで前だけ照らした様々な車たちが、こちらで起こっている事には見向きもせずに過ぎ去っていく。佳奈はもぞもぞと助手席に戻ると、外へ出てきた。
「行こう。」
車を回って千絵の方へやって来た佳奈は、荷物を掴むともう片方の手で千絵の手を引いた。
「殺した?」
千絵は車の方を振り返りながら尋ねた。
「うん。“食べない”として言ってないし。行こう、気付かれるとやばい。」
佳奈はガードレールをひょいと乗り越え、茂みの中に着地した。
「佳奈。」
千絵は佳奈の肩を両手で掴んで振り向かせた。力を込めすぎて、佳奈の華奢な身体は持ち上がりそうだった。佳奈はびっくりしたような、脅えたような顔で千絵を見た。
「食べないものは殺しちゃいけないんだよ?」
千絵は諭すように言った。
無論大蔵親子に“人間的”同情を覚えたためなどではなく、単純にもったいないからだった。千絵は体育館に残してきた級友達の肉の事を口惜しく想った。
佳奈は黙って千絵を見つめていたが、次の瞬間、堰を切ったようにその目から涙が溢れ出した。
「だって… だって…。」


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