09/12/04 00:19:37 1GbC8sjz
「…むぅ、こればかりはセンスというか得意不得意が分かれる分野というか…」
「プリマ、何気に傷ついたぞ」
「あぅ!すみません」
というか、いっそ空気の流れが分かる箒を作った方が早いのではないだろうか。ふわふわと浮かぶプリマを眺めながら、思わずそんなことを考えてしまう。
魔力を送るだけで勝手に流れに乗ってくれる箒。箒入門者にも、自転車の補助輪のようなもんがあったっていいだろう。
うむ、もしかすると意外にナイスアイデアかもしれない。例えば空気に乗るのが上手いプリマを箒代わりにして見る、とかさ。
「…プリマ」
「何でしょう?」
「許せ!」
不思議そうに箒から降り立ったプリマに対し、俺は容赦なく杖を振りかざす。悪いなプリマ、しかし魔女のプライドにかけて俺はどうしても空を飛ばなければならんのだ!
「きゃん!?」
杖先から溢れた光に包まれ、プリマが驚きの悲鳴をあげる。
「ぐりむ様、一体なに…を………」
声が、それっきり途絶える。
やがて光が晴れると、トサッと軽い音を立ててプリマは地面へ倒れ込んだ。その表情は、驚愕を浮かべたまま動かない。
手足を伸ばしきり、彼女はまるで一本の棒のように体を硬直させていた。抗議の声を全て紡ぐ間もなく、プリマは人間箒になったのだ。
「よし、成功」
試しにプリマの目の前で手を振ってみるが、虚ろな瞳はぴくりとも動かない。魔法はよく効いているようだ。
箒になりきっている彼女は無意識下でも風を読む。後は俺が魔力さえ込めてやればいいのだ。
俯せのままのプリマに跨がり、そっと念じながら力を注ぐ。『浮かべ』、ただそれだけだ。
その命令を受け、俺の体重を支えたままプリマの体は難無く宙へと浮かび上がった。
「おぉ!浮いてる!」
地上1メートルほどの高さだが、俺は思わず歓声をあげた。やはり魔女といったら飛ばなければ嘘ってもんだ。
少し姿勢を落とせば、風になびくプリマの髪の毛が甘い香りを帯びて俺の鼻先をくすぐる。柔らかい乗り心地といい、なかなかいい箒だ。
「よーし、右折ー」
ムギュっと、俺はおもむろにプリマの右胸を掴んだ。傍からみるとただのセクハラだが、これは立派なハンドルであるわけで箒の進路もしっかりと右へと向く。
まぁハンドルがなくても今のプリマは念じるだけで動くのだが、この際気にしないで頂きたい。これは浪漫でありこだわりなのだ。
ムニュムニュと感触を楽しみながら、俺は低空飛行を堪能する。ああ、いっそ乳揉み…いや、ハンドル操作をしやすいようにローブも脱がせてしまおうか。
その状態で意識を戻してやるのもなかなか楽しそうだ。
「よーし、とりあえずは空中散歩でも!って、あ……」
ひとまず高度を思い切りあげようとした瞬間、俺は肝心なことに気づいてしまった。
「俺、高所恐怖症だったんだわ…」
相変わらず硬直しきっているプリマの上で、俺は思わず頭を抱えた。
まずは高所恐怖症を治す薬を調合しない限り、このセクハラめいた空中散歩はおあずけなわけだ。
「すまんなプリマ、薬が出来るまでは箒のままでいてくれよ」
ふにふにした尻を撫で悪びれもなく言う俺にも、可愛い箒は文句を言う事なく虚空を見つめるのだった。