09/10/14 19:16:26 XdM0E3q1
魔王(ボク)という存在は、成るべくにして成ったと言う他にない。―そう。僕の人生はいつだって、
「自分」ではない『誰か』の流れの中に居る。
血統の家系に生まれ、その中で帝王学を学び、そして導かれるままに僕は当主の座へと着いた。
長じてからようやく、そんな自身の生き方に疑問のひとつも持てるようになったものの、その頃には
毎日の公務に忙殺されるがあまり、ただ無為に繰り返される日々へ己が人生を投げやりに生きるばかり
となっていた。
だからこそ、三度目に彼女と出会った時の感動を僕は忘れられない。
いわゆる『僕』は世間一般では『魔王』と呼ばれる存在だ。
外界の人間達とは違う半獣の巨大な体躯や、はたまた万象の法則に干渉する魔力といった過ぎたる力は、
それは彼らにとってさぞ脅威であるのだろう。
事実、同類にはその力を使い人間達の世界に浸食している者も多くいると聞く。しかしながらそんな
こと、今の僕にはどうでもいいことなのだ。
日々僕は領民の生活を案ずることと、そしてそれに適えるべき適切な処置と管理をつつがなく行うこと
で頭がいっぱいだ。
代を遡れば、祖先には大きな戦争で戦功あげた者もいると聞くが、そんなこと今の僕には関係のない話。
そんなこと考えたところで、今のこの風に任せたままの旗のような僕の人生が変わることなどあり得は
しないのだから。ただ流されるがままに、その威風堂々たる「領主様」の姿を見せることしか今の僕には
許されないのだ。