09/12/08 19:41:44 7lykIpck
雨は一晩中降り続き、ダンガリー生地の戦闘服の襟口から流れ込んだ雨水がコットンのシ
ャツに染み込む不快な感触が、重い装備を背負って闇の中を行軍する我々を一層惨めな気
分にさせた。
夜明けが近づくにつれて雨はますます激しくなり、我々は隊列を維持するため前を歩く兵
士のベルトを手で掴み、数珠繋ぎにならなければならないほどに視界が悪化した。
突然轟音が鳴り響き、紫色の稲妻が周囲を飛び交ったかと思うと一瞬目の前が真っ白にな
り、足元の地面が消え去ったかのような奇妙な浮遊感に包まれた。
次の瞬間にはその場にいた全員が弾かれたような勢いで地面に伏せ、手にしたライフルや
カービン銃をいつでも発射できるように身構えていた。
「何だ今のは」
誰かがそっと囁いた。
「知るもんかよ」
誰かが囁き返す。
そのまま何事もなく数分が過ぎると、先刻の奇妙な体験は至近距離で落雷を受けたショッ
クによる一時的な集団幻覚の類だろうということに落ち着き、我々は前線に向って移動を
再会した。
いつの間にか雨が上がり、太陽が地平線の向こうから顔を出すと、我々は何かがおかしい
と思いはじめた。
日の出とともに頭上を飛び交い始める海軍のコルセアや急降下爆撃機が、今朝に限って一
機も見えない。
それに前線から負傷兵を乗せて後退してくるジープやアムトラックの姿も無い。
そして何よりあたりの様子に戦争の爪あと－友軍の前進に先立って行われた艦砲射撃や爆
撃の痕跡－が全く見られず、我々の周囲には見渡す限り青々とした芝生と緑豊かな森林が
広がっていた。
これは一体どういうことなのか？
疑念を抱きながらも前進を続けていると、前方に未舗装の道路が現れ、その先に家畜小屋
らしい平屋の建築物が見えてきた。
我々は散開し、用心深く建物に接近した。
薄い鉄板の外壁に背中を押し付け中の気配を伺うと、何かが動き回る音が途切れ途切れに
聞こえてくる。
私は仲間達に向って左手をあげ、声を立てずハンドサインで反対側の入口に回るように合
図すると、タイミングを見計らい入口の扉を蹴り開けた。
小屋の内部は中央に幅２メートルほどの通路を挟んで木製の柵が両側に並び、通路側から
壁側に向って伸ばされた柵によって四角く区切られたスペースの中には、土の地面の上に
敷かれた藁束の上に、首輪を嵌められた全裸の女達がいた。
女たちの中には白人、黒人、アジア系だけでなく、青やピンクや紫といった我々の知るど
の人種にも当てはまらない髪の色をした者が混じっている。