09/12/28 06:01:12 S01EW1zo
「…？ なんだ、もう行っていいんだぞ」
「約束して欲しいの」
「分かってる分かってる、もうお前には近寄らない」
「そうじゃないの」
秋は今までのように声を荒げることもなく、自身の手をぎゅっと握り、
絞り出すようにこう言った。
「もう、私みたいに、女の子を傷つけないで欲しいの。私より酷い犯罪者でも……」
俺は唖然とした。
秋は自分のことより、他人の心配をしているのだ。
元々気丈な所はあるが、ここまでくると見上げたものだろう。
「……分かった、約束してやるからもう帰れ」
「さようなら」
彼女の足音が次第に遠ざかって行った。
警備員室のドアを開け、閉める音が聞こえる。
「ふう……」
俺は思わず心が揺らいだことを恥じた。
一瞬でも、秋のことを一人の人間として好きになりそうだったからだ。
俺らしくもない。
何より……
「誰だ？」
考え事をしていると、ドアを開ける音が響いた。
秋が戻ってきたのかと身構えたが、そうではなかった。
「お、お兄さん……」
そこに立っていたのは、秋より少し前にしょっぴいた万引き女子校生だった。
少し頭の弱い娘だが、身体はなかなかのものなので弱みを握って何度か相手をさせていた。
「何だ、別に今日は呼んでないだろう」
「じ、実は……」
「用事があるならはっきり言え！」
俺は苛立って叫ぶ。
彼女はびくんと驚くが、必死な表情で答えた。
「あ、あの日がこないんです！」
俺は秋との約束を思い出した。
しかし、降ってわいたお楽しみを前には、そんな約束はもろくも崩れ去ってしまう。
そうだ、俺らしくもない。
さっきまで考えていたことを再び考える。
そうだ、何よりこんな楽しいことを、今更辞められるわけがないんだ。
そう、例え地獄へ落ちようとも……
＜終＞