09/09/08 23:20:46 uKsgxEqy
_人人人人人人人人人人人人人人人_
> ごらんの有様だよ!!! <
 ̄^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^
_______ _____ _______ ___ _____ _______
ヽ、 _,, '-´ ̄ ̄`-ゝ 、 ノ | _,, '-´ ̄ ̄`-ゝ 、 |
ヽ r ´ ヽ、ノ 'r ´ ヽ、ノ
´/==─- -─==ヽ /==─- -─==ヽ
/ / /! i、 iヽ、 ヽ ヽ / / /,人| iヽヽ、 ヽ, 、i
ノ / / /__,.!/ ヽ|、!__ヽ ヽヽ i ( ! / i ゝ、ヽ、! /_ルヽ、 、 ヽ
/ / /| /(ヒ_] ヒ_ン i、 Vヽ! ヽ\i (ヒ_] ヒ_ン ) イヽ、ヽ、_` 、
 ̄/ /iヽ,! '" ,___, "' i ヽ| /ii"" ,___, "" レ\ ヽ ヽ、
'´i | | ! ヽ _ン ,' | / 人. ヽ _ン | |´/ヽ! ̄
|/| | ||ヽ、 ,イ|| | // レヽ、 ,イ| |'V` '
'" '' `ー--一 ´'" '' ´ ル` ー--─ ´ レ" |
3:名無しさん@ピンキー
09/09/09 08:04:59 hsUnoolK
いちおつ
4:名無しさん@ピンキー
09/09/09 17:48:24 g+PmQGvY
>>1に野種姫の熱いベーゼを!
5:名無しさん@ピンキー
09/09/10 18:41:25 GOvm0+cm
>>1乙力全開!
スーパー我輩パワー!!
6:名無しさん@ピンキー
09/09/10 21:15:30 yVF4jf5F
>>1
乙←こ、これは乙じゃなくって達人の投擲斧うんぬんかんぬん
7:名無しさん@ピンキー
09/09/11 04:22:19 Fe9EekXG
前スレが埋まったか
8:名無しさん@ピンキー
09/09/11 08:10:21 8LzWW1oA
そして前スレが終わり、新スレは続く!
9:15 ◆E9zKH0kZMc
09/09/11 12:42:07 rjZD0+Ki
>>1乙です。フィーの先鋒4000字ほど入ります。全年齢は全年齢…
前スレで迷ったプロットをまとめました。どなた様もトリあぼんでご協力ください
※一部大変不謹慎な場面を含みます。あらかじめご了承ください
10:15 ◆E9zKH0kZMc
09/09/11 12:43:12 rjZD0+Ki
いつも掴みそこねては、するりとすり抜けていく手。いつもいつも寸でのところでとりのがす。なぜ肝心の時に
限って捉まえられないのか。からかう様にかろやかに、けれど何の悪気もなく、実に簡単に逃げていってしまう。
守ってやろうと思ったものが次々に痛みを受けて、その度にどうにかしようと躍起になって空回りしては、結局
大怪我をする羽目になる。いつもいつも。かの者しか絶つ事ができないというくびき。忌々しい鳥の指す者が、
俺じゃないことはわかってた。てっきり俺と同じ孤児と思ってたフィーには親戚がわんさかいることもわかった。
けれどとても素直には喜べない。とある誰かのためだけにある家系。酷くばかげた話であまりにもあまりにも、
…ちくしょう。俺に学があれば何かこう、ぴったりのいい言葉がおもいうかぶのに…。
見上げるばかりの巨大な空間。煌びやかな石棺を残し、姿をくらました死者の王は一体どこだろう?他の者は
なんども打ちのめされながら、覇者にしては狭すぎる終の棲家の中でちんまりと時を過ごしていたというのに。
空の棺を背にして舞台のようにせり上がった広間に近付いてみる。異様に足音が反響して不安が募る。ここは
全ての元凶、呪いの中枢、タイタスの心臓部。ランタンの灯りでは小さすぎる。俺の器も小さすぎる。連れは
子供と雑貨屋の娘。俺はただのチンピラ。帝王様は一体どんな気分だろう?おそろいの猫耳帽子の連中と共に
小麦粉をまき散らしては逃げ回り、倒しても倒しても倒しても倒しても、のっそり起き上がってくる、やけに
脇が色っぽいおっさんを振り切って、一斉になだれ込んできたのがこの場所だ。死人もよろしくやっている。
言ってみればホンモノの死者の街というやつなのだろう。遺跡なんてどうみても唯の崩れかけた家に思えるし、
発掘品なんてがらくたにしか見えないし、俺は馬鹿だから物の価値なんて小銭にでもしないと理解できない。
それでなお、この巨大な墓室にある用途の分らないものの数々は、一生食うに困らない価値があることは理解
できた。誰かの為でなく、死人へのはなむけとして投じるには高すぎる金額。タイタスという人間が分らない。
「パリスー…」
怯えたネルの声色にはっとして気がついた。知らぬ間に膝までひたっていた不気味な影は、鎌首をもたげる。
声が何かいってる。よくは分らん。地の底から響くような下っ腹のしびれる低音は、なにかの呪文のように
ささやき続ける。ここは一つ挑発しつつ弱点を探そう。ええとなんだ、ほら、なんか言え俺。怖いんだよ。
「うるせーぞこの死に損ないが!!!ちったあ子孫の役に立て!!」
無視された。というか曲がりなりにもフィーのご先祖様だ。きちんと挨拶すべきだった?じわじわと陣形を
狭めながら前衛に入って構えを取る。やがて濃密な黒い霧はついにその姿を現した。
「実る葡萄は摘み取られるが運命。収穫を拒む麦は存在せぬ」
小さな声が言葉をさえぎった。
「…てくれますか…」
11:15 ◆E9zKH0kZMc
09/09/11 12:43:45 rjZD0+Ki
奇妙な沈黙。白い靴が足をそろえて一段上がる。
「…そしたら、みんなのこと守ってくれますか」
死者の街の盟主は意味がわからないという顔をする。少女は大きく息をついて顔を見上げる。
「私がついていったら、ホルムの、みんなのことを、守ってくれますか」
緊張から今にも泣き出しそうに天礼衣の裾を握り締めて、必死に声を張り上げる。
「おいしいぶどうは農家の人がお世話をするから実ります。小麦は農家の人が大事にしてくれたお礼です」
もう一段、さらにもう一段。タイタスはふしぎそうに小首をかしげる。
「だから、だから、かわりに、みんなのこと、…あの…」
顔は分らない。だがタイタスのにやりと笑った気配を感じて叫んだ。
「フィー!行くな!!」
今度こそ逃がさない!駆け昇って体をとらえた瞬間、真後ろからどすの利いた怒鳴り声。
「ふせてー!!!!」
びりっという音に反射的に覆いかぶさって階段から転がり落ちる。なにやら強烈な破砕音、というか、え?なに?
がらがらと何かが降り注ぎ、階段の下のほうで黒曜石のパネルにがっしと左足をつき、棺おけを担ぎあげて今しも
投げつけんと、力いっぱい振りかぶった者がいる。人はひとことそれを勇姿と称す。
「おんまあえなんかに…ふわったさなあああああいいいいい!!!!!fvgbんmjkl!!!!」
何語だ。黒いものが頭を掠って壇上に突き刺さると砕け散る。顔を上げれば瓦礫の山ができている。タイタスは?
フィーは?ネルは?身を起こすとフィーは体の下で縮こまっている。段の下では腰を落とした体勢のまま、ネルが
ぜいぜいと肩で息をしている。怖い。タイタスは屈んで手を差し出していたのが悪かった、もろに石棺を食らって、
今はただ白い足の裏を、本来は永久なる安息の褥であったはずの瓦礫の中から晒しているばかりだ。
→タイタス1世、ワインドアップの投球モーションから自分の石棺を投げつけられて死亡…
その時、はるか頭の上から聞こえた声は次第に遠ざかっていく。思わず爪先立ち。
「余が与えた運命から逃れたか・・・。だがー」
「ばーかばーかばーか!!!!ばあああああかああ!!!べぇええだ!!あっかんぶえええええだああ!!!」
わんわん反響する金切り声。ネルはずんずんと歩み寄ると目を丸くして固まっているフィーの腕をひったくる。
「もういい!帰るよ!んべえぇーっっだ!パリス!!」
「うわっ、ああ…あ?お前、あれ?え?何、え、どうなってんのこれ」
「しらない!」
二の句も継げずあとを追う。見てはいけないものを見た…。あれは幾らなんでも故人に対してあんまりなんじゃ、
うっかりそんな想いが顔に出たのか振り向きざま怒鳴られた。
「こんなのご先祖なんていわないよっただの意地悪じゃない!フィーのことこんないじめて!!!絶対許さない!」
怖い。フィーは手をひかれながらしくしく泣いてる。
「絶対フィーは渡さないよ!絶っ対!わかった?!もう絶対あんなこと言わせないもん!約束だよっフィー」
ネルは酷く興奮してぼろぼろと涙を零し始め、ひしと抱き合って泣き崩れた。俺は冷や汗出てきたところね。
「みん…なが、いなく、なっちゃう…なら、それよりぅはっそれならっ…て、思って、だか…ら、それで」
ひっくひっくと泣きながら訴える。ふがいない。しゃがんで顔を覗くと腹積もりが決まった。
「俺はどこにでもいるごろつきだし、こいつはただの金物屋だし、いやそうでもないか、まあ見た目はただの町人だ。
ろくな魔法も使えねえし、こそ泥じみた真似しかできねえけどさ。お前を犠牲にして美味しくおまんま食ったりは
出来ねえよ。そりゃ確かに頼りないだろうけどよ…皆で考えればどうにかする方法くらい見つけられるさ」
顔をマントで押さえたままこくこく頷く。このまま勢いで押し切ろう。思い出してみろよ、と水を向ける。
「泉にはまって外に出られなくなったときだって、ちゃんと帰ってこれたろ?そしたらキレハと友達になれたよな。
古代都市は半年も閉じ込められたけど、ふしゅるーぐごごごー(注)と友達になれたじゃんよ。街が包囲されたとき
覚えてるだろ?キレハのこと助けてやれたじゃないか。皆一人ひとりゃしょっぱいけど、鼻突き合わして話せばさ、
いい考えってのが某かあるもんなんだよ。な?」
勿論俺には全く策がない。断言しちゃったィエーイ! 注)今日はご飯がとてもおいしいな、と言っておられる
「うん…わかった。ネルもパリスもごめんなさい。それから、どうも有難う」
「俺らのこと心配してくれたんだろ?わかってるって。な」
「そうだよっフィー。一緒に戻ってさあ、みんなと相談してみよ?」
「うん!…そぉだ!」
12:15 ◆E9zKH0kZMc
09/09/11 12:44:17 rjZD0+Ki
何が?と聞く前に駆け出したのでネルを助け起してついていく。長い階段を小走りになって不思議な泉に向かう。
ネルがあまりに遅いから荷物を片方持って後を走る。けどなんか、重くねーかこれ…。ひーひー言って追いつくと
フィーはつま先だって泉の淵に乗り出して、懐から取り出した羊毛フェルトの巾着袋をさかさまに振っている。
「ー…いらないよ、こんなのいらないもん!」
青いの緑の、ちいさいの。赤に黄とそれに月長石がこぼれ落ち……水面から伸びた白い腕が現れて…おばけ?
思わず後ずさると、不思議な明るさに包まれ、それが体を通り越して空間全体を照らし出すのを感じた。濃い霧に
閉ざされた湖に、爽快な青空が広がるような暖かな光に見とれているとフィーが手を伸ばして何かを受け取り、
大事そうに掲げて示す。
「かえせばよかったんだぁ!」
「なにが?もしかして、今のはかまぼこ板の人か?」
「うん!河の女神様が助けてくれたんだよ!」
神様ってかまぼこ食うのか。フィーの顔を見る。こすりすぎて涙の後が赤い笑顔だ。膝をついていたネルが叫ぶ。
「それじゃとんでもないとこにゴカイ垂らしちゃったじゃーん。怒ってないかなー」
「…あやまるの忘れちゃったねぇ」
俺なんか、何回河に向かってションベンしたんだよ。くらくらしてきたが、ふと思い出す疑問。
「なあそういやさ、さっき、なんか破ける音しなかったか?」
「えっ、聞こえてた?!」
ネルの顔が真っ赤になって口ごもり、マントの裾を引き被って逃げ出す。なんじゃそらあ?いぶかしんでいると
フィーが寄って行って耳打ちしあい、こちらによそを向くように言ってきた。なんだ?うんこもらしたんか?
「…うまく縫えそぉ?」
「うん。まっててね」
背伸びを装ってちらちら見ると、フィーはひざまずいてネルのマントのなかに入り込み、背中の辺りでもそもそ
している。こんな場所で二人羽織にいそしむ二人組…眩暈が…だめだこいつら、将来が心配すぎる。
「でーきたっ。もう平気だよ!」
「よかったー吃驚しちゃったよー歩けないんだもおん」
「なんだよ、大丈夫なのか?どっか怪我でもしたのかよ」
「してないしてない」
「どこも怪我してないよっ、ほんとだよ。ね!」
「ほんとほんと、してないしてない、ね!ほら、かえろかえろ!おいてくよ!」
「へいへい。ったく重てえ鞄だな。何いれてあんだ?こんなのどうすりゃ二つも持ち歩けるんだよ」
「なにって、こっちは鉱石でしょ、あとミスリルでぇ、ほら!宝石!お守りの材料になるでしょ?それからあ…
じゃーん!金糸綴竜鱗甲冑でーす!へっへーんいいでしょ。アルソン君にでもあげようと思って持ってきたんだ!」
「すごいねー!ネルほんもののお店屋さんみたい」
はぁ…。もう帰ろ。
13:15 ◆E9zKH0kZMc
09/09/11 12:45:16 rjZD0+Ki
勝った!第1部完!!
お粗末さまでした。
14:名無しさん@ピンキー
09/09/11 12:51:49 7ONj+v7F
GJ!ごっつおぉーさんですた
15:名無しさん@ピンキー
09/09/11 23:32:17 s2oqlx07
>>1乙
>>13
さっそく乙!
フィーかわいいな
あと前スレラストもGJでした
出だしと
>「君から学ぶものは何もないなぁ」
>「何しにきたんだよド畜生ーッ!!」
これ吹いた
16:名無しさん@ピンキー
09/09/12 02:04:17 aBu5bZSm
ネル最強説浮上w
GJです!
ネルもフィーもかわいいしパリスは相変わらず苦労人だしw
しかし、こんなかわいそうな倒され方した一世さんは初めてだw
あと、投げた石棺が最初二世のだと思ってたよw
後はアーガデニウムか、しかしこの幼馴染たちチュナとパリスが一番神経使いそうだねw
17:名無しさん@ピンキー
09/09/12 02:55:54 E/XY+zwh
GJ!
パリス結構良い奴だし、苦労してるのに
一向に報われないところが壺だw
18:名無しさん@ピンキー
09/09/12 03:49:37 O9c5CZJo
>>13
GJ!なんかもう、フィーが可愛すぎる。
素敵な新スレ1本目をありがとうございました!
ヴァンと変人達で一本出来たよー……と思いきや、
中心人物が早速被っています。すまんッ……すまんッ……!
全年齢向け。エロ分は各自で補完お願いします。
19:1/7
09/09/12 03:50:52 O9c5CZJo
地下の大廃墟と、この得体の知れない町を行ったり来たりでもう何日になるだろう。
ただでさえ頭が痛い状況なのにも関わらず、
どうもこの町に来て以来、常にトラブルに付き纏われている。
初めてここに来た時には思わず衛兵をぶん殴ってしまっていつの間にやら賞金首に。
腹を空かせて入った酒場では世紀末なチンピラに因縁をつけられ、
そしてこの状況だ。
「ヴァン、ネル!立ち止まるなよ!!」
後ろからはこの町の平和を守る衛兵様が全速力で俺達を追ってきている。
どうせならあのチンピラ共を追い駆けて欲しかった。
土地勘が無いおかげで、撒くのも一苦労だ。
ああ、早くホルムに帰りたい。
「ぜぇ、はぁ……どうにか撒いたみたいだな」
裏路地へと勘を頼りに深く深く入り込んで、ようやく一息つけた。
やってて良かった裏家業、とでも言うべきか。
「はぁ~……あれ?」
パリスが何かに気付いた。
「ネルは……?」
……周囲を見回すが、どこにもいない。
嫌な予感がする。嫌な予感しかしない。
20:2/7
09/09/12 03:52:11 O9c5CZJo
――……
二人とも、足が速いのは良いけど、付いて行く身にもなってよ!
ああ、でもそんな場合でも無いか、今は。
まだ兵隊さん達が追っかけてきてる。
大体、ヴァンがいきなり兵隊さんを叩くからこうなったんだよね。
ホルムに戻れたら、それなりの謝罪をしてもらおう。
……戻れるのかなぁ、私達。
そうだなぁ、やっぱり逃げ切ったらすぐ謝罪してもらおう。
土下座……土下寝……焼き土下座!
うん、それで行こう!
「いたぞ、あの女だ!」
なんか裏路地の方から声が聞こえた。
そう思った次の瞬間には、私の身体には鎖が巻き付いていた。
「え、え?」
思い切り引っ張られた先には、モヒカン頭のチンピラがいた。
「探したぜぇ?グラガドリス様がご指名だ」
グラガ……?ああ、さっきの酒場のおっきい人だ!
思い出した時には、鎖がグルングルンに巻き付けられていた。
「何すんのよ!!」
「ちょっとだけ、寝てろよ!!」
何これ、頭が痛い。……殴られた?
あ、なんか目の前が真っ暗に……
ヴァン、助けて――
21:3/7
09/09/12 03:52:50 O9c5CZJo
目が覚めると、そこは薄暗い部屋の中だった。
広い部屋だけど、すごく臭い。
でも、冷たい床の感触がちょっと気持ちいい……
……待って、なんで私裸なの!?
ていうか、手も足も縛られてるし、口も猿ぐつわされてる!
「ふしゅるるるるるるる……」
え、何!?
「グラガドリス様は、『ようこそ、我が居城へ』とおっしゃっている!!」
さっきのおっきい人が、身体に見合ったおっきい椅子に座ってた。
通訳の人は、その横にピシッと立ってる。
「ふしゅるる、ふしゅしゅるる……」
「グラガドリス様は、『俺の女になれ』とおっしゃっている!!」
いやいやいやいやいや、ちょっと待ってよ。
いきなりそんな、エッチな本のヒロインみたいな状況にされても……
「ふしゅ、ふしゅしゅるる……」
「グラガドリス様は、『これはお願いでも命令でも無い、決定事項だ』とおっしゃている!!」
そんなの決定されても!
「……ふしゅ、ふしゅるるる」
「グラガドリス様は、『話は後だ。存分にまぐわおうぞ』とおっしゃている!!」
まぐわ……冗談でしょ!?
おっきい人が着ていた服を引き千切った。勿体無い。
脱いでもやっぱりおっきかった。……下の方も。
ぶら下がってたそれは、どんどん大きくなって立ち上がる。
あんなの無理!絶対死んじゃう!!
「ぬぅ!!」
「めぽぉ!?」
通訳の人が殴り飛ばされた。
一歩一歩、おっきな人が近付いて来る。
嫌、もう嫌……
22:4/7
09/09/12 03:53:35 O9c5CZJo
――……
「なんだぁ手め……あべし!」
「こいつ等、あの女の連れの……!」
「やべぇ、強いぞこいつ等!!」
チンピラ達を蹴散らして、ネルを探す。
逃げ延びた先の路地で起きたのは、紛れも無く奇跡だった。
「おう、引き上げだ。あの女捕まえたそうだぜ」
「酒場の女か。これでグラガドリス様もご満悦ってワケだ」
「今頃あの女、ヒィヒィ言わされてるんじゃねぇか?」
「かも知れねぇなぁ」
「そんでもって、グラガドリス様が飽きたら今度は俺達に……」
「かも知れねぇなぁ!フヒャハハハハ!!」
そんな会話を目の前でしていたのだ。
当然、やる事はひとつだ。
いくらネルが人並み外れた怪力の持ち主だとしても、
あの巨漢相手じゃ流石に分が悪い。
手遅れになる前に、助け出さなければ。
「クソ、無駄に広い隠れ家に住みやがって!」
パリスが雑魚を散らしながらそうぼやく。
屋根裏の我が家が今となっては懐かしい。
……その時、僅かな揺れを感じた。
小刻みに、一定のリズムで起こる僅かな揺れ。
もし、あの巨漢がネルに対しそういう行為をしたとすれば……
「上の階だ。行くぞ、ヴァン!」
階段を駆け上がる。間に合ってくれ!!
23:5/7
09/09/12 03:54:57 O9c5CZJo
「このッ!このッ!このッ!このッ!このッ!」
振動の正体はこれだった。
ネルが全裸で、全裸の巨漢に跨り……もとい、馬乗りになってぶん殴っていたのだ。
しかし、一体何でこんな事に……
「おい……何なんだよ、あの女……」
足元に転がっていたチンピラが口を開いた。
「縄も猿くつわも引き千切ったと思ったら、グラガドリス様をぶん投げて……」
「じゃあ、ネルは無事なんだな?」
パリスが問い質すと、チンピラは頭を縦に振った。
「このッ!このッ!このッ!このッ!このッ!このッ!このッ!」
ネルが一発殴る度に、巨漢の四肢がビクンと跳ね上がる。
……このままでは、殺しかねない!
「おい、ネル!もうよsぶべら!!」
駆け寄ったパリスがネルの無心の肘鉄を喰らった。
お願いだ、ネル!お前まで真人間をやめないでくれ!!
決死の思いで、ネルの荒ぶる拳を掴み取った。
「……ヴァン?助けに来てくれたんだ!!」
そう言って、ネルが俺に抱きついた。
首に回った両腕から、血の臭いがする。
というか、なんか色々当たってる。
頼むから、まず服を……
「……ん?キャア!ヴァンのエッチ!!」
殴られた。謂れも無い暴力だ。もうやだこの幼馴染。
24:6/7
09/09/12 03:55:44 O9c5CZJo
「痛いよー……」
ネルの両手はすっかり腫れ上がっていた。
刺さっていた巨漢の歯を抜き取り、応急処置を施す。
雑菌が入ってなければ良いが……
「おい、起きたぜ」
パリスの声に振り返ると、顔面がボールの様に腫れ上がった巨漢が目を覚ましていた。
念の為、身体は簀巻きにしてある。
「ぶ、ぶじゅる……」
「グラガドリス様は……駄目だ、何を言ってんのかわかんねぇ……」
さて、どうしようか。
魅力的な賞金は懸っているが、立場上こいつを引き渡す事は不可能だ。
「あ、あの、すいません」
不意に、通訳が口を開いた。
「このアジト、丸ごと差し上げます。水や酒や食料も蓄えてるんで、どうかそれで……」
それで、命を助けて欲しいとの事だった。
悪くない。俺達はその条件で手を打った。
……と、その前に。
「ぶじゅッ!」
「ぐ、グラガドリス様ァー!?」
巨漢の顔を一発だけ蹴っておいた。いい気持ちだ。
25:7/7
09/09/12 03:56:20 O9c5CZJo
結局、その後も波乱は続いた。
うっかり闘技場のチャンピオンになってしまったり、
奴隷商人とのいざこざで更に悪名を轟かせてしまったり、
魔将を名乗る騎士を討ち倒したり。
ただ、ようやく俺達は見知った洞窟へと帰って来れた。
きっとみんな心配してるだろう。
外へと踏み出す寸前で、ネルに手を掴まれた。
「あのさ、なんだか遅くなっちゃって今更だけど……助けてくれて、ありがとう」
……助ける必要が果たしてあったのかはともかく、
無事に帰って来れた身の上で、この笑顔を見る事が出来た。
それだけでも、良しとしよう。
その後、俺達を待ち受けていた幾つもの波乱を、その時はまだ知る由も無かった。
26:名無しさん@ピンキー
09/09/12 03:58:03 O9c5CZJo
お粗末様でした。いい加減このメンツに頼るのも潮時ですかね?
27:名無しさん@ピンキー
09/09/12 08:17:46 u2f0Vb59
小刻みな揺れワロタ
まあそういう展開だとは思ったがw
そしてやっぱり酷い目にあうパリスwww
28:名無しさん@ピンキー
09/09/12 12:19:58 yNOIdGVY
GJ!やっぱネルは可愛いなぁ
29:名無しさん@ピンキー
09/09/13 00:18:15 6w9C0CN8
ひでえ落ちだwww
可愛い顔してシグルイの藤木ばりに無刀でも凶器そのものとか。
30:名無しさん@ピンキー
09/09/13 03:51:50 s4SiQykr
ネル「野良犬相手に表道具は使わないよ」
温かいレス、ありがとうございます。
脱・ヴァンと爛れた仲間達を目指して1レス微エロ。
――……
ホルム領主の屋敷、その一室のベッドの上には2人の若き騎士が居た。
「あの、ウェンドリンさん。本当に……やるんですか?」
「私をここまでしておいて、今更怖気付いたのか?」
アルソンからの告白は、ウェンドリンにも予測出来ていた。
ただ、想定外だったのは告白を受理した次の瞬間、ベッドに押し倒された事。
更に想定外……期待はずれだったのは、押し倒しておいて怖気付かれるという状況。
「ほんの今さっき、私を愛していると言ったのはどの口だ?」
「いや、僕は……ま、舞い上がっただけなんです!もっと、しっかり順序を踏んで……」
「良い子の手順なんて必要ない。……言い訳ばかりのその口が悪いんだな」
ウェンドリンの唇が、二の句を告げようとするアルソンの唇を塞ぐ。
見る見る紅潮するアルソンの顔を見つめながら、攻め立てる。
攻める。攻め立てる。攻め……ない。
ウェンドリンには致命的な弱点が存在した。
キスのその先を一切知らないのだ。父であるカムールの溺愛が招いた弊害である。
こうなってはアルソンのエスコートを頼る以外の術は無い。
「あ、あの、うううぇうウェンドリンさん……」
「どうした?」
「僕、こういうのどうすれば良いかわからなくて……」
時計の針が進む音だけの響く室内で、2人はただ顔を赤くするだけだった。
「……もう夜も遅い。寝ようか」
「は、はい……それじゃ、失礼します……申し訳ありませんでした……」
「ああ、待った。とりあえず、一緒に寝よう」
「は、はい……」
こうして二人の初夜は、グダグダの末に幕を閉じた。
遺跡を探索する中で、ウェンドリンは昨夜決めた事を実行に移す。
「キレハ、シーフォン」
「何?」
「どうした?」
「セックスって、何をどうするんだ?」
二人は目を点にして、呆然とするだけだった。
エロでも何でも無いですね。お粗末様でした。
31:名無しさん@ピンキー
09/09/13 04:27:41 ZXNybDXU
URLリンク(loda.jp)
eraRuina私家版。変更点は下記の通り。
モチベーションを保つために一回上げて置く。
・ランダムダンジョンを追加。詳しい仕様は資料を参照。
# ただし内部イベントは未実装。各種判定までは作成済み。
# これを作ってたので時間がかかった。
・月長石のユーヌムを主人が主人公かアークフィアの時以外は購入できないようにした。
# 主人公以外を使えるEXTRAやゼス編はちょっと難易度上がるかも。
32:名無しさん@ピンキー
09/09/13 06:47:19 d1hMXENa
>>30
GJ
そうか、育ての母親も死んでるんだもんな
誰にも教えてもらえなかったのか
屋敷の使用人からは…
メイド忍者wこっちも疎そうだwww
33:名無しさん@ピンキー
09/09/13 14:24:18 gny6O3FT
>>30
このウェンドリンは凛々しかわいくていいなw
>「良い子の手順なんて必要ない。……言い訳ばかりのその口が悪いんだな」
これで知識なしとかかわいすぎるだろうw
34:名無しさん@ピンキー
09/09/13 22:25:30 8cUWQ/gy
>>31
乙!!
手書きマップ作りながらやるとなんか懐かしい気分だ。
でも選択肢が「外へ」だけだったり階段がなかったりするよ。
35:名無しさん@ピンキー
09/09/14 03:31:04 IkMCXtKc
>>30
結局仲良く添い寝するだけの騎士2人にほのぼの。
そして質問相手の人選に笑った。
どっちも妙な所で律義な所がありそうだから
羞恥に耐えながらちゃんと保健体育の授業してくれそうだ。
>>31
お疲れ様です!ランダムダンジョンちょっと潜っただけだけど
異様に楽しくてこれはいい機能…。
そういやあeraRuinaに関してなんだけど、
そろそろera板あたりにに専スレ作っても大丈夫そうに感じるんだが
スレ住人の皆さんとしてはどんな感じだろうか。
36:名無しさん@ピンキー
09/09/14 04:49:20 51iBhjsm
>30
ありそうで困る。
結局教えて貰えたものか、どうか。
テレージャに聞くのが一番無難なようで一番危なそうな。
ネルも耳年増な気がする。
昔の貴族の男子は性教育で娼館とかに連れていかれたりするんだっけか。
>35
eraTRPGですらスレがあまり伸びてない状況だからなあ。
異論が出なければ本スレとここに間借りでいい気もする。
チェックされなくてレスポンスが落ちるのは、やっぱ嫌だろうし。
37:名無しさん@ピンキー
09/09/14 05:09:59 n8fmrfZA
なぁeraってあのDOS画面みたいな文字だけのやつだよな?
サキュバスクエストの奴やったことあるけど、いまいち面白さが解らなかったんだが俺に面白さを教えてくれないか。
38:名無しさん@ピンキー
09/09/14 05:12:46 51iBhjsm
考えるな、感じろ。
と言いたいが、絵がないしちょっとニッチかな。
口上が充実してるeratohoのRR系(今はYMか)をやってみるか、口上ファイルを読むといいかもしれん。
東方知らないし興味もないってんなら仕方ないが、俺はあれの四季映姫・ヤマザナドゥ口上から
eraと東方に入った口でな……まあ良かったら読んでみてくれ。
39:名無しさん@ピンキー
09/09/14 05:43:18 51iBhjsm
>37
URLリンク(loda.jp)
URLリンク(loda.jp)
URLリンク(loda.jp)
連投でスマンが、eraRuina用の口上。キレハとフラン、フィーがある。
SQやったことあるなら知ってるかもしれんが、このファイルを31で出てる本体に突っ込んで当該キャラを調教すると台詞が出る。
なんというか、文字とデータから妄想と煩悩を爆発させられる人向けのゲームというか。
Ruinaやゲームブック、TRPGやってる人にはけっこう適正があると思う。
40:名無しさん@ピンキー
09/09/14 08:27:30 YN4uVmG2
数字が上下するだけで興奮出来る人じゃないと
合わないんじゃねーかな。
プリメとかにハマった口なら楽しめると思うけど。
41:名無しさん@ピンキー
09/09/14 09:21:13 azOfQosb
>>35
era全然興味ないしやる気もないROMだけど、こっちでいいんでね?
同スレ内で住み分けできてる状態だし
ただ投下してる人がコテつけてくれれば非常にありがたい
42:名無しさん@ピンキー
09/09/14 16:35:43 P09mo/PW
era好きとしては、こっちだとレスつけるのにも興味のない人に遠慮する部分があるな。
ここ本来はSSスレだし。
興味ない派の人がいいならいいんだけど。
>>37
こういう二次創作系eraの場合、原作のキャラにエロいことをいろいろできるってだけで興奮する。
健全な原作じゃ絶対無理だよなってことをできる。
43:名無しさん@ピンキー
09/09/14 16:45:29 VtycNjJM
原作だってテレ子さんとメロさんは色々アレだしなw
44:名無しさん@ピンキー
09/09/14 18:08:11 g8R6uLS3
今気付いたけど、テオルってまさにサド伯爵じゃないか・・・
権力もあるから色んな事出来るし、すごいエロの可能性を秘めてる
なんか一本作ってみよう
45:名無しさん@ピンキー
09/09/14 18:34:30 P3X7XDw/
本スレで浮気うんぬんの話があったけど、アルソンとフィーは浮気されても
アルソン「僕がまだまだ至らないってことですね!ウェンドリンさんはそれを身を持って示してくれたんですね!」」
フィー「お兄ちゃんほどカッコよくて(中略)素敵な人を独り占めしちゃダメだよね。でも、私のことも忘れちゃやだよ?」
これで済んでしまってあまり堪えないイメージがある。
この二人が怒るとしたらどういう理由だろうなあ。
>>44
前スレでも言われてたが実に陵辱向けなんだよな。
金も権力もあるし顔も悪くない。
46:ヴァンネルの人 ◆8OBLTYIHXxgX
09/09/14 18:51:32 ZkH58YrE
浮気と聞いて飛んできました。
0時~1時あたりに投下出来れば良いですね。
テオルのエロカッコ良さと盗賊ルートでの小悪党ぶりはガチ
47:名無しさん@ピンキー
09/09/14 18:56:59 51iBhjsm
>46
マッテルー
キレハED後に浮気か……
なんかそういうドロドロしたのに全く耐性がなさそうだから混沌化したりせんといいが。
取り合えずそんなことする主人公は、問い詰めようとして口を開いた瞬間頭が真っ白になって顔くしゃくしゃにして
声も出ずにぼろぼろ涙を零して頽れるキレハさんを見せつけられて、罪悪感で死んでしまえばいいと思う。
48:名無しさん@ピンキー
09/09/14 19:07:42 qpO+pBrA
己様といえばホルムでアルソンを筆おろしに連れ出し
アイリさんと3Pに突入してどすんばたんするネタを思いついたはいいが
書ききれる気がしなかったのでお蔵入りになったことをここに記す
49:名無しさん@ピンキー
09/09/14 19:37:43 hH97E8+8
この板はSSだけじゃなくてエロパロ全般を取り扱う板じゃなかったかな?
>>48
ネタがあるならまずは書いてみようよ
50:名無しさん@ピンキー
09/09/14 19:52:42 ZMkkc4um
二次スレの場合eraの話題で荒れたスレがいくつかあるから
心配する人が現れるのもわからなくはない。
ただここの場合、SS投下も活発だから大丈夫じゃないかって気もするけどね。
書き手さんがeraからSSのネタを拾ってくれるかもしれないし。
51:15 ◆E9zKH0kZMc
09/09/14 20:06:15 GwuoBfZG
まったく流れを読まずに9400文字(前編)行きます
大変申し訳ありませんがトリあぼんでご協力ください
※次回以降は古代都市のゼスさんと同じ状況です
52:15 ◆E9zKH0kZMc
09/09/14 20:06:47 GwuoBfZG
地上に出たとき目にしたのは、古代都市の時と同じように迷い込んだかと思える光景だった。きらきらとした
何かがしきりに降り注ぎ、風に乗ってうつろな歌声がどこからともなく切れ切れに聞こえてくる。森の木々が
まばらになるにつれて、雲間に浮かぶ空中都市が姿を現した。嵐を予感させる流れの速い雲は桃色に染まって、
全体としては輝かしい景観でありながら、なにか酷く不吉な予兆のように思われた。
市街には結晶片が降り積もり、それが風に舞ってはきらめき、取り込まれた人々はまるで琥珀の中の虫のようだ。
泣き叫ぶ人々、逃げ惑う人々、誰もがそれぞれの仕方で酷く取り乱していた。見慣れた街に起こったここ一年の
異変の中でもとりわけ切羽詰ったものと言える。真っ先に街の酒場に駆け込むと、開口一番オハラさんは仲間が
いないことを告げた。見れば女将だけはいつも通りだが、それ以外はいつもの親父が管を巻いているだけ。彼は
いつ来てもいるし、大抵店仕舞いまで飲んでる猛者だが、…もしや彼こそ平常心を保てる漢というべき?
「みんな何かが見えるって言うのよ」
「そうか。なあ、それよりオハラさんは大丈夫か?」
「見ての通りよ。あんたたちこそ疲れた顔してるじゃないか」
「ああ、それより今から行かなきゃなんねえところがあるんだ。一休みしたらちっと行ってくら」
「無理しなさんなよ。大丈夫なの、あんたたち」
「はぁい。大丈夫です」
「あたし着替えなくっちゃー、部屋借りてもいい?」
「いいよお、ネル、お家に戻らなくてもいいの」
「…ちょっといってこよっかな、まっててくれる?」
「おう、ゆっくりいってこいよ。俺はなんか食いたい、腹減った。フィー?お前は」
「あったかいもの食べたいな」
「あいよ、すぐだしてあげる。あんたも早く行ってきな」
やがて、戻った仲間と飛び出していった。若さっていいなあと酔いどれ親父は思う。
旧市街の町並みを進む。問題はいかにして幻想の都に乗り込むかだ。
「一体どうすりゃいいんだ?奴は墓場でなんか言ってたけど、お前らほとんど聞いてなかったろ」
「つい頭にきちゃってさー」
「てへっ☆じゃねえよ」
「確かねぇ…うぅんと、都でまってるからねぇ、おいでねぇって言ってた」
「しかしなー……。まあいいや、とりあえずちょっと俺んち寄ってくぞ」
「チュナちゃんの様子見ていかなきゃね」
「ああ」
もしかしたら戻れないかもしれない。これが最後の戦いになる、そんな気がしていた。ネルなら鍵に関係なく
むしり開けられそうなぼろアパート。崩れそうな天井をくぐって屋根裏に上がると、不思議な歌声が鳴り響く。
「チュナの結晶の中から聞こえてくる」
「それじゃ…もしかしてここから、古代都市のときみたいに空にある幻の中に通じてるのかな」
「…なら、これに触れたら…」
「待て。本当にいいのかよ、お前ら。…やめるなら今のうちだぜ」
「あたし絶対ついてくよ!だって、こんなの普通に生きてたら絶対経験できないもん!」
「みんな…ほんとに一緒にきてもらえるの…」
そのときだった。背後でくぐもった声が響く。
「私もいるぞ!フィー君!」
53:15 ◆E9zKH0kZMc
09/09/14 20:07:19 GwuoBfZG
「はあ?」
ばりんと床に木片が散らばった。
「ういうい」
ぼろ箪笥を蹴破って神官と竜人が飛び出す。やめてっうちにはそれしか家具がないの!
「…私もだ」
がばっとベットを起す大男。
「こんにちは!風通しがよくてステキなお宅ですね!」
「嫌味か!ベットひっくりかえすな!戻せ!!すわんな!くつろいでんじゃねええ!」
菓子なんざねえよ!茶っぱなんかあるか!けんか腰になった瞬間、頭の上から声がした。
「わしを忘れてもらっちゃあ困るな、とぉーう!」
天井から木目模様の布がひらりと降りてきた。そのまま床が抜ける。
「うひょー、あーぶないのおー。お前んち引越したほうがよかないか」
「余計なお世話だ!だいたい穴なんかあかねーよ!!早く上がって来い爺!」
ネルとアルソンが手助けしようとしてさらに穴が広がる。やめてええ!俺んち壊れるううううう!!!
「あの、お邪魔してます…」
メイドのささやき声にギクリとしたとき、ふと窓の外に影がよぎる。
「んぎゃっ」
「シーフォン!大丈夫!?」
この声…恐る恐る窓を開けると、腕をつかまれた少年と遊牧民が勢いよく飛び込んでくる。外れる窓の蝶番。
「よ、ようくそパリス、相変わらずしけた部屋だな。人口密度が高すぎなんじゃねーの」
「揃いも揃ってなんだお前ら!家ぶっ壊してんじゃねえ!ってかどこから、てかそれドアノブてか、おおもう…」
「何を落ち込んでいるんだね!さあ立ちたまえ!我々は行かねばならない!敵の本拠に乗り込むんだ!」
「ちっきしょおおもうどうにでもなれ!いくぞお前ら!!」
「「「おおー!」」」
「それでは僕の作戦を聞いてもらえますか!」
「はいアルソン隊長。おねがいします」
「はいフィーさん。いいお返事です!想像するに、おそらくこの先はあの幻想都市でしょう。市街戦もやむなしか
と思います。ですがいいですか、タイタスの狙いは彼女です。そこで、二手に分かれて、僕とメロダークさん、
ラバンさん、ネルさんは前衛で壁役に加わってください。シーフォン君とキレハさんはエンダさんといっしょに
フィーさんの護衛です。貴方たちは遠距離攻撃ができます。後方から距離を保ちつつ攻撃を仕掛けましょう。
エンダさん、あなたは何があってもフィーさんから離れず、全力で彼女を守るんです。できますね」
いっせいに頷く顔を見比べて、今度はテレージャのほうを向く。
「フランさんはテレージャさんの護衛をお願いします。テレージャさんには回復の要として動いてもらいます」
「俺は」
「パリス君。あなたは優れた洞察力があり、機転が利きますね。そこで全体を観察しつつ、遊軍として動いて
もらいたい。君の判断が皆の生死を分ける。だからこそ君にしか頼めないと思っている。やってもらえますか」
「おうよ!まかせとけ」
「有難う。それからこれはお願いです。どうか皆さん、力を貸してください。そして一緒に帰ってきましょう!」
「この僕が力を貸してやるんだ、お前らありがたく思えよな」
「あの、宜しいでしょうか、…そのう、これをみんなで使って欲しいんです」
フランが腰掛けていた木箱は、…いわゆる”生物化学兵器”というべきものたちが詰め込まれていた。匂う。
「…これだけありゃあ城の一つは落とせるなあ。わしゃあなんだか不安になってきたぞい」
「すみませんすみません!食べ物は粗末にしちゃいけないって、あたしもちゃんとわかってるのに!」
「粗末だなんて!立派に役に立ってるじゃないか。なまじかな魔法よりずっと殺傷力が高い!そうだろアルソン君」
「は、はい!素晴らしいですよね!エンダさん」
「うん、うまい」
「エンダちゃん…あたしの料理、おいしいって…」
「よかったでござるよ、ニンニン」
パリスの枕を押しつぶしてぼんやり座っていた庸兵は、不意にわれに返ったのか毛布でくるんだ鍋を開いた。
「大したものではないが、少々作りためておいたのだ…この際だから使ってしまおう」
「ぎゃっ根本的に生死に関わるにおいがする!!逃げろ!」
「そんなもん寝かせてんじゃねえええ!!本格的に俺んち住めなくなったじゃねえか!駄目だ皆息吸い込むな!」
逃れようとチュナの水晶に触れた者たちは、瞬時にしてはるか上空の幻想都市へと飛ばされた。
54:15 ◆E9zKH0kZMc
09/09/14 20:09:06 GwuoBfZG
驚くべき光景だ。眼下に流れる雲は、流れる速度がずいぶん速い。パリスが叫ぶ。
「チュナ!?」
『ー無駄なことよ』
見上げれば、不敵な笑みを浮かべる美丈夫の姿が目に留まる。
「誰だっけ」
「チュナー!!チューナー!」
「やだなあ僕の従兄弟ですよ、皆さんも会ったことあるじゃないですかー。でも、なんだか様子がおかしいです」
「チュナー!おおーい!チュナー!」
「おや、そういえばあの男の子は古代都市にいた子ですね!おーい」
「我思う故に我あり」
「チューナちゃーん!チューナちゃあーん!おーいおーい!」
「うおおおお!チュナー!!!兄ちゃんが今助けにいくからな!」
「ちょっと!危ないわよ!遠すぎるわ!」
「とぶとぶーエンダもとぶぞ」
「ま゛~~」
「やめなよぉ!ほんとに落ちちゃうってば」
「ぎゃはは!そのまま落ちて死ね!」
「うるせえ!俺はチュナのところにいく!」
「見なさいよ、コートですら風が強すぎて思い通り飛べないのよ」
「ぬぬぬ…それならロープだ!」
「我思う故に我あり」
「やめておきたまえ、頭を冷やすんだパリス君」
「普通に考えて届くわきゃねーだろ、お前頭おかしいんじゃないの」
「なんだと!やって見なけりゃわかんねえじゃねえか!うぉおおおロープ神よわれに力を!」
「何の神様だって?」
「聞いちゃ駄目だようって、ランプの妖精さんがいってた」
「なんじゃそら」
ラバンは首をかしげている。
「ランプの妖精さんはねえ、あんかけが好きなんだってえ」
「そんな情報いらねー!おいくそパリス、まだやんのかよ」
投げても投げても流されては空を切るばかり。思わず足場を踏み外した数人で口論が始まった。
『余の話まるで聞いてないよね…』
「わしは聞いとるぞ」
「私もだ」
「我思う故に我あり」
「僕だって聞いてます!ね!皆さん」
「今忙しいの!ほら引っ張って!おーえす、おーえす」
「美味しく食べてね」
「あ、飛んでった!あいつ空飛べるぞ」
「いいなー、すごいねー」
「ちっきしょおお!こうなりゃぶちのめすのが先だ!」
「初めからそうしてりゃいいんだよ」
「我思う故に我あり」
「なんか増えてない?」
「折角だから、全部使い切ってしまおうかと思いまして」
とげとげの指輪だの人工妖精だの、なんとも言いがたい助っ人たちが次々にやってくる。
「隊列を維持!襲撃に備えよ!」
「アルソン君かぁっこいいー」
「ほら、前衛なんだからわしらが先に行くんだぞ」
それぞれが盾をかざして警戒しながら、ひっくり返しの塔に向かって移動を始める。どう考えるべき?めまいが
するようだ。さかさまの窓から侵入し、シャンデリアに蹴躓いては蝶番に衣を引っ掛け、進路を探りつつ進む。
「三階通路制圧!テレージャさん、負傷者の治療をお願いします」
「まあ転んだだけだろうね」
55:15 ◆E9zKH0kZMc
09/09/14 20:10:33 GwuoBfZG
曲がり角、というか階段の裏側というか、天地の定まらない内装をこけつまろびつのり越えて、とうとう空へ
開かれた場所に出た。屋上?というか最下層?相次ぎすっころんだ仲間を助け起して表にわっとあふれ出すと、
待ちくたびれてすっかりふてくされた騎士の姿。背中を見せてたたずんでいる。
「前衛前へ!突撃準備!!」
素早く半円を描いて並び刃を向ける。パリスが叫んだ。
「見ろ!奴の鎧は脇の下がよええ!狙うならそこだ!」
「いと気高き高みにましますキューグ大神、我ら幼きものを罪深きものどもから守りたまえ」
「突撃ィー!!!」
『なんと懸命に戦うことか…。さすがは我が裔よ!』
「美味しく食べてね」
「あ逃げた!」
「後方部隊射撃用意!」
いっせいに弓を番え、手裏剣を取り出した。あるいはまた大きく振りかぶり…そして。
「ってーい!!!」
ばらばら降り注ぐ焦げた石ころ。ざぶり被った厨房の神秘が発するきつい匂いにタイタス様はご機嫌斜めだ。
「撃ち方ぁやめ!みなさん素晴らしい連携ですよ!」
続く架橋に向かうが、すれ違うにもためらう幅しかない。今度こそ嫌な予感がする。
「みな急げ!分断されたらうしろが丸腰にされるぞ」
「ちくしょう仕掛けてきやがった!走れ!」
「皆を守れ!盾ぇ前へ!」
どーんと大きな音がして、雷撃に吹っ飛ばされ、足場はみるみる継ぎ目が広がりゆっくり瓦解していく。
「キレハさぁん!」
「エンダ!ロープでひきあげて!」
「うんしょ、うんしょ。ういうい」
「僕がおとりになります!おーいおーい!やあーっほー!こーんにっちはー!いいお天気でーすねー!!」
山彦が返ってくる。よたよたしながら必死に飛びはね金切り声を上げる者。
「おらああ!!!こーんのひょっとこタイタスが!僕様にかかってこいやー!!」
「ま゛~?」
きゃんきゃん騒ぐ隙を突いて一気に駆け登り、死角から飛び出すフランが放った斬首、危うくかわしたタイタスの
体勢が大きく崩れた瞬間、完全に開いた脇の下を狙ってパリスの風羽根の刃が飛び込んできた。かわしきれない!
吹き上がる血煙が陽光に映えて、バランスを失ったタイタスはふらりと鐘楼の上から転げ落ちていく。
「まちくされおいいい!…ちっ、この僕に恐れをなしたな。ざまあみやがれあああ!」
「手ごたえあったのに…どうして…ばけもんか何かかよチクショウ」
「総員状況を報告せよ!」
ふらふらな者、打撲を負ったもの、不定形にもやもやしているもの、各自が仲間を見回す。
「みんな軽傷で済んでいるようだね、君たちの活躍のお陰だよ」
「あたし、いっくらでも傷薬作っちゃうからねー。どんどん言ってよ!」
「ま゛ー」
「シー君、これさわってもいい?」
「は?」
「フィー、あっちに原っぱがあるぞ、あそびに行こう」
「待ってくださいよう」
うねうねと不審物が後ろを並んでついてくる。へんな一団。こんなのにやられたらあんまりだとタイタスは思う。
「エンダ腹へったー。なにか食いたい」
「林檎をとってほしいのか。…いいだろう」
「ちょっと、料理してる場合?」
「こんな場所だ、何があるか判らない。火を通したほうが安全だ」
「あんたの料理じゃそうはおもわねえ」
「……(しょんぼり)」
「見事な庭園ですね。ほらエンダさん、どうぞ」
「ういうい!」
56:15 ◆E9zKH0kZMc
09/09/14 20:11:47 GwuoBfZG
「あれぇ?ゼスさんかなぁ」
「誰?ああ、変態か。なにしてんだ?」
あちらにふらふらしてはおかしなポーズ、こちらにふらふらしてはトーガで逆立ち、そしてしきりに独り言、変態だ。
「ほっとけ、あんなもん関わるな」
「ちょぉっと、無視しないでよー。声かけてよー、待ぁってるのにー」
子犬のような目をして必死に駆けてくる。可愛くはない。
「聞こえてんのかよ」
「こんにちは、ゼスさん」
「こんにちはお嬢ちゃん。いい子だね。何を隠そう吾輩は、いつのまにかここに立っていたのだ!ジャジャーン!」
フィーは口をぽかんと開けた。だが声色のわりにゼスの顔色はさえない。
「どうやってここ来たのかが、皆目判らない…ああ…不安だ」
「そうなんですか」
「そもそも、どうやらここは吾輩が書いた物語の世界のようだが、ならばこの吾輩とは一体誰なのか、左様これは
現実を基にして構築された世界、つまり吾輩の無意識下の夢が投影されたフィクションにおけるメタフィクション
として現実の中に再構成された謂わばメタメタフィクションの中に第三者が介入した結果都合よく書き換えられた」
「いそいでるの。悪いけど」
キレハがぴしゃりと言ったので口を手で押さえて見せた。よく手入れされた芝生を進むと、木の袂の娘に出会う。
諦念からくる余裕なのか、ゆったり寝そべって気だるげに会話している。側で聞いていたメロダークは独りごちた。
「ご先祖様か。ナスの馬でも作るべきか…」
「いらねーよ!なんの料理だよナスの馬って」
「キュウリも忘れちゃいかんぞ。今はすっかり冬だけどな。がっはっは!」
アルソンはユリアの忠告に歓声を上げる。
「それでは諦めないことが大切なんですね!」
「ま゛~」
「左様。お前達ならやれるじゃろう。さあ、祝福を」
「どうも有り難う」
「気をつけておゆき」
「はあい!」
ユリアはいつくしむように微笑んで見送った。
不安定な上に重力の方向がねじれた鐘楼の中は、螺旋階段を登れば登るほど、めまいは酷くなる。
「僕はこういう…おえっ」
「うわきたねっ」
「うるさい!この僕はお前と違って繊細なの」
「シー君だいじょうぶ?すこし休む?」
「だからシー君て…うっぷ」
「犬という字を手に書いて飲み込むといいぞ。わしはそれで船酔いしなくなったなあ」
「そんな字僕はしらないね」
「それなら酔い止めの薬草をあげよう。さあ、試してみたまえ。駄目ならそこから顔を出して吐くことだ」
「皆さん静かに…!この扉の向こうが屋上です」
57:15 ◆E9zKH0kZMc
09/09/14 20:12:21 GwuoBfZG
素早く目を見交わすと、メロダークがノブに手をかけ、呼吸を整えたパリスが飛び出した。逆巻く雲の中。
『何をしている?早く来なければ殺してしまうぞ』
「待ち伏せだ!」
「遠距離から待ち伏せ!前衛防御体制!撃ち方用意!」
「あたし煙幕張ります!」
「ま゛っ」
フィーの盾になろうとしたエンダの身代わりに稲妻を受けて消し炭になる。
「8号!」
「放てィ!!!」
ネルの右腕からガラス瓶が放たれ油が砕け散る。アルソンは深い踏み込みから一気に振りかぶっての直球勝負。
唸りを上げて風を切り裂くのは焦げた石ころ。
「美味しく食べてね」
ぐいんと大きくホップしてタイタスの髭を剃らんとする内角高めのブラッシュボール。汚い。体勢を崩した所で
ネルのアンダースローによる機械爆弾が足場を大きく陥没させて激しく延焼、タイタスを駆り立てる。
「いやあ、完全にすっぽ抜けてしまいましたね!はっはっは」
なんという笑顔。手すりに駆け上がったシーフォンは黒い瘴気を撃ち放つ。
「死にやがれクソが!!!」
誰かの投げたマッドシチューを鍋ごと被って動揺したため、上にそれたタイタスの弾幕が鐘楼の先端を突き崩す。
「鐘が!落ちてくるわ!」
がらーんごいーんどろーんと派手な音を上げて転がり落ち、とびはね、そのままどこかへ消え去った。視線を
戻せば、気分を害したタイタスは都市の反対側まで逃げていく。遠投90mでもこれでは流石に届かないだろう。
58:15 ◆E9zKH0kZMc
09/09/14 20:12:53 GwuoBfZG
「さっきの…誰かぶち当たったりしねえだろうな」
「下は多分河だよ」
「おーい!おーい!」
「あの、何をしてるんですか…」
「エンダのこと見たぞ、やっほー!」
「手ぇ振ってる場合かよ」
「やあーっほーおー」
「あ、山彦だ!やーあっほー!」
「うるせえから食ってろ」
「ういうい」
厳しい表情のアルソンとメロダークは思案に暮れる。
「参りましたね。こちらから見る限り、あの飛び石しか横断するルートがないようです」
「奇襲にはうってつけだ」
「どうするよ、大将」
「僕たちの連携が試されるときです!体勢を整えたら一気に渡りますよ」
「「「おー!」」」
「うまい」
「ま゛~」
奇怪な仲間達を含め、浮遊岩にとりかかる。気流に乗って微妙に上下動しつつ、ゆっくりと流れているようだ。
あるものは負ぶられて、あるものは手綱を渡して、思い思いに飛び移る。落ちたらどうなるだろう。隊列は必然
伸び始め、守りは次第に薄くなっていき、やがて奇襲の恐れは的中した。遠くでタイタスの号令が響くと先頭に
いたパリスの絶叫が飛び込んでくる。
「へんなのが来るぞ!宮殿のほうからわらわら湧き出してやがる!」
「総員進軍に専念!防戦せよ!目標はタイタスただ一人だ!雑兵を深追いするな!」
羽を広げた指輪の魔神が相手をさえぎり時間を稼ぐ。
「これは機械なのかな?それとも動物なのかな?」
「動物ならエンダのご飯になるぞ。そうじゃないなら電がきくな」
そういうと思い切り深呼吸して雷撃を吐き出した。回路を焼ききられて誤作動する守護者達。
「なーるほど、てことは僕の専門分野だな!ー…天雷陣!!!」
「…私を巻き込むなっ」
対岸に到着した者達からの援護射撃に守られて、なんとか辿り着く。改めて振り返ると、渡ろうという判断が
とても正気とは思えない高み。幾らなんでも高すぎだ。思わずへなへなとへたり込む。
「なんだか迷路みたいですね。この都市は一体どうなってるんでしょう」
「怪我はないか」
「ま゛ー」
「なんともないよ、メロダークさん」
とげとげした指輪の魔神に抱きついてゆらゆらと遊んでいる。
「しかし、動かないでいると冷えるね」
「真冬ですもの。…こんな空の上だしね。予備の懐巻き持ってきたわ。よければ使う?」
キレハは愛馬をなでる手を止めて鞄からふさふさの毛皮を取り出した。
「有難う、助かるよ。こう風が強いとどうもいけないね」
足場の吹きさらしから、おかしな建造物の陰に移動して待つうちに、斥候たちが帰還する。
「おう、待たせたな」
「どうでした」
「北西側はどうしても市中に降りなきゃいけねえようだ。やつはその先で待ち伏せてる。まあ、隠れたとしても
火薬とシチューの匂いがぷんぷんしてるからすぐ分るだろうな。すっかりしょぼくれてたぜ」
「分りました、有難う。フランさんはどうでした」
「はい、この先を下ると、奥に神殿がありました。綺麗な水が残ってたので、手当てに使えるかもしれません」
「よろしい、一旦神殿に向かいます。勝手に待たせていらつかせてやりましょう!」
冷静に考えると最悪だ。苔むした煉瓦の歩道を下って神殿に向かう。大きな円盤のような形の石杯から水を掬い
手を洗い、傷を清める。まるで雪解け水のようだ。少しずつ持ち込んだ食料を分け合って傷んだ装備を補修し、
傷薬を数えなおして点呼、全員戦闘可能、再出発だ。こっそり覗いたラバンは、手持ち無沙汰でぶらついている
いかにも閑そうなタイタスの遠いシルエットににやにやしながら立小便を終える。
59:15 ◆E9zKH0kZMc
09/09/14 20:13:26 GwuoBfZG
問題はここからだった。何しろ足場も不同沈下を繰り返しているし、無茶な建築構造で何処を頼りに進むのかが
分らない。意図したものなだか路地は入り組み、おいおい屋上に出たかと思えばどこかの裏口で行き止まりだ。
パリスのつけた目印もまったく役に立たなくなっていた。なにしろ、つけた目印が目の前で移動するのだから。
「地面に窓開けるってのはどういう了見だ」
「そんなこと言ったら、あれを見たまえ。壁の上のほうに扉だけついているよ」
「これって実際に建てられるかなー?やっぱ空想の世界だから?」
「建てる意味がないだろう…」
「そっかー、第一これじゃ住めないもんねー」
「エンダちゃん!?どうやってはいったのー?」
向かいの建物からしりを出している。にゅっと顔を出してそのままトンボを切りつつ降りてきた。
「地めんの穴にはまったら、あそこからでてきた」
「あー…そういやどうしようかなー、大家の連中怒るだろうなー」
悲痛なため息を漏らす。
『どうした……早く来い』
そこに踊りかかったのはネルだ。タイタスの体を浮かせた瞬間、狙い定めたアルソンの一撃が加わった。
『所詮は代用物……。この程度の肉体では、あ奴に勝てぬか……!』
幻想の都は橙色の夕日に照らされて、冬の空は紫に染め上がり、地平線には夜の帳が下りはじめていた。
60:15 ◆E9zKH0kZMc
09/09/14 20:16:24 GwuoBfZG
最悪のタイミングで酷いバッドエンドを考えていたことをご報告いたします。正式な後編は次回以降投下しますが
ついでに載せてしまえ!!1重ねてお詫び申し上げます。お粗末さまでした
巨大な機械仕掛けの宮殿に登ると、沈みかけの弱い日差しに身を投げ出して、長々と影を引く男の姿があった。
だが彼の胃袋には、もう中身が残されていないようだ。腐汁がその周囲に広がっている。
「……こん、な……はずが…ない……朝食は……まと…もな、コック…だった…はず……!」
周囲には暗黒料理だけではない異臭が立ち込めている。
「……皇帝よ……何を食った…!」
「…テオル」
「どうしちまったんだ、このおっさん」
「食中毒だね、急性の。あれだけ食らえばこうなるさ」
「ぐっ!」
溢れ出た胃液が喉をふさぎ、昼飯がごぼごぼと音を立てる。それもやがて静かになり、テオルは気絶した。
→テオル、度重なる暗黒料理多重攻撃に耐えかねた消化器が決壊して社会的に死亡
61:名無しさん@ピンキー
09/09/14 22:48:14 sRiesD4M
初めてテオルさんが哀れになったwww
続き待ってる
62:名無しさん@ピンキー
09/09/14 23:03:46 1+hl9ppK
しみじみと料理は便利だなぁと感得すること頻り
63: ◆8OBLTYIHXxgX
09/09/14 23:27:09 hK4R06oB
>>60
GJ!もう何処の何から突っ込めば良いのやらwwwwwww
予定時間より早いですが、産まれました。ひっどい駄文ですよ。
脱ヴァン一行第2弾。以下の点をご了承の上お読みください。
・エロ分皆無
・グロ表現注意
・三角関係有り
・皆様の嫁の崩壊有り
・SAN値直葬の恐れ有り
それでは、どうぞ。
64:1/7 ◆8OBLTYIHXxgX
09/09/14 23:29:00 hK4R06oB
私とアベリオンは、行為の後の気だるい余韻の中にいた。
父とも呼べる者を亡くした彼を哀れんだ訳じゃない。
私が彼を愛していて、彼も同じ気持ちだった。
ただ、それだけ。
「……今回の騒ぎが片付いたら」
私に腕枕をしてくれている彼が口を開く。
「この町を出ようと思うんだ。もうここに居る理由も無いからさ」
「行く宛はあるの?」
「何も無い。だから……一緒に行かないか?キレハ」
そういう事だと思った。
「……勝手にすれば」
嬉しかった。なのに、この口は素直にそれを伝えない。
「ありがとう。それじゃ、勝手に付いて行くよ」
私の気持ちを知ってか知らずか、彼はそう言った。私の好きな、可愛い笑顔で。
そして私をそっと抱き寄せる。
彼の身体からは、違う女の匂いがする。それは私の知っている匂い。
でも私はそれを咎める気は無い。
最後に選ぶのは、私だ。そう信じたいから。
彼は狡い男だ。
私は、醜い女だ。
65:2/7 ◆8OBLTYIHXxgX
09/09/14 23:29:42 hK4R06oB
今日もアベリオンは、無事に帰って来てくれました。
パリス様とキレハ様と一緒に。
最近は、こうして彼の帰りを待ってばかりです。
本当は、いつも彼の隣にいたい。けど、良いんです。
彼の決めた事なら、私はそれに従いたいと思います。
「フラン」
彼が私に花を差し出しました。
見た事の無い、綺麗な白い花。
「良かったら、貰ってくれないか」
「……ありがとう」
私はきっと、幸せ者です。
「見せつけてくれるじゃないか」
「うらやましいよねぇ。ね、パリス?」
「ん?ああ、そうだな……」
テレージャ様やネル様の冷やかしも、悪い気がしません。
彼が側にいてくれればそれで良いんです。
私を連れていってくれない事は寂しいです。
最近、私を抱いてくれない事も辛いです。
それでも、彼がいてくれれば、私はそれで幸せです。
この目を信じる事が出来ません。
なんで、アベリオンがキレハ様と接吻しているのですか?
なんで、私といる時よりも幸せそうに笑うんですか?
神様。
彼は嘘吐きなんですか?
私は、愚か者なんですか?
66:3/7 ◆8OBLTYIHXxgX
09/09/14 23:30:39 hK4R06oB
「最低だよ、お前」
頬を一発殴った後、パリスはそう言って背を向けた。
わかってる。俺は最悪だ。
フランと付き合っている身でありながら、キレハと愛し合っている。
どちらかを選ばなければならない。
わかってる。
俺は、キレハを選ぶ。
ただ、フランに別れを告げるのが怖い。
彼女はとても純粋で、痛い程俺を想ってくれている。
その気持ちを踏み躙る事が、怖いんだ。
それがどれ程残酷な事かはわかってる。
でも、俺は……
すべてに片が付いたら、フランに告げよう。
共に戦う仲間を失いたくないから。
我ながら、ひどい言い訳だ。
彼女を傷付けたくない。
俺自身を、傷付けたくない。
施錠したはずの、部屋のドアが開いていた。
……フランだろうか?
67:4/7 ◆8OBLTYIHXxgX
09/09/14 23:31:36 hK4R06oB
「おかえりなさい、アベリオン」
やはりそこには、フランがいた。
ただ、この部屋が普段と決定的に違うのは。
部屋中に漂う、むせかえる程の血の臭い。
壁を、床を、天井を、血の赤が汚している。
フランの手には、刃を血潮で濡らした短剣が握られている。
その足下には仰向けに倒れ、見開いた目を何処かへと向けるキレハがいる。
身体は血塗れで、その首には深い切り傷が付いている。
「あ、ああ……」
身体に力が入らない。腰が砕け、膝が落ちる。
床に着いた膝を、キレハの血が濡らす。
「アベリオンは、唆されたのですよね?」
見上げると、フランがいた。
優しい笑みを浮かべて、俺を見つめ手を差し出す。
「安心してください。もう悪い狼さんはいませんから」
68:5/7 ◆8OBLTYIHXxgX
09/09/14 23:32:24 hK4R06oB
「返せよ……キレハを返せよ!返せ!!」
差し伸ばされたその手を払う。
そして、彼女を突き飛ばし、馬乗りになる。
その細い首に、手を掛ける。
「なんでキレハを殺したんだよ!悪いのは俺なのに、キレハは何も悪くないのに!!」
涙が止まらない。身体が燃え尽きそうな程に熱い。
怒り、悲しみ、憎しみがごちゃ混ぜになって心を蝕む。
「……どうして、泣いてるんですか?」
苦しそうに。しかし、はっきりとフランが言う。
「ふざけるな……お前がキレハを殺したからだろ!!」
フランの首を絞める指に力が入る。
「ああ……まだ、狼さんの呪いが解けてないんですね」
突然、フランが訳のわからない事を呟く。
その直後、首に熱が走る。
俺の首をすり抜けたのは、フランの左手に握られた短剣だった。
――これが、報いか。
69:6/7 ◆8OBLTYIHXxgX
09/09/14 23:33:22 hK4R06oB
これで、ずっとずっと一緒に居られますね。
70:7/7 ◆8OBLTYIHXxgX
09/09/14 23:33:52 hK4R06oB
「それじゃあ、達者でな」
ラバン爺を乗せた船が港を発つ。
俺とネル、エンダ、そしてチュナの4人だけがこの町に残った。
あの日から、もう4ヶ月になる。
駆けつけた時にはもう遅かった。
アベリオンの部屋に残っていたのは、キレハと首の無いあいつの死体だった。
そして、その日からフランは居なくなった。
俺達はフランを探し回った。レンデュームの里から、遺跡の奥まで。
けれど何処にも居なかった。
二人の遺体は、デネロスの爺さんと同じ墓で眠っている。
キレハの里にも、訃報はもう届いているだろう。
それと、あいつが死んでから妙な事が起きた。
この町で起きた異変が、その影を消した。
夜種達は姿を消して、流行病や不作も何処かに消えた。
水晶の中に閉じ込められたチュナも、今はこうして元気でいる。
遺跡の最深部に続く扉は、遂に開かなかった。
価値のありそうな物が粗方持ち去られた頃には、遺跡の探索はその意味を無くしていた。
こうして、ホルムは今までと同じ、何も無い町になった。
今では観光目的に上流階級の奴等が遺跡に立ち寄る位だ。
平和になって、俺達の英雄ごっこも終わった。
今まで通り、オハラに斡旋された仕事をこなしている。
ビンガーとはもう縁を切った。
危険に憧れていた日々が馬鹿らしくなったからだ。
多少揉めたが、皆の協力もあり解決出来た。
もしあの日、俺がもっと違う言葉を掛けていたのなら。
もっと早く気付いていれば、未来は変わっていただろうか。
今となってはわからない。何もかも、昔の事になってしまった。
俺達の冒険の日々は、こうして終わりを告げた。
71: ◆8OBLTYIHXxgX
09/09/14 23:35:14 hK4R06oB
『Rrrrrr Rrrrrr』
はーい、タイタスですけどー。どったのー、ク・ルームちゃーん?
……は?死んじゃった!?いやいやいや、なんで?
……うん……うん……はぁ!?うーわー、無いわー。
あー……とりあえず、呪いもういいやって伝えといて。
……いや、だって十七世ちゃん死んでんなら意味ないし。
うん……うん。はい、じゃあ連絡おねがいしまーす。
さぁ浮気ネタだ→ちょいヤンデレ行ってみっか→せっかくだしNice boat.も……→この様。
これはもう、リアル死獄されても仕方ないかもわからんね。
お粗末様でした。
72:名無しさん@ピンキー
09/09/15 00:08:16 alhNdmNt
>>52
GJ!
これひどwww
BP多すぎだろww
>>71
niceboat!
二股バッドエンド怖え
フランは本当にヤンデレ似合うな
73:名無しさん@ピンキー
09/09/15 00:11:13 na8R7eRD
思いつめるタイプを追いこんじゃいけないって事だな
男で怖いのはやっぱエロダークさんか
74:名無しさん@ピンキー
09/09/15 01:25:17 kMSEd7vA
>>71
nice boat.
似合いすぎて困らない
良いヤンデレだった、が浮気者は死んでよし
俺もフランとキレハが一、二を争うぐらい好きだから気持ちは分かるが
75:名無しさん@ピンキー
09/09/15 01:48:42 KqH66ZYi
>60
なんだかんだでバトル自体はけっこうまともにやってるのが笑える。
システム的な限界さえなければラスボスは全員で挑みたいもんだなあ、やっぱ。
>71
nice boat.
フランは何故こうもヤンデレが似合う。
パリスの独白が地味に良い味。
76: ◆8OBLTYIHXxgX
09/09/15 01:53:06 U7RRbAya
出来るなら全女性PC+オハラさんとユリアを嫁にしたい。
寝る前に口直し(?)1レス。ウェンドリン主人公エロ無し。
「フラン。塩というのはそんなに大量にブチ込むものじゃないと思う」
「も、申し訳ございません!」
鍋に塩の山を盛るフランにウェンドリンが忠告する。
「あの、ウェンドリン様。すごく焦げ臭いんですけど……」
「何を馬鹿な事を……黒焦げだと!?」
ウェンドリンの鍋の中身は黒一色、見事に炭化していた。
「もうやだこの仕事」
キレハが頭を抱えてそう呟いた。
「戦場に立つ者ならば、兵糧程度は作れなければなるまい」
「そうですね、美味しい料理を作れないとお嫁にも行けません」
「そういう訳でキレハ、料理を教えてくれないか?」
「教えてくださいお願いします!」
声を揃えて頼み込む様子が可愛くて、つい安請け合いしたのがキレハの運の尽きだった。
現実というのは非常である。
いくら願っても人に翼は生えないし、太陽は東には沈まない。
この2人の料理の上達は、それほどまでに絶望的なものであった。
試しに、魚のスープを課題とした。
魚の下処理は既にキレハがしておいたので、後は味付けをして煮るだけの簡単な料理だ。
それにも関わらず、既に幾つもの鍋と何匹もの魚が星になった。
「どうせ私には無理だったんですね。いいんです、私にはポララポがあるんですから」
「小麦粉なんて吸えばいいんだ!兵糧なんて最初からいらなかったんだ!」
いよいよ2人の様子が怪しくなった所で、キレハは切り札を出した。
「そんなんじゃ、アルソンもがっかりするでしょうね」
死んだ魚の様だった2人の目に、光が灯る。それを確認し、二の句を放つ。
「恋人にするなら料理上手が良いでしょうしね。そうだ、私も立候補してみようかしら」
灯った光は炎となり、再び2人を突き動かす。
「覚悟しろフラン!ついでにキレハ!私の料理の底力、今こそ見せてやる!」
「お覚悟くださいウェンドリン様。ついでにキレハ様。私の本気はここからです!」
(ついでですか。まぁ、あんな朴念仁興味無いから良いけど)
2人の花嫁修業は今日も続くッ!!
お粗末様でした。
77:名無しさん@ピンキー
09/09/15 01:53:36 xM0mUtKC
>最後に選ぶのは、私だ。(*゚∀゚)=3
キレハスキーにはたまらん!GJGJGJ!
78:名無しさん@ピンキー
09/09/15 08:27:06 cSm2/vvo
1スレからやっと追いついたけど陵辱系って少ないんだな
風呂入ったり盗賊・ごろつきに襲われたりと使えそうなシチュエーションあったけど、
やっぱりこのほのぼの感が和やかなほうに引っ張ってしまうのか
陵辱スキーだったけどこのスレ見てるとこっちのほうが良くなってくるから困る
79:名無しさん@ピンキー
09/09/15 11:50:19 w8Hr7vVQ
作品よりは職人の傾向じゃないかねえ
非エロギャグもいるし自称純愛派もいるし
80:名無しさん@ピンキー
09/09/15 15:23:40 c/0Sz/eo
>>51
もう素晴らしくGJ!
バトルのテンポいいしぐいぐい引き込まれた。
家壊れたパリスと不幸すぎるテオルさんww
>>71
nice boat.
ヤンデレバッドエンド怖くて良かった。似合いすぎる。
フランにヤンデレももちろん、襲撃後拠り所を失って一番精神不安定なだけに
アベリオンが流されてしまう役どころがハマっている。
余談だがなぜか>>64を読んだ時点で素で他の女の匂い=フィーだと思ってしまった。
81:名無しさん@ピンキー
09/09/15 16:12:15 ZOvfugVb
>>71
nice boat.
アベリオン(もしくはヴァン、エメク)だと自業自得だけど、
キャシアスだとフランに手をつけてなくてもこうなりそうだな…。
今ちょうどキャシアスでキレハ攻略中なんだが怖くなってきたwwwww
82:名無しさん@ピンキー
09/09/15 19:41:42 Rcve3Kk8
>>80
実際のゲーム内に同時に登場することはないのに
妙にブラコンお兄ちゃんっ娘が似合うからな
83:名無しさん@ピンキー
09/09/15 20:02:37 alhNdmNt
>>78
自分も凌辱スキーなので凌辱作品をいつも正座で待ってます
前スレの鬼畜フィー×キレハとふたなりウェンドリンハーレムは素晴らしかった
84:1/3 ◆8OBLTYIHXxgX
09/09/16 01:01:20 YnZ6Msb0
その夜は、綺麗な星空だった。
「奇遇だな。君も眠れないのか?」
テラスの柵に凭れ掛かり星空を見ていた私に声を掛けたのは、テオル公子だった。
「ええ、星がとても綺麗で……」
本当は、嫌な夢に叩き起こされただけなのだが。
忌むべきものの様な、懐かしい様な、よくわからない夢だ。
「それではテオル様、私はこれで……」
正直、私はこの男が好かなかった。何が?と問われれば、それはそれで困るのだが。
「ウェンドリン」
呼び止める彼の声を無視する訳にもいかなかった。
私に一体何の用があるというのか。
「折角の良い夜空だ。少し散歩にでも出ないか?」
彼の数歩後を付いて行く形で、夜のホルムを歩く。
良く見知っているこの町だが、こんな時間に歩くのは何時振りだろう。
昼間の喧騒が嘘の様に、町は静寂に包まれていた。
「なあ、ウェンドリン。アルソンとは上手くいっているか?」
「ッ……仲間としても友人としても、とても良くしてくれています」
「そうか……質問を変えよう。あいつと寝て、どうだった?」
「~~~~~~ッ!?」
顔が赤くなる。何なんだこいつは!!
「二人とも素直で嘘の吐けない同士だからな。傍から見てればすぐにわかるさ」
もう良い、どうにでもなれ!あの夜の事をブチ撒けてやる!
85:2/3 ◆8OBLTYIHXxgX
09/09/16 01:02:01 YnZ6Msb0
「ッハハハハ、それは傑作だ」
私の話を聞いたテオルは、堪えきれずといった具合に吹き出した。
「アルソンの奴もそこまでとはな。レディに恥をかかせるようでは、騎士として失格だな」
「いえ、私にも責任があります。アルソンだけを悪く言わないで下さい」
「ハハ、君は良い女だな。アルソンには勿体無い位だ」
他愛も無い話もそこそこに、彼に連れられやってきたのは、真新しい家屋だった。
「己の部下の拠点に使わせてもらおうと建てさせたのだ。中々良いだろう?」
「あの……ここで、何を?」
「ウェンドリン。君に楽しい遊びを教えてやろう」
そう言って、彼は私の手を掴む。
「テオル様、何を……きゃっ!?」
無理矢理に押し倒された。私を見下ろすテオルの目は、まるで獣の様だった。
「……本当に良い女じゃないか。アルソンには勿体無い」
咄嗟に懐に隠した短剣を掴み、彼の顔を目掛けて振るう。
しかし―
「丸腰で出歩く程間抜けじゃないか。しかし、惜しかったな」
私の手首は彼の掌の内にあった。
彼が私の手首を掴む握力を高める。痛みと共に指先が痺れ、短剣は床へと転がり落ちた。
「……この、獣め!!」
「フフ、気の強い女は好みだ。シーウァの姫君もこんな風だったな」
彼の顔に浮かぶのは、冷酷な微笑だった。
彼の……奴の手が、私の身体に触れる。
奴の指が。奴の唇が。奴の言葉が。奴の目が。奴自身が。
奴のすべてが、私を汚す。
私に与えられたのは、破瓜の痛みと屈服の恥辱。
奴が得たのは、欲望の解放と制圧の悦び。
「朝一番で風呂に入れる様申し付けておこう。それまで、そこで休んでいれば良い」
そう告げて奴は、この真新しい空き家を去った。
今すぐにでも立ち上がり、床に転がる短剣をその背に投げ付けてやりたかった。
その顔が潰れるまで殴り付けてやりたかった。
しかし、私には立ち上がる事すら出来なかった。
夜が明けるまで、私は子供の様に泣きじゃくる事しか出来なかった。
86:3/3 ◆8OBLTYIHXxgX
09/09/16 01:02:45 YnZ6Msb0
「うおあぁぁあーーッ!!」
裂帛の気合いと共に、アルソンの全霊を込めた突きが放たれる。
真紅の閃光を纏った槍が、テオルの……タイタスの胸を捉えた。
閃光と噴き出た血とが薔薇の花の如く咲き、瞬く間に散った。
倒れ伏す奴へとアルソンが駆け寄る。
二人が何を話しているのかはわからない。
ただ、涙を堪えて語りかけるアルソンの声だけが響く。
不意に、奴が離れた私の顔を見て微笑む。あの時の、冷酷な微笑で。
そして、テオルという男はその生涯を終えた。
アルソンは堪えていた涙を抑えきれずに慟哭する。
奴は、アルソンにとっては討つべき敵であると同時に、言わば兄の様な存在だった。
私は奴の無様な末路に笑いを堪える。
良い気味だ。獣に相応しい最期だ。
笑いを堪えているはずなのに、この目から零れるものは何だ?
待ち望んでいた怨敵の最期だというのに、何故こんなに悲しんでいる?
涙を拭い、アルソンに檄を飛ばす。
まだタイタスは消えてなどいない。気持ちの整理も悲しむのも、後回しだ。
アーガデウムの空を見上げる。
それはまるで、あの夜の様な綺麗な星空だった。
87: ◆8OBLTYIHXxgX
09/09/16 01:04:21 YnZ6Msb0
「りょうじょく?」
「遥か未知の領域の……」
こんな感じでしょうか?なんか違いますね。
肝心の部分は技量不足で無理でした。書けません。
「お前何でこの板にいるんだよ」って話なんですけどね!
お粗末様でした。
88: ◆8OBLTYIHXxgX
09/09/16 01:09:42 YnZ6Msb0
かーきーわーすーれてたー。
事前に>>30読んでいただけると前半部分が何の事かわかると思います。
それでは、失礼しました。
89:名無しさん@ピンキー
09/09/16 11:31:57 G/xwv4I5
陵辱√GJ
テオル公子~あなたって最低の屑だわ~
90:名無しさん@ピンキー
09/09/16 11:37:38 bXwDtVVL
陵辱GJ
~悔しい、でも~
91:名無しさん@ピンキー
09/09/16 15:10:07 8zuXDfRR
~ビクンビクン~
和やか要員だと思ったウェンドリンが……
何はともあれGJ
92:名無しさん@ピンキー
09/09/16 18:00:12 VqVI7ANW
>>84
GJ!こう来たか!
陵辱スキー的に素晴らしいご褒美。
93: ◆8OBLTYIHXxgX
09/09/16 22:41:13 Aifd5eBW
浮気ネタの別の定番をねじ込むの忘れていたので。
・n角関係有り
・罪人男主人公顔グラ1番
・ヴァン×ネル、パリス×キレハ前提
それでは、どうぞ。
94:1/3 ◆8OBLTYIHXxgX
09/09/16 22:42:00 Aifd5eBW
「なあ、ヴァン君。これを見てくれ」
テレージャが小さな子供の手を引いてやってきた。
迷子か?と尋ねるが、違うらしい。
その子供は、白に近い金髪で、赤い瞳をした女の子だった。
誰かに似ている。……俺に似ている。
「おとーさん」
!?
「認知したまえ。私と……君の子だ」
嘘だ!俺はテレージャとそんな事してない!!
「駄目じゃないですか、ヴァン様」
振り返るとフランがいた。その瞳に光は無く、手には包丁を握っている。なにこれこわい。
「私を奴隷にして、口では言えない様なひどい事をいっぱいしたのに」
包丁の切っ先をこちらに向けて一歩ずつ近付いてくる。
「悪い子にはお死置しなきゃいけませんよね」
字がおかしい!待ってくれ、俺はそんな事してない!!
「おい、ヴァン」
別の声に振り返ると、そこには大きな卵を抱えているエンダがいた。
「うい」
その卵をこちらへと投げ渡す。
「痛かったんだぞ、産むの」
まさか……いや、やっぱりこの卵は……
「こんなようじょに欲情するなんて。このロリコンめ」
してないしてない!してないよ!!
「ヴァンは俺達にひどい事をしたよね」
地の底から響く様な声が聞こえ、次の瞬間地面から5本のオベリスクが生えてきた。
ドス黒いオベリスクの中には、野郎共が一人一人閉じ込められている。
「ヴァンよ、お前ひとりでハーレムか。ヤリたい放題か」
「見損ないましたよ、ヴァンさん」
「死ね。チンコから内臓飛び出して死ね」
「…………」
約3名が罵詈雑言を吐き、約1名は無言で血の涙を流している。
「ヴァン……キレハ抱いて気持ち良かったか?気持ち良かっただろうなぁ」
血涙を流すパリスが恨めし気に呟く。
「でもなぁ……俺の可愛い可愛い恋人なんだよ。返してくれよ」
待て待て、いやもう待たなくても良いから話を聞いてくれ。
俺はやましい事など何も……
「嘘ばっかり」
振り返ると、全裸のキレハが立っていた。
「みんなあんたがした事よ」
してない、俺は、何も……
「欲しいものを欲しいだけ奪って、その結果がこれよ」
欲しいもの?…… 違う、俺はこんなの望んでない!!
「本当に嘘しかつかない男なのね。呆れた」
キレハの髪が別の生物の様に蠢き彼女を包み込み、いつか見た狼の姿へと変化した。
「だったら、もう二度と遊べない様に噛み千切ってあげる」
無数の牙が俺の愚息へ襲いかかる―
95:2/3 ◆8OBLTYIHXxgX
09/09/16 22:42:32 Aifd5eBW
そこで、夢から解放された。
顔が寝汗でべとべとする。頭が酷く痛い。
……そうだ。この頭痛が思い出させてくれた。
昨日は皆揃ってハメを外し過ぎ、飲み過ぎた。
おかげで、メロダークを井戸に叩き落としてから先の記憶が無い。
メロダークには、本当にすまない事をしたと思う。
やっぱり飲み過ぎは良くないな。うん、良くない。
「んー……そこはらめぇ……」
誰かの寝言が聞こえる。俺と同じ、毛布の中からだ。
俺は一体、誰と何をしたんだ?
恐る恐る、毛布を捲る。
「むにゃ……」
キレハが眠っていた。何故だ!?
「うー……もう朝……!?なななななんでヴァンがいるのよ!?」
知らねえよ!!
そもそも、良く見ればここは俺の部屋じゃない。
「ここ、メロダークの部屋じゃない。どうして……」
メロダークには、本当に……すまない事をしたと思う。
「変な事してないでしょうね……」
お互い、衣服の乱れも無ければ何かをした痕跡も無い事を確認する。
ただ同じベッドで寝ただけ。OK、セーフだ。
誤解を招かない様に慎重に部屋を出ようと提案する。しかし―
「駄目。もう手遅れみたいよ」
そう言われて、背後の禍禍しい気配に気付く。
「ヴァーンー……お兄ちゃんなぁ、お前を一生許さないぞー……」
夢の中と同じ様に、血の涙を流すパリスと……
「どいてキレハそいつ殺せない」
憤怒を超越した表情で、殺気をダダ漏れにしたネルが立っていた。
ネルの手には破城槌が握られている。……本当に殺す気だ!!
キレハがネルの言葉の通りに、スッとベッドから降りる。
やめて、どかないでお願い!
「こぉの浮気者ーーーーーーーーッ!!」
96:3/3 ◆8OBLTYIHXxgX
09/09/16 22:43:02 Aifd5eBW
・被害状況
ヴァン……破城槌でのめった打ちにより戦闘不能。
ネル……軽度の心的外傷。直後にすっきり全快。
パリス……軽度の心的外傷。後に無事回復。
メロダーク……井戸の底から無事生還。損害無し。
シーフォン……寝ぼけたエンダに頭をかじられ重傷。
キレハ……二日酔いによりダウン。後に無事回復。
青果売りの商人……井戸から這い出たメロダークに驚き転倒。ぎっくり腰発症。
彼等の冒険は続くッ!!
97: ◆8OBLTYIHXxgX
09/09/16 22:44:52 Aifd5eBW
カオスしたかっただけでした。お粗末様です
98:名無しさん@ピンキー
09/09/16 22:54:05 VNKUT43k
ちょwwwどこから内蔵飛び出して死ね?wwww
99:名無しさん@ピンキー
09/09/16 23:05:49 qBUFXPRc
GJ!
ヴァン謝れwwwメロさんよりも青果売りのおっちゃんに謝れwww
100:名無しさん@ピンキー
09/09/16 23:46:32 WEZm6AQv
GJ!青果売りさん気の毒すぎるwww
本スレで紫電の小杖の使い所の話が出てたが
eraのせいでもうまともな目で見られなくて困る
アベリオンはなんてことに使ってるんだ
101:名無しさん@ピンキー
09/09/17 17:15:53 u8nSyxu8
GJ。青果売りのおっちゃん哀れw
>>100
紫電の小杖を使ってるのは、アベリオンじゃなくてしーぽんだぞ。
どっちにしても、おにちくなのは間違い無いが
102:十七世フィー 1
09/09/17 17:58:09 1v97ISmV
勢いで書いた前スレの十七世賢者弟子後日談
フィー十七世化進行(むしろあらぬ方向へ突進)・エロ薄・愛なし・バッドエンド・殺傷表現ありと困難の道です
苦手な方はNG指定願います
深夜、遠くに灯台や街の明かりがぼんやりと見えるうら寂しい荒地。
そこにぽつんと張られた簡易的なテントの中は妖しい吐息で満たされていた。
「はっ……あっ!」
床に這いつくばって差し出された小さく白い少女の足を無心で嘗め回しているのは、同年代と思える黒髪の少女・キレハ。
その目はとろんと虚ろで光を失いながらも、頬を赤らめ恍惚の表情で素足を唾液で塗していた。
一方、自分の足元でそんな倒錯的な情事が行われているにも関わらず平然と、意に介さず本を読み続けているのは青みがかった白銀の髪を持つ少女・フィー。
故郷のホルムを離れ、遥か西のユールフレールを目指す旅の途中だ。
「ねぇ」
「ふっ、うぅぅ」
思いついたように声を掛けながら足を動かして頬張っていた口の更に奥へ突っ込む。
いきなりの行動にえづきそうになりながらも、以前のきつい罰を思い出してキレハは歯を立てぬように口を大きく広げながら、舐めるのを止めない。
「昼間、薬売ってた時の話なんだけど」
旅費のため、たまにキレハが採取してきた素材とデネロス直伝の知識を元に薬を作っては街や村で売っていた。
特別豪遊したいわけでもなく、素材はいくらでも手に入るためどこか世事に疎い彼女は二束三文とも思える値段で、特に困っている貧しい人々を優先に渡していた。
異変が去ったとはいえ世情はまだまだ不安定で、それは神殿から近いこの近辺の街々も例外ではなく。
ボロを纏ったスラムの人々に彼女はまるで神のごとく崇められていた。
「『まるで神様みたいだ』ですって」
「あぅ!」
口内に含まれていた足を今度は抜きとり、ぼうっとした視線で追うキレハの頬を思い切り蹴り上げる。
咄嗟のことで受身も取れず転がった彼女の頭をぐりぐりと踏みつけながら、フィーはおっとりとした声で続けた。
「明日の朝一番の船で行くわ。今日はもう寝なさい。本番で役に立たなかったなんて目も当てられないでしょう?」
好きなだけ踏んで満足したのか、ふいっと踵を返して自分の寝るスペースへ向かう。
軽い毛布の中に潜り込むが、転がったままのキレハは荒い息で、何かを訴えるような目でフィーを見つめていた。
103:十七世フィー 2
09/09/17 17:59:12 1v97ISmV
「人の姿をしてても、所詮は自省もできない下等な獣ね」
「ね、ねぇフィー……ほんと、に?」
「うるさい」
蔑んだ視線を送る彼女に途切れ途切れの疑問を投げかけるも、冷徹な一声でピシャリと遮られる。
声が持つ迫力に肩をすくませて怯えるキレハに、畳み掛けるように冷たい声が続いた。
「嫌ならここから消えて。役立たずのゴミは要らないわ」
青い瞳が凍りつくかと思うほど温度を失い、吐き捨てるように言ってから背を向けたフィーに慌ててキレハが駆け寄る。
その目には涙が浮かび、鼻声になりながら何度も詫びの言葉を紡ぐ。
「ごめんなさい、ごめんなさい……! 私、なんでもするから……だから捨てないで……」
後ろから聞こえる啜り泣きを満足そうな表情で聞きながら、夜は更けていく。
大理石を積み上げて作られた神殿は遠目からも間近で見ても息を呑むほど荘厳だ。
夜遅くにも関わらず巫女やら神官やらがしきりに出入りし、正門の前に立つ僧兵はくたびれた様子も見せず仕事を果たしている。
そんな神殿を、フィーは物陰からひそかに睨みつけていた。
「はーっ、はー……!」
足元で荒い呼吸が続く。混沌の血脈を解放したキレハが四つん這いになり、暴れだしそうになる血と必死で戦っていた。
四肢は狼の如く強いしなやかさをもち、開けた口からは牙が覗き見える。そんな彼女の逆立つ髪の毛にフィーはそっと手を置いた。
「殺しなさい」
普段魔術を展開する時と同じく声に呪力を込めて、血と戦うキレハの耳を、神経を甘い声で侵していく。
「一人でも多く殺しなさい。
目を潰されたら手当たり次第なぎ倒し、首を切られたなら相手の喉に喰らいつきなさい」
―そうしたら、愛してあげる。
最後の一言でキレハの目から理性が消え、代わりに闘争心と殺意に満ち溢れた光が宿る。
牙をむき出しにして神殿を睨みつける半獣をそっと手でいなしつつ、フィーは新たな魔術を構成する。
頭に思い浮かべるのは割れる大地、そして突き上げられなす術もなく消え行く僧兵。
「……“竜脈の解放”」
片手に掲げていた“上霊”をトンと地面に突きつけ、丁寧に構成していた魔力を大地に注ぎ込む。
すると杖の先から地割れは生まれ、それはみるみるうちに神殿へ延びていく。
そして、石造りの大神殿が大きく揺れた。
104:十七世フィー 3
09/09/17 18:00:09 1v97ISmV
「上出来」
局所的な地震とでも言えばいいのだろうか、ある場所は大きく地面が割れ、またある場所では次々に大地が隆起してそこに居た人々を突き刺す。
一瞬にして地獄となった神殿から阿鼻叫喚の悲鳴や怒号が聞こえ、フィーは満足げに目を細める。
するとひゅっと鋭い風が頬を撫でる。ちらりと横を見れば四つん這いになっていたキレハの姿が見えない。
混乱を好機と捉えたのだろう、風のように飛び出して混乱に見舞われる神殿に飛び込んで狩りに出たようだ。
悲鳴に混じって獣の咆哮が聞こえたような気もしたがそこからくるりと背を向けて、静かな海へと目を向ける。
聖なる大河アークフィアと母なる海が交じり合う河口を見ながらポケットを探り、あるものを取り出す。
「……ふん」
それは真っ白な、今まで荷物に詰めっぱなしにしたままだったイーテリオのかけら。
清浄な光を纏うそれを忌々しげに睨み付けたのち、大きく振りかぶって海に投げ捨てる。
すぐにまた神殿へと向き直り、ぽちゃんと落ちる音を聞きながら改めて集中して魔力を構成する。
今度のイメージは、罪人が焼かれる火炎地獄。
「焼き尽くせ、“爆炎の投射”!」
それは初心者でも取得可能な初歩的な火炎魔術。
だが彼女の放ったものは尋常な威力ではなく、地揺れに乱れていた神殿をあっという間に劫火で包み込んでしまった。
真紅の炎がみるみるうちに大きく燃え盛り、悲鳴や咆哮ごと神殿を焼き尽くしていく。
骨肉はおろか石すら溶かしてしまいそうな炎。それはフィーにあの夜の惨事を思い起こさせる。
(先生、見える?)
他にいくらでも高威力な魔術はある。
しかしあえて爆炎の投射にこだわったのは彼女達の庵が焼き討ちにあったこと、師との思い出、そして天に届けば彼の目に入るのではないかと思ったからだった。
105:十七世フィー 最後
09/09/17 18:01:21 1v97ISmV
(私達の家を焼いた神様を燃やしたの)
神殿に刻まれた女神を象徴する聖杯がガラガラと音を立てて崩れ落ちる。
象徴は崩れ、僧兵や信徒も燃え、契約の印も捨てた。大河の奥に眠る女神に、あとどれほどの力が残っていようというのか。
(神殿があったのに貧しい人がいたのも、タイタスが生まれたのも、先生が死んじゃったのも。全部あの女神が間違ってたからなのよね)
目の前の炎は記憶の中のものと摩り替わる。様子見から戻ったフィーの前に広がっていたのは燃える庵、立ちはだかる僧兵、そして引きずりだされた師。
思い出すだけでも腸が煮えくり返り、彼女はまた魔力を構成する。“上霊”を高々と掲げ、叡智の限りを以って編み出された最高の魔術をひたすらに思い描く。
古い神を壊すために手を抜いてはならない。
『術の構成がちと甘いなぁ』
何度も練り直しながら脳裏に過ぎ去りし日の師の思い出が蘇る。これは確か、初めて魔術を放った日の時のことだ。
『わしゃあまだ酔ってないぞ』
『そう、その薬を持ってきてくれ。これが熱さましに一番良く効く』
『上達したな、フィー』
幼い頃のことなのに鮮明に思い出せた。懐かしさに構成が緩まぬよう気を配りながら更に記憶を探る。
だんだんと、記憶は現在へ近づく。
『お前が●しいと思う道を進むがいい』
それに伴いなぜか彼の言葉は曇り掛かっていった。
『畑を耕し、弟子を育てる方が何倍も●●ら●い●だ』
そして磨き上げた魔力を放つ直前に浮かんだのは、今と同じように神殿軍に向かって魔力を放った時に投げかけられた言葉。
『も●●せフィー! ●に●●●●●!』
―あの夜、先生は何て言ったんだっけ?―
「―大いなる、秘儀!!」
聖なる光の奔流を解き放った瞬間、答えは永遠に手が届かない場所へと消えてしまった。
106:名無しさん@ピンキー
09/09/17 18:39:00 3I+Plebc
>>101
自分に気があるっぽい女の子相手にひどいよな。
>>102
GJ!
これはいいヤンデレフィー。
ファザコンというのも結構いけると気付いた。ありがとう。
107:名無しさん@ピンキー
09/09/17 19:25:00 9eWcOTEq
>>105
GJ!
奴隷キレハに俺のメイスがフルボッキ!
……って書こうと思ったら(´;ω;`)
賢者ルートは本当に悲劇の主人公だから困る。
108:名無しさん@ピンキー
09/09/17 19:45:14 cTXdidsA
もやしせ!フィー鍋にいれてにろ!駄目だ・・・ちゃんと埋まらない
つらいお
109:名無しさん@ピンキー
09/09/17 20:19:48 YOvwFky6
GJ。フィーにヤンデレって意外と似合うんだな。
依存とヤンデレの不毛一直線関係いいよ。
回想シーンの幼フィーの破壊力がやばいんだが。
110:名無しさん@ピンキー
09/09/17 23:10:06 n58rEpAO
GJ!鬼畜なはずだが切なくなった
拠り所全てを失うまさに悲劇のヒロインだからな…
>>101
そうだったか
記憶違いしてたようだ
すまん
111: ◆8OBLTYIHXxgX
09/09/18 00:28:25 bcfj9m8P
さっき現在プレイ中のフィーたんの主食、アップルパイを嫁のネルに焼いてもらったんだ。
小麦粉&果物×10を青果売りのおじちゃんから購入。
成果:アップルパイ1・フルーツプディング2・焦げた石4・マッドシチュー3
青果売りのおじ様には、本当にすまない事をしたと思う。
・罪人男主人公
・エログロバイオレンス含有
それではどうぞ。
112:1/3 ◆8OBLTYIHXxgX
09/09/18 00:30:20 bcfj9m8P
チュナ達をテオルの手から奪い返す事が出来た。
あとは遺跡の最深部へと進み、すべてにケリを着けるだけだ。
俺達の冒険にも、終わりが見えてきた気がする。
そんな中で、ラバン爺に声を掛けられた。
「お前に俺の技をひとつ授けよう。今夜あたりにでも部屋に来てくれ」
先の領主の屋敷での戦いで、改めてラバン爺の剣技を目にしたが……
俺やパリスとは、次元の違っていた。
俺に、彼の技を使いこなせるのだろうか?
そんな事を考えながら、ラバン爺の部屋の前に辿り着いた。
何か、声が聞こえる。
「んッ……もっと、優しくして……」
「すまなかったな。それじゃ……もうちょいと力を抜いてくれんか?」
「こう?……あんッ!」
ラバン爺と……オハラさんか?
……まぁ、こういうのはどうせ耳掻きだとかマッサージっていうオチだろう。
定番のネタ、お疲れ様です。
念の為、部屋のドアをノックする。
「おう、入れーい」
やましい事をしていたならば、いくらラバン爺でも招き入れないだろう。
遠慮なく上がらせて貰おう。
「ぬお!?メロダークじゃない!!」
「ちょっとヴァン、何見てるのよ!」
全裸のラバン爺が、全裸のオハラさんの上で腰を振っていた。
ああ、そっか。普通そうですよね。あんな声出してるなら、普通はこうなってますよね。
ちょっと待て、メロダークはこの状況のこの部屋に来る手筈になっているのか?
まさか……いや、きっとそういう事なのだろう。
俺は静かにドアを閉め、その場を去った。
ラバン先生、僕に必殺技を教えてくれるんじゃなかったんですか?
もうやだこの……ああ、鳥になりてぇ。
113:2/3 ◆8OBLTYIHXxgX
09/09/18 00:31:21 bcfj9m8P
知り合いの裸を見ると、なんだか変に気が滅入るのは俺だけだろうか?
ともかく、部屋に戻って眠るという気にもなれなかったので外に出た。
途中、ラバンの部屋へと向かうメロダークとすれ違った。
やっぱり全裸だった。やる気満々だ。いつかアーケフィアの大河に沈めてしまおう。
特に何がある訳でもない夜の町を歩く。正直、退屈だ。
ネルでも誘えば良かったかな?心に癒しが欲しい。
……不意に、肌に殺気が突き刺さる。
目の前には、人の影。見覚えのある影だ。
剥き出しの刃物の様な殺気を放つそれは、ピンガーの雇っていた殺し屋だ。
ウリュウとかいう名前だったな。
「……また会ったわね」
そう呟く頃には、彼女の刀は腰に下げられた鞘の外に居た。
「キミの首を持っていけば、あいつはどんな顔をする?」
涼しい顔をして、随分物騒な事を言っている。
大方、屋敷での戦いで軽くあしらわれたラバンへの復讐に来たのだろう。
困った事になった。偶然、たまたま武器を持っていて、本当に良かった。
無言の内に、彼女の顔に砂を投げ付ける。
返す手でナイフを一本掴み、そのまま腹を目掛けて投げ付ける。
刀が腹へと飛ぶナイフを打ち落とす頃には、俺はウリュウの頭上を盗っていた。
これが、盗賊の戦い方だ。
だが―
「無駄。全部見える」
首筋を目掛けて振り下ろしたもう1本のナイフは、彼女の刀に受け止められていた。
空中で体勢を整え着地する。彼女はもう目の前まで迫っていた。
振り抜かれる刀をナイフで受け止める。
「少し面白かったけど、結果は同じ。キミは死んで自由になって、私は斬って自由になる」
だんだん彼女の刀の軌道が見切れなくなってきた。このままでは―
114:3/3 ◆8OBLTYIHXxgX
09/09/18 00:32:44 bcfj9m8P
突然、彼女の振る刀の猛攻が止む。
「キミはもういい」
彼女はそう呟き、あらぬ方向へと向き直す。
彼女の視線の先には、ラバン爺がいた。
「懲りないお嬢ちゃんだ」
そう呟き剣を構えたラバン爺は、先程の彼でも、屋敷での彼でも無かった。
ウリュウのそれを上回る程の、心臓が止められそうな程の殺気を放つ。
「私は、自由になる」
ウリュウが狂気の表情を浮かべ、ラバン爺へと襲いかかる。
二人の修羅と、刀と剣が交差する。
金属同士のぶつかり合う音が響き渡り、そこに残るのは静寂のみ。
少しだけ間を置いて、ウリュウの刀が無数の破片となって割れた。
「私は、自由だ……」
それに続いて、彼女の体に幾つもの切り傷が走り、血が吹き出る。
事切れたウリュウの身体をラバン爺が義手と右腕とで器用に抱きかかえた。
「ヴァン。今のがお前に教える技だ」
まるで見切れなかった。あの一瞬で、何度の攻撃を繰り出したんだ?
「ちょっと、このお嬢ちゃんを弔ってくるよ……授業は明日だな」
そう言って、ラバンは港の方へと歩いていった。
――……
「……まあ、こんなもんじゃろう」
結局一睡も出来なかった身体で、陽の昇る前から夕暮れまでみっちりとしごかれた。
しかし、そのおかげで何とかあの技を習得出来た。自分でも驚きだ。
技の名は陰陽殺。かつての英雄が編み出した、魔王に引導を渡した剣技だという。
なんでそんな物をラバン爺が知っているのか。尋ねても……煙に巻かれるだけだろう。
「あー、老体にゃあ堪えるわ。さっさと帰ってオハラとちゅっちゅと洒落込むか」
何が老体だ。元気過ぎるだろう。特に下半身が。
明日もきっと、オハラさんの肌はツヤツヤだ。
115: ◆8OBLTYIHXxgX
09/09/18 00:35:49 bcfj9m8P
入れたもん!えっちなシーンも入れたもん!
という訳で、カッコ良いラバンお爺様を書こうとしたら
とっても厨二テイスト溢れるものになってしまったっていう。
個人的には、主人公が主人公らしい盗賊ルートと賢者ルートが大好きです。
それでは、お粗末様でした。
116:名無しさん@ピンキー
09/09/18 01:14:20 fYyvnkpm
ラバン爺美味しいよラバン爺
凄い無粋な突っ込み入れると、陰陽殺と流星剣は
「今の俺のオンボロな体じゃ
もう使えなくなっちまったが、
お前なら使いこなせる筈だ」
ということなんで、ラバン爺には使えないです。
(多分両手を使う技なんだろうね)
117: ◆8OBLTYIHXxgX
09/09/18 01:41:18 bcfj9m8P
>>116
正直そんな気がしてならなかった。
片手で無理矢理出した。って事でどうかおひとつ・・・orz
流星剣は元ネタ考えると両手じゃないと不可能くさいですね
118:15 ◆E9zKH0kZMc
09/09/18 06:42:58 gRzSnHmx
フィーのこれでおしまい。11000弱あります。昔の夕方アニメの最終回程度の健全さ
どなた様もどうぞトリあぼんでご協力お願いいたします
>>59のタイタスのセリフからこちらに分岐したのでテオルが普通に死にます。
119:15 ◆E9zKH0kZMc
09/09/18 06:46:24 gRzSnHmx
足蹴にされて返り討ち、キレハの魔弾を斜交いに切り捨て、背後から飛びかかったパリスを投げ飛ばし続けざま
放った雷の剣が後衛を蹴散らす寸前、黒い影が飛び出し横様に吹き飛ばされシーフォンが悲痛な叫びを上げる。
「メロダーク!!」
「「「させません!」」」
五人位のフランが構えを取る足元がめきめきと持ち上がり木の根が噴出してタイタスの足を絡め取る。かわした
タイタスに踊りかかったのはネルだ。仲間の返り血に染められて涙を零しながら、激しく鎬を削らせがりがりと
押し戻し、兜を飛ばされて尚斬りかかりタイタスの体を浮かせた瞬間、狙い定めたアルソンの一撃が加わった。
『なにッ……?』
石畳にひっくり返って突っ伏したまま、血まみれのラバンはにやりと笑う。
『所詮は代用物……。この程度の肉体では、あ奴に勝てぬか……!』
幻想の都は橙色の夕日に照らされて、冬の空は紫に染め上がり、地平線には夜の帳が下りはじめていた。
冬眠から覚めた熊のような男は、ホルガーに匂いをかがれつつのっそりと瓦礫から這い出してきて、体中の埃を
叩いている。逆さまに溝から足をだしていた男のほうは仲間に無理やり引っ張り起されて咳き込み、ボロ雑巾の
ように埃と血まみれになった老人は、うら若い神官の手当てを受けつつ熱心に胸元を覗き込んでいる。指揮官は
転がった兜を拾うと、しゃがみ込んだままの娘にそっと歩み寄る。
「ネルさん。怪我はありませんか」
真っ青な顔でうずくまっていた。声が耳に入っていない。
「あたし、いまごろ…今頃怖くなっちゃった…あはは…ああ」
「ネルさん、素晴らしい働きでしたよ。あなたは自分で思っているよりずっと強い、本当です。立てますね?」
「うん…、ありがと。あたしまだ頑張れるよ!みんなは」
ラバンは風呂上りのような顔でフィーとテレージャに鎧を着せてもらっている。パリスはエンダに顔をガシガシ
拭かれて悲鳴を上げているところだ。メロダークは…彼は何故か軍靴を片手にけんけん、狼はけげんな顔をして
奇行を見守っている。シーフォンは自分の人工妖精に傷薬を塗りたくって手当てしている。彼なりに可愛がって
いるのだろうか。キレハは自らが使役する獣たちとともに周囲を警戒しており、怪我はないようだ。ふと見れば、
ネルの周りには心配顔のフランと、思惟する食べ物が集まっていた。
「お怪我ありませんか、ネルさん」
「なんともないよ、有難うフランちゃん」
立ち上がると、エンダの育てた樹縛に捕らわれて、しょんぼりしている指輪の精を助け出す。皆が揃った所で
ランタンを点し、心もとない足元を照らしながら、都の中心にある宮殿に向かう。街の中はゆらゆらとした灯りが
ともり、とても幻想的だ。これがただの夢ならばと思う。
空中宮殿の基底部、舞台のある上空に出たとき目の当たりにしたのは、不可解な光景だった。そこには何もない。
巨大な機械仕掛けの舞台の上で、沈みかけの弱い日差しに身を投げ出したまま、長々と影を引く男の姿があった。
手の施しようがないことは確かめずともわかる。どす黒い血溜りに身を横たえて、途切れ途切れに呪詛を呟く。
気がついた時は既にこうして伏していて、満足な身動きもままならず、鮮烈な痛みだけが体の異常を伝えていた。
やっとの思いで仰向けになる。北風が容赦なく吹きつけるなか、吐息が白く立ち上り、全身からは止めども無く
出血が続いていた。致命的な事は自身でも分っていたが、それですらとても現実とは思えない。
「…テオル」
「なんでこんなになってっんだ、俺たちここまでやったかよ」
「能力を超えた力の使い方をされたんだろう。負わせた手傷よりそちらのほうが酷い」
「所詮は他人の体ということか…無様なものだ」
跪き、手甲を外して手をとると、急速に体温が失せていくのを感じる。覆い被さる様にして遺言に耳を傾ける。
彼はこんな時でも自分の話をしていた。この男を愛した女達、友達、それに跡継ぎを失うことになるネス公国、
そうした「手駒」を自らがぞんざいに扱っているときは気づきもしなかったのだろう。彼自身もまた、駒の一つに
過ぎなかったこと、そして背伸びをしたところで、結局死すべき者であることも。…儚い、とアルソンは思う。
なぜ、何故と、まとまらぬ頭の中で狂ったように言葉が絡まりあう。焦りばかりが募って天の高さに怯えを感じ
やがてなにかの古い記憶片に目を閉じた。雲が晴れ、冴えた夜空に星がかかりはじめたころ、テオルは死んだ。
体を整えて外衣をかけてやる。他にどうしようもないのでそうして別れを告げた。
120:15 ◆E9zKH0kZMc
09/09/18 06:46:57 gRzSnHmx
頭の上に、鋭い瞬きを感じる。驚異的な、何か大きなものがそこにいる。
「ぶちのめすたってどうすんだ」
「ま゛~」
「よわったなあ、流石のわしも想像がつかん…」
「流石のってどう流石なんだよ」
「底冷えがするね」
『…余に近いものとして創ったがゆえに…』
「フィーは違うもん!」
「そりゃあお前、わしにかかれば美女の一人や二人」
「ターニャちゃんか」
「ちっともどっこも全然似てないよ!」
「ラバンさまーあたしも一緒につれてってーと駆け寄ってきて」
「私が思うに、それは犬だね」
「かーわいいイボンヌが、じゃなかった柴犬が」
『いかに知恵を蓄えようとも、肉体も名も持たぬ者は、人の心を失うのみ』
「LOVE&PEAS!ってなあ、がっはっはっは」
「ま゛…?」
「無視しろ、8号」
『ならば余は、自らの肉体で闘争し、自らの名で世界を支配することで、己の感情を取り戻す』
「そんなに長生きなら、もっと役に立つこと始めればいいのに」
「長い時を経るうちに、目的が変質を起すのはよくあることだ」
自戒を込めた言葉。それもある。神官たちは一斉に祈りを捧げ、盾持ちは身をかたくして構える。呪文を詠唱し、
応戦に備えるが、相手の出方に予測が立たない。戸惑いが広がる中、呟くような声が響いた。
『空よ……回れ』
奇妙な感覚だ。最初に感じたのは小さな空気のわだかまり、不思議な減速感、やがてそれは逆で、自分達だけが
取り残され、ぐんぐんと世界が加速していくためであると気づいた。星が駆け抜け月が転げ落ちていく。速度を
増した世界は彼らに圧しかかり、全てを諦めるよう促した。
『咲き誇る花も枯れるがさだめ。余のほかに、時に抗えるものはない』
異変は目に見えて迫り、今しもテオルが崩れ、思惟する生物たちが一瞬で蒸散した。フィーは身に起こる変化に
違和感を覚える。なぜ自分だけが守られているのだろう?…襟元に不思議な光が漏れ出しているのに気づいた。
暖かな陽だまり、おだやかに流れる川面、懐かしい誰かの手が触れた…。不思議な浮遊感を覚える。揺り戻し、
そして減速する世界。全てを押し流そうとするタイタスに、何かが立ちふさがったのだ。
『おのれ……。上位世界からの介入か!』
怒気に混じって恐れが感じられる。彼とて死すべきもの、小さきものに違いないのだ。俄然やる気がわいてくる。
「枯れたお花は実をつけるんだよ!だから咲くんだよ!なんにもこわくないよ!」
鞄をかなぐり捨てた吟遊詩人が歌うはいくさ歌。頭大丈夫かと思いつつ込み上げるこの熱い気持ちは何だろう。
「あんめにふぅらあれてはンなぁがあちいぃるう、かぁっぜにふっかぁれてはながあぃちるぅ、どうせ散るなら?」
『なにそれ』
「ご唱和くださいっハイ!こぉいのっはっんなああぁ」
「「「HEY!!!!ZOM ZOOOM ZOOOM ZOM DO COOL!!! KISS YOUR SHADE!!!(死者に愛を)」」」
あほほどよく効く。
121:15 ◆E9zKH0kZMc
09/09/18 06:50:30 gRzSnHmx
残りの全ての石ころを全力投擲、しかし手ごたえがあるかといわれればよくわからない。なにか決定的なものを
見落としている、パリスのまなざしは答えを求めてさまよい続ける。稲妻が闇を切り裂いた。
『こざかしい…!』
空に白い尾を引くのは太陽、タイタスの詠唱が響く足元で火炎ボトルが砕け散り、しぶきの様に手裏剣が乱れ飛ぶ。
次の瞬間、防衛線を破って星落しが直撃する。マントが焼け落ち指輪の精が力尽きた。倒れたまま身動きをしない
仲間達を駆けつけたテレージャが蘇生を試みる傍ら、舞台の反対まで吹き飛ばされていたメロダークが突如巨大化、
猛然とタイタスの拳を受け止める。怖い。辺りに星空が広がったとき、はらりと外套を脱ぎ捨てたキレハがいた。
「この力は使いたくなかった……でも、今の私には守りたいものがある!」
華奢な狩人の体はめきめきと異形を現していき、タイタスの雷撃をたやすく受け流す。飛びかかって組み打ちして
どえらい咆哮、思わず振り返ったところを張り倒されたパリスが台座から滑り落ちる。
「パリスー!」
「くんな!…逃げろ!」
カジキマグロを放り出した鍛冶屋が手を掴む背後から、雷撃が加わり足場ごと砕け散る。
「ほわっどうしよっおちるっうわ!ひえぇー」
「いいから俺の手は離せ!」
「えーと、えーと、えーと、そうだこれだ!」
「ちょっ……ほわべっ」
逆光に沈むフラスコ。からんと砕けて空気に触れたとたん、激しく炸裂して吹き上げられる。
「わあい」
「殺す気かっ」
立ち上がった彼らの目に飛び込んできたのは、身動きも取れないほど深手を負った仲間達だった。だが…なぜか
タイタスは沈黙している。不可解な空白が舞台を支配していた。血染めの神官は怯まず必死の治療を続ける。
突然叫ぶパリス。
「そおーかわかった!本体はこいつじゃねえ!俺たちの足元なんだ!」
「ということは」
「ぶっこわせ!」
「わかりました、まだ動けるものは舞台の破壊にあたれ!」
「お前らはどうにかしてあいつに殺されないよう頑張ってろ!」
「まーかせて!」
「おいシーフォン!雷ってのはなんだ!」
神官の衣の影から頭を起して息をつく。
「…あいつは雷、だから…ああ…」
空を仰いで考える。くそパリスでもわかる説明でないといけない。
「電気抵抗…ええと…テレージャどうしよう」
「パリス君!水をぶっかけろ!!」
「おらっしゃああ!」
水筒が弾けとんで漏電を起した。びりびりと髪が逆立ち鎧に静電気が走り出し、指揮官が叫ぶ。
「僕らは舞台の破壊!可能なものはタイタス弱体化!かかれ!」
「出番だよっ」
「ういうい」
122:15 ◆E9zKH0kZMc
09/09/18 06:51:01 gRzSnHmx
聖雨が降り注ぎ吹雪のブレスが荒れ狂う。駆け出したネルと半裸のメロダークが術を結び、氷が爆ぜて蒸気を作る。
大きな水溜りがあちこちできてバリバリと放電が始まった。同時に駆け出した者はお手製機械爆弾を放り出しては
逃げ回る。足場が動揺し、噴煙が上がり、タイタスが唸る。
「もらった!!」
針金をひっかけた侠客は一気に引ききって電線の設置。危うく感電しかけて逃げ出した。再び立ち上がったフランは
傷薬を掴んで走り出す。たびたび襲う攻撃をかいくぐった魔弾が歯車を破壊し崩落する外郭、溢れ出した監視者達に
投げつけた風羽根の刃が落石で軌道が反れる。パリスの無防備な体が降り注いだ弾幕に晒され、思わず覚悟をきめた
瞬間、これでもくらえ!
「シーフォンか?!無茶すんな!」
「くそパリス。お前…案外賢いな」
「うるせえ死にぞこない!とっとと倒して帰るぞ!」
相次ぐ猛攻で粉砕され、ついに本陣の基部が大きく露出する。覗くのは巨大な鉄の紡錘、異様な力の源だ。これぞ
タイタスの心臓。神官が突き飛ばされ、投げつけた小麦粉が打ち落とされ、打撃が振り下ろされ、そのすぐ後ろに
「フィーさん危ない!」
「フランちゃん!!」
小さな体が枯葉のように舞い、手を離れた短剣がすべり落ちていき…。
「あ、いけねっ」
足が亀裂にとられてバランスを崩す。体が傾いて、懐からなにかが飛び出し、それは転がり…点々と落ちていき…
粉塵爆発を起した!!続けざまの大爆発、機械内部が自重で瓦解し、たちまち底が抜け…タイタスは全てが手遅れで
あることを悟った。
『…フィーよ。おろかな子よ』
静かな瞳が空から見下ろしている。これほどの智者がどうして…、そう思わせる表情だった。
『さらばだ、世界よ。私はお前を愛していた!』
「消えた…やつの気配が無くなった!勝ったんだ!!ひいゃっはぁー!!!やっぱり僕は最強だっ!!」
「あわわ…大変です、それどころじゃないや退却!!総員退避!!みなさん逃げてー!」
力の中心点が失われ、帝都全体が崩れゆく。抱き起こされ、肩を貸し、出口を求めて逃げ惑う。玩具の積み木が
崩れるように決壊し、崩落し、輪郭を失っていく。壮麗な建物、舗道も、すがる柱も消えていく。真っ逆さまに
投げ出されて体が友から引きはがされる。名前を呼び合い、手を差し伸べあい、空にそれぞれ散っていった。
123:15 ◆E9zKH0kZMc
09/09/18 06:51:37 gRzSnHmx
―とても穏やかな海だった。波打ち際を裸足で散策し、吹き渡る優しい風に身を任せていた。ここでこのまま
一生を過ごすのも悪くない。そんな気がしていた。
夜明け近くのこと。幻の都が霧散していき、そのなかから何かが零れ落ちていく。漁師達、貨物船の船員達や
大河のほとりの者たちは、それが人であることに気づき、あわてて漕ぎ出し河岸に火をおこす。神官を呼び寄せ
毛布を取り出し、町を駆け回って手を尽くす。その中にまた一人目覚めた者がいる。
「……?」
「フィー!おきたか!」
「ま゛~」
「エンダちゃん?8号も…土のいい匂いがする」
地面の気配、そして若い男が心配そうに顔を覗きこむ。
「痛いところはないかーよ?」
「有難う、私は大丈夫です…そうだ、みんなは!」
「手当てしてるところだーよ。よかったーよ。竜人の女の子がね、ずっとしがみついてたんだーよ」
「エンダちゃんが?ずっと守っててくれたの。有難う」
生乾きのエンダが抱きついてくる。ごうごうと焚き火に照らされて、真っ青な顔のフランは担架で運ばれていく。
シーフォンの唇は紫、毛布に包まりガチガチ震えていて目の焦点も合っていない。ネルはぐったりしたまま介抱を
受けているが、会話に答えてはいるらしい。キレハがこちらに飛んできて、それに気づいたネルも手を振る。
「よかった!あなたも目がさめたのね」
「キレハさんもいるぅ、よかった…。テレージャさんは」
「落ちてきたとき足を傷めたみたいなの。神殿で治療してもらってるわ」
「よかった、キレハさんは大丈夫なの」
抱き寄せられた腕には包帯が巻かれている。体からはほんのりと消毒のにおいがした。
「ホルガーたちが守ってくれたのよ。…今は皆が」
そのとき叫び声が聞こえる。岩壁にそって走ってくるパリスの声だ。
「誰か俺にも船貸してくれ!!!」
船上から殆ど裸の傭兵が怒鳴り返し、包帯だらけのラバンが駆け出し漁船に飛び乗ると、艀からパリスも飛び移って
必死に沖へ漕ぎ出す。漁師達に向かってさらに叫ぶ。
「金髪だ!歳は俺くれえ、鎧を着てるはずだ!探してくれ!」
とたんにエンダも飛び出し矢のように水に飛び込む。
「どうしたの…?もしかして、アルソン君がいないの!?」
「ええ…今コートも探しているわ」
言葉が出てこない。
「見て!」
水面に何かが顔を出していて、手を振っている。そこへ向かって船が進む。見たところラバン達だ。
「まってろエンダ!いま引き上げてやる!」
「おー早くこい、アルソンがしんじゃうぞ」
「…ふぬおおおおおお!!!!おうわあ」
「おいおいおい、気をつけないと船がひっくり返っちまうぞ」
船上に腕力がない。庸兵も漕ぎ寄せてくるが、どうしたものだろう。
「エンダ、お前上がってこれるか。俺じゃできねえ」
「ういうい」
三人掛かりで体を掴み、顔を真っ赤にして抱き上げる。メロダークまで船の中に乗り込んできて、船をぐらぐらさせ
ながら床に寝かせて顔を覗きこむ。
「息してねえ!駄目だ、かぢかんで脱がせらんねえよ!」
「私にまかせろ」
引きちぎりむしりとる。
「アルソン!目を開けろ!アルソン!」
ばしばし叩いて呼びかけ、ラバンはオールをエンダに投げ渡す。
「エンダ、わしとこげ!はやく医者に見せるんだ」
「ういうい。おーえすおーえす」