【強制】サイボーグ娘!SSスレ 第2章【任意】at EROPARO
【強制】サイボーグ娘!SSスレ 第2章【任意】 - 暇つぶし2ch506:とあるビルの8階にて 4/12
11/02/13 23:41:59 IL5aqqTJ
 こうまで図星をさされては逃げようもなく、観念して店主の言葉を肯定する。さすがに少女と
目を合わせるのは躊躇われたけれど、ちらっと盗み見た彼女の顔は見間違いようもなく赤く
染まっていた。顔面が生身というのは本当らしい。


 ***


 狭いフロアを二つに仕切る壁の向こう側は、この店の目玉商品である限定サービスだけを扱う
異空間だった。中央には診療用のベッドが一つ。左右に置かれたサイドテーブルの上には様々な
器具や部品が並んでいる。

「では、こちらにご記入を」

 この雰囲気の中でも、店の主はビジネスライクに事を進めていく。サイドテーブルの空いた
スペースに差し出された書類を置き、記入欄を埋めていく。

 書類を書かされる理由は……。

 中古品を売るためでもなく、高額商品を分割払いで買うためでもなく。あの少女の身体の一部を
一晩借り受けるため。機械でできた身体を持つ彼女がいて初めて成り立つ「限定サービス」だ。
それが、この店が「濃い」といわれる所以なのだ。

「あれ、ここ年齢を書く欄じゃないですよ?」

 書類を覗き込んでいた少女が声をあげた。店主に代わり、書かれた内容が正しいかどうかを確認
するのも彼女の役目なのだろうか。怪訝そうな表情を浮かべて、書類と僕の顔とを交互に見比べて
いる。ため息を一つついてから、その欄の文字の上に振り仮名を書き添える。



507:とあるビルの8階にて 5/12
11/02/13 23:45:43 IL5aqqTJ
 いそ はじめ
 五十 一

 小学校にあがって、自分の名前を漢字で書けるようになって以来、何度同じ事を繰り返してきた
だろう。自分自身では、もう間違われることを何とも思わなくなったけれど、間違えた方のリアクション
に付き合うのは未だに気疲れする。

 少女は、書き加えられた文字を目にして、目を丸くする。そして何か言いかけそうになった瞬間。

 ごんと小さな音がした。

「ドクター、痛いですぅ~」
「失言の報いだ」
「え~、だって、だって、これはどう見ても……」
「年齢のはずは無い」

 頭を押さえて涙目の少女の言葉を、言下に切り捨てる冷徹な店主の声。

 まあ確かに。いくら老け顔だとしても、三十以上も年上に見える、なんて普通は無いよなあ。

「ご記入内容はこれでよろしいですね?」

 結局、店主が書類に目を通して、記入内容を確認する。

「はい。よろしくお願いします」
「ドクター、ご希望の部位はどこですか? 腕? 脚? それとも胸?」

 名前欄に気を取られていたためか、貸し出す部位は確認していなかったらしい。書類は既に店主
の手の中にあり、少女が立っている位置からは見ることができなくなっている。

「下半身」

 素っ気無い一言が返される。



508:とあるビルの8階にて 6/12
11/02/13 23:48:55 IL5aqqTJ
「はい。下半身ですね……って……え~~っ!?」

 確かに書類には様々な部位に混じって「下半身」という選択肢が載っていたし、この店に来た
目的は正にそれなのだし、そもそもこんな大きなカートを引きずって歩いている理由はそれ以外に
無いのだし。

 ……そんなに驚かれるくらい珍しいのか……orz

 少女の様子はと言えば、口元に手を当てて、目をまん丸に見開いて、顔は真っ赤を通り越して
湯気が立ち上がりそうなくらい。漫画でも、ここまで見事な驚きと恥じらいの表現は、滅多にお目に
かかれるものじゃない。


 ***


 気まずい雰囲気のを破ったのも、冷静な店主の声だった。

「では、一晩、下半身をお貸しします。破損・紛失の際には実費賠償となりますのでご注意
ください。何らかの事由で汚損した場合は、お客様負負担で洗浄・消毒をお願いします。なお、
生体箇所は除装いたしますので悪しからず。さあ、緋乃子、こっちへ」

 通り一遍の警句を口にして、少女の名前と思しき名前を呼ぶ。

「……はい」

 少女は俯いたままベッドに歩み寄る。表情は読み取れなくても、上ずった声色やふらつく足元が、
少女の内心の動揺を物語っている。店主は既にサイドテーブルから器具を取り上げて、解体作業に
入る準備を淡々と進めている。

 機械が詰まった造り物の身体とはいえ、目の前で、彼女の身体が分断される。そしてそれを家に
持ち帰る。

 そう思っただけで、背筋をぞくりと快感が這い上がった。



509:とあるビルの8階にて 7/12
11/02/13 23:53:15 IL5aqqTJ
 ***


 服を着たままで解体作業を進められるはずがなく、ベッドの脇に立った少女は、ちらちらと僕の
方を窺いながらメイド服を脱いでいく。

 腕の付け根。
 脚の付け根。
 胸の周り。
 お腹の周り。

 身体を覆う布が無くなっていくにつれて、今まで隠されていた人工皮膚の分割線が露になっていく。
最後に外したチョーカーの下にも、くっきりとした分轄線が見えている。胸元と股間をそれぞれの手で
覆って立っている彼女の姿は、人間のそれであると同時にロボットのそれでもある。公開情報の通り、
外から見える範囲では、彼女の身体の全てが造り物だった。

 しばらくそうしてから、店主の視線に促されて、少女はベッドの上に横になった。両手と両足を
伸ばした状態で枷を嵌められて、もう彼女には身体を隠す術は無い。

「緋乃子、ハッチを開けて」
「はい、ドクター……」

 店に入った時に聞いた元気さからは想像も付かないほどの弱々しい、消え入りそうな声。面識の
無い相手に裸体を晒すのと、身体の中の機械を晒すのと。彼女にとって、どちらが辛いことなの
だろう?

 かちりという小さな金属音と共に、彼女のお腹の分轄線に沿ってメンテナンス用のハッチが開く。
鈍色の光を放つ機械の中央に収められた、唯一つ透明なガラス様の物でできた丸いケース。微かに
濁った液体で満たされたそのケースの中に、ピンク色の何かが見えた。

 身体の内に隠れていた、数少ない彼女の生身の部分。



510:とあるビルの8階にて 8/12
11/02/13 23:56:41 IL5aqqTJ
 多分、彼女の脳もまた、同じようなケースの中に収められている。彼女自身と言える生身の部分は
全部を合わせても数kgにも満たないはずだ。外見は元と変わらなくても、こんなケースの中に収められて
生きていくのは、どんな気持ちなんだろう。

「あ……んんッ……」

 店主の手が彼女の身体の中を弄るたびに、少女が小さな呻き声をあげる。彼女の身体は、中の
機械にまで感覚があるのだろうか? そんな仕様になっている義体なんて聞いたことが無い。これは
店主の趣味なのか、それとも大金を払う客へのサービスなのだろうか?

 少女の赤く染まった頬の上を、いく筋かの汗が滴り落ちていく。吐く息の甘い香りがここまで漂って
くるような気さえする。お腹の中の機械を目の前で見ていてさえ、これは快感に酔いしれる少女
以外の何者でもない。限りなく精巧に作られて膨大なデータを与えられたロボットでも、CG技術の
粋を凝らして制作された3D映像でも、この存在感には遠く及ばない。

「ん……ふ……ぅ……」

 少女のトロンとした目が見つめているのは、店主の手の中にあるケース。身体から取り出されても
なお、培養液の中で生きている少女の一部。彼女が確かに『少女』であることを証明する部分。
もしも何かの手違いで、除装されないまま貸し出され戻ってこなかったら……。

 ケースを見つめる視線から何を読み取ったのか、店主は僅かに眉を寄せ、ケースを傍らの機械に
取り付けた。かちりと鍵を掛けるその音で、邪な妄想が破られる。

 自分の性癖の対象が機械の身体にあるのは間違いない。だからといって、純粋な機械に萌えは
無い。どれほど良くできていても、ロボットには欲情しない。生身の身体を機械に変え、なおかつ心を
保ち続けている。そんな『サイボーグ』こそが理想の相手。

 生身の箇所を除装すると言われたのを至極尤もと思いながらも、心の底では納得していないの
かもしれない。こんな形の取引ではなくて、素の彼女と縁を結ぶことができたなら……。



511:とあるビルの8階にて 9/12
11/02/13 23:59:31 IL5aqqTJ
「お客様、手を貸していただけますが?」

 店主の声で妄想が再び破られた。既に彼女の両脚は付け根から外されて、何本かのケーブルで
繋がっているだけの状態だった。固定用のネジ穴が等間隔に空いている鉛色の人工骨。ジョイントを
外されてだらりと伸びきった人工筋肉。いく本ものチューブの端に取り付けられたバルブから僅かに
漏れ出た冷却液や潤滑液が、シーツをカラフルに染めている。

 機械仕掛けの脚の重量は20kgくらいあるはずだ。筋肉質とは程遠い店主一人で運ぶには少し
ばかり荷が重い代物には違いない。まあ、これもサービスを兼ねてということで、拒む客はいない
だろう。

「では、いきますよ?」
「む……ん……」

 残ったケーブルも外されて、脚は完全に少女の身体とは別個の存在になった。2人がかりでも
まだ重い少女の脚。店先で見た通りの艶やかな肌は、電力の補給を失って温かみを失いつつ
あった。それでもなお、吸い付くようなもち肌の手触りも、握る手に合わせて適度な弾力で押し
返してくる筋肉の柔らかさも、造り物とは思えない程の心地よさを与えてくれる。できることなら、
いつまでも触っていたい。

 そんな願いが叶う訳もなく、店主に促されるまま、サイドテーブルの空きスペースに両足を揃え
て並べ置く。両脚を失った少女の姿は、意外な程に小さく見えた。枷の束縛が無くなって自由に
なった脚の付け根の部分が、股間を隠そうとするかのように悶えている。

「緋乃子、無意味だからやめなさい」
「でも、ドクター……」

 精一杯の努力を無意味と決め付けられて、不服そうな少女の声。貸し出されたその先で、どんな
扱いを受けるかも分からない。それでも自分の身体に付いている限り、羞恥心の対象から外れる
ことはないのだろうか。



512:とあるビルの8階にて 10/12
11/02/14 00:03:42 IL5aqqTJ
「下半身のデバイスを取り外して。電源はそのままで」

 少女の気持ちを気遣う様子もなく、ハッチの中の機械にコードを繋ぎ、モニターに映し出される
グラフを睨んでいる。目を閉じた少女が何か呟くたびに、グラフが一つずつゼロのラインへと落ちて
いく。全てがゼロのラインに集ったのを確認し、店主は大型の電動ドライバーを取り上げた。

「やっ……ん……ドクター……もっ……と、優しく……」

 店主がハッチの中へドライバーの先端を突っ込むと、また少女が呻き声をあげて懇願する。

「……くっ……う…ん……あぁ……ぁ……」

 ドライバーのモーターが唸りを上げ、下半身を繋ぎ止めている太いボルトが外される度に、身悶えと
共に嬌声が彼女の口から漏れて出る。サイドテーブルに置かれるボルトの本数が増えるにつれて、
少女の上半身と下半身の動きがちぐはぐになっていく。

「これで最後だ。緋乃子、接合部が傷つくから、動かないように」
「はぁ……はぁ……ハ……イ……、ドクター……」

 荒い息遣いの中、呂律の回らなくなった口調で少女が答える。人工筋肉も人工骨も、接合を全て
外されて支えを失った下半身。不用意に動けば、予期しない部分が接触して傷つくこともあるのだろう。
両手でシーツを握り締め、唇を噛み締めて耐える構えをする少女。店主の手が、ぐいぐいとハッチの
開口部の奥深くへとドライバーを押し込んでいく。

「あ、……あああぁぁぁぁッ!!」

 噛み締めた唇の奥から絶叫が漏れ、それでも下半身は僅かに揺れただけだった。

「うむ。よく耐えたな、緋乃子」
「…はぁ……はぁ……は……ぁ………あ…り…がとう…ございま……す」

 店主は、少女の頭を軽く撫で、ほんの少し表情を緩めたようだった。



513:とあるビルの8階にて 11/12
11/02/14 00:07:05 IL5aqqTJ
「では、これからお持ち帰りの梱包をいたしますので、お客様は表の部屋でお待ちください」
「え、ええ……。分かりました」
「あの、はじめ……様?」

 薄っすらと目を開けた少女が、こちらの方を見上げている。

「え?」

 枷を外された少女の右手がすっと伸び、ベッドの脇に立つ僕の手を握る。その柔らかくて暖かい
手は、じっとりと汗で湿っていた。

「優しく、してくださいね?」

 答える前に、店主の手が振り上がり……。

 ごんと大きな音が室内に響き渡る。

「いっ……たぁ~~っ。ドクター、痛いです~」
「痛いのはこっちの手だ。訳の分からんことを言うんじゃない」
「でも、これはお約束と言うもので………ああ、ごめんなさいっ! ……って……あああ~っ」

 再び手を振り上げようとするドクターの姿に、少女は両手で頭を押さえようとして、その反動で
上半身がベッドから転げ落ちそうになる。

「一度頭から落ちてみろ。打ち所によっては、少しはましになるかもしれん」
「ドクター、それ、どういう意味ですか!?」

 両手でシーツを掴んで、あわや転落という寸前で踏ん張っている少女。彼女には分からなかった
かもしれないけれど、店主がとっさに手を伸ばして彼女を受け止めようとしたのは、見なかったことに
しておこう。



514:とあるビルの8階にて 12/12
11/02/14 00:11:05 ttL26/GJ
「失礼しました。どうぞ、表へ」
「はい」

 店主と少女の間には、何人たりとも割り込む隙は無いようだ。湧き上がる羨望の想いを宥めながら、
ベッドに背を向けて仕切りを隔てた表の店へと歩みだす。


***


「では、お借りします」
「はい。よろしくお願いします」

 店主が大きな包みを台車に載せて奥の部屋から出てきたのは、それから10分ほどたってからの
ことだった。バッテリーの一部を取り外して軽くなっているとはいえ、40kg弱もある義体の下半身。
用意してきたカートに載せかえて、車までたどり着くだけでも一仕事だ。でも、これがあの彼女の
モノであるならば、どれほど重かろうとも苦にはならないだろう。

 そして、家に帰り着いたその先は……。

 ベッドの上の少女の姿を思い出し、前にも増して強い快感が背筋をぞくりと這い上がった。


515:503
11/02/14 00:12:33 ttL26/GJ
以上です。


516:>505
11/02/14 02:13:12 ETZTB2A2
異常です。

517:名無しさん@ピンキー
11/02/14 20:38:13 VmpJW4Ln
「ぱき」
「はむはむ」

誰かさんに渡すわけでもなく、ただ単にちまたに並んでいるチョコレートの大軍を見て、
ちょっと買ってみたくなった一枚のチョコレート。
最新の味覚センサーが噛み砕いたチョコの成分分析を開始する。

いくつかのセンサの信号が総合的に分析され、データベースに一致した成分が
検出された物質としてリストに上がる。

[ココアバター18%]
[乳脂肪4.1%]
[蔗糖55%]
[カテキン1.2%]
[アントシアニン0.8%]
[タンニン0.5%]
[クロロゲン酸0.5%]
[セルロース2.1%]
[テオブロミン1%]
[カフェイン1%]
[その他]

これらの分析結果をもとに、脳に伝える味覚神経系の刺激の強さを
計算する。直接脳に作用する糖分やカフェインは脳に流れる血液に、
適度な量が放出される。ただ一部のポリフェノール群は添加薬物としての
持ち合わせがないため放出しようとしてもできない。

「う、ね、眠れない、そして体かなんだか熱いよう」
本当に体温が上がっているわけでもないが、脳だけは妙に熱くなっている。
布団の中で火照った体に悶えているうちに、ある場所に手が伸びていくのは
まあ、仕方が無いことであろう。

普段、そんなものと無縁の生活を送っているせいか、チョコレートが効き過ぎたらしい。
恋の武器としてチョコレートを送るのにはそういう意味もあるのである。


518:名無しさん@ピンキー
11/02/16 01:44:36 kyuNlrLz

>>503
お久しぶり!ですよね?

本音炸裂、コミカルな遣り取り仕草様子、とても楽しませて頂きました。
有り難うございます !

分解etc,の細い描写も,とても冴えていますね!
主題のフェティシズムのなんですが、すみません少し苦手・・・。
(ドールの分解も気が引く方で・・・)一番筋の部分ですが・・・ごめんなさい。

余韻の中でエログロナンセンス(猟奇)な二人の絆へ妄想広がります。

519:503
11/02/16 23:05:30 tSAOHBQl
>>517
触発されたので書いてみました。

・エロ無し。
・解体無し。
・ 「食べる」というより「舐める」のニュアンスで読んでください。

NGワードは、「バレンタインの餐劇」で。


520:バレンタインの餐劇 1/5
11/02/16 23:09:03 tSAOHBQl
 くんくん。

「……あれ?」

 くんくんくん。

「……なんだコレ?」

 くんくんくんくん。

「……これは……チョコレートの匂い??」

 目が覚めたら部屋がチョコレートの匂いに満ちていた。

「夕べの作業で、身体に匂いが染み付いちゃったの……かな?」


***


 去年の今頃、お客様へ感謝の気持ちを込めて、商品のお買い上げ毎にチョコレートの小さな包みを
お渡しするサービスをやってみた。期待していた以上に喜んでいただけたのと、14日が日曜日にあたる
ので、今年は包みをちょっと多めに用意することにした。

 業務用の大きな塊を湯銭で溶かし、ドクターが作った型に流し込む。形は普通のハート型だけど、
表面には継ぎ目やネジのモールドがあり、一部分を切り欠いた表面から中の歯車なんかが見えて
いるという、とても凝った造形だ。受け取ったお客様は、どんな顔をするだろう?

 なにしろ、これはアタシの胸の中にある人工心臓のスケールモデルなんだから。


521:バレンタインの餐劇 2/5
11/02/16 23:12:35 tSAOHBQl
 外形をどう作ろうと、ちゃんと動きさえすればいいという理屈は分かる。分かるけど、まさか本当に
ハート型をした物を作るなんて、ドクターみたいな変人でもない限り思いつかないんじゃないかなぁ。
アタシの身体は、全部ドクターが設計した物だ。『これはねーよ』的なパーツが他にも一杯ある中で、
これが一番キワモノだと思っている。

 チョコにはアタシの手書きのメッセージカードも添えてある。機械仕掛けの手にかかれば、たとえ
何百枚のカードだって一瞬のうちに書きあがる……はずはない。アタシの脳みそが腕のモーターを
動かして、1文字1文字書いていくんだから、丁寧に書こうと思えばそれなりに時間がかかる。

 マーカーペンを握って悪戦苦闘しているアタシの姿を見て、ドクターは「補助電子脳用の高速
清書プログラムでも書いてやろうか」って言ったけど、丁重にお断りした。そんな物を使ったら、
プリンタで打ち出すのと何も変わらなくなってしまう。まあ、ドクターも、からかい半分っていう
表情だった。

 余裕を持って作業を始めたつもりなのに、結局全部が終わったのは、夜中をだいぶ過ぎた頃
だった。ご苦労様と言ってドクターが出してくれたホットチョコレートを飲んで……その後の記憶が
無い。眠り込んだアタシを、ドクターがベッドまで運んでくれたんだろうか?


***


 お店を閉めてから、ずっとチョコレートまみれだったのは確か。それにしたって、こんなに強い
匂いが染み付くものだろうか? 姿見の前に立ってみても、特にチョコが身体についているという
訳でもない。でも、寝巻きを脱いだとたん、チョコの匂いは一段と強まって、謎は深まる一方。

 とはいえ、ここで考えていてもどうなるものでもないので、着替えをして部屋を出た。

 アタシの、いや、ドクターの家はお店があるビルの屋上に建てられている。非常階段を下りて
行けば、ものの数分でお店に着く。



522:バレンタインの餐劇 3/5
11/02/16 23:16:10 tSAOHBQl
 ………………



 屋上から8階に下る踊り場で、アタシは固まった。

 普段は誰一人使うおうとしない狭くて急な非常階段に、びっしりと人が詰まっていた。その先は、
お店の前で終わっている。しばらくそうして立ち尽くしていると、アタシの姿に気づいた何人かが
小声で歓声を上げ、それが周りへと広がっていく。そのざわめきは階段のずっとずっと下の方からも
上がってくるみたい。

「……これは………!?」

 軽く頭を下げながら人の塊を掻き分けて、お店の中に入って行く。ドクターは既にカウンターに
立ち、お店を開く準備は整っていた。

「ドクター、アレ、みんなうちのお客様ですか!? いったいどうし……て……」

 ドクターを問い詰めるアタシの言葉が途中で止まる。カウンターの後ろの壁にぺたぺたと貼って
あるお品書きに、張り紙が一つ増えていた。

 ―――――
 ・新入荷 人工皮膚&皮下層充填材 ホワイトタイプ
 (食用ジェル使用/チョコレート含有率 83%) 30cm×30cm \4,980

 ・バレンタインデー限定サービス (Taste Me!) \部位によりご相談
 ―――――

「ドクター? これはナンですか!?」

「ん? 何のことだ?」

 昨日、お店を閉めた時には、こんな物は絶対に無かった。新入荷の人工皮膚なんてアタシは何も
聞いてない。そんな荷物は、ここしばらく届いてない。ましてや、訳の分からない限定サービスに
至っては……。



523:バレンタインの餐劇 4/5
11/02/16 23:19:44 tSAOHBQl
「チョコレート入りの人工皮膚って、いつそんな物入荷したんですか? いや、それより、この限定
サービスは何なんですかっ!?」
「お約束」
「……はい?」
「お前がいつも言う『お約束』だ」
「お約束って………」

 ドクターはそれだけ言って、アタシの顔をじっと見つめている。

 バレンタインデーのお約束……?

 身体にチョコレートを塗って、リボンを巻きつけて、『私を食べて』っていう……アレ?
でも、身体に塗るようなチョコなんて用意してないし……。

 ……あ……。

 まさか、この新商品って……。それに、あの部屋の匂い。

 昨夜、睡眠薬入りのホットチョコレートで眠った後に。

 ドクターが、アタシの身体の人工皮膚を、『新商品』のチョコレート入りの人工皮膚に張り替えた?

 アタシの顔から理解の色を読み取ったのか、ドクターの口元が僅かに緩む。

 ……いや、待て。ここでこのネタを肯定したら負けだと思う。切羽詰まったアタシは、
とりあえず口からでまかせを言ってみる。

「えーと、えーと、バレンタインデーば、ヴァン・アレン帯を発見したことを記念して設けられた
記念日で、この日にギブミーチョコレートと唱えると、どこからともなくチョコレートが降ってくる
という……」

 思いついたことを並べてみても、そう長くは続かず、すぐに行き詰る。ネタは全然繋がらないし、
ドクターも冷ややかな目で私を見てるし。

「……ドコを変えたんですか?」



524:バレンタインの餐劇 5/5
11/02/16 23:23:44 tSAOHBQl
 観念して、恐る恐る聞いてみる。

「変えたって、何を?」

 ここまできて、ドクターは何も知らないっていう口調で聞き返してくる。どうしてもアタシの
口から先に言わせたいらしい。悔しいけど、仕方がない。

「アタシの身体のどの部分をアレに変えたんですか?」

 それを聞いたドクターは、ようやく勝ち誇った笑みを浮かべて、一言。

「全部」
「ぜ、ぜんぶ~~!?」

 ドクターの答えは、まさかと思っていた言葉そのものだった。

「腕も?」
「うむ」

「脚も?」
「うむ」

「胸も?」
「当然」

「アソコ……も?」
「そこが一番苦労したな。さあ、店を開くぞ。今日は1日、しっかり働いてくれ」

「どくたぁ~~~!!!」

 アタシの悲鳴が木霊する店内に、ドクターが開け放った扉から、期待に顔を輝かせたお客様が、
あとからあとからなだれ込んで来た。


***


 その日。

 お客様の列は閉店時刻まで途切れることはなく、売り上げ額は過去最高を記録しました…… orz


525:503
11/02/16 23:32:54 tSAOHBQl
以上です。

>>518
お久しぶりです。楽しんでいただけたようで、何よりです。

作品に対して感想を書いていただけて、とても嬉しいです。本当にありがとうございます。


526:名無しさん@ピンキー
11/02/21 12:38:50.64 GvJsngUJ
GJ!!
ども、>>500です
私のしょうもないネタを拾って下さり、感謝感激の到りです
自分の読みたいシチュを書いて貰えるって、実に楽でいいなぁ


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