09/08/30 23:09:04 ApPeRrxg
(1-6)
銃声が遠いていくなか、ジェニファーさんは何も言わずに私の身体を抱きしめて一層強く抱きしめてこう言った。
「私……大統領を……守れなかった……くっ」
悲しみを噛み締めるようにジェニファーさんが零した。しかし、ゆっくりと私から離れると涙を拭きながらパネルの下を先ほど貰った鍵で開き、何かのケーブルを引き抜いた。
「これで……このエレベータはもう二度と上には昇らない。あとはセーフルームであのボタンを押したあとに動くエレベータが、唯一の地上への出口」
ケーブルを投げ捨て、鍵をパネルから引き抜くとそれを大事そうに握り締めた。
やがてパネルの上部の階数表示が『30』へと変わり、そしてチーンという音ともにエレベータが開かれた。
「待ってたわ。ジェニー」
「なっ!? リリィ?!」
開かれたドアの先で、ジェニファーさんと同じ黒いスーツを着た女性がこちらに拳銃を構えて立っていた。赤毛が混じったショートヘアーに、狼にように鋭い目つきのいかにもSPという女性だった。
「くっ!」
ワンテンポ遅れて、ジェニファーさんが持っていたマシンガンを構えようとそれを持ち上げた。しかし……。
「くあああああ!」
重い一発の銃声と共にジェニファーさんの右腕から血飛沫が上がると、彼女のマシンガンがエレベータの床にがしゃんと落ちた。
「あっと、あなたも動かないでちょうだいね。動いたら、ジェニーの頭に虫食い穴が開くわよ」
私に向かって微笑みながらリリィと呼ばれた女性は釘を刺した。
「さっ、二人ともそこから出てちょうだい。このエレベータは使えないみたいね。まぁ、暫くすれば迎えが来るでしょう」
リリィさんに脅されて私とジェニファーさんはゆっくりとエレベータの外に出た。
「はぁ……これで面白くなりそうね。くっくく……あはははははは!」
私とジェニファーさんがリリィさんに銃を向けられながら、目の前で楽しそうに笑う彼女を見ていた。
しかし突然、ジェニファーさんが握り締めたままの左手を開いてセーフルームの鍵を落とし、それと地面が接触する音が聞こえると同時にリリィさんさんに肩から突っ込んだ。同時に、彼女はもう一つ何か黒いものを地面に落とした。
「っ! アリス、それで彼女を撃って!」
私はジェニファーさんの腰から落とされた黒いもの……彼女の拳銃を持ってリリィさんに構える。
「ぐっ! 待ちなさい!」
ジェニファーさんに馬乗りされているリリィさんが、自らの持っている拳銃をジェニファーさんの唯一のふくよかな部分である胸に向かって突きつけていた。
しかしジェニファーさんは私に向かって叫んだ。臆する表情さえ見せずに。
「撃って、アリス! 撃てぇえええええ!」