◆けいおん!でエロパロ◆3at EROPARO
◆けいおん!でエロパロ◆3 - 暇つぶし2ch650:名無しさん@ピンキー
10/04/25 06:46:01 TmYFUIo9
>>649
巣に帰れニコ厨

651:名無しさん@ピンキー
10/04/30 22:06:02 mbiQrW7X
聡きゅん可愛いよ

VIP規制なかったらさとういが書けるのに

652:名無しさん@ピンキー
10/05/01 01:56:44 V5koNk85
けいおんにレイプされるMステを誰か書いてください><

653:名無しさん@ピンキー
10/05/01 13:26:24 up+HeHlX
しゃらんらしゃらんら~

654:名無しさん@ピンキー
10/05/01 21:14:05 V5koNk85
誰かけいおんにレイプされるMステを書いてください><

655:名無しさん@ピンキー
10/05/02 09:18:50 P1WeK78R
しゃらんらしゃらんら~

656:名無しさん@ピンキー
10/05/02 21:35:37 8UkX9Ob2
もう深夜2時。
私、秋山澪は自分のベッドの上にいるわけだけど、どうにも眠れない。
その理由はまぁ、なんとく自覚している。
下半身がムズムズする。ムラムラするのだ。
いままでも、何度か同じ事がありそのたび自慰をしてきたわけだ。
しかし今夜のは桁ちがいにムラムラ感だ。
これを鎮めるにはやはりあれしかない。
自慰。つまりオナニーだ。
そのためにとりあえず服を脱ぐ。
私はオナニーをする際、服を脱ぎ、パンツだけの格好になる。
その方が興奮するからだ。
その格好になり、ゆっくり右手で左乳首をつねる。
「くぅ..ふぅ...」
さらに強く
「ひゃ..ああっ...んんぅ」
3分ほどそうしていただろうか...
あそこが熱くなり濡れているのに気付く。
いよいよ本番だ。
私は意気込んでパンツを脱ぐ。
そこには毛一本生えていないツルツルの女性器。
これが私の一番の悩みなのだ。
水泳の授業などでみんな生えているか確認したがみんな生えていた。
唯なんかもうフッサフサだっだし律もはえてた。
「んっ...はぁん」
そんなことを思いながら割れ目にそってさする。


657:名無しさん@ピンキー
10/05/02 21:54:39 8UkX9Ob2
そして今度は円を描くようにさする。
「ひゃあっ...くはぁぁぁ...あんっ」
今夜は家にだれもいない。私一人だけだから好きなだけ声をだせる。
そう思うと余計に興奮が高まる。喘ぎ声も大きくなる。
「ああん...くぅ...ああっ...くああああああああっ」
指を秘所突っ込んでは出して突っ込んでは出してを繰り返す。
ポタポタと自分のいやらしい汁が布団に飛び散る。
指を突っ込んでは出して突っ込んでは出して
指を突っ込んでは出して突っ込んでは出して
指を突っ込んでは出して突っ込んでは出して
「くぅ...ああっ...ダメッ..いや..ああんっ!!」
気持ちいい。今ではこのオナニーが軽音部の活動に次いで、
私の楽しみとなっている。


658:名無しさん@ピンキー
10/05/02 22:51:37 P1WeK78R
できたー

659:名無しさん@ピンキー
10/05/02 23:40:39 +wYmiJ4Z
TMAの唯や澪みたいに
学校の先生に犯されるメンバーを想像してみる

660:名無しさん@ピンキー
10/05/04 00:24:06 pGowDxDl


661:名無しさん@ピンキー
10/05/06 06:02:35 Ok9io5wO
憂と梓と純と俺の4人でペロペロしたい

662:名無しさん@ピンキー
10/05/10 23:59:46 3vTgBill
レイプ系のエロパロ投下してもOK?

663:名無しさん@ピンキー
10/05/11 02:30:13 7pahyXex
>>662
読んだ後なら返事可能w

664:名無しさん@ピンキー
10/05/11 06:14:27 FsOjmLu6
ぜひ

665:名無しさん@ピンキー
10/05/11 07:22:09 tCmIomlP
そもそも百合以外成立しづらい原作だよなあ。

666:名無しさん@ピンキー
10/05/13 13:56:50 lxEFrwF1
>>665
まあなあ、ただでさえ萌え系な上、女子高もの(はっきりしてるのはアニメ
のみ。原作では匂わせてあるだけで、女子校か共学かをはっきり描写している
ネタは無いが。)だもんな。

667:青太郎
10/05/15 04:16:05 jASEa/JC
みんなおひさしぶり。

668:名無しさん@ピンキー
10/05/15 04:17:34 jASEa/JC
 耳をつんざく轟音の中に俺はいた。手足を忙しなく動かし、その喧騒に加わる。
音のひとつひとつが手に取るようにわかる。それがどこへ向かい、どう響くかも。
その果てを見届けることなく、新しい音が生まれては消えていく。
 やがてそうした連鎖が結集され、舞台は最高潮となる。
およそ負の情などなく、あるのは充実感と多幸感。
快楽が頭脳を埋め尽くし、何も考えられない。それさえ億劫だ。
 そして疲労も時間の感覚も忘れたころ、ようやく俺達は動きを止める。
あれだけ音を吐きだしたのに、あっという間にそれは消えていく。
それにかわるように、今度は観客が絶叫する。
「やったな」
 今まで背を向けていた男が振りかえる。その表情は達成感に満ち満ちていた。
「ああ。次もうまくいくさ」
 俺の言葉に男は笑う。その笑みは、どこか悲しそうだった。


 第四章


「何だって……?」
 武道館での演奏を終え、専用の控室に戻った俺は、リーダー格の男に聞き返した。
「解散するって、どういうことだ」
「そのままの意味だ。もうこのバンドは終わりにしよう」
 男は椅子に腰かけ、俯いている。俺はそいつの胸倉を掴んだ。
「ふざけるな。まだ表彰式も終わっていないのに」
 いや、入賞をどうこう言う以前に、全国規模のこのコンテスト、その決勝まできたのだ。これを踏み台にすればプロデビューだって夢じゃない。
レコード会社がほっとかないだろう。そうすれば、音楽で飯が食えるようになる。これを見逃す手はないはずだ。
「そうだな。多分俺らは入賞してるだろうな」
 無関心そうな視線を俺に向け、男は掴んでいる手を解く。
「だから、もう終わりなんだよ」
「―っけんな! 好きで始めたことなんだろ!? だったら何でやめちまうんだよ!」
 わけがわからない。気がついたら拳が相手の顔にめり込んでいた。ふっとび、ロッカーを滑る男の体。その様子を残りの二人が黙ったまま見ている。
「これからだろうが! これからバンバン売りだして……!」
「そして使い捨てられるのか」
 ゆっくり起き上がり、口の端から血を流しながら、男は俺に鋭い視線を飛ばす。
「たしかに金は入るだろうな。でも、その代償に自由を奪われる。こっちの考えを無視して、商業主義の名のもとに、大衆受けのする曲を量産させられる。
あらゆる商売のために体を酷使させられ、企業にとっては利潤を生みだす道具扱いだ。そんなことをするために俺は音楽を始めたわけじゃない。
そこに俺の求めたものはない」
 俺は残りの二人を見回した。こいつらは、こいつらはどうなんだ? こいつと同じ考えなのか?
 一人は肩をすくめながら、
「ま、ここいらが潮時じゃねえかい?」
 もう一人は小さく頷いて、
「私も留学の話がありますし、これ以上続けるのは厳しいですね。引き際としては的確かと」
 俺は膝を落とした。何だよそれ。皆ここまでがんばってきたんじゃないか。それをどうして、こんな簡単に捨てられるんだ。
必死になってたのは俺だけなのか? 他に居場所があるから、こいつらはこんなに余裕なのか? 誰か教えてくれよ。
 何で、何で――。





669:名無しさん@ピンキー
10/05/15 04:18:14 jASEa/JC


「あ、気がつきました?」
「ここは……」
 見知らぬ天井が見える。次に目に入ったのは、真鍋の嬉しそうな顔。見回すと、白い壁やカーテン、透明な管やパックがある。
どこにいるか、すぐに察しがついた。
「病院か」
「ええ。突然倒れて、ここまで先生が運んでくれたんですよ。仕事があるから、ってもう帰られましたけど」
 あいつがどこにいるか探そうとすると、彼女がすぐに付け加えた。そうか、と俺は頭を再び枕にのせる。
それにあわせて腕と繋がったチューブが揺れた。どうやら点滴をうたれているらしい。
「何でだ」
「原因はよくわかっていません。ただ、お医者さんの話だと、栄養失調か過労だろう、と」
「違う、お前のことだ」
 俺のことじゃない。どうして真鍋が付き添っているのかが気になるのだ。いや、それ以前に―。
「どうして俺に構う。そんな必要も理由もないだろ」
 前々から不思議だった。こいつはやたらと俺に関わろうとする。どう考えても不合理だ。
そこまでする価値が自分にあるとは思えない。
 眼鏡の奥にある瞳が揺れる。小さな両手が俺の右手を包む。それだけでわずかに心が休まる。
しかし、だからといって疑念が消えるわけではない。
「心配だから、じゃだめですか」
「俺のことなど、放っておけ」
 それがお互いのためだ。俺には俺の生き方があるし、真鍋だってそうだ。こいつならもっと上へ行ける。
能力の高い人間は、その限界に挑戦した方がいい。もっとも、それがもうできない俺には、関係のないことだがな。
「放っておけませんよ」
 俺の手がぎゅっと握られる。ひんやりとしたその感触が、火照った体には心地いい。
だが、それが一抹の不安ももたらす。この感触を失うのが怖くなる。いつもそうだ。
居心地がいいと思った場所は、たいていこちらが信用しきると、すぐに手の平を返す。
親も、友も……何もかもそうだった。失った時の悲しさ、苦しさは尋常ではない。
 だから、怖いんだ。
「私は、あなたのそばにいたいんです」
「やめろ」
「拒絶されたって構わない。それでも私はあなたといたい」
「やめてくれ」
 聞きたくない。これ以上優しくしないでくれ。これ以上求めないでくれ。期待してしまう。依存してしまう。
失うものが増えるだけなのに、それに身を委ねてしまう。そんなことをしても、結局辛くなるだけだって、わかっているのに。
 しかし真鍋はやめようとしない。あの時の、何かを決心したような顔で、言葉を紡ぐ。
「私はあなたが好きです」
「…………馬鹿野郎」
 いつの間にか、彼女の手を握り返していた。





670:名無しさん@ピンキー
10/05/15 04:18:53 jASEa/JC


「お前は馬鹿だ」
「そうかもしれませんね」
「こんなろくでなしのどこがいいんだ」
「ろくでなしだから、かな」
 起き上がった俺が睨むと、真鍋が小さく笑って「ごめんなさい」といった。まったく、昔から女という奴はよくわからん。
「いいじゃないですか。好きになっちゃったんだから、しかたないでしょ?」
「知るか」
 少女の視線から逃げるように目を背ける。どうも居心地が悪い。
いや、悪い気はしないのだ。だが、どうにもいたたまれない。
どう処理していいかわからない感覚だ。
「それに、損得だけで物を考えても、疲れるだけですよ」
「……そうだな」
 たしかに疲れる。だが、それが一番傷つかない生き方でもあるのも事実だ。
打算的に生きれば、利益という免罪符が発生する。たとえ人として間違っていても、それで納得ができる。
感情的に生きれば、基準が曖昧になり、どうしていいかわからなくなる。結果、いつのまにか大切なものを失っている。
だったら、前者を選ぶ方が楽ではないか。傷つかず、利だけを求めつづければいいのだから。
「だが、それで誰も傷つかないなら、それでいいんじゃないか」 
「怖いんですか。人と関わるのが」
「かもな」
 真鍋は一度微笑んで、そっと俺の首に腕をまわした。久しく感じていなかった、人の温もりを感じる。
制服越しの柔らかさに包まれ、ゆっくりと瞼を下ろす。上から少女の声が降ってきた。
「少しずつでいいんです。少しずつ慣れていけばいいんです。私がそばにいます」
「……勝手にしろ」
 彼女の行為はもちろん嬉しいのだが、それを素直に認められる程俺は人間ができていない。
もう少しうまく生きられれば、この人生も少しは違っていただろうに。
 
 まったく、嫌になる。


671:名無しさん@ピンキー
10/05/15 04:20:13 jASEa/JC

 しばしの抱擁を終え、真鍋は礼儀正しく別れを告げて帰っていった。
彼女から連絡を受けたのか、それからすぐに医者と看護師がやってきて、いくつかの質問を受けた。
その後、医師は聴診器やペンライトでの診察を済ませ、「一日様子を見て、問題なければ帰ってよろしい」、と言った。
(戸締りしてないんだが)
 まあ、そこは真鍋がうまくやっているだろう。そんなことをぼんやり考えて、『ああ、いつのまにかあいつに頼ってるな』と気付き、微妙な気分になる。
気恥ずかしいような、こそばゆいような、奇妙な感覚。悪くはないが、だからといって全肯定できるものでもない。そんな単純に判断できないのが、俺なのだ。
「おーっす」
 白衣の次にやってきたのは、田井中だった。静寂はあっという間に崩壊し、奴の声が場を支配する。
それをどうこういうつもりはないが、少しは静かにした方がいいんじゃないか、とは思う。
「和から聞いたよ。ぶっ倒れたんだってな。大丈夫か?」
「まあな」
 医者にもいったが、体に違和感はない。多分大したことはないだろう。
最近色々あったからな、肉体的にも精神的にも。ガタがきてもおかしくはない。
「それで、何の用だ。さすがに今日は店を開けんぞ」
 真鍋の時とは違って、こいつはある程度見当がつく。タダ食い(出世払いだが)できるなら、積極的に利用したいだろう。
 しかしこいつはチッチと人差し指を振って否定する。
「私はそんなに食い意地張ってませんぜ」
「じゃあ何だ」
 まさかこいつも……いや、それはないか。田井中は顎に手を這わせ、わずかに唸る。
「うーん。きっぱりとはいえないんだけどさ、そうだな……あんたといると、落ち着くんだ。うん、それが理由かな」
「ああ、そうかい」
 俺はお前の精神安定剤ではないんだがな。まあ、店としては客に満足してもらえるなら、言うことはない。
 そう、店としては。
「だけどな、お前の居場所は別にあるだろ」
「ん?」
 昔の俺にあって、今の俺にはないもの。友や夢、そうした環境がこいつにはまだある。それをないがしろにするのはどうだろうな。
少なくとも、過去の自分がそうしていたら、迷わず俺は止めようとするだろう。
「俺に構うな。今は目標や仲間に構ってやれ。いずれそいつらとは別れがくる。だからな、後悔のないようにしろ」
 わかってはいるのだ。あの時のあいつの判断は正しかった。だが、俺はずっと続けたかったんだ。
あいつらと、ずっと付き合っていたかった。喧嘩もしたし、絶交したこともある。それでも、結局はつるんでいた。
そこに俺の居場所はちゃんとあった。だからこそ、それがなくなるのがいやだったんだ。そういった感情によるしがらみが、今も俺とあいつらを隔てている。
 こいつには、そうなってほしくない。
「それにケリがついて、行くあてがなくなったら、俺の所にくればいい」
 それだけいって、布団をかぶった。返事を聞く気はない。俺は教師じゃないんだ、人生相談してやる義理はない。
俺は言いたいことを言ったまでだ。それに少し疲れた。こんなゆっくりできる時間はそうそうないのだから、休めるだけ休んでおきたい。
 ガチャ、とドアが開き、やがて閉まる。あいつがどんな表情で、何を思ったかは知らない。
でも、動き始めたということは、そういうことなのだろう。その先を考えるのはあいつにしかできないのだ。俺が気にしても意味はない。
 ふと、思う。

 真鍋和
 田井中律
 
 この二人に対して、俺はどうすればいいのだろう。いや、それ以前に、俺自身の問題がある。
きっとこのまま意地を張っても、後悔するだけだ。それはわかっている。しかし、だからといって最善策を実行できるほどの器量はない。
 暗闇に意識を沈めながら、そんなことを考える。

 
 ―そうだな、せめて―。
 

   ――せめて夢の中では、素直でありたいものだ。
 



 ドラムルート  ~ノーマルエンド~


【おしまい】

672:なかがき
10/05/15 04:21:25 jASEa/JC
次、いきます。

673:名無しさん@ピンキー
10/05/15 04:21:50 jASEa/JC
≪《アーカイブ》が更新されました≫

 


   ≪はじめから≫
   ≪つづきから≫
   ≪新規ルート≫
 ニア≪アーカイブ≫ New




   『とある姉妹の恋慕 姉編』
   『とある姉妹の恋慕 妹編』
   『水天の落涙』
 ニア『少女の幸福論』New


≪ファイルが選択されました≫



 しあわせってなんでしょう。
 おかねでしょうか。
 おしごとでしょうか。
 
 わたしには、よくわかりません。


 『少女の幸福論』



674:名無しさん@ピンキー
10/05/15 04:22:51 jASEa/JC


「もうすぐ一年生も終わりだね~」
「そうね」
 たまに行く喫茶店に、私と唯はいた。私は生徒会、唯は軽音部があるから、最近はこうして話すことも少ない。
それを嘆く気はないけれど、それでも、やはりさみしい気持ちにはなる。
「私、高校生になってよかったよ」
「あの人にまた会えたから?」
「えへへ。それもあるよ」
 幼なじみは解け始めたアイスのように笑う。あの人とこの子は幼稚園の頃、一度会っただけの関係。
普通なら、やがて相手を忘れ、なかったことになっているだろう。事実、再会した二人は、どちらも覚えていなかった。
しかし、それでも将来を誓った約束は、今こうして果たされている。不思議なものだ。
自分が関与したせいかもしれないが、そうだとしても、結果としてこうなったのなら、それは運命ではないだろうか。
私はヒントを与えただけだ。それをどう扱うかは、あの人次第だった。そして、彼は過去と向き合うと決め、伴侶に唯を選んだ。
 それだけの話だ。
「軽音部の皆とも会えたし、軽音も面白いし、ギー太だって……あ、もちろん和ちゃんもだよ」
「いいよ、気を遣わないで。わかってるから」
 笑みを返し、湯気の上る紅茶を口に含む。春というにはまだ寒いので、温かい方がありがたい。
胃に滑り落ちた熱で暖まるのを感じる。
「幸せそうね」
「うん。和ちゃんは?」
「私は……そうね、幸せよ」
 そういいつつも、そうは思っていない。そもそも、何が幸福に値するのかよくわからないのだ。
教科書にあることは一通り覚えたが、そこにあるのはありきたりな事実ばかりで、役には立たない。
 もちろん、そういった観念は、個人差がある以上、定義できないことは知っている。
しかし、だからといって自分にそんな観念があるわけではない。ゆえに悩む。
 よくある物語では、運命的な出会いや境遇でのラブストーリーが、さも幸福であるかのように描かれている。
たしかに、唯とあの人は幸せそうだし、それに異論はない。ただ、それを自分が求めるのは違う気がする。
白馬の王子をいつまでも待つというのは、どうも納得ができないのだ。もっとも、『では、他に何かあるのか』と問われると、答えに困るのだが。
「誰かと付き合ってるの?」
「え?」
 一瞬固まる。この子は藪から棒に何を言いだすんだ。
「なんかそんな気がしただけ」
「う~ん……」
 たしかに、そんな関係と言えなくもない相手はいる。しかし、あれを恋愛関係と称せるかどうか。
好きだと告白したが、かといって明確な変化はない。デートをしたこともなければ、キスの経験もない。
ただの雇用主と雇用者の関係だ。
 そう、私は彼に自分の想いを告げた。どこに惹かれたかは具体的に説明できない。
昔からのああいう性格が、貴く、美しく見えたのかも。
「……かもね」
「え? 誰々?」
 興味津々といった調子で尋ねる唯に、なんと答えればいいか考えていると、不意に窓の外で見慣れた姿を見つけた。
「ねぇ、あれ」
「へ? ……あ!」
 そこを指差すと、唯が急いで店外へ出た。その男性のもとへ一直線に走り、勢いよく抱きついている。まったく、少しは周りの視線を気にしたらどうだろうか。
でも、それが彼女のいいところでもあるのだ。天真爛漫なその性格が、たまに羨ましくなる。


675:名無しさん@ピンキー
10/05/15 04:27:05 cd+scEf0
支援

676:名無しさん@ピンキー
10/05/15 04:27:22 jASEa/JC
「じゃ、私は行くね」
 支払いを済ませ、遅れて店を出た私は、二人にそう告げた。お邪魔虫になるわけにはいかないだろう。
「うん、またね」
 手を振る唯に片手を上げ、その場を後にする。さて、どうしようか。このまま家に帰って勉強することもできるが、そんな気分でもない。
というか、友達がいちゃいちゃしている時に、そんなことする気になる人がいるのだろうか。
 しばらく歩いていると、とある店の前に着いた。バイト先の飲食店だ。足が無意識に向かってしまったらしい。
今日はなぜか休業になったので、することはないのだが、来た以上しかたがない。何か手伝うことくらいあるだろう。
 裏口に回り、カギを開けて入ると、彼が座敷で転がっていた。また倒れたのだろうか。
「どうしたの?」
「むー」
 しゃがんで聞いてみると、彼がゆっくり身を起こす。とろんとした視線が向けられる。普段と違い、覇気がまったくない。
 その理由は、近づくことによってわかった。お酒臭い。つまり、そういうことなのだろう。
「のどかぁ」
 突然名前を呼ばれ、どきっとした。この人はいつもぶっきら棒で、こんな風に言われたことはないのだ。
 彼のたくましい腕が私の背中に回り、そのまま畳の上に押し倒される。とっさに顎を引いたので、なんとか頭をぶつけずに済んだ。
「えっと……」
「ん~」
 彼は私の胸に顔を擦り寄せるだけで、それ以上のことは何もしない。期待したわけではないが、予想とは違って微妙な気分だ。
「よしよし」
「んー」
 とりあえず頭を撫でると、嬉しそうな声を出した。酒が入ると、性格が変わることがあるらしいが、これがそうなのだろうか。
 まあ、これはこれで可愛いからいいのだが。いつもの、意地っ張りで強がる彼とのギャップに戸惑いつつも、
しばらくそうしていると、やがて寝息が聞こえてきた。
(どうしよう)
 このまま帰ることもできる。布団を用意して、そこに寝かせることも可能だ。けど、このままでもいいかもと思っている自分がいる。
 それが母性本能によるものか、愛護精神によるものかはわからない。ただ、そうしたいのだ。明確な理屈などない。
(まったく。成長したのは体だけなのかしら)
 不器用な人。それが初めて会った時の印象。幼稚園児の私がそう思うんだから、周りの人達もそう感じていただろう。
 だから、かな。あの時自分が興味を持ったのは。遊ぼうと誘ったのは。
 そんなことを考えながら、眼鏡をはずし、瞼を下ろす。こういうのもたまにはいい。いい夢が見られそうだ。
心地よい重さを感じながら、私も夢の中へ旅立っていく。



677:名無しさん@ピンキー
10/05/15 04:28:00 jASEa/JC

『一緒に遊びませんか』
 園児達とどう接していいかわからない、という風で棒立ちだったその人は、小さく頷く。
『ああ。何をする?』
『おままごとでいいですか?』
 別に何でもよかったのだが、なんとなくそれがいいように思えた。彼はわずかに顔をしかめる。 
『…………』
『だめですか?』
 そう問う自分がどう映ったのか知らないが、彼は慌てて首を振る。
『いや、それでいい』
 まあ、そんなわけでやってみたのだが、あまり盛り上がりはしなかった。
もっとも、この遊び自体そうした要素がほとんどないのだから、しかたがないといえばしかたがない。
『悪いな。俺にはどうすればいいかわからない』
 テーブルの向こうで、彼はすまなそうに俯く。
『家族というのが、よくわからないんだ』
 その意味を察するのに、それほど時間はかからなかった。何かの事情で、一人ぼっちになったのだろう。
幸い、自分も知り合いもそんな境遇ではないが、話には聞いたことがある。大人の世界は複雑のようだ。
『じゃあ教えてあげますよ』
 彼が顔を上げる。その瞳は、ずいぶん弱々しく見える。まるで捨てられた子犬だ。
何かに縋りたいが、それができない―そんな様子。
『一緒にいれば、少しずつわかりますよ』
 その言葉に嘘はない。そうしてもいいと思ったのだ。惚れた、というわけではない。燃えるような恋というより、静かな好奇心。
この人と生きるのもいいかも。そんな考えが脳裏に浮かんだのだ。今は無理かもしれない。それでも、いつかは……。
『やめとけ』
 しかし彼の返答はそっけなかった。憂いを帯びた笑みでこちらの申し出を拒否する。
『俺といてもロクなことにならない』
 経験でいっているのか、それとも怯えているのかはわからない。ただ、それを決めるのは私であって、彼ではないだろう。
別にボランティアで言っているわけではない。自分がそうしたいだけだ。
『いやです』
 だから否定することにした。すると彼は一瞬ぽかんとし、それから視線をそらす。
『……勝手にしろ』
 私は胸中でくすりと笑う。どうやら照れているようだ。中々可愛いところもあるではないか。
 うん、じゃあ勝手にさせてもらおう。あなたがやめろと言っても、諦めるつもりはないよ。
 だってしかたないでしょ? 出会ってしまったんだから。


「おい、起きろ」
 夢と比べ、幾分か野太い声が聞こえる。ぼやけた視界にあったのは、大人になった彼の顔。いつかと逆になったわね。
「何で俺とお前が……」
「あなたが押し倒したんでしょ」
 眼鏡をひっかけながら言うと、彼はわずかに狼狽した。その様子を、顔に出さずに楽しんでから、ふと時計を見る。
もうすっかり日が暮れている時刻だ。
「帰るね」
 服にできたシワを直しながら立ち上がると、腕を掴まれた。少量の期待をこめてそちらを向く。
「……送ってく」
 むすっとした顔で、目を背けている彼は、やはり可愛い。お互い外からそのままの服装だったので、すぐに外出できた。
 外はすっかり暗くなっていて、雪でも降るんじゃないかってくらい寒い。こういう時は寄り添って、熱を共有するものだ。
一瞬、公衆の面前で相手に飛び付く友人を思い出し、わずかに首を振る。さすがにあんな真似はできないが、これくらいなら……。
「ひっつくな」
 彼の腕にそっと絡まると、すぐに解かれた。そんなに恥ずかしいのだろうか。赤くなった耳を尻目に、私は眼下にある大きな手を握ることにした。
「…………」
「これならいいでしょ?」
「……勝手にしろ」
 彼特有のお許しが出たので、そうさせてもらうことにする。握った手から伝わる、わずかな強張りや汗に苦笑しつつ、夜道を進んでいく。


678:名無しさん@ピンキー
10/05/15 04:28:35 jASEa/JC
 
 ロマンチックなラブストーリーじゃなくてもいい。ただ、この人と一緒なら、それでいい。
 たとえ、これがままごとのようなまやかしだとしても、私の中ではこれが真実なのだから。

 ああ……。

 これがもしかしたら、私にとっての幸福なのかもしれない。




 
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679:あとがき
10/05/15 04:45:06 jASEa/JC
新年云々いっていたのが、気がつけばもう新年度も少し過ぎた今日この頃。
思考錯誤と紆余曲折を経て、ようやく一区切り。
そんな迷走っぷりを、このルートが如実に表しているような気がするわけです、はい。
ギターやベースで差っ引いた背景やら何やらのツケを、ここで清算したから、ある意味一番割を食ってるんじゃないかな。

まあ、そんなこんなで、あれから一年経とうとしています。
それまでに、決着がつくといいんですけどね。どうなることやら。

とりあえず、お互い五月病に気をつけましょう。
それでは、今回はこのへんで。



680:名無しさん@ピンキー
10/05/15 09:38:25 d6fYJJ3p
>>679
乙!
久しぶりに続き来てたー!!
ノーマルエンドって事は………

681:名無しさん@ピンキー
10/05/17 16:28:19 qCwBDCHT
>>679
もういらっしゃらないかと思ってました。戻ってきてくださり、とてもうれしいです。

ノーマルエンドですか……まだ続きがありそうですね。
それとも、キーボードルートが始まるのでしょうか? なんにせよ、これからも期待しております。

682:名無しさん@ピンキー
10/05/18 00:37:52 VjGqI3+G
百合スレの方が活気あるな。
まあ、当たり前か。

683:名無しさん@ピンキー
10/05/18 17:49:02 Z5OV1paS
けいおんには一切合切
男キャラがいないから仕方がない

一応聡がいるけど出したら
聡氏ねとか言われんだろうなw

684:名無しさん@ピンキー
10/05/18 18:43:33 LsG4qOgW
男出したパロはここでは駄目なんですか?

685:名無しさん@ピンキー
10/05/19 11:08:31 dgezoNvu
ここで良いと思いますよ
聡でもオリキャラでも大歓迎

686:青太郎
10/05/19 15:55:00 ete1XxVz
それは何より。
聡かそんな奴もいたな。
データ全然ないから、どっちにしろオリキャラ同然になってしまうという……。

687:名無しさん@ピンキー
10/05/19 15:55:55 ete1XxVz

   ≪はじめから≫
   ≪つづきから≫
 ニア≪新規ルート≫
   ≪アーカイブ≫


≪!注意!≫


≪すでに特定のルートのセーブデータが存在するのでルート選択・変更が制限されます≫ 






 何もかもがつまらなかった。与えられた作業を淡々とこなす日々。そこに興味や歓喜など皆無で、ただの作業。
つまらない、あまりにつまらない。しかし、それを放棄することは、自身の存在意義の喪失を意味する。
ゆえに、辟易しながらも、絶望しながらも、ただただ作業を続けていく。まるで機械だ、と自嘲したのはいつからだろうか。
もう、覚えていない。
 その日もいつものように作業をこなしていた。与えられたカリキュラムを消化し、次の作業場へ移動する。
いつだって不変の世界。おそらく一生をこの世界で費やすことになる、そう考えていた。

 しかし――。

「なあ、ピアノうまいんだって?」


 唐突に、その世界は変化を―色を帯びていく。


  キーボードルート~ピアニスト~


 いつだって変化というものは突然やってくる。こちらのことなんかお構いなしだ。
 あの時のことを思い出し、私はわずかに口元を緩める。
人生に転換期があるのだとしたら、あれがそうなのだろう。
いきなりやってきて、バンドをやろうなどと言われるとは。

「どうかしたかね」
「……いえ、それでは失礼します」
 眼前の男の声で我に返る。手元の資料を二、三確認し、私は腰を折った。

「引き続き融資の方は……」
「ええ。もちろんそのつもりですし、あなたと生徒の“個人的な”関係にも干渉しません」
 別にそんなことはどうでもいいのだ。彼女さえ問題なければ、それでいい。
 この男―校長が影で何をやっていようが、頓着する気はなかった。

「では、彼女の保護をこれからもよろしくお願いします」
 それだけ言って、私は無駄に豪華な扉に手を掛けた。
「なぜそこまでこの少女に手間をかけるのだね。やはり君も―いや、失礼。忘れてくれ」
 笑いを含んだ声の主を一瞥すると、どんな風に映ったのか、彼は慌てて訂正した。
それに反応することさえ面倒なので、さっさと退室させてもらう。



688:名無しさん@ピンキー
10/05/19 15:56:45 ete1XxVz


 まったく、あれがここの責任者とは、世も末だ。
 いや、ああいうタイプだからこそ、上に立てるのだろうか。
 まあ、それはどうでもいい。要するに都合のいい人材なのだ、あれは。
金さえ積めば言いなりになる、ありふれた人間。これほど動かしやすい駒はない。

「お兄様」
 聞き慣れた声に気付き、私は何気ないしぐさで持っていた資料をカバンに放り込む。
これを見せるわけにはいかない。
「紬さん」
 振り返ると、そこにはいたのは彼女だった。相変わらずの笑みでこちらに近づいてくる。
「最近学校でよく会いますね」

「あなたとこうして会うためですから」 
「まあ」
 嬉しそうに微笑む彼女を見ていると、先程の嫌悪感があっという間に霧散する。
 
 もちろんこの少女―琴吹紬と血縁関係はない。ただ、兄のように慕われているだけだ。
それに関してどうこう言うつもりはないし、どうしようとも思わない。この関係を自分は気に入っている。

「部活動ですか」
 腕時計をちらりと見てから尋ねると、彼女は小さな顔を傾ける。
「ええ。今日はロールケーキを持ってきたの。皆喜んでくれるかしら」
「ははは。羨ましい限りです」
 自分の頃はもっと過酷だったな、と思い返し、少し憂鬱になる。
あの頃は地獄だった。あれに比べれば、西欧の英才教育など霞んでしまう。
「よかったらご一緒しませんか」
「いえ、そうしたいのは山々なのですが、少々用事がありまして」
 それほど急ぐ用でもないのだが、そういうシナリオの方がいいだろう。
彼女には学友との時間を大切にしてもらいたいのだ。
「そうですか。それは残念です」
「申し訳ありません。ですが今晩にでもそちらへ伺いますので、よろしければその時にでも」
 しゅんとする彼女の髪をそっと撫で、そう告げると、途端に目の前の花が咲く。
「はい、喜んで」
「では、行ってらっしゃいませ」
 背中をぽんと叩き、彼女を促す。長い髪が揺れて遠ざかるのを見届けてから、私は職員室へと向かった。

 
 最初は不安だった。この世界をよく知らない彼女が、普通の高校生と交われるのだろうか。
異端視され、虐げられないだろうか。そのために自分が随時視察しているのだが、どうやら杞憂らしい。
もっとも、だからといってこれを止めるつもりはない。万が一、ということがある。 

 それに、ここには存外“狼”が多い。



689:名無しさん@ピンキー
10/05/19 15:58:05 ete1XxVz

「お、どうした。何か用か」
 廊下を歩いていると、無意識の狼が職員室から出てきた。
「ええ、あの方に会いに参りました」
「ああ、先輩ね。今いるよ」
「そうですか。ところであの件、考えてもらえましたか」
 彼はわずかに困った表情をして、ややあって、口を重たそうに開く。
「やってみても、いいかもな……」
「ほう。それは何より」
 バンドの再結成も近いかもしれない。ここはもう少し押してみるか。
 そう思って言葉を出そうとした所で、彼の携帯電話が鳴った。
「あ、ちょい待って。何だよ、何か用か? ……いや、今日は普通に帰るけど。
『じゃあ私も帰る』っておいおい。部活をやらんか部活を。…………。ああ、はいはい。
わかりましたよ。行けばいいんでしょ、行けば。……ったく」
 携帯電話を畳んだ彼は、すまなそうに片手を上げた。
「悪い、ちょっと野暮用できた―って、何で笑ってんだ?」
「いえ、あなたらしいと思いまして。では、私はこれで」
 不思議そうな顔をした友人をそのままに、私は室内に踏み込んだ。
はたして、そこには目的の人物がいた。

「あら。……例のあれ?」
「はい、お願いします」
 山中教諭は机の中から、一枚のSDメモリーカードをこちらに差し出した。
それを慎重にカバンに収める。これには部活での彼女の様子や、この人の所見が入力されているはずだ。
「しかしあなたもよくやるわね」

酔狂だと自覚しています」
「まったく。どいつもこいつも若い子ばっかり。ここに美人がいるっていうのに」
「面白い冗談ですね―いえ、失礼致しました」
 殺気を帯びた眼光を感じ、即座に修正。まだ私は死にたくないのでね。
「私は彼女をどうしたいとか、そんな気はありません」
「妹みたいな存在って奴? はんっ、どうだか。男なんてみんな獣よ」
「その獣に自らいただかれにいった結果、断られたのはどこの誰――おっと、すみません。口が過ぎました」
 さて、無駄話も程々にして、そろそろ退散しよう。一礼し、そこから去ろうとすると、声が飛んできた。
「本当にそうだとして、あの子がほかの男のものになっても、あんた納得できるわけ?」
「…………。彼女がそれを望むなら、それがすべてでしょう」
 微妙にずれた、逃げた返答をして、職員室を出る。


 考えなかったと言えば、嘘になる。
 いずれ彼女も恋をする。それが愛になり、やがて成就することもあるだろう。

 彼女が、望んだ相手と愛を育み、子を産み、やがて老いていく。
 当たり前の流れ、結果。それを否定する資格は誰にもない。

 そこに自分はいない。その現実に対し、私は明確な回答を持っていない。
 こればっかりは、その時にならなければわからないだろう。



「難しい顔してんな~」
「そう見えますか」
 中庭に出ると、用務員に声を掛けられた。やる気なさそうに箒を振っていた手をとめ、力強く頷く。
「見える! おいちゃんが保証するよ!」
「それはどうも」
 校長に持たされた和菓子を渡すと、彼はお茶を持ってくる、と言って購買の方へ走っていった。
 とりあえず近くのベンチに座る。  

 

690:名無しさん@ピンキー
10/05/19 16:00:42 ete1XxVz

 あの教師のように、流されればどんなに楽だろうか。
ただ相手の好意を受け入れて、それで済むのなら、自分だってそうしたい。
 
 いや、この考えはおかしいな。これではまるで―。

「へい、お待ち」
「……ありがとうございます」
 飛んできたペットボトルを受け取り、中身を口に含む。
清涼感が体を満たすが、それでも、わだかまりは消えてくれない。
「だいたいさ、悩んでる時点であたい的にはおかしいのよ」
 隣にどかっと腰を下ろし、彼は言った。
「やりたいと思ったら、そうすればいいじゃん」
「それはそうですが」

 彼のように明け透けだったら、それはそれで楽なのだろうな。
 まあ、相手は苦労するだろうが。

「そうしているつもりです。ですが、本当にそうなのか、よくわからないんです」
「哲学? 僕チン、学がないからよくわかんないよのさ」
「どうなんでしょうね」

 ぐっ、とペットボトルを握る。
 彼女のために、彼女の手助けをする。それは自分の本心だと断言できる。
 しかし、そこに至るまでのものが、判然としない。
 親への反抗か、妹への愛情か、あるいは別のものなのか。

 わからない。


「そういえばさ、あんさん仕事は?」
「今月の分は済ませましたよ。こちらは一度の実入りが多いので、あまり働きませんね」
「羨ましいことで」
「あの時解散しなければ、今頃あなただって印税生活だったかもしれませんよ」
 嘆息しながら彼は青空を見上げる。
「それを言うなー。後悔しちまうだろうがよー」
「ですね」
 私は苦笑して緑茶を飲み下した。



 持ち帰ったデータに目を通し、それをシステマタイズする。それを終える頃には、すっかり夜になっていた。
 夕食を簡単に済ませ、車に乗り込む。報告書を彼女の両親に渡すという名目と、彼女に会うためという目的で、あの豪邸に行くのだ。



691:名無しさん@ピンキー
10/05/19 16:02:07 ete1XxVz


 携帯電話が着信音を奏でる。ヘッドセットを接続・装着し、ディスプレイを見ると、彼女だった。
「どうしました」
『えっと、その……』
 不安そうな声色。相手が何を考えているのか、手に取るようにわかる。
「心配しなくても、今向かっていますよ」
『えっ―いえ、もちろん信じてます。ただ、遅いと、何かあったのかなって。だから、えっと……』
「大丈夫。私はいつでも紬さん第一ですから」
 思ったことをそのまま話すと、電話の向こうで彼女は慌てたような声を出した。
微笑ましいですね、まったく。
『じゃ、じゃあ待っていますから。一緒に御夕飯を食べましょう』
「ええ」
 腹に入るかな。ちょっと冷や汗をかきつつ、電話を終える。
自分を待ってくれるのは嬉しいが、家族と話せる数少ない機会なのだから、そちらを優先すればいいのに。
もしかして一家全員で我慢しているのか? そうだとしたら、急がないとまずいな。
アクセルをさらに踏み、速度を上げていく。数分で目的地が見え、さらに数分で目的地に着いた。
立派な門の前で身分証明書を提示し、さらに指紋認証をパスする。広い庭を駆け抜け、私は邸宅の前に車を停める。

 車を降りると、屋敷から執事の一人が現れた。私は彼の礼に合わせ、頭を下げる。
「お待ちしておりました」
「やあ、斉藤さん。お元気そうで何より」
「はっ。おかげ様で」
 軽く握手してから、斉藤さんにファイルした報告書を手渡す。
彼はそれをぱらぱらと捲り、「たしかに」と小脇に抱えた。
「あなたには本当に感謝しています」
「すきでやっていることです」
 広々とした廊下を、斉藤さんに案内されて歩く。
壁には高そうな絵画が均等に配置され、
所々に億はつきそうな像や壺が飾られている。
 ここまで豪華絢爛だと、感嘆する言葉さえ見つからない。
「その“すき”というのは」
「家族として、ですよ。分不相応でしょうけどね」
「いえ、滅相もありません。一執事として言わせてもらえば、あなたを次のあるじとするに、異論はありません」
 その声におどけはまったくなく、真剣そのものだった。
しかし、それに同調する気はない。ここは茶化させてもらおう。

「そんなこと言っていいんですか? ここの主人に言い付けますよ?」
「あるじも同意見でございます」
 私はわざとらしく、大げさにため息をした。
「まさか。いくら華族だったといっても、とっくの昔に没落している。今はもう庶民に毛が生えた程度ですよ」
「財力など問題ではありません。それを問題にしているのは、あなただけです」
 こちらを向く執事の顔に、一片の疑念もない。全幅の信頼が自分に放たれているように思えた。
「彼女には、もっと相応しい相手がいます。私なんかよりずっと」
 結局、またずれた、逃げた答え。いるかわからない、あるかわからないものに押し付ける。

 まったく、我ながら情けない。

「……今はそういうことにしておきましょう。着きました」
 斉藤さんが扉を開くのと、中から少女が飛び出すのは、ほぼ同時だった。
私は彼女をそっと受け止め、なだらかな腰に腕を回す。
「どうしました、紬さん」
 あくまで優しく、何事もなかったかのように語りかける。
よもや今の話を聞いたわけではあるまい。
「待ちくたびれました」
 屈託のない笑顔でそう言う彼女に笑みを返し、私は奥にいる彼女の両親に目礼した。
どちらも、微笑みを浮かべ、こちらを見守っている。



692:名無しさん@ピンキー
10/05/19 16:03:36 ete1XxVz


 大切な彼女、その両親や関係者。
 みんな大事だ。失いたくはない。傷つけたくはない。
 だからこそ、距離を保ちたい。

 だと言うのに、みんな近寄ってくる。
 もっとそばにいてほしい、と手を伸ばしてくる。
 その手を取るべきか否か、自分は悩んでいて……。

 
 私は胸中で深いため息を吐く。



 まったくもって、

 贅沢な悩みだ。

 
 
≪オートセーブします≫



≪セーブが完了しました≫

ニア 【第二章へ】
   【やめる】

  

693:あとがき
10/05/19 16:08:50 ete1XxVz
あとがきと言いつつ、特に書くことはありません。すんません。

694:名無しさん@ピンキー
10/05/20 13:04:02 VSwRwcCM
キーボードルート、待ってました。
主人公がいい性格してて良かったです。

しかし、あの校長が……そんなことを。
桜ヶ丘も末ですね……。

また、さわちゃんのキャラに笑ってしまいました。

695:名無しさん@ピンキー
10/05/21 07:34:46 UYS//flY
>>693
乙です
ドラムルートは煮え切らない終わり方だったから
キーボードルートに期待

696:名無しさん@ピンキー
10/05/22 17:46:30 ggbnNy+a
けいおん18禁ssです。

少し長い内容ですが、文章は最後まで
書きだめしてしてありあす。


「中野梓の災難」



それは、ある日のティータイムで起きた事件だった。


「澪先輩!」

「なに、梓?」

「パンツ見せてください!」

「ーーーーー!?」


澪は飲んでいた紅茶を、唯に
向かって派手に吹いてしまった。


697:名無しさん@ピンキー
10/05/22 17:56:13 ggbnNy+a
「なななーー何を言ってるんだ梓ぁ!」

「え? 何ってパンツですよ。パンツ。
 見せてくださいよパンツ」

「駄目に決まってるだろ! それに
 パンツパンツ連呼するな!」

「え~なんでですか?いいじゃないですか。
 減るもんじゃないし。一年のときの学祭ライブでは
 派手にパンチラしてたじゃないですか?」

「うわわ。服がびしょびしょ~だよ~。
 ひどいよ澪ちゃ~ん」

唯の服に紅茶が滴る。

「あの時は転んだだけだ!
 というか何で私のパンツが見たいんだ!?」

「私が澪先輩のことを愛してるからです」

「ひぃぃぃぃ!!」

それがどうかしたの? というそぶりで返答する
梓に澪は寒気を感じてしまった。

698:名無しさん@ピンキー
10/05/22 18:07:28 ggbnNy+a
「あの~私の服がびしょ濡れなんでだけど~」

「澪先輩が嫌なら、しょうがないですね。
 今からスカートを脱がせます」

「ちょーーちょっと待って!」

「そんなに恥ずかしがることないじゃないですか。
 全くわがままな先輩ですね」

「そっちの方がわがままだ……!
 ちょっと! だ、誰か助けてーーーー!」

「もう! 聞いてるの!? 澪ちゃん!? 私の服が~~~~~!」

「わあ! 今日のパンツはピンクのしましまだぁ!」

「きゃーー! めくらないでぇーー!」

澪はスカートを必死に押さえているが、一部を
梓にめくられていた。

699:名無しさん@ピンキー
10/05/22 18:15:30 ggbnNy+a

「すごーい! 夢にまで見た澪先輩のパンツです!」

「やめてーー! スカートを脱がそうとしないでえ!」

「ねえ! 無視しないで、人の話聞いてよぉぉぉぉーー!」


三人が奏でるカオスと言う名のハーモニー。

そんな心温まる放課後の音楽室で、紬と律だけが冷静に
お茶を飲んでいた。

ティーポットを手にした紬が尋ねる。

「りっちゃん、お茶のおかわりはいかがかしら?」

「……え? あ……そうだな。もらおうか」

律が差し出したカップに、ゆっくりとお茶をついでいく紬。
高級品と思わせる紅茶のいい香りがただよった。

700:名無しさん@ピンキー
10/05/22 23:53:50 nnKr34M2
>>699
投下が終わったらすぐに「終わり」と入れておくと良いと思うよ。
乙。

701:名無しさん@ピンキー
10/05/23 12:46:58 H32sTuW4
誰か平沢姉妹強姦征服
つまり姉妹丼SSを

702:名無しさん@ピンキー
10/05/23 19:33:57 3rjuzGWM
豚ニートが粗チンこすりたいと言っております↑

703:名無しさん@ピンキー
10/05/23 20:00:28 wfen0rCL
>>701
結構前に青田郎氏が書いてるよ。強姦じゃなかったけどね。
エロかったからおすすめ。このスレの123から126を調べればきっと幸せ。

704:名無しさん@ピンキー
10/05/23 22:09:54 yHm1BmZK
二期のモブ子たちの絡みとか見てみたい

姫子×唯とか、姫子×地味子とか
HTT&モブ子達…と言うより、3-2クラス&憂・純・あずにゃんで百合大乱交とか…

705:名無しさん@ピンキー
10/05/24 01:03:12 Ix57B7bH
>>703
>>126よかった、姉妹丼完食はやっぱり最高

706:名無しさん@ピンキー
10/05/25 00:01:30 Mgd5Su1y
聡と誰かが絡む話はないのか?

707:名無しさん@ピンキー
10/05/25 02:34:46 420r3cu7
>>706
>>554に澪と絡むやつはあるよ
途中で止まってるけど

708:名無しさん@ピンキー
10/05/25 11:51:49 FLQRIXz9
未完かよ

709:名無しさん@ピンキー
10/05/25 17:07:13 As9gALJC
和が最近、マイブームだ
クールな顔をして、会長とか食っていそうだ

710:名無しさん@ピンキー
10/05/26 00:01:00 mVYRd/p0
和は円光やってるとかそういうビッチな設定見てきたからなあ・・・

711:名無しさん@ピンキー
10/06/02 18:51:34 WmJkS4I9
 凋落した家門の復興。それが自分の生まれた理由らしい。
本当に最初からそうだったのか、途中からそうなったのかは知らない。
ただ、そのために生まれたのなら、そのために生きなければならないだろう。
それが自分の存在意義なら、それを実行しなければ、自分が生まれた意味などないのだから。

 そう――。

 彼や彼女と出会うまで、ずっとそう考えていた。


 第二章


『俺の占いが……やっと…………外れる』
 二度目の夕食を終え、広々としたベッドの上に吊るされた、巨大なテレビを眺めていると、誰かがドアを叩いていた。
察しはすぐについたので、「どうぞ」と一言返す。わずかに音を立てて、扉が開く。
「起こしちゃいましたか?」
「いえ、少し考え事をしていました」
 リモコンを操作し、薄型のそれの電源を切ってから来訪者を迎える。不思議そうな顔をして、彼女はネグリジェ姿で客室に入ってきた。
「考え事……ですか?」
「ええ。紬さんが一人前になった後のことを、少し」
 昔とは違い、今は自分のやりたいように生きている。両親の意向に反逆し、彼女のために動いているのだ。
この少女が独り立ちできるようになるまで、自分はそばにいる。誰に命じられたわけでもない。自分自身の選択。
「どこかへ、行ってしまわれるんですか?」
「そこまでは考えていません。ただ、それも一つの手ではありますね」
 すると少女が悲しそうな表情をしたので、その頬をそっと撫でる。
「私を惜しまれるのはありがたいですが、いずれあなたはこの家を背負う身。自分を強く持たれた方がいい」
「でも、今は、今だけは……」
 撫でた手を小さな両手が包む。私はわずかに笑みを浮かべ、空いた手を重ねた。
「そうですね。今しばらくは、紬さんのそばにいるつもりです。それで、御用件は何でしょうか」
「えっと、その……」
 彼女は一度スリッパをぱたぱたさせて退室し、自分の枕を抱えて戻ってきた。ふむ、そういうことですか。
「少々窮屈かもしれませんが、それでもよろしければどうぞ」
 自分の上にのっていた布団をはぐると、少女はすぐに潜り込んだ。


「こうするのは久しぶりですね。いつぶりでしょう」
「私が中学生のころでしたから……二年くらい前です」
 はにかんでこたえる彼女に愛しさを感じつつ、私は小さく頷いた。
「ああ、なるほど。あなたが推薦を断って、一般に切り替えたので、ばたばたしていましたね」
 本当なら上流階級専門の学校へ行く予定だったのだが、彼女は急遽桜が丘へ進学すると宣言したのだ。
「あれには私も驚きました。あなたにはいつも驚かされる」
「だって、お兄様も言っていたじゃありませんか。『上に立つ者は、下にいる者を知らねばならない』って」
 恥ずかしそうに顔を布団で隠す彼女に、苦笑いを見せつつ、
「たしかにそうですが……。まさかいきなりその世界に飛び込むとは、予想だにしませんでしたよ」
 友人どころか知人さえいない環境に、わざわざ自分を置こうとは、普通思わないだろう。
しかしこの少女はそれを実行し、自分の居場所を作り上げた。
自他の境遇を度外視し、未知のそこに適応してみせた。
 立派だ。
 心底、そう思う。
 運命に抗うことは、それ程に難しい。
「そんなあなただから、惹かれたのかもしれませんね」
「あら。あの時からそう思ってたんですか?」
「さあ。どうなんでしょうね」
 曖昧な返事をして、私は瞑目した。自分でもよくわからないのだから、答えられるわけがない。



712:名無しさん@ピンキー
10/06/02 18:51:56 WmJkS4I9

 もしかしたら―。
 
 あの頃はただ、理由が欲しかっただけなのかもしれない―。

 運命から逃げるための理由が―。


「こちらでございます」
 斉藤と名乗った執事は、僕を庭園へ案内した。
ここでの目的は、琴吹家とのコネクションの構築。
それを足がかりに、経済界の大家によるネットワークを形成する。

 戦前私腹を肥やしていた特権階級のほとんどは、終戦と同時に財産や地位を奪われ、没落していった。
既得権益で甘い汁を吸ってきた連中に自活能力など皆無に等しく、大抵は庶民と同等―最悪それ以下―にまで落ちぶれた。
 我が家もその中のひとつで、今までは奇跡的に残っていた遺産で何とかなっていたが、自分が生まれる頃にはそれさえなくなり、
後に残ったのは、何の役にも立たないプライドだけだった。
「斉藤さん、ありがとうございます」
 僕が一礼すると、彼は困った顔をし、首を横に振る。
「いえ、斉藤で結構でございます」
「これだけしてもらって、チップさえ差し上げられないのです。せめて、敬意だけでも受け取ってください」
 意地とエゴで両親が僕に命じたのは、現在の特権階級である、財界のトップへの接触だった。
要するに、財産と地位のために、自分の息子を利用しようというのだ。
虚栄心もここまでくると、呆れを通り越して笑えてくる。
「それで、彼女は」
「あちらに」
 斉藤さんが指し示した樹木の影から、小さな女の子がこちらを窺っていた。
「彼女が?」
「はっ。紬お嬢様でございます」
『ピアノを嗜む子ども同士の交遊』。表向きはそんな所だ。実際はもっと意地汚い策略だが、そんなことあの子は知らないだろう。
欲望や嫉妬とは程遠い世界に生きているのだろうから。
「呼んで参ります」
「いえ、僕が行きます。その方がフェアだ」
 申し出を断り、彼女へ近寄る。といっても、別に策があるわけではない。
ただ、これくらいは自分でやって然るべきだろう、と思っただけだ。
 小さな瞳は不安そうにこちらを見ている。つまり、この子に安心してもらえばいいのだろうが、
そんなことできるかどうか。こちらも不安になってきた。

 とりあえず、こんなのはどうだろうか―。


「アウハゥアゥハウ―」
 右手を頭に、左手を顎に添え、ヒレを演出。
およそユーモアとは無縁だったので、これが受ける保証などない。
だが、自分の中では、“中々イケる”と自信がある。
「なぁに?」
 ダメだ。受ける受けない以前に、まるで伝わっていなかった。
僕はがっくり肩を落とす。
「マンボウのマネ……のつもりでした」
 そういうと、少女はくすくす笑って、こちらに近づく。
「へんなの」
「すみません」
 小さな女の子はさらに笑い、自分もつられて小さく笑う。
僕とは違う、純粋で無垢な存在。この子を見ていると、今まで気負っていた自分が馬鹿らしくなる。
 

 ―今思えば、それが彼女との出会いだった。

713:名無しさん@ピンキー
10/06/02 18:52:17 WmJkS4I9



「……っと」
 いつの間にか眠っていたらしい。すっかり日が昇っている。
することなんてないのだが、ここまで頭がすっきりしていると、二度寝する気にはならない。
 隣を見ると、あの頃からずいぶん成長した彼女がすうすう寝息を立てている。
私はその柔らかな頬に、そっと唇を落とした。

 もう彼女に取り入ろうとは思っていない。この少女が一人前になったら、自分は去るつもりだ。
そこから先のことは考えていない。ピアニストを続けるもよし、またバンドを組むもよし。
ヒマで困ることはないだろう。

「紬さん、朝ですよ」
 とりあえずこの女子高生を起こそう。私と違って、彼女には学校があるのだ。
自分で決め、自分の力だけで入った、あの学校が。
「ん……」
 肩を揺らされ、愛らしい瞼が開く。しかし、すぐに閉じ、少女は私に寄りかかる。
「もう少しだけで……」
 それだけ言って、すぐにまた寝息を漏らす。まいったな。そろそろ起きないと遅刻してしまう。
彼女とて、それは本意ではないだろう。かといって、叩き起こすのは気が進まない。

 しかたないな。
 
 私はその小さな体を抱き上げ、部屋を出た。
通りすがりの執事やメイドが挨拶をしようとして、ぎょっとする。
いい年をした男が、寝巻姿の令嬢を抱えて廊下を闊歩しているのだから当然だ。
「おはようございます。代わりましょうか」
「いえ、このままいきます」
 冷静に対応した斉藤さんに会釈して、私は彼女の部屋に向かう。
腕に感じるふんわりとした感触に、安らぎを覚えつつ、長い回廊を歩いていると、
曲がり角から彼女の両親が現れた。
「おはようございます」
 平然と挨拶。ここで狼狽すると、逆に怪しまれるというものだ。
「おっと……紬がまたベッドに潜り込んだのかね」
 特徴的な眉をした男性が微笑む。隣の奥方も笑顔を見せ、娘の寝顔を眺めている。
「ええ。おかげでよく眠れました」
「ははは。眠れなくても一向に構わんがね」
「もう、あなたったら」
 夫のさり気ない言いまわしに、夫人はくすりと声を漏らす。
 さて、どうこたえたものかな。反応の仕方に悩んでいると、腕の中で動きがあった。
「う~ん」
 震動か、会話か。どちらにせよ、外部の音が原因だろう。彼女がゆっくり目を開けた。
「ん……」
 目をこすり、右を見て、左を見る。それから上を見て、目が合う。
「紬さん、おはようございます」
 笑みを浮かべ、そう言うと、寝ぼけ眼がとろんと緩む。
「おはようございまふ……」
 それから、また寝ようとでもするように、大きな瞳は瞼に隠れる。
しかしそこで彼女は異変に気付いたらしく、すぐに周囲を見回し、私の腕の中で驚きの声を上げた。
「へ? ……え!?」
「おっと」
 暴れ出したので、慌てて下ろす。娘は両親の顔を見て、さらに困惑。
「あ、あわわ……これはその、えっと―失礼します!」
 彼女は脱兎のごとく廊下を走り、自分の部屋に飛び込んでいった。

 残された私達は、呆然―そして微苦笑。




714:名無しさん@ピンキー
10/06/02 18:52:49 WmJkS4I9

「紬、また彼の所へお邪魔したのかね」
 食後の紅茶を楽しんでいると、社長がそんなことを言いだした。隣の席がわずかに揺れる。
「……ええ。久しぶりに泊まってもらったんだから……いいでしょ?」
 バツの悪そうに問い返す娘に、父は肩を揺らす。
「ははは。何も批難しているわけじゃない。二人がいいなら、私達が文句を言う筋合いはないさ。なあ?」
 列席している夫人は水を向けられ、首を縦に振る。
「もちろん。仲がいいのはいいことよ。後は公私ともに、ね……」
 意味ありげにこちらに視線を送ってきたので、目を逸らすことにする。
「そういえば紬ももう16か。ついこの間まであんなに小さかったのにな」
「ええ。立派に成長されました。そしてこれからも、どんどん美しくなっていくでしょうね」
 正直な感想を述べると、当人は頬を赤く染め、スコーンを小さく齧った。
「ふむ。そういうからには、伴侶として申し分はないんだね?」
 またこの話か。胸中でため息しつつ、返答をする。
そろそろきちんと言わなきゃならないな。中途半端が一番よくない。
「ありません。ですが、そうする気もありません」
 隣席から聞こえる、スコーンの音が止む。前にいる夫妻の顔色が陰る。
こうなることはわかっていた。だが、それでもそう言うしかない。
これがお互いのためだ。光の住人は光の中が相応しい。影の者といれば、その光は消えてしまう。

 彼女達には、そうなってほしくないのだ。

「紬さんにこんな男は相応しくありません。もっと有能かつ裕福な男性がいるはずです。
私のことは、下男と思ってもらって結構―昔からそう言っているでしょう」
 だから突き放す。身分の違いを告げ、否定する。それがどんなに残酷でも薄情でも、そうするしかないのだ。
「地位や能力がそんなに重要かね。いや、私が言うと皮肉にしかならんか。
でもこれだけははっきり言える。父親としては、娘が幸せなら、それでいいんだ。
たとえそれがどんなに貧しくても、苦しくても」
 真摯な視線と言葉が心に響く。道徳的には間違っていない、正しい。
だが、そんな理想論でどうにかなるほど、世の中は優しくないのだ。
事実、貧しければ飢えるし、苦しければ死ぬ。そこに幸福が存在する余地などない。
「貧すれば鈍します。彼女にはそうなってほしくない」
 少女の髪を手で梳くと、大きな瞳が嬉しそうにこちらを映すが、すぐに陰ってしまう。
 好かれるのはありがたいが、それで彼女が身を滅ぼしては元も子もない。
遺産を食い潰すしか能がない血筋だ。一緒になっても、きっとロクなことにならないだろう。



「それで突っぱねた、と」
「間違っていますかね」
「う~ん。いや、まあ、絶対に間違ってるとは言えないんだけどな」
 唸りながら教師は首を傾ける。自分のやっていることが、本当に正しいかどうかわからなくなってきたので、私は彼の家に押しかけていた。
「恨まれるとわかってて、そう言ってるわけだろ? よかれと思ってそうできる奴なんて、そうそういねえよ」
「ええ。彼女には幸せな人生を送ってほしいですから」
 純真なあの少女のためなら、何だってする。そのために責が生まれようと、問題ではない。
自分に罪や罰がいくらあろうと、どうでもいいのだ。大切なのは、彼女の幸福。
 そのためなら、何だって。
「でもな、一教師として言わせてもらえば、眉―琴吹はそんなに弱い生徒じゃないと思うぞ」
「わかっています。ですが、その強さにだって限界はある。不幸が避けられるなら、それに越したことはないでしょう」
「まあな。……まったくお前って奴は、優しいよな」
 ぽつり、と友人は言った。まさか。それはどちらかと言えば彼の方だ。
「あなたには負けますよ」
「違うんだよ。俺はさ、自分が傷つきたくないだけなんだ。傷つきたくないから、そういう選択をしているだけなんだ。
でもお前は違う。自分を犠牲にしてでも、大事なものを守ろうとしている。それは、すごいことなんだよ」
「……そうかもしれませんね」
 否定も謙遜も浮かばなかったので、その褒め言葉を素直に受け取ることにした。
私は礼を述べ、彼に別れを告げる。根本的な解決に至ってはいないが、それでも、少し楽になった。




715:名無しさん@ピンキー
10/06/02 18:54:01 WmJkS4I9
 人はどこから来てどこへ行くのか。
 
 人間は誰しもそれに悩むという。
 
 しかし、それが定められた人間はそれに悩むことはない。
何のために生まれて、何のために生きればいいか決められているからだ。
その通りに道を歩めばいいのだ。

 そう、そうなるはずだった。
 だが、そうでない自分がいる。

(難儀なものですね)

 自宅に戻ると、いつもどおりの両親がいた。
働きもせず、酒を呷り、テレビに愚痴を飛ばす。
政治が悪い、経済が悪い、社会が悪い―そんな言い訳を並べている。
毎日よく飽きないものだ。

 男の淀んだ目がこちらを向く。
「また琴吹のところか」
「はい。泊めていただきました」
 瞬間、男の持っていたボトルがこちらに飛んできた。
それは扉に勢いよくぶつかり、中の赤い液体が弾ける。
「何度言わせればわかる! 琴吹など踏み台だ! いつまでもあんな連中に構うんじゃない!」
「これは失礼。何分ロクな教育を親から受けておりませんので」
 自分の白い服にワインが染み込むのを眺めながら、淡白に返す。
「貴様……!」
 怒号が聞こえたが、無視。さっさと自室に引っ込ませてもらう。
「…………」
 母親が無言で手を差し出す。私はその荒れた手に札束を載せ、そこを後にした。
もはや親としてのイニシアチブなど彼らにはない。
寄生する対象が遺産から息子に変わったのだ。
そんな状態で権威などあるはずもない。


 ホコリやクモの巣のはびこる廊下を歩いていると、携帯電話が鳴った。
 紬さんからだ。どうかしたのだろうか。
『もしもし』
 声色から察するに、少々緊張しているようだ。何かあったのだろうか。 
非番だった教師とは違い、彼女は学校があるはずだ。
腕時計を一瞥すると、今は昼休みの時刻。なら、問題はないか。
「どうしました」
 こんなことしている場合ではありませんよ、というニュアンスを含ませて尋ねる。
 学生にとって貴重な休み時間なのだ。自分にかまけずに、学友との談笑なり、授業の準備なりに使ってほしいのだが。

 しばし、言葉のない吐息だけが耳に伝わる。なぜか、それが奇妙な程長く感じた。
一秒が一分に、十秒が一時間に、やがて時間の感覚が判然としなくなったあたりで、
聞き慣れた―それにしては覚えのあまりない―声がようやく届く。



『…………結婚することに、なりました』





716:名無しさん@ピンキー
10/06/02 18:54:23 WmJkS4I9



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717:青太郎/あとがき
10/06/02 18:56:16 WmJkS4I9
6月です。祝日がないので、憂鬱です。
期限までに間に合えばいいのですが、どうなることやら。

718:名無しさん@ピンキー
10/06/02 22:45:36 zJjaZ5hu
>>717
乙です
欲を言うならエロパロ板だし
そろそろエロが欲しいところ

719:名無しさん@ピンキー
10/06/02 22:52:37 yT5D+UCT
鳴らして!鳴らしてギー太の0.52の6弦鳴らして!
わたしのピックアップでギー太の音を拾うから!
ギー太の極太6弦をわたしのクリバッカーで拾うからぁぁぁぁぁあ!!!!!!!!!

720:名無しさん@ピンキー
10/06/02 22:55:27 hxcpH47O
719から最低の屑とか死ねばいいのにの臭いがする

721:名無しさん@ピンキー
10/06/05 14:03:10 Rym/X+Ot
ファンクラブの暴走組×澪

722:名無しさん@ピンキー
10/06/10 17:17:36 vKxKqxIC
男のFCに輪姦なら同人でよく見る

723:名無しさん@ピンキー
10/06/10 19:02:28 E58hYWpO
>>721
そこはこうしてくれないか?
>曽我部さん(ぺニバン装備)&ファンクラブの暴走組(全員ぺニバン装備)×澪
(曽我部さんがFC暴走組を唆したのか、或は逆のパターンか…)

724:名無しさん@ピンキー
10/06/13 01:48:01 xD6Soudb
薄幸な澪たん

725:名無しさん@ピンキー
10/06/16 23:44:10 eMBR+tTe
ちょっとした聡×律ネタ物投下します

726:名無しさん@ピンキー
10/06/16 23:45:00 eMBR+tTe
720 :風の谷の名無しさん@実況は実況板で:2010/06/16(水) 13:45:49.90 ID:PZoThVBe0
聡はりっちゃんの風呂覗いたり、留守の部屋に入って下着漁ったりしてるんだろうか
いかん腹が立ってきた

737 :風の谷の名無しさん@実況は実況板で:2010/06/16(水) 13:54:19.98 ID:WOhG3r/H0
>>720
いや、それどころか軽音部で疲れて帰ってきて
部屋でカチューシャ外し制服をラフに崩した格好でゴロ寝で熟睡している所」を…

聡「(ガチャ)ねーちゃーん、部屋から勝手に漫画持ってかないでって…、寝てら…」
律「んぅん、(ゴロン、前が大きく開いたYシャツとミニスカから白パンが丸見え…)」
聡「……、ごくっ……、姉貴?、…寝てるよな?」

そして聡は傍にあったロープを手にし、姉の露わになった胸と秘所の白布に手を伸ばし… そして…

URLリンク(blog-imgs-38.fc2.com)
律「ん…んんっ!……!?、さ、聡っ!?、あ、あんた何してっあぁっ!…んはぁぁんっ!」
聡「ね、姉ちゃん!、姉ちゃんの中スゲェ熱くて…、お、俺…俺、もう…うぅっ!」

URLリンク(blog-imgs-38.fc2.com)
律「!?、だっ、駄目っダメーっ!、あたし達、姉弟なんだよっ!?…お願いっ抜いてっ、ぬい…アァーーーッ!!」…
聡「出っ出るっ!、くうぅ――――ッ!(ビュグウゥッ!、ビュルッ!!、ビュルル~ッ!!」
律「あ…、あぁ…、熱…い…」

そして二人は夜更けまで、盛りのついた獣の様に…
URLリンク(blog-imgs-38.fc2.com)
聡「ハァ…、ハァ…、姉ちゃん…、姉ちゃん…くうぅっ!!(ドブゥゥッ!!、ドグッ!ドクッ!)」
律「あぁっ!…、あっ、あっ……も、もっと…、さ…とし…」

後日…聡は何を考えてか友達を呼んで…
律「あぁ―っ!!、さ、聡ーっ!もっとーっ!!」
聡の友人a「な、なぁ田井中、お前の姉ちゃんのアナル、スゲー気持ちイイ…、ヤベ…出そ…」
友人b「お姉さん、もっと扱いて…うっ!」・友人c「お、俺もう出そう…」
聡「あ、姉貴、俺も…」・律「あっ!、ああっ!…だ、出してぇーっ、いっぱい掛けてぇーっ!、沢山中に出してぇーっ!」
聡・友人a・b・c「うあぁぁぁーっ!!(ドプビュルビュクーッ!!!)」律「んはあぁ―――っ!!」
URLリンク(blog-imgs-38.fc2.com)

727:名無しさん@ピンキー
10/06/19 23:46:16 XCSyRsow
死ねばいいのに

728:名無しさん@ピンキー
10/06/22 04:21:46 uK2h8kvx
私、中野梓が無職の人やダメな人の相手をします
スレリンク(dame板)

729:名無しさん@ピンキー
10/06/24 21:33:34 cajFoHVK
またロキノフのインタビューネタが見たいな

730:名無しさん@ピンキー
10/06/26 10:38:30 WK83dkJj
元気なあずにゃんを監禁して強姦して孕ませて流産させて子宮を壊して四肢切断して
達磨あずにゃんを溺死させて屍姦してバラバラに切断して焼いて食べてしまいたい

731:名無しさん@ピンキー
10/06/29 22:52:30 Crbi03lq
ネタ投入、教育実習生ネタとか。後輩が行ってきたようなので思いついた。
受け入れ先が中々見つからなかった男実習生。ようやく見つかった受け入れ先は桜高
教科は音楽で、担当はさわちゃん先生。他事で忙しいので、軽音部を任される実習生
オイタしちゃう話とか

732:名無しさん@ピンキー
10/06/30 20:53:09 tsjsw4i9
>>731
青田郎氏が書いてる

733:名無しさん@ピンキー
10/07/03 12:20:39 qPk0yki1


734:名無しさん@ピンキー
10/07/04 16:13:43 TeY84dCr
5人の乱交ものってあったらたのしそうだな
唯や律がノリノリでムギが興味津々であずにゃんと澪が動揺してる感じで

735:名無しさん@ピンキー
10/07/05 01:39:21 vIROTiKH
男の先生、もっと出して

736:名無しさん@ピンキー
10/07/06 13:04:46 ST5exMzP
そろそろ次スレの時期だな

737:名無しさん@ピンキー
10/07/07 22:23:01 5cVeqewc
op変わったな。

738:名無しさん@ピンキー
10/07/09 08:20:32 IxbgT5Td
今からクライマックスへと向かうというのにこの過疎はひどいな

739:名無しさん@ピンキー
10/07/15 02:34:33 k1Vb6BEF
唯の妊娠の話を考えているのですが、既出でしょうか?
知っている方教えてください。

740:名無しさん@ピンキー
10/07/16 01:35:40 ZR9QsAaA
問題ない。楽しみにしている。

741:名無しさん@ピンキー
10/07/16 22:01:19 h3mOuWPS
キャとられる話はありませんか??.


742:名無しさん@ピンキー
10/07/17 00:20:36 J52ucWmb
次スレ

◆けいおん!でエロパロ◆4
スレリンク(eroparo板)

存分に書いてくれ

743:名無しさん@ピンキー
10/07/22 22:29:27 J2K8H8De
けいおんw


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