09/06/19 00:33:16 bZyxIX3t
Happy ever after 第1回 追伸
「川嶋、座ったか?邪魔だから新聞はどけていいぞ」
「ありがとう、竜児」
焼けた畳の居間に亜美を座らせると、竜児は台所に立ち、手早く薬缶に水を入れ、お湯を沸かしに入った。
高須家では、電気ポットはあるがあまり使われることはない。
ポットで保温するより、毎回沸かす方が少々手間だが経済的だし、環境に優しい。
ふぅー、台所に立つと落ち着く。
川嶋と二人きりで帰ってる時は死ぬかと思った。
櫛枝の時といい、本当に俺ってTOO SHY SHY BOYだぜ、すげー落ち込む。
学校でも、川嶋に不意に会うと言葉を失う。
意識するだけでこんなに変わるとは、こんな事が川嶋にばれたら一体どんな罵声をくらうか知れたものではない。
いや、嘲笑うだけ、嘲笑って、ねっちこくからかいそうだ。あいつは意地悪姑の素質があるから。
そっと、居間の川嶋を覗き見る。心の声を聞かれてないか不安になった。
何故か台所を見ていた川嶋と目があう、只でさえ緊張するのに、あいつはニッコリ笑いやがった。
照れ隠しに言葉を掛ける。
「川嶋、本当に、金柑の蜂蜜付けの付け汁の方でいいのか?
蜂蜜入りホットミルクも割とお勧めだが」
「うん、蜂蜜金柑の方でいい。私はあの味ここでしか飲めないもの」
「あぁ、これは高須家自家製の味だからな」
「そうだね、あまり飲める所ないよね」
やっと最近になって解ってきた。こいつは時々、寂しそうな顔をする。
俺が気づかなかっただけで、今までも一人でこういう顔してきたんだろう。
と言っても、またこういう顔をさせている訳だし、その理由も解らない訳だが。
くそ、精進足りねえな、俺も。
「ねぇ、竜児、私に近づくために努力したって言ってくれたよね
それは私が帰ってくるて思ってたから?」
「それはちょっと違うな、お前が戻ってくるとか、来ないとかじゃなく
お前に、期待外れな男だと思われるのがしゃくでかな、あと精進が足りねえ!」
「私は頭がいいとかそんなの期待してる訳じゃないのに」
「何か言ったか」
「ううん、なんでもない。でも私が期待するのは、そうだな。
映画撮影中でも、私を迎えに来てくれる男の子、竜児はそうしてくれた?」
寂しそうな顔をさせたお詫びに頑張ってみた。
「そうしたかもな、例えば、お前がイタリアで映画撮影中に、男を上げた俺と偶然出会って」
「私を虜にするって、あは、竜児、すごくロマンティク!90点あげる」
そこで丁度お湯が沸いた。俺みたいに蒸気を上げて。