09/07/10 23:49:18 zalKeBBG
こんばんはです。今回はなんか久しぶりの気がする猟血の続きなのです
一方、ララディアと別れたアレクサンダーはサンディと一緒に所々燃え上がる城内を駆け抜けていた。
アレクサンダーはアルマリスを抱えているために両手が塞がっており、もし吸血鬼が襲ってきたら為す術がないが、サン
ディの誘導がいいのかそれともまだこの辺りまで吸血鬼が侵入していないのか、アレクサンダーたちの行く手に吸血鬼が
現れたことはまだなかった。
ただ、気になることはある。
(…なんですぐに城の外に出ようとしないんだ…?)
そう。なぜかサンディは王室関係者なら誰もが知っている裏手の隠し扉へ通じる道を進まず、回り道をするように先を進んでいた。
その結果、吸血鬼と会わずにすんでいるならそれはそれでよいことなのだがそれにしても不自然だ。
「サンディ、なんで隠し扉のほうへ進まないんだ?!」
「…こっちの道のほうがより安全だからです」
周りへの注意が散漫になるのを承知でアレクサンダーはサンディに呼びかけたが、サンディはこっちへ振り返りもせずし
れっと言葉を返してきた。
まあ、そう言われてしまえば身も蓋もないし吸血鬼と遭遇しないのは事実なのだがそれでもアレクサンダーには納得がいかない。
アレクサンダーとしては、一刻も早く城から出てアルマリスを安全なところに避難させたいのだから。
「今は安全でも、これからも安全ということはないだろう。アルマリスのことを考えても、一刻も早く城をでなければ…」
「大丈夫です。大丈夫ですから全てこの私にお任せください」
サンディはアレクサンダーの言うことを全く聞こうともせず、急かすようにずんずんと先に進んでいく。アレクサンダー
もさすがに少々ムッとしたが、ここでサンディとはぐれてしまうと吸血鬼たちの真っ只中に抵抗も出来ない状態で取り残
されてしまうので渋々ながらついていくしかなかった。
とは言っても、ここまで無視されると反抗したくもなってくる。
(ここからなら、まだ隠し扉までは遠くはないはずだ…)
途中で助けも得られない状態で吸血鬼に襲われるリスクを承知しながら、アレクサンダーは単独で隠し扉のほうへと進も
うと決意し、そちらのほうへ脚を進めようとした。ところが、
「王子、そちらではありません。ちゃんと私についてきてください」
後ろに目でもあるのか、サンディは前を向いたままアレクサンダーに声をかけてきた。その声は冷静ではあるのだが、異論、
反論を許さない圧倒的な威圧感を伴っていた。
「うっ……」
最初はサンディの言うことなど無視しようとすら考えていたアレクサンダーだったが、その声に気圧されるかのように踵
を返して素直にサンディの後を追い始めた。
(なんだ……今の感覚は……)
サンディが発した、まるでアレクサンダーの魂に直接呼びかけるような声に、アレクサンダーは軽い戦慄を覚えた。サン
ディの声を聞いた途端、自分の心がそれに拘束され否応なしに従ってしまったような反吐が出そうな感覚。
束縛されることが何よりも嫌いな自分が、その意に反して無理矢理従わされたみたいで非常に腹立たしい。はずなのだが
それがまるで当たり前のようにも感じられる。それがまたアレクサンダーの癇に障っていた。
(本当に…このままサンディについていっていいのだろうか……?)
サンディが自分を陥れるとは考えられないが、なぜかアレクサンダーにはサンディが外に出る気がないような気がしてならなかった。
まるで、自分たち二人をどこかに誘導しているような…
「………っ!」
このままサンディについていったら危険だ!アレクサンダーの直感はそう判断し、サンディについていこうとする体を無
理矢理押さえつけ、元来た道を全速で駆け始めた。
「…あっ、王子…!」
後ろでサンディが何事か喚いているがそんなものを聞いている余裕なんかない。とにかくアレクサンダーは本来行こうと
していた隠し扉へのほうへ走っていった。
「ハアッ、ハアッ…!!」
決して重くはないアルマリスの体が、疲労のためかやけに重く感じる。でも、苦しいのはアルマリスのほうがずっと大きいはずだ。
とにかく安全なところまで逃げ延びて、アルマリスを休ませないといけない。
とにかくアルマリスを助けないと!の一点だけを思って疲れた体に鞭をうち、アレクサンダーは隠し扉へ向う廊下をつき当たった。
その時、
「いけませんねぇ王子、勝手に道を進まれては…」
廊下の真ん中に、置き去りにしたはずのサンディが不機嫌そうに立ちはだかっていた。