09/10/09 00:09:32 b/5btL0k
気が付いたらボクはWWWFのリング青コーナーに立ち、対戦相手の名乗りを受ける所だった。
そこに至るまでの記憶がいっさい抜け落ちている。ボクは眠っていたのだろうか。前夜痛飲した酒が抜け気っていないのだろうか。
いやそんな筈はない。昼間は人間発電機のサンマルチノと一緒にジムへ通い、水分も尽きよとばかりにたっぷり汗を流している。
酒が残っていようはずもない。
ではなぜ今の今まで、ボクは意識朦朧としたまま、神聖なリングに上がってしまったのだろう。それはわからない。
しかし己がどんな状態であれ、リングに上がったのは自分の判断だ。
不調なら、興行師のミスター・マクマホンに連絡を入れるべきだった。それをせずにリングに上がった時点で、全ての責任はボクにある。
今さら言い訳をする余地はない。チケットを買ってくれたお客様に対し、体を張ってプロのレスリングを魅せることができなければ、
それはボク自身のみならずマクマホン氏、ひいては日本の力道山先生に対して面目が立たぬ。
両頬を自分で張って気合を入れる。
さあ矢でも鉄砲でも来い、という心境だ。相手が何であれ、この日本のジャイアント馬場に勝てる相手など存在しえない。
ボクは日本人として、力道山先生以来となる各地の転戦を行なってきたのだから。
アメリカ人でも滅多に見られない、二メートルをこえる長身を売りにしてきたのがボクだ。一時は巨人軍のピッチャーだった、ジャイアント馬場だ。
リングアナウンサーが対戦相手のプロフィールを読み上げるまで、ボクの自信が揺らぐことはなかった。
『馬場ガ東洋ノ神秘?タダノ"デカブツ"ジャナイカ。
デカケリャ強イ訳ジャナイ。マシテヤアンナノ神秘デモナンデモナイ。
会場ノ皆様、今宵ハ日本ノ真ナル神秘ヲゴ覧ニ入レマショウ。
赤コーナーヨリ……』
相手は日本人なのか。ボクは本当に驚いた。
日本人といえば悪役レスラーしか登場しないWWWFで、日本人対決が実現しようとは!
マクマホンさんの粋な計らいには感謝の言葉もない。今すぐリングを降りて飛行機に飛び乗り、力道山先生にこの快挙を報告したかった。
けれどプロフェッショナルとして、それは罷り通らない。ボクにできるのは、強い日本人レスラーの戦いをリングの上で見せるのみ。
ならば全力で迎え撃とうではないか!
同じ日本人だからといって、手心を加えることは一切しない!
『グレート・ムタ、見参!』
アナウンサーが口上を述べ終わると同時に、場内の照明がさっと消えうせた。
グレート・ムタだって? 日本でもアメリカでも聞いた事もないレスラーだ。
観客のどよめきをかき消して会場に響き渡る、三味線の音色を基調とした華やかな音楽!
唯一の照明ともいうべきスポットライトが照らす花道の上に、覆面を被った一人のレスラー!
伊賀流、と書かれたガウンを着た長タイツのニンジャは、ゆっくりと両脇の観客を見渡したかと思うと、客席にいた小さな男の子をいきなり威嚇した。
その時のボクの失望感といったら!
覆面レスラーといえば、悪役だと決まっている。おまけに殊更にニンジャを強調したリングコスチューム。
日本人だと思ったから期待したが、所詮よくある怪奇系レスラーに過ぎないじゃないか!
確かに入場はハデだ。このニンジャの入場だけで一見の価値はあるかもしれない。ボクだって驚いたし、華があるのは認めよう。
しかしプロレスというのは、リングの上で戦うことに意味があるのだ。派手なパフォーマンスで観客を惹きつけるのも確かに大切なことだが、
この手のケレン味を売り物にするレスラーは、得てして肝心のレスリングが疎かになりがちである。アラビアの魔人ザ・シークが、ボクの知る僅かな例外だろうか。
この逆をゆくのが、力道山先生でも敵わない鉄人ルー・テーズだった。レスリングのみ、試合のみでも観客を惹きつける自信があるからか、
鉄人のガウンはタオル地のシンプルなものだ。鉄人はこのニンジャと違って、派手なパフォーマンスもいっさい行なわない。
対戦相手が二流と解るや、心が萎むのがはっきりと判った。と同時に、このニンジャ姿をした覆面レスラーに対する怒りが湧き上がってくる。
151:ジャイアント台風異伝・ある怪奇レスラーの物語
09/10/09 00:10:06 b/5btL0k
何がニンジャだ。東洋の神秘を冒とくするな!
お前が何者かは知らないが、勝ってその覆面を剥がしてやる!
怒りを闘争心に変え、かつてフランケンシュタイン・ババと呼ばれた恐ろしいジャイアント馬場の戦いぶりを見せてやろうではないか!
だがそんなボクの怒りも、次にグレート・ムタなる覆面ニンジャが見せた技を前にして、本日二度目の驚きにかき消されてしまう。
グレート・ムタはエプロンに上がると、なんとロープ最上段を飛び越え、宙返りしてリングインしたのだ!
まるで空中の魔術師ことエド・カーペンターを彷彿とさせる軽やかな動きが、会場の大きな歓声を呼び込んだ。
カーペンターよりも大柄な肉体の持ち主で、ここまで身軽な男をボクは一人しか知らない。まるでかの魔王ザ・デストロイヤーだ。
そういう感想を持ったのは、例の魔王も目の前の彼と同じ覆面レスラーだったからなのだが―
なんと覆面ニンジャは、二度ならず三度までもボクを驚愕させる行動に出た。
覆面レスラーにも関わらず、その覆面をリングの上で自分から脱ぎ捨てたのだ!
衝撃だった。グレート・ムタは覆面レスラーじゃなかったのか!
素顔を晒すぐらいなら、なぜ最初から素顔で現れない?
いや覆面の下から現れたそれは素顔ではない!
歌舞伎役者を思わせる隈取、いや赤と黒の禍々しい色で彩られた顔面は、美しい伝統芸能である歌舞伎のそれとは全く違う!
両頬に描かれた『忍』と『炎』の字。凶悪なフェイスペイントの下のドングリまなこは、どこまでも野心に満ちた光を放っている。
グレート・ムタの異様なペイントに、ボクの肝は縮み上がった。こいつのかもし出す迫力は、吸血鬼フレッド・ブラッシーの比ではない!
こいつはそこらの怪奇系レスラーとは完全に一線を画した、得体の知れない何か別次元の生き物だ!
ボクも広いアメリカ各地を転戦してきたが、このグレート・ムタのようなタイプのレスラーは初めてお目にかかる。
ある意味では、サンマルチノや野生児ロジャーズをも凌ぐやっかいな相手だ。ナメてかかるとあっさり負けてしまうだろう。
既に相手に飲まれかけている。これではいけない。ボクが心がけるべきは、自分のペースで試合をすることだ。
たとえ相手が何者であろうと、今のボクなら勝てるはずだ。
そのために各地を転戦し、一流のレスラーと戦い、力と技をそなえたレスラーとしての自信を築いてきたのだから。
152:ジャイアント台風異伝・ある怪奇レスラーの物語
09/10/09 00:10:40 b/5btL0k
両者おもむろにガウンを脱いで、ゴングとともに相対峙する。
まずは小手調べ。
初めての相手に対しては、取っ組み合って互いの力や技を量るのがセオリーである。一流のレスラーになるほど、このセオリーは外さない。
だがなんと、ムタはボクの誘いに乗らなかった。
両腕を上げて構えたボクをあざ笑うかのように、いきなり天を仰いで緑色の霧を吹き上げたのだ!
まさに東洋の神秘!
一体あの体のどこで、あの霧を分泌したのだろうか?!
さらにムタは親指で喉元を掻っ切ってみせた。ボクを殺す、という意味だ。まるでムタが狙ったように、会場が大いに沸く。
ボクひとりだけが、腹が立って腹が立って仕方なかった。
面白い、殺せるものなら殺してみろ!
皆さんはボクのことを、ゆったりしたレスラーだと評するだろう。確かにボク自身、自分がスロースターターだという自覚はある。
けれどもそれは奇襲攻撃ができない、という意味ではない。状況が許せば、いきなり大技を仕掛けることもある。
今のボクがそれだった。
空中魔術師ばりのキレのある動きを見せたかと思えば、いきなり三流レスラーのようなパフォーマンスに走るムタ。
その実力のほどは未知数だが、プロレスをナメた態度がボクには許せない。
荒々しいファイトで、このふざけたペイントレスラーを一ラウンドで葬りさってやろうじゃないか!
自慢の脚力で―こう見えて、ボクは昔から徒競走も得意だった―グレート・ムタを捕まえに走る。
だがムタはそれより素早くボクから逃れ、なんとリングを転がり降りてしまった。
大ブーイングの中、レフェリーがゆっくりとカウントを始める。二十カウント数える前にリングに戻らなければ、その時点でムタの負けだ。
けれどもムタは慌てるでもなく、リングの外周をゆったりとした足取りで散歩する。リング上のボクを見上げ、ふてぶてしく緑色に染まった舌を出す。
戻る気がないのだろうか。ボクには信じられない。ムタが何をしたいのか全然わからない。
このままリングアウト負けを喫してもいいのだろうか? いや、やはり戦って決着をつけるのが正統派のレスリングだ。
ならばとっ捕まえてでも、ムタをリングの中に引きずり戻してやる。
「止メロ、止メルンダ馬場!」
レフェリーが止めるのも聞かず、ボクはグレート・ムタめがけてリングを飛び降りた。が、肝心のムタの姿がどこにもない!
ムタはどこに消えた?
「フフフ……ココダ、ウスノロ!」
頭上から聞こえた声に、ボクは振り返る。
いつの間にか消えていたムタが、エプロンサイドに立ってボクを傲然と見下ろしていたのだ!
すわ瞬間移動か、まさにニンジャの俊敏さ!
呆気に取られる間もなく、ムタに頭をワシ掴みにされた。そのままムタがリング下の固い床めがけて飛び降りる!
ムタが放つ顔面砕き!
今にして思えば、ムタは相当の切れ者だった。並みのレスラーよりも遥かに身長で勝るボクに対して、顔面砕きを効果的に行なうには、
リングと会場の床との高低差を利用するのが一番合理的だろう。
それにしても英語で話しかけてくるとは。もしかしてこの男、正体は日本人ではなく、ハワイの日系人か何かだろうか?
そんな悠長な事を考えている間にも、ムタがエプロンに上る。ふたたび顔面砕き!
二度もアゴを地面にたたきつけられ、フラフラになったボクの頭を掴むと、さらにリングの鉄柱にたたき付けた!
「……フォーティーン、……フィフティーン、……」
その間にもレフェリーのカウントは進む。それに気付いたムタは、慌ててボクをリングの中へと押し込んだ。そして彼もリングに戻る。
ボクはというと、既に最初の接触で体力を大幅に削られてしまった。
目の前をピヨピヨと星が飛び回り、起き上がることもままならない!
その間にも寝転がったボクに容赦なく降り注ぐ、グレート・ムタの肘落とし!
全身を使って振り落とされる鋭い肘打ちは、殴られるというより刺される、と言った表現が似合うだろう。
情けないことに、この時点でボクは完全なグロッキー状態だった。そしてムタの攻撃が止む気配は一向に訪れない!
限界だった。
流れを変えるためには、ここで一本勝ちを譲ってやる必要がある。三本勝負なのだから、後から二本取り返してやればいい。
ボクの戦意が失せたのを敏感に感じ取ったのか、グレート・ムタがボクの両肩をマットに押さえ込む。
レフェリーがマットを三度たたく。
赤と黒のペイントの下から覗くドングリまなこが、ピンフォールを取ったにも関わらず、なぜか当惑しているように思われた。
153:ジャイアント台風異伝・ある怪奇レスラーの物語
09/10/09 00:12:07 b/5btL0k
休憩を二分ほど挟んだおかげで、ボクの呼吸もだいぶ調子を取り戻した。
一方のムタはというと、ふてぶてしくもマットの上を元気に飛び跳ねている。全くのノーダメージだが、それゆえ彼にとって休憩はあまり意味がない。
それどころか攻めの流れを断ち切られた分、かえって不利に働いているはずだ。
二本目のゴングが鳴った。今度のムタは両手を高く掲げ、取っ組み合うよう誘っている。
油断はならない。出会い頭に反則技を仕掛けてきたムタを相手に、まともに組み合うなどバカげた話だ。
けれどもこれはプロレスだ。組み合って、互いの力を見せつけなければならない。
力道山先生がそうだった。先生は卑劣なブラッシーを前にしても、正々堂々と組み合い、相手の技を受けきった上で銀髪の吸血鬼をやっつけたではないか!
何かの罠ではないか、という疑念と、このペイントレスラーの力量を見極めたい、という好奇心がせめぎ合う中、ボクは慎重にムタへと歩み寄る。
右手を取った。不審な動きはない。左手を取った。やはり普通だ。
なんだ、正々堂々とした組み合いもできるではないか!
しかもこのグレート・ムタという男、上半身の力は相当のものだった。さすがにサンマルチノや生傷男ブルーザーと比べたら貧弱だが、
それでも一流レスラーとしては合格点を越えているだろう。
だがボクだって、MSG<<マディソン・スクエア・ガーデン>>でトップを張ったレスラーという自負がある。すなわちボクも一流のレスラー、力では負けない!
腰の強靭さと上背でまさっていた為か、力比べはボクの勝ちだった。体勢を入れ換え、ムタの右腕を思いきり捩じ上げる。
と思ったら、ムタは尋常ではない切り返し方をしてきた。
なんとその場でバク転!
腕の捻りを解消すると同時に、さらに後方回し蹴りを決めてきたのだ!
胸板を蹴り込まれてもんどり打ったボクをロープに振ると、ムタが体操選手のような華麗なフォームの宙返りでボクに迫る!
前転回し蹴り!まさに空中殺法、ニンジャ気取りも伊達じゃない!
しかもムタは、正確にボクの胸板を狙ってきた。一ラウンド目で、彼が執ように肘打ちを繰り返した部分だ。何発も食らうとアバラが折れてしまう!
ムタが自分の体をロープに振った。ロープの反動を利用して、さらに勢いのある攻撃をボクに仕掛けるつもりなのだ。
再度前転しながらボクに迫るムタ!その体勢は、空中からの背面肘落しか?
だがこのムタの攻撃は、ボクにとって絶好のチャンスだった。肘を打ち込まれるよりも早く、ボクに背を向けたムタの胴体を捕まえる!
そのまますかさず尾てい骨砕き!
「OUCH!(痛い!)」
ムタが悲鳴を上げる!やはり英語、やはり日系人か!
尾てい骨は人間の急所だ。どれほどトレーニングを積もうが鍛えることはできない。ここを攻撃されたらどんな屈強な男でもたちまち悶絶し、
どれほどスピード自慢の身軽な男でも動きが止まる。しかもこの尾てい骨砕きという技は、身長の高いレスラーが使えば最強の必殺技となる!
それに気付いたボクは、以来この技を磨き上げ、野生児バディ・ロジャーズや鉄の爪フリッツ・フォン・エリックなどの強敵と渡り合ってきた。
その自慢の技が、ニンジャであるグレート・ムタにも確実に効いている。流れは完全にボクのペースだった!
足元がふらついたムタの頭を掴み、太腿にあてがって、ヤシの実割り!
ムタが倒れることもボクは許さない。もう一度ヤシの実割りを食らわせ、無理やり立たせてから脳天唐竹割り!
一ラウンド目に受けた顔面砕きのお返しとばかり、もう一発手刀をたたき込もうとしたところで、ボクはハッと動きを止めた。
「うむ……ムタの脳天はだいぶうすくなって、はげているぞ!」
若々しい髪の色艶とは裏腹に、ムタの頭はまるで全盛期を過ぎた鉄人ルー・テーズのようにさびしかった!
154:ジャイアント台風異伝・ある怪奇レスラーの物語
09/10/09 00:12:41 b/5btL0k
おそらくこの男、ボクには想像もつかない回数のブリッジ運動を繰り返したに違いない。おそらく不断の地道な努力が、若はげという形で肉体に現れたのだろう。
だがボクだって、スクワット千回の練習を日課とするトップレスラーだ。怒りというよりレスラーとしての対抗心や嫉妬心から、
うすくなったムタの脳天に何度も何度も手刀をたたき込む!
やがて足元から崩れ落ちたムタの腕を取り、彼自身の首に巻きつけて持ち上げた。
いわゆる日本式首絞め(ジャパニーズ・スリーパー)という奴だが、ボクの場合はここからが違う。
片膝を立ててしゃがみ込み、首絞めに取ったムタの背中を押し付けて背骨を折りにゆく。
これが馬場式背骨折り、いわゆるジャイアント・バックブリーカー!
さしものムタもこれで終わりか。いやこのグレート・ムタはやはり只者じゃなかった。
上半身のバネを使い、しゃがみ込んだボクの頭に膝蹴りを食らわせて脱出したのだ!
これには驚いた。このグレート・ムタというレスラーの底が見えない。
とはいえムタも、無事では済まなかった。ボクを睨むドングリ眼から光は消えていないが、しかし息が上がっているのは隠しようもない。
それはそうだろう。自分の開発した必殺技が全く効いていませんでした、というオチでは、ジャイアント馬場の沽券に関わる。
だが痛めたアバラに駄目押しの一撃を加えれば、あと一息で落ちる。その確信を得たボクは、ムタの回復を待つことなく一気に勝負に出た!
ダメージが足に来たムタを捕まえ、息吐く間もなく手足を取る。
そのまま必殺のコブラ・ツイスト!
自慢じゃないが、僕のコブラ・ツイストは一味違う。相手のアバラに的確なダメージを与える上で、僕の長身は大いに有利なはたらきをするのだ!
足を捉えてのアバラ折りから逃れる術は、ムタには残されていなかった。レフェリーが素早く駆け寄り、苦悶の表情を浮かべたムタに問いかける。
「ギブアップ?(降参か?)」
「ノォーッ!(いやだ!)」
「ギブアップ?(降参か?)」
「ネバーッ!(ありえないッ!)」
負けん気の強すぎるムタの返事に、僕はアバラをさらに折る!
ムタの返事も待たずにレフェリーが頭上で両手を振り、ラウンド終了を告げるゴングが鳴り響いた。
155:ジャイアント台風異伝・ある怪奇レスラーの物語
09/10/09 00:13:30 b/5btL0k
二分間の休憩時間は、ムタの体力を回復させるには不十分だったようだ。
赤コーナーで膝を立て、息も絶え絶えといった感でボクを睨んでいる。反対にボクの心は余裕シャクシャクだ。
ムタは明らかに判断を誤っていた。最初のジャイアント式背骨折りを決められた時点で早めにギブアップしておけば、ダメ押しのコブラツイストで余計なダメージを負わ
ずに済んだのだ。
負けん気の強さは買うが、この辺りの判断がどうも素人くさい。どうもプロレスが三本勝負であるという事を知らないような印象を受ける。
体力の温存を考えず、流れを変えるためにわざとギブアップすることをしない。まるで一ラウンドで勝敗が決することを前提としているようだ。
どうも不思議なレスラーだった。戦えば戦うほど、グレート・ムタという男が解らなくなってくる。技の華麗さと的確さはボクから見ても超一流なのに、スタミナの配分
だけが新人のように恐ろしく下手である。
このグレート・ムタ、いったい今までどういう戦歴を辿ってきたのだろうか?
とはいえ今の流れが続けば、ボクの勝利は揺るぎない。ムタがペース配分の判らない相手ならば、スタミナを残したボクの方が圧倒的に有利である。
この調子で三ラウンド目もいただきだ!
決戦のゴングが鳴る。
立ち上がって両者向き合い、間を詰めようとボクが一歩前に出た。ムタは組み合いを避けるように、ボクとの間合いを一定に保ちながら素早く後退する。
すでに力比べでボクが有利なのは明らかだ。組み合ったらボクが勝つ。
「むう……さては臆病風に吹かれたか!」
カマキリのような構えでムタに迫る。既にムタはロープ際、追いつめられた袋のネズミ!
と思いきやムタは一転、信じられないような神速でタックルをかけてきた。
油断のあまりボクはすっかり忘れていた。窮鼠猫をかむ、という諺があったではないか!
ボクの自慢の足腰も、浮き足立ってしまったら何の力も発揮しない。自分よりも軽いムタのタックルで、あっさりとリング中央まで吹き飛ばされてしまう。
ムタが横からフォールの体勢に入った。駆け寄ったレフェリーがマットをたたく。カウントワン、ツー……。
この程度で決められてたまるか!
元気な所をアピールするため、ムタを胸の上に乗せたまま、頭ブリッジでカウントを返す。力道山先生に比べたら、ムタなんて軽い軽い。
だがこのブリッジ、すなわちボクの油断と虚栄心から取った行動こそが、ムタのつけいる隙を作ってしまったのである!
気付いたときには時すでに遅し!がら空きになった右腕を、電光石火の早業でたちまち絡め取られる。
「デカブツナンテ、デカイ糞サ……!」
ボクにもはっきりと聞こえるように呟いたムタが、折りたたまれたボクの腕の上に足を乗せて体重をかけた。
キー・ロックでボクの肘を締め上げる!
うかつだった!ムタがタックルを狙ったのは、寝技に持ち込むためだったのだ!
ムタの言った意味がようやくわかった。確かに寝技ならば、高い身長も意味をなさなくなる。寝かせてしまえばデクの坊だ。
自分が身長を生かした戦法を取ってきた以上、相手がそれを無効化しようと考えるのは当然だったのに。
ボクだって身軽な相手と対戦したら、その俊敏な足を殺しにかかっていただろうに。ああなんたる不覚!
ボクは取られた腕を掴み、必死でムタのキー・ロックを振りほどこうとした。その甲斐あってかフォールこそ取られないものの、ムタはさらに肘を締め上げる!
やむを得ず左の手刀で反撃をこころみるも、片腕を決められ、寝転がり、下からの攻撃では威力はほとんどない。
普段ならスイカも一撃で粉々に砕くボクの手刀は、のしかかったムタには全く効かなかった。
それどころかムタをたたくたび、極められた肘に衝撃が伝わって痛いこと痛いこと!
もうギブアップは使えない。ならばとボクは下半身の力だけでロープ際に移動する。
ようやく技を解いてもらえるかとホッと一息、という訳にはいかなかった。ロープにボクの体が触れているにも関わらず、ムタは肘を極めたまま離さない!
これはプロレスでは反則である。すかさずレフェリーが駆け寄り、ムタに注意する。
それでもムタはまだ離さないどころか、ボクが痛みに喚くのを楽しむかのように肘を極め続ける!
「ムタ離セ!ワンツースリーフォー……」
レフェリーがカウント五つ数える直前になって、ムタはようやく腕を離した。と思いきや、そのままボクの顔面に鉄の爪!
156:ジャイアント台風異伝・ある怪奇レスラーの物語
09/10/09 00:14:04 b/5btL0k
木村政彦先生ばりの寝技に続いて、こんな隠し玉を持っていたのか!このペイントレスラー、恐ろしいまでのオールラウンダーである。掛け値なしにボク以上だ!
と言っても、威力ならばフリッツ・フォン・エリックには遠く及ばない。握力はかなり強い方ではあるが、この程度ならばギブアップするまでもない。
「オイムタ、イイ加減ニシロ!コレ以上ヤッタラ、カウントヲ取ラズニ反則ニスルゾ!」
レフェリーが反則を宣告するよりも早く、ボクはムタをレフェリーごと蹴飛ばした!
日本の皆さんも、ボクのキックが16文キックと呼ばれていることはご存じだろう。鍛え上げた下半身の筋力と、16インチものサイズの足から放たれるボクのキックは、
へたなレスラーだと一撃でノックアウトしてしまうほどの威力を誇るのだ。
さすがにムタは、これぐらいで参ってしまうヤワなレスラーではなかったようだ。ボクが立ち上がりリング中央に戻った所へ、すかさずその場飛びのドロップキック!
野生児ロジャーズを彷彿とさせるムタの飛び蹴りは、非常に打点が高かった。なにしろ二メートル以上あるボクの胸板を的確に狙い、百三十キロの巨体を吹き飛ばしたの
だから!
しかしボクも蹴り負けるつもりはない。素早く起き上がると、息の乱れたムタをロープに振った。
反動で戻ってきたムタの顔面めがけ、高々と上げた足で16文キック!もう一度ロープにムタを振り、二度目のカウンター16文キック!
ボクの蹴りを何度食らっても、目の輝きが失せないムタ。
「……ならば潔くとどめを刺してやるのが、武士の情けというものだ!」
ムタに負けないほど高く飛び、必殺の32文ミサイルキック!
16文キックが利かないのならば、その二倍の威力の蹴りを浴びせてやればいい。ついに膝を崩したムタが、マットの上で仰向けに寝転がる!
勝負は決まった!
ムタの上に覆いかぶさり、しっかりと両肩をマットに押さえ込んだ。カウントのタイミングは三つ、ついに勝利をものにした!
……という訳には行かなかった!
何ともお粗末な話だが、レフェリーがカウントを取れなかったのだ。
なぜなら件のレフェリーは、ロープ際でムタに放った16文キックに巻き込まれ、気絶してしまっていたのである!
いわば自業自得!
マットの上で大の字に寝転がって目を回すレフェリー。彼が目覚めてくれないことには、フォールだろうがノックダウンだろうが裁定は下らない。
したがって、レフェリーを起こすための時間稼ぎが必要になった。そのためにはムタを場外に放り投げてしまうのが一番だ。
いまだ意識が朦朧としているムタの両足をつかむ。すわエビ固めか、とばかりにムタが反抗の構えを見せるが、しかしそれも無駄なこと。
リング中央でのジャイアントスイング!
すさまじい遠心力で、ムタの体がマットに対して水平な高さまで浮き上がる!
「ノォ――ッ!」
恐怖と三半規管へのダメージのあまり、さしものグレート・ムタも子供のような悲鳴を上げた!
勢いあまって手を離すと、ムタは一度もマットに着地することなくリングの外に飛んでいってしまった!
おそらくもう、ムタにはリングに戻るだけの体力も残っていないだろう。その隙にレフェリーへと駆け寄り、気付けのために二三度頬を張った。
「ウウ……レフェリーヲ暴行スルトハ。馬場、反則ニスルゾ……」
「寝ボケた事をいうな。今のはお前を起こそうとしたものだし、さっきのは不幸な事故だ。そんなことより、お前が気絶している間にムタがリングアウトしたぞ」
「何ダッテ?!ヨシワカッタ、カウントヲ取ル」
レフェリーがゆっくりとカウントを取り始めた。けれどどれほど引き伸ばしても、勝敗は決したようなものだ。
ゆっくりと観客席を見渡す。なぜか観客は固唾をのんで、ボクを見下ろしていた。
そういえばムタは無事だろうか? あれだけ勢い良く場外へ飛ばされたのだから、ひょっとしたら負傷しているかもしれない。
皆さんの中には、敵に情けをかけるな、馬場は甘い、などという人もいるかもしれない。
だが戦ってみれば、グレート・ムタは敵ではあっても間違いなく一流のレスラーだった。そんなレスラーの命がマットの上で失われたりしたら、ボクはその悲しみに耐え
られない!
ロープに駆け寄って、場外を見下ろす。ムタの姿がない、どこにもない!
ムタはどこに消えた?!
157:ジャイアント台風異伝・ある怪奇レスラーの物語
09/10/09 00:15:31 b/5btL0k
「馬場……殺ス……」
ぞくり、とするほど殺気を孕んだ低い声が、ボクの首の後ろで囁く。彼の無事を喜ぶ気持ちなど、一瞬にして凍りつき砕け散ってしまった!
ムタだ!
振り返ったボクの目に飛び込んできたのは、今にも後ろ回し蹴りをボクにたたき込もうとするムタの姿!
あまりにも素早い動きだった。早すぎて、二ラウンド目のように捕まえることができない!
アバラに強烈な脛蹴りを食らってしまう。ムタの体格と力とスピードから考えて、ありえないほどの威力だった。
あまりの衝撃に、さすがのボクも咳き込んだ。まるで鉄パイプで直接殴られたような―
蹴りとみせかけた凶器攻撃! リングの下に落とされたとき、おそらくムタはブーツの下に凶器を仕込んだのだ!
リングの下には凶器になりそうな道具が山ほど置いてある。たとえばタンカだったり、リング設営用の工具だったり。
力と技のみでボクに勝てないと判断するや、あっさりとレスラーとしてののプライドを捨てて凶器攻撃に走るとは!
やはりグレート・ムタは悪役レスラーだった。こんな卑劣漢に情けをかけてしまった自分の甘さを、今さらになって呪わしく思う!
「おのれ、卑怯千万な! レスラーなら己の力と技のみで勝負せんか!」
「寝言ハ寝テイエ、俺ハ勝ツタメニ手段ヲ選バナイ!」
さらに凶器入りの回し脛蹴りをもう一撃!
試合開始から一貫して攻められ続けてきたボクのアバラは、もはや限界を迎えようとしていた。このまま蹴られ続けたら骨折してしまう!
レフェリーが凶器に気づくはずもない。靴の中に仕込まれた凶器の姿は外から見えない。レフェリーがムタに反則負けの裁定を下す可能性もない。
何か反撃の糸口を見つけなければ、さっきまで息の上がっていたムタに簡単にやられてしまう。そんなぶざまで情けない負け姿を晒してしまっては、
日本の力道山先生にも面目が立たぬ!
何とかしなくては!蹴られたら蹴られるほど、体の痛みに反して頭の中が冴え渡ってくる。対処方法はあった。
四発目の回し脛蹴りを、ボクは足の裏をつかって迎撃する!
「グアア……!」
ムタが脛を抱えて、リングの上を右へ左へ転がり回った。
ただでさえ強力な16文キックが、ムタの凶器で威力は二倍三倍にも増していたのだ。
しかも当たり所は、弁慶の泣き所とも呼ばれるむこう脛である。痛くないはずがない。
もはや怒りは収まらない! 靴の中から大きなスパナが転がり出てきた。自ら凶器を捨てたのだが、それでもボクは断じて許さぬ!
大巨人の怒りををのまま体現するつもりで、寝転がったムタを高々と抱え上げる。
狙うは二メートルを越える高さからのボディ・スラム!これで終わりだ!
158:ジャイアント台風異伝・ある怪奇レスラーの物語
09/10/09 00:16:28 b/5btL0k
「ン? ナンデコンナ所ニスパナガ落チテルンダ?!」
レフェリーが素っ頓狂な声を上げる。その様子に一瞬だけ気を取られてしまったのが間違いだった。
持ち上げたムタに頭を掴まれる。目の前に大きく迫った赤黒いムタの顔面。そして―
思い切り吹きかけられた緑の霧!
試合開始早々にお披露目されたあの霧は、ただの見せ技ではなかった。相手の顔に吹き付けて視力を奪う、おそるべき悪魔の反則技だったのだ!
目に染みて痛い!思わず目をつぶってしまう。何も見えない!
身長二メートルを越える大巨人から、完全にでくの坊と化してしまったボクの頭を、ムタは両脚でしっかりと挟んだ。
ボクはそのまま前方へと投げ飛ばされる。これはムタのフライング・ヘッドシザーズ!
いや正確に言うと、ボクの知らない何か別の技だった。なぜならヘッドシザーズは相手を投げ飛ばすだけの技だが、
この技はボクの頭をマットにたたき付けることを目的とした、非常にエグイ技だった。
意識朦朧とした中で、馬乗りになったムタをアバラに感じた重みでわかる。そのままボクを前方に丸め込んで、ムタがフォール狙い。
耳元でマットを叩く音がする。ワン、ツー……
本能的にムタを撥ねのけた。だがレフェリーはなぜカウントを取ったのだろう?
ボクの顔は緑色の霧に汚されていて、明らかに尋常ではなかったというのに!
グラウンドに寝たまま、さきほどマットをたたいた音を頼りにレフェリーの居所を探りあて、目をつぶったままで抗議する。
「おいレフェリー、見てなかったのか?ムタがボクにグリーンミストを吹きかけたんだ!目が見えない!反則だ!」
「スマナイ馬場。確カニオ前ノ顔ハヒドク汚レテイルナ。ダガ私ハオ前ノ言ッタ現場ヲミテイナイ」
「なぜだ!」
「ナゼカスパナガリング上ニ落チテタンデ、ソッチニ気ヲトラレテシマッタンダ」
なんという事だ。ムタが凶器を自ら捨てたのも、すべてはレフェリーの注意をそらして緑の霧を吹き付けるためだったのか!
プロレスの世界では、レフェリーの裁定が絶対である。そのレフェリーが緑の霧を見ていないというのなら、反則の取りようがない!
ムタは悪魔だ。そのずる賢さは、あの野生児ロジャーズの及ぶところではない。
悪魔的な頭脳でもってプロレスのルールの盲点を突き、レフェリーの目の届かないところで反則技を駆使して相手を痛めつけ、
傍目にはさも正々堂々と戦って勝っているかのように見せかけるのだ!
おのれグレート・ムタ!
正々堂々とした戦いでもじゅうぶん一流の域に達しているのに、なぜ三流レスラーみたいにひきょうな反則技で神聖なプロレスを汚すのだ!
はらわたが煮えくり返るほどの憤りを覚えたが、しかしボクにはどうにもできない。目をやられて、ムタがどこにいるのかもわからないのだ。
そんなボクの醜態をあざわらうかのように、百三十キロの巨体がかるがると持ち上げられる。
落されて重力の感覚を失ったボクの脇腹に、衝撃が走った。目が見えずとも、どんな技をくらったかはわかる。
これはシュミット式背骨折り!
キラー・コワルスキーが得意とする、悪魔の背骨折りだった。かつてコワルスキーはこの技で、ドン・イーグルという実力派レスラーを再起不能に追い込んでいる。
そんな恐ろしい技を、視力が奪われた状態で食らってしまったのだ。受け身も満足に取れず、したがってダメージも軽減できない!
おまけに凶器入りのキック―いや思い返せば一ラウンド目から受け続けた、全てのアバラへの攻撃が今になって効いている。
恐るべしはグレート・ムタだ。危険な背骨折りの威力を高めるため、試合開始からアバラを標的として徹底的に痛め続けていたのだ!
「うぬぅ……もはや万事休すか!」
159:ジャイアント台風異伝・ある怪奇レスラーの物語
09/10/09 00:17:01 b/5btL0k
這いつくばることもできず、マットの中央で仰向けに寝転がった。だがいつまで経ってもムタがフォールする気配はなく、レフェリーのカウントも聞こえない。
なんだ? まさかシュミット式背骨折りですら、ムタにとっては必殺技ではないというのか? まだ続きがあるというのか?
顔を両手で拭い、うすぼんやりと視力を回復させたボクの目に映ったのは、コーナーポストのてっぺんに上り、後ろ向きに立ったムタの姿。
まさかあの位置からリング中央まで、ボディ・プレスかニー・ドロップ狙って飛ぶというのか!
しかしなぜ後ろ向き? 観客に何かアピールするつもりなのか? いや―
そのままの体勢から飛んだ!
素早さ、高さ、飛距離、重厚さ、そして華やかさの全てにおいて完璧な水準を誇る、グレート・ムタの後方宙返りボディ・プレス!
プロレスにおいて、最も強力な技といえば何だろうか。
ルー・テーズのバックドロップ? あるいは無冠の帝王カール・ゴッチのスープレックス?
確かにどちらも強力な必殺技である。脳天から逆さに落されたら、大抵の人間は死んでしまうだろう。プロレスラーでも危険すぎるほどだ。
だがこの時のボクにとっては、この特殊なボディ・プレスこそが本当に恐ろしい必殺技だった。
考えてもみたまえ。百キロを越える大男が、全体重をかけて天空から落下してきた時の衝撃を!
ましてやただのボディ・プレスではない。落下のスピードに加え、宙返りで捻りをつけたボディ・プレスだった。
そのうえ序盤から終盤に至るまで、徹頭徹尾続いたアバラへの攻撃。さらに単独でも必殺技となりうるシュミット式背骨折り。
全ての攻撃が、この後方宙返りボディ・プレスへの布石だったというわけだ!
ムタが落ちた衝撃で、肺の中の空気がすべて搾り出される!息もできない!
遠のいてゆく意識の中、マットをたたく物音がうっすらと聞こえた。
だがカウントがいくつ入ったのかも、もはやボクには数えられなかった―
160:ジャイアント台風異伝・ある怪奇レスラーの物語
09/10/09 00:18:22 b/5btL0k
試合が終わり、ボクはホテルでシャワーを浴びて外出した。
サンマルチノが傷心のボクをしきりに慰めてくれたが、それでも今夜は一人になりたかった。
引き止めようとする彼の手を振りほどき、着慣れた浴衣に鉄ゲタ姿で歓楽街へと繰り出す。
路地裏で、一軒の寂れたバーが目にとまった。店に入り、一人カウンターにどっかりと座って、一番強い酒をマスターに注文する。
慣れない酒だが、今夜は飲まずにはいられない。グラスに入ったウィスキーを、男らしくグイッと呷る。
たった一口で胸が焼け、目がグルグル回った。
とにかく今日の敗戦は堪えた。とてもMSGで大トリを飾った経験のあるレスラーの負け方ではない。
サンマルチノに四十八秒でギブアップしたロジャーズのことを、ちっとも笑えない。負け方としては、あれよりもブザマだと自分では思う。
日本のジャイアントとして、これでは世界に顔向けができぬ!とんだ恥さらしだ!
ボクはいったい明日からどんな顔をして、四角いリングに上がればよいのだろう!
「馬場さん?!馬場さんじゃないっすか!」
予想だにしていなかった日本語で呼びかけられ、ボクは思わず振り向いた。さてはミノル少年、こんな所までボクの試合を見に来てくれたのか?
残念ながらボクの予想は外れた。
いつの間にかカウンターの隣に、黒髪の大柄な男が座っていた。半そでのシャツにジーンズといった、若者にありがちなラフな服装だ。
人懐っこそうな童顔に、大きなドングリまなこがやけに印象深い青年だった。
日本人だ!こんなところで日本人に出会えるとは、なんという僥倖だろう!広大な太平洋を隔てた故郷が懐かしい。胸が熱くなる。
しかし彼は何者だろうか? 体格と服装からして、日本からフットボールを学ぶため、アメリカにやってきた留学生か何かだろうか。
ボクの名前を知っているとは光栄だが、しかしお互いに初対面だ。
いぶかしんでいるボクに向かって、ドングリまなこの青年はアッサリと素性を明かした。
「オレっすか?グレート・ムタっすよ。ついさっきリングで対戦したでしょう? いやーまさかここまでイイ試合になるなんて予想もしてませんでしたよ馬場さん!」
ムタだって? この人懐っこそうな青年が? にわかには信じられなかった。
「本当か」と聞くと、「信じてくれ」と何度も強調するものだから、この青年の童顔に、悪魔のような赤と黒のペイントが塗られたさまを想像してみた。
記憶にあるグレート・ムタの悪相と、目の前の人懐っこそうな青年の顔とが、寸分の狂いもなくピッタリ一致した。
「え? ええ――――っ?!」
仰天のあまり、カウンターの上に飛び上がって、勢いよく天井に頭をぶつけてしまう!
試合でも感じなかったほどの激痛に、頭をおさえてうずくまってしまった。
まさかこの好青年が、あの悪魔のような反則ファイトと華麗な後方宙返りでボクを翻弄した張本人だったとは!
「しかし全く信じられないよ。本当だとしたら、君は今まで戦った相手の中で、ひょっとしたら一番技が華麗かもしれないね」
素直に彼の戦い方を褒め称えた。青年ムタは頭をかいて、照れくさそうに答える。
「いやぁ、馬場さんにそう言ってもらえたら光栄っす。オレ、一度馬場さんとリングの上で戦ってみたかったんすよ。うれしーな、夢叶っちゃったよ」
青年ムタの喜びっぷりといったら!まるで初めてルー・テーズとまともに会話した時の自分を見ているようで、実に微笑ましい。
とはいえこの青年、ただ者ではなかった。続いて出てきた言葉は、神をも恐れぬ大胆な言葉だった!
「でもここまできたら、やっぱバディ・ロジャーズとも戦ってみたいっすね。なんせ相手は元祖野生児<<ネイチャー・ボーイ>>なんだもの」
もしロジャーズが聞き耳を立てていたら、背筋も凍るような制裁が彼を待っていただろう!
161:ジャイアント台風異伝・ある怪奇レスラーの物語
09/10/09 00:19:12 b/5btL0k
ボクは慌てて立ち上がり、周囲の様子をうかがう。幸いにして店の中には、ボクとムタ青年をのぞけばマスターひとりだけだ。
マスターにチップを渡し、今夜の事は他言無用だと釘を刺す。
「イイデスヨ。デモ私ハ、アナタタチガ何語デシャベッテイルノカ、トント見当モツカナイノデスガ……」
チップを無駄遣いした、というセコい後悔をさとられまいと、ボクはムタに向かってチャンピオンへの非礼を諭す。
「ムタ君、ボクでもNWAチャンピオンには中々挑戦できないんだよ。ましてやポッと出の君がいきなり挑戦だなんて、非常識にも程がある」
「そりゃベルト貰えたら嬉しいけど、ロジャーズと戦えるなら地方のノン・タイトルでもいいんですよ! たった一度でいいから!マットの上で戦ってみたい!
彼のファイトスタイルに憧れてるんです! あの一挙一動に観客が沸きあがるスタイルが!オレの心の師匠、そのさらに師匠にあたる偉人ですから!」
「ほお……」
ボクが青年ムタを見る眼差しは、驚きからいつのまにか好奇心にすりかわっていた。
ロジャーズを尊敬する日本人というのは珍しい。というよりも想像の範疇を超えた存在だ。
日本人にとって、プロレスといえばイコール力道山先生だ。力道山先生に憧れて日本プロレスの門戸をたたく練習生は、今でも後を絶たない。
空手チョップにバックドロップ。試合の様子はテレビジョン中継され、力道山先生の一挙一動に国民の全てが湧き上がる。
木村先生の一件以来、プロレスこそ最強、力道山先生こそ史上最強の男だと、日本人のほとんどがそう信じている。
ロジャーズは知名度こそアメリカでは随一だが、日本ではほとんどその名を知られていない。
力道山先生を差し置いて、そんなロジャーズを偉人扱いする日本人という存在が、どうも信じられないのだ。
だからボクは、青年ムタに対して当然の質問を投げかけてみた。
「ロジャーズが偉大なチャンピオンであることはボクも認めるよ。けどどうして君は、力道山先生との対決を望まないんだい?」
この質問に対する答えを、青年ムタが言ったそのままの言葉で記そう。
「いや、ぶっちゃけ力道山はファイトスタイルがブッチャーと被ってるんすよ。だから戦っても、想像の範疇に留まっちゃうというか……」
162:ジャイアント台風異伝・ある怪奇レスラーの物語
09/10/09 00:20:25 b/5btL0k
ボクは今でも彼の言った事の意味がわからない。もしかしたら永久にわからないかもしれない。
問いただしても、青年ムタは多くを語らなかった。
何とか聞き出せたのは、彼にはブッチャーと呼ばれる友人がいること。それから件のブッチャー氏が、力道山先生とそっくりな戦い方をすることぐらいだ。
だから青年ムタの回答はひとまず保留にする。とりあえず、ドングリまなこを輝かせてロジャーズを語るこの青年の、チャンピオンに対する敬意は本物だった。
ボクがムタ青年に対してできることは、ロジャーズと戦うにあたって、彼が注意しなければならない心構えを語ることだけだ。
「わかっていると思うが、ロジャーズは腐ってもNWAチャンピオンだ。体力や技、それにスタミナにも相当のものがある。
ひるがえって君を見るに、スタミナだけが足りない。君は他の要素ならロジャーズをも上回っているが、なにせ相手はチャンピオンだ。
君のスタミナ配分がおかしいことぐらい、ロジャーズならたちまちにして見破るだろうね」
「おかしいですか?」
「ああ変だ。試合の大局を見ず、一ラウンドで全て決着をつけようとしているように見えたよ。あえて言うまでもないが、プロレスは三本勝負なんだよ」
こういうとムタ青年は、ドングリまなこをさらに見開いてボクを見た。驚きと敬意の眼差しでボクを見ているのがハッキリわかる。
「気付いてたんすか? 実はオレ、肘打ちからの体固めで馬場さんから一本取った時点で、こりゃおかしいなと思ってたんすよ。馬場さんがこんな弱いはずないって」
「一本勝負ならギブアップしなかったんだがね。一本取られてもあと二本取ればボクの勝ちだったから、流れを変えるため、わざと負けるのも戦略の一つだよ。
結果は負けてしまったけどね」
「なるほどそういう戦い方もあるんすね、いやー勉強になりましたよ馬場さん!」
ありがとうございます、とムタ青年は大げさな動作でボクに握手を求めた。握手は両者とも、両手を使ったものだった。
「うぃっし! そんなら明日からも頑張るか! 今日はどうもありがとうございました!」
とてもエネルギッシュな声でそう宣言すると、ムタ青年は椅子から跳ね降りた。出口に向かう途中で、思い出したかのようにボクを振り返る。
「あ、そうだ馬場さん。もし機会があれば、今度はコレで勝負しませんか?」
青年は親指と人差し指と中指を使って、パイをつまみ上げる仕草をしてみせた。
この青年は打てるのか。それはボクにとって、プロレスの次に得意な勝負だ。
「プロレスでは負けたけど、マージャンなら容赦しないよ。なにせレフェリーがいないから、第三者によるゴングもない。自分が勝つまで戦える」
「そいつは厳しいな。お手柔らかにお願いしますよ」
「それは無理だね。今日負けた分を、卓上で倍にしてお返ししてあげるよ」
マジ厳しいなあ、とムタ青年は苦笑を浮かべた。ムタ青年は深々と頭を下げて、おぼつかない足取りで店を出てゆく。
プロレスを心から愛する青年の存在に、心が温かくなった。
こんな青年が日本のプロレスで活躍してくれたら、もしかすると力道山先生よりも強烈な救世主になってくれるかもしれない。
と同時に浮かんだのは、もしかして今日の試合で彼の足を攻めていれば勝てたのかな、というつまらない嫉妬だった。
あの跳躍力を考えたら、ムタの膝は健康そのものだ。何度攻撃したところで壊せないだろう、という常識的な考えに打ち消されたが―
―――――――――――――――――――――――
163:ジャイアント台風異伝・ある怪奇レスラーの物語
09/10/09 00:21:25 b/5btL0k
「それで馬場くん。そのグレート・ムタという青年とは、戦う機会はあったのかね?」
高森の質問に、馬場選手は葉巻をくゆらせながら首を振った。馬場選手はおもむろに語る。
「ロジャーズが彼と戦ったという噂も耳にしなかったよ。結局日本でマージャンを打つ事もなかったしね」
もったいないな、と馬場選手は呟く。
「あれだけの逸材が日本のプロレスに現れたら、すぐにでも力道山先生に取って変わるヒーローになれたのに!」
咥えた葉巻をガラスの灰皿に押し付けて、馬場選手は無念さを強調するように高森に言った。
「正直言って吉村先輩よりも巧くて、しかも試合に華がありましたよ!ムタとボクとで十番勝負ぐらいやって、どっちが上か世間に知らしめたかったぐらいだ!」
今のはオフレコで、と馬場選手は我に帰って高森に釘を刺す。高森もそこは弁えたもので、馬場選手の怒りは己の内心のみに留め置く。
それはそうだ。力道山以上のプロレスラーが存在した、しかもその男が人知れず、アメリカマット界で活躍していた、という話が知られたら、
力道山光浩という男に対して抱いていた、全ての日本人の幻想を打ち砕いてしまうことになる。
オフレコ、という事で安心したのか、馬場選手は日頃高森に対しても漏らさぬ本音を語ってくれた。
「実に勿体無い逸材だ!なんで彼が日本プロレスに所属していなかったんだ!」
馬場選手がここまで怒りと嫉妬の感情を露にすることも珍しい。グレート・ムタがそれほどの逸材だったと言うのなら、
ぜひ高森もお目にかかってみたいものだ!
けれども馬場選手の話を聞く限り、グレート・ムタは夢か幻のごとく消え去ってしまったという。
ここで高森は、ひとつ大胆な推理をお披露目しようと思う。もちろん根拠はない。
だが未だにグレート・ムタなるレスラーがこの世に登場していない以上、こんな推測も許されるのではないだろうか。
もしかしてグレート・ムタとは、アメリカマット界の懐の深さに心打たれた馬場選手が、理想の日本人レスラーとして思い描いた産物なのかもしれない。
こんな日本人レスラーが、いつかは誕生してくれるだろうという、馬場選手が思い描いた空想の産物ではなかったのか―
<<終>>
164:名無しさん@ピンキー
09/10/09 00:22:05 b/5btL0k
お読み下さった皆様、ありがとうございました。
なぜジャイアント台風の二次創作、およびオリキャラという体裁を取ったかというと、さまざまな問題を回避するためです。
・実在の人物の功罪、毀誉褒貶に関わる議論を避けたい。
・本当にプロレスは最強か、最強の格闘技および最強の人物は誰なのか、という議論を避けたい。
・実在の人物に対する名誉毀損、とも取られかねないネタを作中で使いたくない。
これらの問題を説明する手間に比べたら、二次創作でオリキャラを活躍させているってスタンスの方がまだマシ、という結論に達しました。
なのでこの作品に登場するキャラクターは、実在の人物とは一切関係ありません。
あくまでジャイアント台風の登場人物、およびオリキャラ、という事にしておいて下されば幸いです。
お願いしますから訴えないで。俺はケンドー・カシンほど肝が据わっちゃいないので。
最後に。
四角いリングには夢がある。
考えてもみたまえ。五十キロにもすぎない女の子が、全体重をかけて天空から落下してきた時の衝撃を!
あまり効かないし萌え和む。
頑張れ元ひきこもりの真琴たん。
165:名無しさん@ピンキー
09/10/10 01:57:08 +rzePUva
>>164
GJ!こういう話も新鮮で良いよね。
あと、これから投下する際は「何レスで終わるのか」も書いてくれるとありがたいね。
166:名無しさん@ピンキー
09/10/14 03:19:58 kMGCpp2b
個性的で面白かった
GJ
読めて嬉しい
167:名無しさん@ピンキー
09/10/26 23:00:34 W5FWk5T+
hosyu
168:それは一刻を待たず広まる1/3
09/10/29 16:52:35 rhkJX3tE
エロ無・かなり捏造・オリキャラ出現・尻切れトンボ
1
「‥さぁ野菜も煮えたし、後はこれを入れれば完成ね」
手元の調味料を一つまみ、鍋に加える。
支度を終え、小屋の外に出ると、お天道様が真上近くまで来ていた。持っていた手拭いで、顔や首周りの汗を拭う。
「…そろそろかしらね」
もう少しすれば、あのしっかり者の犬が、昼を告げに鐘の塔にのぼるだろう。
「あ~良いお天気!」
空に向かって背伸びをした。
「おばちゃん!」
「わぁ!!!‥あ、貴方いつからここにいたの?」
ふり返ると、見慣れない青年がすぐ傍に立っていた。
ウグイス色の上下揃いの着衣を纏い、頭巾をかぶっている。
―そして、お天道様が顔負けする様な笑みをこちらに向けていた。
どこの忍者かしら…まだ若い様だけども
「お久しぶりです。おばちゃん」
「え?‥はい?あの~失礼ですが、どちらさんでしたか?」
「あ、そうですね…
私が卒業してから何年も経ちますし、覚えていらっしゃらないのも無理ありません‥」
そう言うと、彼は俯いた。先程までの満面の笑みは消えてしまった。
「‥ごめんね~最近どうもボケちゃってさ。
ここまで出かかってるのよ~」
罪悪感から必死に思い出そうとするが、何一つ思い出せない。
先程とは違う理由で、滝の様に汗が流れる。手拭い一つでは間に合わず、
かっぽう着の裾を代用する。
「‥もう良いんです」
「え?でも…」
こちらを向き、再び話始めたかと思えば、そっと両手を包み込む形で握り締められた。
169:それは一刻を待たず広まる2/3
09/10/29 16:54:22 rhkJX3tE
2
「…あの~‥」
「‥おばちゃん!忍玉の頃からずっと貴女が好きでした!この想いはこれからも一生変わりません!
どうか‥私と夫婦になっていただけませんか?」
彼の瞳には、狐につまれた様な表情の自分が映し出されている。
何故…こんな青年が?
何故…こんなおばさんに?
……そうか!これは夢なのね?
どうせ夢なら…‥
「…はい」
「本当ですか?!貴女を必ず幸せにしてみせます!!」
突然抱きしめられ、息苦しくなった。
彼は再び微笑むと、今度は私の両肩に手を乗せ、こちらへ顔を少しずつ近付けてきた。
緊張から顔が火照り、足元がどうもぐらつく…足元を確認しようとしたところ、
激しい眩暈に襲われた。
「‥あ」
「おばちゃん!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「…………」
どこか見慣れた天井が目に飛び込んできた。
そして独特の鼻をつく匂い。
「ここは…」
布団に横たわっていた自分。どうやら倒れて、保健室に運ばれたらしい。
やっぱり夢だったか…
そうだよね。こんなおばさんを、あんな若い子が…
「…あ゙」
慌てて起き上がり、小窓から外を見ると、日が落ちすっかり暗くなっていた。
昼食は誰が子供たちに配ったのだろう。
…子供たち自身が?それとも先生方が?
自分が倒れてからの事を想像したら、とても気になった。
170:それは一刻を待たず広まる3/3
09/10/29 16:58:34 rhkJX3tE
3
ガラッ
「ふぅ…あれ?おばちゃん起きてたんですか?」
「あら、乱太郎くんじゃない?どうしたの?」
「あぁボクは保健委員なんです。そんな事より、体調はどうですか?」
学園指定の着衣に丸眼鏡の少年は、入ってきた戸を片手で閉めると、手桶の水につけ手拭いを、
彼女に差し出した。
「えぇ大丈夫。心配してくれてありがとう」
「いいえ~。でもおばちゃんが食堂前で倒れたって聞いて驚きました」
「本当にごめんね~。給食は誰が運んでくれたの?」
「あぁ、それなら私ときり丸・しんべえに」
ガラッ
夢の中で逢った青年が部屋に入ってきた。
「おばちゃん、まだ安静にしていて下さい!」
「この人が手伝ってくれました」
夢だと思っていたのに…
「…‥…‥」
「どうしたのですか?」
彼がこちらを覗き込んできた。
「…なん‥でもないの」
「…‥今にも泣きそうな顔をしてどうしたのですか?私にはいえぬ事ですか?」
「そんな事‥」
「永遠を契った夫婦じゃないですか‥私では頼りになりませんか?」
「あなた‥」
「え…め、おと?…‥え゙ええぇ??!」
目の前で繰り広げられた思わぬ展開に、慌てふためきながら、乱太郎はその場を後にした。
保健室の札を『不在』に引っ繰り返す事を忘れたのは、いうまでもない話だった。
糸冬
元ネタ表記を忘れていた‥N〇Kで放送しているあのアニメです
171:名無しさん@ピンキー
09/11/14 22:00:26 8qemJ6A8
下がり過ぎてるからage
172:名無しさん@ピンキー
09/11/15 00:39:41 16vUuiHQ
投下乙
173:名無しさん@ピンキー
09/11/19 12:59:50 1fXk5VHK
こっちの世話になろうかな
174:名無しさん@ピンキー
09/11/20 19:38:47 xK2dG1zI
マイナーなギャルゲーSS祭り!変更事項!
1. SS祭り規定
自分の個人サイトに未発表の初恋ばれんたいん スペシャル、エーベルージュ、センチメンタルグラフティ2、canvas 百合奈・瑠璃子シナリオ
のSSを掲載して下さい。(それぞれの作品 一話完結型の短編 10本)
EX)
初恋ばれんたいん スペシャル 一話完結型の短編 10本
エーベルージュ 一話完結型の短編 10本
センチメンタルグラフティ2 一話完結型の短編 10本
canvas 百合奈・瑠璃子 一話完結型の短編 10本
BL、GL、ダーク、18禁、バトル、クロスオーバー、オリキャラ禁止
一話完結型の短編 1本 プレーンテキストで15KB以下禁止
大文字、太字、台本形式禁止
2. 日程
SS祭り期間 2009/11/07~2011/11/07
SS祭り結果・賞金発表 2011/12/07
3. 賞金
私が個人的に最高と思う最優秀TOP3SSサイト管理人に賞金を授与します。
1位 10万円
2位 5万円
3位 3万円
175:名無しさん@ピンキー
09/11/20 19:39:10 xK2dG1zI
(1) 初恋ばれんたいん スペシャル
初恋ばれんたいん スペシャル PS版は あまりのテンポの悪さ,ロードは遅い(パラメーターが上がる度に、
いちいち読み込みに行くらしい・・・)のせいで、悪評が集中しました。ですが 初恋ばれんたいん スペシャル PC版は
テンポ,ロード問題が改善して 快適です。(初恋ばれんたいん スペシャル PC版 プレイをお勧めします!)
初恋ばれんたいん スペシャルは ゲームシステム的にはどうしようもない欠陥品だけど。
初恋ばれんたいん スペシャル のキャラ設定とか、イベント、ストーリーに素晴らしいだけにとても惜しいと思います。
(2) エーベルージュ
科学と魔法が共存する異世界を舞台にしたトリフェルズ魔法学園の初等部に入学するところからスタートする。
前半は初等部で2年間、後半は高等部で3年間の学園生活を送り卒業するまでとなる。
(音声、イベントが追加された PS,SS版 プレイをおすすめします。)
(3) センチメンタルグラフティ2
前作『センチメンタルグラフティ1』の主人公が交通事故で死亡したという設定で
センチメンタルグラフティ2の主人公と前作 センチメンタルグラフティ1の12人のヒロインたちとの感動的な話です
前作(センチメンタルグラフティ1)がなければ センチメンタルグラフティ2は『ONE~輝く季節へ~』の茜シナリオを
を軽くしのぐ名作なのではないかと思っております。 (システムはクソ、シナリオ回想モードプレイをおすすめします。)
(4) canvas 百合奈・瑠璃子シナリオ
個人的には 「呪い」 と「花言葉」 を組み合わせた百合奈 シナリオは canvas 最高と思います。
176:名無しさん@ピンキー
09/11/22 13:05:37 UwQtugcF
ここが一番雰囲気いいな
177:名無しさん@ピンキー
09/11/24 00:13:14 Ho3E3ZKg
迷った末にこちらへ投下
「キン肉マンレディー」の二次創作でブロッケンJr.×ムッターブロッケン
(レディー自体が公式二次作品だから三次創作か?)
近親相姦もの(親子)で、レイプというか無理矢理系?
捏造設定やコミックス未収録部分のネタバレあり
NGワードは「赤壁」、苦手な人はスルーしてくれ
178:赤壁1
09/11/24 00:14:53 Ho3E3ZKg
日が沈みかけている夕暮れ刻。
今日も我がブロッケン家のポストには国内のフロイライン達から束になるほどのファンレターが届けられていた。
それらは全てこの家の長であるオフクロ宛てのもので
恐らくどれも慰めや励まし、あるいは嘆きの言葉が綴ってあるんだろう。
否応なく先の超人オリンピックを思い出させるそれを手にして、俺は溜め息をこぼした。
先日開催された第二十回超人オリンピック。
その大会でラーメン娘(ニャン)に残虐ファイトで敗北したムッターブロッケン、
つまり俺のオフクロは、試合後に正式にリングから降りることを発表した。
それほどまでにオフクロにとってあの試合内容、そして敗北はこたえたんだろう。
事実、その時の憔悴ぶりは見ているこちらが辛くなるほどだった。
日本から帰国した後、国内のテレビ局や新聞社から取材の申し込みが殺到したが
オフクロはその全てを断り、人前に姿を見せようとはしなかった。
最後の試合となったあの一戦を思えば、無理もないだろう。
口内に仕込んでいた、衣服だけ溶かす腐食ガスカプセルで逆に乗馬ズボンを溶かされ、
下半身を露にされたばかりか上半身の服をキャメルクラッチでビリビリに裂かれ、胸まで晒されたのだ。
そんなやられ方をして落ち込まない女などいようか。
何度思い出しても変わらずに込み上げてくる、ラーメン娘への憎しみ。
思わず拳を握りそうになり、慌てて力を緩める。危うく手にしていた手紙の束をぐしゃぐしゃにしてしまうところだった。
どうにか気持ちを沈めながら階段を上る。行き先は二階の一番奥の部屋―オフクロの自室だ。
「オフクロ、入るぞ」
ドアを開けると、日が沈みかけている時間帯だというのに部屋の照明が点灯されておらず、中は薄暗かった。
オフクロはバルコニーへと続く硝子ばりの扉の前でぼんやりとしていたらしく、
緩慢な動作でこちらに視線を向けた。
「ここに置いておくからな」
日当たりのいい位置に置かれた執務机には、
最近届いたファンレターが手付かずのままの状態で積まれており、机上を占領している。
引退発表後にひっきりなしに届くそれらからは、超人レスラーとして国内で活躍してきたオフクロの人気の高さが窺えた。
引退を嘆く者も未だに多い。
「いつも済まないな、Jr.」
隣に立てば、再び外の景色に視線を戻したオフクロが小さく呟いた。
179:赤壁2
09/11/24 00:16:14 Ho3E3ZKg
俺がオフクロの背を追い越したのはいつだっただろうか。自分よりもやや低い位置にある横顔を見てふと思う。
軍帽とヘッドギアを身に付けていないために露になり、夕日に照らされている髪。
すっとして整った鼻筋に、啄みたくなるくらい艶やかでふっくらとした唇。
あの試合後暫くは色を無くしていた瞳は、今では光を取り戻しつつあった。
その証拠に、濃緑の軍服を纏う姿は以前のように凛としていて美しい。
ぎゅっと拳を握る。そうでもしなければ身体の内側から沸々と沸き上がるこの感情を抑えきれそうになかったからだ。
俺と妹の二人を育てながらリングに立って戦うオフクロは、昔から俺の誇りだった。
幼い頃はオフクロと血の繋がりがあるという事実が誇らしく、嬉しかった。
しかし、今では時折この血の繋がりがどうしようもなく辛い。
オフクロを母としてだけではなく異性として意識するようになってしまったから。
初めはただのマザーコンプレックスだと思っていた。
うちは早くにオヤジを亡くしていたこともあったから、そのせいでオフクロへの気持ちが強いんだろうと。
だが初めて夢精した時の夢の内容によって、それは完全に否定されてしまう。
同時にオフクロへ親子としての親愛の情以上の気持ちを抱いていることを認めざるを得なくなった。
一番近しい存在でありながら、その近さ故に手にすることの出来ない人。
倫理という誰が定めたのか分からない常識に苛まれながら、俺はただひたすらこの想いを押し殺すしかなかった。
「Jr.」
唐突に名を呼ばれて慌ててオフクロから目線を外す。
不躾な視線を咎められるのかと思ったが、その声の穏やかさからはそんな様子は感じられない。
「もう心配しなくていい。私なら大丈夫だ」
「オフクロ…」
「今回の件は自業自得というやつなんだろう」
オフクロは自身を嘲るような笑みを浮かべた。
「ラーメン娘にされたようなことを私も今までやっていたんだ。彼女を恨むのは筋違い…だからお前も私の仇をとろうだなんて―」
「オフクロとあいつは違う!オフクロは金儲けの為に残虐ファイトをしていたわけじゃないだろ!」
「理由はどうであれ、私が残虐ファイトをしていたことに変わりはない」
オフクロの言っていることは最もだ。だが、そう理解していてもこの激情は沈めることが出来なかった。
「オフクロがなんと言おうと、俺は絶対あいつを許さない…!」
180:赤壁3
09/11/24 00:19:55 Ho3E3ZKg
「Jr.…今回のことでお前達にも迷惑をかけて済まないと思っている」
非は全て私にある、と続けるオフクロに対して俺は頭を振って否定する。
「違う、俺はそんなことに憤っているんじゃない!俺は、俺は…!」
頭に血が上った状態の今の俺には言葉という手段はもどかしすぎて、とっさに身体が動いてしまう。
気付けば俺はオフクロを背中から抱き締めて腕の中に閉じ込めていた。
「…オフクロのことが、好きなんだよ!」
腕の中の身体が強張るのを感じたことで、自分のしでかしていることの大きさを再確認させられる。
それでも今更踏み留まることなんて出来そうになかった。
「オフクロは分かってない。あの試合の時、オフクロがあんなことをされて俺がどれほどあいつを憎んだか…」
いや、憎しみなんて生温い言葉では足りない。あれは今までで一番凶暴な殺意に違いなかった。
「もし妹が…フロイラインブロッケンJr.が同じ事をされても、俺はきっとこんなに心を荒らすことはない。
辱めを受けたのが他でもないオフクロだから…だから俺はラーメン娘が許せない…!」
自然とオフクロの身体を抱く腕に力が籠る。
そうすることでこの激情が少しでも伝わればいいと願いながら。
だけど現実はいつも残酷だ。
「放せ、Jr.」
息子から告白を受けたというのに、オフクロの声は冷静だった。
それはつまり、俺の気持ちが全く届いていないということに他ならない。
「嫌だ」
「Jr.……お前はきっと勘違いしているんだ。私への敬慕と異性への恋慕を取り違えて―」
「違う!」
ああ、やっぱり。
オフクロの中にも常識という厄介な枠組みが存在していて、
息子が母親を恋い慕うなんて出来事は有り得ないものとして捉えられている。
昔から俺が真に心の底から欲しいと焦がれ求めるのは、今この腕の中に身を置く人ただ一人だというのに。
しかし何を言っても恐らく一生俺の言葉は否定され続けるだろう。今この時以上に言葉の無力さを痛感したことはなかった。
どうしたらいい?
どうしたら俺の気持ちは認めてもらえる?
「いい加減にしないか、Jr.。これ以上お前の戯言を聞くつもりはない」
「戯言?」
自分でも驚くくらい、冷たく地を這うような声。
―もう限界だ。
「…Jr.?」
「俺の言葉が戯言かどうか、証明してやろうか?」
悪魔に背を、押された気がした。
181:赤壁4
09/11/24 00:20:57 Ho3E3ZKg
俺の様子が変わったことを感じ取ったんだろう。オフクロは俺から逃げようと抵抗を始めた。
それを片腕でどうにか押さえ込みながら、俺は軍服の中を探ってベルトデザインの手枷を取り出した。
幼い頃からオフクロの修行を受けてきた俺は
オフクロ同様に衣服の中や口内にいくつもの武器や拘束具の類を仕込んでいる。
敵を叩きのめす為に忍ばせているそれをまさか師匠であるオフクロに使うことになるとは思わなかったが
隠し持っておいて良かった。
「くっ…!」
オフクロを目の前の硝子戸に押し付ける。
上半身をぶつけた衝撃で怯んだその一瞬の隙を利用し、俺はオフクロの両腕を後ろ手にして手首を拘束した。
それから先手を打ってオフクロの両脚の間に自分の右脚を挟ませる。
「止めろ、Jr.!」
鋭い声で叱咤されるが、その声音の中には微かに脅えの色が入り混じっていた。
当然、これから何をされるのかくらいは既に分かっているんだろう。
オフクロのその様子に少しばかり心が痛んだが、今更止められそうにない。
手の自由を奪ったことで抵抗する術は大体無くなったと言っていいが
念のためにオフクロが武器類を隠し持っていないか確認していく。
軍服の上から撫でるように手を滑らせれば、小さく震える身体。
未だに強気の姿勢を保ってはいるが、其の実これから行われる行為を予測して、胸中は恐怖で満たされているに違いない。
身の内から沸き上がる衝動のままに獣のような荒さで手酷く抱いてしまった方が
その分オフクロも俺を心の底から憎むことが出来て楽だろう。
そうして徹底的に被害者となることで間違ってもオフクロが責任を感じることはないはず。
そう理解してはいるが相手は長年恋い焦がれてきた人だ、
今までの誰よりも優しく甘く丁寧に抱きたいという欲求の方が当然勝った。
しなやかさを持つ、鍛えられた身体を包み隠す軍服のボタンをゆっくり外していく。
最後のボタンを外し終わると、左右に開いて脱がしにかかった。
勿論手首を拘束している為に完全に脱がすことは出来ない。
上着は両肘の辺りで引っかかって、よりオフクロの腕の動きを制限するような形となる。
露になったオフクロの首筋へ誘われるように鼻先を埋めた俺は、上着の下に着込まれたTシャツの裾から手をするりと侵入させた。
それに慌てたオフクロは更に声を荒げる。
182:赤壁5
09/11/24 00:25:08 Ho3E3ZKg
「止めろと言ってるだろう、Jr.!」
「…オフクロこそ、あんまり大声出さない方がいい。実の母親と兄貴のセックスシーンなんて、あいつに見せたくはないだろ?」
「!」
一緒に住むもう一人の家族、フロイラインブロッケンJr.の存在を出せば、オフクロは肩を震わせて押し黙った。
日頃の鍛錬の賜であろう引き締まったウエストを撫で上げ、そのまま侵入させた手をゆっくり上へと上らせていく。
程無くして指先が柔らかな二つの膨らみを捉えた。
「相変わらず付けてないんだな」
昔からオフクロは何故かブラを身に付けずに生活していて、それがあの試合で災いしてしまったわけだが
それでも改善されていないらしい。
「ぁ…触るなっ…!」
柔らかくて張りのある乳房を掌全体を使ってやわやわと揉むと、外に漏れることを恐れてか潜められた拒絶の声が上がる。
勿論、触るなと言われてそれに大人しく従うことなど無理な話だ。
しっとりと手に馴染む豊満な乳房は離し難いくらい心地よく、いつまでも触れていたい気分になる。
「んっ!」
硬度を持ち始めた乳首を摘んで刺激を与えると、オフクロの身体が僅かに跳ねた。
更に、声を出してしまったことが恥ずかしいのか、耳がうっすら朱に染まっていく。
気をよくした俺は、色付いた耳たぶを緩く甘噛みしながら指先を鉤状にして乳首をひっかけたり、逆に弾いたりして弄ぶ。
本当は舌も使って愛撫したかったが、後ろから抱き込んだこの体制では叶わない。
代わりに、首筋や耳たぶを舌先で擽った。
「くっ、んん…はぁ、ぁっ…」
オフクロは声を出すまいと歯をくいしばっているようだが、それでも時折熱を孕んだ吐息が艶やかな唇から漏れてくる。
耐える余裕や強固な理性さえも剥いで奪おうと、俺はオフクロのベルトに手をかけ外しにかかった。
「―!や、止めっ…」
この期に及んでまだ抵抗しようともがく身体を片腕で難無く押さえる。
同時にベルトを外され緩んだズボンへ手を潜らせ、ショーツの上から弾力のある尻を撫でた。
力加減に気を付けながら揉めば、俺の掌を押し返そうとするそこは胸とはまた一味違う揉み心地の良さを持っている。
引き締まった腰といい大きさも張りもある柔らかな胸といい、
とても子供二人を産んでいるとは思えない艶めかしい身体にどうしようもなく欲情した。
183:赤壁6
09/11/24 00:28:45 Ho3E3ZKg
この身体も心も、思う存分乱れさせたいという欲求に急き立てられるように、
オフクロを押さえ込んでいた片手をショーツの中へ滑らせる。
そうして茂みの先にある、女性の一番の性感帯である陰核部分を指先で探りあてれば、オフクロが息を呑む気配がした。
「やっ…駄目だっ、そこは……あぁっ!」
指の腹で優しく上下に擦ればオフクロはとっさに脚を閉じようとするが、
間にある俺の右脚がそれを阻止する。先手を打っておいて正解だった。
「嫌、やっ…ぁあっ…あ、ああっ」
弱々しく振られる頭。口調も軍人特有の堅いものから徐々に女性らしいものになっていっている。
じわじわと与えられている快楽に翻弄されて余裕がなくなってきているんだろう。
あと一歩というこの機を逃さないよう、俺は更に攻めたてることにした。
陰核の下の割目に指先で触れる。そこはしっとりと湿り気をおびて、僅かにぬるりとしていた。
粘着質な愛液を掬い、それを皮が剥けて剥き出しとなった陰核に塗って刺激を再開する。
「ひっ、やぁ!あ、んっ…!」
愛液のお陰でよりスムーズに指を滑らせることが可能となり、
そのままの勢いで陰核を円状にこね回し、きゅっと摘みあげた。
「はぁっ、あ、あぁっ、あああああっ!!」
快楽の絶頂を迎えたオフクロは弓形に背を反らして全身をビクビクと痙攣させた。
足に力が入らないのか、ガクリと崩れる身体。それを後ろから支えて項にキスをすると、柔らかな肌はしっとりと汗ばんでいた。
静謐な空間に荒い息遣いが響く中、項垂れていた頭が上げられてこちらを睨んでくる。
「はぁ…はっ…もう、気は済んだ…だろう……?」
だから放せ、と上気した顔で切れ切れに続けるオフクロを、俺は少々乱暴気味に執務机の上へ仰向けに押し倒して覆い被さった。
机上のファンレターや羽ペン、インクが音を立てて床に落ちる。
「痛っ…!」
「オフクロは何も分かっちゃいない。今だって俺がその場の勢いや意地でこうしてると思ってるんだろ?」
「……」
「俺の気持ちを理解してくれるまで、放すつもりはないからな」
「だからそれはっ、気の迷いに過ぎないと―」
「気の迷いで実の母親が抱けるかよ!」
ベルトを抜き取ってからオフクロの脚を包む乗馬ズボンを力任せに裂いていく。布が裂ける音が部屋中に響いた。
「や、め…!」
無惨に裂かれた布を纏わせた足が折り曲げられたかと思うと、鋭く蹴りを放ってきた。
184:赤壁7
09/11/24 00:33:03 Ho3E3ZKg
こちらの顔面めがけて突っ込んでくるブーツの靴底を、ギリギリかわして脚を掴む。
残りの脚も掴んで大きく足を開かせると、オフクロの顔が悔しさと羞恥心からか再び朱に染まった。
先程も見せた、生娘のように恥じらうその表情に煽られて身体が熱くなる。
自身の乾いた唇を舐めながら、指先で軽くショーツをずらして秘所に触れた。
女の匂いを放つ濡れた割れ目を一度なぞり、膣口から人差し指をゆっくり沈ませていく。
熱く潤んだ膣内は本人の頑な態度に反してすんなりと指を受け入れた。
「ん、くっ…!」
逃げようとする腰を押し留めながら指を抜き差しすれば、くちゅくちゅと粘着質な音が生まれ、
中指を追加して奥まで探るように動かしていくと、気持ちいいのか一段とそこはぬるぬると潤いを増していく。
「はぁ…ぁ…やめっ、ぬ、けっ…!」
オフクロはそう言うが、むっちりとした太股の内側に舌を這わせると膣内はきゅうっと収縮して、俺の指を締め付けて離さない。
「こっちは抜かないでくれ、って言っているみたいだな」
「ち、違っ……ひぅ!やっ、あぁ―!」
指の動きを速めて膣壁を蹂躙すれば、オフクロは退け反って脚を震わせた。
悩ましげに寄せられた眉に、瞳は濡れて頬は上気し、控え目だった喘ぎ声は最早抑えることが出来ないのか大胆になっていく。
その全てが、快楽を享受していることを如実に語っていた。こちらももう耐えられそうにない。
上着を脱ぎ捨てチャックを下ろし、随分前から窮屈になっていたものを解放する。続け様にポケットから避妊具を取り出した。
街に出ると女性に誘われる機会も多く、時にはそのまま一夜限りの関係を持つことも少なくはない。
そんな時の為にいつも持ち歩いている物だ。
今回ばかりは使わずにいきたかったが、もしもの時のことを考えるとそうはいかない。
準備を終え、愛液で濡れた膣口に己の昴ぶりを宛てがえばオフクロはビクリと身を竦ませた。
「ぁっ…だめっ、だ…それだけは…!」
禁忌を犯してしまうことへの脅えからか、懇願するような瞳で見上げられる。今にもそこから涙が溢れそうだ。
185:赤壁8
09/11/24 00:36:14 Ho3E3ZKg
今更この行為を止めることは出来ないが、どうにか本能的な恐怖や不安を少しでも緩和させてやりたくて
髪をそっと撫でながら額、瞼、頬に優しくキスしていく。
「大丈夫、オフクロはなにも悪くない。悪いのは俺一人だから、何も考えずに身を委ねていればいい」
耳元に唇を寄せて、まるで子供に言い聞かせるかのように囁く。
それでも身を固くしたままのオフクロに、俺は自分の軍帽を目深に被せて視界を遮った。
「それが無理なら、オヤジに抱かれていると思えばいい。そうすれば気も楽だろ?」
返事など待たずに、俺は宛てがっていたものを一気に突き入れた。
「ああっ!そこ、いいっ…!あぁー…!」
グチュグチュと奥を突く度に上がる嬌声。余程興奮しているのか、オフクロの乱れ様は想像以上だ。
年齢の割に狭い膣は、オヤジが死んでからこういった行為とはご無沙汰だったことの表れかもしれない。
わざと浅いところばかりを行き来すれば、物足りないのか切なげに強請る言葉を口にする。
同時にブーツを履いたままの脚で俺の腰を固定し、一心不乱に腰を揺らした。
その様は普段の姿とはかけ離れていて、あまりの淫奔さに下半身がまた熱くなる。
強請られた通りに怒張したものを子宮口めがけて打ち付けてやれば、歓喜するように熱く絡み付いてくる。
ぷるぷると揺れる乳房を揉み、ツンと上を向く色付いた乳首を舐めあげると、色っぽい吐息が耳に届いた。
身体を反転させて、今度は後ろから責めたてる。えぐられる角度が変わったからか
オフクロは一際高い声で鳴いた。
限界が近いのか、膣内がより一層蠕動する。搾り取ろうとするようなその動きに、こっちももう持ちそうにない。
「やあぁっ!もう、だめぇっ…ぁ、あああああっ!!」
悲鳴に近いその声を聞きながら、俺は一番深いところで堪らず射精した。
186:赤壁9
09/11/24 00:40:01 Ho3E3ZKg
手枷を外してオフクロを寝台に寝かせる。
抵抗されるかと思ったが、長時間拘束されたせいで痺れきった腕と疲労が原因だろうか
オフクロはされるがままだった。互いに何も言わない沈黙の空気が重苦しく感じられる。
「Jr.」
後片付けを終えて部屋を出ていこうとすると、擦れた声に呼び止められた。
一体何を言われるのか。緊張した面持ちを背を向けることで隠し、じっと次の言葉を待つ。
「……済まない」
呟くような予想外の台詞に、思わず振り返る。
こちらに背を向けて横になっているオフクロからは、その言葉の意味を読み取ることは出来なかった。
―何に対しての謝罪なのか。
問えないまま俺は軍帽を目深に被り直すと、今度こそ部屋を後にした。
終
187:名無しさん@ピンキー
09/11/24 00:44:56 VKJqsHo9
GJ
なかなか渋いキャラチョイス
188:名無しさん@ピンキー
09/11/25 00:31:56 0jPhSc4m
おお、GJ
良かったよ
189:名無しさん@ピンキー
09/12/08 09:24:43 7mc+3fgR
hosyu
190:名無しさん@ピンキー
09/12/09 20:53:38 AvBiBhNU
投下乙
191:名無しさん@ピンキー
09/12/31 09:11:29 SrRNKhYt
保守
192:名無しさん@ピンキー
10/01/02 09:25:18 wszWXsS7
あけおめ
193:名無しさん@ピンキー
10/01/06 23:22:07 fg43cwms
あけおめこ
194:名無しさん@ピンキー
10/01/24 16:54:44 /3W4Up+y
ho
195:名無しさん@ピンキー
10/02/04 18:14:06 STeQR9Pu
保守
196:名無しさん@ピンキー
10/02/13 00:47:00 ejMrktYn
ほ
197:名無しさん@ピンキー
10/02/15 11:51:52 YQ1zovtL
し
198:名無しさん@ピンキー
10/02/16 04:43:17 AF6RN54k
い
199:名無しさん@ピンキー
10/02/16 14:31:03 NvpSAjil
何が欲しいの?
新しいSS?
200:名無しさん@ピンキー
10/02/18 14:59:22 C6nw289g
保
201:名無しさん@ピンキー
10/02/25 22:27:12 yZHRE+Tj
ほ
202:名無しさん@ピンキー
10/02/26 21:31:26 KRKAlBXq
し
203:名無しさん@ピンキー
10/02/26 21:49:54 ivrTtXLe
の
204:名無しさん@ピンキー
10/02/26 23:10:19 KRKAlBXq
あ
205:名無しさん@ピンキー
10/02/26 23:31:20 qZuyUUMx
ま
206:名無しさん@ピンキー
10/02/27 01:11:32 iCMM89X0
ね
207:名無しさん@ピンキー
10/02/28 13:17:20 Qf2azykf
ち
208:名無しさん@ピンキー
10/03/03 15:11:09 bPmlKnWg
み
209:名無しさん@ピンキー
10/03/06 23:56:06 ODI6xuTP
保守も楽じゃない
210:きっとこの先も…1/4
10/03/15 06:10:31 SIg7cr2d
※元ネタ/山田太郎ものがたり(原作版)
・非エロ・4消費
・永原×鳥居・結婚後・鳥視点
1
帰宅した途端、上着を脱ぐ暇さえ与えられず彼の対面のソファーに座らされ、取り調べを受ける。
「それで今日はどうして遅れたんですか?」
「…すいません。クラスの子の進路相談に乗っていて…」
「そうですか。相手は女子生徒ですか?それとも男子生徒ですか?」
「じょ、女子生徒です!」
「本当に?」
銀の細いフレームのレンズ越しに、彼の切れ長の眼がさらに鋭くなった。
「は、はい!」
「こんな遅くまで?」
「その…遅くなってしまったので、一人で帰すのは危険かと思って…」
「そうですか。実に生徒思いな先生ですね」
そう言うと、眞実さんは極上の笑みを浮かべた。
「そ、そうですか?!」
彼に誉められ嬉しくなった私は、同じように微笑み返した。
途端に眞実さんの笑みは消え去り、先程と同じような何処か冷たい表情に戻った。
211:きっとこの先も…1/4
10/03/15 06:10:57 SIg7cr2d
※元ネタ/山田太郎ものがたり(原作版)
・非エロ・4レス消費
・永原×鳥居・結婚後・鳥視点
1
帰宅した途端、上着を脱ぐ暇さえ与えられず彼の対面のソファーに座らされ、取り調べを受ける。
「それで今日はどうして遅れたんですか?」
「…すいません。クラスの子の進路相談に乗っていて…」
「そうですか。相手は女子生徒ですか?それとも男子生徒ですか?」
「じょ、女子生徒です!」
「本当に?」
銀の細いフレームのレンズ越しに、彼の切れ長の眼がさらに鋭くなった。
「は、はい!」
「こんな遅くまで?」
「その…遅くなってしまったので、一人で帰すのは危険かと思って…」
「そうですか。実に生徒思いな先生ですね」
そう言うと、眞実さんは極上の笑みを浮かべた。
「そ、そうですか?!」
彼に誉められ嬉しくなった私は、同じように微笑み返した。
途端に眞実さんの笑みは消え去り、先程と同じような何処か冷たい表情に戻った。
212:きっとこの先も…1/2
10/03/15 06:12:13 SIg7cr2d
2
「…別に誉めてませんけど。あなたも一人の女性でしょう?」
「…はい」
そう言うと同時に、眞実さんは、私の左腕を自分の右手で掴んだ。
「痛っ!」
強い痛みが私の左腕を走った。私が声を発すると彼は手を離した。
ちらりと確認すると、握られたところは、すでに赤黒く内出血を起こしていた。
「こんな風にされたら、どうするんですか?こんな細い腕で、だいの男と戦えると思ってるんですか?」
「…いえ、出来ません…」
「それに―」
「は、はい。……え?」
10秒ほど経ってから、私は眞実さんに抱き締められている事に気がついた。
眞実さんは、私の服の上からでも分かるほど丸みを帯びたお腹を、
大きく細長い手で擦りながら言った。
「あなたとお腹の子に何かあったら…どうするんですか?…僕一人、置いていくつもりですか?」
「はい。……ご、ごめんなさい!眞実さんに心配かける事はもう二度としません!!」
…そうよ、京子。
私の身体は私一人のものじゃないのよ!
私と、私と眞実さんの大切な赤ちゃんの身体なのよ。
それなのに、私ったら……
母親として自覚のない行動を取った自分が情けなくなり、涙があふれ出てきた。
213:きっとこの先も…3/4
10/03/15 06:14:18 SIg7cr2d
3
「ええ。……ぷっ、くく…」
突然、眞実さんが笑いだした。
「な、何がそんなにおかしいんですか?!!」
「いや、失礼。鳥居ちゃんがあんまりにも鼻息荒く話すもんだから…可笑しくて。くく…」
…何なの。人が真剣に話したり、考えているっていうのに、この人は!!
怒りがこみあげてきた。
「そんなひどいです!…私、これでも真剣に話してるのに…。眞実さんの馬鹿!!」
「…鳥居ちゃん。今、僕に向かって馬鹿って言いましたね?」
「ええ、言いましたとも!!それが何か?!」
私は眞実さんを思いっきり睨みつけて、視線をそらした。
「……そうですか。あと5ヵ月後が楽しみですね」
予想外に上機嫌そうな相手の声につられて、再び眞実さんを見る。
「…な、な、何がですか?!」
「…いやですね。僕とあなたの可愛い子が産まれるんでしょ?」
「そ、そうですね」
「さて、次はどうしましょうか…」
「…え?次って…何の事です?」
「何でもありませんよ。ただの独り言ですから、気にしないでください」
今までの経験上、
何かとてつもなく嫌な事を企んでいるのではと感じさせるほど、目の前の眞実さんは上機嫌に見える。
こ、恐すぎる。絶対、何かある!冷や汗が私の全身を襲う。
「…まぁ、今はせいぜい身体を大事にしてください。僕の大事な子ですから」
眞実さんはその場に立ち上がった。
美形ながら、高校時代に空手で鍛えぬいた長身も手伝ってか、見下ろされると威圧感がとてつもない。
「…そのくらい分かってますよ」
ぼそりと一言文句を言うと、私はたえ切れなくなって視線を床へと落とした。
「今、何か言いました?」
「き、気のせいですよ…」
眞実さんは上半身を屈めて、私の首筋に息がかかるくらい顔を近づけてきた。
私はくすぐったくなったが、懸命に気づかないふりをした。
「…そうですか。僕はこれから入浴してきます。出たら書斎にいるので、何かあったら呼んでください」
しばらく私の様子を観察していた眞実さん。いい加減飽きたのか、
珍しく、あっさりと引き上げ宣言をすると居間を後にした。
「は、はぁ~い♪分かりました♪」
私は精一杯の猫なで声で、部屋の外に返事をした。
214:きっとこの先も…4/4
10/03/15 06:16:18 SIg7cr2d
4
ぼそっと言ったつもりが危うく気づかれるところだったわ。眞実さんって案外地獄耳なのかも…。
足音をたてないようにドアに忍び寄り、彼の足音が遠ざかった事を確認する。
もう何も聞こえない。よし、大丈夫!
「…はぁー…危なかった」
極度の緊張感から解放された私は一つ大きな息を吐くと、ソファーに戻りさらに深く寄りかかった。
「…あ、そうそう。鳥居ちゃんはムチとロープでしたら、どちらがいいですか?」
真後ろから、再びあの恐怖の声がした。
一体……いつのまに!?
「……え?何の事です~?」
「5ヵ月後に使う予定なので、早めに決めておいてくださいね」
例のごとく、眞実さんは極上の笑みを浮かべた。
同時に私は何だか頭がくらくらしてきた。鉄分不足かしら?
「と、鳥居ちゃん!しっかりしなさい!鳥居―」
ああ、眞実さんの声がだんだん遠く…
―きっと二人の関係は、これからも変わらないのだ。
何故なら、この人の趣味は妻=私をいじっていじめ抜く事なのだから……
そんな彼に私は惚れてしまったのだから……
End.
215:名無しさん@ピンキー
10/03/16 12:03:43 2DxjY57X
>>210
投下乙
気付いてるかもしれないが1を間違って2回投下してるぞ
216:名無しさん@ピンキー
10/03/17 05:39:27 COPKSdSF
>>215
サンクス。気をつけるよ。
217:いつもの貴方が一番1/2
10/03/17 05:42:02 COPKSdSF
※非エロ・2レス消費
ネタ/ごくせん(原作版)沢田×久美子・内緒で交際設定・久視点・意味不オチ
私は幼い頃に両親が他界し、
その頃から祖父である黒田龍太郎・黒田一家三代目とその周囲の男達に囲まれ生活してきた。
そんな環境と私自身が喧嘩・スポーツ全般負けなしという事もあり、
大抵の同級生からは恐れられ距離を置かれてきた。
そんな私は父親の影響なのか、教師になる道を選んだ。
今は不良ばかりが集まる白金学園の2B組の担任をしている。担当教科は数学だ。
授業なんてろくに聞きやしない奴らを相手に、数学を教えたりするのはとても大変だが、
何だかんだ言って充実した毎日を送っているのも確かだ。
これも、特に親しくしている5人組のおかげかもしれない。
特にそのリーダーを務めている沢田慎は私にとっても、いなくてはならない大事な相棒だ。
最近その相棒が、
何・故・だか、クッサイ台詞を連日のように、私に吐くようになって大変困っている。
しかも、相手が男前なだけに余計質が悪い。どんなにクッサイ台詞でさえ、
あいつにかかれば、たちまちイカした口説き文句に変わってしまう。
……さすがの私も、少しも心が揺るがないかといえばウソになる。
しかし所謂、教師と生徒の仲。恋に堕ちる事は許されぬ禁断の関係だ。
まぁ……藤山先生的にはありかもしれないけど。
あ……やば、見つかった。あいつがこっちに向かって来る。
さっき上手くまいたと思ったんだけどな……。
あ~何か、あいつの後ろにユリやバラやらが…見えるぞ。おまえは男版宝塚か?!
しかも頭には蝶が舞い、肩じゃオカリナが囀っているじゃないか……
頼むからこれ以上近づかないでくれ!!!
赤獅子…いやレッドプリンス!!私はおまえのお姫さまにはなれないんだ!!!
…おかしい。
私はさっきから全速力で走っているというのに、いっこうに距離はひらかない。
いや、それどころか…むしろ縮まっている!!!
どうなってるんだ?!これは…。
ふと後ろを振り向くと、そこにはプリンススマイルを浮かべたあいつが立っていた。
218:いつもの貴方が一番2/2
10/03/17 05:42:52 COPKSdSF
「うわぁああ~!!?」
私はがばりと起き上がった。辺りは真っ暗やみだ。
とりあえず自分の顔や身体を触ってみる。
「ん?…あれ?何ともない。はぁー夢か…。よかった…」
しかし全身汗でもかいたのか、髪や服・下着までもがベトついて気持ち悪くて仕方がない。
私は一度起きて着替える事にした。
着替えを終え、
再びベットに潜り込もうとするとその振動が伝わったのか、あいつが起きてしまった。
「ん?…どうした?久美子…」
「あ…ごめん。起こしちゃったよな」
「気にするな。ほら寝るぞ」
寝起きのせいか、あいつの声はいつもより1トーンほど低くかった。
あいつは自分のすぐ隣をポンポンと二回ほど叩いた。
どうやら、こっちにもう少し来いという意味らしい。
……私は富士じゃないんだよ!と一瞬怒鳴りたくなったが、まぁたまには…いっか!
「おやすみ、久美子」
「…うん。おやすみ慎」
私はさっきつけた電気をパチリと消した。
それでは皆さんご機嫌よろしいようで―…
糸冬
219:名無しさん@ピンキー
10/03/17 09:20:49 COPKSdSF
>>217
訂正。
黒田龍太郎→黒田龍一郎
220:名無しさん@ピンキー
10/03/17 15:38:14 COPKSdSF
>>217
更に訂正;反省しますorz
白金学園→白金学院
2B組→3年4組
221:名無しさん@ピンキー
10/03/18 08:17:09 f9qbboOz
投下するなら見直しくらいきちんとしろ!
222:名無しさん@ピンキー
10/03/21 20:07:29 Szzx8lyn
投下乙
223:名無しさん@ピンキー
10/04/04 22:23:25 gSic6NXI
おつ
224:名無しさん@ピンキー
10/04/18 16:03:22 lsMexefl
保守
225:名無しさん@ピンキー
10/04/27 22:47:05 GHMNzZgS
二次創作投下します。
元ネタ:同人エロゲ「その花びらにくちづけを」
ジャンル:学園百合
エロ内容:最後の方に百合エロ(分量少し&ソフト)
百合レズ苦手な人はスルーしてください。
226:その花びらにくちづけを 恋文ごよみ(1/8)
10/04/27 22:47:59 GHMNzZgS
漫画のような出来事というのは漫画の中でしか起こりえない。
織田七海は常々、特に自分に関してはそう思ってきた。
だが最近の自分は、結構そういう「漫画みたいな出来事」に遭遇している気がする。
まず、せいぜい並程度の学力だった自分が、名門お嬢様学校の聖ミカエル女学園に入学したこと。これはまあ、多分に運もあるだろうが、努力の結果であるからいいとして。
驚いたのはそのミカ女で運命の人と出会い、その後その人と両思いだったということが判明し、あれよという間に人目を忍ぶ恋仲になってしまったということだ。
そんな少女漫画みたいな境遇の中に、七海はいる。
しかしそれ以外の点では、ごくごく普通の、平均的な女学生としての生活を送っている。
そう思っていた。そんなある日のこと。
「……」
朝の昇降口。自分の靴箱を開けた状態で、七海は固まっていた。目の前にある物体に、大いに戸惑っていた。
封筒、である。薄いピンク色の小綺麗な。
爆発物処理班のように慎重な手つきで、七海はそれを手に取った。
七海は手に取った封筒をしばし見つめてから、大きく深呼吸する。
(落ち着け……これはただ私の靴箱に手紙とおぼしき物体が存在していたというだけで、別にそういうアレと決まったわけではない……)
しばし瞑想し、波立つ精神を静めた七海は、それでも封をすぐに開けたりはせず、熟考する。
(考えられるパターンは……1:誰かのイタズラ、2:入れる靴箱を間違えた、3:ラの付くアレじゃなくてただの事務的な用件、4:あるいは果たし状、
5:そもそもこの手紙自体幻覚、6:夢落ち、7:仮想世界落ち、8:この世界自体が胡蝶の見ている夢、9:実は現実の自分は病院のベッドで―)
相当テンパっているのか、どんどん思考が変な方向に流れていく。考えている暇があればさっさと中身を見ればいいのだが、そんなセルフツッコミを入れる余裕もない。
「七海、ごきげんよう」
旧ナチス軍の陰謀まで仮説を立てたところで、背後から挨拶の声がかかった。振り向くと同時に、七海は慌てて手紙を後ろ手に隠した。
そこにいたのは他でもない、七海の運命の人―二年生の松原優菜だった。
凛とした表情、華やかに整った眉目、気品ある物腰―その容姿は多くの生徒達の羨望の的。加えて学業成績はトップクラス。そしてミカ女の環境整備委員会(学生自治の中心組織)の委員長を任されている。まさしく非の打ち所のない存在である。
―が、「しかしてその実態は」とか言いたくなるほど、七海の前ではやたらとエッチだったり、もの凄い焼き餅焼きだったりと、普段とのギャップが激しい人物である。ちなみに七海も環境整備委員会の一員なのだが、そうなったのは優菜の職権濫用あってこそだったりする。
それはさておき。
「ご、ごきげんよう……お姉様」
そう呼ぶ前に、七海はさりげなく周囲に目を配った。まだ朝早く、他の生徒の数は少ない。七海達の会話を聞かれる心配は無さそうだから、「お姉様」で問題無い。
「きょ、今日も良い天気ですね」
おそらく人類史上最もよく使われる当たり障りのない話題を振りながら、七海は優菜に気取られないよう注意して手紙を鞄の中にしまおうとする。
「七海、それって何?」
しかし一瞬の間もなく見抜かれていた。
「いや、これは、その……手紙、みたいなんですけど、まだ内容の検討が終わっていなくて、自分でもなんなのか……」
「中を見ればいいじゃない」
「ちょっ、待っ……!」
封筒をつまみ上げると、優菜はあっさり封を開けた。
「はいどうぞ」
開けただけで、人宛ての手紙を断り無く見るような真似はしない。優菜は折りたたまれた便せんをそのまま七海に渡した。
手に取った便せんは、なにやら良い匂いがした。文香が入っていたようだ。
七海は何度目かの深呼吸をして、手紙の内容に目を通した。
227:その花びらにくちづけを 恋文ごよみ(2/8)
10/04/27 22:48:38 GHMNzZgS
~ ~ ~ ~
織田七海さんへ。
突然このようなお手紙を出したことをお許し下さい。
単刀直入に用件を書きます。
私はあなたのことが好きです。
話を聞いていただけるなら、今日のお昼休み、体育館裏に来て下さい。
このように古風な呼び出しで戸惑われているかもしれませんが、決してイタズラなどではありません。
待っています。
~ ~ ~ ~
「うぎゃあ!?」
白木の杭を突き刺された吸血鬼のような叫びを上げる七海に、優菜は何事かと目を丸くした。
「どうしたの七海?」
「い、いや、その……えと……」
周章狼狽する七海に、優菜は何やら六感が働いたのか、目の奥をキラリと光らせた。
「まさか……ラブレター?」
「な、な、な……何で……!」
正解。当たり。図星。
七海のリアクションはあからさまにそれを示していた。
「だ……」
「だ……?」
「ダメ―っ!!」
朝っぱらから大声を上げる優菜。昇降口にちらほら見えていた他の生徒達が、驚いて目を向ける。
「おおおお姉様落ち着いて……!」
七海は慌てて優菜の口を押さえ、腕を引っ張っていく。まだ朝の予鈴まで間はあるので、話をする余裕ぐらいはありそうだった。
普段ならお昼休みを二人で過ごす校舎裏。滅多に人が来ないので密会向けでもあるこの場所に、今日は朝からお邪魔している。
「う~……七海ってば七海ってば、私というものがありながら~……」
多少は落ち着いたものの、優菜は涙をためて恨めしげな目つきで七海を見ている。
「いや、私が何かしたわけじゃないですし、そんなこと言われても……」
優菜が焼き餅焼きなのは毎度のことだが、今回ばかりは七海も頭を抱えた。
何と言っても優菜と七海は恋人同士なのだ。しかしそのことは二人以外には知られていない。
つまりこの手紙の差出人は、その事実は知らず七海に恋文を送ったわけだ。当然、横恋慕・略奪愛どうこうの自覚は無いのだから、当人に非はない。
「う゛~……」
しかしそんな理屈はすっ飛ばして、優菜は嫉妬の炎に身を焦がさんばかりだ。七海は大きなため息をついた。
「安心してくださいお姉様。きちんとお断りします」
「……本当?」
「もちろんです。私はお姉様一筋です。他の人なんて考えられません」
七海は優菜の目を強く見つめて、きっぱり言い放つ。
その途端、優菜の表情は一転して雲一つ無い快晴となった。
「な・な・みぃ~!」
「わきゃ!?」
抱きしめられた。七海の顔に、優菜の胸の膨らみがダイレクトに押しつけられる。
「お姉様、苦しいです~!」
「七海ぃ~! 私も! 私も七海一筋よ~!」
「むぐ……分かりましたから、放してください~!」
228:その花びらにくちづけを 恋文ごよみ(3/8)
10/04/27 22:50:00 GHMNzZgS
ようやく解放された七海は、一息ついてから件の手紙にもう一度目を落とした。
「それにしても……どうしてよりによって私にラブレターなんでしょう?」
「それは、七海が可愛いからに決まってるわ」
「いや……仮にそうだとしてもですよ? 私なんかよりもっと可愛かったり綺麗だったりする人は、ミカ女にわんさかいるじゃないですか。お姉様もそうだし……他にも―」
松原優菜を筆頭にして、二年生では沢口麻衣、それから最近になって人気が沸騰しているらしい北嶋楓、加えてマスコット的な人気では他の追随を許さない川村玲緒。
「―このあたりが現ミカ女二年生の四天王とも言うべき存在ですよね」
「まあ七海ってば、面白いこと言うのね」
「いや、事実ですから……」
それから七海と同じ一年生では何と言っても現役のトップモデルである北嶋紗良がいる。これはもう次元が違うといっていい存在だ。
三年生については七海もあまりよく知らないが、何でも大和撫子を絵に描いたような和風美人や、金髪碧眼の留学生など、これまたレベルの高そうな人材がいるそうな。
「―というわけでして」
「……何だか七海、校内の女の子の情報について妙に詳しくない?」
再び不機嫌そうなジト目になる優菜に、七海は大慌てで弁解する。
「へ、変な誤解しないでください! クラスで友達と話してたら、自然と耳に入ってきた情報です!」
「ふ~ん……」
「信じてくださいよぅ~!」
七海だって普通の女の子であるから、同級生とこの手の噂話に興じることもある。だからといって、優菜以外の女性に惹かれることなど断じてない! 多分。
「言い切ろうそこは!」
誰にともなくツッコミを入れてから、七海は話を続ける。
「ですから、私よりもよっぽどラブレターを貰いそうな人、というより現に貰ってると思われる人が、この学園にはいっぱいいるわけですよ。なのに何でこの手紙は私なんかに送られたのか……」
「そうかしら? 七海だって、さっき名前の挙がった人達にひけは取っていないと思うけど」
「お姉様……本気で言ってます?」
「もちろん」
自信たっぷりに頷く優菜。
恋人の欲目とはいえ、そう言ってもらえて嬉しくないといえば嘘になる。しかし七海が自覚しているステータスは、容姿は平均程度、成績はそこそこ、運動もやや良止まり、それぐらいでしかない。
優菜にここまでベタ惚れされているのを、自分でも時折不思議に思うぐらいなのだ。
だがしかし、今ここに七海宛てのラブレターがあることは事実なのである。
「それじゃあお姉様。すみませんけど、今日のお昼はご一緒できないかもしれません」
「えええーっ!? どうしてなのーっ!?」
「うわわっ!?」
七海の言葉に天地がひっくり返ったかのようなリアクションをする優菜。七海の方まで驚いていた。
「どうしてって……いや、だからこれの差出人にお断りの返事をしに行かないといけませんから」
「一人で行くつもりなの? 私は一緒に行っちゃダメなの?」
「そりゃあ……まさかラブレターの返事をしに行くのに恋人同伴だなんて、あんまりじゃないですか」
「む~……そんなこと言って本当は私の見ていない隙に、自分に好意を寄せている純情な女の子をちょこっとつまみ食いしてみよっかなー……なんて邪なことを考えてるんじゃないの!?」
「何ですかつまみ食いって!? 考えてませんよそんなこと!」
「でもでも、七海が方が誠実だったとしても、相手が問答無用で襲いかかってきたら!? ああっ……私の七海が、七海が……毒牙にーっ!」
「かかりません! そんな肉食獣はこの学校じゃお姉様ぐらいです!」
「失礼な! 私が問答無用で襲うのは七海だけよ!」
「そこは問答してくださいていうか襲わないでください! とにかく! 今日のお昼は私一人でちゃんとお断りしてきます! それが終わったらお姉様の教室にすぐ顔を出しますから! それでいいですね!」
有無を言わさぬ口調でまくし立てた七海。優菜は不満げな表情だったが、タイミング良く朝の予鈴が鳴り、その場はお開きとなった。
229:その花びらにくちづけを 恋文ごよみ(4/8)
10/04/27 22:51:19 GHMNzZgS
そんなこんなでお昼休み。優菜は自分の教室でお弁当の包みにも手を付けず、じっと七海を待っていた。
―のはせいぜい最初の五分ほどで、今はミカ女の淑女としてはしたなくないギリギリの早歩きでもって廊下を歩いていた。
たとえ確率はゼロパーセントに等しくても、七海が他の誰かのものになるかもしれない状況など、優菜にとってとてものこと、耐えられるものではなかった。
(ごめんなさい七海……あなたを信じていないわけじゃないけど、どうしても心配なのよ……)
七海に対して詫びる心内とは裏腹に、優菜の足は揺るぎなく歩を進めていく。いざゆかん! 敵は体育館裏にあり!
などと気合いを入れて歩いていたら、廊下の曲がり角で走ってきた誰かとぶつかった。
「きゃっ!」
「わぷっ!?」
小走り程度だったのか、ぶつかられた優菜は驚いただけだし、ぶつかってきた方も背丈が低いのが幸いして優菜の胸がクッション代わりになったようだ。
「あ、優菜先輩」
「あら、紗良ちゃん」
衝突の相手は一年生の北嶋紗良だった。学年は違うが優菜とは話す機会も多く、結構仲が良い。
紗良は優菜に頭を下げた。
「ごめんなさいっ! 急いでてつい……」
健気に謝る紗良を、優菜は怒るはずもなく、微笑ましく思った。きっと、今日も今日とていつものように、彼女が大好きな人のところに向かっていたのだろう。
「いえ、こちらも少しボーッとしていたわ。ごめんなさい。それより怪我は無い?」
「はい。紗良は全然平気です」
「そう。それなら良かったわ」
紗良はもう一度ペコリと頭を下げてから、小走りに駆けていった。優菜は笑顔でそんな紗良を見送り……一拍置いてからハッとする。
「いけない……私も急がなきゃ!」
いっそ紗良のように駆け出したい衝動を必死で抑えながら、優菜は体育館裏へ早歩きで向かっていった。
どうにか体育館裏が見渡せる場所に辿り着いた。優菜は物陰に身を隠し、七海の姿を探す。が、
「……いない?」
体育館裏には七海はおろか、猫の子一匹見あたらなかった。
(もしかして、私がもたもたしているうちに終わっちゃったのかしら?)
お昼休みが始まると同時に七海がすぐここへ来て、素早く交際をお断りして、その後すぐ優菜の教室へ向かったとしたら。
「ひょっとして、すれ違ったんじゃ……」
そう推測するや、優菜は来た道を即座に引き返していた。
「……来てない?」
優菜の教室にもその前の廊下にも、七海の姿は見えなかった。念のためクラスメイトに確認もしてみたが、やはり来てはいない。
「じゃあ……これから来るのかしら……?」
しかし七海は、終わったらすぐ顔を出すと言っていたはずだ。
腑に落ちない気持ちを抱えたまま、優菜は今度こそ自分の席で、じっと七海を待った。今すぐ探しに行きたい気持ちを堪えながら。
五分―十分―たったそれだけの時間でも、優菜にとっては恐ろしく長く感じられた。
しかし―
結局、お昼休みが終わるまで、七海は姿を見せなかった。
230:その花びらにくちづけを 恋文ごよみ(5/8)
10/04/27 22:53:10 GHMNzZgS
終業のチャイムが鳴った。
ホームルームを終えた生徒達は、めいめいが家へ帰るなり部活へ出るなりで散っていく。
昇降口は帰路に付く生徒達で溢れている。一人の人もいれば、誰かと一緒の人もいる。今日一日の授業から解放されたばかりなので、一様にその表情は明るい。
だがその中で一人、七海は唇を堅く引き結び、俯きがちに歩いていた。
帰りの挨拶をしてくる学友には返事をしているが、その笑顔は端から見ても分かるほどぎこちない。
「あ……」
昇降口を出たところで、七海は顔を上げた。
「……」
ことさら表情を押し殺した顔で、優菜が立っていた。
「あの……優菜……先輩……」
周りに生徒が多いので、七海はいつもの呼び方を控える。
「七海。何があったの?」
しかし優菜はそんなことお構いなしだった。真っ直ぐに七海の目を見据え、問いかける。
「あの……その……っ……」
七海は顔を俯かせ、言葉を詰まらせる。優菜はそんな七海の腕を、不意に掴んだ。
「えっ? あのっ、先輩?」
数人の生徒達の奇異な視線を尻目に、優菜は七海をその場から引っ張っていった。
いつもの校舎裏に着いて、ようやく優菜は七海の腕を放した。
「何があったの?」
そして同じ質問をする。あくまで落ち着いた口調で。
七海は大きく深呼吸をして、重い口を開いた。
「何も……何も無かったです。お姉様が心配していたようなことは、何も……」
「じゃあ……どうしてお昼休みに来てくれなかったの?」
「それは……」
「……」
言い淀む七海に、優菜は急かすようなことはせず、じっとその言葉を待っている。
やがて、七海は吶々と語り出した。
昼休みになって、七海はすぐ、手紙に書かれていた場所―体育館裏に向かった。
相手は既に待っていた。不安げな気色で、壁に寄り添うように立っている、七海の知らない一年生だった。
七海の顔を見た途端、その子は喜びと緊張が綯い交ぜになった表情をしながら、まずは突然の呼び出しを詫びた。それから、自分がいかに七海のことを見てきたか、想っているかを、辿々しく、精一杯に語り出した。
それらは七海の自覚・実像とは離れた部分も多い、羨望と希望が混じった目線ではあった。
しかし、当人は途方もなく真剣だった。本気で七海に憧れていた。
七海にはそれが分かった。何故なら、自分もまた、かつて―否。今でも、優菜に対して同じ思いを抱いているから。
だから辛かった。
かつての自分と同じだと分かったから、相手が真剣であればあるほど、その想いにどれだけの痛みが伴われているかが理解できた。
だがしかし、七海は彼女の思いを受け入れるわけにはいかなかった。
努めて感情を抑え、七海は伝えるべき事実だけを正直に伝えた。
いざというとき、自分はここまで冷静になれるのかと、驚くほど簡単に言葉は出た。言葉だけは。
相手の子は、しばしの沈黙の後、ただ頭を下げた。食いしばるように口を引き締めながら。恨みがましいことなど何一つ言わず。ただ、そのまま、目も合わさずに去っていった。
231:その花びらにくちづけを 恋文ごよみ(6/8)
10/04/27 22:55:09 GHMNzZgS
「それから……七海はどうしたの?」
「……昼休みが終わるまで、ここにいました。ごめんなさい。本当ならすぐにお姉様の所へ行くべきだったのに……」
振った直後の相手に感情移入してしまい、とてものこと、優菜に会えるような心境ではなかったのだ。
「真剣だったんです、あの子……私もお姉様のことを真剣に好きだったから……好きだから、分かったんです。私が拒絶すれば、どれだけ傷つくのかも……でも断るしかなくて……
でも……でも、後になって、もっと何か、傷つけなくて済む方法があったんじゃないかって後悔して……」
七海の目に、涙が浮かぶ。
優菜は、ただ黙って、そんな七海を抱き寄せた。幼子を守る母のように、泣いている七海を両手で包み込む。
七海は濡れた目をハッと見開いた。優しい暖かさが、痛む胸に染み渡る。いつも感じているはずのその温もりが、今は妙に懐かしい心地がした。
「っ……お、ねえ……さま」
「七海……」
「お姉様……私、嫌な子ですよね……お姉様のことを愛しているのに、他の子のことで、こんなに心をかき乱して……これじゃ、浮気者って言われてもしょうがないです……」
「違うわ七海。それはあなたが優しい子だからよ。そんなあなただから、私も好きになったのよ」
耳朶に唇を寄せ、優菜は諭すように呟く。
七海はか細い声を上げて、泣いた。
優菜はそんな七海を、ずっと抱きしめ続けていた。
「……七海。少し落ち着いた?」
すすり泣きもようやく治まった頃。優菜が尋ねると、七海はウサギのように真っ赤になった目を上げた。
「はい……ありがとうございます。でも……」
「?」
「もう少し、このまま……抱きしめて貰っていて、良いですか?」
優菜は一瞬キョトンとしてから、優しく微笑んだ。
「もちろんよ」
それを聞いて、ようやく七海の顔に、微かな笑みが浮かんだ。
「ありがとうございます……今日のお姉様は、何だかいつもとちょっと違いますね」
「あら、そうかしら?」
「はい。昇降口で会った時は、絶対大声で何か言われると思いましたもの」
「そういえばそうね。本当はあの時、思いっきり七海に向かって泣きわめこうと思ってたのよ」
「ええっ……!? あんなところで、ですか?」
「そうよ。なのに七海ってば、雨に濡れた子犬みたいにしょげちゃってるんだもの。毒気抜かれちゃったわ」
「そ……そんなに暗かったですか私?」
「ええ。そりゃあもう」
うんうんと頷く優菜に、自覚の無かった七海は申し訳ない気持ちで一杯になった。そういえば午後の授業の合間にも、クラスメイト達から妙に気遣うような態度を取られていた気がする。
上の空だったのでよく覚えていないが。
「……すみませんでした」
「謝るようなことじゃないわ。本当に辛かったんだものね」
「…………あの子も―」
「……七海を好きになった子?」
「はい……あの子も、今頃、泣いているんでしょうか」
「そうかもしれないわね……」
「…………私がもしお姉様に振られたら、多分、三日三晩ぐらいじゃ済まないぐらい泣いちゃいます」
「私だったら、七海に振られたら四半世紀は部屋に籠もって泣いて暮らすわね」
「お姉様……それはもはや引きこもりと呼ばれる領域です」
「それだけ想っているということよ」
「あ……」
優菜はそっと、七海の唇に自分のそれを重ねた。
232:その花びらにくちづけを 恋文ごよみ(7/8)
10/04/27 22:56:35 GHMNzZgS
「んっ……」
最初は軽く、ついばむように。二度目は少し深く、誘うように舌を踊らせる。
七海の口の中に、優菜の熱い舌が入り込んでくる。
「んぁ……お姉様、こんなとこで……あっ」
「割といつものことじゃない」
「そうかもしれませんけど……んんっ」
唇と舌を繋いだまま、優菜は七海の胸に手を伸ばす。慣れた手つきで制服をはだけさせるや、下着の中に手のひらを滑り込ませる。
「ひゃぅ……ぁ」
乳房を直接愛撫される感触に、七海の口から声が漏れるが、それもすぐ優菜の唇にふさがれてしまう。
「ん、ちゅ……七海の口の中……とっても甘いわ……んっ」
「ふぁ……ん……お姉様のも……っ」
二人の舌が何度も絡み、口づけを繰り返し、銀の糸を引く。
優菜の指先が乳首をつまむと、七海はビクリと体を震わせた。
「うふ……敏感ね」
「んっ、でも……お姉様だって……」
七海も負けじと指を伸ばす。優菜のスカートの中、指の腹でそこをこする。下着ごしでも濡れているのがすぐ分かった。
「あっ……七海ぃ」
「キスしてるだけなのに……もうこんなに濡れて……」
蜜に濡れた指先で、さらにそこを強くこする。
「あっあっ……いい……七海、もっと……」
「お姉様……」
制服越しにもお互いの肌が熱くなっているのが分かった。瞳は熱に潤み、頬は真っ赤に火照っている。
繰り返し唇を合わせ舌を絡ませながら、いつしか二人の手は互いの下腹部に伸び、濡れたそこに指を潜らせる。
「ふぁ……お姉、様……っ、も、う……」
「んっ……ダメよ、まだ……私も、一緒にイク、の……」
「は、い……」
頷き、七海は優菜の敏感な部分を指先で刺激する。優菜も同じように。どこよりも熱くなったそこを、互いに音が立つほど激しくこすり合う。
「あっ、んっ、七海……七海ぃ」
「お姉様、お姉様っ……んん、っ、あ、ああああっ……!」
「んああ、ああっ……!」
迫り上がった何かが弾けるような感覚。二人の体が動じに大きく震えた。
七海と優菜は、お互いにもたれるように体を寄せ合った。
「お姉様……イっちゃいました……」
「私も……ふふ」
熱く火照った頬をすり合わせた後、優菜は笑みを浮かべて七海にキスをする。
激しい行為の余韻の中、柔らかい唇の感触が心地よかった。
233:その花びらにくちづけを 恋文ごよみ(8/8)
10/04/27 22:58:24 GHMNzZgS
「ねえ七海……私、あなたのことが大好きよ」
「はい……私も、お姉様のことが大好きです」
「私が七海が会えたのは、きっと運命だったのよ。赤い糸で結ばれた恋人同士みたいに……」
「はい……」
「誰にだってそんな、運命の人がいる……だからね……七海を好きになったあの子も、きっといつか、素敵な人に巡り会えるはずよ」
「そう……でしょうか?」
「当たり前じゃない。何と言っても、私の七海に目を付ける慧眼っぷりだもの。きっと素晴らしい恋人を見つけるに決まっているわ」
優菜は自信たっぷりな笑みを浮かべた。七海もつられて、笑みを浮かべた。
「さて……ある程度話がまとまったところで、続きをしましょうか」
「……はい?」
さっきまでとは種類の違う、にんまり笑顔の優菜。七海にとってはある意味、慣れ親しんだ表情だった。
七海は慌てて身を離す。乱れた制服を急いで整えようとする。
「あ、あのちょっと待ってくださいお姉様」
「あら、どうしたの?」
「その、場所と時間が問題ですから、ここまでに……」
七海の言葉が終わらないうちに、優菜の目に涙がたまる。
「うるうる~……七海ってば、この状況でそんな冷めた意見を言うだなんて、やっぱり私との関係に飽きてきたのね~」
「いやいやいやいや! そんなんじゃありませんってば! ほらもう放課後で! あんまり、その……しすぎると遅くなるじゃないですか。長居してたら誰かこないとも限りませんしね」
「確かにその通りね」
「はい。ですから―」
「でも時には本能の赴くままに行動するのも大事だと思うの!」
「お姉様は私といる時いっつも本能全開じゃないですか!」
「何とでもお言いなさい。とにかく、私はもうスイッチが入ってしまったのよ……逃がさないわ七海ーっ!」
「お……」
放課後の学舎の一隅で、
「お姉様のエロ乙女ーっ!」
乙女のか細い悲鳴がこだました……。
〈おわり〉