09/06/02 15:58:41 pJsV4uyq
白く滑らかな肌に傷跡を残さないように気を遣いつつも、シオカラは彼女の大きな乳房を弄んだ。
服を着ているとあまり大きくは見えないが、脱がしてしまうと、茜よりも真夜よりも大きいのだと解った。
乳房を持ち上げると爪全体に重みが訪れ、落とすとたぷんと揺れ、触っていない方の乳首も尖ってきた。
空いている中左足で同じように触れると、ほづみの零す喘ぎが高まり、シオカラの上両足を掴んできた。
「ん、ふぁ…ぁ、うぁ…」
場所が場所だけに懸命に声を殺すほづみに、シオカラは顎を開いて首筋に顔を埋めた。
「お姉さん、なんか匂いが変わったっすよ」
「や、何言ってんの…。そんなの、解るわけ、ないじゃない」
「虫っすから、解るんすよ。なんつーか、マジエロい匂いっす」
「馬鹿ぁっ」
ほづみはシオカラを押し返そうとするが、力では到底勝てず、シオカラは伸ばした舌を首筋に絡めた。
「マジ良い匂いっす、てか、マジヤバいし」
「んぁあっ」
肌の薄い首筋をぬるりと這った舌の感触に、ほづみは堪えきれなかった声を漏らした。
「下も、触っていいっすよね? てか、こっちの方が匂いが凄いっす」
シオカラの爪がタイトスカートの下に入り、ストッキングに覆われた下着の上から触ってきた。
「く…ぅ、ぁ…はぁ…あ…」
拙いながらも刺激の強い愛撫と野外という状況に煽られていたためか、自分でも解るほどに潤っていた。
シオカラの硬い爪が充血した肉芽を押し込み、ほづみは思わず声を上げかけたが、唇を噛んで押し殺した。
「んふ、あぁ…」
びぢびぢっ、とタイトスカートの中から異音が聞こえ、シオカラの爪先がストッキングを破いたのだと知った。
下着のクロッチも横にずらされ、熱く湿った陰部を外気が舐め、背筋が逆立ちそうなほどの感覚に襲われた。
触らなくても解るほど、出来上がっている。ほづみはシオカラの肩に縋り、呼吸を整えてから、小さく呟いた。
「入れて」
「言われなくても、入れるっすよ。てか、マジ限界っす」
すんません、と付け加えながら、腰を浮かせて長い腹部を前に出したシオカラは、生殖器官を押し出した。
それを一息にほづみの陰部に突き立ててやると、ほづみは噛み締めていた唇を緩めて、悩ましく喘いだ。
「あ、あぁっ」
ぐじゅり、と粘ついた水音が上がり、破れたストッキングを湿らせた。
「じゃ、じゃあ、動くっすからね」
311:OLとシオカラトンボ2 9 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/02 16:02:35 pJsV4uyq
ほづみを抱き寄せて膝の上に載せたシオカラは、前回のほづみの痴態を思い出しながら腹部を動かした。
昆虫人間に比べれば熱い胎内から彼女の体温が染み入り、高揚を誘い、肌に喰らい付いてしまいたくなる。
生殖器官を伝って滴る愛液から立ち上る女の匂いが触覚を刺激し、押し当てられた大きな乳房が潰れている。
そのどれもが扇情を促し、シオカラは辺りの暗さのせいでよく見えない複眼をほづみの乱れた髪に当てた。
訳もなく、彼女を愛おしいと思ってしまった。一回りは年上で、先日まで面識もなかった相手だというのに。
確かに美人で、肉感的で、スタイルも良くて、セックスの相手としては申し分ないが、飛躍しすぎではないか。
大体、シオカラはほづみの感情の捌け口として選ばれただけであり、それ以上でもそれ以下でもないのだから。
ほづみの恋人でもないのに、何を考えているんだ。けれど、一度感じた感情はそう簡単には振り切れなかった。
一際強く奥に押し込み、ぐんと生殖器官で最深部を突き上げると、ほづみはシオカラに縋る手に力を込めた。
いつのまにかシオカラの腰に絡み付いていたしなやかな足が痙攣し、ほづみはシオカラの肩に顔を埋めた。
「やっぱり、あんた、良いわ…」
はあ、と達した余韻を抜くようにため息を吐いたほづみは、足を解いて腰を上げ、ずちゅりと陰部から引き抜いた。
「でも、これでもう終わり。これ以上、あんたのこと、利用したくないもの」
「あ、じゃあ、こうしたらどうっすか?」
シオカラは乱れた髪を直すほづみを見つつ、提案した。ダメ元だが、言わないよりはマシだ。
「今度、デートしないっすか?」
「何よそれ」
「や、だから、付き合えばいいと思うんすよ。そしたら、何度ヤッても問題ないっつーかで」
「そうねぇ…」
ほづみは飲みかけのレモンティーを呷ってから、返した。
「いいわ、考えておいてあげる。だから、あんたのアドレス、教えて」
「あ…はいっす」
シオカラはほづみの好意的な答えに驚いたが、携帯電話を取り出した。
「んでは、赤外線通信で」
ほづみもバッグから携帯電話を取り出し、シオカラの携帯電話に向けて、送信されてきたアドレスを受信した。
アドレス帳に登録されたことを確認してから、携帯電話を閉じたほづみは、少し休んだ後にシオカラと別れた。
再会した時は劇的だったが、別れは特別な言葉など交わさず、火照りの残る体でアパートを目指して歩いた。
こんなことをして、良かったのか。体を許したのも、単純に寂しさをシオカラで埋めたかっただけではないか。
泣き付いて、誘って、挙げ句にアドレスまで手に入れた。深みに填るまいと思ったのに、ずるずると沈んでいく。
自分が辛いからと言って、他人に甘えるにしても程がある。だが、一人ではない安心感には勝てそうにない。
この分だと、デートもしてしまうだろう。
312:859 ◆93FwBoL6s.
09/06/02 16:04:31 pJsV4uyq
以上。最初に書き忘れましたが、もちろん人外アパートです。
アパート住まいではないのであまり表には出ませんが、アーサーと真夜も相変わらずラブラブです。
313:名無しさん@ピンキー
09/06/03 03:09:27 gI60casu
動画でスマンのだが・・・
URLリンク(video.xnxx.com)
音楽といいコルセットといい、ファンタジーっぽかったので。
狼×おにゃのこでした。
314:名無しさん@ピンキー
09/06/03 07:19:54 I4BdmFNm
>>312
乙GJ!
シオカラ可愛いよシオカラ
315:名無しさん@ピンキー
09/06/03 12:48:49 Pfb490ss
>>302
GJ過ぎる!!
二人とも可愛すぎるぜ。デート編も宜しくお願いしますw
316:859 ◆93FwBoL6s.
09/06/04 17:40:24 7iwvMtC9
引き続き人外アパートで、ほづみとシオカラがデートに行く話です。
昆虫人間×女性の和姦。NGはOLとシオカラトンボで。
317:OLとシオカラトンボ3 1 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/04 17:41:12 7iwvMtC9
思わず、耳を疑った。
まさか、こいつの胸郭からそんな言葉が発声されるとは。ヤンマは心底驚きながら、背後に振り向いた。
シオカラはいつものようにへらへらと笑っていて、ヤンマが殴り倒した五匹の羽アリ人間を片付けていた。
街の上空を飛び回っていたヤンマに絡んできた連中で、路地裏に連れ込んで十秒と立たずに倒したのだ。
そして、事を終えたヤンマが飛び去ろうとすると、どこからともなくシオカラが現れた、というわけである。
シオカラが家族ごと上京して以降、シオカラは何はなくともヤンマを追いかけてきてはまとわりついている。
地元時代は中学高校と後輩でもあったので、会う機会は多かったが、ぞんざいにあしらってばかりいた。
だが、ヤンマが高校を卒業し、シオカラが茜と同じ高校に転校してからは、馴れ馴れしさが増長してきた。
正直鬱陶しいが、茜以外でそこまで慕ってくれるのはシオカラぐらいなものなので、はねつけられずにいた。
駅前の大通りから外れた裏路地の、更に奥まった袋小路の中で、ヤンマは黒い爪を振って汚れを払った。
そして、再度シオカラに振り返ると、シオカラは人間で言うところの笑みを見せるかのように顎を広げていた。
「…でえと?」
ヤンマがシオカラの言葉を反芻すると、シオカラは透き通った羽を細かく揺らした。
「そうっすそうなんす、俺っち、デートするんすよ! つか、マジヤバくないっすかパネェっすよね!?」
「ああ、そうだな。ヤバすぎてどうしようもねぇや」
ヤンマは羽アリ人間を小突き、昏倒していることを確かめてから、薄汚れた壁に背を預けた。
「相手は虫か、獣か、それとも人か?」
「人間っすけど!」
「じゃ、尚更ヤバいじゃねぇかよ。お前なんかがデートなんて、百年早ぇ」
ヤンマは爪に張り付いた羽アリ人間の体液を刮げ取り、足元に投げ捨てた。
「んで、俺にその話を聞かせてどうしろってんだよ」
「解り切った話じゃないっすか、兄貴! つか、兄貴は茜をどこに連れていくっすか!?」
シオカラに詰め寄られたので、ヤンマは下右足を上げてシオカラを阻んだ。
「そんなもん、自分の脳みそで考えろ!」
「考えても解らなかったから聞いてんじゃないっすかあ、兄貴ぃ!」
「だっ、大体、俺のなんて参考にするんじゃねぇよ!」
シオカラを蹴り倒したヤンマは、長い腹部を反らした。
「茜は良い奴だから、俺があいつをどこに連れて行こうが基本的には喜んでくれるが、俺に気を遣ってんだよ!
後から聞いたら、楽しんでたのは俺だけだって場所も多かったし、ていうか俺はああいうのは苦手なんだよ!
で、でも、たまにはそれらしいことしねぇと彼氏の立場がねぇし、茜が喜ぶ顔も見たい、っていうか何言ってんだ!」
うぁ゛ー、と頭を抱えたヤンマは、自分で言った言葉に恥じ入った。ヘタレぶりを暴露してどうする。
「ていうか、俺よりも当てになりそうなのがいるだろうが。まずはそっちに聞けよ」
「心当たりは聞いてみたんすよ、マジでマジで」
砂埃を外骨格に付けながら起き上がったシオカラは、ヤンマを見上げた。
318:OLとシオカラトンボ3 2 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/04 17:42:03 7iwvMtC9
「最初に祐介兄さんに聞いてみたんすけど、あっちも兄貴と似たようなリアクションっつーか、むしろ兄貴より
根が深い感じがしたっす。ほら、アビーさんってあれじゃないっすか、ヨロイ。だから、普通の女性が喜ぶような
場所に連れて行こうと思っても、色々と引っ掛かっちゃうじゃないっすか。服が着られないだとか化粧が出来ない
だとか、モノが食べられないだとか、まあ色々と。祐介兄さんはマジ悩みしてたっぽくて、最後の方は俺っちが
愚痴を聞かされちゃったっす。マジ長かったっす」
確かに、祐介はその手の苦労が多そうだ。隣人の青年の苦悩を思い、ヤンマは嘆息した。
「あいつも大変だなぁ…。てぇことは、アーサーの野郎にも聞いてみたのか?」
シオカラはヤンマに近付き、頷いた。
「もちろんっすよ、真夜の旦那っすから。でも、アーサーの旦那の方が役に立たなかったっすねー、マジで。
てか、あの人は真夜に連れて行ってもらう立場っすから。マジ過去の人間っすから、現代のことなんてまるで
解らないっすからね。だから、結局は真夜の惚気を聞かされただけっす。マジでマジで」
「つくづく役に立たねぇなー、俺ら…」
ヤンマが肩を落とすと、シオカラは触覚を揺らした。
「でも、俺っち、他に聞く当てなんてないっすから。んで、どこに連れて行けば喜んでくれるっすかね?」
「相手の年代とか、趣味にも寄るだろ。俺の経験上、俺が楽しいところは茜は楽しくなかったからなぁ…」
過去のデートの失敗を思い出したヤンマが項垂れると、シオカラはけらけらと笑った。
「あー、それ、茜から聞いたことあるっすー。兄貴が一人で楽しみすぎちゃって、茜を置いてけぼりにしたんすよねー」
「人の古傷を抉るな! ま、まあ、俺が全面的に悪かったんだが!」
ヤンマはぱかりとシオカラを一発殴ってから、顎を軋ませた。
「そういやぁ、ここんとこデートなんてしてねぇな。茜もバイトやら何やらで忙しいし、俺も仕事があるが、だからって
何もしねぇのはまずいよなぁ…。休みを合わせて、適当な場所に連れていかねぇと、拗ねられちまう」
「だから、兄貴、どこに行けばいいっすかね?」
「最初に言っておく! 自分が楽しもうとするな!」
ヤンマは自戒を込めて吐き捨ててから、四枚の羽を広げた。
「後は自分で考えろ! 俺も考えることが出来たからな!」
日没までには帰れよ、とヤンマは釘を刺してから、澄んだ羽を震わせて上昇し、茜色の空へと飛び去っていった。
シオカラは滑らかに飛ぶヤンマを見送ってから、足元を蹴り付けて飛び上がり、四枚の羽を震わせて急上昇した。
裏路地を成す古びたビルの間を擦り抜けると、鮮烈な西日が全身を焼き、藍色の複眼が朱色に染められてしまった。
一瞬、視界を奪われたが、しばらくすると慣れた。夕暮れに染まる町並みは、昼間とは打って変わって幻想的だった。
淀んだ空気が詰まったビル街を取り囲んでいる民家の屋根が朱色に輝いていて、荒く波打つ海面のようだった。
東側の空には夜の気配が広がり始めているので、この美しく刹那的な光景が見られるのは、十数分しかないだろう。
ヤンマからは早く帰れと言われたが、見逃してしまうのがなんとなく惜しい気がしたので、シオカラは高度を上げた。
初夏の湿っぽい空気が巻き上げられたビル風を羽で切り裂きながら、風を掴んで上昇し、あらゆる建物を超える。
街全体を見下ろせる位置に至ったシオカラは、ホバリングして高度を安定させ、無数の生命が蠢く世界を見下ろした。
この中に、ほづみがいるのだろうか。そう思っただけで、無数の複眼に映る景色が、新たな色を帯びた気がした。
ほづみにアドレスを伝えたが、あれからほづみから電話もメールも来ることはなく、膨張した期待を持て余していた。
連絡もないのに舞い上がり、空回りしている自分に呆れてしまうが、そうでもしなければ身も心も落ち着かなかった。
じっとしていると体の芯から焦げてしまいそうで、ほづみに再会した夜に感じた訳の解らない衝動に煽られてしまう。
会えるものなら、今すぐにでも会いたい。けれど、何を話せばいいのか解らないし、会うべきではないとも思った。
再会した夜は舞い上がり、ほづみに誘われるまま、再び彼女を抱いてしまったが、それで良かったのかどうか。
良くないことだと何度となく思うが、なけなしの理性と自制は青臭い衝動に塗り潰され、結局は流されるままだった。
恋を、しているのだろうか。
319:OLとシオカラトンボ3 3 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/04 17:44:03 7iwvMtC9
そして、日曜日。
ほづみから電話を受け、デートの日程を伝えられたシオカラは、持てる知識を総動員してデートの計画を立てた。
ヤンマを始めとした男達の意見は参考にならなかったので、考えるだけ考えて、どちらも楽しめそうな場所を選んだ。
けれど、いざ現地に来てみると、何か間違っているような気がした。いや、気でなく、本当に間違えたようだった。
「十何年振りかしらねぇ、こんな場所に来るのは」
長い髪を巻いて後頭部でまとめ、ビスチェの上にジャケットを羽織り、ミニスカートを履いたほづみは呟いた。
「なんか、マジすんません…」
平謝りしたシオカラの背後を、きゃあきゃあと歓声を上げる幼児と若い両親が通り過ぎ、ゲートに入っていった。
その上には、可愛らしくデフォルメされた動物に挟まれた看板があり、丸文字の平仮名で、どうぶつえん、とあった。
ほづみは大きなサングラスを掛けているが、明らかに怪訝な顔をしていて、シオカラとその看板を見比べている。
受付で入場チケットを買っている客層は、親子連れや小中学生のグループが多く、ほづみのような女性はいない。
考えすぎた挙げ句、ヤンマの忠告を生かせなかったらしい。動物園に来たかったのは、シオカラだったのだから。
シオカラの地元には動物園はなく、水族館には何度も行ったことはあったが動物園は一度も行ったことがなかった。
だから、一度は行ってみたいと心の片隅で思っていたが、だからといって何もこんな時に果たす願いではない。
「まあ、いいわ。最初から期待してなかったし」
ほづみはサングラスを外すと、シオカラを見上げた。
「行きましょ」
「え、あ、いいんすか?」
「せっかく来たんだから、せめて見ていきましょうよ」
「あざーっす!」
シオカラはほづみの心の広さに心底感謝し、彼女に続いて親子連れが連なる受付に並び、入場チケットを買った。
それを持って入場ゲートから園内に入った二人は、とりあえず、真っ当に順路を辿って動物を見ていくことにした。
ほづみを喜ばせるために来たのだから、とシオカラは自制しようとしたが、入場してすぐの動物を見た途端に切れた。
「ふおおお!」
早速当初の目的を忘れたシオカラは、キリンが悠然と歩いている檻に駆け寄った。
「お姉さんお姉さん、キリンっすよキリン! マジキリンっす!」
「見りゃ解るわよ」
「うおおおお…。すっげぇー、つかマジでけぇー…。マジキリンすぎだし」
顎を全開にして感嘆するシオカラに、ほづみは呆れながらも笑ってしまった。
「今時、キリンなんて珍しくないじゃん」
「や、だって、マジ長いっすよ、首とか足とか」
シオカラは隣に立ったほづみを見下ろし、爪先でキリンを示した。
「そりゃそうだけど」
ほづみは、もしゃもしゃと草を咀嚼するキリンを仰ぎ見た。
「そういえば、前々から思っていたことがあるんだけど」
「なんすか?」
「あんたって、人間じゃないのよね?」
「そうっすよ。俺っちや兄貴は、生まれも育ちも池のトンボっす、マジトンボ」
「だから、あんたは厳密に言えば動物なのよね。なのに、檻に入っている動物を見てもなんとも思わないの?
動物園っていう概念、嫌だって思ったりはしないの?」
ほづみにまじまじと見つめられ、シオカラはその視線に戸惑いながらも答えた。
320:OLとシオカラトンボ3 4 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/04 17:45:38 7iwvMtC9
「嫌、っつーか、動物は動物で、俺っち達は俺っち達っすから。たぶん、他の獣人もそう思ってんじゃないっすか?」
「もうちょっと具体的に言ってくれないと、解るものも解らないんだけど」
「んーと、そうっすねー…」
シオカラは驚くほど睫の長いキリンを見つめながら、言いたいことを整理した。
「俺っちみたいなのは人間じゃないっすけど、動物ともその辺の虫とも違うっすから。人間じゃないけど、人間みたいに
喋ることも出来るし、俺っちは頭悪いっすけど考えることも出来るし、本能はあるけど理性である程度押さえられるし。
だから、人間じゃないけど動物でもないっすから、檻に入った動物を見ても変だとは思わないし、嫌だなんて思う
こともないっすね。ほら、人間だっているじゃないっすか、サルをペットにする人。でも、普通の人はそれを見たところで
嫌だなんてこと、そもそも考えないじゃないっすか。だから、まあ、つまりはそういうことっすよ」
ほづみはシオカラの言葉を聞き終えてから、少し考え、言った。
「あんたは虫だけど、価値観は動物よりも人間に近い、ってことね」
「そうっすそうっす、マジそうっす」
「でも、やっぱり虫は虫なのよね」
「けど、だからって何をどう思うってこともないっすよ。俺っちはトンボだから俺っちなんすから」
「ついでにもう一つ聞いてもいい?」
「あ、はいっす」
「あんたって常に全裸だけど、そういうことは気にならないの?」
ほづみの問い掛けに、シオカラは閉じかけた顎を開いた。
「ふへ」
考えてみたら、そんなことを気にしたことはなかった。人に近い獣人は服は着るが、昆虫人間は何も着ない。
そもそも、着る必要がないからだ。外骨格は下手な武装よりも強固で、種族によっては弾丸をも跳ね返せる。
体温維持が難しい冬場は冬眠を防ぐために防寒着を着ることもあるが、それでも着ている期間はごく僅かだ。
服を着ると、トンボの命とも言える羽が引っ掛かってしまうし、傷付いてしまっては飛行能力が低下してしまう。
だから、昆虫人間には日常的に服を着るという概念自体がないので、何も着ていないことを気にするわけがない。
けれど、改めて考えてみると、妙な気もする。様々な種族に混じって社会生活を営むのに、全裸というのは。
だが、やはり、服を着た虫は変では。シオカラはいつになく真剣に考え込んでいると、ほづみが覗き込んできた。
「そこまで考え込むようなこと?」
「つか、今の今まで、そんなこと考えたことなかったっすから、いやマジで」
「でも、あんたは服を着ない方がいいかもね」
「え、あ、そうっすか?」
「だって、結構良い色してるから」
ほづみは、シオカラの水色の外骨格を小突いた。
「隠しちゃうのは勿体ないじゃない」
ほら、次行くわよ、とほづみに上左足を引っ張られ、シオカラはキリンの檻の前から通路へと移動させられた。
子供や家族連れの間を擦り抜けて歩きながら、シオカラは上左足を掴むほづみの白い手を見下ろしていた。
爪は綺麗に磨かれていて、指は白く細長い。外骨格を握る力は強く、虫に対する力加減が解らないようだった。
彼女の表情を窺おうとしたが、歩調に合わせて揺れる髪に隠れてよく見えず、化粧の匂いが触覚をくすぐった。
女の匂いに、頭の芯からくらくらした。
321:OLとシオカラトンボ3 5 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/04 17:47:21 7iwvMtC9
思いの外、動物園を楽しんでしまった。
ちらほらと街灯が灯り始めた歩道をシオカラと共に歩きながら、ほづみは心地良い疲労感を味わっていた。
あの動物園を訪れたのは小学生時代以来だったが、久々に見た動物達の姿は新鮮で、純粋に面白かった。
ほづみの少し後ろを歩くシオカラは、人間で言うところの満面の笑みであるらしく、きちきちと顎を鳴らしていた。
最初の頃は音の聞き分けなど出来なかったが、しばらく付き合っていると、その時々で微妙に力加減が異なる。
喜んでいる時は音が高く、苛立ったり怒っている時は音が低く、微妙な感情を表す時は間延びした音を出す。
昆虫人間は顔が顔だけに表情が出せないかもしれないが、注意深く見ていれば、おのずと感情は伝わってくる。
だから、今のシオカラは物凄く喜んでいた。動物園のお土産が詰まった紙袋を下げ、顎を細かく擦らせている。
ほづみもブランドのハンドバッグと一緒にお土産の入った紙袋を下げ、ヒールを鳴らしながら、帰路を辿っていた。
「パンダ、可愛かったっすねーマジで!」
「そうねー」
「つか、クマだって解ってんのに普通のクマとはマジ違うっすよね! 超白黒だし!」
「パンダだもの、当然でしょ」
「てか、マジで尻尾白かったんすね! つか、俺っち、なんかマジ感動したっす!」
「パンダの尻尾ぐらいで?」
「尻尾は大事っすよ、マジでマジで。ああ、俺っちのは尻尾じゃなくて腹っすけどね、腹」
「解っているわよ、それぐらい」
ほづみは横目にシオカラを見てから、頬も声色も自然と緩んでいることに気付き、そんな自分に安堵していた。
同僚の男に浮気された挙げ句に一方的に別れを告げられてからというもの、笑顔は無理に作ってばかりだった。
仕事の最中は無理にでも笑っていないと、挫けてしまいそうだったからだ。だが、やはり、辛いものは辛かった。
けれど、シオカラの前ではいくら虚勢を張っても意味がない。年上の見栄や意地はあるが、彼は単なる知り合いだ。
だから、自分でも気付かないところで心が緩んでいた。シオカラの年相応の振る舞いも、見ていて微笑ましい。
もっと甘えてしまいたくなる。けれど、それはいけない。ほづみはシオカラの横顔に視線を向けたが、伏せた。
これきりにしてしまおう、と強く思うのに、これで終わってしまいたくない、と弱り切った自分が胸中で喚いている。
捨てられて参っていたところに丁度良く現れ、丁度良く気を紛らわせた相手だから、丁度良い場所に収めたいのだ。
だが、そんなものは恋ではない。ほづみの見苦しいエゴであり、好意を示してくれるシオカラに対する侮辱だ。
好かれているから傍に置きたい、などと少しでも考えてしまった自分が心底嫌になり、ほづみは目線を落とした。
「…どうしたんすか?」
シオカラは立ち止まると、ほづみを覗き込んできた。藍色の複眼には、見た目だけ綺麗に着飾った女が映った。
だが、その中身は泥臭くて意地汚くてどうしようもない。そんな女だから捨てられたのだ、と今更ながら痛感した。
それに比べて、シオカラは気が良すぎる。夕暮れの空から零れる茜色の日光が、四枚の透き通った羽を光らせた。
「ねえ、あんた」
ほづみは手を伸ばし、シオカラの顎に触れた。
「私のこと、好き?」
「そりゃ…」
シオカラは顎から染み渡るほづみの体温を意識しつつ、答えた。
「好きっす、大好きっす」
「ヤらせてくれたから?」
「えっと、それもあるっすけど、なんていうか、まあ…」
シオカラは言葉を濁していたが、語気を強めた。
「好きだから好きっす!」
「そう」
ほづみはシオカラの顎からするりと手を外すと、シオカラの長く伸びた影に目線を投げた。
322:OLとシオカラトンボ3 6 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/04 17:48:15 7iwvMtC9
「私は、あんたのこと好きじゃないわ」
「虫だから、っすか?」
「そんなんじゃないわ。私が悪いの、最初からね」
ほづみはシオカラに背を向け、ことん、とヒールでアスファルトを小突いた。
「自棄になっていたからって、あんなことしていいはずない。しかも二度も。今日のデートだって、結局のところ、
あんたをダシにして遊んだだけだし。だから、もう、これっきりにした方がいいのよ。どっちにとってもね」
「俺っちは、ダシにされたとか、そんな」
「あんたがそう思っていなくても、私はそう思うのよ。だから、お願い」
ほづみは鮮烈な西日を背にして、シオカラに振り向いた。
「私のこと、嫌いになってよ」
複眼と単眼を焦がすような目映い逆光に包まれた彼女は、やはり表情が窺えなかったが、語気は弱かった。
平坦に言い切ったつもりなのだろうが、僅かに上擦っている。寂しい人なのだ、とシオカラは悟ってしまった。
一人でいることが耐えきれないくせにプライドが高く、大人だから、縋り付ける相手をはねつけようとしている。
どう見ても、無理に無理を重ねている。再会した夜に吐露した苦しみも、まだ振り切れていないのだろう。
振り切れていたら、シオカラとデートなどしないはずだ。それなのに、彼女は痛々しく意地を張ろうとしている。
「マジ無理っす、それ」
シオカラはほづみに歩み寄ると、上左足から紙袋を落とし、力任せに抱き締めた。
「…馬鹿よ、あんた」
ほづみはシオカラを押し返そうとしたが、力では勝てず、青空に似た水色の外骨格に身を預けた。
「どうしようもないぐらい」
出来ることなら、体を締め付ける足を振り払ってしまいたい。二度と顔を合わせたくなくなるほど、罵倒したい。
思い切り嫌われて、避けられて、疎まれた方が良い。けれど、冷たい外骨格はそんな感情を吸い込んでいった。
シオカラの紙袋から転げ落ちたパンダのぬいぐるみは二個あり、恐らくその片方はほづみのためのものだろう。
これでは、尚のこと、彼を家に帰せない。
二人は、言葉少なに帰宅した。
あれから、お互いに様子を探り合ってしまって、上手く言葉が出てこなくなってしまった挙げ句に黙り込んだ。
結局、安普請のアパートに到着するまではまともな会話も出来ず、帰宅してからもシオカラはぎこちなかった。
初めて部屋に連れ込んだ時とは違った意味で緊張しているらしく、居間の片隅で正座して固まってしまった。
ほづみは寝室にしている六畳間に入り、髪を解いて派手な化粧を落とし、気合いの入った服を脱いでいった。
案の定、パンダのぬいぐるみの片方はほづみにプレゼントされ、乱雑なドレッサーの脇にちょこんと座っていた。
部屋着にしているTシャツとハーフパンツを着てから居間に戻ると、シオカラは正座したまま動いていなかった。
「そんなに畏まることないでしょうが」
ほづみがシオカラの傍に腰を下ろすと、シオカラは俯いた。
「いや、そうなんすけど、この流れだと、やっぱりアレっすか…?」
「嫌なの?」
「いや、嫌ってんじゃないっすけど、なんていうか、その」
「だったら、止めておく?」
323:OLとシオカラトンボ3 7 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/04 17:49:21 7iwvMtC9
ほづみが言うと、シオカラは顔を上げて顎を開いた。
「うへ?」
「あんたがどうしても嫌だって言うんなら、無理にしようなんて思わないわよ」
「あ、いや、俺っちはそういうことを言いたいんじゃなくて、あーもうっ!」
シオカラはぎりぎりと顎を噛み合わせていたが、ほづみに向き直った。
「本当にそれでいいんすかっ! つか、マジ俺っちでいいんすか!」
「私のこと、好きなんでしょ?」
「そりゃマジ好きっすけど!」
「じゃあ、問題ないじゃない」
「そりゃまあないっすけど、でも、なんか、ああ、なんてーかなぁこういうの!」
シオカラは上手く言葉に出来ないのがもどかしいのか、虚空を掻き毟ってから、ほづみに迫った。
「なんかもうマジすんません! 無理っぽいっす!」
「ちょっ」
ほづみが身を引くよりも早く、シオカラは顎を大きく開いて細長い舌を伸ばし、ほづみの唇をぬるりと舐めた。
口紅の味がほんの少し付いていて、首筋から立ち上る香水の残り香が触覚を惑わし、感覚が狂いそうになる。
上両足で柔らかな体を押さえ付け、中両足で引き寄せ、下両足で囲む。トンボの足は、捕らえるためのものだ。
カゴのように捕らえた獲物を抱え込み、そして、喰らう。顎を広げるだけ広げ、伸ばした舌を首筋へと滑らせた。
「ん…」
唇を解放されたほづみは小さく声を漏らし、冷たい感触に身を捩った。
「あ、ちょっと、や…」
首筋をぬるぬると舐められながら、ほづみはTシャツの裾を捲り上げようとしてきた中右足を阻もうとした。
だが、その手は上右足に捕まれてしまい、ほづみのTシャツは一気に胸の上まで引き上げられてしまった。
ブラジャーも押し上げられ、少し汗の浮いた乳房が零れ出た。シオカラは首筋から顔を上げ、舌を引いた。
「次、下、いいっすか」
「触るの? それとも、舐めるの?」
「舐めた方が楽っすよね、お姉さんは」
「ダメ、だって今日は外にいたし、暑かったし、自分でも解るくらい汚れてるし!」
ほづみは首を横に振るが、シオカラはほづみの両腕を上両足で押さえたまま、畳の上に押し倒した。
「あぅ…」
だが、シオカラの中両足は一息でハーフパンツと下着を引き上げ、脱がされ、足を思い切り広げられた。
ほづみは今までで一番恥ずかしくなり、唇を噛んだ。一度目と二度目は、何も感じなかったというのに。
見られても気にするような相手だと思っていなかったし、恥ずかしいとすら思わなかったが、急に変わった。
「あ、ふぁ、ぁ…」
シオカラの舌が陰部を割って入り、滑り込んできた。人のそれよりも冷たいが、心地良かった。
「くぁ、ぅ、うぁ」
324:OLとシオカラトンボ3 8 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/04 17:50:31 7iwvMtC9
ぐじゅぐじゅと粘っこい音が立てられ、細長い舌が前後し、ほづみの胎内から掻き出しているかのようだった。
奥にまで至るが、触れるだけだ。粘膜と粘膜が擦れ合って互いの体液が分泌され、混じりながら滴り落ちる。
いつのまにか、彼の黒い顎は光沢を帯びるほど濡れていた。それが無性に恥ずかしく、ほづみは目を閉じた。
だが、目を閉じると、一心不乱にほづみの陰部を舌で抉る音だけが聞こえてきて、皮膚の感覚も鋭敏になる。
舐められている間に尖ってきたクリトリスが、時折シオカラの外骨格に触れるが、触れるだけでその先がない。
押し付けてしまいたい、と思っても、シオカラとの距離が狭まらないどころか、舌が抜かれると遠のいてしまう。
それが何度も続くと堪えきれなくなって、ほづみはシオカラの首に足を巻き付け、彼の硬い顎に押し付けた。
「あはあぁあっ」
喉を反らして声を上げたほづみに、シオカラは白濁した体液に濡れた舌を引き抜いた。
「あ、やっぱりそっちの方がいいんすか?」
「だ、だってぇ…」
ほづみが恥じらうと、シオカラはほづみの汗と体液に濡れた顎をがちがちと鳴らした。
「んじゃ、こうしてみるっすか?」
「え…」
ほづみが少々戸惑うと、シオカラはほづみを押さえていた足を全て外し、ほづみを抱えて膝の上に座らせた。
胡座を掻いた足の上に置かれたほづみは、中両足で太股を持ち上げられ、上両足で乳房を無造作に掴まれた。
「ちょ、ちょっと、何これ」
「見ての通り、俺っちなら出来る態勢かなぁーと。虫っすから」
「そりゃそうかもしれないけ、どぉ…」
ほづみは言葉が継げなくなり、弛緩した。乳房から外された上右足が、硬く充血したクリトリスを擦ってきた。
爪は使わず、人間で言うところの手首に当たる外骨格でぐりぐりと押さえ付けるが、陰部には触ってこない。
「どうっすか、これなら痛くないっすよね、爪じゃないっすから」
「いたく、ない、けどぉっ…」
最も弱い部分を責められ、ほづみは浅い呼吸を繰り返した。頬と同じく紅潮した首筋には、舌が這い回る。
左の乳房は柔らかく絞られ、下と同じく硬く尖った乳首を爪の腹で潰され、至る所から快感が襲ってくる。
今し方まで責め抜かれていたのに異物を失った陰部は、寂しげに疼き、体の奥底からじわりと滲んできた。
「あーもう、どこもかしこもマジ最高っすよ、お姉さん」
ほづみの首筋を甘噛みしながら、シオカラは感嘆した。
「おっぱい大きいし、全部柔らかいし、俺っちが何しても感じてくれるし、マジエロ過ぎだし」
「一気にやられたら、誰だって、感じるわよ」
ほづみが力なく返すと、シオカラは左の乳房が歪むほど握り締めた。
「そうっすか?」
「ひゃうあん!」
思いがけず強い刺激にほづみが嬌声を放つと、シオカラはきちきちと顎を擦らせて笑った。
325:OLとシオカラトンボ3 9 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/04 17:51:12 7iwvMtC9
「マジ可愛すぎだし、お姉さん」
「ね、もう、いい、でしょぉ…? おねがいぃ…」
ほづみが切なく漏らすと、シオカラは腰を上げて、生殖器官が露出した腹部を前に出した。
「俺っちも、もうなんかヤバげっす」
「ふぅ、あ、はぁ、あっ…」
圧倒的な質量を誇る異物を押し込まれ、ほづみは涙を滲ませた。
「俺っちなんかで良かったら、いくらでも好きになってやるっすよ、お姉さん」
か細い泣き声のような声を漏らすほづみを責め立てながら、シオカラが言うと、ほづみはシオカラの足を掴んだ。
「ほんとうに? わたし、なんかでいいの?」
「それを言うのは俺っちの方なんすけど」
「だ、だって、私、あんたのこと、ずっと、利用して…」
「そんなの、とっくに知ってるっす。でも、俺っちは、たまんないんすよもう!」
ぐん、と熱い胎内の中心を突き上げると、ほづみは仰け反った。
「あぁ、あぁあんっ!」
外骨格越しにでも解るほど、強く締め付けられた後、ほづみはだらりと脱力してシオカラに寄りかかってきた。
「好きっす、お姉さん」
ほづみを見下ろしながらシオカラが呟くと、ほづみはシオカラに体重を預け、涙を拭った。
「うん。私も、もう、無理…」
好きになってはいけないと思えば思うほど、意識してしまう。けれど、真っ向から認めることに躊躇いがある。
だから、今はまだ言えない。体を繋げるだけの浅はかな関係のままではいたくないが、勇気が足りなかった。
だが、いずれちゃんと言おう。そうでなければ、迷いなく好意を示してくるシオカラに対して申し訳ないからだ。
「だから、俺っちと付き合って下さいっす、マジ彼女になって下さいっす」
と、背を当てている胸郭から聞こえた声に、ほづみは途端に興醒めしてシオカラを張り飛ばした。
「突っ込んだまま言うんじゃないわよ!」
「あおっ!」
張り飛ばされた勢いで頭を逸らしたシオカラは、首を捻って元に戻し、不可解そうにしつつ生殖器官を抜いた。
ほづみは足と腰に力が入らなかったので、シオカラの傍に座り、なぜ殴られたのか解っていない彼を睨んだ。
せめて、抜いてから言って欲しかった。だが、今、それを強調するのは多少気恥ずかしかったので飲み下した。
乱れた服と髪を整えてから、ほづみは双方の体液に汚れたシオカラの顎を拭ってやってから、キスをした。
シオカラはきょとんとしていたが、意味が解ると照れてしまい、だらしなく笑いながら四枚の羽を揺らしていた。
浮かれ切っているシオカラの様を見ていると、ぐだぐだと悩んでいたことが馬鹿らしくなって、ほづみは笑った。
落ち込んでいるのは、もううんざりだ。
326:859 ◆93FwBoL6s.
09/06/04 17:59:22 7iwvMtC9
以上。もうちょっと話は続きます。
デートが一番下手なのは、間違いなくヤンマです。
327:名無しさん@ピンキー
09/06/05 01:01:52 MtHl6m6N
乙
328:名無しさん@ピンキー
09/06/05 01:56:51 BA7M6+BR
GJ!
859氏のキャラはあいかわらず皆イキイキしてて、読んでて楽しいな
329:859 ◆93FwBoL6s.
09/06/05 17:39:51 Kzll6c11
人外アパートの続きですが、シオカラの話はこれで終わりです。
昆虫人間×女性で、今回は非エロです。NGはOLとシオカラトンボで。
330:OLとシオカラトンボ4 1 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/05 17:41:16 Kzll6c11
久し振りの快晴だった。
数日間に渡って降り続いた雨が止み、分厚い雲が途切れ、待ち侘びていた日差しが空から落ちていた。
湿気が多かったせいで重たくなっていた羽も乾燥して軽さを取り戻し、水の匂いが残る風を切り裂いていた。
眼下に広がる街並みでは、屋根や雨樋に溜まった雨水がきらきらと輝いていて、時折複眼を刺してきた。
空の色はシオカラの外骨格よりも若干濃いが、複眼よりも薄いが、高度を高く保てば馴染んでしまうだろう。
シオカラがほづみから呼び出しを受けたのは今朝で、素っ気ない文章のメールが携帯電話に届いていた。
ヤンマは茜を連れてデートに出掛けてしまったし、ヤンマからは何度となく付いてくるなと念を押されていた。
かといって、家にいても退屈なだけだ。暇を持て余していたところだったので、願ってもない呼び出しだった。
古めかしいアパートの屋根が見えたので、シオカラは頭を下げてくるりと旋回してから、高度を下げていった。
何の気なしにアパートの裏手に回ると、二階のベランダでは、アビゲイルが山のような洗濯物を干していた。
「あら」
銀色の女性型全身鎧、アビゲイルは祐介のシャツを持ったまま、シオカラを見上げた。
「おはよう、シオカラ君」
「おはようっす、アビーさん」
シオカラはアビゲイルの前でホバリングし、目線を合わせた。
「良いお天気ね。これなら、洗濯物だってきっとすぐに乾いちゃうわ。ここのところ、雨が続いていたせいで
すっかり溜まっちゃったのよ」
アビゲイルは濡れた服が詰まっている洗濯カゴを示してから、シオカラを見上げた。
「それで、今日は何の御用かしら? ヤンマさんと茜ちゃんは、早くからお出掛けしているんだけど」
「ああ、それなら知ってるっす。それに、今日は兄貴とダベりに来たんじゃないんで」
「あら、そうなの」
アビゲイルが少し訝しげに首を傾げると、下方から声が掛かった。
「来たなら来たって言いなさいよ、あんたは」
シオカラが複眼を向けると、一階右端の部屋の掃き出し窓からほづみが顔を出していた。
「あ、すんません。つか、今日は何の用っすか?」
シオカラが平謝りすると、ほづみは部屋の中を指した。
「見りゃ解るわよ」
「あら、まぁ」
二人を見比べたアビゲイルは、なんとなく事を察したらしく、マスクに手を添えて微笑んだ。
「それじゃ、お赤飯でも炊こうかしら」
「えっ、ちょっ、それは、つかマジヤバすぎっす! 百歩譲ってオムライスっす!」
「解ったわ。二人の分も用意するから、お昼、食べに来てね」
うふふふふ、と、アビゲイルはシオカラを見つめた。明らかに楽しんでいる。
331:OLとシオカラトンボ4 2 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/05 17:42:02 Kzll6c11
「え、あ、はいっす」
シオカラはぎちぎちと顎を軋ませていたが、降下し、ほづみの部屋である一階右端の部屋の前に降りた。
「んで、お姉さん。今日は一体…」
シオカラはほづみの部屋を覗き込み、途端に理解した。手狭な部屋中に、物という物が溢れ返っていた。
押し入れからは段ボール箱や衣装ケースが引っ張り出され、全ての窓が開かれ、煙幕のように埃が漂っていた。
下両足を拭ってから部屋に入り、段ボール箱を掻き分けて、シオカラは部屋の中心に立つほづみに近付いた。
「引っ越しでもするんすか?」
「大掃除よ。荒れ放題だったし、なんかこう、ムラムラっと来ちゃったのよ」
箱の海の中で仁王立ちしているほづみは長い髪を一括りに結んでいて、野暮ったい赤のジャージを着ていた。
胸元には名札が縫い付けられていたと思しき針の後が残っていて、左の二の腕にも校名と思しきネームがある。
その格好に相応しくすっぴんだったが、化粧が落とされていても、ほづみの顔立ちには目を引くものがあった。
「それ、いつのっすか?」
シオカラがジャージを指すと、ほづみは襟元を引っ張った。
「高校の時のやつ。丈夫だし、使い勝手が良いから取ってあるの。下は体操着じゃないけどね」
「あ、ああ、そうっすか…」
「あんたはリアルに高校生でしょうが、体操着姿の女子なんて腐るほど見てるでしょ」
若干落ち込んだシオカラにほづみが顔をしかめると、シオカラはきちきちと顎を擦らせた。
「いやあ…あれはあれっすよ。だから、これもこれなんすよ…」
「先に言っておくけど、ブルマなんて置いてないからね。ていうか、もう尻が入らないのよ」
「んじゃ、履いたことはあるんすね。その歳で」
「実家でね。使えるかどうか試してみたけど、案の定よ」
ほづみはシオカラに歩み寄ると、ゴミが詰まった袋を押し付けた。
「とりあえず、これ、玄関の方に置いてきて」
「了解っす」
「必要なものといらないものを分けるのも手伝ってよね。見ての通り物が多いから、一日仕事になると思うけど」
「それなら大丈夫っすよ」
シオカラはほづみから渡された半透明の袋を見下ろし、その真下に押し込められているものに気付いた。
「なんすか、これ?」
綺麗な装丁の平べったい冊子で、サイズは大きいが、そのくせ厚みはなく、ページも一ページのみだった。
ゴミ袋を持ち上げて裏面を見てみると、写真館の名前と電話番号が印刷されていた。ということは、これは。
「お見合い写真」
しれっと言い放ったほづみに、シオカラは顔面にゴミ袋を落とし、それが足元に転げ落ちた後に驚いた。
332:OLとシオカラトンボ4 3 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/05 17:42:59 Kzll6c11
「え、え、え、えええええっ!?」
「ちなみに見合う日は今日で、世間の底辺を這いずる貧乏人には一生縁がないブルジョア御用達のホテルが舞台」
「ええええええええ?」
「相手は専務の息子」
「ええええ、ええ、ええええ…?」
「結婚すれば間違いなく玉の輿だし、その息子ってのがまた評判が良いのよ。大人しくて顔も良くて賢くて」
「え、え、え、え、え…」
「でも、行かない。大掃除がしたいから」
「えー…?」
シオカラがぐりっと首を捻ると、ほづみはシオカラを小突いた。
「だから、さっさとそのゴミ捨ててきてよ。仕事は山ほどあるんだから」
「でも、お姉さん、それっていいんすか?」
恐る恐るゴミ袋を拾ったシオカラに、ほづみはにんまりした。
「いいから、大掃除してんじゃないのよ。こんなに天気が良いんだから、何もしないのは勿体ないでしょ」
「はいっすー…」
シオカラは不可解な思いを感じながらも、玄関の扉を開けてゴミ袋を置いてから、部屋の中に戻った。
短い廊下にまで溢れ出している段ボール箱には、少し投げやりな字で内容物の名前が書き記されていた。
服や本が詰まった箱に混じって、シオカラであっても聞いたことがあるブランド名がいくつか記されていた。
爪先でガムテープを引き千切り、その中の一つを開けてみると、案の定そのブランドのバッグが入っていた。
「あの、お姉さん、これって」
シオカラがバッグの入った箱を指すと、ほづみは雑誌の束を括りながら答えた。
「売る」
「でも、勿体なくないっすか?」
「もう使わないし、本当はそんなに欲しくなかったし」
「じゃあ、なんで買ったんすか? こういうのって、一個十何万ってするんすよね?」
「まあ、色々あったのよ。私も若かったから」
古雑誌の束を外に出してから、ほづみはシオカラを見やった。
「その辺の箱、全部開けておいて。売る前に虫干ししておきたいから」
「了解っすー…」
ますます不可解な気分を募らせながら、シオカラはほづみに命じられるまま、段ボール箱を開けていった。
開ければ開けるほど、ブランド物が顔を出す。バッグ、アクセサリー、服、それらが入っていたであろう紙袋。
余程金を掛けなければ、ここまでは買えないだろう。妙齢の彼女が安普請に住む理由が、なんとなく解った。
だが、それを売ってしまうのは惜しくはないのだろうか。シオカラはほづみの横顔を見つつ、悩んでしまった。
衣装ケースを開けて中身を確認したほづみは、一瞬顔をしかめてから、大量の服を引っ張り出し始めた。
大半をゴミ袋に押し込み、残したものは物干し竿に引っ掛けてから、また新たな衣装ケースを開けていた。
二個目の衣装ケースから出てきたのは服ではなく、湿気を含んで膨らんだ冊子だったが、開けずに捨てた。
複眼の端に掠めた冊子の表紙を凝視したシオカラは、見知らぬ男の名前が書かれていることを知覚した。
有り体に考えて、あれは昔の男の写真だろう。開けもしないということは、余程ダメな男だったに違いない。
そこまで見てしまうと、シオカラといえども察した。この大掃除は、ほづみの過去を整理するためのものだ。
だから、昔に買い集めた服やバッグや元彼の写真を捨てていて、ほづみの表情もどことなく晴れやかだった。
そんな作業に自分が付き合っていいものか、と少々躊躇いつつ、シオカラは黙々と段ボール箱を開け続けた。
昆虫人間の利点は、カッターナイフがいらないことだ。
333:OLとシオカラトンボ4 4 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/05 17:44:49 Kzll6c11
そうこうしているうちに、時間が過ぎた。
朝方に始めた作業は昼前になっても終わらず、段ボール箱の中身を出したが、まだ数個が残っている。
中身を整理しても、その次は埃だらけの部屋の掃除が待っているので、過去の大掃除は当分続きそうだった。
当然、肉体労働に終始していたほづみとシオカラは空腹になり、シオカラはアビゲイルからの誘いを伝えた。
ほづみは躊躇うかと思われたが、意外にも素直に誘いを受け、汗と埃を流してから祐介の部屋を訪れた。
アビゲイルは喜んで二人を出迎えたが、祐介は試験勉強に精を出していたために事の次第を知らなかった。
なので、少しばかり戸惑ったようだが、アビゲイルから説明されるとすぐに納得し、ほづみを出迎えてくれた。
居間のテーブルには、アビゲイルの言葉通りにオムライスが三人分並び、ケチャップで絵が書かれていた。
祐介のものは正視するのが憚られるほど可愛らしいハート、シオカラのものには出来の良いトンボの似顔絵。
そして、ほづみのものには、幼女だったら間違いなく喜んでいたであろうデザインの花の絵が描かれていた。
三人からなんともいえない感情の視線を注がれたが、アビゲイルは悪びれることもなく、にこにこしていた。
「うふふふふふ」
「祐介兄さん、アビーさんっていつもこうなんすか?」
半熟卵と甘酸っぱいチキンライスをスプーンに載せたシオカラは、顎の中に入れた。
「うん、弁当もこんな感じ…。作ってくれる以上、文句は言えないけどさ」
祐介はハートが恥ずかしくてたまらないのか、ケチャップの絵を崩すように食べていた。
「でも、おいしいわね」
ほづみはオムライスを食べながら、感嘆した。ほづみが同じように作っても、こうは上手くいかないだろう。
程良く火の通った卵もさることながらチキンライスが絶妙で、べたつきがちなケチャップの水分が飛んでいる。
タマネギの微塵切りも食感を残しながらも甘みが出ていて、具の混ぜ方も均一でどこを崩しても混じっている。
バターが多めに入っているらしく、ケチャップの酸味がまろやかになっていて、卵の味と見事に馴染んでいる。
オムライスに添えられているコールスローサラダも、野菜のたっぷり入ったコンソメスープも当然おいしかった。
「これは才能だわー…」
ほづみが実直な感想を漏らすと、アビゲイルは笑んだ。
「気に入って下さって嬉しいですわ」
「良かったら、後でお裾分けも受け取ってもらえませんか。おいしいんですけど、量があるから余って余って」
祐介が苦笑すると、アビゲイルは言い返した。
「だって、量を作らないとおいしく出来ないんだから仕方ないじゃない」
「喜んで。うちの冷蔵庫、今、空っぽなのよ。ここんとこ、ろくなものを食べてなかったから」
ほづみが快諾すると、祐介はシオカラに向いた。
「お前の方も頼むよ、シオカラ。でないと、うちの冷蔵庫が壊れる」
「マジ了解っすー。てか、アビーさんの料理、うちでも評判良いっすから、マジもらうっす」
シオカラはぎちぎちと顎を鳴らしてから、オムライスを掻き込んだ。歯がないので、ほとんど丸呑みなのだ。
ヤンマもトンボなので同じ食べ方をするが、消化不良を起こさないのだろうか、と祐介はいつも思ってしまう。
だが、きっと大丈夫なのだろう。肉食の昆虫人間の消化液は、昆虫の外骨格など消化出来てしまうのだから。
「祐介君、だったっけ?」
ほづみに声を掛けられ、祐介は返事をした。
334:OLとシオカラトンボ4 5 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/05 17:45:41 Kzll6c11
「あ、はい」
「あなたの彼女、きっといいお嫁さんになるわね。大事にしなさいよ」
「ええ、もちろん」
祐介は照れながらも、頷いた。すると、祐介の傍に座るアビゲイルは俯いて肩を縮め、マスクを押さえた。
照れ合う二人が微笑ましくてたまらず、ほづみはにやけながら、オムライスが冷めないうちに食べ続けた。
ほづみは、二人に対して捻くれた感情を抱かない自分に安堵した。少し前なら、憎しみすら覚えただろう。
だから、もう大丈夫だ。これも全てシオカラのおかげだ、とほづみは、サラダを食べに掛かる彼を見やった。
シオカラは複眼の側面でほづみの視線に気付き、触覚を向けてきたので、ほづみは笑みを返してやった。
少しどころか、かなり照れくさかったが。
大掃除を終えた頃には、日が暮れ始めていた。
箱という箱を開け、物という物を出し、埃という埃にまみれたほづみとシオカラは、達成感を味わっていた。
玄関前には、翌朝に出さなければならない燃えるゴミの入った袋が山と積まれ、燃えないゴミも多かった。
虫干しされた革製のバッグや靴も部屋の中に回収され、床には掃除機の後に雑巾掛けも行って徹底した。
だが、台所周りまではさすがに出来なかったので、それは後日改めて、ということで今日の大掃除は終了した。
高台から見下ろすと、見慣れた街も変わって見える。ほづみは吹き付ける風に目を細め、髪を押さえていた。
今し方まで自分がいたアパートは遙か遠くになり、無数の家並みの中に紛れ、判別が付けづらくなっていた。
オモチャのように小さくなった私鉄の電車が線路を辿って走っていて、甲高い警笛が風に乗って聞こえてきた。
かなりの高さにいるが、恐怖は感じず、爽快感に包まれる。ほづみは伸びをして背骨を鳴らし、ため息を吐いた。
「気持ちいいわねー、高いところって」
「そうっすそうっす、マジ最高なんすから」
ほづみの背後に立つシオカラは、四枚の羽と触覚を強い風に靡かせていた。
「私、人間じゃなくて羽のある生き物に生まれれば良かった」
ほづみが唇を尖らせると、シオカラはきりきりと顎を擦らせた。
「そうっすねー。でも、俺っちは人間もいいなーって思うっすよ」
「どこが?」
「んー、まあ、なんていうのかな、こう…」
「だから、まとめてから話しなさいよ」
「すんません」
シオカラは半笑いで謝ってから、ほづみを見下ろした。
「つか、なんで急に飛びたくなったんすか? まあ、俺っちの力でも、お姉さんぐらいなら抱えて飛べるから
別に問題はないっつーか、マジ嬉しかったんすけど」
「色々あったから、とにかくすっきりしたかったのよ」
ほづみは西日に焼かれる街を見つめていたが、シオカラに振り返った。
「ありがとう」
「いや、俺っちは、別に大したことはしてないっすよ?」
シオカラが顔を伏せて顎をがちがちと打ち鳴らすと、ほづみは笑みを零した。
「今から考えてみると、私、馬鹿だったわ。後輩がどんどん結婚するからって、焦って適当な男を見繕おうとして、
挙げ句にあの様よ。私は本当に結婚したかったわけじゃなくて、周りに合わせようとしていただけなんだし。
大体、結婚して幸せになるんだったら、誰も離婚なんてしないっての。散々苦労して就活して、やっと就職した
会社だから未練はちょっとだけあるけど、もういいや。明日にでも辞めるわ。お見合いも蹴っちゃったしね。
でも、まあなんとかなるでしょ。不況だけど、仕事は選り好みしなきゃいくらでもあるんだし」
ほづみはシオカラに向き直り、ジャージのポケットから動物園で買ったキーホルダーを取り出した。
「あげる」
「どうもっす」
335:OLとシオカラトンボ4 6 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/05 17:46:55 Kzll6c11
シオカラはほづみの手からキーホルダーを受け取り、その先に付いているものを確かめ、きょとんとした。
「なんすか、これ?」
「どこをどう見ても合い鍵でしょうが。大掃除したのも、それを探すためよ。不動産屋に頼むと金掛かるしね」
「でも、なんでまた俺っちに合い鍵なんか」
パンダのレリーフが施されたキーホルダーに付いた鍵を掲げたシオカラが不思議がると、ほづみは呟いた。
「彼女になれ、って言ったじゃないの」
「え、んじゃあ、お姉さん、いいんすか!?」
シオカラがぎょっとすると、ほづみは変な顔をした。
「自分から言っておいてキョドるな、理不尽な」
「えー、でも、いきなり合い鍵っすかー、なんかもうマジヤバいっすねー…」
「だからって、別に同棲しろとかそういうんじゃないから。その辺は勘違いしないでよね」
「もちろんっす、俺っちにはまだ学校があるっすから!」
「…それと」
ほづみはシオカラとの距離を狭めると、顎を掴み、ぐいっと引き寄せた。
「前言撤回。私、あんたのこと、好きだわ」
皮膚感覚のない顎に、乾いた唇が接した。ほづみがかかとを下ろすと、シオカラは顎を開いた。
「…俺っちもっす」
「だから、いい加減に名前で呼んでよね。浅い仲じゃないんだし」
ほづみがシオカラと目を合わせると、シオカラは触覚を立てた。
「じゃあ、ほづみんで」
「オタ臭すぎるから却下。普通に呼びゃいいのよ」
「可愛いじゃないっすか、ほづみん。つか、それ以外に思いつかないんすけど」
「だから、下手に捻ろうとするなっての。私も捻らないから、シオ」
「四文字の名前を二文字に縮めるのも、マジどうかと思うんすけど」
「あんたのセンスよりはマシだ、シオ」
「えぇー…」
「それぐらい妥協しろっての」
「解ったっすよ、ほづー」
「私はB級アイドルか!」
ほづみは声を上げた拍子にシオカラを張り倒すと、シオカラは不満げに顎を鳴らした。
「我が侭放題っすねー」
「どっちがだ」
「了解、りょーかいっす。俺っちとしてはつまんないっすけど、どうしても嫌だってんなら普通に呼ぶっすよ」
渋々納得したシオカラに、ほづみは胸を張った。
336:OLとシオカラトンボ4 7 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/05 17:47:45 Kzll6c11
「解りゃいいのよ、シオ」
「解ったっすよー、ほづっちー」
「だぁかぁらぁっ!」
ほづみはシオカラの呼び方に苛立ったが、これ以上からかわれるのは癪だったので、苛立ちを押さえた。
シオカラは得意げにきちきちと顎を軽く擦り合わせていて、高校生と言うよりも小学生男子のようだった。
だが、何もしないままでは気が収まらなかったので、ほづみはシオカラを一発引っぱたいてから傍に立った。
シオカラは叩かれた頭頂部をさすっていたが、ほづみを上中両足で抱えると、四枚の透き通った羽を広げた。
びいいいいん、と空気が鳴る。シオカラはビルの屋上を踏み切り、浮上し、ほづみと共に風に身を任せた。
不規則に入り乱れるビル風を読み、滑らかに空を切りながら、シオカラは触覚に感じる匂いに高揚していた。
ほづみが傍にいる。ほづみの体温が外骨格に染みる。世界中でほづみの匂いを感じているのは自分だけだ。
そう思うだけで、やたらに嬉しくなる。ほづみを窺うと、ほづみは高さに怯えるどころか、とても楽しそうだった。
彼女とはどこまで行けるか解らないが、だからこそ、どこまでも行けるのだとシオカラは根拠もなく確信した。
茜色の街並みに、青空の欠片が吸い込まれていった。
337:859 ◆93FwBoL6s.
09/06/05 17:54:23 Kzll6c11
以上。これにて完結です。
最後まで読んで頂き、どうもありがとうございました。
338:名無しさん@ピンキー
09/06/05 18:21:04 9Jr1u4m+
いいんだよそんな事
339:名無しさん@ピンキー
09/06/05 23:43:09 rL8/ZX83
>>337
乙。シオカラとほづみさんどっちに萌えたら良いんだ……両方萌えたけど。
340:名無しさん@ピンキー
09/06/06 00:27:41 OFi3BhqB
>>337
乙そしてGJ。
めちゃくちゃ萌えさせてもらいました!
シオカラもほづみんも本当によかった。
341:名無しさん@ピンキー
09/06/06 06:47:01 Ora3J5PC
ほづみん30代…?
まぁ中年好きもいるのかもしれないけど、そういう注意書きあったほうがいいやね。
とりまGJ!抜いた!
あんたのキャラはいきいきしてて良い!
また頼むよ~ノシ
342:名無しさん@ピンキー
09/06/07 03:42:50 zhyqMugF
GJ!コンゴトモヨロシク
>>341
・・・ま、おばさん注意になりかけの年だが・・・上手くSS書いてくれたら注意書きはいらなくね?
343:名無しさん@ピンキー
09/06/08 15:06:19 U6aLxvtL
ほしゅ
344:名無しさん@ピンキー
09/06/08 23:48:19 OvDd90F2
>>337
シオカラもほづみんもギャップ萌えですな。
初々しいなぁ
345:名無しさん@ピンキー
09/06/09 00:02:09 U6aLxvtL
>>337
最高だった
文章が綺麗
もしかしてプロ?
346:名無しさん@ピンキー
09/06/09 01:42:17 tyqCzdhN
>>345
何回かプロ疑惑かかってるよな・・・
アマだったら・・・こんな良職人を評価しない文壇は腐ってるわ
ってーか住民いねーなー・・・
避難所も過疎ってるし別の避難所できたのかー
347:名無しさん@ピンキー
09/06/09 02:52:15 BrrF8/9v
6月に長期休暇は無いのに…
>>337
GJ!というかもう本当に毎回ありがとうございますと感謝する勢いなんだが
シオカラとほづみさんの微笑ましさマジパネェっす
348:名無しさん@ピンキー
09/06/09 13:08:36 5Dp/zL90
少女漫画で和風だったと思うんだけど
ワンコと人間の退魔士が旅する何とかの玉って漫画知ってるか?
昔、従兄弟の家で読んでたんだが
異種間の恋愛話ばっかりだった記憶がある。
349:859 ◆93FwBoL6s.
09/06/09 17:32:30 jlfrHoVP
近頃自分ばかりで気が咎めますが、賑やかしに投下。
河童×少女の和姦ですが、河童に関して俺的解釈が含まれるので御注意を。
・河童の体格が成人男性並みに大きい
・妖怪じゃなくて水神
・タイトルが時代物っぽいけど現代物
それらが許せる方はどうぞ。NGは河童と村娘で。
350:河童と村娘1 1 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/09 17:33:20 jlfrHoVP
一歩、一歩、軟らかい土を踏み締める。
たっぷりと水を含んだ腐葉土がスニーカーの下で潰れ、落ち葉の間から泥混じりの水が溢れ出した。
木々の隙間から零れる日差しと夏の暑さで充分成長した雑草を、両手で掻き分けながら進んでいく。
前回の自分の足跡を探したが、先日の雨で消えていた。だが、どこに行けばどう出るのかは把握している。
逞しい木々の間を擦り抜けてきた頼りない風が汗ばんだ肌を舐めていき、一時だけ涼しさを与えてくれた。
背丈を追い越すほど伸びた雑草を掻き分けると、木々が開け、きらきらと目映く輝く清流が流れていた。
思わず声を漏らしてから、川に近付いた。胸まで浸かるほどの深さで、底の石は青い苔に覆われていた。
背負っていたリュックサックを手近な岩に下ろし、タオルで汗を拭ってから、清美は深く息を吸って呼んだ。
「タキーっ、でぇーてこぉーいっ!」
腹の底から張り上げた声に驚いた野鳥が羽ばたき、言霊の切れ端が山々へと吸い込まれていった。
清美は呼吸を整えながら辺りを見回していると、細い川の水面に波紋が広がり、ぬるりと流れが変わった。
水面が膨らみ、割れ、それが直立した。緑色の肌に幾筋もの清水を滴らせた、爬虫類に似た異形だった。
頭頂部には皿があり、体毛に縁取られている。口元は鋭く尖り、色は黄色く、クチバシに他ならなかった。
滑らかなウロコに覆われた両手両足が伸び、背中には分厚い甲羅を背負い、四本指には水掻きがある。
体格は成人男性程度だが、田畑に漂う土と草の匂いに似た独特の臭気と、異形の威圧感を纏っていた。
それが大股に踏み出すと、とぷん、と頭の皿に満ちた水が揺らぎ、ぎょろりとした双眸が清美を捉えた。
「また来たか」
「うん、来ちゃった」
清美が笑むと、その異形は川から上がり、川辺に転がる石を濡らした。
「相も変わらず、物好きな」
「だって、村にいるより、山の方が楽しいから」
清美はリュックサックを開けると、瑞々しいキュウリが詰まった袋を取り出した。
「ほら、キュウリ!」
「…おお」
異形は僅かに目を見開くと、清美は岩に腰掛けた。
「一緒に食べよう。今日はお弁当も持ってきたんだ」
「皿が乾かぬ間だけだがな」
清美の手前に腰を下ろした異形は、太いキュウリを手渡されると、クチバシを開いて威勢良く囓った。
ばりぼりと噛み砕いて食べ終えてしまうと、早々に二本目を取り、青臭い匂いを放ちながら食べ続けた。
清美はその様を見つつ、大きなおにぎりと冷たい麦茶の入った水筒を取り出し、少し遅い昼食を摂った。
人でもなければ獣でもない彼が一心不乱にキュウリを囓る様は、いつ見ても微笑ましいと思ってしまう。
タキは、この川に住み着く河童である。タキという名は、清美が彼と初めて出会った場所に由来する。
いつものように山遊びをしていて道に迷い、見知らぬ滝に出た清美は、水を飲もうとして足を滑らせた。
そこにどこからともなくタキが現れ、溺れた清美を助けたばかりか、山の麓まで送り届けてくれたのだ。
その時は清美自身もなぜ助かったのか解らなかったので、何度も山に入り、あの滝を探し出そうとした。
子供の頃からずっと遊んでいる山なのに知らない場所があるのはおかしい、と、妙な好奇心を抱いていた。
だが、やはり滝は見つけられず、またも道に迷っていると、今度はこの川からタキが現れて言ったのだ。
あの滝は現世のものではない、あまり深入りすると山の神に魅入られるぞ、と、低く濁った声で喋った。
清美は河童が現れたことに驚いたが、異形を見ても怯えるどころか喜んで、また来ると言って山を下りた。
そして、翌日に山を登ると、律儀にタキは川縁で待っていた。それから、二人の奇妙な交流が始まった。
351:河童と村娘1 2 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/09 17:34:59 jlfrHoVP
「おいしい?」
おにぎりを食べ終えた清美がタキに声を掛けると、タキはクチバシの周りに付いた破片を舐め取った。
「不味ければ喰わぬ」
「そう、良かった」
「おぬしの村は、山神も気に入っておられるからな。水も土も清らかよ」
タキは十数本目のキュウリを噛み砕くと、喉を鳴らして嚥下した。
「して、今日は何用か」
「泳ぎの練習、しようと思ってさ」
清美が川を示すと、タキは分厚い皮膚を歪めて目元をしかめた。
「ここは上流、流れも速ければ水も凍えている。下流で良かろう」
「ダメだよ、村の方は。男子が占領しちゃってて、練習するどころじゃないよ」
「ならば、追い払えば良かろう」
「それが出来ないから、わざわざタキのところまで来てるんだよ。それに、タキは泳ぎが上手いもん」
「水神であるからな」
「だから、教えて?」
清美が小首を傾げると、タキは二十本目であろうキュウリを囓った。
「ならん。儂の泳ぎと人の泳ぎは違う、教えられるものではない」
「えー、一杯キュウリ貢いだじゃない」
「それとこれとは別だ」
「じゃ、何を貢げばいいの?」
「貢ぐ貢がぬというものでもなかろう」
「神様のくせにケチなんだから」
「その神を言霊で縛った挙げ句、現世と常世の狭間に引き摺り下ろしたおぬしには言われとうない」
「タキの方から出てきたじゃない」
「それは、おぬしを山神に会わせぬためよ。山神の逆鱗に触れることはあってはならん」
「私の相手をしてくれるのも、そのため?」
「おぬしを山神に至らせぬことは村を守ることであり、引いては儂らを守ることとなるからだ」
「…よくわかんない」
清美が眉を下げると、タキはビニール袋を引っ繰り返し、最後のキュウリを取って食べた。
「いずれ解る。おぬしは村の子なのだからな」
「あぁーっ!?」
突然清美が声を上げたので、タキはぎょっとして目を見開いた。
「…何事か」
「なんでキュウリ全部食べちゃうの、私も一本ぐらい食べたかったのにぃー!」
「ならば、先に申せば良い」
「山ほど持ってきたから、ちょっとは余ると思ったんだよ! タキのいやしんぼ!」
「これ、水神に向かってなんという口の利き方か!」
「だって本当のことだもん!」
「ならば選り分けておかぬか! そうしておれば儂も喰わぬというもの!」
「だって、だって、三十本はあったんだよ? 常識で考えてみてよ!」
「人の常は儂には解らぬ」
「あー、逃げたー!」
352:河童と村娘1 3 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/09 17:36:17 jlfrHoVP
清美がむくれると、タキはさすがに罪悪感を覚えたが、囓り掛けのキュウリを噛み砕いて嚥下した。
「面倒な娘よ…」
「山神さまーあっ! 聞いてくださぁーいっ!」
いきなり清美が山に向けて叫び出したので、タキは再び驚いて彼女を制止した。
「これ、止めぬか! 山神の耳に届いたらどうする!」
「…だってぇ」
清美がむくれたまま振り向くと、タキは辟易し、日差しで乾きつつある皿を押さえた。
「解った解った、泳ぎを教えれば良いのだな。頼むから、それ以上山神を刺激せんでくれんか。ただでさえ、
女のおぬしが儂に近付いとることを快く思っておらんのだ。その上で怒らせてみろ、儂もただでは済まぬ」
「わぁい、タキは優しいなぁ」
途端に喜んだ清美がTシャツに手を掛けたので、タキは戸惑った。
「これ、儂の前で脱ぐな! 嫁入り前であろうが!」
「大丈夫だってば、ほら」
清美がTシャツを捲り上げると、紺色のぴったりとした布地が成長途中の腹部を包んでいた。
「すぐに泳げるように、先に水着を着てきたの」
「…全く」
タキはぼやきながら、清美に背を向け、川に身を投じた。皿に水を満たしてから顔を出し、川辺を見やる。
清美はTシャツを脱いで折り畳んでから、ハーフパンツも脱いでその上に重ね、スニーカーに靴下を詰めた。
しなやかな両手両足を伸ばして準備体操を始めた清美を眺めながら、タキは得も言われぬものを感じた。
胸を反らすと膨らみかけの乳房が、背を曲げると汗ばんだ襟足が、足を伸ばすと太股が目を惹き付ける。
河野、との名字が記された名札が胸元に縫い付けられていて、それが訳の解らない感覚を増長させてくる。
スクール水着の紺色は、山の中にはない色だ。増して、そんな色の服を着た娘が立っているから妙なのだ。
だから変な気分になるのだろう、とタキは思い直してから、白いメッシュの水泳帽を被る清美を仰ぎ見た。
日差しの輪郭を帯びた少女の横顔は、瑞々しかった。
夏が訪れようとも、山の水は冷たい。
それは、冬の間に降り積もった大量の雪が溶けて作り出した水だからであり、いつの時代も変わらない。
膜の張った四本指で触れた少女の肌は青白く、体温は内側からじわりと感じられる程度に下がっていた。
体温を水に吸い取られた体を暖めるために清美が焚き火を起こしたので、タキは彼女の背後に座っていた。
水から生まれた神であるタキは、火に近付くことは厳禁だ。下手をすれば、焼き尽くされて死ぬかもしれない。
人智を越えた存在であろうとも、弱点ぐらいある。バスタオルを被った清美はくしゃみをし、大きく身震いした。
清美に流される形で泳ぎを教える羽目になったタキは、清美と共に川に入り、泳ぎを見せることになった。
清美は元々泳ぎは上手い方なのだが、やはり河童には敵わず、タキの滑らかな泳ぎを見て感嘆していた。
手本を見せた後は実習に移り、清美の泳ぎの無駄や甘さを指摘してやると、清美の泳ぎは更に良くなった。
だが、長時間川の水に浸かっていたため、清美の体温は奪われてしまい、顔色もすっかり青ざめてしまった。
なので、清美は水から上がって焚き火を起こしたが、煙が見つかると厄介なのでタキもそれに付き合った。
この川は水神の領域であり、現世とは隔絶された常世の場所だが、何かの弾みで見つかってしまっては困る。
だから、タキは僅かばかり神通力を解放し、煙が木々の上へと流れ出ている空間を歪めて煙を消していた。
「さむぅ…」
「だから言ったではないか、水は凍えておると」
タキが呟くと、清美は紫色の唇を歪めた。
「タキが平気なんだから、平気だと思ったんだよ」
「儂とおぬしは違うものよ。儂はいかなる水にも馴染むが、おぬしはそうではない」
「うぅー…」
353:河童と村娘1 4 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/09 17:37:26 jlfrHoVP
清美は水に濡れて乱れた髪を拭ってから、もう一度くしゃみをし、タキに寄り掛かった。
「冷やっこい」
「だから、儂とおぬしは違うと何度申せば」
「でも、水よりはあったかい気がする」
清美はバスタオルを落とすと、タキのぬるりとした腕にしがみついた。
「ね、あっためてよ」
「無理を申すな」
「映画とか漫画でよくあるじゃない、こういうシチュエーション」
「儂は存ぜぬことよ」
「だからって、何もしないんじゃダメだよ。神様のくせしてさぁ」
「それとこれとは関係がないと思うのだが」
「理屈っぽいなぁ」
「おぬしこそ、いちいち絡むでない。やりづらいではないか」
「なんで?」
清美に上目に見上げられ、タキは口籠もった。
「それは…」
「ねえ、なんで?」
清美は腕を放して身を反転させると、タキの首に日に焼けた細い腕を回してきた。
「なんで?」
じいじいじいじい。ちいちいちいちい。りいりいりいりい。あらゆる生き物の声が、涼やかな囁きに入り交じる。
音は絶えず鼓膜を叩いているのに、静寂が広がる。清美の濡れた鳶色の瞳に、緑色の異形が映り込んでいた。
冷え切った薄い肌からはほんのりと汗が滲み出し、苔と水の匂いが芯まで染み付いた体を音もなく侵してくる。
人の肌は熱い。炎よりは優しく、湯よりは柔らかく、水で成された身を煮溶かすほどの熱は持たないが、熱い。
人と関わりを持つべきではないのに、清美を惑わして村に送り返せない理由は、タキが一番良く理解していた。
体は煮えなくとも、頭は煮えたからだ。その証拠に、ウロコに覆われた指先が清美の青ざめた唇をなぞっていた。
透き通るように白くなっていた頬に僅かに赤みが戻り、水気を帯びた指先が舐められ、生温い唾液が絡んだ。
清美は躊躇いもなくタキの指を口に含むと、川底の藻の切れ端が張り付いた爪までもを丁寧に舐めていった。
薄い水掻きは唇で甘く噛まれ、くすぐったい。タキが目を下げると、太い指を銜える少女の表情は一変していた。
無邪気な眼差しには身の丈に似合わない艶を帯び、愛撫の合間に漏れる吐息は隠微な熱が籠もっていた。
清美が濡れた唇を指先から放すと、とろりとした糸が引いて切れ、唇の端から伝い落ちた唾液が石を叩く。
タキは清美の顎をなぞってやると、清美はタキにしなだれかかり、薄い布を隔てた硬い乳房を押し付けてきた。
「この前よりは、ちょっとは大きくなったんだよ。嬉しい?」
「解らぬ」
「嬉しいくせに」
「…ふん」
タキは川辺の石で肌を傷めないように清美を膝の上に載せると、くるりと反転させ、背後から抱き締めた。
「やだ、顔見ながらしたいのに」
「この前は見るなと申したではないか」
「あれは…うん…」
清美が言葉を濁すと、タキの水滴の残る指がスクール水着に包まれた乳房を撫で回した。
354:河童と村娘1 5 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/09 17:38:21 jlfrHoVP
「大して変わりはせんが」
「そんなことないって、ちゃんと毎日計ってんだから!」
「おぬしの血筋の娘は、それほど大きくならんと決まっておるのだが」
「そんなことない、きっとすぐに大きくなるもん!」
「さあて、どうだかな」
タキの手が手応えの強張った乳房を弱く掴むと、清美は唇を緩めた。
「あ…」
「随分と良い声を出すようになったではないか。最初の頃など、触れただけで痛いと申しておったのに」
「な、慣れてきたから…」
くぅ、と喉の奥で声を殺して清美は太股を閉ざそうとしたが、タキの左手がぬるりと太股を割ってきた。
川の水が浸った布地に粘り気を持った指が触れ、新たな染みを作り、柔らかな肉の窪みをまさぐってきた。
人間のそれに似た爪先が、股間部分の縫い目のすぐ上に位置している肉芽を潰すと、清美は悶えた。
「あ、うぅっ」
「して、今日はどうしてやったものか」
「し、しながら考えないでよぉ…」
清美が弱々しく抗議すると、タキは水掻きを広げて清美の太股を撫でた。
「手間は惜しまぬ質でな」
「そういうの、なんか、困る…」
清美は太股を撫でさする腕に縋るが、今度は乳房を弄んでいた手が襟元からぬめりと滑り込んできた。
潤滑油のように粘液を纏っている水掻きの付いた手は、引っ掛からずに侵入し、乳房を直接握ってきた。
布越しに触られる時とは異なり、タキの手の冷たさが肌に染み入り、その温度だけで小さな乳首が強張る。
目線を下げると、名札が縫い付けられた胸元を押し上げるように蠢く手が見えて、無性に恥ずかしくなった。
自分でも解るほど頬が紅潮してしまい、清美は目を逸らそうとしたが、顔の横にずいっとクチバシが現れた。
「これ、どこを見よる」
「濡れても大丈夫な服だからって、これ見よがしにやらしいことしないでよ!」
清美が精一杯言い返すが、タキはクチバシを開いてずらりと並んだ短い牙を覗かせた。
「この方が、脱がすよりも早かろう」
「穴とか、開けたりしないでよね。プールの授業、まだあるんだから」
「承知の上よ」
タキはクチバシの隙間から厚みのある舌を伸ばし、清美の薄い耳朶を舐め、襟足へと滑り下ろさせた。
出会った当初は色気のないショートカットだったが、時が経つに連れて髪が伸び、今では背中の中程だ。
量は多めだが妙なクセは付いておらず、川の水に長く浸っていたためかタキと同じ匂いが零れ出した。
清美自身の匂いも混じっているが、水の匂いに溶けている。水に馴染む良い娘だ、とタキはつくづく思った。
生け贄として差し出されたら、タキは良い神通力を得るだろうが、受け取るか否かを決めるのは山神だ。
そして、清美は生け贄ではなく、山に棲まう水神と近しくなってしまったというだけの現世の娘なのだ。
だから、名を呼べない。それを内心で悔しく思いながら、タキは硬く張り詰めた男根を体内から押し出した。
異物を尻に感じた清美は、ひゃっと一瞬高い声を出したが、それを怖れるどころか唇を締めて待っている。
性欲よりも羞恥心が勝っているらしく、ねだることはしなかったが、悩ましげな声を喉の奥で堪えていた。
「ん…」
「して、どうする」
「ちょっと、面白いこと思い付いちゃった」
清美はかすかに息を荒げながら、スクール水着の足を通す穴の片方を広げた。
「体は緑なのにコレだけ赤いなんて、不思議だよね」
355:河童と村娘1 6 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/09 17:40:15 jlfrHoVP
清美は少し笑いながら、タキの股間から屹立した赤黒い男根に手を添え、それを水着の中へと導いた。
だが、陰部へは収まらず、スクール水着と肌の間に挟まっただけだった。その上から、清美はさすってくる。
「どう?」
「どう、と問われてもな」
布越しに細い指先の愛撫を感じながら、タキは目元を歪めた。これといって、何が変わるというわけでもない。
タキの答えが不満なのか、清美はちょっとむくれたが、タキの男根を下から上へと撫で上げる手は止めない。
最初に目にした時は戸惑い、怖れていたが、今となっては慣れたもので清美の方から頬張ることすらある。
清美はそれほど手淫が上手いわけではないので、感触として良いのは無論口淫なのだが、文句は言えない。
だが、いくら拙くとも、男根の裏筋を薄い爪で引っ掛かれながら、亀頭を抉られたりすれば反応してしまう。
「…ぐぅ」
「んふふ、感じちゃう? 神様のくせにぃ」
清美はスクール水着にじわりと染み出してきたタキの体液を見、微笑んだ。
「ね、このまま出してみる? タキのアレって、水みたいだから、洗えばすぐに落ちちゃうし」
「だが、それは」
「出してよ、どうせ一回ぐらいじゃ萎れないんだからさぁ」
清美の指が亀頭の穴をぐりぐりと穿ってきたので、タキは仕返しに清美の乳房を両手で握り締めた。
「水神を愚弄するでない」
「うあはぁっ!」
びくんと震えた清美は、成長途中の乳腺を潰される痛みを超えた快感に涙を滲ませた。
「ちょっと、そんなのってない、ぃっ」
「おぬしの儂に対する敬いが足らぬのが元凶だ、責めるなら己を責めよ」
「だ、だって、河童なんだもん。神様だって思おうとしても、河童だからそう思えないんだもん」
「ならば、儂が龍であればおぬしは敬ったのか?」
「…かもしれない」
清美がへらっと笑うと、タキは清美の両の乳首が埋まるほど押し潰した。
「いかなる姿であろうと、神は神だ。姿形で決め付けるべきではない」
「あぁ、あ、あぁああんっ!」
いきなり訪れた強烈な刺激に清美が喉を反らすと、スクール水着と肌の間に挟まれていた男根が動いた。
「相も変わらず、淫蕩な娘よ」
タキの体表面に劣らぬほど濡れていた陰部に男根を突き立てると、清美は仰け反った。
「あ、あふぁああっ」
体の奥まで一気に突き上げられ、高ぶった神経が痺れた。清美の腰に冷たい腕が絡まり、押し込まれる。
タキの腕力と清美自身の体重で更に奥へと至った男根に、清美は舌を出すほど喘ぎながら、言い返した。
「私にこんなことしてきたの、タキの、方じゃないぃ…」
「はて、そうだったか」
タキがはぐらかすと、誤魔化さないでよぉ、と清美が上擦った声で文句を言ってきたが聞かなかったことにした。
両腕が余るほど細い腰を押さえ付ける一方で真下から突き上げると、少女の小さな体など容易く揺さぶられた。
長い髪が乱れて毛先が踊り、上下を繰り返すたびに川面の水音とは懸け離れた生臭く重たい水音が連なる。
清美の熱い体液にタキの冷たい体液が混じり、両者の下に散らばる石の礫に滴り、太股を伝って落ちていく。
胡座を掻いたタキの上で貫かれる清美の体からは、川の水よりも濃い汗が散り、いくつかタキの肌に降ってきた。
356:河童と村娘1 7 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/09 17:42:12 jlfrHoVP
「あぁ、あぁああっ、はあっ、あ、ぁあっ!」
少女らしからぬ甘ったるい嬌声を放ちながら、清美は腰を押さえるタキの腕を掴んできた。
「もう、ダメェ、いやぁっ、タキぃいいいっ!」
「構わぬ、儂も放つところよ」
「やぁ、あああああっ!」
タキの低い囁きの直後に、冷たくも力強い飛沫に体の奥底を叩かれ、清美は一際激しく身を跳ねた。
「あ、あはぁ…」
どろり、と清美の陰部に収まり切れなかったものが溢れ出し、濡れすぎて黒く変色した水着から滴った。
「抜いたら、どれだけ出ちゃうのかな。ふふふ」
脱力した清美はタキに寄り掛かり、薄い胸を上下させた。
「どれほど儂が子種を注ごうと、おぬしは現世のもの。案じずとも、何も孕まぬ」
タキが答えると、清美は不満げに眉を曲げた。
「ちょっとは余韻に浸らせてよ、気持ち良かったんだから」
「あまり無駄話をすると、儂の皿とおぬしの股が乾いてしまうではないか」
タキが清美の体を持ち上げ、くるりと回して向き直らせると、清美は身を捩った。
「それダメェっ、擦れちゃうぅっ!」
「散々鳴いておいて、今更何を申すか」
清美と向かい合ったタキは、達したばかりでも硬さを保っている男根を押し上げ、再び清美を突き上げた。
先程の余韻が抜けていない清美はすぐに応え、鼻に掛かった声を上げるごとに男根を締め付けてきた。
人間と比べると大きすぎるタキの逸物が、年相応に狭い清美の陰部に収まるのは常世だからだろう。
そうでなければ、とっくに清美の陰部は裂けている。だが、清美は純血を失った時以外は苦しまなかった。
もちろん、タキがそうしているからだ。現世の住人であろうとも、常世に引き入れてしまえばどうにでもなる。
清美には常世のものは食べさせていないが、水は飲んでいる。だから、水神であるタキの体が馴染むのだ。
タキに縋って快感にむせび泣く清美は、日差しよりも熱く、水よりも確かで、抗いがたい愛おしさを生む。
だからこそ、常世のものを与えられず、現世に帰してしまうが、その度に後悔と安堵が胸中で渦を巻いた。
帰してしまいたくないが、帰さなければならない。水神が人の温もりを求めるのは、余程世が荒れた時だ。
だが、今はそうではない。人の世は年月と共に発達し、山に棲まう神々に守られずとも暮らせるようになった。
けれど、清美が欲しい。名を呼んで言霊で縛り付け、川辺に棲まわせ、動かぬ時の中で生きていきたい。
しかし、そんな愚行を誰が許そうか。清美やその家族だけでなく、山神や他の者達もタキを蔑むことだろう。
神だからこそ、許されぬこともある。
357:河童と村娘1 8 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/09 17:43:21 jlfrHoVP
いつのまにか、焚き火は消えていた。
水浴びをして身を清めた清美は、水泳とは根本的に違う疲労を全身に感じていたが、嫌ではなかった。
何度となく擦り合ったせいで軽い痛みがある陰部も、足腰のだるさも、家に着く頃には綺麗に消えてしまう。
タキのおかげだろうと解っているし、疲れが残らないことに感謝もしているが、本音を言えば余韻が欲しい。
けれど、そんなことを言うのはせっかく気を遣ってくれるタキに悪いので、結局は何も言わずに帰っている。
夏の日は長く、西日が空に広がる気配はない。だが、風が冷えてきたので、午後五時は過ぎたのだろう。
水と諸々で汚れた水着を脱いで下着を身に付け、服を着た清美は、ぼんやりと木々の隙間の空を眺めていた。
じゃぶ、と水音が響いたので振り返ると、川面から立ち上がったタキが両手に数匹のイワナを抱えていた。
「これで足りるか」
「充分だよ」
清美は立ち上がると、リュックサックからキュウリを入れてきた袋を取り出し、その中にイワナを入れた。
「タキの捕まえてくるイワナ、おいしいから大好き」
「おぬし、また来る気か」
「当たり前だよ」
清美はびちびちと跳ねるイワナをリュックサックに押し込んでから、ファスナーを閉めて背負った。
「だって、私、タキが大好きだから」
じゃあまたね、と手を振りながら獣道を歩き出した清美は、がさがさと草を掻き分けながら進んでいった。
清美の背が草むらに没する様を見送ってから、タキは疲労感と脱力感に襲われ、手近な岩に腰を下ろした。
これで、また一週間は清美に会えないだろう。まだ夏休みが始まっていないから、土日しか休みがないのだ。
平日は農作業の手伝いがあり、勉強もあり、友達付き合いもあり、清美を必要としている者達がいるからだ。
己が山に棲まう神でさえなければ、一緒に山を下りることも出来るだろうが、神事の日でなければ下りられない。
神は人を魅入るが、時として人も神を魅入る。清美が人でなければ、もどかしい思いは抱かなかっただろう。
だが、人でなければ魅入られなかった。神の名とは異なる名を拒まず、清美に縛られたのも、己が望んだからだ。
皿の水を零さぬように跳ねたタキは、太い木の枝に飛び乗り、斜面の下に散らばる集落の家々を見下ろした。
山の麓から村へ下りていく清美の姿を見つめていたが、タキはふいっと顔を背け、冷え切った川へと身を投じた。
山からの吹き降ろしが、木々を寂しく啼かせていた。
358:859 ◆93FwBoL6s.
09/06/09 17:47:10 jlfrHoVP
以上。暑くなってきたので夏っぽい話でもと思いまして。
それと、誤解のないように言っておきますが、自分は売文家ではありません。
ネットの片隅で妄想を書き散らしている、どこにでもいる同人字書きです。
359:名無しさん@ピンキー
09/06/09 18:25:42 WZVjyeoi
そんな事はどうでもいいんだよ
みんな自分が思いたいように思うんだから
おつかれさま
360:名無しさん@ピンキー
09/06/09 18:55:34 grmstFJ0
つーか>>345>>346はいつもの文盲の褒め殺し厨だろうから相手する方がおかしい
他のスレの良職人にも神だプロだとほざいてんの?
いい加減気持ち悪い褒め殺しはいらん
361:名無しさん@ピンキー
09/06/09 19:02:55 QVHJRf2X
>>358
貴重なネタ投下乙。
プロでもアマでもツボな作品が投下されれば神な事には変わりないって事さね。
エロ紳士なカッパさんはもっとイチャイチャしていいんだよ、よ?
362:名無しさん@ピンキー
09/06/09 21:35:21 iKTLPEFx
>>358
売文家は差別用語なんじゃないか?
363:名無しさん@ピンキー
09/06/09 22:56:38 BrrF8/9v
GJ
悶々と葛藤する紳士河童とエロ無邪気な少女イイヨイイヨー
話は変わるが漫画のアップルシードがロボ人ものだと今日初めて知った
364:名無しさん@ピンキー
09/06/09 23:02:15 pWQvqNDa
>>358
乙
タキと河童がキャッキャウフフしてるのを山神様が嫉妬するんですね、わかりまs
365:名無しさん@ピンキー
09/06/10 00:29:00 qeEUsXeS
山神様がオスなのかメスなのか、それとも両方なのか、無性別なのか
それによってまた色々と変わってくる気がしてワクワクが止まらない
366:名無しさん@ピンキー
09/06/10 02:51:50 tW+I6fB+
>>359
>>362
お前何様なん?
367:名無しさん@ピンキー
09/06/10 08:08:17 RFuQR3NJ
>>366
気に障った?
まあ他人がどう思うかなんてこっちでコントロールは出来ないからお好きにどうぞ
368:名無しさん@ピンキー
09/06/10 12:13:48 CqOW2FBh
>>367のレスをよんでたら
折り返し的にトロールという単語があって
某ムーミンが思い浮かんだ
てかトロルとかオーガとか図体でかい奴が森でおにゃのことまったりしてる
とことか頭に浮かんで(ry
369:名無しさん@ピンキー
09/06/10 13:29:08 iazgLhTT
>>368
それこそ「森のくまさん」とかピッタリだぜ!
370:名無しさん@ピンキー
09/06/10 13:32:12 tW+I6fB+
淫乱テディベア?
371:名無しさん@ピンキー
09/06/10 14:11:13 iazgLhTT
それはスレチ
372:859 ◆93FwBoL6s.
09/06/10 17:42:51 /jdMYcYi
引き続き投下。例によって続き物なので。
河童×少女の和姦で、NGは河童と村娘で。
373:河童と村娘2 1 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/10 17:44:27 /jdMYcYi
待ち遠しかった夏休みが、この瞬間から始まった。
清美は教科書や辞書が詰まっている重たい通学カバンをものともせずに、全速力で走っていた。
ツタの絡んだ校門を抜け、擦れ違った同級生達に別れの挨拶をしてから、アスファルトを蹴っていく。
通学カバンのせいで半袖ブラウスの背中は透けるほど汗が染み、膝丈のプリーツスカートが煩わしい。
かかとを履き潰してしまったローファーは走るのに向いていないので、何度か脱げてしまいそうになった。
見たくない通知票も受け取り、煩わしい宿題も渡され、一学期の終業式も終わり、後は家に帰るだけだ。
毎年楽しみな日だったが、今年は格別だ。昼食を食べて着替えたら、すぐにタキのいる川に向かおう。
舗装の良い道路を外れ、青く茂った稲穂が揺れている田んぼの間に伸びたあぜ道に駆けていった。
満遍なく砂利が敷かれているので少々足場は悪いが、山歩きに慣れた清美にはどうということはない。
「おい、清美!」
すると、道路側から名を呼ばれ、清美は仕方なく立ち止まった。
「なーにぃー?」
振り返ると、そこには幼馴染みの耕也が立っていた。
「私、急いでるんだけど」
清美がむっとすると、耕也は大股に歩み寄ってきた。
「お前、最近どこに行ってんだよ。まさか、山ん中じゃないだろうな?」
「どこだっていいじゃん。耕也には関係ないもん」
「良くない。夏場は山ん中に入っちゃいけねぇって言われてるだろ、いつも」
「暑くなると、変な虫とか毒草が増えるからでしょ」
「それもそうだけど、山神様に祟られちまうんだぞ」
「えー、神様なんているわけないじゃん」
「いないかもしれないけど、いるかもしれないだろ。神様なんだから」
耕也は視線を左右に彷徨わせてから、躊躇いがちに清美に向いた。
「遊ぶんだったら、街に出ようぜ。その方が面白いしさ」
「気持ちは嬉しいけど、用事があるから。じゃ、またね!」
清美は耕也に手を振りながら、駆け出した。耕也は引き留めようと手を伸ばしてきたが、届かなかった。
複雑な表情の耕也を目の端で捉えながら、清美は砂利の敷かれた太いあぜ道から細いあぜ道に入った。
何か言いたげだったが、きっとこの前の水泳大会のことだろう。タキのおかげで、清美は耕也に勝てたのだ。
家が近かったため、幼い頃から一緒に過ごしてきた耕也とは、やはり幼い頃から何かと競い合ってきた。
先日の水泳大会もその一つで、運動会の百メートル走で負けてしまった腹いせに必ず勝つと決めていた。
だから、わざわざタキに泳ぎを教えてもらい、耕也に勝てたばかりか水泳大会で優勝までしてしまった。
今日はその賞状も持っていこう。キュウリも一杯持っていこう。言葉だけでは、礼を尽くせる気がしない。
とにかく、一刻も早くタキに会いたい。清美は力一杯走りながら、動悸とは異なる痛みを胸に感じていた。
それが、なんとなく恥ずかしかった。
目の前に突き付けられた紙の向こう側で、清美はだらしなく笑っていた。
上質な長方形の紙には金色の縁取りが印刷され、中心に大きく、総合優勝、との文字が書かれていた。
その下には、村立中学二年一組河野清美、と書き記されていたが、タキにはこの紙の意味が解らなかった。
清美の名が書かれているので、清美が手に入れたものであることは解るのだが、何の紙か知らないのだ。
だから、どんな言葉を返すべきか迷った挙げ句、タキは何も言えずに清美と紙を交互に見比べてしまった。
「なんか言ってよぉ、タキ」
河童からの反応がないため、不満に思った清美が唇を尖らせた。
「すまぬ、だが儂には何のものか解らぬのでな」
374:河童と村娘2 2 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/10 17:45:35 /jdMYcYi
タキが正直に述べると、清美はくるくると賞状を丸めて輪ゴムを掛けた。
「いいもん、褒めてもらいたかったわけじゃないから。見てもらいたかっただけなんだから」
丸めた賞状をリュックサックに突っ込んだ清美は、明らかに拗ねていた。つまり、褒められたかったのだ。
あの賞状は称賛に値することなのだろうが、意味も解らずに褒めるのは良くないのでは、とタキは思った。
だが、何も言わないでおくのはもっと良くない。タキが清美の横顔を見つめていると、強い風が迫ってきた。
ごう、と分厚く力強い空気の波が押し寄せ、木々の枝葉が大きく波打ち、無数の木の葉が舞い上がった。
突然のことに驚いた清美は目を閉じたが、タキは目を見開き、猛烈な風を帯びて空を駆ける者を見据えた。
「天狗か」
「え、どこどこ?」
目元を拭った清美が空を見上げるが、タキは首を横に振った。
「もう遅い、山神の山へと至っておる」
「なんだぁ、それじゃ見えるわけないや」
天狗見たかったなぁ、と清美が頭上を仰ぎ見ていると、雲もないのに太陽が陰り、空気がすうっと冷えた。
二人の頭上に影が落ち、先程の強風とは異なる風が漂った。その風が触れると、ぞわりと肌が粟立った。
その影が音もなく頭上を過ぎると、腹の底から響くほどの震動が起き、そこかしこから野鳥が羽ばたいた。
「ダイダラボッチだ。あやつも山神の元へ向かうようだ」
タキが影の主の名を口にすると、清美は目を凝らした。
「んー…。やっぱり何も見えないや」
「みだりに常世の者が見えては、おぬしの神経が参る。見えぬ方が良かろう」
「でも、ちょっと残念かも」
清美は真上を見上げたまま、ダイダラボッチと思しき影を追って後退ったが、かかとが石に引っ掛かった。
「うひゃあ!?」
裏返った悲鳴の後、派手な水音と共に盛大な水柱が上がり、タキはぎょっとして身を乗り出した。
背中から川の中に落ちた清美は、水面から顔を出すと、げほげほと咳き込んでから濡れた髪を払った。
「あーびっくりしたぁ…」
「それは儂の申すことよ」
タキは川に踏み入ると、全身ずぶぬれの清美を川辺に引っ張り上げた。
「今日は着替え持ってきてなかったのにぃ…」
清美はスニーカーを脱ぎ、ひっくり返すとびしゃびしゃと大量の水が落ちた。
「仕方ない、乾かすか」
滴るほど水を吸ったTシャツを捲り上げた清美は、その手を止めてタキを見やった。
「…見るの?」
「今更、何を隠す」
「そりゃそうだけど、でも、なんか」
清美がTシャツの裾を握って俯くと、タキは眉間を歪めた。
「訳の解らぬことを」
「解らないのはそっちだよ!」
375:河童と村娘2 3 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/10 17:46:57 /jdMYcYi
清美は頬を染めながら言い返したが、濡れた服が貼り付く感触は気色悪く、耐えられそうになかった。
それに、このままではいずれ風邪を引いてしまう。少しばかり迷ったが、結局脱いでしまうことにした。
裾の長いTシャツ、ジーンズのハーフパンツ、スポーツブラ、それと揃いのショーツ、靴下、スニーカー。
それらを大きな岩の表面に貼り付けた清美は、一糸纏わぬ自分に恥じ入りつつ、タキの傍まで戻った。
リュックサックに入っていたフェイスタオルで水気は拭ったが、それでも髪は生乾きで、肌も湿っている。
タキの手で脱がされるのも恥ずかしいが、これはこれで物凄く恥ずかしいので、清美は俯いてしまった。
「すっごくやりにくい…」
「儂にとっては目新しいものではないが」
「それでも恥ずかしいんだってば!」
清美はタキに背を向けたが、水掻きの付いた足が背後に歩み寄り、冷たい腕が体に回された。
「目新しくはないが、見て飽きるものでもない」
「だったら、いいんだけど」
清美は背中に直に感じるタキの重みに鼓動を速め、意味もなく目線を落とした。
「ねえ、タキ」
「何用か」
「山神様って、どんな人なの? あ、人じゃないか」
清美は腰と肩に回されたタキの腕に手を添えて、滑らかなウロコを撫でた。
「毎年毎年、村のお祭りで崇めているけど、どんな神様なのか知らないんだもん」
「山神は、儂や今し方通っていった天狗やダイダラボッチよりも古い神だ」
タキは清美を抱き締めたまま腰を下ろし、胡座を掻いた。
「おぬしの住む村を含めた一帯を治めておられる神で、この地方で最も高き山に棲まわれている。
儂も時節ごとに山神の山に参り、変わりなきことを伝えている。遠き昔は荒ぶる神ではあったが、
今では落ち着かれているので儂としても気が楽だ」
「山神様はヒステリックってこと?」
「噛み砕いた言葉で申せばそうなるやもしれぬが、くれぐれも山神の前では口にせんでくれぬか」
「あ、やっぱり山神様って女の人なんだ。だから、私がタキのところに来るのが面白くないんでしょ?」
「うむ。おぬしの村で伝えられておるように、山神は女だ。故に、怒らせると手が付けられぬ」
「解る解る。うちのお母さんだって、一度怒ると大変だもん。家のこと、なーんにもしなくなっちゃう」
腕の中で清美が小さく笑ったので、タキはクチバシを薄く開いた。
「解っておるのであれば、それで良い。だから、おぬしが関わるのは儂だけにしてくれぬか」
「うん。山神様を怒らせちゃうのは良くないもんね」
清美は頷くと、タキの湿った肌に頬を寄せた。
「あのね、私、タキに御礼がしたいの」
「礼、とな」
「水泳大会で優勝出来たの、タキのおかげだから。だから、賞状見せたんだよ?」
「すまぬ、あれの意味はまだ良く解らぬ」
「あれは、もういいや。だって、私も優勝したことよりもタキに会えた方が嬉しいから」
清美はタキの腕の中で身を捩ると、タキに向き直り、はにかんだ。
「じっとしててね。何もしちゃダメだからね」
「うむ」
376:河童と村娘2 4 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/10 17:48:04 /jdMYcYi
タキは清美を戒めていた腕を緩め、下げた。清美は少し照れくさそうに笑んでから、肌を押し付けてきた。
冷えた肌と暖かな肌が重なり、分厚い胸の上で薄い乳房がぬるりと滑り、清美は熱っぽい息を漏らした。
ウロコに包まれた肌とは違い、頑強な甲羅に手を回した清美は、タキのぬめりを用いて己の肌を滑らせた。
凹凸の少ない体は難なく上下していたが、清美は体を下げて、胡座を掻いた足の間に伏せる形になった。
石に膝を付けては痛かろうと、タキは胡座を解いて清美を両足の上に載せてやってから、両手を放した。
何もするなと言われているのだから、妨げてはいけない。それに、清美から肌を寄せられるのも悪くない。
タキの股間の真上に身を伏せた清美は、乳房と呼ぶには幼すぎるものを寄せようとしたが、無理だった。
自分で乳房を押すと痛むらしく、顔をしかめていたが、すぐに諦めて乳房ではなく胸全体を擦り付けてきた。
タキの肌を覆うぬめりを帯びた清美の胸がぬるぬると股間を這うと、硬く尖った小さな乳首が引っ掛かった。
「んぁ…」
清美は甘ったるい吐息を零すと、タキの男根が収まっている部分に薄い唇を寄せ、音を立てて吸った。
すると、分厚い皮膚の奥に引っ込んでいた男根の先端が飛び出し、清美は赤黒く丸い亀頭を舐めてきた。
同じ水音なのに川の水音に紛れない淫靡な音が放たれ、少女の丸っこい頬に異物による膨らみが出来た。
そんなことを繰り返されると、男根の全体が現れたので、清美は可能な限り口に収めたが全部は入らない。
せいぜい半分程度しか口に入らないので、口からはみ出した部分はやはり濡れた両手で擦り上げてきた。
口と手を使った愛撫がしばらく続くと、男根がびくりと脈打ち、奥から放たれた冷たい液体が喉で弾けた。
男根から顔を上げた清美は、口にたっぷり溜まった精液を嚥下したが、苦みはほとんど感じなかった。
自身の唾液とタキの体液で成された糸が引いたので、拭い、清美は表情の窺いづらい河童を見上げた。
「ね、どうだった? ちょっとは上手くなった?」
「大して変わらぬ」
「えー、頑張ったのにぃ」
清美がむっとすると、タキは身を屈めて手を伸ばし、丸い尻の間に滑り込ませた。
「して、おぬしはどうだ」
「うぁ、ああっ」
太く冷たい指にぐじゅぐじゅと陰部を掻き混ぜられ、清美は身震いした。
「ふむ。儂のものを含んでおるだけで、もう潤っておるのか」
ずぶり、と一息に指を根元まで入れられ、清美は喘いだ。
「あぁ、あ、あっ!」
「どれ、おぬしの児戯に応えてやるとしんぜよう」
一旦指を抜いてから、タキは清美を抱き上げて太股に座らせると、今度は前から陰部に指を差し込んだ。
緑色の指が熱した胎内に飲み込まれると、清美は喘ぎながらタキの首に腕を回し、甲羅を握り締めてきた。
ぐいっと指を曲げると清美は仰け反り、回してやると首を振って喚き散らし、肉芽を抉ると悩ましげに鳴いた。
狭い陰部が大分解れてきたので、もう一本の指も陰部に押し込んでやると、清美の反応は激しさを増した。
「あ、うぁ、あぁあああっ!」
「存分に鳴くが良い。おぬしに奉仕されるより、余程良い礼となる」
「えっちぃ…」
弱々しく呟いた清美に、タキは二本の指を引き抜いた。
「どちらがだ」
「あ…」
陰部から異物が消えたことに気付いた清美が物欲しげにタキを見上げると、タキは清美の腰を持ち上げた。
そして、強張った男根の上に導いてずぶりと奥まで突き立てると、清美は白い喉を反らして掠れた声を零した。
377:河童と村娘2 5 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/10 17:50:03 /jdMYcYi
「あ、あぁ、ぁっ!」
「それほど欲しければ、いくらでもくれてやろう」
「うん、わたしぃ、タキの、だいすきぃっ!」
荒っぽく突かれながら、清美はタキの腰に足を絡み付けた。
「儂の元に至るのはそのためか」
「これだけじゃないけど、でも、ちょっとはあるかもっ」
「何故に」
「だ、だってぇ、すっごくおっきいし、きもちいいからぁっああんっ!」
「つくづく、おぬしは淫蕩だ」
「だってぇ、すきなんだもん…」
清美はとろけた眼差しでタキを見つめ、胸を上下させた。潤んだ鳶色の瞳は、快感と幸福に満ちていた。
これを手元に置けたらどれほど至福か、とタキは僅かに考えたが、胎内にずんと強く男根を打ち込んだ。
清美は髪を振り乱して引きつった声を迸らせ、ぎゅうっと陰部が収縮した後、だらりと細い手足が脱力した。
うわごとのようにタキの名を繰り返し呼ぶ清美を抱き締めて支えてやりながら、その胎内に情欲を放った。
水の如く、混じり合ってしまいたい。
夏の日差しは強烈だ。
事を終えた頃にはTシャツもハーフパンツも下着もスニーカーも靴下も乾いたので、清美は全て身に付けた。
だが、着る前に一度水浴びをして肌を流した。汗はともかく、体を交えた状態のまま帰るわけにはいかない。
人間のそれとは違って、タキの体液には匂いらしい匂いはないのだが、家族に感付かれては後が面倒だ。
Tシャツの襟元から長い髪を引き抜いた清美は、リュックサックの中からコームを取り出し、梳いていった。
幸い、妙なクセは付いてなかったので梳かしただけで元通りになったので、コームをリュックサックに戻した。
「どう? 結構伸びたでしょ?」
清美が毛先を抓んでみせると、川辺でキュウリを囓っていたタキは目を向けた。
「それが何だと申すのだ」
「わっかんないかなぁー、お祭りだよ、お祭り」
清美は毛先を背中に払うと、腰に両手を当てた。
「いとこのお姉ちゃんから浴衣のお下がりをもらったから、それに似合うように伸ばしたの。もちろん、髪は
綺麗に結ってもらうんだ」
「だから、それが何なのだ」
「鈍いんだから。お祭りの時は、タキも神社まで下りてくるんでしょ? 会えなくても良いから、見てもらいたいの」
「浴衣をか?」
「そうだよ!」
むきになった清美が顔を背けたので、タキは目を細めた。
「ならば、存分に拝むとしよう」
「楽しみにしててよね、綺麗になってやるんだから!」
一瞬で機嫌が直った清美は満面の笑みを向けてから、リュックサックを背負い、手を振った。
378:河童と村娘2 6 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/10 17:50:54 /jdMYcYi
「それじゃ、またね」
「うむ」
タキが短く返すと、清美はがさがさと獣道を通り抜け、常世と現世の境界を越えて山を下りていった。
位置は近くとも、世が異なると途端に清美の気配は遠くなり、風に混じる彼女の匂いも薄まってしまった。
タキは清美が残してくれたキュウリを囓りながら、一週間後に控えている村の祭りのことを考えていた。
清美の住んでいる村は、古くから山神を祀っており、その延長線上で水神であるタキのことも祀っている。
目に見えるほど近くとも現世と常世に隔てられている村に下りられるのは、祭りの夜だけと決められている。
山神を始めとした他の神々も、それぞれの村や町の祭りの日だけ、神社の境内に下りては人々と戯れる。
長く生きすぎていたためか、近頃は祭りに面白味を感じなかったが、清美が来るのであれば話は別だった。
得も言われぬざわめきを胸中に覚えながら、タキは無心にキュウリを喰らい、青臭い味を飲み下した。
少年のような格好でも魅力に溢れる清美が着飾ったならどれほどのものか、思い描かずにはいられない。
だが、そんな姿の清美を見てしまえば、どこまで抑えが効くものか。今度こそ、常世に隠すかもしれない。
祭りが楽しみである反面、恐ろしくもあった。
379:859 ◆93FwBoL6s.
09/06/10 17:55:19 /jdMYcYi
以上。ちなみに、河童のチンコは亀のそれを参考にしています。
380:名無しさん@ピンキー
09/06/10 18:03:45 3skejzRj
>>369
森のくまさんいいよな!
紳士的なくまさんと、おしゃまな女の子萌え
ただ森のくまさんを聞くと萌えと同時に、
熊さんの足音がトコトコと可愛い音なのに対して
女の子はスタコラサッサッサとおっさんのような足音なので全然可愛くない、逆にすべきだ。
という漫才のネタを思い出してしまう罠
>>368
幼女萌えがいけるならパンダコパンダもオススメ
381:名無しさん@ピンキー
09/06/10 18:31:03 tW+I6fB+
GJGJGJ!!!!!!!!!!
382:名無しさん@ピンキー
09/06/11 04:40:47 qymK/W1f
>>367 態度でかくね?職人だぞ?
>>372 お疲れ様です!いつもありがとう
383:859 ◆93FwBoL6s.
09/06/11 17:52:04 itPo8Y/y
引き続き投下。お祭りの話です。
河童×少女の和姦で、NGは河童と村娘で。
384:河童と村娘3 1 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/11 17:52:47 itPo8Y/y
雄々しい太鼓に、繊細な笛が重なる。
神社の鳥居を挟むように設置されている灯籠からは、ろうそくの暖かな光が零れ出していた。
いつもは静まっている神社も今日ばかりは騒がしく、村の内外から訪れた人々で賑わっていた。
本殿に繋がる石畳の両脇には縁日の屋台が軒を連ね、香ばしい匂いや甘い匂いが流れていた。
慣れない下駄を鳴らしながら石段を登った清美は、人々の間を擦り抜けて本殿前へと向かった。
はしゃぐ子供達を避け、早くも出来上がった大人達を横目に見つつ、人垣の後ろから背伸びをした。
どぉん、どぉん、と太鼓が打ち鳴らされると、手にした扇子を掲げて足を踏み鳴らし、見得を切る。
巫女が笛の音に負けぬほど艶やかに扇子を下げると、神官が神楽鈴を涼やかに鳴らし始めた。
縁日の周りでは騒いでいた子供達も雰囲気に飲まれたのか、面を被った巫女の舞を凝視していた。
巫女として舞っている人物が同じ集落に住む顔見知りの女性だと知っているのに、見入ってしまう。
面は醜女である山神の顔を現したものだそうだが、こればかりは毎年見ていても慣れなかった。
両目はぎょろりと見開かれていて今にも飛び出しそうで、口は歪められ、太い牙が剥き出されている。
面に植え付けられている髪もざんばらで、年季が入っているせいで面の色もどす黒く、恐ろしい顔だ。
ツノが生えていないことを不思議に思うほどの形相だが、清美はいつになく神妙にその面を見つめた。
確かに、あんな顔の主を怒らせたら大変なことになりそうだ。だから、タキの言い付けは守らなければ。
奉納の舞が終わると、ぱらぱらと拍手が上がったので清美も手を打ち鳴らし、巫女の舞を賛辞した。
巫女や神官、雅楽を行っていた者達が本殿の中に戻っていくと、観客達も自然にばらけていった。
清美もその場を離れ、縁日でも見ようかと思っていると、いきなり後ろから肩を叩かれて心底驚いた。
「うおっ!?」
振り返ると、そこには清美以上に驚いた顔の耕也がいた。
「そんなに驚くことねぇだろ」
「あ、ああ、ごめんごめん」
清美は取り繕うために笑みを浮かべて耕也に向き直ったが、タキだったら良かったのに、と思った。
せっかく綺麗に着飾ってきたのに、出会ったのが幼馴染みが相手では見せる価値が半減してしまう。
いとこのお下がりである浴衣は紫地にあじさい柄の大人びたもので、親から新しく下駄も買ってもらった。
この日のために伸ばした髪もアップにしてまとめ、普段は付けないアクセサリーも着けてきたのである。
化粧もしてみようかと思ったが、一度もしたことがないので上手く出来るわけがないので今回は断念した。
耕也は清美を上から下まで眺め回していたが、清美はその意外そうな顔にむっとして眉を吊り上げた。
「何よその顔は」
「化けたもんだなぁって思ってさ」
「うわひっどい。普通に褒めたらどうなの?」
タキだったら、まだ嬉しかったのに。清美がむくれると、耕也は慌てて謝ってきた。
「悪い悪い、そんなつもりじゃなかったんだ。つか、どう言えばいいのか解らなかったっつーか」
「ふうん」
清美が一切信じていない目で耕也を見返すと、耕也はますます弱った。
「だから、悪かったっつってんだろ。なんか奢ってやるから、それで許してくれよ」
「かき氷食べたい」
清美が即答すると、耕也は安堵し、肩の力を緩めた。
「だったら行こうぜ、氷がなくなっちまう前にさ」
「あ、ちょっと!」
途端に元気になった耕也に手を引っ張られ、清美はつんのめったが、下駄は引っ掛からずに済んだ。
買ったばかりの下駄の鼻緒が切れたら困るのに、と清美は耕也の背を睨み付けたが、表情を緩めた。
毎日のように接しているから気付かなかったが、いつのまにか耕也の身長は清美を追い越していた。
手首を握る手の力も強く、背中も広い。浮かれ切った表情は幼かったが、横顔は大人になりつつあった。
ああ、男の子なんだな、と訳もなく感じ入った。
385:河童と村娘3 2 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/11 17:55:03 itPo8Y/y
現世と常世の境を薄らがせる音色が、山を満たしていた。
木々の間を擦り抜け、川に沿いながら斜面を下りたタキは、神社を囲む鎮守の杜に踏み入っていった。
普段過ごしている森の中とは空気が変わり、現世の者達の生温い息吹が常世の冷たさに混じっていた。
濡れた土に水掻きの付いた足跡を連ねながら、息を潜めてひたひたと歩き、御神木の足元に近付いた。
古びた注連縄を巻かれた巨木を見上げてから、太い枝に目を付け、両膝を曲げて跳躍して飛び移った。
その際に枝葉が揺れ、境内を行き交う人間の数人が振り向いたが、誰もタキに焦点を合わせなかった。
枝葉が揺れた様は見えても、タキの姿が見えるほど勘の鋭い者はいないらしい、と知るとほっとした。
見えてしまう人間も困るだろうが、常世に住む者としてもみだりに姿が見えてしまってはやりづらいからだ。
枝の上から身を乗り出し、清美の姿を探した。いつもと服装が違うので、いつになく入念に視線を巡らす。
常世に接しているとはいえ、神社の中は現世だ。タキの神通力も勘も、常世にいる時に比べれば鈍い。
清美の匂いも他の人々の匂いに混ざって溶けてしまい、見つけづらかったが、ようやく彼女の姿を捉えた。
清美は紫地にあじさい柄の浴衣に黒の帯を締め、髪も華やかに結い、きらきら光る髪飾りも付けている。
石垣に座ってかき氷を食べているが、その傍らには、タキも何度か見たことのある少年が腰掛けていた。
退屈凌ぎに川を伝って村の中に下りた際に、清美や他の子供と遊んでいた快活な少年、田所耕也だった。
ぎゅう、と瞳孔が収縮する。腹の奥底から冷たい体を煮やしかねないほどのものが、ごぶりと沸き上がる。
耕也と言葉を交わす清美は笑っているが、擦れ違う同級生達に冷やかされたのか、むきになって言い返した。
だが、耕也はまんざらでもないのか、にやにやしている。清美は耕也にも文句を言うが、頬は赤らんでいた。
タキに見せている表情とは違う表情の数々に、はらわたを煮立たせるものが熱を増し、皿にまで至りそうだ。
「清滝之水神や」
すう、とタキの背後から、面を被った顔が現れた。
「あれが、妾の山を穢す娘かえ」
「…おぬしは」
タキが振り返ると、タキの立つ枝と同じ高さの枝に、祭りに訪れた者達と同じく浴衣を着た女が立っていた。
渋い草色の浴衣に朱色の帯を締めた若い女だが、顔は目の隙間だけが空いた白い面に覆い隠されていた。
見た目は普通の人間と変わらないが、彼女を取り巻く空気はずしりと重たく、存在自体が威圧感を伴っていた。
それが、山神だった。タキが山神と清美のどちらに目を向けるか僅かに迷うと、山神は音もなく袖を上げた。
草色の袖から伸びてきた細く白い指を、タキの濡れた首筋にそっと添えると、面で隠した顔を突き出してきた。
「妾とそなたは長い付き合いじゃからのう、堪忍しておったのじゃ。そなたがおらぬようになれば、妾の力も
半減してしまうからのう。じゃから、妾はあの娘が山に立ち入ることも、そなたに接することも許しておった
のじゃ。じゃが、あの娘が妬ましゅうて疎ましゅうて憎らしゅうて、妾はもう堪えきれぬのじゃ」
ぐい、とクチバシを持ち上げられ、タキは面の奥で歪められた山神の目を正視した。
「じゃが、妾も幼子ではない。荒れるのはそなたじゃ、清滝」
「…だが、儂は」
清美や村の者達を苦しめたくはない、とタキが続けようとすると、クチバシごと首を捻られた。
「ほうれ、見てみい。あの娘はそなたと通じておる身でありながら、人間と通じようとしておるのだぞ。
どうじゃ、憎かろう、妬ましかろう、苦しかろう」
山神は女の口調でありながら、男のように低い声を発した。