09/05/30 17:54:11 1oAPUh/R
>>276
外見通りの凶悪な性格をしたロボが、惚れた相手だけは傷つけまいとそっと触れたり
普段は誇りに思っている自分の装甲や武器をその時だけ疎んじてたら萌える
280:名無しさん@ピンキー
09/05/31 01:51:12 HwfUjtVj
MS×人を妄想したことがあるのは自分だけではあるまい
SDガンダムでも可
281:名無しさん@ピンキー
09/05/31 01:57:21 xk3fUYtR
>>279
「ちっ…簡単に傷つきやがって――面倒くせぇ」
とかいって腕の装甲(体の一部で無理に外すと損傷する)を乱暴に外して女の子にうろたえられるんですね、わかります
282:名無しさん@ピンキー
09/05/31 05:12:24 eu88F7vc
>>277
そういや、ここが比較的メカや虫が多いのは
獣だと該当スレが豊富だからだろうか
283:名無しさん@ピンキー
09/05/31 08:39:34 AKF36iaB
別に虫・メカ多くないと思うが・・・
たぶん傾向偏ってるとしたら数少ない書き手の趣味の方向性が偏ってるだけじゃ?
ケモジャンルってホモ多いし男性向けでガチ人外っての自体ジャンルでも少数派な気が
まあ男性向けだとケモ耳程度が多い・それなら他スレに分散するってのは確かかもだが・・・
284:名無しさん@ピンキー
09/06/01 12:36:52 k1JiUxn7
獣となると被ってるスレ多いしな
仕方ないことなんだけど
285:名無しさん@ピンキー
09/06/01 16:21:19 Jdtk8Q3j
獣人はわざわざ自分が書かなくてもてのはあるな
このスレだと雑談で出てくるネタが幅広くて思わぬ萌えを貰う時があるし、
それを自分ならどういう話にするか、大喜利みたいな楽しみもある
286:859 ◆93FwBoL6s.
09/06/01 17:30:09 sjwXRTpA
久々に投下。どのSSにも萌えさせて頂きました。
懲りずに人外アパートですが、今度はヤンマでもアビゲイルでもなくシオカラです。
女性×昆虫人間の和姦です。NGはOLとシオカラトンボで。
287:OLとシオカラトンボ1 1 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/01 17:31:12 sjwXRTpA
世界中のカップルは死ねばいいのに。
そうすれば、少しは気が晴れるというものだ。憎しみで人が殺せたら、と言う言葉が頭から離れない。
普段は気にも留めない光景がいちいち癪に障り、八つ当たりしたくなるが辛うじて理性で押さえ込んだ。
夜に移り変わった街を行き交う雑踏の一部になりながら、ほづみは顔を強張らせて大股に歩いていた。
そうでもしなければ、腹の中で煮え滾っている苛立ちが噴出して、誰彼構わず当たり散らしそうだったからだ。
あんな女のどこが良い。顔は化粧で塗り固められ、相手を選んで媚を売り、口を開けば悪口しか言わない
ような女なのに、女子社員全体からの評判も悪いというのに、なぜあんな女に寝取られなければならない。
浮気をした挙げ句に易々と乗り換えたのだからその程度の男なのだ、と思おうとしても、悔しくてたまらない。
ほづみとその男は、社内恋愛だった。よくある話で、飲み会で打ち解けたことを切っ掛けに交際を始めた。
ほづみも彼のことは前々から素敵だと思っていたし、趣味も合い、気も合い、将来のことも考え始めていた。
彼自身も結婚話を仄めかしていたし、このまま行けば、と思っていた矢先に浮気されて捨てられてしまった。
しかも、その相手は、入社直後から手当たり次第に男を食い散らかしていることで知られる女子社員だった。
今日、社員食堂で浮気相手を伴った彼から別れ話を持ちかけられた瞬間、怒るよりも先に呆れてしまった。
ドラマのように彼とその女に水を掛けることも出来ず、文句を言うことも出来ず、気力すらも失ってしまった。
それでも午後の仕事はいつも通りにこなし、同僚には明るく振る舞ったが、一人になると怒りが沸いてきた。
だが、その鬱憤をぶつける相手もいなければ物もないので、ほづみは苛立ちに煽られて歩調を早めていた。
人通りの多い駅前商店街を抜け、なるべく明るい道を選びながら歩いていると、緑地公園に差し掛かった。
街灯の黄色い光に映し出された公園には、数ヶ月前に突如として灰と化した木々の残骸が降り積もっていた。
一見すればただの灰にしか見えないが、魔力由来の毒性があるとの話で、片付けようにも片付けられないらしい。
立ち入り禁止を示す黄色いテープが貼られ、灰の飛散を防ぐためにスプリンクラーが水を吐きながら回っていた。
だが、そんなことはどうでもいい。今はとにかく早々に家に帰って、酒でも喰らって不貞寝したい気分だった。
緑地公園から目を外したほづみが歩き出そうとすると、前方から振動音を伴った影がふらふらと飛んできた。
びいいいいん、と独特の音を発しながら街灯に近付いてきた物体は、頭から街灯に衝突し、無様に落下した。
「あいだあっ!?」
素っ頓狂な声を上げた物体は、強かに打ち付けた部分を三本の爪で押さえ、長い腹部を反らした。
「あーもう、マジ最悪…。つか、日没マジヤベェ、方向感覚マジダメだし…」
若者言葉でぐちぐちと文句を零している物体は、よくよく見てみると、最近頻繁見かける水色のトンボ人間だった。
彼はほづみの住まう安普請極まりないアパートの住人と友人なのか、週末に訪れては夕方頃に帰っていくのだ。
彼よりも体格が立派で派手な外見のトンボ人間と、ケンカのようなじゃれ合いをしている様子も時折見かけていた。
だから、面識はなかったが知っていた。ほづみは彼を眺めていると、視線に気付いたのか、こちらに振り向いた。
「あの、なんすか?」
「君、今いくつよ?」
「高二っすけど、それがどうかしたんすか? つか、お姉さん、俺っちになんか用っすか?」
「高二か…」
昆虫人間は外見で年齢が計れないから一応尋ねてみたが、それなら充分イケる。
「あんた、私とヤってみない?」
ほづみが躊躇いもなく言い切ると、トンボ人間は数秒間硬直し、そしてぎちぎちと顎を軋ませた。
288:OLとシオカラトンボ1 2 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/01 17:32:38 sjwXRTpA
「え、てか、なんすか、つか、それってアレっすか!?」
「それ以外に何があるってのよ。んで、するの、しないの、どっちなの?」
「つか、マジヤバくないっすか、てか、そんなん有り得るわけ?」
「大丈夫よ、人間と虫じゃ交尾しても孕まないから。どっちも後腐れなくていいでしょ」
「いや、てか、それって…」
ぎちぎちぎちと顎を鳴らしながら、トンボ人間は大きな複眼が付いた首を捻った。
「あー、でもなー、てか、そういうの、つかマジヤベェし…」
「するかしないかどっちかを答えりゃいいのよ、あんたは」
「えー…」
トンボ人間はぐりぐりと頭を捻っていたが、複眼にほづみを映した。
「ぶっちゃけ、したい、ってーか、俺っちマジ童貞だし、つかお姉さんならマジイケるし」
「そう、だったら一緒に来なさい。私の部屋に」
「へあ!?」
驚いて顎を全開にしたトンボ人間に、ほづみはにじり寄った。
「何よ」
「てか、これ、なんかの罠っすか何なんすか! 俺っち、お姉さんに喰われるんじゃないっすか?」
「そうよ。これから私があんたを喰うのよ」
ほづみはトンボ人間の上右足を掴んで引っ張り起こし、引き摺るようにして歩き出した。
「てか、お姉さん、どこの誰なんすか? まずはそれから教えてもらいたいっす、つかマジで」
ほづみに引っ張られるまま歩くトンボ人間は、上体を曲げてほづみの横に顔を出した。
「あ、俺っち、シオカラっすシオカラ」
「ああ、そうなの。私は後で教えてあげるわ」
口ではそう言ったものの、教える気など更々ない。ほづみは、シオカラと深い関係になるつもりは毛頭ない。
アパートの二階に住んでいる高校生の少女や大学生の青年のように、人間以外を愛する嗜好はないからだ。
少女の相手はシオカラと同じトンボ人間だから生き物だからまだ解るが、大学生の青年の相手は全身鎧だ。
理解出来るわけもなく、するつもりもない。だから、シオカラを部屋に連れ込むのも、気晴らしをするためだ。
それ以外の理由もなければ意味もない。
289:OLとシオカラトンボ1 3 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/01 17:33:55 sjwXRTpA
部屋に引っ張り込むと、シオカラは途端に大人しくなった。
雑然とした六畳間の居間に正座し、四枚の透き通った羽をしゅんと下げ、顎を鳴らすどころか開きもしない。
それというのも、この部屋の真上に住んでいるのは、シオカラの先輩であり兄貴分であるヤンマだからである。
シオカラは、つい今し方真上の部屋から出てきたばかりであり、天井からヤンマと茜の会話が漏れ聞こえてきた。
そして、斜め上からは大学生の青年、祐介とその恋人であるリビングメイルのアビゲイルの甘い会話が聞こえる。
シオカラはヤンマだけでなくその隣人達とも親交が深く、特にアビゲイルには世話になりっぱなしなのだという。
だから、そんな相手にこんなことを知られてはまずい、と小声で言い終えたきり、シオカラは黙り込んでしまった。
シャワーで軽く汗を流したほづみは、空きっ腹にビールを流し込みながら、正座するシオカラを睨み付けていた。
確かにこのアパートは壁が薄く、二階から異種族カップルの睦み事と思しき声が聞こえることは決して少なくない。
だから、別にこちらが音を立てても構わないどころか、せっかくだからやり返してやるべきだとほづみは思っていた。
だが、シオカラはとてもじゃないがそうは思えないらしく、昆虫標本のように硬直したまま、微動だにしなかった。
「根性なし」
ビールを飲み干したほづみが言い捨てると、シオカラはびくっとした。
「いや、その、だって、兄貴がいるんすよ!? ヤンマの兄貴が! てか、マジヤバすぎてパネェっすよ!」
「それぐらいことで、童貞捨てるチャンスをフイにするわけ?」
「そりゃ、マジそうなんすけど…」
「じゃ、私があんたを好きにするわ。でも、出すモノは出してよね」
ほづみはビールの空き缶をテーブルに置いてから、寝間着にしているTシャツを捲り、一息で脱ぎ捨てた。
うお、とシオカラは後退りかけたが踏み止まり、触覚を動かして興味深げにほづみの上半身を凝視していた。
シャワーを浴びる際にブラジャーは外したので、かすかに水気を帯びた柔らかな乳房が露わになっていた。
一気に脱がないと変な照れが生まれるので、ほづみはハーフパンツごと下着も脱ぎ、Tシャツの傍に投げた。
「あんたってさ、人間にも欲情出来る質?」
シオカラの前に屈んだほづみが問うと、シオカラは声を裏返した。
「ま、まあそうっすね! てかマジイケるっすよ!」
「じゃ、あんたのチンコはどこ? 私、虫のがどこにあるかなんて知らないのよ」
「ああ、それならこっちに」
シオカラが長い腹部を曲げてほづみの前に出すと、ほづみはその腹部を掴み、先端を突いた。
「だったら、すぐに出しなさいよ」
「いや、すぐに出せって言われても、つか俺っち、出したことあるようなないような…」
「ふうん」
面倒だが、これはこれで面白いかもしれない。ほづみはぺろりと唇を舐め、シオカラの硬い顎に触れた。
「キスからしてみる?」
「あ…はい」
290:OLとシオカラトンボ1 4 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/01 17:36:31 sjwXRTpA
シオカラは戸惑いながらも頷き、ぎち、と顎を開いた。ほづみはシオカラの顎の中を見、少しだけ畏怖した。
人間の頭など、簡単に噛み砕けてしまいそうだ。歯は一本も生えていないが、その代わりに顎の縁が鋭い。
奥に引っ込められている細長い舌は、ほづみを探るように恐る恐る伸びてきたので、ほづみはそれを銜えた。
ほづみはシオカラの舌に自身の舌を絡めながら、唇で柔らかく噛み、吸い付き、人のそれのように扱った。
何をどうすれば欲情してくれるのか解らないが、何もしないよりは良いだろうと、ほづみはシオカラを愛撫した。
ちゅぷん、とほづみの口から細長い舌を引き抜くと、シオカラはにゅるりと顎の中に舌を戻し、触覚を揺らした。
ほづみは唇から顎に伝った互いの唾液を手の甲でぬぐってから、触覚を忙しなく揺らすシオカラを見上げた。
「んで、どうよ?」
「えーと…」
シオカラはぎこちなく顔を上げ、細長い腹部の先を挙げてみせると、太い針のような生殖器官が露出していた。
「言うまでもない、っつーか、てか俺っち反応良すぎってーか…」
「あら、結構立派ね。でも、ちょっと濡らした方がいいかもね。このまま突っ込んだら痛いわ、私が」
ほづみは身を屈めてシオカラの生殖器官に顔を寄せると、落ちてきた髪を掻き上げてから、銜え込んだ。
だが、全部口に入るわけがなかった。外骨格なので最初から強張っていて、唾液とは違う体液の味がする。
これもまた感じる部分が解らないし、人間ほど潤っていないので、ほづみは丹念に生殖器官を舐め回した。
溜めた唾液を先端に落として濡らしてから、唾液を広げるために舌で下から上に舐め上げ、穴を指で探る。
生殖器官の根元にある分厚い膜に覆われた筋肉にも、唇を当てて吸い付き、感じるかどうか試してみた。
「う、くぉ」
シオカラは低く呻き、ぎちりと顎を擦り合わせた。
「なあに、感じるの?」
ほづみがにやけると、シオカラは触覚を立てた。
「感じる、っていうか、なんかこう、ぞわぞわっと変な具合に…」
「それが感じるってことよ。本当に童貞なのね、あんたは」
「じゃ、じゃあ、お姉さんの方はどうなんすか?」
「面識のない男子高校生を連れ込んで銜え込もうとしている女が処女に見える?」
「いえ、全く」
「だから、何も気にすることはないのよ。あんたは、私に乗っかられてりゃいいのよ」
ほづみは唾液で濡らした指を陰部に差し込み、自分の具合を確かめてから、シオカラの長い腹部に跨った。
挿入しやすいように広げた陰部に先端をあてがい、体重を掛けて徐々に腰を下ろすと、胎内に押し入ってきた。
「あ…すご…」
人間のものとは違った異物感にほづみは身震いし、シオカラの肩を掴んだ。
「く…あ、あぁぁ…」
291:OLとシオカラトンボ1 5 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/01 17:37:44 sjwXRTpA
いきなり奥深くに至ってしまい、ほづみは背筋を這い上がる痺れを感じ、シオカラの肩を掴む手に力が入った。
彼氏だった男に浮気されてからというもの、体を持て余していたからだろう、呆気なく昇り詰めてしまいそうだ。
だが、すぐに終わってしまうのは勿体ない気がして、ほづみはシオカラの頭を抱き寄せてゆるゆると腰を回した。
「お、おお?」
複眼を二つの乳房に覆い尽くされ、シオカラは妙に嬉しくなった。虫とは異なる匂いが、短い触覚をくすぐった。
ヤンマの恋人でありシオカラも幼馴染みである茜の匂いとも、クラスメイトの真夜の匂いとも違い、濃密だった。
二人の匂いは未成熟な青さが垣間見える匂いだが、ほづみの匂いはどこをどう捉えても強い、女の匂いだった。
汗を流したばかりの肌には新たな汗が滲み始めていて、ほづみが腰を振るたびに外骨格に擦り付けられていく。
「あ、はぁ、あぁ、あぁっ」
ほづみの下半身から聞こえる粘ついた異音に、熱い吐息混じりの喘ぎが重なる。
「悪く、ないわねっ、虫っ、てのも!」
一心不乱に腰を揺すりながら、ほづみはシオカラの頭部を胸元から外し、見下ろした。
「ねえっ、あんた、私のこと、どう思うっ?」
「ど、どうって、そりゃ…」
シオカラは目の前で揺れるたわわな乳房と腰を締め付けてくる太股を凝視し、言い切った。
「マジエロくてパネェっす!」
「あ、そっ、でも、まあ、いいわっ!」
ほづみはじゅぶりと腰を深く下げ、シオカラの外骨格を思い切り握り締めた。
「あ、あ、ああああぁっ!」
腰を揺する間に高まっていた快感が膨れ上がり、ほづみは仰け反り、自身の陰部が収縮するのを感じた。
「ぁ…はあ…」
達した余韻を味わいながら、ほづみは乱れた髪を掻き上げ、荒い呼吸を整えた。
「どうする? もう一回ぐらいヤる?」
「マジそうしたいっすけど、でも、もう時間が…」
門限が、と小声で付け加えたシオカラに、ほづみは変な顔をした。
292:OLとシオカラトンボ1 6 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/01 17:39:21 sjwXRTpA
「あんたはオスでしょうが」
「俺っちもマジそう思うし、親にも意見したんすけど…」
「ま、いいわ」
んぅっ、と声を漏らしながらシオカラの生殖器官を引き抜いたほづみは、下着を拾って身に付けた。
「私も気が済んだし、もう帰っていいわよ」
「え、あ、はあ」
シオカラが腰を浮かせかけると、ほづみはティッシュ箱を押し付けた。
「でも、その前にちゃんと拭いてから行きなさいよね。結構溜まってたみたいで、だらだら出ちゃったから」
「あー…そう、っすね」
シオカラはティッシュ箱を受け取ると、数枚抜き取り、生殖器官とその周辺の外骨格を拭った。
「うわーすげぇ…。マジぬるんぬるんだし」
「みなまで言わないでよ」
急に恥ずかしくなったほづみはTシャツを被ってハーフパンツを履き、肌を隠した。
「すんません」
平謝りしたシオカラは、ゴミが溢れ出しそうなゴミ箱にティッシュを押し込んでから、立ち上がった。
「じゃあ、俺っちはこれで帰らせて頂くっす」
ほづみの前を抜けて玄関に入ったシオカラは、古びたドアに爪を掛けたが、ほづみに振り返った。
「あ、そうだ。お姉さんの名前、まだ聞いてなかったっすよね。なんて言うんすか?」
シオカラの藍色の複眼に見据えられ、ほづみは言葉に詰まった。一度限りだから、言うつもりなどない。
それ以前に、深い関係になりたい相手ではない。けれど、ここで言わなければ、シオカラは動かないだろう。
長々とこの部屋にいられては面倒だ、と思ったほづみは、シオカラを見上げて出来る限り素っ気なく名乗った。
「ほづみよ。稲田ほづみ」
「男名前っすね」
「だから何よ、文句ある?」
「いえ、全く。格好良くてお似合いっすよ、お姉さん」
シオカラは玄関のドアを開けて外に出ると、一礼した。
「あざーっした!」
293:OLとシオカラトンボ1 7 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/01 17:40:26 sjwXRTpA
そして、シオカラは羽ばたいて飛び去ろうとしたが、完全に日が暮れているのでふらふらと左右に揺れていた。
先程のように街灯や民家などの光源に惑いそうになるが、なんとか姿勢を元に戻し、夜空に吸い込まれていった。
あんな状態で本当に家に帰れるのだろうか、とほづみは若干不安になりつつ、玄関のドアを閉めて鍵を掛けた。
狭い居間には、事後の湿っぽい空気が充満していた。窓を開けて空気を入れ換えながら、冷蔵庫を開けた。
胃に入れるためのレトルト食品を取り出し、暖めながら、ほづみは二本目のビールを取り出して開け、傾けた。
一戦交えたおかげで気が晴れた。結婚出来そうだった男を奪われた苛立ちも、振られた悔しさも落ち着いた。
シオカラは学生でほづみは社会人だから、顔を合わせる機会も少ないだろうから気まずい思いもしないはずだ。
「ケー番、聞いておけば良かったかな」
喉を濡らす苦みと刺激を味わいながら、ほづみは呟いたが、すぐに聞かないままで良かったのだと思い直した。
そんなことをしたら、シオカラに甘えてしまう。特定の相手がいない寂しさを、高校生などで紛らわすべきではない。
しかも、シオカラは昆虫人間なのだ。自分は至ってまともな性癖だ、とほづみは自分に言い聞かせながらビールを煽った。
他人の性癖を否定する気は全くないが、自分もそっちの世界の仲間入りをしてしまうのは好ましくないと強く思った。
だから、これは今夜だけの出来事だ。人間よりも太く、堅く、奥まで至り、久々だったから気持ち良かったのは確かだが。
嫌なことが続きすぎて、かなり自棄になっていた。だから、シオカラを捕まえて誘い、自分から跨ってしまったのだ。
そうでもなければ、あんなことはしない。今になって自分に嫌気が差したが、気を逸らすためにビールを飲み干した。
いつもより、苦い気がした。
294:859 ◆93FwBoL6s.
09/06/01 17:46:33 sjwXRTpA
以上。今度は人間だけがアパートに住んでいます。
295:名無しさん@ピンキー
09/06/01 18:20:21 gCaR0CUJ
>>286
乙。859氏がまた戻ってきてくれてうれしいよ。コンゴトモヨロシク
296:名無しさん@ピンキー
09/06/01 18:50:06 +HaF741T
乙!ほづみタンマジエロい!
859氏のキャラはいつもイキイキしてて魅力的だ。書き手の技量あるもんな!
やっぱあんた神だ!!
297:名無しさん@ピンキー
09/06/01 19:21:22 R+S6sbzb
おおおおおおお!!!満を持して ネ申 降 臨 !!!!!
いつもエロをありがとう!今後ともよろしく!!!!!!!!!!
ラレ呼ばわりとかされて大変だろうけど頑張って!!!!!!!!
298:名無しさん@ピンキー
09/06/01 23:07:59 urZ4Txki
あの~…
余り神神連呼しない方が…
確かに面白かったからGJではあるが。
過度な神連呼はやめたほうが…
299:名無しさん@ピンキー
09/06/02 00:12:28 UObPjARl
>>294
ニートの俺はインフルとGENOの嵐の中全裸であんたを待ってた
相変わらずGJだ
シオカラ童貞卒業オメ
300:名無しさん@ピンキー
09/06/02 07:15:55 CCS8Vw4h
>>294
乙!そしてGJ!
シオカラおめでとう!
人外アパート好きだ
301:名無しさん@ピンキー
09/06/02 11:31:24 owqEvCJ+
むしろシオカラがかわいい
302:859 ◆93FwBoL6s.
09/06/02 15:51:40 pJsV4uyq
連投になってしまいますが、引き続き投下。シオカラの話の続きです。
昆虫人間×女性の青姦。NGはOLとシオカラトンボで。
エロまでの導入が長すぎて申し訳ない。
303:OLとシオカラトンボ2 1 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/02 15:52:28 pJsV4uyq
あれは現実の出来事だったのだろうか。
何度思い返してみても、夢だとしか思えない。だが、現実でなければこんなにも考え込まないだろう。
綺麗なお姉さんに声を掛けられて連れ込まれて無理矢理、というのは童貞なら一度は考える妄想だ。
実際、シオカラ自身もそれらしいことを考えたことは少なくなかったが、もちろん口に出したことはなかった。
誰しもが一度は考える妄想だが、だからこそ、そんな出来事の当事者になってしまったことが信じられない。
週が明け、高校に登校しても、シオカラの単純な思考はあの夢のような出来事に支配されたままだった。
あの日の夜、空の暗さと街灯の眩しさでくらくらしながら帰宅すると、両親から門限を過ぎたことを怒られた。
シオカラは適当なことを言ってその場を凌ぎ、夕食を詰め込んで自室に籠もり、あの出来事を思い返した。
長い腹部の外骨格には、拭き取りきれなかったほづみの体液が付着していて、それが何よりの証拠だった。
だが、それでもやはり馬鹿げた妄想が具現化したとしか思えず、悶々としたまま週が明けて月曜日になった。
そして、登校して授業を受けたが、いつも以上に気が逸れて身が入らず、ノートはいずれも真っ白だった。
「しーちゃーん、お昼食べよー」
机とクラスメイトの間を擦り抜けながら、弁当箱の入った巾着をぶら下げた茜が駆け寄ってきた。
「しーちゃん?」
「あ、ああ、はいっす」
シオカラは考え込んでいたせいで反応が遅れ、間を置いて茜に振り向いた。
「どうしたのよ、朝からずっとぼんやりしちゃって」
茜と共にシオカラに近付いてきた真夜も、やはり弁当箱を携えていた。
「どこか具合でも悪いの、しーちゃん?」
少し心配げな茜に、シオカラは触覚を立てた。
「いいいやいやいや、そうじゃないっすマジ平気っすから!」
「そお? 無理っぽかったら早退した方がいいよ?」
茜はシオカラを覗き込んできたので、シオカラは通学カバンを開けて弁当箱を引っ張り出した。
「いやいやマジ平気っすから、マジでマジで」
「だったら、悩み事でもあるの?」
今度は真夜が迫ってきたので、シオカラは身を引いた。
「まっ、まぁさかぁっ!」
あんなこと、言えるわけがない。シオカラがぎちぎちと顎を鳴らしていると、真夜はにんまりした。
「じゃ、占ってあげようか?」
「へあ」
304:OLとシオカラトンボ2 2 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/02 15:53:32 pJsV4uyq
シオカラがきょとんとすると、真夜はシオカラの机の上に弁当箱を置き、ポケットからカードの束を取り出した。
「オーソドックスに大アルカナでいいわね。大丈夫よ、金は取らないし、時間も手間も掛からないから」
真夜はタロットカードを手早く切って混ぜると、それを両手の間に浮かばせた。
「ほら、どれか一枚抜いて」
二十二枚のタロットカードは等間隔に浮いているが、仕掛けは一切なく、真夜の魔力だけで浮かばせていた。
真夜は未熟ながら魔女としての素質を持っているので、素人目に見れば超常現象としか思えないことが出来る。
魔法のことは全く解らないシオカラや茜にとっては、彼女が何をしても凄く思えるし、今でも凄いと思ってしまう。
「あ、じゃあ、これっすかね」
シオカラは真正面に浮かぶタロットカードを爪で挟んで抜くと、真夜は両手の間にタロットカードの束を戻した。
シオカラはタロットカードを裏返し、絵柄を見た。だが、上下逆さまになっていたので、シオカラは首を捻って絵柄を見た。
中央に輪が描かれていて、その周囲を四人の天使が囲んでおり、Wheel of Fortune、とのキャプションがあった。
「逆位置の運命の輪ね」
真夜はその絵柄を見てから、シオカラに言った。
「情勢の急激な悪化、アクシデントの到来、って意味があるわ。心当たり、ある?」
真夜に問われ、シオカラは乾いた笑いを零した。
「ふへへへへ…」
大いにある、ありすぎる。だが、言えるわけがない。シオカラは真夜の手に、タロットカードを戻した。
「当たってるっちゃ当たってるっすけど…」
「そう、だったら良かった。でも、占いは所詮占いだから、過信しすぎないでね」
真夜はカードの束をポケットに戻し、弁当箱を手にした。
「じゃ、裏庭に行きましょ。早くしないと、良い場所取られちゃう」
「うん、そうだね。真夜ちゃん、今日もアーサーさんがお弁当を作ってくれたの?」
茜がにやけると、真夜は気恥ずかしげに目線を彷徨わせた。
305:OLとシオカラトンボ2 3 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/02 15:54:02 pJsV4uyq
「そうよ。アビーさんに色々と教えてもらってから、妙に張り切っちゃって、お弁当だけじゃなくて朝も夜も
作ってくれるのよ。助かるし、結構おいしいし、正直嬉しいけど…」
「あー、いいなぁー。ヤンマなんて、洗濯と掃除はするけど、料理は全然ダメなんだもん。不器用だから」
行こうしーちゃん、と茜に急かされ、シオカラはぎちりと顎を噛み合わせてから弁当箱を爪に引っ掛けた。
茜と真夜の惚気を聞き流しながら、二人と連れ立って歩き、昼休みの常駐場所である裏庭へと向かった。
茜と同居している恋人は、シオカラの幼馴染みであり兄貴分として一方的に慕っているトンボ人間、ヤンマだ。
ヤンマは種族の本能で縄張り意識が強く、ケンカも強いが、茜にはだらしないほど甘く、でれでれである。
その反面、シオカラに対してはひどく辛辣で、意味もなくアイアンクローを喰らわされることも少なくなかった。
それでも、シオカラはヤンマが好きだ。強いし、トンボの目から見ても格好良いし、なんだかんだで優しいからだ。
そして、真夜が実質的に同棲している相手は、かつては聖騎士として活躍したリビングメイル、アーサーだ。
同じリビングメイルだが、アビゲイルとは少々異なる経緯でリビングメイルと化し、真夜のキスで目覚めたのだ。
アビゲイルと一悶着あったが、その後はお互いに仲良くなり、今ではアビゲイルやその恋人の祐介とも友人だ。
アーサーは中世生まれの聖騎士故に気取った言動を取り、気障な言い回しを好む男だが、うっかりしている。
道に迷ってしまったり、電車の乗り継ぎを間違えてしまったり、買い出しに出かけて肝心なものを忘れたり、と。
聖剣エクスカリバーを携えた金色の全身鎧が、日常レベルの些細な失敗を繰り返している様は微笑ましい。
ここまで失敗を繰り返してしまうと、本人も失敗しないことを諦めていて、今ではすっかり開き直ってしまった。
裏庭に向かいながら、シオカラは先程引いたタロットカードの意味と、ほづみのことを重ねて考えていた。
情勢の急激な悪化。アクシデントの到来。それは、シオカラではなく、ほづみに対して起きたことではないのか。
今日の夜にでも、あの緑地公園で帰宅するほづみを待ち伏せて、誠心誠意謝らなくては気が済まない。
軽率な行動を取ったシオカラにも、責任の一端があるのだから。
一日は、こんなに長いものか。
忙しなく働いていても、無意識に先週末までは彼氏だった同僚に気を向けてしまう自分に腹が立った。
同僚の男はこれ見よがしに新しい女とべたべたしていて、気を向けるまいとしてもつい目に入ってしまった。
一度だけ二人と目が合ったが、どちらもほづみを嘲笑っていたようにしか見えなくて、尚更腹が立ってしまった。
だが、突っかかるのは子供っぽいし、今更同僚の男と寄りを戻す気もないし、奪い取るほどの価値などない。
それなのに、苛々して気が狂いそうだ。涙が出れば少しは楽かもしれないが、意地がそれを阻んでいた。
予定があると言って残業を切り上げ、退社して電車に乗り、家路を辿りながら、ほづみは足元を見つめていた。
本当に予定があれば苛立ちも紛れたかもしれないが、何もない。だからこそ、どうでもいいことで悩んでしまう。
いい加減に振り切りたいのに、どうしても振り切れなくて考えてしまって、そんな自分にますます苛立ってくる。
友人に愚痴を零せたら楽になれるかもしれないが、こういう時に限って友人達の予定は空いていなかった。
緑地公園に差し掛かると、ほづみは足を止めた。先週末のように、シオカラがいることを期待してしまった。
だが、いるはずもない。第一、トンボは夜行性ではないし、あれはほづみが強引に誘ってしまっただけなのだ。
彼からしてみれば、とんでもなく非常識な女に過ぎず、普通の神経なら二度と顔を合わせたくないと思うだろう。
「…ばっかじゃないの」
自嘲したほづみは、緑地公園から顔を背けた。
「おねえさほごあぁっ!?」
唐突に公園の敷地内から奇声が聞こえ、ほづみはぎょっとして振り向いた。
306:OLとシオカラトンボ2 4 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/02 15:54:46 pJsV4uyq
「…え」
「マジ痛ぇー、てかやっぱり夜はマジヤバいし…」
声の主を辿ると、緑地公園の敷地内で、見覚えのあるトンボ人間が倒れ伏していた。
「あんた、大丈夫?」
敷地内に入ったほづみがシオカラに歩み寄ると、シオカラは複眼をさすりながら身を起こした。
「まー、なんとか…。暗くてマジ足元見えねー…」
「ていうか、なんであんたがここにいるのよ? 家の方向、違うでしょ?」
「なんてーか、ケジメっつーか、そういうやつっす」
シオカラはぎちぎちと顎を鳴らしながら立ち上がると、ほづみに頭を下げた。
「この間はマジすんませんっしたぁ!」
「…何が?」
「つか、あのことは、俺っちもマジ悪かったっすから」
「悪いのは私、あんたは完全な被害者よ」
ほづみがシオカラを見上げると、シオカラは捲し立ててきた。
「いやいやいや、俺っちの意志がマジ弱かったからっす! てか、断れば良かったんす! あれからずっと考えて
みたんすけど、やっぱ、ああいうのマジダメっすね! いや、嬉しかったっすけど! でも、ほら、なんつーか、こう!」
「何が言いたいのよ」
「えーと…なんだっけ」
シオカラは口調を弱め、首を捻ったので、ほづみはなんだか可笑しくなった。
「言いたいことをまとめてから話しかけなさいよ」
「すんません」
シオカラは不甲斐なくなり、四枚の羽を下げた。
「つか、マジ俺っちってダメっすね」
「いいわよ、本当にあんたは悪くないんだし」
ほづみは必死になりすぎて空回りするシオカラを見ていると、張り詰めていた気が少し緩んだ。
「悪いのは私なんだから。あんたには何の関係もないのに、苛々して、八つ当たりしたかっただけなのよ。だから、
この前のことは全部忘れて。今、私と会ったことも綺麗さっぱり忘れて、最初から何もなかったことにしなさい」
「へ?」
シオカラがきょとんとして顎を開いたので、ほづみは身を翻した。
「だから、あんたもさっさと家に帰りなさい。また門限に遅れちゃうわよ」
「でも、あの…」
「何よ」
「つか、お姉さん、なんでそんなに苛々してんすか? そんなに嫌なことでもあったんすか?」
「大人になると、色々あるのよ」
「俺っち、マジ役に立たないっすけど、でも、なんか出来ることないっすか?」
「別に」
307:OLとシオカラトンボ2 5 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/02 15:55:35 pJsV4uyq
これ以上、無関係なシオカラに甘えてどうする。ほづみが目を伏せると、シオカラは言葉を続けた。
「でも、なんか、お姉さん、マジ辛そうなんす! てか、なんかこう、マジヤバげっつーかで!」
「…あんたに何が解るってのよ!」
その言葉が嬉しいと思ってしまった自分にこの上なく苛立ち、ほづみはシオカラに喚いた。
「初めてちゃんと結婚したいって思えた相手だったから、だから仕事も恋も精一杯頑張ろうって思ったのに、
それなのに、なんであんなクズ女に全部壊されなきゃいけないの!? どうして浮気されなきゃならないの!?
私が何か悪いことしたの!? それとも、あっちが本命で私が遊びだったっての!? 冗談じゃないわよ!」
ほづみは大股に歩いてシオカラに詰め寄ると、怒りに任せてその外骨格に拳を叩き付けた。
「あんたなんて、何の代わりにもなりゃしないのよ! そりゃ、あの時は気が紛れたけど、あんたなんかじゃダメ!
虫だし、ガキだし、馬鹿だし! とっとと家に帰りなさいよ! これ以上私に殴られないうちにね!」
声が嗄れるほど張り上げたほづみは、肩で息をしながら、目元から次々に溢れ出してくる熱い体液に気付いた。
喚き散らして、感情が高ぶりすぎたからだろう。目元を拭いかけたが、マスカラが取れてしまうと踏み止まった。
シオカラの外骨格は予想以上に強固で、ほづみの拳では傷も付かず、ほづみの右腕の方がひどく痺れていた。
ほづみは泣いていることを知られたくなくて、顔を伏せたまま拳を下げると、シオカラはきちきちきちと顎を擦らせた。
「俺っちで良かったら、殴っても構わないっすよ。俺っちは痛くないし、てか、兄貴のアイアンクローの方が痛いっすから」
「変な気を遣わないでよ」
「昼間だったら、ぱーっと空でも飛び回るんすけどねー」
「…それはちょっと楽しそうかも」
ほづみが小声で呟くと、シオカラは笑った。
「あ、じゃあ、昼間にでも」
「馬鹿じゃないの」
「へ?」
シオカラが首を傾げたので、ほづみは涙に潤んだ目でシオカラを見上げた。
「だから、私はあんたにそこまでされる理由がないのよ、理由が。ちったぁ被害者らしくしなさいよ」
「らしく、って、言われてもなぁ…」
シオカラはきりきりと顎を浅く擦っていたが、ほづみを見下ろした。
「やっぱマジ無理っす、すんません。てか、ぶっちゃけ、お姉さんのこと、マジ放っておけないっす」
「あんたの友達と同じアパートに住んでるかもしれないけど、私とあんたは他人でしょうが」
「でも、こんなに長話したんすから、他人じゃないんじゃないっすか?」
「屁理屈こねないでよ」
出来る限り強く言い返したが、ほづみはまた涙が滲み出してきた。今すぐに、縋り付いて泣いてしまいたい。
堪えてきたことを全てぶちまけて、慰めてもらいたい。支えてもらいたい。けれど、シオカラは年下で他人なのだ。
友人や恋人ならまだしも、強引に交わっただけの相手だ。そこまでしてしまうのは、ほづみのプライドが許さない。
だが、一度涙が出てしまうと、抑えが効かなくなっていたのか、ほづみは化粧が落ちるのも構わずに泣き出した。
ほづみの異変に気付いたシオカラは、慌ててほづみに駆け寄って、どうしたんすか、としきりに声を掛けてきた。
その優しさが嬉しいのに、声が詰まって言葉にならないほづみは、シオカラに肩を支えられながら泣きじゃくった。
情けなかったが、止められなかった。
308:OLとシオカラトンボ2 6 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/02 15:56:44 pJsV4uyq
腕時計を見ると、小一時間過ぎていた。
ほづみはシオカラが買ってきてくれたレモンティーで嗄れた喉を潤しながら、年下に甘えた事実に恥じ入った。
どれだけ化粧が崩れたのか知るのが怖いので、手鏡を取り出すこともなく、ほづみはレモンティーを流し込んだ。
ほづみの隣に座るシオカラも、一緒に買ってきた缶ジュースを飲んでいるが、こちらは昆虫人間用のものだった。
シオカラが街灯がダメだと言うことはほづみも理解していたので、二人は敢えて街灯のないベンチに座っていた。
彼の水色の外骨格には、ほづみが流したマスカラ混じりの涙が何滴も散らばっていて、黒い染みを作っていた。
「ごめん」
ほづみが謝ると、シオカラは空き缶を顎から外し、振り向いた。
「なんでお姉さんが謝るんすか?」
「だって…」
ほづみが言葉を濁すと、シオカラは空き缶をくしゃりと爪で握り潰した。
「けど、これでスッキリしたんじゃないっすか?」
「まあね」
ほづみは三分の一程度中身が残った缶を回し、たぽんと揺らした。
「この前も今日も、迷惑掛けちゃってごめん。だから、本当に私のことは」
「忘れられるわけないじゃないっすか!」
ほづみの言葉を遮り、シオカラは強く言った。
「てか、あんな初体験させられて、忘れろって方がマジ無理っすから!」
「そうかもしれないけど、でも」
「えっと、んで、良かったら、なんすけど」
シオカラは急に語気を弱めると、ほづみを見つめてきた。
「俺っち、また、お姉さんちに行ってもいいっすよ?」
「またヤりたいの?」
ほづみが少し笑うと、シオカラは慌てふためいた。
「いやいやいやいや! てか、そういうんじゃなくて、えっと、兄貴と茜んちでもあるっすから、てか、話し相手とか
マジそういうレベルでいいっすから! ていうか、マジサーセン!」
「じゃ、ヤらなくてもいいんだ」
ほづみが唇の端を持ち上げると、シオカラはしどろもどろになった。
「てか、それは、うぅ…」
「したいならしたいって言いなさいよ、高校生」
「そうホイホイ言えたら苦労しないっすよ、誰も…」
シオカラが触覚を下げたので、ほづみはその表情の窺いづらい横顔を見、込み上がってくる笑いを堪えた。
先週末に体を交えた時は、虫なのに、と思っていたが、今は彼が昆虫人間であることが気にならなくなっていた。
感情豊かで人間と遜色がないどころか、可愛げがある。口調と態度は軽いが、真面目で優しい少年なのだろう。
それを知ってしまうと、尚更迷惑を掛けたことが心苦しくなった。ほづみは少し迷ったが、声色を落として言った。
「…いいわよ」
「へ」
309:OLとシオカラトンボ2 7 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/02 15:57:33 pJsV4uyq
「どうせ、ここなら誰にも見られないし、見えないだろうし。けど、手っ取り早く終わらせなさいよね」
「え、て、てか、それは」
「前のは八つ当たりだけど、今度のは御礼だから」
ほづみは飲みかけのレモンティーをベンチに置くと、シオカラの肩に手を触れた。
「えと、マジ、いいんすか?」
シオカラが触覚を揺らしたので、ほづみは照れ隠しに目を逸らした。
「いいから言ってんじゃないのよ」
シワになったり、トンボの鋭い爪で切り裂かれてしまっては困るので、ジャケットを脱いでバッグに被せた。
シオカラは若干躊躇っていたようだが、ぎぢっと顎を擦り合わせてから、ブラウス姿のほづみに近付いてきた。
「んじゃ、また、よろしくお願いするっす」
「こちらこそ」
ほづみはシオカラの大きな複眼が付いた頭部に触れ、少しだけ腰を浮かせると、頑強な顎に顔を寄せた。
シオカラは顎を開いて舌を出し、ぬるりとほづみの唇を舐めると、少し冷たい舌先を隙間に滑り込ませてきた。
ほづみは顎を緩めてシオカラの舌を受け入れると、その舌を甘噛みし、痛みを与えない程度に吸ってやった。
やはりまだ慣れていないのか、シオカラはびくりとしたが、舌を引き抜かずにほづみにされるがままになった。
ほづみの口中で、自身の生温い唾液とシオカラの冷ややかな唾液が混じり合い、唇の端から一筋溢れた。
顎を伝った粘ついた雫は、ブラウスの襟元に染みた。ほづみが彼の舌を解放すると、シオカラは顎を閉じた。
「なんか、いきなり凄いっすね」
「手っ取り早く、って言ったでしょうが」
ほづみがシオカラの長い腹部に手を伸ばそうとすると、シオカラはほづみを押し止めた。
「あの、お姉さん」
「あんたのは濡れないんだから、濡らしておかないと」
「今日は、俺っちがお姉さんを触ってもいいっすか?」
緊張で声を裏返しながらも、シオカラが言い切った。微笑ましいと思ったほづみは、手を下げた。
「いいわよ。でも、傷は付けないでよね。ブラウスにも、私の肌にも」
「りょ、了解っす」
シオカラは大きく頷き、ほづみのブラウスに爪を掛けたが、爪先ではなかなか上手くボタンが外れない。
手伝おうとしたが、シオカラがあまりにも一生懸命なので、結局は何もせずに危なっかしい手付きを見守った。
ボタンの上半分を外すだけでも時間が掛かってしまったので、全部脱がすことはせずに、上を大きく広げた。
ブラジャーに包まれた大きい乳房と肩が露出すると、シオカラは上右足の爪を伸ばし、柔らかく握った。
むにゅり、と頼りない感触が爪に伝わり、薄い肌と脂肪が食い込んできて、簡単に切り裂けそうだった。
出来るだけ傷を与えないように爪を横たえ、力を抜いて握ると、爪の間から飛び出た乳首が尖り始めた。
それを爪の背で潰すと、ほづみが零していた吐息が変化し、鼻に掛かった喘ぎが混じるようになった。
「ここ、弱いんすか?」
シオカラが問うと、ほづみは羞恥を滲ませた。
「当たり前、でしょ」
310:OLとシオカラトンボ2 8 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/02 15:58:41 pJsV4uyq
白く滑らかな肌に傷跡を残さないように気を遣いつつも、シオカラは彼女の大きな乳房を弄んだ。
服を着ているとあまり大きくは見えないが、脱がしてしまうと、茜よりも真夜よりも大きいのだと解った。
乳房を持ち上げると爪全体に重みが訪れ、落とすとたぷんと揺れ、触っていない方の乳首も尖ってきた。
空いている中左足で同じように触れると、ほづみの零す喘ぎが高まり、シオカラの上両足を掴んできた。
「ん、ふぁ…ぁ、うぁ…」
場所が場所だけに懸命に声を殺すほづみに、シオカラは顎を開いて首筋に顔を埋めた。
「お姉さん、なんか匂いが変わったっすよ」
「や、何言ってんの…。そんなの、解るわけ、ないじゃない」
「虫っすから、解るんすよ。なんつーか、マジエロい匂いっす」
「馬鹿ぁっ」
ほづみはシオカラを押し返そうとするが、力では到底勝てず、シオカラは伸ばした舌を首筋に絡めた。
「マジ良い匂いっす、てか、マジヤバいし」
「んぁあっ」
肌の薄い首筋をぬるりと這った舌の感触に、ほづみは堪えきれなかった声を漏らした。
「下も、触っていいっすよね? てか、こっちの方が匂いが凄いっす」
シオカラの爪がタイトスカートの下に入り、ストッキングに覆われた下着の上から触ってきた。
「く…ぅ、ぁ…はぁ…あ…」
拙いながらも刺激の強い愛撫と野外という状況に煽られていたためか、自分でも解るほどに潤っていた。
シオカラの硬い爪が充血した肉芽を押し込み、ほづみは思わず声を上げかけたが、唇を噛んで押し殺した。
「んふ、あぁ…」
びぢびぢっ、とタイトスカートの中から異音が聞こえ、シオカラの爪先がストッキングを破いたのだと知った。
下着のクロッチも横にずらされ、熱く湿った陰部を外気が舐め、背筋が逆立ちそうなほどの感覚に襲われた。
触らなくても解るほど、出来上がっている。ほづみはシオカラの肩に縋り、呼吸を整えてから、小さく呟いた。
「入れて」
「言われなくても、入れるっすよ。てか、マジ限界っす」
すんません、と付け加えながら、腰を浮かせて長い腹部を前に出したシオカラは、生殖器官を押し出した。
それを一息にほづみの陰部に突き立ててやると、ほづみは噛み締めていた唇を緩めて、悩ましく喘いだ。
「あ、あぁっ」
ぐじゅり、と粘ついた水音が上がり、破れたストッキングを湿らせた。
「じゃ、じゃあ、動くっすからね」
311:OLとシオカラトンボ2 9 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/02 16:02:35 pJsV4uyq
ほづみを抱き寄せて膝の上に載せたシオカラは、前回のほづみの痴態を思い出しながら腹部を動かした。
昆虫人間に比べれば熱い胎内から彼女の体温が染み入り、高揚を誘い、肌に喰らい付いてしまいたくなる。
生殖器官を伝って滴る愛液から立ち上る女の匂いが触覚を刺激し、押し当てられた大きな乳房が潰れている。
そのどれもが扇情を促し、シオカラは辺りの暗さのせいでよく見えない複眼をほづみの乱れた髪に当てた。
訳もなく、彼女を愛おしいと思ってしまった。一回りは年上で、先日まで面識もなかった相手だというのに。
確かに美人で、肉感的で、スタイルも良くて、セックスの相手としては申し分ないが、飛躍しすぎではないか。
大体、シオカラはほづみの感情の捌け口として選ばれただけであり、それ以上でもそれ以下でもないのだから。
ほづみの恋人でもないのに、何を考えているんだ。けれど、一度感じた感情はそう簡単には振り切れなかった。
一際強く奥に押し込み、ぐんと生殖器官で最深部を突き上げると、ほづみはシオカラに縋る手に力を込めた。
いつのまにかシオカラの腰に絡み付いていたしなやかな足が痙攣し、ほづみはシオカラの肩に顔を埋めた。
「やっぱり、あんた、良いわ…」
はあ、と達した余韻を抜くようにため息を吐いたほづみは、足を解いて腰を上げ、ずちゅりと陰部から引き抜いた。
「でも、これでもう終わり。これ以上、あんたのこと、利用したくないもの」
「あ、じゃあ、こうしたらどうっすか?」
シオカラは乱れた髪を直すほづみを見つつ、提案した。ダメ元だが、言わないよりはマシだ。
「今度、デートしないっすか?」
「何よそれ」
「や、だから、付き合えばいいと思うんすよ。そしたら、何度ヤッても問題ないっつーかで」
「そうねぇ…」
ほづみは飲みかけのレモンティーを呷ってから、返した。
「いいわ、考えておいてあげる。だから、あんたのアドレス、教えて」
「あ…はいっす」
シオカラはほづみの好意的な答えに驚いたが、携帯電話を取り出した。
「んでは、赤外線通信で」
ほづみもバッグから携帯電話を取り出し、シオカラの携帯電話に向けて、送信されてきたアドレスを受信した。
アドレス帳に登録されたことを確認してから、携帯電話を閉じたほづみは、少し休んだ後にシオカラと別れた。
再会した時は劇的だったが、別れは特別な言葉など交わさず、火照りの残る体でアパートを目指して歩いた。
こんなことをして、良かったのか。体を許したのも、単純に寂しさをシオカラで埋めたかっただけではないか。
泣き付いて、誘って、挙げ句にアドレスまで手に入れた。深みに填るまいと思ったのに、ずるずると沈んでいく。
自分が辛いからと言って、他人に甘えるにしても程がある。だが、一人ではない安心感には勝てそうにない。
この分だと、デートもしてしまうだろう。
312:859 ◆93FwBoL6s.
09/06/02 16:04:31 pJsV4uyq
以上。最初に書き忘れましたが、もちろん人外アパートです。
アパート住まいではないのであまり表には出ませんが、アーサーと真夜も相変わらずラブラブです。
313:名無しさん@ピンキー
09/06/03 03:09:27 gI60casu
動画でスマンのだが・・・
URLリンク(video.xnxx.com)
音楽といいコルセットといい、ファンタジーっぽかったので。
狼×おにゃのこでした。
314:名無しさん@ピンキー
09/06/03 07:19:54 I4BdmFNm
>>312
乙GJ!
シオカラ可愛いよシオカラ
315:名無しさん@ピンキー
09/06/03 12:48:49 Pfb490ss
>>302
GJ過ぎる!!
二人とも可愛すぎるぜ。デート編も宜しくお願いしますw
316:859 ◆93FwBoL6s.
09/06/04 17:40:24 7iwvMtC9
引き続き人外アパートで、ほづみとシオカラがデートに行く話です。
昆虫人間×女性の和姦。NGはOLとシオカラトンボで。
317:OLとシオカラトンボ3 1 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/04 17:41:12 7iwvMtC9
思わず、耳を疑った。
まさか、こいつの胸郭からそんな言葉が発声されるとは。ヤンマは心底驚きながら、背後に振り向いた。
シオカラはいつものようにへらへらと笑っていて、ヤンマが殴り倒した五匹の羽アリ人間を片付けていた。
街の上空を飛び回っていたヤンマに絡んできた連中で、路地裏に連れ込んで十秒と立たずに倒したのだ。
そして、事を終えたヤンマが飛び去ろうとすると、どこからともなくシオカラが現れた、というわけである。
シオカラが家族ごと上京して以降、シオカラは何はなくともヤンマを追いかけてきてはまとわりついている。
地元時代は中学高校と後輩でもあったので、会う機会は多かったが、ぞんざいにあしらってばかりいた。
だが、ヤンマが高校を卒業し、シオカラが茜と同じ高校に転校してからは、馴れ馴れしさが増長してきた。
正直鬱陶しいが、茜以外でそこまで慕ってくれるのはシオカラぐらいなものなので、はねつけられずにいた。
駅前の大通りから外れた裏路地の、更に奥まった袋小路の中で、ヤンマは黒い爪を振って汚れを払った。
そして、再度シオカラに振り返ると、シオカラは人間で言うところの笑みを見せるかのように顎を広げていた。
「…でえと?」
ヤンマがシオカラの言葉を反芻すると、シオカラは透き通った羽を細かく揺らした。
「そうっすそうなんす、俺っち、デートするんすよ! つか、マジヤバくないっすかパネェっすよね!?」
「ああ、そうだな。ヤバすぎてどうしようもねぇや」
ヤンマは羽アリ人間を小突き、昏倒していることを確かめてから、薄汚れた壁に背を預けた。
「相手は虫か、獣か、それとも人か?」
「人間っすけど!」
「じゃ、尚更ヤバいじゃねぇかよ。お前なんかがデートなんて、百年早ぇ」
ヤンマは爪に張り付いた羽アリ人間の体液を刮げ取り、足元に投げ捨てた。
「んで、俺にその話を聞かせてどうしろってんだよ」
「解り切った話じゃないっすか、兄貴! つか、兄貴は茜をどこに連れていくっすか!?」
シオカラに詰め寄られたので、ヤンマは下右足を上げてシオカラを阻んだ。
「そんなもん、自分の脳みそで考えろ!」
「考えても解らなかったから聞いてんじゃないっすかあ、兄貴ぃ!」
「だっ、大体、俺のなんて参考にするんじゃねぇよ!」
シオカラを蹴り倒したヤンマは、長い腹部を反らした。
「茜は良い奴だから、俺があいつをどこに連れて行こうが基本的には喜んでくれるが、俺に気を遣ってんだよ!
後から聞いたら、楽しんでたのは俺だけだって場所も多かったし、ていうか俺はああいうのは苦手なんだよ!
で、でも、たまにはそれらしいことしねぇと彼氏の立場がねぇし、茜が喜ぶ顔も見たい、っていうか何言ってんだ!」
うぁ゛ー、と頭を抱えたヤンマは、自分で言った言葉に恥じ入った。ヘタレぶりを暴露してどうする。
「ていうか、俺よりも当てになりそうなのがいるだろうが。まずはそっちに聞けよ」
「心当たりは聞いてみたんすよ、マジでマジで」
砂埃を外骨格に付けながら起き上がったシオカラは、ヤンマを見上げた。
318:OLとシオカラトンボ3 2 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/04 17:42:03 7iwvMtC9
「最初に祐介兄さんに聞いてみたんすけど、あっちも兄貴と似たようなリアクションっつーか、むしろ兄貴より
根が深い感じがしたっす。ほら、アビーさんってあれじゃないっすか、ヨロイ。だから、普通の女性が喜ぶような
場所に連れて行こうと思っても、色々と引っ掛かっちゃうじゃないっすか。服が着られないだとか化粧が出来ない
だとか、モノが食べられないだとか、まあ色々と。祐介兄さんはマジ悩みしてたっぽくて、最後の方は俺っちが
愚痴を聞かされちゃったっす。マジ長かったっす」
確かに、祐介はその手の苦労が多そうだ。隣人の青年の苦悩を思い、ヤンマは嘆息した。
「あいつも大変だなぁ…。てぇことは、アーサーの野郎にも聞いてみたのか?」
シオカラはヤンマに近付き、頷いた。
「もちろんっすよ、真夜の旦那っすから。でも、アーサーの旦那の方が役に立たなかったっすねー、マジで。
てか、あの人は真夜に連れて行ってもらう立場っすから。マジ過去の人間っすから、現代のことなんてまるで
解らないっすからね。だから、結局は真夜の惚気を聞かされただけっす。マジでマジで」
「つくづく役に立たねぇなー、俺ら…」
ヤンマが肩を落とすと、シオカラは触覚を揺らした。
「でも、俺っち、他に聞く当てなんてないっすから。んで、どこに連れて行けば喜んでくれるっすかね?」
「相手の年代とか、趣味にも寄るだろ。俺の経験上、俺が楽しいところは茜は楽しくなかったからなぁ…」
過去のデートの失敗を思い出したヤンマが項垂れると、シオカラはけらけらと笑った。
「あー、それ、茜から聞いたことあるっすー。兄貴が一人で楽しみすぎちゃって、茜を置いてけぼりにしたんすよねー」
「人の古傷を抉るな! ま、まあ、俺が全面的に悪かったんだが!」
ヤンマはぱかりとシオカラを一発殴ってから、顎を軋ませた。
「そういやぁ、ここんとこデートなんてしてねぇな。茜もバイトやら何やらで忙しいし、俺も仕事があるが、だからって
何もしねぇのはまずいよなぁ…。休みを合わせて、適当な場所に連れていかねぇと、拗ねられちまう」
「だから、兄貴、どこに行けばいいっすかね?」
「最初に言っておく! 自分が楽しもうとするな!」
ヤンマは自戒を込めて吐き捨ててから、四枚の羽を広げた。
「後は自分で考えろ! 俺も考えることが出来たからな!」
日没までには帰れよ、とヤンマは釘を刺してから、澄んだ羽を震わせて上昇し、茜色の空へと飛び去っていった。
シオカラは滑らかに飛ぶヤンマを見送ってから、足元を蹴り付けて飛び上がり、四枚の羽を震わせて急上昇した。
裏路地を成す古びたビルの間を擦り抜けると、鮮烈な西日が全身を焼き、藍色の複眼が朱色に染められてしまった。
一瞬、視界を奪われたが、しばらくすると慣れた。夕暮れに染まる町並みは、昼間とは打って変わって幻想的だった。
淀んだ空気が詰まったビル街を取り囲んでいる民家の屋根が朱色に輝いていて、荒く波打つ海面のようだった。
東側の空には夜の気配が広がり始めているので、この美しく刹那的な光景が見られるのは、十数分しかないだろう。
ヤンマからは早く帰れと言われたが、見逃してしまうのがなんとなく惜しい気がしたので、シオカラは高度を上げた。
初夏の湿っぽい空気が巻き上げられたビル風を羽で切り裂きながら、風を掴んで上昇し、あらゆる建物を超える。
街全体を見下ろせる位置に至ったシオカラは、ホバリングして高度を安定させ、無数の生命が蠢く世界を見下ろした。
この中に、ほづみがいるのだろうか。そう思っただけで、無数の複眼に映る景色が、新たな色を帯びた気がした。
ほづみにアドレスを伝えたが、あれからほづみから電話もメールも来ることはなく、膨張した期待を持て余していた。
連絡もないのに舞い上がり、空回りしている自分に呆れてしまうが、そうでもしなければ身も心も落ち着かなかった。
じっとしていると体の芯から焦げてしまいそうで、ほづみに再会した夜に感じた訳の解らない衝動に煽られてしまう。
会えるものなら、今すぐにでも会いたい。けれど、何を話せばいいのか解らないし、会うべきではないとも思った。
再会した夜は舞い上がり、ほづみに誘われるまま、再び彼女を抱いてしまったが、それで良かったのかどうか。
良くないことだと何度となく思うが、なけなしの理性と自制は青臭い衝動に塗り潰され、結局は流されるままだった。
恋を、しているのだろうか。
319:OLとシオカラトンボ3 3 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/04 17:44:03 7iwvMtC9
そして、日曜日。
ほづみから電話を受け、デートの日程を伝えられたシオカラは、持てる知識を総動員してデートの計画を立てた。
ヤンマを始めとした男達の意見は参考にならなかったので、考えるだけ考えて、どちらも楽しめそうな場所を選んだ。
けれど、いざ現地に来てみると、何か間違っているような気がした。いや、気でなく、本当に間違えたようだった。
「十何年振りかしらねぇ、こんな場所に来るのは」
長い髪を巻いて後頭部でまとめ、ビスチェの上にジャケットを羽織り、ミニスカートを履いたほづみは呟いた。
「なんか、マジすんません…」
平謝りしたシオカラの背後を、きゃあきゃあと歓声を上げる幼児と若い両親が通り過ぎ、ゲートに入っていった。
その上には、可愛らしくデフォルメされた動物に挟まれた看板があり、丸文字の平仮名で、どうぶつえん、とあった。
ほづみは大きなサングラスを掛けているが、明らかに怪訝な顔をしていて、シオカラとその看板を見比べている。
受付で入場チケットを買っている客層は、親子連れや小中学生のグループが多く、ほづみのような女性はいない。
考えすぎた挙げ句、ヤンマの忠告を生かせなかったらしい。動物園に来たかったのは、シオカラだったのだから。
シオカラの地元には動物園はなく、水族館には何度も行ったことはあったが動物園は一度も行ったことがなかった。
だから、一度は行ってみたいと心の片隅で思っていたが、だからといって何もこんな時に果たす願いではない。
「まあ、いいわ。最初から期待してなかったし」
ほづみはサングラスを外すと、シオカラを見上げた。
「行きましょ」
「え、あ、いいんすか?」
「せっかく来たんだから、せめて見ていきましょうよ」
「あざーっす!」
シオカラはほづみの心の広さに心底感謝し、彼女に続いて親子連れが連なる受付に並び、入場チケットを買った。
それを持って入場ゲートから園内に入った二人は、とりあえず、真っ当に順路を辿って動物を見ていくことにした。
ほづみを喜ばせるために来たのだから、とシオカラは自制しようとしたが、入場してすぐの動物を見た途端に切れた。
「ふおおお!」
早速当初の目的を忘れたシオカラは、キリンが悠然と歩いている檻に駆け寄った。
「お姉さんお姉さん、キリンっすよキリン! マジキリンっす!」
「見りゃ解るわよ」
「うおおおお…。すっげぇー、つかマジでけぇー…。マジキリンすぎだし」
顎を全開にして感嘆するシオカラに、ほづみは呆れながらも笑ってしまった。
「今時、キリンなんて珍しくないじゃん」
「や、だって、マジ長いっすよ、首とか足とか」
シオカラは隣に立ったほづみを見下ろし、爪先でキリンを示した。
「そりゃそうだけど」
ほづみは、もしゃもしゃと草を咀嚼するキリンを仰ぎ見た。
「そういえば、前々から思っていたことがあるんだけど」
「なんすか?」
「あんたって、人間じゃないのよね?」
「そうっすよ。俺っちや兄貴は、生まれも育ちも池のトンボっす、マジトンボ」
「だから、あんたは厳密に言えば動物なのよね。なのに、檻に入っている動物を見てもなんとも思わないの?
動物園っていう概念、嫌だって思ったりはしないの?」
ほづみにまじまじと見つめられ、シオカラはその視線に戸惑いながらも答えた。
320:OLとシオカラトンボ3 4 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/04 17:45:38 7iwvMtC9
「嫌、っつーか、動物は動物で、俺っち達は俺っち達っすから。たぶん、他の獣人もそう思ってんじゃないっすか?」
「もうちょっと具体的に言ってくれないと、解るものも解らないんだけど」
「んーと、そうっすねー…」
シオカラは驚くほど睫の長いキリンを見つめながら、言いたいことを整理した。
「俺っちみたいなのは人間じゃないっすけど、動物ともその辺の虫とも違うっすから。人間じゃないけど、人間みたいに
喋ることも出来るし、俺っちは頭悪いっすけど考えることも出来るし、本能はあるけど理性である程度押さえられるし。
だから、人間じゃないけど動物でもないっすから、檻に入った動物を見ても変だとは思わないし、嫌だなんて思う
こともないっすね。ほら、人間だっているじゃないっすか、サルをペットにする人。でも、普通の人はそれを見たところで
嫌だなんてこと、そもそも考えないじゃないっすか。だから、まあ、つまりはそういうことっすよ」
ほづみはシオカラの言葉を聞き終えてから、少し考え、言った。
「あんたは虫だけど、価値観は動物よりも人間に近い、ってことね」
「そうっすそうっす、マジそうっす」
「でも、やっぱり虫は虫なのよね」
「けど、だからって何をどう思うってこともないっすよ。俺っちはトンボだから俺っちなんすから」
「ついでにもう一つ聞いてもいい?」
「あ、はいっす」
「あんたって常に全裸だけど、そういうことは気にならないの?」
ほづみの問い掛けに、シオカラは閉じかけた顎を開いた。
「ふへ」
考えてみたら、そんなことを気にしたことはなかった。人に近い獣人は服は着るが、昆虫人間は何も着ない。
そもそも、着る必要がないからだ。外骨格は下手な武装よりも強固で、種族によっては弾丸をも跳ね返せる。
体温維持が難しい冬場は冬眠を防ぐために防寒着を着ることもあるが、それでも着ている期間はごく僅かだ。
服を着ると、トンボの命とも言える羽が引っ掛かってしまうし、傷付いてしまっては飛行能力が低下してしまう。
だから、昆虫人間には日常的に服を着るという概念自体がないので、何も着ていないことを気にするわけがない。
けれど、改めて考えてみると、妙な気もする。様々な種族に混じって社会生活を営むのに、全裸というのは。
だが、やはり、服を着た虫は変では。シオカラはいつになく真剣に考え込んでいると、ほづみが覗き込んできた。
「そこまで考え込むようなこと?」
「つか、今の今まで、そんなこと考えたことなかったっすから、いやマジで」
「でも、あんたは服を着ない方がいいかもね」
「え、あ、そうっすか?」
「だって、結構良い色してるから」
ほづみは、シオカラの水色の外骨格を小突いた。
「隠しちゃうのは勿体ないじゃない」
ほら、次行くわよ、とほづみに上左足を引っ張られ、シオカラはキリンの檻の前から通路へと移動させられた。
子供や家族連れの間を擦り抜けて歩きながら、シオカラは上左足を掴むほづみの白い手を見下ろしていた。
爪は綺麗に磨かれていて、指は白く細長い。外骨格を握る力は強く、虫に対する力加減が解らないようだった。
彼女の表情を窺おうとしたが、歩調に合わせて揺れる髪に隠れてよく見えず、化粧の匂いが触覚をくすぐった。
女の匂いに、頭の芯からくらくらした。
321:OLとシオカラトンボ3 5 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/04 17:47:21 7iwvMtC9
思いの外、動物園を楽しんでしまった。
ちらほらと街灯が灯り始めた歩道をシオカラと共に歩きながら、ほづみは心地良い疲労感を味わっていた。
あの動物園を訪れたのは小学生時代以来だったが、久々に見た動物達の姿は新鮮で、純粋に面白かった。
ほづみの少し後ろを歩くシオカラは、人間で言うところの満面の笑みであるらしく、きちきちと顎を鳴らしていた。
最初の頃は音の聞き分けなど出来なかったが、しばらく付き合っていると、その時々で微妙に力加減が異なる。
喜んでいる時は音が高く、苛立ったり怒っている時は音が低く、微妙な感情を表す時は間延びした音を出す。
昆虫人間は顔が顔だけに表情が出せないかもしれないが、注意深く見ていれば、おのずと感情は伝わってくる。
だから、今のシオカラは物凄く喜んでいた。動物園のお土産が詰まった紙袋を下げ、顎を細かく擦らせている。
ほづみもブランドのハンドバッグと一緒にお土産の入った紙袋を下げ、ヒールを鳴らしながら、帰路を辿っていた。
「パンダ、可愛かったっすねーマジで!」
「そうねー」
「つか、クマだって解ってんのに普通のクマとはマジ違うっすよね! 超白黒だし!」
「パンダだもの、当然でしょ」
「てか、マジで尻尾白かったんすね! つか、俺っち、なんかマジ感動したっす!」
「パンダの尻尾ぐらいで?」
「尻尾は大事っすよ、マジでマジで。ああ、俺っちのは尻尾じゃなくて腹っすけどね、腹」
「解っているわよ、それぐらい」
ほづみは横目にシオカラを見てから、頬も声色も自然と緩んでいることに気付き、そんな自分に安堵していた。
同僚の男に浮気された挙げ句に一方的に別れを告げられてからというもの、笑顔は無理に作ってばかりだった。
仕事の最中は無理にでも笑っていないと、挫けてしまいそうだったからだ。だが、やはり、辛いものは辛かった。
けれど、シオカラの前ではいくら虚勢を張っても意味がない。年上の見栄や意地はあるが、彼は単なる知り合いだ。
だから、自分でも気付かないところで心が緩んでいた。シオカラの年相応の振る舞いも、見ていて微笑ましい。
もっと甘えてしまいたくなる。けれど、それはいけない。ほづみはシオカラの横顔に視線を向けたが、伏せた。
これきりにしてしまおう、と強く思うのに、これで終わってしまいたくない、と弱り切った自分が胸中で喚いている。
捨てられて参っていたところに丁度良く現れ、丁度良く気を紛らわせた相手だから、丁度良い場所に収めたいのだ。
だが、そんなものは恋ではない。ほづみの見苦しいエゴであり、好意を示してくれるシオカラに対する侮辱だ。
好かれているから傍に置きたい、などと少しでも考えてしまった自分が心底嫌になり、ほづみは目線を落とした。
「…どうしたんすか?」
シオカラは立ち止まると、ほづみを覗き込んできた。藍色の複眼には、見た目だけ綺麗に着飾った女が映った。
だが、その中身は泥臭くて意地汚くてどうしようもない。そんな女だから捨てられたのだ、と今更ながら痛感した。
それに比べて、シオカラは気が良すぎる。夕暮れの空から零れる茜色の日光が、四枚の透き通った羽を光らせた。
「ねえ、あんた」
ほづみは手を伸ばし、シオカラの顎に触れた。
「私のこと、好き?」
「そりゃ…」
シオカラは顎から染み渡るほづみの体温を意識しつつ、答えた。
「好きっす、大好きっす」
「ヤらせてくれたから?」
「えっと、それもあるっすけど、なんていうか、まあ…」
シオカラは言葉を濁していたが、語気を強めた。
「好きだから好きっす!」
「そう」
ほづみはシオカラの顎からするりと手を外すと、シオカラの長く伸びた影に目線を投げた。
322:OLとシオカラトンボ3 6 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/04 17:48:15 7iwvMtC9
「私は、あんたのこと好きじゃないわ」
「虫だから、っすか?」
「そんなんじゃないわ。私が悪いの、最初からね」
ほづみはシオカラに背を向け、ことん、とヒールでアスファルトを小突いた。
「自棄になっていたからって、あんなことしていいはずない。しかも二度も。今日のデートだって、結局のところ、
あんたをダシにして遊んだだけだし。だから、もう、これっきりにした方がいいのよ。どっちにとってもね」
「俺っちは、ダシにされたとか、そんな」
「あんたがそう思っていなくても、私はそう思うのよ。だから、お願い」
ほづみは鮮烈な西日を背にして、シオカラに振り向いた。
「私のこと、嫌いになってよ」
複眼と単眼を焦がすような目映い逆光に包まれた彼女は、やはり表情が窺えなかったが、語気は弱かった。
平坦に言い切ったつもりなのだろうが、僅かに上擦っている。寂しい人なのだ、とシオカラは悟ってしまった。
一人でいることが耐えきれないくせにプライドが高く、大人だから、縋り付ける相手をはねつけようとしている。
どう見ても、無理に無理を重ねている。再会した夜に吐露した苦しみも、まだ振り切れていないのだろう。
振り切れていたら、シオカラとデートなどしないはずだ。それなのに、彼女は痛々しく意地を張ろうとしている。
「マジ無理っす、それ」
シオカラはほづみに歩み寄ると、上左足から紙袋を落とし、力任せに抱き締めた。
「…馬鹿よ、あんた」
ほづみはシオカラを押し返そうとしたが、力では勝てず、青空に似た水色の外骨格に身を預けた。
「どうしようもないぐらい」
出来ることなら、体を締め付ける足を振り払ってしまいたい。二度と顔を合わせたくなくなるほど、罵倒したい。
思い切り嫌われて、避けられて、疎まれた方が良い。けれど、冷たい外骨格はそんな感情を吸い込んでいった。
シオカラの紙袋から転げ落ちたパンダのぬいぐるみは二個あり、恐らくその片方はほづみのためのものだろう。
これでは、尚のこと、彼を家に帰せない。
二人は、言葉少なに帰宅した。
あれから、お互いに様子を探り合ってしまって、上手く言葉が出てこなくなってしまった挙げ句に黙り込んだ。
結局、安普請のアパートに到着するまではまともな会話も出来ず、帰宅してからもシオカラはぎこちなかった。
初めて部屋に連れ込んだ時とは違った意味で緊張しているらしく、居間の片隅で正座して固まってしまった。
ほづみは寝室にしている六畳間に入り、髪を解いて派手な化粧を落とし、気合いの入った服を脱いでいった。
案の定、パンダのぬいぐるみの片方はほづみにプレゼントされ、乱雑なドレッサーの脇にちょこんと座っていた。
部屋着にしているTシャツとハーフパンツを着てから居間に戻ると、シオカラは正座したまま動いていなかった。
「そんなに畏まることないでしょうが」
ほづみがシオカラの傍に腰を下ろすと、シオカラは俯いた。
「いや、そうなんすけど、この流れだと、やっぱりアレっすか…?」
「嫌なの?」
「いや、嫌ってんじゃないっすけど、なんていうか、その」
「だったら、止めておく?」
323:OLとシオカラトンボ3 7 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/04 17:49:21 7iwvMtC9
ほづみが言うと、シオカラは顔を上げて顎を開いた。
「うへ?」
「あんたがどうしても嫌だって言うんなら、無理にしようなんて思わないわよ」
「あ、いや、俺っちはそういうことを言いたいんじゃなくて、あーもうっ!」
シオカラはぎりぎりと顎を噛み合わせていたが、ほづみに向き直った。
「本当にそれでいいんすかっ! つか、マジ俺っちでいいんすか!」
「私のこと、好きなんでしょ?」
「そりゃマジ好きっすけど!」
「じゃあ、問題ないじゃない」
「そりゃまあないっすけど、でも、なんか、ああ、なんてーかなぁこういうの!」
シオカラは上手く言葉に出来ないのがもどかしいのか、虚空を掻き毟ってから、ほづみに迫った。
「なんかもうマジすんません! 無理っぽいっす!」
「ちょっ」
ほづみが身を引くよりも早く、シオカラは顎を大きく開いて細長い舌を伸ばし、ほづみの唇をぬるりと舐めた。
口紅の味がほんの少し付いていて、首筋から立ち上る香水の残り香が触覚を惑わし、感覚が狂いそうになる。
上両足で柔らかな体を押さえ付け、中両足で引き寄せ、下両足で囲む。トンボの足は、捕らえるためのものだ。
カゴのように捕らえた獲物を抱え込み、そして、喰らう。顎を広げるだけ広げ、伸ばした舌を首筋へと滑らせた。
「ん…」
唇を解放されたほづみは小さく声を漏らし、冷たい感触に身を捩った。
「あ、ちょっと、や…」
首筋をぬるぬると舐められながら、ほづみはTシャツの裾を捲り上げようとしてきた中右足を阻もうとした。
だが、その手は上右足に捕まれてしまい、ほづみのTシャツは一気に胸の上まで引き上げられてしまった。
ブラジャーも押し上げられ、少し汗の浮いた乳房が零れ出た。シオカラは首筋から顔を上げ、舌を引いた。
「次、下、いいっすか」
「触るの? それとも、舐めるの?」
「舐めた方が楽っすよね、お姉さんは」
「ダメ、だって今日は外にいたし、暑かったし、自分でも解るくらい汚れてるし!」
ほづみは首を横に振るが、シオカラはほづみの両腕を上両足で押さえたまま、畳の上に押し倒した。
「あぅ…」
だが、シオカラの中両足は一息でハーフパンツと下着を引き上げ、脱がされ、足を思い切り広げられた。
ほづみは今までで一番恥ずかしくなり、唇を噛んだ。一度目と二度目は、何も感じなかったというのに。
見られても気にするような相手だと思っていなかったし、恥ずかしいとすら思わなかったが、急に変わった。
「あ、ふぁ、ぁ…」
シオカラの舌が陰部を割って入り、滑り込んできた。人のそれよりも冷たいが、心地良かった。
「くぁ、ぅ、うぁ」
324:OLとシオカラトンボ3 8 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/04 17:50:31 7iwvMtC9
ぐじゅぐじゅと粘っこい音が立てられ、細長い舌が前後し、ほづみの胎内から掻き出しているかのようだった。
奥にまで至るが、触れるだけだ。粘膜と粘膜が擦れ合って互いの体液が分泌され、混じりながら滴り落ちる。
いつのまにか、彼の黒い顎は光沢を帯びるほど濡れていた。それが無性に恥ずかしく、ほづみは目を閉じた。
だが、目を閉じると、一心不乱にほづみの陰部を舌で抉る音だけが聞こえてきて、皮膚の感覚も鋭敏になる。
舐められている間に尖ってきたクリトリスが、時折シオカラの外骨格に触れるが、触れるだけでその先がない。
押し付けてしまいたい、と思っても、シオカラとの距離が狭まらないどころか、舌が抜かれると遠のいてしまう。
それが何度も続くと堪えきれなくなって、ほづみはシオカラの首に足を巻き付け、彼の硬い顎に押し付けた。
「あはあぁあっ」
喉を反らして声を上げたほづみに、シオカラは白濁した体液に濡れた舌を引き抜いた。
「あ、やっぱりそっちの方がいいんすか?」
「だ、だってぇ…」
ほづみが恥じらうと、シオカラはほづみの汗と体液に濡れた顎をがちがちと鳴らした。
「んじゃ、こうしてみるっすか?」
「え…」
ほづみが少々戸惑うと、シオカラはほづみを押さえていた足を全て外し、ほづみを抱えて膝の上に座らせた。
胡座を掻いた足の上に置かれたほづみは、中両足で太股を持ち上げられ、上両足で乳房を無造作に掴まれた。
「ちょ、ちょっと、何これ」
「見ての通り、俺っちなら出来る態勢かなぁーと。虫っすから」
「そりゃそうかもしれないけ、どぉ…」
ほづみは言葉が継げなくなり、弛緩した。乳房から外された上右足が、硬く充血したクリトリスを擦ってきた。
爪は使わず、人間で言うところの手首に当たる外骨格でぐりぐりと押さえ付けるが、陰部には触ってこない。
「どうっすか、これなら痛くないっすよね、爪じゃないっすから」
「いたく、ない、けどぉっ…」
最も弱い部分を責められ、ほづみは浅い呼吸を繰り返した。頬と同じく紅潮した首筋には、舌が這い回る。
左の乳房は柔らかく絞られ、下と同じく硬く尖った乳首を爪の腹で潰され、至る所から快感が襲ってくる。
今し方まで責め抜かれていたのに異物を失った陰部は、寂しげに疼き、体の奥底からじわりと滲んできた。
「あーもう、どこもかしこもマジ最高っすよ、お姉さん」
ほづみの首筋を甘噛みしながら、シオカラは感嘆した。
「おっぱい大きいし、全部柔らかいし、俺っちが何しても感じてくれるし、マジエロ過ぎだし」
「一気にやられたら、誰だって、感じるわよ」
ほづみが力なく返すと、シオカラは左の乳房が歪むほど握り締めた。
「そうっすか?」
「ひゃうあん!」
思いがけず強い刺激にほづみが嬌声を放つと、シオカラはきちきちと顎を擦らせて笑った。
325:OLとシオカラトンボ3 9 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/04 17:51:12 7iwvMtC9
「マジ可愛すぎだし、お姉さん」
「ね、もう、いい、でしょぉ…? おねがいぃ…」
ほづみが切なく漏らすと、シオカラは腰を上げて、生殖器官が露出した腹部を前に出した。
「俺っちも、もうなんかヤバげっす」
「ふぅ、あ、はぁ、あっ…」
圧倒的な質量を誇る異物を押し込まれ、ほづみは涙を滲ませた。
「俺っちなんかで良かったら、いくらでも好きになってやるっすよ、お姉さん」
か細い泣き声のような声を漏らすほづみを責め立てながら、シオカラが言うと、ほづみはシオカラの足を掴んだ。
「ほんとうに? わたし、なんかでいいの?」
「それを言うのは俺っちの方なんすけど」
「だ、だって、私、あんたのこと、ずっと、利用して…」
「そんなの、とっくに知ってるっす。でも、俺っちは、たまんないんすよもう!」
ぐん、と熱い胎内の中心を突き上げると、ほづみは仰け反った。
「あぁ、あぁあんっ!」
外骨格越しにでも解るほど、強く締め付けられた後、ほづみはだらりと脱力してシオカラに寄りかかってきた。
「好きっす、お姉さん」
ほづみを見下ろしながらシオカラが呟くと、ほづみはシオカラに体重を預け、涙を拭った。
「うん。私も、もう、無理…」
好きになってはいけないと思えば思うほど、意識してしまう。けれど、真っ向から認めることに躊躇いがある。
だから、今はまだ言えない。体を繋げるだけの浅はかな関係のままではいたくないが、勇気が足りなかった。
だが、いずれちゃんと言おう。そうでなければ、迷いなく好意を示してくるシオカラに対して申し訳ないからだ。
「だから、俺っちと付き合って下さいっす、マジ彼女になって下さいっす」
と、背を当てている胸郭から聞こえた声に、ほづみは途端に興醒めしてシオカラを張り飛ばした。
「突っ込んだまま言うんじゃないわよ!」
「あおっ!」
張り飛ばされた勢いで頭を逸らしたシオカラは、首を捻って元に戻し、不可解そうにしつつ生殖器官を抜いた。
ほづみは足と腰に力が入らなかったので、シオカラの傍に座り、なぜ殴られたのか解っていない彼を睨んだ。
せめて、抜いてから言って欲しかった。だが、今、それを強調するのは多少気恥ずかしかったので飲み下した。
乱れた服と髪を整えてから、ほづみは双方の体液に汚れたシオカラの顎を拭ってやってから、キスをした。
シオカラはきょとんとしていたが、意味が解ると照れてしまい、だらしなく笑いながら四枚の羽を揺らしていた。
浮かれ切っているシオカラの様を見ていると、ぐだぐだと悩んでいたことが馬鹿らしくなって、ほづみは笑った。
落ち込んでいるのは、もううんざりだ。
326:859 ◆93FwBoL6s.
09/06/04 17:59:22 7iwvMtC9
以上。もうちょっと話は続きます。
デートが一番下手なのは、間違いなくヤンマです。
327:名無しさん@ピンキー
09/06/05 01:01:52 MtHl6m6N
乙
328:名無しさん@ピンキー
09/06/05 01:56:51 BA7M6+BR
GJ!
859氏のキャラはあいかわらず皆イキイキしてて、読んでて楽しいな
329:859 ◆93FwBoL6s.
09/06/05 17:39:51 Kzll6c11
人外アパートの続きですが、シオカラの話はこれで終わりです。
昆虫人間×女性で、今回は非エロです。NGはOLとシオカラトンボで。
330:OLとシオカラトンボ4 1 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/05 17:41:16 Kzll6c11
久し振りの快晴だった。
数日間に渡って降り続いた雨が止み、分厚い雲が途切れ、待ち侘びていた日差しが空から落ちていた。
湿気が多かったせいで重たくなっていた羽も乾燥して軽さを取り戻し、水の匂いが残る風を切り裂いていた。
眼下に広がる街並みでは、屋根や雨樋に溜まった雨水がきらきらと輝いていて、時折複眼を刺してきた。
空の色はシオカラの外骨格よりも若干濃いが、複眼よりも薄いが、高度を高く保てば馴染んでしまうだろう。
シオカラがほづみから呼び出しを受けたのは今朝で、素っ気ない文章のメールが携帯電話に届いていた。
ヤンマは茜を連れてデートに出掛けてしまったし、ヤンマからは何度となく付いてくるなと念を押されていた。
かといって、家にいても退屈なだけだ。暇を持て余していたところだったので、願ってもない呼び出しだった。
古めかしいアパートの屋根が見えたので、シオカラは頭を下げてくるりと旋回してから、高度を下げていった。
何の気なしにアパートの裏手に回ると、二階のベランダでは、アビゲイルが山のような洗濯物を干していた。
「あら」
銀色の女性型全身鎧、アビゲイルは祐介のシャツを持ったまま、シオカラを見上げた。
「おはよう、シオカラ君」
「おはようっす、アビーさん」
シオカラはアビゲイルの前でホバリングし、目線を合わせた。
「良いお天気ね。これなら、洗濯物だってきっとすぐに乾いちゃうわ。ここのところ、雨が続いていたせいで
すっかり溜まっちゃったのよ」
アビゲイルは濡れた服が詰まっている洗濯カゴを示してから、シオカラを見上げた。
「それで、今日は何の御用かしら? ヤンマさんと茜ちゃんは、早くからお出掛けしているんだけど」
「ああ、それなら知ってるっす。それに、今日は兄貴とダベりに来たんじゃないんで」
「あら、そうなの」
アビゲイルが少し訝しげに首を傾げると、下方から声が掛かった。
「来たなら来たって言いなさいよ、あんたは」
シオカラが複眼を向けると、一階右端の部屋の掃き出し窓からほづみが顔を出していた。
「あ、すんません。つか、今日は何の用っすか?」
シオカラが平謝りすると、ほづみは部屋の中を指した。
「見りゃ解るわよ」
「あら、まぁ」
二人を見比べたアビゲイルは、なんとなく事を察したらしく、マスクに手を添えて微笑んだ。
「それじゃ、お赤飯でも炊こうかしら」
「えっ、ちょっ、それは、つかマジヤバすぎっす! 百歩譲ってオムライスっす!」
「解ったわ。二人の分も用意するから、お昼、食べに来てね」
うふふふふ、と、アビゲイルはシオカラを見つめた。明らかに楽しんでいる。
331:OLとシオカラトンボ4 2 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/05 17:42:02 Kzll6c11
「え、あ、はいっす」
シオカラはぎちぎちと顎を軋ませていたが、降下し、ほづみの部屋である一階右端の部屋の前に降りた。
「んで、お姉さん。今日は一体…」
シオカラはほづみの部屋を覗き込み、途端に理解した。手狭な部屋中に、物という物が溢れ返っていた。
押し入れからは段ボール箱や衣装ケースが引っ張り出され、全ての窓が開かれ、煙幕のように埃が漂っていた。
下両足を拭ってから部屋に入り、段ボール箱を掻き分けて、シオカラは部屋の中心に立つほづみに近付いた。
「引っ越しでもするんすか?」
「大掃除よ。荒れ放題だったし、なんかこう、ムラムラっと来ちゃったのよ」
箱の海の中で仁王立ちしているほづみは長い髪を一括りに結んでいて、野暮ったい赤のジャージを着ていた。
胸元には名札が縫い付けられていたと思しき針の後が残っていて、左の二の腕にも校名と思しきネームがある。
その格好に相応しくすっぴんだったが、化粧が落とされていても、ほづみの顔立ちには目を引くものがあった。
「それ、いつのっすか?」
シオカラがジャージを指すと、ほづみは襟元を引っ張った。
「高校の時のやつ。丈夫だし、使い勝手が良いから取ってあるの。下は体操着じゃないけどね」
「あ、ああ、そうっすか…」
「あんたはリアルに高校生でしょうが、体操着姿の女子なんて腐るほど見てるでしょ」
若干落ち込んだシオカラにほづみが顔をしかめると、シオカラはきちきちと顎を擦らせた。
「いやあ…あれはあれっすよ。だから、これもこれなんすよ…」
「先に言っておくけど、ブルマなんて置いてないからね。ていうか、もう尻が入らないのよ」
「んじゃ、履いたことはあるんすね。その歳で」
「実家でね。使えるかどうか試してみたけど、案の定よ」
ほづみはシオカラに歩み寄ると、ゴミが詰まった袋を押し付けた。
「とりあえず、これ、玄関の方に置いてきて」
「了解っす」
「必要なものといらないものを分けるのも手伝ってよね。見ての通り物が多いから、一日仕事になると思うけど」
「それなら大丈夫っすよ」
シオカラはほづみから渡された半透明の袋を見下ろし、その真下に押し込められているものに気付いた。
「なんすか、これ?」
綺麗な装丁の平べったい冊子で、サイズは大きいが、そのくせ厚みはなく、ページも一ページのみだった。
ゴミ袋を持ち上げて裏面を見てみると、写真館の名前と電話番号が印刷されていた。ということは、これは。
「お見合い写真」
しれっと言い放ったほづみに、シオカラは顔面にゴミ袋を落とし、それが足元に転げ落ちた後に驚いた。
332:OLとシオカラトンボ4 3 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/05 17:42:59 Kzll6c11
「え、え、え、えええええっ!?」
「ちなみに見合う日は今日で、世間の底辺を這いずる貧乏人には一生縁がないブルジョア御用達のホテルが舞台」
「ええええええええ?」
「相手は専務の息子」
「ええええ、ええ、ええええ…?」
「結婚すれば間違いなく玉の輿だし、その息子ってのがまた評判が良いのよ。大人しくて顔も良くて賢くて」
「え、え、え、え、え…」
「でも、行かない。大掃除がしたいから」
「えー…?」
シオカラがぐりっと首を捻ると、ほづみはシオカラを小突いた。
「だから、さっさとそのゴミ捨ててきてよ。仕事は山ほどあるんだから」
「でも、お姉さん、それっていいんすか?」
恐る恐るゴミ袋を拾ったシオカラに、ほづみはにんまりした。
「いいから、大掃除してんじゃないのよ。こんなに天気が良いんだから、何もしないのは勿体ないでしょ」
「はいっすー…」
シオカラは不可解な思いを感じながらも、玄関の扉を開けてゴミ袋を置いてから、部屋の中に戻った。
短い廊下にまで溢れ出している段ボール箱には、少し投げやりな字で内容物の名前が書き記されていた。
服や本が詰まった箱に混じって、シオカラであっても聞いたことがあるブランド名がいくつか記されていた。
爪先でガムテープを引き千切り、その中の一つを開けてみると、案の定そのブランドのバッグが入っていた。
「あの、お姉さん、これって」
シオカラがバッグの入った箱を指すと、ほづみは雑誌の束を括りながら答えた。
「売る」
「でも、勿体なくないっすか?」
「もう使わないし、本当はそんなに欲しくなかったし」
「じゃあ、なんで買ったんすか? こういうのって、一個十何万ってするんすよね?」
「まあ、色々あったのよ。私も若かったから」
古雑誌の束を外に出してから、ほづみはシオカラを見やった。
「その辺の箱、全部開けておいて。売る前に虫干ししておきたいから」
「了解っすー…」
ますます不可解な気分を募らせながら、シオカラはほづみに命じられるまま、段ボール箱を開けていった。
開ければ開けるほど、ブランド物が顔を出す。バッグ、アクセサリー、服、それらが入っていたであろう紙袋。
余程金を掛けなければ、ここまでは買えないだろう。妙齢の彼女が安普請に住む理由が、なんとなく解った。
だが、それを売ってしまうのは惜しくはないのだろうか。シオカラはほづみの横顔を見つつ、悩んでしまった。
衣装ケースを開けて中身を確認したほづみは、一瞬顔をしかめてから、大量の服を引っ張り出し始めた。
大半をゴミ袋に押し込み、残したものは物干し竿に引っ掛けてから、また新たな衣装ケースを開けていた。
二個目の衣装ケースから出てきたのは服ではなく、湿気を含んで膨らんだ冊子だったが、開けずに捨てた。
複眼の端に掠めた冊子の表紙を凝視したシオカラは、見知らぬ男の名前が書かれていることを知覚した。
有り体に考えて、あれは昔の男の写真だろう。開けもしないということは、余程ダメな男だったに違いない。
そこまで見てしまうと、シオカラといえども察した。この大掃除は、ほづみの過去を整理するためのものだ。
だから、昔に買い集めた服やバッグや元彼の写真を捨てていて、ほづみの表情もどことなく晴れやかだった。
そんな作業に自分が付き合っていいものか、と少々躊躇いつつ、シオカラは黙々と段ボール箱を開け続けた。
昆虫人間の利点は、カッターナイフがいらないことだ。
333:OLとシオカラトンボ4 4 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/05 17:44:49 Kzll6c11
そうこうしているうちに、時間が過ぎた。
朝方に始めた作業は昼前になっても終わらず、段ボール箱の中身を出したが、まだ数個が残っている。
中身を整理しても、その次は埃だらけの部屋の掃除が待っているので、過去の大掃除は当分続きそうだった。
当然、肉体労働に終始していたほづみとシオカラは空腹になり、シオカラはアビゲイルからの誘いを伝えた。
ほづみは躊躇うかと思われたが、意外にも素直に誘いを受け、汗と埃を流してから祐介の部屋を訪れた。
アビゲイルは喜んで二人を出迎えたが、祐介は試験勉強に精を出していたために事の次第を知らなかった。
なので、少しばかり戸惑ったようだが、アビゲイルから説明されるとすぐに納得し、ほづみを出迎えてくれた。
居間のテーブルには、アビゲイルの言葉通りにオムライスが三人分並び、ケチャップで絵が書かれていた。
祐介のものは正視するのが憚られるほど可愛らしいハート、シオカラのものには出来の良いトンボの似顔絵。
そして、ほづみのものには、幼女だったら間違いなく喜んでいたであろうデザインの花の絵が描かれていた。
三人からなんともいえない感情の視線を注がれたが、アビゲイルは悪びれることもなく、にこにこしていた。
「うふふふふふ」
「祐介兄さん、アビーさんっていつもこうなんすか?」
半熟卵と甘酸っぱいチキンライスをスプーンに載せたシオカラは、顎の中に入れた。
「うん、弁当もこんな感じ…。作ってくれる以上、文句は言えないけどさ」
祐介はハートが恥ずかしくてたまらないのか、ケチャップの絵を崩すように食べていた。
「でも、おいしいわね」
ほづみはオムライスを食べながら、感嘆した。ほづみが同じように作っても、こうは上手くいかないだろう。
程良く火の通った卵もさることながらチキンライスが絶妙で、べたつきがちなケチャップの水分が飛んでいる。
タマネギの微塵切りも食感を残しながらも甘みが出ていて、具の混ぜ方も均一でどこを崩しても混じっている。
バターが多めに入っているらしく、ケチャップの酸味がまろやかになっていて、卵の味と見事に馴染んでいる。
オムライスに添えられているコールスローサラダも、野菜のたっぷり入ったコンソメスープも当然おいしかった。
「これは才能だわー…」
ほづみが実直な感想を漏らすと、アビゲイルは笑んだ。
「気に入って下さって嬉しいですわ」
「良かったら、後でお裾分けも受け取ってもらえませんか。おいしいんですけど、量があるから余って余って」
祐介が苦笑すると、アビゲイルは言い返した。
「だって、量を作らないとおいしく出来ないんだから仕方ないじゃない」
「喜んで。うちの冷蔵庫、今、空っぽなのよ。ここんとこ、ろくなものを食べてなかったから」
ほづみが快諾すると、祐介はシオカラに向いた。
「お前の方も頼むよ、シオカラ。でないと、うちの冷蔵庫が壊れる」
「マジ了解っすー。てか、アビーさんの料理、うちでも評判良いっすから、マジもらうっす」
シオカラはぎちぎちと顎を鳴らしてから、オムライスを掻き込んだ。歯がないので、ほとんど丸呑みなのだ。
ヤンマもトンボなので同じ食べ方をするが、消化不良を起こさないのだろうか、と祐介はいつも思ってしまう。
だが、きっと大丈夫なのだろう。肉食の昆虫人間の消化液は、昆虫の外骨格など消化出来てしまうのだから。
「祐介君、だったっけ?」
ほづみに声を掛けられ、祐介は返事をした。
334:OLとシオカラトンボ4 5 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/05 17:45:41 Kzll6c11
「あ、はい」
「あなたの彼女、きっといいお嫁さんになるわね。大事にしなさいよ」
「ええ、もちろん」
祐介は照れながらも、頷いた。すると、祐介の傍に座るアビゲイルは俯いて肩を縮め、マスクを押さえた。
照れ合う二人が微笑ましくてたまらず、ほづみはにやけながら、オムライスが冷めないうちに食べ続けた。
ほづみは、二人に対して捻くれた感情を抱かない自分に安堵した。少し前なら、憎しみすら覚えただろう。
だから、もう大丈夫だ。これも全てシオカラのおかげだ、とほづみは、サラダを食べに掛かる彼を見やった。
シオカラは複眼の側面でほづみの視線に気付き、触覚を向けてきたので、ほづみは笑みを返してやった。
少しどころか、かなり照れくさかったが。
大掃除を終えた頃には、日が暮れ始めていた。
箱という箱を開け、物という物を出し、埃という埃にまみれたほづみとシオカラは、達成感を味わっていた。
玄関前には、翌朝に出さなければならない燃えるゴミの入った袋が山と積まれ、燃えないゴミも多かった。
虫干しされた革製のバッグや靴も部屋の中に回収され、床には掃除機の後に雑巾掛けも行って徹底した。
だが、台所周りまではさすがに出来なかったので、それは後日改めて、ということで今日の大掃除は終了した。
高台から見下ろすと、見慣れた街も変わって見える。ほづみは吹き付ける風に目を細め、髪を押さえていた。
今し方まで自分がいたアパートは遙か遠くになり、無数の家並みの中に紛れ、判別が付けづらくなっていた。
オモチャのように小さくなった私鉄の電車が線路を辿って走っていて、甲高い警笛が風に乗って聞こえてきた。
かなりの高さにいるが、恐怖は感じず、爽快感に包まれる。ほづみは伸びをして背骨を鳴らし、ため息を吐いた。
「気持ちいいわねー、高いところって」
「そうっすそうっす、マジ最高なんすから」
ほづみの背後に立つシオカラは、四枚の羽と触覚を強い風に靡かせていた。
「私、人間じゃなくて羽のある生き物に生まれれば良かった」
ほづみが唇を尖らせると、シオカラはきりきりと顎を擦らせた。
「そうっすねー。でも、俺っちは人間もいいなーって思うっすよ」
「どこが?」
「んー、まあ、なんていうのかな、こう…」
「だから、まとめてから話しなさいよ」
「すんません」
シオカラは半笑いで謝ってから、ほづみを見下ろした。
「つか、なんで急に飛びたくなったんすか? まあ、俺っちの力でも、お姉さんぐらいなら抱えて飛べるから
別に問題はないっつーか、マジ嬉しかったんすけど」
「色々あったから、とにかくすっきりしたかったのよ」
ほづみは西日に焼かれる街を見つめていたが、シオカラに振り返った。
「ありがとう」
「いや、俺っちは、別に大したことはしてないっすよ?」
シオカラが顔を伏せて顎をがちがちと打ち鳴らすと、ほづみは笑みを零した。
「今から考えてみると、私、馬鹿だったわ。後輩がどんどん結婚するからって、焦って適当な男を見繕おうとして、
挙げ句にあの様よ。私は本当に結婚したかったわけじゃなくて、周りに合わせようとしていただけなんだし。
大体、結婚して幸せになるんだったら、誰も離婚なんてしないっての。散々苦労して就活して、やっと就職した
会社だから未練はちょっとだけあるけど、もういいや。明日にでも辞めるわ。お見合いも蹴っちゃったしね。
でも、まあなんとかなるでしょ。不況だけど、仕事は選り好みしなきゃいくらでもあるんだし」
ほづみはシオカラに向き直り、ジャージのポケットから動物園で買ったキーホルダーを取り出した。
「あげる」
「どうもっす」
335:OLとシオカラトンボ4 6 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/05 17:46:55 Kzll6c11
シオカラはほづみの手からキーホルダーを受け取り、その先に付いているものを確かめ、きょとんとした。
「なんすか、これ?」
「どこをどう見ても合い鍵でしょうが。大掃除したのも、それを探すためよ。不動産屋に頼むと金掛かるしね」
「でも、なんでまた俺っちに合い鍵なんか」
パンダのレリーフが施されたキーホルダーに付いた鍵を掲げたシオカラが不思議がると、ほづみは呟いた。
「彼女になれ、って言ったじゃないの」
「え、んじゃあ、お姉さん、いいんすか!?」
シオカラがぎょっとすると、ほづみは変な顔をした。
「自分から言っておいてキョドるな、理不尽な」
「えー、でも、いきなり合い鍵っすかー、なんかもうマジヤバいっすねー…」
「だからって、別に同棲しろとかそういうんじゃないから。その辺は勘違いしないでよね」
「もちろんっす、俺っちにはまだ学校があるっすから!」
「…それと」
ほづみはシオカラとの距離を狭めると、顎を掴み、ぐいっと引き寄せた。
「前言撤回。私、あんたのこと、好きだわ」
皮膚感覚のない顎に、乾いた唇が接した。ほづみがかかとを下ろすと、シオカラは顎を開いた。
「…俺っちもっす」
「だから、いい加減に名前で呼んでよね。浅い仲じゃないんだし」
ほづみがシオカラと目を合わせると、シオカラは触覚を立てた。
「じゃあ、ほづみんで」
「オタ臭すぎるから却下。普通に呼びゃいいのよ」
「可愛いじゃないっすか、ほづみん。つか、それ以外に思いつかないんすけど」
「だから、下手に捻ろうとするなっての。私も捻らないから、シオ」
「四文字の名前を二文字に縮めるのも、マジどうかと思うんすけど」
「あんたのセンスよりはマシだ、シオ」
「えぇー…」
「それぐらい妥協しろっての」
「解ったっすよ、ほづー」
「私はB級アイドルか!」
ほづみは声を上げた拍子にシオカラを張り倒すと、シオカラは不満げに顎を鳴らした。
「我が侭放題っすねー」
「どっちがだ」
「了解、りょーかいっす。俺っちとしてはつまんないっすけど、どうしても嫌だってんなら普通に呼ぶっすよ」
渋々納得したシオカラに、ほづみは胸を張った。
336:OLとシオカラトンボ4 7 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/05 17:47:45 Kzll6c11
「解りゃいいのよ、シオ」
「解ったっすよー、ほづっちー」
「だぁかぁらぁっ!」
ほづみはシオカラの呼び方に苛立ったが、これ以上からかわれるのは癪だったので、苛立ちを押さえた。
シオカラは得意げにきちきちと顎を軽く擦り合わせていて、高校生と言うよりも小学生男子のようだった。
だが、何もしないままでは気が収まらなかったので、ほづみはシオカラを一発引っぱたいてから傍に立った。
シオカラは叩かれた頭頂部をさすっていたが、ほづみを上中両足で抱えると、四枚の透き通った羽を広げた。
びいいいいん、と空気が鳴る。シオカラはビルの屋上を踏み切り、浮上し、ほづみと共に風に身を任せた。
不規則に入り乱れるビル風を読み、滑らかに空を切りながら、シオカラは触覚に感じる匂いに高揚していた。
ほづみが傍にいる。ほづみの体温が外骨格に染みる。世界中でほづみの匂いを感じているのは自分だけだ。
そう思うだけで、やたらに嬉しくなる。ほづみを窺うと、ほづみは高さに怯えるどころか、とても楽しそうだった。
彼女とはどこまで行けるか解らないが、だからこそ、どこまでも行けるのだとシオカラは根拠もなく確信した。
茜色の街並みに、青空の欠片が吸い込まれていった。
337:859 ◆93FwBoL6s.
09/06/05 17:54:23 Kzll6c11
以上。これにて完結です。
最後まで読んで頂き、どうもありがとうございました。
338:名無しさん@ピンキー
09/06/05 18:21:04 9Jr1u4m+
いいんだよそんな事
339:名無しさん@ピンキー
09/06/05 23:43:09 rL8/ZX83
>>337
乙。シオカラとほづみさんどっちに萌えたら良いんだ……両方萌えたけど。
340:名無しさん@ピンキー
09/06/06 00:27:41 OFi3BhqB
>>337
乙そしてGJ。
めちゃくちゃ萌えさせてもらいました!
シオカラもほづみんも本当によかった。
341:名無しさん@ピンキー
09/06/06 06:47:01 Ora3J5PC
ほづみん30代…?
まぁ中年好きもいるのかもしれないけど、そういう注意書きあったほうがいいやね。
とりまGJ!抜いた!
あんたのキャラはいきいきしてて良い!
また頼むよ~ノシ
342:名無しさん@ピンキー
09/06/07 03:42:50 zhyqMugF
GJ!コンゴトモヨロシク
>>341
・・・ま、おばさん注意になりかけの年だが・・・上手くSS書いてくれたら注意書きはいらなくね?
343:名無しさん@ピンキー
09/06/08 15:06:19 U6aLxvtL
ほしゅ
344:名無しさん@ピンキー
09/06/08 23:48:19 OvDd90F2
>>337
シオカラもほづみんもギャップ萌えですな。
初々しいなぁ
345:名無しさん@ピンキー
09/06/09 00:02:09 U6aLxvtL
>>337
最高だった
文章が綺麗
もしかしてプロ?
346:名無しさん@ピンキー
09/06/09 01:42:17 tyqCzdhN
>>345
何回かプロ疑惑かかってるよな・・・
アマだったら・・・こんな良職人を評価しない文壇は腐ってるわ
ってーか住民いねーなー・・・
避難所も過疎ってるし別の避難所できたのかー
347:名無しさん@ピンキー
09/06/09 02:52:15 BrrF8/9v
6月に長期休暇は無いのに…
>>337
GJ!というかもう本当に毎回ありがとうございますと感謝する勢いなんだが
シオカラとほづみさんの微笑ましさマジパネェっす
348:名無しさん@ピンキー
09/06/09 13:08:36 5Dp/zL90
少女漫画で和風だったと思うんだけど
ワンコと人間の退魔士が旅する何とかの玉って漫画知ってるか?
昔、従兄弟の家で読んでたんだが
異種間の恋愛話ばっかりだった記憶がある。
349:859 ◆93FwBoL6s.
09/06/09 17:32:30 jlfrHoVP
近頃自分ばかりで気が咎めますが、賑やかしに投下。
河童×少女の和姦ですが、河童に関して俺的解釈が含まれるので御注意を。
・河童の体格が成人男性並みに大きい
・妖怪じゃなくて水神
・タイトルが時代物っぽいけど現代物
それらが許せる方はどうぞ。NGは河童と村娘で。
350:河童と村娘1 1 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/09 17:33:20 jlfrHoVP
一歩、一歩、軟らかい土を踏み締める。
たっぷりと水を含んだ腐葉土がスニーカーの下で潰れ、落ち葉の間から泥混じりの水が溢れ出した。
木々の隙間から零れる日差しと夏の暑さで充分成長した雑草を、両手で掻き分けながら進んでいく。
前回の自分の足跡を探したが、先日の雨で消えていた。だが、どこに行けばどう出るのかは把握している。
逞しい木々の間を擦り抜けてきた頼りない風が汗ばんだ肌を舐めていき、一時だけ涼しさを与えてくれた。
背丈を追い越すほど伸びた雑草を掻き分けると、木々が開け、きらきらと目映く輝く清流が流れていた。
思わず声を漏らしてから、川に近付いた。胸まで浸かるほどの深さで、底の石は青い苔に覆われていた。
背負っていたリュックサックを手近な岩に下ろし、タオルで汗を拭ってから、清美は深く息を吸って呼んだ。
「タキーっ、でぇーてこぉーいっ!」
腹の底から張り上げた声に驚いた野鳥が羽ばたき、言霊の切れ端が山々へと吸い込まれていった。
清美は呼吸を整えながら辺りを見回していると、細い川の水面に波紋が広がり、ぬるりと流れが変わった。
水面が膨らみ、割れ、それが直立した。緑色の肌に幾筋もの清水を滴らせた、爬虫類に似た異形だった。
頭頂部には皿があり、体毛に縁取られている。口元は鋭く尖り、色は黄色く、クチバシに他ならなかった。
滑らかなウロコに覆われた両手両足が伸び、背中には分厚い甲羅を背負い、四本指には水掻きがある。
体格は成人男性程度だが、田畑に漂う土と草の匂いに似た独特の臭気と、異形の威圧感を纏っていた。
それが大股に踏み出すと、とぷん、と頭の皿に満ちた水が揺らぎ、ぎょろりとした双眸が清美を捉えた。
「また来たか」
「うん、来ちゃった」
清美が笑むと、その異形は川から上がり、川辺に転がる石を濡らした。
「相も変わらず、物好きな」
「だって、村にいるより、山の方が楽しいから」
清美はリュックサックを開けると、瑞々しいキュウリが詰まった袋を取り出した。
「ほら、キュウリ!」
「…おお」
異形は僅かに目を見開くと、清美は岩に腰掛けた。
「一緒に食べよう。今日はお弁当も持ってきたんだ」
「皿が乾かぬ間だけだがな」
清美の手前に腰を下ろした異形は、太いキュウリを手渡されると、クチバシを開いて威勢良く囓った。
ばりぼりと噛み砕いて食べ終えてしまうと、早々に二本目を取り、青臭い匂いを放ちながら食べ続けた。
清美はその様を見つつ、大きなおにぎりと冷たい麦茶の入った水筒を取り出し、少し遅い昼食を摂った。
人でもなければ獣でもない彼が一心不乱にキュウリを囓る様は、いつ見ても微笑ましいと思ってしまう。
タキは、この川に住み着く河童である。タキという名は、清美が彼と初めて出会った場所に由来する。
いつものように山遊びをしていて道に迷い、見知らぬ滝に出た清美は、水を飲もうとして足を滑らせた。
そこにどこからともなくタキが現れ、溺れた清美を助けたばかりか、山の麓まで送り届けてくれたのだ。
その時は清美自身もなぜ助かったのか解らなかったので、何度も山に入り、あの滝を探し出そうとした。
子供の頃からずっと遊んでいる山なのに知らない場所があるのはおかしい、と、妙な好奇心を抱いていた。
だが、やはり滝は見つけられず、またも道に迷っていると、今度はこの川からタキが現れて言ったのだ。
あの滝は現世のものではない、あまり深入りすると山の神に魅入られるぞ、と、低く濁った声で喋った。
清美は河童が現れたことに驚いたが、異形を見ても怯えるどころか喜んで、また来ると言って山を下りた。
そして、翌日に山を登ると、律儀にタキは川縁で待っていた。それから、二人の奇妙な交流が始まった。
351:河童と村娘1 2 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/09 17:34:59 jlfrHoVP
「おいしい?」
おにぎりを食べ終えた清美がタキに声を掛けると、タキはクチバシの周りに付いた破片を舐め取った。
「不味ければ喰わぬ」
「そう、良かった」
「おぬしの村は、山神も気に入っておられるからな。水も土も清らかよ」
タキは十数本目のキュウリを噛み砕くと、喉を鳴らして嚥下した。
「して、今日は何用か」
「泳ぎの練習、しようと思ってさ」
清美が川を示すと、タキは分厚い皮膚を歪めて目元をしかめた。
「ここは上流、流れも速ければ水も凍えている。下流で良かろう」
「ダメだよ、村の方は。男子が占領しちゃってて、練習するどころじゃないよ」
「ならば、追い払えば良かろう」
「それが出来ないから、わざわざタキのところまで来てるんだよ。それに、タキは泳ぎが上手いもん」
「水神であるからな」
「だから、教えて?」
清美が小首を傾げると、タキは二十本目であろうキュウリを囓った。
「ならん。儂の泳ぎと人の泳ぎは違う、教えられるものではない」
「えー、一杯キュウリ貢いだじゃない」
「それとこれとは別だ」
「じゃ、何を貢げばいいの?」
「貢ぐ貢がぬというものでもなかろう」
「神様のくせにケチなんだから」
「その神を言霊で縛った挙げ句、現世と常世の狭間に引き摺り下ろしたおぬしには言われとうない」
「タキの方から出てきたじゃない」
「それは、おぬしを山神に会わせぬためよ。山神の逆鱗に触れることはあってはならん」
「私の相手をしてくれるのも、そのため?」
「おぬしを山神に至らせぬことは村を守ることであり、引いては儂らを守ることとなるからだ」
「…よくわかんない」
清美が眉を下げると、タキはビニール袋を引っ繰り返し、最後のキュウリを取って食べた。
「いずれ解る。おぬしは村の子なのだからな」
「あぁーっ!?」
突然清美が声を上げたので、タキはぎょっとして目を見開いた。
「…何事か」
「なんでキュウリ全部食べちゃうの、私も一本ぐらい食べたかったのにぃー!」
「ならば、先に申せば良い」
「山ほど持ってきたから、ちょっとは余ると思ったんだよ! タキのいやしんぼ!」
「これ、水神に向かってなんという口の利き方か!」
「だって本当のことだもん!」
「ならば選り分けておかぬか! そうしておれば儂も喰わぬというもの!」
「だって、だって、三十本はあったんだよ? 常識で考えてみてよ!」
「人の常は儂には解らぬ」
「あー、逃げたー!」
352:河童と村娘1 3 859 ◆93FwBoL6s.
09/06/09 17:36:17 jlfrHoVP
清美がむくれると、タキはさすがに罪悪感を覚えたが、囓り掛けのキュウリを噛み砕いて嚥下した。
「面倒な娘よ…」
「山神さまーあっ! 聞いてくださぁーいっ!」
いきなり清美が山に向けて叫び出したので、タキは再び驚いて彼女を制止した。
「これ、止めぬか! 山神の耳に届いたらどうする!」
「…だってぇ」
清美がむくれたまま振り向くと、タキは辟易し、日差しで乾きつつある皿を押さえた。
「解った解った、泳ぎを教えれば良いのだな。頼むから、それ以上山神を刺激せんでくれんか。ただでさえ、
女のおぬしが儂に近付いとることを快く思っておらんのだ。その上で怒らせてみろ、儂もただでは済まぬ」
「わぁい、タキは優しいなぁ」
途端に喜んだ清美がTシャツに手を掛けたので、タキは戸惑った。
「これ、儂の前で脱ぐな! 嫁入り前であろうが!」
「大丈夫だってば、ほら」
清美がTシャツを捲り上げると、紺色のぴったりとした布地が成長途中の腹部を包んでいた。
「すぐに泳げるように、先に水着を着てきたの」
「…全く」
タキはぼやきながら、清美に背を向け、川に身を投じた。皿に水を満たしてから顔を出し、川辺を見やる。
清美はTシャツを脱いで折り畳んでから、ハーフパンツも脱いでその上に重ね、スニーカーに靴下を詰めた。
しなやかな両手両足を伸ばして準備体操を始めた清美を眺めながら、タキは得も言われぬものを感じた。
胸を反らすと膨らみかけの乳房が、背を曲げると汗ばんだ襟足が、足を伸ばすと太股が目を惹き付ける。
河野、との名字が記された名札が胸元に縫い付けられていて、それが訳の解らない感覚を増長させてくる。
スクール水着の紺色は、山の中にはない色だ。増して、そんな色の服を着た娘が立っているから妙なのだ。
だから変な気分になるのだろう、とタキは思い直してから、白いメッシュの水泳帽を被る清美を仰ぎ見た。
日差しの輪郭を帯びた少女の横顔は、瑞々しかった。
夏が訪れようとも、山の水は冷たい。
それは、冬の間に降り積もった大量の雪が溶けて作り出した水だからであり、いつの時代も変わらない。
膜の張った四本指で触れた少女の肌は青白く、体温は内側からじわりと感じられる程度に下がっていた。
体温を水に吸い取られた体を暖めるために清美が焚き火を起こしたので、タキは彼女の背後に座っていた。
水から生まれた神であるタキは、火に近付くことは厳禁だ。下手をすれば、焼き尽くされて死ぬかもしれない。
人智を越えた存在であろうとも、弱点ぐらいある。バスタオルを被った清美はくしゃみをし、大きく身震いした。
清美に流される形で泳ぎを教える羽目になったタキは、清美と共に川に入り、泳ぎを見せることになった。
清美は元々泳ぎは上手い方なのだが、やはり河童には敵わず、タキの滑らかな泳ぎを見て感嘆していた。
手本を見せた後は実習に移り、清美の泳ぎの無駄や甘さを指摘してやると、清美の泳ぎは更に良くなった。
だが、長時間川の水に浸かっていたため、清美の体温は奪われてしまい、顔色もすっかり青ざめてしまった。
なので、清美は水から上がって焚き火を起こしたが、煙が見つかると厄介なのでタキもそれに付き合った。
この川は水神の領域であり、現世とは隔絶された常世の場所だが、何かの弾みで見つかってしまっては困る。
だから、タキは僅かばかり神通力を解放し、煙が木々の上へと流れ出ている空間を歪めて煙を消していた。
「さむぅ…」
「だから言ったではないか、水は凍えておると」
タキが呟くと、清美は紫色の唇を歪めた。
「タキが平気なんだから、平気だと思ったんだよ」
「儂とおぬしは違うものよ。儂はいかなる水にも馴染むが、おぬしはそうではない」
「うぅー…」