09/10/24 20:43:24 si8iooaW
―私からすれば、お前は仔犬と何ら変わりない。……いや、褒めてるぞ、「可愛い」ってな!
一度目の誘いで彼女の領地へ逆に誘い呼ばれた時は、正に天にも昇る心地で心の中では強く拳を握り、いけると感じたものだ。
だが人見知り激しいらしい、コーネリア皇女殿下より「預かった」少年と面合わせさせ、己の嫁の如く彼を扱い愛でて、しまいには惚気まで
聞かされるという哀し過ぎるオチが待っていた。帰りに朗らかな笑顔で見送られても、その、私の気は晴れないのですがエニアグラム卿。
二度目の誘いは、ラウンズの召集の際この機会を逃すべくはないと思い、エリア11まで出向いた彼女を思い切って誘った。さっさと帰ろうとする
背中を追い掛けその肩を掴まんばかりの勢いで呼び止めた―その日は、アーニャ同席の楽しい夕食会で終わった。確かに年少者を気遣う
豪快ながら優しい貴女と、同年代としても気心が知れたアーニャとの食事は楽しかった、否定はしませんが、私の希望は違ったんです……全く。
三度目の正直。イレブンにはそういう言葉があるとスザクから聞いた―今度こそ、二人きりで、食事がしたい旨を強く強く主張し、ようやくっ!
本国に戻る機会があった時に約束をつけて、満天の星空の下二人きりのガーデンパーティを行い、ワイングラス片手にご機嫌良くほろ酔いになった
彼女へ思い切って問い掛けてみた。私のことをどう思いますか?ラウンズという立場を抜きにした前提で、と。
アルコールで潤んだ双眸をしっかりと見つめ、冗句を飛ばすでもなくふと会話が途切れ静寂がやってきた瞬間を狙って、真顔で問うた。急く心が
そうさせたのか、私の両手はグラスを持たない彼女の手を握り締めていた。ゆるゆるグラスの縁に流れる視線を追い掛け、私の眸に戻って来るのを
待って、息を飲み込む。エニアグラム卿もラウンズの前に妙齢の女性だ。淑女とは言い難いがそのナイトオブナインの名に申し分ない貴族としての
地位も備えている。社交辞令で言った台詞ではないことは、気付いてくれている筈だ。ここまでして何も分からないという無粋は流石に言わない筈。
ああ、そう信じて―握り締めた手にすら感じさせてしまうほど緊張で私の手は汗ばみ、瞬きすら出来なかったのに、彼女の答えは至って明快で、
簡潔なものだった。
「仔犬だな」
そう。これが、彼女―ノネット・エニアグラム卿が私への想いの答えだったのだ。
「でっかくて、無邪気で、人懐こい。それでいて行儀もいいし時には猟犬のような力を見せるが―まだまだ子供だ、可愛い仔犬だよ、お前は。
ああこれは褒めてるんだ、とても可愛いってな。アーニャは猫だがジノは犬だな。可愛い大型犬の仔犬。―枢木は、何だろうなぁ……いやしかし、
今更何を聞くのかと思えば。もしかして何か心配事でもあるのか?思いつめるような事が。手に汗かいてるぞ。この私で良ければ話を聞こう」
そう言って撫で撫でと。―あの明るく力強い微笑みを浮かべて撫でられて私は―何かが吹っ切れた。堪えていたものがこの機に溢れ出した
と言っても間違いじゃない。そうだ、姉弟よりも年の離れた彼女を想って望む答えが返って来るとは期待していなかった。だが、それでも!努力に
見合う言葉が、それが否定であっても返って来ると信じていたんだ。それなのに、それなのに。
「……ジノ?どうかしたの、かぁッ?!」
私は無言でエニアグラム卿の、グラスを離れて私の頭を撫でる手を掴み下ろすと、女性では長身の彼女の体躯を抱き上げた。イレブンではこれを
「お姫様抱っこ」と言うらしいが、素っ頓狂な声を上げるエニアグラム卿を無視して、私は実力行使に出る事にした。伝わらなければ、もっと単純で
分かりやすい伝え方をしよう。私だって男だ、本来なら紳士的でないこのような段階を無視した事はしたくなかったが、エニアグラム卿いや、ノネットが
分かってくれないというのなら伝えよう。身体で。ジノ?と不思議そうに眺めながらも意外に大人しくして抱かれている彼女からは、アルコールと微かな
香水のにおいがして―…ひどく興奮した。部屋までの道のりが遠く、大きく一歩をとって歩く事すら止めて走り出したい位に。ベッドの上でノネットの
しなやかな肌を堪能したい。それが煩悩ではなく恋焦がれて求めた結果なのだとこの人に伝えたい―…