09/04/18 22:54:29 y/eLYS0g
「ふう……」
町一番の豪邸のブロンクス家。そこの令嬢の午後の優雅なティータイム。
メイドが汲み入れた紅茶を一口すすってリシェルは一息つく。
ケーキを一杓子スプーンでしゃくってパクリと口を運ぶ。
「ん~~~美味しい~~~♪」
そのケーキの美味にリシェルはホクホク顔だった。なにせ今日はパティシエも特別。
おそらくこの帝国でも指折りの腕前。そんなパティシエ兼メイドのお手製おやつを口にしながら
優雅な一時を過ごすリシェル。しばらくすると傍に控えるメイドに微笑みかけて言う。
「あはっ♪よく出来てるわよ。感心。感心。褒めてつかわす。なんちゃって……あはっ♪」
「喜んでいただけて……光栄です……お嬢様……」
無邪気にはしゃぐリシェルとは対照的に、苦虫を噛み潰した表情をそのメイドは浮かべる。
引きつった笑みを浮かべながらメイドはリシェルに愛想を振りまく。プッ。クスクス。
するとリシェルは笑い声をあげる。この野郎。メイドは心の中で毒づく。
「それじゃあお代わり。もう一杯お願い。ああ、そうそう。似合ってるわよ♪その格好」
「~~~~~~~~~~~~~!!!」
そう茶化し気味に格好のことを言われてメイドはプルプルと震える。短めの銀髪。
背の丈はリシェルとそう変わらない小柄。中々にカワイイ顔立ちをそのメイドはしていた。
もっともそれが褒め言葉にはならないが。
「なによ。もっと普通にしてなさいよ。せっかくのカワイイ衣装が台無しよ♪」
それを分かっていながらリシェルは言ってくる。そのメイドももう我慢の限界だった。
ヘッドセットをのせた頭を掻き毟りながら大音声をメイドはあげる。
「だぁぁぁあああああっ!!なんだってこんな格好でメイドやらされてるんだぁぁああ!オレぇぇえええ!!!」
そうしてブロンクス家の新人メイド見習い、ライは叫びをあげる。あれから一週間。
メイドとして見事に勤め上げたリシェルとは裏腹にキッツい研修をライは余儀なくされた。
ずばり、ブロンクス家の使用人としての自覚を思い出すための御奉仕。それもメイド姿で一週間。
奉仕はともかくなにが悲しゅうてこんな格好させられなきゃあかんねん。ライは心底、泣きたくなる。
「いけませんよ。ライさん。ブロンクス家のメイドたるものそんなはしたない大声をあげたりをしては」
そうやって諭すのは自称メイド長のポムニット。先輩メイドとしてライをみっちり指導している。
メイドとしての立ち振る舞い。リシェルの時よりも厳しくスパルタに。
ああ、身も心もメイドに染まっていくライさん。ス・テ・キ・♪
「そうそう。せっかくお茶汲みが上手くできるようになったんだから頑張んなさいよ♪もっと、もっと」
「くっ、うぅ……」
「返事は?」
「はい。お嬢様……」
そんなライに対して素のお嬢様ぶりで勝ち誇るリシェル。こっちもこっちで楽しんでいた。
(覚えてろよ……ハア……)
心の中でそう呟きながらライは溜息づいていた。つかの間の御主人様体験の後は恥辱のメイド日和。
悲しき雇われの身分を改めて思い知らされるライ。やっぱ、オレ、一生尻に敷かれっぱなしなのかな?
そんな疑念も頭の中に浮かんでくる。
「さあ、今日もたっぷりと御奉仕してもらうわよ。もちろん、朝から夜までみっちりと。えへっ♪」
「もう勘弁してくれぇぇ……」
そうしてライのメイド修行はまだまだ続く。挫けるなライ。頑張るんだライ。
いつしかメイドを極めたメイドマスターとなるその日まで。(なってたまるかっ!そんなもんっ!)
~fin~