【田村くん】竹宮ゆゆこ 12皿目【とらドラ!】at EROPARO
【田村くん】竹宮ゆゆこ 12皿目【とらドラ!】 - 暇つぶし2ch2:名無しさん@ピンキー
09/03/10 15:44:08 X/mOq90s
☆☆狩野すみれ兄貴の質問コーナー☆☆☆

Q投下したSSは基本的に保管庫に転載されるの?
A「基本的にはそうだな。無論、自己申告があれば転載はしない手筈になってるな」

Q次スレのタイミングは?
A「470KBを越えたあたりで一度聞け。投下中なら切りのいいところまでとりあえず投下して、続きは次スレだ」

Q新刊ネタはいつから書いていい?
A「最低でも公式発売日の24時まで待て。私はネタばれが蛇とタマのちいせぇ男の次に嫌いなんだ」

Q1レスあたりに投稿できる容量の最大と目安は?
A「容量は4096Bytes、一行字数は全角で最大120字くらい、最大60行だそうだ。心して書き込みやがれ」

Q見たいキャラのSSが無いんだけど…
A「あぁん? てめぇは自分から書くって事は考えねぇのか?」

QこのQ&A普通すぎません?
A「うるせぇ! だいたい北村、テメェ人にこんな役押し付けといて、その言い草は何だ?」

Qいやぁ、こんな役会長にしか任せられません
A「オチもねぇじゃねぇか、てめぇ後で覚えてやがれ・・・」

3:名無しさん@ピンキー
09/03/10 17:40:07 GzX3X0KV
ぬるぽだよ

4:名無しさん@ピンキー
09/03/10 17:50:13 xZuJ5A6d
>>3
ガッだよ

5:名無しさん@ピンキー
09/03/10 17:55:36 1eUEVY5B
>>1
おつ

6:名無しさん@ピンキー
09/03/10 18:01:54 0gfIftWe
>>1
乙です

7:名無しさん@ピンキー
09/03/10 18:02:42 q6eisfwr
今日からネタバレおk?

8:名無しさん@ピンキー
09/03/10 18:13:05 wwIF2JsJ
>>7
11日からだよ

9:名無しさん@ピンキー
09/03/10 18:54:10 5meOVQJX
えーと、約5時間後に投下予定。
このスレでは久しぶりの竜虎モノです。

タイトル『―My road, Your road and Our road―』

去年俺が司会を務めた、友人の結婚披露宴を元にした作品で、竜虎の結婚式です。
正確に言えば、『儀式としての結婚式が終了した後の披露宴』。

また、途中に実際の結婚式で使われた曲、GReeeeNの『キセキ』が登場します。
「GReeeeNは嫌い」「つーか歌を使うな」などという方は回避をお願いします。

10:名無しさん@ピンキー
09/03/10 19:11:02 vGFPFQyt
>去年俺が司会を務めた、友人の結婚披露宴を元にした作品で、竜虎の結婚式です。

意味がわからん。
わざわざ「元にした」なんて言う必要は全然ないわけだから
これはつまりお前が竜児と大河の結婚式の司会をした、ということを言いたかったわけだよな?



さて全裸で正座して投下を待つか

11:名無しさん@ピンキー
09/03/10 19:23:42 oNJfXRHm
久々の竜虎………期待してます!

12:名無しさん@ピンキー
09/03/10 19:40:07 ir9dWnG1
>>1

13:名無しさん@ピンキー
09/03/10 19:51:54 iOUHVigz
>>1

>>12
E-mailの所にsage入れような、忘れただけかも知れんが

14:名無しさん@ピンキー
09/03/10 20:08:35 8g/Nq5HK
いちおつ

15:名無しさん@ピンキー
09/03/10 20:09:00 5meOVQJX
>>10
読点の位置を間違えたな・・・。
分かりやすく言うと「去年、俺が司会を務めた友人の結婚披露宴」を元にした作品です。

16:名無しさん@ピンキー
09/03/10 20:10:37 Dqt9ljR6
皮肉も理解出来ない男の人って

17:名無しさん@ピンキー
09/03/10 20:21:31 DgbpiSJh
正直その情報もらっても読む気失せるだけです^^;

18:名無しさん@ピンキー
09/03/10 20:28:10 vGFPFQyt
ボスニアで体験した実話を元にしたあみドラSSです、なんてわざわざ言う奴はいるまい。
それと同じだ。
何が発想の元になったかを説明するなんてタイガーの髪一本ほどの意味もねえ
萌えればおK
萌えなきゃNG

さあこっちは全裸で正座して待ってるんだぜ
お前が司会した竜児と大河の結婚式のSSをkwsk

19:名無しさん@ピンキー
09/03/10 20:32:56 Vu6I15wK
>>18
論旨の是非はともかく例えが怖すぎるんですけどw

20:名無しさん@ピンキー
09/03/10 20:40:56 CMQw3ZC5
SSじゃなくて、普通のやり取りの中で
クールポコネタやった書き込みって消えたの?

21:名無しさん@ピンキー
09/03/10 20:41:43 0gfIftWe
おまえが正座なら俺は逆立ちだっ!!!!

22:名無しさん@ピンキー
09/03/10 20:44:16 bsUwMV+W
>>21
頭に血上って死ぬぞww

23:名無しさん@ピンキー
09/03/10 20:54:03 e+AT3o6A
そうだな。ボディビル大会で実体験した北村SSなんて言う奴誰もいないよな

24:名無しさん@ピンキー
09/03/10 20:57:18 MRIl4r0s
>>18,21
俺はジャンピング土下寝する

25:名無しさん@ピンキー
09/03/10 21:08:01 oQU/AFqQ
>>23
それには興味がある

26:名無しさん@ピンキー
09/03/10 21:20:05 0SKIyAau
>>23
女体化でか?
そいつは見逃せねぇな

27:名無しさん@ピンキー
09/03/11 00:01:24 5meOVQJX
ではネタバレ解禁ということなので、投下。
以下「―My road, Your road and Our road―」

28:名無しさん@ピンキー
09/03/11 00:02:26 5meOVQJX
3月も終わりを迎えようとしている頃。
卒業式のシーズンも終わり、外は桜が乱れ咲いている。とあるホテルの、宴会場で、1つの結婚披露宴が執り行われていた。

―My road, Your road and Our road―

結婚式を先ほど終え、披露宴会場の控え室には竜児と大河の姿があった。
竜児は2年前に大河から譲り受けたブラックスーツ。
大河は竜児が作った、特製の純白のウェディングドレス。

竜児は大河と寄り添い、幸せをかみ締める。
ようやく、2人でまた、一緒に暮らせるのだ。
そう、あれからもう1年が経つ。出会ってからならば、2年。


「そろそろ、出会って2年も経つんだな」竜児が言う。
「あっという間、だったね」
「そうだな・・・。なんだか、全部懐かしいな」
そうだね。と、大河はつぶやき、今までの思い出を語り始めた。
「出会った時は、あんたはみのりんが好きで、私は北村くんが好きで」
「お前が俺の家に闇討ちかけて・・・なんて奴だよ」
「だけど、あんたはチャーハンを食べさせてくれた」
「そこから、ずっと互いの恋を応援して、でも俺達はずっと一緒にいた・・・」
「クリスマスに、私があんたが好きだと気づいて」
「でもお前はそれを封印しようと」
「それでも、やっぱりどうしても竜児が好きで」
「お前が修学旅行で、崖から落ちて」
「あんたが私を助けてくれて、その時に北村君だと思って言っちゃったんだよね・・・」
「それで、バレンタインの時に櫛枝がお前の本音を引きずり出して、」
「私は想いを伝えようとした」
「そこにお義母さんが現われて、俺は泰子にひどいことを言って、」
「それで、私達は逃げ出した。そして、その後に、やっと私は好きだと伝えて」
「俺はキスをした。そして、プロポーズして、告白した。順番滅茶苦茶だけどな・・・。」
「でも、私は嬉しかった。」
「その後、5人で話し合ったり、2人で泰子の実家行ったり」
「でも、その次の日に私はママの所に行って、しばらく会えなかった」
「でも、新学期に戻ってきてくれた。みんな・・・驚いてたな」
「色んなことがあったんだね」
「大変だったけどな・・・」
手に掴んだ幸せを、確かめるように2人は手を繋ぐ。
そして、顔を近づけ・・・

「竜ちゃ~ん。そろそろ時間だよ~」
「大河。時間よ」
2人の母親が現われた。慌てて顔を離し、立ち上がる。そして、腕を組み会場へと足を進める。


29:名無しさん@ピンキー
09/03/11 00:03:34 5meOVQJX
***

荘厳な造りの扉が開かれる。
竜児と大河のそれぞれの母親、そして竜児と大河は、会場へと入る。盛大な拍手で、家族、友人達、恩師達が迎えてくれる。
「高須夫妻の登場です!」
司会の、北村が言う。
会場の一番前に設けられた高砂。2人だけの特等席に、大河は竜児にエスコートされながら座る。

そして、会場が静かになる。北村が自己紹介を始める。
「本日の司会を務めさせていただきます、北村祐作と申します。
新郎である高須竜児さんとは、高校1年生からの友人でして、新婦の大河さんとは高校2年生からの友人です。
自己紹介はここまでにさせて頂き、開宴の挨拶をさせていただきます。
皆様、本日はお忙しい中、私の友人の結婚披露宴にご出席していただき、誠にありがとうございます。
遠路ご出席いただいたにもかかわらず粗酒粗肴で恐縮に存じますが、どうかごゆっくりお召し上がり下さい。
お礼かたがた披露宴開宴のご挨拶と致します。」

宴が、始まった。
新郎新婦の紹介では、所々ユーモアを効かせた北村で会場が沸いた。
「夫婦としては」初めての共同作業、ケーキ入刀では、竜児と大河の身長差でケーキが倒れないか心配し、無事に入刀を終えた時には誰もが胸をなでおろした。
そして、お色直し。
今は来賓の人たちは食事を始めているだろう。
その間に、竜児と大河はお色直しの為に一旦退場。

会場では、2人の友人、家族、そして恩師から送られた祝電が披露されていた。
友人は友の幸せを祝い、祈り。家族は、大切な家族の旅立ちを祝い。恩師は、教え子の幸せを心から喜び。それぞれの想いを込めて。

再び、会場の扉に2人で立った時には、竜児はタキシードに、大河はカラードレスに着替えていた。

似合う?ああ、すっげぇ似合ってるよ。

そんな会話を目でして、再び入場する。

キャンドルサービス。
会場に居る誰もが、笑顔で祝福してくれた。特に、2-Cのメンバー、そして独身(31)も。

北村の求めに応じて、独身が祝辞を述べる。

そして、竜児は緊張で固まる体をほぐす。誰にも分からないよう、小さく深呼吸。
北村に目配せをする。北村が小さく頷き、全ての照明が一斉に消える。

会場の誰もが、何が起きたんだと口々に言う。
その暗闇と喧騒が支配する世界の中、竜児はゆっくりと、立ち上がった。




30:名無しさん@ピンキー
09/03/11 00:04:05 5meOVQJX
***

「あれ・・・?竜児?」
暗闇の中、大河は竜児がいないことに気づいた。
式の最中に何処へ行ったのか。竜児は何をしようとしているのか。
何も分からない。戸惑いながらも、愛しい男の姿を求めて当りを見回す。
しかし、闇に埋もれて周囲は見えない。どこ?とつぶやいてみても、答えは返ってこない。
半ば呆然となりながら、必死で竜児を探す。
その時だ。
会場に据えられた、大きなスクリーンの前が急にラットアップされる。
竜児の姿を求める大河の目が、大きく見開かれる。

急に全ての照明が消えるのはおかしいな、とは思っていた。
スクリーンに映像を投影するためか、とも思った。しかし、普通は完全な暗闇にすることは無い。
なら、まさか停電かも、と思ったのだ。

だけど、騙された。完全に騙されたのだ。
誰もが驚いていた。まさか花嫁にまでサプライズ―知っていたのは、彼らだけか。



31:名無しさん@ピンキー
09/03/11 00:04:57 sHf/j067
そこには、今日だけの特別な舞台が用意されていた。
重厚なドラムの音が、腹を震わせる。足元から伝わる振動が、全身の血を震わせる。
ドラムにギター、ベース、キーボード。
彼らは軽音楽部で構成されたバンドだ。大河も2年前のクリスマスに、手を組んだことがあるメンバー。
奏でているのは、数年前にヒットした、ポップ調のラブソング。
そして、彼らを率いて前に立つのは・・・
「竜児・・・!」
大河は瞬きすら出来ない。
誰あろう、竜児が。
卒業式に、結婚式の準備。多忙な日々を送っていたはずの竜児は、いつ練習をしたのだろうか。
優しげな前奏が終わり、彼は歌いだす。
世界にたった1人だけの、大切な人へ。


明日、今日よりも好きになれる 溢れる想いが止まらない
今もこんなに好きでいるのに 言葉に出来ない

君のくれた日々が積み重なり 過ぎ去った日々 2人歩いた『軌跡』
僕らの出会いがもし偶然ならば? 運命ならば? 君にめぐり合えたそれって『奇跡』
 2人寄り添って歩いて 永久の愛を形にして いつまでも君の横で 笑っていたくて
アリガトウや Ah 愛してるじゃまだ 足りないけど せめて言わせて「幸せです」と


その歌とかぶさるように、竜児の写真が映し出される。目つきは小さい頃から悪い。
そして、高校1年生の終わりで、竜児の写真は終わり、今度は大河の写真が同じく高校1年生の終わりまで、映し出される。
そして、高校2年からは思い出の日々が。

高校2年生。そう、全てはそこから始まったのだ。


32:名無しさん@ピンキー
09/03/11 00:06:11 5meOVQJX
夏休みの、亜美の別荘で撮った写真。
―甘酸っぱいような、苦いような、そんな感情が込み上げる。
10月の文化祭で撮影された写真。当然、竜児が般若顔で疾走する写真も。
―あの写真を買ったとき、どんな気持ちで番号を書いたかを思い出す。
12月のクリスマスパーティで撮影された写真。
―あの日の夜を、思い出す。
1月の修学旅行での集合写真とスナップ。
―竜児が、自分を助けてくれた事をかみ締める。改めて、心から竜児が愛しいと思った。
2月、聖バレンタイン。バイト先での写真。
―あの日の逃避行と、竜児のプロポーズ。一瞬だけ、初めてのキスの感覚が蘇った気がした。
2-Cメンバーの集合写真。
―自分達の為に団結してくれた、かけがえの無い仲間に感謝する。ありがとう、と。

竜児は、その胸に秘めた熱い想いを歌へ託す。
この想いを大河に伝えたい、みんなに伝えたい、と。

 2人ふざけあった帰り道 それも大切な僕らの日々
 「想いよ届け!」と伝えた時に 初めて見せた表情の君
 少し間があいて 君が頷いて 僕らの心 満たされてく愛で
 僕らまだ旅の途中で まだこれから先も何十年 続いていけるような未来へ


そして、写真は3年生へと移り変わる。
勉強をする竜児。
友達と喋る大河。
2人で行った、花火大会。
2人で行った、夏祭り。
カラオケで熱唱する竜児。

記憶に残っていたもの、残っていなかったもの。様々な写真が映し出される。
画質や、サイズ、撮影媒体など、それぞれの写真に違いはあれど、どれも同じき大切な日々。

実乃梨が泣き、亜美も泣く。北村が、春田が、能登が、泰子が泣く。
そして、大河も。
まさか、こんな企画があるとは思いもよらなかったから。
全部全部、大事な思い出。私と竜児が歩んできた道。

―桜の舞う季節に出会い、互いの恋を応援し、それでも、どうしようもなく互いを大事に想いはじめ、惹かれあい、恋に落ちた。
そして、雪の舞う夜、婚約を交わした。
だけど、凍てつく朝日の下、私達はしばしの別れ。そして、また桜の舞う季節に再会し、大切な日々を積み重ね、竜児の誕生日を指折り数え、結婚指輪を貰った―。

それが、2人で歩んできた道。

それが、私の幸せそのものだから―


33:名無しさん@ピンキー
09/03/11 00:06:41 sHf/j067
写真はフィナーレを迎えようとしていた。
大学の合格発表で喜ぶ2人。
卒業式。
亜美・実乃梨・北村・大河・竜児の5人。
能登・春田・奈々子・麻耶を含めた9人。
大河と、その家族。
竜児と大河と、それぞれの家族の集合写真。
竜児・大河・泰子・園子・清児の5人。
色んな写真が映し出されていく。
そして、最後に。
「結婚おめでとう!」と。
大河の目から、滝のように涙がこぼれ出す。

歌も、いよいよ終盤に入る。

 うまくいかない日だって 2人で居れば晴れだって!
 喜びや悲しみも 全て分け合える 君がいるから 生きていけるから
 だからいつも そばに居てよ 『愛しい君』へ 最後の一秒まで
 
 明日 今日より笑顔になれる 君がいるだけでそう思えるから 
 何十年 何百年 何千年 時を越えよう
 ―君を愛してる・・・


 
誰もが感激で泣いていた。
その中、竜児は、竜児は―
「大河」
愛しい女の名を呼ぶ。
「プロポーズもした。結婚式も挙げた。でも・・・でも、もう一度、言わせて欲しい」
大河は、涙に濡れる顔をあげる。
「俺と・・・結婚して下さい」

―この世界の誰1人、見たことが無いものがある。

北村が、目頭を抑え、隠しようのない嗚咽をこらえながら、大河にマイクを渡す。
「お前の・・・番だ・・・」
涙を拭き、マイクを握る。
そして、息を吸う。
「はい・・・。あなたに逢えて、本当に良かった・・・。嬉しくて・・・言葉に出来ない・・・」
瞬間―。
何かが爆発したかの様に拍手が鳴り響く。


その後、両親への花束贈呈・手紙朗読、両家の謝辞、新郎新婦の謝辞、そして二次会。
全てを終えた2人は、舞い散る桜の下、家族と友人達に見送られ、新婚旅行へと旅立った。
行き先は、誰も知らない。そう、2人だけの秘密だ。


34:名無しさん@ピンキー
09/03/11 00:07:48 sHf/j067
―この世界の誰1人、見たことが無いものが、かつてあった。
  それは優しくて、とても甘い。多分、見ることができたなら、誰もがそれを欲しがるはずだ。
  だからこそ、誰もそれを見たことがない。
  そう簡単には手に入れられないように、世界はそれを隠したのだ。
  手に入れるべきたった1人が、ちゃんとそれを見つけられる。
  だから、竜児は見つけた。大河も見つけた。
  
  
「なぁ、大河」
「ん、何?」
「あのさ―、ずっと、ずっと一緒にいような」
「・・・うん!」

End


35:名無しさん@ピンキー
09/03/11 00:08:41 sHf/j067
以上です。
7巻でのクリスマスパーティでの大河と対になるように書いてみました。


36:名無しさん@ピンキー
09/03/11 00:14:39 sNqqKD6c
SSはいいんだけど歌詞勝手に引用するとアホがわくからそれだけが残念

37:名無しさん@ピンキー
09/03/11 00:35:35 vbFjrH1e
GJ
歌詞は飛ばしちゃったけどねwww

10巻読んだ後だとこれが原作に入ってても違和感ない感じに思えるのは俺だけ?

38:名無しさん@ピンキー
09/03/11 00:36:27 q6gDoFbp
>>27
GJっす。

俺も初投稿します。

ある洋楽の和訳を見て思い付いたモンなんですがって、題名でもろばれですね。初投稿なのでどうかご容赦を!!

竜児×大河で、題名は

「私を月まで連れてって」

です。

よろしくお願いします。


39:名無しさん@ピンキー
09/03/11 00:38:23 q6gDoFbp
12月も近づき、吹き付ける風が冬を感じさせる寒い夜。大河のワガママで向かったコンビニからの帰り道。
外灯にその精緻な輪郭を照らし出されたお人形のような少女の口から
「ねぇ、竜児。私、月に行きたい。私を月まで連れていきなさい。」
などと訳のわからない言葉が紡がれた。

「はぁ?」と返すなり電光一閃、鋭い目潰しが凶悪な光を放つ眼を貫く。

あまりの痛みにうずくまり、しゃがんだ視線から少女へ繰り出される眼光は「仕返しに穴という穴すべてを刺し貫いてやろうか?」などと思っているわけではない。痛いのだ。ただ猛烈に。

「なんなんだよ、いきなり!!お前が訳のわかんねぇ事を言い出すから…」と言いかけて止めた。目の前の少女から溢れ出るオーラ?はまさに野獣のそれで、「次なんか言ったら、目だけじゃすまないわよ。」と明確に伝わってくる。

「ガタガタ言わずに、ご主人様の言うこと聞きなさいよ。この惰犬!」
俺は日々怠けもせずに、それなりに頑張っているつもりなのだが…。これ以上逆らっても我が身を危険に晒すだけだろう。しかしあまりにも要領を得ない内容だ。命を懸けて尋ねてみる。

「月って夜空に輝いてるあの月だろ?行きたいって言ったって、おまえ、さすがに無理だろう。」と罵声と暴虐を覚悟で言ってみるが、返ってきた反応は予想とはまったく真逆のもので、
「そう…。やっぱり無理だよね、ごめん…。」
そんな簡単に、アッサリと折れた大河のその顔はあきらかに哀しげで、そんな顔を見せられて、放っておける訳もなく…、


40:名無しさん@ピンキー
09/03/11 00:40:15 q6gDoFbp

「そんな事言い出すには、何か理由があるんだろ?月までは無理だが、俺が行けるとこまでなら連れてってやるぞ。明日は土曜だ、多少の遠出も出来る。電車だろうが、バスだろうが、タクシーはちょっとアレだけど…まぁ少しぐらいなら大丈夫だろう。どうだ?どこに行きたい?」
そんな俺の言葉に、大河は見るみると笑顔を取り戻してくれる。

「私、星が見たいの。綺麗なのたくさん。星に囲まれて遊んでるみたいな気分になれるほど、たくさんの!!」
なんて、瞳を輝かせながら無邪気な笑顔で言ってくる。そして…
「竜児がいつも星の話してくれるでしょ?だからすっごく興味があるの。月まで行けば外灯の下の道路なんかで見るよりも、もっともっと綺麗にたくさん見れると思ったから…。」
と言って、また少し哀しげな瞳に戻る。
本心が何となくわかった気がした。
北村と兄貴の一件で、大河の心はまた居場所を見失ってしまったのだろう。もしかしたらこの大地の上からも…。それでも強くあろうとする大河の心は、上を、空を目指した。だからその為に、月を、星を求めた。
ならば俺のすることはひとつだ。
並び立つ宿命たる虎が、空を飛ぶことのできない虎が、飛ぼうともがいているのだ。それに気付いた俺が、空を飛べる竜が背中に乗せてやれば良いのだ。



41:名無しさん@ピンキー
09/03/11 00:42:11 q6gDoFbp

「大河。ここから30分ぐらい歩いたところに神社があるだろ?」

大河は少し顔を上げ、
「あのちょっと山になってるとこ?」
と話を聞いてくれている。

「そう。その神社の上にな、あんまり知られてないんだがもう一つ祠があるんだよ。そこはな、さらに高くなってるし周りに外灯もほとんど無い。だから人もほとんど来ないんだが、実はベンチも自販機もあるちょっとした公園になってるんだ。」

「うん…。」

「人も来ないし外灯もほぼ無いから、かなり星が良く見える。さらに街も一望できる。夜景スポットとしてはちょっとした穴場なんだ。今から行くか?」

「うん!!」
カバッと勢い良く、完全に竜児の眼を見る。その瞳は先程よりもなお輝きを増し、竜児はどの星よりも綺麗なモノを見つけた気がした。

その時、ふと竜児は考え込んでしまう。

本当ならばそこは、いつか櫛枝を、好きになった人を連れて行こうと秘密にしていた場所だった。

しかし何故だか、どうしても大河を連れて行きたかった。

その答えは大河の瞳に映る、世界で一番綺麗な星を見て理解した。でも、竜児はその答えを飲み込む。心の奥底に。まるで触れてはいけない物のように…。思い出してはいけない物のように…。


42:名無しさん@ピンキー
09/03/11 00:44:11 q6gDoFbp

「ハッーーークショイッ」
と豪快な大河のくしゃみで我に返り、巻いていたマフラーを大河の首に巻き付ける。

顔を赤らめながらされるがままの大河から、
「行こう、竜児♪」
と、ビシッと手が差し出された。
あまりの勢いに竜児は思わず手を差し出してしまう。
「もうっ、寒いんだから早く手を繋ぎなさいよ!!」
と、急かされ、握る。
大河がその手を強く握り返す。

「ずっとこのまま、変わらずに私のそばにいてね…。」

しかし竜児は大河のあまりの握力に驚き、その言葉を聞き逃す。

「えっ?なんか言ったか?」
「うっるさい!行くわよ駄犬!!」


ほのかな外灯のなか二人は歩き出す。


-竜児は私にとって唯一のかけがえの無い存在。私は竜児が…-


-大河は俺にとって唯一の…-


お互いの気持ちはまだ伝わらない。

だが胸に秘めた思いはひとつ…。



END

43:名無しさん@ピンキー
09/03/11 00:45:17 q6gDoFbp
あとがき

携帯からだし、初投稿だしつたないもんですみません。

読んでくれた方、ありがとうございました。

44:名無しさん@ピンキー
09/03/11 00:59:55 E+pdTEkZ
>>43
GJ、GJ
ちなみにタイトルで別に分からなかったんだけど
曲ってSail to the Moon?

45:名無しさん@ピンキー
09/03/11 01:06:08 gdYPb475
fly me to the moonじゃないかな

46:名無しさん@ピンキー
09/03/11 01:14:18 1sLO/SGG
>>35
>>43
GJです。新スレは幸先が良さそうでなによりだ。

47:名無しさん@ピンキー
09/03/11 01:36:00 q6gDoFbp
>>44-46
ありがとうございます♪

元の洋楽は45さんの仰るとおり、「FLY ME TO THE MOON」です。

最近友達がエヴァのパチンコにはまってて、懐かしくて聞いて和訳を調べたら、大河のクリスマス前ぐらいの気持ちに合うかもっと盛り上がってしまって書いちゃいました。

いゃぁ~もうホント、誉めていただいてありがとうございました♪

48:名無しさん@ピンキー
09/03/11 03:07:31 XeKLNcpH
奈々子様が能登を誘うとか

49:名無しさん@ピンキー
09/03/11 04:51:46 iypR5nCw
月に行くとか松澤を思い出すな

50:名無しさん@ピンキー
09/03/11 07:53:26 vbFjrH1e
GJ!
終わり方が綺麗で良かったぁ~

51:名無しさん@ピンキー
09/03/11 07:54:36 zBNEnLGy
松澤w
懐かしいな。私は相馬派ですがね。

52:名無しさん@ピンキー
09/03/11 07:58:18 KeHk9EFl
>>51
田村君が懐かしいか……
今奥付け見てみたらもう完結したのって4年も前のことなんだなー
まあまっちゃんは俺の嫁だが

53:名無しさん@ピンキー
09/03/11 08:36:33 P4Wj+Ln/
う~

54:名無しさん@ピンキー
09/03/11 09:34:09 TcqsDD6f
マンボッ

55:名無しさん@ピンキー
09/03/11 13:19:31 zBNEnLGy
田村君のss書きたいけど、書き難いんだよなー。

56:名無しさん@ピンキー
09/03/11 14:01:47 vbFjrH1e
そもそも俺は田村というやつを知らないんだが、おもしろいのか?

57:名無しさん@ピンキー
09/03/11 14:12:44 9suf7s3Q
わたしたちの田村麻呂くん

58:名無しさん@ピンキー
09/03/11 16:29:40 Cjj1o2iP
もともと相馬好きが集まってたんだよここにはな

まぁすっかり大河に染められちまった訳だが

59:名無しさん@ピンキー
09/03/11 16:47:39 J7N91/9w
広香たんと亜美たんが出会う話が読みたいな

60:名無しさん@ピンキー
09/03/11 17:55:07 oNuLjkF9
相馬たんの黒パンツをクンカクンカしたい

61:名無しさん@ピンキー
09/03/11 18:09:31 KSsZ/WPR
>>56
面白いよ
ぶっちゃけ好意が一貫してた田村の方が好きだ

62:SL66
09/03/11 21:43:36 PlkfLlp4
2時間20分後の午前0時に、「横浜紀行」の続編である、「我らが同志」(前編)を、
52レス(118kB)でお届けします。


63:名無しさん@ピンキー
09/03/11 21:47:21 0AQz3V74
おおっ
期待してますっ

64:名無しさん@ピンキー
09/03/11 21:57:27 E4eVutph
>>62
ちょwww52レスwww

マジパNEEEEEEEEEEE!!!

全裸で待喜してますw

65:名無しさん@ピンキー
09/03/11 21:58:40 aJwamZ7p
あみドラ来るコレ

全裸で精進潔斎して待つぜ

66:ユートピア
09/03/11 22:02:09 K/dEhNt4
>>62
自分はあなたの「川嶋亜美の暴発」を読んであみドラを書き始めました。
情景描写や心理描写など、本当に凄いです。
「横浜紀行」の続編、楽しみにしてますね。


67:名無しさん@ピンキー
09/03/11 22:07:34 9suf7s3Q
連投規制に巻き込まれないように支援必須だな

68:名無しさん@ピンキー
09/03/11 22:08:08 tb82N8jL
>>62
キタ━(━(━(-( ( (゚∀゚) ) )-)━)━) ━ !!!!!
やべぇよアニメ始まるまでに読みおわんなそうなボリュームww

69:名無しさん@ピンキー
09/03/11 22:10:50 kzkw+86A
期待

70:名無しさん@ピンキー
09/03/11 22:23:01 CGlw054I
大量投下超期待

71:名無しさん@ピンキー
09/03/11 23:02:07 rjDCWYrY
ひょーー!!
0時がまちどおしいい!

72:名無しさん@ピンキー
09/03/11 23:04:59 /FI7Mjas
読み耽っていたらいつの間にかアニメが終わっていた…なんて事のないようにしないと

73:名無しさん@ピンキー
09/03/11 23:27:05 E9FCjBnz
待ってました!!!
今夜は眠れない!!!

74:SL66
09/03/12 00:00:58 PlkfLlp4
それでは、時間になりましたので、投下を開始いたします。
今回は大学での話が中心になりますので、オリキャラ(上級生)が登場します。
また、サークル活動にありがちな上級生との確執等のトラブルもあります。
エロもB止まりですが、一応はありです。
では、投下を開始します。

75:我らが同志  1/52 by SL66
09/03/12 00:01:53 TuF2NIom
新入生の竜児には、もはや知るよしもないのだが、一昔前まで、大学の学食といえば、薄汚れたコンクリー
トの壁に煤けた天井、今や場末の定食屋でもお目にかかれそうにない安手のスチール製テーブルとパイプ椅
子が殺風景に並んでいるというのが相場だったらしい。
しかし、昨今は、何ごともファッショナブルでなければならないという風潮でもあるのか、国からの乏しい
予算に毎度毎度悲鳴を上げているはずの竜児たちが通う大学も、伝統的ではあるが、うらぶれた感じは否め
ない学食を数年前にモダンなカフェテリア形式に刷新した。
壁も天井も白一色で統一され、ガラス張りとでも表現できるほどに、屋外に面した箇所はことごとくガラス
で覆われたことにより、たとえ曇天の日であっても、フロア内には明るい雰囲気に満ちていた。
テーブルも椅子も白一色で統一された。それもホテルのレストランでのものと見紛うような、脚部にはアラ
ベスクをモチーフとしたファンシーな意匠がそれぞれに施された丸テーブルと椅子とが、整然と並べられて
いる。
さらには、窓辺にはベンジャミンらしい本物の観葉植物のおまけ付きだ。
もちろんエアコン完備で、快適なことこの上ない。
竜児は、エアコンどころか扇風機すらない古色蒼然とした理学部旧館の惨状と、この至れり尽くせりの学食
とを見比べるにつけ、富の公平な分配というものが如何に解決困難なテーマであるのかを思い知らされるのだ。
この学食と、ペイントどころかモルタルすら所々が剥げ落ちている理学部旧館の老朽化ぶりとの差異は、社
会の明と暗、陽と陰、持てる者と持たざる者との悲哀を想起させ、正直なところ理学部の学部生としては面
白くない。
本学は、理学部も看板学部であったはずなのだが、理学部の教授陣は政治的な駆け引きが苦手なのだろうか、
といった下衆の勘ぐりまでしたくなる。

「…ま、いっか…」

一学部生が勘ぐったところで事態は何も変わらない、という当たり前のことに思い至り、竜児は苦笑した。
投資とその効果といったテーマは、経済学部の連中にでも任せておけばいい。マクロ経済学は数学と密接な
関係があるにはあるが、それは今の竜児にとって興味の対象外だ。
それに白というのは、いずれは薄汚れ、うらぶれていくことを運命付けられた色でもある。偏差値相応に一
応のモラルを備えている本学の学生といえども、公共物の扱いはそれほど丁寧とはいえない。彼らの扱いに
よって、数年後、この瀟洒とも表現できそうな学食がどのような惨状を呈しているか、それは竜児にとって
も想像に難くなかった。
実際、既に白い壁の所々には、何かの腹いせなのか、土足を蹴り込んだ跡が靴底の形そのままにシミとなっ
て残っているのだ。

「さて、弁当でも食うか…」

面倒臭いことは抜きにして、観葉植物の傍ら、窓際の丸テーブルの席に座り、竜児は弁当箱を開けようとした。
当の丸テーブルの席には、亜美が竜児と差し向かいで座っており、同じく弁当箱を空けようとする。
学食の料理を食さず、敢えて自前の弁当を持ち込むというのは、はっきり言って、ちょっと目立つ。

実はこの学食、インテリアこそ、どこぞのリゾートホテル顔負けだが、肝心の料理は全く刷新されていない
らしい。
麺類のスープは業務用の濃縮されたものを水で薄めただけ。パスタは煮崩れる寸前まで茹だっているし、ソー
スも油がギトギトのいかにも不健康そうなものが掛けられていた。
丼物の具は、作り置きのせいなのか、何だかレトルトみたいに味気がない。カツ丼なんかは、作り置きのカ
ツの上に、玉ねぎを卵で和えて醤油味にしたものをぶっかけておしまいという具合。もちろん玉ねぎと卵の
和え物も作り置きだ。
さらに悪いことに、全ての料理に化学調味料がどっさりと使われているらしく、竜児も亜美も、一度食べて、
その後味の悪さに辟易した。
従って、高校時代に引き続き二人とも昼は弁当ということに相成った。
持参した弁当を学食で広げるのは少々肩身が狭いが、学食以外の教室等では飲食が禁じられているのだから
仕方がない。


76:我らが同志  2/52
09/03/12 00:02:32 TuF2NIom
しかし、竜児たち以外にも、弁当を囲んでいる学生、特に女子学生が、ほんの数人ほどだが居ないわけでは
なかった。やはり、あの味に馴染めない層は僅かながらも存在するらしい。何よりも、油ギトギト、化学調
味料どっさり、ついでに隠し味の砂糖も使いすぎの疑惑が濃厚な学食の料理ばかり食っていたら、いずれどっ
かがおかしくなりそうだ。

「今日のお弁当は、なぁ~に?」

軽い鼻歌混じりの口調で、亜美は弁当箱の蓋を取り、にんまりとする。

「へぇ、豆のご飯だぁ。まだ、生のグリーンピースが手に入ったのねぇ」

亜美の指摘がうれしかったのか、竜児は前髪を人差し指に、くるくると巻き付けた。竜児なりの照れ隠しの
つもりなのかも知れない。

「おう、スーパーかのうやで土曜日にゲットしておいたんだ。おそらく、今シーズン最後の豆ご飯だろう。
こいつだけは冷凍の豆ではうまくないからな」

その豆ご飯に添えられたおかずは、ハマチの照り焼きに、塩茹でしてほんの少しのバターを和えたグリーン
アスパラガス、出汁巻き卵、ひじきの煮物、それに高野豆腐だ。

「いつものことだけどよ、できるだけカロリーは抑えて、それでいて高蛋白になるようにしたつもりだ」

その竜児の説明に亜美は軽く「うん…」と言って、頷いた。それが、亜美なりの竜児への感謝の示し方でも
あった。

弁当箱の形状と大きさは違うものの、内容が全く同じ弁当を第三者が見たら、全員が全員、亜美が竜児の分
まで作ったものと思うことだろう。その作り手が、数学科に籍を置く三白眼の男子学生であるとは夢にも思
うまい。
ただ一人、竜児や亜美と同じ高校の出身である北村祐作を除けば…。

竜児とは別の意味で鈍感な北村は、この学食の料理についてもさして不満はないようで、毎日、律儀と言え
るほどに、カレーか、中華丼、餃子ライス等を食べていた。
竜児は、北村本人が望むのであれば、そのための弁当を作ることもやぶさかではないのだか、当の本人が希
望しないのだから致し方ない。相手方が望まぬ行為は『お節介』というものだ。

「そういえば、北村は? いつも、だいたい俺たちと一緒に昼飯を食うよな…。今日はどうしたんだ?」

亜美は、何かを思い出したかのように弁当箱の蓋を持ったままの手を止めた。

「ああ、そうだ、祐作は何でも他の大学の学生を連れてくるから、ちょっと遅れるって言ってたような…」

「何だよ、曖昧だな。その他の大学の学生って誰なんだよ、俺たちも知っている奴なのか?」

「あたしに言われても知らないわよ…。まぁ、ちょっとはうろ覚えかもしれないけど、祐作だって、さっき
あたしが言った以上のことは言わなかったんだからぁ!」

わざとなのか、ちょっと頬を膨らませ、まなじりを心持ちつり上げて竜児を見る。
竜児が見慣れた、ある意味では亜美の素の表情の一つでもあった。別に本気で怒っているわけではない。こ
れも亜美にとっては竜児に対するコミュニケーションの一種なのだろう。

「ほんじゃ、北村を持っていてもしょうがなさそうだから、食うか…」


77:我らが同志  3/52
09/03/12 00:03:16 TuF2NIom

竜児のその一言を合図に、二人は弁当に箸を付けた。
亜美は、「豆ご飯だぁ~い好き」と呟いて、グリーンピースの彩りが鮮やかなご飯を箸で掬って口にした。
そして、満足そうに、にっこりとするのだった。
竜児も自身の弁当を口に運ぶ。たしかにできは悪くない。少しだけ餅米を混ぜたのがよかったのだろう。何
しろ、このグリーンピースの彩りは、冷凍品では絶対に出せない。

「川嶋に喜んでもらえると、俺も作り甲斐があるってもんだ」

亜美は、高野豆腐を一切れ口に運んで、「うふふ…」と、ちょっと意味ありげに含み笑いをしている。

それにしても…、今日の亜美はいつにも増して機嫌がよさそうだ。

「でも何だよ、変ににやにやして気持ち悪いぞ。どっか具合でも悪いのか?」

理由は竜児にも分かっていた。亜美は、昨日の横浜でのデートの余韻に未だ浸っているのだろう。

「失礼ねぇ、具合が悪いとか言うんだぁ~」

「そりゃ、意味もなくにやにやしてたら、どっかおかしいんじゃないかと思われたって仕方ないだろ」

「ふ~ん…」

亜美の目が意地悪そうに細められ、その口元が「にっ!」と左右に心持ち引き延ばされる。これも亜美にとっ
て、素の表情の一つである性悪笑顔のお出ましだった。

「そっかぁ~、高須くんは、亜美ちゃんがのおつむがちょっとお目出度いとかぁ、失礼なことを思ってるん
だぁ~。ねぇ、そうなんでしょぉ?」

「別に、そこまでは思ってねぇよ…」

「そこまで? じゃ、多少はおかしいと考えてはいるわけだぁ~。高須くんって、何げにひどくない?」

亜美は、箸を持った手をふと止めて、竜児に妖艶な眼差しを送ってくる。竜児の表情を観察しながら、その
反応を楽しんでいるのだ。
竜児は、それを無視して食事に集中しようとするが、亜美のまとわりつくような視線が気になって仕方がない。

「なぁ、川嶋。俺の顔ばっかじろじろ見てねぇで、さっさと飯食え。行儀が悪いじゃねぇか」

「ふっふ~ん、あたし止めないよ。高須くんがあたしのことを頭がおかしいとか失礼なことを思っている以
上、それに関する釈明を聞くまでは、亜美ちゃんは、高須くんをじっと見ているからね」

「勝手にしろ」

竜児は、亜美を無視し、うつむいて弁当を食べることにした。俗に言う『犬食い』で、食事中に人の顔をじ
ろじろ見る以上に無作法とされる行為だが、亜美の視線から逃れるには、こうでもするしかない。
しかし、亜美は、うつむいている竜児の顔を覗き込むように、白くなめらかな頬を近づけてくる。
そして…、

「ねぇ~ん、た・か・す・く・ん、亜美ちゃんの目をまっすぐ見られないのは、亜美ちゃんを異常扱いした
ことを、本心では後ろめたいと思っているからなんだよねぇ? どう、図星ぃ?」


78:我らが同志  4/52
09/03/12 00:03:58 TuF2NIom

竜児の耳元で妖しく囁き、その耳朶に、ふぅ~っ、と甘い吐息を吹き込んでくるのだ。

--いかん、耳元と股間がむずむずする。

「あ~っ、もう面倒臭ぇ! おちおち飯を食ってもいられねぇ。分かった、川嶋は正常、どこもおかしく
ねぇ。これでいいだろ?」

その一言で亜美は相好を崩し、「にやり」と露骨な笑みを浮かべた。
竜児を追いつめる新たな術策を思いついたらしい。

「そうね、あたしは正常。ということは、なぜあたしが嬉しいのか、その理由が分からない高須くんの方が
異常だってことになるわね。いい?」

「よかぁねぇよ、どこでどうそんな理屈になるんだ? 俺だって正常だ。勝手に異常扱いするな」

「あら、異常な人ほど、自分は正常ですって言い張るものよね? う~ん、何だか、亜美ちゃん心配になっ
てきちゃったぁ。高須くんって、家事と勉強のし過ぎでおかしくなっちゃったんじゃなぁ~い?」

「バカ言え、忙しいのは認めるが、頭がおかしくなるほどの忙しさじゃねぇよ」

「なら、正常であることを、ちょっと証明してもらおうかしら。昨日の港の見える丘公園で、高須くんは、
あたしに何を誓ったのぉ?」

亜美の言う『誓い』とは、亜美へのプロポーズと、亜美に永遠の愛を誓うというものだ。
誓いの内容自体に異論がなかったとしても、拷問まがいの強迫で言わされたというのが内心は面白くない。
こめかみに亜美の拳骨がねじ込まれた時の電撃のような痛みは、今も記憶に鮮やかだ。
それに、隣のテーブルに座っている数人の女子学生が、さっきからちらちらとこちらを窺っている。
こんな状況で、『プロポーズ』とか『永遠の愛』なんて言える訳がない。

「誓い、何じゃそりゃ?」

とにかく、しらばっくれる。曖昧な態度でお茶を濁してごまかすに限る。
それも北村が来るまでの辛抱だ。北村がやって来たら、話題を北村と北村が連れてくるという他の大学の学
生へ強引に切り替えてしまえばいい。

「すっとぼけるんだぁ~、高須くんは、亜美ちゃんとの誓いを!」

亜美の表情が急に険しくなった。眉と目尻がつり上がり、口がへの字に曲がっている。
『いかん、かえってドツボに嵌まったか?』と、竜児は思ったがもう遅い。隣のテーブルからは先ほどの女
子学生達が「ほらほら、痴話喧嘩が始まるわよ」と、意地悪くひそひそ話をするのが聞こえてくる。

「いや、別にすっとぼけていねぇけどよ…」

「記憶にないの?」

「どうなんだろうな…」

額に汗を滲ませて曖昧な態度で逃げ切ろうとする竜児を、亜美は不機嫌そうに睨み付けていたが、それも束
の間、すぐに大きな瞳を邪険そうに半開きにし、口元を「にやり」と、歪めた。
竜児をさらに追い込むつもりなのだろう。


79:我らが同志  5/52
09/03/12 00:04:41 TuF2NIom

「高須くんは記憶力に問題があるようね。もう一度、昨日の誓いを大きな声で叫んで、その文言と意味を脳
細胞に刻みつける必要があるわ。ねぇ、あたしが先に言うから、あたしの言ったことを復唱してくれないか
しら。昨日のように…、それも、この学食に響き渡るくらいの大きな声で」

竜児は、思わず「えっ!」と絶句して周囲を見渡した。各々のテーブルには、多くの学生たちが居た。学食
は満席と言ってよい。ここであの誓いを叫んだら、学内中の笑い者だ。

「バカ、言えるか、こんな衆人環視の中で、そんなこっぱずかしいこと!」

「こっぱずかしい、っていう自覚はあるんだぁ~。なぁんだ、憶えているみたいじゃない。でも、あたした
ちの神聖な誓いを『こっぱずかしい』と貶めた罪は重いわね…」

「だから何だよ」

亜美の「うふふ…」という囁くような笑いが不気味だ。

「罰として、やっぱりあの誓いを叫んでもらいましょうか、ねぇ高須くぅ~ん」

--うへ。
いやな臭いのする冷や汗で、腋の下がじわっと湿ってきた。おそらくは、竜児の顔面は血の気が引いて青ざ
めているに違いない。当面の救いの主であるはずの北村祐作は未だ現れる気配がない。

「そ、それだけは勘弁してくれ。川嶋、分かった、俺が悪かった、ごめん、ほら、この通り謝るから…」

竜児は両手を合わせて、亜美を拝むようにして、頭を垂れた。

「ふふっ、じゃぁ、誓いを叫ぶ代わりに、今度の日曜日も、どっかにお出かけ。これで勘弁してあげる」

亜美は、「してやったり」とばかりに、にんまりとしている。

「どっかって、どこだよ?」

「それも高須くんが考えるの。亜美ちゃんへの謝罪の気持ちも込めて、あたしが喜びそうなところを見繕っ
てちょうだい」

「お、おぅ…」

気抜けしたような返事の竜児を見つめながら、亜美は嬉しそうに笑っている。
結局、亜美の術中に嵌まり、いいようにしてやられてしまった。そもそも、この種の言い合いで竜児は亜美
に勝った試しがないのだから仕方がない。
隣のテーブルに陣取っている女子の一団が、にやにやしながら見ている。亜美との会話の内容をどこら辺り
まで把握されたかが気にはなる。亜美が『デート』や『プロポーズ』等のキーワードを一言も漏らしてはい
ないことが、僅かながらの救いだろうか。竜児を翻弄しながらも、こういう点は抜け目がないのだ。


「いやぁ、高須に亜美、待たせたな!」

ざわついた学食内でもよく響きそうな声が、竜児と亜美の耳朶を打った。

「遅いぞ、北村」


80:我らが同志  6/52
09/03/12 00:05:24 TuF2NIom

亜美に問い詰められていた時に来てくれてたら、という恨めしさを込めて、竜児は声のする方を見た。真っ
赤なポロにベージュのチノパンを着た北村祐作の姿がそこにあった。色の取り合わせとしては理にかなって
はいたが、いかんせん派手過ぎるな、と竜児は思った。それでも、似合いまくっているのだから恐れ入る。
そして、その北村の右脇に控えている人物は…。

「うわっ! 櫛枝? 櫛枝じゃないか!」

推薦入学で他県の国立大に体育専攻で進学した櫛枝実乃梨の姿がそこにあった。
髪型は高校時代そのままで、鮮やかなオレンジ色のTシャツに真っ赤なデニムという出で立ちだ。
真っ赤なポロの北村以上に派手だが、きらきらと太陽のようにまばゆい実乃梨には不思議とマッチする。
ネイビーのスタンドカラーシャツにチャコールグレーのデニムの竜児や、白黒の細かい市松模様のブラウス
に黒いコットンパンツの亜美とは対称的だ。

「おいっす! 高須くんにあーみん、お久!」

実乃梨は、くるくるとフィギュアスケーターのようにスピンを決めると、弁当を突ついていた竜児と亜美に
敬礼し、そして、多分、竜児だけに向けてウインクをした。

「お、おう…」

明け透けに馴れ馴れしい実乃梨の態度に竜児は面食らった。何せ、実乃梨とは『ジャイアントさらば』した
間柄。要は、竜児を『振った』相手なのだから。

「げ、元気そうだな…。櫛枝」

袖にされた相手だけに竜児の胸中は複雑だ。会えて嬉しいのは確かだが、『何で今頃?』という不可解な気
分も否定できない。

「元気、元気! それも高須くんに会えたから、元気百倍、ふぁいと~ぉ、いっぱぁ~つ!! なのさっ!」

実乃梨は屈託なく笑っている。
竜児は内心気が気ではない。何せ、竜児の傍らには亜美が座っているのだ。
案の定、亜美は、「むっ」とばかりに頬を膨らませている。修学旅行で大喧嘩したその相手が突然やって来
たのだ。面白いわけがない。その後、和解したようだったが、結局は表面的なものだったのかも知れない。
何よりも、かつて竜児の恋愛対象であったというのが気に障るのだろう。
しかし、その不満げな表情を、亜美は作り笑いで押し殺した。いつぞや、当の実乃梨に貶された『ウソのツ
ラ』でだ。

「あら~、実乃梨ちゃん、お久しぶりぃ~。でも相変わらずねぇ、派手な服装に、そのオーバーアクション。
まぁ、実乃梨ちゃんらしいって言えばそれまでかしらねぇ~」

--か、川嶋の奴、櫛枝を挑発してやがる。

実際には、亜美に実乃梨を挑発する気はなかったのかも知れない。しかし、実乃梨がウザイ相手であること
には間違いなく、その本心が嫌味となって言動に透けていた。

「おうよ! おいら青春真っ只中、元気一杯、ド派手なファッションも若さの証拠でぃ!! 黒なんてババ
臭い色なんざぁ着てられねぇのよ」

実乃梨は啖呵を切るようにそう言うと、笑顔ながらもレーザーのように鋭い視線を亜美にぶつけ、亜美への


81:我らが同志  7/52
09/03/12 00:06:03 TuF2NIom
対抗心からか、ずいっ! と胸を張った。
そのド派手なTシャツの胸部には、実乃梨が通う大学の名が黄色いロゴででかでかとプリントされている。

--く、櫛枝もなんてことを言いやがる。今日の川嶋は黒着てるんだぞ。

一方で、露骨に『ババ臭い』と言われた亜美は、眉をぴくぴくと痙攣させて実乃梨を睨み付けた。
元々、派手な配色は好まない亜美だが、地味な服装に徹するのは、変に目立って他の学生を刺激しないよう
にとの配慮からだ。それを面と向かって腐されたのだからたまらない。

「あらぁ~、自分の大学の名前が堂々と書いてあるシャツを着て、ここに来るなんて、さっすが実乃梨ちゃ
ん。デリケートな亜美ちゃんにはできない芸当だわぁ~」

亜美は、嫌味たっぷりの猫なで声で、実乃梨を『がさつ』と貶めた。
磊落な実乃梨のドングリまなこに敵意が宿り、それが亜美の白い面相へと照準される。
双方の口調こそ辛うじて穏やかではあったが、互いの目線の交錯で火花が散るような緊迫感がその場には漂
い始めていた。

「まぁ、まぁ、二人とも、久しぶりだからか、会話が弾んでいるな」

北村が、傍観者っぽい立ち位置で、実に呑気なことを言っている。もっとも、これはこれで、北村一流の緊
張緩和策でもあるのだが…。

「そういえば、何故、櫛枝がここに来たかの説明が未だだったな。櫛枝は、今度の土曜日の午後に俺たちの
大学の女子ソフトボール部と練習試合をするから、その打ち合わせに来たそうだ。で、そのついでに俺たち
に会いに来てくれたんだよ」

北村の説明に、実乃梨は「おうよ!」と、誇らしげに顎を上げた。

「練習試合は、郊外にあるうちの大学のグラウンド。大橋の町からも近いから、今度の土曜日はちょっと見
に行かないか?」

「そういうこってぃ、高須くんもあたしの試合を見に来ておくんなまし!」

言うや否や、実乃梨は人差し指を、ぴしっと竜児に突きつけた。

「お、おぅ…」

険悪な雰囲気にもかかわらずコミカルな実乃梨の立ち居振る舞いに、不覚にも相好を崩したのがいけなかった。
ガツン! という衝撃と、間髪入れず襲ってきた鋭い痛みに竜児は「うっ!」と、息を飲んだ。
亜美が、じろりと睨んでいる。その亜美に思いっきり足を踏んづけられたのだ。

「あらぁ~、高須くんだけじゃなくって、あ・た・し・も、試合を見せていただこうかしら。応援もしなく
ちゃいけないし…。ただしぃ、自分の大学の応援だけどぉ~」

そう言って、またも実乃梨を睨み付けた。

「おうよ! 望むところでぃ!! あーみんのツラを見たら、こっちも敵愾心が燃えるってもんよ! あー
みんの応援が虚しくなるように、手加減抜きでコテンパンにしてやるぜぃ」

実乃梨は右腕を曲げ、力こぶを見せつけた。上腕には男顔負けの筋肉が盛り上がる。



82:我らが同志  8/52
09/03/12 00:06:34 TuF2NIom
「あ~ら、脳みそまで筋肉でできている人は、力こぶもすごいわね」

罵倒に等しい露骨な挑発で、実乃梨の表情がいっそう険しくなった。

「あーみん、そりゃどういう意味だ?」

「あーら、誉めたのよ。実乃梨ちゃんはアスリート、全身が筋肉のかたまり。これって誉め言葉でしょ?」

しれっとした顔で宣う亜美に、実乃梨が怒りを顕わにする。

「喧嘩売ってんのか? いい加減にしろ、この厚化粧!」

亜美も負けてはいない。眉間に皺寄せ、大きな瞳を最大限に見開いて、実乃梨を睨み付けた。

「失礼ねぇ、ナチュラルメイクよ、この脳みそ筋肉女!」

「へん! マニキュア塗ったくった爪しやがって、ろくに料理もできねぇバカ女が偉そうに。その弁当だっ
て、高須くんにこさえてもらったんだろうがぁ!!」

痛いところを突かれたのか、亜美の表情が鬼か般若のように険悪になった。

「うるさいわねぇ! あたしだって料理ぐらいするわよ。それも高須くんと一緒に晩ご飯作ってんだから、
参ったかぁ! この体育バカ!!」

「何だ、結局、高須くんにおんぶに抱っこじゃん。話にならねぇーや、女として失格!!」

「何ですってぇ、きぃーっ!!」

もはや遠慮も自重も何もない。双方とも敵意をむき出しにして罵り、睨み合う。
一触即発、何かのはずみで取っ組み合いにすらなりかねない剣呑な雰囲気だ。

「まぁ、まぁ、亜美に櫛枝、落ち着いてくれ。ここは本学の学食、公共の場だ。その点をまずはわきまえて
くれ」

さすがにまずいと思ったのだろう。北村が、亜美と実乃梨の間にさりげなく割って入ってきた。
そして…、

「じゃ、俺は、櫛枝にうちの大学を見せて回るから」

言うが早いか、亜美と睨み合っている実乃梨をその場から引き剥がした。それも、落ち着き払って、すまし
たような淡い笑みさえ浮かべながら、実乃梨を羽交い締めにしている。態度や表情に余裕すら窺わせながら
荒っぽいこともやってのけるのが、高校時代に生徒会長だった北村祐作である。

「ちょ、ちょっと、北村くん、あの不埒な厚化粧の唐変木を懲らしめなくっちゃぁ! 殿中、殿中でござる!
ぢゃなかった、天誅ぅ、天誅ぢゃあっ!!」

不満を丸出しにして抗議する実乃梨を、

「まぁ、まぁ、櫛枝。とにかくこの大学を案内するから…」

と、人畜無害そうな笑顔でなだめ、その実乃梨を引きずるようにして竜児たちの前から立ち去って行った。


83:我らが同志  9/52
09/03/12 00:07:05 TuF2NIom
生徒会がらみでは暴力沙汰寸前の様々なトラブルがあったのだろうが、それらをそつなく収拾してきた手腕
は確かなものだったようだ。

「助かった…」

亜美と実乃梨の剣呑な睨み合いが収束した安堵感から、竜児は深くため息をつき、亜美を見た。
亜美は、怒りと興奮から目を大きく見開いて、唇をわななくように震わせている。

「久しぶりだってのに、お前は…、櫛枝を挑発しやがって」

亜美は、詰る竜児を大きく見開いた瞳で、じろりと一瞥した。本来なら魅力的であるはずのその瞳は、どこ
に焦点を結んでいるのか定かでなく、薬物依存患者もかくやのサイコっぷりだ。

「何よ、あ、あっちの態度だって、む、むかつくじゃない!」

亜美は、喚くようにそう言うと、ハマチの照り焼きに『親のかたき』とばかりに箸を突き刺した。
その箸が、突き刺した勢いでしなっているのを見て、竜児は「うへっ…」と、絶句する。
隣のテーブルから例の女子学生の一団の姿が消えていた。単に食事を終えて席を立ったのかもしれないが、
亜美と実乃梨の険悪なやりとりにいたたまれなくなって退散したという推測の方が妥当だろう。
現に、隣のテーブルのみならず、周囲のテーブルに居合わせた者たちは、まるで放射性元素か何かだと言わ
んばかりに、亜美と竜児を遠巻きにしている。

北村はよかれと思って、竜児と亜美に、実乃梨を引き合わせたのだろう。
しかし、結果は裏目どころか最悪だった。亜美と実乃梨がこれほどまで険悪になるとは北村も予想外だった
に違いない。
竜児は、「さて、どうしたものか…」と呟きながら弁当の残りを半ばヤケになって咀嚼した。
学食という公共の場での醜態もさることながら、竜児にとっては、むくれている亜美のケアが当面の頭痛の
種だった。


季節は梅雨時だが、『女心と秋の空』とは、実に言い得て妙であることを、竜児は痛感させられた。
次の日曜日もデートということで、あれほど喜んでいた亜美が、先ほどの実乃梨との一件以来、目に見えて
不機嫌になっていたからだ。食事が終わった直後はもちろん、講義が終わって一緒に帰る電車の中でも、スー
パーかのうやでの買い物の最中でも、頬を心持ち膨らませ、目を鬱陶しそうに半開きにしたブス顔は変わら
なかった。

「なぁ、お前、櫛枝のこと、未だむかついているのかよ?」

「別にぃ~」

物憂げな返事しか返ってこないことは、想定済みだ。

「なら、何が気に入らない?」

「……」

「柄にもなく、だんまりか…」

かのうやでは鶏肉が特売だった。竜児は、鶏の胸肉が二切れ入っている特売パックをかごに入れようとした。

「あたし、今晩、ご飯要らないから…」


84:我らが同志  10/52
09/03/12 00:07:46 TuF2NIom

その一言は唐突だった。竜児は、「ええっ?!」と、驚いて亜美を見る。

「お前、今朝、通学途中の電車の中じゃ、今晩は家には誰も居ないから、俺の家で俺や泰子と一緒に飯を食
うって話だったじゃないか? それを急にどうしたんだよ…」

「別に、急に気が変わっただけ…。深い意味や理由なんてない」

「家で一人で食べるのもわびしいし、外食は最近口に合わないし、今度の金曜日に出席する弁理士試験対策
のサークルの打ち合わせもするから、俺の家でってことにしたんじゃないか? それにほら、この鶏肉は、
オーブンで焼いて、マッシュルームと一緒に生クリームのソースで和えるんだ。たしか、お前の好物だった
よな…」

「だから気が変わったのぉ!!」

説明口調で長くなりそうな竜児の話を拒絶するように鋭く叫ぶと、亜美は、ぷぃっ! とそっぽを向いた。

「おい、おい、じゃぁ、何でここの買い物にまでついてきたんだよ?」

「別にあんたについてきたんじゃないわよ! あたしはあたしで、自分の家で晩ご飯を一人で作るから、そ
の材料を買いに来ただけ。誤解しないで!!」

そう言いながら、亜美は亜美で、売場の角に重ねて置かれていた、『スーパーかのうや』の商標がプリント
されたプラスチックのかごを持ち出してきた。

「お、おい、川嶋、何をする気だ」

亜美は、相変わらずぶすっとした表情で、そのかごに鶏肉を放り込んだ。

「見りゃあ分かるでしょ、買い物よ。その鶏の生クリームソース和え、あたしも自宅で作るから…。だから、
今晩は高須くんの家では食事しない」

実乃梨に『ろくに料理もできねぇバカ女』『女として失格』と罵られたことが、かなり堪えていると見える。

「お前にできるのか?」と、言い出しそうになったが、竜児はその言葉を飲み込んだ。
これ以上、亜美の自尊心を傷付けるのは厳禁だ。

「なぁ、川嶋…」

竜児は、かごを持っている亜美の手を両手で包み込むようにして握った。

「せっかく同じ料理を作るんだったら、一人分よりも、大勢の、例えば、お前や俺や泰子の分まで作った方
が美味しいし、作ったもんをみんなで食べる方が楽しいだろう」

亜美は、「離してよ!」と言って竜児の手を振り払おうとしたが、竜児はさらにしっかりと亜美の手を握った。

「櫛枝に言われたことは気にするな。あいつは高校時代の全然料理しなかったお前しか知らねぇんだ。あの
時のお前と今のお前とが同じ様なもんだろうと侮っているだけだ。あいつの発言に根拠なんて全然ねぇ。
だから、機嫌なおして、俺の家で、一緒に晩飯を作ろうじゃねぇか、な?」

「でも、あたしが料理苦手なのは事実だし、高須くんにおんぶに抱っこなのも事実じゃない。それが、それが…」


85:我らが同志  11/52
09/03/12 00:08:16 TuF2NIom

亜美は、唇を噛み締めてうつむいた。『それが…』の後には、『悔しい』とか『情けない』といったことを
言いたかったのだろう。

「でもよ、川嶋は料理が苦手なのを返上しようとしている。立派なもんさ。櫛枝はその事実を知らない。そ
うした無責任な言動に振り回される義理はねぇ。それよりも、今よりももっともっと料理が得意になって、
櫛枝を見返してやろうじゃねぇか」

亜美はうつむいたま肩を震わせ、目頭を手の甲で拭った。竜児は、そんな亜美に黙ってハンカチを差し出す。

「なぁ、返事がねぇようだが、以前に川嶋が言ってたけど、こういう場合は法学上では『默示の同意』って
ことでいいんだよな? だったら、くよくよしてねぇで、残りの食材を買っちまおう。鶏のクリームソース
和えなら、あとは生クリームとマッシュルームが必要だし、付け合わせに温野菜が欲しいところだ。それに
サラダ。俺はグリーンサラダにするつもりだが、川嶋ならどうする? 川嶋が食べたいものがあるんなら、
それにするんだが…」

亜美はハンカチで目頭を拭いながら呟いた。

「ポテトサラダ…。麻耶と祐作のお弁当のために作ったあのサラダ、あれが食べたい…」

「お易い御用だ。家にジャガイモとタマネギとミックスベジタブルとキュウリのピクルスはあるから、あと
はケイパーか…。ほんじゃ、それを買って帰ることにしよう」

「うん…」

「おっと、温野菜を忘れていた。俺はブロッコリーにするつもりだが、それでいいか?」

「うん、それでいい…。ブロッコリーは緑黄色野菜だし、繊維質が多くてデトックスにもなるから、大好き」

こわばっていた亜美の表情が、ほんの少しずつほぐれてきたことを窺い、竜児はちょっと安堵した。
そう言えば、高二の秋に豚肉か牛肉かのどっちを買うか、スーパーの食肉売場で悩んでいた竜児に、背後か
ら適切なアドバイスをしたのは他ならぬ亜美だった。意外に、食材選びや料理の素養はあるのかも知れない。

「それと、肉料理だけじゃぁ、ちょっと味気ないなぁ…」

もう一品、何にするかを思い悩んでいた竜児の手を亜美が引いた。

「ねぇ、豆腐や、その加工品なんかどうかしら? 低カロリーで高蛋白なのも都合がいいし…」

そう言って、豆腐売場を指さした。その中でも大判の飛龍頭が目立つ。

「手作りの飛龍頭か、こいつはいい。美味しそうだし、大きくて食べ応えがあるな…」

「でしょ? オーブンで軽く焼いてわさび醤油で食べるだけでも美味しそうだし、下ゆでして油抜きしてか
ら、小鉢にエノキダケと茹でたスナックエンドウなんかと一緒に入れて、出汁と醤油をかけて電子レンジで
暖めるだけでもいいんじゃないかしら?」

竜児は、すらすらと調理の方針まで口にする亜美をちょっと驚いて見た。

「川嶋、お前、すげぇな。どこでそんなレシピ憶えたんだよ」



86:我らが同志  12/52
09/03/12 00:08:53 TuF2NIom
亜美は、意味ありげな淡い笑みで竜児を見た。

「インターネットよ…。自分が食べたい料理なんかのレシピを調べたりするだけでも結構楽しくって…。で
も、自宅じゃなかなか自発的になれなくてね。だから、高須くんにいろいろと教わりながら、少しずつやっ
ていけるってのは本当に嬉しい」

「お、おう…」

亜美の意外にも前向きな態度に竜児は驚くよりも、ちょっとした感動を覚えた。同時に、亜美の最大の魅力
が何であるかも竜児は漸く悟ることができた。それは、元モデルだというルックスでも、ファッションその
他のセンスの良さでも、如才なく振る舞うことができるクレバーさでもない。

「努力家なんだな川嶋は、それも人知れずこっそり練習するような…。勝手な想像で気ぃ悪くしたらすまねぇ
けどよ、モデルの仕事だって、誰も見ていないところで、ものすごい努力をしてきたんだろうな…」

亜美は、鼻筋に小じわを立てて、ちょっと竜児をからかうように笑った。

「え~っ、亜美ちゃん、努力なんて大嫌い。天才亜美ちゃんに汗くさい努力とか根性なんてのは、ぜ~んぜ
ん似合わねーしぃ~」

竜児もつられるように笑った。

「あくまでも表向きは努力を否定すんだな」

「努力って言えるほどのことはしてないし、実際に努力していたとしても、望んでいる結果が出ないうちに
『努力してます』ってのは、ちょっとねぇ…」

「おぅ、努力ってのは、人知れずしてこそ意味があるんだよな。これ見よがしに『努力してます』って言う
奴は品がないし、失敗の言い訳に『努力はしたんです』ってのは格好悪いからな。その点、努力しているこ
とをひけらかさない川嶋は立派だよ」

「う~ん、本当に努力なんかしてないんだけれど、高須くんがそう言うなら、まぁいいや…」

亜美は、苦笑しながらも、ちょっと嬉しそうに相好を崩している。
この後は、竜児の家での亜美と一緒になっての台所仕事と、泰子を交えての夕食。そして、金曜日に予定さ
れている弁理士試験受験生のサークル出席への準備に関連して、弁理士試験の状況を調べることになってい
る。
今日の実乃梨との諍いも帳消しにできるぐらい充実した時間が過ごせることだろう。

実際に、台所では手つきがちょっとだけ危なっかしい亜美をフォローしながらの調理、泰子との和気藹々と
した夕食があって、インターネットを使っての弁理士試験の情報収集もした。
亜美もそこそこ台所仕事ができるようになり、泰子も亜美との夕食を喜び、弁理士試験の実情を知ることも
できた。
特許庁のホームページで公開されている弁理士試験の試験問題の難解さと、合格率の低さには今更ながら慄
然としたが、竜児も亜美も、今後の目標を再確認した夜でもあった。

これで、旋風のように現れた実乃梨との一件も落着! と思われたが、そうは問屋が卸してはくれなかった…。
それも何かに呪われていたかのように事件が立て続けに生じたのだ。


まずは、明けて火曜日。


87:我らが同志  13/52
09/03/12 00:09:29 TuF2NIom
事件は、講義が終わって、大橋駅まで帰ってきたとき、ちょっと息抜きのつもりで通称スドバ、須藤コーヒー
スタンドバーでコーヒーを飲んでいた時に起こった。
理学部と法学部共通で講義されるフランス語の対策、『基本書』と呼ばれる弁理士試験の勉強に必要な法学
の専門書の話、それに何よりも、次の日曜日にはどこに出掛けるかといったことを、二人でとりとめのなく
話していた時のことだ。

「あら、ずいぶんと古い機種なのね…」

テーブルの上に無造作に置かれた竜児の携帯電話を亜美が指さした。今どきの携帯電話に比べると、分厚く、
全体にごっつい作りだ。

「おぅ、これか? そろそろ機種変更かと思っていたんだ。だが、最近の携帯は薄くてスタイリッシュだけ
どよ、ボタンまで薄っぺらで、ちょっと操作しにくくてなぁ、それで、今もこんな旧式を使っているんだ」

亜美は、「ふ~ん」と、言いながら、珍しい骨董品でも見るように竜児の携帯を手に取った。

「ちょっと、いじってもいい?」

「別にかまわねぇけど?」

その言葉よりも、亜美の指は素早く動いていたかも知れない。
青い色をしたちょっと古めの携帯電話のボタンを、カチカチと操作する。

「そうねぇ、たしかにあたしの持っている薄型の携帯よりもボタンを押してるっていう感じはするわね。こ
の操作する感触が気に入ってるなら、故障でもしない限り、機種変更する必要はないかも…」

「カメラの性能もそう悪くはねぇんだ。本体が分厚いから、レンズ部分とかの光学系の設計に余裕がある。
写りは今でもなかなかのもんさ」

文系の亜美には竜児の言うことがいまいち理解できなかったが、理系の竜児が言うことなのだから、本当な
のだろうと思うことにした。

「ねぇ、撮った写真を見てもいい?」

「おぅ、いいよ。好きにしてくれ」

別段やましいものは何も撮っていない。まれに、スカートの中を携帯で盗撮して逮捕されるような不埒な輩
がニュースにはなるが、竜児には無縁の話だ。

「へぇ~、バスの時刻表とか、大学近くの駅に掲げてある地図とか、実用に関わるものばっか。なんかこれっ
て、すっごく高須くんらしい…」

亜美が思い描く竜児像を裏切らない写真ばかりなのだろうか。くすくすと笑いながらも、その表情には安堵
するような雰囲気があった。
だが、写真を次々と見ていた亜美の表情が急にこわばった。大きく見開いた目が、その写真に釘付けになる。

「どうした?」

亜美は一瞬だけ竜児に咎めるような視線を送ったが、すぐに元の笑顔を取り戻して「ううん、何でもない」
と、首を左右に軽く振った。



88:名無しさん@ピンキー
09/03/12 00:09:42 192+d8bg
>>62
毎度乙すぎるwwww


89:我らが同志  14/52
09/03/12 00:10:10 TuF2NIom
--そうよ、一枚くらい、こんな奴の写真があったっていいじゃない。何かの間違いかも知れないし。

気を取り直して、亜美は次の写真を見た。しかし…、

「うっ!」

次の写真も、その次の写真にも、そしてその又次の写真にも、櫛枝実乃梨が写っていたのだ。それも大口開
けて、へらへらと、まるで写真を見ている亜美を小馬鹿にするように笑っている。

亜美はバセドー氏病の患者のように目を血走らせて、竜児の携帯に記録されている写真をチェックした。実
乃梨の写真が記録されているのは、ある意味仕方がない。竜児が実乃梨に振られる前は、それなりに双方と
も親密だったのだ。

--だが、あたしは? 亜美ちゃんの写真は?

焦燥感に突き動かされながら、亜美は写真を次々とチェックしていく。
そうして、最後の写真を見終えた後、亜美は、竜児の携帯電話を震える手でぎこちなくテーブルに置くと、
がっくり、とうなだれて脱力した。
亜美の写真は一枚もなかった。そう言えば、竜児にこの携帯で写真を撮ってもらった覚えなんぞ、そもそも
なかったのだ。

「お、おい、川嶋、大丈夫か?」

「ない…」

低く微かな呟きだったが、怨嗟がこもった陰鬱極まりない声でもあった。

「ないって、何が?」

「一枚も、ない…」

「だから、何が一枚もないんだよ?」

亜美は、まるで幽霊か何かのように、ゆらりと顔を上げた。

「亜美ちゃんの写真が一枚もない…」

「なんだ、そんなことか…。そう言えば川嶋の写真は撮ったことがなかったよなぁ…」

内容そのものも誉められたものじゃないが、がっくりしている亜美を無視して、まるで他人事のように興味
の薄そうな口調で呟いたのが、明らかにまずかった。

「た、高須くん! あんたってぇ人はぁ…」

思いやりが欠片も感じられない竜児に、亜美は顔を真っ赤にして詰め寄った。

「う、うわ、川嶋、なんだよ、まじになるなって…。お、落ち着け」

「落ち着いてなんかいられないわよ! あたしの写真がなかったことだけでも許せないのに、これは何よ!!
なんで、実乃梨ちゃんは、あの女はこんなに何枚も写っているのよ!!」



90:我らが同志  15/52
09/03/12 00:10:46 TuF2NIom
突きつけられた携帯電話の液晶ディスプレイには櫛枝実乃梨の笑顔が映っていた。竜児は、『こんな写真、
未だ保存していたのか…』と一瞬思ったが、詰め寄る亜美の表情で状況が洒落にならないことを理解した。

「い、いや、櫛枝の写真は、く、櫛枝に撮ってくれってせがまれて、たしか、そんで撮ったんじゃないかっ
て、思う…」

真っ赤な嘘だった。古すぎて記憶は定かではないが、たしか竜児の方からお願いして写真を撮らせてもらっ
たはずだった。だが、正直にそんなことを言える雰囲気ではない。

「なんか、嘘くさい…」

女の勘という奴なのだろうか、『納得できない』と言わんばかりに、亜美はまなじりをつり上げた。

「そ、それと、川嶋の写真が、な、ないのはだなぁ、いや、川嶋はモデルだったし、普段、散々撮られてい
るから、カメラを向けられるのは食傷気味だと思ってさ、ほら、ストーカー事件とかあったろ…。そ、それ
で、こっちも撮らせてくれってのは言い出しにくかったし…」

我ながら下手な釈明だ、と竜児は思った。竜児が携帯で写真を撮ることに特に興味があった頃、亜美は竜児
の恋愛対象ではなかったというだけの話だ。亜美にとっては実に残酷なのだが…。

「今はもうモデルなんかやってないじゃない! ストーカーに写真撮られるのは気持ち悪いけど、高須くん
に撮って貰うのはそうじゃないでしょ! 高須くんは、女心の機微ってもんを、本当に全然分かってない」

「お、おう…、そ、そうなのか?」

「それに、『こっちも撮らせてくれってのは言い出しにくかった』って、どういうこと? なんでいきなり
『撮らせてくれって』話が飛び出すの? さっきの実乃梨ちゃんの写真は、実乃梨ちゃんからせがまれて撮っ
たんだよね? 高校時代でも実乃梨ちゃんの写真ですら自発的に撮らないあんたが、あたしの写真を撮らせ
て下さいって言う? おかしくない?」

「ど、どうなんだろうな…」

嘘がバレているらしいことに焦るが、ここはしらを切り通すしかない。

「だから本当は、実乃梨ちゃんの写真は、実乃梨ちゃんからじゃなくて、あんたの方からお願いして撮らせ
て貰ったんでしょ? で、その頃、あんたにとって好きでも何でもなかったあたしの写真は撮らなかった…。
もう、あんたは嘘が下手なんだからぁ、もうちょっと、ましな言い訳を考えなさいよっ!!」

亜美は、顔を真っ赤にして、今にも涙を零しそうに目を充血させて竜児を睨んだ。
竜児の下手な嘘は完全に見破られ、その嘘が亜美の心証を余計に害したことは間違いない。

「い、いや、それに、以前人づてに聞いたんだけど、川嶋ってさ、『たかが写真』とかって言ってたらしい
よな? そ、それで、撮らせてくれって言い出しにくくって…」

何とか事態の収拾を図ろうという苦し紛れの一言。だが、その一言が、致命的だった。

「なんで、あんたがそんなコメント知ってるの! 『たかが写真』ってのは、他の誰でもない、実乃梨ちゃ
んにしか言ってないのよ! それをあんたが知っているってぇのは…」

竜児は、『しまった、これ櫛枝から聞いたんだったっけ…』と思い出したが、もはや後の祭りであった。
亜美は、差し向かいの竜児の胸ぐらを、ぐいっ、と掴んで引き寄せた。


91:我らが同志  16/52
09/03/12 00:11:16 TuF2NIom

「う、いてて、暴力反対!」

「あんたは、いつだってそう。櫛枝、櫛枝、櫛枝、そればっか。本当にむかつくんだからぁ!!」

「お、お前、いつの話をしてるんだよ。む、昔のことじゃねぇか…。昔は昔、今は今だろ?」

「うるさ~い!」

亜美は掴んでいる竜児の胸ぐらを激しく揺さぶった。

「な、なぁ、櫛枝の写真にむかついているなら、そ、そんな写真、い、今すぐ消去するから。ゆ、許してくれ」

竜児自身、存在すら忘れていた写真である。実乃梨との思い出が消えるのは正直惜しいが、振られた女の写
真を後生大事に持っているがために、本妻のご機嫌を損ねるのは宜しくない。

「それだけ?」

亜美は、胸ぐらを掴んだ手を緩めない。それどころか、いっそう激しく、竜児の頭部を振り回すように揺さ
ぶった。

「ま、未だあんのかよ…」

「あったりまえでしょ! あんたは、あたしが何をして欲しいのか考えなさい!!」

「く、櫛枝の写真を消去するだけじゃダメなのか?」

「あんたって、本当に『気遣いの高須』なの? まぁ、既に看板倒れもいいところだけどさぁ」

「振り回されて、脳みそがどうにかなっちまう。たのむ、ヒントだけでもくれぇ!!」

竜児の首が、がくがくと震える。このままでは本当に脳震盪か何かになってしまう。

「あ~っ、もう本当に察しが悪いんだからぁ! あたしが不満な点は、何と何?!」

「ひ、一つは、櫛枝の写真を撮っていたことだ…」

「もう一つは?」

亜美の声が一段と刺々しい。竜児の察しの悪さに、亜美の怒りも臨界点に近づきつつあるようだ。

「お、お前の、しゃ、しゃ写真を撮ってなかった…」

亜美に振り回されて、意識が朦朧としてきた。

「で、その解決策は? 何?」

ここまで言われれば、いかに鈍い竜児でも察しがつく。

「しゃ、写真を、お前の写真を、と、撮る、こ、これならどうだ…」



92:我らが同志  17/52
09/03/12 00:11:44 TuF2NIom
漸く、亜美は竜児の胸ぐらを離してくれた。開放された竜児は、力なくテーブルに突っ伏した。ぐるぐると
目が回り、イヤな頭痛がする。揺さぶられたことで、脳みそが震えて頭蓋骨の内面と干渉してなきゃいいの
だが、といらぬ心配をしたくなる。

「いつまで寝てんのよ! ほら顔上げて、あたしの写真を撮る約束でしょ!」

ようやくめまいが収まりつつあった竜児は、「えっ!」と小さく叫んで亜美の顔を見た。

「今、ここでか?」

「当然でしょ? さっさと、撮る!」

その亜美の顔はお世辞にもフォトジェニックとはいえなかった。充血した目を釣り上げて、眉間にシワを寄
せ、頬を怒りで痙攣させ、顔面全体は、いかにも頭に血が上ってます、というように生え際まで真っ赤に染
まっている。

「な、なぁ、川嶋、悪いことは言わねぇ。今じゃなくて、今度にした方がいいって…。今のお前を撮ったと
しても、その何だ、いい写真は撮れないような気がするんだが…」

「いいから撮りなさい! 変な写真だったら何度でも撮り直すの! 分かった?!」

竜児は「うへっ…」と、呟いて首をすくめた。今の亜美は鬼か般若そのものだ。逆らったら、取って食われ
てしまうかも知れない。
仕方なく竜児は携帯電話のレンズを般若顔した亜美に向けてシャッターを切った。いっぱしのカメラっぽい
シャッター音の後に、撮影画像が液晶ディスプレイに表示された。案の定、ひどい顔だ。

「ダメ、なってない、やり直し!」

亜美がシートにふんぞり返って、すげなく言う。「そりゃ、モデルの表情が悪いんだからどうしようもない」
と言ってやりたかったが、言ったら間違いなくただでは済まない。

撮影二回目。

「ダメ、亜美ちゃんが、全然かわいく撮れてない!」

これもすげなく却下。
撮影三回目。これも没。四回目も五回目もダメで、亜美が、

「ふん、まぁこんなところで今日は勘弁したげる」

と、すまし顔で言ったときには、もう何回撮影したのか定かではなかった。
カウンターではマスターの須藤さんとスタッフの女子大生、それに稲毛酒店の店主を含む常連客の何人かが
哀れみとも、嘲笑ともつかない視線で竜児を見ている。何のことはない、またしても公共の場で醜態を晒し
てしまったようだ。


さらに翌水曜日。
竜児は、亜美と一緒にフランス語の予習を自宅で行っていた。以前は、ファストフード店とか、スドバとか
でやっていたのだが、結局、落ち着くところに落ち着いたと言うべきか。まぁ、スドバは、昨日の騒ぎで、
そのほとぼりが冷めるまでは、ちょっと行けそうにないという事情もあるにはあるのだが…。



93:我らが同志  18/52
09/03/12 00:12:18 TuF2NIom
フランス語の講義は、次々と学生に答えさせる『ソクラテス方式』なので、予習は気が抜けない。この点で
は、北村が選択したドイツ語の方がぬるいらしい。
亜美の話では、法学では、ドイツ語もフランス語もどちらも重要だという。これは、わが国の民法典等はフ
ランス法とドイツ法とを範としているためだろう。
一方の竜児が属する理学部数学科は、フランス語を学ぶ学生が支配的だ。今や海外文献はほとんどが英語な
ので、数学に関しては積極的にフランス語を学ぶ意義はないが、どういうわけか数学科はフランス語を学ぶ
のが多数派ということになっている。
同じ理学部でもドイツ語を学ぶ学生が圧倒的に多い化学科とは対照的だ。

「ふぇ~っ、終わった…」

英語とは勝手が違うフランス語には、入学直後はかなり悩まされたが、二人合わせての共同作業による予習
が功を奏したのか、以前に比べれば、それほど手こずるものではなくなってきていた。基本的な単語や文法
が徐々に理解できてきたのだろう。

「これで、明日の講義は何とかしのげるわね」

「おぅ、先週は、理学部の多分数学科以外の学生が答えられずに晒し者になっていたな。階段教室であれを
喰らうのは、トラウマになるほどの屈辱だから、絶対に回避したいよな」

「でも、あたしたちの力を合わせた予習で、明日は怖いもの知らずだわね」

「い~や、俺、根は臆病だから、答えられる問題でも、当てられるのは願い下げだけどな」

「自覚はしてるんだ、臆病だって…」

ちゃぶ台の差し向かいにいる亜美が、くすくすと笑った。

「そんなもん、長い付き合いの川嶋には、とっくの昔にバレてるじゃねぇか。暗いところやオカルトもダメ。
高二の夏休みじゃ洞窟で怖気づいて川嶋に笑われたし、今さら格好つけたってしょうがねぇや」

そう言うと、竜児は、やおら立ち上がった。

「どこ行くの?」

「お茶でも入れるよ。最近、美味しい紅茶の葉が手に入ったんだ。セイロン島の高地で特別に栽培された奴
だ。香りがすっきりしていて、勉強なんかで疲れたときに飲むとリラックスできる」

「うわ~っ、それ、楽しみぃ!」

ちゃぶ台に一人残された亜美は、改めて竜児の部屋を見渡した。簡素、と言ってよいほど綺麗に片付けられ
た部屋には、分厚い書籍がいくつも納められた本棚が目立つ。中にはデザインやインテリア関係の洋書もあった。

「ねぇ~、本棚にある本、ちょっと読んでいていい?」

心持ち大きな声で台所に居るであろう竜児に訊いてみる。
間髪入れず、「いいよー」という返事が聞こえてきた。

亜美はそのうちの一冊を手に取った。背表紙が英語のその本は、英国の出版社による意匠の変遷を大量の写
真で詳説するものだった。主にはロココ調からバロック、アール・ヌーヴォー等を経て現代に至るまでが、
時代毎の特色を述べながら、詳細に説明されていた。


94:我らが同志  19/52
09/03/12 00:12:50 TuF2NIom

「学校の勉強以外にもこんなものを読んでいたんだぁ…」

道理で博学なわけだ。それに理系にしては英文読解力が秀でているのは、自宅でこうしたものを読んでいた
からだろう。
人知れずの努力というのなら、こういうことを指すに違いない。

亜美は、一通りその本に目を通すと、元通りに本棚に戻した。

「あれ?」

箱でカバーされた刊行物が分厚い洋書に紛れて存在していた。亜美にも見覚えがあったそれは、高校の卒業
アルバムだ。

「こんなところに…」

亜美が卒業アルバムを手にしたのは、久しぶりだった。亜美も同じ卒業アルバムを貰ってはいるのだが、そ
のアルバムは東京の実家に預けたきりになっている。

「何だか、懐かしい…」

その卒業アルバムを手に取って開いてみた。
アルバムには写真や、学校で配布されたプリントの類がいくつか挟まっていて、ページを繰ろうとしたら、
それらがちゃぶ台の上に滑り落ちてきた。

「おっと、あたしとしたことが…」

元通りにアルバムに挟むべく、亜美はちゃぶ台の上に散らばったプリントや写真を手に取った。

「あらやだ、こんな写真持ってたんだ…」

それは文化祭でのものだった。少々、竜児と実乃梨とが手をつないでゴールしている少々癇に障る写真もあっ
たが、ミスコンの司会を務めている亜美の写真もあった。しかも、亜美の写真は、下乳がばっちり写っている。

「実乃梨ちゃんのとの写真は粗末にしてもいいけど、あたしの写真は大事になさい」

わざと怒ったような口調で呟いた。でも、竜児が自分の写真を持っていたというのは、まんざら悪い気はし
ない。

「あれ?」

写真に紛れてノートの切れ端のような紙切れも出てきた。二つ折りにされ、いくぶんシワが目立つそれは、
何てことはない紙屑のようだった。だが、わざわざ卒業アルバムに挟んでまで取っておかれていることが気
になり、亜美はその紙切れを広げた。

「何これ?」

そこに書かれていた内容を目の当たりにして、亜美の表情がこわばった。
何しろ、そのメモのような紙切れには、以下のような文言が記されていたのだ。




95:我らが同志  20/52
09/03/12 00:13:22 TuF2NIom
『コラたかすくん! みのりは怒っているよ! たいがに聞いたけど、たかすくんは転校生ちゃんとなにや
らアヤシイらしいね!? 前に屋上で言ったはずだよ、もしたいがを捨てたらそのときは…おしおきだべ~』
とあって、文末には稚拙なドクロのマークが付してあった。

「転校生ちゃん、ていうのはあたしのこと?」

文面は、大河を気遣うものらしいが、『転校生ちゃん』を邪魔な異物扱いにしているようで、何だか気に障
る。亜美にとって実乃梨は当初から苦手な存在だったが、実乃梨も亜美のことをあまり好意的には思ってい
なかったようだ。

「やっぱ、むかつく女だわ、あいつは…」

後半部分も、亜美の神経を逆撫でするには十分過ぎる内容だった。

『いちおういっておくけどね、あの転校生ちゃんはたしかにとってもかわいこちゃんだ。でもねえ、完璧っ
ていうのは、おもしろくないんだぜ? その証拠に、いつもは貪欲なみのりんレーダー(かわいこちゃん捕
捉用触手)が、今回はビタいち反応しないぜよ』

「失礼ねぇ、何なのよぉ、これぇ!!」

完璧っていうのはおもしろくないとか、かわいこちゃん捕捉用のみのりんレーダーに反応しないとか、いく
ら当人が読まないことが前提とはいえ、結構な言い草ではないか。
実乃梨も実乃梨だが、こんなメモを後生大事に保存していた竜児も竜児だ、と亜美は憤慨した。

「こんなメモなんか!!」

くしゃくしゃにして、踏みにじり、ビリビリに破り捨ててやろうかと思ったが、思いとどまった。
竜児のいない場でこの業腹なメモを処分するよりも、これをネタに竜児を追及する方が性悪チワワの冥利に
尽きる。
亜美は、ちゃぶ台に散らばった写真を卒業アルバムに元通りに挟むと、本棚に仕舞った。手元に残るのは、
あのメモだ。

「おぅ、待たせたな」

竜児が紅茶を淹れたポットと二組のティーカップを盆に載せて戻ってきた。

「川嶋の口に合えばいいんだが…、人工的に香り付けをしていないにもかかわらず、不思議と清涼感がある。
すごく頭がすっきりする香りなんだが、人によっては膏薬みたいに感じられることもあるらしいから、もし
不味いと思ったら正直に言ってくれ。ダージリンとかの無難な茶葉に変えるから」

例によって解説口調でポットに淹れた紅茶をカップに注いでいく。ポットもカップも、白い磁器のようだが、
僅かにクリーム色を帯びた暖かな感じがする。おそらくはボーン・チャイナなのだろう。
湯気とともに紅茶の香りが漂った。なるほど、竜児の言う通り、清涼感のある香りだ。膏薬というよりも、
森の若葉を思わせる清々しい感じがする。

「いい匂いね。あたし、この手の香りは好きだわ…」

「そうか、でも、最終的な判断は、実際に飲んでからにした方がよくないか?」

「そうね…」



96:我らが同志  21/52
09/03/12 00:13:50 TuF2NIom
竜児をとっちめるのも、このおいしそうな紅茶を飲み終えてからでいい。亜美は、カップに口をつけた。
ストレート・ティーが一番だ、という竜児の勧め通りに砂糖もミルクも入れないで飲んでみた。たしかに際
立った清涼感があり、そうした補助的な味付けを要しない。むしろ、下手に何かを入れたら、全てが台無し
になってしまうだろう。

「どうだ、川嶋の口に合いそうか?」

「うん、おいしい…」

「そうか、よかった…」

亜美の言葉に嬉しそうに頷く竜児を見ていると、この男は、邪気と呼べるようなものとは本当に無縁なんだ
な、と亜美は今さらながらに思う。
その罪のない笑顔を見ていると、メモの件を追及する気が失せてしまいそうだ。香り高い紅茶にも、心を穏
やかに和ませる作用があるのかもしれない。

--でも、けじめはつけさせてもらおうかしら…。

この男に邪気はない。ただ、恋愛がらみになると致命的と言えるほどに迂闊で鈍感なのが問題なのだ。

「おいしかったぁ…」

亜美は紅茶を飲み終えて、カップをソーサーに戻した。

「おぅ、香りが際だっているお茶は他にもアールグレイとかがあるが、あれは人工的に着香したものだから
個人的には好みじゃねぇな。何か、香りがわざとらしい。その点、こいつは、着香していない素のままで、
茶葉本来の香りがする」

「そうね…」

亜美は、目を細めて、含みのありそうな笑みを浮かべた。

「いかにも高須くんが好みそうな感じのお茶だよね。万事がきちんとした清廉な高須くんみたいな感じ、か
な?」

「よせやい、万事がきちんとしているわけじゃねぇし、清廉でもねぇよ、この俺は」

亜美が無条件で礼賛していると勘違いしているのだろう。竜児は、ちょっと恥ずかしそうに鼻の頭を軽く掻
いている。
その、ある意味、自意識過剰とも受け取れそうな竜児の態度が、竜児に対する亜美の加虐趣味を刺激した。

「そうよね、さしもの高須くんも、叩けば埃が出てくるかも知れないわね。いろいろと…。例えば、こんな
のとかは、どうかしら?」

隠し持っていた例のメモをちゃぶ台の上に広げた。
竜児はそれを見て、「何だ、こりゃ…」と言いかけたが、そのメモが何であるかを知ると、「うわっ!」と
叫び、それを引ったくろうと手を伸ばした。

「だめよ!」

亜美の手の方が一瞬だけ早く動き、メモをちゃぶ台から回収していた。


97:我らが同志  22/52
09/03/12 00:14:22 TuF2NIom
亜美は、それを手早く折り畳み、それをブラウスの前立てから胸の谷間に滑り込ませた。こうすれば、竜児
にメモを簡単に奪われることはない。あの櫛枝実乃梨の直筆メモが肌に直接触れているというのは、正直
ちょっと気持ち悪いが…。

「か、川嶋、そのメモだけど、読んだのか?」

「読んだわよ、当然でしょ。結構、面白いことが書いてあるじゃない。何だか、亜美ちゃんのことを色々と
貶してくれているように思えるんですけどぉ~」

「あう…」

「これって、授業中にやりとりしていたメモでしょ? 単なる一過性の情報じゃない。その場限りで後は捨
ててしまって構わないような…。なのに、どうして卒業アルバムに挟んでまで保存しておくのかしら?」

うふふ、と意地悪く笑っている亜美の顔を見ることができず、竜児は正座した膝の上に両手を突いてうつむ
いた。額から脂汗がにじんでくる。

「そ、それは…」

「あたしを小馬鹿にした文章が書いてあるけど、要は単なるノートの切れ端よね? この機会に捨てちゃっ
た方が、高須くんもすっきりするんじゃなぁ~い?」

「ううう…」

竜児が捨てるに捨てられない理由は亜美にも分かっている。好きだった実乃梨から初めて貰った手紙なのだ
ろう。振られたとはいえ、それを残しておきたいという気持ちは分かる。亜美が竜児と同じような立場だっ
たら、おそらくは同じようにするだろう。そうなると、昨日は竜児の携帯電話から実乃梨の写真を消去させ
たのは、少々やりすぎだったかも知れない。

「どう? 返事がない場合は、高須くんも知っている『黙示の同意』ってことで、捨てても構わないって判
断するけど、それで文句はないわね?」

内心では、昨日のやりとりはやり過ぎだったと思っても、意地悪くニヤリと口元を歪め、目を細めて観察す
るように竜児を見る。追い詰められた竜児の姿もまた、亜美にとってはそそられるのだ。

「どうなの?」

これが最後通牒のつもりで亜美は竜児に念押しした。返事がなければ破り捨てるまでだ。逆に『捨てないで
くれ』と懇願されたら、その時はその時、策はある。

「…す、捨てないでくれ…」

「ふ~ん、そう。亜美ちゃんの陰口をしたためた紙切れが、高須くんは、亜美ちゃんよりも大切なんだぁ~」

さりげなく『亜美ちゃんよりも大切なんだぁ~』という文言を盛り込んで竜児に揺さぶりをかける。詭弁め
いていて、我ながら意地の悪い物言いだと亜美は思った。

「そんなこたぁねえよ…」

正座してうつむいたままの竜児が、か細い声で力なく呟いた。



98:我らが同志  23/52
09/03/12 00:14:58 TuF2NIom
「そう? 高須くんは、こんな紙切れにご執心なのよね。亜美ちゃんよりも、ね?」

膝の上に置かれた竜児の手が握られたのが見て取れた。

「お、俺は、川嶋が今は誰よりも大切なんだ…。だけど、過去の思い出も捨てがたい。過去は過去、今は今
じゃねぇか。た、たのむ、そのメモは返してくれ」

竜児は亜美に向かって土下座した。
亜美はそんな竜児を目を細めて冷やかに見下ろす。こんな紙切れのために土下座までする無様な竜児がちょっ
と許せなくなった。それに、『俺は、川嶋が今は誰よりも大切なんだ』と言うのなら、それを証明して貰い
たい。

「いいわ、返してあげる。その代わり、亜美ちゃんの指示に従ってもらうけど、文句はないわね?」

「お、おう…」

不安気に顔を上げた竜児に見せつけるように、亜美は左手をブラウスの前立てに突っ込んで、例のメモをさ
らに奥の方へと押し込んだ。メモは右の乳房の下の方でブラジャーに挟まれている。

「メモはここよ。亜美ちゃんのおっぱいの中。もうブラジャーを脱がさないと取れないくらい奥の方に押し
込んであるわ…」

「か、川嶋、何のつもりだ…」

額に脂汗をにじませて、竜児が固唾を飲み込んだ。

「決まってるじゃない、高須くんがあたしのブラを脱がせてメモを取り出すの。大切なメモが取り戻せて、
高須くんが誰よりも大切に思っている亜美ちゃんのおっぱいを直に見ることができる。何なら、そのおっぱ
いを高須くんが好きにして構わない…。どう? 願っても無いことでしょ?」

「う、うう…」

脂汗を垂らしながら苦しげに唸っている竜児を亜美は冷やかに睨め付けた。根性がないのにも程がある。こ
のままでは、何時間でも正座したまま呻吟していることだろう。

「埒が明かないわね…。じゃあ、高須くん、あたしの指示する通りにやりなさい。少しでも逆らったら、メ
モは渡さない。いいわね?」

竜児からの返答はない。それでもお構いなしに、亜美は正座している竜児ににじり寄り、白い頬を竜児の顔
に近づけた。
そして、ハンカチで、浮き出ている竜児の脂汗を拭ってやる。

「まずはキスよ。それも今までにないくらい官能的でディープな奴…」

竜児からの返答を待たずに、亜美はバラ色の口唇を竜児のそれに密着させ、竜児の口唇と口蓋をこじ開ける
ようにして、舌を竜児の口腔に差し込んだ。入れ替わりに竜児の舌も亜美の口腔に侵入してくる。
二人の舌が艶かしく絡み合い、蠢いて、互いの頬の内側や上顎の粘膜を刺激する。

「う、うう~ん…」

呼吸もままならない状態で、亜美は竜児とのキスに酔い痴れる。


99:我らが同志  24/52
09/03/12 00:15:29 TuF2NIom

--悔しいけど、気持ちいい…。

身体中の体液が逆流し、全身の性感帯がさらなる刺激を求めてざわめいているかのようだった。乳首やクリ
トリスが固く、痛々しいほどに勃起してくる。
性愛にはものすごく疎いくせに、何でこんなにも竜児はキスが官能的なのだろう。快楽に陶然としながら亜
美はとりとめのないことを考える。

どれぐらい口唇を重ねていただろうか。亜美は、呼吸を整えるつもりでキスを中断した。
口唇から糸のように垂れてくる唾液を手の甲で拭う。
そして、膝を崩して座ったまま両手を後ろ手にし、竜児に向けて乳房を突き出すつもりで、上体を反らした。

「さぁ、これからが肝心よ。あたしのブラウスを脱がして…」

「お、おう…」

竜児の震える指が亜美の胸元のボタンを一つ一つ外していく。緊張した竜児の鼓動までが聞こえてきそうだ。
だが、それは亜美とて変わらない。隆起した乳房の下で、亜美の心臓もまた、どくどくと激しく脈打ってい
るのだ。

ボタンが全て外され、ブラウスの前がはだけられた。
亜美のミルク色とも表現すべき柔肌が竜児の前に晒される。

「か、川嶋、ボタンは外した。つ、次は、どうすればいい?」

「脱がしてって言ったでしょ? ボタンを外すだけじゃなくて、そのブラウスを、あたしの身体から完全に
取り去るの!」

「わ、分かった…」

竜児が、ぎこちない手つきで、亜美のブラウスの前立てを左右に広げていく。亜美の白い肩が露になり、半
袖のブラウスは、後ろ手になっている亜美の両腕を滑り落ちた。
亜美は、掌を一旦は畳から離し、手首の辺りにまとわりついているブラウスを抜き取り、それを、そのまま
脇に押しやった。そして、また先ほどと同じように後ろ手にして乳房を竜児の目の前に突き出した。
その一連の動作で、白いブラジャーに包まれた亜美の乳房が妖しく揺れる。

乳房やミルク色の肌に竜児の視線を感じ、亜美は陶然となる。竜児に自分の半裸を見られているというだけ
で、羞恥心よりも喜びで胸が高鳴ってくるのだ。

「か、川嶋、次は、ブ、ブラを外すんだよな?」

背中のホックを外すために伸びてきた竜児の腕を、亜美は身をよじって避けた。ホックを外されたら、簡単
にメモを取り出されてしまう。それでは面白くない。

「背中のホックは未だいいわ…。それよりも、肩のストラップを外してちょうだい」

「お、おう…」

竜児は、ストラップに指を掛け、慎重にそれを亜美の肩から外していく。竜児の、長く繊細でひんやりとし
た指先がほてった肌に心地よい。



100:我らが同志  25/52
09/03/12 00:16:12 TuF2NIom
「いいわ…、そのままブラを上の方から、乳首が出るまでめくって…。乳首が出るまでで、いいから…」

いよいよだ、と亜美は思った。
竜児は、『乳首が出るまで』と言われたことで一瞬躊躇したかに見えたが、亜美のブラジャーのストラップ
の付け根あたりを、震える指でそろそろと引っ張った。
勃起した乳首がブラの布地に引っ掛かる。

「うっ!」

膨れ上がった乳首に刺激を感じ、亜美は息を飲んだ。

「川嶋! 大丈夫か?」

「あ、あたしだったら大丈夫…。続けてちょうだい。ちょっと、気持ちよくて声が出ちゃっただけ…」

亜美は、仰け反ったまま首を左右に振った。
竜児は、引っ掛かっていた部分を指先でつまみ上げ、そのままゆっくりと下に引っ張って、亜美の乳首を露
にした。
桜色にほんの少し褐色を帯びた乳首が、大きめの乳輪共々ぷっくりと膨れて自己主張している。

「か、川嶋、綺麗だ…。すごく綺麗だよ…」

「うん…」

亜美は半ば恍惚として竜児に頷いた。

「ねぇ、高須くん、亜美ちゃんの首筋からキスをして、そ、そして…」

興奮して呂律が怪しくなりそうだったので、一呼吸置いた。

「す、吸って…、あ、亜美ちゃんのおっぱい、高須くんに吸ってほしい…。あ、あたしのことを誰よりも大
切に思うのなら、亜美ちゃんのおっぱいを好きにしていいよ…」

仰け反っていた亜美の上体が竜児の腕で抱き止められた。竜児のやわらかな口唇が、亜美の首筋から胸元へ
とトレースされていく。

「あああっ…」

右の乳首に口づけされた。ずきん、と疼くような快感がほとばしる。

「吸って、そのまま吸ってぇ!」

乳輪を含めた部分がすっぽりと竜児の口唇に捉えられ、そのまま吸引された。ただでさえ勃起して充血して
いる乳首に、その吸引が刺激となって、さらに多くの血液が送り込まれるような気がした。

--気持ちいい…。き、気持ちよすぎるよぅ…。

左の乳首も腫れ上がったかのように固く大きく膨れている。
その左の乳首を亜美は指先でつまんでみた。刹那、電撃のような快感が襲い、全身を駆け巡った。
クリトリスがさらに固く勃起し、膣からは淫靡な粘液が溢れ出る。



101:我らが同志  26/52
09/03/12 00:16:44 TuF2NIom
「た、高須くぅん、み、右だけじゃなくて、ひ、左もぉ…。そ、それと、ごく軽くでいいから、ち、乳首を、
か、噛んで…」

それに応えるように、竜児の前歯が固く膨らんだ左の乳輪と乳首に当てられた。

「あ、くぅ~っ!」

亜美にとって空前の快楽だった。自慰ではこれほどの疼きにも似た快感を味わったことはない。

「だ、大丈夫か? 川嶋、痛かったらすまねぇ」

亜美が痛がっているものと勘違いした竜児が、乳首への口づけを中断した。

「う、ううん、つ、続けてちょうだい。すっごく気持ちいい…」

再び、亜美の乳首が竜児の唇と舌と前歯で翻弄される。乳首が吸われ、舌先で弄ばれ、前歯で軽く噛まれる
度に、快楽が亜美の全身を駆け巡っていく。

「ねぇ、た、高須くぅん、ほ、本当は、け、経験あるんでしょ?」

あまりに刺激的な竜児の愛撫に身を委ねながら、まさか実乃梨と何かやっていたのではあるまいか、とさえ
亜美には思えた。

「ねぇよ、赤ん坊の時、泰子の乳を飲んで以来のことだよ、女の乳房を吸うなんてのは…」

亜美は、「嘘っ!」と言いかけたが、その瞬間に、竜児が今度は右の乳首を軽く噛み、舌先で転がしたことに
よる雷撃のような快感で、「うっ!」と絶句した。

その快楽に連動して、クリトリスをはじめとする陰部がズキズキと疼くように火照ってくる。
亜美はスカートの中に左手を突っ込み、ショーツのクロッチの脇から人差し指と親指を差し入れた。股間は
既にぐっしょりで、クリトリスはパンパンに腫れ上がっていた。
そのクリトリスを指先でつまみ上げるようにして刺激する。

「あ、あああっ…」

もはや意識を失う寸前の快楽に全身が支配されかかっていた。竜児の乳首への愛撫が巧み過ぎる。
亜美は、親指の腹でクリトリスをこね回すように刺激しながら、人差し指を膣に挿入した。膣に何かを入れ
るのはこれが初めてだった。正直、ちょっと怖かったが、今はさらなる快楽への欲求が何にも増して支配的
だった。
指先に粘膜の襞のような処女膜を感じた。慎重に、その真ん中にあるはずの開口部を探り当て、そこに人差
し指を押し込んでいく。
膣内は筋肉と粘膜の襞が、挿入された指を舐め回すかのように妖しく蠢いていた。

さらに奥へと進んだ亜美の指先がおちょぼ口のような突起に触れた。

「ああ…、し、子宮の入り口…」

その呟きは竜児の耳には届かなかったようだ。竜児もまた、亜美の乳房を夢中になって吸い、舐め回してい
た。

亜美は、子宮口を愛おしげに指先で撫で回した。いずれ、亜美も子を宿す時が来るだろう。何なら、それが


102:我らが同志  27/52
09/03/12 00:17:15 TuF2NIom
今日であっても構わない…。

亜美の親指が包皮が剥けてむき出しのクリトリスに触れた。痛みにも似た違和感を感じたが、指先の動きは
止まらなかった。

「あうっ!」

痛みと紙一重の激しい快感が炸裂し、人差し指をくわえ込んだ膣が収縮しながら粘液を溢れんばかりに分泌
した。

「あ、あ、あ、あ、あ、あ~っ!!」

そのまま亜美は感電したかのように、背中を海老反らせて全身を痙攣させた。

「か、川嶋! 大丈夫か?」

気遣う竜児をよそに、亜美は全身の痙攣が治まると虚ろな笑みを天井に向けて呟いた。

「いっちゃった…」

そのまま横たわり、ふぅふぅ…、と切なげに呼吸を整えながら、膣から左人差し指をゆっくりと引き抜いた。

「ぬぁ…」

ぬぽっ、という粘っこい音が微かに聞こえ、膣内を指が擦過する新鮮な刺激が亜美の身体を震わせた。

「か、川嶋、今、拭いてやるからな…」

快楽にあてられて、ぐったりとしている亜美の、顔や胸、そして先ほどまで膣内に挿入されていた左手の指
を手近にあったタオルで拭ってやる。

「高須くん…」

心配そうに覗き込む竜児のことがたまらなく愛おしくなり、両手を伸ばし、その腕を竜児の首筋に絡ませた。

「ありがとう…、高須くんが、あたしのことを誰よりも大事にしてくる、それが本当のような気がしてきた…」

「川嶋…」

亜美は、左手をブラジャーと右の乳房に間に滑り込ませ、細かく折りたたまれた紙片を取り出した。

「だから、これは返す…。高須くんの言う通り。過去は過去、今は今なんだわ…。あたしの過去に高須くん
が干渉できないように、あたしも高須くんの過去に干渉することは許されない…」

その紙片を竜児の手に握らせた。

「川嶋、すまねぇ、お前にとって愉快とは言えないことが書いてあるのに…」

「いいんだよ…、あたしが勝手に高須くんの本棚から引っ張り出してきたのが、そもそもの間違いだった…。
その上、過去と現在とを混同して嫉妬したのはあたし…。高須くんは悪くないよ」



103:我らが同志  28/52
09/03/12 00:17:52 TuF2NIom
亜美は淡い笑みを浮かべていたのだろう。心配そうに覗き込んでいた竜児もまた、安堵したように微笑んだ。

「そう、過去は過去…、あたしたちは二人で新たな歴史を作っていくことになるんだわ…」

「あ、ああ…?」

亜美の真意が理解できていないのだろう。竜児は、怪訝そうに頷き返した。

「だから、続きをしましょう。高須くんはあたしのおっぱいを啜るだけじゃなくて、あたしの全てを感じて
欲しい…。あたしも全てを高須くんに捧げるから、あたしも高須くんの全てを感じたいの」

そう言うなり、竜児の首筋に絡めていた腕を引き寄せるようにして、亜美は竜児に抱きついた。
半ば剥き出しの亜美の胸が竜児の胸に密着し、その鼓動を竜児に伝える。亜美もまた竜児の力強い鼓動を感
じた。

「あったかい…。高須くんの身体、すごくあったかいよ…」

「川嶋…」

竜児が華奢な亜美の身体を抱きしめてきた。その抱擁に、亜美は感極まって涙する。

「あたし、本当に嬉しいよ。いよいよ高須くんと一つになれるんだ…」

「俺もだ、川嶋とこうなることを、心の底では望んでいたんだ…」

亜美は、左手で竜児の右手を掴むと、それをスカートの中に誘おうとした。一瞬、竜児は抵抗するように右
手を硬直させたが、亜美が竜児の耳元で「お願い…」と甘く囁くと、呪縛が解けたかのように、素直に亜美
が導くまま、そのスカートの中に己の右手を差し入れた。
竜児の指がショーツの布地越しに亜美のクリトリスや陰裂の上を這う。

「き、気持ちいい…。自分でいじるよりか、何倍も気持ちいいよぉ」

しぼみかけていたクリトリスが再び固く張りつめ、膣からは熱い粘液がじくじくと溢れてくる。
亜美は竜児の股間に手を伸ばし、グレーのチノクロスを突き上げている陰茎を、布地と一緒に包み込むよう
に優しくなで回した。

「か、川嶋、そ、その手つき、い、いやらしいぞ…」

「高須くんの指だって、亜美ちゃんのあそこを、いやらしく弄くり回してるじゃない…。そ、それに高須く
んは、亜美ちゃんのあそこを薄いショーツ越しに弄っているけど、亜美ちゃんは、厚い布地の上から高須く
んのおちんちんを触っているんだよ、ずるくない?」

「あ、こ、こら、川嶋…」

竜児は、喘ぎながら亜美に抗議したが、竜児の股間に添えられた亜美の手は、手探りで竜児のチノパンのジッ
パーを押し下げ、ブリーフを剥いて、雄々しく隆起した陰茎を露わにした。
亜美の細長い指が、剥き出しになった亀頭を捉える。

「高須くんのおちんちん、想像してたよりも太くておっきいぃ~。それに、固くて、熱くて、びくびくして
るのぉ」



104:我らが同志  29/52
09/03/12 00:18:27 TuF2NIom
こんなに太くて大きいのが入るだろうか、と不安にはなったが、竜児と一つになりたいという不退転の決意
を思い出し、不安な気持ちを振り払った。

「お返しだ!!」

竜児の指がショーツの内側に入り込み、亜美のクリトリスを直につまんだ。

「は、はうっ! そ、そこは…」

さらに竜児の指は、亜美の尿道口と膣口を探り当て、そこを弄ぶ。本当に経験がないのかと訝るほど、竜児
の愛撫は巧みだった。亜美の歓喜に打ち震えるツボを既に心得ているかのようだ。

膣口をまさぐっていた竜児の指が、ほんの少しだけ膣内に入り込み、さらに奥まで入っていきそうな感触に、
亜美ははっとした。

「だめぇ!」

竜児の指が膣に入ったら、またオルガスムスに達してしまう。
前菜でお腹一杯になりたくなかったから、自身の陰部を掌で覆うようにして、竜児の愛撫を中断させた。

「川嶋、どうしたんだよ…」

愛撫を打ち切られて不満げな竜児に、亜美は詫びた。

「ごめんなさい…、これ以上、高須くんに弄られたら、亜美ちゃん、またいっちゃう…。二度もこんなに気
持ちよくなっちゃったら、高須くんと本物のエッチをする元気がなくなっちゃう…」

亜美は、ちょっと呼吸を整えるつもりで、言葉を切った。しかし、その間も繊細な指先で竜児の亀頭を、さ
わさわ、となで回し続けているのだが…。

「川嶋、ずるいぞ。俺にはお前のあそこを弄らせないくせに、お前は、さっきからずっと俺のを弄り倒して
るじゃねぇか…」

「ふふふ…、高須くんのおちんちんは、もう、亜美ちゃん専用なんだからね。で、このおちんちんを、亜美
ちゃんのあそこに入れるのぉ」

亜美は、竜児を上にしたまま、スカートに手を突っ込んで、ぐしょぐしょに濡れたショーツを脱ぎ捨てた。

「高須くん、裸になろう…、二人とも生まれたままの姿になって…。そして、一つになろう…。あたしは、
高須くんのものだから、亜美ちゃんの身体の中に高須くんの精液をいっぱい、い~っぱい注ぎ込んでよ」

「川嶋、そんなことしたら、妊娠しちまうかもしれねぇ…。せめてコンドームくらいは着けた方がよかぁねぇ
か?」

いい雰囲気の時に、何て無粋な、と亜美はむっとした。

「買い置きとかあるの?」

「いや…。そもそもエッチ未経験の俺がそんなもん常備しているわけがねぇ」

亜美は、不満げに頬を膨らませた。せっかくいい雰囲気になったのに、ここでコンドームを買いに行くこと


105:我らが同志  30/52
09/03/12 00:19:01 TuF2NIom
を理由に中断されたら、結局、エッチできずに有耶無耶で終わってしまうだろう。それに…。

「高須くんと初めてのエッチなんだよ、高須くんのおちんちんがゴムで絶縁されているなんて、亜美ちゃん
許せない。それは高須くんだって、そうでしょ?」

「そ、そりゃ、そうかもしんねぇけどよ…」

竜児の表情が不安げだ。亜美は、そんな竜児に気遣いはさせないつもりで、淡い笑みを浮かべた。

「あたしのことなら、気にしなくていいんだよ。なんなら妊娠したって構わない。それどころか、高須くん
の赤ちゃんを孕みたい、高須くんの赤ちゃんなら生みたい、何でだろう、今は無性にそう思う…」

「か、川嶋、もう安全日じゃなかったのか?!」

「う~ん、この前の日曜日あたりは絶対に大丈夫ぽかったけど、今日は、微妙かなぁ…。でも、さあ、女の
排卵日なんて、はっきりしないから、気にしたって仕方がないよ」

だが、竜児は、亜美の言葉に怯えるように青ざめ、頬を引きつらせ、次いで、生気を失ってうなだれた。

「川嶋、すまねぇ、俺は川嶋を妊娠させたくない。だから、妊娠の危険がありそうな時に、何の避妊具も使
わねぇで、お前とエッチすることはできねぇ…」

「ちょっと、どうしてよぅ! 亜美ちゃんと一つになるんでしょ? それが何で今になって…」

亜美は狼狽した。捨て身で竜児にぶつかったのに、ここまで来てそれはあんまりだった。
亜美は竜児の首に縋り、その首筋に白い頬を擦り付けた。今、ここで竜児を手放したら、再び、実乃梨に心
を奪われてしまうのではないか、という根拠のない不安すら湧き起こってくる。
そんな亜美に竜児は、厳かな口調で告げた。

「泰子…、お前を泰子みたいな目には遭わせたくないからだ…」

亜美は、はっとして竜児を見た。

「泰子は、十代で俺を生んで、本当に苦労の連続で、ここまでやって来たんだ。十代の女が出産して、その
後、生活していくっていうのがどれだけ大変か、俺はいやと言うほど見てきた。だから、男は無責任に女を
孕ませちゃいけねぇ…。俺の父親のように、泰子一人に苦労を押し付けるような最低な真似だけは絶対にし
ちゃいけねぇ…」

「で、でも、亜美ちゃんは…」

竜児は、それには応えず、はだけていた亜美のブラジャーを元通りにし、そのストラップを亜美の肩に掛け
た。そして、部屋の隅の方に脱ぎ捨てられていた亜美のブラウスを着せてやった。

「お前は、孕まされた女の悲惨さを分かってねぇ…。そんな悲惨な被害者は泰子くらいで十分だ。ましてや、
俺を加害者にしないでくれ…」

「加害者だなんて、大げさ過ぎるよ。たかが男女の自然な営みじゃないのぉ」

「川嶋、お前は妊娠することを軽く考えすぎちゃいねぇか? 気ぃ悪くしたら済まねぇけどよ、お前は、母
親に逆らって、役者にならずに今の大学に入ったんだよな? すでに親の心証を相当悪くしている。その上、
子供なんか身ごもったら、今渡こそ本当に勘当されちまうだろう」



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