09/08/27 19:43:32 A89JirnJ
「肝試しと託けて、あいつら俺をからかってるんだな」
戻ったら文句の一つでも言ってやろうか。悪気がないのは分かっているが。
と、外に出ようとした俺の袖を、鶴田が引っ張る。
「……」
状況に似合わず、表情が真面目だった。暗がりの中、その視線に惹きつけられる。
「戻ろうか」
しかし、戻らないと首を振る。そして俯く。
「どうした?」
予測はつく。変に俺から離れようとしないのは、そういうこと。
仕方がないな―と思いながらも、心中は嬉しいような、妙な気分だった。
暗い中で、互いに温度を確認する。なるべく、触れる部分が多くなるように、近付く。
細い体を軽く抱いてやると、ふうっと気持ち良さそうに息を漏らす。
「鶴田は神経が図太いんだな。こんな場所で、俺に求愛か」
ぶんぶんと首を振って否定する。短い髪が首元を擽る。
「緋、乃」
「緋乃?」
肯定の代わりに、安心したような溜息。
名前で呼んでほしかったようだ。全く、甘えるなと。人前で、素が出たらどうするんだ。
「ボス…愛してます」
で、俺はボスなんだね? ま、良いよ。
ゆっくり口づけを交わすと、いつの間に覚えたのか、唇で食んでくる。
生徒に手を出すのはタブー。だが、ここまで順調に来てしまうと、後戻りは出来ないんだな。
惹かれた俺が悪い。責任を感じて彼女の保護者にも、面と向かって「お付き合いをさせてほしい」と申し入れた。
両親は亡くなられていて、今は彼女の祖母が面倒を見ているのだが、意外にも受け入れてもらえた。
まあ、大っぴらにはし辛い関係なので、今はこんな状態だが……。
しなやかな体にも、女らしさを感じる。少し、頭の内まで熱くなった。
体を離すと、頭を撫でてやる。今はここまで。これ以上は、大人になってから―とそう約束していた。
真っ暗で表情はよく見えないが、息遣いはどことなく物足りなさげに感じた。
本当は俺も、こんな状況だ。理性のたがが緩んでしまわないか不安。けれども―。
「俺も緋乃のこと、愛している」
帰り道。俺は右手、彼女は左手に懐中電灯。そしてもう片方の手を繋いで、歩く。
お宮を出てすぐ、やっぱり怖いと言って寄り添われた。すぐに演技だと分かったが、何も言わない。
彼女なりの、愛情表現なんだろう。二人きりの今、少しでも俺に甘えたいと。
そんな彼女が、俺もまた好きだ。普段は見せない表情を、独り占め出来る幸せを噛み締めて―。
薄気味悪くも思える夜の山道を、幸せそうに歩く緋乃。しっかりと、握られた手。
肝試しは終わった。まあ何だ、他のペアも割と必要以上に楽しんでたようだ。
ただ不純な動機だとか、野暮なことは口にしない。代わりに明日はみっちり扱いてやる。
「おやすみなさい、ボス」
他の女子と一緒に手を振る緋乃。付かず離れず、それでも温かく接してくれる仲間がいる。
「おう、おやすみ。お前ら、夜更かしするなよ?」
俺も早めに床に就き、明日に備える。きっと明日も、今日以上に疲れる日のはず。
それでも、眠る前にもう一度、緋乃のことを思い出す。
―何か、改めて照れ臭く感じる俺は、成人していてもまだ心は大人じゃないのかもしれない。
腹の上に手を置くと、彼女の握った左手にそっと右手を添えて、目を閉じる。
今日はきっと、良い夢が見られそうだ。
おしまい
好きなシチュエーションのスレなので、もっと盛り上がってほしいな…