猟奇・鬼畜・グロ・嗜虐・リョナ系総合スレ 第8章at EROPARO
猟奇・鬼畜・グロ・嗜虐・リョナ系総合スレ 第8章 - 暇つぶし2ch200:月蝕
09/06/13 02:58:00 U8PvNTnD
いい気分だ。とても幸せだ。体が熱い・・・。

私が食べるのに夢中になっている間、板長は黙々と次の料理を調理していた。
次は焼き物のようだ。

「これはいけると思いますよ。」
板長は皿に串を3本並べておいた。
「子袋の塩焼きです。」

「うむ。これはうまい。」
食べごろの大きさに切られたアツアツの塩焼きはとても歯ごたえがあった。筋肉質の部分なのだから当然だ。
女性にとってもっとも大切な部分だ。そしてとても美味い。
そばに居る少女の顔に近づけ、「君も食べるか?」と聞いてみる。
返答はなく、少女は穏やかな笑顔を絶やさなかった。

「卵巣のスープです。」
中華風のとろみのあるスープに、白いものがいくつか浮いている。
これもなかなかのものだ。口の中ですっと溶けていくのは絶品だ。

201:月蝕
09/06/13 02:58:44 U8PvNTnD
「続いて乳房の鉄板焼きです。」

板長は、肌色のものを取り出した。
「Aカップですかね?」
「ははははははっ。それをいっちゃ悪いだろ。」
「きっと、本人も気にしていたことでしょうね。」

板長はおもむろに、小ぶりな乳首を上にして脂を引かない熱した鉄板の上にのせた。
ジューウーーーー。裏側から脂が溶け出し沸騰する。

「なにせ9割が脂肪ですから、かなり脂っこいと思いますが。」
適度に裏側を焦がし、脂が鉄板に広がってから裏返す。
裏面はカリカリなくらい焦げ目がついている。そしてまたひっくり返す。
先ほどまで、ピンク色をしていた突起は見る影もなく潰れていた。平たく陥没し、茶色く焦げ目が付いてしまった。
瑞々しかった皮膚の部分も、皺がより焦げ目が付いてしまった。
「表面はもっとよく焼いておきましょうか。」
さらに裏返しへらで押さえつける。脂がジュウジュウと音をたて食欲をそそる。

「どうぞ。」
鉄板のこちら側に寄せられたそれを、自分の好みのサイズにナイフを使い切り分けた。
バリバリと音を立てて表面が割れる。だが厚みは少ないそれの中心は以外とジューシーだった。
大量の脂で揚げた煎餅のようなものか。きっと普段なら食べても美味しくないのかも知れない。

しかし、先ほどの愛液が効いているのだろうか?とても美味いと感じた。

202:月蝕
09/06/13 02:59:07 U8PvNTnD
「もう片方はどうした?」
「今準備しています。」

もう片方は程よく凍らせてあったようだ。
板長はそれを均等にスライスしていく。黄色い断面があらわになる。
それを、皿に平たく盛り付けていく。
「しょうが醤油かにんにく醤油でどうぞ。」
「脂の融点が違うと思うのでどうかわかりませんが。馬刺しにヒントを得ました。」

乳首の中心を含んだスライスをまずは味わう。醤油にくぐらせ口に運ぶ。
先ほどまで凍っていたせいか、口の中が心地よい。
舌の上で転がすと脂肪が溶けていく。馬刺しほどの旨みは少ないが、微かに甘い。
表皮の部分が口に残る。乳首の先を舌先で転がしたあと、噛み砕いて飲み込んだ。

「こっち方がいいね。」
「そうですか。」

203:月蝕
09/06/13 02:59:54 U8PvNTnD
そのあともフルコースは続いた。

ハツやレバーなど、オーソドックスなホルモン料理も味わった。美味かった。

彼女の肉と腸を使った、ソーセージも味わった。
内臓を詰めたもの、血を詰めたもの、色とりどりのソーセージを味わうことができた。とても美味かった。

骨付きカルビ、もも肉など、焼肉も堪能した。最高に美味だった。

今日のところはさすがにもう食えない。大食漢である私も音を上げた。

中世の貴族がそうしたように、吐き出せば料理をもっと堪能できるだろうが、そのような気は更々ない。
『彼女をすべて私の血肉にかえてやりたい・・・。』
そう思った。

私はようやく気づいた。なぜ彼女が自分から去っていったのかを。自分が何を求めていたのかを。
今まで、自分がこのような人を喰らう獣になったのは、彼女のせいだと思っていた。いや、そう思いたかったのだ。
何のことはない、私は最初から獣だった。私は彼女を食べてみたかったのだ。
きっと私の中に潜む狂気に彼女は気がついたのだろう。

「ではデザートに甘いものをどうぞ。」
「皮や骨から抽出したゼラチンで作ったゼリーです。」
「ああ、これなら食えそうだ。」

口に含んだそれは、甘く、そしてかすかにほろ苦い。
「初恋の味がする。」

私は涙を流していた。

204:月蝕 ~エピローグ~
09/06/13 03:00:36 U8PvNTnD
ずっと、私のそばで微笑む少女。
板長の粋な計らいで参加したもう1人のホスト、食材の提供者である月島きらり嬢本人だ。
首から上のみを台に固定された彼女は、ずっと微笑みを絶やさなかった。さすがにアイドルだ。

「彼女はどうします?」
「そうだな。明日の食材に回してくれ。」
彼女の顔をいつまでも見ていたいが、そうもいくまい。

「脳みその天ぷらやバター炒め、シチューあたりが美味しいと思いますよ。」
「そうだな、それ全部頼む。」
「あと、舌は、半分は塩タンで、残りはスモークにしてくれ。」
「そして、唇は生で。」

明日も楽しみだ。

205:名無しさん@ピンキー
09/06/13 08:18:17 j+RrKVV1
もう少し熟成期間を取れば味もよくなったかも知れないね

206:名無しさん@ピンキー
09/06/13 18:58:33 7wl7+RYQ
妄想が膨らんだ
でも欲を言えばビデオの中身をもっと知りたかった

GJです

207:名無しさん@ピンキー
09/06/13 23:15:16 w5SCYQsr
今から明日の夕食が楽しみですw

208:名無しさん@ピンキー
09/06/14 00:49:29 HJbaPsF1
いやもう、スレタイ通りのSSで、堪能させていただきました。
欲を言えば、解体されるところを子細に読みたかったけど。

GJです!

209:名無しさん@ピンキー
09/06/14 01:28:41 sr+pzN9E
久しぶりにSSを書いてみたんだけど、2chは規制で書き込めない。
誰か適当に話の切れ目で区切って代理でアップしてくれませんか。お願いします。
結構頑張って書いたので……。

URLリンク(www1.axfc.net)

210:名無しさん@ピンキー
09/06/14 02:31:06 sr+pzN9E
>>209
あ、オリジナル厨ニ設定満載話です。
あしからず……

211:名無しさん@ピンキー
09/06/14 07:13:32 IXnmw6os
久々に来たらなんという豊作
みんな乙&GJ!!

212:折れた翼 1/18
09/06/14 09:02:56 sr+pzN9E
クリーム色の壁面で囲まれた船内の待機所には、継続的なプロペラエンジンのうなりの音の他は、低い天井の
電灯が時折、瞬くときに発する音くらいしかしていない。
痩躯の竜騎兵はその中で壁に作りつけられた固いベンチに座って半睡眠の状態で、休息をとっていた。

天界、地上界、魔界を巻き込んだ10年に及ぶ戦争は既に最終局面にあった。
4ヶ月前、山岳同盟軍が天界において旧ヴァルハラ地区への奇襲に成功し、その大部分を勢力下に置いた時に大勢は決したと言える。
鈍足、大型、脆弱な山岳同盟の軍用飛行船が深夜とはいえ堂々帝国領を侵攻出来るようになったのもその証左であった。
竜騎兵大尉クラッススの所属の飛行船は、地上部における旧帝国領の掃討作戦に新任された司令官をのせた
旗艦の後ろで、彼の子飼いの陸兵を満載して追従している。帝都陥落も時間の問題だ。

手元の懐中時計で午前2時。全くの深夜。船隊所属の3騎の竜騎兵が3時間毎に交代して防空を担当している。
彼ら竜騎兵が跨るワイバーンは小型で軽快が売りで、騎兵をのせての長期行動は不向きである。
眠ろうにもなんとも眠りが付かない、そんな中途半端な時間。待機所の尾部側には彼の愛竜がしかれた藁の上で寝ていた。
防空の交代の時間が近い、手元の8連発ショットガンに手を伸ばした、その時だった。

船内に非常ベルが鳴り響き、電灯が消え、一拍おいて赤色の戦闘灯火に変わる。それと同時に
船体が大きく揺れクラッススは手すりを掴んで体を支える。取り舵をいっぱいにしている。クラッススは伝声管に飛びつき、艦橋を呼び出した。
「敵のタイプは?航空機ですか、屍霊ですか?」
敵襲であることは間違いない。クラッススは当直士官に問いただすと意外な答えが返ってきた。
「大尉か!見張りが船の直上に飛人をみたとの事である。爆弾槍による攻撃の可能性が―」

飛人とは、戦時下に生み出された新語である。今は敵対している帝国と平和であった頃には
ヴァルキリーと呼ばれていた。武術に秀で、高邁な精神を持ち、それでいて可憐な乙女。
かつて魔法と剣の時代にはその能力を最大限に発揮し、多くの年代記、伝説にその足跡を残してきた。
その戦乙女が付く側は必ず勝利を得ると、そんな言い伝えも広く知られている。

だが、時代は変わった。現在、魔術や秘術の類は科学技術の補完の役割しか与えられていない。

213:折れた翼 2/18
09/06/14 09:04:59 sr+pzN9E
「直ちに出撃して捜索、迎撃にあたりましょう」
「そうしてくれ」
そう話を切り上げるとクラッススは伝声管から離れ、尾部のハッチを開けるハンドルを回しはじめる。
さび付いた鉄扉は大きな音をたてて開き、それが愛竜の目覚ましとなった。
扉を開けきると、冷たい夜風が船内に吹き込んだ。竜に飛び乗る。左手は手綱、右手にショットガンを持ち一気に夜空へ躍り出る。
彼の視界には星空と雲海。その合間を巨大な飛行船3隻がそれぞれ進路を変え、回避行動に入っている。
上空を凝視するクラッススの目が黒いツバメのようなものをとらえた。
旗艦狙いに間違いない。
直ちに目標物へ竜を走らせるが、いかんせんこちらは船を出たばかり。対して向こうは
十分な高度から急降下をかけている。間に合わない。銃も届かぬ。

"ツバメ"が眼前で回避運動を続ける旗艦と重なった瞬間、あたりが昼のように明るく照らし出された。
まったく今日の相手は腕がいい。先頭を進んでいた200mの船体のど真ん中に爆発があがり、崩落をはじめている。
10kg級の対船爆弾槍の命中だ。脆い飛行船はこれを喰らえば為す術がない。

仇はとらなくてはならない。クラッススは一気に騎首をさげ、飛人を追う。彼女たちは爆撃後は一目散に退避する。
最初に捕捉できなければ逃げ切られることは確実。
その困難さから、飛人を討ち取る度に個別に撃墜章が与えられる。それをもってしても彼には余裕があった。

竜騎はみるみるうちに飛人の背後に近寄ってゆく。地上が見えてきた。真下は雑木林。まわりには休耕田が広がる。
竜が飛人を追う間、彼はゆっくりと、精密に散弾銃の狙いを付けることが出来た。
爆弾槍は強力だが、護衛無しの運用は感心しない。
2m弱の柄の先に新式爆弾を取り付けた、爆弾槍はヴァルキリーのもっとも強力な武器だが、弱点も大きい。
10kgは標準的なヴァルキリーが携行できる限界の重さであり、彼女達は爆撃後は殆ど非武装になるのだ。
追撃をうけても反撃は出来ない。1年前までならば航空機や護衛のヴァルキリーもついたが、今ではその余裕もないようだ。

速度を落とさない程度にS字や、螺旋を描いてなんとか引き離そうとするが、ショットガンの照準は完全に
彼女を捉えていた。引き金が握り込まれる。

気味の良い反動の後、クラッススの前をゆく"飛人"が大きくバランスを崩した。散弾が彼女を貫いたのである。
たちまち高度を大きく落としてきりもみになりながら地面に吸い込まれてゆく。
戦乙女ともてはやされた者達の末裔としてはあまりに哀れであった。

214:折れた翼 3/18
09/06/14 09:06:34 sr+pzN9E
*   *   *


ヴァルキリーは、雑木林にそのまま墜落してしまった。クラッススは、落下の仕方から生存の可能性は十分にあるとみていた。
一人で雑木林に飛び込むにはリスクも大きい。彼女達とて拳銃程度は携行している。大空での戦いでは何の役にもたたないが
白兵戦では脅威になりえる。クラッススは雑木林の真上で照明弾を投下した。こうすれば味方からもわかるし
数分間は林の中も照らしてくれるだろう。

投下してからそのまま雑木林に飛び込む。陸地に接した瞬間鐙をけって横に転がるように地面に伏せる。
飛竜は速度をゆるめず上昇に転じ、雑木林の上を旋回する。
かつては森だった一帯を切り開いてつくられた田園風景。その名残の雑木林。そんなありふれた中に
モザイク画から飛び出した、ヴァルキリーが「降臨」したのである。クラッススの鼓動は自然、早いものとなった。

215:折れた翼 4/18
09/06/14 09:08:28 sr+pzN9E
雑木林は狭い、10分もあれば端から端まで歩けそうな広さであり、落ちた戦乙女を捜すのは簡単であった。
汚れない純白の翼を持ち、灰がかった農緑色の軍服にカバー付の胸甲と肩あて。間違えるはずもない。ヘルメットはどこかへ吹き飛び、
新聞写真では神経質に纏められ、編み込まれたラピスラズリに例えられる碧い髪は乱れていた。
右手にはリボルヴァーを持ち、上空の飛竜に視線は釘付けとなっている。まだ、騎手もそこにいると思っているようだ。

クラッススは土手からはいあがり、一気に勝負をかける。
物音に気づいて振り返ったヴァルキリーであったが、負傷した状態では遅れをとるほかなかった。
「うぐぅぅっ!」
銃声と澄んだ呻き声が交差する。リボルヴァーを構えた右手は無数の散弾を受けてぐしゃぐしゃに崩れ、軍服の袖口がどす黒くそまってゆく。
よろよろと後ずさり、太い針葉樹にぶつかった所でへたり込んでしまった。傷だらけのリボルヴァーが地面に落ちる。トリガーには千切れた指が引っ掛かっていた。
翼が痛みを訴えるように、二度、三度羽ばたき、震えている。
勝負あったとみたクラッススは姿をあらわした。彼の口元は醜く歪んでいた。
大きな爆発音。攻撃を受けた飛行船が地表に落着して炎上しているのが遠くに見える。
「君らの軍部は、たしか飛人はもはや攻撃的任務には使わず、偵察や連絡に集中するようになったと思っていましたが、やってくれましたね」
「っ…………」
ヴァルキリーは賢い。地上の殆どの言葉を理解するという。クラッススの言葉も彼女に届いているはずだ。
飛人という、蔑称の意味も含めて。
「ふん」
そういう反応が返ってくるとは想像していたようだ。クラッススは別段気にもとめず、無力化された戦乙女を
足からべったりと観察する。足は特に異常が無いようだ。痛みに震えていることを除けばおかしな所はない。
右腰から腹にかけて軍服が赤く染め抜かれている。散弾を浴びて、腰を砕かれたようだ。
激痛を抑えつけるように、左手が患部を強く押さえ、堪えている。
軍服よりややグレーの強いカバーが破れ、内にあった胸甲の鈍い輝きが所々に顔を出している。
かつては流麗な装飾が施されていたが、今ではただの鉄板である。
そして顔。前髪が深く顔を覆い隠し、表情を窺えないが、口はぴったりととじられ、悲鳴を押し殺している。
「僕ぁね、君を殺したい訳じゃないんだ。君がもっているゴルゲットがほしいだけなんだよ。それで連中は撃墜認定してくれるからね」
飛人は答えない。クラッススはショットガンを向けたまま、友人に話し返るような口ぶりでそう切り出した。
「!」
それまで体を庇いながら震えるだけだった飛人が、大きく翼を開いて羽ばたき、土埃と落ち葉を巻き上げた。


216:折れた翼 5/18
09/06/14 09:10:17 sr+pzN9E
騎兵用ゴーグルも外していたクラッススは一瞬視界を奪われ後じさる。
あらん限りの力を込めて、地を蹴りヴァルキリーが脱出を計る。しかし手練れの騎手は慌てなかった。素早く体勢を立て直し鳥打ちと同じ要領で
飛人の右翼を至近距離で収束された散弾が襲う。右翼の先から3割の所に集中して着弾、翼が真っ二つに折れて、落ちてきた。
すこし遅れて再度ヴァルキリーが墜落してきた。今度は受け身をとる間もなく、派手に地面に激突する。骨が軽量の彼女たちのことだ、幾つか骨を折ったかもしれない。
「はぁ……はぁ……はぁ……っ!」
地面に俯せになって先ほどよりもさらに苦しそうに呼吸している姿が、また、艶めかしい。クラッススはその彼女の傷ついた右の翼に軍靴を叩きつける。
「あぐぅっ!」
洩れる悲鳴。それを何とも思わず、彼は腰から銃剣を引き抜いて、ショットガンに装着、翼と肩胛骨を繋ぐ付け根に思い切り突き立てた。
「逃げるのは許しません、よ!」
「!!!!!!!!!!!!」
言葉にならない悲鳴と共に、羽根をばたつかせて暴れるヴァルキリーだが、クラッススは銃剣で尚も付け根を突き刺し、羽根を引きちぎろうとする。
あっというまに彼女の背中に赤い血が広まり、あたりに羽根が雪のように舞った。
クラッススは執拗に右の羽を突き刺し続ける。彼は翼には飛人の神経がよく通っており、そこを傷つけられると激痛が走ることを知っていたのだ。
「よし、これであとは引っ張れば『手羽先』が一丁できあがる寸法、っ」
銃声と1個半小隊程度の人数が出す足音。少々戯れが過ぎたようであった。照明弾が彼の味方ではなく帝国兵を呼び寄せたのだ。
「まぁいい、ゴルゲットは貰っていくがね」
ヴァルキリーの軍服の胸元を乱暴に開き、ネックレスに三日月型のプレートをあしらったゴルゲットを奪う。
これは彼女たちが主神から与えられたものであり、命の次に大切なものだ。
だが、気を失った彼女に抵抗することは出来なかった。
「さて、死んで貰うか」
クラッススが拳銃を彼女に向けて―

217:折れた翼 6/18
09/06/14 09:12:03 sr+pzN9E
*   *   *


「……ヘルヴァン川と215高地の間に山岳軍の迫撃砲陣地が、その背後に予備隊が控えている模様で、ここへの総攻撃も間近かと」
「くそっ、どうにもならんか。援軍も期待できない中では……」
狭い地下室内に木製の机が置かれ、ランタンの小さな明かりの下に軍用地図が敷かれている。
帝国軍を示す青色の陣地の周りを包囲を狭める山岳軍の赤色の輪が迫っていた。


「うぅぅっ、熱い……背中が……」
「少佐!?」
ヴァルキリーが呻くのと同時に、机を囲んでいた士官がそのもとに駆け寄る。彼女は軍馬用の藁を集めた
急造の寝床に包帯をまかれて寝かされていた。
「……見たところ、味方のようです、ね。あと一歩で殺されるところだった……。ぐっ……」
「ええ、うちの食料コマンドが偶然発見しまして。敵の竜騎は逃げおおせましたがなんとかこちらまで運んでこれました。さ、これを」
そういって帝国軍の士官が水筒にはいった水をヴァルキリーに含ませた。ヴァルキリーは自分で持とうとしたが
指先は無く、ぐるぐる巻にされた包帯が水筒に触れただけだった。
「あ……」
「少佐―」
年若い士官が、なんともいえない、苦渋の表情を浮かべる。ヴァルキリーは一瞬、何が起こったかが理解できなかったようだが、
数刻前のやりとりが頭をよぎり、把握したようだった。
「い、いえ、こういう事態は……覚悟はしていました……ですから……」
そういって身を起こし、自分の体を改めて検分するヴァルキリー。酷いものであった。
右手は包帯まき。左手で右翼に触れると、折れかかった枝をさわるかのようにふらふらしている。
もう飛ぶことはおろか、あと何日背中とくっついているか、という状態だ。声が出ない。
「それで、少佐……腰の負傷については、治療が出来ておりません。その、銃弾を摘出しなくてはならず……」
「腰……?」
体中を負傷して、感覚が失われていたのだろうか。最後にクラッススが撃ち込んだ拳銃弾は心臓からかなりそれたようだ。
弾は右足の付け根の部分となる腰に撃ち込まれていた。ヴァルキリーは右足を動かそうとするが、ぴくりとも動かなかった。完全に「切れて」いる。
散弾と拳銃弾を集中的に受けた結果だった。士官が指図すると、衛生兵と衛兵が入ってきた。

218:折れた翼 7/18
09/06/14 09:13:58 sr+pzN9E
即席の手術が始まろうとしていた。
「これを噛んで下さい。あまり力を入れると歯が砕けますよ」
「むぐっ」
衛生兵がピンセットを焼いて消毒する間、衛兵が彼女の四肢を押さえる。
「失礼、致します!」
ズボンが脱がされ、血に染まった下着と、未だ血を少しずつ漏らしている銃創とも呼べない、赤白くえぐれた患部が現れた。
麻酔もないまま、ピンセットが真新しい傷口に宛われ、銃弾をあさりはじめた。
「ぐーーーーッ!うーーーーッ!」
流石の痛みに耐えかねて、くぐもった悲鳴がふくんだ布きれの間から洩れる。
散弾が一つずつ取り除かれてゆく。飛行中の比較的長距離からの被弾であったが、皮膚を破り、骨に傷を与えていた。
銀色のなまり玉がとりだされる度に、ヴァルキリーは布きれを噛む。両眼からは涙が溢れていた。
手足を押さえる衛兵の手にも力が入る。しかしヴァルキリーに彼らを押し返す体力はすぐに失われてしまった。

最初の頃こそ、呻いていたヴァルキリーであったが、今では時折体を痙攣したかのように動かすだけでほとんど動きがない。
20分ほどして衛生兵がやっと最後の拳銃銃弾を探し当て、つまみ、引き出す。
「ぅっ……」
体がすこし跳ねたがそれだけだ。
真っ赤に染まった9ミリ拳銃弾がピンセットにはさまれていた。すぐに包帯が巻かれ、衣服が整えられた。

「少佐殿、摘出は成功しました」
そういって衛生兵は、布きれをヴァルキリーの口から取り除く。その口は閉じられることなく涎が彼女の頬を伝った。
その様子は敗残兵以外のなにものでもなく、帝国軍将兵にはヴァルキリーを助けたという達成感よりも、
あらがいがたい「敗北」の未来が取り巻いていた。

219:折れた翼 8/18
09/06/14 09:15:58 sr+pzN9E
*   *   *


夜も更けた頃、体中の痛みに苛まされて眠れぬヴァルキリー。手元の懐中時計を苦労して取り出したら
ものの見事に散弾があたって故障していた。今、狭い地下の指揮所には当番の士官と、衛兵しかいない。
「誰かいますか、少し外の空気が吸いたい。手を貸してもらいたいのですが」
澄んだ声が地下室に響く。少しうとうとしていた衛兵がとんできて肩を貸す。
「相当重傷のようですが、大丈夫ですか?安静にしていた方が……」
「こんな瀕死の私を助けてくれた方に一言お礼を言いたくて」
「そういうことでしたら……。少佐殿をお助けしたのはシュミット伍長の隊です、階段は背負っていきましょう」
「本当に右足が動かなくて。ごめんなさい」
「いえいえ、神族の方に頼って頂けるだけで、光栄きわまりないことです」
そう言って衛兵はヴァルキリーを背負った。
「か、軽いですね。子供を背負っているような感じだ」
狭くて足場の悪い階段を上りながら、衛兵はそう感想を漏らす。
「重いと空を飛べないから。まぁ、今はもう、関係ない話ですが……」
「あ、いえ、そういう意味では……」
「わかっていますよ」
かつては村会議所があった、村の中心部の広場も砲迫による猛爆で舗装は徹底的に破壊され、街路樹はなぎ倒され
更地にされようとしていた。
マンションの跡かと思えば、道路に面した側の壁面しかない。内部は崩れたレンガで埋まっていた。
その風景を見ながら、ヴァルキリーは故郷の天界に思いをはせていた。
美しく区画整備された都市で、地上のいかなる神殿、教会よりも高層で、荘厳な「主神の家」のある旧ヴァルハラ地区。
地上での真似事はゴシック様式と呼ばれるが、それらのいかなる追従も許さない祈りの間。
新聞報道では、その最深部でさえ市街戦に巻き込まれ、絶えず野戦砲による砲撃にさらされているのだという。
天界の姉妹は、自分と同じような状況に置かれているのだろうか、不安が彼女の心を揺さぶった。

220:折れた翼 9/18
09/06/14 09:17:55 sr+pzN9E
「敬礼!」
吹き飛ばされた屋根の民家に集まって、休息をとる兵士の一団。ヴァルキリーの認めて慌てて直立不動の姿勢をとる。
ヴァルキリーは衛兵の肩を借りながら自由のきく左手で答礼をした。右手は肩から吊られている。
一人の兵士が空になった弾薬箱を持ち出してきて彼女に勧めた。
言うことを聞かない右足をそっと伸ばしながらそれに座る。兵士達の間に、どよめきが広まった。
「こちらに、シュミット伍長がいると聞いて来たのですけれど」
「ハッ、私です!少佐殿!」
奥で弾帯に小銃弾を通していた50は超えるだろうか、兵士というには少し無理のある歳の
男が敬礼をする。
「気を失った私を、ここまで運んでくれたと聞いております。本当に、ありがとうございました」
「いえ、その、自分の娘に似ていたもので……」
「あら、美人の娘さんをお持ちなのですね」
固かった雰囲気が、起きた笑いで薄まってゆく。

221:折れた翼 10/18
09/06/14 09:20:41 sr+pzN9E
「しかし、戦乙女が私たちと同じように負傷するという姿が、なんだかアンバランスというか、似合わないというか……」
そういうシュミットの言葉にまわりの兵士達も同調した。ヴァルキリーの姉妹は本系、分系を合わせても
数が少ない。メルセンの戦いで多くのヴァルキリーが命を落としてからは殆ど前線に姿を現すことはなく
兵士、国民は新聞やニュース映画の中の偶像としてしか彼女たちを知ることはなかった。
ヴァルキリーは額にまかれた包帯をそっと触れて、ため息をつく。
「私も体の仕組みはあなた方と同じです。空を飛べる分、脆い所もある。怪我だってしますよ」
「ですが、伝説では矢を弾いたとか。こう、力で銃弾を跳ね返したり出来ないのですか?」
そうですね、と言って、ヴァルキリーが羽を広げた。右翼は添え木をしていて動かないが、左翼は美しく広げられ、

「うぉっ!」
ヴァルキリーの羽から螢火のような淡い光が溢れたかと思うと、突風が駆け抜けた。
兵士達は目を丸くしている。
「遠くから飛んできた矢はこうすれば、確かにそらせたでしょう。今から800年前くらいの戦乙女はこうやって
矢を弾き、偉容を示していたのかもしれません」
「す、凄い……。ですが、現代のなまり玉は弾けない、と?」
「ええ、為す術がありません……」
自嘲気味に笑うヴァルキリー。落とした視線の先にビラがあった。
「これは?」
「ああ、敵軍のまいたビラですよ。天界で貴様等の頼みとするヴァルキリーは皆処刑されたという……根も葉もないデマです」
質の悪い印刷機で刷ったのだろうか、所々活字が掠れているが、帝国軍が如何に劣勢であるかが扇動的に書かれていた。
モノクロ写真も入れてあり、よく判別は出来ないが、羽根の付いた人々が絞首刑台に列ばされているような構図だ。
「……」
「少佐、これは敵のプロパガンダです。真に受けることの無いように」
「え、ええ……。ですが、天界の旧地区が陥落したのは、帝国も認めることで」
「これは、デマなんです!!戦乙女ともあろうお方が、敵の策にのせられるとは……!」
「そ、そうでした。私が、ごほっ、どうか、していたよう、です……」
もったビラをくしゃっと握りつぶす。彼女のやせた両肩が震えていた。
「死ぬはずが無いんです、私よりも、武芸に秀で、聡明な姉たちが、敵の手にかかることなど」
あるはずがない。そういって上げた顔は、笑っていた。
シュミット達は、なんと声をかけてよいものか分からなかった。

222:折れた翼 11/18
09/06/14 09:22:52 sr+pzN9E
「皆さんの休み時間の邪魔をしてしまいましたね。何か、言葉以外に残るものが渡せたら良かったのですが」
兵達は口々に、とんでもないとか、お話が出来ただけで十分ですと言っている。
その中で、一人の機関銃手が、煙草を吸っているのをヴァルキリーはみとめ、胸ポケットを探った。
「私は吸わないので、これ、よかったら皆さんで分けてください」
「これは、"ヒメル"じゃないですか、流石、いい物をお持ちですね!」
「ただ煙が出るだけのニセモノじゃないって!?」
そういいながら我先にと一本ずつもらってゆく。一人がマッチで火を付け、回した。
「神様はこんなに美味い煙草を吸ってたのかぁ!!」
「生き返りますね!」
心底美味しそうに煙草をふかし、紫煙を上げる兵達をヴァルキリーは不思議そうに眺めていた。
「どうですか、少佐も一緒に」
シュミットが笑顔で火のついた煙草をヴァルキリーに手渡した。
「いえ、私は吸わないので」
「いいじゃないですか、部下達とのコミュニケーションという事で、さぁ、さぁ」
そう言って握らせる。ヴァルキリーはおそるおそる口に煙草を運び、すっと吸って。
「ごほっ、ごほっ、けほっ!」
全員の予想通り、むせた。どっと笑いがおこる。少し怒ったようにしながら煙草をシュミットに返す。
「むっ……」
「あっはっはっは、戦地では煙草もたしなみの一つですよ、それでは私が送りましょう」
「そうでしょうか……?それではみなさん、おやすみなさい」
そう彼女は言うとシュミットの肩を借りて、地下指揮所へ帰っていった。
それを煙草を飲みながら見守る、部下達。
「戦乙女ってさ、もっとこう、姑みたいな雰囲気の、キリってした感じだと思ってたけど、案外違うもんなんだな」
「そうですねぇ……。純朴なお嬢さんって感じで、あれで人間の何倍も生きて私たちを見守るんでしょうか」
「どうなんだろうな。ただ、俺は明日くるだろう総攻撃、少しばかり士気が持ち直したぜ」
「あれ、奇遇ですね、自分もですよ」
そう言って、ライフルにクリップを装填して、閉鎖する。眼鏡を掛けた、16~17歳の兵だった。

223:折れた翼 12/18
09/06/14 09:27:28 sr+pzN9E
*   *   *


夜明けと共に、包囲した山岳軍からの砲撃が再開。人口数百人くらいだった村は徹底的に耕されはじめた。
司令部の置かれた村会議所も残っているのはワインセラーを改造した地下室のみ。
村内で原形を残している建物は教会くらいであった。

村の北端に掘られた塹壕で、シュミットは部下に檄を飛ばしていた。
「機関銃の場所を移せ!蜂の巣にされるぞ!フェーベル、お前は伝令に向かえ!村の東側に一個中隊が回り込んだとな!」
脇で水冷式機関銃が進撃してくる山岳軍兵に向けて火線を浴びせる。
民家の窓枠、塀に掘った小さな坑、土嚢の隙間、至る所が即席の銃眼となって、カービン銃が、歩兵銃が敵に狙いを定めている。
小銃火力では負けていなかったが、しかし、山岳軍には山砲の援護があった。
次々と塹壕近くに榴弾が炸裂し、精度をさらに上げてゆく。
「小銃擲弾―!!」
その叫びがあがるのと、民家の窓に発射された手榴弾が入ったのは同時だった。
爆発と悲鳴。一瞬目を閉じたシュミットの前に、吹っ飛ばされた顔の一部が落ちてくる。
「くっそ!近づけるな!撃て、撃てぇ!」
号令と共に、一斉射撃。接近しようとしていた山岳軍の兵士とゴブリンが打ち倒される。
その銃火をぬうように地上を素早く動く一つの影。
シュミットが上空を見上げると、竜騎兵が上空を舞い、手榴弾を投下している。
散発的に行われる対空射撃は威嚇の意味すら為さない。
歯がゆい。昨日のヴァルキリーが無傷なら、自分が彼女の所にもう10分、5分でも早く辿り着いていたなら
あんなカトンボにデカい顔をさせずに済んだのに。

224:折れた翼 13/18
09/06/14 09:30:11 sr+pzN9E
「敵、北北西より歩兵戦力を投入!確認できるだけで2ヶ大隊、市街戦で決着をつけるつもりのようです!」
地下室に伝令が駆け込んでくる。背後では砲弾の炸裂する音の他に早々と小銃の発砲音も混ざりだした。
村の防衛には疲弊した1ヶ中隊が残るのみで、総攻撃を受けたらひとたまりもないのは明らかだった。
「来るべき時が来た、といった所か。予備隊のA半小隊を配置しろ。弾薬はケチるな、全弾撃ち込んでやれ!」
「了解!」
伝令は命令を受け取ると、また外へ飛び出していった。
断続的に来る震動と、炸裂音。ここも直撃を受ければ崩落があってもおかしくない。
「は、羽根が無傷なら、偵察や砲兵観測でお手伝いが出来たのですが」
「いえ、少佐殿はこれまで十分戦われました。我々におまかせ下さい!なんとか撃退して見せます!」
そういう士官であったが、劣勢は明らかだった。時折くる大きな震動に、不安そうなヴァルキリー。
時を追う毎に負傷兵は増加し、砲撃の音はよりはげしく、士官達の表情は余裕のないものになってゆく。

225:折れた翼 14/18
09/06/14 09:33:18 sr+pzN9E
総攻撃を受けて3時間。数倍の人員と優勢な物量を相手に善戦したと言えるだろう。
しかし、それも終わりを告げようとしていた。村内の防衛ラインに山岳軍の浸透を許し、組織的抵抗は終わろうとしていた。
「くそ、通信線が切れたか!西部の守備隊はどうなっている!?伝令を―」
地上階に繋がる扉が開かれ、士官達の視線が注がれる。しかし一向に人の入ってくる気配はなく。

「しゅ、手榴弾!?」
誰かがそう叫んだ時には、投げ込まれた3つの手榴弾は炸裂していた。
目をつぶるヴァルキリー。手榴弾で死に損なった士官が、呻いている。続いて階段を駆け下りてくる
山岳軍の突撃兵達が小銃で生き残りを一人ずつ頭を撃ってとどめを刺してゆく。
「このっ!」
乾いた発砲音が3度響き、瞬く間に3人の突撃兵が崩れ落ちる。
ヴァルキリーの利き腕ではない左手で保持した拳銃からであったが、全て命中した。
生き残りに気が付いた突撃兵が慌てて逃げようとするが、その兵も背中に弾を貰い絶命。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
ランプは消え、真っ暗になった地下室で、壁面を背に拳銃を構えるヴァルキリー。自分では殆ど歩けない為
早撃ちが勝負だった。
そこへ、缶詰のようなものが投げ込まれる。手榴弾かと思い、観念したが、出てきたのはガスだった。
涙が溢れ、くしゃみが止まらなくなる。夜目の非常に利く彼女の瞳も化学兵器相手には用を為さない。
ガスマスクを装備した新たな突撃兵が視界を失った彼女の拳銃を蹴り上げ、ライフルのストックで腹に猛烈な一撃を加える。
「ぐぅぁ……っ……」
たまらず体をくの字に折った彼女の頭にもう一度ストックが振り下ろされ、彼女は完全に意識を失った。

226:折れた翼 15/18
09/06/14 09:35:38 sr+pzN9E
*   *   *


15時頃、戦闘は終わっていた。村内のあちこちから上がっていた火の手も今はおさまり、黒々とした煙をあげるのみである。
村全体は完全に山岳軍によって占領された。先ほどまで掃討が行われ、時折銃声が鳴っていたが、今はそれも止んでいる。
帝国軍の捕虜は村中央の広場に集められていた。捕虜といってももう、十数名しか残っていない。
その捕虜達の視線は後ろ手に手錠をかけられ、転がされたヴァルキリーに集中している。
彼女の右腕にまかれた包帯はほどかれ、骨と皮膚と肉が入り交じったグロテスクな、「右手だったもの」が左手と一緒に
手錠に収まっている。捕虜達からは乱れた彼女の前髪に隠れて、表情を伺うことは出来ない。
「随分とまぁ、君たちは頑張ってくれましたね。なんだ、こっちの戦死者は―」
竜騎兵クラッススは、隣の将校から耳打ちをうける。
「戦死32名、負傷74名とはね!やってくれましたよ。そこの飛人に義理立てでもしましたかね」
捕虜達は悔しさを隠そうともせず、黙っている。つまらなそうなクラッススは足元のヴァルキリーの髪を掴み引きずり上げた。
既に相当の暴行を受けたようだ。軍服は泥だらけで、美しかった顔も額が数カ所で切れ、血が溢れている。
翼も右翼は完全にもぎ取られ無くなり、左翼も数カ所で折れているようで、奇妙な曲がり方をして思うように動かせていない。
シュミット達に見せた優しい瞳も今では虚ろになっていた。
「貴様ぁ!!その汚い手を放せぇ!」
激高した捕虜の一人が立ち上がり、飛びかかろうとした瞬間、頭が砕けた。
「立つな、クソが」
クラッススと、ヴァルキリーに返り血が飛ぶ。彼の後ろに立った山岳軍兵の小銃の銃口から煙がのぼっていた。
「ごほッ……私のこと、はいい…で……す………から……」
消え入りそうな声が、ヴァルキリーの口から漏れた。話すたびに血が溢れてくる。困惑する捕虜達。
それをクラッススは聞くと、手を放した。支えを失ったヴァルキリーは人形のように倒れる。
「ふん、最後まで模範的だことだね。君はこの捕虜達を助けてほしいかい?僕の命令書があれば、宣誓解放に
 してやってもいいんですけどね」
そう、しゃがんでヴァルキリーに顔を近づけて話しかけるクラッスス。
ヴァルキリーは痛みを堪えながら、首をゆっくりと縦に振った。
「それじゃあ、感謝の印に、ブーツの汚れをおとしてもらおうかな」
そういって、クラッススはブーツをヴァルキリーの眼前に置く。捕虜達が殺気立つ。
視線で殺せるなら、今でもそうしてやりたいというように。
「おお怖い怖い。流石は精強で通った帝国兵だね、彼らを助けたいんだろう?」
ヴァルキリーは体を揺すり、尺取り虫のように動いてブーツに顔をよせ、舌をおそるおそる出した。
そこに神族の威厳は無い。その光景を見守るしかない俘虜達の顔に、怒りと、情けなさが交差する。
今はもう、羽ばたくことのできない翼が、地面に伸びていた。

227:折れた翼 16/18
09/06/14 09:37:56 sr+pzN9E
泥まみれのブーツを、一心に舐めるヴァルキリーに、クラッススは容赦のない言葉を浴びせる。
「君には神族としての矜持というものが無いのかい?仮にも神様の出なんだろう?どうなんだい?」
一瞬彼女は動きを止めたが、答えない。
「主神相手にもこんな事はしないんだろう?お前の仕える相手は誰なんだ。言ってみたらどうですか!」
「ぅ……」
なおも答えを拒むヴァルキリーにどう猛な竜騎兵は、銃剣を取り出し、まだ大きな傷のない左手のひらを刺し貫いて地面に打ち込んだ。
「いっ!?ひっ、ぎゃぁぁぁぁ!」
あまりの痛さに体を跳ねるヴァルキリーだが、銃剣は地中深く突き刺さっており、傷口を広げるだけである。
訳が分からず手のひらを上下して激痛から逃れようとするが、手錠がカシャカシャと鳴るのみ。
「さすがの戦乙女も手のひらは堪えるみたいだね、が、流石にうるさい」
藻掻くヴァルキリーの横顔に、ショットガンのストックが落とされる。およそ人間から出るのとはかけ離れた破壊音した。
「ぁが、…………ぁ…………」
締まり無く開かれた口から、奥歯が折れてこぼれ出てきた。それと共に、とめどなく血が流れ出る。
手のひらに目を移せば銃剣に血と、皮膚がべったりとくっついている。指は痙攣して時折ぴくぴくと動いていた。
そしてサクランボのような、赤黒い組織が、傷口から生々しく覗いている。
その銃剣をクラッススは引き抜くと、副官に投げてよこした。
「さて、さっきの返事を聞かせてもらいましょうか。あなたの仕える相手は、「誰」なんですか?」
そう胸ぐらを掴んで問いただすも、ヴァルキリーは小さく呻くだけで、話せる状態にない。
「こうすれば話すか!」
クラッススは拳銃を抜き、さらに捕虜一人を射殺した。
「ぁ……私、仕え……る……ぅぅっ……ォルト……ラ」
彼女が必死に、現在の戦乙女で最も序列の高い、「大姉」の名を応えようとするが、クラッススはその最中に腹部に拳をくれた。
ろくにしゃべれぬ彼女の口のかわりに、ボロボロになった片方の翼が、痛みを訴えるように少し振れる。
口のまわりを真っ赤にし、地面にうずくまる戦乙女。なんとか咳をおさえようとするが、上手くいかない。
「ごほっ!!ごほっ!!」
また大量の血を吐いた。吐血か喀血か。どちらか最早わからない。吐いた血がクラッススのブーツに跳ね、彼をさらに不機嫌にさせる。
剣帯に手をかけ、銃剣がないことに気が付くクラッスス。
「おい、僕の銃剣はどうした?」
「はっ、切れ味が劣っておりましたので向こうで研がせております」
「ふんっ、ならこいつで」
乗竜用の棒鞭を取り出し、彼女の背面、もともと羽根があった跡に振り下ろす。皮膚もない、組織に直接すえられる
打撃が何度も繰り返される。その度に、体を震わせるヴァルキリーに、捕虜達はある者は目をそらし、ある者は涙した。
(シュミット伍長、あなたは戦死して幸せだったかもしれません。あの、ヴァルキリーが、こんな事になるのを目にせず済んだのですから)

228:折れた翼 17/18
09/06/14 09:40:34 sr+pzN9E
クラッススは一通りうちすえてから、乱れてなお光沢を放つ前髪を引っ張り上げ同じ質問をした。
「で、君はだれに仕えているのかな?」
ヴァルキリーは重い瞼をあけて、クラッススの肩章を確認する。太い金線1本に星3つ。
血を飲み込んでなんとか口を空にする。
「かはっ………た、大尉、殿……で、す」
それを聞いてクラッススは大笑いした。まわりの山岳軍将兵も、サディスティックな笑みを浮かべている。
「はっはっはっはっはっはっは!!聞きましたか、諸君!有史以来、ヴァルキリーを従えた人間がいただろうか!?おい、従軍記者、しっかり書き留めておくんだぞ!
 『ヴァルキリー背教す!?』か?まぁ、なんでもいいがね!こんな愉快な気分は久しぶりだ!
 写真もとらんとな、ついにやったぞ!お前の姉妹3人を屠った僕が主人とはね!滑稽きわまる!」
子供のように喜ぶクラッスス。それと対照的に瞳に生気を失ったヴァルキリーが糸の切れたマリオネットのように彼の笑いと共に揺れていた。


「痛いか、言ってみろ?嘘を付いても連中の為にならないぞ?うん?」
「はぁ……ぁ……いた、い、……」
「ヴァルキリーが痛みを訴えるなど……夢にも見たことがないな!それで、どこが痛いか?」
「うっ……からだ、うっ……じゅう……っ……が」
「はははは!そうか、そうか、体中が痛いか!」
ありとあらゆる言葉で彼女の尊厳を踏みにじるクラッスス。答える彼女はもはや考えるのを止めていた。
彼女にひとしきりの暴言を吐いたあと、頭を放した。そのまま地面に倒れ込んだヴァルキリーは、言われてもいないのにブーツを舐めよう動き出す。
「ぺっ」
「!」
ブーツを血で汚すまいと、そっと脇に吐いたのをめざとく見つけたクラッススが思い切り顔面を蹴りつけた。
全く突然のことで庇うことも、避けることも出来ず、真正面からつま先を受けるヴァルキリー。
トマトが潰れるような音がして、彼女の右眼が潰され、呻いている。右眼からは血の涙が溢れていた。
それを庇おうとする両手の平はもう彼女に残されていない。
「ぐ……ぁ…………ぁぁ………」
「主人に血を吐くやつがあるか!!とんでもない!!このっ!」
さらに呻くヴァルキリーの腹にもう一度鋭い蹴りを入れる。一際大きな咳をしてヴァルキリーが吐血、まもなく動かなくなった。
「また気絶か、戦乙女様は存外ヤワなんですね」
頬のあたりをこづくが反応が無い。興味を失ったクラッススは、部下にこう、命令した。
「飛人を銃殺する。用意せよ」

229:折れた翼 18/18
09/06/14 09:43:06 sr+pzN9E
まだ壁を残す教会の裏側で、ヴァルキリーの銃殺が行われようとしていた。
銃殺隊は5人の水兵。ヴァルキリーの攻撃で旗艦が沈んだのを間近で見た飛行船の乗組員だ。皆、戦友の仇に目つきも鋭くなる。
黒い目隠しをされたヴァルキリー。階級章も勲章も全て奪われ、なんとか片足だけで立っていた。手には手錠がされたまま。
クラッススが声をかける。
「最後に、何かほしいものはあるかね?最期の願いくらい、聞いてやらんこともないですよ」
「た、煙草……ごほっ、ごほっ……」
「煙草ねぇ。まぁ、いいでしょう。おい、押さえろ、煙草をくわえさせてやれ」
副官が彼女の口に火のついた煙草をくわえさせる。
もう、呼吸も難しい肺ですっと煙を吸って、すこし咳き込みながら吐いた。目隠しをしているが、口元は穏やかだった。
「随分と、世俗的な願いだね。主神への祈りでも捧げるのかと思ったよ」
その軽口に、彼女は答えなかった。もう、答えるだけの思考が無かったのかもしれない。
クラッススが、彼女から離れる。煙草はもう、口から落ちていた。立っているのもやっとだろう。
「よし!狙え!」
水兵がライフルを構え、狙いを付ける。長いようで一瞬の時間。





「撃て!」




その号令と共に、5発のライフル弾が撃ち込まれ、ヴァルキリーが膝から力無く崩れ落ちた。
それに一瞥をくれて去るクラッススの袖には真新しい飛人撃墜章が縫いつけられていた。


fin.

230:名無しさん@ピンキー
09/06/15 01:23:19 ScaFFTqr
投下乙
すげぇな...世界観に惚れました

231:名無しさん@ピンキー
09/06/15 16:26:10 aMXcCY4H
月蝕、面白かった!
なんというか、女の子の部品と料理がつながるなんてなぁ…
まだまだ自分のリョナ範囲も狭いと感じたよ

>>230
感想ありがとう。長すぎて読んでもらえないかと思った
多少なりとも新鮮な世界に映ったなら嬉しい

232:名無しさん@ピンキー
09/06/15 16:38:14 3Vva3VMe
最近賑わってるな

233:名無しさん@ピンキー
09/06/15 18:54:43 aMXcCY4H
最近このスレを見るようになったけど、もっといつもは過疎ってるのか?

234:名無しさん@ピンキー
09/06/15 20:39:27 xQBaw/vF
>>233
過疎も過疎です

235:名無しさん@ピンキー
09/06/15 21:11:07 4chj7Kt6
ここの住人て、カ○コのオカズとか古いけど杏○ーデンなんかは見た人いるかなあ?
あそこまでは書けないけど、緻密な人間解体描写(妄想)はOKなのかな?

236:名無しさん@ピンキー
09/06/16 00:08:50 9yAFVLZT
その二つとも知らんな
グロもOKなんだし、そういう描写はいいんじゃないの?

237:名無しさん@ピンキー
09/06/16 13:22:14 fLWA6Frn
寧ろ大好物です餓えてますお願いします
月蝕でも思ったが解体された人体のパーツって文字で表現すると異様に美しいんだぜ

238:名無しさん@ピンキー
09/06/16 16:59:41 JFR/Ql/F
神作品を立て続けに読んで、創作意欲がわいてきました。
FE封印、烈火、聖魔、蒼炎・暁のキャラで解体したいのは誰ですか?

239:名無しさん@ピンキー
09/06/16 17:56:28 o8GzuW+R
封印→ナーシェン、ミレディ、ファ
烈火→ソーニャ、エリウッド、ウルスラ、リムステラ
聖魔→エイリーク、ルーテ
蒼炎・暁→イレース、アイク

多くてスマソ

240:名無しさん@ピンキー
09/06/16 18:24:59 HEjy9A8p
封印→ミレディ
烈火→セーラ
聖魔→マリカ
蒼炎・暁→エリンシア

241:名無しさん@ピンキー
09/06/17 00:04:51 9yAFVLZT
解体ってねっとりじっくりバラすって事だろ
多くて二人くらいしかやれないんじゃないのかw

242:名無しさん@ピンキー
09/06/18 22:51:21 5AaBzYUB
238ですが、FE烈火エリウッド解体を書こうと思います。

FEは登場人物がエルファイアーで焼き殺されたり
銀の槍で突き殺されたりするゲームなので猟奇系のネタに尽きることはありません。
しかし、以前、某FE攻略サイトにアイクがオスカーをリンチする話を投稿したところ
ボコボコにけなされまして……
オスカーが焼き殺されるのはよくて、腹を殴られるのがいけないとかイマイチ理解しかねるところでした

243:名無しさん@ピンキー
09/06/19 00:35:52 ktM0deWc
>>242
FE烈火がどういうものかは判りませんが、死や苦痛や恐怖や狂気がメインのお話なのですか?
それだったらリンチぐらいでギャーギャー言われたら心外ですね。

244:名無しさん@ピンキー
09/06/19 12:29:29 hq10LbIy
>>243
ぐぐればわかるけど、別にFEはそういった(猟奇的な)ゲームじゃないぞ。

>エルファイアーで焼き殺されたり、銀の槍で突き殺されたりするゲーム  ・・・っていうのも
ドラクエで例えれば 『メラゾーマで焼き殺されたり、はがねの剣で斬り殺される』 という話。

>>242氏が投稿したサイトが、どんなところかは解らないけれど
そこは、エロや暴力的表現がおkのサイトなのか怪しいし
(ってか、そもそもSSの投下がおkなのか?)
242氏がアイクに自己投影した、オナニー作品っぽい臭いがしないでもないけど
作品内容そのものではなくて
場の空気が読めなかったから叩かれた感じがするのですが・・・

245:名無しさん@ピンキー
09/06/19 18:12:27 ktM0deWc
>>244
まあ、色々と鬱憤が溜まってんでしょうから、ここでぶちまけてもらえばいいでしょう。

246:名無しさん@ピンキー
09/06/19 18:38:54 R3bWleJV
>>242
火刑はある程度のロマンチシズム&非現実性(これ重要)があるのでそれなりに一般層にも受け入れられるのですよ
逆にリンチとか切り傷とかいうある程度現実味のあるもの、特にその傷害描写がメインとしてある作品は
一般ではまず受け入れられないと思った方がいい

今後は溜まったうっぷん皆ここで吐き出すようにすれば良いよ。解体ものなら男でも女でもOKOK

247:名無しさん@ピンキー
09/06/19 19:42:09 /sSgjCZu
アグリアスを解体したい
オヴェリアを解体したあと罪の意識にさいなまれながら
解体されていくアグリアスは萌える

248:名無しさん@ピンキー
09/06/20 02:08:02 aifCKE2E
むしろカタギの板に書き込もうと思ったのにちょっと驚き

一シーンならまだしも、リョナメインはきついだろ

249:名無しさん@ピンキー
09/06/20 10:00:03 UGRg3Sx/
月蝕のつづきです。
解体をご希望の方がいらっしゃるようなので、
どこかのブレイク工業みたく一役買いたいと思い、書いちゃいました。
ますますもってろくでもないです。

きっと、生きたまま解体がお好みかと思うのですが、
それだけはできませんでした。やはり血抜きをしておかなくては。
長いですし、淡々とした描写で、つまらないかも知れません。
ライトなのがお好みの方は、プロローグとエピローグだけをどうぞ。

では、みなさまの罵声をお待ちしています。


250:「月の裏側」プロローグ 1/3
09/06/20 10:02:08 UGRg3Sx/
ここは?何か変な感じ・・・。
あれ?手足が動かないよ?
えっと、あたしいったい何してたんだっけ?

宙人くんとエッチして・・・、えへへっ。
全身マッサージしてもらってお風呂に入ったことはかすかに覚えてるんだけど。
でも、宙人くん?宙人くんはどこ?なーさんは?
それにとってもおなかがすいてるよ。

「宙人くーーん!」「なーさーーん!」

「パパー!おなかすいたよー!!!」

「お目覚めかい。きらりちゃん。」
はっ、男の人だ。

「誰?」

「???おじさん?なんで逆さまなの?」
「え?違う?あれっ、あたしなんで逆さ吊り?」

「困るよきらりちゃん。映画撮影の途中で寝てもらっちゃあ。」
「映画撮影・・?そうなんだ・・?」

「『そうなんだ』、じゃないよ。」
「いいかい?君は囚われの身。でも、決して気高さと笑顔を絶やさないお姫様だ。」
「王子様が助けてくれることを信じる強いお姫様なんだよ!!」


251:「月の裏側」プロローグ 2/3
09/06/20 10:03:36 UGRg3Sx/
「ご、ごめんなさい。」
「じゃ、ここのカメラで君を撮ってるから、これからしばらく絶対に笑顔を絶やしちゃいけないよ。」
「はいっ。わかりましたー。」

カメラあったんだ。
えへへ、おどろいちゃったよ。いきなり逆さまなんだもん。
でも、映画撮影なんてお仕事あったっけ?

「3、2、1、キュー」
うーん・・・。笑顔~。笑顔~。
でも、王子さまって宙人くんだったりして?宙人くんの王子さま姿、すてきだろうなぁ。

「いいよ。いいよ。」「さあ、お姫様。もっと気高く。」

お姫さまかー。こうかな?
「そうそう。GOOD!」
宙人くんー。早く助けてー。なーんてね。


「はーい。肩の力抜いて。そのままリラックス。もっと、リラックスー。」
「じゃ、すこし首筋がちくっとするけど、そのままの表情で我慢だよ-。」
「あー、横の奴、しっかりバケツで受けとけよ。床にあまりこぼさないようにな。」

あ、他にもスタッフさんいたんだ。って当然か。

不意に背後から来た何かが首の横をすっーと撫でた。

252:「月の裏側」プロローグ 3/3
09/06/20 10:04:48 UGRg3Sx/
あれ・・・?。あれれれ・・・・?
なんか、頭がぼーっとしてきちゃった。
雨?ほっぺになんかかかったよ。気持ち悪いよ・・。
は、早く撮影終わらないかな?意識が・・・。また寝ちゃうよ・・・。




はっ、ダメだよ。撮影中なんだよ。
あたしのことを見にきてくれるお客さんのために、もっとがんばらなくちゃいけないの。
あ!宙人くんだ!!
やっぱり宙人くんが王子さまだったんだ・・・。嬉しいよ・・・。
ああ、何だろう・・・目の前が真っ白・・・・。
ひろと・・・くん・・・・・・・。



長い沈黙のあと、男の声が響いた。

「はい!カーット!」
「最高だよ。きらりちゃん。ご苦労様。」

そういいながら、男は、少女の下へ向かい、血に塗れた頬を撫でた。
少女は、穏やかな微笑みを浮かべたまま事切れていた。

253:「月の裏側」 1/7
09/06/20 10:06:51 UGRg3Sx/
あの味が忘れられない。
こうしてビデオで気を紛らせていることが日課となってしまった。

偽のスタッフにあっさり騙され、食事に仕込んだ睡眠薬で豪快に眠らされるプロローグ。
濃厚なファックにオナニーシーン、アダルトビデオ仕立ての前編。
全身マッサージに名を借りて行われた、拡張、浣腸プレイの中編。

どの彼女も非常に可愛い。
そしてここからの後編。この可愛い彼女の末路を見ながら、頭の中で反芻させる。もはや味わうことのできないあの味を。

縛られ全裸で逆さづりされた、少し小柄な少女。彼女の表情は微笑んでいるものの、頬は血しぶきに塗れていた。
噴出した血の勢いは、周期的に強弱を繰り返しながら、次第に衰えていく。
突然、どういうわけか、虚ろになりかけた彼女の瞳に輝きが戻った。
苦痛に歪みかけた表情が、ほっとしたかのような穏やかな笑顔で満たされていく。

だが、弱々しいその流れから、彼女の命が残りわずかであることは明らかだ。
瞳から輝きが急速に失われていくのがわかる。
ついには、微笑みだけを残し、彼女の瞳の輝きは完全に失われてしまった。

そして、彼女の前に大包丁を握った男が立った。

254:「月の裏側」 2/7
09/06/20 10:09:33 UGRg3Sx/
彼女の髪は汚れぬよう上で纏められていた。
男は左手で髪を掴んで首を乱暴に引っ張ると、右手で持った包丁を首にスルリと滑り込ませた。
刃が首の半分まで食い込むと、刃先がギリギリと前後へ動きながら、着実に進んでいく。
ゆっくりと反対側へ抜け出すと、胴体が振り子のように大きく揺れ動いた。ギイギイと彼女を吊り下げる滑車の鎖が鳴る。
そして、彼女の首は男の左手にあった。

別れた双方の切断面から、内部に残った血がダラリと床を染めていく。
切り離された首は、台の上のすのこの付いた金属製のトレイに立てて置かれた。
トレイには、血だまりが広がっていくのがわかる。

おもむろに臍と恥丘の中間に大包丁をつきたて腹部を切開。
ジッパーを開いたように、スーッと皮膚が正中で分かれると、中から臓物がズルリとはみ出してくる。
宙吊りになったそれからは、彼女の温もりがまだ残っているのか、湯気がゆらゆらと立ち上がっている。
垂れ下がった腸の一番下になったところを両断し、少し引き出して床に垂らす。すると、茶色とも緑ともつかない液体がどくどくと床にあふれ出す。
周囲に漂っているであろうムッとした臭気が伝わってくるかのようだ。

液体がもう流れ出ないことを確認すると、胃、小腸、大腸、肝臓、腎臓など臓物を切り分け手際よくトレイに置いていく。
どれも、あまり血はついておらず、実に瑞々しく、艶やかだ。

口のなかによだれが溢れてくる。
ごま油で食した生肝の味。あの臭みのないつるんとしたなめらかな食感。
歯で噛むと、プツンと勢いよく弾けたソーセージの食感。
旨い出汁で煮込んだもつ鍋の味。

255:「月の裏側」 3/7
09/06/20 10:11:57 UGRg3Sx/
空洞になった腹部から小刀で横隔膜を切除、トレイに置かれる。
血の色をした艶のある真っ赤な肉。この焼肉も絶品だった。

さらにぽっかりと口を開けた胸腔に手を突っ込み、心臓や肺を固定している管を小刀で切り取る。
先ほどまで彼女の生命を育んでいた心臓が取り出され、そっとトレイに置かれる。
これは焼肉と生とで食した。それはレバーに似たような味でいてとても上品な味わいだった。

続けて両方の肺を取り出してトレイに置いた。その表面の色は喫煙者のそれと違い穢れを知らぬ白さを保っていた。
今度は上方をまさぐり、膀胱を切除。わずかに残る尿を床に捨てたあと、トレイに置かれた。

さらに卵巣が付いたままの子宮を子宮口のところでカットし、膣を残した状態で摘出。
まるで水揚げされたイカのように、デロリと拡げてトレイに置かれた。
見た目はグロいが、味は実に良かった。子袋の歯ごたえが忘れられない。


滑車を動かし、作業しやすい高さまで肢体を下ろすと、大きく股を広げた。
恥丘の外側から、大陰唇の外側、肛門の外側まで大きな範囲で、皮膚を切り裂いていく。
再び恥丘のそばの切れ目から、刃を皮膚と筋肉の間に入れてやりながら、一気にめくりあげてやると、
外性器はすべての部品を保ったまま、いともあっさりと剥がれた。

原形のまま剥がされたそれは、白い肌にペロリと捲れた割れ目の赤が映え、実に美しい。
まさに、リアルな造型をもった天然のオナニーホールだ。
もう一度この味を味わいたい。あのカルパッチョの感動は忘れない。

裏側には、何かがぶら下がっている。裏返すと、膣と直腸、尿管であることが明らかだ。
カメラワークは、わざわざそれを確認するようかのように実に丹念に嘗め回していく。


256:「月の裏側」 4/7
09/06/20 10:13:53 UGRg3Sx/
おもむろに後ろ手で縛ったままの縄を小刀で切り離すと、力なく垂れ下がり両腕がバンザイをした。

チェーンソーのスイッチが入る。
甲高いモーターの回転音が響き渡たると、それはガリガリと音を立てながら、
いともあっさりと、華奢ながらも美しい両腕を肩口から切断した。

細い断面に見える赤い肉。その中心にある骨。さらにその骨の中心はピンク色。

続いてチェーンソーは、外性器を切り取られ、ぽっかりと穴のあいた筋肉の露出した股間でぴたりと停止した。
位置を定め・・・・、一気に押し下げられる。
ギューウーウーン。ウーーーーーーーーーーーーーーーーン。

大きくガリガリと、骨盤を破断する音が響き渡る。
チェーンの回転とともに、血と肉と骨が煙のように飛散し、壁や床を点々と染めていく。
ガコッと音がして完全に骨盤が2つに割れると、両脚の付け根はもはや股間から腹部に移動していた。

背後に回るとそれをさらに延長するかのように、今度は背骨のど真ん中を、切り裂いていく。
飛沫を撒き散らしながら、背骨の真ん中を首まで一気押し進めた。

そして、ラストスパートだ。
前に回る。両乳房の中間を上から一気に切り裂いていく。
ウウウウウウーーン。
首まで到達したと同時に滑車が揺れた。カシャンカシャンと音がすると同時にモーターが本来の音を取り戻した。

チェーンソーのスイッチが止められても、
分断された2本のそれらは、お互いの自由を喜ぶかのように、しばらくの間、ゆらゆらとゆらめいていた。


257:「月の裏側」 5/7
09/06/20 10:16:21 UGRg3Sx/
胴体の切断面をカメラは大きく鮮やかに捉えていく。
わざわざ背骨を割っていったのはこれを見せるためだ。
整然と並ぶ脊柱はなんと美しいことか。ピンク色の断面に鮮やかな赤の斑点が散りばめられた骨髄。
何もなくなってしまった胸腔の内側、肋骨が描くカーブの美しさに見惚れてしまう。
ピンク色の乳頭の残る白い肌と内側の赤い肉のコントラストに目を奪われる。
表からでは見ることのなかった彼女の裏側。
ああ、彼女の中にこれほど美しい世界が広がっていたなんて。

続いて乳房の切除。
刃を立て皮膚を切り裂く。乳房を囲むように、円形に切れ目を付けていく。
切断面から皮膚と筋肉の間に小刀を入れると、ポコッという感じでめくれあがる。
金属製トレイの上に置かれた乳房は、小ぶりながらもぷるっと揺れ、瑞々しさを保っていることが伺えた。


滑車から胴体のそれぞれを降ろすと、台の上でチェーンソーを使い、脚を胴体から切り離した。
彼女のほっそりと美しくも、しっかりとした脚が台の上に載せられる。
今にも立ち上がって歩き出しそうな脚を、止めを刺さんばかりに、容赦なく膝と足首の関節で3分割にする。

先に切り離されていた腕を取り出し、同様に3分割する。

最後に、微笑みを湛えた顔に付いた血を、優しく濡れタオルで拭う。
それを台の中心に据えると、彼女の部品が並べられていく。
もはや頭部以外、家畜と同じように解体された彼女のすべてを、カメラは記録していた。

そこにあるものは、もはやアイドルではなく、食材だった。



258:「月の裏側」 6/7
09/06/20 10:18:01 UGRg3Sx/
場面は仕込みと調理の映像に変わる。

包丁が見事に赤い肉を切り出していく。まだ人の形を残したそれが、完全な食肉に変えられていく。
一部の肉は、ミキサーにかけられてミンチになり、機械で腸に詰められていく。
パンパンに膨らみつやつやに張りがでたそれは、捻られくびれがつけられていく。
肺や腎臓もミンチにされて同じ道を辿った。

美しいカーブを描く胸腔はいくつにも分断され、骨付きカルビに。
背骨や脛の部分は、うまい出汁をとるのに使われスープになった。

余った骨や皮、筋などはゼラチンをとるために煮込まれていく。
あの美しかった10本の手の指は1本ずつ切断され、煮込まれていく。
せめて、1本だけでもその形のままむしゃぶりついてみたかった。

DVDを切り替える。ここからは追加映像。
ついに彼女の人として残った部分が解体されていく。

頭髪の生え際に沿ってナイフを入れていく、一周すると頭髪が頭皮ごと剥けた。
続いて皮膚の裏側にナイフを入れながら、顔の皮をはがしていく。ゆっくり丁寧に。

目のない顔がペロリと剥けた。下から歯をむき出した悪魔のような赤い顔が顕になる。
2つのデスマスク。その対比が実にシュールだ。
もはや美しかったアイドルの面影はどこにもない・・・・。

259:「月の裏側」 7/7
09/06/20 10:20:31 UGRg3Sx/
顔の皮についている唇が切り取られ保存される。

あの唇のやわらかな感触が思い出される。
皿に乗ったやってきた、上下に分かれたそれを、口の中でいやというほど嘗め回した。
ツルツルとしたすべるようなそれを、口の中でむしゃぶりつくし、そして丸呑みにした。

顎の筋肉と腱、喉を切り裂き、顎を引きちぎる。
全体像を見せた舌を根元から丁寧に切り取る。
彼女はこの舌でどんなものを食べ、何を感じてきたのだろう?
そんな彼女の舌の料理はやはり最高の味だった。ただ、量が少ないことが非常に残念だった。

顔に残った肉を剥ぎ取っていく。
この肉のシチューも良かった。

頭蓋骨を電動カッターでカットしていく。
1周するとパカッと蓋がとれ、そこには白っぽい色をした脳があった。
この脳を丁寧に取り出しまな板の上に載せる。脳漿がじわりと板の上に広がる。
布で水分をとってから、料理に合わせて、適度な大きさにカットしていく。

断面がそのまま見えるバター炒めがよかった。とろける旨みとコク。
彼女が得た楽しい思い出も隠し味になっているようだった。

彼女は美しく大きな瞳の持ち主だった。2つの瞳が皿に置かれた。
映像を通して目が合う。どこか物悲しげに何かを訴えているように見える。

丸い丸いそれらを思い切り噛み潰したあとの、どろりと口中に広がる涙のような味を思い出した。

260:「月の裏側」エピローグ 1/3
09/06/20 10:22:18 UGRg3Sx/
ここは?何か変な感じ・・・。

えっと、あたしいったい何してたんだっけ?
確か映画撮影してたはずなんだけど・・・・。

あ!あれだ!あんなところで撮影してるよ!
でもなんで?あたしなんで天井裏にいるの?

それに?あれって何?
なんで首がないの?人形だよね?
うわっ!中から内臓が出てきたよ。ほんとリアルにできてるよね。
おまんこまでついてる・・・。この人形、女の子なんだ。

ええっ!切り取っちゃうの?女の子の大事なところを!酷い!

げえっ?縦に割っちゃう??
何これ?こんなホラー映画初めて。

あ、あんなところに首があったんだ。

えー!?あれあたしだよ?しかも笑ってるよ。
困るなあ、勝手にあたしの人形作って。しかもバラバラなんて・・・。

でも・・・、でも、あの顔いい表情してるよね。

どうしたの?なんで涙が出るんだろ?
この悲しさは一体なに?

わかんないよ・・・・。

261:「月の裏側」エピローグ 2/3
09/06/20 10:23:33 UGRg3Sx/
「ななー!」
「あっ、なーさん!」「どこ行ってたの?すっごく探したんだよ?」

「なーなななー!」
「え、美味しいものが食べ放題の天国みたいなところがあるって?」
「でも、あたしお仕事の途中だし。」

「ななーなななな!」
「大丈夫。スタッフや事務所のみんなもそのうちに来るから、先に行ってまってればいい?」
「宙人くんや星司くんもそのうちに来る?」

「う~ん・・・。」

「でも、なーさんがそういうなら大丈夫だよね。お腹すいたし。」

「じゃあ。いこう!なーさん!」
「なー!!」





262:「月の裏側」エピローグ 3/3
09/06/20 10:26:02 UGRg3Sx/
あの味が忘れられない。
私は不幸だった。

最高の料理を味わってしまったが故の不幸。
何を食べても満足することがない。
彼女ほどの食材はもはや手に入らないだろう。何年も求め続けて止まなかったものなのだから。

私はチャンネルを変えた。
流れてくるのは聞き覚えのある曲。歌番組だ。
月島きらりとユニットを組んでいた者たちが、きらりの思い出を語り、歌っている。
居なくなってしまった彼女に、どこかに居るだろう彼女に想いが伝わるように。

ははっ。実に無駄なことだ。
私は彼女を独占している優越感に浸った。彼女は私の中にしか存在しないのだから。

いや。まてよ。
そうだ。きっと彼女も寂しがっているに違いない。
彼女たちに、もう一度ユニットを組ませてやろうじゃないか。

「観月 ひかる、雪野のえる、花咲こべに、か。」

今度はどのような趣向でいこうか。
3種盛りで、個性豊かな彼女たちを比べてみるのも悪くはない。

私は、例の店のオーナーに電話をかけた。

-完-

263:名無しさん@ピンキー
09/06/20 11:55:24 Hi/opqIi
御馳走様でした…!
人体の内部描写詳細だなあ、素晴らしい。

264:名無しさん@ピンキー
09/06/20 16:55:26 3+Xi6bSB
GJ!
カニバリズムもいいもんだな…

265:名無しさん@ピンキー
09/06/20 21:03:35 WrrJpTz3
GJ
物悲しくもあり、引き込まれる感じもあり。
喰った男を解体したい…

266:名無しさん@ピンキー
09/06/21 00:04:00 x6yxMJo2
>>249
GJ! グロで蟹場なのに、妙に少女趣味でロマンティックなのがイイ!


もうすぐお中元の季節です。
お世話になったあの人に、月蝕食堂の新鮮な女体料理を・・・

大企業の社長や大物政治家とかの接待だったら、さもありなんって感じだな。

267:名無しさん@ピンキー
09/06/21 00:24:52 LdflndhW
蟹場で美しいと感じてしまったよ
コレはGJと言わざるを得ない

268:名無しさん@ピンキー
09/06/21 07:55:10 /pJpCJFq
レイラ解体を投下した者です。
最近になって、書き忘れた場面がいくつかあったことに気づいたので、
それを入れた別ルート(カニバ無し、エログロ)を書こうと思います。
多分長くなるかもしれません

269:名無しさん@ピンキー
09/06/26 23:34:05 u1tL8FMa
>>268
了解。ノシ 保守しつつ気長に待ってる。

270:名無しさん@ピンキー
09/06/30 11:50:31 ogci3tNw
>>242>>268も期待してます

271:名無しさん@ピンキー
09/07/03 23:22:55 Ly1P3to8
ほしゅ。

272:名無しさん@ピンキー
09/07/05 15:40:49 7M/a/rgk
ほす

273:名無しさん@ピンキー
09/07/06 16:28:11 t/bZ7cP1
作品投下時以外の
この過疎っぷりは一体…

274: ◆/W8AnhtEnE
09/07/08 00:15:40 Lp8ESTPj
 
 これより軽いネタを4レス投下させていただきます。
今夜は七夕なわけですが、自分の住んでいるところでは雲が空を覆っていて
時たま星空が垣間見える状態なので彦星と織姫の再会は難しそうです。
 そんな発想から思いつきました。七夕伝説とかけ離れた妄想ネタですがどうぞ。

275:七夕 1/4 ◆/W8AnhtEnE
09/07/08 00:17:28 Lp8ESTPj

「織姫っ!」
川幅広く水を湛え、底が見えないほど深い河。
そのほとりで若い男が身を乗り出し、必死に対岸に呼びかけている。
「織姫っ!大丈夫なのか!」
黒い霧に包まれてしまい見通すことが出来ない向こう岸に向けて喉が張り裂けんばかりに
声をあげる男。
カキンッ! ザシュッ!
「はっ!―てやあっ!」
大河を流れる水の音にかき消されて彼の元には中々聞こえないが、対岸からは鋭き剣戟の音
そして勇ましい女の声が放たれていた。
男が不安でまんじりともしない時間を堪えていると、やがて霧が晴れ始める。

 ようやく露わになった向こう岸の様子。
その川原には異形の怪物―一般的には鬼と言われる姿形だ。―が何体も倒れ伏し
身体から流れ出る血が川の流れを濁らせている。
そして武器を手にして立っている鬼達、それに立ち向かうようにこちら側に背を向けて
刀を構えている人の姿があった。
「織姫ぇっ!」
男の声に応じて振り向く対岸の人影。
若く、溌剌とした輝きを持つ女だ。
「彦星、もう少し待っていて! もうすぐこいつらを倒せるから!」
男に笑顔を向ける女。
彼女の名は織姫。その姿を心配そうに見つめる男を彦星という。
遠い昔に大河の両岸に離れ離れにされた愛し合う二人。
七月七日の今日は、一年で唯一この河に橋が架けられて二人は再会することが出来るのだ。
だが今、それを邪魔する悪しきものが雲のような黒い霧を生み、織姫のいる岸の水際に漂わせている。
彼女がその霧から生まれる鬼を倒し尽くさない限り橋は架けられない。
彦星は、愛する彼女が自分との再会のために闘う様をただ見ていることしか出来なかった。


「たあああぁぁぁっっ!」
ザシュッ!
織姫は最後に残った鬼に飛び掛って、その胸に刀を突き立てる。
そして刀を抜くとドウッと倒れる鬼の亡骸。
これで岸に立つのは織姫ひとりとなった。
傷は負っていないものの、必死に動かした手足の疲労からくるこわばりに僅かに顔をゆがめながら
彼女はホッと息をつく。
もう恋路を邪魔する怪物はこれで倒し尽くしたのだ。よって橋が架けられ、愛する彦星と一年振りに
身体を触れ合わせること出来る。
すると彼女の目前の水際から白い光が発し、そのまま彦星が待つ対岸に伸び始める。
「彦星、逢いたかったよ……」
一年ぶりの再会にこみ上げる涙を流してそっと呟く織姫。
そして涙を拭き、対岸の恋人向かって晴れやかな笑みを見せる。

 だがその時、歓喜をもたらした白い光を覆ってしまうように再び黒い霧が湧き起こる。
「そ、そんなっ!」
疲れ果てた織姫に再度近づく魔の手。
(彦星と逢うためには……何があっても負けられないッ!)
一瞬怯えの表情を見せたが立ち直り、刀を構える。
そして彦星が待つ対岸の景色を再び黒い霧が塗りつぶした。


276:七夕 2/4 ◆/W8AnhtEnE
09/07/08 00:18:25 Lp8ESTPj

(長い……いつになったら霧は晴れるんだよ!)
焦燥に囚われる彦星。
先ほどの霧より倍以上の時間がたったが、今彼の恋人を視界から隠している黒い霧は
いつまでたっても晴れる気配が無い。
時間がたつと共に霧の向こうから聞こえる織姫の声も精彩を欠いていっている。
「……くそぉ!……ま、まだだ……まだ…」
気合の入った凛々しい叫びから、途切れ途切れに聞こえる掠れた叫び声に。
それは必死に自らを鼓舞する織姫の悲鳴のように彼には聞こえた。


 織姫は刃を振って鬼の腹を斬りつける。
さっきまでは臓物を撒き散らす致命傷をもたらしていた一閃だが、今は浅く鬼の肌を傷つけただけだ。
闘いの間、縦横無尽に河原を駆け、跳ね飛んで敵に襲い掛かっていた彼女の脚は酷使の末
もう立っているのが精一杯なのだ。とても勢いをつける踏み込みなど出来ない。
そんな彼女にせせら笑うように傷つけられた鬼が近づく。
その他にも織姫の周囲には数え切れない鬼が取り巻いている。
「……くそぉ!……ま、まだだ……まだ…」
刀が重い、鳥の羽のように軽く自らの一部となっていた刀が信じられないほど重い。
織姫は両腕を震わせながら刀を必死に構える。



「はぐぅぅぅッッッ!!」
今までは力弱くとも闘志が込められた叫びを放っていた織姫。
だが今彦星の耳に入ったのは傷つけられた恋人の悲鳴だった。

「アギャッ!!」
「織姫ぇぇぇッッ!」
愛する者の助けにもなれず、ただ呼びかけることしか出来ない己の境遇に絶望する彦星。
その耳から更なる悪夢がもたらされる。

「はひゃっ、ひッ!? ゴブウウゥゥゥッッッ!!」

「ガァッ!ゴボォッ!」

苦悶の度合いを増していく織姫の悲鳴。
河原に突っ伏し、彦星は無力な自分の不甲斐無さに涙を流すことしか出来なかった。


277:七夕 3/4 ◆/W8AnhtEnE
09/07/08 00:19:04 Lp8ESTPj

 正面から近づく鬼を睨みつけている織姫。
彼女は気づかない、もう弱り切って周りに気を配れなくなった彼女に背後から近づくもう一体の鬼に。
そしてその鬼は手にした金棒を織姫の左肩に振り下ろした。
「はぐぅぅぅッッッ!」
突如感じた左肩からの激痛に悲鳴を上げる織姫。
鎖骨を折り、力を失った腕から刀を取り落としてしまう
織姫は信じられない痛みに涙を零しながら思わず右腕で肩を押さえる。
そうして構えを解いてしまった彼女に正面の鬼が腕を振り、その横顔に拳を叩きつけた。

「アギャッ!!」
こめかみに強い衝撃を受け、脳を揺さぶられる織姫。
彼女の肢体は弾き飛ばされ河原を跳ね転げる。
ようやく動きを止めたその身体。
衣は破れ、各所から石に傷つけられた肌が垣間見える。
飛ばされて叩きつけられた右の頭からはどくどくと血が流れ、頭蓋から血を失わせている。
意識を半ば絶ってしまった彼女は近づく鬼達に何も反応できない。
「織姫ぇぇぇッッ!」
遠くから呼びかける彦星の声もこめかみを揺さぶるパンチの余韻で織姫には聞き取ることが出来ない。

ビリリリリッッ!
「はひゃっ?」
無造作に鬼の一匹が織姫の衣を剥ぎ取る。
意識が朦朧としたままの織姫、その露わになったお腹を振り上げられた鬼の足が踏みつける。
「ひッ!? ゴブウウゥゥゥッッッ!!」
凶器と化した足の裏を目にして恐怖で意識が戻り一瞬怯えた声を漏らす織姫。
その内臓が肋骨ごと内臓を踏みにじられる。
「ガァッ!ゴボォッ!」
踏み折られた肋骨、潰された内臓から流れ出た血がそのお腹を満たしていく。
その一部は食道を遡り、彼女の口から吐き出される。


278:七夕 4/4 ◆/W8AnhtEnE
09/07/08 00:19:54 Lp8ESTPj

 耐え切れないような長い時間が過ぎ、ようやく晴れ始める黒い霧。
涙に濡れた瞳を対岸に向ける彦星。
「あっ…あああ…そ、そんなぁ……」
再び露わになった対岸の光景。
河原には鬼達が車座になってなにやら話し込んでいる。
その向こうの大きな岩を目にして彦星は絶望の呟きを漏らした。
大きな岩を彩る白と赤のもの。
それは無惨に磔にされた織姫の姿だった。
傷ついた身体の両掌、そして両膝に太い鉄杭を打ち込まれて岩肌に縫い止められている。
衝撃的過ぎる光景に呆けたように見続ける彦星の視線に気づいたのか、織姫がゆっくりと
俯いた顔を上げる。
血に塗れ、腫れた瞼でほとんど瞳を閉じられながらも愛する彦星の姿を捉える織姫。

「……ひ…こぼ、し………た……す…け……て……」
恋人との再会を前に、無惨に敗北した織姫。
その愛する者に会うために苦難を乗り越えようと決意していた強き心はもはや砕け、手の届かぬところにいる
彦星に掠れた哀願を口にする。
「……お、おりひめ…………」
その声は聞き取れるものではなかったが、口の動き、その弱々しい素振りから彼女の願いを知った彦星。
だが、彼には越えることの出来ぬ大河を前にして何も彼女を救う手立ては何も無い。

『さあて、もう期限だな! もう月も落ち、まもなく夜明けの時間だ!』
鬼の一人がそう言い放って立ち上がる。
それに続いて立ち上がった鬼達が織姫を磔にしている岩に向かい、彼女の身体を彦星の視線から覆い隠していく。
『じゃあ、もう一年後だな。あばよ! この男と逢引するような女にはきちんと罰を与えておくからな!』
一体の鬼が振り向いて彦星にそう言い放つ。
その肩越しに周りを取り囲んだ鬼に恐怖の表情を浮かべ、震える織姫の姿が垣間見えた。

次の瞬間、対岸の風景が全てかき消える。


こうして彦星と織姫は一年に一度しかない再会の機会を逃してしまったのである。


279:名無しさん@ピンキー
09/07/08 07:06:07 Rk1ndh0B
ただでさえ一年に一回しか会えないのにハードル上げすぎ

280:名無しさん@ピンキー
09/07/08 19:37:33 /DGQ9fya
今年の東京は晴れてたよ!
だから多分これは「もし」雨が降ったらのシチュエーションなんだよ…(ノд`)

281:名無しさん@ピンキー
09/07/09 00:29:58 PGdR5mbX
>>274
乙&GJです。 って、休日天女シリーズの方でしたか。
折角の七夕ネタなんだし、エロ分も欲しかったかも・・・ 
(去年の七夕の彦×織の睦言とか、この話終了直後に鬼どもが瀕死&緊縛織姫を・・・(ry みたいな)

282:名無しさん@ピンキー
09/07/09 06:29:13 4EjY8556
ちなみに織姫と彦星って
恋人同士じゃないから
来年は気をつけてね

283:名無しさん@ピンキー
09/07/09 18:06:24 LVnJJUqf
ΩΩΩ>な、なんだってーー!

確かにWikipedia引いたらすでに「夫婦」とあったな
そりゃ「恋人」じゃねーやw

284:名無しさん@ピンキー
09/07/13 08:45:40 HWyFK4AW
ここの住人ってポテチ食いながらPOSO動画をマターリたしなむ的な?

285:名無しさん@ピンキー
09/07/13 18:21:42 pXTupIb9
>>284
グロ好き≠リョナ

自分の好きな対象のみのリョナしか受け付けないのは特殊なんだろうな

286:名無しさん@ピンキー
09/07/17 15:45:32 C9sKDXh+
久しぶりの投下です。
ディグダグってゲームありますよね。
あれのパロディです。
ちょっとレズチックですがエロは有りませんのでご安心を。
『穴掘り人』で5レス消費します。
でわ。


287:『穴掘り人』 1/5
09/07/17 15:46:21 C9sKDXh+
『穴掘り人』



「ディグダグが来たわよぉ―――――!!」
 暗闇の奥から突然現れた全身緑色の少女の叫びが洞窟の中に木霊した。
 すると、先に洞窟の中にいた少女の一団の間に緊張が走る。
 そんな少女たちの出で立ちはひときわ変わったものであった。
 大きくは2種類に分かれるその姿は、まず先ほど叫んだ少女と同じ、体のラインがはっきりと判る緑の全身タイツに、お尻の辺りから生えた爬虫類のような尻尾と襟元から尻尾までの背ビレが特徴的な少女たち。
 もうひとつは、同じく体のラインがはっきりと判る赤い全身タイツに、顔を覆う黄色の大きなゴーグルを付けた少女たちだ。
 彼女たちはそれぞれファイガ族、プーカァ族と呼ばれこのような洞窟の中で共生生活をしている種族である。
「あいつは近いの?」
 ブーカァ族の少女の1人が、先ほどのファイガ族の少女に質問する。
「2人やられたわ。じきにここにも来ると思う」
 ファイガ族の少女は顔をこわばらせながら答えた。
 その答えに少女たちは何かを思案するように、一様に難しい顔をしていたが、先ほど質問したフーガァ族の少女が真っ先に顔を上げると、
「皆一旦ここを離れましょう。ここに留まるのは危険だわ」
 その言葉に皆頷くと、次々にその場からかき消すように1人、また1人薄闇に溶けるように消えて行く。
 ところが、
「逃げよっ!」
「いや、私は戦うわ。フウコは逃げなよ」
 フウコと呼ばれたフーガァ族の少女に、ファイガ族の少女は力強く答える。
 するとフウコは一瞬視線を泳がせると、
「ホムラが残るなら私だって……」
 そう言ってファイガ族の少女―ホムラの腕をそっと掴んだ。
 そんな2人に眉を吊り上げて先ほどのファイガ族の少女が詰め寄ってきた。
「あんたたち何してんの!? あいつはすぐそこまで来てるんだから逃げるなり迎え撃つなり早ぎゅあああああっ!?」
 怒り心頭で2人に怒鳴り散らしていた少女が突然体を強張らせて仰け反った。
「「!?」」
 驚愕の表情を浮かべるフウコとホムラ―そんな2人の耳に、聞きなれない音が聞こえて来た。
 それを何かに例えるなら、風穴の光も上手く通らないような狭い狭い隙間を強い風が通り抜ける時に良く似ている。
 そんな耳障りな音を聞いた、と彼女たちが感じたその時、目の前で仰け反っていた少女の体にある変化が起きた。
 初めは何かの見間違いかと感じた。
 少女の細い腰周りや、へそのくぼみが目立つ引き締まったお腹が膨らんだ?
 2人にはその様に見えた。
 そしてそれは見間違い等ではなく現実に起こっている出来事だった。
 段々といびつに形を変えてゆく少女の体。
 それは、徐々に徐々に大きさを増して広がって行く。
「あ゛あ゛……ぐぅ……、こ、こん……――」
 何かに耐えるように少女は腹に手を当てながら身を震わせる。
 その間にも膨らみは胸の辺りまで広がって来ていた。
「おごっ! げごっ!! お゛がああああああああああ!!」
 内臓が圧迫されたせいで、上を向いた口から叫びと共に絶え間なく胃液が零れる。
 その間にも段々と丸みを増してゆく少女の胴体。
 そして、ついには―
「ふあがぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああ――」


288:『穴掘り人』 2/5
09/07/17 15:47:06 C9sKDXh+
「!!」
 風船の破裂するような乾いた音と共に少女の膨らんだ胴体が弾け飛んだ。
 赤いタイツの切れ端と少女の中身が辺りに飛び散る。
 それは間近で見ていた2人の全身にも雨あられのように降りかかる。
「お、ぐぅ……」
 胴体を失った少女が残った内臓を零しながら地面に倒れた。
 その手足が微かに動いているが、彼女が助かる事は無いだろう。
 フウコとホムラは、その瞳に一瞬悲しみの色を浮かべたが、すぐにそれを消すと洞窟の奥をにらみ付けた。
 そこには―何かが佇んでいた。
 形容するなら全身上から下まで真っ白な人影だった。
 表情は蒼いバイザーで覆われていてうかがい知ることは出来ない。
 その白い影の手には、赤い銃のようなものが握られていて、その先端から同色のロープのようなものが目の前で倒れている少女の背中まで伸びていた。
「喰らえっ!!」
 ホムラはそう叫ぶと、少し腰溜めに身構えた。
 するとホムラの背ビレがにわかに輝く。
 ホムラが唇をすぼめて突き出す。
 その途端、白い影が距離を取るかのように後退った―と次の瞬間、ホムラの細められた唇から炎が走った。
 それは白い影の足元を吹き飛ばす。
 もうもうと土ぼこりが上がる中、
「フウコ飛んでっ!」
 ホムラがフウコの手を取って叫んだ。
 そのまま2人は掻き消えるようにその場から消える。
 そして後に残されたのは、白い影と少女の亡骸。
 それを暫く眺めていた白い影は、歩きながら地面に転がっていたロープを手元のガンに巻き取って行く。
 最後に血のこびり付いた銛が納まると白い影はゆっくりとした動作で岩壁に向かう。
 先ほどの騒動にもビクともしなかった岩の壁が行く手を遮っている。
 白い影は、そんな岩の壁に先ほどの赤い銃を押し当てた。
 するとどうしたことだろうか? 白い影が触れた部分から丁度通れるくらいに岩壁がすり鉢状に抉れたのだ。
 そのまま岩壁に出来た穴の中に吸い込まれてゆく白い影。
 暫く岩を削るような音が聞こえていたが、それもやがて聞こえなくなると、洞窟には少女の無残な亡骸に相応しい静寂が訪れた。


~・~・~・~・~・~・~・~・~・~


 別の洞窟に移動した2人は息を潜めて様子を伺っていた。
 元々洞窟に暮らす彼女らに時間の感覚はあまり無い―眠くなれば眠り、目が覚めれば活動する、ただそれの繰り返しに曜日や時間は必要無かった。
 だからどれくらい時間が立ったのかは判らない。
 その間に眠気も襲ってこなかった事から、多分半生活サイクル―1生活サイクルが1日に相当―は立ってはいないのだろう。
「あいつ、諦めたかしら?」
「それは無いわ。ディグダグは私たちを殺しつくすまでここから離れる事は無いと思う。それがディグダグよ」
 フウコの言葉にホムラは溜息混じりに答えた。
 そんなホムラの言葉に不安を隠しきれないフウコはまた言葉を発する。
「何なのかしら、あのディグダグって」
 それにホムラは首を左右に振ると、
「そんな事を言ったら私たちだって変でしょ? こんな洞窟の中を移動して暮らす生き物なんてあんまりいな……」
 途中まで何かを言いかけた所でホムラは急に黙り込むと鋭い視線で辺りをうかがう。
 その姿にフウコも表情を引き締めると、同じように辺りに視線を送る。
 するとそんな2人の耳に何か地響きに似たものが聞こえてくる。
「あいつ……。私たちに感づいたわね」


289:『穴掘り人』 3/5
09/07/17 15:48:04 G/RcsuDb
「どうやって私たちの位置を……?」
 ホムラの言葉に、フウコが疑問を投げかけた。
 しかし、帰ってきたのは答えではなく、ホムラの悪戯っぽい笑みだった。
「考えても仕方ないわ。幸いまっすぐこっちに向かってるみたい―ふふ、見てなさいよ」
 そう言うと再び先ほどと同じような姿勢を取る。
 ホムラは背ビレを輝かせながら、
「今度こそ、ここから壁越しに焼き殺してやるっ!」
 そうホムラが目の前の壁に殺意を込めた言葉をぶつけた瞬間、目の前の壁に小さな穴が空いた。
 そこに向けてホムラの火炎が迸る。
 それは小さな穴を抜けてその中に吸い込まれて行った。
「どう?」
 フウコがホムラの側によって手応えを確認した。
 しかし帰ってきた答えは、
「おかしいわ。手ごたえが無い」
 会心の一撃が空振りに終わり、にわかにホムラは動揺していた。
 フウコはそんなホムラを慰めようと近付こうとした。
 その時だった。
 フウコの頬に何かが触れた―と思った次の瞬間、
「危ないっ!!」
「!?」
 轟音とフウコの叫びが交錯し、辺りは土煙に覆われた。
 暫くして凄まじい音が納まって気が付くと、フウコもホムラも地面の上に倒れていた。
「痛ったぁ……。まさか岩を落としてくるなんて、あのクソディグダグ……」
 いち早く目覚めたホムラが身を起こそうとすると、
「ぅ……」
 その上に覆いかぶさるようにしていたフウコがにわかに呻き声を上げた。
 そんなフウコを気遣って、ホムラは上体を捻って覆いかぶさるフウコに向き直ろうとした。
 しかし、
「フウコ。大じょ……夫……」
 そんなホムラの目に飛び込んできたのは、右足を岩に挟まれたフウコの姿だった。
「フウコっ!?」
 ホムラは慌てて起き上がると、フウコの足の上にあった岩をどけた。
 しかし、岩の下から出てきたのは白い骨を除かせた足首まで。
 そこから先は見当たらない。
「ドジった……」
「フウコォ!!」
 ホムラは気丈に笑顔を見せるフウコを胸に抱きしめた。
「ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめ……」
 ホムラの謝る声に涙が混じり始める。
 そんなホムラの背中に腕を回したフウコは、
「泣かないでよ、もう。その為に体張ったのに……ねえ、怪我は無い?」
「フウ、コ……」
 笑顔のフウコを見ていると、ホムラの心には何か熱いものがあふれ出す。
 それは物心ついた時から何となく感じてはいたが、ここまで強く感じたのは初めてだ。
 心の内側を焦がすような……、優しくもあり、荒々しくも感じる何か……。
 すると突然、ホムラはフウコの顔に自分の顔を近づけた。
 いつものじゃれあう時とは違う雰囲気に、フウコは息を呑む。
(フウコが欲しい……)
 自分でも信じられないような気持ちが沸き起こると、ホムラはその気持ちに逆らう事無く従った。
 フウコの少しぷっくりとしたピンク色した唇を奪うために更に顔を近づけた。
 しかし、そんな情熱のひと時を邪魔する無粋者がいた。
『ミツケタ……』


290:『穴掘り人』 4/5
09/07/17 15:48:41 G/RcsuDb
 しわがれて無機質な声が洞窟に木霊すると、ホムラもフウコもそちらに鋭い視線を向けた。
 そこにいたのは白い影―ディグダグだった。
 ディグダグは天井にあいた穴から上半身を出してこちらの様子を伺っていた。
 そして赤い銃をまっすぐと2人に向けて構えると、
『オマエタチヲハイジョ―』
 ディグダグの声が轟音にかき消される―ホムラが三度口から火を吹いたのだ。
 天井と一緒に地面に叩きつけられたディグダグは、それでも素早く立ち上がると、足元を掘ってその中に逃げ込んだ。
 2人の耳に岩を削る音が聞こえてくる。
 そちらをじっと眺めていたホムラは、同じ方向を見ていたフウコの頬に口づけする。
「ホムラ……?」
「フウコは逃げて。私はあいつを倒す」
「駄目よ……、今のうちに一緒に逃げ―」
 フウコの言葉は、ホムラの熱い唇に吸い取られて消えた。
 体を震わせるフウコを一度力強く抱きしめたホムラは、すっとフウコから体を離すと立ち上がった。
「じゃね。楽しかったわフウコ」
「ホムラ……。ねえ止めてホムラ……。ホムラァァァ――――――――――!!」
 フウコは去ってゆくホムラの背中にあらん限りの気持ちを込めて名前を叫んだ。
 しかし、ついにホムラは振り返る事は無かった。
「ぅぅ……」
 そして、後にはホムラの消えた穴を見つめながら泣くフウコの声が洞窟に響いていた。


~・~・~・~・~・~・~・~・~・~


 樹木もまばらな草原を赤い装束を纏った少女、フウコが歩いていた。
 右足が失われたため、左右の長さが違う足で不器用に歩く姿は痛々しい。
 そして憔悴しきった顔は死人のように蒼ざめていた。
 この地表を抜けなければ別の土地には逃げられない。
 しかし彼女たちの力は地面の中でしか発揮されない。
 ゆえにこうして地表を不自由な足で移動しているのだった。
 あの後、いくら待ってもホムラは帰ってこず、ディグダグも現れなかった。
 仲間を失って1人で生きるくらいなら地の底でホムラを待とうと思ったフウコだったが、去り際にホムラが残した言葉を守ってここまで逃げてきた。
 今は何も考えまい。
 フウコはそう思って歯を食いしばってまた一歩を踏み出す―が、そんなフウコを悲劇が襲った。
 フウコの足元の地面が小石を巻き上げて跳ね上がったかと思った次の瞬間、
「ギャン!!」
 フウコの―女性の大事な部分を何かが深々と貫いた。
「あがががががががががががががががががががが――」
 悲鳴を上げて地面をのた打ち回るフウコ。
 その側の地面が盛り上がると、
『ツカマエタ』
 地面を割って薄汚れた白いヘルメットが頭を出した。
 それは徐々に地面から、肩、胸、腰、足、と姿を現した―あのホムラが追っていったディグダグだ。
 しかもその体には、下半身を失ったホムラを纏いつかせていた。
 ディグダグが身をゆするたびに、ホムラの噛み付いた首筋や、指が半ばまで食い込んだ胸や背中から鮮血が零れて―またホムラのちぎれた胴体から零れる血が、白い体を赤く染めた。
 それでもディグダグは何事も無かったかの様に、赤い銃を構えると、
『ハイジョスル』
 引き金の側にあるボタンを押した。
 耳障りな音と共に、フウコとディグダグを繋ぐロープが蛇のようにのた打ち回る。
 すると、
「おお!? おあああああああああああああああああああああああああ!!」


291:『穴掘り人』 5/5
09/07/17 15:49:19 G/RcsuDb
 フウコの体が風船のように膨らみ出した。
 それは先ほど破裂した少女に倍する速度で膨らみ、あっと言う間にフウコの胴体はパンパンに膨らんだ。
 ところが、ここで思わぬ事態が起こった。
「おぎゃあおおおお、おげっ! ごげああああ……はぁ……はぁ……ぁぁ……」
 ボールのようになってのた打ち回っていたフウコの腹が急激に萎んでゆく。
「ぅぅ……、ぅ?」
 フウコは視界の霞む目でディグダグを見上げる。
 一体ディグダグに何が? もしや私を助ける気? しかし、フウコの見通しは甘いとしか言い様が無かった。
 先ほどの更に倍する速度でフウコの体が膨らんだ瞬間、フウコの意識が一瞬途絶えた。
 そのせいで、フウコは股を汚す事になるのだが、それどころではない。
 激しい痛みにすぐに意識が戻ると、
「ぎゅわおぎゅあがががががが――――――――――ッ!!」
 先ほど以上の叫び声を上げて手足を振り回してのた打ち回る。
 そんな事を何度も何度も繰り返していると、その内フウコの抵抗も無くなって来た。
 ただ、だらりと首を折ったまま、
「ごろじなざいよおおおおおおおおおお。はやぐごろじでえ……」
 とうわ言を呟くだけになっていた。
 そんなフウコをディグダグはひび割れたバイザー越しに眺めながら、
『クルシメ。クルシメ。モットクルシメ。ソウスレバコノサンゲキモオワル』
 そう言って、またフウコの体から空気を抜き始めた次の瞬間、ディグダグの体を炎が包んだ。
『グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
 ディグダグがどんなにもがこうが、炎は衰えるどころかますます力を増す。
 その内ディグダグはがっくりと地面に四肢を付くとそのまま動かなくなった。
「……?」
 呆然とその姿を眺めていたフウコは、『火』と言うキーワードからある人物を思い出す。
 それは、
「ホムラ……」
 ホムラが勝った―実際は相打ちだが、朦朧としたフウコにそれは判らない―そう思うだけで心が救われる気がした。
 しかし、
「あ゛」
 フウコは自分の体の中で何かが動いたような気がして、目だけ動かして確めようとした。
 だが、それは永遠に不可能となった。
 再びフウコの体が風船のように膨らむ。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛――」
 消耗しきったフウコにはただ呻き声を上げてそれを甘受するしか無かった。
 そして、フウコの体が限界まで膨らみきった瞬間、
「おがっ!!」
 短い悲鳴を残して、フウコの体もはかなく爆ぜて辺りに中身を撒き散らした。
「ぁぁ……」
 急速に失われてゆく命を感じながら、フウコは青空を眺めていた。
 そんな、フウコの体に何かが覆いかぶさって来た。
「フ……コ……」
「ホ……ム……」
 そんな無残な亡骸が最期の言葉を交わす姿を、いつの間にか起き上がったディグダグがじっと見下ろしていた。
 そして、
『プレイヤーハマダマンゾクシテイナイ。ツギノエモノヲ……』
 しわがれた声でそう呟くと、重そうに足を引きずりながらその場を去って行く。
 あとには青空の下にさらされた屍が不釣合いな笑みを浮かべていた。



END


292:名無しさん@ピンキー
09/07/17 15:55:26 C9sKDXh+
以上です。
読んでくれた方に感謝。
参考にしたのは最も古いディグダグでした(と言うかそれしか知らないので)。
でわ。


293:名無しさん@ピンキー
09/07/17 17:45:37 MD1wLlrK
じゃあね

294:名無しさん@ピンキー
09/07/17 20:53:30 0hICIp89
>>292
GJ!
あの色気のないレゲーで、よくもまあここまで妄想できるもんだ。

295:名無しさん@ピンキー
09/07/18 20:04:05 xHhu16Vj
GJだがディグダグの単語を見るたびに吹いてしまう

296:名無しさん@ピンキー
09/07/19 04:48:28 dYejtR1T
ディグダ ディグダ ダグダグダグ

297:名無しさん@ピンキー
09/07/19 10:33:33 oqiE4HJn
>>292
GJ! 素晴らしかった。
膨らませて萎ませて膨らませてのコンボは良い。勃起した。

298: ◆/W8AnhtEnE
09/07/20 19:32:34 s8ypCKQ5

毎度、蓮弓天女ネタを投下している者です。

七夕ものをお読み頂きありがとうございました。
ネタが浮かんですぐ書き上げたものなので、リョナ分のみで作品に広がりが無くスイマセンです。
ご指摘も有難うございました。てっきり夫婦とは知らず恋人と思い込んでいました。

では、これより「海日天女」を6レス投下させていただきます。

299:海日天女 1/6 ◆/W8AnhtEnE
09/07/20 19:33:29 s8ypCKQ5

 ここはとある海水浴場。
日中は燦々と降り注ぐ陽の光の下多くの海水浴客の喧騒に満ちていたが、夜が更けた今は人の気配は無い。
少し交通の不便なこの浜辺には花火をしたり、4WD車で砂の上を走り回るような輩が訪れることはなく
砂浜は月の光に照らされ、静かに波の音だけが響いていた。


ドゴオォーン!
突如、ビーチに轟音が響く。
その音が発生した一角には濛々と土煙が立ち込めていた。
土煙に険しい視線を送る一人の少女。
場に似つかわしい漆黒のゴスロリドレスに身を包んだ彼女の名は『月曜日』という。
人々を安寧から引き摺り落とし、恐怖の労働に就かせる悪の五姉妹『ヘイジツーシスターズ』の長女だった。
「だからっ、効かないよこんなものは!」
土煙の中から放たれた声に目を見開く月曜日。
 僅かな後、視界が晴れたそこには人の背丈を越える巨大な右手が伏していた。
その正体は月曜日の特殊能力、敵を握り潰す強力な力を持った『マンデーハンド』だ。
彼女は先ほどマンデーハンドで地に立つ敵を叩き潰したはずだ。
だが巨手の下には右腕を上げ、軽々とそれを受け止めている女の姿があった。

「喜月壁(ハッピーマンデーフィールド)はこんなものじゃ壊せないんだからっ!」
笑みを浮かべる女。
 その肩口までの長さの金髪にはワイルドな印象を放つシャギーがかけられている。
くっきりとした目鼻立ち、その中の可愛らしさを感じさせる大きな瞳は月曜日を見据えていた。
露出が多いカフェオレ色の肌、大きな胸を強調するような葡萄酒のような赤色のホルタービキニでその身を包んでいる。
その指先から肘、爪先から腿の半ばまでも同じ色の長グローブとブーツ、オーバーニーソックスで覆っていた。
 彼女の名は『海日天女(かいじつてんにょ)』、聖なる力『ホリデー』を用いてヘイジツシスターズと闘い
人々に休日をもたらす正義の『蓮弓天女』の一人だった。

「それじゃっ、今度はボクから行くよ!」
 対月曜日の秘法『喜月の秘法(ハッピーマンデー法)』を身に付けた選ばれし天女である海日天女は
月曜日に向かってそう言い放つ。
彼女が右腕に力を込めると、虹色の光に包まれて頭上のマンデーハンドが掻き消えた。
マンデーハンドを形成する悪の力『ロウドウー』が彼女の強力なホリデーに浄化されたのだ。
海日天女はそのままホリデーで輝く右腕を月曜日に向ける。
自信に満ちた笑みを敵に向ける彼女。
その右腕にはどんどんとホリデーが集められていく。
「行けええぇぇぇッッ! ホリデーウェーブッ!」
天女の叫びと共にその手から放たれたホリデーは、大きな波のような勢いで月曜日に襲い掛かった!
「ギャヤアアアァァァァアッッ!」
ホリデーの波に飲み込まれ、途方もない衝撃に襲われた月曜日劈くような悲鳴が響く。

 波が消えた砂浜。月曜日は跡形もなく消えてしまった。
こうして海日天女はヘイジツーシスターズの一人を打ち倒し、人々に休日をもたらしたのである。



 翌日、再び多くの人で賑わいを見せる浜辺を海日天女は散策していた。
(みんな、楽しんでくれているね。)
自らの勝利で多くの人々に安息と喜びがもたらされた光景を眺めて満足する天女。
 ふと、その瞳が不安げに辺りを見回しながら歩く少年の姿を捉えた。
その少年は視線に気づいたのか彼女の方を向いて立ち止まる。
(えっ!?……あの子、ボクのことが見えているのかな?)
蓮弓天女は人々には不可視の存在である。
だが、いわゆる霊感が強い人物など極一部の人々は彼女達の姿を目にすることが出来るという。
「……君、どうしたの?」
やや戸惑いながら海日天女は少年に話しかけた。


300:海日天女 2/6 ◆/W8AnhtEnE
09/07/20 19:34:09 s8ypCKQ5

「えっ!…は、ぁっ!」
少年は驚いて声にならない音を漏らす。
何しろ目の前に立ち、話しかけてきたのはスタイルの良い肢体をワインレッドのビキニで覆った美女なのだ。
そんな少年の反応にクスッと笑みを零しながら天女は問いかける。
「何か、困っているみたいだけど?」
首をかしげて問いかける天女、そのちょっと子供らしい仕草に少年の心は跳ね回る。
「えっ!…あぁ……うう、と。」
ドギマギさせた心を落ち着かせながらも、中々彼は答えられない。
そんな彼に天女は思いついたことを口にする。
「誰か人でも探しているの?」
「……は、はい……恥ずかしいんですけど、僕、迷子になっちゃったんです。」
「えっ、アハハハハッ! 」
彼女の問いかけが呼び水になったのか答える少年。
その答えに海日天女は思わず笑ってしまった。目の前の少年は童顔で小柄だから判別は難しいが小学校の高学年
あるいは中学生に見える。
この世の理である年齢には囚われない彼女だが、外見の設定上の年齢の19歳よりほんの数歳年下なだけの
少年の子供っぽさに可笑しさがこみ上げてしまったのだ。

「あっ、ゴメンね! 笑っちゃったりして。でもそういう時は『~とはぐれちゃった。』とか言った方がカッコいいよ。」
耳まで赤く染めて恥ずかしげに俯いた少年に気づき、慌てて謝る海日天女。
「お、お姉さんが一緒に探してあげるからさ。お姉さん、探し物は得意なんだよ。ねっ?」
海日天女は困り顔のまま少年の機嫌を直してもらおうと提案する。
「…アハッ! はいっ、お願いします。」
年上の美女の戸惑う顔に笑いを耐え切れなくなった少年はそう笑顔で応じた。

「じゃあ、ちょっとおでこ突き出してくれない? まず、探し物が見つかるおまじないをボクがかけて上げるから。」
そう言う海日天女にやや戸惑った顔をしながら少年は言われたとおりにする。
すると天女は瞳を閉じ、まるでキスをするかのように顔を近づけてきた。
顔を真っ赤にする少年、そのまま天女は自分の額を彼のものと突き合わせた。

 息遣いすら感じられるほど近い距離で見る彼女の美貌は少年の心を激しく揺さぶる。
一本一本見分けられる端整な睫毛、日に焼けているのにシミ一つなくきめ細かさを保っている肌、流麗なラインの鼻筋
そしてぷっくりとした桜色の口唇。
(ふんふん。もう、コウフンしないでよぉ。なかなか読み取れないじゃないか。)
そんな彼に心の中で悪態をつくそもそもの興奮の原因の海日天女。
天女の能力を使い、彼女は額を突き合わせることで彼の記憶を読み取っていたのだ。
(ええと、君の名前はユウキミチヤくん。中学一年生。ここには両親と親戚とで来ていて―)
脳裏に浮かんだミチヤの両親と親戚の顔、それを彼女が目撃した場所を今まで散策した光景から瞬く間に拾い出す。
すると数分前に側を通り過ぎたパラソルの下の女性の顔と彼の母の顔が一致した。
「うん、わかった! ついてきて、ミチヤくん!」
額を離すとニッコリと笑って少年に告げる天女。
道哉は自分の名前を言われたことに驚きながらも、歩き出した彼女の背中についていった。



 再び、夜の帳が下り静寂に満ちたビーチ。
その一角の松林の中を海日天女は歩いていた。
今日一日、彼女は道哉を始めとして迷子の保護、具合が悪くなった人の介護、そして溺れかけた人を天女の力で救ってきた。
道哉の場合を除けば彼女は姿を現さず、そっと手を貸して手助けをした。
どれもこれも皆に良い休日を過ごしてもらうためだ。
夕暮れ時に見た満足そうに家路についた人々の顔は彼女に大きな喜びを与えた。

自らの手で勝ち取った勝利の結果、人々が楽しい一日を過ごした事は彼女にとって最も幸せなことだった。



301:海日天女 3/6 ◆/W8AnhtEnE
09/07/20 19:34:43 s8ypCKQ5

「そこにいるのはお見通しよっ! 出てきなさいっ!」
今日一日の思い出に笑みを浮かべていた美貌を凛とした表情に替え、松の木に睨みつけるような視線を向ける海日天女。
「一人で笑ってしたりして楽しそうですわね。」
その声に応じて現れたのは小柄な少女だ。
純白のレオタードとタイツというこの場に似つかわしい格好をしている。
「人々が休日で笑って楽しそうにしているとわたし、とってもムカついてくるの。
 とっとと貴女には死んでもらって汗水垂らして働いてもらうわ。」
少女の名は『火曜日』、ヘイジツーシスターズの次女だ。
「そうはさせないッ!みんなの休みはボクが守るんだ!」
拳を握り締め、海日天女は少女に飛び掛った。



「はぁ……あっ……はっ、はぁ…」
火曜日との戦いが始まってしばらくの後、海日天女は窮地に立っていた。
天女は火曜日に飛び掛ろうとするも、撓って襲い来る火曜日の鞭によって彼女に近づくことは出来ない。
逆にその肢体に傷を増やすだけの状況であった。
破れかけたビキニ、小麦色の肌のあちこちにも赤い線が刻まれている。

(こうなったら、この一撃に全てをかけるしかない!)
ジリ貧となっていくこの状況を打開するため、決意を胸に彼女は敵を見据える。
(敵の特殊能力、チューズデートランスデューサーを撃ち砕けるかはわからない。
 でも、ボクはボクの技を信じる!)
天女の力ホリデーを悪の力ロウドウーに変換できるチューズデートランスデューサー。
火曜日が持つその鉄壁の守りに挑もうとする海日天女。
彼女が右腕を火曜日に向けると、その手が光を放ち始める。
「ホリデーウェーブッッッ!」
甲高い叫びと共に、巨大な波のようなホリデーが火曜日目掛け放たれた!

「無駄ですわ。」
迫り来るホリデーの波にも関わらず笑みを浮かべて立ったままの火曜日。
彼女がその波に飲み込まれようとした瞬間、ホリデーウェーブは掻き消えてしまった。
「私のトランスデューサーを甘く見てもらっては困りますね。」
愕然とする海日天女に投げかけられる火曜日の嘲笑。
「では、お返しですよ。」
彼女に向けられた火曜日の腕から、黒き光が放たれた。

「きゃややあああああッッッ!」
強力なロウドウーを浴び、弾き飛ばされる海日天女。
松の枝や幹をロウドウーの光と共に巻き込んでへし折りながら飛ばされるその身体。
「アギィッ!」
一際太い松の木に叩き付けられたことでようやく動きを止めた。
木の根元に倒れこんだ海日天女。その肌は赤い傷で覆われ、左の太腿には松の枝が突き刺さって
貫通したままになっている。
あちこちの骨も折られ、身動きが取れない彼女に火曜日が近づく。
「酷い有様ですね!」
傷ついた海日天女を見下す火曜日。
だが天女は痛みに苦しみながらもキッと敵を睨む。


302:海日天女 4/6 ◆/W8AnhtEnE
09/07/20 19:35:19 s8ypCKQ5

「へぇー、まだそんな目が出来るんだ。……これ、何かわかるかしら?」
火曜日が指で挟んでかざしたのは細い針だ。
「さ、さぁ……裁縫でもするの? お嬢ちゃん。」
小馬鹿にしたように応じる海日天女。
ムッとした火曜日は彼女の左の二の腕に針を突き刺す。
小麦色の肌につうっと刺し込まれた銀色の針。
チクッとした痛みを覚悟していた天女。
「ギャヤアアアアアアアァァァァッッッ!!」
だがその身体を襲ったのは灼熱のような激痛だった。
鍛えこまれた筋肉、女らしさを肢体に与える薄い脂肪の層。
その全てを焼き尽くすような痛みが彼女の中を駆け巡る。
天女が悶える様子を満足そうに見ていた火曜日がそっと針を抜いた。

「アギャッ! ギィァ……アァ…。」
強烈な痛みに頭を真っ白にさせ、目を裏返してしまった海日天女が呻く。
「どう、効いた? ロウドウーを濃縮して作った針は? これでいつもは休日に遊び過ぎた労働者をチクチク刺しているんだけど
 あなたを刺したのは特別製、普通の針の2000倍のロウドウーを濃縮して出来ているんだよ。」
ロウドウー針で刺された後の痛みは一般には筋肉痛と同一視される。
だが、天女か感じた痛みは筋肉からの鈍痛どころではなく身が裂けるかと思うほどの鋭い痛みだった。
「次はここにしようか?」
痛みの余韻に半ば意識を失って悶えている天女。
火曜日はそのむっちりとした右の太腿に針を刺し込む。
「ギガガガアアアアアアアァァァッッッ!」
その瞬間雄叫びのような悲鳴を上げ、脚をバタつかせる海日天女。
太腿から伝わる激しい痛みに下半身の痛覚以外の感覚が消え失せてしまう。
ただ痛みに反射して彼女の長い脚は跳ね動かされている。

「次はここ、ふっくらして刺しがいがありそうね。」
針を抜き、海日天女の乳房に目を移す火曜日。
「ギッ!…アガァッ!……イ、いや……やめ、て……」
ビキニで覆われていないカフェオレ色の肌に押し当てられる針。
痛みに心をも傷つけられ、それを目にするとフルフルと首を振って情けない声を出してしまう天女。
火曜日はその声にニンマリとした笑みを浮かべて針を刺し込んだ。
弾力のある肌が鋭い針に一瞬耐えるものの、プチッと貫かれてしまう。
「ハギャヤアアアアアァァァッッッ!」
海日天女は胸の膨らみから走る、中に詰まった肉ごと焼かれるような激痛に身体を跳ね踊らせる。
同時に乳房が弾んでしまい、より針からの刺激を強めてしまう。

「さて、一本一本刺していたらまだるっこしそうだからいっぺんに刺してあげる。」
火曜日の手にぎっしりと握られた針。
「イヤアアアアアァァァッッッ!!」
それを目にした海日天女の泣き叫ぶような悲鳴が松林中に響いた。


303:海日天女 5/6 ◆/W8AnhtEnE
09/07/20 19:35:57 s8ypCKQ5

「もううんともすんとも言わなくなっちゃいましたね。」
気だるげに言葉を発する火曜日。
彼女の視線の先には両手首を纏めて鉄杭で貫かれ、『人』の形で松の木に磔にされた天女の姿があった。
 人々をロウドウーから救う海日天女は火曜日に嬲られ、今その命を散らせようとしていた。
ワインレッドのビキニは破り捨てられ、露わになった乳房は針山のように数え切れないロウドウー針が刺し込まれている。
信じがたい激痛に脳を焼かれた彼女の意識は既に失われ、力無く顔を俯かせていた。
その身体に視線を向けた火曜日が手を振ると天女に刺さった針が掻き消える。

「ほら、起きなさいよ。針は抜いてあげたわよ。」
海日天女の前髪を掴み、顔を持ち上げる火曜日。
快活そうな笑みを浮かべていた美貌は、光を失い濁った瞳、涙が垂れた跡が残る日焼けした頬、空ろに開いた口唇と
無惨なものと化していた。
「っ……あ……がぁ……あぁ……」
天女は顔を持ち上げられた拍子にか細い呻きを漏らす。
呻きと共にその口唇から涎が一筋垂れた。

「さて、この二本はどこに刺してあげようかな?」
海日天女の目の前で二本の針を見せびらかす。
「…え、ぁ……い、いや……もう…死んじゃう……ボク、死んじゃうよぉ……」
意識を取り戻した天女は瞳に恐怖の光を宿し、震えながら呟く。
「殺すためにやってあげているんだから当然じゃない? じゃあ、ここにしてあげる。」
火曜日は天女の左乳房を摘まむように握り、その頂、桃色の蕾に針を刺した。
「い、いや、そこはッ―ギィェェエエエァァアアアアアアァァァッッッッ!!」
ツンと尖った乳首に針が刺し入れられた瞬間、天女は身を仰け反らせて叫ぶ。
拘束された身を振り動かし、身体全体を走る痛みの電流に苦しむ彼女。

「もう一本も。」
「アギギギギイイイイエエエェェェェッッッ!!!」
もう片方の乳首にも針が刺し込まれる。
痛みで視界が明滅し、天女の脳の中焼けるような刺激が渦巻く。
ロウドウー針を数え切れないほど刺し込まれ体内のホリデーを汚染されてしまった海日天女。
常人ならすでに幾度も死ぬような責めを受けた彼女の身体はホリデーをも失ったことでもう限界を迎えようとしていた。
 その身体、首もとより少し下がった位置に赤い玉が体内より浮かび上がる。
「あらっ、これがあなたのホリデークリスタルね。」
赤い玉の正体、それは蓮弓天女の力の源、ホリデークリスタルだった。
力を失い、肉体を限界まで傷つけられた海日天女はもはや身体の中にそれを保持しておくことも出来ないほど
ダメージを負ってしまっていたのだ。

「じゃあ、とどめね。」
新たな針を握り、クリスタル見つめる火曜日。
海日天女は見開いた瞳でその光景を見つめ、息をつぐ魚のように口唇をパクパクさせる。
そして絶望に捕われた彼女の胸の宝玉に針が突き刺さった。
「ガァッ――――ッッッ!!」
赤い宝玉に硬さをもろともせず刺し込まれる針。
海日天女は息を詰まらせたような呻きを漏らして瞳を裏返らせる。
やがてクリスタルに針の傷からひび割れが走り、一気に砕け散った。
同時に仰け反っていた海日天女の身体がだらんと垂れ下がる。


生気が失せたその美貌、力を無くしたその肢体。
こうして海日天女は火曜日に敗れ、人々の休日は失われたのである。




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