09/02/05 01:56:54 RtpOuoed
2メートルを優に超える長身、大柄な祖父のゴツゴツとした手は少女の頭ではなく肩にポンと置かれる。
予想を裏切る行為に、スバルの表情に僅かに安堵とも不満とも取れる感情が滲んだ。
「元気にやってるみたいで良かったぜスバル」
「え、ああ……うん、ありがと」
「それじゃ、もうちょい見学させてもらって良いかい? 教官殿」
老兵は顔を見上げると、自分から比べて随分と小さな孫娘からその教官であり上官でもある少女へと視線を移した。
栗色の髪を揺らした、青と白の教導隊制服を纏う少女、高町なのはは常に顔に宿した爛漫とした笑顔で彼に返す。
「はい、部隊長からはお話を聞いてますから幾らでも」
「ありがとよ」
洒脱な老兵は鋭い犬歯を剥きだしにした獰猛な笑みと共にウインクしてなのはに礼を述べる。
一見すると凶暴な表情なのにどこか人の心から警戒心を解くような表情。
不思議な男だとなのはは思う。
これが半世紀以上の時を管理局と共に生きた男なのだろうか。
そんな取り止めもない事を考えながらも、同時に部下の訓練の事も忘れずに少女はフォワードの二人に視線を向けた。
「よし、それじゃあ次はスターズ分隊でのコンビネーション訓練。スバル、ティアナ、準備して」
「はい!」
「了解しました!」
元気良く答えると、二人の少女は上官と共に新に形成された訓練場へと足を進めた。
その途中、白いハチマキを揺らした乙女が一度チラリとこちらを振り返る。
視線にはどこか寂しげな、縋るような色が溶けていた。
これに気付かぬほど半世紀以上を生きた男は愚鈍ではない。
己が瞳と交錯した孫の眼差しに、老兵は小さく手を振って見送る。
これを見て、寂しげだったスバルの顔にぱぁ、と笑顔が晴れ渡った。
二人のこの些細なやり取りを、彼の大きく広い肩に腰を下ろした融合機の少女もまた微笑を浮かべる。
「もうすっかり仲良しですね」
「いや……まだまだ自然に、って訳にはいかねえさ」
葉巻に火を点けたい衝動を我慢しながら、老兵は溜息を交えて言葉を吐いた。
愛娘の結婚が認められずに絶交状態になって十数年、娘が引き取った義理の孫と初めて顔を会わせたのはつい先日だ。
スバルと彼女の姉であるギンガはゴードンと親しく接してくれるが、やはりまだどこか一歩踏み出せない感触は拭えない。
それを感じるたびに、老いた男は過去の己の愚行を呪う。