09/02/03 01:37:18 d/A4bRax
第八話「ご利用ありがとうございます」
地下四階。420とナンバーを打たれた一室のドアが静かに開かれた。
シグナム、アギト、そしてその先導をした深緑の猟犬だ。
調度品も設備もほとんどない殺風景なその部屋は、広々とした事があいまって薄気味い。
その一角にいくつものケースが立ち並ぶ。
黒塗りの電子と魔力の二重ロックがされたそのケースは…
「やはり、レプリカか…」
手際良くケースを開いたシグナムの沈んだ呟き。中には眠るように、起動を待つアギトのレプリカが横たわっていた。
シグナムとなりで、中空に浮くアギトの表情が険しくなっていく。
自分を模して造られた存在を再び目の当たりにして、複雑すぎる気分だった。
果たしてこのレプリカたちは何のために生まれてきたのか?
金のため、戦いのため――きっと汚れた目的に造られたであろう命。
いや、そもそも起動すらしていない現状、このレプリカたちは命として扱われ得るのだろうか。
そんなレプリカたちの根源である事自体が、アギトにはやるせない。
アギト自身でさえ、生まれた目的を古代ベルカに置き去りにして現在を生きている。
アギトにとって、レプリカたちは自分の空虚さを改めてつきつけてくるのだ。
しかもそんなケースが後六つ、並んでいる。
「アギト、この階にいる他の者たちのサポートに行け」
「…え?」
次のケースを開く前、シグナムがアギトへ扉の方を指さす。
一寸、ポカンとなったが、すぐにその指示がレプリカの確認と確保から離れろという意味と悟る。
正直、アギトは自分に似せて造り出されたレプリカと向き合うのがつらい。
実験動物扱いされていたあの頃の、延長線である事実の結晶なのだ。
「だけど……あたしのレプリカなんだ…あたしが原因なんだから…きちんと仕事、しなきゃ……」
「…構わん。このレプリカの確認と確保に、戦力を裂く事もあるまい。お前が他の者たちを助けるのも、仕事だ」
アギトがうつむき、少しだけ考える間。
そして、
「わかった。あたしの……その、あたしの妹、頼むな」
失敗してしまったような顔で、渇いた笑いをシグナムに向けた。その中には、ここから離れられる安堵が滲んでいたのをシグナムは見逃さない。
ひゅるりと、アギトが逃げるように部屋から出ていった。
それに続いて、深緑の猟犬も。
「さて」
ひとりになり、一層広さを感じさせる部屋。
残りのアギト・レプリカが収まっているであろうケースにシグナムが手をかける。
ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ、いつつ、むっつ。
全て、アギトのレプリカだ。
眠れる妖精を見下ろし、シグナムも悲痛げに眉をしかめてしまう。
確認をとり、今一度全員へと電子と魔力の封印を施そうとロックに手をかければ、
「待て待て待て待て待てい!!!」
背後から大音声。小さいが、大きな声。
部屋に飛び込んできたのは、妖精。深い紫の瞳と、赤く燃え上がるような髪の……