☆魔法少女リリカルなのは総合エロ小説_第94話☆at EROPARO
☆魔法少女リリカルなのは総合エロ小説_第94話☆ - 暇つぶし2ch50:あなたの幸せを見つめて 5/7
09/01/27 20:32:58 sNIVywRD
「それじゃ、僕はこれで。家族で楽しい時間を、フェイト」
「私も、二人が上手くいくように祈ってるよ、ユーノ」

そして、少年と少女は別れた。
互いの目的を果たすために。

翌日のハラオウン家。
「わあ、いいわね。来週の日曜日、早速行きましょう」
「母さん、そんな急に大丈夫なのか?」
「せっかくの招待券ですもの。それに期限は今月だし。休暇の一つや二つなら何とかなるわ」
「フェイト、映画って何をやるんだ?」
出自を秘密にしつつ、フェイトが映画のチケットを皆に見せると、やにわに家の中が騒がしくなった。
「5枚あるってことは……私も行っていいの?」
「もちろんだよ、エイミィ姉さん」
「ちょっ……姉さんだって! ねぇ、クロノ、姉さんだって!!」
既に公認扱いなのだが、それを再認識したエイミィはクロノに抱きついた。
クロノ本人はまんざらでもない様子だったが、流石に恥ずかしいのか鬱陶しそうに手を払っていた。
「もう、恥ずかしがっちゃって~」と頬ずりされていたが、やはりクロノはエイミィには勝てないらしい。
初めてのイベントにはしゃぐアルフ。喜んで予定を空けてくれたリンディ。目の前で抱き合っている二人も、もちろん。
引き受けてよかったと、フェイトは笑みを零さずにはいられなかった。

一方、その頃。
「おかえりっ、ユーノ君!」
「ただいま、なのは」
玄関に現れたユーノに、思わず顔を綻ばせたなのはがいた。
「これ、お土産だよ」
皆には内緒だよ、と言ってユーノが渡したのは、蒼いガラス球。
聞けば、レイジングハートに似ていたからこっそり持って帰ってきたという。
「まぁ正真正銘のガラス球だし、掃いて捨てるほどあったし、特に何の力もないんだけど……」
「うんうん、ありがとう」
今日から、机の上には、新しい仲間が一人増えることとなった。
……実は、その地でこの玉が文字通り掃いて捨てるほど沢山あったと知るのは、ずいぶん後のことなのだが。
「ところで」
「にゃ?」
「もう一つ、あげるものがあるんだ。……ちょっと言いたいこともあってね」
ユーノの顔は、僅かに翳っていた。
「今日はゆっくりしておきたい、かな。なのは、お茶淹れてくれる?」
「うん、分かった」
何かあるな、と思いつつ、なのははできるだけそれを考えないようにした。
良くない話ならいつ聞いても良くないだろうし、そもそもユーノが話してくれるまで、待ちたかったから。

***

翌日の夜になって、ようやくユーノは決心がついたようだった。
その前に、と昨日言っていたものを寄越される。
「はい、これ」
「え……?」


51:あなたの幸せを見つめて 6/7
09/01/27 20:34:40 sNIVywRD
なのはは、誕生日でもない突然のプレゼントに目を白黒させた。
『あげるものがある』とは言っていたが、まさか綺麗にラッピングされたものが来るとは。
「どうしたの、急に?」
「いや、実はね」
ユーノは今後の予定について話し始めた。
数ヶ月がかりで申請していた遺跡調査の許可が、やっと降りたのだという。
そのため、短くても二週間、長ければ二ヶ月ほど家を空けることになる。
出発は、四日後。
「ごめんね、帰ってきてすぐ。だから、ちょっと寂しくさせちゃうことのお詫び」
「もう、気にしなくてもいいのに。向こうでも電話くらいは使えるんでしょ?」
「でも、なのはの顔を見られないのは辛いから」
「ユーノ君……」
寂しさ全開だったが、かといってそれを伝えてはユーノが行き辛くなってしまう。
わがままよりは、ユーノを笑って見送りたかった。
「わたしは、ユーノ君のこと応援してるよ。だから、行ってきて。わたしなら大丈夫だから」
「うん」
ユーノも、少しだけ強がっているようだった。
彷徨わせている視線が、何よりの証拠だ。
「これ、開けていい?」と聞くと、ユーノは「もちろん」と答えた。
何が入っているんだろうと期待に胸を膨らませつつ、包み紙をそっと開くと。
「こ、これ、どうしたのユーノ君?」
中に入っていたのは、ショッピングモールで買わなかった赤いロングスカート。
ワンピースとの脳内闘争に敗北したのもあるが、それ以上に値段がやや高かった。
お小遣いを二、三か月分ははたかないと買えない代物だったはず。
「っていうかユーノ君、どうして?」
どうして、昨日に買わなかったことをもう知っているのか?
どうして、高い買い物なのにためらいもなくプレゼントしてくれるのか?
色んな「どうして」がごちゃ混ぜになって、言葉が出なくなる。
しかし、ユーノの言葉は簡単だった。
「なのはに喜んで欲しいから、かな。少し会えないけど、その間なのはには笑顔でいて欲しいから」

その瞬間、フェイトが流した涙の意味を知った。
なぜって、
「ありがとう、ユーノ君、ありがとう……!」
思わず押し倒してしまい、ユーノの胸で泣き出したからだった。

52:あなたの幸せを見つめて 7/7
09/01/27 20:35:09 sNIVywRD
「嬉しい……ユーノ君、すっごく嬉しいよ!」
嬉し涙。そんな言葉を噛み締めながら、ユーノにそっと唇を寄せた。
ドキドキが止まらない。
「ねぇ、そのスカート、今履いてみせてよ」
「うん、もちろんだよ」

***

ユーノは息を呑んだ。
スカートを履いたなのはの姿は、ほんのちょっぴり大人びていた。
くるりと一回転すると、ふわりと裾が舞い上がる。
「よく似合ってるよ、なのは」
「えへへ、ありがとう」
裾を持ち上げて、頭を下げる。
さながら、魔法でドレスアップしたシンデレラのようで。
ひょっとしたら、本当にお姫様かもしれなくて。
ただただ、見とれるしかなかった。
できれば、この時間が永遠に続きますようにと思った。
名残惜しい。なのはと一緒にいたい─だったら。
「なのはの姿、もっと目に焼き付けておきたいな」
そのままファッションショーが始まり、夜遅くになって両親に叱られたのはまた別のお話。

53:Foolish Form ◆UEcU7qAhfM
09/01/27 20:37:12 sNIVywRD
前回投下時はすまんかった(´・ω・`)以後気をつける。



「クロノ、俺と代われ!」って思った人数の分だけ作者の勝ち星ですよ。
ではまた。

54:名無しさん@ピンキー
09/01/27 23:21:26 NCopOUq2
>>53
GJ
クロノ…美味しいキャラだなあ…
しかしフェイト、嬉しそうななのはを見て「ニヤニヤしていた」はないでしょうよww
普通に「ニコニコ」ってことにしとけw

55:名無しさん@ピンキー
09/01/27 23:25:45 scbgVnUM
ふぇいとそん→ニコニコ
俺ら→ニヤニヤ

56:名無しさん@ピンキー
09/01/27 23:35:34 +EAik07U
>>53
GJ!!久々のほのぼのSS。
やはり、なのユー独特のゆったりな恋愛感はいやされます。

そして最後に・・・
なにが「ありがとう。お義兄ちゃん(チュ・・・)」だ!
クロノ、てめえいっぺん俺と代われ!!

57:名無しさん@ピンキー
09/01/27 23:47:22 a68+nt4L
>>56
できれば次からはsageてくれないか

58:名無しさん@ピンキー
09/01/28 01:49:55 YBk4sC+o
ピンク髪は淫乱と聞きましたがそれよりも青は根暗、赤はバカなだけと言い争う姫の間を割ってメカメカしいアイツが登場した時はとても爽快な気分でした

それはどうでもいいけどピンク魔力光も淫乱なんでしょうか?


59:名無しさん@ピンキー
09/01/28 02:25:11 Mp9TH3Ba
キャロ「地雷王より速ーい」
呪いうさぎ「家族が増えるね!ヴィータちゃん」
ヴィータ「やったな!」
フェイト「私のこと好きになーる好きになーる」

ごめん、書きたかっただけ。

60:名無しさん@ピンキー
09/01/28 02:41:38 iLVHpr8K
>>59
最初と最後しかわからなかった。
というか、フェイトがリ○アだと割と洒落にならない気が・・・・・。
未来でプレシア化して時間圧縮・・・・・ということは、クロノがスコ○ルか。

61:名無しさん@ピンキー
09/01/28 03:39:07 Lj62MOjQ
>>60
リ○ア=アルテ○シア説か?未だに要るんだな どちらでも良いが
作品自体が完全に答えを出さないものをあたかもそれが唯一であるというのはどうかと?

62:60
09/01/28 09:06:11 iLVHpr8K
>>61
いや、そこまで絶対視してないよ。
ただそんな説もあったなって思いだしただけで、他意はない。
気に障ったのなら謝るよ。

63:名無しさん@ピンキー
09/01/28 14:59:47 Cds2C050
つまり、フェイトは俺の嫁と

64:名無しさん@ピンキー
09/01/28 18:28:54 dlo+T+Ae
いや、その理屈はおかしい

65:超硬合金
09/01/28 20:16:53 WVpqc3J2
ておあー様快諾有難うございます。
早ければ今週末くらいにアップさせていただきます。

66:Foolish Form ◆UEcU7qAhfM
09/01/28 23:14:35 xgCU6zaU
二日連続投下なんですが……大丈夫、かな?
OKそうなら30分頃に。

67:名無しさん@ピンキー
09/01/28 23:15:55 WEvd/T5a
OKOK!
レッツゴー!

68:名無しさん@ピンキー
09/01/28 23:18:15 z3lktsni
>二日連続投下
何の問題も無いぜ
以前は朝刊を配達するがごとく毎朝投下に来てた人すらいたしw

69:Foolish Form ◆UEcU7qAhfM
09/01/28 23:20:59 xgCU6zaU
>67-68
了解です、では10分後に。

70:Foolish Form ◆UEcU7qAhfM
09/01/28 23:31:14 xgCU6zaU
30分になったので投下します。

・フェイト×クロノ
・ガチエロ、っていうかかなり凌辱気味
・闇の書事件解決後~中学卒業のどこか

事前注意
・NTR(寝取られ)
・逆レイプ
・Nice boat.(死亡描写あり)

以上三警報が発令されています。
純愛好きの方や血を見るのが嫌な方にはオススメできません。

本短編はいつもの純愛とはかけ離れています。
また一切関連性もないただの単発企画です。
当方のユノなの短編集とは矛盾だらけですが、全て仕様です。

71:Forbidden Fruit 1/6
09/01/28 23:32:02 xgCU6zaU
楽園から追放されたのは、肋骨と泥から作られた女が禁断の果実を喰らったから。
ならば、果実を喰らうように唆した蛇には、一体どんな神罰が下るのか─

***

フェイト・テスタロッサ・ハラオウン。
闇の書事件が終りを告げ、ハラオウン家の養子になってしばらく経つ。
リンディ、クロノ、それからエイミィ。もちろんアルフも。
家族らしい家族と団欒の時を過ごすのは、かつては遠い日のアリシアだけにあった。
それが今、目の前にある。触れられる。見える。聞こえる。
幸せでない日々はなかった。

ある日までは。

なのは達の世界で聖書なるものを読んだのはいつだっただろうか。
キリスト教に改宗する心積もりは更々なかったが、イヴの負った罪科が気になった。
「お兄ちゃん」
そして今日も、右手が伸びる。
机に立てかけられた、家族で写っている写真に。
指で義兄の輪郭をそっと撫で、その指先を見つめる。
「ちゅ」
軽く、キスをする。
「ちゅ……んちゅ……お兄ちゃん、クロノお兄ちゃぁん……」
のみに飽き足らず、写真に残った追憶を求めるように、指を咥え、舐めしゃぶった。
これがクロノの指だったら、或いはもっとクロノを求められる部位であったらと思うと、自然と動きは激しくなった。
満たされない想いが奔流となって理性を押し流し、愛欲の底無沼深くへと嵌っていく。
唾液で濡れた指をちゅぽんと名残惜しそうに離して、下腹部の疼きに向かう。
既にスカートの下、ショーツは僅かに染みができていた。
悦楽を求めて、そのラインをなぞる。
「んっ……」
突然の刺激に一瞬だけ身体が震えたが、あとはもう波に任せるまま、秘裂を愛撫し始めた。
「お兄ちゃん、切ないよ……もっと、私を見てよ……」
クロノの指が這っているかのように、自身の感覚が消失する。
妄想の中で、フェイトはクロノに抱かれていた。
「お兄ちゃん……そこ、気持ちいいよぉ。んあっ、ふぁっ……」
しとどに濡れ、染みが広がったショーツの奥で、秘部がクロノを欲している。
我慢できないとばかりにショーツをぐいと横にどけ、直接秘裂をぴたぴたと触る。
どこで仕入れた知識かなんて、とうに忘れた。今あるのは、クロノへの欲望のみ。
兄の怒張でのみ貫かれたく、蜜壷には浅く指を入れ、未通の証を残して愉悦に耽る。
くちゅくちゅと愛液を掻き出す度に波は大きくなり、フェイトの理性を奪おうと迫る。
秘豆は完全にしこり立って尖り、物欲しそうに皮から顔を出して快楽をねだっていた。
本能に応えてその淫核を摘むと、びく、びく、と身体が痙攣した。
トロリと愛液が膣からあふれ出し、絶頂の近いことを報せる。
「お兄ちゃん……ダメぇ……そんなとこいじっちゃ、やだぁ……」

72:Forbidden Fruit 2/6
09/01/28 23:32:29 xgCU6zaU
コリコリと秘芯を揉み転がして、空いた手で写真を抱き寄せ、写り身のクロノに口づける。
「あっ、イッちゃう、お兄ちゃん、お兄ちゃ、ああああああっ……!!」
ぷしっ、ぷしゃぁっと勢い良く愛液が手を熱く浸し、絶頂の津波が脳髄の隅まで駆け巡る。
鋭い喘ぎの後、息荒く呼吸を整えながらも、フェイトは束の間の安らぎを味わっていた。

***

だが、自らを慰めれば慰めるほど、クロノへの欲望は増えていく。
「お兄ちゃん♪」
わざとクロノがどぎまぎするような言葉を選び、短いスカートを更に短くしていく。
腰をかがめた時。階段を昇ったりする時。
ショーツが見えるようにわざと振る舞い、また呼びかけたりしてこちらに向かせたりした。
クロノがわざとらしく咳払いをして目を逸らすのが少し不満だったが、その赤い顔を見ているだけで大満足だった。
……けれど。
最近はエイミィとばかりくっついている。
それは祝福すべきことであったのかもしれないけれど、同時に嫉妬の暗い炎が灯ったのを感じた。
もっと私と一緒にいて欲しい。もっと私を見て欲しい。
元々赤面症の気があったが、クロノを前にしてはキスを交わしたい、この身を捧げたい想いでいっぱいだった。
顔を突き合わせて云々言うより、仕草で攻めることを選んだ。
結果、クロノは毎晩良く分からない呻きを発している。
エイミィに告白する訳にはいかないであろう、悩み。
義妹よりも初心な少年は、その若い衝動を抑えるのに必死なようだった。

フェイトの理性は、次第にタガを外していった。
風呂上りでバスタオル一枚の姿を露骨に見せたり、時には緩く結んで解いてみたり。
あまつさえ、そのままの格好でクロノに抱きついたりした。
「フェ、フェイト。僕らは、その、義理でも兄妹なんだ」
「兄妹だから、いいんだよ♪」
間違いなんて起こさないよね? と小悪魔のように微笑んで、頬を突く。
そうなると、決まってクロノはトイレに駆け込んで、10分ほど出てこなくなるのだった。
何をしているかは明白。入れ替わるように入って、何度残り香を自慰の肴にしたことか。
白濁を胎内に注ぎ込まれたい、妊娠するまで子宮を満たして欲しい。
「お兄ちゃん、トイレでナニしてたの?」
後ろから抱き締めてクロノの胸をなぞりながら、甘く囁く。
「なっ、トイレですることといえば排泄行為以外にないだろう。大体君だってさっき入ってきたばかりじゃないか」
「ふぅ~ん、それもそうだね。ごめんねお兄ちゃん、変なこと聞いて」
お休みのキスは、いつも頬。早く唇にキスしたい。舌を割り入れて、クロノを味わいたい。
愛欲は、日に日に高まっていった。

そしてある夜、遂に決行のチャンスが訪れた。
リンディとエイミィが共に管理局に出向いて、家の中にはフェイトとクロノ、二人きりになったからだ。
アルフの食事にはアルコールをしこたま仕込んでおいた。朝まで起きることはないだろう。
クロノのにも、自分のにも、少々。理性を奪う簡単かつ最高の手段だ。
食事が終り、適当にテレビをカチャカチャと回していた頃、ようやくクロノの準備が整ったようだった。
「ん、何だか暑いな。ヒーター、効きすぎなのか?」
「そうかも。でもこっちの方が早いよ」

73:Forbidden Fruit 3/6
09/01/28 23:33:12 xgCU6zaU
その瞬間を待っていた。
酔った勢い、とでも言おうか。服を脱いで、キャミソール一枚になる。
もちろん、ブラジャーは外してある。
「ぶっ」
下着にも等しい姿にクロノは口に含んでいた水を盛大に噴き出し、フェイトのキャミソールを濡らす。
水に透けた薄手のキャミソールからは、なだらかな胸の稜線と、その真中で紅く色づく蕾をくっきりと映し出した。
「フェ、フェイト、君は一体何を……は、はしたないぞ!」
慌てて口を拭くクロノだったが、その顔は血が上って真っ赤だった。
アルコールも少しずつ回って、本能が少しずつ本性を出しているようだ。
いつものクロノと違い、その目はフェイトの胸に釘付けとなっている。
もう一押しで、全ては陥落する。
「お兄ちゃん……私、何だか身体が熱いよ……ねぇ、冷ましてよ、お兄ちゃん」
寄り添うようにしなだれかかり、胸元を大きく開いてキャミソールをぱたぱたさせ、風を送る。
胸の突起が良く見えるような位置に座り、クロノの目線を誘う。
案の定、チラチラとこちらを見つつも、最後の一歩で踏みとどまっているようだった。
だとしたら、やることは一つ。
「お兄ちゃん、少し気分が悪いから、ベッドに連れて行って」
自分から、アタックをかける─クロノを奪うに限る。

足腰も立たない、と瞳を潤ませて頼むと、クロノはお姫様抱っこでフェイトをベッドまで運んでくれた。
シーツの上に寝かせられると、クロノはそそくさと出て行こうとした。
「ねぇ、お兄ちゃん。熱、測って?」
だから、額を掻き上げて、それを留める。
「まったく、今日の君は随分と甘えん坊だな」
と、クロノは言いつつも、アルコールの力か、さして拒否することもなく応じてくれた。
「僕も少し熱があるみたいだけど、これは気のせい、なのか?」
おでことおでこをくっつけて、
「うん、僕と同じくらいだ……んっ」
首に手を回し、そのままベッドに引き寄せた。
乱暴に唇を奪い、クロノが戸惑いの最中、フェイトは舌を潜り込ませた。
デザートを味わうかのように義兄の口を犯し、唾液を嚥下していく。
ちゅぷ、くちゅ、と耳に心地よい水音が直に伝わり、フェイトの意識を溶かしていく。
「フェイト……止めるんだ、僕たちは、兄妹……んあっ!」
クロノの声は聞こえない。
フェイトの手はクロノのズボンに向かい、そのままジッパーを下げてクロノ自身を曝け出す。
「止め、止めろ、フェイト……」
クロノは腰が砕けてしまったようで、されるがままになっている。
口だけでは、どうということもない。
手でクロノの一物を扱く。半勃ちになっていたそれはみるみる硬度を増していき、屹立する怒張と化した。
しゅっ、しゅっと擦っていくうちに、鈴口から透明な粘液が僅かに出てきた。
「気持ちいい、お兄ちゃん?」
返事を待たず、フェイトは亀頭全体に我慢汁を塗り付け、手のひら全体でペニスを愛撫する。
そして一度ビクリと震えた頃、フェイトは手の動きを止めた。
「フェイト……?」
声が上ずっている。止めてくれてホッとしているのか、止めないでくれと懇願しているのか。
フェイトは、後者の意だと受け取った。
「焦らしたりしないから大丈夫だよ、お兄ちゃん。私で沢山イッてね」
フェイトは、大きく勃起したクロノの怒張をその小さな口に含んだ。

74:Forbidden Fruit 4/6
09/01/28 23:33:53 xgCU6zaU
「ちゅぱ……ちゅぷ……んちゅ……」
きつい臭いが鼻の奥を突いたが、気にならなかった。
むしろ、獣じみた本能を加速させ、衝き動かされる性の慟哭だけが感情を支配していく。
粘りつくような苦い我慢汁を飲み下しながら、愛する人の性器を舐る。
鈴口に舌を軽く入れ、エラの張ったカリ首の裏を舐め上げる。
「うあっ……フェイト、出る、出るっ!」
「ちゅっ、おにいひゃん、だひても、いいよ」
ビクビクと口の中で震えているのが良く分かる。
亀頭を舐め回し、ちゅうちゅうと赤子が乳を飲むように陰茎を吸うと、クロノは限界に来たようだった。
「やめっ、フェイ……トっ……!!」
びゅるっ、とフェイトの口内に叩きつけるものがあった。
どく、どくと脈打って、マグマのような白濁液がフェイトを汚していく。
粘りを通り越して絡みつくような濃さの精液が、舌を、歯を、喉を染めていく。
口の中には納まりきらなくて、その一部が口の端から溢れ出した。
一滴たりとも逃さぬまいと諸手で受け止め、口中に残っているものは半分ほど飲みこむ。
もう半分を喉の奥へ押しやる前に、まずは尿道の中にある精液を吸いだす。
刺激にもう一度脈動して、クロノの精が全てフェイトの口へと集められた。
「ほら、お兄ちゃん。お兄ちゃんの精液、苦くて、甘くて……凄く美味しいよ」
舌先に絡んだ白濁をクロノに見せ付けて、零れ落ちそうになった分を舐め取り、全て飲み干す。
─もちろん、これで終りにするつもりはない。
クロノのペニスを扱き立てて、一度萎んだそれを再び勃起させると、フェイトはショーツを脱ぎ捨てた。
スカートの下には何もない。
「頼む、これ以上は……僕とフェイトは……いや、エイミィだって……」
「今はエイミィ姉さんのことはいいから」
今までの行為で、完全にフェイトも出来上がっていたから、秘部は愛液で濡れぼそっていた。
けれど、もう少しだけ楽しみたい。
クロノへ馬乗りになって、その胸に身体を預ける。
フェイトは、素股の要領でクロノの怒張を秘唇で包み込むと、上下にグラインドを始めた。
「あぅぁっ……!」
クロノが喘ぐ。ぬるぬるの粘液に勃起を包まれ、秘裂の先端にある柔突起に裏筋を擦られて、
二度目の射精を求めて苦しそうにもがいていた。
「あぅっ! お兄ちゃん、クリ、クリトリスが気持ち良いよぉっ……」
愛液でクロノのペニスはトロトロに溶かされ、熱く固く勃ちきっていた。
「頼む……もう、止めてくれ……フェイト……僕には、エイミィが……」
「だぁめ」
スッ……と身体を持ち上げたかと思うと、フェイトは手で肉棒を押さえ、膣口に添えると、腰を一気に落とした。
「んあああああっ!」
一気に怒張はフェイトの最奥まで突き抜け、根元まで入った。
一筋の血が流れ、フェイトは感極まった声を漏らす。
「あはっ……お兄ちゃんの初めて、私が貰っちゃった。私も初めてだから、おあいこだね」
どうして知ってるんだ、とクロノが喘ぎながら聞くが、フェイトは冷ややかに答えた。
「だって、エイミィ姉さんとセックスするなんて、結婚してからじゃなきゃやらないでしょ、お兄ちゃんなら」
図星。本当はブラフだったけれど、顔に出た同様の色はどう見ても本物だ。

75:Forbidden Fruit 5/6
09/01/28 23:34:30 xgCU6zaU
身体を密着させて、少し腰を上げる。
「お兄ちゃん、本当に私たちが兄妹なら、私の膣中でなんか出さないよね?
精液いっぱいびゅーびゅー出しちゃって、私を妊娠させたり、しないよね?」
クロノの顔が青ざめたが、それでも欲望というものは退かないらしい。
肉棒はフェイトの膣中でガチガチだ。どうあっても白濁を放出するまで、収まる気配はない。
「私、お兄ちゃんが大好き……だから、私ならいつでもしてあげるよ。
お兄ちゃんの好きな時におちんちん舐めてあげるし、お兄ちゃんのしたいときにセックスしてあげる。
だから、だから……お兄ちゃん、私のことを見てよ、もっともっと私と一緒にいてよぉっ!!」
涙を流して、抽迭を激しくする。
痛みは、最初からなかった。ただただ腰を振って、義兄から精液を搾り取ろうと動く。
「やめっ……僕たちは、兄妹なんだ、って言ってる、だろ……出る、出るからっ……」
クロノが限界を訴える。
でも、絶対に止めない。
ぶじゅ、ぶしゅ、と水音を響かせて、フェイトはもう一度膣の一番奥までクロノの怒張を押し込んだ。
「やめろっ、フェイト……うあっ、あああああああああーっ!」
二度目の射精が、信じられないほど大量にフェイトの子宮へと流れていく。
小さな膣に収まりきらないだけの白濁液が、ごぽりと溢れてふとももに流れていく。
「あぁっ……出てる、私のお腹に沢山精液出てるよ……こんなに沢山……
お兄ちゃんのおちんちん、ビクビクしてる。ふふっ、これだけ出せば、絶対妊娠しちゃうね」
抜かずにずっと繋がったまま、精子という精子が完全に染み渡るまでその身体を離さなかった。
「お兄ちゃんに中出しされちゃった……お兄ちゃんの赤ちゃん、できるといいなあ」
クロノの耳元で囁く声はあまりに甘美で。
「あ、あはは……フェイトとの子供か。そうか……」
「そうだよ、お兄ちゃん。私たちの赤ちゃん。こんなにいっぱい射精したんだから。責任、取ってね?」
間もなくして、クロノは堕ちた。

***

リンディはもう少しだけ管理局に残り、エイミィだけが先に帰ってくるというメールが来た。
フェイトは、どうしてこうも都合の良いことが続くのだろうかと半ば軽い戦慄をも覚えながら、
姉のような人を迎えるのに余念がない。
その瞳には、暗い光だけがやどっていた。
「たっだいま~!」
そして、エイミィが帰ってきた。
「お帰りなさい……」
フェイトが出迎える。
手には包丁、身体にはエプロン。
典型的な料理中の姿─だが。
「あれ? クロノ君は?」
エイミィは賢しくも感じ取ったようだった。
自分をすぐに迎えに来ないこと、代りにフェイトがいること。
そして何より、手に持った包丁。
そう、普段にはないこと。
「クロノ君、トイレにでも入ってるの?」
しかし悲しいかな、エイミィはそこから現実離れした結論を弾き出すことはできなかった。
そこで急用の一つでも思い出していれば、或いは免れえたのかもしれない。
だが。

76:Forbidden Fruit 6/6
09/01/28 23:34:59 xgCU6zaU
「ううん。今、クロノお兄ちゃんは寝てるよ」
「あぁ、なるほど。ところでフェイト、今日のご飯は何? あたしお腹すいちゃってさあ。
何か摘むものがあったらそれでもいいんだけど、ある?」
靴を脱ぎ、スリッパに履き替えるエイミィ。
下を向いていたため、致命的にもフェイトの顔を見損ねてしまった。
「ごめんなさい、エイミィ姉さん……」
「ふぇ? ごめんなさいって、何が?」
フッと顔を上げたエイミィの顔に浮かんだのは、恐怖よりも疑問符が先立った。
「どうしたの、包丁なんて構えて。Gでもいた?」
フェイトは顔をフルフルと振ると、申し訳なさそうに、しかし狂疾に冒された声で言った。
「今日は、エイミィ姉さんを料理するんだ……」
「あたしを料理? え、まさか女体盛り? アハハ、フェイトにはまだ早いか」
母から受けた歪んだ愛は、矯正しきることはできなかった。
兇器を持ち、突きつけることで、その遺伝の恐ろしさを知った。
けれど、もう止まらない。もう止められない。
クロノとの恋路には、エイミィはいてはいけないのだ。
最初から、存在していてはならない存在だったのだ。
「さようなら」
独占の衝動が全身を覆いつくし、手に持った包丁をエイミィに突き立てた。
「えっ……がっ、ごほっ……」
心臓には刺さっただろうか。肺は突き抜けただろうか。
エイミィの顔は一瞬だけ疑問に、次いで驚愕。最後には苦痛からの開放を訴えていた。
その目が言う通りに、包丁を引き抜いた。動脈を貫いたのか、どくっ、どくっ、と鮮血が溢れてくる。
「姉さんが悪いんだよ? 私のクロノをたぶらかすから……私はクロノと一緒じゃないと幸せになれないのに。
ごめんね、姉さん。でも、私とクロノの幸せに、姉さんは邪魔だから……」
エイミィは何かを言おうとしていたが、血を吐いてそれも叶わなかった。
ガクガクと嫌な震えをしばらく続けていたが、やがて動かなくなった。
「これで、お兄ちゃんは私だけのものだね……待っててね、お兄ちゃん。私、お兄ちゃんだけの人になるから」

アルフが起きた時、どうなるだろう。
リンディが帰ってきた時、一体どうなるだろう。
フェイトは鼻歌を唄いながら、本物の料理を作り始めた。
クロノに、愛する人に食べてもらうために。

77:Foolish Form ◆UEcU7qAhfM
09/01/28 23:37:07 xgCU6zaU
もはや何も言うまい。
次はユノなのに戻って純愛予定。

では。

78:名無しさん@ピンキー
09/01/28 23:39:09 oEWZdv9y
GJ
前に、「エイミィがフェイトと浮気したクロノを殺す」のがあったのを思い出した。
NICEBOATは萌えるな。

79:名無しさん@ピンキー
09/01/29 00:08:49 nff3pM0d
>>77
koeeeeeeeeee
しかしフェイトって妙にこう、不貞愛みたいなのが映える希ガス。GJ

80:名無しさん@ピンキー
09/01/29 00:16:01 +FW/zJ5X
かーなーしみのー♪むこーへとー♪


ヤンデレな義妹に愛されて眠れない提督乙。
次のなのユーも楽しみにしてるぜ。

81:名無しさん@ピンキー
09/01/29 00:19:00 nFJhc3Ko
GJ。なんというか、タメのない、箇条書きっぽい修羅場だった。
この後のクロノとか超見たいかも。

82:B・A
09/01/29 02:45:12 CXz+6DS6
ひょっとして、その日の晩御飯は・・・・・・。
久々に背筋が凍ったよ。


久しぶりに連載が進みます。


注意事項
・非エロでバトルです
・時間軸はJS事件から3年後
・JS事件でもしもスカ側が勝利していたら
・捏造満載
・一部のキャラクターは死亡しています(はやて、ヴィータ他)
・一部のキャラクターはスカ側に寝返っています
・色んなキャラが悲惨な目にあっています、鬱要素あり
・物騒な単語(「殺す」とか「復讐」とか)いっぱい出てきます
・名前のあるキャラが死にます
・シグナム、アギト、シャッハ、はやてが好きな人は辛いと思います
・SSXのネタも入っています
・主人公その1:エリオ(今回、出番なし)
     その2:スバル
・タイトルは「UNDERDOGS」  訳:負け犬

83:UNDERDOGS 第十五話①
09/01/29 02:47:09 CXz+6DS6
これまでの功績が認められて中将への昇進が決まり、就任と報告のために本局へと帰還したグリフィスを待っていたのは、
クロノ・ハラオウン元提督を筆頭とするレジスタンス組織の拠点壊滅の知らせだった。
まるで幽霊のように神出鬼没で、尻尾すら掴ませようとしなかった彼らが、一拠点だけとはいえ
スカリエッティ配下の機人部隊に壊滅させられたというニュースは、自身の障害に対しては容赦しないという
ジェイル・スカリエッティの恐ろしさを改めて知らしめることとなり、管理局全体を騒然とさせた。
長い間、沈黙を守り続けていたスカリエッティがレジスタンス打倒のために動いたのは、何か大きな事件が起きる前触れかもしれないと震える者もいた。
そして、もう1つ変化が起きていた。グリフィスに対する局員達の態度が硬化したのである。
理由は、彼が第56管理世界との戦いにおいて質量兵器を使用したことにある。
スカリエッティの要求に従って解禁されたとはいえ、質量兵器は忌むべきものであるという教育を受けてきたために未だ抵抗を示す者が大多数を占めている。
特に山を吹き飛ばすほどの威力を誇る大型質量兵器はその破壊力故に取り扱いには細心の注意が払われており、解禁されてから3年、
試射も含めて三度しか使用されていない。そして、グリフィスが指揮を執っていた戦いが、記録に残る四度目の使用となったのである。
局員の中には、やはり質量兵器は封印すべきだという意見を述べる者もいる。しかし、そういった意見は「広域攻撃を魔導師個人に頼る方が遥かに危険である」
という反論によって強引に押さえ込まれていた。何れにしても、質量兵器はそれだけ複雑な立場に置かれているということである。
グリフィスもそれを知っていたため、最後まで質量兵器を使うことに躊躇していた。いや、そもそも戦況が予想通りに進んでいれば、
使うことなく講和を結べるところまで彼は漕ぎ着けていた。あのまま何事もなければ、あんなものを使わずに済んだのである。

(彼らが戦闘帰機人や質量兵器に手を出さざるえないところまで追い込んでしまったのは僕らの責任だ。
けど、彼らにはあれを製造する技術はないはず。裏で糸を引いた者がいるはずだ。
戦争を長引かせようとするする奴が。そんなことをしそうな奴は、あいつしかいない)

局員達の警戒するような視線を無視して自分の執務室に戻ったグリフィスは、扉に鍵をかけるとスカリエッティへのホットラインを呼び出した。
ややして仮想ディスプレイに現れたスカリエッティの笑みに軽い殺意を覚えながらも、グリフィスは努めて冷静に第56管理世界での出来事を簡潔に説明した。

「・・・・・以上です」

『なるほど、あちらも戦闘機人を・・・・』

「しかも、捕獲した機人は8割以上の部品が管理局製のものと同じ規格であり、動力周りの設計もこちらのものと酷似していた。
事前に調べた限り、あそこの科学技術はミッドよりも遅れていたため、独自開発された可能性は限りなく低い」

『ならば、機密情報が外部に漏れたことになるね。ハッキングの形跡がないか、こちらでも調べておこう』

(いいや、そんなことをしても何も出やしない。お前が直接出向けば、そんなことをする必要はないからな)

実は、グリフィスはここ数日の間、度々スカリエッティにコンタクトを試みていたのだが、ここ2週間ほど彼は捕まらず、
クアットロに門前払いを受け続けていたのだ。そして、アインヘリアル陥落の際にクアットロが戦死すると、それと入れ替わるように彼は戻ってきた。
その2週間の間に第56管理世界とコンタクトを取り、技術提供を行うことは不可能ではないはずだ。

「内通者を疑う必要もありますね。或いは、戦争の長期化を狙う第三勢力か・・・・・」

チラリとスカリエッティの顔を覗くが、彼は不気味な笑みを浮かべたまま表情を変えることはなかった。や
はりと言うべきか、この程度では尻尾を出すことはないようだ。


84:UNDERDOGS 第十五話②
09/01/29 02:47:59 CXz+6DS6
(もう少しカマをかけるか? いや、踏み込み過ぎれば怪しまれる。懐に潜り込めるまで、堪えるんだ)

グリフィスは焦る気持ちを抑えようと、スカリエッティに気づかれないように注意しながら深く息を吸った。
本より、グリフィスはスカリエッティに心から組みしている訳ではない。いや、それなら管理局の上層部にも言えることだが、
グリフィスの場合は彼らのようにスカリエッティを恐れていないし、御せるとも思っていない。
それどころか、取り返しのつかない事態に陥る前に打ち倒すべきだと考えている。3年前、クロノ達の誘いを蹴ってまで管理局に残ったのも、
内部からスカリエッティを排斥するためだったのだ。無論、テロ活動によって人々の安全を脅かすことにも抵抗があった。

『時に、質量兵器を使用したと聞いたが?』

「ええ、撃たなければこちらがやられていました。死者220名、重軽傷者55名、死体を確認できなかったのが1209名、
これで僕もめでたく大量虐殺者という訳だ」

『大義のために人を殺す者を、英雄と呼ぶのではないのかい?』

「英雄だって?」

俯いたグリフィスの眼鏡が鈍い輝きを放つ。握りしめていた拳はふるふると震え、込み上げてきた怒りは自然と声に表れていた。

「多くの人が死んだんだ。それだけじゃない。質量兵器を撃ち込まれた土地が正常な状態にまで回復するのに50年はかかる。
僕のしたことは大量虐殺にして未曽有の環境破壊だ」

グリフィスといえど、既に将校だ。世の中が綺麗事だけでできていないことは知っているし、
ここまで出世するのに色々と汚い手も使ってきた。しかし、今回ばかりは薄っぺらい良心が悲鳴を上げている。
自分がしたことは、ボタンを押しただけだ。たった1つのボタンを押しただけで、数千人もの命が消し飛んだ。
指先1つで誰もが大量虐殺を行うことができる、それが質量兵器の恐ろしさなのである。

『痛ましいことだ。だが、汚染などは放っておけば自然に治まる。そういうものだろう?』

(そういう問題じゃない・・・・そういうのじゃないんだ・・・・・)

自国に質量兵器が撃ち込まれたことで、第56管理世界の人々の管理局への怒りと憎しみはますます募りつつある。
これでは、友好的な講和は不可能かもしれない。それに、言えた義理ではないが、どんな非道にも越えてはならない一線というものがあるはずだ。
それは殺人であったり、民間人を巻き込まないことであったりと、組織や個人によって様々だが、そういった約束を守るからこそ、
自分達は己の行いに対して誇りが持てるのである。だが、スカリエッティにはそれがない。善悪の基準を持たず、日常と非日常の境界を知らず、
世界を歪めてもなお逸脱したままの破綻した倫理観を持つ生まれながらに壊れている異端者。
曲がりなりにも彼のことを理解しようとした管理局のやり方は、やはり間違っていたのだ。

『まあ、政治に関しては君達に任せるよ。こちらはこちらで立て込んでいてね』

「何かあったのですか?」

『気紛れな王様がママとピクニックに出かけていてね。手薄になったゆりかごの守備をなんとかしなければならないんだ』

「なら、私の権限で艦隊を派遣しましょう。親子水入らずの時間を邪魔しちゃ不味い」

『助かるよ。では、何かあればまた知らせてくれたまえ』

最後まで不気味な笑みを浮かべたまま、スカリエッティの姿が画面から消える。グリフィスは仮想ディスプレイを閉じると、
背もたれに体重を預けて大きく息を吐いた。

(今から艦隊を組織してミッド衛星軌道上に到着するのがだいたい4時間・・・・・いや、5時間か。
戦力も中将としての権限ならギリギリ揃えられるが・・・・・・・・・)

思わぬ形で舞い込んだチャンスに、グリフィスはどう出るべきか迷っていた。
聖王が不在の今、ゆりかごの防衛力は極端に落ちている。今ならば、通常の艦隊だけでも渡り合うことは不可能ではないはずだ。
しかし、事を起こせば管理局は間違いなく自分を造反者として始末しようとするはずだ。
テロリストとして糾弾され、略式裁判の後に幽閉もしくは極刑。今の上層部ならそれくらいのことはやりかねない。
そして、彼らが新たなスカリエッティとして彼の研究を引き継ぐのだ。それでは根本から世界の歪みを解決したことにはならない。

85:UNDERDOGS 第十五話③
09/01/29 02:48:39 CXz+6DS6
(博打になるが、事を同時に進めるしかないか。最悪の場合、ミッドを引き替えにすることも考慮に入れておかねばならないな)

思考を整理し直し、グイフィスは第56管理世界に残っているルキノを通信で呼び出した。

「ルキノ、代わりの者を寄こすから、君は別行動を取って欲しい。彼らにある情報を流すんだ」

『ある情報、ですか?』

「ああ、プランを前倒しする。足りない戦力は、外部から引き入れるしかないね」

『そこまでして、性急に事を進める必要があると?』

「これ以上、戦争を長引かせる訳にはいかないだろう」

そこで一旦言葉を切り、グリフィスは眼鏡のズレを直す。

「回収したアレの修繕は、終わっているね?」

『エンジンを最新のものに積み替えましたし、艤装も完了しています。
後は細かな調整を残すだけですね』

「では、彼らに譲渡しよう。高い金を払って修繕したんだ、有効活用してもらわないとね」

『わかりました・・・・・・・・グリフィス』

敬礼した後、ルキノは声の調子を変えてグリフィスに話しかける。
副官としてではなく、機動六課時代からの友人としての言葉だ。

『馬鹿なこと、考えていないよね?』

「僕はもう、十分に馬鹿なことをしてきたよ」

一方的に通信を切り、グリフィスは眼鏡のズレを直して背もたれにもたれかかった。

「あなたと僕と、馬鹿だったのはどっちでしょうね・・・・・・提督」





グリフィスとの通信を終えたスカリエッティは、ウーノが淹れてくれた一口啜ると、中断していた作業を再開した。
現在、彼が行っているのはフェイト・ナンバーズの改良である。
苦心の末に肉体の完璧な複製には成功したものの、記憶や感情の移植技術はまだ完成には程遠い。
この問題を解決しなければ、プロジェクト「F.A.T.E」の真の完成には成りえないのだ。

「お茶のお代わりをお持ちしました」

「ああ、ありがとう、ウーノ」

「彼の好意を受けるのですか?」

「それくらいのハンデはいるんじゃないかな。平穏は喜ばしいが、変化がないのは退屈だ。
獅子身中の虫がどこまで楽しませてくれるのか、楽しみだよ」

「余り羽目を外し過ぎぬよう、お気をつけてください」

「わかっているさ」

微笑を返し、スカリエッティは新たに注がれたお茶の香りを嗅ぐ。

86:UNDERDOGS 第十五話④
09/01/29 02:49:26 CXz+6DS6
「ドクター。質問をよろしいでしょうか?」

「何だい?」

「フェイトお嬢様のクローン・・・・・・・・あれに用いられている技術を使えば、私やドクターの複製を作ることも可能でしょうか?」

「ああ、もちろんだとも。ただし、肉体だけだがね」

記憶の移植そのものは可能だが、それによって生み出されるのは同じ記憶と体を持った別の人物だ。
心まではオリジナルを再現できないので、プロジェクトFの到達点である死者の蘇生には成りえない。
もっとも、生命操作技術の完成のみを求めているスカリエッティにとってはそれだけでも十分であり、
自分が志半ばで倒れた時のために現存しているナンバーズには自身のクローンの受精卵を仕込んである。
彼にとって重要なのはジェイル・スカリエッティという存在が存続し続けることであり、
今の自分が消えようと死のうと何ら未練はないのである。

「心の再現とは難しいね。記憶と結びついていることは過去の研究から明らかなのだが、
どんなに調べてみてもそのシステムを解明できないんだ。これは、アプローチを変えるしかないかもしれないね」

そう言って、スカリエッティは仮想ディスプレイを展開して先ほどから観察していたものをウーノに見せる。
それは、頭蓋を切開されて脳を剥き出しにされた少女であった。驚くことに、その少女はまだ生きていた。
瞼はうっすらと開いており、定期的に流される電流に苦悶の声を漏らしている。できるだけ人間の形を保っていた方が
精密なデータを検出することができるというのが、スカリエッティの言い分であり、実験体となった少女の脳神経を駆け回る
電気信号は直に埋め込まれたコードを通じて余すことなく機械に記録されている。
他にも、輪切りにされたまま活かされている脳や、極細の神経細胞まで解剖された脳など、数多くの実験体から
得ることのできた情報がディスプレイに表示されている。

「とりあえず、新しいサンプルで実験を再開するつもりだ。ウーノ、またしばらくは1人にしてくれるかい?」

「わかりました。何かご用がありましたら、お呼びください」

一礼し、ウーノはスカリエッティの研究室を後にする。
歩き始めた時は普段と変わらぬ無表情のままだった。
最初の角を曲がったところで、テロリスト達になぶり殺しにされるスカリエッティの姿が思い浮かんで顔に曇りが現われた。
自分が出産したドクターのクローンが、愛する彼とは別人になっているといるかもしれないことが不安だった。
生まれたクローンと過ごす内に、自分が愛したジェイル・スカリエッティという存在が記憶の中から消えてしまうことに恐怖した。
そして、唯一無二だと思っているこの思いが消えてしまうことが耐えられなかった。
戻るつもりだった管制室を素通りし、ウーノは自室へと駆け込んでベッドに飛び込んだ。
枕に頭を埋め、目から零れる冷たい雫に気づくまいと己を誤魔化す。
こんな不条理があって良いのだろうか。
彼を思って尽くすことが、結果的に彼の存在をこの世から消してしまうことに繋がるなんて。
このお腹の中で眠っている受精卵は、決して自分が愛した男になることはない。
同じ顔と記憶と知識を持ちながらも、別の心を持った別の存在へと成長し、彼が抱き続けた夢を継承するのだ。
それが、最初から自分のものであったかのように。

「ドクター・・・・・・・」

ウーノの悲嘆に呼応するように、記憶回路が誤作動を起こして過去の記録が走馬灯のように脳裏を過ぎる。
稼働に成功し、初めてドクターと出会った瞬間。彼にかけられた言葉は今でもハッキリと思い出せる。
マニュアル通りに淹れた紅茶を、美味しいと飲んでくれた時。それが何故か嬉しくて、今度はもっと美味しい紅茶を淹れたいと思った。
2番、3番と妹達が稼働していき、家族が増えてきたこと。その日から、姉として彼女達の模範となれるよう自分を戒めていった。
こちらのミスでドクターの実験が失敗に終わった時。ドクターは自分を責めずに優しく励ましてくれた。
寝食も忘れて実験に没頭し、疲れ果てて眠っていたドクター。毛布をかけた時、寝言で自分の名前を呼んでくれた。
他にもたくさんの記録が滝のように流れていく。これが、思い出というものなのだろうか。

87:UNDERDOGS 第十五話⑤
09/01/29 02:50:15 CXz+6DS6
『私はジェイル・スカリエッティ、君の父にして主だ。うん、君のIDかい? 生憎、そんなものは決めていなくてね。
だが、呼び名がないというのは少しばかり不憫かもしれないな・・・・・・・・そうだね、ウーノ〈1番〉と呼ぼう。
栄えあるスカリエッティ製戦闘機人の第1号たる君の名は、ウーノ』

『紅茶を淹れてくれたのかい? うん、良い香りだ。君はいつもパーフェクトだね、ウーノ』

『これが君の妹となるドゥーエとトーレ。ウーノ、君も今日からお姉さんだ。彼女達に色々と教えてやってくれないかい』

『悲観することはない。実験は失敗したが、そこから得られたものもまた多い。
今回の実験で得られたことは、このやり方では望む結果が得られないと実証できたことだ』

『・・・・・・ウーノ、君は・・・・・パーフェクトだ・・・・・』

たくさんの思い出が自分の中にはある。
そのどれもが取るに足らない出来事かもしれないが、自分にとってはかけがえのない記憶だ。
そして、やがて生まれてくるであろう新たなジェイル・スカリエッティは、記憶の中にいるドクターとは別人なのだ。
その子の誕生は、同時に彼の消滅を意味しているのだ。

(嫌です、ドクター・・・・・・・・あなたが消えてしまうなんて、私には耐えられない。
あなたとの繋がりがなければ、私は生きていけない。けれど、私は戦闘機人。ナンバーズ№1ウーノ。
意思など持たず、ジェイル・スカリエッティという男に尽くすだけの存在。この思いは、間違いなのでしょうか。
それとも・・・・・・・・・・・・)

問いかけに答えなどなかった。
いったい、自分はどうすれば良いのか。
今の幸せを守るためにはどうすれば良いのか。
どうすれば、ドクターを生かすことができるのか。
答えの出ぬまま、ウーノは静かに泣き続けた。





襲撃を受けた基地は、酷い有様だった。
外壁は粉々に撃ち砕かれ、周囲一帯は焼け野原と化している。
廃坑を利用して造られた基地のため、内部では落盤が起きているようであり、
生存者がいたとしても生き埋めになっている可能性が高かった。

「3年前は、あたし達が同じことをしたんだよね」

崩れた基地を見上げて、セインは心苦しそうに呟いた。
3年前に地上本部を襲撃した時は人命を尊重したため、ここまで酷い破壊は加えなかったが、
やろうと思えばそれだけの力が自分達にはあった。そして、それがどれほどの悲しみを生み出すのかを、
当時の自分はまるで理解していなかったのだ。被害を受ける側にならねば暴力の恐怖を知ることができないのが、
セインにはとても辛かった。

「セイン、どこだい? 杖を落としてしまったんだ。悪いけど、取ってもらえるかな?」

「あ、ごめんなさい」

近くに転がっていた杖を広い、手探りで地面を探していたヴェロッサに手渡す。
そして、大柄のヴェロッサを難儀しながらも立ち上がらせると、自分が側にいることを教えるために彼の手を握り締めた。

88:UNDERDOGS 第十五話⑥
09/01/29 02:50:53 CXz+6DS6
「すまない・・・・ありがとう」

「ううん、気にしないで。それより、生存者は見つかった?」

「いや、まだだ」

ヴェロッサは現在、使役できる猟犬の大半を生存者の捜索と周辺の警戒に回している。
そのため、衰えた彼の五感の代わりを担う猟犬がいないのである。

「歯痒いね。こんな体じゃ、まともに動き回ることもできない。
君がいてくれなければ、クロノ君達の手助けもできないなんて」

「・・・・・・あたしがここにいるのは、償いだから」

3年前、セインはシャッハ・ヌエラという女性騎士と戦って敗れ、捕縛された。
そして、ヴェロッサに捕らえられたウーノとともに連行されそうになったのだが、
外に連れ出される寸前でラボの自爆装置が作動し、落盤から自分達を庇ってシャッハは死亡、
ヴェロッサも突き飛ばされた自分を守ろうとして落下した瓦礫に両足を潰され、頭部を強打したことで五感のほとんどを失ってしまった。
無論、そのドサクサに紛れて逃走するつもりだったのだが、苦しげに呻くヴェロッサの声と落盤の下から流れ出る赤い血が、
セインをその場に止まらせた。
理由はわからないが、このまま立ち去ってはならないと思ったのだ。
結果、ウーノは逃走に成功し、ヴェロッサを仲間のもとへと運んだセインは捕縛されて機動六課預かりとなった。
その後、スカリエッティに下って強硬路線を取り始めた管理局にクロノ提督が反旗を翻し、
セインもオットーやディードと共に戦列に加わった。だが、セインは2人のように自由を求めている訳ではない。
彼女が戦う理由は自分達を庇って死んだシャッハへの償いであり、彼女の代わりに五感を失ったヴェロッサを守ることである。
だから、前線には出ずに諜報員としてヴェロッサと行動を共にしているのだ。

「あたしがさ、ロッサの目と耳になるよ。それがあたしにできる、償いだから」

「セイン・・・・・・・・うん? 猟犬が何かを見つけたみたいだ」

「本当?」

「少し奥まったところだ・・・・・・・ダメだ、魔力が切れた」

「捕まって。ISディープダイバー!」

ヴェロッサの体を抱き締め、セインは崩れた基地の壁をすり抜けて暗闇の通路へと着地する。
動力が停止しているため、内部は数センチ先も見えない暗闇だったが、戦闘機人であるセインと
視覚を猟犬に頼っているヴェロッサには苦にならなかった。2人は寄り添い合うように通路を進み、
猟犬が知らせてくれた場所へと向かう。すると、程なく通路の脇に倒れている人物を発見した。

「・・・・・・・・誰だ?」

「生きている!? ロッサ、生きているよ」

「・・・・・その声、セインとかいう戦闘機人・・・・・」

「ラッド・カルタスだね。こっちはヴェロッサ・アコース。他に生存者はいる?」

「この娘だけだ。頼む、治療を・・・」

辛そうに身を捩り、カルタスは左手で覆い隠していた人形サイズの少女を平らな地面に寝かす。
リインフォースⅡだ。重傷を負っているのか、騎士甲冑が真っ赤に染まっている。

89:UNDERDOGS 第十五話⑦
09/01/29 02:51:43 CXz+6DS6
「僕が治療しよう」

「ロッサ、こっちだよ」

セインに誘導され、ヴェロッサはリインに手をかざして魔力を注ぎ込む。
デバイスである彼女には通常の回復魔法が利かないため、魔力を流し込んで元々備わっている自動修復機能を
促進させる以外に治療を施すことができない。だが、この傷の深さではこの程度の修復は気休めにしかならないため、
すぐにでも設備の整った場所で専門知識を持ったデバイスマイスターに診てもらわねばならない。
それでも幾らかマシになったのか、リインはゆっくりと瞼を開いてこちらを見上げてきた。

「アコース査察官・・・・・それに、セイン・・・・・・・・」

「喋らないで。もう少し、修復に専念するんだ」

「リイン・・・・みんなを守れなかったです。シグナムも、アギトも・・・・・」

「シグナム・・・・・そうだ、シグナムは? 彼女は無事なのかい? セイン、彼女を探してくれ。僕の大切な友人なんだ」

見えぬ目をセインに向け、ヴェロッサは懇願する。しかし、セインは動こうとしなかった。
いや、動けなかったのだ。何故なら、彼女の視線の先には血塗れとなって地面に突き刺さっているレヴァンティンがあったからだ。

「そんな・・・・・あの人が・・・・・」

「セイン? どうしたんだい、セイン? 早くシグナムを・・・・・」

「ロッサ、騎士シグナムはもういない」

担い手を失った魔剣が全てを物語っていた。ヴォルケンリッターが将。
誰よりも苛烈で誇りに生きた彼女は仲間を守るために戦い続け、この場所で果てたのだ。

「俺が駆けつけた時には、手遅れでした。彼女はもう・・・・・」

「リイン、守れなかったです。はやてちゃんの時のように、また守れなかったです」

リインの目尻から、涙の粒が零れる。3年前、彼女は主である八神はやてと共にゆりかごへ突入し、
力及ばずに敗北した。はやてはリインの目の前でガジェット達に八つ裂きにされ、
リインは捕らえられて過酷な実験を課せられ続けてきた。その時の悔しさと悲しみを思い出しているのだ。

「君のせいじゃない。何もできなかった、僕達の責任だ」

「それでも、守れなかったのはリインの力不足です。アギトだって、一生懸命戦っていたのに、
ロードがいなかったリインは何もできませんでした」

震える手で、リインはずっと握り締めていた小さな腕輪を持ち上げた。
それに見覚えがあったセインが小さな声で嗚咽する。リインが掲げた赤い腕輪は、
アギトが普段から身に付けていたものだからだ。

「アギトの欠片・・・・・これだけしか見つからなかったです。体は、もうどこにもなくて・・・・・・」

「・・・・・・・もう、良いよ。今は眠るんだ」

「ごめんなさい・・・・・アギト・・・・・・シグナ・・・」

最後まで言葉は続かず、リインは力尽きて静かに寝息を立てる。
肉体が安定したと判断すると、ヴェロッサは魔力を注ぐのを止めてカルタスに向き直った。

90:UNDERDOGS 第十五話⑧
09/01/29 02:52:41 CXz+6DS6
「よく、彼女を守ってくれたね」

「止してください。俺がもっと早く駆けつけていれば、シグナム二尉は死なずに済んだかもしれないのに」

「それでも、大切な友人を君は守ってくれた。礼を言わせて欲しい」

「・・・・・・・・・そこの角に、まだ五体満足な奴がいるんです」

「生存者かい?」

「あたしが見てくる」

「大丈夫かい、セイン?」

「動いていた方が、まだマシだから」

知人の死にセインも相当堪えているようだが、それでも心配かけまいと平静を装っているようだ。
本当は声を張り上げて泣き喚きたいのを必死で堪えているのが声音から読み取れる。
場違いながらも、ヴェロッサは彼女が人間として成長していっていることが嬉しかった。
まだ出会ったばかりの頃のセインは無邪気なだけで倫理観に乏しく、死がどういうものなのか、
傷つくことがどういうことなのか理解していなかったのだ。そこから躓きながらも少しずつ学んでいき、
感受性を育んでいったのである。そして、自分1人ならば、きっと悲しみに耐えられずに慟哭していたであろう。
すぐ隣で共に悲しんでくれる人がいることが、ヴェロッサにとって救いであった。

「あれ・・・・・この人・・・・・」

「セイン?」

「ロッサ、この人って・・・・・・・」

「・・・・・まさか、カルタス君!?」

「・・・・騎士シグナムが、命がけで遺してくれた希望の1つです」

苦しげに呻きながら、カルタスは立ち上がった。
彼自身も相当のケガを負っており、傷口からはケーブルや基盤が顔を覗かせている。
足取りも覚束なく、気持ちだけが急いているのか何度も転びそうになった。

「カルタス君、そんな体でどこに!?」

「スバルを追いかけないと・・・・・・彼女は、マリアージュを追っていきました。
きっと、今頃は街に・・・・・ぐああぁぁぁぁぁっ!!!」

突如、カルタスは右腕を押さえて塞ぎこんだ。
慌てて駆け寄ったセインが、彼の顔を覗き込んで絶句する。
土気色に染まったカルタスの額からは、夥しい量の脂汗が流れていた。
戦闘機人の体を以てしても耐えられぬ激痛に、彼は苛まれているのだ。
だが、それでもカルタスは出口に向かって歩もうとする。右腕を庇うように左手で押さえ、
何度も瓦礫で躓きそうになりながら、暗闇の通路を歩いて行く。
いったい、何が彼をここまで駆り立てているのだろうか。
彼の悲壮な決意は、いったい誰に向けられたものなのだろうか。


91:UNDERDOGS 第十五話⑨
09/01/29 02:53:36 CXz+6DS6
「ぐうぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「カルタス!?」

「触るなぁっ!!」

セインを振り払い、その反動でカルタスは尻餅をつく。
気が狂いそうな痛みで、脳が焼けてしまいそうだった。視界は明滅していて焦点も定まらず、
右腕の中で虫が這いずり回るようなおぞましい感覚が少しずつ強くなっていっている。
骨が折れたわけでも火傷をしたわけでもない。未知の痛みにカルタスは声を抑えることができなかった。

(この痛みはいったい・・・・・腕が、千切れそうだ・・・・腕? どうして、右腕が・・・・・俺の腕は、
あの時・・・・・ガジェットに・・・・ああ・あ・・・・・あああぁぁっ!!!)

激痛に耐えられず、カルタスは前のめりに倒れて瓦礫の山へと顔を突っ込んだ。
セインが慌てて抱え起こすが、朦朧とした意識は遠のいていくばかりだ。
そして、気絶する寸前に彼が見たのは、あるはずのない褐色に染まった右腕であった。





路地裏に逃げ込んだ最後の1人を破壊したところで、スバルは力尽きてその場に倒れ込んだ。
ISの連発と過度の魔力行使で全身が悲鳴を上げていた。特に右腕はフレームにまでダメージが
入っているようで、しばらくはISの使用を控えねばならない。
とはいえ、単独行動を取っていた頃はもっと酷い状況に陥ったこともあった。
五体満足で動ける分だけまだマシと考え、スバルは右腕に簡易治癒魔法を施して立ち上がろうとする。
だが、思いに反して体は動いてくれなかった。いつもは軽々と持ち上げているマッハキャリバーが
いつになく重い。両腕にも力が入らず、視界も段々と霞みつつあった。

(やば・・・・・無理し過ぎた・・・・・・)

せめてどこかに隠れなければと考えたが、周囲に隠れられそうな場所はなかった。
自分はお尋ね者だ。このままここで気を失ってしまえば、遠からず誰かに見つかって管理局に通報されてしまう。

(イクスのところに・・・・・戻らないと・・・・・・)

眠りに付いたイクスは、途中で見つけた洞窟の中に横たわらせている。
全てのマリアージュを破壊した後で、あの娘が好きだった空と海が見える場所に埋葬するつもりだったからだ。
だが、こんな状態ではとても彼女のもとに戻れそうにない。
悔しさを噛み締めながら、スバルは声を押し殺して涙した。
その時、すぐ側で地面を踏み締める音が聞こえた。

「お前は・・・・・・」

男の声だ。
何者なのだろうか。
問い返そうと頭を上げるが、霞んだ目では相手の顔がよく見えなかった。
そして、言葉を紡ぐ前にスバルは力尽き、気を失った。





夢を見ていた。
たくさんの人が死んでいく夢だ。
最愛の姉が、父が、恩師が、大切な仲間が、かけがえのない親友が、目の前で次々に死んでいった。
みんな、助けられたかもしれない人達だ。もっと自分がうまくやれていれば、救えたかもしれない命だ。
誰かの力になりたいと願いながらも、自分はとうとう誰も救えなかった。

92:UNDERDOGS 第十五話⑩
09/01/29 02:54:33 CXz+6DS6
『なら、どうしてまだ戦おうとするの?』

どこからともなく声が聞こえる。聞き覚えがあるようにも思えたが、確信は持てなかった。
ただ、この声の主に敵意がないことだけは漠然と感じ取ることができた。

『そんなに辛い目にあって、それでも戦おうとするのはどうして?』

「約束したから・・・・・・どんなに辛くても、生きるって。あたしにとって、生きるってことは誰かを助けることだから。
だから、戦うんだ。それに、苦しい思いをしている人を放っておくなんて、できないよ。自分の力じゃどうしようもできない不条理は、凄く怖いんだ」

『8年前のあなたが、そうだったように?』

靄がかかったかのように不鮮明だった景色が一変し、グレンの炎に包まれた瓦礫の世界が現れる。
スバルにとっては忘れることのできない、忌まわしき場所。全ての始まりとも言える、あの白い魔導師と出会った8年前の空港火災の現場。
そして、8年前と同じく女神像の前で塞ぎ込んでいる幼い頃の自分が、ジッとこちらを見上げていた。

『8年前、“あたし”はここにいた』

「寂しくて怖くて、逃げ出したいけど足が竦んで。あの人が来てくれなかったら、きっとあたしはここで終わっていた」

『だから、戦うの? 何もできなかった自分を助けるために。そんなことをしても、時が戻ることはないのに』

「そうだね。きっとあたしは、助けた人達に昔の自分を重ねて、あの人になろうとしていたんだ。けれど・・・・・」

あの人に抱かれて飛んだ夜空を思い出す。満天の星空には炎も煙も届かなかった。
何もないけれど、どこまでも広がる空が心地よくて。ともすれば広い世界に1人で取り残されてしまったかのような寂しさを
包み込んでくれるあの人の温もりが暖かくて。自分もいつか、あの人みたいな大人になれたら良いなと思ったのだ。
それが幻想で終わると気づくのに、そう長い時間はかからなかったが。

「あたしはあたしにしかなれない。あの人みたいに飛べないし、救えない。弱かった頃のあたしを救うなんて、できないんだ。
だって、それはここにいるあたし自身なんだから。だからこの手を伸ばすのは、あたしにじゃなくて別の誰か。
この手で救える命を救うために。泣いている誰か、大切な何かを守れる自分になるために。変わるために・・・・・」

決意を込めた瞳で女神像を見上げる。支柱が傷ついた女神像は自重で傾き、今にも崩れてしまいそうだ。
その中心に向けて、鋼を纏った拳を向ける。

(戦闘機人モード、オン。IS振動破砕、アクティブ)

傾く女神像に向けて拳を打ち込み、振動エネルギーを流し込む。それは女神像だけでなく、
支柱を通じてこの世界全体にまで浸透し、記憶に刻まれた真っ赤な炎にまで亀裂を走らせる。

「誰かを守れる自分になるんだ。この手で救える命があるのなら。だから、あたしに力を貸して欲しい。
あたしとお前で、あの人とは違う、あたし達のやり方で」

世界が砕け散る中、スバルの言葉を聞いて幼い少女が手を差し出す。過去から現在へ、共に未来を歩くために。
そして、立ち上がった少女の口から、聞き慣れた電子音声が紡がれた。

『その通りです、相棒。私はあなたと共に走るために生み出された』

「一緒に往こう、マッハキャリバー!」

かつての自分の手を掴み、スバルは亀裂の向こうへ、現実の世界へと飛び立っていく。

93:UNDERDOGS 第十五話⑪
09/01/29 02:55:25 CXz+6DS6
『非礼をお詫びします、相棒。あなたの夢は、決して独り善がりな自己満足ではありません。
何故なら、その夢は私の夢でもあるからです。あなたと共に走ることが。あなたと共に誰かを救うことが。
その夢は、私とあなたで築き上げた、この世界で唯一無二の想いです。この私が保証します』

「謝るのはこっちだよ。辛いことが多すぎて、心が挫けかけていた。この夢は、あたしをこのまま眠らせないために
お前が見せてくれたものなんだね?」

『約束しましたから。あなたが誰かのために走れる日が来るまで、私があなたをレスキューすると。
この身はあなたの体を外敵から守り、言葉はあなたの心を絶望から掬います。あなたの言葉を、
私とあなたの夢を嘘にしないために。折れそうになった時は、何度でも私が支えます。
どこまでもあなたと共にいます』

「そうだ、お前がいたんだ。いつだって、どんな時だって、お前はあたしの側にいてくれた。
あんまりにも距離が近すぎて、それを忘れていた。あたしはまだ、1人じゃないんだ。
ううん、いつだって、1人で戦っていたわけじゃないんだ。マッハキャリバーが、ずっと側にいてくれたんだ」

意識が覚醒していくに従い、手を取った彼女の姿も薄れていく。
消えてしまう前に言いたかった。
ずっと一緒に戦い続けてくれている鋼の相棒に。
だが、その言葉を告げるよりも早く、白い光が世界を満たしていった。





目が覚めた場所は、路地裏ではなく見知らぬ部屋だった。
殺風景な室内は最低限の調度品しか置かれておらず、掃除も余りしていないのか少し埃っぽい。
そういえば、気を失う前に誰かが近くにいた気がする。ここは、その人物の家なのだろうか。

「そうだ、マッハキャリバー!?」

慌てて起き上がり、肌身離さず身に付けていた相棒の行方を探す。すると、すぐ横の卓の上に布かれた
柔らかそうなハンカチの上に鎮座しているマッハキャリバーの姿が目に入った。
手に取ってみると、こちらに反応するように表面を青く光らせる。自己修復は完了しているのか、
どこにも異常は見られなかった。
相棒の無事に安堵し、スバルは夢で言えなかった言葉を告げる。

「ありがとう、相棒」

《No problem,Buddy》

マッハキャリバーの言葉に笑みを返し、スバルは改めて状況を再確認する。
マリアージュを倒して力尽きた自分は、何者かに保護されてこの部屋に運ばれた。
ご丁寧に傷の手当てもされていて、汚れた服の代わりに清潔なシャツが着せられている。
念のために体を隅々まで調べてみたが、暴行の形跡はなし。脱がされた服もマッハキャリバーの横に綺麗に畳まれていた。
少なくとも、今のところ自分をここに運んだ人物に敵意や害意はないようだ。

94:UNDERDOGS 第十五話⑫
09/01/29 02:56:00 CXz+6DS6
「さすがに、罠ってことはないよね」

「まあ、ここまで手の込んだ罠ってのも面白いかもしれないな」

何気なく呟いたその言葉に、低い男の声が被さる。
反射的にスバルはベッドから飛び降り、部屋に入って来た男を睨みつけた。
男は無手だったが、脇に提げられたホルスターには実弾デバイスが収められている。
いつでも抜けるように留め金は外されており、スバルは警戒するように手の中のマッハキャリバーを握り締める。
この距離では魔法よりも銃の方が早い。男の抜き打ちにもよるが、ほぼ間違いなくBJを展開するよりも早く銃弾が叩き込まれるだろう。

「あんた、いったい・・・・・・」

「ま、一応は正義の味方ってとこか。なあ、犯罪者さん」

窓から差し込んだ月明かりに照らされ、男の顔が露になる。

「久しぶりだな、ナカジマ」

「ヴォルツ・・・・司令・・・・・」

見覚えのある傷だらけの顔に、スバルは言葉を失った。
彼の名はヴォルツ・スターン。
数ヶ月前、マリンガーデン火災において共に肩を並べて救助活動を行った、災害救助隊の司令であった。


                                                        to be continued


95:B・A
09/01/29 02:56:44 CXz+6DS6
以上です。
思った以上にかさ張ってしまい、敵襲まで書けませんでした。
本当はこの後○○○○○が現れてピンチな○○○をスバルが助けようとして○○○と・・・・・・・。
終わりが見えているのにまだ遠い。

96:名無しさん@ピンキー
09/01/29 08:59:22 Dfb/aO8r
GJ!!
スバルが正気に戻れて良かった…
真に強い魔道師とデバイスとの対話は最高です
そしてヴォルツと再開したにもかかわらずこの状態
今までしてきた事を考えれば和解するのは難しいか

97:名無しさん@ピンキー
09/01/29 22:16:57 Maiwdguc
>>95
GJ!
続きお待ちしてました!
相変わらず、すごく重い。
ウーノにも迷いがあったのか。
でもそれがただの贅沢な迷いであると感じるのが本音。
元6課側の皆の迷いに比べれば・・・・
どう見てもあの時助からないとわかっていたけど、現実を突きつけられると辛い・・・・

シグナム・・・・・・・・

98:名無しさん@ピンキー
09/01/29 22:18:36 iUDD73Mv
GJ!
シグナムも死んでしまった…本当にじわじわといなくなっていきますね。
つか、なのはも復活したのか?どうなるのやら。

99:名無しさん@ピンキー
09/01/29 23:19:05 Qv+Aky+A
GJ
こういう、じわじわ削っていく系の話は神経に応えますね。

シグナム死亡、アギト死亡、好き放題やってくれるスカ様。
次は、脳改造したなのは様の登場でしょうか、わくわくしております。
エリオの修正にフェイトを使ったんだから、
スバルの修正はなのは様しかないでしょう。
ごっつ、期待しております。

100:名無しさん@ピンキー
09/01/30 00:47:13 1XFSMkTp
はやてがどうなったか前から気になっていたけど、そんな残酷な最期を迎えていたのか
シグナムとアギトは誇り高き最期を迎えられてまだましだったのかもしれない…

けどエリオは絶対凹みまくるだろうな…
GJ!

101:名無しさん@ピンキー
09/01/30 03:05:01 V2Rb2aZx
GJです。一体どういう結末を目指してるのか想像もつきません。
もしかしてはやて出番無しで終わるのだろうか?はやくヴィヴィオ出てこないかな。


ところで・・・リインが捕まってる間一体どんな目にあって来たのか凄く気になるのは
自分だけだろうか。実験と称してエロい目に遭ってたりしないだろうか?するよな?当然だよな・・・?

102:名無しさん@ピンキー
09/01/30 04:31:45 fuorIF7f
>>101
はやては、もうお亡くなりに…

103:名無しさん@ピンキー
09/01/30 04:38:41 V2Rb2aZx
>>102
そうだから最後まで一切の出番無しに・・・・・物語中で死ぬよりも酷い目に・・・・

104:名無しさん@ピンキー
09/01/30 12:45:09 vlBf+FPY
ど、ドクターの研究見てマブラヴオルタとアニマトリックス思い出したorz

そしてどんどん死んでいくキャラたち……



と思ってたらドクターラブのウーノさんに
ますます惚れてしまって美味しいで(^q^)

105:名無しさん@ピンキー
09/01/30 14:59:01 fuorIF7f
ウーノからは、昭和の女臭がする。

106:名無しさん@ピンキー
09/01/30 18:29:58 pCr8MLVD
>>105
割烹着とか似合いそうだよな。
>ウーノさん

107:7の1
09/01/30 19:14:52 1Pv27hn5
第6章が出来ましたので上げます。

注意事項
・微エロ?で一部バトルを含みます
・前作:「再び鎖を手に」の続編です。
・時間軸はJS事件から1年後
・ユーノ×なのはです。
・捏造満載
・キャロ・エリオ・ルーテシアは出ません。(3人のファンの方、すみません)
・前作からのオリキャラ出ています。
・物騒な単語(「殺す」とか「復讐」とか)いっぱい出てきます
・主人公 ユーノ
・タイトルは 翼を折る日 

108:7の1
09/01/30 19:16:50 1Pv27hn5
第5章  
5-1
「なのは、なのは 気がついたかい」
「ユ、ユーノくん」

 戦技教導隊所属だけに鍛え上げられたなのはの肉体にダメージはなかったが、床に叩きつけられた衝撃で、
一瞬とはいえ意識を失っていたらしい。

「ヴィヴィオは?」
「なのはママ、ヴィヴィオは平気だよ」

 テーブルの下に身を潜めていたヴィヴィオが声をあげる。

 爆発と衝撃はやんだようだが、個室の外では、レストランの客の怒号と叫び声が続いている。

「今、外に出るとパニックに巻き込まれる。ちょっと待って」
「教導隊本部に繋いでください。・・・高町なのは一等空尉です。IDは、声紋照合完了ですか、現在クラナガン301の最上階レストラン、
階下で爆発発生, はっ、民間人の避難優先ですね。ただちに出動します。」

 地上本部に事態を告げ、転送魔法の使用許可を得たユーノが、振り向くとバリアジャケットを装着したなのはがレイジングハート
を構えて立っていた。
 ヴィヴィオは、まだテーブルの下で身を固くしている。

「なのは、転送魔法の使用許可を取った。いったんヴィヴィオを連れて下のイベント広場に移動するよ」
「私はここに残るよ」
「駄目だ。状況の把握が最優先だ。下にいるスバルくんたちの力が今こそ必要なんだ。ヴィヴィオの安全も確保 しなきゃいけない。
母親の君がここに残ってどうするんだ!」

「ヴィヴィオは平気だよ。なのはママ残っていいよ」
「ヴィヴィオ!」

 予想を上回るヴィヴィオの答えに狼狽するユーノと対照的に、力強く頷いたなのはは

「ユーノくんは、ヴィヴィオを転送して、私は外のパニックを鎮めるよ」
「わかった。ヴィヴィオを転送したら、また会おう。ヴィヴィおいで」
 テーブルの下から這い出てきたヴィヴィオを抱き寄せたユーノは転送魔法の魔法陣を展開した。

「なのは、慎重にね」
「なのはママ、がんばって」
 その声を最後に二人の姿は部屋から消えた。

 扉を開け、怒号が渦巻く客席に出たなのはは、10数発のアクセルシューターを発射すると共に大声を放った
「静かにしなさい!!!」

 パニックを起こす人々の頭上すれすれを複雑な機動を描きながら飛ぶアクセルシューターと白い魔王のオーラに度肝を抜かれ
レストランの騒擾はしだいに収まっていった。

「レストランの店長は誰、すぐ来なさい!!」

 教導隊で武装隊の新人たちを鍛え上げる時に使う底響きのする声で店長を呼び出したなのはは、てきぱきと指示を与え始めた。


109:7の1
09/01/30 19:18:16 1Pv27hn5
5-2

「緊急転送装置は無事? 無事なのね。すぐに起動させるの! 店員は12,13? 13人ね。1人は転送装
 置の担当して、残りの12人は2人一組で6班にしてお客さんの整列と誘導をする。さあすぐにかかるの」

 白い魔王の迫力に押された店員が、指示通りに動き出すとレストランに来ていた人々がスムーズに転送装置の
前に並び始めた。

「店長、装置動かして! 皆さん、これから転送装置を起動します。1回の転送人数は12人まで、下のイベン
ト広場に特別救助隊が待機しているので大丈夫。さあ始めるよ!」

 なのはの指示に従ってレストランの客は、次々と転送されていく。

 転送が無事に進行していくのを確認したなのはは、店長に後を託すと階下に向かった。

 67階から58階まで調査したが、有名宝飾店やブティック、スポーツ用品、シネコン等の施設は、レストラン
と違って、パニック時の訓練が行き届いているため、なのはが到着したときには、既に、最後の店員も転送装置
で脱出していて無人だった。

(どうやら、騒動の原因は、この下の57階のようね。・・・って古代ブンドゥ文明展の会場じゃない!)

 下の階の様子をうかがうなのはの耳を、聞き慣れたデバイスの発する射撃音と重なるように響く獣じみた咆吼
が貫いた。さらに数発の射撃音が発せられたのを最後に57階は無音の世界に変じた。

(今のはクロスミラージュ! ティアナが下に!?)

 なのははレイジングハートを構え直すと気配を消し、慎重な足取りで階段を下り始めた。
 イベント広場の裏に設けられた楽屋にユーノがヴィヴィオと一緒に展開した魔法陣から出現すると、楽屋裏は
先ほどとは打って変わって、張りつめた緊張感に包まれていた。

「消火部隊到着まで、あと10分だそうです」
「レストランからの転送者の名前を控えた後、順次、クラナガン301手配のバスで、地上本部の設けた仮設テ
 ント場へ移動させろ」

「現時点での負傷者 重傷23人、軽傷114人 いずれもクラナガン市立病院に搬送済みです。以後の負傷者
 は、収容次第クラナガン大学病院、聖王教会病院へ搬送できるよう救急車の手配をお願いします」
「特別救助隊第一班8名36階の水族館に取り残された職員5名および観客1名の救助に向かいます。転送魔法
 の許可を願います」

「スバル、ウィングロードを展開して31階まで避難した人を収容できるか?」
 サイガインジャーのコスチュームを脱ぎ捨て、右が赤と左が青のツートンカラーのバリアジャケットに身を包
んだコンラッドがスバルにウィングロードを展開できるか尋ねると力強い返事が返ってきた。
「やります。やって見せます」

「スバルくん、コンラッドさん」

「ユーノ先生、ヴィヴィオちゃん」
「ユーノさん、ご無事だったんですか」
 いきなり現れたユーノとヴィヴィオに驚いた二人は次の瞬間、なのはがいないのに気づいた。

「「なのはさんは?」」
「レストランで救助作業中です。・・・なのは!」
 なのはの魔力光をトレースしていたユーノが血相を変えたのを見てヴィヴィオと二人の顔色が変わった。


110:7の1
09/01/30 19:19:33 1Pv27hn5
5-3

「ユーノパパ!」「「ユーノさん」」
「コンラッドさん、ヴィヴィオを頼みます」
「は、はい!」

「スバルくん、僕が転送魔法で31階まで君を運ぶから、ウィングロードで避難した人を隣のビルの屋上に運べ
 るよね?」
「は、はい、隣のビルまでなら・・・よ、余裕です」

「ユーノパパ、なのはママを連れて帰ってきて」
 ヴィヴィオの顔を振り返ったユーノは、いつもの笑顔を浮かべると軽く頷いた・   

「それまでヴィヴィオはお留守番しっかりするんだよ」
「うん、ヴィヴィオ待ってる」

 31階にユーノの転送魔法で転送されたスバルを迎えたのは、イベント会場で白い鬼神に声援を送っていた親
子たちの一団だった。話を聞くと36階の水族館から逃げてきたらしい。

「わあぁぁスバルさんだ。スバルさんだ」
「ディバインバスター、ディバインバスター、ディバインバスター」
「ありがとうございます。助かりましたスバルさん」 

「ちょ、ちょっと静かに、静かに、静かにしなさーい! 静かにしろーー!!!」
 なのは譲りの白い鬼神モードで、興奮する一団を黙らせたスバルはさらなる大声で宣言した。

「下がってください。これから壁をぶち抜いて、隣のビルの屋上への道を通します!」

 イベント会場でのディバインバスターの威力を見せつけられている一団は、あわてて物陰に隠れた。

「ディィバァァイィンバスタァァーー!」

 白い鬼神モードのスバルが全力全開で放ったディバインバスターが、三層構造の強化ガラスを粉々に破砕したのと
同時に強風が吹き込んできたが、気にする風もなくスバルはマッハキャリバーを駆ってウィングロードを隣のビルの屋上に通した。

「コンラッド曹長、ウィングロード展開しました。要救助者8名、特別救助隊、派遣願います」
「こちら、コンラッド。了解、ただちに救助隊とライディングポッドをビルの屋上に転送する。救助者の保護を 継続せよ」
「了解」

 スバルが物陰から出ないように人々に指示をしているのを確認したユーノは魔法陣を足下に展開した。

「スバルくん、僕は上に行く。ここは任せるよ」
「ユーノ先生! なのはさんを頼みます」

 右手を挙げて答えたユーノの姿が消えるのを見たスバルは、隣の屋上に到着したライディングポッドがこちらに走ってこれるよう
ウィングロードの強度を最強にした。



111:7の1
09/01/30 19:20:56 1Pv27hn5
5-4

 照明が落ち、煙が充満する56階のフロアでの続いていた戦いは、終わりを迎えつつあった。、

 フェイトに重傷を負わせた時空犯罪者ゲーベル・レインにシュートバレット バレットFを発射したティアナは、
思うように動かない左足を引きずりながら、物陰に走り込んだ。

「っ・・・ちくしょう。どこ、どこにいるの?」 

 熱源追尾型の誘導弾を軽々とかわし、照明の消えた57階の闇に姿を溶け込ませ気配を絶った相手の技量は、
本来のランクBを遙かに凌駕していた。

 ユーノから渡された資料に記されていたデーターによれば、ランクBクラスの魔導師が、リンカーコアバーストを発症した場合、
S-ランクに匹敵する攻撃力を発揮するとあったのを心の何処かで軽視していた自分をティアナは呪いたくなった。

(フェイトさんが、かばってくれなかったら確実に殺されていたわ。それをあたしは・・・)

「ソコカ!」
 ゲーベル・レインの機械的な声と同時に頭上から、ニードルショットが降り注ぐ。

 間一髪、かわしたティアナはシュートパレットを発射するが、一発も当たらなかったらしく、含み笑いを残して敵の気配が再び消える。

 足を引きずりつつ、再び別の物陰に飛び込んだティアナの背後からゲーベルのささやき声が聞こえる。

「ニブイナ。ソノテイドデ、シツムカンガツトマルノカ?」

「うるさい!」
 振り返ると同時にヴァリアブルバレットを叩き込むが、相手の気配は既に消えている。

「オマエノヨウナアシデマトイガイテハ アノ、クロイライゲキガ、オチタノモムリハナイナ」

 床下から発せられた嘲りと共にティアナの身体は天井に叩きつけられ、そのままフロアに落ちた。
 意識が一瞬、飛んだティアナだったがクロスミラージュを離さなかったことが彼女の命を救った。

<マスター、オプティックハイド イグニッション>

 ティアナは、クロスミラージュに促されるままオプティックハイドを発動すると這いずりながら、その場から逃れた。  

「ドコダ ドコニイッタ?」  

 ティアナの姿を視認できないらしくゲーベルの苛立った声が闇に包まれたフロアに響く。
 声のする方を振り向くとひょろりとした長身の影が、きょろきょろと首を回しているのが見えた。

 最後のカートリッジをクロスミラージュに装填したティアナが影に照準を合わせ、引き金を引こうとした指をなのはの念話が止めた。



112:7の1
09/01/30 19:22:07 1Pv27hn5
5-5

((ティアナ!聞こえる))
(なのはさん!)
((何があったのかは聞かない。相手は誰なの?))

(ゲーベル・レイン ランクBの第41管理世界指定のテロリストです。こいつのせいでフェイトさんが)
((ユーノく・・・司書長から聞いてるよ。帰還中のクラウディアのICUで治療中、命に別状はなしってね))

(良かった。あたしが奴を追って転送した時には・・・危なかったんです)
((リンカーコアバーストだってね。ランクBならリミットブレイクした分だけ、身体のダメージも大きいから
 一発、当てれば終わるはず。私が気を引くから、その隙に打ち抜くの!))

(は、はい!)

 何故、なのはが自分の位置を把握できたのか、一瞬、不審に駆られたが、ゲーベルを倒せる機会は、残弾から
考えて、後一度しかない。

 今は、なのはの与えてくれるチャンスに賭けるしかないと腹を括ったティアナは、クロスミラージュの照準を
再び影に合わせた。

「ナ、ナンダ!?」
 狼狽する影に十数発のアクセルシューターが撃ち込まれた瞬間、なのはが叫ぶ。

((今よ、撃つの)) 
「当たれぇぇぇ!」

 最大出力のシュートバレットが、アクセルシューターを避けて飛ぶ影を打ち抜く。

「やった!」

 次の瞬間、撃ち抜いた影が発した声を聞いたティアナの顔が凍り付いた。

「アクセルクラスター!!」

 影が発した桃色の光弾がティアナのバリアジャケットを爆散させた瞬間、周囲に着弾したアクセルクラスター
から発せられた光弾が、ティアナを蜂の巣にする。

「う・・・嘘、嘘よ、嘘だぁぁぁぁ」

 全身を貫く激痛の中、自分が撃ち抜いた影が駆け寄ってくる。

 その影が、なのはだったことを認識したティアナは、絶望の裡に意識を失った。

「ティアナ・・・何故!?」
 アクセルクラスターで撃ち抜いた敵が、ティアナだったことに愕然とするなのはの背中に、ニードルショットが放たれた。

「なのは、危ない!」
「きゃっ」

 突き飛ばされたなのはが振り返ると、ニードルショットを弾き飛ばした緑色のラウンドシールドを展開するバリアジャケット姿
のユーノが立っていた。



113:7の1
09/01/30 19:23:03 1Pv27hn5
5-6

「ユーノくん」

「なのは、相手はリンカーコアバーストしたマインドイリュージョンの使い手だ。ランクはBだがSークラスの
 実力がある。惑わされないで」

「で、でも どうやって?」
「僕が背中を守る。これを繋いで」

 ユーノが首に巻いていたスカーフを差し出すと、なのはは、自分のバリアジャケットとユーノのバリアジャケット
をスカーフで結んだ。

 背中合わせになったなのはとユーノは、足下で意識を失っているティアナをオーバルプロテクションで保護すると
同時に、階下で救助活動を行っているスバルに念話を送った。

(スバル、聞こえるよね)(スバルくん、落ち着いて聞いてくれるかい)
 31階に避難した人々を隣のビルに避難させたスバルは、なのはの話を聞き愕然とした。

「ティアが・・・」 
「どうした?スバル」 
 避難者がいないのを確認し終えたコンラッドが、顔色を変えたスバルに声を掛けた。

「ティアが・・・六課時代の同僚が56階でケガをして」
「よし、すぐに助けに行くぞ」 

 瞬間転移の準備に入ったコンラッドをスバルが引き留めた。

「なのはさんとユーノ先生が転送してくれるそうです。ライフポッドを用意してください」

「かなりの重傷だな。ティムス、聞こえるか。ライフポッドをこっちに回してくれ。それとクラナガン大学病院
 への救急車の手配を頼む」

 コンラッドが部下との通信を終えるとスバルが頷いた。

「来ます」

 二人の前に、転送魔法の魔法陣が展開されると同時に、傷だらけのティアナが現れた

「ティア・・・酷い、酷すぎるよ」

「ティムス、ライフポッドじゃ駄目だ。救命ポッドを手配してくれ」

 親友の、あまりの惨状に呆然とするスバルの耳に、コンラッドの悲痛な指示が突き刺さった。


114:7の1
09/01/30 19:28:17 1Pv27hn5
以上で第6章終わりです。

ティアナ、かなり悲惨ですが、最強凡人の彼女は死んでも死なない。
次章以降、しばらくバトルが続きます。

115:7の1
09/01/30 19:34:37 1Pv27hn5
すまん第5章でした。
第6章は、2月に入ったら上げる予定です。

116:名無しさん@ピンキー
09/01/30 19:48:43 VYMtrp93
つまらん

117:名無しさん@ピンキー
09/01/30 19:58:09 dS3ECeY/
>>114
GJ!
次回からのバトル編楽しみにしてます。

118:83スレ260
09/01/30 21:21:16 pCr8MLVD
SS保管庫管理人様へ
私が投下したSSの内、下記のものを同人誌に収録することになりましたので
保管庫からの削除をお願いします。

・浴場で欲情
・目覚めた先に
・流されて海鳴

お手数ですがよろしくお願いします。

119:名無しさん@ピンキー
09/01/30 23:16:20 /m8aKJUy
>>114
次回にはエロエロでラヴラヴな展開が来るに違いない!
と、直感で感じたぜ……(´・ω・`)

120:名無しさん@ピンキー
09/01/30 23:41:26 9aqD2Nos
>>95
GJ!!
シグナムとアギトの散りざまに涙目…
彼女は散るとき、主の無念を晴らせなくて悔しかったのか、それとも弟子を守る盾になれて嬉しかったのか
きっとどちらともだろうな

>>118
全部タイトルだけでぴんと来てしまった俺
せめて簡単に検索できるようにして下さい!
絶対買わせていただきます。。

121:83スレ260
09/01/31 07:39:47 AeBwj2G8
>>120
ありがとうございます。
ただ、ここでサークル名とか書いたらスレちな気がしますがどうなんでしょう…

122:名無しさん@ピンキー
09/01/31 08:40:52 4IbLzsRQ
>>121
ヒント。
SSタイトルをサイトに載せておくとタイトルで発見できる。
ちなみに、ここで宣伝せずにサイトだけで書いても意味はない。
ソースは俺w

123:名無しさん@ピンキー
09/01/31 12:21:41 AeBwj2G8
>>122
アドバイスありがとう兄弟。
でもサイトにSSタイトル入れたけど、ググッてもヤフッてもヒットしなかったぜ

124:名無しさん@ピンキー
09/01/31 12:24:37 69hGs/s7
うらる登録依頼すればいいじゃない

125:名無しさん@ピンキー
09/01/31 12:25:44 pCcLk+pN
>>121
さすがにサークル名さらすのはやばいかもしれん

そう思って自力で探しているが見つからNeeeeeeeee!!!!!
ヒントぷりーず

126:名無しさん@ピンキー
09/01/31 12:32:01 Fy/j4m/j
>>121
いや、こういう場合は普通にサークル名晒しても構わないと思うよ
自己判断でどうぞ

127:名無しさん@ピンキー
09/01/31 12:35:01 AeBwj2G8
>>126
ではお言葉に甘えて
サークル名;Pure Mix でヤフってください。
上から3番目に出てきます

128:名無しさん@ピンキー
09/01/31 12:58:45 4IbLzsRQ
このスレ自体がどうこうと言うつもりはないが、それでも2系の掲示板に
さらすのは勇気あるなぁ…

129:名無しさん@ピンキー
09/01/31 13:51:21 gal8APbD
なのはSSサーチで氏の作品を検索すれば普通に出てくる件

他の何人かもだけど。

130:名無しさん@ピンキー
09/01/31 15:36:09 H1lEy5Xs
>>114
どういう感想が返ってくると思って書いてんだろうか……

131:名無しさん@ピンキー
09/01/31 15:42:04 tZUUyLdi
>>130
今までの感想の数と内容を見直してみな。
ま、そういうことだ。

132:名無しさん@ピンキー
09/01/31 15:50:52 pCcLk+pN
>>127
サンクス!
発売楽しみにしてるぜ

133:名無しさん@ピンキー
09/01/31 16:50:54 AeBwj2G8
>>128
賛否の分かれる行為ですが知ってもらうことが大事だと判断したので

>>129
検索といえばググルとヤホーが浮かんでそっちを失念してました

>>127
㌧ こっちも当日を楽しみにしてます

134:超硬合金
09/01/31 20:30:04 f38SeeCe
誰もいないようなので投下行きたいと思います。

注意事項
・スカリエッティの一人称で物語は進行します。
・ドクターの胃や腸はあまり強くありません。
・非エロです。
・ておあー様にインスパイアされたネタが一部仕込まれています。
・ナンバーズとドクターのお話です。
・本編の後に要らぬ妄想が垂れ流されています。
・タイトルは「Dr.スカリエッティの華麗なる隠遁生活」です。


135:Dr.スカリエッティの華麗なる隠遁生活 1
09/01/31 20:32:51 f38SeeCe
 昨夜のことだ、深夜二六時からMHKで放映される特撮映画を見るために、
私はライフワークたるバイオロボテクスの実験を調整し、一二〇分の時間を捻出した。
 寝間着に着替えたウーノが溜息混じりに、

「朝食の時間には、カフェインの静脈注射をしてでも起きていただきますよ、ドクター」

 と言ったことから、彼女には一〇時を過ぎてもまだ研究を続ける私の本音がばれていたのかもしれない。
 おかげで本日の私は睡眠時間三時間、ノンレム睡眠の真っ最中である。
 何?
 では今一人称で物語を進めているのは誰かだと?
 もちろん、私ジェィル・スカリエッティだよ。
 侮ってもらっては困る。アルハザードの遺児、超☆天才科学者ジェイル・スカリエッティにとって、睡眠中のモノローグなど朝飯前なのだよ。
 ?
 一体、私は誰に対してこんなことを断っているのだろう?
 そうか、これは夢なのだ。
 夢の中なら、昨晩見た「ナノハ3 真龍(ヴォルテール)覚醒」の内容ではなく、それを見るに至る経緯を説明口調で誰とは無しに語っていても仕方あるまい。
 ほら、それが証拠に今、ウーノがインスタントコーヒーを持って部屋に入ってきた。紅茶党の私だが、研究の合間の眠気覚ましにコーヒーを飲むこともある。
しかしそれとて、インスタントではなく、ちゃんと豆から挽いてコーヒーメーカで煮詰めた正統派だ。つまり彼女がインスタントコーヒーを持ってくるなど、現実にはあり得ない。
 夢の中のウーノは、マグカップにコーヒー粉を大さじで一杯、二杯、三杯、よん・・・
あの、ウーノさん?
それ、どなたが飲むんですか?
それ、飲むんですよね?
飲み物ですよね。
是非飲ませてくださいッ。
お願いだから注射器で吸い上げないでください!
その白いマスクと手袋は何なんですかぁ~!?





136:Dr.スカリエッティの華麗なる隠遁生活 2
09/01/31 20:33:26 f38SeeCe
「ゲフゥッ」

 腹部に加わる鈍い衝撃とともに私は目を覚ました。

「ドークター、朝っすよー」

 わが子の声。青いボディスーツに、赤い髪。視界の片隅には床から七〇センチほどの高さにフヨフヨと浮かぶランディングボード。
 呼吸に苦しみながら、私は腹部に加わる痛みと周囲の状況から迅速に、ウェンディが何をしたのか計算する。
 どうやら彼女は、ベットと同じ高さまでランディングボードで浮いて、そこから軽く飛び跳ねて、お早うのボディプレスを敢行したらしい。
 ここは彼女の創造主として、注意せねばなるまい。

「早く起きるッすよー、ドクターが来ないとウーノ姉が朝の栄養補給を許可してくんナインすよー」

 割と本気で訴えている。仕方あるまい、ここは創造主として懐の大きなところを見せるとしよう。

「・・・あぁ・・・お早う、ウェンディ。すぐに着替えて行くから、もう少しだけ待ってくれ」

 我が子の頭を撫でながら、私は上半身を起こす。

「本当ッすね? 冷めないうちに直ぐに来てくださいっすよ」

 花の咲いたような笑顔とともに、ウェンディはライディングボードを小脇に抱え、食堂にかけだした。
 私の計画にないこととはいえ、あんな楽しげな笑顔を見られるならば、この程度の痛みたいしたことではない。
 それにセインのお早うディープダイバーに比べれば、ずっとましだ。あれによって、以前の私は内臓破裂を起こしているらしいのだ。




137:Dr.スカリエッティの華麗なる隠遁生活 3
09/01/31 20:34:16 f38SeeCe
 食堂の扉を開くと、香ばしい肉の香りが漂ってきた。

「お早うございます、ドクター」

 私の姿を見つけ、ウーノが真っ先に挨拶をしてくれる。
 それに続いてトーレからナンバリング順に私に挨拶をしてくれる。

「あぁお早う、ウーノ、トーレ、チンク、セイン、セッテ、オットー、ノーヴェ、ディエッチ、ウェンディ、ディード」

 そこまで答えて、クアットロが居ない事に気付く。

「ウーノ、クアットロはどうしたんだい?」

 確か彼女も私と一緒に「ナノハ3 真龍(ヴォルテール)覚醒」を見る為に夜更かしした口だが、ウーノは彼女を起こさなかったのだろうか?

「セインと一緒に起こしに行ったのですが、どうやっても起きなかったので、仕方なく諦める事にしました」

 ウーノがすてきな笑みを浮かべて、セインが目をそらす。

「うん、体調が悪いのかも知れないな。今日は予定を変更してクアットロのメインテナンスをしよう」

 後方支援型とはいえクアットロとて戦闘機人だ、内臓の一つや二つ破裂していても死にはしまい。
というよりもウーノがその辺の手加減を間違えるはずがない。朝食が終わったら、真っ先に診てやろう。

「それがよろしいかと思います、ドクター。さぁ、お座りになってください。折角の料理が冷めてしまわないうちに頂きましょう」

 メインディッシュである仔牛の丸焼きはそう簡単には冷めてしまわないだろうが、私は頷いて椅子に座る。
 ウーノが包丁で、トーレがインパルスブレードで器用に仔牛達を切り分ける。
 仔牛の腹の中には香草と蒸した米が詰められていて、調理した者の繊細さがうかがい知れる
 ただ、朝っぱらからこう、肉汁がテラテラと輝く料理はちょっと勘弁してほしい。



138:Dr.スカリエッティの華麗なる隠遁生活 3
09/01/31 20:34:48 f38SeeCe
「今朝の食事当番はトーレかな?」

「その通りです、ドクター。只、今回はディエッチにも手伝わせています」

 自信に満ちた表情でトーレが答える。
 そして私の顔の奥にある、この料理に対する実に個人的な不満を嗅ぎ付けた。

「何か、不備がありましたか?」

 トーレの口から出た言葉に、ディエッチも不安げな顔をする。
 ここで単純に、朝食からこうも重い料理は勘弁してほしいと告げる事は簡単だ。トーレはそれを知識として理解し、今後の食事当番において役立ててくれるだろう。
 ディエッチもそうだ。だが、彼女はどうも思い詰めるきらいがある。メニューを決めたのはトーレだが、彼女はそれを止めなかった責任を感じてしまう事だろう。

「何、昔に比べてずいぶんと腕を上げたなと思っただけだよ」

 だから私は、別の言葉を口にした。

「な、ドクター。十年以上も昔の話を持ち出さないで頂きたい」

 トーレが慌てふためき、セインとウェンディが面白い事を見つけたと目を輝かせる。何しろこの二人も料理が苦手な組だからだ。
 だが、はっきりと言おう、起動後間もないトーレの料理の腕に敵うナンバーズは一人もいない。生卵をレンジでチンしようとするセッテですらまだカワイイものなのだ。
 何しろ、トーレの作った料理は当時起動済みのナンバーズ三人全員が床に伏せるほどだったのだ。
というか、レシピを後で見た時は、よくもこんな料理を私は食べたものだと自らの蛮勇に賞賛すら送った。




139:Dr.スカリエッティの華麗なる隠遁生活 5
09/01/31 20:36:01 f38SeeCe
 クアットロのメインテナンスは思いの外簡単で、肋骨より下にある内蔵の全交換だけですんだのだが、せっかく機材の電源を入れたのだからと、他のナンバーズについてもメインテナンスする事にした。
 さて、誰にしようか。
 私は悩みながら研究所内を歩いていると芳醇なミルクの香りが鼻孔をくすぐった。

「やらないか?」

 食堂で、ノーヴェと二人チャイを楽しむチンクの見つけ、私は悪ぶった雰囲気で椅子に腰掛け、おもむろに背広のボタンを外しながら問い掛けた。

「何をですか、ドクター?」

 些か品にかける私の振る舞いにチンクは眉をしかめ、ノーヴェも首をかしげる。
 何となく、セッテがベットの下に隠していた漫画のまねをしてみたが、どうやら二人ともその本の存在を知らないらしい。
 まぁ、当然だろう。我が家の風紀委員・チンクがもし知っていたら、ドゥーエまで召還しての大家族会議が行われているはずだ。

「ああ、すまないチンク。主語が抜けていたね。クアットロのメインテナンスが終わったので、チンクも少し早いが定期メインテナンスをやらないかと思ったのだよ」

 潜入工作中のドゥーエを呼び戻す事自体は別にかまわないが、セッテの蔵書が議題となるとクアットロが反転攻勢をかけてオットーやディードも確実に毒される。そしてディエッチにも、おそらく感染する。
 十五ミリ秒で会議の行方をシミュレートし、セッテの蔵書については一切触れない事にする。これについては後でウーノとセッテと三人で話し合おう。

「ドクターがおっしゃるのでしたら」

「ア、あたしも付いていっていいですか?」

 ティーカップを置いたチンクを見て、ノーヴェが慌てて自身のカップの中身を片づけようとする。

「構わんともノーヴェ。だが、その前に私にも一杯お茶をもらえるかな?」

 私はそんな九番目の娘を見て、インプリンティングという言葉を思い出した。


140:Dr.スカリエッティの華麗なる隠遁生活 6
09/01/31 20:37:21 f38SeeCe
 チンクは、クローン培養としては最初の純戦闘型の戦闘機人だ。その為、他の娘達よりも比較的頻繁にホットメインテナンスを必要とする。
 だが、この私が開発し、この私の手によって小改修を続けてきたチンクのバイタルに異常が現れる事など有り得ない。
 メインテナンスキットは、何一つ彼女の身体に異常はないと告げる。
 否、一つだけ異常を検知する。
 右目の視力だ。
 騎士ゼストとの死闘の末に被った手傷が原因で、彼女の右目は未だ光をとらえる事ができないで居る。
 無論、私の技術を持ってすれば、五〇倍光学ズーム搭載一.二Pピクセルモデル(手ぶれ補正付き)なら一五分、
ロストロギア「緋の目」の移植でも三時間、一からの再生治療だとしても一週間足らずで完治させる事が可能だ。
 それだけの技術基盤を持つ私が、八年もチンクの怪我を治していない理由を、たかが生身の魔導師ごときに手傷を負わされた彼女に対する嫌がらせ、などと誤解しないでほしい。
 むしろ私はチンクの応急処置と騎士ゼストのレリック移植が終わると、寝る間も惜しんで再生治療用の眼球を作った位だ。
 しかし、チンクが己の未熟に対する戒めとしてこのままにして欲しいと強弁したのだ。
 勿論、私は熱心に彼女を説得したし、最終的には強制的に治療しようとすらしたのだが、ランブルデトネーターの前では私の生命力などたかが知れていた。
 以来、私はメインテナンスキットの示す異常警報を一つだけ見逃す事にしている。

「お疲れ様、チンク。異常は無しだ」

「いいわねぇ、チンクちゃんはぁ。私よりも先に生まれたのにウーノ姉様からキビシー生活指導を受けないなんてぇっ」

 メインテナンスポットの中に浮かぶクアットロが早速暇をもてあましたのだろう、チンクに声をかける。

「クアットロ、自分の生活態度のせいだとは思わないのか?」

 検査服からボディスーツに着替えながら、チンクは呆れた様子で切り返す。
 私は実験以外の理由での夜更かしはせいぜい週に一度あるかないかだが、今回の件については共犯者である為にクアットロの事をどうこう言う権利はない。

「そうかしらぁ? 幼児体型でぺったん胸・だ・か・ら、ウーノ姉様も叱るに叱れないんじゃないかしらぁ?」

 ノーヴェが声を荒げる。

「クア姉!」

「フム、確かにクアットロの言う事にも一理あるな。チンクは成長抑制処置をそろそろ止めるつもりはないかい?」

 一方で私はクアットロの冗談に、チンクに施している処置の事を思い出す。
 厳密に言えばチンクだけではなく、比較的初期に起動させた戦闘機人達には全員に同じ処置を定期的に施している。

141:名無しさん@ピンキー
09/01/31 20:37:55 fw5QpknC
帰れ

142:Dr.スカリエッティの華麗なる隠遁生活 7
09/01/31 20:38:14 f38SeeCe
コストの著しくかかる戦闘機人達を、その手段があるというのに、生体部品の劣化で消耗するなど愚の骨頂だからだ。
 だが、チンクに老化抑止処理を施すのは、彼女の肉体年齢からすれば尚早に過ぎる。

「・・・ドクターの趣味でやってたんじゃねーの」

「はっはっは。ノーヴェ、それは大いなる誤解というものだよ。私の女性の体型に関する好みは、どちらかというとチンクとは真逆なのだからね」

 パパ、ちょっぴり傷ついたよ、ノーヴェ。

「じゃあ、どうしてチンク姉をお子様体型にしてんだよ」

「未成熟な身体に対する老化抑止処理の臨床実験が目的の一つかな」

「やっぱりドクターの趣味じゃねーか」

 語弊があるから、趣味とか言わないでくれないかな、ノーヴェ。

「で、どうするかね、チンク」

 必要十分な性能を発揮していたので、彼女の要望に添って成長抑制処理を施していたが、地上本部襲撃計画の決行も近づいてきたのだから、仕様変更をするとなるとそろそろ動かないとまずい。

「その、ドクター・・・それは命令でしょうか?」

 チンクは不安げに上目遣いで尋ねてくる。

「イヤ、単なる提案だよチンク」

「それでは、その、我が儘は承知していますが・・・この体のままで居たいのですが・・・・」

 成長した体になっても控えめな体型だった場合のことを恐れているのだろうか、普段のチンクらしくない歯切れの悪い様子に私は首をかしげる。
 まぁ、セクハラ扱いされたらその時は謝ろうと、私はチンクの遺伝子提供者の映像をホログラフに投影する。



143:Dr.スカリエッティの華麗なる隠遁生活 8
09/01/31 20:40:13 f38SeeCe
「体型のことだったら心配要らないさ、チンク。君の遺伝子提供者は十八歳の時点でこの通り、ドゥーエ以上に成長している。
個体調整の影響を勘案してもディエッチよりも大きくなると保証しよう」

「ぺったん胸から牛チチなんて、チンクちゃん羨ましいわン」

 ノーヴェが顔を真っ赤にして指摘する。

「ドクター、それセクハラ!」

 え、糾弾されるのは私だけ?

「ドクター、あの、それではダメなのです」

 チンクは絶望にうちひしがれた様子で、声を絞り出す。
 そんなッ、Dカップオーバーでも満足できないとは!

「あぁ、その、なんだ。通販用に開発した豊胸器具を併用すれば、素体よりも二カップアップも可能だと思うのだが?」

「いえ、逆です。その・・・騎士ゼストの・・・」

 嗚呼、成程。廊下抑止処理の臨床実験に志願した理由、即ち私の技術による底上げ無しでの再戦と勝利に彼女は未だ拘っているのだ。

「そーよねン、チンクちゃんよりも更にペタパイな女の子を二人もはべらす騎士ゼストですもの。これ以上成長したら、もう見向きもされないかも知れないものね~」

 ?
 クアットロ?

「それとも、かれこれ八年も手出しされていないんだから、最初ッから守備範囲外だったのかしら」

 チンクも何で衝撃を受けているのかな?

「アギトちゃんなんか、ユニゾンのシンクロ率が悪いのに騎士ゼストについて行っているものねぇ・・・」

「・・・騎士ゼストは・・・・」

「もしかしたら昨日の夜も、騎士ゼストがアギトちゃんにユニゾン・淫! とか」


144:Dr.スカリエッティの華麗なる隠遁生活 9
09/01/31 20:41:03 f38SeeCe

「騎士ゼストはそんなふしだらな事をしない」

 好敵手を侮辱されてチンクは泣きそうだ。
 それに反応して、ノーヴェのジェットエッジが回転を始める。
 うん、まずい。

「オーホッホッホッホッホッホ、そうかしらン。アギトちゃんが騎士ゼストに助けられたときは丸裸だったのよ。
お礼をしようにも出来るものは限られているしィ、騎士ゼストも据え膳に手をつけない程無粋でもないんじゃないかしらァ?」

 そんな特殊な性癖の人間に、優しいルーテシアを預ける程私も人非人じゃないのだが、チンクはクアットロの巧みな話術に嵌ってしまう。

「騎士ゼストは、騎士ゼストは・・・・」

 感情が涙へと姿を変えてチンクの瞳は決壊寸前だ。
 そして、ジェットエッジのモータ音が「ギュルルルル~」から「ヒュィィィィイイインンン」へと高音領域に遷移する。

「アア、もしかしたら昨日の夜もルーお嬢様とアギトさんの三・・・ゲボファア!」

 前述の状況から、私はメインテナンスポッドを満たすリキッド・チョッピリ・リリカルの濃度を上げて、クアットロを強制的に黙らせた。

「クアットロ、どうした。メインテナンスポッドの故障か。チンク、ノーヴェ、点検の邪魔になるから部屋の外に出ていたまえ」

 私の迫真の演技と、クアットロの突然の変調で、ノーヴェの足下に展開されかけたISテンプレートは消失し、チンクの意識からも好敵手のことが追い出される。
 その瞬間の隙をついて、私は二人の背中を押して部屋�なのはの唇をねぶりだした。



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