【なんでもあり】人外と人間でハァハァするスレ2at EROPARO
【なんでもあり】人外と人間でハァハァするスレ2 - 暇つぶし2ch159:白昼夢
09/01/30 15:25:01 hhlVu/FD
 風の薫る広野に、少女は立った。
 はるばると広がる草原だった。茂る下草の絨毯の彼方には、靄にけぶる森があった。青空、雲、
緑、地下にはない全ての色彩がそこにあった。
 背後には、地下の村へとつづく壕がある。内部深くは闇にかすんでうかがえない。ただ死臭だけを
吐き出しながら、壕は青草の只中で鉄扉を開いている。
 村の者はみな死んだ。疫病にやられてしまった。光を失くし、音を失くし、最後に皮膚感覚を失って
死んでいった。残ったのは、死者の弔いを続けてきた少女ひとりだった。その少女にもすでに肌の感
覚はない。目と耳は無事に残されたが、病んだ心臓は不規則に早鐘を打ち続けながら、刻々と鼓動
を弱まらせている。最期の死者―父の亡骸の埋葬を終え、少女は地上に出たのだった。それは村
の掟で禁じられていたことだったが、滅んでしまった今となっては、少女をとがめる者はない。
 こうして空を直に見るのは何年ぶりかと、少女はしばし思いをめぐらせた。赤子と呼んでもいいくら
いに幼い頃、地下に移住する前に見たのが最後だろう。漠然とした青いイメージが「空」として記憶に
残っていた。しかし実物ははるかに雄大で、暖かな光を地上に降り注がせている。

「ねえ、とても綺麗ね。みんな、地上はとても恐ろしい場所になったと言っていたけど」

 地上は荒れ果てた野に変わったのだと聞いていた。かつての緑豊かな姿はすでにない、と。
 しかし少女の眼前の情景は、昔の姿となんら変わりない。白や黄の花が踊るたびに、軽い葉ずれ
の音が耳をかすめる。病に冒された肌では風は感じられなかったが、幼い日の淡い記憶と齟齬する
要素は何もなかった。

『疲れたろう。横になるといい。草の上に寝転がるのも、気持ちいいんじゃないか?』

 姿のない声が、少女に囁いた。
 その声の主が誰であるのか、少女は知らない。少女の父が倒れ臥したときから側にいてくれた声
だ。泣きそうになる少女を何度となく励まし、勇気付けてくれた。この声があるから、少女は今日まで
気を強く持てたのだ。
 少女は小さくうなずき、その場に横たわった。もう足が限界だった。柔らかい草が潰れ、かすかに青
臭くかおる。思いきり息を吸い込むと、土ぼこりが気管に入り、思わず少女は咳き込んだ。そしてふと
笑みをもらした。
 肺が痛まない。息をするだけで痛んだ肺が、何の痛みももたらさなくなっていた。

 風が吹く。
 雲が流れる。
 舞い散る花弁が陽にきらめく。
 揺れる青葉を視界の端に捉えつつ、少女の目が蒼穹に影を見出した。白い鳥だった。大きな翼が
悠然と弧を描き、徐々に舞い降りてくる。
 少女は白い面に笑みを刷いた。

「き」

 ―きれい。
 言いさしの言葉が最後まで紡がれることはなく、深い息だけが吐き出された。
 少女の瞳が、青空を映したまま翼の軌跡を追うのをやめた。

『おやすみ』

 もう届かない言葉を少女に送り、溶けた脳が静かに熱を引かせてゆく。
 一面の青草は消え、風の音はやみ、無毛の荒野が姿を現す。晴れた空はどす黒い紅に染まる。
厚く降り積もった灰の中、少女の骸の傍らに1羽のハゲワシが降り立った。
 とうに腐り果てていた心臓が動きを止めた瞬間だった。


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