【友達≦】幼馴染み萌えスレ17章【<恋人】at EROPARO
【友達≦】幼馴染み萌えスレ17章【<恋人】 - 暇つぶし2ch400:春の夕べの夢醒めて〈3〉 ◆ncmKVWuKUI
09/04/04 16:04:58 iJSNekz6

 十悪五逆と人は言う。

 炎の家だと人は言う。

 主君殺しと火付けのむくいで、黒煙を吐いてぶすぶすとくゆり、百年かけて燃え崩れていく家だと言う。

…………………………
……………
……

 はじめて「昔話」をされた夏の夜から、女学校へ入るまでの半年ほどのあいだに、父様にはいろいろなことを聞かされた。

 私を産んですぐ亡くなった母様の、遺した手記を見せられた。
 あの優しいお祖父様が、母様に手を出していたと知った。

 父様は、ぜんぶ「あっちの家」が元だと言う。  あっちの家がお祖父様に女の人をつぎつぎあてがって、じぶんたちの言うことを聞くようにしむけてきたから、お祖父様は病気じみて色を好むようになった、と。

 産後の弱った身で窓から落ちて亡くなった母様は、ほんとうは身を投げたのかもしれない、と聞かされた。
 父様は笑って言った、「夕華、ひょっとしたらおまえはわたしの娘ではなく妹かもしれないな」と。

 そのことを知った晩のうちに、はじめて月のものが来た。
 夜明けまで血がいっぱい出て止まらなかった。  お風呂場の床にぺたりとすわりこんで、夜どおしお湯で流しつづけた。赤いにおいのなかで床に手をついて何度も何度も吐いた。

 それから、お祖父様の顔を見られなくなった。

 そんなときだから、女学校へ入れと言われたことをかえって嬉しく思った。家からは離れたかった。
 地元の友達と別れるのは悲しかったけれど、幼なじみの柿子がいっしょに来てくれることになった。親友がいるのが嬉しかった。

 でも父様は「やはり、あの娘がくっついてくるのだな」と言った。予想通りだと。
 渋沢家はずっとおまえにあの姉弟を貼りつかせてきたからと。
 お祖父様と渋沢家の人たちが、おまえたちを小さいころからいっしょに遊ばせて、わざわざ仲良くなるよう仕向けたのだと。
 あの娘は女学校でもおまえのことを監視し、おまえの動向をあちらの実家に伝える役目となるだろうと。

 そのときは父様に逆らった。「仕組まれたから友達というわけじゃない」とはっきり言った。
 でも、その言葉は心にべっとりへばりついて消せなかった。父様のほかの言葉と同じように。
 そのときまで柿子には何も隠さなかったのに、いくつも隠し事をするようになった。それが彼女に対し、いまもって後ろめたい。

 もっとも、こんな家の事情は、父に言われなくても誰にも話せなかったけれど。

401:春の夕べの夢醒めて〈3〉 ◆ncmKVWuKUI
09/04/04 16:06:43 iJSNekz6

 女学校から帰ったいまは、結婚を急かされている。

 亡くなったお祖父様のあとを継いで子爵になった父様には、「なぜ相手をまだ選ばない」と何度も問われてきた。

 ことに数日前、いくつもの家名と写真をテーブルに並べられて冷ややかに糾されたときは窮した。

 父様は言う。

「華族からは、旧帝都の冷泉侯爵家、現帝都の磐倉伯爵家。播州より脇坂男爵家。
 商家からではあるが富裕ゆえの候補としては、関東三浦家、中部の箕山家および長与家、信州の絹家、尾州の大村家。

 ―竜円寺家の末裔もなにを思ってか求婚してきているが、ろくな財もなしでは除外せざるをえんな。
 わたしが薦めたいのは磐倉伯爵家だな。次男や三男の結婚相手としてなどではなく、老齢の当主みずから、後添えとしておまえを望んでいる。それは商家の長与家も同様だ。
 老人は最初は嫌かもしれんが、そう捨てたものではない。老いた者に嫁げば、すぐに向こうがみまかることを期待できるぞ。あとは遺産が転がりこんでくるのを待てばよい。

 さて、ここに並べた求婚者たちは、先方からおまえをぜひにと望んできている者ばかりだ。幾人かは見合いで顔を合わせたろう。
 それをはぐらかして、返事を引き伸ばすにもほどがある。
 『今はまだ』『当面は考える気になれなくて』と、見合いのたびにそればかりで終始しているそうだな。何年も。

 業を煮やさせる娘だな。選びなさい。
 まだ時期がきていないなどという言い訳は聞かないぞ。女学校は卒業したろう。そしておまえはもう十八だぞ、夕華。
 可愛い娘とおもえばこそ、これだけの良縁をわたしはかき集めた。このなかからだれを選ぶかすら、おまえ自身に任せている。

 おまえに何度も話したとおり、わたしは一刻もはやくわが家を立てなおし、こちらに伸びる渋沢家の触手を根から断ってしまいたい。
 ただそのための方策は、おまえが嫁ぐ家を選んだ瞬間から、それに合わせて見さだめなければならないのだ。まずはどの家の力を後ろ盾にするかが問題だから。
 だから、選べ。もう待つ気はない、すみやかにどの候補を選ぶか決めなさい」

…………………………
……………
……

 柿子と会った直後、夕華は自邸に帰って夕餉をとっていた。
 色艶のある桜材の椅子に腰掛けて、上体をしぜんに姿勢よく保ち、漆塗りの箸を黙々と使っている。

 かたわらでは急須を運んできた乳母が、パーカーをぬいで上はニットだけになった夕華の姿を、自分のことのように寒そうに見ている。
 雨もなかったのに、観桜会のあと春の夜にしては急に冷えこんだのである。
 洋館の大食堂の暖炉にはもう長いこと火など入れられていない。代わりに石油ストーブが置かれているが、これを使えるのは冬、それもめずらしく多人数が集うときだけである。

 いまはひとりきりで長大な食卓についている。同室者は、乳母がそばにたたずんでいるだけだった。

 なお、卓は大木まるまる一本を縦に加工した巨大なもので、この洋館が建てられたときから使われている。
 この館の調度品はそういう年代物が多い。必ずしも使いやすくはないのだが。

 あらかた片づけた夕華は箸をおき、乳母のそそいでくれた茶に少し口をつけた。
 今夜の膳はカレイの煮付け、菜の花のおひたし、香の物、田楽豆腐、豆腐屋から分けてもらった新鮮な湯葉などだった。

402:春の夕べの夢醒めて〈3〉 ◆ncmKVWuKUI
09/04/04 16:07:59 iJSNekz6

 華族の夕餉といっても、京口家ではこれが上等な部類である。
 夕華が豆腐が好きなため、その系統の料理を二皿用意させるくらいの融通はきくが、豪奢とはとても言いがたい。しかも料理はたいてい冷えていた。

 もっとも、料理が冷えたものばかりなのは屋敷の設計上、しかたがないことだった。京口邸の厨房は大食堂から半町(約55メートル)ちかく離れている。
 たいていの料理はしずしず運ばれるうちにある程度冷めてしまう。
 そこでここの厨房では、最初から冷めていてもいい料理が作られる。
 こういったことは京口邸のほかにもよくあるのか、華族は猫舌の者が多いという。

 寒いのは料理と気温のせいばかりではなかった。煉瓦づくりの大食堂は広すぎて、人のいない風景が寒々しいのだ。
 百年前なら、給仕役だけでも後方左右に数人ずつ控えているのが常だったというが、むろん現在ではそんなこともなかった。
 いまは夕華と、給仕してくれる乳母以外にだれもいない。

 先ほどから話しかけようかどうか迷う表情だった乳母が、とうとうそっと夕華のかたわらに身をかがめた。

「あの……夕華様、どうかなされたのですか」

「いきなりどうしたの、吉乃さん」

 吉乃は乳母の名前だった。

「いえ、帰ってきて突然、こちらで食べると言い出されましたから。つねは私どもとご一緒されていますのに。
 よければ今からでもあちらに行きませんか、あちらでは夕華様のお好きな湯豆腐ですよ」

 吉乃の言うとおり、夕華はふだんは厨房に近い一室で、使用人たちと和気藹々と食べている。
 そちらのほうが、寒くない。
 けれどたまには、人の温かさを避けることもあった。いまは誰とも話をしたくなかった。

 ここは丁度いい。
 しんと静まりかえった大食堂には今夜、父子爵も同席しない。かれは数日がかりで遠方へおもむいている。
 帰宅は今夜遅くだというので、顔を合わせる気づかいはなかった。

 もっとも、父と話すことになるだろう明日を思えば、憂鬱になる。渋沢家主催の観桜会に出席したことを知られたら、間違いなく怒りを抱かれるだろうから。
 父のことはひとまず置いて、夕華は乳母に返答した。

「大丈夫。たまにはこちらで食べてみようと考えただけだから」

「小鍋で湯豆腐だけでもお持ちしましょうか」

「いいや、今夜はもう結構。ありがとう、吉乃さん」

 夕華は心配顔になっている乳母に微笑んだ。なるべく柔和に干渉を拒否するためのサインである。
 吉乃は納得しがたい表情をしたが、黙ってひきさがってくれた。

 颯と切れのある身ごなしで席を立ち、夕華は食堂を出た。
 夕華がジーパンやスラックスなどのロングパンツ系を好むのは、動きやすいからでもある。
 長い美脚を伸ばしてよどみなく動かし、大またでなめらかに歩をはこぶ。

403:春の夕べの夢醒めて〈3〉 ◆ncmKVWuKUI
09/04/04 16:09:12 iJSNekz6

 寒々しいのは大食堂にかぎらない。大理石の柱ならぶ閑寂とした柱廊にも、人の気配はほとんどない。
 夕華が幼いころから使用人は少なかったが、四年前に祖父が死んでからはさらに減った。
 新しい京口子爵となった父が、人件費削減と称して半分以上の使用人を解雇したためだった。

(人の姿が見えなくても、気を抜いたらだめ)

 夕華は自分に言い聞かせる。
 内情はすぐにも走りたいくらいだったが、二階に行くまではと必死に気を張っていた。
 少ないとはいえ、一階だとやはり使用人の目がないわけではないのだ。
 様子がおかしいことに気づかれたくはない。

 父子爵は和館で寝起きすることを好むが、夕華はそちらではあまり眠りたくない。京口邸の和館の廊下には、昔から幽霊が徘徊するという話がある。
 そのため彼女は、洋館の二階奥の一室で寝起きしていた。
 その小ぢんまりとしたやや質素な洋室は、昔は住みこみの小間づかいが使っていたという。
 いまではこの家の令嬢が寝起きのため使っているわけである。

 このようなところでも隔世の感があるが、夕華がそちらで寝ることにしているのには、節倹とは別に理由がある。
 夜、二階を使うものは誰もいない。そのことが彼女にとって好都合になるときがあるからだった。

 ホール奥にある大階段をやや早足でのぼり、明かりのない二階へと上る。

 二階にかぎらず屋敷の大部分が暗いのは、京口子爵家の台所事情が、電気代を気にせず灯をつけっぱなしでいられるような状態にはないからだった。もう何十年も前からだが。
 夜目がきく体質なのをいいことに、夕華は明かりの点け消しを省いて暗闇を足早にすすむ。

(―遠いな、部屋)

 月影がガラスの天窓からほの白くさしこむ。
 廊下に長々とどこまでも敷かれている古い毛氈は、ところどころすり切れて埃に汚れている。

 古びたドアの前をいくつも通り過ぎる。
 京口邸の建築物は、和館と洋館と離れの茶室に分かれ、撞球(ビリヤード)室や映写室を含めて六十六の部屋を持つ。
 そのほとんどは現在使われておらず、一年に一回も開けない部屋もある。

 三代目の子爵が燃え尽きて黒こげになるという奇妙な死に方をした撞球室や、その長男が殺されたというある客室などは、十年以上も開かずの間にされている。
 運悪く客室のほうは二階の廊下にあって、夜半に夕華がその前を通ると、部屋の内側からドアをかりかりひっかく音が聞こえてくることがある。
 かなり怖いが、そういうものと和館の廊下でばったり正面から出くわすよりはまだましだろう、と思えば我慢できる。

 屋敷の敷地は一万六千坪。半分以上が庭園だが、広大なことには変わりなかった。

404:春の夕べの夢醒めて〈3〉 ◆ncmKVWuKUI
09/04/04 16:10:44 iJSNekz6

 このときの夕華には、荒廃した自邸の無駄な広さがただ恨めしかった。
 廊下が長い。

(今夜は来るという予感はしていたけど、ほんとうに夕食の途中に始まるなんて思わなかった―
 いつもは起こるとしても布団に入ってからなのに!)

 それにしても念のため大食堂で食べることにしていてよかった。
 吉乃にはなにか感づかれたかもしれないが、使用人みんなといっしょに食べているときに「あれ」が来ていたよりはましだった。

 急がなくては。
 もうべっとりと背筋に汗をかいている。
 呼吸が荒い。心音がうるさい。
 幾多の微細な蟲がぞわぞわ這いあがってくるに似た、あのおぞましい感覚が、いよいよ限界に達している。

 突きあたりの自室に入った時には、ほとんど駆け足だった。
 暗黒のなか震える手で後ろ手にまさぐり、せわしなく鍵をかける。

 密室となってようやく安心した瞬間に―瞳のなかに保っていた理知の光がどろりと崩れた。

…………………………
……………
……

 こざっぱりとした洋風の小間物部屋。

 窓には、色あい暗めの緋のカーテンが垂れさがる。
 ビロードのカーテンのすきまからは月光がひとすじ漏れて、木綿の白シーツの寝台に投げかけられていた。

 蒼ずむ闇と白い光がまじりあう寝台の上に、くちゅくちゅと水音が鳴っている。
 半裸の少女が、簡素な寝台に横たわっていた。
 雪肌からは艶なる香気がたちのぼり、呼気は情欲にまみれている。

(あつい……)

 しどけなく眉を下げ、目をうるませて夕華はあえいだ。部屋じゅうが熱い。
 違う。夜気も月光も冷たいままで、熱いのは自分の体だけだった。

 ことに股間には、妖紅色の炎が燃えさかっているようで、そこから悪寒をともなう熱が休みなく全身に伝わっていく。
 服を脱ぎかけたまま横臥している夕華の素肌は、しっとりと汗に濡れて艶美におぼろめいている。

 鍵をかけてすぐ、寝台に身を投げていたらしい。
 そこからすでに記憶があやふやだった。

405:春の夕べの夢醒めて〈3〉 ◆ncmKVWuKUI
09/04/04 16:12:34 iJSNekz6

 革靴は無意識で床に脱ぎ捨てたようだったが、ジーンズは完全に脱いではおらず、赤いショーツごと膝のあたりまで下げただけだった。
 上半身のニットは着たままだったが、いつのまにか胸上までたくしあげており、ショーツとおそろいの真紅のブラジャーも外している。

 長身で細身だが、女の部分の肉付きは充分すぎるほどで、美女の体として均整のとれた裸である。
 触れてみれば弾みそうなほど若々しい乳房は、豊かな重さをたたえ、夕華が身をよじるたびに闇のなかでたぷ、ぷるりと揺れた。

「……ぅ……んっ……ぁぁ……」

 背をやや丸めて、夕華は太ももの間に手をさしこんでいた。
 ずっと響いている粘っこい水音は、少女自身の指で鳴らしているものだった。

 宙にふりまかれた淫気が凝結して、ぴちゃぴちゃと天井から寝台にしたたっている気がする。
 紅潮しきった美貌を上向かせ、夕華は呼吸をつむぐ。体内の熾き火にあぶられて、血肉まで情欲に溶けそうだった。

  ―好き。ゆうかちゃんが好き。好き、好き、好き……

(やめて……)

 いつもとおなじく、記憶の底からあの声がささやきかけてくる。あるいは淫気とおなじく、ぽた、ぽた、ぽたと落ちてくる。

 声にともない、まぶたの裏に浮かび上がるのは、あの夕べの情景だった。

 春まだ浅い小ぬか雨の宵の、屋敷の湯殿である。
 目を閉じて夕華に抱きつき、無心で体をゆすっている男の子。
 少年の、いつもはふわふわの髪は濡れて、柔らかな頬にはりついている。

 檜(ヒノキ)の香りと肌の温かさ。
 しっかり夕華の体に回された幼い腕。
 好きだよと告げてくる男の子の声が、頭蓋の中でこだまし続ける。

(いつにもまして、今回はひどい……)

 朦朧と考えながら、夕華は熱くふやけた秘部から指先を抜いた。
 愛液で濡れたひとさし指と中指でこわごわ陰核に触れる。
 かぶった皮ごとその尖った肉をそっとつまむ―それだけで陰核がさらに膨らみ、電流が腰に走った。

「んっ、んっ」

 ふに、ふに、くにゅ、と包皮の上から柔らかく陰核をいじる。
 ごくごく微妙な力で触れたつもりだったが、中身を固くしこらせていた陰核は、指の熱を感じただけでヒクヒクさらに勃起してしまっている。
 あげく、うっかり周囲の肉を押さえすぎて、包皮がずりおちてぷりゅんと肉豆が剥け出てしまう。腰どころか脊髄をかけのぼって頭まで電流が突き抜ける。
 夕華は短く悲鳴をあげて、繊麗なのどを反らした。

406:春の夕べの夢醒めて〈3〉 ◆ncmKVWuKUI
09/04/04 16:14:11 iJSNekz6

(いやだ、この、感覚……)

 一瞬しびれた脳の裏側が、むずがゆくひりひりしはじめる。それとともに自分の体への諦念と厭悪があらためてわきあがる。
 いまの一連の刺激だけで、軽く達してしまったのだった。はぁはぁと荒く息を乱し、弛緩した体をぐったりとシーツに沈める。
 先ほどから秘部の浅いところに触れて女の肉が昂ぶっていたとはいえ、簡単すぎる絶頂だった。

 今夜の肉情の煮立ちようは異常だった。
 現にさっきの今でまた、夕華の指はそろそろと秘部に伸びていた。まだ全然、発情しきった体が満足してくれない。

(こっちに帰ってきても、まだこんな……
 ううん、まだもなにも症状が進行してる……)

 「症状」。
 夕華にとっては、この突発的な性衝動は、まさしく厄介な持病だった。
 自慰は楽しむようなものではなく、情欲の発作をしずめる応急処置である。

 こういう夜がたまにあるのだ。淫情に全身が熱くなり、媚毒を血管内に注ぎこまれたかのように悶える夜が。
 あの春の夕方のことを回想する。夢にも見る。
 甘い思い出のはずなのに、それは今では肉を爛れさせる。
 こんなことをするために思い返したいわけではなかった。記憶がよみがえるのはたいてい疲れているときや落ち込んでいるときだ。

 眠りに落ちる前後の気をゆるめた瞬間に、ふとしたはずみでそれが意識の表層に出てきてしまうのである。
 神経が疲れると、無意識になぐさめを求めて体が思い出してしまう感じだった。

 だから、「はやく体をなだめて寝てしまわないと」との一念で指を使うのが、彼女の自慰だった。
 ―けれどそれにもかかわらず、少女の肉はおぼえさせられた快楽に味をしめ、明らかに淫らに成長していった。最近では、理性がなかば飛んでしまうほどに悦びが大きい。
 幼い京介の告白の声を何度も思いかえして瞳をとろんとさせ、乳房や秘部を夢中でいじって絶頂を迎えるのが常になっていった。

…………………………

 最初からここまでひどかったわけではない。

 女学校に入学した初年度のころは、何週間かに一度あるくらいの頻度だった。
 欲情の程度も、悶々しながら布団のなかでもぞもぞ寝返りをうつくらいだった。
 だがそういう夜を何度か経るにつれて分泌される愛液の量が増えていき、うずきも耐え難くなっていった。寝る前に回想が湧きあがる夜は、そのまま寝た後もかならず夢に見てしまう。

 二年生に進級するころには、発作の頻度は十日に一度ほど。それもタオルを布団にもちこんで、夜通し股間をこっそり拭かなければならなくなった。そうしないと朝方には内股までべとつくのである。

 そうなっても最初は、自涜はしていなかった。
 押しあてた布の上から柔らかい秘部をくにゅくにゅ圧迫すると、切なく甘い感覚があることには以前から気づいていたが、「そういうこと」をするのは嫌だった。
 しばらくは、発作が起きると、みじめな気分で一晩中愛液をぬぐうばかりだった。

407:春の夕べの夢醒めて〈3〉 ◆ncmKVWuKUI
09/04/04 16:15:27 iJSNekz6

 その封印が破れたのは二年生の夏、実家の祖父が突然死んだときだった。
 ―……渋沢家と縁の深かった祖父の存在とともに、心のどこかで望みをかけていた何かが、あのときぶつんと切れた。
 かれの命が消えた瞬間に、かれがすすめるはずだった京口家と渋沢家との縁談の可能性も消えたのだから。

 もっとも祖父が死んだ直後は、そのことを思う余裕はなかった。
 祖父のあまりに急な死に呆然として、通夜の席でも葬式でも京介とはほとんど話さず、そのあとは父に命じられるまますぐ帝都へ戻ったのだった。

 けれど日がたつほどに、さまざまな喪失感で心が錆びて軋った。
 最初の縁談が父を通じて持ちこまれたのはそのころだった。
 縁談相手の写真を見ながら、(京介君との結婚話があったとしても、やっぱり無くなったみたい)と、意外に乾いた認識をしたのをおぼえている。

 無感動に乾いていられたのはそこまでだった。
 あとは夜ごとに胸の苦しさが膨れ上がるばかりで、それが拍車をかけたらしく体のうずきはますますひどくなった。

 そして半年後のある夜、とうとう思い出に逃げこんだ。京介との一度きりの行為を、自分の意思で克明になぞり、股間に直接触れてはじめて指を使った。
 情欲を押し殺されて不満を溜めこんできた体は、あっけないほど簡単に灼熱した。
 達したあと枕に顔をうずめ、声を殺して泣いた。

 以来、継続的に自涜行為をしてきた。
 悶える夜にだけと心がけていても、持ち込まれた縁談を断るのに苦労しているときなどは、毎晩のようにあのことを回想してしまうのだ。
 最上級生になったころには、一度その状態になったら股間を自分で慰めてすっきりするまでもう寝付けないほどになっていた。

 欲求を処理せず無理に寝て、夢を見てしまうと悲惨である。甘い追憶にひたりながら夜着まで濡らしてしまう。
 他者に見られていれば夜尿症かと思われるほどの濡れようで、六年間誰にも気づかれずにすんだのは幸いだった。

 周囲に気づかれないまま、肉体はひたすら過敏の度を増して成熟していった。

 今夜とおなじくしつこく体を悩ませる発情の夜に、どれだけ達してもおさまらず、秘部を一晩中いじりつづけたときがある。
 いつもは一度かせいぜい二度も達すればおさまるのに、その日は触れば触るほどうずきが耐えがたくなって、止められなくなった。
 寮の隣室に気づかれぬよう、布団の端を口につめこんで必死で声を殺し、きつく閉じた目尻から涙をこぼしながら何度も達した。
 最後には愛液か尿かわからないものまで漏らし、どろどろの股間をやっとのことでぬぐって、ほとんど失神の態で眠りについた。
 幸いにも、あのときほどしつこく長引く発情はそのとき以来ない。

 自己嫌悪で泣くことも、いまではほとんどなくなった。とっくの昔に、諦めている。

 治そうとは、何度もした。
 とても人には話せなかったが、夕華なりにいろいろとやってはみたのだ。

 まず、自身が意識して「女」から遠ざっていれば、この体の反応―女性としての過剰な欲求らしきものが少しでも弱まるかと考えた。
 髪は伸ばさなかったし、洋服だんすには男物を多めにそろえている。言葉づかいまでも、男言葉というほどではないが、周囲の令嬢たちよりずっと俗っぽいもので通した。

408:春の夕べの夢醒めて〈3〉 ◆ncmKVWuKUI
09/04/04 16:16:42 iJSNekz6

 また日ごろは極力、性に関することから意識を遠ざけて、知識を持たないようにしていた。
 級友たちが持ちこんできゃあきゃあ騒いでいた巷の恋愛小説からも目をそむけたし、まして艶本など見たことも無い。小学生のころ好きだった叙情詩からさえも遠くなった。
 授業での性教育すら、単語を覚えまいとこっそり耳に綿をつめこみ、必死で黒板や教科書からそっぽを向いていた。

 そのため夕華は、十八のこの年齢になっても性的な語彙にはうとい。そこらの男子中学生のほうが、卑猥な単語だけなら夕華よりはるかに詳しいだろう。
 もともと夕華の入った女学校は外界と断絶しているに近い。そこでさえ、彼女ほどその意味で物知らずな娘はいなかった。
 周囲の生徒からも、夕華は、色恋や性愛に極端に免疫のない娘だと思われていたくらいだった。

 けれど、それらの心がけは全部効果がなかった。
 ふだん気にしようがしなかろうが、知識があろうがなかろうが、それと関係なく夜の悩ましい発作は起こった。ひとたびそうなれば、自身の肉に触れてなだめざるを得なかった。
 そのたびに夕華の体は、性感をますます鋭敏に成熟させていったのである。

 服の趣味にしても、やはり逆に、マニッシュな魅力をかもし出すことにつながるのみだった。
 夜の悶えが女としての成長に関係あるのか、本人が望まないうちに夕華の胸や腰は肉感悩ましく実っていった。
 どんどん育っていく若い肉体は、男物の服を健康的に張りつめさせて、夕華がどこまでも女であることを強調した。

 形だけでもなるべく女らしさを否定しようという発想は、その時点で失敗していたわけである。

 夕華自身は気が付いていないが、性を禁忌としてかたくなに拒もうとするその態度さえ、逆効果となっていた。
 ふだんは晴朗な性格である夕華の、その影を帯びた部分からは、どこか背徳的で艶っぽい色香が蘭の花のように匂いたつのである。

 隠している秘密から薫りたつ、ほのかに妖しい雰囲気には、無意識ながら周囲の女生徒たちでさえも惹きつけられずにはいられなかった。
 頬を染めて夕華が顔をそむけるのを見たいため、先輩や同級生がしばしばわざと彼女の前で可愛らしい猥談をしていたとは、彼女には予想もつかないのだった。

…………………………

 夕華の発作の惨状は、女学校を卒業してこちらに帰ってきても、軽微なものになるどころではなかった。
 むしろ今しがた自分でも認めるしかなかったように、この一ヶ月で悪化に加速がついている。

 考えてみれば当たり前だ。これが起こるのはストレスがたまった末のことなのだから。
 幼いころとはまったくちがい、故郷は夕華にとって安らぐ場所ではなくなっていた。


 突然に死んだ祖父のかわりに、屋敷には父が君臨している。
 女学校にいたときから、父が用意してくる縁談の多くをどうにか断ってきたが、いまは父とおなじ屋敷にいる。
 華族の娘の結婚年齢としては、夕華はまさに今頃が適齢期である。言を左右にして結婚話を先送りするたびに、父からの圧迫は強まっていく。

 これ以上、はっきりした理由もないのに「まだ嫌」とそれだけで縁談を断りつづけることは難しいのだ。
 それに加えて、もうひとつ根本的な原因がある。

409:春の夕べの夢醒めて〈3〉 ◆ncmKVWuKUI
09/04/04 16:17:58 iJSNekz6

(あの子のせいだ……待ってみたらけっきょく、あっちからは会いにも来てくれない。私は何度も行ったのに。
 来てくれないどころか、あんな)

 今夜、なんでこの情欲の発作が起きたのかは考えるまでもない。
 京介が恋人を作っていたと知ったからだ。
 すぐに別れたという話だが、夕華は受けた衝撃で足元がさだまらない思いだった。

 あの男の子が、本気で自分から離れていこうとしていた。
 鬱屈の材料として、これ以上のものはなかった。

「あの日はあんなに好きだと言ったくせに。薄情者……」

 そう闇に向けてつぶやきながら、夕華はシーツになめらかな右頬をすりつけた。
 初めて契りを結んだあの夕べに、最初に口づけされたのがその頬だった。
 あのとき、そこから体内に火が入った気がした。

 その情火はいつまでも消えてくれず、熾き火となって残った。ときおり赤々と燃え、六年も執拗に夕華をさいなんできたのである。
 少年への怨情をこめた言葉を、夕華は哀しげに口にした。

「あんな子はもう知るもんか」

 部屋の寂しい闇が、耐えがたかった。

 ―じゅくんと子宮がしこる。
 やるせない想いに反応して、女の肉がうずきを一層深めていた。体内の赤黒い熾き火が、ちろちろ燃えている。

(『処理』しないと……)

 魅惑的にほどよく肉のついた太ももをすりあわせるようにして、脚をもぞつかせる。
 膝下まで下げていたジーパンとショーツを、脚だけで完全に脱ぎ捨て、悩ましい脚線美をあらわにする。
 夕華は剥きあがってしまっている陰核の包皮をつまみ、細心の注意をはらってそろそろと戻した。

 それでさえも腰がはねあがりそうだったが、どうにか過敏をきわめる快楽器官は、皮のかげに隠れてくれた。
 そこはやはり避けることにしたのだった。今夜は予想外に快楽が鋭すぎる。

 指を恥丘から下にすべらせ、ふっくらした大陰唇に右手の中指をたてに食いこませた。
 ぬるぬると指を前後させて、はしたなく愛液でぬめった小陰唇および膣前庭、膣口の上を刺激していく。
 熱く濡れた陰唇のぷりぷりした肉をこすりながら、夕華はもう一方の手で乳房を触った。

 切なさをこらえるように豊かな乳肉を五指でぎゅっとつかむ。
 けれど乳肌からも甘い肉悦の波紋が伝わり、子宮まで響いていく。意図とは逆に、かえって切ない情感がじんわりこみあげる。

410:春の夕べの夢醒めて〈3〉 ◆ncmKVWuKUI
09/04/04 16:19:20 iJSNekz6

(胸、また感じやすくなった……)

 それに、また大きくなったのかもしれない。てのひらに伝わる豊かな肉の重みがわずかに増した気がする。
 正直いって嫌だった。どんどん男好きのする体に変わっていく。

 だがいくら成長を嫌悪しようと、その扇情的な肉房が、夕華の体のなかでもとくに悦びをうみだす場所の一つなのは変わらなかった。

「ぅ―」

 まろやかな乳球をみずから揉みこねまわすたび、肉の熱と感度がますます引き上げられていく。
 豊麗な美乳がぷりぷりに張りつめ、乳首が陰核と同様にうずく。それらの小さな肉の芽は、鼓動と同調してトクトクと膨らみっぱなしだった。

 熱い血流のリズムが子宮を揺り動かし、肌にじっとり気だるい汗が噴く。
 美唇が苦しげに呼吸をむさぼり、阿片を呑まされたように瞳の焦点がぼやけていく。
 とろけた秘肉をさすり、プチュプチュ愛液を鳴らしながら、いつしか夕華は濡れた声をあげ続けていた。

「あっ……ぁっ、……ああ、……あぁぁ……」

 はっと気づいて唇を噛む。

(だめ、声―)

 といってもいまは寮ではない。広い自邸の奥にある一室である。少しくらい叫び声をあげても気づかれはしないはずだった。
 それでも声などあげていいわけがない、と夕華は固く思っていた。
 女学校での性教育の時間でも、日々受けた華族女性としての躾けでも、朝礼でよく説かれた十字教の教えでも、こういったことには「清らかな女」であれと教わった。

 結婚マデハ必ズ処女ヲ守レ。貞潔デアレ。肉欲ハ抱クナ。己ヲ律スベシ。姦淫ハ罪。
 閨ノ行ヒハ楽シムモノデハアリマセン、神聖ナ営ミデス。
 アナタガタ良キ娘サンガタハ、良キ方ニ嫁ギ、良キ妻トナリ良キ母トナリ、家ヲ守ルノガ務メデス。
 人生ハ誘惑ニ満チテイマス。デスガ、ソレラハ断固トシテ遠ザケナサイ。

 過チハ犯シテハ、ナリマセン。

 そんなことを説かれたところで夕華にはいまさらで、罪悪感を植えつけられ、ばつの悪い顔でうつむくのがいつものことだった。
 彼女が初めてを京介にあげてしまったのは、女学校に入る前だったのだから。
 教壇で説教をしていた尼僧も、まさか十二歳で入学する以前に男性経験のある生徒がいるとは思わなかっただろう。

 どうにもならないが、せめてといった感じで夕華は自慰の声だけはあげないように努めていた。

 あるいはこんな異常で淫らな衝動が起こるようになったのは、貞潔を守らなかった罰だろうか。
 それでなくても、なにかの天罰ということはあるかもしれない。

411:春の夕べの夢醒めて〈3〉 ◆ncmKVWuKUI
09/04/04 16:20:50 iJSNekz6

(火付け人の家だもの。
 七代くらい祟られていてもおかしくないじゃない……)

 笑えないことに、いや、かえって不謹慎な笑いさえこみあげることに、京口為友から数えて、夕華はちょうど世代的に七代目だった。

 ……ばかばかしいけれど、いっそ呪いと思ってしまったほうが気が楽なのだ。
 そうでなければ、こんな―発情期の獣よりひどいこの常軌を逸した蕩けかたは、夕華自身の生来のものになってしまう。
 けれど、やはり否定する声が内部から聞こえる。

  『―祟りや天罰などがあるものか』

 今度の声は、父のものだった。心をがりっと鉄の爪にひっかかれた気がした。

 諦めろと声がする。その肉の業は真実おまえのものだと、そういう女だったのだと、持って生まれた性質からして病的な淫乱の性なのだと声がする。
 キタナラシイ、と声がする。
 最後のその声は、父のものではなく京介の声に似ている気がした。心の掻き傷がじくじく膿んでいく。

(ちがう。あの子が私にそんなことを言ったりするもんか)

 反射的に夕華は悲鳴のように念じたが、その端からすぐ(絶対にそうだろうか?)と自信がなくなる。

(言わない。言うはずがない、だってあの子は私が好きだと―)

(ううん、もう違うじゃない。私のことなんて忘れようとしていた)

(それに、あの子が好きと言ってくれたのは、六年前の私で、いまのこんな女じゃない)

 あのころは、こんな乱れ方をする女ではなかった。
 浅ましい自涜など知らず、天地になんら恥じるところなく、胸をいつでも張っている子供だった。そんな自分を、幼い京介も慕ってくれていたのだと思う。

 くらべると、今の自分はなんなのだろう。
 発作的に発情して自涜行為にふけり、寝台に這って身をくねらせている女だ。脳裏も秘部もどろどろに溶かして、みずからの指で肉の罪を掘りおこし、それに蕩けきっている。

(いまのこの姿をあの子に知られたら……)

 ぎゅっと目をつぶる。その先は考えたくない。
 合わせる顔がないというより、自分のこんな部分に、京介が少しでも嫌悪を示したらどうしようと思う。
 幻滅されるのが怖い。ただただ怖くてたまらなかった。

 心の掻き傷の膿み具合が進行して、痛がゆいほどになっていく。

「京介君……」

412:春の夕べの夢醒めて〈3〉 ◆ncmKVWuKUI
09/04/04 16:22:09 iJSNekz6

 少年の名をつぶやいたとき、愁える想いが夕華の瞳にたゆたい、しだいに蕩けて熱くうるんだ状態に戻っていく。秘部と乳房にかかる繊美な手がそろそろとうごめき出す。
 ぐるぐる惑った末に、けっきょく夕華が選んだのは、遠い思い出に逃げこむという堂々巡りでしかなかった。でも、溺れてしまえば当面は考えないですむ。

 何度も「京介君、京介君」と、かぼそく名をささやきながら、自慰を再開したとき、唐突にぞわんと肉悦が膨れた。
 続けてどくりと凶暴に、心悸がはねた。

(――あ)

 ぱっと火の粉が散り、心の傷が膿ごとたちまち炎上し、急速に火球がふくらんでいく感覚があった。
 熾き火が見える。赤黒い。

「あ、あ、ぁ、ぁあっ……」

 発作の程度がもう一段、いままで上ったことのない高みに押し上げられていた。
 体内が沸騰する。

 夕華の心臓は、壊れたように暴れてどくどく血液を送りだしている。血管をかけめぐって妖紅色の炎がうねり、沸血が荒れ狂う。
 長い脚がきゅっとひきつけられ、仰向けの体にガクガクと痙攣が走った。淫熱でうす赤く染まった肌から、少女の汗がぶわっと噴く。

「こ、これなに―ひぃっ!」

 せっかく戻した陰核包皮がぬるんと剥けて、可愛らしく露出した肉豆がひくひく脈動した。
 押しとどめようとした指が、赤剥けした肉粒をもろに押さえることになってしまう。夕華の腰がビクンとはねた。またも軽く達したが、肉の悩乱はわずかも弱まらない。
 胎内で、どぷりと子宮が熱い粘液を吐き出し、収縮した膣口が水気たっぷりにクチャと鳴った。

 肌が汗に輝き、淫艶にわなないた。足の指がにぎりこまれてシーツをぎゅっと巻きこむ。
 目に見えない、燃えているなにかに力ずくで押さえ込まれている。
 あるいは百千の舌で、全身の神経を内側からなめずられているようだった。

 いままでとは比べ物にならないくらい体が熱い。熱いのにひっきりなしに悪寒が走り、カチカチと奥歯が鳴っていた。
 この世の多くの宗教で、なぜ「地獄は炎に満ちている」と説かれるのか、今よくわかった気がする。

(ひ、火を、鎮めない、と)

 震える身を起こして足元のジーパンをひっつかみ、ポケットをまさぐって薄絹のハンカチを引っ張り出した。
 それを股間の秘肉に押し当てて、夕華は寝台にうつ伏せにうずくまった。乳房がシーツに柔艶にむにゅとつぶれ、美尻が持ち上がる。

 ひざをつき、上体を伏せて這ったこの格好は、獣さながらで自分でもあまりに恥ずかしいとわかっている。
 それでも、この体勢で布を押し当てるやり方が、シーツを濡らしてしまう危険がいちばん少なかった。ときおり、快楽の極まったあたりで、潮を噴くという現象が起こってしまうことがあるのだ。
 その漏らす液体は、恥悶の夜ごとに高まっていく感度にあわせるように、少しずつ噴きだす量が増えていっていた。用意した布がしずくをぽたぽた落とすほど、漏らしてしまうこともある。
 夕華にはそれがなんなのかはわからず、ただ失禁じみたその現象を起こしてしまうたびに、深い自己嫌悪に苛まれてきたのだった。

413:春の夕べの夢醒めて〈3〉 ◆ncmKVWuKUI
09/04/04 16:23:33 iJSNekz6

 とにかく、熱くうるんだ秘部にタオルやハンカチを当て、柔熱い肉を布の上から押さえさすって終わらせればいい。液体は、布地が吸い取ってくれる。

「あんんんっ……!」

 あらためて薄絹をとおして、妖美な剥け肉豆におずおず触れたとき、最後の自制心が霧になって一瞬で飛び散った。
 さすっている膣口からこぷこぷと蜜がこぼれてくる。
 その肉穴にハンカチごと指先をもぐりこませると、媚肉が吸いつくように締まった。柔らかいとはいえ布にこすられて、呪わしい性感がじくじく放射状に広がる。

 ハンカチを広げた手のひら全体で秘部をつつむようにして、にゅるにゅるに蕩けた肉を圧迫してさすりはじめる。理性が溶岩の底なし沼に沈んでいく。
 陰核まで掌底で押さえている。あまりに敏感なその肉をぐっぐっと揉みこむように刺激しているのに、痛みはない。わき上がるのは真紅の電流のような悦びだけだった。

(溶ける、やだ、とける……んっ、)

「ひぁんんっ、んっ……んっ……!」

 赤熱の快楽が絶頂を何度も呼ぶ。血の淫熱が沸点に達してちょっと下降し、またすぐ煮立つということを繰り返す。
 こんなものは欲しくない。

(痛いほうがいい……痛いほうが、よっぽどいいっ……!)

 肉が爛れる官能のなか、夕華は血を吐くような思いを抱いた。
 京介との初めてのときは痛かったが、あの清冽な痛みは、大切な思い出の一部だった。それを汚してしまっている。
 勝手に思いかえして貪欲な快楽をむさぼる、自分自身の記憶回路と肉体に、夕華はほとんど憎悪を感じていた。

(おわって、はやくおわってよ……!
 ああ、またっ、またとける、……嫌……!)

「っくぅ……ふーっ……くぅぅんっ……!」

 震える舌をひっこめ、奥歯をくいしばって叫びをこらえ、“溶ける”。夕華は、絶頂のことをそう認識していた。

 ハンカチはの押し当てた部分はすでにぐっしょりと蜜を吸収して、湯気を立てそうなほど熱く濡れている。
 火照る双球を押しこねまわすように、しなやかな背を反らして豊麗な胸を木綿シーツに押しつけ、美少女が淫蕩に身をくねらせる。
 そのたびにむにゅむにゅと肉房の形がうつろう。乳房が押しつけられた周辺の布にも、さざ波のごとき皺ができていく。
 甘い火傷じみた、ひりつく快楽が、勃起した乳首を中心にじゅわりと乳肉に広がった。

「ふぅっ、ふっ……、ぅんんんっ」

 乳球を押しつぶす刺激がつぎの絶頂への呼び水となり、“溶け”た。膣肉が内奥から震撼して、ぴゅくと愛液をふきこぼす。
 桃色に茹だったなめらかな肌は、甘汗にすっかり濡れそぼち、しっとりととろみを帯びていた。
 手は自慰中毒さながらに夢中になって、二枚の大陰唇のあいだの肉泥をぐちゃぐちゃにかきまわしている。震えながら罪深い火に焼かれ続ける。

414:春の夕べの夢醒めて〈3〉 ◆ncmKVWuKUI
09/04/04 16:25:19 iJSNekz6

 陰核がプクンと、濡れて肌に張りついたハンカチを押し上げていた。
 覚悟をきめて、夕華はその過敏な肉豆を布越しに指の腹でおさえた。尖りきったそれの上に小さな丸を描き続けるように、クリクリなぜまわす。
 鋭い快楽に、命じられたように艶美な尻がビクンと持ち上がった。

(あ――来る)

 周回して堕ちるように深まっていく官能が、その描く円をせばめて、一点へ向けていよいよ収束していく。
 炎がごうごうとわめき、ひときわ熾烈な波がくる。

「あああっ、あ――んむんんんっ!」

 もう声を抑えようという理性すら飛んでいた―が、最後の瞬間に、夕華はとっさに、顔前のシーツに落ちていた銀のロザリオを噛んだ。
 それはずっと革紐で首から下げていたのである。
 激しい燃焼に身をよじり、十字架細工にかみつく歯列の隙間から、押し殺した叫びをもらす。

  ―好きだよ、大好き……

「……んぅっ! ……んんんんっっ……! んー……っ……!」

 今夜もっとも大きい絶頂に意識を灼熱させながら、脳裏に浮かび上がっていたのはやはりあの夕べの告白だった。
 両手で押さえたハンカチの下で、ピチュと一条の熱い液が弾ける感覚があった。

「んんーっ、……っ、……!
 ……んっ、……くっ、ぅぅ……」

 烈火が渦を巻き、猛り、ごうっと流れ、……そして火勢をじょじょに鎮めていった。
 ぐっしょり濡れて貼りつくハンカチを、陰唇で噛みしめるかのように、熱い秘肉が妖しくひくついている。

 ややあって、焦げかけた脳を余韻に痺れさせられながら、ようやく体の力がほどけていった。
 夕華はロザリオを歯のあいだから落とした。わななく艶唇と銀細工のあいだに、唾液がつぅと糸をひく。

「ふ……ぇ、ぁぁ……やっ……やっと……、おわった……」

 ほつれたショートの髪が、紅艶に染まった頬にひと筋貼りついていた。
 望まない淫楽に煮崩れさせられ、光が失せた瞳が力なくとろけていた。くびれた腰が弱々しく痙攣している。
 乳房とおなじく豊麗に育ったなめらかな美尻が、なにかを求めるように、自分の意思を離れてなよやかにうねってしまっていた。

(つぎ起こったときは、叫び声、こらえられないかも……)

…………………………
……………
……

415:春の夕べの夢醒めて〈3〉 ◆ncmKVWuKUI
09/04/04 16:27:32 iJSNekz6

 小間物部屋の窓から入る月影が、さらさらと金紗を投げかけてくる。
 ごろんと仰向けに戻り、夕華はそれを寝台から見上げた。
 腕を上げ、手のひらを月光に透かす。ひろげた五指のあいだから光が漏れ、濡れた細指が淫靡にきらめいた。

「……お風呂入らないと」

 つぶやいて、けだるげな瞳に光を受け止めるうち、頭がじょじょに冷えていく。枕辺のちり紙で手をぬぐいながら考えた。

(結婚してしまおうか)

 夕華の住むこの世にあって結婚は、個人のものではない。家と家のものだ。
 父子爵はこの家を復興させ、往古の力を地元にひろげようと画策している。そのために娘を使って、ほかの地域の有力な家と閨閥を結ぶつもりだろう。
 そのことだけ見れば、べつに非難されるほどのことではない。どこの華族もやってきたことだ。

(父様に言われるまま結婚して、もうあの子とは会わないほうが、いいのかも―)

 会わなくなれば、京介はいつまでも自分を理想の初恋相手として憶えていてくれるだろう。
 自分だって案外、そちらのほうが楽になるかもしれない。

 京介との結婚は、夕華がどれだけ強く望んでも、ない。あの父に認めてもらうことなど、考えるだけ無駄である。

 時代にとりのこされたがごとき華族の家中では、家長の立場があらゆる意味で強い。法でさえそうだ。
 ことに華族籍以外にある者との縁組では、家長が同意して判をついた用紙で届出をすることが必要である。それをしないかぎり、正式に婚姻したことにはなりえない。
 だから、父の敵意があるかぎり、渋沢家との縁組はまずありえない。
 死んだ祖父がどこまで話をすすめていたのか知らないが、京口家が父に代がわりしたとたん渋沢家があっさり両家の縁組を諦めたらしいのは、間違いなくそれが理由だろう。

 かりにその事情を無視し、京介のもとに行ったとしても、見通しは明るいとは言えない。
 まだ京介に嫌われていないなら、恋人にまではなれるだろう。しかしその先、結婚できないとわかっていても、ずっと関係が壊れずにいられるだろうか。
 ―現実的に考えれば、難しいだろう。

(京介君がもし応えてくれても……)

 渋沢家の人々にも、首をふって反対される可能性は少なくないのだ。
 京介とてあちらの家のひとりきりの嫡男で、家を継ぐ義務がある。いずれ誰かと結婚して、正式な結婚から生まれた跡継ぎを残すことを期待されているはずだ。

 だから夕華はこれまで、京介との関係をはっきりさせるのが怖かった。
 周囲の人々に恋を知られるのが怖かったし、反対されて京介の心が揺るぐところを見るのが怖かった。人生を狂わせる重みをかれに背負わせるのが怖かった。

 心中や駆け落ちなどは考えないようにしているが、要するに夕華の恋は、それに近い覚悟がないと続けられないたぐいの恋なのだ。
 そんな覚悟を、『私のためにしてほしい』などと簡単に京介に言えるものではなかった。ましてや、こんな情けないことになっている女のために。

416:春の夕べの夢醒めて〈3〉 ◆ncmKVWuKUI
09/04/04 16:28:59 iJSNekz6

 そこを伏せて一時的に手をとりあっても、いつか恋は砕ける。そのあとには、ささやかな関係すら残らないかもしれない。
 それなら本当に、これ以上近づかず、綺麗な思い出のままでかれの心に残ったほうがましではないだろうか。

(……うぬぼれるのはやめよう。
 その前に、あっちのほうが私から離れていきそうなんだから)

 手をついて身を起こし、するりと寝台から下りて羅紗のじゅうたんを素足で踏んだ。
 窓辺に歩み寄り、荒れた京口邸の庭を見下ろす。
 かなたには坂松城の焼け跡が見える。渋沢邸もこのおなじ月に照らされている。家の栄枯は移っても天の月影だけは百五十年前と変わらない。

 窓を押し開けた。ふきこむ夜の涼気が、火照った若い肌にここちよい。
 しかし体は爽快でも、心は寒々としていた。

(莫迦だ、私。京介君に離れられることも覚悟していたはずだったのに。
 私が結婚するより先に駄目になることなんかないって、根拠もないのにどこかで思っていた)

 本当は、だれを責めようもない。幼いころに契りを取り交わしただけで、六年間恋心が変わらないままだと信じていた自分が、あまりに愚かだったのだ。
 少しくらい会話が少なくなっていても、自分たちはひっそり通じ合えていると思っていた。

(駄目になっていたのは、いつからだろう)

 父の目を盗んで帰省のたび会いに行くまではよくても、そのあと夕華がまともにやったことといえば、毎回「いい人はいるの」などとおっかなびっくり聞いていただけだ。
 「いいえ」と返事を聞いてまだ縁が切れていないことを確かめたら、とりあえず安堵していた。あわよくば向こうから踏み込んでくれることを期待していた。
 自分では、いつもそこから先へ踏み込むだけの勇気がもてず、すごすご引き返していっただけだった。

 けれど夕華には、それで精一杯だったのだ。

 父に知られることへの警戒と、
 変わってしまった自分と、
 背負わされる家の重圧と、
 仮にそれらを振り切ったとしても、正式に結ばれるのが難しいことと。

 それらが全部、土壇場であと一歩をふみだす勇気を奪っていった。
 ぐずぐずためらったあげくが今日のざまだ。

(ほんとうにあきらめどきなのかも。
 しょうがないか、自業自得だから……でも)

「すこし、さみしい」

 窓から夜天を見上げてぽつねんとつぶやく。春の月がこんなにも明るく見えたことはなかった。

 とにかく、幸せな記憶だけは双方に残るだろう。
 追憶の中の京介なら、いくらでも好きとささやいてくれる。ひたむきに夕華を求めてくれる。

 自涜だってもう何夜もしてきたのだ。完全に開き直ってしまえばいい。脳裏にひびくあの男の子の声にあわせて指を動かしていれば、その時間だけは京介から求められている気分になれる。
 すべてをあきらめて恥を忘れてしまえば、あの業火のような快楽にも、どこまでも溺れていられるようになるだろう。
 だから、いっそこの先も記憶だけあれば―

(―嫌)

 強く、不意に強く夕華の心にその思いがこみあげてきた。
 たしかに、こんな家のことに巻き込むのは嫌だった。こんな女になった自分を知られるのは嫌だった。けれどそれ以上に、このまま離れてしまうのが嫌だった。

417:春の夕べの夢醒めて〈3〉 ◆ncmKVWuKUI
09/04/04 16:30:48 iJSNekz6

 こみあげてきた何かを抑え、月光の窓辺でうつむく。この光は人の心をもろくすると詩人は言っている。
 自分がいつになく弱気になっていると夕華にもわかっていた。

「……もどりたいな、昔に」

 それでも、ぽろと弱音をこぼしてしまった。
 とたんに今度こそ涙腺がゆるむ。きりっと奥歯をかみしめて、夕華は落涙をこらえた。

 こらえたはずの涙がすぐぼたぼたと落ちた。
 腕をあげて顔をぬぐい、泣いては駄目だと自分をいましめる。
 小さなころからお姉さん役をみずから任じてきたのだから。

  ―ゆうかちゃんはかっこいいね。

 たしか小学生低学年のころ、水遊びのとき川のふちに出た蛇を追い払って、京介に言われた言葉だった。
 ふつうは男の子に向けて言うたぐいの賞賛であったが、頼りにされたがっていた夕華にはその言葉が誇らしかったし、嬉しかった。
 それからも凛と胸をはって年上の威厳を守ってきた。

 だから泣きたくなどない。
 みっともなく泣くたびにいよいよ、あの子が好きになってくれた自分から遠ざかってしまう。
 けれど、駄目だと思っても、月の光に意地は溶かされて、窓辺ですすりあげる音はしゃくりあげる声にうつっていく。

「もどりっ……もどり、たい」

 ひざをつき、窓枠に顔を伏せてとうとうあげた泣き言は、もうはっきりと嗚咽だった。

 遠い月日に戻りたい。子供のころに戻りたい。
 父の素顔も、母の死にまつわる事情も、「むこうの家」との複雑な因縁の話も忘れ、なにも知らなかったころに戻りたい。父に吹き込まれたありとあらゆる毒を心からそそぎたい。
 こんな過剰な情欲は消えて、破廉恥な体は縮めばいい。結婚などはしたくない。

 また、あの子の手を引いて走りたい。

「……私が好きだったなら、一度くらいそっちからも会いに来てよ、京介君。
 一度でいいからそっちから来てよ!」

 涙声がかすれて響いた。
 この六年のうち、向こうからあと一押しがあれば、夕華は踏み出せていた。駆け落ちでもなんでもためらわなかったかもしれない。
 その一押しがなかったのだ。さらに今夜で、相手も自分を深く想ってくれているはずだなどと、そんな確信は持てなくなった。

 本音では、あきらめたくなどまったくない。ずっと正式に添えなくてもいい。誰に反対されてもあの子の手をとりたい。
 でも、京介のほうではもう、そこまでするほどの想いではなくなっていたのだったら、その場合どうすればいいのだろう。
 どうしようも、ないではないか。

 空より金紗がさらさらと、窓枠に頭を伏せた少女の髪を撫でて落ちていく。

418:春の夕べの夢醒めて〈3〉 ◆ncmKVWuKUI
09/04/04 16:32:37 iJSNekz6

…………………………

 夕華にとって、父が現実の体現ならば、京介との思い出は子供時代そのものだった。
 輝くような、思い出だった。

 彼女の記憶にある最古の情景は、神社の境内で、おくるみに入った男の赤ん坊に対面しているところだった。緋の振袖をきた幼児の夕華は、祖父に抱き上げられ、興味しんしんに赤子をのぞきこんでいる。
 京介の初宮まいり(生後32日の神もうで)でのことだと、のちに知った。

 物珍しさでおむつ替えを手伝った。

 あの子が新しい遊び仲間になる日が待ちきれなかった。立つようになったら、はやく歩かせようとして、手を引いて何度もこけさせた。

 年上風を吹かせて、自分もおぼえたてのかな文字や数字を、先生ぶってつめこんだ。喧嘩しても昼寝の時間には添い伏しして子守唄を歌った。

 地区の子ども会でも学校でも、先輩の立場で何かにつけ面倒を見た。
 学校ぐるみの山への遠足で京介が迷子になったときは、夕華が探しに行った。見つけられたが二人して山中でしばらく迷い、あとで柿子にまとめて怒られた。

 知る限りの遊びと冒険行に巻きこんだ。たいがいは柿子をまじえて三人で遊び、大勢で騒ぐことも多かったが、二人きりのこともしばしばあった。
 ほおずきの実を鳴らし、稲荷のお供えをちょろまかし、秘密基地を作り、巣から落ちた鳥のひなを世話し、網を手にして虫や魚を追った。

 ひな祭りも皐月の節句も、水無月の祇園会も中秋の十五夜も、雪神忌みもどんど焼きも、春夏秋冬の行事の場にともにいた。
 寒梅に匂う桜に盛夏の蓮に、夕陽の色の曼殊沙華に、咲きほこる花々が移り変わる野辺で、じゃれあう子狐のようにして四季を過ごした。

 別離の半年前に、いいなずけだと聞かされて、本当はこちらから意識しはじめていた。

 ―……最後に、京介は夕華との別れに純粋に泣き、背伸びして抱きしめ、好きだと言ってくれた。

 あの瞬間に夕華がどれだけ救われたか、たぶん京介のほうには想像もついていないだろう。
 そのあとに互いに初めてを契ったのは、夕華にとって決して場の雰囲気などではない。


 救われたのだ、本当に。あの日、あの子と肌を重ねながら。

 痛みの中で、これだけは嘘じゃなかったと夕華は深い安堵に包まれていたのだった。
 京口家での幸福のほとんどが見かけばかりの嘘だったとしても。渋沢家との交流がただ大人たちの都合でも。赤ん坊だったあの子との出会いからして、政略で仕組まれたことだったとしても。
 自分たちが望んで共にすごした時間と、つちかってきた互いへの情愛は本物なのだと。


 それだけが、夕華が「子供」であることを卒業させられていったあの半年間の、たった一つの幸せな確信だった。
 たとえ肉をくすぶらせる火種に変わってしまっていても、この記憶とあの子への想いを捨てることなどできなかった。

「……まだ、あきらめたくない……」

 無明濁世の闇の中、抱えつづけたこれだけは。

419:ボルボX ◆ncmKVWuKUI
09/04/04 16:33:30 iJSNekz6
続かせていただきます。

420:名無しさん@ピンキー
09/04/04 16:48:41 242Et463
ケータイから書き込むのって大変だよねー
ありがとうごいざます!

421:名無しさん@ピンキー
09/04/04 17:25:29 m53n13ga
>>452
GJ!
切なすぎてもうね。
悲恋物なのか違うのか、ドキドキしっぱなしです。
続き気になるぜええええ!!

422:名無しさん@ピンキー
09/04/04 18:08:37 eAh21x+M
夕華の家かなり貧乏なんだな…

423:名無しさん@ピンキー
09/04/04 20:06:03 Ug/+cOgg
なぜ俺には幼馴染がいないのか

424:名無しさん@ピンキー
09/04/04 20:41:49 nhgK8tgA
リアルの話はいらない。

425:名無しさん@ピンキー
09/04/04 21:12:29 sIHjZ8aD
保守

426:名無しさん@ピンキー
09/04/04 23:22:18 M3Y+mQD9
ボルボさんのまさかの連続投下ktkr

427:名無しさん@ピンキー
09/04/04 23:58:18 oe2GWRqg
>452
これはえろい
続きも楽しみにしています。

428:名無しさん@ピンキー
09/04/05 00:04:11 yBCGnKAO
>>452
ようやく追いついた。夕華の切なさがビンビン伝わってくるよ。
エロさがその裏返しとかもうね、GJとしか言いようが無い

429:名無しさん@ピンキー
09/04/05 00:53:01 zrK1TDnx
GJすぐる。

そして夕華さんの切ない情に対して欲を抱いてしまい自己嫌悪…

夢が、醒める時が。どんな方向に醒めるのか、目がはなせません

430:名無しさん@ピンキー
09/04/05 03:03:43 l5/PKco8
GJ以外の言葉はいらない。

あと、京介の脱ヘタレ化が待ち遠しくてならない。

431:名無しさん@ピンキー
09/04/06 06:38:17 wDTmAkH6
>>452
GJです。
夕華、雁字搦めで動けないなあ。
京介頑張れ。

432:名無しさん@ピンキー
09/04/06 21:38:13 Jm+6CCKk
うーん、読んでて辛くなってくるぜ……GJ
マジで京介頑張ってくれ

さて、別の意味で辛くなる作品を投下しますよ
スルー推奨です

433:幼なじみが絡まない幼なじみモノ(仮)
09/04/06 21:40:17 Jm+6CCKk
ところでさ、キミって好きな人いないの?
「何の話だよ」
いやさ、キミって何だかんだで顔いいし、何でも器用にこなすでしょ?
普段のやる気ない雰囲気とのギャップが、一部の女子から人気あるみたいだよ
「はぁ、それで?」
いや、人気あるけど浮いた話はとんと聞かないから、なんでかなー、と思って
「なんでも何も、与太話に過ぎないからだろ。誰がこんなダルい男を好きになるかよ」
……んー、少なくとも一人、心当たりはないこともないけど
「オレにはさっぱりわからないが」
……鈍感だよね、キミ
「あ、何か言ったか?」
別に何もないよ?
「……まぁいいけどな。で、そのよくわからない噂\と、オレが誰かを好きってのが関係あるのか?」
……内緒だよ?
「?」
実はさ、キミを好きだっていう奇特な人がいてさ。キミの好みをさりげなく聞いて欲しいんだって
「全然さりげなくないな」
まあ、嘘だからね
「帰れ」
冗談だよ。僕は回りくどいのは苦手だから、今回は直接聞くことにしたの
「何を信じろってんだよ、全く」
まぁそう言わず、後学のために教えてよ。好きな娘がいないなら、好みの羅列でもいいから
「……たく、仕方ねえな。お前だから教えてやる」
よかった。持つべき者は親友だね

434:幼なじみの絡まない幼なじみモノ(仮)
09/04/06 21:42:30 Jm+6CCKk
「ね、ねぇ」
ん、どうしたの委員長?
「ど、どうしたの、って……聞いてくれたんでしょ?」
……あー、その件か。確かに聞いたよ、さりげなく
「本当?で、で、アイツは何て?」
……言わないとダメ?
「あ、当たり前でしょ!?何のために聞いてもらったと思ってるのよ!」
『あ、アイツに絶対好きって言わせてみせるんだから!』だっけ?……自分で告白しなよ
「それはダメ!」
なんでさ
「う、だって……」
だっても何も、彼とは付き合い長いんでしょ?別に振られたりはしないと思うけどなぁ
「……わ、私だけ好きって、何か悔しいじゃない……」
…………
「な、何よ!だからこそ、恥を忍んで頼んだのに!」
はいはい、じゃあ教えてあげるよ、彼の好み

まず彼は、長い髪の娘が好きらしいよ。キミくらいの
「な、なるほど……ほ、他は?」
背は同じか少し低いほうがいいんだって
「よ、よし。問題はないわね」
スタイルはあまり気にしないみたいだけど、どちらかというと細身の娘がいいみたい
「ほ、細身……せ、セーフよね、私?」
さぁね。彼の基準なら大丈夫じゃない?
「だ、ダイエットしようかなぁ」
顔は可愛いほうがいいらしいけど、そんなに問わないって。ただし
「た、ただし?」
猫っぽいのはポイントが高い
「……ネコっぽい?」
んー、彼のニュアンスを伝えるのは難しいんだけど、
ま、ちょっとつり目な感じだろうかね。よくわかんない
まぁ委員長なんかたぶん猫っぽいんじゃないの?彼から言えば
「ふ、ふぅん……」
んー、容姿に関してはこんな感じかな
「ね、ねぇ!」
あれ、まだ何か?
「あ、あのさ……」
ん?
「…………む、胸って大きいほうが、いいの、かな?」
……彼の好みは、どちらかというと、板だね
「い、板?」
まぁ委員長レベルがベストなんじゃないの?もうそういう質問はなし。腹立つから
「な、何でよ!?」

435:幼なじみの絡まない幼なじみモノ(仮)
09/04/06 21:44:38 Jm+6CCKk
で、性格とかのことだけどさ
「う、うん」
まず彼は、基本的に自分から動こうとしないから、引っ張ってくれる人がいいって
「な、なるほど」
例えば朝は起こしてくれたり、お弁当作ってくれたり、勉強教えてあげたり
「ふんふん……ん?」
あんまり彼氏彼女ってふうにガチガチせずに、気楽に相手をからかったりできると、なおいいって
「あ、あの……それって」
で、そこまで聞かされて、僕は思わず言っちゃったよ
『ずいぶんと身近にいる人に似てるね』って
「…………」
容姿とかも、何だかその人のことに全部当てはまってるし
「……あ、アイツは、何て?」
彼ね、顔をそらして一言、

『長い付き合いだからな、見慣れてるんだろう』

だってさ
「……あ、う」
……全くもうね、聞いてて呆れた
キミらさ、早く付き合いなよ。見てるこっちが恥ずかしくなるし
「……えと、うん」
あーあ、顔赤くしちゃって
僕も幼なじみ欲しいなー

436:名無しさん@ピンキー
09/04/06 21:47:38 Jm+6CCKk
ってな感じで一つ

幼なじみをはた目から見て羨むってシチュを目指したが、これ幼なじみモノか……?
やはり絡ませたほうが王道だよなぁ

すみませんでした、海に沈んで反省してきます

437:名無しさん@ピンキー
09/04/06 21:51:58 +83ANaUg
>>469
リアルタイムGJ!

438:名無しさん@ピンキー
09/04/06 22:19:14 O4RSLNZn
>>469
GJです。
傍観者の視点だと感情移入しやすいですね。
こっちも読んでて恥ずかしくなってきました。
   


439:名無しさん@ピンキー
09/04/06 23:06:39 uW9I81zU
>>469
GJ

440:名無しさん@ピンキー
09/04/07 11:02:42 ixqTUqJs
>>469
いやいや、これは新鮮で素晴らしい
GJ

441:名無しさん@ピンキー
09/04/07 15:45:56 YOKNSIqo
あまああああああい!

442:名無しさん@ピンキー
09/04/07 17:43:13 VR87MK37
>>82
GJ

443:名無しさん@ピンキー
09/04/08 08:51:15 NS/yw6TI
傍観者が僕っ娘で実は男は傍観者が好きで、委員長は途中でそれに気づいた

って電波を受信した。

444:名無しさん@ピンキー
09/04/08 11:37:19 63ffYB9o
>>469
すばらしい!!
ツンデレっぽい子は第三者の存在でより美味しくなるな


ところで、このSSと似た感じのものを最近どこかで見たような…
「~が絡まない~モノ」っての。
幼馴染スレじゃなかったかも、ってか探したけどないから違うな。
スレチごめんぬ

445:名無しさん@ピンキー
09/04/08 22:35:35 BmuoF1l3
>>477
>>185-186じゃないか?
……まぁそれを書いたのも私なんですけどね。同じ人です

そして今から投下

446:幼なじみが向かい合わない幼なじみモノ(仮)
09/04/08 22:37:41 BmuoF1l3
……ふぅ。
さて、こっちはあらかた終わったけど。そっちはどう?
「ちょっと前に、全部終わったわ」
それは何より。ごめんね、委員長ばかり頑張らせちゃって
「副委員長のあなたも十\分な働きをしてるでしょ。気にしないで」
いやいや、委員長の仕事ぶりには負けるよ
それにしても、先生も人使いが荒いよね。僕らに仕事を押し付けてさ
「私は別に。……それより、ちょっと話があるんだけど」
また彼の話?早く告白しちゃえばいいのに
「う、うるさいわね!絶対アイツに好きって言わせてやるんだから!」
はいはい、それはよーく存じております
でも最近、何か変だよね。キミたちが一緒にいるところをあんまり見ないし
「……話ってのは、そのことなのよ」

避けられてる?
「そうなの。アイツ、何か最近よそよそしくて」
へぇ、例えば?
「まず、自分で早起きしてる。今まで私が起こしてたのに」
はぁ、なるほど
「それどころか、私が家に行くより早く学校に行ってるし」
それは相当早いね。学校まだ開いてないんじゃないの?
「どこかに寄り道してるみたい。 学校に来るのは遅刻間際だし」
ふぅん……他には?
「休憩時間とか、私が話しかけようとしたら、すぐに出ていっちゃうし」
あー、そう言えば教室にいないね
「お、お弁当渡そうとしても、何かお昼持参してるし」
……ふぅん
「帰りだって、今までなら待ってくれてたのに、最近は先に帰ってるし」
…………
「夜にやってた勉強会も、一人でできるから来るなって……なに、その顔」
いや、別に。大変だなぁと
「大変を通り越して異常よ。今までのアイツとの付き合いで、こんなことなかったもの!」
どちらかというと今までが異常じゃ……
「な、何か言った!?」
……いや、別に

447:幼なじみが向かい合わない幼なじみモノ(仮)
09/04/08 22:39:32 BmuoF1l3
「……どうして、こんなことになったのかな」
さてね。心当たりはないの?
「別に。いつも通りのはずよ」
本当に?何か些細なことでもいいからさ
「うーん……やっぱり思い当たることは何も」
全くないの?
「……あ、あなたに相談し始めてから、多少のアプローチはかけるようにした、けど」
……えーと、僕に相談し始めてから?
「そ、そうかも。あなたにアイツの好みとか聞いて、私なりに色々考えてやってみてるの」
あー、やっぱりねぇ
「わ、私、あなたのアドバイスにしたがって、
 ちょっとアイツの好きそうな服を着てみたりとか、
 お弁当にアイツの好きなもの増やしたりとか、
 帰り道で微妙にアイツの傍に寄ったりとか、
 ちょっとだけ、ちょっとだけど、頑張ってる、のに……」
……委員長
「やっぱり。私じゃ、ダメなのかな……」
…………
……帰ろうか。日もだいぶ傾いてきたし
「……うん。アイツは……やっぱりいない、か」
僕が家まで送るよ。さ、行こ

もしかして、恋人とかができたのかもね
「え、えぇっ!?」
冗談だよ。彼に限ってそれはない
「ほ、本当?」
まぁ僕の知る限りではだけど。密かにもてるからね、彼に
「……や、やっぱりそうなんだ」
あくまでもマイナーな人気ではありますが。早くしないと誰かに取られるよ?
「そ、そんなことないわよ!それに、」
はいはい、彼から告白させるんだよね
「そ、そうよ!絶対、私に惚れさせてみせるんだから!」
その意気だよ、委員長。キミは元気じゃないとね
「……ありがと、あなたにはお世話になりっぱなしね」
いやいや、乙女の恋の悩みには、やっぱり手を貸さないとね
「最近はずっと相談に乗ってもらってるし、アイツにも色々聞いてくれてるでしょ?」
……ちょっと一緒にいすぎかもね
「え?」
ううん、こっちの話
それより早く仲直りしてよ?夫婦喧嘩は犬も食わないっていうし
「わ、わかってるわよ!だ、だいたい、まだ……」
ん?まだ、何?
「ま、まだ、夫婦じゃないから!」
………………
「……あ」
……今のは聞き流してあげよう
「………うぅ」

さ、着いたよ。僕はこれで
「うん、ありがと。それじゃまた明日ね」
あぁ、またね

448:幼なじみが向かい合わない幼なじみモノ(仮)
09/04/08 22:41:47 BmuoF1l3
で、話って何?
「いや、ちょっと、な」
ま、だいたい予想はつくけどね
いやー、しかし驚いたね
珍しくキミから話しかけてきたと思ったら、「昼休みに屋上に来てくれ」だなんて
まさに青春だよねー
「……話していいか?」
あ、ごめん。どうぞどうぞ
「あー……、話ってのは、アイツのことなんだが」
委員長のことでしょ?最近、彼女のこと避けてるらしいじゃないか
「べ、別に避けてるわけじゃ」
いや、クラスの皆がそう思ってるよ。『最近二人が揃ってないな』って
「そ、そうなのか?」
委員長だって寂しそうだしさー、かわいそうに
「……あのさ。最近、お前よくアイツと一緒にいるよな」
まぁ、先生がクラスの仕事とかを押し付けてくるし。それがどうかした?
「あ、いや、大したことじゃないんだ。ただ……」
ただ?
「……いや、何でもない」
何でもない、ねぇ
「ちょっと気になってるだけなんだけどな
 ほら、アイツって性格きついし、相手するのも大変だろ?」
そう?僕に対しては親切だよ
「そ、そうか。あー、でもほら、色々と小うるさかったりとか」
いや、彼女の忠告は正しいね
「……し、しかしお節介な部分は」
行き過ぎな気配りってのはないなぁ
「…………えーと」
僕さ。回りくどいの、嫌いなんだ
正直に言いなよ。『お前はアイツが好きなのか』って
「……っ!」
はい、図星ね
「お、オレは別に……」
全く、自分の好きな娘の近く男がいるからって、わざわざ避けたりしてさ
子供かって思うよ、普通
「そ、そんなこと」
大有りでしたけど、何か?
「……で、結局どうなんだよ」
何がさ?
「何が、って……お前がアイツを好きかってこと」
んー……、実はもう告白してたりして
「なっ!?」
冗談だよ、冗談
「……くそ」
あのさー、誰かに取られたくないんだったら、早く告白したらいいじゃん
「……わ、わかってるよ。でも……」
でも?
「……オレだけ好きなのは、なんか悔しいじゃねーか」
………………はぁ
「な、何だよ」
いや、別に。似た者同士、仲良くしてくれとしか
「は?」
はぁ、僕もそんな幼なじみが欲しいよ、本当……

449:名無しさん@ピンキー
09/04/08 22:46:22 BmuoF1l3
はい、終わり

地の文を傍観者形式にした三作目。色々と読みにくいかな、やっぱり

>>476の路線も悪くないけど、失敗すると幼なじみ切ない系になるのが怖いです><
なので、ひたすら少年の恨めしい視点でやっていこうと思うので、悪しからず

450:名無しさん@ピンキー
09/04/08 23:19:29 6ne2zgKe
>>482
俺は
お前を
待っていた

451:名無しさん@ピンキー
09/04/09 00:01:10 c+Gl7BY4
僕っ娘じゃなかった……だと……?

452:名無しさん@ピンキー
09/04/09 01:54:29 RrQs/Hvi
こんな 話を 待っていた!
GJです。

453:名無しさん@ピンキー
09/04/09 04:22:57 oQ/6vnMO
ぐっじょおぶb
これは傍観者が動かないとどーにもならんなw

454:名無しさん@ピンキー
09/04/09 11:31:34 y/V9wywg
GJ-

そして傍観者たる「僕」のほうは「僕」のほうで、
2つ下で子どものころから「僕」が世話をやいてあげてた従妹が、
今も出入り口の陰でどきどき盗みぎきを鋭意敢行中で、
最後の台詞でorzになってたりするわけですね、
わかります。

455:名無しさん@ピンキー
09/04/09 17:51:52 kwjzcBCt
>>487
幼馴染相談の無限ループ

456:名無しさん@ピンキー
09/04/10 13:20:20 jdKQsHoH
「幼なじみが~しない馴染みモノ」シリーズの人もコテつけてみたら

457:名無しさん@ピンキー
09/04/10 13:21:47 jdKQsHoH
文が途中で切れてた……

コテつけてみたらどうだろう、と思う。

458:名無しさん@ピンキー
09/04/10 21:45:54 cP3REkSP
不要

459:名無しさん@ピンキー
09/04/11 18:25:23 +FKD6d/F
コテ、ですか
前からいくつか投下してはいるけど、正直名乗るほどの者でもないですし
あー、でも連作の場合は、名前があったほうがわかりやすいのかな?

というわけで、投下開始
ラストパートでござい

460:幼なじみが素直にならない幼なじみモノ(完)
09/04/11 18:29:01 +FKD6d/F
そろそろ何らかの進展があってもいいよね、意気地なしのキミたちでも。
「いきなり何を言いだすかと思えば……」
だってさ、僕があれだけ忠告したんだよ?
このまま何もしなかったら、いつか彼女が誰か取られちゃうよって。
普通ならすぐに告白して、そのままラブラブ街道一直線だろうに。
「ら、ラブラブ街道?」
それなのに、2週間経った今も、未だに彼女のこと避けっぱなしで。
本当に彼女のこと好きなのかと、小一時間問いつめたいね。
「だ、だからオレは別に」
顔に出てるんだよね、『オレのモノを取る』って。だいたいこの前認めてたし。
「う、ぐ……」
……全く、面倒な性格だね。
普段は邪険に扱ってたくせに、彼女が取られそうになると拗ねるわけだ。
で、自分が彼女を好きなことは認められない、と。
「う、うるさいな!オレだって色々複雑なんだよ。それに……」
それに?
「……自信が、ない」
…………自信、ねぇ。何の自信さ。
「朝は弱いし、面倒くさがりだし、大した才能があるわけじゃない。
 アイツに対していつも辛く当たるくせに、大事なことは何でもアイツにフォローされる。
 ……自発的な行動ができるわけでもない、何かあったら文句言うだけの、自分勝手な男だ」
……それで?
「そんなオレがアイツと恋仲になったとして、更に負担かけるのも迷惑だろ?」
……さぁね。
「……ちょうどいいのかも知れない。オレがアイツから離れたほうが。
 アイツがオレを気に掛けなくて済むからさ」
…………本当、自分勝手だよね。
「な、何だよ」
いや、別に。テンプレだなぁと。
本当、嫌になるくらい。

……よし、決めた。僕、委員長に告白する。
「……は?」
だってキミ、彼女から身を退くんだろ?
だったら彼女は今はフリーなんだし、僕が付き合ったって問題ないよね。
「な、だってお前、この前冗談だって」
告白はまだしてないけど……、好きっていうのは、別に否定してないよね?
「な……っ!?」
僕は今まで、キミの親友ポジションだった。
親友の恋路を応援するのは吝かじゃなかったから、黙ってた。
けど、キミが退くなら話は別だ。僕は僕の好きなようにやらせてもらうよ。
「ちょっと待て!何でそうなる!」
キミが彼女から離れたここ2週間、彼女は寂しそうだった。
いるはずの人間がいない。存在の欠如。まぁ、人恋しくなるだろうね。
そんな委員長の隣にいたのは……この、僕だよ。
「……!」
この半月でわかったことがある。
やっぱり、委員長は素敵な女性だ。
美人で有能、気配りができて、誰にでも親切で。笑顔も素敵だ。
そんな女性を好かない男はいないよ。それは、僕も例外じゃない。
「…………」
言っておくけど。
キミが何もしない限り、僕はもう気にしないから。
せいぜい自分の身勝手を後悔するんだね。
「……ま、まて」
あ、委員長?ちょっと話があるんだけどー
「あ、おい!……くそ、勝手にしろよ……」

……そうそう、今日の放課後。……本当?なら屋上で……
「何なんだよ、どうしろってんだよ……」

461:幼なじみが素直にならない幼なじみモノ(完)
09/04/11 18:34:07 +FKD6d/F
「で、こんなところに呼び出して、何の話?」
いやまぁ、ちょっとみんなには秘密にしたくて。
「なに、クラスで問題でもあった?だったら今なら誰もいないでしょうし、教室で……」
いやいや、個人的に大事な話なんだよ。聞いてくれるかな?
「……まぁ、いいけど。何を話すの?」
……コホン。
単刀直入に言うね?……僕、委員長のこと、好きだよ。
「……………え?」
あれ、聞こえなかった?僕は、キミを好きだ、って言ったの。
「え、え?ぇえっ!?」
この半月、結構\長いことキミと一緒だったでしょ?
その間に、キミという存在がどれだけ素敵か、改めて理解したんだよねー。
「あ、え、ぅ……」
だから、僕は委員長とはもっと仲良くしたいんだよ。わかる?
「で、でも!あなた、私の気持ち、知ってるじゃない……」
関係ないね。僕は僕のやりたいようにやるよ。
「けど、わ、私は……」
まぁ、困るのもわかるけどね。
でもさ、あんなヘタレより、僕を選んだほうが絶対にいいよ?
「……え?」
だってさ、彼ってヘタレじゃない。
朝は弱いし、面倒くさがりだし。さして能力があるわけでもない。
キミには文句ばっかり言うくせに、失敗はキミにフォローしてもらってる。
自分の意見はないくせに、何かあれば文句をいう。
そんな、自分勝手な人間だよ。彼はね。
「…………」
それに比べれば、僕はキミの負担にはならない。
お互いがお互いを思い合う、いい関係を築けると思う。
キミもお荷物が減って、今よりずっと楽に……。
「……じゃ、ない」
ん?
「アイツは、お荷物なんかじゃない!」
……わからないなぁ。
キミだって理不尽に思うでしょ。彼は人の好意に気付かない人間だよ?
キミがいくら行動したって、返ってきたものは何かあった?
「ないわよ、そんなもの!」
でしょ?そんなの、苦しいだけじゃないか。
僕は、恋愛関係ってお互いがお互いを大事にすることで成り立つ思う。
キミがいくら彼を大事にしたって、彼はキミを大事にしてくれない。
いいの?キミばかり損だよ、それって。
「いいわよ、別に!」
……やっぱりわからないなぁ。何でそんなに好きなの?
「な、何でって……」
どうしてそこまで好きになれるか。聞かせて欲しいね。
「……理由なんて、ないわ」
あらら。それなら、僕にもチャンスはありそうだけど。
「強いて言うなら、ずっと一緒にいたから、かな」
……ずっと一緒にいたから?
「言っておくけど。私、アイツとは幼い頃からずっと一緒にいるの。
 アイツのことはあなたよりもずっと知ってる。悪い部分なんか、星の数ほどわかってるわ」
うん、確かに一理あるね。
「アイツはいつも私の傍にいてくれた。
 ……遠くの街で、迷子になったときも。可愛がってたペットが死んだときも。
 仲良くしてた子が転校しちゃったときも。怖い夢を見て、一人で泣いたときも。
 アイツは、いつも私と一緒にいてくれたの」
………。
「私の傍にはアイツがいて、あなたはアイツにはなれない。
 ……ごめんなさい、あなたの気持ちは受け取れない。
 私が好きなのは、アイツなんだから」
……いや本当、うらやましいことで。

462:幼なじみが素直にならない幼なじみモノ(完)
09/04/11 18:36:49 +FKD6d/F
「それにしても、あなたずいぶんアイツを悪く言うのね。友達でしょ?」
親友だよ。そこは訂正しとくけど。
……まぁ、あれは彼の言葉だし。
キミには関係ないことを、ちゃんと言ってもらわないといけないね。
「え?」
さぁ、終わったよ。そろそろ出てきたらー?
「……何でわかるんだよ」
そりゃまぁ、聞こえるように言ったし。キミが来るのは予想済みさね。
「え、え?ど、どうして!?」
どうして、って。まぁ、理由は彼にでも聞いてよ。
「ちょっと、ちょっと待ってよ、え、えぇ!?」
ねぇ、これでわかったろ?
「……何がだよ」
キミの心配なんてその程度のもんだってことさ。
彼女はそんなの気にしない。彼女が嫌なのは、キミが離れてしまうこと。
他の誰でもない。キミがいるから、彼女は頑張れるんだよ。
「……そう、なのか」
負担だと思うなら、できることから始めればいい。
うらやましいよね、それを支えてくれる人が一緒なんだから。
「お、お前……」
「ちょ、ちょっと!あ、アンタどこから聞いてたの!?言いなさい!!」
ほら、キミの不安は払拭されたんだし。
さっさと気持ちを伝えること。誰かに取られないうちに、ね。
「で、でも。お前はいいのか?」あぁ、彼女が好きって話?
そりゃ好きだよ、友人としてね。
「……は?」
素敵な人だし、仲良くしたいよ。でも別に恋仲までは想定してないし。
「だ、だましたな!?」
「ちょっと、本当にどこから聞いてたのよ!?
 ぜ、全部忘れなさい、今すぐ!?」
だまされるキミが悪い。
じゃ、あとは頑張れ。お邪魔虫は撤退するからねー。
「ま、待てこら!」
「こら、無視するな!わ、私はアンタのことなんか、何とも思ってないんだからぁ!!」
「あーもう、うるさい!オレだってお前のことなんか好きじゃねーよ!」
「何ですってぇ!?」
「何だよ!」

ありゃりゃ。先は長そうだなぁ、これ。
それにしても、本当、幼なじみっていいよね。
僕もあんな幼なじみが欲しい……え?従妹?「幼なじみ優性の法則」?
……ま、それはそれ、これはこれ。
その話は、また気が向いたときにしようか。
とりあえず今は、あの二人を見守ろうよ、ね?

「好きって言え!」
「言わねーよ!バカ」
「言いなさいよ!!」
「絶対言わないからな!!」

463:名無しさん@ピンキー
09/04/11 18:40:06 +FKD6d/F
と、いうお話だったのさ(AAry

あんまりダラダラ続けてもアレなんで、この話はここまで
気が向けば書くかもしれませんが、予定は未定です。ネタないし
あと>>487さん、ちょっとネタもらいました、ごめんなさい

それではまた、別の作品であいませう
……また一年空いたりして

464:名無しさん@ピンキー
09/04/11 18:46:19 sl+BI8TA
リアルタイムGJ!
なんか他にも何組かくっつけてそうな手際の良さだなw

465:名無しさん@ピンキー
09/04/11 21:39:11 AFqU3t2r
GJ!

そんな!やっと素直になった幼なじみものを期待してたのにCry

466:名無しさん@ピンキー
09/04/12 02:09:56 zZ6JQUag
リアルにこんなカップルいたら死ぬほどウゼェだろうなw
GJでした~

467:名無しさん@ピンキー
09/04/12 08:51:53 l56NGIfg
>>496
いやぁ、ツンデレ幼馴染ごちそうさまでした

>>498
Cryって…センスあるなw

468:名無しさん@ピンキー
09/04/15 11:09:41 u/c1aq6P
近未来の出生管理センターで体外受精により生まれてくる試験管ベビーたち
試験管がお隣どうしだった、受精卵時代からの幼なじみ

という電波を受信した

469:名無しさん@ピンキー
09/04/16 06:53:55 9oi98s9t
新しいなオイw

470:名無しさん@ピンキー
09/04/16 20:26:18 Hm+7aehw
なぜか悟空とブロリーが浮かんだぞ

471:名無しさん@ピンキー
09/04/16 21:29:23 9oi98s9t
>>503
「病院のベッドがお隣な幼馴染み」って良く見るシチュじゃね?

472:名無しさん@ピンキー
09/04/17 08:40:23 rqqwGZ4t
試験管ならベッドより距離は近いな

473:名無しさん@ピンキー
09/04/17 10:59:22 mRd8i1af
それに出会いがもっと古いぜ
受精卵より古い馴染みがいるか?

474:名無しさん@ピンキー
09/04/17 11:49:59 sUL5vzhJ
>>506
前世とかオカルトに頼らざるをえないな

475:名無しさん@ピンキー
09/04/17 12:53:41 DN1ieshp
「ねえ!早く学校行こうよ!」
とある朝、窓の外から幼馴染の声が聞こえる、
「今日遅刻したら掃除の罰当番だよー!」
いや、俺たちの関係は幼馴染なんて生易しいものではない、
「いい天気だよー!」
産婦人科の隣のベッドからの付き合い、なんてありがちなものでもない、
「今日のお弁当は君の大好物の……だよー!!」
最初の出会いは中世、とある騎士団の騎士(俺)と第一皇女(あいつ)
近隣諸国にまで評判の美人だったらしい、
ただの騎士である俺は嫉妬やら何やらで謀殺された、
あいつは俺の後を追ったらしい、
「新しい朝だよー!希望の朝だよー!」
次は江戸中期わりと宮大工の俺と有力な旗本の娘なあいつ、
普通に考えて許されない恋、
二人で悩んだ末にコードレスバンジー。
「はやくはやくー!」
今度はいきなり宇宙になった、
「疾風」の通り名をもつエースパイロットの俺、
歌声で兵士たちの心身を癒す敵軍の歌姫のあいつ、
戦争は無事終結してハッピーエンド、
…かと思ったら最後にイカレちまった指揮官の超兵器で二人まとめて光に消えた、
「朝食を食え!学校の支度をしろ!今日は始まったばかりだ!
 ハリー!ハリー!ハリー!」
その次はファンタジー、勇者と魔王の世界だった、
神竜の末裔とされる女勇者のあいつ、魔界のとある村に住む村人Aの俺、
仲間を裏切り勇者に協力するも村ごと魔王に消滅させられた、
勇者はすべてが終わった後に自決したらしい。

まだまだ続きはあるがキリがないのでカット、
記憶はお互いが出会った瞬間全て蘇る、
……毎回の別れも全て、
次こそは幸せな未来を望む誓いの言葉も。

……どうでもいいけれど俺社会的な地位あいつより上だったことなくね?
「早くしなさーい!!」
いきなり部屋のドアが開かれる、
我が愛しの姫君が痺れを切らして俺の前に現れた、
やれやれと起き上がる、
今回は現代、幼稚園の時に引っ越した家の隣にこいつがいた、
いつもより早い出会い、平和な国、時代、
今度こそは望んだ最後を迎えられるかもしれない。

476:名無しさん@ピンキー
09/04/17 12:54:17 DN1ieshp
>>507
こんな感じですか?

477:名無しさん@ピンキー
09/04/17 14:45:02 Ah/rGL6f
凄い運命ww

まぁ現代物の学生とかである必要はないんだし、たまにはファンタジーや歴史物の幼馴染でもいいな

478:名無しさん@ピンキー
09/04/17 14:51:40 klIbQRjQ
>>508
今の日本なら、幸せな日々が掴めると思う
つーか掴んでくれ。GJ

479:名無しさん@ピンキー
09/04/17 16:13:23 mRd8i1af
何回悲恋くりかえしてんだよww

480:名無しさん@ピンキー
09/04/17 17:39:31 3WYXu6kT
代理出産を引き受けたら既に自分の子も身ごもってて受精卵の時から幼馴染

481:名無しさん@ピンキー
09/04/17 22:30:59 Vfkud4rJ
>>508
GJ! 久遠の絆思い出しちまったぜ…


で、今世での甘く幸せな日々を描いた続きは?w

482:名無しさん@ピンキー
09/04/17 22:31:31 sUL5vzhJ
>>508
GJです! 何回転生繰り返したんだww
これ全部書ききったら何冊分になるんだろう

483:名無しさん@ピンキー
09/04/18 00:02:40 cbCvr1Ny
>>513
子宮からか。
確かに一番近いな。

484:名無しさん@ピンキー
09/04/18 04:26:07 4T/n8o1l
>>515
なんか複数の書き手による競作ネタにできそうだよなw
1世代目と基本的な設定さえ固めてしまえば、あとは最低限の縛りだけでかなり自由。
出会い→過去世の記憶覚醒→つかのまの幸せ→死別
このパターン守れば、異世界だったおkだものw

485:名無しさん@ピンキー
09/04/18 06:45:30 QCXSsFBA
>>517
常に両想い。これ鉄の掟なり。
話の展開上NTRや凌辱に転がる恐れあり。
しかしそれを打ち破るは幼馴染みの堅固な絆なり。
時代を越え、記憶を失いしも想いは消せぬ。
一途な想いこそ幸せを掴む鍵なり。

……NTR、凌辱を否定しているわけではないので、誤解なきよう。

486:名無しさん@ピンキー
09/04/18 09:50:21 F8gSF71H
程度によっては凌辱される前に自殺したりしそう

487:名無しさん@ピンキー
09/04/18 12:26:31 lCbmtKiy
幸せに終わってもまた一からやり直しか?
あ、あれか、“100万回生きた”の線か

488:名無しさん@ピンキー
09/04/21 11:04:45 JOvnGzTk
年上年下同い年
どの馴染みがいちばん好まれてるのかな

489:名無しさん@ピンキー
09/04/22 00:27:31 nUL5Sh+B
同い年大好き!!

いや年下も年上も良いんだけど、やっぱり同い年になっちゃうなぁ。

490:名無しさん@ピンキー
09/04/22 00:40:24 Dj1sv6gL
そりゃ幼馴染の王道にして神髄といえば同い年だろう。
しかし年上年下もまた素晴らしく、どれが欠けても人生は退屈だ。

491:名無しさん@ピンキー
09/04/22 01:11:31 gfYhZiPC
同い年原理主義が参上!

が、年下や年上の幼なじみは、それはそれで趣があり……一概にどれがいい、とは言えないな
ま、自分で書く分には同い年以外はないんだけどね

492:名無しさん@ピンキー
09/04/22 04:31:15 jDySnpMy
同学年なんだけど女の子の方がちょっとだけ早く生まれてて
何かにつけてお姉さんぶるのが良い

493:名無しさん@ピンキー
09/04/22 04:59:44 d4njoKGg
>>525
どう見ても年下です。ありがとうございました。
な見た目だと更にツボだなぁ

494:名無しさん@ピンキー
09/04/22 12:21:41 YmJsC//S
階段で常に自分の数段上をキープしてそこから見下ろしてくるとかもう最高です

495:名無しさん@ピンキー
09/04/23 20:28:01 cgC+AjZD
つまりきみたちゃMなのかね

496:名無しさん@ピンキー
09/04/23 23:08:21 UFwWoz+a
微Mで微S

497:名無しさん@ピンキー
09/04/24 02:37:21 4ZHPHzZq
創作ではドMだが現実ではドS

498:名無しさん@ピンキー
09/04/24 07:22:26 x2XfpRX2 BE:298126433-2BP(1)
同い年≧年上>>>年下

499:名無しさん@ピンキー
09/04/24 17:43:58 rsGeIFCs
テンプレ
「私の方が年上なんだからね!」
「年上って……ほんの数ヵ月差じゃねぇかよ」

500:名無しさん@ピンキー
09/04/24 20:21:12 rdiWf/ue
「うるさいわね、じゃあ月上よ!」
「…そんな言葉聞いたことないっての」
「どっちにしても私のほうが上だってことには変わりないでしょ!」

501:名無しさん@ピンキー
09/04/24 20:39:11 cn6kj/WQ
年上なのに男の方が出来た子でなかなかお姉さんぶれないのもいい

502:名無しさん@ピンキー
09/04/24 23:00:45 4XMDYqNb
完全に同月同日生まれで昔からどっちが早いかもめている仲

503:名無しさん@ピンキー
09/04/25 00:10:16 ZaNr3U+j
「どう男。試験勉強頑張ってる?な、なんなら私が勉強見てあげるよ?」
「あぁ、ありがとう。でも大丈夫だよ。それに女より僕の方が頭いいしね(苦笑)」
「う…じ、じゃあ夜食でも作ろうか?」
「母さんが作ってくれるから。気持ちだけ受取っておくよ」
「うー…(じわっ)」
「…えーと…やっぱり作ってもらえるかな?」
「!うん!(ぱぁっ)あ、で、でも勘違いしないでよ!?ひ、暇だっただけなんだからね!?」
「ふふっ、わかってるよ。(女は分かりやすいなぁ)」

504:名無しさん@ピンキー
09/04/25 00:11:28 ZaNr3U+j
あー・・・
あんま幼なじみっぽくないかな?

505:名無しさん@ピンキー
09/04/25 00:13:03 AXgzlfdg
>>537
いやいやGJ

506:名無しさん@ピンキー
09/04/25 01:07:25 bv8hoZhZ
>>532
その数ヶ月の差で学年が分かれるパターンもいいな

507:名無しさん@ピンキー
09/04/25 06:21:24 TG/Glqyp
いやいや、

508:名無しさん@ピンキー
09/04/25 06:23:36 TG/Glqyp
年下を侮るべからず!
小さい頃から「~~お兄さんと結婚するー」とか言って懐いてくれるお隣の年下っ子とか最高じゃないスか!

509:名無しさん@ピンキー
09/04/25 09:17:34 cfKtiCYv
互いに泥酔している幼馴染カップル(もちろん成人ね)とかは?

510:名無しさん@ピンキー
09/04/25 12:16:54 R15d0m/C
ロリは好きだが、妹属性は嫌いなんで
お兄ちゃんとか言われた瞬間にうわぁってなる、そんな俺は異端
幼馴染かわいいよ幼馴染
典型的でいけば、ショートヘアーに胸大きめってとこか…

511:ボルボX ◆ncmKVWuKUI
09/04/25 14:36:15 AXgzlfdg
やっとパソコンの規制解けたと思ったら次の規制に巻き込まれました。
投下します。

512:秋夜思(春の夕べの夢醒めて・番外) ◆ncmKVWuKUI
09/04/25 14:37:18 AXgzlfdg
 初秋の西日照りつける畑地だった。

 竹の柵でかこまれた二十坪ほどの土地で、植わった作物が三人の少年にふみつけられている。

 畑の持ち主こそ、荒らされて迷惑しごくというものだが、少年たちにとってそれは意図したいたずらではなかった。

 作物の被害は、畑で展開されている乱闘の巻きぞえである。
 中学生に小学生ふたりが立ち向かっていた。子供の争いとはいえ三人ともさんざんな暴れようで、いずれも鼻や切れた唇から血を流していた。

(この野郎、すっかり怒り狂ってるな。自分も痛い目みることになったのがそんなに意外か)

 眼前の、逆上した中学生の顔色を見て、鈴木満(みつる)はそう洞察した。
 胸ぐらをつかまれて揺さぶられたあげく眉のあたりを殴られ、思わず目をかばって押さえたところであって、じつのところ余裕の持ちようもなかったが。

 満は必死で手をのばし、相手の顔をかきむしろうとした。
 けれど、身長も腕の長さも相手のほうがずっと上だった。こちらの胸ぐらをつかむ腕をぐっと伸ばされると、満のほうからは蹴りしか攻撃がとどかなくなる。
 蹴る前に、今度は頬骨のあたりを殴られた。

 揺れる視界のなか、中学生の後方で、脾腹を殴られてうずくまっていた京介がよろめいて立ちあがるのが見えた。その幼い顔の下半分は、鼻血で鮮やかに染まっている。

 渋沢京介は、満の同級生である。
 ともに小学四年生だが、誕生日のきている満のほうがひとつ年上だった。
 喧嘩の相手である中学生はもとより、満に比べてさえ小柄な京介だが、このとき手に細竹を持っていた。

 中学生は、背後の京介には気づかず、満の鼻を力いっぱいねじりながら罵ってきた。

「このくそ野郎―他人の喧嘩に横から手出しして莫迦でしたと言え」

 もがれそうな鼻の痛みに涙をにじませながらも、敵の腕に爪をくいこませ、満はくぐもる声で罵倒しかえす。

「ばがはぞっぢだ、弱虫っ」

 それを聞くと中学生はいきりたち、満の胸ぐらは離さないまま、鼻をねじっていた手をあげてまたも握りこぶしをかかげた。
 すばやく満は手で顔をかばった。これ以上殴られるのはごめんである。

 敵の後ろでは京介が攻撃態勢に入っていた。長柄のなぎなたを構えるように細竹を持ちなおして腰を落とし、ためをつくっている。

(おい早くしろよ、キョウスケ、早くそれでこいつを叩け)

 満の急いた内心に応えるように、京介が細竹を横殴りに振った。
 しなった竹がぶうんと暮れの空気を薙ぎ、満を殴ろうとしていた中学生の首筋を襲ってしたたかに打つ。

 当たった場所は急所だが、昏倒させられるたぐいの打撃ではなかった。
 柵の補修用として畑の隅につまれていた細竹は、長柄の武器にするには細すぎ、軽すぎる。
 そのかわり、しなる一撃は鞭に似て、小学四年生の京介の手によるものでもかなりの激痛をともなっている。
 皮膚が裂ける痛みをまともに浴びた中学生は叫び、即座に満をつかんでいた手を離してとびのいた。距離をとったかれは首を押さえ、怒りで顔を朱に染めた。

513:秋夜思
09/04/25 14:38:42 AXgzlfdg

「汚い喧嘩しやがって! 二人がかりのうえに武器もちだして。
 だから金貸しの家の餓鬼なんてのは見下げたものだっていうんだ」

 鼻にしわをよせ、京介を見つめて吐き捨てた中学生に、かわって満が啖呵をきった。

「四つも年下のキョウスケにさんざんからんでおいて、反撃されたら『汚い喧嘩だ』か。どっちが卑怯だよ」

「そいつは道場に行ってるだろ! 俺は武道なんかやったことはない」

「だから一対一が公平だとでも言うつもりか。こいつはまだ年齢一桁なんだぞ」

 自分自身もわずか十歳ながら、満は退かずに言いかえした。
 その満の横をとおり、鼻血をぬぐいつつ京介が前に出る。
 細竹を投げ捨て、京介はぎらぎらした目で中学生をにらみつけた。かれは何度も叫んだ言葉を、また指とともに突きつけた。

「もうカキ姉ちゃんのことを悪く言うな」

 中学生はその要求を嘲笑しかけて、異様に殺気立った眼光のまえに笑いを引っこめたようだった。
 いっしゅん気圧された色を面にただよわせてから、忌々しそうにそっぽを向く。

「はん、これからも何度だって言うさ。『おまえの姉貴は遊び女の産んだ子で―』」

 言い終える前に、地面を蹴った京介がかれにむしゃぶりついた。
 相手の挑発的な言葉に同じく怒気をみなぎらせていた満までが、あぜんとする勢いだった。
 京介が目の前で武器を捨てたことで油断していたらしき中学生は、不意をつかれた形になった。組みつかれて脚と脚をからめられ、よろけて後ろに倒れる。
 土ぼこりがぱっと散った。

 あ、まずい、ととっさに満は思った。
 かれも割と喧嘩っぱやいほうであるため、経験的にわかっていた。武器もなしの取っ組み合いになれば、四つ年上で体格にまさる相手に勝てるはずがない。
 京介に助太刀しなければ、と走りだしかけて、満は止まった。

 予想外のことが起きていた。

「また言ったな」

 中学生の腹に馬乗りになった京介は、相手の右手の小指をつかんで、痛烈にねじりあげていた。
 押し倒された状態からその中学生は、自由な左手をあげて京介の髪をひっつかんだ。だが、とたんに苦痛のうめきを洩らす。
 京介がすかさず、指が折れる寸前まで力をこめたようだった。小指の関節がぎりぎりと軋むくらいに極められている。
 激痛に顔をひきつらせた相手の上に、京介の鼻血がぽたぽたと落ちていた。

「言ったんだから、折ってやる。そっちが姉ちゃんを侮辱するなら、そのたびに折る。何度負けたって最後には、かならずつけを全部払わせるからな」

 ためらいのない苛烈な敵意が満面にたぎっている。
 ふだんはややおっとりしている幼い声は、血でくぐもり、獰猛に濁っていた。

514:秋夜思 ◆ncmKVWuKUI
09/04/25 14:40:07 AXgzlfdg

 こいつこんな奴だったっけ、と助太刀も忘れて満は呆然としている。それは小指を折られそうな中学生も同じのようだった。顔色が蒼白なのは痛みのせいだけではあるまい。
 京介のことはずっと本質的におとなしい奴だと思っていたのだが、今日かぎり認識を改める必要がありそうである。
 この相手にはこれまで我慢してきていたとはいえ、争いに臨んでのこの猛りかたは、闘鶏用の若鶏さながらだった。

 それにしても、指まで折ろうというのは明らかにやりすぎだった。
 満は京介を制止するべきか迷いはじめたが、ためらっているあいだに、中学生が「やめろ」と悲鳴をあげた。小指の付け根の関節がぐりっとねじられている。

 やむなく満は声をかけようとして、後方の騒ぎに気がついた。
 畑の入り口をふりかえる。

 こちらを指差しているほかの子供たちと、柵をとびこえて猟犬か矢のごとく一直線に駆けつけてくる少女の姿が見えた。
 それがだれかを視認してから満が次に吐いた言葉には、安堵と気まずさがかなりこもっていた。

「だれだよ、この期におよんでから夕華ちゃんを呼んだのは」

 その名前を聞いた瞬間に、京介も中学生も地面で動きをとめて凍りついている。

\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\

 数日後の、「お泊り会」の夜。

 あごまで湯にしずめた京介の鼻先に、アヒルのおもちゃがぷかぷかと流れてきた。
 湯の熱にやや朦朧としながら、少年は浮いたおもちゃを両手でそっと捕らえた。

 京介は杉材の湯船につかり、風呂場に流れる憤懣の声にだまって耳をかたむけていた。

「あそこの畑の持ち主ときたら、聞きしに勝る怒りっぽさだったよ。
 職員室にどなりこんできて、俺と京介をわざわざ呼び出させたうえ、先生たちの前で『今後一切うちの土地を踏むんじゃねえ』と拳骨落としたんだぜ……いまどきそこまでするかあ?
 作物を倒したのは悪かったけど、あちこち怪我してるのにこぶを増やすことはないじゃん、そう思うでしょ!?」

 渋沢邸の風呂場だった。
 場所からして当然といえば当然だが、木製の風呂椅子にすわって愚痴りつづけている満は京介とおなじく全裸である。
 その満の話し相手は京介ではない。

「私からは何とも。暴れる場所を選ぶべきだったねとしか言えないなあ」

 おなじく風呂椅子に腰かけて、満の背中を泡立つタオルで流してやっていた京口夕華が、苦笑ぎみに応じた。
 満がすばやく反応して首をふった。

「俺や京介が、あんな雷親父の畑をわざわざ指定したわけじゃないってば!
 夕華ちゃんが前もって頭下げといてくれなかったら、ぜったい拳骨一発じゃすまなかったって」

 湿気に濡れた壁に声がはねかえって響く。
 アヒルをもてあそびながら、京介はちらと何度目かに洗い場のほうを見た。
 視線の先にある満の顔はなんだか赤い。背を伸ばして座り、いつになく口数を多くしている。

515:秋夜思 ◆ncmKVWuKUI
09/04/25 14:41:19 AXgzlfdg

 背を流されながら、満はどう見てもがちがちになっていた。
 愚痴にしてもほんとうに畑の主に怒っているわけではなく、現在の状況に戸惑ってしゃべらずにはいられないという感じだった。

 夕華のほうは、いつもどおりに屈託なく、落ちついた声で会話している。―こちらも身につけているものは、腰に巻いた湯文字だけだった。
 満の緊張の原因が、裸の上級生女子にかいがいしく世話されているためであることは、ほぼ間違いない。

 京介はふてくされ気味に目を細めた。
 談笑する二人の姿は、なぜか見ずにはいられないがぜんぜん面白くない。

(あちこち痛いから気分が苛立つんだ、きっと……)

 数日前の喧嘩であの中学生に殴られた部位が、じくじく痛む。腫れは引きかけていたが、湯につかっているうちまた傷が熱を持ってきていた。
 振り切るように強引に目をそらし、京介はむっつりとアヒルを湯にしずめた。

(お風呂上がるまでに気分変えなきゃだめだ。友達と一緒のお泊り会なのに、不機嫌になってるわけにはいかないんだから)

 京口家と渋沢家のあいだでの「お泊り会」は、かなりひんぱんにあった。
 たいがいは祖父に連れられて、孫たちがどちらかの家にいくのである。
 年来の友人である祖父たちは夜遅くまで話しこむことが多く、子供たちは子供たちで好きなようにやるのが常だった。

 ただし今回の、渋沢家のほうで開かれたお泊り会は、いつものそれとは様子が違う。
 夕華にくわえ、満が来ている。孫を助けたお礼ということで、京介の祖父が招いたのだった。代わりにというべきか夕華の祖父は今夜は訪れていなかった。

 別に、だからどうというわけではない。
 お泊り会で三人以外の子供が混じるのは、これが初めてではない。
 それに、満は京介にとっても特に仲のいい友のひとりだ。数日前にも喧嘩に加勢してくれたほどの友人に、文句があるはずもない。

 ただ―
 最近、満がよく夕華に話しかける気がする。それもなるべく人に聞かれないようにして。
 今日もこの家に来るや、二人きりでひそひそと何かを話していた。
 もちろん京介は見て見ぬふりをした。が、いかにも秘密の話といった二人の雰囲気や、かれの話に興味をひかれているらしい夕華の様子に、どうしてだかむずむずするものを覚える。

 満とは以前、好きな女子がいるかという話をしたことがあった。
 京介は「そんなのいない」と否定したが、満はそれに返して「俺はいるけどな」と宣言してきたのである。
 照れは入っているが真剣な顔で、京介に聞かせておこうとするかのようだった。満の好きな娘は上の学年にいて、その女子のことは京介もよく知っているのだと。

(それがどうしたってのさ……ミツルくんがだれを好きでもいいことじゃないか)

 そう思った直後に、いきなりその満がぱっと立ち上がった。
 夕華に洗髪してもらうのが終わったところらしく、そそくさと腰にタオルを巻いている。

「ありがと夕華ちゃん、それじゃ俺これで出るから」

「お風呂でゆっくり温まっていけばいいのに」

「暑い日に湯につかるのはあまり好きじゃないんだよ。じゃ!」

516:秋夜思 ◆ncmKVWuKUI
09/04/25 14:42:24 AXgzlfdg

 満は木戸を開け、逃げるように脱衣所のほうへすばやく消えた。
 夕華の「せわしないなあ、もう」というつぶやきを聞きとめ、京介はつかの間(これだからゆうかちゃんは)と内心でため息をついた。わかっちゃいない。

(女の子といっしょのお風呂は僕らにはもう恥ずかしいんだって、なんでゆうかちゃんはわかってないんだろう)

 肌をあらわにすることに無頓着なきらいが夕華にはあった。昔から知っている年下の子たちに対しては。ことに京介に対しては。
 気にしていないというより、気づいていないのではないかと思う。自分より小さな子供だって日々成長していて、異性を見る目がすこしずつ変わっているということに。

 本には、「着付けも入浴も使用人に世話されていたころの華族は、裸を見られることにおおらかであった」という記述がある。
 だが夕華のこれはそれとは違う、と京介は確信している。夕華はこういうことに今もって鈍いだけだ、と。

(僕を子供扱いするけど、そこらへんはゆうかちゃんのほうがずっとコドモじゃないか)

 ちょっと優越感をまじえながらの京介の慨嘆をよそに、「さてと」と夕華はつぶやき、湯船のほうを向いていきなり言った。

「―ほら、次」

 声をかけられて反射的に夕華に向きなおった京介は、ぐっと唇をひきむすんだ。
 言葉はそっけないが、夕華の目は「ここに来なさい」と強く命じている。

 京介は内心で(そんな簡単に言うこと聞いたりするもんか)と強がったが、思いと裏腹に、いつのまにか湯船から這い出していた。
 湯ぼてりした頭をぼうっとさせたまま、ぺたぺたと濡れた足音をたてて歩みよる。
 夕華のまえの風呂椅子にすとんと腰を落とすと、すぐに湯桶で頭からお湯をかけられた。

(……あれ、いま体が勝手に動いた)

 頭を洗われはじめてから、ようやく京介はわれにかえって憮然とした。
 簡単に逆らえなくなるあたり、子供扱いされてもしょうがないのかもしれない。

 それにしても、文句が言葉にしないうちに消えていくほど気持ちよかった。

 少女のほそやかな十指が、頭皮を指の腹で押さえ、爪を立てないようにして毛根から洗っている。
 夕華からしても慣れた頭が相手であるためか、満を洗ったときよりなめらかな手つきだった。一定の速さで、丁寧に頭皮をすみずみまでこすってくる。

 京介は大人しく洗髪されていく。
 会話はなかった。沈黙が重い。
 頭を洗う夕華の指はあいかわらず優しいが、それだけに京介は胸にうずくものを覚えた。

(……なんで、こうなるんだろ)

 あの喧嘩の最後に駆けつけた夕華は、てきぱきと場を片づけた。
 中学生をふくめ喧嘩で傷ついた三人を近所の医者のところに送ったのち、やってきた畑の地主にかわりに謝った。
 できるだけ地主の怒りをやわらげるため、ほかの子供たちにも手伝ってもらって、日が暮れるまで畑をなるべく元通りにする作業をしていたそうである。

517:秋夜思 ◆ncmKVWuKUI
09/04/25 14:43:44 AXgzlfdg

 けれど京介は、そこまで後始末してくれた夕華と口論してしまったのだった。

 あとで満やほかの子供たちから事情を聞いたとき、夕華は京介にむかって怒ったのだった。
 「前からちょっかいを出されていたなら、なんでもっと早く私か柿子に言わなかったの! 今日だって最初から私を呼べばよかったのに」と。
 うつむいて聞いていた京介は、「言えないし、呼べるもんか」と拒絶の言葉をぶつけたのである。
 その直後に顔をあげたとき、ずきんと心が傷より痛んだ。そのときの少女の顔には怒りより、悲しげな色が濃かった。

(謝ろうかな……でも、釈然としない)

 つぶっていた目をうすく開け、風呂場の床に暗く視線を落としながら、京介は悶々とする。
 けれど、夕華がその悩みを打ち消した。
 桶の湯を京介の頭に少しずつかけて、手ぐしで髪をすいて洗髪剤を流しながら、彼女はつぶやいたのである。

「このまえは、怒鳴ったりしてごめんなさい」

「え」

 京介はぐっと胸がつまるのを感じた。少女は自分から折れてくれたのだった。
 こうなると、まだ意地をはっているほうがみっともない。いや、そんなことよりも、これ以上突っぱねあっていたくはなかった。

「あ、その、僕こそ、ごめん」

 先に謝らせたことで、京介は逆に恥ずかしくなる。いくらか男心に鈍かろうと、やはり夕華のほうが大人なのだと実感させられる。

「きょうくん、私、喧嘩になったことを怒っていたわけじゃないよ。
 発端は、柿子を悪く言われたことなんでしょう。その場にいたら私だって突っかかっていたよ。
 指を折ったのはやりすぎと思うけれど、ずっと体の大きい相手に勝つやり方なんてそんなにないし」

 あのとき夕華がいだいた怒りは、九割が中学生へ向けられたもののようだった。京介はほんの少しだけ、喧嘩した相手に同情を寄せている。
 彼女が場に駆けつけてからは、終始しょげかえっていた相手の姿を思い出す。夕華は折れた指に応急措置をして、医者へ行くよう言ったとき以外、中学生を一瞥もしなかった。

 彼女がそこまで誰かに冷たい怒りを抱くのは珍しいことだった。「年下をいじめた」ということが許せないのかもしれない。
 彼女にとって、大きな子は、自分より小さな子を庇護する義務を負うものなのだ。

 だから京介は、一割とはいえ自分がなぜ夕華に怒りを向けられたのかもよくわかっている。夕華にとってまだ「小さな子」である自分が、頼ろうとしなかったからだ。

518:秋夜思 ◆ncmKVWuKUI
09/04/25 14:44:56 AXgzlfdg

「―相談していてほしかっただけなの。守ってあげられたのに。
 こんなに殴られて……」

 しんみりした声を出し、京介の体のあちこちに残るあざに夕華がそっと触れてきた。

 京介は首をふった。

「もう僕だって四年生だよ、低学年じゃない。女の子に守られるなんて変じゃないか」

 それに、あいつの前で夕華に頼るなど、絶対にできなかったのだ。

「変なんかじゃないよ、それに心配なものは心配……ううん、この話はもうやめる。
 ねえ、仲直りしましょう」

「うん」

 京介は、今度の提案には素直にうなずいた。
 二度目の洗髪がはじまる。夕華はいつも洗髪を二回に分けてほどこすのだった。

 また会話が消えるが、今度の沈黙は悪いものではなかった。
 丁寧すぎるくらいに長々と頭を洗われているが、いつもとおなじく時間は気にならなかった。

\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\

 子供たちが浴室にいるのと同時刻、渋沢邸の書斎である。
 屋敷の一角にしつらえられたこの書斎は、和風建築のこの家にはめずらしい洋風の一間だった。

 さほど広い空間ではないが、書架の配置により、入り口の扉からは奥が見えないようにされている。
 窓のカーテンも毛氈も壁の煉瓦も、赤色を基調としているが、赤といっても古びたダークレッドで、むしろ落ちついた印象の色である。
 読書するものが心を乱さないよう、派手な彩色のものはいっさいなく、調和を壊さないように配慮が行き届いていた。

 その静謐な空間に、寒気がする光景が現出している。
 来客は書斎に通されるなり、机の前に立ったままで、謝罪をはじめていた。

「このたびは愚息が申し訳ありません、ほんとうに申し訳も……!」

 深く頭を下げているのは茶のスーツの壮年男性だった。
 身なりこそよいが、顔色は土気色に変わっており、低頭しつづけているうちに薄い髪がほつれてきている。
 床の毛氈に頭をこすりつけそうなほど、繰りかえし腰を深々と折っていた。

 重厚なマホガニー材の机から立ち上がって、その謝罪を受けているのは少壮の男である。
 中肉中背で隙なく黒スーツを着こなしたその男は、腰を低くする来客を無言で見下ろしていた。
 銀縁眼鏡の奥で、眼光がわずかに嫌悪を帯びている。

519:秋夜思 ◆ncmKVWuKUI
09/04/25 14:46:15 AXgzlfdg

 それに気づかず、いまや土下座しかねないほど低姿勢になっている来客は、しどろもどろに脂汗を流して哀れをさそう声を出した。

「明日、あらためて愚息とともにお詫びに参ります。ほんとうに、こちらさまにはなんとお詫びすればよいか」

 受ける男は無言だったが、書斎の奥まったほう、書架の陰からなだめる声がひびいた。

「おいおい、たかが子供の喧嘩でそこまで大げさにならんでも。
 それに、こちらも謝らなければ。うちの孫のほうが大きな怪我をさせてしまったのだから」

 横目でちらと奥のほうを見てから、銀縁眼鏡の男はようやく口を開いた。

「父の言うとおり、京介のほうこそとんでもないことをしました。折れていたのでしょう、そちらの息子さんの指。
 それについては、治療費をすべてこちらでもたせていただきたい」

「そんな……いえ、ご厚意はありがたいのですが……」

「いいえ。いかに『おびえての反撃』にせよ、うちの子のやりようは過ぎた対応ですからね。
 こちらで叱っておきますので、おたくの息子はおたくで言って聞かせてください」

 慇懃な口調だが、言葉のうちにあからさまに、「そちらの息子が小さなうちの子に売った喧嘩なのだぞ」という含みをこめている。
 銀縁眼鏡も冷たい印象のその男は、京介の父親で、渋沢圭介という。
 歳は四十、渋沢家の創設した地方銀行である坂松銀行において常務の地位についていた。
 奥にある革ばりの肘掛け椅子から声をかけたのは、渋沢家当主の元介。こちらは圭介の父、京介の祖父であり、渋沢翁と呼ばれている地域の顔役だった。

「そういうことで、お気をつけてお帰りください。それと息子さんまで謝りに来るには及びませんよ、本当に」

「はい……あの、どうか、くれぐれもお見限りなく……」

「お見限り?」

 うっかり聞き返してしまってから、圭介は舌打ちしかけた。
 相手のほうは、嘆願の糸口をつかんだとばかりににわかに顔を上げ、必死にすがる目を向けてくる。

「はい、ようやく風が向いてきたと申しますか、ご存知のようにうちの会社はいまが肝心な折ですから。
 来年には市場の活性化が取りざたされていますし、ふんばりどころなのです。
 坂松銀行様のほうを通して説明させていただいたとおり、ここでてこ入れしていただければもうじき確実に持ちなおす方向に向かうはずです。
 ですから、なにとぞそこのところを重ねてお願いしたく……いまご当家に見捨てられてはわたしどもは―」

「そんなことをここで言われても困りますねえ。おたくへの融資を仕切っているのはあくまで銀行のほうですよ。
 その件については、調査の結果をふまえて会議をおこなったのち、後日にきちんと通達させていただくと言っているではありませんか。それをお待ちいただきたい。
 今回の私事と、当行があなたの事業に融資するか否かという問題とは、いかなる意味でも関係しませんからご心配なく」


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