【友達≦】幼馴染み萌えスレ17章【<恋人】at EROPARO
【友達≦】幼馴染み萌えスレ17章【<恋人】 - 暇つぶし2ch385:春の夕べの夢醒めて〈2〉 ◆ncmKVWuKUI
09/04/02 10:03:37 Oet9ybQh

「あの、それじゃあ、やっぱりそれを何冊かもうちょっと貸して。
 少し読み返したいのがあったから」

 柿子は無言で紙袋の中から適当に三冊ばかりをとりだし、夕華に渡した。

「柿子ありがとう。また返しに行くね」

 夕華は受け取り、そそくさと小脇にかかえる。
 やはり内実は冷静を欠いているようで、読み返したい本があったなどといいながら、手渡された本の題名すら確かめていない。

 柿子はため息をついた。あの莫迦弟、と内心で罵る。
 京介の一言で、夕華は予想以上に追い込まれていたようだった。ぎりぎりでとりつくろってはいても、水面下では明らかに取り乱している。

(意外だったわ。
 夕華のほうががこれほど京介にこだわってたなんて。失いかけたと思ったとたんすっかり恐慌をきたしてるじゃない)

 本を借りて、返すことを口実にこの家に来る。つぎもそうやって来れるよう口実を確保する。打算丸出しだが、あまりに稚拙で必死なため、計算高い印象はかけらもない。
 矜持もなにも考えず、そこまでなりふりかまわなくなっている友人が気の毒で、からかう気にもなれない。
 勇気をふりしぼってか、夕華はようやくのことで本題らしきものを口にした。

「あの、京介君は何をしているかな」

 なるべく平然とした声で訊いたつもりらしい夕華に、柿子は淡々と答えた。

「なにって、帰ってからずっとなにか考えてるっぽいわ。禅僧じゃあるまいし縁側に座りっぱなしで、鬱陶しいったらありゃしない。
 会いたいの?」

「も、もうちょっと話がしたいの」

「やめときなさい。まだ京介のほうは混乱してるし、いま会ったってろくな話できないわよ。
 だいたいあんたもぜんぜん冷静に戻ってないでしょう?」

 柿子は、突き放す言葉をさらりと吐いた。

「そんな―」

 夕華は思わずといった感じで悲痛な声を出しかけ、黙った。
 暗く面をうつむかせた夕華は、うなだれていても柿子より背が高い。にもかかわらず柿子の目にはその優美な長身は、いま、幼い少女の孤影にしか見えなかった。
 つねは悠然として、弱い部分をなるべく見せようとしてこなかったこの幼なじみが、京介のことでここまで余裕がなくなっている。
 それでも、柿子はあえて冷たい態度をとった。
 夕華はおそらく動揺が極まって、何か行動せずにはいられなくなり、とりあえず渋沢邸に来たというところだろう。
 明確な覚悟ができていないのは、直接京介に接触できなかったことを見ても明らかだった。
 このまま会わせても、進歩のなかった以前の六年間と同じになりそうだった。
 京介が決意するか、……夕華が単純なひとつのことをはっきりさせられないかぎり。


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