【友達≦】幼馴染み萌えスレ17章【<恋人】at EROPARO
【友達≦】幼馴染み萌えスレ17章【<恋人】 - 暇つぶし2ch379:春の夕べの夢醒めて〈2〉 ◆ncmKVWuKUI
09/04/02 09:50:07 Oet9ybQh
 「火焔は」男は夕華に言った。「焼き尽くす」

 月のない黒い夜、風なまあたたかい戌の刻。

 七年前、夕華がまだ十一歳の夏だった。

「百五十年前の猛火は、坂松の城と城下町を灰燼に帰したのだ。
 配下の軍勢に火をつけさせたのは、おまえの先祖である京口為友卿だ」

 場所は京口邸の広い庭の一角。
 古雅なつくりだが手入れがいきとどかず荒れた、回遊式の庭園である。
 荒れてはいても、満月のときであればそれなりの眺めになる。白く照らされた松柏は蒼古としてそびえ、崩れかけた築山さえおもむき幽玄となって、寂たる晩景にとけこむのだ。

 けれど今宵は新月であった。
 無明の闇のなか、ただ虫の音のみが鈴(リン)、鈴、鈴とすずしかった。

 茶室横の露地の待合いには、ほおずき提灯が軒先に吊るされて灯っていた。
 その下にある松材の腰掛けにすわって、瀟洒な着流し姿のその男はひとりごとのように語っていた。
 内容は、京口家と渋沢家の歴史ということだった。

「だが人が住みつづけようと思う地であるかぎり、町の再建はすぐにはじまる。
 大火のあと為友卿が坂松市のためおこなったのは、鴨居川の西岸の開発と、東岸の復興……
 夕華、つぎは水月に打て」

「はい、父様」


 夕華は従順、というより慎重に返答した。Tシャツにショートパンツ、スニーカーという男の子のような活発な服装だったが、このときの夕華につねの明るさはない。
 いつもと雰囲気の違う父の目を意識しながら、夕華は二間半(約4.5m)先の的にむけて一歩ふみこんだ。
 手のひらにしのばせた鉄貫を、灯に照らされた人間大のわら人形めがけて打ちはなつ。

 鉄貫とは、棒手裏剣の一種である。
 修練のため、的用のわら人形が露地に立っており、夕華は小学校にあがる前からそれに向けて打っている。
 森崎流手裏剣術は、京口子爵家のお家芸であり、夕華の腕前は祖父仕込みだった。

 金属の鈍い光が少女のてのひらから手走り、提灯の火明かりを突っ切って飛露のようにきらめく。
 流星となって飛んだ鉄貫は狙いたがわず、わら人形の水月にあたる部分に突きたった。

 ひとつ男はうなずき、「血だな。おまえは先祖のように打剣を能くする」と褒めた。

 夜気は、川の水うわぬるむほどだった昼の酷暑をひきずっている。晩とはいえ夕華の頬には汗がつたわっていた。
 にもかかわらず、声をかけられて少女は寒気を覚えた。

 やはり今夜の父はおかしかった。「困った娘だ、女の子だというのにそんなものを好んで」―父はふだんから嘆かわしげにそう言っていたはずだ。
 夕華は、手裏剣の稽古自体は好きである。
 友人たちとじゃれあっているときのほかは、何よりもこの時間が楽しいくらいだ。習わされている生け花より舞踊より、琴棋書画のいずれよりも。

 だが今、父親にはむしろ「打剣しろ(手裏剣を投げろ)」と言われているのに、夕華ははっきりと怯えていた。
 話の内容ではない。小学生には少々むずかしいところがあるが、べつだん怖いものではなかった。


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