【友達≦】幼馴染み萌えスレ17章【<恋人】at EROPARO
【友達≦】幼馴染み萌えスレ17章【<恋人】 - 暇つぶし2ch305:春の夕べの夢醒めて〈上〉 ◆ncmKVWuKUI
09/03/07 14:53:47 WqGR54LQ

「そうよ。わたしも連れだって行ってたから、演奏終わってから夕華が耳打ちされたときのこと憶えてるわ。
 『あ、やられた』とつぶやいてドナドナよろしく曳かれていったわよ」

「あは……」 

 京介は苦く笑った。
 人のことをいちいちほじくりかえして触れ回る田舎のネットワークを嫌がりつつも、それが夕華の話なら聞かずにはいられなかった自分への嘲笑である。

「あんたに保証してあげるけど、あの娘、婚約する気なんてないから。
 けど、あたしと逆で悪意ってもんを人にほとんど抱かない娘だから、適当に相手の顔を立てて談笑もして、のんきにお菓子まで食べてきてるわけ。
 いつものペースで応対してただけなんだけど、『これは脈あり』と相手に思わせちゃったのよ。あの娘の欠点といったら、まあ欠点ね。
 ところで、夕華の婚約がデマだったと知ったから、出来たての彼女とすぐ別れたの?」

「違うよ」

 いきなり最後に来た意地のわるい質問を、京介はきっぱりと否定した。
 もっとも、別れた本当の理由も褒められたものではなかったが。

「ま、そうよね。あんたいろいろ駄目な子だけど、そういう子じゃないし」

 幸いにもそこで、姉はその会話を打ち切ってくれた。
 京介はほっとする。自身で公言しているとおりナチュラルに性格の悪い姉も、さすがに奥の奥まではあえて踏み入ってこないようだ。

 川面をわたって吹き付けてくる風を切り、土手上の道にバイクを走らせる。すぐ神社には着くだろう。
 懐古の情をさそわれたのか、柿子がしんみりとつぶやいた。

「七年前かしら、みんなで最後に行った七夕祭りの日。
 早く来すぎて退屈して、神社から離れて子供みんなこのへんで遊んだわね」

 京介はちらりと川に視線を投げた。市街地の上流のこのあたりはむかしと変わらず水が澄み、岸につらなっ愛らしさがたりん。可愛らしさが」
「何それ…」
「それどころか色気もねぇし恥じらいも無い。そんなんに「先輩」とかいわれてもドキドキ…」
ここまで言ってアイツが俯いてるのに気付いた「どうした?」と聞くも「別に、何でも無い」とか言ってくる
挙句に「何か、うん、何かもうほら、あれだから。帰るわ」
とかわけのわからん事言って帰っちまった
部活の最中だってのにわけのわからねーやつだ。まったく…
後輩達に俺のすばらしき作品を見せてやるつもりだったが予定変更
カバンを引っつかんで適当に挨拶して美術室を飛び出し、アイツを追いかける
別に心配ってわけじゃない。ただ昔からアイツに何かあったら俺がどうにかする決まりなだけだ
義務ってわけじゃないがそうしないとなんかこう、落ち着かないだけだ
別に言い過ぎたことを気にしてるわけじゃない。ただ謝っとかないと後でめんどうだと思っただけだ
落ち込んだアイツは立ち直りが遅いからな。別に落ち込んだままでもいいんだが。別に

しかし何であいつ美術部に入ったんだ?いつも俺の絵見てるだけで描いたりしないのに
いや、そんな事より今は追いかけないと
ああ、めんどくさい。年下の幼馴染なんて持つべきじゃない



深夜のテンションで書いたから読み辛さとかは気にしない
別に気にして無いんだから!

306:名無しさん@ピンキー
09/03/16 03:54:54 sJ7CQF8x
あっはっは
いいじゃないか!

307:名無しさん@ピンキー
09/03/16 20:12:04 rOrFsgi/
よし!気にするな!
俺も気にしてない。

308:名無しさん@ピンキー
09/03/16 20:49:53 vKU5Tbw8
>>337
しかし年下幼なじみ設定ってまとめには少ないよな
それがちと残念

309:名無しさん@ピンキー
09/03/16 23:19:29 imcElEPb
紗枝がいるじゃないか。

310:名無しさん@ピンキー
09/03/17 02:18:51 FllAYlhC
個人的には十分神ですが
続きはまだですか!?

311:名無しさん@ピンキー
09/03/17 02:19:59 FllAYlhC
>>325あてな
いや、全部好きだけど

312:名無しさん@ピンキー
09/03/17 21:01:01 xOdpNPKI
>>338
> ただ昔からアイツに何かあったら俺がどうにかする決まりなだけだ

このフレーズ好きだ。

313:名無しさん@ピンキー
09/03/18 01:11:38 qy+YAb3z
とても仲の良い幼馴染み同士。家は同じアパートの隣同士。
学校でも家でも常に一緒。お互いの両親の仲もすこぶる良好。
ある日、親達だけで遊びに出掛け、二人で留守番してると、彼女に初潮が来て―



みたいなシチュって良いよね。

314:名無しさん@ピンキー
09/03/18 08:48:29 GZzWGcsM
夕華さん来ないかな

315:名無しさん@ピンキー
09/03/18 23:44:26 eZkB8kxd
325です。
予定ではホワイトデーにあわせて投下のつもりだったとか自分でももうね\(^o^)/
それでは続きを投下させていただきます。


「あ、にいちゃんだ」
帰り道、駅前のスーパーを出た所で声をかけられた。
「舞子。……と、凪子ちゃん」
妹とその友達だった。
「……こんにちは」
「あ、あー、うん。凪子ちゃんもひさしぶり……」
沈黙。
すげえ気まずい。
この、妹の幼馴染みの凪子ちゃんという女の子は非常に無口な性質なのである。
俺も同年代の女の子と軽口を叩ける性格ではない。
これでも昔はもう少し気安い仲だったのだが。妹とは小学校に上がるか上がらないかの頃からの仲良しだし、
その縁も合ってウチにはよく遊びにきていたし、一時はしょっちゅう泊まりに来るくらいだったから、
俺も妹が出来たみたいで楽しかったし、可愛がってもいたのだが。
……女の子は大きくなると扱いが難しいよなあ……。いや俺もうっかりデリカシーに欠ける事ばっかりやらかしたんだが。

「にいちゃん、今日晩メシなにー?」
「おまえいきなり聞くのがそれか。……んー、昨日の残りのおでんと、鯖の煮付けだな」
えー、魚ー。と不満そうな妹を軽く小突く。
「ちゃんと晩飯までに帰って来いよ。あと凪子ちゃん一人暮らしはじめたからってあんまり入り浸るなよ迷惑になるだろ」
「はーいはいはい!わかってるって!凪子、行こうっ」
妹が凪子ちゃんを引っ張ってどんどん歩いていく。
ったく、仕方がねえなあ。
妹達を見送って、家路につく。
……凪子ちゃんも夕飯に誘えばよかったかな。
最後にこっちを振り返ってぺこりと頭を下げる彼女を見ながら、そんな事を思った。

316:名無しさん@ピンキー
09/03/18 23:45:53 eZkB8kxd
夕食後、後片付けを終えて自分の部屋に戻り、机の引き出しをあける。
俺の目の前には爆弾がある。
最も爆弾の中身はもうない。迷ったが喰ってしまったからだ。
なので、あるのは包み紙だけなのだが、爆弾としての威力はまだまだ充分持っている。
……ような気がする。
一ヶ月前のバレンタインに、妹の友人の女の子……、凪子ちゃんから渡されたものだ。

―女の子が、泣きそうな顔で『捨ててください』ってバレンタインに渡してくるってどういう意味なんだろう。
普通の義理チョコってわけでも無さそうだし、本命というのはもっと考えられない。
今まで義理でも貰った事なんか無かったし、凪子ちゃんにしてみりゃ俺なんか兄貴みたいなもん……、
っていうか、昔「お母さんみたい」ってはっきり言われた事あったしなそういや。
……そもそも、自分が女にもてるタイプではない事は悲しいが自覚している。
顔は丸顔だし、たまに中学生に間違えられる。童顔なのは確かだが、別に美少年というわけではない。
眼は細いし、鼻は少々上向き加減だ。背も高くないどころか平均に届かないし、体つきも逞しいわけではない。
かといって芸能人やモデルのようにスラリと細身というわけでもない。
特別運動が出来るわけでも無いし、成績だってさほど良くは無い。
何か変わった特技があるわけでも、性格が人格者というわけでもない。
俺を一言で表すならば『地味』の一語につきるだろう。

凪子ちゃんはかわいい。
一見、愛想なしでとっつきにくそうに見えるが優しい子だし、妹によると学校の成績もいいらしい。
俺の前だと滅多に笑わなくなっちゃったが、たまに笑顔になると本当に可愛いのも知っている。
そんな子が俺に特別好意を抱くわけが無い。
一応、お互いチビの頃からの顔見知りではあるが、凪子ちゃんにしてみりゃ俺は只の親友の兄貴なわけだし。
しかもここ数年は思いっきり避けられてるし。
詰まるところが俺の自意識過剰。きっと本当にただの義理以下チョコ。

317:名無しさん@ピンキー
09/03/18 23:46:53 eZkB8kxd
捨てるよりは俺のほうがマシだと思ってくれたという事なのだろう。
そういう事で、こっちも軽い気持ちでお返しすればいいだけの話なのだが。
「……あーっ、もう。どうしたもんかなー……」
問題は。
俺がチョコ一個で1ヵ月以上も動揺し、無理な深読みをしたくなるくらいには凪子ちゃんの事が好きだということだ。
「……我ながら、情けないっていうかキモいっていうか……」
『女々しいという言葉は男のために作られた言葉だ』っていうのは本当だなあ。
しかも材料だけは買ってるあたり自分でも本当に煮え切らなくて嫌だなあと思う。
「……うううう」
ごろごろごろ。
しばし床の上で転がる。
「あああ、くそっ!とにかくやるしかないか!」
どういう形にせよ、バレンタインにもらっておいてお返し無しというわけにも行かないだろう。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

3月14日。今日も今日とて伊庭家の朝が来る。
午前6時30分
起床。向かいの妹の部屋からも目覚まし時計が鳴り響くのを聞く。
午前6時45分。
身支度完了。ヒゲを剃る時に少しアゴを切ったので絆創膏を貼る。
午前6時50分。
朝食の支度をしつつ、2階の妹の部屋から目覚まし時計の音が止まったのを確認。
焼きあがった玉子焼きが落ち着く時間を使い、妹の部屋の前から扉越しに声をかける。
「舞ちゃん!7時10分前!」
扉の向こうからうおおともうごおとも付かない地を這うような呻き声がきこえる。
午前7時00分。炊飯器のごはんが炊き上がる。
階段の下から大声で妹を呼ぶ。
「舞子ー!7時になったぞー!」

318:名無しさん@ピンキー
09/03/18 23:47:58 eZkB8kxd
午前7時10分。味噌汁にネギを加える。味は上々。
妹の部屋の扉をガンガンとノックする。
「舞!起きろ!」
午前7時15分。
母の仏前に炊きたてのごはんを供え、手を合わせる。
そのまま軽く仏壇の掃除。
午前7時25分。
「さっさと起きろやああああああ!!!」
妹の部屋に乱入。カーテンと窓を全開放。ベッドの上の蓑虫を、布団の端を持って床に振り落とす。
「さぶ、寒っ!?なにここどこ?私はさっきまで南の島に」
「寝惚けんなあー!」
思いっきり頭をはたいてやるとそれで覚醒したらしい。
「おわー!?なになんで1時間も時間進んでんの!?タイムスリップ!?私ってば時をかける少jyおべぶ」
「……呑ッ気に現実逃避してる場合かあっ!さっさと支度しろメシできてんぞ!」
「ちょ、何もアタマ踏む事無いじゃんバカお兄いっ!!あんまり叩くとバカになるんだぞっ!?」
「どう考えても手遅れだろこのバカ愚妹。早くしろ、かーちゃんにちゃんと手は合わせろよ」
そう言い捨てて部屋を出る。
背後から悲鳴が聞こえたがもう知らん。
自分の分の朝食を食べ終わり、食器を洗う。
食べてる間にちゃんと鈴の音が聞こえたから、一応かーちゃんに朝の挨拶だけはしたらしい。
うん、舞はバカタレだがこういう所は偉いな。
「うわああああん兄ちゃあああああん、アタマやってええええええ!!」
……前言撤回。
「一人で身支度できねえような髪ならもう切っちまえよ坊主にでもしろ」
「できるよ!ちゃんとできるけど、今日はそれしてたら顔が間に合わないんだよう!」
「スッピンで行け!スッピンで!スッピンかおどろ髪かどっちかで行け!」
「無茶いうなあ!それ女の子にとってはパンツ一丁で外歩けってのと同じ意味なんだぞう!」
あーもう面倒くさい!
「あっ、なんでお団子にするのさ。今日はゴージャスめな巻き髪の気分なのに」
「毟るぞ」
「ごめんなさい」

319:名無しさん@ピンキー
09/03/18 23:48:49 eZkB8kxd
サクサクとお団子に結い上げてやり、飾りの付いたヘアゴムを付けてやる。
「おー……、やっぱ兄ちゃん上手いなあ」
「煽てても何も出ないぞ、それよりとっととメシ喰え」
慌てて朝食をがっつきだす。
ああそうだ、コイツに頼みたい事を忘れる所だった。
「舞子、お使い頼む」
「ん? お使い?」
「これ、凪ちゃんに渡してくれるか」
包みをみるなりニヤリと笑みを見せるバカ愚妹。
「……ほほう?ほーほーおーう? 凪子に? 兄ちゃんから? ふふーん?」
そのニヤケ面やめろ。
「この可愛く美しく賢い妹さまならー? ヘタレ兄のお願い聞いて渡してあげてもいいけどー? それには条件がありましてよ?」
「オマエもう本当調子に乗るな?」
「痛たた痛い、いだだだだだだ。ちょ、お兄様やめてマジやめてウメボシやめていたいいたい」
額を押さえてぶーぶー文句を言ってくる舞子。……仕方が無いな。
「なあ舞ちゃん、ちゃんと兄ちゃんの言う事聞いてお使いできたらな? 今日の晩飯はコロッケとメンチカツにしてあげよう」
「引き受けました兄上様。全てこの妹にお任せくださいませ」
コロッケコロッケー♪ と嬉しそうに歌いだす。
……我が妹ながら安上がりな女だよなあ……。兄ちゃんちょっと心配になったんだが。
あ、そうだ。
「そういや舞子、お前はお返しとかしなくていいのか?バレンタインに結構な量もらってただろう」
そうなのだ。
この妹はもてる。通っている学校が女子高なせいか非常にもてるらしい。同性に。
「ああ、うん。チョコくれた子には今日ほっぺにちゅーしてあげるの」
……女子高って……。
「それだけでみんな喜ぶのよ。フフフ、私の美しさってば罪ね!」
まあなんというか。
この妹は、こういう脳の湧いた発言をしてしまうくらいには美人なのである。
俗に男は女親に、女は男親に似るというが、ウチの兄妹の場合はまさにそれ。
親父は男の俺から見ても男前だし背も高い。会社の女の人にとてもモテるらしい。
俺たちの母親は7年前に死んだのだが、記憶の中でも、写真をみても、とてもではないが美人といえる顔立ちではない。
……というか、俺、だんだん母ちゃんそっくりになってきてるんだ……。
まあそれはともかく。
「舞、言っとくけど凪子ちゃんに余計な事言うなよ」
放っておいたら何を付け足して喋るかわかったもんじゃない。
「余計って何をさ? ……っていうか、これ包みだけ? なんか無いの兄貴の思いのたけを綴ったラブレターとか」
「アホ、バレンタインにもらったからそのお返しだ。凪子ちゃんのだってただの義理チョコだよ」
「……義理? 凪子が? にいちゃんに? ……まあいいけど」
「なに口の中でボソボソ言ってんだ舞」
「なーんでもないよー」
……引っかかる態度だなあ。まあ、ちゃんと渡してくれるんなら文句は無いんだが……。

320:名無しさん@ピンキー
09/03/18 23:50:14 eZkB8kxd
そしてまだ終わらない\(^o^)/
すいません、もうしばらく続きます。
今回はここまで。

321:名無しさん@ピンキー
09/03/19 00:00:45 H/rgrHsE
うおお続きが気になるぜぇーーー!!

君が!完結させるまでっ!
全裸待機をやめないッ!!

322:名無しさん@ピンキー
09/03/19 01:05:24 GGLjKErY
乙です
テンションあがってきた!

楽しみに待っておりますが、無理はなさらずに。

323:名無しさん@ピンキー
09/03/19 03:17:02 /nByDSjI
舞子の方に萌えてしまった俺は幼馴染萌え失格ですか
しかしこれは期待せざるを得ない

>>345
幼馴染物の醍醐味だよな。慣習化した二人の決まり
弁当とか起こすとか部屋で人間座椅子とか!!

幼馴染ってどこで幾らで買えるんですか…臓器売れば買えますか…orz

324:名無しさん@ピンキー
09/03/19 19:10:39 FW/rn1kI
>>356
臓器となったあなたは幼馴染の命の一部となって今も生きている(完)
ですね、わかります。

325:名無しさん@ピンキー
09/03/20 23:32:30 M+kocHt2
もう我慢ならん!幼稚園年中から一緒の幼馴染み(女)に告白してやる!大学まで一緒ってバカにしてんのか!……ま、そんな勇気があればもっと前にしてるんすけどねorz

326:名無しさん@ピンキー
09/03/20 23:42:58 yfw8Xj+O
そうですかがんばってくださいね

327:名無しさん@ピンキー
09/03/21 00:51:35 nBXd71Os
>>358
今しろ 直ぐしろ とっととしろ
たとえ駄目だったとしても、うじうじ悩んで過ごすよりいいじゃナイカ

328:名無しさん@ピンキー
09/03/21 01:33:48 uuobPTSN
360が良いこといった 解決終了 

>353
凪子ちゃんの性格がまだつかめないところが余計にwktk
早く本格的に出てきてほしい・・・

329:名無しさん@ピンキー
09/03/21 14:04:55 xRxtVpEU
最近幼馴染みSS読んでると青春もクソもなかった学生時代思い出して泣きそうになる。スゴい空しい

330:名無しさん@ピンキー
09/03/21 19:22:03 PmX5tPOZ
小学生の頃仲の良かった(そして好きだった)幼馴染みが知らん間に結婚してた。
出来婚とかwww



みたいな俺の様にならぬよう、リアルで幼馴染みが好きな奴は早めに告っとけ。マジで。

331:名無しさん@ピンキー
09/03/21 20:15:34 Y04PE2uA
リアルの話はvipなり他スレでどうぞ。そこでいくらでも聞いてあげます。

332:名無しさん@ピンキー
09/03/21 20:29:32 Y04PE2uA
>>345
『捨ててください』と言っていた
凪子ちゃんの受け取る時の反応が楽しみです。GJ!

333:名無しさん@ピンキー
09/03/21 23:41:52 iQ/sK6Uh
昔書いた幼馴染みモノっぽいプロットを発見したので。軽く前振り投下

小学生の頃一緒に道場に通っていた年下の女の子。
真剣な表情で武術の鍛錬をする少女。
同世代の練習生を容赦なく叩きのめす姿は優雅だった。
彼女は強かった。なんの迷いもなく、一切の躊躇を捨てた攻撃。
僕はそれを美しいと感じた。
他の子では相手にならないということで道場主の甥とである俺が組み手の相手をさせられた。
勝てなかった。僕のちっぽけな自尊心は簡単に踏み潰された。
倒れる間際に垣間見たガラスの様な瞳。その瞳は何も見ていないようだった。
数週が過ぎ僕は何とか彼女と対等に戦える程度には成長した。
僕の拳が初めて彼女を捕らえた。
その瞬間、彼女はかすかに   笑った。
…用に僕には見えた。僕は恋に落ちた。
それから稽古が終わった後に彼女と遊んだり話したりするようになった。
遠距離にすむ彼女とは毎日は会えない。
だから会える日は精一杯楽しんだ。
外での彼女は明るかった。年相応に明るく、ちょっとがさつで口が悪い。
割と世間知らずで駄菓子屋で大はしゃぎする、そんな普通の女の子。
このときの僕は彼女にその「一面」しか見せてもらえなかったんだなと、気づけなかった。

334:325
09/03/22 00:28:36 1ezu8eRA
武道少女はよいものです。
昔は少女のほうが強かったのに成長期に入って少年に追い抜かれて焦ったり、
悔しさに涙したり、凛々しい彼女の脆い一面を見て少年は動揺したりと……。
とにかく良いものです……。激しく期待しております。


とりあえず、続きです。凪子視点の話になります。
少しですが投下させていただきます。

335:325
09/03/22 00:29:30 1ezu8eRA
またちゃんとできなかった。
学校帰り、舞子と歩いていたらユウさんにばったり会った。
手にエコバッグを下げていたから、近くのスーパーでお買い物をした帰りなのだろう。
先月からずっと気まずかったから、ちゃんと挨拶したかったのに。
声が引っくり返ったりしないかとか、上手く笑顔になる事が出来なくて焦ったりとか、
日暮れ前の時間の挨拶はこんにちはで良いのか、こんばんはにするべきだろうかとか、
なにか気の聞いた世間話の話題は何かないのかとか、そもそも先月の事を問いただされたらどうしようとか。
そんな事が頭の中をぐるぐる駆け回ってるうちに、酷く愛想の無い声と表情しか出てこなくなってしまう。
私はいつもこんなのばっかりだ。
自分でも本当に嫌になってしまう。
いくらユウさんが苦手だからって、こんな風にならなくてもいいのに。

私はユウさんが苦手だ。
世話焼きな所も、家事が万能な所も、私を舞ちゃんと同じように扱う所も全部苦手だ。
―先月バレンタインにチョコを持っていったときも、私が作ったものより遥かに美味しい
チョコクッキーを逆にご馳走になってしまった。
本人はクラスメートに馬鹿な事をいうヤツがいて困るんだって言ってたけど、頼られる事そのものは嬉しそうだった。
そういう所も、私は苦手だ。
私が作ったチョコなんて、ユウさんのクッキーに比べたら酷いものだったし、渡さずに捨てようと思ったのに。
……送ってもらう事になった帰り道で、つい渡してしまった。
あんまり自分がみっともなくて恥ずかしくて、つい「食べずに捨ててください!」なんて言ってしまったし。
……そんなゴミを渡すみたいな言われ方したら、怒って当然だと思うのに。実際、私のチョコなんてゴミみたいなものだったし。
びっくりしてたみたいだけど、それでも『ありがとう』なんて言ってそんな物を受け取ってしまう、そんなお人よしな所も私は苦手だ。
…………本当に、苦手なんだ。


336:325
09/03/22 00:30:27 1ezu8eRA
「―じゃーねー、なぎこー。また明日ー」
うん。と肯いて舞子と別れて部屋に戻る。
駅前から少し歩いた所にある、よくある一人暮らし向けの賃貸マンション。
そこが、半年ほど前からの私の帰る場所だ。
制服のセーラー服を脱いで部屋着に着替える。
まずはお風呂を洗って、夕飯の支度をしなくてはいけない。
父が仕事の為、義母を伴って海外に行く事になった為、はじめた一人暮らしだったが未だに慣れない。
「……いたた」
冷蔵庫を開けたところでくらりと軽い目眩を覚える。
そういえば、夕方から少し頭痛がしていた。
今日の小テストの勉強のため、昨日少し夜更かししたのがいけなかったのだろうか。
私は元々頭痛もちなのだが、今日はいつもよりも酷い気がする。
「……きもちわるい……」
食欲などどこかに行ってしまった。いつも飲んでいる痛み止めと胃薬だけを飲んでソファーに横になる。
少し寒いが、まだ入浴していない身体でベッドに潜り込む気分にはなれなかった。
頭痛は嫌いだ。
痛みそのものもだが、こんなふうに痛み止めを飲んで横になると昔の嫌な夢をいつも見る。


ママが家を出て行ったときのこと。
親戚や周りの大人のヒソヒソ話。
冷たい眼。
『あの女にそっくりだ』
『この子もロクなもんにならん』
『見てみろこの生意気そうな顔』
『綺麗な顔だが人形みたいに陰気だな』

ぜったいにみんな見返してやる。見ていろ絶対にゆるさない。絶対にだ。


337:325
09/03/22 00:31:23 1ezu8eRA

「―――ッ!」
自分の悲鳴で目が覚めた。
寒い。
酷い寒気がする。震えが止まらない。
……風邪、だろうか。
体温計は……、ああ、そんなもの無かった。
時計を見ると朝の7時だった。あのままソファーで眠り込んでしまったらしい。
寒気に震えながら寝室のベッドに潜り込む。
携帯電話でどうにか学校に休む事だけを連絡する。
……寒い。寒い。
なにか胃に物をいれて薬を飲んで眠る。
風邪を引いた時にはそれが一番だとわかっているけれど、とてもじゃないけど出来そうに無い。
凄く眠いけど眠りたくない、またあんな夢をみるのは嫌、嫌だ……。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

夢を見る。
―ああ、ママがいなくなってすぐの頃だ。
一人で泣いている小さな私が見える。
頬を赤くして、声も出せずにしゃくりあげている小さな私。
―イライラする。泣いたってどうにもならないのに。
自分でどうにかするしかないのよ、そうするしかないの。
そう怒鳴ってやりたくなる。昔の私に聞こえるはずなんて無いのに。
泣き続ける小さな私の隣に座っているうちに、私まで子供のように泣きたくなってくる。
―もう泣かないって決めたのに、誰にも頼らない私でいたいのに。
気がつけば、夢の中の小さな私と同じようにうずくまって泣いていた。
ふ。と影が差す。
「……えっと、凪子ちゃん? どうしたんだこんなとこで」
隣にいた小さな私がくしゃくしゃの泣き顔になってしがみつきに行く。
―ちいさなわたしにとっての、誰より頼りになる割烹着姿のヒーローがそこにいた。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


338:325
09/03/22 00:33:24 1ezu8eRA

……携帯電話の電子音で眼が覚める。
部屋の中はもうすでに薄暗い。いつのまにか、夢現のまま1日がすぎていたらしい。
まだ覚醒しきれない頭で誰からなのかも確認せずに電話を取った。
『―あ、凪子ちゃん? 伊庭です、舞子の兄の。祐助です。舞から凪子ちゃん風邪だから差し入れ持って行けって言われて。
 ごめん、自分でも非常識だと思うんだけど、いま凪子ちゃんの部屋の前にいるんだ』
夢の中の声よりも低いけど、変わらない優しい声。
ユウさんの言葉をきちんと頭の中で咀嚼する前に。勝手に身体が動いていた。
『―果物とかヨーグルトとかレトルトのおかゆとか色々持ってきたから。ドアノブにかけておくから後で―って」
玄関ドアを開けると、びっくりした顔のユウさんがそこにいた。
やっぱり私はユウさんの事が苦手だ。
頼りたくないのに、誰にも甘えない女でいたいのに。
どうしていつもこの人はこんなに私を甘やかすタイミングで登場するんだろう。
そのままの勢いでユウさんにしがみつく。
珍しく、ものすごく焦った顔をするのを見て、ざまあみろ。と思った。



339:325
09/03/22 00:38:01 1ezu8eRA
今回のお話は以上です。


ようやくでてきた幼馴染みについて。

津田 凪子(つだ・なぎこ)
色々ギリギリイライラタイトロープ少女。
好きな食べ物はハッピーターンの粉。

340:名無しさん@ピンキー
09/03/22 00:39:52 MkOeu9Dt
リアルタイムGJ
凪子ちゃん可愛いよ
次回作wktkして待ってます

341:名無しさん@ピンキー
09/03/22 00:57:18 WFACFFzt
ktkr
超GJGJGJ
次回が楽しみで仕方ない

342:名無しさん@ピンキー
09/03/22 01:29:29 H8jOVv+A
素敵でござる

343:名無しさん@ピンキー
09/03/22 01:43:19 9AWox83x
>>372
好きな食べ物が、あの娘と同じだ
ひさびさに電話してみるかな

344:名無しさん@ピンキー
09/03/22 15:45:11 M21EpB9w
ええええ
ここまでなの?!

345:名無しさん@ピンキー
09/03/22 23:06:45 X5fUkDiz
>>325さん
GJです
>>366さん
期待してます

346:名無しさん@ピンキー
09/03/23 01:13:21 fuMzeqAF
夕華さんはまだかなー。

347:名無しさん@ピンキー
09/03/23 18:55:05 8xhBz4r/
>>379
ボルボックス氏は時間を掛けてフルコースをダーンと出すタイプだから次回は次スレとかザラ。
ゆっくりと待つのが吉。

348:名無しさん@ピンキー
09/03/24 00:20:53 6/zzLfa1
朝、登校中に走ってる幼馴染みとぶつかると言う黄金パターンに遭遇した事があるのが俺の自慢。


ただ俺は歩きで幼馴染みは自転車通学だったがな

349:名無しさん@ピンキー
09/03/24 03:07:20 oAUkeQff
春休みにはリアルを語るガキが増える…

ま、荒れるのもあれだしスルーで。

350:名無しさん@ピンキー
09/03/24 03:27:44 XvUIAmXQ
登校中にぶつかるのは転校生だろ。

351:名無しさん@ピンキー
09/03/24 10:20:53 UT7qLX3+
>>383
だな
で、教室で紹介されて「「さっきの!!」」てな感じで


352:名無しさん@ピンキー
09/03/24 10:28:14 aM0HuXxU
男「ぶつかり様に秘孔を突いた。お前の命も後三秒……」
転「ほぅ、ならば数えてやろう。ひとーつ、ふたーて、みぃーっつ!!」


353:名無しさん@ピンキー
09/03/24 10:56:13 dakmbzQS
補修

354:名無しさん@ピンキー
09/03/24 21:02:43 ITSLyKEt
>>385
媚びてくれないのかぁw


355:名無しさん@ピンキー
09/03/24 21:10:22 P318V3N8
幼馴染みとぶつかると言えば、入れ替わりフラグだろjk

356:名無しさん@ピンキー
09/03/24 21:33:15 aM0HuXxU
 幼馴染みと中身が入れ代わったけど、何故か感覚は共有。
 主人公が興奮しながらオナニーしてたら、幼馴染みが顔を真っ赤にして部屋に飛び込んで来る。

 そんで最後には、
幼「あの……私に男のオナニー教えて欲しいんだけど」
男「手で擦るんだよ」

幼「こう? 全然きもちよくならないよ?」
男「そうじゃなくて。貸してよ、一度やったげるから」

幼「ふああぁぁぁぁっ!!?」
男「ちょっと、ボクの身体で変な声を出さないでよー」
 と言いつつも、感覚を共有してるので男も気持ち良くなってくる。
 みたいなのも読んでみたいな。

357:名無しさん@ピンキー
09/03/24 22:01:28 jcWKz1M2
>>385
そんなノリのいい奴がいたら、即座に親友だぜw

で、だんだんすきになるんだけど親友のいちが居心地よすぎて勇気が出なくて、
でもやっぱり気持ちは抑え切れなくて・・・

358:名無しさん@ピンキー
09/03/24 22:18:28 aM0HuXxU
転「こんなに苦しいのならば、愛などいらぬっ!!」

359:名無しさん@ピンキー
09/03/24 22:58:30 b1QpxiLN
>390-391

流れが滑らかすぎて吹いたぞw


360:『お涙ちょーうだい』
09/03/26 17:03:09 TkMSPJWa
1
 あるところに幼馴染みの若い男女がおりました。
 男は何をやらせても完璧で、容姿も誰もが羨む格好です。
 女は何をやらせても不器用で、容姿だって人並みです。
 二人は気持ちこそ伝えていませんが、互いに愛し合っていました。

 そんなある日の夜。女は窓を開けて月を見上げ、「私がもっと可愛かったら、男と釣り合うのに……」と呟きました。
 するとどうでしょう。女が翌日に目を覚まして鏡を見ると、猫っ毛だった髪はサラサラのストレートに、一重だった瞳はパッチリ二重に変わっていました。その顔は間違いなく美しいのです。
 女は嬉しくなり、男に変わった顔を店に行きました。
 男は女の喜ぶ姿を見て、「良かったね」と笑いました。
 ですがその時、男の髪から艶は失われ、メラニン色素が抜けて色褪せていたのです。

 それから数日後、女は月を見上げて、「私の胸が大きかったら、男君にもっと見て貰えるのに……」と呟きました。
 するとまたしても、翌日に女の身体が変化していました。
 申しわけ程度だったAカップはEカップの巨乳に、くびれの少ないウエストは余分を無くして引き締まっていたのです。
 女はすぐに男へ見せに行きました。男は「良かったね」と微笑みました。
 ですがこの時、男の視力は極端に低下し、眼鏡やコンタクトを付けねば物を見る事ができない程になっていました。
 ですから女のセクシーな身体も、男には見えていなかったのです。

 更にそれから数日すると、女は街でスカウトされて、人気アイドルになりました。
 写真集は売れ、テレビ番組にも引っ張りだこです。あまりの急がしさに、男への想いも僅かに薄れて行きました。
 ついにはCDデビューする事も決まったのですが、ここで致命的な事が起こります。
 女は歌が下手でした。プロデューサーから何度も駄目だしを喰らい、次にスタジオインする時まで音痴のままなら、CDデビューは白紙に戻すと言われました。
 女はショックを受け、久し振りに男と会いたくなって、男へ会いに行きました。
 ですが男は会う事を拒み、電話越しに「大丈夫だよ」と励ましました。
 すると翌日には、女の歌は見違える様に上達し、CDもミリオンヒットを記録するのでした。
 女が男へと電話で感謝を伝えると、「良かったね」と明るい声が返って来ました。
 ですが低く凛々しかった声は枯れ、ガラガラの醜い音でした。


361:小ネタ『お涙ちょーだい』 ◆uC4PiS7dQ6
09/03/26 17:04:17 TkMSPJWa
2
 この時期になると、流石に女も気付きます。男は、女の願いを叶える力を持っていると。
 女はそれに気付くと、つまづく度に男へと連絡し、その度に乗り越えて行きました。

 しかし数年もすると、男に会いたいと言う思いが日に日に強くなり、ついに我慢できなくなって引退してしまいました。
 そして女は男に会おうとしたのですが、男は「こんな姿では会えない」と断ります。
 それでも女は会いたいと言います。女にはもう男しか居ないからです。抑え切れなくなり、「ずっと前から好き」と告白してしまいました。
 
 男は「何もできなくなった」と言います。
 女は「それでも好きだ」と言います。
 
 男は「格好悪くなった」と言います。
 女は「それでも好きだ」と言います。

 結局男が折れて、会う事を承諾します。
 数日後、女は男にきちんと告白しようと決めて、男の家に行きました。
 男の家の玄関に鍵は掛かっていません。女は不思議に思いながらも、男の部屋へ微かな記憶を辿って向かいます。
 そしてドアを開け、男の姿を見ると、女は驚いてしまいます。
 男は最後に会った日から、別人のように変わっていたからです。

 ベッドの上に仰向けで横たわり、髪の色素は完璧に抜けて白く透明に、
 右目の視力は失われて閉じられ、残った左目も僅かに細く開かれているだけです。
 呼吸も遅く小さく、身体は痩せこけて骨張っています。

 男は、自分を犠牲にする事で願いを叶える事ができるのでした。
 女は全てを悟り、泣きながら男に抱き着きます。何度も謝り、何度も「好きだ」と伝えました。

 しかし、男は限界でした。女の「会いたい」と言う願いを叶える為に、入院していた病院から退院して来たのです。
 医師も手の施しようが無かったので、死期を早める事になると分かっていても、男の意志を尊重して退院を許可しました。

 女は「男と一緒になりたい」と言います。
 男は「明日には死ぬから無理だ」と言います。

 女は「私も一緒に死ぬ」と言います。
 男は「生きて幸せになれ」と言います。

 男は女の幸せの為に身を削って来たので、女には人生を全うして欲しかったのです。
 こんな男一人の為に、残りの長い人生を捨てて欲しく無かったのです。

 ですが、女は「それなら……」と、「男との子供が欲しい」と言いました。
 男は勿論ことわりましたが、女に「お願い」と言われて、叶える事にしました。
 この願いを叶えた瞬間、自分は死んでしまうと感じ取れます。


362:小ネタ『お涙ちょーだい』 ◆uC4PiS7dQ6
09/03/26 17:05:29 TkMSPJWa
3
 女の顔は美しく、女の身体は官能的でした。
 処女でしたが、必死に男の上へ跨がり、挿入して、腰を振りました。
 そして男の精が中へと注がれた瞬間、女は気絶して男の上に倒れてしまいました。

 翌日、女が目を覚ますと、男の姿は有りませんでした。
 それどころか、男の私物さえ有りません。部屋にはベッドだけでした。

 不安になり女は、学生の頃の知り合いに男の事を聞いて回ります。
 ですがみんな、「そんな男は知らない」と言います。
 女は気付きました。この世界から、男の存在そのものが消えていたのです。
 男が存在するのは、女の思い出と、日々重さを増してゆくお腹の中。

 女は静かな田舎に庭付きの一軒家を買い、そこで、産んだ三つ子を一人で育てる事に決めました。
 沢山の男からプロポーズされても全て断り、大変でも子供達の世話を一人で行います。
 そして子供達に、男の事を自慢気に語って聞かせるのでした。
 やがて子供も大きくなって子供を産み、家から出て行きます。
 たまにやって来る孫達へ会うのを楽しみに、男の自慢話しするのを楽しみに、静かに一人で暮らします。

 そして数十年後。女にも寿命が来ました。
 暖かな春の夜、庭には桜の木が綺麗に咲いています。
 女は座敷で布団に横たわり、三人の子供と、十人の孫と、二十人の曾孫に囲まれて、天命を終わらせようとしていたのでした。
 家族みんなに好かれ、みんな涙を流して泣いています。明日までもたないとみんな分かっているのです。

 女も自らの最後を感じ、最後に全員の顔を見ようと視線を周りに向けました。
 そして、開かれた障子の奥、桜の木の前を見た時、ビクリと身体は固まってしまいます。
 心臓は高鳴って熱を持ち、無意識に声を絞り出させるのです。
 庭に居たのは男でした。若い昔の姿で、微笑みながら女へと近付きます。

 女の家族達は突然現れた男に驚いて動けません。
 ただ一人、小さな男の子だけは男の前に立ちはだかり、「連れて行くな」と睨みます。
 しかし、その男の子の頭に手が置かれ、「ゴメンね」と声が掛けられました。
 男以外、みんな驚いています。
 なぜなら、歳老い死ぬのを待つばかりだった女が、立ち上がって手を置いたからです。
 女はそのまま男へと歩んで行きます。家族達は「行かないで」と叫ぶのですが、女は「ゴメンね」と言いながら歩みを止めません。
 一歩進む度に若返り、男と触れる距離まで近付いた頃には、最初の願いを叶えて貰う前、学生の時まで身体が戻っていました。

 男は「今なら、幸せに死ねるよ?」と女に言います。
 女は「一緒になりたいって願いを叶えてくれるんでしょ?」と言います。
 そして女は家族の方を向くと、「この人が私の好きな男の人なの」と頭を下げました。
 死ぬ直前まで他に男を作らなかった、操を貫き通した、それまでに愛した男。女は家族より男を選んだのです。

 家族はみんな止めましたが、なぜか追い付く事ができず、男と女は桜が舞い散る夜の闇に消えて行きました。
 そして次の日には、男と同様に、女の存在もこの世から消えていたのでした。

 男の事も、女の事も、この世で覚えている人は誰もいません。
 唯一お互いだけが、お互いを知るのです。




 おわり


363:名無しさん@ピンキー
09/03/26 17:07:25 TkMSPJWa
2時間ドラマにありそうな、
狙った、お涙頂戴ドラマの脚本みたいな感じで書いてみました。

364:名無しさん@ピンキー
09/03/27 00:55:32 TZIa/xB/
イイハナシダナー

365:名無しさん@ピンキー
09/03/27 20:36:14 5/UAqMkr
ぬーべーでこういう話あったよね

366:名無しさん@ピンキー
09/03/28 00:14:00 2T0v1xp6
>>398
途中までは俺もそう思った

367:名無しさん@ピンキー
09/03/28 00:37:57 6PhWC6Fm
年下の幼馴染みって良いよね。

368:恋愛相談
09/03/28 22:07:33 skLK7a+y
超鈍い男を好きになった控えめ幼馴染みの話、エロに発展できるかはまだわからないけど投下するよー






近所、というか裏隣に住む結希(ゆうき)が家にきた。なんでも相談したいことがあるらしい。
いったい何の相談なんだろうか?
「お邪魔します……へー、部屋片付けたんだね」
結希は部屋に入るなり失礼なことを言ってきた
「前は課題が机に乗ってたから片付いてないように見えたんだろうが。あの量は異常だっつーの」
長期休暇に出されたプリント合計4kgだ。不評だったのは言うまでもない
「あははは……ごー君真面目にやればすぐ終わらせれるのにね」
まぁ真面目に勉強すればそれなりの成績を取れるが、面倒じゃん?
「買い被りすぎだ。……で、今日は何の相談だ?前みたいにゴキブリ対策ってどうしたらいい?とか微妙な内容だったら怒るぞ?」
そーゆー相談が昨年夏にあったのだ。
「えっとね……その……す、好きな人ができたの!」
「ほー、それはよk…………」
突然の宣告で俺はどんな顔をすればいいのか分からなくなってしまった。
だって、色恋とは無縁といわれる俺が好きな相手は目の前に居る結希なのだから
「ち、ちょっと待て?ひひひっひふーと深呼吸して落ち着こうか!?」
「それじゃあ息苦しくなってかえって落ち着けないよ。ていうか真面目な相談だよ?」
結希は若干しょぼくれてしまった。俺はなんとか気を取り直して色々聞くことにした
「で、誰を好きになったんだ?」
「んー……内緒。でもごー君に似てるかも?」
なんて微妙な奴をっ……でも我慢我慢。
「なんで好きになったんだ?」
「えっとねー……結構昔からの知り合いなんだけど、いつのまにか好きになってたんだー」
あれ、結希の知り合いでそんな野郎居たっけ?まぁいいか。
「で、なんで俺なんかに相談することにしたんだ?」
「だってほら、私気が弱いじゃない。」
あぁ、つまりその野郎に似てる俺は練習台なわけか……くそっ
「大丈夫?なんだか顔色よくないけど……」
「いきなりの事で顔面筋が硬直しただけだ」
……平常心平常心、落ち着くんだ轟(ごう)、多分これはまだジャブだ
「で、何が聞きたいんだ?」
「んとね……今から質問するからなるべく全部答えてね?じゃあ001問」
「待て、1はまだしもなんで0が二つ前置きなんだ?」
「傾向練るために200問程質問表作っちゃったから?」
結希が好きになった男、貴様は一回殺す。重いじゃないか!
「じゃあ、始めるねぇ……」
俺が質問攻めの業苦から解放されたのは、それから二時間後のことだった

369:恋愛相談2
09/03/28 22:21:48 skLK7a+y
私は部屋に戻るとベッドに倒れこんだ
「ごー君、いくらなんでも鈍すぎだよー。そりゃ私がいつまでも言わないのがわるいんだけどさぁ……」
裏隣に住む轟君とは家族がここに引っ越してきてからかれこれ10年以上の付き合いだ。
轟君は誰とでも仲良くなれる人だったから私ともすぐに仲良くなった。
彼を友人として、ではなく好きな人として見るようになってから5年は経つ。
その間私は遠回しではあるが好意を告げてきていたのだが、
周囲が全員それに気付いているのに轟君は今だに気付かない。恐ろしい程に鈍い。
まぁ、それにはいくつか理由があるから仕方ないんだけど。
まず色恋話に興味を持たない、次に顔があまりいいとは言えない。最後にいい人過ぎる。
鈍くて当然な条件下で育ってきたからまぁ仕方ないけど、まさかここまでてこずるとは……

「まぁ、今度こそ……」
今日は私が誰かを好きになった。そう宣言できた。後は猛アタックするだけだ。
まぁ勇気が無いからそんなにあからさまな真似はできないわけだが……

とりあえず練習と称して明日から轟君にお弁当を作ることにしよう……
私はそう決意し、先程書き記した質問表からお弁当の献立を組み立てることにしたのだった…………





今回はここまでー
エロくなくてゴメン(´・ω・`)

370:名無しさん@ピンキー
09/03/28 22:35:10 JwLqv968
続きまってゆ!!


371:名無しさん@ピンキー
09/03/29 00:53:54 Un+KoJKf
すれ違わないように祈って
続き待ってまゆ!!

372:名無しさん@ピンキー
09/03/30 22:57:09 veFhyzqZ
支援ンンン

373:名無しさん@ピンキー
09/04/01 08:02:27 URhJNOGz
幼馴染みというのは何歳差くらいまでが許容範囲なのだろうか……?

374:名無しさん@ピンキー
09/04/01 08:46:08 zaPwZqTs
>>406
人の数だけ答えがあります。


俺的には5、6才までかなぁ

375:名無しさん@ピンキー
09/04/01 09:47:29 pJigPGnZ
オレ的には2才差くらいだな。
それ以上はとなりのお姉ちゃんって感じだ。

376:名無しさん@ピンキー
09/04/01 11:25:15 pbumJ25m
だが幼馴染の隣のお姉ちゃんというのもいいものではないか?

377:名無しさん@ピンキー
09/04/02 09:08:01 4eQnv/Q3
隣の妹ちゃんも悪くはにぃ

378:ボルボX ◆ncmKVWuKUI
09/04/02 09:46:43 Oet9ybQh
規制が解けないため携帯から投下させていただきます

379:春の夕べの夢醒めて〈2〉 ◆ncmKVWuKUI
09/04/02 09:50:07 Oet9ybQh
 「火焔は」男は夕華に言った。「焼き尽くす」

 月のない黒い夜、風なまあたたかい戌の刻。

 七年前、夕華がまだ十一歳の夏だった。

「百五十年前の猛火は、坂松の城と城下町を灰燼に帰したのだ。
 配下の軍勢に火をつけさせたのは、おまえの先祖である京口為友卿だ」

 場所は京口邸の広い庭の一角。
 古雅なつくりだが手入れがいきとどかず荒れた、回遊式の庭園である。
 荒れてはいても、満月のときであればそれなりの眺めになる。白く照らされた松柏は蒼古としてそびえ、崩れかけた築山さえおもむき幽玄となって、寂たる晩景にとけこむのだ。

 けれど今宵は新月であった。
 無明の闇のなか、ただ虫の音のみが鈴(リン)、鈴、鈴とすずしかった。

 茶室横の露地の待合いには、ほおずき提灯が軒先に吊るされて灯っていた。
 その下にある松材の腰掛けにすわって、瀟洒な着流し姿のその男はひとりごとのように語っていた。
 内容は、京口家と渋沢家の歴史ということだった。

「だが人が住みつづけようと思う地であるかぎり、町の再建はすぐにはじまる。
 大火のあと為友卿が坂松市のためおこなったのは、鴨居川の西岸の開発と、東岸の復興……
 夕華、つぎは水月に打て」

「はい、父様」


 夕華は従順、というより慎重に返答した。Tシャツにショートパンツ、スニーカーという男の子のような活発な服装だったが、このときの夕華につねの明るさはない。
 いつもと雰囲気の違う父の目を意識しながら、夕華は二間半(約4.5m)先の的にむけて一歩ふみこんだ。
 手のひらにしのばせた鉄貫を、灯に照らされた人間大のわら人形めがけて打ちはなつ。

 鉄貫とは、棒手裏剣の一種である。
 修練のため、的用のわら人形が露地に立っており、夕華は小学校にあがる前からそれに向けて打っている。
 森崎流手裏剣術は、京口子爵家のお家芸であり、夕華の腕前は祖父仕込みだった。

 金属の鈍い光が少女のてのひらから手走り、提灯の火明かりを突っ切って飛露のようにきらめく。
 流星となって飛んだ鉄貫は狙いたがわず、わら人形の水月にあたる部分に突きたった。

 ひとつ男はうなずき、「血だな。おまえは先祖のように打剣を能くする」と褒めた。

 夜気は、川の水うわぬるむほどだった昼の酷暑をひきずっている。晩とはいえ夕華の頬には汗がつたわっていた。
 にもかかわらず、声をかけられて少女は寒気を覚えた。

 やはり今夜の父はおかしかった。「困った娘だ、女の子だというのにそんなものを好んで」―父はふだんから嘆かわしげにそう言っていたはずだ。
 夕華は、手裏剣の稽古自体は好きである。
 友人たちとじゃれあっているときのほかは、何よりもこの時間が楽しいくらいだ。習わされている生け花より舞踊より、琴棋書画のいずれよりも。

 だが今、父親にはむしろ「打剣しろ(手裏剣を投げろ)」と言われているのに、夕華ははっきりと怯えていた。
 話の内容ではない。小学生には少々むずかしいところがあるが、べつだん怖いものではなかった。

380:春の夕べの夢醒めて〈2〉 ◆ncmKVWuKUI
09/04/02 09:52:18 Oet9ybQh

 怖ろしくてたまらないのは父そのものだ。あるいは父によく似た、あの何かだ。
 いつもの父には、こんな異様な圧迫感のかけらもなかった。本が山と詰まれた書斎にこもり、珈琲を夕華がはこんでいくとにっこりして礼を言ってくれる人なのだ。

 わら人形から鉄貫を抜き、汗のにじんだ手のひらににぎりしめながら、少女は祈った。

(はやく来て。柿子、きょうくん。早く来て。
 「このひと」は怖い。私の知ってる父様とはちがう)

 今夜、夕華は、地域の地蔵盆に出席することになっていた。夕華の祖父は、同年代である渋沢家の当主とともに一足先に出向いている。
 まもなく渋沢家の姉弟が、ここに夕華を迎えにくるはずだった。ひとり娘の夕華にとっては、きょうだい同然とよべるほど結びつきの深い子供たちである。
 かれらが迎えにくるまでの空いた時間を、鉄貫を打つことでつぶしていたのだった。

 そこへ、めったに書斎から出ない父が現れて、ぽつぽつと話をしはじめた―最初は、今夜の父様はなんだか鬱々としている、くらいにしか思わなかった。

 話がつづくうち徐々に、肌寒い感覚がつのっていった。黒水よどむ底なし沼をのぞきこんでいるような感覚。
 平坦な父の声音から、黒冥々とした陰の感情が伝わってくるのだ。
 それは夕華に対するものではないけれども、鋭敏な少女の神経は圧迫を受けずにはすまなかった。

 いつか逢魔ヶ刻に、おとろしなる怪が出るという山中の社を見に行ったことがある。いまの空気は、そのとき感じた怯えと後悔に似ていた。
 いや、あのときはまだしもだった。自分とおなじく震えながらではあるが、渋沢家の姉弟ふたりが終始、夕華のそばにいてくれたのだから。
 いまは、父と自分のほかには誰もいない。

 「この五濁悪世においては」と陰々たる語りがふたたび、荒れ果てた庭園に響きはじめる。

「町の再建、人の救済すらも、けっして善意のみでなされはしない。
 災厄の訪れたあとはしばしば大金が動く。とくに水火の災い(洪水、火事)なら、被害が大きなものであればあるほどに、復興のときの金のめぐりは盛んになる。
 であるからして、再建そのものを最初から望み、古きを壊そうとする者がときたま現れる」

 うつむき気味の父の顔は、暗影となって夕華からは見えない。
 彼は語る。

「町の復興に必要なものは数々あれど、当時なにをおいても重要な物資は『木』だった。
 材木が、大火のあともっとも金になる商品だったのだ」

 木造建築の基礎となる材木は、復興のときどれだけあっても足りないくらい欲される。
 したがって、町を呑むほどの大火事があれば、材木の値は天井知らずにはねあがっていくことになる。

「だから百五十年前も、町が焼けたあと即座に、近隣の商人は材木を買いつけに走った。
 ところが付近一帯の良質な材木は、ある富裕な商家によってすでに押さえられていたのだよ。
 奇妙なことにその商家は、大火が起こされるに先立って材木を買い占めていた。
 ……打て。こんどは二箇所。喉と心の臓」

 圧迫を振り切ろうとするように、言われるまま夕華は二本を同時にはなった。
 が、今度は失敗した。

 二間半先の人形に命中したのは心臓の部位を狙った一本だけで、それも浅くしか突き立たない。もう一本の鉄貫は狙いがそれ、後ろの枯れ松に当たってはねかえってしまう。
 夕華は顔をこわばらせた。
 いつもの彼女の技量ならば、三本まではこの距離でも確実に的に当てられるはずなのだ。恐怖が四肢を緊張させてしまっていた。

 外したことで機嫌をそこねはしまいかと、びくびくして父をうかがう。

381:春の夕べの夢醒めて〈2〉 ◆ncmKVWuKUI
09/04/02 09:54:20 Oet9ybQh

 けれど幸いというべきか、父は夕華の鉄貫が当たるかどうかはどうでもいいらしかった。

「早く拾いなさい。そして投げつづけなさい。
 家のほうからはただの稽古に見えていなければならない」

「……はい」

 家の者に隠す必要があるほどの話なのだろうか。夕華はそんな疑問を抱いたが、有無を言わせない重圧の前で、おいそれと父に訊くことはできなかった。
 それでも、その疑問を読んだのか、父はいきなり言った。

「夕華、おまえは渋沢の家の子供たちと親しいな。
 さっき話にのぼらせた商家は、むろんあの家のことだ。当時、渋沢屋は材木問屋とも関係をもっていた。 為友卿と、かれに蜂起のための金を貸しつけた渋沢家のあいだに、なんらかの密約があったことはじゅうぶんに推測できる」

 最初から「京口家と渋沢家の話」と言われていた。それでも、幼友達とその家のことに言及されたとき、夕華の心臓はどくんと鳴った。
 渋沢家のことを語る父の声音に、好意というようなものは微塵もなかった。

「為友卿のやりようには、悪しきものもあれば善きものもあった。
 城と町を焼いたことで悪し様に言われるが、かれは新政府を一貫して支持し、国を立て直すという理想のため戦った人だ。維新成って後、この坂松市を栄えさせたのもかれの手腕だった。
 一方、渋沢家の商人どもは、焼け跡において貪欲に利をむさぼっただけだ。ほとんどの汚名を京口家におしつけて」

 ぬるい風がふくたびに闇のなかで提灯が動き、ふらりふらりと怪し火さながらに揺れる。
 さばえなす御霊のごとく周囲にむらがり飛ぶのは蛾だった。

「為友卿亡き後、この百年、わが家は渋沢家に追い落とされてきた。
 財の運用に失敗し、富をうしなった。先の大戦の後からは、国政改革と称した華族締めつけ政策がそれに拍車をかけた。
 富と権威のおとろえは加速し、地元であるここ坂松市の議会においてすら影響力は低下していった。
 それと入れ替わるように議会での立場を上昇させてきた渋沢家は、この京口子爵家を地元における最後の競争者とみなして蹴落としにかかった。
 そしてついにわが家は、地元の政界から駆逐されたのだ。
 零落に零落をかさね、いまのわれわれは、この屋敷を維持するための税すら自力で払うことはおぼつかない。
 夕華、おまえだとてわが家の内実がいかに貧を窮めているか知っているだろう。京口子爵家は没落していく一方だ」

 朱灯と、それに羽ばたき集まる蟲たちの下に、物の怪じみたあの何かが黒々とうずくまって、ぶつぶつと家の怨念をつぶやいている。

「代々の当主が実業や政略で失敗してきたのは、かならずしもかれらの無能のためばかりではない。ここぞという局面で不運な事故や当人の怪死があいついだことが大きい。
 わが一族は数が少ない……短命、少子の傾向が強いというだけではなく、この一世紀あたりは死の多い家でもあった。わが身から『発火』して焼け死ぬという信じがたい死に方をした者さえいる。
 それをさして、世人の一部は陰で、火による祟りがくだっていると言う。為友卿が火付け人で、十悪五逆の人だったからと。
 では栄えを謳歌する渋沢家はなんなのだ。あの家の躍進の基礎も、火によってもたらされた赤い財なのだぞ」

 祟りや天罰があるならひとしく落ちよ。

 もとより呪詛に近かったその声には、いまやはっきりと毒念が煮えたぎっていた。
 夕華は振り向けなくなっていた。体が、凍りついたように動かなかった。
 虫の音まで、いつのまにか止んでいた。

382:春の夕べの夢醒めて〈2〉 ◆ncmKVWuKUI
09/04/02 09:56:25 Oet9ybQh

「夕華、この話をしたことは誰にも言うな。それと、これからはうちの使用人たちにも心を許すな。
 かれらは、あちらの家にこちらの事情を流すから。
 おまえのお祖父様はもっと駄目だ。かれはとうに誇りを投げ捨てている。華族らしい最低限の生活をたもつためと称し、渋沢家をたよって金を投げ与えられてきた。
 両家が必要以上に接近したのは、お祖父様の代だ。かれは渋沢家の当主に妾まで世話され、それを外に何人も囲ってきた。亡くなったおばあ様がどれだけ悲しまれていたか。
 わが父上ながら、あの好色の性質には吐き気がする」

 父が幼友達の家を嫌っていることを知ったときに、すでに胃がきゅっと縮まった気がしていた。

 続けて祖父の妾のことを知ったとき、がんと頭に石をぶつけられた気がした―
 この社会で妾をたくわえる者は珍しくない。親友の柿子も、その弟である渋沢家嫡男の京介とは母親がちがう。
 それでも、祖父がひそかにそんなことをしていたのが、十一歳の夕華には衝撃だった。

 それまでの話ですでに耐えかねるおもいだったが、父が祖父のことを嫌悪をこめて吐き捨てた瞬間、夕華の神経に限界がきた。
 感情の破裂が、皮肉なことに金縛りを解いた。

「やめて!」

 振り向いて夕華は叫んでいた。
 鼓膜をとおしていちどきに毒をそそがれることに耐え切れない。耳をふさぎ、その場に座り込んでしまいたくなる。

「そんな話、もう聞きたくない!」

 悲鳴にちかい声で拒絶する。全部、知りたくなかった。
 向こうの家にくらべ、この家が広いわりにお金がないことは夕華も知っていた。けれど、みんな仲は良いと信じていたのだ。
 親戚のように交わってきた向こうの家のひとたちも含めて。

 激した叫びをあげたが、その直後すぐ夕華の心は急速に萎えた。
 父は、夕華から幻想をはぎとって真実―すくなくとも一面の―を突きつけただけだ、と彼女にはわかっていた。
 いままで表面にある綺麗なものしか見えていなかった自分が、莫迦な子供だったのだろう。

 それでも、こんな黒くよどんだもので満たされているのが真実だというのなら、見えていないままのほうがよかったのだ。
 肩の力を虚脱させて、夕華は力なくつぶやいた。

「なんで、そんなことを私に話したの……」

「おまえがこの家のひとり娘だからだ。そしてまもなく大人になるからだ」

 父の即答は、容赦がなかった。

「あと三年もすればおまえには婚期が来る。だからいまのうちに話したのだ。
 憶えておきなさい。虎狼の家であったわれわれが、いま狐狸どもに飼われている。餌を与えられているのはなぜだと思う。
 最後にこの血を提供させられるためだ。富裕な商家の多くは、爵位をもつ名家の血を入れることを望む。中央へ進出して社交界へ出るにあたって、それが有利にはたらくからだ。
 お祖父様は、あの商人の家の求めに応じ、時がいたればおまえをあそこへ売るつもりだ。あの家の嫡男である男児とめあわせる形で」

383:春の夕べの夢醒めて〈2〉 ◆ncmKVWuKUI
09/04/02 09:58:25 Oet9ybQh

 その言葉の意味を、数拍おいてから夕華は理解した。
 恐怖も虚脱感も胸の苦しさも一瞬わすれ、え、と目をまるくする。
 祖父が妾を囲っていたという話とは、まったくべつの種類の衝撃だった。

 「あの家の嫡男である男児とめあわせる」。その一言が、寝耳に水だった。

(私が、お祖父様に結婚させられる? きょうくんと?)

 きょうくん。京介君。柿子の弟。
 ちょっと前までは素直で、どこへ行くにも自分のあとを付いてきた子。最近はひねくれてきて、ずいぶんと生意気になっている子。

 まさか。考えられない。
 二つ違いのあの子は、夕華にとっても実の弟のような近さだ。
 近いくらいに、近すぎる。だから、そんな相手として意識したことはこれまでまったくない。

 なかった、けれど―

(くらくら、する……)

 鉄貫をにぎっている拳もいないほうの拳もこめかみに添えて、頭をぎゅっと押さえ、夕華はうなだれた。
 心と思考の混迷が極まって、めまいが起きかけていた。

 知ったばかりの暗い現実に少女をひきもどしたのは、聞く耳が凍るかのような父の言葉だった。

「無論、そんなことにはならない。
 おまえならいくらでも良縁に恵まれるはずだ。それをなぜあのような奴ばらになど。
 父上がどう言おうと、わたしはぜったいに認めない。あの家と縁を結ぶことは。虎狼の血と狐狸の血を混ぜることは」

 強固で揺るぎもしない、冷えた意志のこもった断言だった。

 苦しげな顔を上げはしても、父になにを言えばいいのか夕華にはもうわからない。
 いちどきに得た知識が多すぎた。
 大火、赤い財、京口渋沢両家の因縁、祖父の妾のこと、弟のような子との結婚の話、そしてその話への父の侮蔑と拒絶。

 それらの話題、ことに後半のほうは、考えても混乱と苦悩が深まるばかりで―

 いつ立ち上がっていたのか、話し終えたらしい父はすでに腰掛けから歩み去るところだった。
 提灯をのこして足音が館のほうへ消え、そして虫の音が庭に戻ってくる。
 時がたち、迎えにきた姉弟の声がその場に響くまで、少女は立ち尽くしていた。


 京口夕華が女学校へ入学する半年前、夕華の祖父が急死する三年前のことである。

384:春の夕べの夢醒めて〈2〉 ◆ncmKVWuKUI
09/04/02 10:00:39 Oet9ybQh
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 七年近くたった現在、春の夜。
 瓦の屋根と木戸がついた門の上に、春の月がおぼろに浮いていた。
 渋沢柿子は、木戸をくぐって門の外に出た。

 観桜会の直後、渋沢邸のことである。
 京口邸よりずっと小さいがそれでもそこそこ広い敷地を、真竹をめぐらせた塀がかこんでいる。
 待ち合わせの時刻よりすこし早かったが、門横の竹塀のまえにはすでに友人が来ていた。
 あめ色の古い竹塀によりかかってたたずむ彼女の影が、路上に長く伸びている。
 先刻別れたばかりだから当たり前だが、服装は観桜会のときと同じだった。

 夕華が首に下げている銀のロザリオが、一瞬、綺羅星のように月を反射して光った。

「急な話でごめん、柿子。全部持ってきたから」

 彼女は、持参していた紙袋を手渡してきた。
 柿子は両手で袋を受け取り、その重みをちょっと確かめた。

 中には七、八冊の書物が入っている。
 それらの書物はろまんす本、いわゆる恋愛小説だった。女学校では教師の目をぬすんでひそかに回し読みされていた人気のあるもので、柿子も持っていた。
 故郷に連れ立って帰ってきた一月前、夕華にたのまれて渡していたのである。

 夕華は礼を言ってきた。

「貸してくれてありがとうね」

「全部読んだの。面白かった?」

「うん。興味深かった、いろいろ。食わず嫌いはよくなかったよ」

 にこやかに言う幼なじみを、柿子は月明かりの中、すがめ見る。
 芯の通った言動を見るかぎり、夕華はこの短時間で完璧に立ち直ったように見える。

 さきほど、京介が恋人をつくっていたことを聞いた直後は、魂が半分抜けたんじゃなかろうかという茫然自失の態だった。
 見かねて柿子は口をはさみ、そのうえで「二人ともいったん頭冷やして、また後日に話したらどう」とすすめたのだった。

 その場から帰る間際に、夕華は急に思い出したように、あとで本を返しに行くと柿子に伝えてきたのである。

「そう、楽しめたならよかったわ。
 用件ってこれだけ?」

「ああ、そうだけど、それだけでもなくてね、
 そのう……
 ―ほかにも本あるかな。ほかにもこういう本あったら貸してもらえない?」

 夕華は、馬脚をいきなりあらわしかけていた。つくろっていた悠揚せまらぬ態度がはがれそうである。
 いましがたまでの落ち着いた態度はどこへやら、無意識なのかそわそわとパーカーのポケットに手を入れたり出したりしている。あげくの言葉はやたら力みが入っていた。
 この娘なにか別のことを言いかけようとしていたな、と柿子は推測し、それから首をふった。

「ごめんね。わたしもこれだけなの、持ってるろまんす本は」

385:春の夕べの夢醒めて〈2〉 ◆ncmKVWuKUI
09/04/02 10:03:37 Oet9ybQh

「あの、それじゃあ、やっぱりそれを何冊かもうちょっと貸して。
 少し読み返したいのがあったから」

 柿子は無言で紙袋の中から適当に三冊ばかりをとりだし、夕華に渡した。

「柿子ありがとう。また返しに行くね」

 夕華は受け取り、そそくさと小脇にかかえる。
 やはり内実は冷静を欠いているようで、読み返したい本があったなどといいながら、手渡された本の題名すら確かめていない。

 柿子はため息をついた。あの莫迦弟、と内心で罵る。
 京介の一言で、夕華は予想以上に追い込まれていたようだった。ぎりぎりでとりつくろってはいても、水面下では明らかに取り乱している。

(意外だったわ。
 夕華のほうががこれほど京介にこだわってたなんて。失いかけたと思ったとたんすっかり恐慌をきたしてるじゃない)

 本を借りて、返すことを口実にこの家に来る。つぎもそうやって来れるよう口実を確保する。打算丸出しだが、あまりに稚拙で必死なため、計算高い印象はかけらもない。
 矜持もなにも考えず、そこまでなりふりかまわなくなっている友人が気の毒で、からかう気にもなれない。
 勇気をふりしぼってか、夕華はようやくのことで本題らしきものを口にした。

「あの、京介君は何をしているかな」

 なるべく平然とした声で訊いたつもりらしい夕華に、柿子は淡々と答えた。

「なにって、帰ってからずっとなにか考えてるっぽいわ。禅僧じゃあるまいし縁側に座りっぱなしで、鬱陶しいったらありゃしない。
 会いたいの?」

「も、もうちょっと話がしたいの」

「やめときなさい。まだ京介のほうは混乱してるし、いま会ったってろくな話できないわよ。
 だいたいあんたもぜんぜん冷静に戻ってないでしょう?」

 柿子は、突き放す言葉をさらりと吐いた。

「そんな―」

 夕華は思わずといった感じで悲痛な声を出しかけ、黙った。
 暗く面をうつむかせた夕華は、うなだれていても柿子より背が高い。にもかかわらず柿子の目にはその優美な長身は、いま、幼い少女の孤影にしか見えなかった。
 つねは悠然として、弱い部分をなるべく見せようとしてこなかったこの幼なじみが、京介のことでここまで余裕がなくなっている。
 それでも、柿子はあえて冷たい態度をとった。
 夕華はおそらく動揺が極まって、何か行動せずにはいられなくなり、とりあえず渋沢邸に来たというところだろう。
 明確な覚悟ができていないのは、直接京介に接触できなかったことを見ても明らかだった。
 このまま会わせても、進歩のなかった以前の六年間と同じになりそうだった。
 京介が決意するか、……夕華が単純なひとつのことをはっきりさせられないかぎり。

386:春の夕べの夢醒めて〈2〉 ◆ncmKVWuKUI
09/04/02 10:06:09 Oet9ybQh

「夕華、それじゃ一度訊くけど、あんたうちの弟が好きなの?
 そのへんきちんと認めることができるなら、京介をここに呼んできてあげるけど」

「な、」

 声をつまらせて夕華は硬直した。それを柿子は冷めた眼で観察する。
 彼女の、もはや完全に虚勢をふきとばされたその様子を。

「柿子、なにを……私は、ただ……」

 夕華は言いつくろおうとしていた。けれど唇も声も震えている。
 あんたの気持ちなんかとっくに知ってるけどね、と柿子は口の中でつぶやく。わたしに気づかれてることはあんたもうすうす知っていたでしょ、とも。
 もっとも夕華が動揺してくれるのはありがたかった―率直な反応を見たくて訊いたのだから。

(それにしてもこの娘、いちばん大切な部分を相変わらずうやむやにしたままで、どういう話ができると思っていたのかしら)

「私、」

 口ごもりながら夕華は柿子を見つめる。黒曜石のような美しい瞳が、憂悶に満ちて「お願い、そこは触れないで」と語っていた。
 柿子はその言外の懇願を無視して、見つめ続けた。

 たしかに、「二つのことには深く踏み込まない」ということは、ずっと柿子と夕華のあいだの暗黙の了解だった。
 家と、夕華の恋のこと。
 ほかのことはなんでも話し合っても、そのことについては夕華からはひとことの相談もなかったし、柿子も訊こうとはしてこなかった。

 けれど柿子は、それで必ずしも満足してきたわけではない。
 表向きは冷めた態度で通していたが、「なんでわたしに相談してくれないのだろう」と、わずかに不満を抱かないでもなかったのだ。
 できれば古い友人である自分に打ち明けてほしかった。

 どうやら親友と弟が好き合っているらしい、と柿子が気づいたのは、早いうちだった。夕華とともに女学校から最初の帰省をしたときである。
 以来、六年間はたから見ていたが、これだけ微笑ましくも莫迦莫迦しい二人はなかった。

 夕華はいちいち余裕をとりつくろい、そのくせ京介にたまに話しかけられたら凍って反応が遅れていた。
 京介のほうは、夕華がそっけない態度をとりつづけたことで、もう好かれていないと思いこんでいった。
 たまにしか会わないとはいえ、思春期一年目でふみとどまった感じである。どう見ても両思いなのに、互いを意識しすぎたあげくにぎくしゃくしていった。

 変に思われたくない、見損われたくない、だからおっかなびっくりで互いにあたりさわりのない態度しかとらない。そんなところだと思っていた。

(思っていたけど、微妙に違ったわね。夕華のほうは)

 白皙の肌が青ざめているように見えるのは、月光のためばかりではないだろう。
 私は、と言ったきり夕華はその次を続けられないでいる。

 この娘は綺麗になったぶん陰の部分ができた、と柿子はあらためて思った。そばにいた自分が見ても、六年のうちに夕華は変わっていた。
 活動的を超えて明らかにおてんば娘だった小学生のころは、性格のすみずみまで太陽の子だったのだ。
 あのころの夕華ならこの場で「好きだよ、悪い!?」と、顔を真っ赤にして言っていたかもしれない。

387:春の夕べの夢醒めて〈2〉 ◆ncmKVWuKUI
09/04/02 10:07:51 Oet9ybQh

 もうじゅうぶんだ、と柿子は見極めをつけた。

「……会うなら、あんたたちのせめてどっちかが、しっかり心を決めてからにしたほうがいいわ。
 じゃあね、夕華。そのうちまた」

 いつまでも口に出せないでいる友人に、静かな声で、今度こそはっきり別れを告げる。

 柿子はさっさと竹塀のうちに入った。木戸をくぐるとき肩越しに一度だけふりかえる。
 夕華は、金紗でくるまれて声を封じられたかのように、途方にくれて立ち尽くし、月の光を浴びつづけていた。

 敷地内を母屋のほうに歩みながら、柿子はいま見た彼女の様子について判断を下した。

 この六年間ずっと、京介との恋での夕華の態度に違和感があった。
 直球の問いで反応を引き出したことで、その違和感の理由がわかった。
 京介に対する、らしくもないあの消極性の奥の奥にあるものは、照れでも意地でもない。


 夕華のあれは恐怖だ。深刻な。

…………………………
……………
……

  しづかに照らせる月のひかりの などか絶え間なくもの思はする
  さやけきそのかげこゑはなくとも みるひとの胸にしのびいるなり……

 ひさしの下から肌寒い月明かりがもぐりこんでくる、庭に面した板張りの縁側だった。

 庭に向かって腰を下ろし、さっきまで一刻以上もうつむいて沈思していた京介は、いま放心ぎみに月を見上げ、かすかに口ずさんでいた。

 いつもの書生姿にもどった京介の背中を見ながら、柿子は湯呑みを手にそっと後ろからあゆみ寄った。

「……夕華が昔よく歌ってた詩のひとつだわね、それ」

 京介の口ずさんでいる詩に、柿子も聞きおぼえがあった。
 いきなり後ろから声をかけられた弟は、びくっと振り向き、それから庭先に視線をもどして、妙な表情で口を押さえた。
 唄を聞かれたのが恥ずかしいのかとも思ったが、京介の顔はいま夢から醒めたというものに近い。

 長々と悩んだあげくふっと気が抜けた折に、意識せず口にしていたのかもしれない。これまでも弟を見ていると、そういうことが何度かあった。
 夕華の唄を子守唄のように聞かされて育っていたため、記憶の奥に焼きついているのだろうか。

388:春の夕べの夢醒めて〈2〉 ◆ncmKVWuKUI
09/04/02 10:09:47 Oet9ybQh

 ばっかみたい、と柿子は今夜何度目かわからない嘆息をした。

 そこまで心に夕華を刻みつけていながら、この弟はなんで強いて他の女を見ようとしたのだろう。
 ……もっとも、理由の一端らしきある秘密を、柿子は知らないわけではない。
 こちらも面倒くさそうだった。

 ちらりといま通りぬけてきた京介の部屋をふりかえる。障子は開けっぱなしにしてあり、部屋の内部が縁側からも見えている。

「冷えてきたわね。
 しかしあんたの部屋、枯れてるわねー」

(十六歳の男の部屋とは思えないくらいに、ね)

 上は格天井、床はたたみ。廊下と隣の間とはふすまで区切られ、縁側とは障子で区切られている純和風の一室。一室というよりは、ふすまで区切られた座敷の一間だ。
 小壁ぎわの寄木細工の本棚、客をむかえたときのための円座と猫脚のちゃぶ台、勉強机と椅子が調度品のすべて。整理整頓はいきとどいて、殺風景なほどさっぱりしている。
 妙なほどに枯淡の雰囲気がただよう部屋だった。

 そのうえ京介はふだんから、家人が部屋に勝手に入ってくるのをとくに拒まない。こうやって部屋を論評されても、勝手に掃除されても怒るでもない。

 ただこの時は、いくぶん迷惑そうに声を出した。

「なにか話が?」

「夕華ね、女学校でもお姉さん役になってたわ」

 柿子は夕華のことを話題にする。
 それで京介は黙って耳をかたむける気になったようである。じつに簡単な弟だった。
 茶をすする音をまじえながら、ぽつぽつと柿子は語りはじめた。

「『ハンサムで優しいお姉様』だもの、やたらもててたわ。
 夕華のほうも親身になって後輩の世話をやいたしね」

 気さくな先輩を通りこして本当の姉妹のように可愛がるので、一時はそっちの気がある人なのではないかと噂が立っていたくらいである。

 京介が「夕華さんなら……そうだろうね」などとつぶやき、横でうなずいている。
 夕華の牧羊犬気質とでもいうべき面倒見のよさに、幼いころあれこれ世話になったのは京介である。二つしか歳が違わないのに、夕華は京介のおむつを取り替えたことまであった。
 その弟の感慨に水をさすように、柿子は目を伏せてぽつりと言った。

「あの娘もまったく、難儀だわ」

「……え?」

「あんただって夕華に手をひかれて育ったみたいなもんだから、わかるでしょ。
 あの娘、庇護欲強いというか、構いたがりなのよ」

「そりゃ、そうも言えるけど……それがなんで難儀なんだよ」

389:春の夕べの夢醒めて〈2〉 ◆ncmKVWuKUI
09/04/02 10:11:29 Oet9ybQh

「そのせいで無駄に強がるようになったからよ。
 あの娘ほんとは寂しがりよ。にぎやかなのが好きだったでしょ。なのに、寂しがりやのくせして自分から甘えるとかはしないのよ……ううん、ちょっと違うか。
 お姉さんとして世話を焼く立場にいることで、自分の寂しさを埋めようとするタイプなの」

 女学校での夕華は、まさしく心の隙間を埋めようとしているように見えた。
 となりを一瞥する。夕華のあの年下好み―というと語弊があるが―には、この弟が無縁だとは思えない。
 妹のように可愛がられていた後輩たちには気の毒だが、彼女たちは京介の代替に近いだろう。

 その上からそそぐ愛情表現自体はいいのだが、年上として頼られる立場がしみつき、人格にまで影響が出てしまっている。
 夕華は、自分自身は人にほとんど頼らず、いろいろ溜めこんでしまう性質の娘となっていた。

 柿子は、すこし前に夕華が「ろまんす本を貸してくれないかな」と恥ずかしそうにおずおず頼み込んできたことを思い出す。
 やっと色恋の話でこっちに頼る気になったかと、まんざらでもなかったのだ。ちょっと違っていた。
 夕華はひとりで恋の進め方を「勉強」したかったのだ。

「……そうだ、そのへんの無知もあの娘も問題だったわ。
 それ話す前に京介、あんたのほうにも言っておくけど」

「な、何だよ」

「夕華を崇拝しすぎ。
 あんた、何時間かまえにあの娘のことを『優しいから』と言ったでしょ。それはそれで正しいけれど、美化しすぎなのよ。
 さっき話したでしょ。年下を可愛がるのは寂しいから。弱みが表面から見えないのは、意地っぱりで隠したがるから。乱暴に言えばそういうこと。
 あの娘だってわたしやあんたと同じく欠点だらけよ。ほんとうはあんたもそういうこと、よく知っていたはずでしょ」

 柿子の指摘に、京介は眉をしかめはしたものの、なにも言葉を返さないでいる。
 距離の離れた初恋相手を過度に意識したあげく、美化してしまっていることは、うすうす自分でもわかってはいたのだろう。

「京介。わたしたちの行ってた十字教系の華族女学校、どんなところかあんた知っていた?」

 問うと、京介は記憶をたぐる表情を月に向けた。

「えっと……良家の令嬢が、親元から切り離されてふさわしい教育をほどこされる教育施設だろう。
 名称に華族とついてはいるけど、いまではそれ以外の出身の娘が多いとか。
 礼式に重点が置かれるほか、外国語なども習うと聞いていたけれど」

「表向きはその答えでいいわ。あそこの教育は、いずれ生徒が結婚したのち、夫につきしたがって社交界に出ることを見越してほどこされるものよ。
 裏の理由も結婚と関係があるわ。あの学校は、お嬢様方が結婚するまで彼女たちを『無傷で』保存しておくための保管庫。
 娘や花嫁候補に悪い虫がつかず、悪い思想にも毒されず、無垢すぎるくらい綺麗なままを保つ。そういうのを殿方は好むからね」

 辛らつな言葉をごく自然に吐いて弟をまごつかせながら、柿子はひとつ茶をすすって続けた。

「あそこは基本、寮住み。外界から入ってくる情報も最低限。優雅で退屈な、外から遮断された温室よ。
 生徒は殿方と接することがほとんどないわ。
 ある日いきなり見合いをうけて婚約して中退結婚するか、卒業後にすぐ結婚するかで、恋愛のなんたるかなんて実際に知ってるのはいないも同然よ」


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