【友達≦】幼馴染み萌えスレ17章【<恋人】at EROPARO
【友達≦】幼馴染み萌えスレ17章【<恋人】 - 暇つぶし2ch294:春の夕べの夢醒めて〈上〉 ◆ncmKVWuKUI
09/03/07 14:36:03 WqGR54LQ

 シャワーの雨、檜(ヒノキ)の浴槽からたち上るもうもうたる湯気。
 桃色の灯が水煙にけぶる。そのしたで嗚咽をもらす子供ふたりが抱きあっていた。

(あの夢だな)

 おぼろながら京介には、いま見ているこれが自分の夢だとわかっている。
 また、六年前のあのときの情景だからである。何度となく見て、先の展開はよく知っている。

 子供のころはほとんど毎日訪れた、あのひとの屋敷。
 夢のこの場所は、屋敷の浴室だった。
 床天井から壁、浴槽まで香りたつ総檜の湯殿である。

 みっともなく泣きながら、自分より背の高い相手に背伸びしてすがりついているのは、裸の男の子。
 その頭を、みずみずしく育ちかけの胸にしっかり抱きしめているのは、やはり裸の女の子。なぐさめている立場ながら、こちらも声は湿っていた。

 十歳の京介と、十二歳で女学校にあがる直前のあのひとだった。

 地元ではない。帝都のほうにあるという、華族はじめとする良家の子女が集う六年制の学院である。
 免除してもらうこともできた入学試験をわざわざ受けて合格し、あした彼女は遠くへ行く。おないどしの友人である京介の姉とともに。
 京介が生まれてからいつも共にいた三人のうち、彼ひとりがこちらに残されることになるのだった。

 そのときまで恭介にとって彼女は、実の姉より姉らしい人という思いがあった。
 年の差はふたつ。子供にとっては小さくない差である。それもあってか彼女は、京介にたいしては年上ぶりたがっていたようだった。
 京介のほうは、いつまでたっても子ども扱いされることにむくれだしていた。
 最近はずっと乱暴なため口をきいたりと、わざと怒らせるような態度をとっていたのである。

 それと同時にとりとめのない甘酸っぱいものが、彼女に対してだけふくらんでいくことに狼狽もしていた。姉やほかの女子には覚えない感覚だった。
 生意気な態度もうらがえしてみれば、実際になんでもできる彼女にもうすこし認めてもらいたかったのだろう。

 近しい距離と信じていたから憎まれ口も叩けたのだ。
 離れられてしまうなど、思ってもみなかった。
 受験のことを教えられたとき、京介はとっさに言葉も出なかったのである。
 前々から彼女に抱いていたあやふやな想いは、そのときはっきりした形をとりはじめた。

 それを完全に自覚したのが、この別れのための日だった。
 夜の宴は基本としてこの二家だけで催す手はずだったが、昼間は近所の子みんながあつまって遊び騒いだ。
 昼餐のあとは、男子女子の区別も年の上下もなく、天気がぐずつき模様なのもかまわず、屋敷の広大な庭で隠れ鬼や缶けりに興じたのである。

 小ぬか雨がふっても、だれも帰らなかった。明日去っていく二人の女の子、とくにあの人と無邪気に遊ぶ機会はもうないと、うすうすみんな知っていた。
 大人への入り口がすぐそこにある。彼女たちが女学校からときには帰省してくるとしても、もう一緒には遊べないだろう。この日が身分や立場など気にしないですむ最後の日だった。



295:春の夕べの夢醒めて〈上〉 ◆ncmKVWuKUI
09/03/07 14:36:48 WqGR54LQ

 それでも夕暮れがくると、子供たちもそれぞれの帰路に散った。

 京介の姉があるクラスメートに呼び出された(告白されていたらしい)あと、京介は彼女と二人きりになった。

 すでにして悄然とだまりこんでいた京介だったが、気をつかって話しかけてくれる彼女に「明日でお別れだね」としんみり言われたのがとどめになった。
 女の子の前で泣くなんて恥ずかしいことだ、と必死に念じても、一度こぼれた涙はとどめようがなくなった。
 どうせ小さなころから泣き顔など何度も見られている、という開きなおりもあった。

 手をひいてもらって、しゃくりあげながら一緒に玄関をくぐると、ドロまみれということで湯殿に二人まとめて放りこまれた。

 ちょっと前まで「もう女の子なんかといっしょにお風呂入らないからな」と突っ張っていた京介だったが、そういう意地は涙といっしょに流されてしまっていた。 
 裸で向きあい、幼稚園児のように頭や体を洗ってもらううち、ひどく素直な哀しい気分がまたこみあげてきて抱きついたのだった。
 それが自然であるような感じで、あのひとも抱きしめ返してきた。
 京介は背伸びし、頬と頬をくっつけるように寄せて、行ったらいやだとわがままを言って泣いた。

(あのときはほんとうに幼な子並みだったなあ……)

 夢のかたちで思い出は続く。

 そのときは宵の口であり、外の闇が浴室の窓を黒くぬりつぶしていた。
 広間のほうでは「お別れ会」の準備がすすんでいる。今回はごく内輪のみの宴席とはいえ、地元の名士の数人くらいは令嬢たちの入学祝いをのべに訪れている。
 もう早々と酔っているらしい大人たちの声が聞こえてきた。
 ドアを何枚かへだてながら届くほどの大声で笑っているようだった。

 ―ゆうかちゃん、最近ずっと生意気なこと言っててごめん、ごめんなさい。

 ―そんなのもういいから泣いたらだめだって、きょうくん。ときどき帰ってくるってば。

 対して浴室内の会話のほうは、涙まじりながらも、ほんのかすかな声で交わされている。
 空気がいままでと違うことに、子供といえど気づいていたからだろう。
 抱き合ううちに、これまでの日々にはなかった雰囲気が芽生えていたのだった。甘く妖しく、頭と体の芯がしびれていくような。

 あとから思えば、それは秘め事の空気だった。

 嗚咽が止まってしばらくしても、二人とも離れなかった。
 このまま体を離すことがひどく惜しかった。彼女の肩に頬をおしあて、シャワーに打たれながら、京介はつい言っていた。
 反抗していたちょっと前のときなら、絶対に言わなかったことを。

 ―好き。ゆうかちゃんが好き。

 ―え……

 ―ずうっと好きだったよ。好きなんだ……

 ―…………ん。うん……



296:春の夕べの夢醒めて〈上〉 ◆ncmKVWuKUI
09/03/07 14:37:17 WqGR54LQ

 はじめての告白を口にしたとき、心だけでなく手も足も、体がすべて熱を持った。
 その熱を彼女に伝えたくて、気がつくと京介はなめらかな頬に唇を寄せていた。
 あ、と少女の声がもれる。脚が萎えたように彼女の体の力が抜け、とんと背中をすぐ後ろの壁板にあずけた。
 熱は伝わったようだった。口づけされたその頬が紅潮している。

 彼女が、京介を抱きしめる腕はそのままだった。

 京介は壁にもたれた彼女に身を寄せてまた密着し、おずおず触れるだけの口づけを、二度、三度と繰りかえす。
 初々しい肌が桜色に熱を持ちはじめている。シャワーの雨に当たりながら、わけもわからず火照っていく。
 灯の下、濡れた裸が艶やかに照り、子供ながら妖しいほどに色づいている。
 お互いの呼吸が速くなっていた。

 湯殿のどこかで、垂れたしずくがぴちゃんと鳴った。

 京介は、頬をすりつけた。
 血を透かして真っ赤になった彼女の耳朶を、そっと噛む。
 さらさらの短い髪を撫でる。
 前髪をかきあげ、爪先立ちで背伸びしてひたいの生え際に口づけする。

 顔のあちこちをやわらかく噛んだり、口づけしたり髪を撫でたり……そんなたわいもない、けんめいに愛情を示したいだけのつたない愛撫でも、受ける少女の表情は陶然としていった。

 どちらからともなく、密着した体の正面をもぞもぞとすりあわせていた。
 石けんの泡が微量にのこっており、ただでさえすべらかな肌の摩擦を助ける。
 二人ともに固くなっていた乳首が肌にこすれるたび、むずがゆさに似た何かが脊髄を走る。
 見交わす瞳がとろんと溶けて、薄くひらいた唇から、ぁ、ぁ、とあえぎがこぼれていく。

 京介の下腹では、まだ肉としては幼いはずのその器官がひくんひくんと勃ちあがっていた。
 互いに脳裏がぼやけていたのはかえってよかった。
 知識はろくに得ていなくても、どうすればいいのかを体の奥にあるものが教えてくれた。

 板壁に背をもたせかけた彼女が、こくんと喉を鳴らし、肩幅よりわずかに脚を広げた。
 それにみちびかれ、京介は少し前ににじり出、彼女のひざのあいだに立ち入る。
 いじましく反りかえったものを、下からゆっくり挿しこむ。
 互いの無毛の恥丘を密着させてこすりあげるようにして、ぐっと腰を押しあげる。そして、少女の湿った肉壁にわけ入った感触があった。

 ―あ。

 直後にわずかに高まったそれは、どちらの声かわからなかった。
 二人とも目をとじて、切なげにあえいでいた。京介は快感で、彼女は処女を破られた痛みで、そして両者とも、つながったことへの昂揚で。
 本能がみちびいてくれたとはいえ、一度で入ったのは奇跡に近かった。



297:春の夕べの夢醒めて〈上〉 ◆ncmKVWuKUI
09/03/07 14:38:04 WqGR54LQ

 くち、くち、と腰をゆすると、ぎゅっと彼女が頭を強く強く抱きしめてきた。

 何だかこわいけれどひどく気持ちいいことをしている、と感じたのを憶えている。
 少女の未通のそこは、より幼い京介の細いものでも、ひどく狭く感じた。
 針穴に通しているのかと思ったくらいで、締めつけられてきつい痛みさえ京介はおぼえている。その痛みまでも甘美だった。

 ―ゆうかちゃん、ゆうかちゃん。

 京介は目をかたくつぶって二つ年上の少女をきつく抱擁し、名を幾度も呼んだ。生まれてはじめての官能に意識が溶けそうで、夢中になっていた。
 ぅぅ、くっ、と押し殺された声が、断続的に少女の唇からこぼれてくる。痛みをこらえているのだろう。
 密着したまま体をゆすりながら、少年は熱い息をはずませる。
 なぜかそのとき耳の奥では、遠い日に聞いた歌がひびいていた。

   ……もりのねぐらに夕鳥を ふもとのさとに旅人を……

 もっと幼いころに、座敷で京介に添い伏ししながら、彼女はよく唄った。乳母のまねをして、子守唄のつもりだったのだろう。
 昼寝なんてしたくなんてないと毎回ぐずる京介は、強引に布団のなかに抱きとめられてそれを聞かされるうちに、なんとなく二人で眠っていたのだった。 

   ……ぎおんしょうじゃのえん朽ちて くんしゅの香のみたかくとも……
   ……はなもにほひも夕月も うつつはもろき春の夜や……

 この家で教えられるという歌詞の意味はよくわからないことが多く、実際に聞いていたときは眠りのおまじない同然だったが、そんなことはどうでもよかった。
 明るく落ちついた少女の声はこころよかった。京介が生まれてから、いつでも、そばにその声はあった。

 明後日からはもう聞けない。だから鮮烈な快楽のなかでひとつひとつ思い返して、憶えておきたかった。
 歌声。京介をよぶ声。笑い声、怒った声、涙声。今はじめて聞くこの声。

 唐突に、未経験の衝動が下腹にこみあげてきた。
 みじかく鳴き、少女を抱きしめる腕にきゅっと力をこめ、京介は動きを止めた。
 どく、どく、どくと精液が、幼い肉の筒から打ち出されていく。はじめての射精であじわう肉の歓喜に、背筋がぶるぶるわななく。
 注がれる少女が、おなかが熱い、と放心した声でつぶやいた。

 少女の流した赤がひとすじ内ももを伝わり、少年の白い粘りはぽたぽた床に落ちる。
 がくがく震える互いの脚のあいだ、板敷床の木目のうえ、赤と白がまじって水に流れていった。



298:春の夕べの夢醒めて〈上〉 ◆ncmKVWuKUI
09/03/07 14:38:29 WqGR54LQ

…………………………
……………
……

 渋沢京介は薄目をあけた。
 眼鏡のレンズの向こうに、腐りかけの小屋梁がさしわたされた天井が見えた。横をむけばぼろぼろの漆喰の壁。
 書庫として使っている実家の裏手の蔵、その二階だった。

 昼寝をしているうちに呼ばれた気がした。それも家住や庭番の「若旦那様」という呼び方ではなく、名前のほうを。
 とりあえず京介は、小柄な体を古畳の上に起こした。体はいちおう鍛えてはいるが、十六歳の男にしては細身である。

 ぼんやりと頭をおさえる。
 横になっているあいだに髪には、毛糸がこんがらかった感じの寝癖がついていた。
 ちょっと不機嫌になる。

 ただでさえふわふわの天然巻き毛は、尽きない悩みのひとつだった。
 「テンジクネズミを思わせる可愛らしい外見」と、男への評価としてはひどい言葉を言われる一因なのである。

 寝癖のことを頭の隅におしやり、この蔵での作業がどこまで進んでいたかを思いかえす。

(……分類はそこそこ進んだけど、なにも新しい発見はなかったな)

 休日を利用して、実家の膨大な過去帳簿のなかから新たな史料が出てこないか探していたのである。
 まずないだろうが、近世史にかかわる貴重文書がまぎれこんでいないともかぎらない。なにしろ渋沢家も平民とはいえ、そこそこ勢威ある歴史をほこっている。

 維新以前の店の記録はたいてい史料として丁寧に保管されているが、百年くらいの「新しい」記録の写しや使用人の日記などはここに放りこんである。
 京介はこのところ、蔵に椅子やたたみを持ち込んでいた。
 腰をすえてその黄ばんだ紙の束を、一枚ずつ丁寧にたしかめていく面倒な作業に没頭するためである。

 趣味で郷土史を調べている人からたのまれて引き受けたことだったが、めぼしいものはなかなか見つからない。
 正直なところ単調な作業に疲れ、春の陽気に眠くなっていた。一休みに横たわっているうち、寝入ってしまったのである。
 高いところにある格子窓からさしこむ光のぐあいでは、すでに陽はかたむいているようだった。

 眼鏡をかけなおし、あぐらをかいて座ってから第一にしたのは、書生袴のすそをゆるめてそっと下腹をたしかめることだった。
 幸いにも夢精はしていなかったが、彼はやるせない思いでため息をついた。

(もうさすがに克服するよ、そりゃあね)

 六年前のあの日から、夜に何度この夢をみて下穿きを白く汚したことか。いまではめったにそんなことはないので、夢にも耐性はつくらしかった。



299:春の夕べの夢醒めて〈上〉 ◆ncmKVWuKUI
09/03/07 14:39:10 WqGR54LQ

 が、すぐに彼は落ちこんだ。
 精を漏らさなくなったというだけで、いまだ数日に一度はこの夢に悩まされているというのに、よく克服などと言えたものだ。

(この夢を見るうちは、思い切れてないってことなんだろうな……
 夕華さんのこと)

 初体験が鮮烈すぎた。そう思う。精通と童貞喪失が同時で、しかもそれを初恋の相手ですませてしまったのである。
 男としてこれ以上望めない初体験だったのかもしれないが、いろいろと後に影響がのこっている。
 幸せすぎる一瞬の記憶は呪縛にちかい。

 重くこびりつく懊悩を頭からはらうように、首をふる。喉が、からからに渇いていた。
 畳から動き、庭下駄に足をつっこんではしごを降りる。
 土蔵のすみに置いてある柄杓つきの甕(カメ)に身をかがめ、京介はくみ置きの井戸水を口にした。

 いきなり蔵の木戸が開き、日光と怒声が同時に入ってきた。

「こんなところで何時間つぶしているのよ!」

 蔵に踏みいってきたのは、小柄な女性だった。
 姉の柿子である。ことし女学校を卒業したあと、こちらに帰ってきている。
 やはり、さっき目が覚めたのは姉に名を呼ばれていたからだろう。
 「なに、カキ姉ちゃん」と寝ぼけまなこでつぶやいたとたん、また怒鳴られた。

「おじい様が主催する夜桜観賞の会があるでしょ!
 四時までに用意しなさいと言ったでしょうが! 着替えもせずなにのんびりしているのよ」

 言われてよく姉を見てみれば、自分と同じふわふわのくせ毛をきちんとセットしており、化粧もととのえている。
 なにより服装が、千鳥格子のキャミソール風白ワンピースに桃色のカーディガンをはおり、足元はバレエシューズという、可愛らしさを前面に出したいでたちだった。

 カジュアルとはいえよそ行きの服を着た姉を見て、頭が急にしゃっきりした。

「あ……ご、ごめん、そうでした。
 でも田中さんに頼めばすぐに向こうに着くよ」

 運転手も兼ねてくれる家令の名をあげたが、「おじい様のお供でとっくに出てるわよ!」と一刀両断される。
 顔立ちがよく似ていると言われる姉弟だが、気質はかなり違う。

 京介がモルモットなら、柿子の性格は猫だった。それも猫同士喧嘩させれば町内制覇しかねない種類の。
 愛らしい少女と評される外見に、服の趣味だけでなく中身も同調させてほしかったとは京介のひそかな慨嘆である。殺されるので言わないが。



300:春の夕べの夢醒めて〈上〉 ◆ncmKVWuKUI
09/03/07 14:39:56 WqGR54LQ

「そ、それなら僕のバイクに二人で乗ればいいよ」

「それでもいいけど……あんた本気で寝ぼけてたのね?
 ったく、その髪見ればわかるわよ。どうせ疲れて寝てたんでしょ。土蔵の整理なんかに根をつめすぎなのよ」

 柿子が四方の壁を見回した。
 蔵の一階は、三間四方の広さがある。壁ぎわには古い桐のたんすが何個か置かれ、冊子や古紙が分類されて引き出しにおさめられている。
 以前は乱雑につみあげられていたそれを、ある程度まで分類・収納しなおしたのは京介だった。まめな性質なのだ。

 柿子が嘆かわしげに息を吐いた。

「子爵様でしょ。あんたにこんな雑事を押し付けたのは。
 まったく、渋沢家の嫡男が京口家のことを優先しないでよ」

「ちがうよ。子爵様に頼まれたのは資料を探すことで、蔵の整理は僕がついでにやってるんだ」

「どっちにしてもうちのイベントを忘れてまでやることじゃないわ。
 学生服でも普通の服でもいいから早く着てこい! いっそもう、その服でもいいわよ」

 京介が身につけているのは、木綿の襟なし白シャツに筒袖長着に、馬乗り袴。足に白足袋。
 いわゆる書生の格好だった。
 馬乗り袴は股が分かれているのでバイクに乗れないことはないが、和装でそんなことをするのはいまどき僧と不良くらいである。

「いや、着替えるよ。寝癖直して上着とジーパンとってくるからちょっと待ってて。五分ですませる」

「もうちょっと待つから、一応それなりの格好してきなさい。
 言っとくけど夕華も来るからね」

 目をこすっていた京介は凍った。
 がくぜんと柿子を見、呆れた顔をそこにみとめて声をおもわず高くする。

「なに、それ!」

「なにがなにそれ、よ。
 こっち帰ってきたばかり、土地の集まりになるべく顔出そうとしているのはあたしだけじゃないわよ。行こうって誘ってきたのはあっちだしね」

「だ……だって子爵様は」

 夕華の父親である京口子爵は、わが家からは出席予定はないと言っていた。
 だからこそ、京介は観桜会のことをあまり気に留めないでいられたのだが……
 口ごもる京介を前にすっと一瞬目をほそめた柿子は、「ま、とにかく」と告げた。


301:春の夕べの夢醒めて〈上〉 ◆ncmKVWuKUI
09/03/07 14:50:02 WqGR54LQ

「そんな改まったイベントじゃないにしても、この期におよんでキャンセルしたらだめよ。ほら、急いで身支度してきなさい」

「ちょっと待って、そんないきなり、」

「その寝癖も早いとこなおさないとねえ」

 蔵の壁にかけてある時計をあおぎ、京介はうなった。
 「待ってて!」と、蔵をとびだして母屋のほうに駆けだす。
 その背中を柿子の声が追いかけてきた。

「十分あげるから」

「十五分!」

…………………………
……………
……

「だって前もって夕華が来ると言ってたら、あんた当日までにいろいろ理由さがして欠席しそうじゃない。
 だいたい、寝すごして身だしなみ整えてなかったのは自業自得でしょ」

 なんで早く教えてくれなかったとぐちぐち文句をいう京介にこたえて、それが柿子の言い草だった。
 メットをかぶりバイクを走らせている最中である。後ろを振り向いて見られるわけではないが、後部に乗った柿子がすずしげな顔をしていることは間違いない。
 京介は苦虫をかみつぶした。

 大急ぎで着替え洗顔ハミガキ髪なおしコンタクト装着をどうにか終え、免許をとっていくらもないバイクに飛び乗って急発進させたのである。
 ほんとうのところ柿子のいうとおり、夕華と顔を会わせることには気がすすまなかった。
 それでも会わざるをえないなら、せめて身だしなみは完璧にしておきたい。十五分いっぱい使ったが、それでもまだぜんぜん足りない気分だった。
 柿子に言うと「まるで禊(ミソギ)だわね」と呆れられるだろうが、シャワーも浴びて蔵のほこりを落としておきたかったくらいである。

 いまは鴨井川にそった道路を、上流の神社のほうにむけてバイクで走っている。
 対岸のほうに坂松市の旧市街が広がる。ここからも見える小高い丘のふもとには城跡があった。
 維新後に市の中心地は西岸にうつり、東岸はさびれた感がいなめない。

 市外から来る人は、坂松藩三万二千石の城下町ときいて伝統ある建造物などを期待するらしい。
 が、残念ながら旧市街の大半は維新期の大火になめつくされており、残っているものは数少ない。
 観桜会のひらかれる神社は、大火に呑まれずにすんだ古い場所のひとつだった。


302:春の夕べの夢醒めて〈上〉 ◆ncmKVWuKUI
09/03/07 14:50:54 WqGR54LQ

「ねえ、あんたこのごろちょっとおかしいわよ、家を継ぐのは考えさせてとか言い出したり。
 なにより、なんであの娘を避けるのよ。
 わたしと夕華がこっち帰ってきてからもう数週間よ。それなのに、なんでずっと会おうとしないわけ」

 朱塗の大橋をわたって東岸を走りはじめたころ、柿子が訊いてきた。

「またその話か。
 知人が帰ってきてたら、家まで会いに押しかけないといけないの? とくに連絡がきてもないのに、わざわざ行く気にはならないよ」

「薄情ね。あーあ、夕華かわいそ。あの娘は六年間、帰省のたびあんたの顔を見にうちに来てたのにね」

「違う。姉ちゃんはなにもわかってないんだよ。
 それにあっちからだってもう来てないんだからさ」

 正直に言えば、つらいのだ。会っても、二言三言交わし、それであとは会話もつづかなくなるのがいつものことだ。
 距離が年々、遠ざかっているのが感じられてしまう。
 いや、こちらからは怖じて話しかけられないというだけだが、あちらはこっちのことをもう、ほとんど気に留めていないだけのことだろう。
 それでも、六年間も帰るたび会いに来てくれていた。忘れていないと示してくれた。十分すぎると思う。

 幼なじみとしての縁があって、何かの間違いで契りをむすべたが、もともと恋人でさえなかった。
 このまま、たまに顔を合わせれば久しぶりと挨拶する程度の「旧知の他人」になっていくだけのことだ。
 泣きたくなってくるほどの心のうずきをこらえて、京介は平静をよそおった。

「あちらがもう来る気がなくなったんだったらさ、それはそれでいいじゃん」

「ああ、ごめん。
 こっち帰ってきたてのころ、夕華うちに来ようとしたんだけど、たまにはあんたのほうから来るのを待ってみようとあたしが勧めてた」

 このクソ姉貴。

「それこそなんで黙ってるんだよ、そういうことなら挨拶ぐらいしてきたよ!
 早目に言ってよ! 僕はいいとして失礼だろ、お嬢様にっ」

 恭介はがなった。まだ縁が切れていないと知って、感じてしまった喜びをむりやり吹き飛ばすためでもある。
 メット越しの怒りの声に、「あんたが自分から行くのか確かめたかっただけよ」と柿子は答えた。
 なんでそんなこと、と京介が訊くよりまえに彼女は眉をひそめる。

「それよりお嬢様て……とうとうあんたまでそんな呼び方を。
 それはやめなさいよ、あんたが夕華をお嬢様と呼ぶのは」

「あ、つい……
 でも、姉ちゃんはずっといっしょにいたから気安く接してるんだろうけど、ここらじゃたいがいの大人は『京口のお嬢様』か、夕華様と呼んでるよ。
 タバコ屋のおやじさんみたいなお年寄りは、領主の姫様と呼んでるし」


303:春の夕べの夢醒めて〈上〉 ◆ncmKVWuKUI
09/03/07 14:52:04 WqGR54LQ

「姫ときたか、アホかいな。
 このご時世になにが姫よ。いまだ帯刀して歩いてる連中よりお笑いぐさだわ。
 だいたいあの娘の家は元・大名じゃなくてその家老よ。地域一の名士づらしているのは、維新のどさくさで主筋の龍円寺家を攻めつぶして栄達したからでしょうが」

 もっとも軍資金を融通したのは渋沢屋のご先祖だけどね、と柿子はつぶやいた。

「もともとあっちの家とはつるんで悪事やった間柄よ。あっちがその悪事で爵位さずけられ、こっちはもらわなかっただけじゃない。
 公の場に出たら儀礼は守るけど、それでもないのにうちがへりくだる必要がどこにあるってのよ、この四民平等の世で」

 と、それが柿子の口上だった。
 そのへんの事情は、京介も知ってはいる。

 坂松藩主の龍円寺家は、維新のおり新政府に反抗した。
 対して、ときの京口家の若い当主、為友はすみやかに新政府支持をきめた。
 かれは平民やならず者の下級武士を金で雇い、武器を与えて一軍を組織し、主家および他の多くの家臣たちと戦端をひらいて、寄せあつめと言われた兵でこれを破ってしまった。
 そのまま藩主を城に追いこんで囲み、城の出入り口をことごとく外から閉ざし―……

 京介は遠くの城跡に目をやる。
 坂松城の天守閣は、いまでは焦げて黒くなった石組みしか残っていない。百五十年前、京口為友が火をかけて焼いた。

 坂松城が炎上したおり、山をふきおりる強風にあおられて火は城下町に飛び火し、鴨井川の東岸は煙火さかまく炎の海となった。
 西岸に逃げてきた人々は、対岸の燃える城と家々をながめつつ、口をきわめて為友を鬼蛇の類とののしったと伝わる。
 新政府から功をみとめられた為友は、発足したばかりの警察に志願した。維新直後に何度もおきた一揆をくりかえし鎮圧し、子爵にまで上っている。
 主君弑逆および民衆への強硬な態度もさることながら、怨嗟の声をよそに平然と地元の屋敷に帰ってきて住んだあたり、よほどにずぶとい神経の男だったようだ。

 一世紀以上昔のことだ。本気で京口家を憎むものとて今はおらず、歴史の一部になりつつある。

「とにかくお嬢様だの姫様だの、そんなふうに呼ぶのはやめなさい。
 あんたは京口の使用人じゃないのよ。
 それ以前に、あんたが夕華に面と向かって言ったらあの娘むくれるわよ。ほかの旧友のことでさえ『みんな帰省のたびどんどん堅苦しくよそよそしくなっていく』って何度愚痴られたか」

「優しい人だからね」

「……その反応、なんか違わない?」

 呆れた声を柿子が出したが、京介はメットを装着した頭を軽く横にふった。

「やっぱり身分ってものは軽くないから。
 みんな子供のうちはともかく、大人になったらわきまえるようになるのはしょうがないよ。
 優劣とかじゃないけどさ。きちんと区別はつけたほうがいいし」

「あのねえ……そんな考え不毛なだけよ。当人が区別されたいとか思ってないのに」

 柿子が何かまだ言っているが、京介はこのあたりの意見はゆずる気がない。
 かれや柿子自身、家の使用人からは「若旦那様」「お嬢様」と呼ばれる身であるが、渋沢家はしょせん商家である。
 姉は「四民平等の世」とは言うが、やはり厳然として、華族は平民より格上という意識はいまだ社会にあった。


304:春の夕べの夢醒めて〈上〉 ◆ncmKVWuKUI
09/03/07 14:52:50 WqGR54LQ

 なにしろまず数が少ない。
 全国の爵位持ち華族の総戸数は、八百戸に満たない。この百年であらたに叙爵された家もそこそこあったが、断絶して消えた家もあるのだ。
 増減をへて、華族籍にある者は現在は九千人。人口一億をこえるこの国で、比率としては一万人に一人以下。
 しかもその大半が帝都に集中している。必然的に、華族は田舎ではそこそこ希少な存在なのだった。

 であるからには、平民から「貴種」に向けられる視線にはやはり今なおあこがれがある。
 たとえ先の大戦後の改革によってさまざまな特権をはぎとられ、華族の多くが経済的に困窮していたとしても。

 市街地を通りぬけ、田園ひろがる郊外にさしかかったころである。
 背中の柿子がまたちょっかいを出してきた。

「ねえ、京介、まえから訊きたかったけど。
 あんた隠してることあるでしょ」

 反射的に「そんなことはない」と言いかけて、京介は判断を変えた。

「そりゃあ、もうすぐ十七って歳になれば秘密くらい誰にでもあるよ」

 流したつもりだったが、柿子は容赦なかった。

「なに大人ぶってんの。言っとくけど歳相応かそれ以下にガキっぽいわよ、あんた」

「…………ははっ、そう……」

 もとからきわめて辛口の柿子だが、なんで今日はこんなにつっかかるのだろう。
 この姉のことなので、自分を怒らせて口喧嘩に持ちこみ、なにか情報をつかもうという目論見かもしれない。挑発は無視するのがよさそうだった。
 むくれながらも言い返さずこらえてハンドルをにぎりしめ、

「このまえ一週間だけ女いたでしょ、あんた」

 横転しそうになった。

「あっぶないわねえ! ちゃんと運転しなさいよ!」

「なんでそんなこと知ってるの!? だれがしゃべった!」

「田舎の城下町なめるんじゃないわよ、うちや京口家のことならたいてい老人どもの茶飲み話の種になってるわ。
 うわさ話に出る当人たちの耳には意外と届かないもんだけど、知ってる人は知ってるわよ。
 同級生に告白されて付きあって、すぐ破局したんだってね」

 精神的なよろめきが大きく、バイクを止めて道端でゆっくり落ちこみたいという欲求にかられる。
 京介はげっそりとつぶやいた。

「……最悪」

「まあ、わからないでもないわよ。時期聞いたら、夕華がとうとう見合い受けて婚約したって話が流れてたころじゃない。
 あんたヤケにでもなってたんでしょ、目に見えるわよ。
 あのね、あのお見合いは不意討ちでセットされたもんだから」

「知ってるよ。雅楽の演奏会に出席させられて、そのまま離れの小座敷で対面、だろ」


305:春の夕べの夢醒めて〈上〉 ◆ncmKVWuKUI
09/03/07 14:53:47 WqGR54LQ

「そうよ。わたしも連れだって行ってたから、演奏終わってから夕華が耳打ちされたときのこと憶えてるわ。
 『あ、やられた』とつぶやいてドナドナよろしく曳かれていったわよ」

「あは……」 

 京介は苦く笑った。
 人のことをいちいちほじくりかえして触れ回る田舎のネットワークを嫌がりつつも、それが夕華の話なら聞かずにはいられなかった自分への嘲笑である。

「あんたに保証してあげるけど、あの娘、婚約する気なんてないから。
 けど、あたしと逆で悪意ってもんを人にほとんど抱かない娘だから、適当に相手の顔を立てて談笑もして、のんきにお菓子まで食べてきてるわけ。
 いつものペースで応対してただけなんだけど、『これは脈あり』と相手に思わせちゃったのよ。あの娘の欠点といったら、まあ欠点ね。
 ところで、夕華の婚約がデマだったと知ったから、出来たての彼女とすぐ別れたの?」

「違うよ」

 いきなり最後に来た意地のわるい質問を、京介はきっぱりと否定した。
 もっとも、別れた本当の理由も褒められたものではなかったが。

「ま、そうよね。あんたいろいろ駄目な子だけど、そういう子じゃないし」

 幸いにもそこで、姉はその会話を打ち切ってくれた。
 京介はほっとする。自身で公言しているとおりナチュラルに性格の悪い姉も、さすがに奥の奥まではあえて踏み入ってこないようだ。

 川面をわたって吹き付けてくる風を切り、土手上の道にバイクを走らせる。すぐ神社には着くだろう。
 懐古の情をさそわれたのか、柿子がしんみりとつぶやいた。

「七年前かしら、みんなで最後に行った七夕祭りの日。
 早く来すぎて退屈して、神社から離れて子供みんなこのへんで遊んだわね」

 京介はちらりと川に視線を投げた。市街地の上流のこのあたりはむかしと変わらず水が澄み、岸につらなっ愛らしさがたりん。可愛らしさが」
「何それ…」
「それどころか色気もねぇし恥じらいも無い。そんなんに「先輩」とかいわれてもドキドキ…」
ここまで言ってアイツが俯いてるのに気付いた「どうした?」と聞くも「別に、何でも無い」とか言ってくる
挙句に「何か、うん、何かもうほら、あれだから。帰るわ」
とかわけのわからん事言って帰っちまった
部活の最中だってのにわけのわからねーやつだ。まったく…
後輩達に俺のすばらしき作品を見せてやるつもりだったが予定変更
カバンを引っつかんで適当に挨拶して美術室を飛び出し、アイツを追いかける
別に心配ってわけじゃない。ただ昔からアイツに何かあったら俺がどうにかする決まりなだけだ
義務ってわけじゃないがそうしないとなんかこう、落ち着かないだけだ
別に言い過ぎたことを気にしてるわけじゃない。ただ謝っとかないと後でめんどうだと思っただけだ
落ち込んだアイツは立ち直りが遅いからな。別に落ち込んだままでもいいんだが。別に

しかし何であいつ美術部に入ったんだ?いつも俺の絵見てるだけで描いたりしないのに
いや、そんな事より今は追いかけないと
ああ、めんどくさい。年下の幼馴染なんて持つべきじゃない



深夜のテンションで書いたから読み辛さとかは気にしない
別に気にして無いんだから!

306:名無しさん@ピンキー
09/03/16 03:54:54 sJ7CQF8x
あっはっは
いいじゃないか!

307:名無しさん@ピンキー
09/03/16 20:12:04 rOrFsgi/
よし!気にするな!
俺も気にしてない。

308:名無しさん@ピンキー
09/03/16 20:49:53 vKU5Tbw8
>>337
しかし年下幼なじみ設定ってまとめには少ないよな
それがちと残念

309:名無しさん@ピンキー
09/03/16 23:19:29 imcElEPb
紗枝がいるじゃないか。

310:名無しさん@ピンキー
09/03/17 02:18:51 FllAYlhC
個人的には十分神ですが
続きはまだですか!?

311:名無しさん@ピンキー
09/03/17 02:19:59 FllAYlhC
>>325あてな
いや、全部好きだけど

312:名無しさん@ピンキー
09/03/17 21:01:01 xOdpNPKI
>>338
> ただ昔からアイツに何かあったら俺がどうにかする決まりなだけだ

このフレーズ好きだ。

313:名無しさん@ピンキー
09/03/18 01:11:38 qy+YAb3z
とても仲の良い幼馴染み同士。家は同じアパートの隣同士。
学校でも家でも常に一緒。お互いの両親の仲もすこぶる良好。
ある日、親達だけで遊びに出掛け、二人で留守番してると、彼女に初潮が来て―



みたいなシチュって良いよね。

314:名無しさん@ピンキー
09/03/18 08:48:29 GZzWGcsM
夕華さん来ないかな

315:名無しさん@ピンキー
09/03/18 23:44:26 eZkB8kxd
325です。
予定ではホワイトデーにあわせて投下のつもりだったとか自分でももうね\(^o^)/
それでは続きを投下させていただきます。


「あ、にいちゃんだ」
帰り道、駅前のスーパーを出た所で声をかけられた。
「舞子。……と、凪子ちゃん」
妹とその友達だった。
「……こんにちは」
「あ、あー、うん。凪子ちゃんもひさしぶり……」
沈黙。
すげえ気まずい。
この、妹の幼馴染みの凪子ちゃんという女の子は非常に無口な性質なのである。
俺も同年代の女の子と軽口を叩ける性格ではない。
これでも昔はもう少し気安い仲だったのだが。妹とは小学校に上がるか上がらないかの頃からの仲良しだし、
その縁も合ってウチにはよく遊びにきていたし、一時はしょっちゅう泊まりに来るくらいだったから、
俺も妹が出来たみたいで楽しかったし、可愛がってもいたのだが。
……女の子は大きくなると扱いが難しいよなあ……。いや俺もうっかりデリカシーに欠ける事ばっかりやらかしたんだが。

「にいちゃん、今日晩メシなにー?」
「おまえいきなり聞くのがそれか。……んー、昨日の残りのおでんと、鯖の煮付けだな」
えー、魚ー。と不満そうな妹を軽く小突く。
「ちゃんと晩飯までに帰って来いよ。あと凪子ちゃん一人暮らしはじめたからってあんまり入り浸るなよ迷惑になるだろ」
「はーいはいはい!わかってるって!凪子、行こうっ」
妹が凪子ちゃんを引っ張ってどんどん歩いていく。
ったく、仕方がねえなあ。
妹達を見送って、家路につく。
……凪子ちゃんも夕飯に誘えばよかったかな。
最後にこっちを振り返ってぺこりと頭を下げる彼女を見ながら、そんな事を思った。

316:名無しさん@ピンキー
09/03/18 23:45:53 eZkB8kxd
夕食後、後片付けを終えて自分の部屋に戻り、机の引き出しをあける。
俺の目の前には爆弾がある。
最も爆弾の中身はもうない。迷ったが喰ってしまったからだ。
なので、あるのは包み紙だけなのだが、爆弾としての威力はまだまだ充分持っている。
……ような気がする。
一ヶ月前のバレンタインに、妹の友人の女の子……、凪子ちゃんから渡されたものだ。

―女の子が、泣きそうな顔で『捨ててください』ってバレンタインに渡してくるってどういう意味なんだろう。
普通の義理チョコってわけでも無さそうだし、本命というのはもっと考えられない。
今まで義理でも貰った事なんか無かったし、凪子ちゃんにしてみりゃ俺なんか兄貴みたいなもん……、
っていうか、昔「お母さんみたい」ってはっきり言われた事あったしなそういや。
……そもそも、自分が女にもてるタイプではない事は悲しいが自覚している。
顔は丸顔だし、たまに中学生に間違えられる。童顔なのは確かだが、別に美少年というわけではない。
眼は細いし、鼻は少々上向き加減だ。背も高くないどころか平均に届かないし、体つきも逞しいわけではない。
かといって芸能人やモデルのようにスラリと細身というわけでもない。
特別運動が出来るわけでも無いし、成績だってさほど良くは無い。
何か変わった特技があるわけでも、性格が人格者というわけでもない。
俺を一言で表すならば『地味』の一語につきるだろう。

凪子ちゃんはかわいい。
一見、愛想なしでとっつきにくそうに見えるが優しい子だし、妹によると学校の成績もいいらしい。
俺の前だと滅多に笑わなくなっちゃったが、たまに笑顔になると本当に可愛いのも知っている。
そんな子が俺に特別好意を抱くわけが無い。
一応、お互いチビの頃からの顔見知りではあるが、凪子ちゃんにしてみりゃ俺は只の親友の兄貴なわけだし。
しかもここ数年は思いっきり避けられてるし。
詰まるところが俺の自意識過剰。きっと本当にただの義理以下チョコ。

317:名無しさん@ピンキー
09/03/18 23:46:53 eZkB8kxd
捨てるよりは俺のほうがマシだと思ってくれたという事なのだろう。
そういう事で、こっちも軽い気持ちでお返しすればいいだけの話なのだが。
「……あーっ、もう。どうしたもんかなー……」
問題は。
俺がチョコ一個で1ヵ月以上も動揺し、無理な深読みをしたくなるくらいには凪子ちゃんの事が好きだということだ。
「……我ながら、情けないっていうかキモいっていうか……」
『女々しいという言葉は男のために作られた言葉だ』っていうのは本当だなあ。
しかも材料だけは買ってるあたり自分でも本当に煮え切らなくて嫌だなあと思う。
「……うううう」
ごろごろごろ。
しばし床の上で転がる。
「あああ、くそっ!とにかくやるしかないか!」
どういう形にせよ、バレンタインにもらっておいてお返し無しというわけにも行かないだろう。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

3月14日。今日も今日とて伊庭家の朝が来る。
午前6時30分
起床。向かいの妹の部屋からも目覚まし時計が鳴り響くのを聞く。
午前6時45分。
身支度完了。ヒゲを剃る時に少しアゴを切ったので絆創膏を貼る。
午前6時50分。
朝食の支度をしつつ、2階の妹の部屋から目覚まし時計の音が止まったのを確認。
焼きあがった玉子焼きが落ち着く時間を使い、妹の部屋の前から扉越しに声をかける。
「舞ちゃん!7時10分前!」
扉の向こうからうおおともうごおとも付かない地を這うような呻き声がきこえる。
午前7時00分。炊飯器のごはんが炊き上がる。
階段の下から大声で妹を呼ぶ。
「舞子ー!7時になったぞー!」

318:名無しさん@ピンキー
09/03/18 23:47:58 eZkB8kxd
午前7時10分。味噌汁にネギを加える。味は上々。
妹の部屋の扉をガンガンとノックする。
「舞!起きろ!」
午前7時15分。
母の仏前に炊きたてのごはんを供え、手を合わせる。
そのまま軽く仏壇の掃除。
午前7時25分。
「さっさと起きろやああああああ!!!」
妹の部屋に乱入。カーテンと窓を全開放。ベッドの上の蓑虫を、布団の端を持って床に振り落とす。
「さぶ、寒っ!?なにここどこ?私はさっきまで南の島に」
「寝惚けんなあー!」
思いっきり頭をはたいてやるとそれで覚醒したらしい。
「おわー!?なになんで1時間も時間進んでんの!?タイムスリップ!?私ってば時をかける少jyおべぶ」
「……呑ッ気に現実逃避してる場合かあっ!さっさと支度しろメシできてんぞ!」
「ちょ、何もアタマ踏む事無いじゃんバカお兄いっ!!あんまり叩くとバカになるんだぞっ!?」
「どう考えても手遅れだろこのバカ愚妹。早くしろ、かーちゃんにちゃんと手は合わせろよ」
そう言い捨てて部屋を出る。
背後から悲鳴が聞こえたがもう知らん。
自分の分の朝食を食べ終わり、食器を洗う。
食べてる間にちゃんと鈴の音が聞こえたから、一応かーちゃんに朝の挨拶だけはしたらしい。
うん、舞はバカタレだがこういう所は偉いな。
「うわああああん兄ちゃあああああん、アタマやってええええええ!!」
……前言撤回。
「一人で身支度できねえような髪ならもう切っちまえよ坊主にでもしろ」
「できるよ!ちゃんとできるけど、今日はそれしてたら顔が間に合わないんだよう!」
「スッピンで行け!スッピンで!スッピンかおどろ髪かどっちかで行け!」
「無茶いうなあ!それ女の子にとってはパンツ一丁で外歩けってのと同じ意味なんだぞう!」
あーもう面倒くさい!
「あっ、なんでお団子にするのさ。今日はゴージャスめな巻き髪の気分なのに」
「毟るぞ」
「ごめんなさい」

319:名無しさん@ピンキー
09/03/18 23:48:49 eZkB8kxd
サクサクとお団子に結い上げてやり、飾りの付いたヘアゴムを付けてやる。
「おー……、やっぱ兄ちゃん上手いなあ」
「煽てても何も出ないぞ、それよりとっととメシ喰え」
慌てて朝食をがっつきだす。
ああそうだ、コイツに頼みたい事を忘れる所だった。
「舞子、お使い頼む」
「ん? お使い?」
「これ、凪ちゃんに渡してくれるか」
包みをみるなりニヤリと笑みを見せるバカ愚妹。
「……ほほう?ほーほーおーう? 凪子に? 兄ちゃんから? ふふーん?」
そのニヤケ面やめろ。
「この可愛く美しく賢い妹さまならー? ヘタレ兄のお願い聞いて渡してあげてもいいけどー? それには条件がありましてよ?」
「オマエもう本当調子に乗るな?」
「痛たた痛い、いだだだだだだ。ちょ、お兄様やめてマジやめてウメボシやめていたいいたい」
額を押さえてぶーぶー文句を言ってくる舞子。……仕方が無いな。
「なあ舞ちゃん、ちゃんと兄ちゃんの言う事聞いてお使いできたらな? 今日の晩飯はコロッケとメンチカツにしてあげよう」
「引き受けました兄上様。全てこの妹にお任せくださいませ」
コロッケコロッケー♪ と嬉しそうに歌いだす。
……我が妹ながら安上がりな女だよなあ……。兄ちゃんちょっと心配になったんだが。
あ、そうだ。
「そういや舞子、お前はお返しとかしなくていいのか?バレンタインに結構な量もらってただろう」
そうなのだ。
この妹はもてる。通っている学校が女子高なせいか非常にもてるらしい。同性に。
「ああ、うん。チョコくれた子には今日ほっぺにちゅーしてあげるの」
……女子高って……。
「それだけでみんな喜ぶのよ。フフフ、私の美しさってば罪ね!」
まあなんというか。
この妹は、こういう脳の湧いた発言をしてしまうくらいには美人なのである。
俗に男は女親に、女は男親に似るというが、ウチの兄妹の場合はまさにそれ。
親父は男の俺から見ても男前だし背も高い。会社の女の人にとてもモテるらしい。
俺たちの母親は7年前に死んだのだが、記憶の中でも、写真をみても、とてもではないが美人といえる顔立ちではない。
……というか、俺、だんだん母ちゃんそっくりになってきてるんだ……。
まあそれはともかく。
「舞、言っとくけど凪子ちゃんに余計な事言うなよ」
放っておいたら何を付け足して喋るかわかったもんじゃない。
「余計って何をさ? ……っていうか、これ包みだけ? なんか無いの兄貴の思いのたけを綴ったラブレターとか」
「アホ、バレンタインにもらったからそのお返しだ。凪子ちゃんのだってただの義理チョコだよ」
「……義理? 凪子が? にいちゃんに? ……まあいいけど」
「なに口の中でボソボソ言ってんだ舞」
「なーんでもないよー」
……引っかかる態度だなあ。まあ、ちゃんと渡してくれるんなら文句は無いんだが……。

320:名無しさん@ピンキー
09/03/18 23:50:14 eZkB8kxd
そしてまだ終わらない\(^o^)/
すいません、もうしばらく続きます。
今回はここまで。

321:名無しさん@ピンキー
09/03/19 00:00:45 H/rgrHsE
うおお続きが気になるぜぇーーー!!

君が!完結させるまでっ!
全裸待機をやめないッ!!

322:名無しさん@ピンキー
09/03/19 01:05:24 GGLjKErY
乙です
テンションあがってきた!

楽しみに待っておりますが、無理はなさらずに。

323:名無しさん@ピンキー
09/03/19 03:17:02 /nByDSjI
舞子の方に萌えてしまった俺は幼馴染萌え失格ですか
しかしこれは期待せざるを得ない

>>345
幼馴染物の醍醐味だよな。慣習化した二人の決まり
弁当とか起こすとか部屋で人間座椅子とか!!

幼馴染ってどこで幾らで買えるんですか…臓器売れば買えますか…orz

324:名無しさん@ピンキー
09/03/19 19:10:39 FW/rn1kI
>>356
臓器となったあなたは幼馴染の命の一部となって今も生きている(完)
ですね、わかります。

325:名無しさん@ピンキー
09/03/20 23:32:30 M+kocHt2
もう我慢ならん!幼稚園年中から一緒の幼馴染み(女)に告白してやる!大学まで一緒ってバカにしてんのか!……ま、そんな勇気があればもっと前にしてるんすけどねorz

326:名無しさん@ピンキー
09/03/20 23:42:58 yfw8Xj+O
そうですかがんばってくださいね

327:名無しさん@ピンキー
09/03/21 00:51:35 nBXd71Os
>>358
今しろ 直ぐしろ とっととしろ
たとえ駄目だったとしても、うじうじ悩んで過ごすよりいいじゃナイカ

328:名無しさん@ピンキー
09/03/21 01:33:48 uuobPTSN
360が良いこといった 解決終了 

>353
凪子ちゃんの性格がまだつかめないところが余計にwktk
早く本格的に出てきてほしい・・・

329:名無しさん@ピンキー
09/03/21 14:04:55 xRxtVpEU
最近幼馴染みSS読んでると青春もクソもなかった学生時代思い出して泣きそうになる。スゴい空しい

330:名無しさん@ピンキー
09/03/21 19:22:03 PmX5tPOZ
小学生の頃仲の良かった(そして好きだった)幼馴染みが知らん間に結婚してた。
出来婚とかwww



みたいな俺の様にならぬよう、リアルで幼馴染みが好きな奴は早めに告っとけ。マジで。

331:名無しさん@ピンキー
09/03/21 20:15:34 Y04PE2uA
リアルの話はvipなり他スレでどうぞ。そこでいくらでも聞いてあげます。

332:名無しさん@ピンキー
09/03/21 20:29:32 Y04PE2uA
>>345
『捨ててください』と言っていた
凪子ちゃんの受け取る時の反応が楽しみです。GJ!

333:名無しさん@ピンキー
09/03/21 23:41:52 iQ/sK6Uh
昔書いた幼馴染みモノっぽいプロットを発見したので。軽く前振り投下

小学生の頃一緒に道場に通っていた年下の女の子。
真剣な表情で武術の鍛錬をする少女。
同世代の練習生を容赦なく叩きのめす姿は優雅だった。
彼女は強かった。なんの迷いもなく、一切の躊躇を捨てた攻撃。
僕はそれを美しいと感じた。
他の子では相手にならないということで道場主の甥とである俺が組み手の相手をさせられた。
勝てなかった。僕のちっぽけな自尊心は簡単に踏み潰された。
倒れる間際に垣間見たガラスの様な瞳。その瞳は何も見ていないようだった。
数週が過ぎ僕は何とか彼女と対等に戦える程度には成長した。
僕の拳が初めて彼女を捕らえた。
その瞬間、彼女はかすかに   笑った。
…用に僕には見えた。僕は恋に落ちた。
それから稽古が終わった後に彼女と遊んだり話したりするようになった。
遠距離にすむ彼女とは毎日は会えない。
だから会える日は精一杯楽しんだ。
外での彼女は明るかった。年相応に明るく、ちょっとがさつで口が悪い。
割と世間知らずで駄菓子屋で大はしゃぎする、そんな普通の女の子。
このときの僕は彼女にその「一面」しか見せてもらえなかったんだなと、気づけなかった。

334:325
09/03/22 00:28:36 1ezu8eRA
武道少女はよいものです。
昔は少女のほうが強かったのに成長期に入って少年に追い抜かれて焦ったり、
悔しさに涙したり、凛々しい彼女の脆い一面を見て少年は動揺したりと……。
とにかく良いものです……。激しく期待しております。


とりあえず、続きです。凪子視点の話になります。
少しですが投下させていただきます。

335:325
09/03/22 00:29:30 1ezu8eRA
またちゃんとできなかった。
学校帰り、舞子と歩いていたらユウさんにばったり会った。
手にエコバッグを下げていたから、近くのスーパーでお買い物をした帰りなのだろう。
先月からずっと気まずかったから、ちゃんと挨拶したかったのに。
声が引っくり返ったりしないかとか、上手く笑顔になる事が出来なくて焦ったりとか、
日暮れ前の時間の挨拶はこんにちはで良いのか、こんばんはにするべきだろうかとか、
なにか気の聞いた世間話の話題は何かないのかとか、そもそも先月の事を問いただされたらどうしようとか。
そんな事が頭の中をぐるぐる駆け回ってるうちに、酷く愛想の無い声と表情しか出てこなくなってしまう。
私はいつもこんなのばっかりだ。
自分でも本当に嫌になってしまう。
いくらユウさんが苦手だからって、こんな風にならなくてもいいのに。

私はユウさんが苦手だ。
世話焼きな所も、家事が万能な所も、私を舞ちゃんと同じように扱う所も全部苦手だ。
―先月バレンタインにチョコを持っていったときも、私が作ったものより遥かに美味しい
チョコクッキーを逆にご馳走になってしまった。
本人はクラスメートに馬鹿な事をいうヤツがいて困るんだって言ってたけど、頼られる事そのものは嬉しそうだった。
そういう所も、私は苦手だ。
私が作ったチョコなんて、ユウさんのクッキーに比べたら酷いものだったし、渡さずに捨てようと思ったのに。
……送ってもらう事になった帰り道で、つい渡してしまった。
あんまり自分がみっともなくて恥ずかしくて、つい「食べずに捨ててください!」なんて言ってしまったし。
……そんなゴミを渡すみたいな言われ方したら、怒って当然だと思うのに。実際、私のチョコなんてゴミみたいなものだったし。
びっくりしてたみたいだけど、それでも『ありがとう』なんて言ってそんな物を受け取ってしまう、そんなお人よしな所も私は苦手だ。
…………本当に、苦手なんだ。


336:325
09/03/22 00:30:27 1ezu8eRA
「―じゃーねー、なぎこー。また明日ー」
うん。と肯いて舞子と別れて部屋に戻る。
駅前から少し歩いた所にある、よくある一人暮らし向けの賃貸マンション。
そこが、半年ほど前からの私の帰る場所だ。
制服のセーラー服を脱いで部屋着に着替える。
まずはお風呂を洗って、夕飯の支度をしなくてはいけない。
父が仕事の為、義母を伴って海外に行く事になった為、はじめた一人暮らしだったが未だに慣れない。
「……いたた」
冷蔵庫を開けたところでくらりと軽い目眩を覚える。
そういえば、夕方から少し頭痛がしていた。
今日の小テストの勉強のため、昨日少し夜更かししたのがいけなかったのだろうか。
私は元々頭痛もちなのだが、今日はいつもよりも酷い気がする。
「……きもちわるい……」
食欲などどこかに行ってしまった。いつも飲んでいる痛み止めと胃薬だけを飲んでソファーに横になる。
少し寒いが、まだ入浴していない身体でベッドに潜り込む気分にはなれなかった。
頭痛は嫌いだ。
痛みそのものもだが、こんなふうに痛み止めを飲んで横になると昔の嫌な夢をいつも見る。


ママが家を出て行ったときのこと。
親戚や周りの大人のヒソヒソ話。
冷たい眼。
『あの女にそっくりだ』
『この子もロクなもんにならん』
『見てみろこの生意気そうな顔』
『綺麗な顔だが人形みたいに陰気だな』

ぜったいにみんな見返してやる。見ていろ絶対にゆるさない。絶対にだ。


337:325
09/03/22 00:31:23 1ezu8eRA

「―――ッ!」
自分の悲鳴で目が覚めた。
寒い。
酷い寒気がする。震えが止まらない。
……風邪、だろうか。
体温計は……、ああ、そんなもの無かった。
時計を見ると朝の7時だった。あのままソファーで眠り込んでしまったらしい。
寒気に震えながら寝室のベッドに潜り込む。
携帯電話でどうにか学校に休む事だけを連絡する。
……寒い。寒い。
なにか胃に物をいれて薬を飲んで眠る。
風邪を引いた時にはそれが一番だとわかっているけれど、とてもじゃないけど出来そうに無い。
凄く眠いけど眠りたくない、またあんな夢をみるのは嫌、嫌だ……。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

夢を見る。
―ああ、ママがいなくなってすぐの頃だ。
一人で泣いている小さな私が見える。
頬を赤くして、声も出せずにしゃくりあげている小さな私。
―イライラする。泣いたってどうにもならないのに。
自分でどうにかするしかないのよ、そうするしかないの。
そう怒鳴ってやりたくなる。昔の私に聞こえるはずなんて無いのに。
泣き続ける小さな私の隣に座っているうちに、私まで子供のように泣きたくなってくる。
―もう泣かないって決めたのに、誰にも頼らない私でいたいのに。
気がつけば、夢の中の小さな私と同じようにうずくまって泣いていた。
ふ。と影が差す。
「……えっと、凪子ちゃん? どうしたんだこんなとこで」
隣にいた小さな私がくしゃくしゃの泣き顔になってしがみつきに行く。
―ちいさなわたしにとっての、誰より頼りになる割烹着姿のヒーローがそこにいた。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


338:325
09/03/22 00:33:24 1ezu8eRA

……携帯電話の電子音で眼が覚める。
部屋の中はもうすでに薄暗い。いつのまにか、夢現のまま1日がすぎていたらしい。
まだ覚醒しきれない頭で誰からなのかも確認せずに電話を取った。
『―あ、凪子ちゃん? 伊庭です、舞子の兄の。祐助です。舞から凪子ちゃん風邪だから差し入れ持って行けって言われて。
 ごめん、自分でも非常識だと思うんだけど、いま凪子ちゃんの部屋の前にいるんだ』
夢の中の声よりも低いけど、変わらない優しい声。
ユウさんの言葉をきちんと頭の中で咀嚼する前に。勝手に身体が動いていた。
『―果物とかヨーグルトとかレトルトのおかゆとか色々持ってきたから。ドアノブにかけておくから後で―って」
玄関ドアを開けると、びっくりした顔のユウさんがそこにいた。
やっぱり私はユウさんの事が苦手だ。
頼りたくないのに、誰にも甘えない女でいたいのに。
どうしていつもこの人はこんなに私を甘やかすタイミングで登場するんだろう。
そのままの勢いでユウさんにしがみつく。
珍しく、ものすごく焦った顔をするのを見て、ざまあみろ。と思った。



339:325
09/03/22 00:38:01 1ezu8eRA
今回のお話は以上です。


ようやくでてきた幼馴染みについて。

津田 凪子(つだ・なぎこ)
色々ギリギリイライラタイトロープ少女。
好きな食べ物はハッピーターンの粉。

340:名無しさん@ピンキー
09/03/22 00:39:52 MkOeu9Dt
リアルタイムGJ
凪子ちゃん可愛いよ
次回作wktkして待ってます

341:名無しさん@ピンキー
09/03/22 00:57:18 WFACFFzt
ktkr
超GJGJGJ
次回が楽しみで仕方ない

342:名無しさん@ピンキー
09/03/22 01:29:29 H8jOVv+A
素敵でござる

343:名無しさん@ピンキー
09/03/22 01:43:19 9AWox83x
>>372
好きな食べ物が、あの娘と同じだ
ひさびさに電話してみるかな

344:名無しさん@ピンキー
09/03/22 15:45:11 M21EpB9w
ええええ
ここまでなの?!

345:名無しさん@ピンキー
09/03/22 23:06:45 X5fUkDiz
>>325さん
GJです
>>366さん
期待してます

346:名無しさん@ピンキー
09/03/23 01:13:21 fuMzeqAF
夕華さんはまだかなー。

347:名無しさん@ピンキー
09/03/23 18:55:05 8xhBz4r/
>>379
ボルボックス氏は時間を掛けてフルコースをダーンと出すタイプだから次回は次スレとかザラ。
ゆっくりと待つのが吉。

348:名無しさん@ピンキー
09/03/24 00:20:53 6/zzLfa1
朝、登校中に走ってる幼馴染みとぶつかると言う黄金パターンに遭遇した事があるのが俺の自慢。


ただ俺は歩きで幼馴染みは自転車通学だったがな

349:名無しさん@ピンキー
09/03/24 03:07:20 oAUkeQff
春休みにはリアルを語るガキが増える…

ま、荒れるのもあれだしスルーで。

350:名無しさん@ピンキー
09/03/24 03:27:44 XvUIAmXQ
登校中にぶつかるのは転校生だろ。

351:名無しさん@ピンキー
09/03/24 10:20:53 UT7qLX3+
>>383
だな
で、教室で紹介されて「「さっきの!!」」てな感じで


352:名無しさん@ピンキー
09/03/24 10:28:14 aM0HuXxU
男「ぶつかり様に秘孔を突いた。お前の命も後三秒……」
転「ほぅ、ならば数えてやろう。ひとーつ、ふたーて、みぃーっつ!!」


353:名無しさん@ピンキー
09/03/24 10:56:13 dakmbzQS
補修

354:名無しさん@ピンキー
09/03/24 21:02:43 ITSLyKEt
>>385
媚びてくれないのかぁw


355:名無しさん@ピンキー
09/03/24 21:10:22 P318V3N8
幼馴染みとぶつかると言えば、入れ替わりフラグだろjk

356:名無しさん@ピンキー
09/03/24 21:33:15 aM0HuXxU
 幼馴染みと中身が入れ代わったけど、何故か感覚は共有。
 主人公が興奮しながらオナニーしてたら、幼馴染みが顔を真っ赤にして部屋に飛び込んで来る。

 そんで最後には、
幼「あの……私に男のオナニー教えて欲しいんだけど」
男「手で擦るんだよ」

幼「こう? 全然きもちよくならないよ?」
男「そうじゃなくて。貸してよ、一度やったげるから」

幼「ふああぁぁぁぁっ!!?」
男「ちょっと、ボクの身体で変な声を出さないでよー」
 と言いつつも、感覚を共有してるので男も気持ち良くなってくる。
 みたいなのも読んでみたいな。

357:名無しさん@ピンキー
09/03/24 22:01:28 jcWKz1M2
>>385
そんなノリのいい奴がいたら、即座に親友だぜw

で、だんだんすきになるんだけど親友のいちが居心地よすぎて勇気が出なくて、
でもやっぱり気持ちは抑え切れなくて・・・

358:名無しさん@ピンキー
09/03/24 22:18:28 aM0HuXxU
転「こんなに苦しいのならば、愛などいらぬっ!!」

359:名無しさん@ピンキー
09/03/24 22:58:30 b1QpxiLN
>390-391

流れが滑らかすぎて吹いたぞw


360:『お涙ちょーうだい』
09/03/26 17:03:09 TkMSPJWa
1
 あるところに幼馴染みの若い男女がおりました。
 男は何をやらせても完璧で、容姿も誰もが羨む格好です。
 女は何をやらせても不器用で、容姿だって人並みです。
 二人は気持ちこそ伝えていませんが、互いに愛し合っていました。

 そんなある日の夜。女は窓を開けて月を見上げ、「私がもっと可愛かったら、男と釣り合うのに……」と呟きました。
 するとどうでしょう。女が翌日に目を覚まして鏡を見ると、猫っ毛だった髪はサラサラのストレートに、一重だった瞳はパッチリ二重に変わっていました。その顔は間違いなく美しいのです。
 女は嬉しくなり、男に変わった顔を店に行きました。
 男は女の喜ぶ姿を見て、「良かったね」と笑いました。
 ですがその時、男の髪から艶は失われ、メラニン色素が抜けて色褪せていたのです。

 それから数日後、女は月を見上げて、「私の胸が大きかったら、男君にもっと見て貰えるのに……」と呟きました。
 するとまたしても、翌日に女の身体が変化していました。
 申しわけ程度だったAカップはEカップの巨乳に、くびれの少ないウエストは余分を無くして引き締まっていたのです。
 女はすぐに男へ見せに行きました。男は「良かったね」と微笑みました。
 ですがこの時、男の視力は極端に低下し、眼鏡やコンタクトを付けねば物を見る事ができない程になっていました。
 ですから女のセクシーな身体も、男には見えていなかったのです。

 更にそれから数日すると、女は街でスカウトされて、人気アイドルになりました。
 写真集は売れ、テレビ番組にも引っ張りだこです。あまりの急がしさに、男への想いも僅かに薄れて行きました。
 ついにはCDデビューする事も決まったのですが、ここで致命的な事が起こります。
 女は歌が下手でした。プロデューサーから何度も駄目だしを喰らい、次にスタジオインする時まで音痴のままなら、CDデビューは白紙に戻すと言われました。
 女はショックを受け、久し振りに男と会いたくなって、男へ会いに行きました。
 ですが男は会う事を拒み、電話越しに「大丈夫だよ」と励ましました。
 すると翌日には、女の歌は見違える様に上達し、CDもミリオンヒットを記録するのでした。
 女が男へと電話で感謝を伝えると、「良かったね」と明るい声が返って来ました。
 ですが低く凛々しかった声は枯れ、ガラガラの醜い音でした。


361:小ネタ『お涙ちょーだい』 ◆uC4PiS7dQ6
09/03/26 17:04:17 TkMSPJWa
2
 この時期になると、流石に女も気付きます。男は、女の願いを叶える力を持っていると。
 女はそれに気付くと、つまづく度に男へと連絡し、その度に乗り越えて行きました。

 しかし数年もすると、男に会いたいと言う思いが日に日に強くなり、ついに我慢できなくなって引退してしまいました。
 そして女は男に会おうとしたのですが、男は「こんな姿では会えない」と断ります。
 それでも女は会いたいと言います。女にはもう男しか居ないからです。抑え切れなくなり、「ずっと前から好き」と告白してしまいました。
 
 男は「何もできなくなった」と言います。
 女は「それでも好きだ」と言います。
 
 男は「格好悪くなった」と言います。
 女は「それでも好きだ」と言います。

 結局男が折れて、会う事を承諾します。
 数日後、女は男にきちんと告白しようと決めて、男の家に行きました。
 男の家の玄関に鍵は掛かっていません。女は不思議に思いながらも、男の部屋へ微かな記憶を辿って向かいます。
 そしてドアを開け、男の姿を見ると、女は驚いてしまいます。
 男は最後に会った日から、別人のように変わっていたからです。

 ベッドの上に仰向けで横たわり、髪の色素は完璧に抜けて白く透明に、
 右目の視力は失われて閉じられ、残った左目も僅かに細く開かれているだけです。
 呼吸も遅く小さく、身体は痩せこけて骨張っています。

 男は、自分を犠牲にする事で願いを叶える事ができるのでした。
 女は全てを悟り、泣きながら男に抱き着きます。何度も謝り、何度も「好きだ」と伝えました。

 しかし、男は限界でした。女の「会いたい」と言う願いを叶える為に、入院していた病院から退院して来たのです。
 医師も手の施しようが無かったので、死期を早める事になると分かっていても、男の意志を尊重して退院を許可しました。

 女は「男と一緒になりたい」と言います。
 男は「明日には死ぬから無理だ」と言います。

 女は「私も一緒に死ぬ」と言います。
 男は「生きて幸せになれ」と言います。

 男は女の幸せの為に身を削って来たので、女には人生を全うして欲しかったのです。
 こんな男一人の為に、残りの長い人生を捨てて欲しく無かったのです。

 ですが、女は「それなら……」と、「男との子供が欲しい」と言いました。
 男は勿論ことわりましたが、女に「お願い」と言われて、叶える事にしました。
 この願いを叶えた瞬間、自分は死んでしまうと感じ取れます。


362:小ネタ『お涙ちょーだい』 ◆uC4PiS7dQ6
09/03/26 17:05:29 TkMSPJWa
3
 女の顔は美しく、女の身体は官能的でした。
 処女でしたが、必死に男の上へ跨がり、挿入して、腰を振りました。
 そして男の精が中へと注がれた瞬間、女は気絶して男の上に倒れてしまいました。

 翌日、女が目を覚ますと、男の姿は有りませんでした。
 それどころか、男の私物さえ有りません。部屋にはベッドだけでした。

 不安になり女は、学生の頃の知り合いに男の事を聞いて回ります。
 ですがみんな、「そんな男は知らない」と言います。
 女は気付きました。この世界から、男の存在そのものが消えていたのです。
 男が存在するのは、女の思い出と、日々重さを増してゆくお腹の中。

 女は静かな田舎に庭付きの一軒家を買い、そこで、産んだ三つ子を一人で育てる事に決めました。
 沢山の男からプロポーズされても全て断り、大変でも子供達の世話を一人で行います。
 そして子供達に、男の事を自慢気に語って聞かせるのでした。
 やがて子供も大きくなって子供を産み、家から出て行きます。
 たまにやって来る孫達へ会うのを楽しみに、男の自慢話しするのを楽しみに、静かに一人で暮らします。

 そして数十年後。女にも寿命が来ました。
 暖かな春の夜、庭には桜の木が綺麗に咲いています。
 女は座敷で布団に横たわり、三人の子供と、十人の孫と、二十人の曾孫に囲まれて、天命を終わらせようとしていたのでした。
 家族みんなに好かれ、みんな涙を流して泣いています。明日までもたないとみんな分かっているのです。

 女も自らの最後を感じ、最後に全員の顔を見ようと視線を周りに向けました。
 そして、開かれた障子の奥、桜の木の前を見た時、ビクリと身体は固まってしまいます。
 心臓は高鳴って熱を持ち、無意識に声を絞り出させるのです。
 庭に居たのは男でした。若い昔の姿で、微笑みながら女へと近付きます。

 女の家族達は突然現れた男に驚いて動けません。
 ただ一人、小さな男の子だけは男の前に立ちはだかり、「連れて行くな」と睨みます。
 しかし、その男の子の頭に手が置かれ、「ゴメンね」と声が掛けられました。
 男以外、みんな驚いています。
 なぜなら、歳老い死ぬのを待つばかりだった女が、立ち上がって手を置いたからです。
 女はそのまま男へと歩んで行きます。家族達は「行かないで」と叫ぶのですが、女は「ゴメンね」と言いながら歩みを止めません。
 一歩進む度に若返り、男と触れる距離まで近付いた頃には、最初の願いを叶えて貰う前、学生の時まで身体が戻っていました。

 男は「今なら、幸せに死ねるよ?」と女に言います。
 女は「一緒になりたいって願いを叶えてくれるんでしょ?」と言います。
 そして女は家族の方を向くと、「この人が私の好きな男の人なの」と頭を下げました。
 死ぬ直前まで他に男を作らなかった、操を貫き通した、それまでに愛した男。女は家族より男を選んだのです。

 家族はみんな止めましたが、なぜか追い付く事ができず、男と女は桜が舞い散る夜の闇に消えて行きました。
 そして次の日には、男と同様に、女の存在もこの世から消えていたのでした。

 男の事も、女の事も、この世で覚えている人は誰もいません。
 唯一お互いだけが、お互いを知るのです。




 おわり


363:名無しさん@ピンキー
09/03/26 17:07:25 TkMSPJWa
2時間ドラマにありそうな、
狙った、お涙頂戴ドラマの脚本みたいな感じで書いてみました。

364:名無しさん@ピンキー
09/03/27 00:55:32 TZIa/xB/
イイハナシダナー

365:名無しさん@ピンキー
09/03/27 20:36:14 5/UAqMkr
ぬーべーでこういう話あったよね

366:名無しさん@ピンキー
09/03/28 00:14:00 2T0v1xp6
>>398
途中までは俺もそう思った

367:名無しさん@ピンキー
09/03/28 00:37:57 6PhWC6Fm
年下の幼馴染みって良いよね。

368:恋愛相談
09/03/28 22:07:33 skLK7a+y
超鈍い男を好きになった控えめ幼馴染みの話、エロに発展できるかはまだわからないけど投下するよー






近所、というか裏隣に住む結希(ゆうき)が家にきた。なんでも相談したいことがあるらしい。
いったい何の相談なんだろうか?
「お邪魔します……へー、部屋片付けたんだね」
結希は部屋に入るなり失礼なことを言ってきた
「前は課題が机に乗ってたから片付いてないように見えたんだろうが。あの量は異常だっつーの」
長期休暇に出されたプリント合計4kgだ。不評だったのは言うまでもない
「あははは……ごー君真面目にやればすぐ終わらせれるのにね」
まぁ真面目に勉強すればそれなりの成績を取れるが、面倒じゃん?
「買い被りすぎだ。……で、今日は何の相談だ?前みたいにゴキブリ対策ってどうしたらいい?とか微妙な内容だったら怒るぞ?」
そーゆー相談が昨年夏にあったのだ。
「えっとね……その……す、好きな人ができたの!」
「ほー、それはよk…………」
突然の宣告で俺はどんな顔をすればいいのか分からなくなってしまった。
だって、色恋とは無縁といわれる俺が好きな相手は目の前に居る結希なのだから
「ち、ちょっと待て?ひひひっひふーと深呼吸して落ち着こうか!?」
「それじゃあ息苦しくなってかえって落ち着けないよ。ていうか真面目な相談だよ?」
結希は若干しょぼくれてしまった。俺はなんとか気を取り直して色々聞くことにした
「で、誰を好きになったんだ?」
「んー……内緒。でもごー君に似てるかも?」
なんて微妙な奴をっ……でも我慢我慢。
「なんで好きになったんだ?」
「えっとねー……結構昔からの知り合いなんだけど、いつのまにか好きになってたんだー」
あれ、結希の知り合いでそんな野郎居たっけ?まぁいいか。
「で、なんで俺なんかに相談することにしたんだ?」
「だってほら、私気が弱いじゃない。」
あぁ、つまりその野郎に似てる俺は練習台なわけか……くそっ
「大丈夫?なんだか顔色よくないけど……」
「いきなりの事で顔面筋が硬直しただけだ」
……平常心平常心、落ち着くんだ轟(ごう)、多分これはまだジャブだ
「で、何が聞きたいんだ?」
「んとね……今から質問するからなるべく全部答えてね?じゃあ001問」
「待て、1はまだしもなんで0が二つ前置きなんだ?」
「傾向練るために200問程質問表作っちゃったから?」
結希が好きになった男、貴様は一回殺す。重いじゃないか!
「じゃあ、始めるねぇ……」
俺が質問攻めの業苦から解放されたのは、それから二時間後のことだった

369:恋愛相談2
09/03/28 22:21:48 skLK7a+y
私は部屋に戻るとベッドに倒れこんだ
「ごー君、いくらなんでも鈍すぎだよー。そりゃ私がいつまでも言わないのがわるいんだけどさぁ……」
裏隣に住む轟君とは家族がここに引っ越してきてからかれこれ10年以上の付き合いだ。
轟君は誰とでも仲良くなれる人だったから私ともすぐに仲良くなった。
彼を友人として、ではなく好きな人として見るようになってから5年は経つ。
その間私は遠回しではあるが好意を告げてきていたのだが、
周囲が全員それに気付いているのに轟君は今だに気付かない。恐ろしい程に鈍い。
まぁ、それにはいくつか理由があるから仕方ないんだけど。
まず色恋話に興味を持たない、次に顔があまりいいとは言えない。最後にいい人過ぎる。
鈍くて当然な条件下で育ってきたからまぁ仕方ないけど、まさかここまでてこずるとは……

「まぁ、今度こそ……」
今日は私が誰かを好きになった。そう宣言できた。後は猛アタックするだけだ。
まぁ勇気が無いからそんなにあからさまな真似はできないわけだが……

とりあえず練習と称して明日から轟君にお弁当を作ることにしよう……
私はそう決意し、先程書き記した質問表からお弁当の献立を組み立てることにしたのだった…………





今回はここまでー
エロくなくてゴメン(´・ω・`)

370:名無しさん@ピンキー
09/03/28 22:35:10 JwLqv968
続きまってゆ!!


371:名無しさん@ピンキー
09/03/29 00:53:54 Un+KoJKf
すれ違わないように祈って
続き待ってまゆ!!

372:名無しさん@ピンキー
09/03/30 22:57:09 veFhyzqZ
支援ンンン

373:名無しさん@ピンキー
09/04/01 08:02:27 URhJNOGz
幼馴染みというのは何歳差くらいまでが許容範囲なのだろうか……?

374:名無しさん@ピンキー
09/04/01 08:46:08 zaPwZqTs
>>406
人の数だけ答えがあります。


俺的には5、6才までかなぁ

375:名無しさん@ピンキー
09/04/01 09:47:29 pJigPGnZ
オレ的には2才差くらいだな。
それ以上はとなりのお姉ちゃんって感じだ。

376:名無しさん@ピンキー
09/04/01 11:25:15 pbumJ25m
だが幼馴染の隣のお姉ちゃんというのもいいものではないか?

377:名無しさん@ピンキー
09/04/02 09:08:01 4eQnv/Q3
隣の妹ちゃんも悪くはにぃ

378:ボルボX ◆ncmKVWuKUI
09/04/02 09:46:43 Oet9ybQh
規制が解けないため携帯から投下させていただきます

379:春の夕べの夢醒めて〈2〉 ◆ncmKVWuKUI
09/04/02 09:50:07 Oet9ybQh
 「火焔は」男は夕華に言った。「焼き尽くす」

 月のない黒い夜、風なまあたたかい戌の刻。

 七年前、夕華がまだ十一歳の夏だった。

「百五十年前の猛火は、坂松の城と城下町を灰燼に帰したのだ。
 配下の軍勢に火をつけさせたのは、おまえの先祖である京口為友卿だ」

 場所は京口邸の広い庭の一角。
 古雅なつくりだが手入れがいきとどかず荒れた、回遊式の庭園である。
 荒れてはいても、満月のときであればそれなりの眺めになる。白く照らされた松柏は蒼古としてそびえ、崩れかけた築山さえおもむき幽玄となって、寂たる晩景にとけこむのだ。

 けれど今宵は新月であった。
 無明の闇のなか、ただ虫の音のみが鈴(リン)、鈴、鈴とすずしかった。

 茶室横の露地の待合いには、ほおずき提灯が軒先に吊るされて灯っていた。
 その下にある松材の腰掛けにすわって、瀟洒な着流し姿のその男はひとりごとのように語っていた。
 内容は、京口家と渋沢家の歴史ということだった。

「だが人が住みつづけようと思う地であるかぎり、町の再建はすぐにはじまる。
 大火のあと為友卿が坂松市のためおこなったのは、鴨居川の西岸の開発と、東岸の復興……
 夕華、つぎは水月に打て」

「はい、父様」


 夕華は従順、というより慎重に返答した。Tシャツにショートパンツ、スニーカーという男の子のような活発な服装だったが、このときの夕華につねの明るさはない。
 いつもと雰囲気の違う父の目を意識しながら、夕華は二間半(約4.5m)先の的にむけて一歩ふみこんだ。
 手のひらにしのばせた鉄貫を、灯に照らされた人間大のわら人形めがけて打ちはなつ。

 鉄貫とは、棒手裏剣の一種である。
 修練のため、的用のわら人形が露地に立っており、夕華は小学校にあがる前からそれに向けて打っている。
 森崎流手裏剣術は、京口子爵家のお家芸であり、夕華の腕前は祖父仕込みだった。

 金属の鈍い光が少女のてのひらから手走り、提灯の火明かりを突っ切って飛露のようにきらめく。
 流星となって飛んだ鉄貫は狙いたがわず、わら人形の水月にあたる部分に突きたった。

 ひとつ男はうなずき、「血だな。おまえは先祖のように打剣を能くする」と褒めた。

 夜気は、川の水うわぬるむほどだった昼の酷暑をひきずっている。晩とはいえ夕華の頬には汗がつたわっていた。
 にもかかわらず、声をかけられて少女は寒気を覚えた。

 やはり今夜の父はおかしかった。「困った娘だ、女の子だというのにそんなものを好んで」―父はふだんから嘆かわしげにそう言っていたはずだ。
 夕華は、手裏剣の稽古自体は好きである。
 友人たちとじゃれあっているときのほかは、何よりもこの時間が楽しいくらいだ。習わされている生け花より舞踊より、琴棋書画のいずれよりも。

 だが今、父親にはむしろ「打剣しろ(手裏剣を投げろ)」と言われているのに、夕華ははっきりと怯えていた。
 話の内容ではない。小学生には少々むずかしいところがあるが、べつだん怖いものではなかった。


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