キモ姉&キモウト小説を書こう!Part17at EROPARO
キモ姉&キモウト小説を書こう!Part17 - 暇つぶし2ch200:記憶の中の貴方へ ◆YVZUFUAt8U
09/01/21 18:56:55 j87lGCrW
雫姉の機嫌は、中杉さんの運転する車が校門前に到着する頃には、完全に直っていた。
僕たちの通う高校へ着くまでの間、車内で雫姉はずっと、隣にいる僕の手を握っていた。ひんやりとした雫姉の手。なんでも、こうしていると、とても心が安らぐのだそうな。
普段人前では見せない、穏やかな笑顔は日だまりで眠る子猫のようで、小さいけれど、大切な幸せをかみしめているようであった。
天下の雛守家、しかも現当主が見せるには余りにあけすけなその表情に、僕は思わずドキリとしてしまっていた。
雫姉はいつの間にやら、僕に寄りかかっている。腰まで届く、真っ直ぐで、絹のようにきめ細かい、つややかな黒髪が僕の頬をくすぐる。女性特有の何ともいえない香りに、僕の顔は更に赤くなる。
すると、
「着きましたよ。お嬢様、広樹様」
 ちょうど良いタイミングで学校へ着いたみたいだ。中杉さんは、やわらかな笑顔で車のドアを開けてくれた。運転主の中杉さんは執事長でもあり、雛守家の使用人全てを束ねている人だった。
背は低く、そろそろ還暦に手が届くそうだが、それを感じさせない洗練された所作と、ハキハキとした物言い。
ピシリと線が入ったように真っ直ぐな背筋と、親しみの持てる笑顔、そしてひょうきんな性格を持つ、矍鑠(かくしゃく)とした人である。
僕は、そんな高齢の人から恭しくされるのには未だに慣れる事が出来ない。「すみません」と一言。おずおずと下車した。
そこを見ると雫姉は慣れたもので、「ふむ」とうなずくと、「下校時刻はいつも通りに」と告げ、すでにさっさと車を降りてしまっている。
先ほどまでの安らいだ表情はもう無い。あるのはいつもの涼しげで、凜とした表情だった。


僕たちが通うのは私立連翹(れんぎょう)学園。財閥などの資産家、家柄のある家庭の子女だけが通うことの出来る名門校だった。馬鹿高い学費と寄付金が必要な学校。それだけあって敷地は広く、設備は行き届いている。
記憶をなくした3年前から、僕はここに通っている。雫姉1人だけだが、事情をよく知る、知り合いがいた方が心細くないだろう、という雫姉の心遣いだった。
訳あってお金をあまり持っていない僕に、「金は気にするな」と雫姉は一言、その後、学費から生活費の何もかもを出してくれている。


201:名無しさん@ピンキー
09/01/21 18:57:14 6Xd0Z8Fv
しえん

202:記憶の中の貴方へ ◆YVZUFUAt8U
09/01/21 18:59:20 j87lGCrW
「昼休みにそちらに行く。昼は一緒に食べよう」
弁当のはいった手提げ袋を胸元に掲げ、静かだが少し弾んだ声でそう告げる雫姉。多忙な雫姉は暇を見つけては、一緒に昼食を食べにくる。弁当は雫姉の手作りだ。
弁当だけでなく、朝食といった、僕の食事の一切は雫姉が作ってくれる。
僕が家にきたばかりの頃は、屋敷お抱えの料理人が作ってくれていたのだが、しきりに味を褒める僕を見て、彼女は一瞬不機嫌になると「私が作る」といいだした。
いきなりのセリフに驚いた僕に、彼女は恨めしげな顔で、「家族の食事は、家族が作る物だ。それとも……イヤなのか」と言ってきかない。以降は、料理人に教わりながら僕に作ってくれている。
おいしいから良いのだけれど、忙しすぎて身体をこわさないか雫姉が心配だ。でも今日は……。
「ごめん、雫姉今日はちょっと……」
てっきり、僕が頷くと思っていたのだろう雫姉は僅かに目を見張ると
「なんだ、私との食事を断るのだ。一体どんな用事だ」
 先ほどまでの弾んだ声はどこへやら。一転して低い声に変わった。
「うん。クラス委員の仕事のお手伝い。どうしてもと頼まれて……」
「昼食を食べる時間ぐらい、なんとかならんのか?」
「打ち合わせをしたいからって……その、ごめん」
 涼しげな目の奥にある、優しげな光は消え失せ視線が針のように鋭くとがる。
「約束しちゃったから。……雫姉も約束は守れって言っているよね?」
 少し意地悪な言い方だが、そうでも言わなくては承知しない感じだった。
 ムッとした様子の雫姉が口を開いたとき、
「広樹くーん。おはよー!!」
良く通る、元気な声が耳に届いた。

203:記憶の中の貴方へ ◆YVZUFUAt8U
09/01/21 19:00:33 j87lGCrW
振り向くとそこには、ショートカットのかわいい女の子。この子が手伝いを約束した、楠真琴(くすのき まこと)さんだった。
「おはよう。楠さん」
「やだなあ、真琴で良いって言ってるじゃん。何度言わせるのさぁ」
 ニコニコとした楠―いや真琴さんは、今日も元気を身体いっぱいで表していた。何が楽しいのかハハハと笑ったかと思うと、あろう事か飛びつくように、僕をギュッと抱きしめてきた。ソフトボール部の真琴さんの身体は引き締まっている。
先ほどまで早朝練習をしていたのだろう、タイトな身体から、甘い女の子の汗の香りがした。どうにか逃げだそうとするが身長が155センチになるかどうか位に低い僕は、長身の真琴さんのなすがままだ。それでも必死に抜け出そうとしていると、
「おい、なんだ。この失礼な娘は」
 言うやいなや、雫姉は僕を真琴さんから引きはがした。すかさず僕を守るように抱き寄せる。かなり強く握ったのか、腕を握る雫姉さんの手は痛かった。今度は女性らしい柔らかな身体に抱きすくまれて、とうとう僕は動けなくなる。
案の定、雫姉は怒っていた。と、そこで何かに気づいたらしく、
「まて、楠といったな……お前まさか―」
「ああ、雛守のお姫様か。おはようございます。そうです、その『楠』ですよ」
 真琴さんは今雫姉さんの存在に気づいたとでも言うように、クスリと小さく笑った。
 両者の視線が絡む。ギチリと空気が重く硬化していく。
先に目をそらしたのは真琴さんだった
「さあ、広樹くん。『約束』のお仕事だよ!朝からうんざりする程働いてもらうんだからね」
明るく告げると、にらみ合いの時に雫姉から抜け出していた、僕の手を引き意気揚々と歩き出した。さっきのアレは何だったのだろう。とっさに僕は、雫姉の手提げ袋から、自分の弁当箱を取り出す。雫姉はもどかしげに
「広樹……私は―」
と何かを言おうとした。捨てられた猫のような目に、僕は何か言わなければいけない気がして、よく分からなかったが「大丈夫」と返しておいた。
その間にも真琴さんは僕をずんずんと引っ張っていく。雫姉の伏せた顔は前髪に隠れて見えなかったが、寂しげにたたずむ姿は酷く印象的だった。

204:記憶の中の貴方へ ◆YVZUFUAt8U
09/01/21 19:02:47 j87lGCrW
雫姉から十分に離れたとき、ようやく真琴さんは足の速度をゆるめた。
「広樹くんさ。存外かなりのシスコンなんだね。」
後ろの雫姉に意識が向いていた僕は、いきなりそんなことを言われるとは思っていなかったので、驚きながらも、とりあえず「そうかな?」と返した。
「そうだよ!あんなにお姉さんとベタベタしててさ」
気に入らないらしくぷりぷりとしている。
「そうなの?」
「そうなの!!」
そもそもさ、と彼女は続けた。
「いつまでもお姉さんだけって、それって気持ち悪い。すごく気持ち悪い」
いつになく平坦な言い方に、僕も考えてしまう。
「大体さ、だったらもっとあたしとさ……」
考えていたので聞き逃していた。思わず聞き返すと真っ赤な顔で「別に!!」と言われてしまった。
再びぐいぐいと引っ張られる。繋いだままの真琴さんの手は、雫姉とは違う温かな手の平だった。


―なんだあの娘は、
広樹とあの女が去った、校門前。雫は未だそこに佇んでいた。登校する他の生徒達の、何事かとうかがう目にはとっくに気づいていたが、そんなことは今の雫にとって取るに足らないことだった。
広樹にも広樹のつきあいがある。ある程度は譲歩するつもりだった。そもそも広樹から昼食の件について告げられたとき、怒って見せたが、あれはあわてる彼を見て楽しんでやろうと思ったからだ。不満が無いわけではない。が、こんなことは初めてではない。
今週末にでも、今回のことを『埋め合わせ』としてどこかに連れて行かせるつもりであった。だから我慢できないわけではない。
しかし、
―よりにもよって楠家だと?
あの家は非常にやっかいだ。今更ながら友人は良く選べと言っていなかったことが悔やまれる。しかしそれ以上に気に入らないのは―
―あの娘の目だ。
一見快活な様子で接していたが、あの娘が広樹を抱きしめた瞬間、彼女の目が確かに媚びをはらんだ色をたたえたことを、雫は見抜いていた。そして、雫が広樹と取り返した瞬間、気色ばんだ視線でこちらを見据えていたことにも、やはり気づいていた。
あの目は間違いなく広樹に思いを寄せている。雫には分かる。そのことが雫にはたまらなく我慢ならない。あのような汚らしい目で広樹を辱めていることに我慢ならない。
―あいつは―広樹は私のものだ!!
きつく噛み締めた歯からはギチリと音がした。感情が身体を支配する。荒々しく燃え上がる怒りの熱が体内をうねり、駆け抜ける。雫の心の奥の奥、そこにある鬱蒼とした闇。それがゆっくりだが、確実に外へと這い出してこようとしていた。
そこへ、ずっと佇んで身動きしない雫を心配して、女生徒の一人が声をかけようとしたが、
「ヒッ―」
前髪の間から見えた雫の視線に、色を失い、身体を恐怖で震わせる。雫はそれでようやく我に返ると、呼吸を落ち着けた。視線を上げ自分のクラスに足を向ける。だが、未だ、広樹の去っていた方向に目は向いたままであった。
「真琴といったか、あの娘。邪魔だな」
 どうすればここまで底冷えのする声が出せるのか。
晴れやかな朝の空気を、静かな氷の声が引き裂いた。

205:記憶の中の貴方へ ◆YVZUFUAt8U
09/01/21 19:04:11 j87lGCrW
今日はここで投稿終わります。ありがとうございました。

206:名無しさん@ピンキー
09/01/21 19:44:35 /djVPO53
>>205
盛り上がって参りました!
続きが楽しみだー
完結まで応援するよ

207:名無しさん@ピンキー
09/01/21 20:49:08 ep+/Exwx
クールな姉最高!

208:名無しさん@ピンキー
09/01/21 20:59:14 G+dQsc5r
>>205
広樹くんは雫と真琴のキャットファイトに割って入って、命を落とすんじゃ・・・
いや、なんでもない、gj。

209:名無しさん@ピンキー
09/01/21 21:44:07 4wUMbcuf
>>205
GJ!!!
こんな姉が欲しい!

210:名無しさん@ピンキー
09/01/22 00:05:54 FVHtrgJ7
>>205
GJ
これはいいキモ姉

211:名無しさん@ピンキー
09/01/22 00:23:43 fRhEGNtz
>>205
GJ! niceキモ姉!
俺の姉とは大違いだ

212:名無しさん@ピンキー
09/01/22 07:44:44 Do7NcMbI
>>211
詳細を聞いとこうか

213:名無しさん@ピンキー
09/01/22 13:12:19 ePM3IJc/
>>211
怪しい日本語(例:ゼンジー北京、ブラックラグーンのシェンホア)
を操るキモ姉ですかね。

214:名無しさん@ピンキー
09/01/22 20:56:03 FivWNJCP
ノスタルジアマダー?

215:名無しさん@ピンキー
09/01/22 21:59:05 HLOUDOm9
秋冬to玉恵
待ってます・・・

216:名無しさん@ピンキー
09/01/23 02:40:17 EqMzbFy/
避難所でやれ

217:名無しさん@ピンキー
09/01/23 21:12:13 bMsC9jqN
このスレの住人には
是非小川未明氏の「港に着いた黒んぼ」を読んでもらいたいな
いや、その話に登場する姉はかなりキモ姉とは違うベクトルの姉だけど
それなりに通じる物があるし


218:名無しさん@ピンキー
09/01/23 23:39:45 MHiF2miE
>>217
kwsk

219:名無しさん@ピンキー
09/01/24 08:30:42 y2rMLaw2
>>217
ググったら粗筋が見つかったけど
黒んぼが登場する必然性は全くないのね
ただの船乗りでいいじゃんかと思った

あと弟に逃げられてる時点でキモ姉としてはD判定

220:名無しさん@ピンキー
09/01/24 08:44:50 y2rMLaw2
兄または弟と相思相愛なのに
親や友人の前では二人の関係を隠さなくちゃいけないことがストレスになって
次第に心が壊れていく妹または姉……

なんてパターンを、こないだから考えてるけど
まったくもって書いてる暇がない
未完のSSがあちこちに……だめぽ orz

221:名無しさん@ピンキー
09/01/24 09:05:38 V5UQQQZ7
>>220
お、キモ姉妹の新パターンじゃね?それ
応援してるぜ、がんばって書き終えてくれ

222:名無しさん@ピンキー
09/01/24 14:57:22 7bnJN/gp
大好きな兄がナムに引っ張られて以来、大麻漬けになったメリケンさんのキモウト。
兄がナムで死んだと通知が来てからもキモウト特有の思い込みと大麻パワーを合わせてますます幻想の兄との世界に入り浸る。
で、ある事件がきっかけでキモウトの家に回されてきた親戚の子供を兄だと思いはじめて、大麻とセックスで溢れた監禁生活が始まって……

駄目だ。ここまでしか書けない

223:名無しさん@ピンキー
09/01/24 15:19:09 Beic+3bw
日本なら芋虫でアメリカならジョニーだな。

224:名無しさん@ピンキー
09/01/24 19:03:29 z8wOy9S7
未帰還兵の兄を救出するべくヴィエトニャムへ単独潜入を試みるランボーな妹
共産政府軍や密林の猛獣との死闘の末、山奥の村でついに兄と再会
ところが兄はヴィエトニャム美人とケコーンして、自らの意志で村に留まっていたのだった!

……と、ここまで書いてみた

225:名無しさん@ピンキー
09/01/24 20:13:30 H/ATGdG6
戦争ネタと言う事で

捕虜になった弟を救うために敵地に単身突撃する姉を妄想した

226:名無しさん@ピンキー
09/01/24 20:24:49 9x7NE4kh
兄が泥棒猫たちに攫われた。兄を取り戻すためにコマンドーキモ姉。

「キモ姉が泥棒猫と接触すると何が起こるんです?」
「第三次世界大戦だ」

227:名無しさん@ピンキー
09/01/24 20:30:18 WzW01j8L
「泥棒猫を始末する」「姉を止める」。“両方”やらなくっちゃあならないってのが“キモウト”の辛いところだな。

228:名無しさん@ピンキー
09/01/24 20:55:57 p8Oz1PqV
>>226
カービー将軍、乙

229:名無しさん@ピンキー
09/01/24 21:51:19 z8wOy9S7
兄よりも軍事的才能に恵まれた妹が
家臣たちの協力を得て兄を幽閉
兄になり代わって戦国大名となる

だが隙を見て兄が出奔
妹の手が届かない女人禁制の高野山を目指すが
「お兄ちゃんを連れ戻さなきゃオマエら全員切腹」と脅された家臣たちに追いつかれ
必死の泣き落しに負けて妹のもとへと戻る

兄に操を立てた妹は生涯不犯
といいつつも一か月のうち長い期間は城内の御堂に籠もって
監禁した兄を、ぬっぽぬっぽと犯していたりする

そんな上杉謙信女人説

230:名無しさん@ピンキー
09/01/24 22:09:29 qDnYT4hm
>>229
無駄に辻褄あってるよwww

231:名無しさん@ピンキー
09/01/24 23:06:33 jxLrWZQs
それ読みたいぞ

232:名無しさん@ピンキー
09/01/25 00:23:01 bEyqCbAv
姉に監禁されたいと思った俺は末期か?

妹しかいないが

233:名無しさん@ピンキー
09/01/25 00:46:21 9ZYhLAHI
お市の方がキモウト

234:名無しさん@ピンキー
09/01/25 00:46:50 6VTYxQum
>>232
末期だとしても構わない俺は逝く

235:名無しさん@ピンキー
09/01/25 01:48:17 WYVEm8OF
お姉ちゃんが盗んだ下着はやっぱり涎でベトベトなんだろうか

236:名無しさん@ピンキー
09/01/25 01:51:05 BOVu3jQg
地獄少女で兄を殺すキモウト


…うさぎ

237:名無しさん@ピンキー
09/01/25 01:51:28 UGgQPQcY
>>226

キモ姉「こいよ弟君! 彼女なんて捨ててかかってこい! 怖いのか?」

弟「彼女にはもう用はねぇ!アハハハハ 倫理観も必要ねぇやぁハハハ
  誰が近親相姦なんか!近親相姦なんかこわかネェェェ!
  このアマ、犯してやる!」

この後、たっぷり精子抜きされる弟。

238:名無しさん@ピンキー
09/01/25 02:03:22 WHpWHCg3
「面白い奴だ、気に入った。殺すのは最後にしてやる」
「最後に殺すと言ったな、あれは嘘だ」

239:名無しさん@ピンキー
09/01/25 02:49:04 3G2gxt+Y
「(男君に)良いとこ見せましょ」

「不審者を発見。目標は緑色のシャツを着て
ドブのような濁った眼をしてるキモ姉だ」

240:名無しさん@ピンキー
09/01/25 21:40:58 9tkKHE+U
改造人間キモウトが最上階の会議室で、キモウトを改造した会社のCEOたる、
最愛のお兄ちゃんを人質に取る役員の泥棒猫と対決!

241:名無しさん@ピンキー
09/01/25 23:02:39 IoNp1wJy
>>240
「あはははは!!!そんな機械の出来損ないの体で○○ちゃんと愛し合うですって!!」
「何が可笑しいクソ姉!!」
「改造手術で子宮はおろか内臓を総取替えした貴女に。人を愛する事など無理よ!!無理無駄無駄無駄ぁあ!!」
「!!……………」
「あはは、ショックだったのかしら…安心なさいな。○○ちゃんの子供なら、私が何人でも産んで育ててあげる…」
「……」
「子供達でサッカー、いやラグビーの試合ができる位はね。あはっ」
「……ふふっ」
「あらっ頭までいっちゃったのかしら?」
「感謝するわよクソ姉…これで私はお兄ちゃんの前で、ずっと若く美しくいられるのだから!!」
「なっ……!!」
「元々子供嫌いな私にとって、お兄ちゃんの愛を奪う我が子など不要…」
「し、しかし機械の体で発情できるものか!!」
「ならお兄ちゃんを想うだけで、内股を伝うこのねっとりした液体は何かしら……たかが改造手術されたくらいで!!」
「ひっ……」
「私のお兄ちゃんへの愛と肉欲が!!」
「く、来るなぁ!!」
「消しされると思うなよクソ姉がぁ!!!!」



「クソ姉…貴女は地獄で私たちの幸福を羨むがいいわ……私たちはずっと永遠に幸せだし。さて…

おにぃちゅわ~ん!!」

「……ってお兄ちゃんがいない!!どこなの!?」
「先ずは実の姉を倒した事を誉めておこう。だが君の愛しき兄上は、われら泥棒猫が預かる」
「な、なんですって!!」
「また会おう妹くん。いや改造人間キモウトよ」

「泥棒猫め…あなた達からお兄ちゃんを取り返すまで、私は諦めない!!」



続きません

242:名無しさん@ピンキー
09/01/25 23:57:25 1aLQ3twE
1回に11つ子を連発すればJリーグまでいけるぞ!キモ姉!

243: ◆U4keKIluqE
09/01/26 00:02:25 adaHZjGU
今年最初の投下です。5分割です。

244:転生恋生 第九幕(1/5) ◆U4keKIluqE
09/01/26 00:03:45 K+1IM184
 翌日の月曜日、俺は自分の席に着くときに、これまでにないほど緊張した。まともに猿島の方を見ることができなかった。
 猿島は既に登校していて、いつものように文庫本を読んでいた。俺に対して、特に注意を払うそぶりもない。
 俺はクラスメートに対する朝の挨拶は欠かさない方だ。相手が誰であれ、朝初めて顔を合わせたら「おはよう」と声をかける。
 普段どおりにしないといけない。ちょっとでもルーチンを壊したら、全ての歯車が狂ってしまう。
 そう思いつつ、俺は席につきながら声を出せずじまいだった。軽く「おはよう」ということができなかった。
 ちらちらと猿島の方を見ながら何も言い出せずにいる俺に、猿島の方から声をかけてきた。
「おはよう」
 視線は文庫本から外さなかったが、その一言で俺は救われた。
「おはよう」
 何とか声を出すことができた。
 そのやりとりだけで、朝は全く猿島と会話ができなかった。猿島はひたすら文庫本を読み続けるだけで、こちらから話しかけるのを拒絶する雰囲気を漂わせていたし、俺も何を話題にしてよいのかわからなかった。
 だけど、俺は不思議と気分が楽になっていた。他の人がいるところで「けいちゃん」の話題を出してはいけないということはわかっていたし、猿島との間でその他の話題はありえない。
 それならいっそのこと、会話がない方がいい。どうせ普段も猿島と挨拶以外で言葉を交わしていなかったのだから。
 やがて茂部先生が入ってきて朝のホームルームが始まり、通常どおり授業時間となった。

 3時限目は体育で球技の時間だった。今は体育館に集まって、男女混合でバスケットボールのリーグ戦をやっている。
 一応男女双方に先生がついていて、準備運動などは別々にやる。2人1組でやる柔軟体操を男女で組んでやるのは色々と問題があるからだ。
 まあ、男子の方はウェルカムなので、主に問題があるのは女子の方だが。
 女子の担当は草葉梢先生だ。中性的な顔立ちでありながら、ジャージ姿の上からでもわかるすらりとしたモデル体型ということもあり、男女双方から人気がある。
 若くて新任であるせいか、生徒から「梢ちゃん」と呼ばれているのは教師としてどうかと思うが、べつに俺が気にすることでもないか。
「梢ちゃん、個人指導してくんないかなー」
「今から水泳の授業が待ち遠しいぜ」
「梢ちゃんハァハァ」
 田中山は草場先生に対しても欲情している。あいにく先生は既婚なのだが、こいつらには関係ないらしい。「むしろ人妻萌え~」とか言っているし、実にフレキシブルな感性の持ち主だ。
 もっとも、俺は準備運動のときからずっと、猿島のことが気になってしかたがなかった。
 うちの学校の体操服は男女共通でTシャツとハーフパンツだ。そのせいで猿島の太ももは見えない。普段も猿島はスカートを規定どおり膝下10センチで穿いているから、おみ足を目にする機会には恵まれなかった。
 日曜日の「けいちゃん」のミニスカートから伸びていた太ももは、俺の脳裏に焼きついたままだ。今の猿島は「けいちゃん」の面影を微塵も感じさせない地味な女子高生なのに、俺は猿島の中に「けいちゃん」の影を追わずにはいられなかった。
 試合が始まってからも、俺は隣のコートで動き回る猿島の姿を目で追っていた。バスケットボールは攻守の切り替えが激しい競技だが、猿島は走り回ることはそれほど苦にしていない様に見える。
 その一方で、ドリブルミスが多い。手先が器用ではないというより、球技が苦手なのかもしれない。
 俺自身プレーに参加しながら、ちらちらと猿島を観察し続けていたが、その努力は突然報われた。


245:転生恋生 第九幕(2/5) ◆U4keKIluqE
09/01/26 00:05:13 K+1IM184
 試合中、ゴール前で猿島がパスを受ける場面があった。フリーで、3ポイントシュートが狙える位置だった。「猿島! 撃て!」というチームメイトの叫びに応じて、猿島が一瞬屈んで溜めを作ってから、大きくジャンプしてシュートを放った。
 見事な跳躍だった。読書少女のイメージからは想像もつかないほど高いジャンプで、ボールは慌ててカットに入った相手チームのメンバーの手が届かない高さで放物線を描き、ゴールめがけて飛んでいった。やはり足腰は鍛えている。
 惜しくもボールはリングに跳ね返されたが、俺にとってはどうでもよかった。
 跳躍の瞬間、Tシャツの裾がめくれ上がり、猿島の臍のあたりが見えた。俺の予想通り、猿島のウェストは引き締まっていて、くびれがあった。
 ほんのコンマ何秒という短い間のできごとだったが、俺は充分目に焼きつけた。
 邪念の代償はすぐに訪れた。
 自分が参加している試合のボールから目を離していたために、俺はパスが送られてきたことに気づかず、ボールをまともに鼻で受け止めた。
 更に悪いことに、衝撃でよろけた拍子に転倒し、右足を挫いてしまった。ここまで無様な怪我の仕方も珍しいだろう。
「何やってんだ、ボケ!」
 チームメイトの罵倒も甘んじて受けるしかない。傍から見ればボケているとしかいいようのない醜態だった。
 とはいえ痛いものは痛い。尻餅をついて右足首を押さえている俺のところへ、草場先生が心配そうな顔で駆けつけてきた。
「桃川君、大丈夫?」
「……すいません。ちょっと休ませてください」
「保健室に行きなさい。無理は禁物よ」
 草場先生はクラスの保健委員を呼んだ。保健委員は各クラスから男女1名ずつ選ばれているが、男子の委員(確か足利と言った)は陸上部の競技会で公欠を取っていたはずだ。
「私が保健委員です」
 名乗り出たのは猿島だった。そうだ、女子の委員はこいつだった。
 俺は猿島に付き添われ、右足を引きずりながら保健室へ向かった。
「肩を貸しましょうか?」
 猿島はそう申し出てくれたが、猿島に触れるなんて、恥ずかしくてとてもできない。
 保健室へ着いてみると、『養護教諭出張中 器具は保健委員が管理すること』という貼り紙が扉にしてある。つまり、猿島が俺の手当をしてくれるというわけだ。
「そこへ座って」
 俺は言われたとおりに椅子へ腰かける。猿島は慣れた様子で棚から包帯と湿布を取り出すと、俺の靴下を脱がして右足首の手当を始めた。
「慣れてるんだな」
 黙っていられなくて話しかけた。俺としては猿島を見下ろす形になるが、細いうなじが眩しくて、自分のために手当をさせることにくすぐったい気分がしてならない。
「よそ見をしているからよ」 
 猿島は意味のわからない言葉を返した。
「は?」
 聞き返した俺に、顔を上げずに猿島がぶっきらぼうな口調で補足する。
「私の方を見ていたでしょう?」
 気づかれていた。俺は頭に血が上る思いだった。
「何のことだ?」


246:転生恋生 第九幕(3/5) ◆U4keKIluqE
09/01/26 00:06:27 K+1IM184
 こういうときにすっとぼけようとするのが、平均的男子の見苦しいところなのかもしれない。
「バレていないとでも思っているの?」
 猿島が手を止めて、俺を見上げた。眼鏡越しに冷たい眼差しを向けられて、俺としては断罪される罪人のような気分に突き落とされた。
「ごめん」
「素直に認めればいいのよ」
 猿島は俺の足に視線を落として、手当を再開する。顔が見られなくなって、ちょっと残念な気もするが、手当をしてもらわないわけにはいかない。
「……昨日のことがずっと頭から離れない」
 一旦認めてしまうと、自分の気持ちを吐き出さずにはいられなかった。
「猿島のことばかり考えていた」
「私じゃなくて、私が演じた役のことでしょう?」
 猿島の口調に変化はない。相変わらず淡々としている。普段のこいつには感情がないのかと思ってしまうくらいだ。
「それもひっくるめて、猿島のことが気になる」
「私の芝居を気に入ってくれたのは光栄だけど、普段の私には関心を持たないでほしいわ」
「どうして?」
「素の私のイメージが弱いほど、芝居の印象が強くなるからよ」
 猿島の頭には芝居のことしかないのだろうか。
「べつに、普段の猿島と親しくなったっていいだろう? おまえだって、普通に友達だっているんじゃないのか?」
「……桃川君は私にとって観客の一人よ」
 俺と親しくなる気はないということか。この言葉に俺は打ちのめされた。どうしてかわからないが、ひどくがっくりきた。
「でもさ、あんな凄いの見せられたら、猿島に興味を持たずにはいられないよ」
「……終わったわ」
 猿島は立ち上がった。俺の手当が終わったという意味だ。今度は椅子に座っている俺が見下ろされる位置関係になる。
「何にしても、あんな欲望丸出しのケダモノみたいな目で女の子を見るのは感心しないわね」
 返す言葉もない。耳まで赤くなっていくのが自分でもわかった。
「ごめん、本当にごめん」
 謝るしかなかった。猿島の気分を害してしまって、これから二度とまともに口を利いてもらえなくなるかもしれないということが無性に怖かった。
「男の子だからしょうがないかもしれないけど、やっぱりエチケットは守ってほしいわ」
 声も表情も変化はない。俺が思う以上に猿島が精神的に大人なのか、それとも本当に感情の起伏がないのか。
「言い訳かもしれないけど、俺だって誰に対してもじろじろ見つめたりはしないよ。猿島のことが気になってしょうがないんだ」
 猿島は左手で眼鏡のつるの位置を直した。
「桃川君、自分が何を言っているか、わかっているの? まるっきり私を口説いているように聴こえるんだけど」


247:転生恋生 第九幕(4/5) ◆U4keKIluqE
09/01/26 00:07:22 adaHZjGU
「え!?」
 俺はうろたえた。そんなつもりはなかったんだが……、いや、確かにさっきからの自分の発言を振り返ってみると、確かにそう取られかねないことばかり言っていたような気がするが……。
 待て待て、それより何より……、猿島は不愉快に思っているのか? それが問題だ。まるで表情が変化しないから、判断がつかない。
 とりあえず、俺に邪念はないことをわかってもらわないと……。
「猿島は迷惑か?」
 何を言っているんだ、俺は? これじゃあ、まるで……、本当に口説いているみたいじゃないか。
 それとも、俺自身が猿島のことを好きになってしまったんだろうか? 猿島みたいな接し方をしてくる女の子は初めてだから、単に舞い上がっているだけかもしれない。
 もう、何が何だかわからなくなってきた。一つはっきりしているのは、俺が今顔を真っ赤にしているということだ。
「……悪い気はしないわね」
 それって、OKってことか? いやいや、待て待て。いつの間にか、俺が猿島に言い寄る構図になっているじゃないか。
「でも、学校での私にはあまり馴れ馴れしくしないでほしいわ。目立ちたくないの」
「悪かった。もう余計なことはしないから。とにかく戻ろう」
 俺は左足だけでバランスをとりながら立ち上がった。一刻も早くこの場から、猿島と二人きりの空間から逃れたかった。頭が熱くなって溶解してしまいそうだ。
 だが、猿島は自分から俺の右腕を担ぐようにして、肩を貸してきた。
「無理しないで。右足を安静にしないと、治るものも治らないわよ」
「ああ……」
 しかたなく、俺は右半身の体重を猿島に預けるようにして歩き出した。草場先生からは、直接教室へ戻るように指示されている。
 保健室を出て廊下を歩いている間、当然のことながら俺は猿島の体に触れていた。上半身だけなら、俺が猿島の方を抱いているようにも見えかねない体勢だ。
 猿島の体からはコロンと汗が混じったような酸っぱい匂いがした。心臓の鼓動が倍速になるのを止められない。
 教室へたどり着くと、俺は机に手をついて体を支えながら、自分の席に座った。
「もう大丈夫だよ。世話になったな」
 時計を見ると、授業はまだ15分ほどある。猿島の性格からして、一応体育館へ戻るんじゃないかと思った。
 だが、猿島は俺の隣の席にそのまま座った。
「戻らなくていいのか?」
「戻るわよ。でもその前に、さっきの話の続きをするわ」
 何だろう? 何か期待していいのか。
「桃川君の好みのタイプって、どんなの?」
「そんなこと聞いてどうするんだ?」
「役作りの参考にするわ」
 また何かデートしながら演じてくれるってわけか。それはそれで楽しみだが、やっぱり素の猿島としては接してくれないのかな。
「あのさ、どうしてそうまでして演じることにこだわるんだ? 普段の自分を見せるのがそんなに嫌か?」
「嫌よ」
 猿島は即答した。


248:転生恋生 第九幕(5/5) ◆U4keKIluqE
09/01/26 00:08:12 adaHZjGU
「どうして?」
「嫌なものは嫌なの」
 要するに、自分で自分が好きになれないんだな。俺も自分の平均値ぶりにうんざりしているから、わからなくもない。
 だけど、俺と違って猿島はかなり個性的で、他人より抜きん出た技能を持っているんだから、もっと自信を持っていいと思うんだが。
「私は、自分と違う人間になりたいから、芝居に打ち込んでいるの。桃川君が好みのタイプをリクエストしてくれたら、演じきってみせるわ」
 昨日のけいちゃんみたいな女の子らしい女の子でも、もう少し大人っぽいお姉さんキャラでも、あるいはお淑やかなお嬢様でも。
 それは何とも魅惑的な申し出だった。猿島一人と付き合うだけで、ちょっとしたハーレム気分が味わえるわけだ。
 でも、俺はどうにもすっきりとしないものがあった。それはそれで楽しいだろうが、やっぱりもどかしい。
「あのさ、昨日俺はけいちゃんの脚に見とれていただろ?」
「ええ、そうね」
「あれは猿島の脚じゃないか。今日だってそうだった。猿島は芝居以外でも、自分自身の魅力を持っていると思う」
 だから、普段の猿島と仲良くなりたい。そういう意味で言ったんだが、猿島は何を思ったか、立ち上がって右足を椅子の上に乗せた。
「そんなに私の脚が気に入ったの?」
 そう言って、ハーフパンツの裾をめくって太ももを露にした。いきなりのことで、俺は息を呑んだ。
「新体操部の子の方がきれいな脚をしていると思うけど」
「猿島の脚はきれいだよ」
「触ってみる?」
 返事をする暇もなく、俺は猿島に手を取られて、太ももを撫でさせられた。引き締まっているだけではなく、すべすべしていて、表面は柔らかかった。
「どう?」
 こんなことしてもまるで表情に変化がないというのが信じられない。それでも俺の手は勝手に太ももの上を這い回ってしまう。
「俺は触らせてもらって嬉しいけど、いいのか?」
 俺の指が内股に触れた瞬間、猿島が体をびくりと震わせた。
「ごめん!」
 俺が慌てて手を引っ込めるのと同時に、猿島は椅子から右足を下ろす。裾が落ちて、太ももが見えなくなった。
「……今日はここまでよ」
 猿島の息が少し乱れている。目元もほんのりと赤い。
「次もあると期待していいのか?」
 我ながら余計な一言だったと、口に出した直後から後悔した。猿島は「どうかしらね」と呟きながら眼鏡を直した。
 そのまま何も言わずに教室を出て行った。授業へ戻ったんだろう。
 調子に乗ってやり過ぎたか。気分を害してしまったのか。俺は気持ちが沈んだ。
 チャイムが鳴ったのは、それから1分とたたないうちだった。

 その日はそれからずっと、猿島は俺が声をかけてもそっぽを向くだけで、応対してくれなかった。
 俺に顔を向けていなくても、耳が赤くなっているのが見て取れたが、怒っているのか照れているのかまるでわからない。それでますます不安がかきたてられる。
 唯一救いになったのは、陸上部員が公休ということで司が昼休みに現れず、久しぶりにゆっくりと昼食を取れたことだ。


249:namaco
09/01/26 00:09:50 adaHZjGU
投下終了です。次回で少し話が動きます。


250: ◆.mKflUwGZk
09/01/26 00:11:19 adaHZjGU
何故かトリップが外れたので変更します。


251:名無しさん@ピンキー
09/01/26 00:13:48 BpwtI/kh
>>249
GJ!
押しではなく自発的によってくるように誘い込む・・・!
猿島さんマジパネェッス!

252:名無しさん@ピンキー
09/01/26 00:18:21 89qSNYDu
>>249GJ!
弟くんの思春期特有の青臭さと迂闊さに「青春」を感じました。その描写、Yesだねッ!

253:名無しさん@ピンキー
09/01/26 02:07:08 0gAdXNmk
>>249
gj!
今のところ本気で太郎ちゃんを落とそうとしてるのは猿島だけとお見受けした

254:名無しさん@ピンキー
09/01/26 02:35:56 EvMNxwVC
猿は前世のこと後悔してんのかね?
とりあえず雉は悪い事をしたぐらいの認識はあるみたいだが


しかし姉のターンが怖い、このまま猿ルートで前世なにそれ美味しいのなハッピーエンド
てな訳にはいかんだろうし

255:名無しさん@ピンキー
09/01/26 07:08:03 9ZgE2uD/
>>249 GJ!!お疲れ様です。前話に引き続き、猿島のターンでしたね。意外と積極的なタイプのようですね。
それにしても、照れて(?)赤くなっている猿島かわいい。

256:名無しさん@ピンキー
09/01/26 09:55:51 sDtGOZ+8
リアルタイムGJ!
それにしても雉が空気すぐる

雉分がたりない・・・

257:名無しさん@ピンキー
09/01/26 16:32:33 eJK+SjbR
GJ!
だが俺は犬っ娘派

258:名無しさん@ピンキー
09/01/26 17:56:09 p5Ckcil1
キモ姉「私の戦闘力は53万です」

259:名無しさん@ピンキー
09/01/26 20:01:54 0CnzQnEM
>>249
GJ!
今後の姉が夜叉猿の首を持って刃牙の前に現れた、
範間勇次郎とだぶってみえる。

260:名無しさん@ピンキー
09/01/26 20:34:39 fVPnjsT4
おそらく前世で村人に鬼の事をチクったのは猿なんじゃね?
雉は黙認してたから罪の意識はある。犬は全く関与してなかった。

だから猿島は前世みたいにならぬように序盤から本気だとか?

まあ、何が言いたいかと言うと>>249GJ!

261:名無しさん@ピンキー
09/01/27 05:43:38 nYGyqu3v
投下します。

262:傷 (その11)
09/01/27 05:45:46 nYGyqu3v

「冬馬くんが壊れたって……葉月ちゃん、あなた一体、何を言っているの?」

 携帯電話を片手に弥生は困惑していた。
 電話越しに泣きじゃくる妹の声はまるで聞き取ることが出来ず、何を言っているのか、どういう事態が起こったのか、サッパリ要領を得ない。
 正直な話、弥生は、ここまで取り乱した葉月の声を初めて聞いたと言ってよかった。
 兄との“初体験”をしくじったというだけで、ここまで恐慌状態になる葉月ではない。
 あの、常に沈着冷静な―というより、およそ物に動じるという神経をどこかに置き忘れて生まれてきたような怜悧な妹が、ここまで平静さを失うなど、よほどの緊急事態が発生したと考えねばならない。


「いいから葉月……葉月ちゃん……分かったから……お ち つ き な さ い!!!」


 その声は、いま弥生が立っている女性用トイレに響き渡った。
 無論、ただの大声ではない。
 聞く者を制するに足る鋭い意思を込められた声だ。
 かつての生徒会時代。誰もがより多くの部費を求めて紛糾する予算委員会で、汗臭いラグビー部の男子生徒や、パンクファッション的厚化粧に身を包んだ軽音楽部の女子生徒を、たちまちの内に黙らせたという、鉄鞭のごとき一喝。
 さすがの葉月も一瞬パニックを忘れ、息を飲まざるを得ない。
「いまからすぐに帰ります。話の詳細は家で改めて聞くから、とりあえず泣きやむこと。―いい?」

 鼻をすすりながら「はい……」と呟く葉月の返事を確認すると、素早く電話を切る。だが携帯を握った手は下ろさない。ボタンを操作して、自室のパソコンと接続し、監視映像を画面に呼び出す。
 葉月からのメールで弥生は、彼女が風呂場で冬馬と何をするつもりだったか、一応のことは知っていた。
 液晶ディスプレイに展開するバスルームの生映像。そこには今、誰もいない。
 ならば回線を切り替えてみる。
 リビング……やはりいない。
 葉月の部屋……そこも無人だ。
 冬馬の部屋……ここも違う。
 弥生の部屋……いるわけもない。
 そして、両親の寝室で、ダブルベッドに横たわった弟の姿をようやく発見し、弥生は肩の荷を下ろしたようにホッと一息ついた。
 
 なるほど、確かに浴室で冬馬が倒れたのなら、担ぎ込むのに一番近い空間は、リビングの隣にある両親の部屋だ。葉月の体格と体力では、二階に並ぶ三つの子供部屋に高校生男子を運搬することなど出来るはずがない。
 電話では狼狽しまくっているように聞こえたが、それでも、やるべき事をキチンと済ませてから連絡を入れた事からしても、葉月は最低限の理性をギリギリ保持していたようだ。
 そしていま、リアルタイムの監視映像によると、妹の姿は、穏やかに寝息を立てる冬馬の傍らにある。
 携帯の液晶画面では解像度が荒すぎてよく分からないが、葉月の様子からして、確かに今しがたまで泣き喚いていたのは事実のようだった。
 とりあえず冬馬が無事なのは分かったが、逆に言えば、分かったのはそれだけだ。
 弥生は、ふたたびバスルームの映像を呼び出す。だが今度はリアルタイムではなく録画分だ。その映像を数分前まで巻き戻す。
 
―そして、弥生は知った。
「…………なに……これ……!?」
 何を言っているのか全く解読不可能だった、葉月の『冬馬が壊れた』という言葉が、実に的確かつ正確な状況報告であったことを。


「急用!! 緊急!!」
 それだけ言い放ち、トイレから長瀬の待つ個室に戻るや、上着とカバンを引っ掴み、テーブルの上に千円札を二枚叩きつけ、弥生は足早に外に出た。
 呆気に取られる長瀬にかける言葉は何もなかった。
 申し訳ないと思わぬでもないが、詫びも説明も、すべては後回しだ。弥生にとって、冬馬と葉月以上に優先すべき事など、この地球には存在しないのだから。
 そもそも弟が妹と近親相姦未遂の挙げ句、幼児退行を起こしましたなどと、言えるわけもない。
 そして、自転車のペダルを満身の力で漕ぎつつ、家路を急ぐ弥生の心に、もはや長瀬のことなどいささかも存在していなかった。弥生はいま、怒りと後悔で一杯だったのだ。
 無論、怒りの対象は他の誰でもない。自分自身だ。


263:傷 (その11)
09/01/27 05:47:10 nYGyqu3v

(何故この事態を予想しなかったんだろう……私ともあろう者が……!?)
 知っていたはずだった。
 理解していたはずだった。
 冬馬がセックスに対し多大なトラウマを抱えている可能性があることを。
 そんな彼に対し、まともに色仕掛けを振ることがいかに危険な行為であるかを。
 だが、弥生は安心してしまった。
 弟に於けるトラウマの顕現が、勃起不全だと聞いて、油断してしまった。
 
 素直に考えるなら、心的外傷がインポテンツという形をとって表層化している以上、この場合、冬馬のトラウマが肉体に与えた最大の問題は、単なる男根の機能障害ではなく、もっと精神的な―性欲そのものに対する減退と解釈するべきだ。
 そして、いかに葉月がクールな相貌をたたえた美少女だとしても、13歳の“おんな”とも呼べぬボディを前にして、冬馬の不能が反応するとは弥生には思えなかった。弥生ならともかく、葉月の肉体ごときに心因性の性欲減退に影響を与えるだけの魅力があるはずがない。
 つまり、異性の裸身を前にしても、精神が興奮を感じられないという現実こそが、冬馬が治療すべき真の病根であり、インポテンツなどそれら精神疾患の一症状でしかないのだ。
 逆に言えば、冬馬の精神が『女体に反応できない自分自身』に耐えられなくなるほどの性的魅力を所有した女体を前にしなければ、彼の心的外傷が全面的に疼くことはないだろう。

 それと、もう一つ。
 芹沢事件の顧客どもは、みな普通のプレイに飽きた政財界の男女が主だったと聞く。ならば彼らの平均年齢は、普通に考えても中年・熟年・初老といったところだろう。
 つまり、どこからどう見ても第二次性徴前のオンナノコでしかない葉月の肢体が、芹沢家時代の忌まわしい記憶を冬馬に回帰させるキッカケ足り得るかどうかは、疑問だと言わざるを得ない……。

 今から考えれば迂闊もいいところだ。
 人のトラウマが何に反応するかなど、心理学者でも精神分析医でもカウンセラーでもない弥生に、予測できるはずがない。―というのは言い訳だ。
 予想できなかったはずがない。たとえば幼児期に監禁されたトラウマを持つ者が、閉所や暗闇や孤独に恐怖を抱かないはずがないのだ。ならば―、

『セックスに関するトラウマを彼が抱えているらしい』

 何も詳細は必要ない。
 この一文で、彼に対する許されざる行為全般は、すべて説明がつくではないか。
 13歳の未成熟な女体が相手とはいえ、裸形の愛撫がセックスを喚起させないはずがない。
 だが弥生は、そうは考えなかった自分自身に殺意に近い怒りを抱く。
 不能という彼の現在を小賢しく考察した挙げ句、弟が幼児退行するほどの事態をむざむざ座視してしまうなど、あっていいことではない。

(もし、冬馬くんがずっとこのままだったら……)
 そう考える弥生を、身の毛もよだつほどの戦慄が包んだ。
(もし、冬馬くんがずっとこのままだったら……)
(もし、冬馬くんがずっとこのままだったら……)
(もし、冬馬くんがずっとこのままだったら……)
(もし、冬馬くんがずっとこのままだったら……)

「……答えなんか……出るわけないじゃない……!!」

 誰に言うでもなく呟いた弥生は、ペダルを漕ぐ足に更に力を込めた。


//////////////////////

「どうしました、ごしゅじんさま? ぼくがごほうしするのはおいやですか?」

 にじり寄る兄の手を反射的に振り払った葉月に、彼はあどけない表情で尋ねた。
 いや、ただあどけないだけではない。
 よく見れば、その目には精一杯の媚態と、それ以上の怯えが入り混じっている。
「もしぼくが、ごしゅじんさまのおきにさわるようなことをしてしまったのなら、えんりょなくばつをおあたえください。いかなるおしおきでもかまいません。―ですから」
「ですから……?」
 おそるおそる葉月が冬馬の言葉に合いの手を入れる。
「このおすいぬのそそうを……おとうさまとおかあさまにほうこくなさるのだけは……どうか、ごかんべんください……おねがいします……!!」
 そう言って、浴室の床に額をこすりつける冬馬の表情は、葉月には見えない。だが、小刻みに震えるその肩が、言葉以上の雄弁さで、彼の心理を説明していた。


264:傷 (その11)
09/01/27 05:48:40 nYGyqu3v

―なるほど……。
 葉月は、事態の超展開に愕然としながらも納得せずにはいられない。
 顧客を不快にさせた。
 そこにいかなる理由があろうとも、この私娼窟を取り仕切る芹沢夫妻が、彼ら“養子”という名の商売道具たちに折檻を与える名分としては、その事実だけで充分なのだろう。
 当時の恐怖を、かつて現役の“養子”だった冬馬が忘れるはずがない。おそらく骨の髄にまで、客の機嫌を損ねることへの怖れを刻み込まれているはずだ。

「兄さん、顔を上げてください。お願いですから」
「いいえ、いいえ、ごしゅじんさまがぼくをおゆるしくださるまでは」
「許します! 許しますから! だからもう―」
「ほんとうですかっっ!?」

 そう言って顔を上げた冬馬の貌は、まさしく一片の曇りさえない歓喜に満ち溢れたものだった。その、あまりにあけっぴろげな笑顔に、思わず葉月は、圧倒されたように息を飲む。そして、妹が仰け反った分、兄はずいっとにじり寄り、距離を詰めた。

「―では、おゆるしいただいたおれいに、せいいっぱいごほうしさせていただきます」

 悲鳴を上げる暇さえなかった。
 バスチェアに乗った葉月のほっそりとした腰。そこから伸びる両脚を掴み、広げ、股間に優しいキスをする。その間一呼吸とかかってはいない。そして、クリトリスへのキスの感触が消えぬ内に、葉月の神経を更なる高圧電流が走る。
「―かはっっっっ!!?」
 一瞬だった。
 まさしく一瞬の内に、すさまじい快感が葉月の局所を中心に全身に発信されたのだ。

 葉月はまだ13歳だ。その肉体は前述の通り、お世辞にも豊満とは言いがたい。
 しかし、知識はある。
 思春期真っ盛りの少女としては恋愛と同様に性愛にも興味を持つのは当然の事だ。そういう意味では、いかに天才を謳われようが、しょせん葉月も年頃のオンナノコとしての範疇をはみ出す存在ではない。
 オナニーの経験も少なからずある。
 連日連夜というほどの頻度ではないし、感じるエクスタシーもお粗末なものだが、別にその事実に絶望する気は葉月にはない。女体としての自分の完成度を誇るには、まだまだ時期尚早だということを葉月は知っていたからだ。
 だが―違う。
 この心地良さはまさに、想像を絶するものだった。
 冬馬が―かつてセックスのプロとしての生活を余儀なくされてきた彼から与えられる快感は、これまで葉月なりに知っていたつもりの常識をあっさり覆すものだった。
 
「ッッッッッッッッ!!??」

 何も考えられなかった。
 肺の中の酸素は残らず消費され、排出されるCO2の量は一瞬にして数倍以上になった。だが息を吸い込もうにも、身体がそれを許可しない。圧倒的過ぎるクンニリングスの快感を前に、彼女の理性は消滅し、呼吸器は排気以外の行動をまるで許さない。
 あと数分、この舌技の前に身を晒せば、葉月は間違いなく失神していただろう。未熟な女体に与えられた過度の快感と、その喘ぎと悶えがもたらす呼吸困難によって。
 だが、性に不慣れな彼女の肉体は、凄絶なまでの刺激を前に、おとなしくそれを甘受するという選択をさせなかった。この現状に一分の抵抗を示す意思が、まだ彼女には残っていたからだ。

 弥生による説得という過程を踏んではいるが、すでに葉月は自分が冬馬に抱く感情が、愛情であったことを歴然と意識している。かつては必死になって否定したものだが、いまでは、以前の自分の愚直さに苦笑することさえ出来るだろう。
 眼前の男は、そんな葉月が慕ってやまぬ意中の想い人である。
 しかも、そのテクニックはあまりに圧倒的だ。
 その彼が、跪くように自らの不浄の器官に奉仕する姿に、喜びを覚えぬわけがない。
―とは、葉月は考えなかった。

 いまの冬馬は、葉月が愛した兄ではない。
 いまの冬馬の愛撫は、葉月を愛するがためのものではないのだ。
 何故なら、ここにいる兄の魂は、柊木家で自分たちと出会う以前の―数年前に彼と千夏がいた頃の芹沢家に回帰してしまっているのだから。
『ごしゅじんさま』と呼ばれ、奉仕を受ける自分は、いまの冬馬にとって金を払って服従を請求するかりそめの主―名もなき顧客の一人に過ぎない。
 その事実は、葉月にとっては死に等しいほどの孤独だったのだ。 
 しかし、嫌悪感と寂寥感に苛まれながらも、葉月の抵抗はまるで儚い。目的のための合理的な動作を意図して足掻くには、冬馬の舌が与える快楽は、あまりにも圧倒的過ぎた。


265:傷 (その11)
09/01/27 05:54:49 nYGyqu3v

 暴風雨のような快楽の海を漂う一枚の木の葉と化した葉月の全身。
 だが、波にもまれ、押し流され、声を上げることはおろか呼吸さえままならない彼女が取れる抵抗は、せめて意図せぬままに四肢を動かし、じたばたと暴れることしかなかった。 
 そして、肉体が限界を迎えようとしたまさにその瞬間、いまだ動きを止められない右膝が、冬馬の肩を打った。いや、攻撃はそれで終わらない。やもりのようにピタリと張り付いていた葉月の股間から、たまらず離れた冬馬のこめかみを、彼女の左膝が正確に捉えた。
 そのまま壁に激突する兄の側頭部が立てた音は、予想以上に大きく浴室に響き渡り、冬馬は苦痛に顔を歪めることさえなく、その場に崩れ落ちた。
 葉月が荒れ狂う鼓動と混濁した意識を抑え、何とか我に返ったのは、さらにそれから数分が経過してからだ。

「……あの……にいさん……?」

 そして冬馬は、
 そのまま眠るように意識を失い、
 目を覚まさなかった。



 冬馬の寝顔は、いつもと変わらない。
 葉月は、布団に覆われた彼の下半身に目をやってみる。
 意識を失ってなお硬度を保っているペニスは、ベッドの上に小さなテントを形作っていた。
 もし、あのまま冬馬の為すがままに快感に身を任せていたなら、おそらく今頃、自分は処女ではなかっただろう。
 だが、それは―それだけはいやだった。
 求めてやまぬ兄の愛撫といえど、男娼としての冬馬に、単なる客の一人として身体を触れられることなど、葉月にとって到底ガマンできることではなかった。
『ごしゅじんさま』ではない。
 家族として、妹として、そして女として、せめて葉月が何者であるかも認識していない今の冬馬にだけは、抱かれたくなかった。それは葉月の心の奥底にあった、女としての最後のプライドだった。

(恥かしげもなくよく言うわ、まったく……)
 ここへ来てなお、矜持を振りかざすワガママっぷりには、我ながら嘲笑するしかない。
 冬馬を壊したのは、他ならぬ自分なのだ。
 もう涙も出ない。
 まったく要領を得ない説明ではあったが、一応、姉に連絡は入れた。
 まもなく戻ってきてくれるだろう。
 だが、両親が帰ってきたら、なんと報告したらいいのか、もはや葉月には分からない。
 いや、―そんなことはもはや、どうでもいい。
(わたしのワガママが……兄さんを壊してしまった……わたしが……兄さんを……)
 もしも今、冬馬が意識を回復させ、何事もなかったように笑うためには葉月の命が必要だと言われれば、おそらく彼女は躊躇なく死を選ぶだろう。だが、そんな都合のいい話は存在しない。人間一人の命ごときで、過ぎ去った時間を巻き戻すことは出来ないのだから。
 
 柱に掛かった時計を見る。
 まもなく時刻は午後九時を回ろうかというところだ。
 葉月は服の袖で涙を拭った。

 罪悪感に打ちひしがれるのは簡単だ。今この場に於ける最も手軽な時間潰しだと言える。
 だが、そうではない。
 兄が愛してくれた柊木葉月は、そんなブザマな暇人ではないはずだ。
 冬馬のために、いま一番やらねばならないことは何だ? いまのうちにやっておける事はあるか?
(……ある)
 それは考えることだ。
 彼の意識が数年前まで退行を起こしたのは何故か? それを考察し、せめて姉が帰宅したときには、全てを説明できるようにしておく必要がある。なにしろ葉月は当事者なのだ。
 何が起こったのか、どういう過程で兄が自壊を起こしたのか知っているのは、葉月しかいないのだから。

 葉月は、こんこんと眠りつづける兄の額にそっとキスをすると、そのまま立ち上がり、彼の携帯を手にとった。そしてアドレス帳を開き、その名を捜す。
―景浦千夏という名を。


266:傷 (その11)
09/01/27 05:56:43 nYGyqu3v

「じゃあ、異変が起こったのは、冬馬くんのお尻に指を突っ込んだ時なのね?」
「はい」
「他には?」
「兄さんに……言葉責め?……をしていました」
「具体的には?」
「気持ちよければ、素直に気持ちいいと言えと強要しました」
「…………」

 弥生が帰宅したとき、葉月はすでに冷静だった。
 そこに悪意がないのは分かる。
 だが、まるで台詞を言うように淡々と状況を語る妹に、さすがの弥生も険しい目をせずにはいられない。
 だが、葉月はそんな姉を前にしてもなお、顔色を変えることはなかった。パニックになって電話をしてきたのは、本当に妹だったのだろうかと疑わせるほどに、葉月は平静さを保持している。それはもう、落ち着きなさいと怒鳴りつけたはずの弥生が、気分を害するほどに。

「兄さんが芹沢家で、女性だけではなく男性の相手も勤めていた事実は、姉さんが帰宅する前に、景浦千夏さんに連絡を取って確認を取りました。おそらくは、わたしの行為によって、その瞬間の記憶が回帰し、兄さんの意識を当時に退行させたのでしょう」

 その一言に、弥生は思わず息を飲んだ。
「確認って……千夏に話したの……今夜の出来事をッッッ!?」
 だが、葉月の表情は変わらない。
「すべてを話したわけではありません。現在の兄さんの症状を告げ、対策を訊いただけです。何といっても、兄さんの過去を実際に御存知なのは、あの方だけですから」
 それは分かる。
 確かに冬馬の精神が芹沢家時代に退行してしまった以上、その当時を知る人物のサジェスチョンは絶対に不可欠だ。だが弥生としては、この件に自分たち姉妹以外の人間が絡むことは最大限回避したかった。それが姉妹の両親であってもだ。

 そして何より、冬馬がこうなった過程をすべて聞いた上で、千夏という少女が黙ってこちらに協力するとは、弥生にはとても思えなかった。
 なにしろ現在、戸籍的にも冬馬と葉月は実の兄妹ということになっている。そんな二人が浴室でしようとしていた行為は、世間的には充分にタブーの範囲内だし、感情的にも千夏が、その情報を心穏やかに聞いたとは考えにくい。
 かつて千夏からサシで話を聞いた経験を持つ弥生には、それが分かる。
 千夏が冬馬の話をするときに浮かべた瞳は、とてもではないが、彼女を弟に近寄らせるのは危険だと弥生が判断せざるを得ない輝きを宿していたのだから。
 だが葉月は、そんな弥生の思考を先読みしたかのように話を進めた。

「大丈夫です。すべてを話したわけではないと言ったでしょう? わたしは今朝、兄さんがいきなり幼児退行を起こしたと言っただけです」
 
(今朝いきなりって……いくら何でも、そんなムチャクチャな話が通じるわけがない)
―とは、弥生は思わなかった。
 確かに、冬馬はいつPTSDの症状が発症してもおかしくないほどのトラウマを抱えているからだ。何故そうなったのかのプロセスなど理解できないと言った方が、むしろ話に信憑性が出るかもしれない。

「で、千夏は何て言ったの?」
「千夏さんは、とりあえず兄さんが目覚めてもまだ、精神退行を続けたままだったなら、むしろ自分の出る幕はないと仰っていました。つまり兄さんの記憶と意識の整合性を元に戻したいなら、柊木家に引き取られて以降の兄さんの記憶を喚起させるしかない、と」
「それが道理……よね」
 弥生としては頷かざるを得ない。
 千夏の記憶さえも冬馬にとって芹沢家を連想させる可能性は充分にある。
 ならばここで必要とされるものは、あくまで彼が、芹沢家と縁を切って以降の記憶だ。
 しかし、問題はまだ残っている。というか、そもそも、この問題を無視して情況は何も先に進めない。
 すなわち―
「冬馬くんは、本当に目覚めるの? いつまでもこの昏睡状態が続くようなら、どうすればいいの?」


267:傷 (その11)
09/01/27 05:58:50 nYGyqu3v

 だが、その問いかけにも、葉月の視線はまるで揺るがなかった。
「兄さんがこのまま眠り続けるということはない。―そう千夏さんは言ってくれました」
「その根拠は?」
「兄さんは、警察に保護されてからも、食欲減退や悪夢に悩まされたりすることもなかった、極めて強靭な精神の所有者であり、何が原因で退行を起こしたかは分からないが、このまま安眠に逃避することを選ぶような細い神経は持っていないと、彼女は太鼓判を押してくれました」
「それを信じろって言うの?」
 あまりに脳天気な言い草に、弥生の拳がさらに固く握り締められる。
 そもそも冬馬が本当に悪夢や不眠症、食欲減退といった心因性の諸症状に悩まされていなかったと、なぜ千夏が保証できる? 彼は密かに苦しみ、それでも苦しんでいる自分を見せなかっただけかも知れないではないか。
 冬馬が、弱音や弱味を他人に気安く見せない人間であることを、千夏が知らないはずがない。なのに、何故そんな気休めのような言葉を吐くのだ?


「信じるしか……ないじゃないですか……ッッッ」


 その瞬間、初めて葉月の顔を覆う、理性の仮面が剥がれ落ちた。
「葉月ちゃん……」
 カタカタと振るえる小さな肩を両手で抑え、潤んだ瞳から雫がこぼれ落ちるのを懸命にこらえながら、兄を見つめ続ける13歳の少女は、計り知れぬほどの後悔や罪悪感と戦いながら、なおも気丈に振舞いつづけていたのだ。
 弥生はとっさに、そんな葉月を思いっきり抱き締めずにはいられなかった。

 そう、信じるしかない。それ以外の選択肢はない。
 千夏の言葉も実際のところ、その事実に基づいた気休めだ。
 結局、冬馬の精神力にすがりつく以外に、自分たちにできることなどないのだ。
 
「……ねえ……さん……わたし……」
「黙って」
「……ごめん……なさい……ッッッ!!」
「何も言わなくていいの。何も謝る必要なんてないの。あなたからメールを貰ってすぐに帰らなかった私だって同罪なんだから」
「ごしゅじんさま、どうざいとはなんのことですか?」


 そこには、子供のような顔をして、罪のない瞳を二人に向ける冬馬がいた。
 

「……兄さん……ッッッ」
「冬馬くん……あなた……!?」
 姉妹は絶句していた。
 このまま起きないのではないかと危惧した冬馬が目覚めた。
―それはいい。
 だが、一眠りすれば元に戻る。そんな儚い希望を姉妹が抱かなかったわけではない。
 分かっている。現実は、特撮ヒーローものの洗脳とは違うのだ。怪人が死んだからといって、悪の組織に操られていた人々が、そうそう都合よく正気に返ったりはしない。
 だが、それでもなお一縷の望みを、二人は抱かずにいられなかったのだ。
 そして、その希望はいま、明確な形で姿を消した……。

「ごしゅじんさま、きゅうそくをとらせていただいてありがとうございました。このおれいに、いっそうのごほうしをさせていただきます」
 目を輝かせて葉月に向き直る冬馬。
 そんな兄から引きつった表情で仰け反る葉月。
 だが、弥生は目を逸らさなかった。
「―待ちなさい」
 声を掛けられ、ぽかんとした顔を弥生に向けた冬馬だが、ややあって、屈託のない笑顔を彼女にも見せた。

「ああ、こっちにもあたらしいごしゅじんさまがいらっしゃったんですね。では、どちらのごしゅじんさまをさきにおあいていたしましょうか。なんなら、おふたりどうじでも、ぼくはかまいませんよ?」



268:傷 (その11)
09/01/27 06:00:44 nYGyqu3v

 一瞬、傷ましいものを見る顔になった弥生だが、次の瞬間、彼女は反射的に息を飲んだ。
 上体を起こすのと同時に、冬馬の下半身を覆っていた布団がはらりとめくれ上がり、そこにあったもの―石のような硬度と蛇のようなサイズを誇る“それ”を、まじまじと見てしまったからだ。
(こっ、これが……冬馬くんの……っっ!?)
 だが、今は完全体となった弟のペニスに眼を奪われている場合ではない。
 この、見るも無残な想い人を、ふたたび毅然とした柊木冬馬に戻さねばならないのだ。

「冬馬くん、頭を打った場所は大丈夫? 頭痛がしたり吐き気を感じたりはしない?」
 その言葉に、冬馬の瞳がまたも戸惑いの色を浮かべた。
 無理もない。彼を有料の性欲処理具として扱っていた者たちは、決してこういう気遣いを冬馬に見せなかったはずだからだ。
 だが、ならばなおさら付け入る隙はある。弥生はそう判断せざるを得ない。
「私が―この御主人様がコーヒーを振舞ってあげる。プレイはそれからでも遅くはないでしょう?」


//////////////////////////

 ケトルが低い音を立て始めた。
 そろそろ湯が沸いた。
 弥生は三個並んだマグカップにインスタントコーヒーを入れ、その上からクリープ、そして角砂糖を放り込む。弟のカップには一つ。妹は二つ。そして自分のコーヒーには三つ。その上から熱湯を注ぎ込んだ。
 そして、最後に白い錠剤を取り出すと、冬馬のカップにだけ、それを数錠落とした。
―それは、かつて彼女が七万円で購入した洗脳用の導入剤であった。

 これは賭けだった。
 コーヒーを入れてくると言って、キッチンへ行こうとする弥生を、葉月は、姉が何を言っているのか分からないという顔をして見送っていたが、当事者たる冬馬の意識が目覚めてしまった以上、説明をしている暇もない。
 弥生には確信があったのだ。
 冬馬の精神状態を、芹沢家から現在に回帰させるためには、もはやこの薬を使用するしかないと。

 かつて弥生は、通販でこっそり買ったこの薬物を使って、冬馬に自分への愛情を人為的に植え付けようとしたことがある。
 結果から言えば、その目的は失敗した。
 薬を一服盛られた翌日からも、冬馬が弥生に対して何ら態度を変えることはなかったからだ。だが、それは、この薬が単なる失敗商品だったことを意味するのかと言えば、それは違う。
 その場に於いては、弟は姉のマインドコントロールの通り命令に従い、彼女の股間に舌で奉仕させることに成功していたからだ。
 いま考えれば、その時点で弟が精神退行を起こしても仕方ない程の、危険極まりない行為だったと弥生は慄然とするが、しかしその事実は、このドラッグがただのボッタクリでなかった事を歴然と証明している。
 千夏も言っていたではないか。冬馬を回復させるためには、むしろ柊木家の記憶を喚起させよと。
―つまり、弥生には成算があった。


「ねえ冬馬くん、コーヒーのお味はどう?」
「……はい……とても……おいしいです……」

 冬馬は明らかに眠気をこらえている。
 大したものだ。もう効き始めた。
(さすがにマニュアルの倍以上の量を投与したら、こうなるか)
 あまりにあからさまな兄の異変に、不審げな表情を見せる葉月を放置して、弥生はほくそ笑んだ。
 以前、この薬を使った時は、効果が現れるまで20分近くかかったが、いまはもう、二口三口カップに口をつけただけで、冬馬が舟を漕ぎ始めたのだ。
 だが、安心するのはまだ早い。
 むしろ本番はこれからなのだから。

「冬馬くん、私の声が聞こえたら、はいと返事してください」
「……はい」
「いま、あなたはどこにいるの?」
「……おうちです……」
「おうち?」
「……ぼくの……せりざわとうまの……うちです」
「そう。で、冬馬くんは今、お幾つになったのかな?」
「……ことしのたんじょうびで……きゅうさいになりました……」


269:傷 (その11)
09/01/27 06:04:42 nYGyqu3v

「姉さん、これは?」
 さすがに葉月ももう黙ってはいられなくなったのだろう。
 だが、それを説明する時間は弥生にはない。
 冬馬の意識は、薬の効果のおかげで半ばトランス状態にあるとはいえ、完全な忘我の境地に在るわけではない。余計な会話を挟めば、それは当然彼の耳に入り、冬馬の催眠を妨げる雑音と化してしまう。
 弥生は妹に目で合図する。
 詳細は後で説明してあげるから、とりあえず今は静かにしなさいと。
 
「では冬馬くん、私が手を一つ叩けば、あなたは一つ歳を取ります。いいわね?」

 ぱん。
 ぱん。
 ぱん。

「さて冬馬くん、あなたはいま何歳になったの?」
「……12歳……です」
「で、いまどこにいるの?」
「……せいわえんとかいう……孤児院、です……」

(孤児院?)
 弥生はその言葉に疑問に持ったが、しかし即座にその問いは氷解した。
 今から4年前、当時12歳だった彼らは、芹沢孝之夫妻の逮捕によってようやく解放され、育児施設に保護されていたはずだ。その一年後に柊木家の両親が彼を“発見”するまでは。
 納得した弥生はふたたび手を打った。

「また一年経ったわ。ここはどこかしら?」
「……ここは」
「ここは?」
「ここは……柊木という家です……おれの三度目の里親の……」
 冬馬の言葉遣いが変わった。
 心なしか表情も先程より大人びている気がする。
(うまく行ってる。ここまでは)
 弥生は合格発表を見るような心持ちで、いよいよ最後の指示を弟に出した。
「さて冬馬くん、あなたはこれから、あと二年歳を取るわ。そして顔を上げて私を見た瞬間、すべてを思い出すの。いい、わかった?」

 ぱん。
 ぱん。

 弥生は息を飲んだ。
 葉月も固唾を飲んだ。
 そして、冬馬がゆっくり顔を上げた。その瞳に年齢相応の知性の輝きが戻る。



「……あれ、姉さん?」



 その瞬間、弥生と葉月は、弾かれたように冬馬に抱きついていた。
 無論、下心の為せる業ではない。
 歓喜と安堵が、二人に取らせた行動であった。

 柊木冬馬は、こうして帰還した。



270:傷 (その11)
09/01/27 06:05:44 nYGyqu3v
今回はここまでです。

271:名無しさん@ピンキー
09/01/27 06:18:01 om2qzxrU
otsu

272:名無しさん@ピンキー
09/01/27 06:22:10 yeO7KSju
乙!!!!!!

273:名無しさん@ピンキー
09/01/27 11:47:24 ZSqVmYQ0
よかったぁぁぁ。
冬馬がもどってきてほんとよかったぁぁぁ つд;

274:名無しさん@ピンキー
09/01/27 12:13:16 e/eVd6Ak
冬馬復活ッッッ!!冬馬復活ッッッ!!

275:名無しさん@ピンキー
09/01/27 17:42:18 CiG54fP9
さすがキモ姉&キモウト…格が違った!
GJ!!!

276:名無しさん@ピンキー
09/01/27 18:53:35 /T336s8J
チンコは復活しないけどな!

277:名無しさん@ピンキー
09/01/27 19:15:17 dDLABvpX
GJ!
某カルタグラのキモウトよろしく
「じゃあ今度はボクが犬として飼ってあげるよ。
ほら、ワンって鳴いてみなよ。ワンワンワンって、げははははっ!」
みたいにくるかと思ったら意外と常識的だったw

278:名無しさん@ピンキー
09/01/27 20:35:53 KWa/uR+o
>>270
GJ!

緊急事態なのにちゃっかりいちもつチェックを忘れない弥生姉さんすげえ!

279:名無しさん@ピンキー
09/01/27 23:18:41 +eHU/RNE
>>270乙&GJ!!
第1話で出た薬が伏線になっているとは思わなかったわ。
そして冬馬還ってこれてマジ良かったわぁ…

280:名無しさん@ピンキー
09/01/28 15:44:48 bJbM2aEm
◎キモウト&妹嫌いな兄
○キモウト&普通の兄
△キモウト&シスコン兄
×キモウト&キモ兄

281:名無しさん@ピンキー
09/01/28 18:00:17 8IGr9R9G
要求の仕方が斬新だね

282: ◆P/77s4v.cI
09/01/28 18:38:49 bbVzBVx4
すいません。以前長いものを投下した者ですが、
15レス以上だと避難所か他のスレを探した方がいいでしょうか?

283:名無しさん@ピンキー
09/01/28 18:39:29 bbVzBVx4
すいません。トリを外し忘れてました。

284:名無しさん@ピンキー
09/01/28 18:42:04 vP9WphrX
別に問題はないと思いますが

285:名無しさん@ピンキー
09/01/28 18:44:34 Rep6ZhVq
その酉番・・・
フラクタル・・・がくる・・・?

286:名無しさん@ピンキー
09/01/28 19:09:58 xzpHefMg
是非投下を

287:名無しさん@ピンキー
09/01/28 19:11:51 Kj9IeJMB
>>282
残レス数も容量も問題なさげだし、おいでませ。
出来れば最初に「およそ何レス使用」と書いてくださると
ニアミス防止になって良いかと。

288:フラクタル ◆P/77s4v.cI
09/01/28 19:14:36 bbVzBVx4
答えてくれた方ありがとうございます。
では投下します。おそらく17レス。微エロです。

289:フラクタル ◆P/77s4v.cI
09/01/28 19:15:15 bbVzBVx4

 七月の太陽は、気性の荒い女のようだ。家への帰り道、俊介はそんなことを思っていた。ヒステリーを起こし、誰が悪いのかもわからず、ただ当たり散らす。
 実際に目にしたことはないが、見ればきっと、この熱気さながらだと思うに違いない。
 背中には家から出てコンビニに行っただけだというのに汗。シャツが肌に張り付く感じが嫌で仕方なかった。
 家が見えたとき、丁度、門が開いた。
 視線をそのままにしていると、舞が耳の横の髪を正しながら出てきた。
 動きやすさを重視したのか男物のワイシャツと下は綿のジャージという室内着。手にはいくつかの雑誌を白いビニールテープで縛って持っていた。
「今日って古紙回収の日だったか」
「ああ、お兄ちゃん。一か月に一回だから、この日にちゃんと出しとかない面倒なのよ」
 ふっ、と息をついて雑誌の束を地面に置く舞。
「ちょっと疲れたわ」
 家の中も掃除していたのだとすぐにわかった。夏の日差しの下、薄らと汗が滲んでいる。
 雑誌の束をその場に置くと、まだあるからと言って家に引っ込むと、もうひと束持ってきた。
 それを見て、あっ、と俊介は驚く。
「さて、と」
 が、舞はそのことには気づかなかったのか、ゴミ置き場へと向かった。
「俺が持つよ」
 そう言う俊介を嫌うように、舞はずんずん歩く。
「すぐそこよ。別にいいわ」
「まあまあ」
 そして、半ば強引に舞の手から雑誌を奪った。両手分ということもあり、手には赤く跡ができていた。俊介の手にずしりとした重さが加わった。
 舞は俊介の慌てぶりを見て、じろりと睨む。
 やがて、よいしょ、という掛け声とともに奪われた雑誌を上から踏みつけた。
「じゃあそれ、お願い。私まだすることがあるから」
 そう言うと舞は振り向きざまに俊介をじろりと諫め、家に入っていった。
「……これ、昨日買ったばっかりなんだぞ」
 俊介は一人になると、肩を落としながら本の束を見る。
 一番上には、お姉さん特集、というタイトルの表紙。
 胸元を強調するためか布の面積が極端に小さな水着に身を包んだ女がアップで写り、周りに卑猥な文字が羅列していた。ポルノ雑誌だった。
 わざわざ表紙を見せて積まれているせいで、上から見ると本の束まるまるアダルト関係の本だと誤解してしまいそうなのは、もちろん舞の謀略だろう。
「抜き出しても、また見つけられそうだしなぁ」。
 口から大きな溜息がでた。
「もう何回目だっけ……天井裏の物まで見つけるなよ……」
 もう諦めたのか、俊介は家と束を見比べた後、仕方ないと呟いてごみの収集されるところまで持って行き、家に戻った。

290:フラクタル ◆P/77s4v.cI
09/01/28 19:16:16 bbVzBVx4
 俊介がパタンとベッドに倒れこむ。布団からは温かみが暑さへと変化し、干していたようだ。
 思いいたって携帯を開いてメールを送った。
 内容もたいしたものではない。今大学ですか? それだけだった。
 十数秒でバイブレーターが部屋に響く。
 休日なのに大学があるわけないよ。今は家でだらだらテレビを見てる。返事を見て、苦笑する。
 返信しようと思った途端、またメールが来た。
 差出人は同じ人物だ。
「――」
 それを読む。
 俊介は起き上がって、自分の頭ぽかりと殴った。すぐさま机に移動してから小枝子にメールを送った。
 しばらくやりとりをこなすと小枝子からメールが来なくなったので、忙しくなったのだろうと思ってそろそろ自分も何かしようと、自室を出る。
 気がつくと空は薄い青色の帳が扇の形をして広がってあった。部屋に差し込んでくる太陽の温度は、昼と比べると色の濃度に反比例している。
 俊介は考え、今日の夕食は自分が作ることにしようと、舞の部屋に行った。
「ちょっといいか」
 扉をノック。中から話声がちくちくとしていた。
 誰かが来客した気配は感じなかったので、おそらく携帯で誰かと通話しているのだろう。
「悪い、話し中だったんだな」
 案の定、開けられた扉からは舞が携帯を手にしている姿があった。
「何?」
「話し中ならいいんだ。大したことじゃないから」
「いいから。何の用?」
「あー……今日の夕飯、俺が作ろうと思うんだけど」
「……どうして?」
「いや、いつも作ってもらってばっかりで悪いな、と」

291:フラクタル ◆P/77s4v.cI
09/01/28 19:17:00 bbVzBVx4
 俊介がそういうと、舞はわざとらしく目を細めた。
 じろりと首まで伸ばして顔を見てくる。
「ふーん」
「たまにはいいじゃないか」
「私はいいけどね。でも、だめだからね」
「何が?」
「ま、いいわ。で? それだけ?」
「あ、ああ」
 話が終わると、舞は唇の端を僅かにあげて扉を閉める。中からまた話声が始まった。
 俊介はここにいては会話を訊くことになってしまうので、言った手前さっさと食事の用意をしようとキッチンに向かった。
 五時。梶原の家では大体七時から八時が夕食なので多少早い時間に準備することになるが、料理をやり慣れていない俊介にはいい余分だ。
 凝ったものにして驚かせてやろうと考えながら、場を離れた。
「あれ」
 しかしそこで、妙なことに気づいた。
「あいつ、誰と電話してるんだろう」
 舞には友達がいない。
 言わずとも、俊介が知っている限り、という意味であるので相手が友達だったとしても別段おかしなことではないが。
 けれども、舞の性格は排他的であるし、前に友達になった朋美とも、彼女が引っ越してからは連絡が取れないという背景があるので、少し煙たいような印象を抱いた。
「親父……なわけないよな」
 言って、払拭するように一度頭を叩いてリビングに行き、窓から入ってくる鈍い光を見た。
 わけもなくカーテンを引く。
 そして勢いをつけて冷蔵庫の扉を開けた。
 俊介は少し時代遅れの歌を口ずさみながら、用意を始めた。

292:フラクタル ◆P/77s4v.cI
09/01/28 19:17:42 bbVzBVx4
  /

「で、出来たのがこれね」
 舞は頭を押さえながら呆れ、盛大に息を吐いて言った。
「いや、もっと凝ったものにしようとしたんだけどさ」
「したんだけど?」
「はは……途中から作り方忘れちゃってさ」
「そしてカレーになったと。しかも失敗」
 食卓には明らかに水が多く、とろみがないカレーが用意されていた。
 視線を滑らせて横を見る。
「サラダ、のつもりなのよね」
 レタスで輪を作るように並べ、装飾したかったのだろう。心なしか何か思惑があってこうしたというのはわかる。
 しかし、大きさに隔たりがあるので途中の円形が陥没してしまっているせいで、もはやひし形に近い。
 何より、雑で急遽作ったものだとよくわかってしまってみすぼらしく、食べ物というよりは餌という方がしっくりくる。
「しかもこの泥水カレー、まずいんだけど」
 舞が添えられたスプーンを口に運ぶ。
 ぽたぽたとルーが落ちてしまうので素早く口に運ばなければならないのが食べづらく、補助した手には数滴のルーが零れ落ちた。
 俊介はその様子を見て、大きく嘆息する。どうして自分は、まじめなくせに不器用なのだろう。妹は家事も勉学もそつなくこなすというのに。
 苦手なことがあるということに対して、劣等感を持っているわけではない。それなら、舞とて不得手なことはある。
そうではなく、苦手なことをきちんとこなし、得意でないことがあるということを悟らせない姿に、羨望を描いているのだ。
「ごめん」
「……別に怒ってはないわ。まずいけど、食べないとは言ってないじゃない」
 お兄ちゃんも食べるんでしょ? 舞が言う。俊介も慌てて手を動かした。
 ちらりと表情を見る。
「……」
 近づきがたい。何を考えているのかわからない。他人を見下しているみたいだ。
 そんな舞の不評。彼女の交友関係を気にしている俊介にとってよく耳に入ってきたものだが、そう言う人たちにこの姿を見せてあげられればいいのに、と思う。
「何よ、人の顔をじろじろ見て」
「いや、舞は優しいなと思って」
「……」
「うん。いい妹で兄ちゃん嬉しいよ」
「あ、そ」

293:フラクタル ◆P/77s4v.cI
09/01/28 19:18:21 bbVzBVx4
 食事が終わった。食器を持って洗い場に向かう舞に、俊介が声をかけた。
「あー、今日は洗いものも俺がやっておくから」
「そう?」
「ああ。それと、話があるから洗い物が終わるまで待っててくれないか」
 そう言うと、素早く洗い物を始めた俊介は、彼に似合わず不真面目に、ほとんど水切りさえしない状態でシンクに食器を置いてリビングに戻ってきた。
「で、何をしてほしいの」
 ソファーに座った兄に、舞は先ほどの優しさなど少しも感じさせずに言った。
「バレてたか」
「夕飯を作るって言いだしたときからね」
 はは、と笑う俊介を瑣末なものでも見るように促す。
「えっと、ですね? 明日からは自分の部屋は自分で掃除をしようと思うんですよ。いつまでも面倒をかけるわけにはいかないし」
「それで?」
「出来れば部屋に入る時もノックとか、してほしいかなー、と」
「つまり、勝手に部屋に入るな、と?」
「まあ、悪く言えばそうなる」
「よく言っても同じでしょ」
 俊介がテレビのリモコンを手に持って、そわそわしているのがいくらか滑稽だった。
 兄の手からリモコンをひったくって、雑音に逃げられることがないように予防すると、舞は腕を組んで睥睨する。
「どうかな?」
 だが、言いにくいながらもそう俊介が問いかけると、舞は耳にかかった髪を後ろになびかせて立ち上がった。
 何をするのかと思えば、そのまま俊介の横まで来てゆっくり顔を近づけてくる。
 何をしているんだ、という声には返事をしなかった。
 耳と口の距離がなくなる。
「い、や、よ」
 はっきりとした声だった。怒声、と言った方がいい。
 俊介が蹲って耳を押さえていると、舞は言うや否やこれで終わりとばかりに立ち去ろうとする。
 あわてて呼び止めると、細い目で言った。
「大体ね、何が掃除は自分でー、よ。どうせ今日のエッチな本が捨てられたことが嫌だったから思いついただけでしょ! 馬鹿じゃないの?!」
 俊介が、ぐっ、と唸る。
 追い打ちをかけるように言葉を続けた。
「あんな低俗な……恥を知りなさい!」
「て、低俗って……俺だって一応男なんだから、その、仕方ないというか」
「仕方ない?」
「わかってくれよ。俺だって、その、買わずに済むならそれでいいけど。男って言うのはそう言う生き物なわけで」

294:フラクタル ◆P/77s4v.cI
09/01/28 19:19:04 bbVzBVx4
 妹に性的なことを言うのには抵抗があるのか、俊介の抵抗には勢いがない。
 けれども、ここで引き下がると後々困ったことになるということは頭にあったので、まあまあと舞をふたたびソファーに座らせた。
すると、苦々しい俊介に感応したのか、また違ったことを口にした。
「わかったわ」
 そう言うと、舞はいきなり上に着用していた部屋着を捲りあげる。
 え? という俊介を置きざりにして、さっと上半身だけではあるがブラジャー一枚の姿になった。豊かな乳房が白いブラに押さえつけられてもぶるんと揺れた。
「これから毎晩私がヌいてあげる」
 慌てて眼をそらす俊介に、舞は豪胆に言い放った。
 すぐに下に穿いていた膝元までのジーパンまで脱ごうとしたので、俊介は横を向いたまま舞の手を止めるという器用なことをする。
「は、はあ?! 何してるんだ!」
「私がお兄ちゃんの性欲がなくなるまで、中のものが空になるまで相手をしてあげるって言ってるの」
「いや、意味がわからない! と、とにかく上を着なさい!」
「自分で言うのもなんだけど私って結構胸あるのよ。サイズ、どれくらいかわかる?」
「わからないし、お前の胸が大きいのは前から知ってる! とにかく服を着ろ」
「あら、お兄ちゃんいつも私の胸とか見てたの? やらしいなあ」
「やらしくない! 妹をそんな目で見るわけないだろ」
「じゃあ、もし妹で射精したらどうする?」
「ば、馬鹿かお前は!」
「冗談よ。そんなにむきになることないじゃない」
「……とにかく服を着てくれ」
 シャツを突き付ける兄に舞はしぶしぶ従った。
 着たのを確認すると、俊介はすぐに何か言おうとしたが、先を制して舞は不満を口にした。
「だってこうでもしないと、お兄ちゃんはああいう本を買っちゃうんでしょ。だったら仕方ないじゃない。お金の節約にもなるわよ」
「……舞、兄ちゃんはそう言う冗談は怒るぞ。そんな自分を大事にしないような」
「だったら、今まで通りよ。元はと言えば、お兄ちゃんが我慢すればいいだけの話なんだから」
 こう言われると、俊介は折れるほかなかった。
 多少の禁欲にはもう慣れているし、何より妹にこんなことをさせるなんて兄としては立つ瀬がなかったからだ。
 まだ上着から手を離さない舞を見てわかったと言った時には、家族が勝手に自分の部屋に入って所有物を処分する、という理不尽さはもう頭になかった。


295:フラクタル ◆P/77s4v.cI
09/01/28 19:19:37 bbVzBVx4
  /

 夏の夕暮れは遅い。
 住宅街の向こうにある地平線は、少しずつ大きくオレンジを広げているようだが、空は完全に染まりきっていなくて、白が多かった。
 水平線より上にできた、色の境界線。俊介は、まだ小学生だったころ、あの空が少しでも白いままでいてくれるように願ったのを思い出した。
「こうやって帰るの、久しぶりですね」
 自分の身長よりも長い影を見ながら小枝子が笑う。
 目線を合わせずそうつぶやく姿。他人は少なからず眉を細めるけれど、俊介はそんな彼女特有の動作を可愛いと微笑んだ。
「そうだね。嬉しいよ」
「あ、その……わ、私もです」
 相乗するように微笑む。
 一本に伸びていく道はまだ二人が別れるまでは充分にある。当たり前のことが、俊介の顔を緩めた。
「本当は、もっと一緒に帰りたいんですけど……」
「俺は言ってくれればいつでもかまわないから、気にしないで」
 小枝子と一緒に帰ることはさっき彼女が言ったようにあまりない。それは学校の都合や二人が噂されるのを嫌って別々に帰っている、というわけではなかった。
 原因は小枝子の父親にある。
 前に一度、俊介は小枝子の家に行ったことがあった。期末試験の前で一緒に勉強しようという話になったから、日曜日に彼女の家に出かけたのだ。
 最初は何も問題なかった。小枝子の姉の妙子とも仲良く話すことができたし、母親も俊介という彼氏を歓迎してくれた。
 しかし、夕刻を過ぎたとき、父親が大きな音をたてて部屋に入ってきた。
 ぜいぜいと肩で息をする父親。顔は赤い。俊介はすぐにその後彼が何を言うのかわかった。
 それからは、あまり小枝子の家には近付いていない。
 訊けば、父親は警戒しているのかいつも夕食で俊介と今日一緒にいたのかどうか尋ねるという。
「すみません……」
 小枝子は邪魔をされるたびに謝った。
 でも、俊介は父親の気持ちは何となくなく察せるような気がした。
 儚くか弱い彼女。もし自分が小枝子の父親なら、同じようなことしないと言えなかったから。
「じゃあ、また来週」
 一本道が終わり、ここを左に曲がれば小枝子の家がある。念のため、門まで見送ることはしなかった。
対面する家から無遠慮にはみ出た木が風に吹かれて揺れているのが見える。
「あ、あの……!」
 帰ろうとした俊介を震える声が呼び止めた。

296:フラクタル ◆P/77s4v.cI
09/01/28 19:20:17 bbVzBVx4
「ん?」
 振り返ると、鞄を抱くようにして小枝子が顔を赤くしていた。
「明日、遊園地に行きませんか」
「遊園地?」
「はい。あの、先月できたコスモテンボスってところなんですけど」
「あのテレビでプールとかお化け屋敷の紹介されてたやつ?」
「そうです。どうですか。無理にとは、その、言わないんですけど。できたら」
 言っている最中に感極まったのか、語尾がもつれて最後は何を言っているのか聞き取れなかった。夕日が彼女の頬を助ける。
 そう言えば。俊介はそんな彼女を見ながら黙した。
 彼女と出かけたのはいつが最後だっただろう。舞の薦めで付き合いだしときに出かけたのを除くと、記憶にはない。
「もちろん構わないよ」
 その返事に小枝子は嬉しそうにさらに強く鞄を胸で抱いた。
 しかし、俊介が一歩彼女の近くに行くと、今度はどうしたのか残念そうに目を伏せる。
「どうしたの?」
 訊くと、はっとして顔をあげたが、言いづらそうに目をそらした。
 俊介はこういうときは待ってあげるのが一番いいと思って、黙って傍にいることにした。
 小枝子が、ゆっくりと紡ぐ。
「妹さんも連れてきてくれませんか? 私も、お姉ちゃんとお姉ちゃんの彼氏さんを連れてきますから」
 驚いた。
 舞や姉の妙子を誘って、というのではなく、二人きりでないと第三者に冷やかされたりして恥ずかしい思いをするのが嫌だ、
というのを彼女は考慮に入れるだろうと思ったから。妙子の彼氏というのがどんな人物なのかは知らないが、茶化したりする男もいるだろうに。
「舞も?」
「は、はい。やっぱり、その……まだ二人っきりっていうのは、恥ずかしいですから」
「ああ、そういうことか」
「ごめんなさい」
「いや、謝ることないよ。一応舞の予定も聞いてみないとわからないけど、誘ってみるから」
 俊介は応えるように片手をあげて言い、家を一度見上げてから帰って行った。
 小枝子は俊介が帰ってもその場を動かず、そこにいた。
「また明日」
 一人になって、ぼんやりとつぶやく。
 気をつけて帰ってくださいね、よかったら家に上がっていきませんか、そういうことが正解だったらよかったのに、と思った。
「私、ほんと……だめなやつだな……」
 夏の風が一際激しく吹いて、小枝子を笑った。


297:フラクタル ◆P/77s4v.cI
09/01/28 19:20:54 bbVzBVx4
  /

 プールサイドは太陽の匂いがした。消毒された水と、温められた木と、どこからか塗装の匂いもする。
 人が多いことが人工の匂いをより強めている。プールの独特の雰囲気。それは服を脱ぐ、という開放感に近い。
 俊介は、一際大きく息を吸い込んだ。
 遊園地の中に設置されたプールで、ここまで大きく快適なところなら、もっと早く知りたかった。
テレビで見ていたとはいえ、想像していたのは実際にはもっと小さいものを頭で描いていたのだ。端から端を視認するほどの苦労する大きさとは。
 舞も驚いているようだ。口を閉じたまま瞳を大きく開いている。
 オレンジのビキニにプリントされている鮮やかな花の上でぎゅっと手を握り締めた。
 水着は最大限に舞の女性らしいスタイルを引き出している。下に穿かれているショートパンツはお尻の形をはっきり見せているが、健康的な色気で男を魅了している。
 小枝子はホルターネックのビキニにスカートで、体系的な幼さを見事に克服していた。
それどころか背中から出た肌は清楚で大胆なイメージを見ている人達に抱かせた。
「妙子、遅いな」
 三浦信也が三人に聞こえるように呟いた。
 信也は小枝子が言うに妙子の彼氏で、サッカーをしていたらしくがっちりとした体で俊介よりも頭半分身長が高い。
「あ。おーい。妙子。こっちこっち」
 妙子は、いつもどおり無表情でやってきた。
横に青と水色と白、そしてピンクのタンキニ水着という格好で、女性の中では一番着替えが早いはずなのに、一番遅く。
「なんか、妙子は色気ねえな」
 信也が明るい声で言い、じろじろと三人の女を見比べている。
「わ、私、何か飲み物買ってきますね」
 小枝子は言い、自販機のある方へ走って行った。俊介はそれを見て追いかける。しかし舞に、
「妙子さんって、この男と付き合ってるの?」
 と声をかけられてやめた。
「そうらしいな。日野さんが言ってたから」
「ふーん。物好きな人」
 そう言うと、舞は興味を失ったのかいまだに自身をじろじろ眺める信也が嫌になったのか、プールの方へと歩いて行く。
どこ行くんだ、と俊介が言うと、私がいると人数的に合わないでしょ、と舞が返した。
 小枝子が戻ってきたので、買ってきてくれた飲み物を飲んで、四人もプールへと向かった。
 着くと、さっそく信也が水の中に、いっちばーん、と大声をあげて飛び込んだ。
 バチンという音が聞こえるほどに大の字で飛び込んだので、痛そうだなと俊介は思ったが、本人は露ほどもそんなことを気にしていないようだった。
「あの、他の人に迷惑になるんじゃ」
 小枝子が恐る恐る言う。
 事実、周囲を見れば傍にいた人に水しぶきが大量にかかって睨んできていた。
「そんなの気にしてたら、遊べないぜ? 早くこっちきなよ」
 信也に促され三人は水の中に入る。
 俊介と小枝子はひっそりと、妙子はわざわざ飛び込み台までいって垂直に水に突っ込んだ。
「さすが妙子。俺が見込んだだけはあるな」
 信也が笑顔で親指を立てて妙子を祝福する。
「ああ……」
「どうしたんですか?」
「いや、やっぱりあの二人似てるのかもしれないなって思って」

298:フラクタル ◆P/77s4v.cI
09/01/28 19:21:29 bbVzBVx4
 俊介はひとり言のように口にする。視線は妙子を捉えていた。
 小枝子の姉である妙子は、口数がほとんどない。表情を変えることも稀で、笑って何かを話すところなどを、俊介は想像することができない。
 小枝子に妙子と話をすることはあるのかと聞くと、
「もちろんありますけど」
 と言っていたが、それすら信じ難かった。
 妹である小枝子と似ているところは体つきぐらいだ。
「……梶原君は」
 唐突に小枝子が言った。
「え?」
「いえ……なんでもないです」
 小枝子は妙子と飛び込み台を見つめた後、薄らと儚い笑みを浮かべて姉たちの近くに行く。
「あれ? そういや君の妹は?」
 俊介も続くと、信也がきょろきょろと頭を動かしていた。
「舞ですか? 人数が合わないから、って言って子供のプールの方に歩いて行きましたけど」
「妹さん、泳げないの?」
「いや、気を使ったんでしょう」
「そんなことする必要ねえのに」
「引き留めようとも思いましたけど、必要以上に世話を焼かれるのを嫌う子ですから」
 信也が残念そうに舌打ちする。
 俊介は、傍にいる妙子に一瞬視線を走らせ表情を窺った。
 いつもの虚空を見るような顔だったが、俊介が見たことに気づくとじゃぶじゃぶと派手に近寄ってくる。
「お姉ちゃん、三浦さんの傍にいないと」
 しかし小枝子がそう言うと、俊介のことなど興味が初めからなかったように信也の元に向かった。
 信也も妙子が傍に来ると、ウォータースライダーを指差して声をかけている。二人で向かって行った。
 結局それから一時間ほど、俊介と小枝子は二人だけで遊んだ。
 小枝子はふだん学校では考えられないほどに、大声をあげたりはしゃいだりして、俊介とともにいられることを喜んだ。
 俊介もそんな彼女に負けないほどに、飛び込み台の上から声をかけ、妙子たちが向かったウォータースライダーにも行き、小枝子を膝の上にのせて滑った。
「怖くない?」
「楽しくてたまらないです!」
 テラスに戻った時には、小枝子は肩で息をしていた。俊介がジュースを持ってくると、頭だけ下げてそれを受け取った。
 ごくごくと白い喉が鳴る。
 俊介はそわそわしながらその姿を見た。初めてそこで、自分たちは付き合っていて、今は二人きりなんだと強く意識する。
 不謹慎だと思うほど、その気持ちが強まった。

299:フラクタル ◆P/77s4v.cI
09/01/28 19:27:13 bbVzBVx4
「お兄ちゃん」
 しかし、俊介が小枝子に声をかけようとすると、舞が肩越しに現れた。
 水には入っていないようで、水着は少しも濡れていない。俊介は頭を一度掻いて、
「どこに行ってたんだ?」
 と言った。
 舞はそれには答えず、一度小枝子を細い目で見る。それから他の人たちはどこに行ったの、と口にした。
「もうすぐ戻ってくると思うけど」
「じゃあ、戻ってきたらお化け屋敷に行かない?」
「お化け屋敷?」
「うん。水着のまま入れるらしいよ」
 舞が俊介の後方を指差す。振り向けば、プールの入口の傍にそれらしきものがあった。
昼を少し過ぎた程度なので今ならば並ばずにはいることができるかもしれない。
「お、いたいた」
 申し合わせたようなタイミングで信也と妙子も戻ってきた。
 俊介は、二人に向こうのお化け屋敷に皆で行かないかと誘ってみた。
信也はそれを聞くと、まだ話が終わっていないうちから顔がらんらんと輝き出して、いこういこうと、舞と妙子の背中を押す。
「日野さん」
 俊介が小枝子を呼ぶと、彼女は舞の方を刹那だけ見て、俊介の隣に駆け寄ってお化け屋敷の方へと向かった。
 俊介は一瞬、手をつないでみようかと思ったが、なんだか今そうしてしまうと、
これからお化け屋敷というところで何か期待しているように思われるかもしれないと考えてやめた。
 お化け屋敷は洋館を古風に装飾したものだった。
 俊介は以前テレビで見た、怪奇現象で紹介されていたヨーロッパの館を思い出す。
 窓があるべきところに扉があるのは、幽霊たちを迷子にするためらしい。レポーターが不思議そうに、二階から外へ続く扉を開け閉めしていた。
お化け屋敷は三階まであるようで、二階のエントランスが入口になっている。見た目だけだとかなりの大きさだ。マンションと言われても頷いてしまいそう。
 受付までくると、遊園地の入りが多いせいか、遠くで見たときよりも列が少しできていた。
 やはりテレビで紹介されるほどであるから、空きやすい時間帯でも、待たなくてもよいと言うことはなさそうだ。
 三十分ほど待たないといけませんがいいですか、と受付にいわれると、信也が真っ先にそれぐらい全然いいって、と言って列に入る。
 出口は入口からだと見えなかった。
 並んでいると、そういえば、と舞が喋り出した。
「ここって何人かに分かれないといけないんじゃない?」
「え? どういうことだ?」
「二組に分かれて中に入るコースと、三組に分かれて入るコースがあるみたい。トランシーバーで連絡を取り合って出口の扉を開くための番号を探す、ってことらしいわ」
「なんでわかるんだ?」
 俊介が訊くと、舞は並んでいる列の前を顎で示した。
 受付の上に看板が出ている。

300:フラクタル ◆P/77s4v.cI
09/01/28 19:27:56 bbVzBVx4
 なるほどトランシーバーで連絡を取り合って進んでいく、というのは他のお化け屋敷では見たことがない。連鎖的な恐怖感を狙っているのか。
 加えて水着で行ける、となれば同じような施設は少ないだろう。
「でも、二組と三組、どっちでもいいっておかしくないか」
「一つはどっちかと繋がってるか、遅れて出発するんじゃないの」
「ああ、なるほど。俺たちは五人だから……二組に分かれるコースだな」
 俊介が入口の様子を窺いながら口にすると、舞は全員に聞こえるように返す。
「そうね……女の子一人になっちゃったり、二人っきりになっていちゃいちゃされると、困るものね」
 日野姉妹と話していた信也はそれを訊くと横眼をやり、唇を噛んで黙る。小枝子が、どうしたんですか、と言おうとすると急に俊介へ振り返った。
「二、二、一にしよう」
 信也のいやらしい笑みだった。
 俊介は僅かに不快になったが、視線を気にして曖昧に笑った。舞と目があったので慌てて体ごと信也の方へ向く。
「絶対そっちの方が楽しいって」
「でも一人になった人がかわいそうじゃないですか」
「トランシーバーがあるんだろ? だったら三組で大丈夫」
 まるで見てきたように言う。
 いや、もしかしたら本当に来たことがあるのかもしれない、と俊介は思った。
「女の人が一人になっちゃうのは、なしってことで分ければいいんじゃない?」
 舞が信也を助ける。
「あ、それ最高。それ決定」
「三浦さん、男が一人になるってことですよ」
「大丈夫だって。俺、運いいから」
 もうそこで反対するのがばからしくなって、俊介は半ば投げやりに頷いた。
 日野さんは、と思って小枝子を見る。
「あれ、どうしたの」
 話しかけると、小枝子はびくっと体を揺らした。
「え?」
「なんか、急に大人しくなってない?」
「そんなこと、ないですよ」
「そう?」
「おい、そこ。八百長すんなよ」
 信也に止められ、俊介は話すのをやめた。


301:フラクタル ◆P/77s4v.cI
09/01/28 19:28:55 bbVzBVx4
 お化け屋敷の中は、かなり暗かった。
 多少は照明などがあるのかと思っていたが、順路に蝋燭が立てかけられているだけで、天井は見ることもできなかった。
 けれどそのためか、どこに行けばいいかは蝋燭の火が道標なっていて迷うことはなさそうだった。
 俊介は二階に上がる階段まで来て、ふと足を止める。
「たぶん、いるんだろうな」
 階段の後ろが緑色にぼんやりと光っている。死体のようなものが横たわっているが、おそらく階段を上ると動き出すのだろう。
「さすがに、一人だと怖いな」
 一気に走って上ろうか、と思っていると、トランシーバーが、ザー、ザーとまるでテレビの見られない番組にチャンネルを合わせたときのように鳴り出した。
「お兄ちゃん、今どこ?」
 舞の声がハンディ機から聞こえる。
 舞と小枝子、信也と妙子、そして俊介一人という組に分けられたのだ。
 信也は愚痴っていたが、受付に着くころには来たときのように妙子にしきりに話しかけていたから、これでよかったのだろう。
 それに、よく考えればこれ以外の組み合わせは考えられない。
 トランシーバーが渡されるとき、
「あれ? 三組なのに二つだけ?」
「ええ。さすがにそこまで高度なものではないので」
 と受付の人に言われた信也は、さすがに舌打ちしたようだったが。
「えっと、今、二階の階段をあがる」
 俊介は、話しながら行けば怖気も薄れると、そう言いながら階段を駆け上がった。
「うお」
 しかし、上がったところにも死体がいた。起き上がって奇声を上げながら向かってくる。
 思わず、近くにあった扉を考えもなく開いて入った。
 真っ暗の部屋に、テーブルに置かれた一本の蝋燭。テーブルには紙が貼ってあった。時が過ぎるほどに闇は多くなる、と書かれている。
 展開された視界は、殺風景な部屋にもう一つ扉がある以外はがらんとしていて何もなかった。四畳ほどの広さ。
 俊介は貼ってあった紙を見て、考える。
「……もしかして」
 入ってきた扉を恐る恐る開ける。すると、先ほど襲いかかってきた死体の向こうにまた一つ扉が見えた。
おそらく先に進むのはこの部屋にある扉ではなく、あちらだろう。
 加え、さっきよりも状況は変わっていて、死体が二つになっている。
 そのままで見ていると、階段からまた死体が登ってきて、その場にがくりと座った。
「なるほど。ここには何にもないけど、その分早く行かないと死体が増える、ってことか」
 安心させる場所を作っておいて時間を稼ぎ、恐怖を煽るとは中々いやらしいことを考える。俊介はここも一気に行ってしまおうと息を吸った。

302:フラクタル ◆P/77s4v.cI
09/01/28 19:29:29 bbVzBVx4
「結構近そうね」
 その時、受信のスイッチを押したままにしていたためか、舞が笑うようにハンディ機から声をかけてきた。
 怖くないのか、と返そうとしたが、それは自分の今の気持ちを教えるのと同じだと思ってやめた。
「そうなのか?」
 だから、なるべくいつもと変わらないように努めながら声を出す。
「女の勘」
「馬鹿言え」
「今、お兄ちゃんはゾンビから逃げるために一つの部屋に入った。そこには蝋燭と紙が一枚。紙には、時が過ぎるほどに闇は多くなる、と書かれていた」
「……すごいな」
「今さっきそこを通ったからね」
 ああ、なるほどと俊介は頷く。
 しかし、これほどに雰囲気のある場所だ。
 さっきの小枝子の一瞬脳裏にちらつき、彼女は、本当は心霊現象などが苦手で皆に無理をして付き合っているのではないだろうかと思ったので、
「日野さんは大丈夫か」
 と俊介は口にした。
 けれど、舞は何も答えなかった。不審に思ってトランシーバーを見ると、きちんと作動はしている。
 おい、どうした。もう一度言おうとした。
 そのときだった。
 急に目の前が真っ暗になる。
 反射的に振り返る。が、何かをかぶせられ、頭がすっぽりと入ってしまった。もともと薄暗い視界は黒の一色に変わる。
「ちょっと、ま、て」
 すぐに取ろうと腕を上げる。すると手首から、がちりという音が鳴った。
「なんだ、これ」
 感触しかないので何かまではわからない。
しかし、それ、のせいで腕を片方上げると両方が上がってしまった。きっと輪のような形状のもので両手首が繋がれているのだ。
 おかしい。
 ここで俊介は、初めてこれがお化け屋敷の関係者が興じたものではないと気付いた。幽霊は入場者には触ってはいけない、というのをどこかで聞いたことがある。
 それで余計混乱して、トランシーバーを地面に落とした。ドンという音。
 そうだ、声を出して助けを求めよう、そう考えた刹那、かぶったものの上から何かを口に詰め込まれた。
 温かい何かに足が引っ掛かって転ぶ。
 誰かが馬乗りなってきて、俊介の動きを完全に支配した。

303:フラクタル ◆P/77s4v.cI
09/01/28 19:30:13 bbVzBVx4
「お兄ちゃん? どうしたの」
 精一杯暴れて抵抗していた時、雑音混じりの声が反響した。
 舞だ。落としたトランシーバーから声が聞こえる。丁度下を向いて受信のスイッチを押しているのだろう。
いやに近い位置から聞こえるので、おそらくすぐそばに落ちているとわかった。
「お兄ちゃん」
 不思議と上にいる人物はそれを許容しているようだ。
 どうすればと考え、さっきの紙を思い出して、しばらくこの部屋には誰も来ないのでは、と思う。
 ならば、自分でどうにかするしかない。ないが、限りなく意味のない抵抗しか、俊介にはできなかった。
 水着がずりっと足首まで下げられる。裸になった。
 俊介は全く意味が分からず、足をじたばたして抵抗した。そしてそれも、またしても何かで足首が繋がれることで封じられた。
「お兄ちゃん……お兄ちゃん……」
 かすれた舞の声。息使いすら聞こえてくる。
 俊介は、いくら何かを口に入れられているとはいえ、大声を出してやれば、多少音が漏れて、係員になり不審に思ってくれるかもしれないと鼻から大きく息を吸った。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん」
 だが、その瞬間、まるで銃を突き付けられたかのように止まる。
 ぐっ、と陰茎を握られたのだ。
 続いて袋の方もやわやわと揉み解すように触ってきた。
「んぐ」
 初めてここで、上に乗った人物が俊介の声に反応した。
 気持ちいいの、とでも言うように手を上下に優しく動かし始める。袋の方の手は裏側の一本の筋を下から上につー、となぞった。
 無条件で反応してしまう肉の棒。暴力的なそれは、本人の混乱は置き去りにして天を突くようにして自らをさらした。
 がちり、という音が部屋に響く。反射的に俊介が手で股間を隠そうとしたためだ。
 さらにそれを見て気を良くしたのか、上にいる人物は腰の位置をずらす。
 何をするのか、俊介が思っていると温かいものに下半身が包まれる。
「ん」
 動物の本能的か、それがどういうことか瞬時に頭が理解した。
 口で俺のものを加えているのか。
 口内に入れられた陰茎は嬉しそうに反応する。あまりの気持ちよさに腰が浮いてしまい、相手の口に押し付けるように尻を前に出してしまった。
 ぐちゅ、ぐちゅ、という音が聞こえる。
 愛撫に慣れてきたのか相手は陰嚢を触っていた手を、袋を丸ごと包むようにたぷたぷと刺激しだした。
 下からの快感。俊介はついに口に詰め込まれたものを吐き出すのではなく噛みしめ始めた。陰茎が外気にさらされる。

304:フラクタル ◆P/77s4v.cI
09/01/28 19:30:48 bbVzBVx4
「お兄ちゃん」
 もう舞に今の状況を知らせる、というわけにはいかなくなっていた。この力強く猛ったものを妹に見せるわけにはいかないだろう。
「お兄ちゃん」
 なのに今、俊介は舞に見られたとしたらどうなる、と考え始めていた。快感によって思考が錯乱し、考えたこともないような黒い欲望が湧きあがってきたのだ。
「お兄ちゃん」
 いや、むしろこの声のせいでまるで舞と性交しているような錯覚すら覚える。トランシーバーをどうにかしたいが、それすら俊介には許してもらえない。
 そして、たぷたぷと金魚すくいでもらった袋のように持ち上げていた誰かの手は、これで最後というように袋の下へと移動した。
 次にされることが予想できてしまって暴れるが、肉棒をがっしりと握られることで制された。まるで、舞がいつも俊介を怒鳴るようだと思った。
 菊座の中に、指が入る。
 人差し指。第一関節。第二関節。じわじわと、俊介がきちんと意識するように。
「んん」
 抵抗とは違う反応。背筋が反り返った。ぐにぐにと、指で体内を探られる。犯される。もっとよくなるようにと、相手は陰茎をしごくことも忘れなかった。
 二本目の指も、中へ。
 奥。もっと奥へと指が蛇のように体内を犯した。
 俊介は、あまりの快感に意識が朦朧として浮遊感に包まれ始める。
 ここで、気を失ってはだめだ。それだけは絶対に耐えなければならない。妹のことを考えながら射精するなんて。
 相手はそんな思いをいとも簡単にあざ笑う。
 ついに、円を描くように回されていた手が前立腺を見つけた。
 もう、それでだめだと思った。
 獲物を狙うように一度引かれた手は、俊介に息を吸う間を与えず、狙いを定める。
「俊介、お兄ちゃん」
 一撃で、俊介は気絶した。それほどの快感だった。
 その声と共に射精し、妹のことを考えて、果ててしまったのだ。
 禁欲による解放。禁忌による欲望。誰かに見つかるかもしれないという倫理による快感。
 気絶した俊介にすらかまわず、陰茎は精を吐き出すことをやめなかった。


305:フラクタル ◆P/77s4v.cI
09/01/28 19:32:01 bbVzBVx4
  /

 もう一時間もすれば閉館してしまうころになって、ようやく俊介は目を覚ました。
「だ、大丈夫ですか」
 小枝子がすぐに気づいて駆け寄ってくる。上着を羽織っているが、まだ彼女も水着姿のままのようだ。
 俊介は寝かされていたベッドから起き上がると、辺りをぼんやりと見回す。学校の保健室のような場所だった。小枝子が言うに、ここは遊園地にある医務室らしい。
「あの……梶原君、お化け屋敷の中で倒れてたんです。係りの人が助けてくれたんですよ」
 まだ状況がわかってないと思ったのか、小枝子がそう言った。
「ああ、俺……ごめん、心配かけちゃって」
「そんな。全然ですよ」
「皆は?」
「三浦さんはもう帰ってしまいました。お姉ちゃんと舞……ちゃんは、外にいますよ」
 語尾を下げる。小枝子は見えないように唇をかんだ。
 閉館時間のことを訊いた俊介は、小枝子に一度医務室から出てもらって、急いで水着を脱いだ。
 それから、二人が待っている入口に行く。小枝子はその間できるだけ俊介の傍を離れないようにした。
 入口に着くころにはもう閉館まで、残りの時間はほとんどなく人も閑散としていた。
「ごめん、二人とも」
 舞と妙子は雑木林を背にして、何をするでもなくぼんやりと立っていた。
 だが俊介を見つけた妙子は、無表情ながらもどこかほっとした表情で迎えてくれた。
 舞よりも先に駆け寄ってきて顔を窺ってくる。おそらく大丈夫かどうか確認しているのだろう。
「もう大丈夫ですよ。ありがとうございます」
 だから、安心させようとそう言うと、妙子は目を細めることで微笑んだ。
 舞は、その様子をゆらりゆらりと体を揺らしながら見ていた。
 俊介と目が合うと、安否の確認はせず、何を思ったのか、指先をぺろりと舐めた。
「……」
 その姿を見た俊介は、ぴくりと反応する。
小枝子がそれに気づいて、どうしたんですか、と訊いてきたから、なるべく舞の姿を見ないようにして大丈夫と返した。
「お兄ちゃん」
 けれど、舞はお構いなしで後ろから抱きついてきた。
 胸を押し付け、腕を兄の腰に沿え、自分の股間を意識させた舞は、俊介の耳に口を近づけて、ゆっくりと体の奥から息を出すようにして言った。
「おはよう、お兄ちゃん」
 そして俊介の大きくなった股間を見て、にたりと笑う。

306:フラクタル ◆P/77s4v.cI
09/01/28 19:33:52 bbVzBVx4
終了です。
1レス目の二行目が改行されていますが、もし保管庫に入れるのでしたら、そこは削除してくださるとうれしいです。
もしかすると続くかもしれません。

307:名無しさん@ピンキー
09/01/28 19:37:28 Psre0ULv
gj!! 舞かわいいよ舞!

308:名無しさん@ピンキー
09/01/28 19:43:09 Rep6ZhVq
むしろ小枝子がイイ

309:名無しさん@ピンキー
09/01/28 21:49:00 6xW3sLhN
けしからん!まったくもってけしからんッ!

310:名無しさん@ピンキー
09/01/28 21:55:47 x2E39dQj
GJ!!

311:名無しさん@ピンキー
09/01/29 02:17:38 4MqRnGXl
GJ
「これから毎晩私がヌいてあげる」名言だねぇ・・・っと中尾彬も申しておりました。

312:名無しさん@ピンキー
09/01/29 03:00:56 Ba8Y42K/
疲れた・・・妹からにげたい

313:名無しさん@ピンキー
09/01/29 12:00:37 9/rAuHLH
>>306
こういう錯覚を使った類の大好き
GJ

314:名無しさん@ピンキー
09/01/29 12:25:56 peypaIKI
作品だけでなく作品についたレスが読みたいという症状に見舞われたので、
スレの過去ログが読みたくなったのだがどこかに無いものだろうか
29chだと初代スレがあって次が8スレ目でその間すっぽ抜けとかちょっと辛い

315:名無しさん@ピンキー
09/01/29 14:42:15 Oo9IhHXh
今そのレスをするということは、かなり頭の回転が悪い作者だとわかる

316:名無しさん@ピンキー
09/01/29 19:50:49 cAOsLhUV
>>314
URLリンク(files.or.tp)
前スレまでのJaneのログ、多分完全
パスはkimo

317:名無しさん@ピンキー
09/01/29 20:32:04 NI4oz5/d
>>316
314じゃないけどありがとう

318:名無しさん@ピンキー
09/01/29 21:49:49 Ky5XS09m
>>306
パブロフお兄ちゃんカワユス

319:名無しさん@ピンキー
09/01/30 09:12:50 v+sc4PQz
世界の黄昏全裸待機

320:名無しさん@ピンキー
09/01/30 12:10:23 M4n/zYR1
職人応援
職人ガンガレ

321:314
09/01/30 12:57:45 WtKxeZys
>>316
今頃ようやく拾えた
マジ㌧クス

322:名無しさん@ピンキー
09/01/30 17:59:36 NUA+6wNS
ヤンデレスレの保管庫みたいに、避難所でいいから職人の応援掲示板があったらいいのにな、とか>>320をみて思った


次ページ
最新レス表示
レスジャンプ
類似スレ一覧
スレッドの検索
話題のニュース
おまかせリスト
オプション
しおりを挟む
スレッドに書込
スレッドの一覧
暇つぶし2ch