09/01/19 01:21:58 /CapIL5r
トリエラが眠れないと訴えたのは今朝のことだ。
早朝の駐車場で自分の出勤を待っていた彼女はぬいぐるみを抱えていて、まるで幼い子供のように頼りなげな風情だった。聞けば、怖い夢を見たのだという。
いつものようにはっきりとした夢の内容は覚えていなかったが、無理に笑顔を作る姿が今にも泣き出しそうに思えて、思わずその頬にふれた。
公社の中では極力彼女にふれることは避けていたが、そうしてやらずにはいられなかった。
一瞬すがるような視線で自分を見たトリエラはほっとしたように笑い、ただの夢だから大丈夫だと答えた。
だが午後の訓練では常になく射撃が正確さを欠いていた。
優秀な彼女は勿論及第点はクリアしていたが、良い状態とはほど遠い。寝不足は全ての判断、行動に悪影響を及ぼすものだ。体調を整えるのも仕事なのだから今夜は早く休みなさいと告げると、今夜も眠れないかも知れないと再び彼女は訴えた。ひとりで眠るのは怖いのだ、と。
睡眠導入剤等の薬物を使用させたくはなかった。何より彼女が眠るために何を必要としているのかは分かっていたから、訓練の後、臨床心理を専門とする精神科医の元を訪れた。
条件付けの緩いトリエラの精神安定のために、自分が以前から音楽療法に取り組んでいることは、医師にも伝えてある。
彼女が不眠を訴えていることを説明し、対応策として今晩は自宅での音楽療法を試みたいと思うがどうだろうかと意見を求めた。無論彼はそれに対して肯定的で、外泊申請に際しての好意的な意見書を一筆添えてくれた。
礼をのべて退室した自分に、去り際カウンセラーが忠告した。ついでにスキンシップを心がけてやれよと。