【絶望先生】久米田康治エロパロ総合 Part19【改蔵】at EROPARO
【絶望先生】久米田康治エロパロ総合 Part19【改蔵】 - 暇つぶし2ch50:名無しさん@ピンキー
09/02/04 23:28:43 h5e+qnsi
キミは出来ないん?
もう19スレ目だよ

51:名無しさん@お腹いっぱい。
09/02/04 23:29:23 h0yX34Vr
加賀さんに媚薬を飲まされたい

52:名無しさん@ピンキー
09/02/05 10:59:16 RizAPxCj
まぁ改蔵を一気に読んだ後に絶望を読んだら絶望でハァハァなんてできないけどな

53:名無しさん@ピンキー
09/02/05 11:07:57 tkGWUJAe
改蔵のエロパロも大歓迎ですよ

54:名無しさん@ピンキー
09/02/05 11:51:12 7R2YvTDQ
地丹受けは有りですか?

55:名無しさん@ピンキー
09/02/05 12:40:30 DC8KZ2XR
もろちん。

56:名無しさん@ピンキー
09/02/06 00:04:09 rdQynD2m
ここで、セラヴィー+セラフィムガンダムを見た糸色先生が一言

「絶望した!ガンプラを2つ買わせようとすることに絶望した!」

57: ◆n6w50rPfKw
09/02/06 20:30:50 JMnGJ7AR BE:939810896-2BP(333)
ご無沙汰しています。真夜中か明け方に1つ投下したいと思います。
ただ、題材(基にした原作の話)が過去に書かれた方とダブってしまっていて、心苦しい限りです。
内容・方向性はまるで違っているのでどうかご容赦くださいまし(穴土下座)。

58:名無しさん@ピンキー
09/02/06 23:23:03 v8Nye6RQ
期待して待ってます。
材料が一緒でも調理の仕方が違えば、逆に「こういう見方もあるんだ」と思えて楽しめるんだぜ。

59:名無しさん@お腹いっぱい。
09/02/06 23:32:35 CX+ZJroE
同じくwktk

60: ◆n6w50rPfKw
09/02/07 07:55:10 UxAC9kqt BE:522117656-2BP(333)
まことに遅くなってすみません。今から投下します。
(夜のうちに投下しようとしたんですが、弾かれてしまいました)

可符香、智恵×望。
望が拷問される場面があるので、そこだけ要注意ということで……

長くなるので今日は前半だけで失礼します。

61:湯莽草  1
09/02/07 08:01:01 UxAC9kqt BE:243655627-2BP(333)
ふと思い立ち、望は可符香と一泊旅行に誘う事にした。
一年間、表舞台に出せない相談をいろいろしてもらった労をねぎらおうと思ったのだ。
いろいろ可符香には手酷い目にも合わされてきた。
が、彼女がいなければ学級運営がにっちもさっちもいかなくなるし、ずいぶん助けられたこともあった。

出かけるに当たっては、人目もあることだし、月並みだが鄙びた田舎への温泉旅行がいいと思った。
その旨を持ちかけると、可符香も快く了承してくれた。
例によって行きの列車内でもいろいろ事件が発生し、命の危険を感じるような出来事もあるにはあった.
だが、どうにか目的駅で列車を降りた。
駅前に人気はなく、所在なげに構内にぽつんと停まっている車を拾い、宿に向かった。

ややあって二人が着いたのは鄙びた温泉旅館。
よくある「歓迎○○様」の表示もない。
一軒宿らしく、あたりには同業の旅館どころか人家すらない。

案内された部屋で旅装を解いていると、老婆が宿帳を持ってきた。
さらさらと記入していると、人の良さそうな老婆が告げた。

「今日はあとお一組いらっしゃるだけですので、どうぞごゆるりとお過ごしくださいまし」
「はぁ」

ほどなく夕食となった。
食事は素朴ながらも温泉宿らしい趣向に富んだものでハズレがなかった。
教え子にして悪巧みの相談相手と二人っきりで夕食を取っても気まずくはならなかった。

一本だけ頼んでいたお銚子を手にした可符香が望に酌をしようとした。

「先生、お一つどうぞ」
「あ、いや……生徒に注がせる訳には」
「まあそう固いことをおっしゃらずに」
可符香が片手でぽんと望の腕にタッチし、手にお猪口を持たせるとほどよく温かい酒をそそぎ始めた。

こんな何気ないボディタッチには媚びた様子など全然ない。
なので、望もつい気を許してしまうのだった。


夕食後、二人で浴場に向かった。
一旦入り口で別れたが、内風呂ですぐ一緒になった。
この地方の温泉宿の常として、入り口は男女別だが中が混浴となっているのだった。

内風呂には、小ぶりの浴槽と洗い場、それに寝湯があるだけの素朴なものである。
寝湯は入り口から見えないところにあって、湯に存分に浸かった体を休めるために横になれるスペースが二人分設けてある。
その脇の扉を開けると外の露天風呂に通じている。
源泉がどこからか湯船に流れ込んできていて、微かな水音が絶えずしている。
湯の色は無色透明。口に含むと微かに塩辛い。良質の湯だった。

ここまで来て人目をはばかる必要はない。
望は可符香と並んで入浴した。内風呂、外の露天風呂とも堪能した。

「ふぅ~……なかなかいい所じゃないですか」
「よかったですね。当たりですよ」

たわいない会話を交わしながら内風呂に戻り、洗い場で互いに背中を流し合った。
そうしているうちについ望の指が可符香の若々しい乳房に当たった。




62:湯莽草  2
09/02/07 08:02:59 UxAC9kqt BE:783175695-2BP(333)
「あん」
「おっと、失礼」
「もう……先生ったらぁ」明るくたしなめられた。
「じゃあ、こちらを向いてください。前も洗っちゃいます」
「え~~」

返事とは裏腹に、素直に望に向き直った。
目の前の健康的な若い裸身を、シャボンを含ませた手ぬぐいで柔らかに刷り上げる。
乳房は特に念入りに刷る。

「あん……おっぱいばかり洗いすぎじゃないですかぁ」
「そんなことないですよ。さぁ、足を伸ばして」

白い腹も優しく洗い、脚の間に入り込む。
すらっと伸びた脚をきゅっきゅっと磨き始める。
ゆるやか曲線を描いているふくらはぎ、細いがちゃんと脂肪がついて柔らかそうな太腿も丁寧に丁寧に擦る。
やがて太腿の付け根あたりを磨いたところで望が口を開いた。

「ここは手ぬぐいだとなんなので……」

言い訳をしつつ、望が可符香の微妙なところに指を這わせてきた。
そして若い叢を掻き分け、スリットに沿って指を軽く往復させたり、上のほうを指の腹でくりくりっと刺激しはじめた。
可符香は恥ずかしそうに身を縮めた。

「いやん、先生ったら。そこは」
「まぁまぁ」

望はしばらく指を這わせたまま、乳房に舌を這わせようとした。
だが、可符香はすうっと身を翻すと耳元で囁いた。

「いや……それは、あとで」
「そうですか」
「じゃ、今度は私が先生の前を洗いますね」

今度は可符香が望の前を洗い始めた。
少し力を込め、薄い胸板や細く長い脚をぎゅっぎゅっと磨く。
やがて望にぐいっと密着した。

「ここも洗っちゃいますね」
「え、そこはいいですよ。自分で」
「まぁまぁ」

シャボンを手にし盛大に泡立てると、泡を望の局部に塗りつける。
そうしてくちゅくちゅっと小さな音を立てて洗い始めた。
袋の皺を丁寧に伸ばし小さな指先で擦る。
かと思えば、細い指を起き上がり始めた絶棒に絡ませ優しく扱く。

「ん……ん」

望が下腹部から湧き上がる快感を堪えきれず呻くうちに、
時折可符香に男として上がっているなどとからかわれていた絶棒に力が漲り始めた。
なおも可符香は丁寧に刷り上げる。
カリのくびれも丁寧に指先で磨きあげる。
ついに絶棒は熱を帯び硬化しきってしまった。
おまけに、時折ぴくぴく震えている。
どこから見ても雄の威力を示す準備完了といった趣である。


63:湯莽草  3
09/02/07 08:05:50 UxAC9kqt BE:313270092-2BP(333)
いよいよ漲ってきたところで、望が可符香の肩を押さえ、耳元で言った。
「もう、これ以上は……
 寝湯の辺りが入り口から見えない所ですから、そこで。ね」

二人は寝湯に向かった。
二人分のスペースに並んで寝そべった。
望が腕枕をすると、可符香が素直に頭をちょこんと乗せてきた。
そしてこちらを向いた。望も可符香を見つめた。
見つめ合ううちに可符香が目を閉じた。
望は教え子の髪を優しく撫でると静かに接吻した。

舌を絡めながら望は自分が磨いた可符香の裸身に手を這わせる。
華奢なボディラインを確かめるようにゆるゆると上から下まで、下から上へ指先を滑らせていく。
やがてその手が乳房に達すると、ゆっくり優しく揉みこむ。
ほどなく固くなった乳首の下側を親指の腹で撫で、すりすりっと擦る。
時折を摘みながら、指で上からぐりっと押し潰してみる。

「んんぅ……あん」

舌を絡ませたまま体をくねらせていた可符香が喘いだ。
胸から沸き起こる快感に堪えきれず、口を離してしまったようだ。

望は教え子の頭の下からすっと腕を抜くと可符香を優しく横たえ、上に覆い被さった。
首筋、胸元へと軽くちゅっちゅっとキスを落としながら、固くなった蕾を口に含む。


「あん。う」

可符香の喘ぎ声がやや大きくなった。
かまわずそのまま舌先で存分に転がす。唇で甘く挟んでみたりする。
ちゅうっと音を立てて吸い上げる。
その間に手で教え子の下半身を探る。
するといつの間にか若い蜜があふれていて、指先の微妙な動きに合わせてくちゅ、ぴちゅっと秘めやかな音を立てている。
充分に潤っているようだ。

そのまま脚を割り、中に入り込む。腰を抱え込む。
出番が遅しと活躍の場を待ち構えている絶棒を入り口に当てる。
しばらく入り口付近で馴染ませた後、ずいっと装入する。
そのまま奥深くまで差し込む。

「はぁん……ああ、あっ、あっ」

やがて望は静かに動き始めた。
めったに聴けない可符香の喘ぎ声がさらに大きくなった。
もしかしたら、他人が入ってくるかもしれない場所での営みで、
いつも以上に興奮しているのかもしれない。
望もここしばらくになく気分が高揚していた。
教え子とのえっち、人が来るかもしれない場所でのえっちという二重の背徳感が、
自分のオスの部分を奮い立たせているのを自覚した。

可符香が両脚を望の腰に巻きつけてきた。
これまでの付き合いで、これは彼女が感じている証左である。

―私も、もうこのまま……

自分も限界が近いことを悟った望は、そのまま一気に動きを激しくした。
大きいストロークで、ぐいっ、ぐいっと可符香の中に絶棒を繰り込んでいく。
可符香も懸命に喘ぎを堪えているものの、どうしても洩れてしまうようだ。


64:湯莽草  4
09/02/07 08:11:09 UxAC9kqt BE:261058853-2BP(333)
「うぅ……そろそろ、いいですか」
「あっ。今日は中へ、中へ」

珍しく可符香からねだられたので、望はそのままラストスパートに入った。
可符香の腰がくねるのに合わせ、ズン、ズンと腰を打ち付ける。
可符香の腰を抱え直すと一気に深いところまで突き刺す。
腰の奥から背筋を貫いていく。もうすぐだ。
中の襞が絶棒に絡み付いてくるのを振りほどくように奥へ奥へ突き上げる。

望は激しく動き続けたまま、ついに限界を突破した。
自分の分身から熱いものが後から後からほとばしった。
教え子の中にたっぷり注ぎ込んでいる間、望は可符香をきつく抱きしめていた。
可符香も発射を感じた瞬間、身を仰け反らせ、それでも望の背に回した手に力を篭めようとした。
同時に高みに達したのだった。

     ☆

肩を寄せ合って湯船に浸かっていると、女性側の脱衣場で物音がした。
ややあって戸が開くと、誰かが入ってきた。
髪はショートカット。
手ぬぐいで前を隠しただけの見事なプロポーションの若い女性―智恵だった。
望たちと同じ列車で、女友達と二人旅をしていたはずだったが、宿まで同じになったようだ。

だが、同じ列車内で同行していた女性が見当たらない。
智恵一人きりである。

こちらから声をかける前に、智恵のほうで気付いたようだ。

「あら先生、いらしてたんですか。お二人で」
「はあ。あの、お連れの方は?」
「それが、もう酔いつぶれちゃって」

智恵がやや渋い顔をした。
何でも、アルコールが入るとみるみる悪酔いし、
さんざん智恵に迷惑をかけたあげく早々と寝入ってしまったとのことだった。

そんな話をしながら体と髪を洗い終えると、智恵は湯に浸かろうと望たちの傍にやってきた。
だが、あいにく内湯の浴槽は手狭に感じられ、三人で入るとやや息苦しい。

そこで、充分温まっていた望と可符香は湯船から上がり、縁に頭を乗せてごろんと寝そべった。

「あらあら」
智恵は二人して行儀の悪い事に苦笑しながら望の傍を通り、ゆっくり湯に浸かった。
前を手ぬぐいで隠しているだけで、学校一の巨乳が前から横からこぼれ出ているのは仕方ない。

―いいものを見せてもらいました。

望がついにやけていると、突然可符香が望の脇腹をつねった。

「あいたっ」
「どうされました?」
望が口を開く前に可符香が機先を制した。
「何でもありませんよ、智恵先生」
「そう?」
「……」

望はつねられた脇腹をさすりながら、
智恵に見えないように可符香の脇腹をちょんちょんっと指先で突付いた。
望はつねられた脇腹をさすりながら、智恵に見えないように可符香をちょんちょんっと突付いた。

65:湯莽草  5
09/02/07 08:14:39 UxAC9kqt BE:174039252-2BP(333)
しばらくは三人で静かに温泉の情緒を楽しんでいた。
源泉がどこかから浴槽に流れ込み、自然に湯があふれ出る音がするばかりで、
静かなことこの上ない。
ほの暗い内湯には湯気が立ち込めていて外は見えないが、風の音一つ聞こえてこない。
穏やかな夜のようだ。

智恵が湯船に浸かってどれくらいたった時のことだろう、ふと望に問い掛けてきた。

「先生」
「はい」
「もう死にたがりは収まりました?」
「は!? はぁ、いや、そのぉ」

昼間の出来事が脳裏をよぎった。
目の前の智恵の手で、展望車の最後尾、展望デッキから落とされそうになったのだった。
「あの」望は言いよどんだ。
「どうせ私なんてこの世にいてもいなくても……」

智恵がぼそぼそっと呟く望の首に腕を回してきた。

「まだそんなことを仰るんですね」

可符香が傍にいるのに頬にちゅっとキスを落とした。
そして耳元で甘く囁いた。

「じゃあ、ここで」
「ここで?」
「ここで……死んで」

智恵の手に急に力が篭った。
望は不意に頭を浴槽に引きずり込まれ、湯の中にぐいっと押さえつけられた。

「な!?……がぼごぼ」

そのままずるずると上半身も湯に沈められていく。
智恵の手を振り解こうとしても、角度がどうも合わず、触れることすらできない。
ならば、と浴槽の縁を掴もうとするが、どうしても指先がかからない。
じたばたともがいているうちに、視界が暗くなった。
間もなく顔の上に何か柔らかいものが乗ってきた。
智恵が望の顔の上に座ったのだった。

これで望は息がまったく出来なくなってしまった。
時間的には一分くらいの間だが、望にとっては永遠にその苦しみが続くかと感じられた。

「むごぉ……ぃむぅ」
―ザバァ……

不意に水音がし、顔を押さえつけていたものがなくなった。
とにかく息をしようと、懸命に頭をもたげた。
だが、頭が水面から出たところで何か柔らかいものにぶつかり、行き止まりになった。
顔を動かすと、鼻先が何か湿ったところに埋もれている。おまけに温かくて、周りに毛の感触がする。

「あん」
頭上で甘い声がした。
智恵が望の頭をまたぐように腰を浮かせていたのだった。
よくよく目の前を見てみると、なるほど目の前に白い肌と黒い叢がある。
調教される際に見慣れた智恵の神秘の部分だ。
今、自分が智恵の股間に思い切り顔を埋めることがようやく分かった。
思わず顔をふるふるっと動かした。


66:湯莽草  6
09/02/07 08:20:03 UxAC9kqt BE:609136875-2BP(333)
「あぁん」再び甘い声が上から降ってきた。
「まだ死にたいですか、先生」
「え、あ、あの……ほわぁ」

自分の置かれている状況が整理できずまごついていると、突然下半身が熱いものに覆われた。
次いでくちゅくちゅと音がしだすと同時にたまらない快感が背筋を伝った。
可符香が絶棒を口に含み、しゃぶり始めたのだった。
一通りねっとりしゃぶると、すっかり大きく固くなったところで口を離す。
細く小さな指でしゅりしゅりと熱化した絶棒を扱きはじめる。

「おあぁ……あ」

望は緊急時なのに有り得ない快感に我を忘れ、もたげていた首の力がすっと抜けてしまった。
頭が半ば湯に浸かったところで上を見ると、智恵の豊かに張り出した見事な乳が目に入った。
奴隷として調教される際に時々味わったその爆乳に阻まれ、
智恵が今どんな表情でいるのか分からない。

「ああぁ……あぅ」
「煮え切らないわねぇ」

再び智恵が望の顔に腰を下ろし始めた。
望は為す術もなく再び息ができなくなった。
顔面を智恵の秘部で覆われることはこれまでの調教でよくあった。
むしろ顔面騎乗されて、女王様の襞の隅々まで丁寧に奉仕することが結構気に入っていた位だ。
だが、今は命がかかっている。とても奉仕する余裕などない。

何の抵抗も出来ないまま、また頭が完全に湯の中に静められてしまった。

「ぐぼばっ! ……ぐ、ぶ」

もがいていると、また絶棒を温かみを伴った快感が襲った。
先ほど刺激されて力を蓄え始めた絶棒を、再度可符香が口に含んだのだった。
しかも、今度は可符香も本気を出したようだ。
舌を積極的に幹に絡ませてくる。
膨れ上がった亀頭の周りを高速で回転させる。
鰓の周囲をねっとり舐め回す。
時には舌先ではじく。
そうしておいて、とどめに口をすぼめて含むと、音を立てて何かを吸い出そうとする。

可符香の本気の技を受けたのはいつ以来だろう。
絶棒から沸き起こってくる強烈な快感に、望は耐え切れなくなった。
だが、ちゅぱちゅぱっという音を水面下で耳にしていても、
わずかに顔を左右に動かす位しかできない。

苦し紛れに鼻や口を覆っている智恵のそこに舌を這わせると、嬉しい事にやや力が緩む。
息苦しい中、必死に舌を動かすと、もっとその動きを求めるように逆に押し付けられる。
苦しくて動きを止めると、動きを催促するかのようにますます押し付けてくる。

「うぐぅ……むぐぼ……」

ついに望の意識が遠のき始めた。
目の前が一時ふうっと白くまる。
また漆黒の闇に陥るかのように暗くなったりする。

だが、意識が飛びそうになった途端、顔を覆っていた力が不意に緩んだ。


67:湯莽草  7
09/02/07 08:26:30 UxAC9kqt BE:626540494-2BP(333)
それとばかりに息を吸おうと頭をもたげる。
が、今度はようやく口や鼻が水面上に出るかどうかという所に智恵の股間が待ち受けていた。
奉仕をせずに息を吸うべからず、というようだ。
望の視界に映るものといえば、黒い翳り・白い下腹部か上方の爆乳しかない。
半ば水を飲み、時折咳き込みながらも、
自分の生死与奪を握っている主人に懸命に奉仕しようとした。

―息がしたい。死にたくない。死にたくない!

だが、生きるための奉仕を阻止しようという悪意に満ちた快感が、
容赦なく凄腕のテクニシャンの手によって加えられる。
どこでそんなテクニックを身につけたのかと疑問に思う余裕など全くない。

智恵が不意に口を開いた。

「もう一度伺いますよ。まだ死にたいですか」
「げほごぼっ……あの、あ、その」ここで可符香が赤化した亀頭をきつく吸い上げた。
―ちううううっ!
「ひゃあああっ!」
「真剣味が足りないわね」

冷たく言い放つと、無情にも智恵は再び望の顔面に座り始めた。

こうして、死に到る苦痛と極上の快楽が文字通り入り混じる残酷な拷問を受け続けたのである。

絶えず頭を湯中に沈められ、溺死する直前にわずかに息を吸うことが許される。
その間、自分の股間には極上の快楽が与えられる。
しかも、最大限の快楽を与えつつ、下半身が暴発せずに長持ちするよう―つまり拷問が長く続くよう、
可符香の悪意に満ちた存分なテクニックで刑の執行の終わりが引き伸ばされていた。
それでも最終的に果てそうになると、決まって智恵の尻が望の顔面を湯船の底に沈めてしまう。
そうしてぐりぐりと押さえつける。
これも暴発を先送りする事に貢献していた。
二人の見事なコンビネーションで、望は徐々に思考力を奪われていった。
ただイきたい、生きたいとぼんやり感じながら甘美にして残酷な刑を受け続けるしかなくなっていた。

何度目の事だろうか。
底の底まで沈められていた望の頭がまた不意に水面上に引き上げられた。
今度はそのままずるずるっと体を浴槽の外に引っ張り出された。
そして智恵・可符香の手で手早く四つん這いの姿勢を取らされた。
その姿勢を取らされたことを気付く暇もなく、望はげほんごほんと咳き込み、
飲んでしまった湯を吐いたりしている。
はっと気が付いて顔を上げた。
すると、目の前に智恵の漆黒の瞳が待ち受けていた。


「先生、まだ死にたいですか」
―ああ、吸い込まれる……
「いいえ、もう死にたくありません」魅入られたように、すらすらと口から言葉がこぼれる。
「じゃあ生きたいのね?」
「はい、いきたいです」
「そう……いいわ、存分におイきなさい」


微笑を浮かべると智恵は望の眼前にやや脚を開いて横たわった。
そして両手を大きく開いて微笑みかける。
「さあ、おいで」


68:湯莽草  8
09/02/07 08:32:04 UxAC9kqt BE:104423832-2BP(333)
その聖母のような姿を前に、望の自我が崩壊した。
もはや恥も外聞もなく、智恵の豊満な乳房に、
まるで腹を空かせた赤子のようにむしゃぶりついた。

「うわあああん、恐かったよお!……恐かったんだよぉ」
「よしよし」
「ううう……すんすん……すんすん」

望は智恵の双乳に顔を埋めたまますすり泣いた。
そんな望の頭を智恵は優しく撫でてくれた。
可符香も後ろから抱きつき、望の胸に指を滑らせたり絶棒をあやしたりした。

智恵がふと望の頭を掴んで胸から引き剥がすと、まっすぐ眼を覗き込んできた。

「さあ」
「え?……う」

視線にしびれ、ふと下半身の快感に気付いてそちらに目をやった。
可符香にあやされていた絶棒が拷問の間に受けた快感を思い出させたようだ。
本体が死滅する間際に追い込まれた今、子孫を残しておこうという本能も作用したのだろうか、
絶棒がこれまでになく屹立し、今にも噴火しそうになっていた。

「さあ」

可符香にも促され、智恵を見た。
聖母のような純白の裸身が熱気でほてって桜色に染まっている。
そしてにっこり微笑んで軽く頷く。
望はするするっと智恵に重なり、熱に浮かされたかのように体を合わせた。

「う……ぐ」
「ん……あぁ」

動き始めると、智恵の中の温かさ、襞や微妙な突起の精妙な動きの気持ちよさでまた涙が目尻に浮かんだ。
そしてはらはらと頬を伝って智恵の裸身に零れ落ちた。

「うわあああん……うっ、うっ」

嗚咽を漏らしながら、それでも一心に腰を振った。
睦み事を覚えたての若者のようにただひたすらストロークを繰り出した。
智恵が一瞬のけぞり、やがて下から望の肩口に顔を埋めると、
背に腕を回し、ぐぃっと力を込めて抱きしめてきた。
望は嗚咽を漏らしながら、いくらもたたないうちに高ぶりが頂点に達し、
智恵の中に大量の精を放った。
長々と精を放っている望の腰を可符香が優しく撫でさすってくれた。

     ☆

可符香に付き添われて、望は時折しくしくすすり泣きながら部屋に戻った。

部屋にはもう蒲団が並べて敷いてあった。
枕もくっつけてある。
暖房も程よく効いている。
灯りは半分まで、人の顔が分かる程度に落としてある。

蒲団の上に向かい合って座った。
望がまだ眼に涙を浮かべていると、可符香が微笑みながら頭に手を掛け、自分の膝に導いた。
膝枕をしようというのだった。


69:湯莽草  9
09/02/07 08:35:01 UxAC9kqt BE:243654672-2BP(333)
部屋の内外は静かで物音一つしない。
隣の部屋は智恵たちの部屋だが、誰もいないかのようだ。
外からは、かすかに遠くの渓流の水音がこぼれてくるばかり。
月明かりもほのかだ。

薄暗がりの中でじっとしていると、浴衣越しに可符香の肌のぬくもりが徐々に伝わってくる。
激動の出来事の直後で縮みきった心の皺が徐々に伸ばされていく。
ようやく精神が鎮まってきたようだ。

可符香が優しく声をかけてきた。

「先生」
「……ん」
「落ち着きましたか」
「……ええ」

消え入るような声で一言呟いた。
望は目を閉じたまま、可符香の膝にうつぶせになっている。
両手はだらりと投げ出したままだ。

「先生」
「はい」

可符香、望の頭を抱きかかえると、自分の腹に押し付けた。
いつの間にか浴衣の紐がほどけていて、健康的な少女の下腹部が望の顔に触れた。
甘えるように若い叢に顔を埋めると、すうーっと息を吸い込んだ。
そしてほうっと安堵したように息をついた。

再度可符香が口を開いた。

「先生」
「……」
「どんな音が聞こえますか」
「音?」
「ええ」望を抱く腕にやや力が込められた。
「赤ちゃんが育つ所、生命を育む所はどんな音がしますか」

望は耳を当ててみた。

―ギュウウウ……シーン……キイイイイン……

微かな、非常に微かだが幾多のかそけき流れが耳を満たした。
またゴーッとはるか彼方で何か大事なものが渦巻いているような音も聞こえる気がした。
そして、トクン、トクンという拍動も確かに伝わってきた。

「いろんな音がするんですね」
「でしょう」可符香が言葉を継いだ。
「だから、生きるってことは」

ぷつりと言葉が途切れた。
見上げると、薄暗がりの中で思いがけず悲しい眼差しをしている可符香を見出した気がした。

そんな視線に気付いたのか、可符香はすぐに笑顔を取り繕った。

「じゃあ、ここはどんな音がしますか?」

自分を見上げたままの望むの顔を、はだけて無防備なままの乳房に導いた。
望は双乳の合わせ目の下に耳を軽く押し当てた。


70:湯莽草  10
09/02/07 08:40:13 UxAC9kqt BE:313271429-2BP(333)
―とくん、とくん、とくん……
「生きている……」思わず望は呟いた。
「でしょう」可符香が望の頭を抱いている手に力を込めた。
―可符香も生きている。そして自分も今確かに生きている。
急に目の前の教え子がいとおしくなり、桜色の可憐な蕾を軽く口に含んだ。
「ん」
―ちゅっ、ちゅっ……

しばらく無心にちゅっちゅっとしゃぶる。
やがてやや固くなった部分の周りを丁寧に舌先でなぞる。

「あ」

一瞬、可符香が望の頭を抱く手にさらに力が篭った。
が、やがてその手が力を失い、望の背中に下りていく。
可符香の全身からも力が抜ける。

望は目の前の愛しい教え子をそのまま蒲団に横たえた。
可符香、今この瞬間を待っていたかのように全身から力が抜けている。
望は、そんな教え子に優しく接吻した。
やがてどちらからともなく舌を絡ませ始めた。
接吻は長く長く続いた。

ようやく唇を離すと、銀色の細い糸が繋がっている。
二人は、そのまま見つめ合う。
見つめ合ったまま、そして無言のまま、望が可符香に優しく入っていった。
奥まで埋めた後、しばらくそのままでいた。
痺れるような幸福感が望を満たした。

やがて可符香がすうっと望の背に腕を回してきた。
望も壊れやすい存在を慈しむかのようにゆっくりと動き出した。

「あ……」

喘ぎを隠すかのように、可符香は望の背に回した手に力を込めると望の胸板に顔を押し付けた。
そして、担任の甘い律動に耐えながら、望の乳首を舐めてきた。

「くっ」

望は、自分の弱点である胸から生じる快感が絶棒から生じる快感と合わさると
計り知れない相乗効果を生むのを身をもって実感した。
可符香の舌先がちろちろと動くたびに絶棒にぴりぴりと電流が流れ、鰓の張りを大きくする。
膨張した鰓が可符香の中を擦り上げるたび、快感の束が絶棒をらせん状に通り抜け、腰の奥に突きささる。
そして全身を隅々まで駆け巡っていく。
頭のてっぺんから爪先まで全身が気持ちいい。気持ちよくてたまらない。

可符香の中がきゅうっと締まり、きつくなってきた。
いつの間にか若蜜があふれ、くちゅっ、ぴちゅっと可愛らしい音が二人の股間から聞こえてくる。
やがて望の律動が大きくなり、二人の押し殺した喘ぎ声も大きくなった。

絶棒が最も膨れ上がると同時に、可符香が激しく締め上げてきた。

「う、もう、もう!」
「あっ、あん、あん!」

ぴくんっと中で震えると、ついに望は上り詰めた。
絶棒が中で跳ね、自分が生きている証をこれでもか、これでもかと注ぎ込んだ。
可符香もそんな絶棒に濃い蜜を絡ませ、一滴も残すまいというようにぎゅううっと締め上げた。
最後まで搾り取られる感覚、最後まで注ぎ込まれる感覚に全身を包み込まれながら、二人は高みに上り詰めた。


71: ◆n6w50rPfKw
09/02/07 08:42:38 UxAC9kqt BE:626541449-2BP(333)
前半はここまでです。
後半は近いうちに上げさせていただこうと思います。
投下が遅くなってすみませんでした。


72:糸色 望 ◆0CUHgEwUxE
09/02/07 09:48:00 ImEmprNw
糸色 望は坂道が苦手

登り勾配に差し掛かると、編成の重さが後ろにかかるためと、
鉄のレールと鉄の車輪との摩擦で走るため、すべりやすく、
その分長い列車を引くことも出来ないし、スピードも出せない。

平らな区間に比べて、坂道に弱いのは鉄道の最大の弱点だ。

糸色 望と四月一日 君尋などの重い気動車の編成などで、
列車の重さが大きいとき、レールと車輪との摩擦の釣り合いが崩れると、
駆動輪はレールの上でスリップして進めなくなってしまう。これを空転という。

73:名無しさん@ピンキー
09/02/07 11:54:19 yv8w1Wrg
グッジョオオオオオオオオオオオオオオオオオブ!!!!
続きを楽しみにしているよ!

74:名無しさん@ピンキー
09/02/07 12:29:30 huGddi5T
続き楽しみにしてます

75:名無しさん@お腹いっぱい。
09/02/08 22:10:04 HotQzcw8
GJ!
これでまた生きる希望が出来ました!

76:名無しさん@ピンキー
09/02/09 12:10:07 BaCIFa63
グッジョブ!
可符香と智恵先生のコンビはたしかに怖いですね

77:名無しさん@ピンキー
09/02/11 05:26:47 X5miHdZq
今回の箱で一つ
なんかない?

78:名無しさん@ピンキー
09/02/11 06:15:40 2Sw7tuBH
特定のものを突き入れる無限の可能性がある箱……とか
エロ漫画的発想しか思い浮かばん

79:名無しさん@ピンキー
09/02/11 15:27:24 Y792RYjn
中出しした後、二度と会うことがなければ
子供が出来てしまった未来と出来なかった未来が
同時に存在することになるのです!

・・・何故このネタ我慢できなかった!

80:名無しさん@ピンキー
09/02/13 09:51:44 1nRx7oJi
>79
・・・それは単なるヤリ逃げと言わんか?

先生にそれは無理だな。

81:1/2
09/02/14 18:59:17 xGvM3IUN
奈美と久藤でエロなし。保守がてら投下。


誰かがわたしを呼んでいる。
「……さん、日塔さん」
誰だっけ。
「…ダメだな、完全にオチてる」
ため息。椅子を引く音。そして本を開く音。
それから声はぱたりと止んで、わたしの寝息とたまにページを繰る静かな音。
いくらか浅い眠りについていた。
「やっと起きたの」
目の前で笑むクラスメイト。
「…久藤くん」
背中が熱い。夏の陽射しはずいぶんだ。
ぼんやりとした頭で時計を覗く。午後三時。驚いてがばりと起き上がった。
「普通にうっかり寝過ごした?」
ハハッと声を立てる。
「ふつうって言うなあ! どうしよう、千里ちゃんと待ち合わせしてたのにっ」
「それは大変だね。相手はあの木津さんだ」
「埋められる! いやぁぁっ」
取り乱すわたし。久藤くんは穏やかなまま。
「今からでも行くべきだよねっ。もう一時間も経ってるけど大丈夫だよねっ」
「一時間…。それはタダじゃ済まないんじゃ」
「いやぁぁ」
「とりあえず連絡取ってみなよ」
久藤くんが諭すように言った。
冷静さを失っていてこんなことも忘れてた。
「あ、う・うん!」
あわてて携帯の着信を確認する。
「どうだった?」
「…なんか千里ちゃん先生を追っかけまわしてるみたい。
知らない女の人と話してるのを見かけたとかで…」

82:2/2
09/02/14 19:00:18 xGvM3IUN
「そ、そう。なら約束の方は大丈夫そうだね」
「だといいなぁ…」
ほっとして、とたん恥ずかしくなる。
そしてとっくに図書室は閉館時間を過ぎていることに気付いた。
そういえば久藤くんは図書委員だ。そうか、じゃあ…。
「あはは…いろいろごめんね久藤くん。わたしが寝てたからずっと…」
「気にしなくていいよ。中間考査が終わって疲れが出たんだろうし」
久藤くんの優しさにじーんとした。
「それに女の子と図書室にふたりきりなんて、美しい青春のひとコマだよ」
「へっ!?」
「なんてね。最近少女漫画に凝ってるんだ」
無駄にあせって我ながらバカだよなぁと思った。
「ふーん…じゃ、じゃあ遅くまでありがとう! バイバイ!」

奈美「少女漫画かぁ…わたしも主人公になってステキな恋がしたい・・」

久藤「もしさよなら絶望先生が少女漫画だったら、僕は普通少女の日塔さんと恋に落ちていたかもね…」

久藤「……この考え方、木野からの悪影響か…」

(オワリ)

83:名無しさん@ピンキー
09/02/15 00:17:59 U8qyc4wu
GJ!
ほのぼのさせて頂きました
普通かわいいよ普通

84:名無しさん@ピンキー
09/02/15 03:09:49 svfzwa07
久藤くんと日塔さんの普通の恋愛、、、アリですね

85:名無しさん@ピンキー
09/02/17 22:39:46 FaBaHjGP
>>80
責任取るのも無理……かな

16集はどうですかね皆さん
160話はここに投下してくれる人を含めて色んな書き手にネタを与えたみたいだけど
喪服の智恵先生がエロいと思うんですよね

86:名無しさん@ピンキー
09/02/19 21:51:30 Om01nZ3y
絶景×千里もありかなーと思ったな。最新巻で。

87:名無しさん@ピンキー
09/02/19 22:53:46 a5AfkH2u
千里ちゃんと先生以外の男の組み合わせはありえ・・・ぬ。

88:名無しさん@ピンキー
09/02/19 23:01:42 +H3uB9r4
ちょっと読んでみたいな

89:名無しさん@ピンキー
09/02/19 23:14:15 d6RWIHvO
>>87
絶景先生!

90:名無しさん@ピンキー
09/02/19 23:21:34 a5AfkH2u
ちがう、そうじゃない

91:名無しさん@ピンキー
09/02/19 23:30:13 oiismBbe
>>87
女は?

92:名無しさん@ピンキー
09/02/20 11:46:52 4ndNcUzH
>86
絶景だったら千里の猟奇も超次元で跳ね返せそうだしな

93:名無しさん@ピンキー
09/02/20 12:08:37 fJzZIdjW
いや、埋められたことあっただろ

94:名無しさん@ピンキー
09/02/23 17:24:29 qb2Ca7KK
以前からここを読ませて貰ってましたが、今回初めて投稿します。
可符香と先生で擬似フェラのみです。3レスほどお借りします

95:タイトル未定
09/02/23 17:37:12 qb2Ca7KK
冬のある休日、いささか時代錯誤のような袴姿の青年が、コンビニ袋を提げて猫背で歩みを進めていた。

「さ、寒い…これのどこが小春日和なんですか・・・ああ、背中にもカイロを貼るべきでした」
大人気なく今朝の天気予報にケチをつけている男―糸色望は高校の教師を務めているのだが、
先日ふと自分が学生時代に書いた同人誌を読み直し、再び創作意欲が沸き、ペンを執ったのだった。
それはつい3日程前のことだが、早くも煮詰まってしまい、気分転換にと外にでかけたのだった。
しかし、数日間部屋に籠もりがちだった体には、だいぶ和らいだとはいえ、まだまだ寒い冬の風は厳しい。
望はただただ、温かい宿直室のコタツを頭に描いて歩調を早めた。
 
「あ、お帰りなさい」
そんな望を宿直室で出迎えてくれたのは、小森霧でもなく、甥の交でもなく、予想にもしてなかった風浦可符香だった。
「え、風浦さん?な、なんでここにいるんですか?」「先生そろそろ煮詰まってらっしゃるかな~と思って様子を見に来たんですよ」
望が再び同人誌を書こうと思ったのは、以前、
藤吉と一緒に臨んだ同人会で、『石ころ』が全くとして売れず(まぁそもそも場違いだったのだが)、
意気消沈していた自分に光を差し込んでくれた可符香の存在も理由の1つだった。
お世辞でも、自分の作品を「わたしは好きですよ」と笑顔で受け入れてくれたのは嬉しかったのだ。
だから望は可符香にだけ、また作品を書き始めたことをそれとなく伝えたのだった。
というわけで、もはや彼女に読んで欲しいが為にまた同人誌を書き始めたと言っても良かった。そんな自分の煮詰まるタイミングを読まれていたことは恥ずかしかったが、気に掛けてくれたことは純粋に嬉しかった。


96:タイトル未定
09/02/23 17:40:19 qb2Ca7KK
「そうだったんですか・・・ははは・・・恥ずかしながら、図星です。・・・そういえば交はどこに居るんでしょうか?」
「交くんなら、さっき倫ちゃんと出掛けましたよ」
「そうですか。ああ、じゃぁ丁度良いですね。あんまん2つしか買ってなかったので。あ、お茶でも淹れますね」
そう言って、望はやかんを火にかけた。
「ありがとうございまぁす。あ、わたしも差し入れ買ってきたんですよ。えっと・・・」ガサガサッ
「ピノに、雪見だいふくに、パピコに、ガリガリ君に・・・」
「全部アイスじゃないですかぁ!?いや、でもありがとうございます・・・でもせっかくですが、交と後で頂きますね。
しかしなぜもこうピンポイントで・・・」
「やだなぁ、先生。あったかいおこたで食べるからおいしいんじゃないですか。あ、アイス冷凍庫に入れておきますね」
「あ、どうも。はあ、そういうものなんですかねぇ・・・」そう言って、2人はコタツに入った。

「・・・・・・」「・・・・・・」「あ、先生小説の方はどうなんですか?」
「え?あぁ・・・まぁあまり捗っては、ない、ですね・・・」「そうですか」「はい・・・」
望は可符香の問いにぎこちなく返しながらも、頭の中では別のことでいっぱいだった。

と言うのも、可符香のことを考えながら筆を進めると、どうしても稚拙な恋愛モノになってしまうのだ。
それは今まで望が書いてきた作品にはない傾向であったし、とても気恥ずかしいことだった。
さらには、今こうして小説のモデルの張本人とも言える人物を目の前にしているのだから、たまらなく恥ずかしい。
(ああ・・・もし「どんなお話ですか?」なんて聞かれたらどうしよう・・・)
そんな心配でいっぱいで、望は沈黙の気まずさに気付かなかった。

(それにしても・・・先生やっぱりちょっと疲れてるなあ)
一方で、本来その疲れを癒すために来た(という名目で会いに来ただけだが)可符香だが、
やや隈がかかった目元を見ると、やはり心配になる一方・・・言葉尻がややぞんざいな望を 少し、からかいたくなった。

「先生、わたし1本アイス頂きますね」「え、あ、どうぞ…」
『まったく、自分で食べたいから買ってきたんじゃないですか?』いつもなら、そんな風に皮肉な言葉が返ってくるはずなのに、やはり生返事だ。
「このミルクのやつが、わたしちっちゃい頃から一番好きなんですよ~」「はぁ…」なおも生返事。


97:タイトル未定
09/02/23 17:44:52 qb2Ca7KK
(・・・こうなったら・・・)
「先生・・・ちょっと立ちあがってください」「え?こ、こうですか?」
「はい。それから、コタツに座って下さい」「え、行儀悪いですよぉ」「いいからいいから~」
(せっかくコタツで暖を取れたのに・・・)
望はしぶしぶとテーブルに腰掛けた。可符香は望の足の間に体が収まるように、ぺたんと座り込んだ。
「角度はこんなもんかなぁ…」可符香はアイスの銀のフィルムを剥がしながらそう言った。「??風浦さん?いったい…」
すっかり小説の話題からそれて望は安心したものの、いつも以上に謎の行動をとる可符香に戸惑った。
「先生はただ見ててくれればいいんです」にっこりとそういうと、可符香は棒を両手で持ち、ちろちろとアイスの先を舌先で舐め始めた。
「・・・!?ふ、風浦さん!?」ついに望は彼女の意図に気付いてしまった。
その瞬間に顔がかっと赤く火照るのが自分でもわかった。
「あ、貴女・・・わるふざけは・・・」しかし、望は思わず彼女の口元に見入ってしまって、『やめなさい』と続けることが出来なかった。
「ん・・・ちゅ、ちゅっ、ちゅぅ…」可符香は望の視線に気づき、満足し、先端を丁寧に舐め続けた。紅い舌が踊る。唇がアイスでてらてらと濡れている。
先端がだいぶ溶けてくると、可符香はアイスをすーっと深くまで口にくわえた。しかし、まだ溶けかかっていない部分は、思っていたより太さがあったらしく、やや眉をひそめながら、またすーっと口から取り出した。
そして、「ふぅ・・・」と可符香は軽い深呼吸のようなため息をついた。
「も、ほんとに、風浦さん、やめてください・・・」これ以上からかわれては、本当にやばい。
しかし、可符香はそんな説得力のない望の言葉をまるで無視して、再びアイスに唇を近づけた。
今度は頭の角度を変え、側面を這うようにゆっくりと、舌の真ん中で舐め上げていく。右の側面の表面が舌の温度で溶けかかると、次は左の側面を。
そうして丁寧に溶かして、くわえやすい太さになると、可符香はアイス全体を口にゆっくりと抜き差し始めた。「んぅ…ちゅぶ、くちゅ・・・」ぐちゅっぐちゅっという音を立て、
時々のどを鳴らしすすりながら、少しずつ出し入れのスピードを上げていく。もちろん、棒を両手でしっかりと持ち、アイスを動かさずに頭だけを振って。
激しく頭を動かしたせいか、スカートもずれ、真っ白な太ももが、半分以上さらけ出されている。
そんな教え子の様子は、健気なようにも見えた。一生懸命に舐め続ける少女の頭を無意識になでながら、望は目の前の光景を、
脳に焼き付けるかのように、視覚と聴覚で味わった。そして彼女の舐めているアイスがどんどん溶けていくのに反比例して、袴の下が疼くのを感じていた。
「じゅるっ・・・ぐじゅ・・・じゅる・・・ごくん・・・」アイスを全て食べ終えると、可符香はほんのり頬を赤らめ、心なしかぼうっとした目で望の顔を見上げた。
望は彼女の唇から、顎を伝って垂れていく一本の白い筋を、服に付いてしまわないように指ですくいとった。
すると、可符香はその指をも口にしゃぶり、アイスを完全に舐め取った。


98:タイトル未定
09/02/23 17:45:39 qb2Ca7KK
そして、とどめとばかりに「おいしかったです。ごちそうさまでした」と口角を上げて言い放った。
「あの・・・風浦さん・・・私、「さて、わたしそろそろお暇しますね。」…え?」
さっきまでの熱を帯びた表情がまるで嘘だったかのように、可符香はそそくさと帰る準備を始めた。
「え、ちょ、あの・・・」「じゃぁ、先生お邪魔しました。小説、楽しみにてますね。頑張って下さい。さようなら、また明日」
「え・・・あ・・・」望はあっけにとられたまま、ふわりっと去っていく彼女を何も言えずただ、見送った。ドアの前で靡いたスカートだけが残像となって、頭に残った。
床にはすっかり冷えてしまったあんまんの入ったコンビニ袋。まだまだ冷めそうにない袴の中の自身。
「え、私、どうすればいいんですか・・・」未だ濡れている、ぬるい熱を帯びた人差し指を見ながら、望は一人ごちた。
部屋の奥のやかんが立てるシュンシュンという音だけが、やけに響いていた。
                                 
――終――


99:95-98
09/02/23 17:49:00 qb2Ca7KK
以上です。
原文をコピーしたら行オーバーしてしまい、修正しながらレスしたので、酷く読みづらくなってしまいました。
乱文失礼致しました。

100:名無しさん@ピンキー
09/02/23 22:57:51 h/Y+oej7
可符香ばっかでつまらんなここ

101:名無しさん@ピンキー
09/02/24 00:41:27 VfgaM+Xs
>>100
可符香以外のネタをお待ちしてます。

102:名無しさん@ピンキー
09/02/24 08:45:37 eJT/XIok
>>100
すみません…
もう2度と書きますん

103:名無しさん@ピンキー
09/02/24 09:45:01 BeK/cwd7
最近は望カフ少なかったからうれしいよ
是非また書いてください
このスレときどき変なの沸くけど気にしないで

104:名無しさん@ピンキー
09/02/24 18:29:35 WaR3a8xg
最新刊を読んで可符香熱が上がったところだった
是非また書いてください

105:名無しさん@ピンキー
09/02/24 19:50:11 yY43N13I
>>102
ざまぁw

106:名無しさん@ピンキー
09/02/24 20:08:54 Kp/0lvCh
「すん」が読めない時点で相手にするに値せず

107:名無しさん@ピンキー
09/02/24 21:46:20 yY43N13I
>>106
2度と書きますんw
2度と書きますんw
2度と書きますんw


108:名無しさん@ピンキー
09/02/24 22:44:25 lsjcdvV+
いや普通にIWGPと絶望の中の人のネタだろ>ますん
何がそんなに・・・

>>102
まぁ真に受けてないと思うけど、気にしないでいいよ
また気が向いたら是非書きに来て下さい

109:名無しさん@ピンキー
09/02/25 01:29:52 V7hvwnSG
>>107は下見てないんだろうなw

110:糸色 望 ◆0CUHgEwUxE
09/02/25 07:00:41 wFH26xPk
私がコードギアスのルルーシュでしたら・・・。

「下見です。」とおっしゃっている望に対し
「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる!糸色 望は俺の言うとおりにしろ!」と
いう風に遠慮無くギアスをかけていたかもな。ギアスをかけられた望は
「イエス・ユア・ハイネス!!」と言って、自分の頭にルルーシュから渡された
拳銃でぶち抜いて死んでいると。

ただ、超ネガティブな性格が災いし、想定外(イレギュラー)の出来事には弱い。

111:名無しさん@ピンキー
09/02/27 15:54:28 anyh+W0A
新刊発売されたというのにこの過疎りっぷりに絶望した!

112:名無しさん@ピンキー
09/02/27 23:01:18 YKG0Fye8
大浦さん根津さん丸内さん

113:名無しさん@ピンキー
09/03/04 00:45:12 X4ovF+Vk
保守

114:名無しさん@ピンキー
09/03/04 09:09:10 ODyIr56u
ID:qb2Ca7KK
さっさと書けよ

115:名無しさん@ピンキー
09/03/04 10:19:22 a8NC0uHy
久しぶりに来たけど
半端ねぇwww


116:名無しさん@ピンキー
09/03/04 12:08:35 54dXw8L/
>>114
ID:yY43N13I乙

117:名無しさん@ピンキー
09/03/08 20:35:11 DkaPHUNa
オレでよければ書いてみる

118:名無しさん@ピンキー
09/03/08 20:40:57 WqqCF6Av
お前しかいない

119:名無しさん@ピンキー
09/03/08 20:42:58 wpUFw8Xa
じゃあ俺も

120:名無しさん@ピンキー
09/03/09 00:04:16 cFKLzLht
お前しかいない

121:糸色 望 ◆0CUHgEwUxE
09/03/11 11:24:38 PU/p/8g3
各キャラのエンジン

勝 改蔵、名取 羽美、坪内 地丹など
DMH17系エンジン1台

L Lawlite、セバスチャン・ミカエリスなど
DMH17系エンジン2台

ルルーシュ、四月一日 君尋、糸色 望など
DML30HS系エンジン

ギンコ、夏目 貴志など
DMF15HS系エンジン

デスノートのニア、バトルスピリッツのJなど
カミンズ DMF14HZエンジン

勝 改蔵のDMH17系エンジンは太平洋戦後の設計の古さから、エンジンの質量の割には出力は
十分でなく、燃費効率や始動性と機動性も芳しくなかったが、旧型のキャラクターに広く採用され続けた。

四月一日 君尋、糸色 望のDML30HSHエンジンはルルーシュのDML30HSEエンジンを安定性重視に
改良し、出力を500馬力から440馬力へとデチューンして余裕を持たせたエンジンである。

デスノートのニア、バトルスピリッツのJの直噴式以外はすべて予燃焼室式である。
今時、予燃焼室式エンジンはもはや時代遅れであった。

122:名無しさん@ピンキー
09/03/12 09:54:39 2/8u8RQz
荒らしでさえ嬉しくなってしまうほどの過疎っぷりだな

123:名無しさん@ピンキー
09/03/12 20:06:14 zyCnPtDz
どうしたんだ
なにがあったというんだ

124:名無しさん@ピンキー
09/03/14 14:28:22 z5zDjj8/
これはもう小ネタで気を紛らわすしかないな

125:名無しさん@ピンキー
09/03/15 19:11:04 zM4dIDli
テスト

126:584
09/03/15 21:34:38 zM4dIDli
お疲れ様です。青山×奈美で投下させて下さい。

127:普通なんて 
09/03/15 21:42:08 zM4dIDli

時は黄昏時、夕日に照らされた校舎。窓の外からは運動部の元気な掛け声が聞こえてくる。
私こと日塔奈美は誰もいない放課後の教室で悩んでいた。

「はぁぁ・・・・・・・・・・」
深いため息をつく。
私、日塔奈美はどこにでもいる、ごくあたり前の「普通」の少女。特に問題のない平均的な普通の家庭に生まれ、
普通に育てられ、普通の生活をしながら、普通の学校に通っている。

―――――普通―――――――――

この単語が私を苦しめる。普通、普通と言われ続ける毎日。
普通の境遇、恵まれた境遇に生まれたことにはもちろん、感謝している。裕福な家庭に生まれ、ちゃんと両親がいて、友達もいて、何の心配もなく学校に通えている。
それはとても幸せなことだと思う。それ以上のことを望むのは贅沢だとわかっている。

だが、普通なんだからそれでいいんじゃない――――――と言われるのにはハラが立つ。

――――普通じゃなくなりたいと思うことこそが普通なんじゃないかな―――――

以前可符香ちゃんから言われた言葉。違う、そんなんじゃない。普通じゃなくなりたいんじゃなくて、私はただ純粋にほめてもらいたいだけなのに――――

普通だから・・・・・それ以上を望んではいけないのか?
境遇的にはもちろん恵まれているし、「普通」を「異常」との2項対立で見ればたしかに、「普通」は良いことだ。でも、それとこれとでは次元が違う。
能力や人格の面で言えば普通は基準値に過ぎない
普通未満のことしかできない人よりは、はるかに評価されていると思う。だが、普通で止まってしまってはそれまでだ。決していい意味では使われない普通、
私だって普通以上のことをして、人から評価されたい。普通からいい意味で脱却したい。たしかにそう思うこと自体が普通なのかもしれない。

だが、この思いはこの世に生を受けた者なら誰もがもつであろう憧れ。
それを単に境遇が恵まれているから、そのままでいいんじゃないと言われるのは悔しい。
普通の代名詞にされ、他人と比べられるだけのものさしとして扱われる。あくまで他人を引き立てるだけの道具に成り下がるのは悔しい。

128:普通なんて
09/03/15 21:45:44 zM4dIDli

私は普通だからというだけで私自身の物語の主人公になることすらできないのか。
普通以上に憧れることは許されないのか。特別なものに憧れてはいけないのか

もちろん、私も努力はしている。部活動こそしてはいないが、成績向上のための勉強も以前より熱心にしているし、
就職に有利なように資格の取得にもチャレンジしている。
アルバイトだって頑張っているし、私なりに自分の進路を真険に考えているし、
社会に適応できるように日々スキルアップを図っている。
だが、それだって、この社会では人並みの努力に過ぎない。
私は今まで、どれだけ努力しても、以前よりよい結果を残しても、「普通」の一言で片づけられてきた。

思えば、このクラスに来てから、ほめられたことがあっただろうか、何かにつけて、自分に向けられる単語は「普通」の一言だけ。
自分の努力や言動1つ1つに対して、正当な評価をしてくれた人が今までいただろうか。
私が何をしようと、その結果は「日塔奈美がやることは全て普通」というフィルターに通され、「普通」という評価が真っ先に下されるのだ。

「あはは・・・・・・・、私って一体何なんだろうな、」
気がついたら、目からは涙があふれていた。

――――――普通
――――――あんまり、普通のこと言わないで下さい
――――――そう思うのが普通だよね
――――――奈美ちゃんは普通ですから
――――――普通にやるよね、それ
――――――普通は普通でいいんじゃないですか、普通ですし、
数々の言葉が脳をよぎる。


「ぐッッ―――――、なんだよ、畜生ッ―――、畜生ッッ―――」
思わず、悪態を吐く

――誰も私のこと真剣に見てくれない。―――
私は普通という概念そのものであって、誰も私を人間として、日塔奈美として見てくれないんだ。
私だって、必死に、がむしゃらに生きてきたのに、こんなに頑張っているのに、
ちゃんと私にしかない人格をもって、私らしくありたいと思っているのに
―――それすら許されないのか

そんなのは悲しすぎる。
思考はどんどん暗い方向へ堕ちていく。

129:普通なんて
09/03/15 21:50:45 zM4dIDli

「えっく・・・・・ぐすっ・・・・・・ぐすん・・・・・・」
しばらく突っ伏して、机を涙で濡らしていた。

「日塔さん―――どうしたの、」
その呼び声で私は堕ちていく思考を再び取り戻した。男子の声だった。
「大丈夫、具合悪いの?」
顔を上げると、そこには心配そうに私を見つめるメガネの男子の顔があった。ウチのクラスの出席番号1番、青山くんだった。
普段でも穏やかな彼の顔だったが、夕焼けに照らされたその顔は余計に情緒的で優しく見えた。

「ぐすっ・・・ううん、何でもない、大丈夫だよ、」
そう言ってとりあえずごまかしてみる。ああ、こんなに泣いているところを見られて恥ずかしい。

「何でもないわけ・・・・・・・・、ないと思うけど」青山くんは私を逃がしてくれなかった。
「忘れ物を取りに来ただけなんだけど・・・・・・・・このまま日塔さんを放って帰るのは・・・・・・・できそうにない。」
青山くんは私の前の椅子に座るとこんなことを言ってくれた。

「男の俺がこんなこと言うの変なのはわかっている。・・・・・・・でも日塔さんが心配なんだ。もし迷惑じゃなかったら、話せる内容だったら、
俺に話してくれないかな。」

その言葉に驚いた。そして嬉しかった。私のことを見てくれている人がいる。私を心配だと言ってくれる人、青山くんの表情は本当に真剣だった。
私は青山くんに心のうちを打ち明けることにした。

「青山くん、私って1人の人間として、見られているのかな?、「普通」っていう概念が服を着て生きているだけと思われているんじゃないかな?」
思わず、そんな自暴的な問いかけをしてしまう。それを聞いた青山くんは血相を変えて、大声を出す。

「――――――ッッッッッ、何言ってるんだ!!そんなことあるわけないだろ、日塔さんは人間だ!!自分の意思をもってちゃんとここで生きている。
自分をそんな風に言っちゃダメだ―――!!」
青山くんは必死に否定してくれたが、今自分でした問いが引き金となり私の心は再び堕ちるところまで堕ちていく。
私の口からは涙声で次々と嘆きが再生される。

130:普通なんて
09/03/15 21:52:48 zM4dIDli

「私はどんなに頑張っても、みんなからは普通って言われるだけ、みんな私のこと真剣に見てくれない。日塔奈美として見てくれない!!
『普通』の代名詞みたいに言われて、何をしても、ああ、こいつができるんだから、みんなできるんだなっ・・っていうふうに見られて。」
「違う、そんなことない、・・・・・日塔さんのこと、みんなはちゃんと見てくれている!!」

「私だってほめられたい。頑張ったら、頑張った分だけ、人から評価されたい。それだけなのに、
みんなは私が普通だからって・・・・・・・普通はいいことだって、・・・・・・それ以上を望むのは贅沢だって、それだけで片づけられて、
・・・・・・・・・ぐすっ・・・・・・・・・私だって恵まれた環境に生まれたのには感謝してる・・・・・・・・でもそれだけで満足だなんて思いたくない、
私だっていい意味で普通じゃなくなりたい、・・・・・・・・・人からちゃんと評価されたいの、・・・・・・ただそれだけなのに・・・・・・・」
両目を手で覆いながら、私は弱々しく言葉を紡ぐ。私の目から溢れ出す涙は止まらない。

「日塔さん――――、日塔さんは普通なんかじゃない、・・・・・・・・頑張り屋で、仲間思いの強い、すごく優しい女の子だよ。
俺、いつも見てるもん、・・・・・・・日塔さんがマリアや交くんの面倒見たり、大草さんの内職手伝ったりしてるところ・・・・・・」
青山くんはそんな私をなだめようと落ち着いた、優しい言葉をかけてくれている。

「図書館で勉強頑張っているところも、バイトで大きな声で呼びこみ頑張っているところも、・・・・俺はちゃんと見てる。」
本当に、本当に、真剣な言葉、思えば、他人からこんなに真剣な言葉をかけられるのはいつ以来だったか、

131:普通なんて
09/03/15 21:56:18 zM4dIDli

「そして、日塔さんはこんなに美人じゃないか―――――――」

――――――――えっ―――――――――

私はその一言に固まった。思わず目を覆っていた手をどけて、青山くんを直視した。

「こんなに可愛くて、美少女で、スタイルだっていいし、」
顔が真っ赤になっていくのがわかる。
――――可愛い――――――――今、目の前の人は自分のことを確かにそう言ってくれた。
しかし、それだけでは済まなかった。青山くんの次の言葉は私をさらなる驚愕に陥れた。


「俺・・・・・・・・日塔さんのことが好きだ、」
青山くんは頬を染めながら、私から目を反らさずにそう言った。
「えっ―――――――、・・・・えええええ―――――!!!」
信じられなかった。
(男子から・・・・・・・・・・・告白された。・・・・・・・・・)

「俺、日塔さんが普通って言われるの悔しくてしょうがなかった。・・・・・・・・・こんなにいい娘なのに、
日塔さんがみんなから普通って言われるたびにイライラしてた。『日塔さんに謝れッッ!!』て言いたかった。
1月に2代目先生やらされたときは木津さんからせかされて、つい『普通のものさし』って言っちゃったけど、
本当は日塔さんがものさしにされたことが悔しくて震えてたんだ、
あの後、かばってやれずにあんなこと言ってしまっていたのをずっと後悔してた。」

そう言えば、あの時、青山くんは全身タイツに着替えさせられた私を見て、何かに耐えるようにずっと押し黙って震えていた。
それで千里ちゃんに怒られて・・・・・・

132:普通なんて
09/03/15 22:00:30 zM4dIDli

青山くんの表情が悲痛で歪んでいく。

「日塔さんは普通って言われるの嫌がっているのに、みんな日塔さんのこと普通って決めつけて、
それを前提にして、よってたかっていじめて・・・・
許せなかった・・・・・・・・でも勇気がなくて守ってあげられなかった。見ていることだけしかできなかった。
情けない・・・・・・・・・・こんなに追い詰められていたのに、」

他人からこんなに強く同情されるのは、いつ以来だろう、知らなかった・・・・・・・・こんなにも私のことを思ってくれる人が同じクラスにいたなんて。
そう、青山くんの言う通りだった。
私は普通と言われるのが嫌なのに誰も彼も、その声を無視して、私を普通と決めつけて、それを前提に話を進めてくる。
私はまずそこから否定しなければいけなかったんだ。

青山くんの両手が私の右手を握りしめる。私の目をメガネの奥から真正面に捉えて、力強く言葉を投げかけてくる。
「日塔さん、この世に普通の人なんていない!!日塔さんはこの世に1人しかいない、かけがえのない女の子なんだ。
日塔さんにはちゃんとご両親がいる。ご両親は日塔さんのこと大事に思っていないわけない。
何より君は今までご親戚や近所の人、先生、友達、周りのいろんな人に支えられて、自分でも頑張って必死で生きてきたんだ。
その日々の積み重ねといろんな人の思いを「普通」なんていう一言で片づけるのは絶対に間違っている。
人間だけじゃない―――、この世に生まれてきたものに普通なものなんてない。普通という一言で片づけていいことなんかない。
みんな『特別』なんだ。みんな、生んでくれた両親がいて、自分だけの意思があって、それぞれの思いを背負って、がむしゃらに生きている。
そうやって死に物狂いで生きた結果が歴史に残らない平凡な人生だったとしても、その中で数え切れないほどの人の役に立って、感謝されているんだ。」
1つ1つの言葉が心に強く突き刺さる。

「青山くん――――――、」
「それに何より、日塔さん――――、今、この現代社会で生きることはものすごく大変なことなんだ。
当たり前のことが当たり前に出来るってすごいことなんだ。
どんな人だって、ものすごい努力して、がむしゃらで必死になって生きている。俺はこれから社会の荒波に出ていく日塔さんを本気で応援したい。
俺は当たり前のことを当たり前に出来る日塔さんを尊敬していた。俺は日塔さんの健気さがまぶしくて仕方なかった。
――――日塔さんはいつだって輝いていた。
日塔さんは俺のアイドルだった!!―――――――、」

133:普通なんて 
09/03/15 22:05:14 zM4dIDli

(ア・・・・・・・・・・・・・アイドル・・・・・・・・・・・)
その単語を聞き、私の顔はさらに真っ赤になっていく。

「日塔さん――――――、もう誰にも君のことを普通なんて言わせない、
――――――俺が君を守る。」
青山くんはそう言って一息つくと、私の右手をしっかりと握りしめたまま、次の言葉を発した。

「日塔さん―――――――――俺と付き合ってくれ。」

それは偽りのない心からの求愛の言葉、
「な・・・・・・・・あッ・・・・・・・・・・・」
私はそのストレートな言葉に呼吸を奪われる

「この思いは紛れもない本物だ。――――――
俺は日塔さんに出会う前まで、出来て当たり前のことすら満足に出来ない人間だった。目標も夢も持たず目の前のことしか考えずに怠惰に生きてきた。
でも日塔さんに出会ってから自分を変えようと思った。当たり前のことが当たり前に出来て、なおかつそれ以上のことも出来る日塔さんが本当にすごいと思ったし、ずっと憧れていた。
日塔さんの頑張りに負けないだけ自分も頑張ろうと思えた。日塔さんが俺を変えてくれた。今はまだ自分のことすら満足に出来ない人間だけど、
もっと強くなって成長して、日塔さんを守れるだけの人間になりたい。
――――――――――こんなにも強い思いが俺にはある。」
私の目から再び、大粒の涙が溢れ出す。

「うぁ・・・・・・・あ・・・・・・・・・・うわあああああああああああああああああ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」
私は青山くんにすがりついて泣き出した。
「日塔さん・・・・・・・・・・・・」

今までどんなに頑張っても普通と言われ続けた日々、その日々を青山くんはしっかり見てくれていた。
私のことを普通なんかじゃないと、普通以上の特別な存在だと初めて認めてくれた。
この世に普通のものなんてないと、当たり前のことを当たり前に出来ることがどれだけ大変で、すごいことなのか気付かせてくれた。
私を応援したい、守ってあげたいと言ってくれた人。私のことを好きだと言ってくれた人。
―――――――――こんなにも私のことを思ってくれている人。

「あ・・・・・・・・・・・うぁ・・・・・・・・・青山くん、ありがとう・・・・・・・・」
私は青山くんの背中に腕を回し、思い切り抱きついた。
「日塔さん・・・・・・・・・・・・・君は俺が守る。」
青山くんも私を力一杯抱きしめてくれた。その腕は暖かった。
彼になら自分の全てをさらけ出せると思った。青山くんは私を普通という檻から救ってくれた。
私は青山くんのためにも、他の人の役に立てるような人間になれるように、これからも自分を磨き続けていこうと思う。
そしてもっと多くの人に普通よりすごいねっ・・ってほめられるようになりたい。


私たちは日が暮れるまで誰もいない、教室で抱き合っていた。


ED

134:584
09/03/15 22:13:24 zM4dIDli
お粗末様でした。
普通に生きるのはすごく大変です。
だから普通に生きれない、普通に生きてこれなかったダメ人間の自分は
奈美がまぶしくて仕方ないし、応援してあげたいんです。
普通に生きることの大変さを1番知っているのは奈美だと思います。

135:名無しさん@ピンキー
09/03/16 00:16:05 faV/Iwhw
普通が一番難しいよね
人並みに生きられるのは幸せだと思う
乙でした!

136:名無しさん@ピンキー
09/03/16 14:38:39 gzF6I1SS
青山好きだわー

137:名無しさん@ピンキー
09/03/17 07:46:09 5kysbg1m
>584乙!奈美はいいものだ

このスレもPart6までは1スレ消化に半年以上がザラだったんだな
Part6の途中からアニメが始まり怒涛の投下が始まり・・・
あれは夢で今はその前の状態に戻っただけなんだそうなんだ・・・

138:小ネタ「とりあえずカエレさんに出番を与えてみた」
09/03/18 01:25:21 mCWlbW/Q
千里「ジー」
カエレ(なんか私の胸見てるな…)
千里「……チラ」
カエレ(今度は自分の胸を…しかしどんだけ平らなんだ)
千里「…ねえ、脂肪がそんなにあるってどんな気持ち?」
カエレ「え?別にどうも」
千里「嘘。優越感に浸ってるでしょう。」
カエレ「いや、ちょっと肩がこったりして不便かなと」
千里「私は脂肪と言っただけで胸とは言ってないのに。やっぱり、私のこと馬鹿にしてるんだ。」
カエレ「いや別にそんなことは」
千里「いいなあ、大きい人は夢があって。」
カエレ「女の価値はバストでは決まらないだろ」
千里「それはあなたのようなおっぱい星人にだけ許される台詞ね。」
カエレ「で、でも将来垂れるかもしれないし、小さい方がいいって」
千里「うん、あと動くときスッゴい邪魔よね。あびるちゃんなんか運動神経ゼロだし。なんか大きい人って可哀想ね。」
カエレ「え……あ、うん、それに小さいのが好きって性癖の人もいるし…」
千里「あ、もう行かないと。それじゃ、体育に遅れないようにね。」バタン
カエレ「……って何なんだよ!でかくて悪かったな!」
ガラッ 千里「今、『貧乳女の僻みウゼー』とか思った?」
カエレ「思ってない!思ってない!」
千里「ふーん」バタム
カエレ「うう…心が折れそう」
千里「ジー」
カエレ「まだいた!怖!」

139:名無しさん@ピンキー
09/03/19 15:23:47 XXkRtp2c
なんと鬱陶しい千里

140:266
09/03/20 00:42:27 spH1Q6P/
凄く久しぶりに書いてきました。
16巻の限定版DVDネタの望×可符香で、エロなしなのですが……。

ともかく、投下してみます。

141:266
09/03/20 00:44:20 spH1Q6P/
今も覚えているのは、観客たちですし詰めになったテントの中の何とも言い難いざわめき。
閉鎖された薄暗い空間を、強烈に照らし出すスポットライトの光。
さまざまな曲芸を繰り出す団員や動物達。
ピエロのおどけた仕草。
そして、それを見てはクスクスと、本当に楽しそうに笑っていたあの幼い女の子。
その笑顔は、スポットライトを浴びて華麗な技を披露するサーカス団と同じくらいに、僕の瞳にキラキラと輝いて映った。
この娘にのせられて半ば無理やりサーカスに連れて行かされて、
しかもなけなしの小遣いからこの娘の分のチケット代まで払う羽目になったけれど、
ざわめきに包まれたこの薄暗い観客席に座って、この娘の笑顔を見ている時間は不思議と満ち足りていた。
「楽しいね、お兄ちゃん」
女の子は言った。
「そうだね、僕も楽しいよ」
僕がそう応えると、女の子はより一層嬉しそうに笑った。
サーカスのテントの中は日常とは切り離された異空間、夢の世界だ。
赤、青、黄色、目にも鮮やかな原色と煌く光。
繰り広げられる息の詰まりそうな曲芸の数々、火の輪をくぐるライオンのしなやかな筋肉の動き。
めくるめく非現実じみたショーを見ている内に、心はうっとりと陶酔していく。
興奮と、心地良い気だるさが同居した現世の夢。

だけど、どんな夢もいつかは必ず醒める。

ふと、テントの入り口のあたりに僕が目をやった時だった。
「あれ、今更入場して来る人なんているんだな……」
テントの中に入ってきた背広姿の男を見つけて、僕は何気なく呟いた。
その男に、僕は妙な違和感を感じた。
険しい表情で、他の客を掻き分けて進むその姿は、サーカスを楽しみに来た人間のものとは思えなかった。
さらに続いて同じような男たちが次々とテントの中に侵入して来るに至って、違和感は不信に繋がる。
(あいつら普通じゃないな…もしかして、テロリストとか?…いや、まさかそんな……)
十中八九、気弱で疑り深い僕の思い過ごしだろう。
それでも、何かあった時のためにと、僕はとなりの女の子の小さな手の平を握った。
男たちは全部で7,8人ほどだろうか。
注意深く様子を見ていると、どうやら彼らは何かを探している様子だ。
一体何を探しているのだろうか?
だが、その疑問はすぐさま解かれる事となった。
男たちの一人と目が合ったのだ。
僕はその男と数秒間は見詰め合っただろうか。
そして次の瞬間、鬼の形相に変わった男は仲間に合図を送りながら、まっしぐらにこちらに接近し始めた。
「な、な、な……何なんだ、一体!!?」
戸惑う僕はその時、男が懐から出した物を見てさらに仰天する。
警察手帳。
男は周囲にそれをかざして、道を譲って貰いながらこちらに向かって来る。
残りの男たちも同様にこちらへの距離を詰めている。
急転直下の自体に、僕のパニックが最高潮に達した。
その時である。
「たすけてー、おまわりさーん!!!!」
女の子が突然立ち上がり、そう叫んだのだ。
「へ……えっ…きみ……何を言って…!?」
「たすけて、おまわりさーん、ゆーかいされるぅ~!!!!」
「えぇえええええええええっっっ!!!!!」

結局、全ては女の子の悪戯だったのだ。
彼女と出会ってから一年にもなるが、僕はこの幼い娘の行き過ぎな悪戯に毎回酷い目に合わされてきた。
まあ、それでも気付かず、またこうして引っかかっている僕も僕なのだが……。
取り押さえられてしまった僕は自分の間抜けさ加減を恨みながら、刑事達に保護されて去っていく女の子を見つめる。
「うぅ…今回もまんまとやられてしまった……」
自分自身の学習能力のなさにため息を吐く。
それでも不思議と悪い気分じゃないのは、さっきまで見ていた女の子の笑顔のせいなのだろう。
これだけ酷い目に遭わされて、それでもまだそんな事を思っている自分には少し呆れるけれど、
僕はどうしようもなくあの笑顔に憧れていたのだ。

142:266
09/03/20 00:45:14 spH1Q6P/
何もかも後ろ向きでネガティブで、高校入学を機会に今度こそは明るい青春をと目論んだけれどそれも失敗して、
今まで以上に俯きがちに過ごすはめになった僕。
そんな僕が求めてやまないものが、その女の子の笑顔にはあった。
本物の幸せとか、希望とか、そういうキラキラと輝くもの全てがそこにはあった。
まあ、毎度毎度、代償が大きすぎるのが玉に瑕だったけれど……。
「ああ、また父さんに迷惑をかけてしまうなぁ……」
あの女の子に関わるようになって以来、度々警察のお世話になってしまった。
後になって誤解だとわかってはもらえるものの、そろそろ警察が僕を見る視線には苛立ちを通り越して殺意がこもり始めている。
たとえ濡れ衣でも息子の僕がこの有様では、代議士としての父の評判にもかなり影響が出てしまう。
しかも、その当の父が一応怒る素振りを見せつつも、その実かなり面白がっているようなので、余計に心配なのだ。
「……次は絶対に引っかからないようにしないと……」
呟いてみて、あまりの説得力の無さに自分で苦笑してしまう。
これからも、きっとこんな調子で僕はあの娘の手玉に取られ続けるのだろう。
そんな事を思いながら、最後にテントから出て行こうとするあの娘の方を見た瞬間、僕は息を呑んだ。
「……………っ!?」
こちらの方を振り返りながら、女の子が浮かべた笑顔。
その目元にきらりと輝いた雫が、赤い頬を流れ落ちるのが見えた。
女の子の唇が動く。
声は聞こえなかったけれど、そこから紡ぎ出された言葉を、僕はハッキリと読み取る事ができた。

また、会えたらいいね………

そのまま刑事達に付き添われてテントの外へと姿を消したその女の子。
『あん』という名前の彼女はそのまま、まるで最初からいなかったみたいに僕の世界から消滅した。
あの、桜舞い散る卯月の日からずっと見ていた夢から、僕はこうして醒めたのだった。


むくり。
真っ暗な部屋の中、夢から醒めた私は布団を押しのけて起き上がった。
ずっと昔の、忘れようとしても忘れられない苦い思い出。
いつもにこにこと笑って、幸せそうにしていたあの小さな女の子。
私はあの娘と一緒にいる時間が嬉しくて、幼い少女が胸の内に何を秘めていたのか、全く理解していなかった。
どんな事情があったのかは今もわからない。
よくよく考えてみれば、あの娘は『あん』という自分の名前以外、どこに住んでどんな家族と暮らしているのか、
それどころか名字さえも私に教える事はなかった。
たぶん、あの娘はあの日のサーカスでの別れが訪れる事を、最初に出会った時からわかっていたのだ。
彼女、もしくは彼女の家族に関する何かのっぴきのならない事情のために、いつかは私の前から去る事になってしまうと理解していたのだ。
だから、いつもの悪戯に紛れて、私には何一つ悟らせないままあの娘は消えようとした。
だけど、それでも堪え切れずに零れ落ちた涙が、呟いた言葉が、今も私の胸を締め付ける。
『また、会えたらいいね………』
どうして、気付いてやれなかったのだろう。
あれほど近くにいたのに、私はあの娘の事を何もわかってはいなかった。
今も昔も、いつだって無力だった私だけれど、それでもあの娘の涙を受け止めてあげる事ぐらいは出来たはずなのに……。
ため息を吐いて、暗い天井を見つめる。
胸にぽっかりと穴が開いたような虚無感を噛み締めながら、私は眠れない一夜を過ごす事となった。

寝不足の頭を抱えたまま、何とか今日一日の授業を終えて私はホッと息をついた。
下校前のホームルームが存外長引いてしまったが、いつものように『絶望したっ!!』と叫んで暴走した私が悪いのだから文句は言えない。
2のへの生徒達はそのほとんどが所属する部活に向かったか帰宅してしまっていたが、
教室の一角に残って何やら話し込んでいる様子の生徒達が数人ほどいた。
随分盛り上がっているようで、何を話しているのか気になった私は彼らの後ろから近付いていく。
「随分楽しそうですね。何の話をしているんですか?」
「あ、先生」
振り返った生徒達の真ん中、どうやら話の中心になっていたらしいその少女、風浦さんが振り返った。
その手には何か、チラシのようなものを持っている。
「先生も一緒に行きませんか?」
そう言って、彼女は私にそのチラシを渡した。

143:266
09/03/20 00:45:47 spH1Q6P/
「これは……!?」
そこに書かれた文字に、私は一瞬言葉を失う。
『○×サーカス公演』
昨夜の夢の光景が頭の中にありありと蘇る。
私がそのサーカスの名前を忘れるはずが無い。
それは間違えようも無く、あの日、私とあの幼い少女が見たサーカス団の名前だ。
ずっと昔に見たのと同じサーカス団と再びめぐり合う。
良くある事とは言えないが、あり得ない出来事という訳でもないはずだ。
しかし、私の心はこれ以上ないくらいに動揺していた。
思わず口ごもってしまった私の顔を、風浦さんの屈託の無い瞳が覗き込む。
「どうしたんですか、先生?」
「い、いえ……しかし、サーカスですか。中々お目にかかれる機会もありませんし、面白そうじゃないですか…」
少し声が上ずっているのが自分でもわかったけれど、彼女は特にそれを追及しようとはしなかった。
「可符香ちゃんがこのチラシを持って来たんですよ」
「それで、今度の終末にみんなで一緒にサーカス見に行かないかって話になって…」
木津さんと日塔さんが代わる代わるにそう言った。
確かに、サーカスの興行を目にする機会というのもそう多くあるわけではない。
「先生、もちろん一緒に行ってくれますよね?」
「え……いや…私は…」
藤吉さんがズイと身を乗り出してきたが、私は即答できなかった。
何しろ、あんな夢を見た直後だったのだ。
素直に肯くのには、私も気後れしてしまう。
しかし、そんな私の気持ちなど知る由も無く、ウチのクラスの面々はさらに詰め寄って来る。
「私も先生と一緒にサーカス見てみたいですっ!!」
いつの間にやら背後にいた常月さんにホールドされる。
こういう展開になると私はとことん弱い。
昨夜の夢の事以外で特段拒否する理由もなかった事もあって、気が付いた時には私はサーカス行きをOKしていた。
「それじゃあ先生、今度の週末、楽しみにしてますから」
ひらひらと手を振って教室から出て行く生徒達を、私は苦笑いしつつ見送る。
そのまま、生徒達が廊下の向こうに消えていこうとしたその時だった。
「あっ……」
生徒達の一番最後を歩いていた風浦さんが足を止めてこちらを振り返ったのに気付いた。
自然に視線と視線がぶつかり合ってしまう。
私と彼女の間に、何となく気まずい空気が流れる。
だが、それも結局は一瞬の事だった。
彼女はそのまま、少しバツの悪そうな顔をしながらも、そそくさとその場を立ち去ってしまった。
取り残された私はため息を一つ。
「どうにも妙な按配ですね……」
昨晩の夢に続いて、何やら自分の過去が無理やり掘り返されているような落ち着かない感じだ。
しかも、サーカスのチラシを持ち込んだのが風浦さんだという事実が私を悩ませる。
「そんな安っぽいドラマみたいな話、ある筈がないじゃないですか……」
私はクラスの出席簿を教卓の上に出して開く。
風浦可符香、という彼女の名前はあくまで通称、当人いわくペンネームだ。
私は、出席簿の中に記されたその名前に視線を落とす。
『赤木 杏』
………やはり、馬鹿げている。
私はあの幼い少女の名字すらしらないのだ。
『あん』、そんな名前はこの日本中にいくらでも溢れかえっている。
だが、風浦さんの笑顔と、サーカスを見ながら笑っていた彼女の精一杯の笑顔が、私の頭の中で重ね合わされてしまう。
それに、10年を越える歳月は、当時の私にとって強烈なトラウマをなったあの経験すらかなりの部分を風化させてしまっているのだ。
たとえ、風浦さんとあの少女が同一人物だったとしても、彼女がそれを覚えているかどうかなど……。
「しかし、それでも私は………」
夕焼けの教室で、私は一人うめいた。


144:266
09/03/20 00:47:01 spH1Q6P/
ぱちり。
真夜中の宿直室、私は瞼を開けて真っ暗な天井を見つめる。
眠れない。
脳裏にちらつくのは、あの娘と風浦さんの笑顔ばかり。
悩みぬいた末、私は夜の学校を抜け出して、サーカスがテントを張られている公園へと行ってみた。
それなりに距離はあるものの、歩いて行けない距離ではない。
街灯の弱弱しい明かりに照らされて小山のようなテントが黒々とそびえている。
そのシルエットがあの日見たサーカスのテントとピッタリと重なる。
テントの入り口まで長い列に、私たちも並んでいた。
小さな手の平で私の手を握り、あの娘は何度も何度も、せわしなくこれから見るサーカスについての事を話していた。
彼女の手を引く私も、当時すでに立派な高校生だったというのに、子供のようにワクワクしていたのを覚えている。
あの時は、まさかあんな別れを経験するなんて思っていなかったけれど……。
「変わりませんね………って、これだけ暗いと細かいとこは判りませんけど」
夜中のテントはひっそりと静まり返って、華やかな舞台の開演を待って深い眠りについている。
その周囲をぶらり、歩いてまわる。
こんな時間のこんな場所に、あの娘の姿を捜し求めても仕方がないのは承知の上。
「我ながら、ナンセンスな事してますね……」
苦笑して、ため息を吐いて。
それでも、その後しばらくはこの場所に留まったのだけれど……。

冴え冴えとした月に照らされた夜の公園、私は一人きりでベンチに腰掛けている。
「何をしているんでしょうね、私は……」
馬鹿な事をしていると、自分でもわかっている。
今の私はかつての後悔に足を引っ張られて、自分でも訳のわからないままに行動をしているだけだ。
あの時の悔しさを、悲しさを、何とか取り戻したくて、意味のない事をしているのだ。
どんなに嘆いても、あの娘に何もしてやれなかったという事実を覆す事などできやしない。
苦い思い出と関わりのあるサーカス団と再び巡り合った。
だから、どうしたというのだ?
そんなものに希望を見出そうなんて、あまりに馬鹿げている。
それでも、凍える夜の公園のベンチから、いつまでも私は立ち上がる事ができない。
まんじりともせず、巨大なテントの影を見つめながら時を過ごす。
そんな時だった。
「………?」
ベンチと真向かいの方向からゆっくりとこちらに歩いてくる人影が見えた。
夜の街を徘徊している不良、という雰囲気ではなかった。
小柄で細身、女性だとしてもどちらかというと背の高い方ではない。
街灯に照らされたそのシルエットはサーカスのテントを見ているようだ。
やがて影はこちら側にある街頭の光が届く距離までやって来る。
照らし出されたその姿はやはり女性だ。
腰まで届く長い髪と、雪のように白い肌が印象的だった。
年の頃はうちのクラスの生徒達とそう変わらないだろう、美しい少女だ。
どうやら、彼女は私の存在に気付いていないらしい。
ただ一心にテントを見上げる彼女の瞳には、何かを懐かしむような切なげな色が浮かんでいる。
ゆっくり、ゆっくりと近付いてくる少女。
その視線が不意にこちらに向けられる。
「えっ……?」
「あっ……?」
ずっと少女に注目していた私の視線と、彼女の視線が交錯する。
彼女の瞳が驚きで見開かれ、一歩二歩と後ずさる。
当然だ、こんな深夜の公園で得体の知れない男から注視されていたのに気付いたら、誰だって逃げ出したくなる。
だけど、彼女はそのまま振り返り、走り出そうとした寸前で、その場で足を止めた。
再び私の方を向いて、恐る恐るこちらに近付いてくる。
私も、思わずベンチから立ち上がり、彼女の方に足を踏み出した。
私の手前3,4メートルほどで立ち止まった彼女は、私の顔を見つめながら口を開いた。

145:266
09/03/20 00:48:21 spH1Q6P/
「あの……」
「は、はい………」
か細い声、潤んだ瞳に見つめられて、私は金縛りに遭った様に動けなくなっていた。
そして、彼女は衝撃的な言葉をその口から紡ぎ出す。
「……失礼な事をお聞きするんですが……もしかして、『のぞむ』っていうお名前じゃありませんか?」
その瞬間、私の心と体は凍りついた。
まさか……。
「……『あん』っていう名前に、記憶はありませんか?」
畳み掛けるような少女の言葉。
私はそれに答えようとして、でも、何も言葉が思い浮かばなくて……。
そして、最後の一言が私の胸に深く深く突き刺さる。
「………ずっと昔…本当にずっと昔……どこかで…私と会いませんでしたか?」

眠い目をこすりながら授業を進める。
明るい日差しに照らされた昼間の教室にいると、昨夜の事がまるで一昨日見たのと同じ夢の出来事のように思えてくる。
私は教室を見渡しながら、その中の一人の様子をそっと観察する。
風浦さんは、特に何事も無いような様子で授業を受けている。
確かに昨夜の少女と、風浦さんはよく似ている。
だけど………。

夜の公園、サーカステントの前で出会ったのは『あん』という名のかつての幼い少女だった。
10年越しの再会。
私と彼女は、二人並んでベンチに腰掛けて、別れ別れになってからの歳月について互いに語り合った。
彼女が何故、私の前から姿を消したのか。
それには私がやはり辛い事情があったようだ。
不仲の両親は、いつ離婚をしてもおかしくない状況だった。
彼女が暴力を振るわれたりするような事はなかったが、彼女の父母は互いのエゴを彼女に押し付け、
ただ自分の方が相手より正しいと証明するために娘を欲した。
幼い彼女はそんなプレッシャーに晒され続けて、その精神はだんだんとボロボロになっていったという。
結局、彼女は母親に引き取られ、母の実家に引っ越す事になった。
「そうですか……そんな辛さを押し隠して、君はずっと笑っていたんですね……」
呟いた私に、彼女は苦笑いしつつ、首を横に振った。
「そんな風に思わないで……私、お兄ちゃんと一緒にいた時は、本当に楽しかったんだから……」
「そう……なんですか?」
「さすがに、お別れの時は辛くて泣いちゃったけれど、でも、あの当時、お兄ちゃんと一緒にいられる時間があったから
その時間が本当に本当に楽しかったから、私は両親の事もなんとか耐えられたんだよ」
思っても見なかった答えに、私は呆然と彼女を見つめる。
そんな私に、彼女はそっと微笑んで言った。
「ありがとう、お兄ちゃん……」
その言葉は私の心の奥に凝り固まっていた後悔をすすぎ流していく。
だが、次の瞬間、彼女の笑顔に少し寂しげな影が差した。
「でも、残念だな……」
「ど、どうしたんですか…?」
「せっかく、また会えたのに……もう一度お別れしなきゃいけないなんて……」
彼女はこの週末に日本を発つのだという。
母の仕事の都合らしい。
果たしてどれほど長期になるか検討もつかない。
彼女自身も海外移住には乗り気で、日本を離れて見識と語学力を身につけたいと考えているそうだ。
少しでも早く母のエゴから逃れるため、一人でも生きていける力を、彼女は欲しているのだ。
「それで、出発直前にこのサーカスが近くまで来ているのを見つけて、懐かしくてこっそり見に来たんだけど、
まさかお兄ちゃんに会えるなんて思ってなかったから……」
彼女は彼女なりに自分の生き方を模索していた。
そんな最中での、こんな唐突な再会ともう一度のお別れだ。
彼女も相当に複雑な気分なのだろう。

146:266
09/03/20 00:48:54 spH1Q6P/
「でも、それでも、やっぱりもう一度お兄ちゃんに会えて良かったって、私思ってるから……」
「私もですよ……」
そして、私と彼女は翌日またもう一度、この夜の公園で会うことを約束して別れた。
「また、明日ね」
「ええ、また明日、会いましょう……」
彼女は最初にやって来たのと同じ道を、何度もこちらを振り返りながら帰っていった。
そんな彼女の姿が見えなくなるまで、私はずっとその場で見送った。

やはり風浦さんにあの少女『あん』の面影を見たのは、過去を引きずる私の思い過ごしだったのだろうか。
二人の顔立ちは非常に良く似ていた。
が、昨夜間近で話した印象では、彼女たちが同一人物であるとは思えなかった。
髪の長さだけではない。
顔立ちの微妙な差異、ちょっとした仕草やしゃべり方の違い、全体の雰囲気。
それらを見る限り、風浦さんと『あん』は別人であると考えるのが妥当なようだ。
まかり間違えば勢い任せに風浦さんを『あん』だと勘違いして自爆、なんて事も有り得たわけだ。
その可能性を考えるだけで、私の額を嫌な汗が流れ落ちていく。
兎にも角にも、今週一杯、正確には金曜日の夜までは毎晩『あん』とあの夜の公園で話し込む事になるだろう。
彼女が日本を離れてもそれなりに連絡をとる手段はあるかもしれないが、直接話せるのはこれが最後の機会になるかもしれない。
かつてのように悔いの残るお別れだけは御免だ。
出来る限り彼女と一緒の時間を過ごしたい。
まあ、明日に明後日、明々後日と日が進むほど体力的にはキツイ事になるだろうけれど……。

つつがなく授業は終わり時間は昼休みに突入する。
早く昼食を食べて一休みしたかった私は早々に教室を後にしたが、ある事を思い出して立ち止まる。
「そうだ、サーカスを見に行く件がありましたね……」
例の少女『あん』の事で頭が一杯だったが、今週末にはクラスのみんなでサーカスを見に行くのだ。
その段取りを早めに決めておかなければなるまい。
こういう用事は思いついた時に済ませておいた方が良い。
くるりと踵を返し教室に戻る。
さて、誰と話し合うべきか。
木津さんと話すと確実に厄介な事になるだろう。
やはり、今回の話を持ってきた風浦さんと話しておくのが妥当だろうか。
昨日の自分の勘違いのせいもあって緊張したが、私は勇気を出して風浦さんに話しかけた。
「あの、風浦さん……」
「えっ、あ…はい…先生、どうしたんですか?」
振り返った彼女に感じたかすかな違和感。
少しだけ、ほんの少しだけ、話しかけられた瞬間、彼女らしくもない動揺が浮かんだような気がしたのだ。
だが、彼女はすぐにいつもの笑顔を浮かべる。
私も気を取り直して話を切り出す。
「今週末、みんなでサーカスを見に行こうという話があったでしょう。その事についてなんですが……」
「ああ、それならもう私の方で進めちゃってます。チケットももう用意してありますから」
「って、そんな勝手にやって、みんなの都合とかは聞いたんですか?」
「いやだなあ、もちろん全部チェック済みに決まってるじゃないですか。もちろん先生のスケジュールも既に把握しています」
流石は風浦さん、と思う一方で私はまた妙な感じを覚えた。
仕事が早い、というより早すぎやしないか?
それに彼女の話し方が、どことなく私との会話をなるべく早く終わらせようとしているようにも感じる。
「日時は追って知らせますから、先生は参加人数分のチケット代だけ用意して待っていてください」
「…やっぱりそういう流れになるんですね……」
「それはもう!!先生は非常に太っ腹な方ですから……」
「うわあああん!!!こんなの陰謀ですよぉ!!!」
私の家計を粉々に打ち砕く風浦さんの策謀に泣きべそをかきつつ、私は教室を後にする。
そして、廊下に出る直前、少しだけ振り返って、風浦さんの表情を盗み見た。
そこに浮かんでいたのは、機能見たのと同じどこかバツの悪そうな、寂しそうな表情。
「………」
その表情の意味を測りかねたまま、私は2のへの教室の前から立ち去った。

147:266
09/03/20 00:49:32 spH1Q6P/
深夜の宿直室から抜け出し、公園へと向かう。
最初の夜と同じように、私がベンチで待っていると、やがて公園の向こうから近付いてくる彼女の姿が見え始める。
「こんばんは、お兄ちゃん」
「ええ、こんばんは」
それから彼女は私の隣に腰掛け、そこで私達はしばらく話をする。
思い出語りから、その日のちょっとした出来事まで、話題は様々だ。
失った10年間を取り戻すかのように、私達は限られた時間の中でひたすらに語り、笑い合う。
彼女はニコニコと笑いながら、私と別れ別れになって再会するまでに経験した様々な事を語った。
それは決して楽しい思い出ばかりではなかったが、彼女がその中でも幸せを見つけ強く生きている事に、私はホッと胸を撫で下ろした。
私も問われるままに学生生活の思い出や教師になるまでの経緯、今のクラスの生徒達の事を語って聞かせた。
親密で優しい時間はあっという間に過ぎ去り、そして私達は明日も会う事を約束して公園を立ち去る。
ぶんぶんと手を振る彼女に、私も精一杯に振り替えしながら、それぞれの帰路をたどる。
限られた時間を、私達は精一杯に楽しもうとしていた。

その一方、連日の睡眠不足は私のコンディションに大きくダメージを与えていた。
個人的事情でミスを犯すわけにはいかないので、いつにも増して私は仕事に集中しようとするのだが、
すると今度は生徒達の方から、先生の様子がおかしいとの声が上がり始める。
「うぅ……今更ですが、やっぱり私って真面目な教師とは見られてなかったんでしょうねぇ……」
ため息混じりに進める授業の時間は、少しだけ憂鬱だった。
まあ、それも身から出た錆、自業自得と諦めて、淡々と授業を進める。
風浦さんの事はその後も気にかけてはいるが、先日以降は特に彼女の様子に目だっておかしな点も見つかられなかった。
彼女はにこにこと笑顔を浮かべ、クラスメイトと談笑し、時に私をからかって、いつも通りの生活を続けている。
それでも、私は胸の奥でほんの僅かな違和感を感じている自分にも気がついていた。
ただ、それをどう判断していいのかは、全くわからなかったのだけれど……。

昼間に黙々と仕事をこなし、真夜中に『あん』と心ゆくまで語り合う。
蓄積していく疲れと、夜にしか会えない少女というある種謎めいたシチュエーションが、だんだんと私から現実感を奪っていくような気がした。
毎夜出会う彼女は紛れもない現実の存在である筈なのに、時折私は夢の中に迷い込んでしまったかのような感覚に捕らわれる。
「どうしたの、お兄ちゃん?何だか元気がないみたいだよ」
「えっ…いやぁ…そんなことはないですよ…あははは」
どうやらボーっとしてしまっていたようだ。
心配そうに私の顔を覗き込む『あん』に私は咄嗟に言い訳するが、彼女はそんな言葉では納得しないようだ。
「こんな真夜中に私につき合わせて、迷惑かけてるよね………」
「そ、それは………確かに、疲れているのは否定できませんが……」
「ほら、やっぱり…」
「でも、今はあなたといたいんですよ。残る時間もあと僅か、その間に少しでもあなたと……」
申し訳なさそうな彼女を見つめて言った台詞は、今の私の本心だった。
それを聞いた彼女は一瞬きょとんとしてから……
「ありがとう、お兄ちゃん」
そっと私に微笑んで見せた。

そして、あっという間に金曜日が、『あん』と会う事の出来る最後の日がやってきた。

148:266
09/03/20 00:50:10 spH1Q6P/
その日も私はいつも通りに学校の授業を進めていた。
というより、むしろ私の授業は以前にも増して騒がしくなっていたかもしれない。
睡眠不足の限界を越えてどうやら私はナチュラルハイの領域に至ってしまったらしい。
今にも倒れそうなほどフラフラなのに、テンションだけは異様に高く、多少の脱線をしつつもポンポンと授業が進む。
正直、いつもの私の授業より効率が良くなっているような気がする。
(普段だってそれなりに頑張っているつもりなんですけどねぇ……)
なんて心の中でため息をつきながら、それでも何とか一日の授業を終える。
まあ、生徒達ならともかく教師にはこの後も仕事があるわけだが、一応は一段落だ。
ホームルームを終えた後、私は風浦さんを呼び止める。
「今週末のサーカスの件ですけど……」
「ええ、もう明日の夕方って事でみんなには連絡してあります」
今回、クラスの半分以上が揃ってサーカスを見に行く事になっていた。
私としては、色々と手伝いたいところだったのだが、風浦さんは既に二歩も三歩も先を行って準備を済ませてしまっていた。
彼女曰く『生徒同士で話をつけた方がスンナリ進みますから』との事であるが、どうにも私は未だに今回の彼女に対する違和感を拭えずにいた。
風浦さんにしては、どうにも話の進め方が強引過ぎる気がする。
どうにも彼女らしくない。
そう思ってしまうのは、風浦さんに『あん』の影を見た私の勘違いが尾を引いているだけ、一応はそう考えていたのだが……。
「それじゃあ先生、さようなら」
「はい、さようなら………」
笑顔で手を振る彼女に、また『あん』の面影が重なる。
そこで私はハッと気がついた。
(そうか……そういう事だったんですね……)
よく似た別人である筈の二人を繋ぐものを、私はようやく見つけた。
教室を出て行く彼女を見送ってから、独りぼっちになった私は俯いて呟く。
「さて、どうしたものでしょうかね………」
全ては私の妄想、勘違いである可能性は高い。
やっと気がついた風浦さんと『あん』を繋ぐものも、他人に問われて自身を持って答えられるようなものではない。
「それでも………」
それでも、『あん』と会えるこの最後の夜に、自分のするべき事は何なのか、私の心は既に決まっていた。

いつもの公園、いつもの時間に、いつものベンチで私は『あん』を待つ。
泣いても笑っても今日が彼女との最後の日になる。
おそらく、今日を逃せば、二度と彼女と言葉を交わす事は出来ないだろう。
メールや手紙といった手段でその後も連絡を取る、なんて事には多分ならない筈だ。
何故ならば、彼女は……。
「………来たみたいですね…」
やがて、公園の向こうから、こちらに近付いてくる小さな人影が見えた。
「こんばんは、待たせちゃったかな、お兄ちゃん」
「いえ、そんな事はないですよ」
小走りで私のところまでやって来た彼女はいつもと変わらない笑顔で私に話しかけた。
「今夜で……最後になっちゃうんだね……」
ただ、今日が二人で会える最後の日になる事が幾分、彼女の雰囲気を寂しそうなものにしていた。
「せっかく、また会えたのに……」
「ええ、寂しいですよ………」
肯いてそう言った私に、彼女はそっと体を寄せる。
私はそれを拒まず、寄りかかってくる彼女の体を受け止める。
それから、私達はいつものようにポツリポツリととりとめもなく他愛のない話を続けた。
だけど勿論その間にも刻一刻と時間は過ぎ去っていく。
気がつけば、いつもならば私も彼女も公園を立ち去る時刻になっていた。

149:266
09/03/20 00:50:50 spH1Q6P/
「もう……終わりなんだ……」
ぽつり、彼女が呟く。
「そうですね………残念です」
「本当は……本当はもっとずっと一緒にいたい……」
ギュッと袖をつかんでくる少女の手の平に、私は自分の手の平を重ねた。
彼女は少し驚いてから、その後もう片方の手をさらに私の手の平の上に添えた。
そのまま、どれぐらいの時間、二人で寄り添っていただろうか。
やがて、彼女はベンチから立ち上がり、
「そろそろ、本当に行かなくちゃ………」
そう言って、笑った。
朗らかなその笑顔の影から滲み出る、悲しげな色合い。
かつて、幼い彼女の笑顔を見ながら、私はそこにキラキラと輝く希望や幸福を垣間見た。
彼女もまた、私と一緒にいるときには、本当の笑顔でいられたと言っていた。
だけど、今の彼女が見せている笑顔は、違う。
そこに重なる、私の良く知るもう一人の少女の面影……。
「また、会えたらいいね………」
かつてと同じ言葉を少女の唇が紡ぐ。
それから、彼女は私の右頬と、左肩に手の平を添えて、私の瞳を覗き込んで、
「最後に、お願いがあるの……」
囁くような声で、こう言った。
「キス……させて………」
顔を真っ赤にして、ようやくそれだけを伝えた少女の言葉に、私は一瞬たじろいでしまったが、やがて覚悟を決めて肯いた。
「ありがとう、お兄ちゃん……」
私の答を聞いて微笑んだ少女の笑顔が、私の胸にグサリと突き刺さる。

何故ならば、今から私がしようとしている事は考えようによってはこれ以上もなく残酷な事なのだから。
それは彼女の心遣いを台無しにする行為なのだから。
だが、今の私にそれをしないでいる事などできようはずもない。

ゆっくりと近付いてくる少女の顔、私はそれに応えるように彼女に向かってそっと手を伸ばす。
右の手の平で、彼女の頭をそっと撫でてやる。
「お兄ちゃん……」
夢見るような少女の声。
だが、彼女は気付いていない。
彼女の頭を撫でていた私の指先が、ほんの僅かな異物感をそこに感じ取った事に……。
「忘れないでね……私がいなくなっても、ずっと……」
潤んだ瞳でこちらを見つめながら呟いた彼女の言葉に、私はゆっくりと首を横に振る。
「それは……できません……」
「えっ……!?」
そんな頼み事を聞くわけにはいかない。
いくらそれが彼女の切なる願いであろうと、都合よく作られた偽者の思い出の中に彼女を埋没させるわけにはいかない。
もし、ここで彼女を見逃してしまえば、彼女はあらゆる人間との別れの度に同じ事を繰り返しかねない。
振り向かせるんだ、彼女を。
彼女はこれからもずっと私といて、一緒に思い出を積み重ねてゆくのだから……
「お兄ちゃん……何を言ってるの…?」
「お兄ちゃんではありません」
私の指先が、探り当てた彼女のウィッグを固定するピンを外す。
「あっ………」
気付いてももう遅い。
そこにいるのは仮初めに作られた幻なんかじゃない。
私の良く知る少女の姿だ。
「今の私はお兄ちゃんなんかじゃありません。私はあなたの担任教師じゃないですか、風浦さん……」
「せ、先生……」


150:266
09/03/20 00:52:12 spH1Q6P/
「いつから気付いていたんですか、先生?」
「確証を得たのは今日ですよ。それまでは、あなたの巧みな変装と演技のおかげで半信半疑でしたけど……」
「今日…ですか?何かありましたっけ?」
「大した事じゃないです。今まで気付かなかった私の間が抜けていただけとも言えます。
見つけたんですよ、今のあなたと夜の公園の少女の共通点を………」
呆然としている風浦さんに、私はその答えを告げる。
それは口に出してみると、少し恥ずかしい言葉だったのだけれど……
「笑顔、ですよ……」
「笑顔……?」
「性格に言うと、笑顔に漂う雰囲気、という事になるんでしょうかね……」
自分でもどうしてこれが決め手になったのか、疑わしいぐらいに不確かな要素。
それでも、私はこの結論に確信を抱いていた。
「なんていうか、昼間に見るあなたの笑顔も、夜見る笑顔も、どこか悲しげな、自分の気持ちを押し殺しているような雰囲気があったんです」
一度は風浦さんと『あん』を別人だと思い込んでいた私だっただけに、その違和感は拭いがたかった。
別々の人間である二人が、同じ笑顔を浮かべている奇妙な感覚が私の中で引っかかっていたのだ。
それも、風浦さんの笑顔や態度に変化が現れたのが、今週に入ってからというのが致命的だった。
「だから、私はやはり風浦さんと、私が昔であった少女は同一人物で、以前の別れのときと同じように、
自分を押し殺して私の悲しみだけを取り除き、その上で姿を消そうとしているのだと、そう考えたんです」
それから私は、私の隣で俯いて話を聞いていた風浦さんに問いかける。
「何か、言いたい事はありますか?」
「いいえ……でも、すごいですね。笑顔だけでバレちゃうなんて……」
風浦さんは苦笑いしながらそう応えた。
「まあ、笑顔以外にも気になっていた点もあったんですけどね」
「えっと……なんですか、それ?」
不思議そうに問い返した風浦さんに、私は意地悪く笑ってこう言った。
「はっきり言って、キャラ変わりすぎです」
「え、ええっ!!?」
「どうやったら、ダース単位の災難とトラブルをもたらすあの厄介な女の子が、私に向かって潤んだ瞳で
『お兄ちゃん』とか言うような夢見心地の素敵少女に成長するんですかっっ!!!!!」
「そ、そんな…そこまで言わなくてもいいじゃないですかぁ」
「だいたい、私が風浦さんがあの女の子なんじゃないかと思ったのも、そもそもその辺りのキャラが被りまくってたからです。
一度は騙されかけましたが、やっぱり案の定でした。どれだけ私に手を掛けさせれば気が済むんですか、あなたはっ!!!」
「うぅ…先生、酷いですよ……」
「いいえ、酷いのはあなたの方ですよ!!そうやって散々手間を掛けさせた挙句、
何も知らせず自分の都合で勝手にいなくなってしまうんですからっ!!!」
それまで、不服そうに私に言い返してきていた風浦さんの言葉がぱたりと止まる。
「あなたの方はどうなんです?私と昔で会っていた事に気付いたのは、いつからなんです?」
「…………なんとなく、以前からそうじゃないかと思ってたんですけど、確信を持ったのはサーカスのチラシに対する先生の反応を見たときからです……」
彼女があのチラシを持ち込んだのは、純粋にクラスの友人たちとサーカスについての話をする為だった。
私の反応を見る事も考えてはいたけれど、それはあくまでついでだったという。
しかし………

151:266
09/03/20 00:52:46 spH1Q6P/
「先生のあの時の様子を見て気付いたんです。先生は、昔の私の事をずっと引きずっているんだって……」
だから、彼女は一芝居打つことを決めたのだ。
彼女は、私の後悔を断ち切り、安心させる為だけの嘘を用意した。
「先生も私の家の事は知っていますよね?今の私には両親もいなくて……」
「はい……」
「そんなんじゃ、先生の後悔を拭う事はできない。先生を安心させられない。だから、私……」
「ストップ!そこまでです」
だが、私はそこで風浦さんの言葉を遮った。
「何が『先生を安心させられない』ですか。今さらにも程があります」
呆然とする彼女の肩を掴み、その瞳をじっと見据えて、私は語りかけた。
「あなたほど手のかかる、迷惑で、厄介で、とんでもない生徒はそうそういませんよっ!!!2のへのみんなも相当ですが、あなたは別格です」
「そんな……私は……」
「だからさっきも言ったでしょう。キャラが変わりすぎ…というか、どうしてそんな風にキャラを作っちゃうんですか」
「そんな事ありません。私は……先生が私の事で気に病んでるってわかったから…」
「それがキャラを作ってるっていうんです。あなたは絶望教室と呼ばれる我がクラスでも随一の絶望的な生徒です」
畳み掛けるように反論されて、風浦さんはいつになく動揺している。
そんな彼女に、私は声のトーンを少しだけ落として、告げる。
「絶望的な事の……一体、何が悪いって言うんです?」
「それ…は……」
私の問いに、風浦さんは言葉を詰まらせる。
風浦さんは何もわかっていやしない。
あの時のサーカスでの出来事が今も私の胸を締め付けるのは、単に彼女の涙を見てしまったからじゃない。
その悲しみや苦しみに寄り添ってやる事のできなかった、自分自身への後悔のためだ。
私が望むのは、見栄えの良い嘘で取り繕った偽者の幸せなんかじゃない。
「悲しい時こそあえて笑って見せるなんてのも確かにアリだとは思います。
でも、自分が本当は悲しんでいる事を、忘れそうになるまで笑い続けるなんて、そんなの不毛ですよっ!!!」
そうだ、私が望む事はたった一つだけ……
「どうせいつかは朽ち果てる嘘なんかで、本当の貴方を塗り隠してしまわないでくださいっ!!!
希望も幸せも私には必要ないんです!!ただ、あなたの全ての不幸や苦しみに、一緒に涙を流したいだけなんですっ!!!!」
「先生………」
「それでも、もしも、もう貴方の中にはそんな嘘しか残っていないというのなら………」
私は風浦さんを抱きしめ、彼女の耳元に告げる。
私の思いのたけ、その全てを
「私の絶望を、全てあなたにあげます………っ!!!!」
私の言葉を受け止めてからしばらくの間、彼女は何も言わなかった。
ただ、凍りついたような沈黙が流れていく。
だが、やがて、彼女の手の平が恐る恐る、私の背中に回されて……
「…せんせ………」
ぎゅっと、私の体を抱きしめた。
「先生っ!!先生っ!!!先生―――っっっ!!!!!」
泣きじゃくる風浦さんの体を、私もまた強く強く抱きしめる。
それから風浦さんが泣き止むまでのしばらくの間、私達はずっと抱きしめあっていた。


152:266
09/03/20 00:53:16 spH1Q6P/
翌日、ウチのクラスの生徒一同でのサーカス見物を終えて、ようやく私も睡眠不足の日々からも解放される筈だったのだけれど……
「なぁんで、来ちゃってるんでしょうね、私……」
どうやら、宿直室に戻ってしばらく仮眠をしたのがまずかったらしい。
目が冴えて眠れなくなってしまった私は、再び真夜中の公園にやって来ていた。
まあ、今夜は風浦さんが来る予定もない。
適当にのんびりしてから帰ろうと思っていたのだが
「あ、先生……」
「あなた、どうしてこんな時間に……」
不意に後ろから声を掛けられ、振り向くとそこには風浦さんの姿があった。
「いやぁ、サーカスから帰って仮眠を取ったら、今度は眠れなくなっちゃったんです……」
どうやら、彼女も私と同じパターンらしい。
風浦さんは昨日までと同じように、私の隣にトスンと腰を下ろす。
「まあ、本当は何となく先生も来てるんじゃないかと思って、ここまでやって来たんですけど……」
「確かに、まだ話す事は山のようにありますからね。昨日までに話してくれた事はほとんど嘘だったわけですし……」
私は皮肉交じりにそんな事を言ってみたが、彼女は少しも動じる事無く微笑んで
「ええ、それにやる事もありますし……」
「やる事、ですか……?」
「はい、キスの続きを………」
「ぶふぅううううううううううううううっ!!!!?」
思わずむせた私に、風浦さんはニコニコと嬉しそうに笑いながら語りかける。
「何ですか、その反応は。昨日、キスしていいか聞いた時はちゃんと肯いてくれたじゃないですか!!」
「それは……昨日はあなたの嘘を見破るために仕方なく……」
「仕方なくても何でも、一度は先生もOKした話ですよ!」
「だ、だいたい、あなたが変な嘘吐くから話がこじれてあんな事になったんじゃないですか!!」
「昨日は私にあんなに酷い事をしたのに……」
「そんな…ひ、酷いって……」
「頭ごなしに怒ったり」
「それは認めますが……」
「私の衣服を剥ぎ取ったり」
「カ、カツラじゃないですか、取ったのは!!」
「挙句、私の体を思う様に触って」
「抱きついてきたのはあなたでしょう!?」
「マスコミはそんな言い訳聞いてくれませんよ、先生」
「ぐ、うぅうう……」
どうやら、既に退路は絶たれているようだ。
いつの間にやら風浦さんは私の体に寄りかかり、間近から私の瞳を覗き込んでいる。
「マスコミを気にするなら、キスはもっとヤバイと思うんですが……」
「覚悟を決めてよ、お兄ちゃん」
今更の『お兄ちゃん』呼ばわりに、私の顔が真っ赤に染まっていくのがわかった。
もはや、観念するしかあるまい。
「……わかり…ました…」
「ありがとうございます、先生!!」
どうにも私は最終的には風浦さんの手の平の上で踊る運命のようだ。
それでも、まんざら悪い気分でもないのは、目の前の彼女の表情がとても楽しく幸せそうだからなのだろう。
キスの寸前、私は不意に思いついて風浦さんにこう言った。
「また、会えましたね……」
彼女の顔に広がる花のような笑顔。
そのまま、私と風浦さんは唇を重ねた。

”また、会えたらいいね………”
かつての少女の願いは叶えられ、私達はようやく今ここで再会を果たす事ができたのだ。

153:266
09/03/20 00:54:28 spH1Q6P/
これでお終いです。
本当はエロも入れる予定だったんですが、無計画に書き始めたせいで出来なくなってしまいました。
エロパロスレなのに……すみませんです。

ともかく、この辺りで失礼いたします。

154:名無しさん@ピンキー
09/03/20 01:41:58 e7GiH/oM
うっわああああああああGJ!!!!!!!!!!!!!!
最近アニメからポロロッカしてこの二人にどっぷりはまった自分としては嬉しかった!ありがとう!!

155:名無しさん@ピンキー
09/03/20 11:18:54 /IuUHh+E
いいよいいよー!GJ
獄下のOP見たら2人にこんな設定を求めてしまうよな
気が向いたらまた続き書いてください
読みたいです

156:名無しさん@ピンキー
09/03/20 21:37:04 1b7PHC4Q
獄下はバイブル
GJでした!
そして次回のエロに期待せざるを得ない

157:名無しさん@ピンキー
09/03/25 00:11:35 asZvnfKP
また投下が増えてる感じですな。


158:名無しさん@ピンキー
09/03/25 01:47:04 PC4Pl2eO
とても嬉しい事な

159:名無しさん@ピンキー
09/03/26 10:09:39 /oUHyD7V
今更だが保管庫のアドレスに絶望した

160:糸色 望 ◆0CUHgEwUxE
09/03/26 11:15:13 3+zuqfhD
今更ですが、腐乱庫で腐乱死体と化していることに絶望した!

161:名無しさん@ピンキー
09/03/28 00:41:44 UDiHnkqT
投下します。
エロなしで、読めばわかるのですが先生が死亡フラグをぶち上げていくお話です
先生がクスリ摂取で無敵なので、性格に疑問をおぼえる方はスルーしてくだされ


162:絶望に効くクスリ
09/03/28 00:49:08 UDiHnkqT
「いったい何用でしょうか。急に呼び出したりして」
ある日望は兄・命から電話を受け、医院に顔を出すように告げられた。
辿り着いた望は看護師に診察室で待つように言われたが、肝心の命が一向に現れない。
看護師たちも「待たせておくようにと言われましたもので」と申し訳なさそうにしている。
他の仕事もあるので彼女たちは部屋を去り、望が独り残された次第である。
患者用の椅子は座り心地が悪い。
手持無沙汰な望は部屋を見渡した。色気のないカレンダーに赤と青の丸が少し。何に使うのか見当もつかない器具の保管されているのがガラス越しに分かる棚。乱れひとつない簡素なベッド。
片付けられて無機質な部屋に、ひとつだけ、目を引くものがあった。
それは、ビー玉かと見紛う程に鮮やかな赤色の飴玉だった。机の上の瓶に入っている。
命が休憩時間にでもなめているのだろう。
陽光に照り返すその肌が、望を誘惑する。
「ひとつくらい拝借しても、構いませんよね……」
と思って蓋を開けると、それがうまいのなんの。苺とも林檎とも取れぬ不思議な味に、気が付けば残るのは数個ばかりになっていた。が、
「……まぁ、謝れば許してくれるでしょう」
などと、望は呑気なものだった。
コツコツ、コツと時計の針ばかりが部屋の中で反響し、遠くからは工事の騒音が僅かに入り込んでくるだけの静かな午前十一時。かなり待った気もするが、午後の約束にはまだ余裕がある。
「はて、そう言えば……」
こういう時は大抵、いつの間にやらまといが姿を現しお決まりになったやり取りを交わすものだが今日に限って彼女はいない。
彼女にとってのライバルである千里や霧、あびるもいないこの状況をあの愛が重い少女が逃すとも思えなかったが、とにかく後ろには白い壁とドア、ぶら下がったカレンダーがあるだけだ。
常日頃望んでいたはずの静寂は今まさに実現された。だがいざそれを手に入れてみると、時を数える歯車の音が聞こえるだけである。



次ページ
最新レス表示
レスジャンプ
類似スレ一覧
スレッドの検索
話題のニュース
おまかせリスト
オプション
しおりを挟む
スレッドに書込
スレッドの一覧
暇つぶし2ch