09/01/16 00:17:32 OWRYLE9i
「さて・・・」
悟が眼鏡を掛け直し、口を開いた瞬間。
蒲公英は茶渋の立たない茶に眸を写すと呆然とした少女の顔が浮かんだ。
湯飲みを包み込むと振動を表す波動が起きていた。
上方を見上げようとして顔を上げると勢い良く和室の戸が開く。
バタンッと地を振るわす轟音が和室に響く。
「おいっ、親父。なんなんだっ、バイト先に電話までして呼び出して!!
今日給料日だってのにッ!」
「おお、当事者が来たことだし、失礼するよ」
ノートの持ち主が現れたのだ。
当の本人は息子の心情などそ知らぬ様子で離れへと移動する。
息が荒くなった青年は、久しい幼馴染を視線の端に捕捉して。
「っ!? お前、それは俺の」なにやら拙い事だけは理解し。
「ふぅ~ん、そんなに見られたくないのか」
長らく顔を合わせなかった彼方の顔が驚愕のあまり目を見開く。
その様子に満足してか見せびらかして蒲公英はニヤつく。
「ッ!!!てめぇ、人んちに入って何をしているっ!?」
彼は、蒲公英に近寄って手ごとノートを掴む。
蒲公英の手からノートを弾いたことに安堵して前のめりで畳みにぶつかる。
足を払われたことに気づくのは世界[しかい]が九十度変わってから。
畳の上に無様な受身を取る康二に対して、蒲公英はすぐ馬乗りになって彼の両手を塞いだ。
こころなしか、彼方の表情が崩れ、朱色に染まっている。
彼の心臓は、ドクッ、と少し異常な速度で鼓動を早めた。
ドクッ、ドクッ、ドクッと異常動作を繰り返す臓器に、
ハッと我に返って康二は蒲公英を振り払おうとする。
幾ら中肉中背の青年とはいえ、馬乗りになって両手を封じる少女に。
否、少女の真実を知りたいという決意に、青年は勝てないのだ。