ヤンデレの小説を書こう!Part21at EROPARO
ヤンデレの小説を書こう!Part21 - 暇つぶし2ch300:ワイヤード 第十七話 ◆.DrVLAlxBI
09/01/24 23:52:04 PqgTn3fx
「死んでやる……死んでやる……」
千歳がある『妄想』に取り付かれていた時期だった。
「俺は、何も救えない。俺は、神が見えた。だから、限界を知った。だから、救えない」
ちとせはある事件の影響で、ある種の真実に触れた。故に、無力感のあまり精神崩壊を起こしたのだ。
病院を抜け出した千歳は、ぶつぶつとネガティブな言葉を発しながら山の奥へと進んでいく。
この森で、誰にも見つからず死にたい。
「俺は、頑張っても神にはなれない……。だから、死んだほうがましだ」
虚ろな目からは、涙が絶え間なく流れていた。
秋。枯れ葉がつもり、足がとられる。苛立ちと悔しさと、枯れ葉とともに積もる無力感に打ちひしがれながらも、千歳は先を目指した。
本当は、どこで死のうなどどいう目的はない。
ただ、奥へ行きたかった。
真実に触れた今、ただ盲目的に前に進むことが何を招くか。それを知りながらも、進もうとしていた。
明確な終着点がなくても、ただ、立ち止まるのは嫌だった。
「しぬの?」
そのときだった。
上から、小さな声が落ちてきていた。
かほそく、森の沈黙の中にかき消されてしまいそうな、そんな声。
雛鳥の鳴き声にも似た。
「ああ、死ぬ」
千歳は、声の主を探り当てようともせず、応えた。
声の主が、人間であるとは、なぜか思えなかった。死後の世界からの迎えが来たのであろうと、千歳はなぜか思っていた。
妄想だったのだろうか。それとも。
その答えは、誰にもわからない。
「ころしてあげようか?」
「ああ、できるなら、そうしてくれ」
「そう……じゃあ、ここからおろして」
「はぁ?」
ここでやっと千歳は声の主のいるであろう方向を見た。
見ると、巨大な木があった。樹齢は相当なものだろう。その上に、小さな影。
千歳と、同い年くらいの少女だった。
「お、お前、そこにのぼったのか!?」
「そう」
「そんで、降りられないのか?」
「そう」
「のぼったんなら、降りられるだろ!?」
「ちがうよ、ぜんぜんちがうよ」
「なにが違うってんだよ!」
「まえにばっかりすすんでたら、いつのまにかうしろがみえてなかったの」
「お前なに言って……」
―いや。
千歳は気付いた。
それは、俺のことだ。

301:ワイヤード 第十七話 ◆.DrVLAlxBI
09/01/24 23:52:34 PqgTn3fx
前しか見えていなかった。だから、大切なものを見落としていた。
何かにこだわって進むのはいいことだが、たまには立ち止まって、周りをみていなければ。
隣にいて、手をつないでいたい人も、いつの間にかいなくなっているかもしれない。
そうだ、そうやって……。
(そうやって、俺は守りたいものを失っていったんだ……!)
守るために戦って、その結果、守りたいものを壊した。
退かないことも、媚びないことも、省みないことも、強くなるには必要なことだ。
しかし、逆もまた、然りだった。
時に、退かねば。時に、媚びねば。時に、省みねば。本当の強さは得られない。成長しない。
(そうか……俺は……!)
「わかったら、うけとめてね」
「はっ……? え……。ええっ!?」
少女は千歳がその事実を認識する前に、木の枝から飛び出していた。
軽いからだはふっと落下する。このままでは大怪我だ。
「蒼天院清水拳・柔水盾(やわみずのたて)!」
ギリギリで落下点に追いつき、清水拳による空気の壁をつくってやんわりと減速させる。
ゆっくりと地面に近づいた瞬間千歳が見事キャッチし、そのまま倒れた。
地面が枯れ葉で覆われていて、良いクッションになってくれた。幸い、二人とも無傷だ。
「お、お前……あぶねーぞ! いきなり飛ぶなんて!」
「でも、ちとせはつかまえてくれた」
「ああ、俺だからできたけど、他の奴は……。あれ? なんで俺の名前を……?」
「かおにかいてる」
「顔に……?」
顔を触ってみるが、何もついていないし、顔に落書きした記憶もなければ、された記憶もない。
「ありがと、ちとせ。だいすき!」
少女は魅力的な微笑みを浮かべて、千歳にだきついた。


302:ワイヤード 第十七話 ◆.DrVLAlxBI
09/01/24 23:53:31 PqgTn3fx
 ♪ ♪ ♪

現在。
小屋の中の机にすわろうとする千歳だったが、久遠に「ちとせちとせ」と呼ばれ、振り向く。
久遠はベッドの中にもぐり込んでおり、傍らをぽんぽんと叩いていた。
「ちとせ、おんなにして」
「お前、それどこで覚えた?」
「すいーつ!」
「まさに世も末だな」
あきれながらも、千歳はベッドに歩み寄り、腰をおろした。
「ちとせ、ひざまくら!」
「してくれる……わけねえよな。俺がするんだよな」
「ちとせのにおいー」
「さりげなく股間の匂いをかぐな。犬かお前は」
「わんわん♪」
「……ああ、ツッコミきれんわ」
膝に久遠を乗せながら、千歳はそろそろ本題に移ろうとしていた。
「それで、お前に聞きたいことなんだが」
「うん、なんでもきーて」
「お前は、『クオリア』を見たんだよな」
「くおりあ……?」
「真実ってことだ」
「ほんとうのこと……? それなら、たぶん、ちょっとだけ、みた」
「俺とお前以外にも『クオリア』を見たやつが出た。それで聞きたいんだが、クオリアによって崩壊した人格を直すには、どうすればいい?」
「……どうして、くおんにきくの?」
「俺は、お前がいないと立ち直れなかった……。思うに、自力で回復できたのはお前だけだ」
「……ううん、ちがうよ。ぜんぜんちがうよ」
久遠は悲しそうに首を振った。



303:ワイヤード 第十七話 ◆.DrVLAlxBI
09/01/24 23:54:01 PqgTn3fx
「くおんも、ちとせがいたから、いきられた。ちとせも、くおんがひつようだった。それと、おなじ」
「同じ……? 同じって、どういうことだ」
「ちとせとくおんとおなじ。そのひとにも、つがいがいる」
「つがい……。対になる存在がいるということか」
カナメにも対になる存在がいる。なるほど興味深い意見だ。
カナメはそれを千歳に感じ取ったから、千歳に救いを求めてきたらしいが、千歳はそうは思っていない。
久遠と千歳の例をとってみるなら、互いに救い会える関係こそ、『つがい』なのだろう。
「そう。ひとはみんな、ささえあっていきてる。だから、くおんはちとせがすき!」
「意味深なこと言っといて、結論がそれか。まあ、助かったよ。ありがとな、久遠」
「おれいはいい! ごほーび!」
「ああ、わかったわかった。今度はなんだ。ハーゲンダッツか?」
「くおんこどもじゃないもん! おやつより、あまいもの!」
「おやつより甘い……?」
千歳がその謎懸けに悩み始めた瞬間、久遠が千歳を押し倒し、強引に唇を重ねていた。
「ん―!?」
千歳は、拒絶しようと思ったが、できなかった。いや、しなかったのだ。
久遠は恩人だ。大切な人でもある。ここで無理に拒絶して、もし、久遠を失ってしまったら。
それを考えると、久遠の唇を受け入れざるをえなかった。
「……ぷは。……おいしい。ちとせ、おいしい」
「こういうことを強引にするのは良くないって教えたはずなんだがな」
「ちとせ、いやだったの?」
急に涙目になる久遠。千歳が受け入れていることを疑いもしていなかったかのようだ。
「いや……ただ、心の準備ってやつがな」
「なら、もうできた」
「お、おい!」
再び、久遠が千歳の唇をついばみ始める。
さっきよりねっとりと、過激に。
(くそ……まじでどこで覚えたんだ!?)
舌をねじ込み、絡ませ始める久遠に、千歳の心は揺さぶられていた。
(だめだ……。心を強くもて、俺。久遠は……!)
少しして、久遠は名残惜しそうに唇を離し、悲しそうな目で千歳を見つめた。
「きょうはもう、おしまい。でも、つぎは、ちとせからね」
「……ああ」

 ♪ ♪ ♪


304:ワイヤード 第十七話 ◆.DrVLAlxBI
09/01/24 23:54:31 PqgTn3fx
再び七年前。
久遠に連れられて小屋に入った千歳。
「お前、ここにすんでんの?」
「うん」
「どうしてだ?」
「ここが、おうちだから」
「答えになってねえよ……」
苦々しくツッコミをいれる。
「家族は? 両親は?」
「ときどき」
「会いにくるのか? じゃあ、家は?」
「まちに」
「街に家があるのに、なんでお前だけここに住んでんだよ」
「ここが、いばしょだから」
「答えになってねえよ……」
千歳は、久遠と名乗った少女の姿を見つめる。
浮き世離れした美しさをもつ少女だ。千歳も、百歌などその他多数の美女美少女をみてきた覚えがあるが、その誰をも遥かに超越していた。
むしろ、人というよりは天女のような風貌だ。いや、こんな暮らしをしているのだから、仙人か。
狐が化けたとでもいってくれるほうが、まだ説得力がある。魔性をひめた瞳。
黒いセミロングの髪は、髪形にこそ特徴はないが、よく似合っている。いや、どんな髪形をしても良く似合っているのだろうが。
千歳はこれほどの美しさの人間は始めてみたが、不思議と恐れや驚きは感じなかった。
であった状況が状況だからむしろあたりまえなのかもしれないが、不思議な縁を感じていた。
「でも、やっぱ変だ」
「へん? くおん、へん? それなら、よくいわれる……」
その時、そこまで表情豊かではないその顔が確かに悲しみに歪むのを、千歳は見逃さなかった。
「人と違うから、ここに閉じ込められたんだな」
「……うん」
「でも、お前は変じゃない」
「……?」
久遠は首をかしげる。
「間違ってるのはお前じゃない。お前の家族だ。ちょっとついて来い」
「どこ、いくの?」
「下山するぞ。お前の家に行く。案内しろ」
「でも……」
「でもじゃねえよ! 家族は一緒にいるのが一番なんだ! お前をこんなとこに閉じ込めるなんて、間違ってる!」
「……うん」


305:ワイヤード 第十七話 ◆.DrVLAlxBI
09/01/24 23:55:12 PqgTn3fx
「なんじゃぼうず。うちの組になんかようかいな。ああ?」
久遠に聞いた苗字、『久遠寺』。それを聞けば、久遠がどの家の人間であるかなど、すぐに分かった。
だから、今久遠寺組の親分の屋敷にきている。この街で、その場所を知らない人間はいない。
「ああ、用がある。久遠のことでだ」
千歳は、自分の陰に隠れさせていた久遠をひっぱりだす。
ヤクザ男の目の色が変わった。
「おどりゃ、このクソガキ! 親分の娘さんを!」
拳を振り上げ、襲い掛かる男。
「蒼天院清水拳・竜虎飛砕拳」
千歳が掌で拳を止めたと同時に、男の拳が砕けた。
「がっ! ぎゃあああああああああああ!!!」
手を押さえてのた打ち回る男を全く省みず、千歳は久遠の手を引いて、中に進入した。
門での騒動が聞こえていたのだろう。次々と手下が出てくる。
しかし、こちらは子供だ。見事にみな、油断してくれている。
拳を振り上げ、向かってくる男が数人。清水拳によるカウンターで、一瞬にして昏倒させる。
「ちとせ、つよいつよい!」
「そうじゃなきゃ、こんな無茶はしない!」
さすがに千歳の厄介さに気付いたものが、刃物を取り出し始めた。
「ちとせ……あれは、いたいよ」
「わかってる! つかまってろ!」
千歳は久遠を抱き抱え、そのまま蒼天院炎雷拳によって地面をけった。すさまじい衝撃に吹っ飛んだ千歳と久遠は、屋敷の屋根の上に着地する。
「こっから、お前の親父の部屋までいくぞ!」
「うん、いちばんおく」
「おう!」
縮地法により、高速で到着。そのまま炎雷拳で屋根をつきやぶり、真下に大穴を開け。久遠を抱えたまま中に飛びいった。
見事に着地。
しかし、そこには刀を持った多くの男が待ち構えており、千歳にそれを突きつけていた。
「ちっ……!」
「おうおう、とんだ大立ち回りをやらかしてくれたじゃねえか、小僧」
そして、部屋の最奥で断っている男。明らかにオーラが違う男が、千歳に声をかけた。
「あんたは……?」
「俺かい? 闇に生きる隻眼の虎、久遠寺轟三郎とは、俺のことよ!」
かっこうつけて自分を親指で指す轟三郎。なるほど、きどった態度は鼻につくが、それでもほかとは違う。
圧倒的な存在感がある。
「それで、小僧。俺の娘を連れて何しに来たって訊いてるんだ」
「そうだ。そのことだ……。久遠を山に閉じ込めるのは、何故だ!」
「小僧、それじゃ零点だ。俺は質問をしてるんだぜ。質問で答えちゃあ……」
轟三郎が一歩踏み出す。
どっ!
鈍い音が響きたる。轟三郎の踏み出した足が床の畳に大穴をあけたのだ。穴の中心からは衝撃が熱に転化された跡の、煙が上がっている。
「だめってことよ」
(あれは……炎雷拳か? どうにせよ、このおっさん、かなりの使い手だな)
臆する事無く、冷静に分析する千歳。
場合によっては実力行使もしなければならないのだ。今のうちに相手の戦力を分析すべきだろう。
実際、千歳は自分を囲む帯刀の男達を、あまり脅威には感じていない。自分に向ける殺気のていどが、たかが知れているからだ。
刃物を持っているが故に、逆に油断して負けるタイプ。武道家にとっては最もやりやすい。
だが、目の前のこの男、轟三郎は違う。千歳と同等か、それ以上の技術。
そして、千歳を大きく凌駕する闘気。
千歳は攻めを主体とする剛の拳になら、何があろうと絶対にかてる、と、清水拳に自信を持っている。
が、今、この男はそれすらも打ち破る可能性を秘めている。
どこまでも、千歳は慎重だった。


306:ワイヤード 第十七話 ◆.DrVLAlxBI
09/01/24 23:55:42 PqgTn3fx
「久遠を山に閉じ込めることは間違っている。そう思って俺はここへ来た」
「そうかそうか。そういうこと。……小僧、お前は立派だよ。ああ、俺の負けだ。久遠とは、仲良く……」
どっ!
もう一歩、踏み込んでくる。今度は先ほどより畳の損傷が大きい。
「とでも、言ってくれると思ったのかい? ええ、小僧」
「俺が間違っているというなら、久遠をあそこに閉じ込めた理由を教えろ」
「理由? はっ! 理由なんてねえよ! 世の中、皆がみんな理由があって生きてると、まさかほんとに思ってるわけじゃあるめえな? 腹が減ったから飯を食う。バナナの皮が落ちてたから転んだ。本当にそうだと思ってんのかい?」
「なにが……なにがおかしいんだ」
「俺はよぉ! 誰の指図もうけねぇぜ。俺がそうしたいからそうする! 俺がこうやって生きてんのも、誰のせいでもねえ、俺が選んだからだ! なあ、小僧、強いって、そういうことだと思わねぇか?」
「なに言ってんだよてめえ……。てめえの理屈でてめえは人を傷つけんのかよ……。てめえの理屈で娘を悲しませんのかよ……!」
「悲しい、だ? 俺が悲しませた? 小僧、あんたは俺のいうことを、何にも理解してねえな。久遠が悲しいって思ったなら、久遠が悪いんだろうよ。悪いが俺の家はそういう教育方針でね」
「うるせぇ!!」
千歳の闘気が爆発した。
衝撃で、千歳を取り囲んでいた男達が吹っ飛び、壁に激突する。
「ほう、ガキにしちゃ、やるな」
「俺は……あんたを倒してでも、久遠を救う」
「救う、ねえ。しょんべんくせぇガキの正義で、何を救うって?」
「しんべんくさくても、泥臭くても、青臭くても……。どんなにかっこ悪くてもな。俺は、前に進む。久遠の悲しい顔を見ちまったんだ。涙は流れていなくても、久遠は泣いていた……。だから、俺がその涙を止めてみせる」
「……なら、もう言葉はいらねえ。こいや、小僧」
「はああああああ……!」
闘気を溜め始める千歳。
「ちとせ……だめ……」
涙目になりながら、千歳の服を引っ張って止めようとする久遠。
「止めるな、久遠。俺は、お前の幸せをつかむ」
「しあわせ……? しあわせって、なに?」
「知らないなら、俺が掴んでやる。俺が教えてやる。……だから、信じろ!」
千歳が前にでる。
「おせえ!」
轟三郎がカウンターで拳を突き出す。
「うおおおおおおおお!!!」
こちらが完全に直線的な攻めを振ったのだ。相手もそうしなきゃ、打ち破ることはできない。
千歳はその読みを的中させた。
発声と共に闘気を解放し、轟三郎の拳を清水拳で受け止める。
―俺の勝ちだ!!
互いの闘気がぶつかり合い、強烈な発光。
家具、畳が吹き飛ぶ。
……。
そして。
「そんな……。ちとせ……」

立っていたのは、轟三郎だった。

第十八話『遥か久遠の彼方に・後編』に続く

307:ワイヤード 第十七話 ◆.DrVLAlxBI
09/01/24 23:56:15 PqgTn3fx
終了です。

308:名無しさん@ピンキー
09/01/25 00:13:17 vm2l9JLo
おつ

309:名無しさん@ピンキー
09/01/25 00:29:23 XyItRCPN
おつです
wktkwktk

310:名無しさん@ピンキー
09/01/25 00:30:13 3bEJaZ2Z
おつ

311:名無しさん@ピンキー
09/01/25 00:47:16 fLgoZg97
ワイヤード待ってました
GJ!!

312:名無しさん@ピンキー
09/01/25 00:47:37 VTbZsfK7
乙だけど九音寺なの九遠寺なの?

313:名無しさん@ピンキー
09/01/25 00:59:04 FiT6lacS
すみません。九音寺は誤字多いです。「九音寺」で正解です。
久遠とまぎらわしいので……。失礼しました。
(作者 携帯より)

314:名無しさん@ピンキー
09/01/25 01:33:07 9iDD/YlL
インドア派で休日は2chやニコニコ動画に草を生やしているような男ならともかく、
スポーツやツーリングが好きで外に出たがる男を監禁するのはかわいそうだと思いませんか?

315:名無しさん@ピンキー
09/01/25 01:36:25 /b2bwcRP
>>314
雌豚どもがいるやもしれない場所にいるほうがよっぽどかわいそうです
だからたとえアウトドア派の人間でも、この部屋の中にいるのが一番の幸せなのです

316:名無しさん@ピンキー
09/01/25 01:46:08 9iDD/YlL
>>315
返信ありがとう


俺は圧倒的に前者だから、なんともないぜ!
証拠にこんな時間なのにヤンデレに惹かれて作品を読み漁っているのだから

317:名無しさん@ピンキー
09/01/25 01:59:07 rNsZJoP0
つまんないからもう投下すんな

318:名無しさん@ピンキー
09/01/25 02:22:48 5RMAuV3V
それは困る。俺の楽しみが減って景気に悪影響が出る。

319:名無しさん@ピンキー
09/01/25 03:08:57 MWLgMI5I
>317
つまらんのならとばせ
そしてsageろ

320:名無しさん@ピンキー
09/01/25 03:12:17 vm2l9JLo
嫌ならNGすればいいだけ

321:名無しさん@ピンキー
09/01/25 08:44:01 LMfTn2pf
ヤンデレなのか?

322:名無しさん@ピンキー
09/01/25 10:16:05 d4rQF8sP
ブロントwwwww

323:名無しさん@ピンキー
09/01/25 12:09:24 DXcTl0t3
おいやめろ馬鹿
早くもこのスレは終了ですね

324:名無しさん@ピンキー
09/01/25 12:38:50 fxFk63lM
>>321
私がどうやってヤンデレだって証拠だよ
言っとくけど私はヤンデレじゃないから
あんまりしつこいとバラバラに引き裂くぞ

325:名無しさん@ピンキー
09/01/25 12:52:25 XyItRCPN
とりあえず落ち着こう
作家さんが住みづらくなったら困る

326:名無しさん@ピンキー
09/01/25 14:31:18 KJa2HfSl
ヤンデレブロンティストという電波を受信した

327:名無しさん@ピンキー
09/01/25 16:46:46 0yz3DqQQ
ワイヤード最高!

328:名無しさん@ピンキー
09/01/25 17:06:49 IuJRihY3
ワイヤードはヤンデレ成分が低すぎるからな…だから叩かれるんじゃね?

329:名無しさん@ピンキー
09/01/25 17:37:51 3/bXHj3F
厨二臭い

330:名無しさん@ピンキー
09/01/25 17:40:09 DFsbj0Gh
こんどはこっちで荒らしかもう秋田このナガレ

331:名無しさん@ピンキー
09/01/25 18:01:12 fLgoZg97
スルーしとけよ

332:名無しさん@ピンキー
09/01/25 18:18:19 rNsZJoP0
入れ食いだ

333:変歴伝 6
09/01/25 19:42:08 K0KWI/lq
投稿します。

334:変歴伝 6
09/01/25 19:44:52 K0KWI/lq
「はっ…」
目が覚めた業盛は首に手をやった。
なんともない…。
「夢か…」
最悪の夢だ。これほど疲れた夢はそうはない。着ている服は汗でぐっしょり濡れている。
水浴びがしたい。
外を見てみると空が少し白んでいた。まだ早朝なのだろう。
業盛は菊乃を起こさないようにそっと外に出た。
外は涼しかった。汗を掻いた業盛にはそれが心地よかった。
水路を辿りながら、業盛は夢の内容を思い出していた。
別に夢占いを信じるほど業盛は信仰深くはないが、気になったのは夢の中のあの声である。
「あの声は…菊乃さんの声だった…」
あの夢は俺が彼女に殺されるという暗示なのだろうか?
しかし、業盛には菊乃に殺される理由はない。
考えすぎか…。
そう思ったが、なぜ夢の中に菊乃が出てきたのかということが頭の中に引っかかった。
しばらくすると川のせせらぎが聞こえてきた。
業盛は歩く速度を速めた。川のせせらぎが近くなると、
今まで何度となく嗅いだ臭いも強くなってきた。血の臭いだ。
よせばいいのに、業盛は血の臭いがする方に向かって歩き出した。
血の臭いが強くなるにつれて、川のせせらぎ以外に別の音が聞こえてきた。
川のせせらぎとは違う水音。まるで汁気の多い物でも食べているかの様だった。
水音はこの草むらの先から聞こえてくる。
のぞいてみると川原で倒れている男の横に、女がうずくまっているのが見えた。
女は血まみれだった。両手にはなにか管みたいな物を持っていた。
その管は…男の腹に繋がっていた。
女は口の周りを血だらけにし、恍惚の表情ではらわたを食べていた。
「…あは…あなたの…いしいよ…。…ふふ…様…好き…愛してる…。これか…も、ずっと一緒…」
遠くからで聞き取り辛いが、そのように聞こえた。
目を逸らしたくなるような光景だった。正直、逃げたかったが、体が硬直して逃げられなかった。
すると、さっきまで虚空を向いていた男の顔が業盛のいる草むらの方を向いた。
あれは…平蔵…。
業盛は声が上がりそうになった。
平蔵は虚ろな目でこっちをじっと見つめていた。
死んでいるのだから当然だろうが、業盛にはそれが生きているように見えた。
業盛はその場から逃げ出した。耐えられなかった。
平蔵が何者かも分からない女に食われるのを見ているのが辛くなったのだ。
このまま逃げるべきだったのかもしれない。
しかし、業盛は菊乃の家に向かっていた。既に夢のことなど忘れていた。


335:変歴伝 6
09/01/25 19:46:28 K0KWI/lq
菊乃は既に起きていた。
「業盛様、どこに行っていたのですか」
すさまじい形相で聞いてきたので、思わず後退りしてしまった。
「あ…汗を掻いたから…水浴びを…」
「なんで私に言ってくれなかったのですか」
「ぐっすり眠っていたので…」
「そんなことは関係ありません!」
そのすさまじい気迫に声がだんだん小さくなっているのに気付いた。
これでは川のことなど口にも出せない。
「起きた時、あなたがいなかったから心配したんですよ。
また私を置いてどこかに行ってしまったのかと思ったんですよ」
とにかく、ここは謝り通したほうがいい。
そう判断し、ひたすら頭を下げた。菊乃から放たれる気迫が、
少しずつだが和らいでいくのを感じた。
「とにかく、これからはどこかに行くときはちゃんと言ってくださいね」
菊乃はそれだけ言うと、朝食の準備に取り掛かり始めた。
参ったな…。
完全に言い損ねてしまった。いまさら言うのも気が引けてしまう。
次に言う機会を考えていたが思い浮かばない。
そうこうしている内に目の前に料理が並べられた。
「さっ、どうぞ」
菊乃が業盛に笑みを向ける。
正直、食べる気にもならないが、
それでも食べられるのは武士の家に生まれた賜物なのかもしれない。
とにかく、今はしょっぱいものが食べたいので最初に漬物に手を付けた。
歯ごたえが良く、味も昨日のよりも染みていた。
続けざまに玄米を口に入れた。少し固めだが、ちょうどいい炊き上がりだった。
噛んでいると甘みが広がり、漬物のしょっぱさを中和した。
ここでひとまず口の中を潤そうと野菜汁に手を出した。
野菜汁のお椀に口の前に近付けた時、菊乃と目が合った。
菊乃の目は笑っていた。しかしその目は、今までの菊乃の目ではなく、
葵の時のような、淀んだ目…警戒心を煽り立てる様な目をしていた。
「どうしたんですか、飲まないんですか?」
菊乃が業盛に問い掛ける。
嫌な予感がする。これを飲んでしまえば取り返しが付かない様な気がする。
しかし、飲まねばもっと取り返しのつかない様なことが起きそうだ。
どうするべきか…。
野菜汁のお椀は、業盛の口の前で止まっている。
「業盛様、冷めてしまいますよ…」
菊乃が今度はじれったそうに言った。
さすがにこれ以上延ばすと、菊乃が怒鳴りかねない。
仕方がない…。
業盛は腹を括って、口の前で止まっていたお椀を傾けた。
菊乃はそれを見てまた笑った。
「おいしいですか、それ」
菊乃の目には未だにどんよりとした光が宿っている。
「ええ、とても。これほどおいしい料理が作れるのなら、どこに嫁に行っても大丈夫ですね」
とりあえず、ここは刺激するよりも誉めておいた方が得策だと思い、そう口走った。
「あ…すいません。余計なお世話でしたね」
少し厚かましいと思ったので、多少補った。
「ふふ、そんなことありませんよ。そう言ってもらえて嬉しいです」
まんざらでもないみたいだ。
このまま、何事もなく終わればよかったのだが、
「業盛様…私、あなたに言わなければならないことがあるのです…」
突然、菊乃が改まった口調になった。
その目はえらく真剣だった。


336:変歴伝 6
09/01/25 19:47:07 K0KWI/lq
「業盛様…私には夫はいない…と、最初に言いましたよね。
…実は…あれは嘘だったんです。…私には夫がいました。本当に…本当に短い間でしたけど…」
なにか言おうとしたが、舌が痺れてうまくしゃべれない。
やはり、野菜汁の中になにか入っていたようだ。
「六年前の夜…夫は私の目の前で野盗に殺されました。
私は…その時、野盗に体を犯されました。
…夫に捧げるはずだった操を…汚らわしい野盗に奪われました…」
手が震えだした。箸も椀も床に落としてしまった。思いのほか薬の進行が早い。
「しばらくして、私…身ごもっていることに気付きました。
相手は…私を犯した野盗でした。…産まれてきたその赤ん坊…私、どうしたと思いますか。
ぎゃあぎゃあうるさいから…首を絞めてやったんです。
そしたら…赤ん坊って脆いんですね…簡単に首の骨が折れちゃったんですよ…」
目がだんだんおかしくなっている。目の前の菊乃が三人に見える。
「その時から、私…男というのが信用できなくなりました。
今までにも何人かの男が寄ってきました。少し優しい声を掛けただけで勘違いして、
馬鹿な奴は婚姻を迫って来て…あまりにもうるさかったから、
寝ている時にちょっと強く叩いただけでしゃべらなくなって…本当、
処理するのが大変だったんですよ…」
不味い、本当に不味い。なんとか意識を保ってはいるが、もうそろそろ気力も限界だ。
「ですが、あなたを見た時、私は驚きました。あなたが死んだ夫にそっくりだったんですから…。天の思し召しかと思いました。けど、同時に単なる勘違いかもしれないと思いました。
…だから私、試したんです。私がわざと無防備な女を演じて、
あなた達が手を出したら、ずっと眠っていてもらおうと…。
ですが、あなたは私に手を出さないだけでなく、仕事も手伝ってくれました。
私は確信しました。あなたになら…この体を差し上げてもいいと…」
菊乃がゆっくりと立ち上がった。
「もう…絶対に離しません。大丈夫…怖くなんてありません…。
ただ、昔の生活に戻るだけなんですから…あなた…」
服の帯を緩め、その白絹の様な肌と、椀の様な胸を見せ付けながら歩を進め、
菊乃は業盛の目の前に立った。
「愛しています…業盛様…」
そう言って、業盛を抱きしめようとした。


337:変歴伝 6
09/01/25 19:47:39 K0KWI/lq
その時、業盛は菊乃に思いっきりぶちかました。
菊乃は小さく悲鳴を上げて吹っ飛ばされた。
業盛はふらつきながらも外に出た。そして、すぐさま口に指を突っ込んだ。
すると吐き気がこみ上げてきて、胃の中の物が吐き出された。
漬物やご飯、それに野菜など、いまだに原型を留めていた。
しばらく続けると胃液しか出てこなくなった。
少し、体が楽になった。口に含んで飲んだふりをしただけでこれなのだから、
一口でも飲んでいたら取り返しの付かないことになっていた。
なんとか切り抜けたが、早くここから去らなくては。
業盛は未だに痺れる体を引きずりながら歩き出した。
なんとか川原まで来た。ここまで菊乃は追ってこない。あれで気絶してくれたのなら幸いだ。
川には未だに血の臭いが漂っていた。
見てみると、平蔵の死体にさっきの人食い女が折り重なるように倒れていた。
ぴくりとも動かないのを見ると、どうやら死んでいるらしい。
たぶん、平蔵のあとを追って自害したのだろう。
業盛はそれから目を背けると、川に沿って歩き出した。
しばらく歩いていると、やっと森の外に出ることが出来た。
十二日ぶりの外界は、十二年ぶりに故郷に帰ってきたのと同じ気持ちにさせる。
あとは近くの家で都への街道を聞くだけだ。
少し安心した業盛は、懐から久しぶりに干し柿を取り出し、かじり付いた。
思えばずいぶんすさまじい体験をした。
相手に好意を抱かせ、誘い出し、殺す女。好き、愛してると呟きながらはらわたを食べる女。
殺された夫に似てるから監禁しようとする女…絶対に人に話したくない体験だ。
いったいなにが彼女達をそうさせたのだろうか。
とにかく、言えることはもうこのような女とは関わりたくないということだ。
そんなことを考えつつ、業盛は都に向かった。


338:変歴伝 6
09/01/25 19:48:07 K0KWI/lq
二日後の夕刻、やっと都に着いた業盛は、すぐさま清盛のいる六波羅に向かった。
どうやら、清盛は所用でどこかに出かけているらしく、
応対したのは家宰(家事を取り仕切る人)だった。
「お前が業盛か…。ずいぶんと遅かったな」
家宰は紹介状を見ながら言った。
「少し、道中で問題がありましたので…」
道に迷ったなど口が裂けても言えない。
「ふむ…そうか…。まあよい。お前のことは清盛様に伝えておく。
それと早速、お前には仕事に取り掛かってもらう」
そう言いながら家宰が案内したのは池だった。
「あの…なにをするのですか?」
「今日より、朝と夕に鯉に餌を与えるのがお前の仕事だ。
清盛様が飼っている大切な鯉だ。餌をやり忘れるなよ」
「それが終わったら、次になにをやれば…」
「ない。それが終わったら、あとはお前の自由だ。好きにするがよい」
「あの…それだけですか…?」
「不服か?」
「いえ…別に…」
なぜか威圧された。こうゆう人嫌いだな、俺。
とりあえず、池に餌を撒き、今日の仕事は終了した。
業盛はあてがわれた部屋で寝転がっていた。
「暇だ…」
思わず呟いた。
武士の仲間入りをしたのだから、生活も劇的に変わるのだろうと思っていたが、
大して変わらず、これでは部屋住みの頃と大して変わらない。
「俺…ここでうまくやっていけるかな…」
不安と失望を抱いた業盛は、そのまま目を瞑った。
「戦争でも起きればいいのに…」
そんな不謹慎なことを考えたのを最後に、業盛の意識は夢の世界に旅立った。


339:変歴伝 6
09/01/25 19:49:24 K0KWI/lq
投稿終わりです。
少し手間が掛かりました。すみません。
このままでは生還エンドですが、まだ続きます。
今日の内にかけるかもしれませんので、
あまり期待しないで待っていてください。

340:名無しさん@ピンキー
09/01/25 19:58:43 XyItRCPN
おつです

341:名無しさん@ピンキー
09/01/25 20:13:54 8BZBSRLL
おつ
wktk

342:名無しさん@ピンキー
09/01/25 20:26:15 LMfTn2pf
gj

343:名無しさん@ピンキー
09/01/25 20:33:28 2+AcUZeB
>>339
乙~、しかしこれは怖いなあw


344:変歴伝 7
09/01/25 22:49:52 K0KWI/lq
有言実行。
投稿します。

345:変歴伝 7
09/01/25 22:50:29 K0KWI/lq
清盛に仕えてから、ちょうど一年目の初秋。
業盛は朝の鯉の餌やりが終わり、暇を潰すべく都に行こうとすると、家宰に止められた。
「おい、業盛、自分だけ仕事が終わったからといってどこかに行こうとは、
お前は仕事を舐めているのか」
最近、この家宰がなにかと突っかかってくる。
「ですが…」
「口答えするな!」
怒鳴り声が、業盛の耳を貫いた。
「お前、いつから俺に口答え出来る立場になったんだ。調子に乗ってんのか!」
「………」
あまりにも理不尽な言葉に声も出ない。
「なんだその目は」
「…いえ…なんでも…ありません…。…すみません…」
「ちっ、使えねぇ…。お前みたいな奴が戦いの時に真っ先に死ぬんだ。
まあ、俺としては、そっちのほう目障りなのが消えてくれて清々するんだがな」
家宰はそれだけ言って、呵呵大笑しながら去っていった。
…本当になんなんだあいつは。俺がなにをしたというのだ。
目障りな奴だ?
目障りなのはお前の方だ。あいつ、戦争で死なないかな…。
それとも…いっそ、ここで…。
「おーい、三郎―」
不謹慎極まりない考え事をしていると、後ろから声を掛けられた。
「またあの家宰に捕まったみたいだな」
「あぁ…あいつ、俺を見るたびになにか言ってくるからな。
こっちは殺意を抑えるので精一杯だったよ。で、なんのようだ?弥太(やた)?」
「あぁ、今都で唐からの貿易品が来ているんだとよ。知ってたか?」
「いや、でも、俺はそうゆうのには興味がないし…」
「なんでも唐の果物も来ているらしい…ぞ…」
弥太郎が話し終えた時、業盛はその場にいなかった。
「三郎…話は最後まで聞こうぜ…」
弥太郎は長大息を吐いた。


346:変歴伝 7
09/01/25 22:51:22 K0KWI/lq
朱雀大路にやって来て、
それっぽい店を手当たりしだい探し、貿易品を扱う店を見付けた。
「唐の貿易品を扱っている店はここか?」
「はい、そうですが。なにかお探しの物でも?」
「唐の果物がほしいのだが、お勧めの物はないか?」
「お勧めですか…。そうですね…。ライチなんてどうでしょうか?」
「らいち…?この小さいやつか?」
「はい、唐の華南で取れる果物で、その上品な甘さで唐の国では人気があります」
「三つしかないのか?」
「保存が難しく、ここまで持ってくるのにほとんどが駄目になってしまったのです」
「いくらだ?」
「一つ三斗(一斗は一万円)でいかがでしょう。三つ買うのなら、九斗の所、七斗に負けますが、
どうでしょう?」
「まぁ…それでいいや。買おう」
「毎度あり」
しばらく歩いていた業盛は、早くライチを食べたいという気持ちが抑えられず、
近くの茶屋に腰掛け、一つライチを口に入れた。
うん…確かにこれは美味い。癖は強いがしつこくなく、後を引く甘みがたまらない。
もう一つ食べる。至福。ちょっと前までのいらいらが消えた。
最後の一口、業盛はライチの皮を剥こうとした時、後ろからぶつかってきた客のせいで、
ライチを落としてしまった。
ライチはころころ転がって、大通りを歩く人々の股下を潜り抜け、そして、踏み潰された。
「あ…あああああああああああああ」
思わず叫び声が出てしまう。ライチが…。最後の一つだったのに…。
七斗もしたのに…。高かったのに…。高かったのに…。高かったのに…。


347:変歴伝 7
09/01/25 22:51:52 K0KWI/lq
…許さない…。ライチを踏み潰した奴を…絶対に許さない。
業盛はライチを踏んだ奴を目で追った。
あのデカブツか…。
顔を確認した業盛は、走り出した。
「おい、どこ見て…」
さらに加速する。
「兄貴、この女…」
かなり近付いた。なにやら取り込んでいるらしいが、そんなことはどうでもいい。
「あ、兄貴、あれ!」
デカブツの横にいたチビが、俺の存在に気づいた時、俺は跳躍し、さらに捻りを加えた。
「なんだ?」
デカブツが振り向いた時、ちょうど目が合った。
俺はデカブツの鼻に全身全霊を込めた一撃を叩き込んだ。
破裂音と鮮血と共にデカブツは吹っ飛んだ。横にいたチビも巻き添えを食ったようだ。
ライチの恨みだ…。ざまあみろ。
業盛は白目を剥いて気絶しているデカブツとチビを見下ろし、その場を去ろうとした…
「ちょっと、あんた、待ちなさいよ」
が、凛とした声に止められ、振り向いてみると、
いかにも性格のきつそうな目付きをした女性がいた。
「あんた、なに余計なことしてんのよ」
余計なこと…?彼女はなにを言っているのだろう?
「あんた…分からないって顔してるわね。
今あんたがぶちのめしたそこの二人のクズのことよ」
彼女が倒れてる二人のクズを指差した。あぁ…こいつ等のことか。
「あんたの力なんか借りなくても私はこいつ等に勝てたのに、
なに余計なことしてくれてんのよ」
どうやら、さっき取り込んでいたのは彼女のことだったらしい。
「あんた、こんなことで私に近付こうと思っているんじゃないでしょうね?
馬鹿にしないで。私、そんなことで恩義を感じるほど安い女じゃないわ」
彼女はなにかを勘違いしているようだが、その誤解を解くのも面倒くさい。
彼女は話に夢中になっているようだし、ここはずらかることにしよう。
「まったく…お父様も…私は…」
彼女はまだ話し続けている様だ。元気だな…。


348:変歴伝 7
09/01/25 22:52:31 K0KWI/lq
日が暮れてきた。そろそろ餌やりの時間だ。
業盛は両手に干し柿と干し桃を持って帰ってきた。
「あっ、三郎。お帰り」
弥太が門前で待っていた。
「どうした弥太?そんな所で?」
弥太郎には珍しかったので、思わず聞いてみた。
「さっきまで姉上が来ていてさ、散々愚痴ってやっと帰ったんだ」
「愚痴?」
「なんでも、昼間にごろつきに絡まれている所を、
見ず知らずの人に助けられたんだってさ。
でもその男、姉上がお礼を言っている最中にどこかに消えてしまったんだとよ。
それで姉上、大恥かいたって、わざわざ俺の所まで来て、愚痴ったって訳。
まったく、とんだとばっちりだよ」
「それは災難だったな、弥太」
「まったくだ」
二人は笑いながら門内に入っていった。


349:変歴伝 7
09/01/25 22:53:55 K0KWI/lq
投稿終了です。
新キャラ出しました。
いろいろ込み合ってきたので、そのうち
登場人物を纏めようと思います。
では、おやすみなさい。

350:sage
09/01/25 23:00:59 c+XGxQQe

そしてとりあえず酉つけろ

351:名無しさん@ピンキー
09/01/25 23:03:30 tNwzo0du
>>350
お前はsageろな

352:名無しさん@ピンキー
09/01/25 23:04:41 c+XGxQQe
やっちまった、酒が入ってるからってことで
スルーしてくれ

353:名無しさん@ピンキー
09/01/25 23:43:49 5K95qL1Y
>>349
GJ

354:名無しさん@ピンキー
09/01/25 23:44:11 XyItRCPN
おつです

そして>>352ドンマイ

355:名無しさん@ピンキー
09/01/25 23:48:40 8BZBSRLL
おつ
こういうのも好きだ


356:名無しさん@ピンキー
09/01/26 00:19:59 a05NXJ2l
前によく見た書き手を最近見ないな、と思いながらモニターを眺めていたら。

「パソコンと私どっちが好きなの?」

って、彼女が言った。



357:名無しさん@ピンキー
09/01/26 12:16:54 kH0x9vJD
ヤンデレ家族来ないなぁ
余程大作のプラモでも作ってるのだろうか

358:名無しさん@ピンキー
09/01/26 15:02:57 TFlp0Ny9
そりゃやっぱりヤンデレに監禁されてるんだろ

いいなぁ

359:名無しさん@ピンキー
09/01/26 15:54:35 BsD//5ek
葉月さんの下の名前が明かされるまでは死ぬわけにはゆかんのじゃ

360:名無しさん@ピンキー
09/01/26 16:02:12 SaNL0pNn
まぁオチは決まってるらしいし

361:名無しさん@ピンキー
09/01/26 21:55:25 ttLfiw5e
>>356
「パソコンだよ」
「あはははは、このパソコンがいけないんだ!」パソコン死亡

「お前だよ」
「じゃこんなパソコンいらないよね」
パソコン死亡

ドンマイだな

362:名無しさん@ピンキー
09/01/27 00:47:09 YnK95RgW
ヤンデレ「携帯電話の着信音をあなたの声にしたいから、なんか言って欲しいな」
我々「        」

なんと言う?

363:名無しさん@ピンキー
09/01/27 01:07:25 GibQVFAG
二度と僕の前に現れないでくれ

364:名無しさん@ピンキー
09/01/27 01:08:12 CYHC/RaA
我々って書くと違和感あるな
ヤンデレの愛が複数の男に向いてるような

365:名無しさん@ピンキー
09/01/27 02:23:01 D4/FRxWP
>>349
GJ

366:名無しさん@ピンキー
09/01/27 14:00:46 wxK8s3qC
URLリンク(www.katsakuri.sakura.ne.jp)

367:名無しさん@ピンキー
09/01/27 15:45:34 8ofDVNaw
>>366
なにこれ?

368:名無しさん@ピンキー
09/01/27 16:02:06 SKp9TwIL
護くんじゃないか。

369:名無しさん@ピンキー
09/01/27 17:48:49 tUaDtRdp
ゾンダー許せない

370:名無しさん@ピンキー
09/01/27 18:22:26 uNKXoYpt
ヤンデレが「光になれぇぇぇ!」と叫びながら泥棒猫に金槌を打ちつけまくるんですね、わかります

371:名無しさん@ピンキー
09/01/27 19:30:38 bVDPCDBj
右手にロープ
左手に怪しい注射器
そんな監禁ヘル・アンド・ヘブン

372:名無しさん@ピンキー
09/01/27 19:53:08 OpF9uP36
まさに地獄かつ天国!!

373:名無しさん@ピンキー
09/01/27 20:35:14 LCO+LVVb
>>371
俺の命が光になる

374:名無しさん@ピンキー
09/01/27 21:02:26 5GKHocmp
『ヤンデレ家族と傍観者の兄』

続きが超気になります。

375:名無しさん@ピンキー
09/01/27 21:21:37 KixHX64U
「ゴ●ディオンハンマー発動承認!」と親父さんの声がどこからか‥
「光になれぇぇぇぇぇぇ!」
ソ連もビックリのハンマー登場
サブに鎌「デスサイズ・ヘル!!」

そんな熱く燃える某機械大戦な彼女が居たら欲しい。 

376:名無しさん@ピンキー
09/01/27 23:45:07 +D9xcZe4
愛の力でどんな壁もぶっ壊すよりボロボロになりながらも何度も攻撃する方がキュンキュンする
何が言いたいかと言うとヤンデレが超人過ぎる、普通の女の子でいいじゃない

377:名無しさん@ピンキー
09/01/27 23:48:35 DhjGWzsU
>>376
何言ってんの?
彼女達のどこが普通の女の子じゃないわけ?

冗談はさておき、人間、死に物狂いになればある程度常識を外れた力を発揮できるもんだからじゃない?

378:名無しさん@ピンキー
09/01/28 01:07:29 Ti1SNzRJ
ヤンデレに戦闘能力を持たせちゃいけないって、何で分からないんだ!

379:名無しさん@ピンキー
09/01/28 02:20:25 sf7wJsvl
ヤンデレ好きだけど、殺しが好きじゃない自分は異端?
誤認や自傷みたいな静かに病むのが好きなんだが。空鍋や空電話みたいに。ヤンデレ好きとして失格かな…?

380:名無しさん@ピンキー
09/01/28 02:54:47 80TPPepl
異端じゃないと思うが
てかヤンデレだからって殺しが必ずなければいけないとか決まってないと思うが

381:名無しさん@ピンキー
09/01/28 03:43:11 q2vwtwNc
おいらは監禁しちゃうヤンデレが大好きだ!

382:名無しさん@ピンキー
09/01/28 03:47:00 +Xgl93xi
ヤンデレの幼馴染みに、コミケで二時間並んで買った同人誌をやぶられて
ついついキレて出て行けと叫んでからの意識が途切れていつのまにか
ベットに手足が縛られていて、「この本があるから私をみてくれないんだよね?」
といわれて、俺の今まで買ってきた同人誌全てを燃やされた


という妄想してしまった・・・・ちょっと吊ってくる

383:名無しさん@ピンキー
09/01/28 08:57:00 v5PYzSQf
>>362
目障りなんだよ!僕の目の前から消えてしまえぇぇっっ!!!!!!

384:名無しさん@ピンキー
09/01/28 09:33:11 XHQt6962
>>379
俺も殺しはそんなに好きじゃない

監禁は好きだな

385:名無しさん@ピンキー
09/01/28 10:30:51 zf2gBklx
ヤンデレってひたすら一途で他の男(女も?)を見下してて家畜程度にしか思ってない、っていうイメージあるんだけどさ
好きな相手以外に少しは心許してて少なくとも「友達」である男が一人位は居てもいいと思うんだ

386:名無しさん@ピンキー
09/01/28 12:16:49 pOT4W9q0
女友達ならともかく男は嫌だなあ

387:名無しさん@ピンキー
09/01/28 12:25:13 X3l5aMCY
想い人に手を出さない絶対の保障が無ければ男だろうと女だろうと信用されない予感

388:名無しさん@ピンキー
09/01/28 12:35:20 aqHCe7JR
難しいんじゃないか? そうすると男に女友達がいるのを認めないといけないし
つまりそれはつけいれられる隙になるし

まあ病む前がそれで病んだ後は完全に主人公一筋で「私以外といちゃだめぇぇぇぇぇぇぇ!!」ならいいが

389:名無しさん@ピンキー
09/01/28 15:29:34 anbvzjb7
>>385
なんでそう思ったのかは知らんが、それメリットがないような気がする

想い人だけってほうが見ている俺たちからすれば、依存やら執着やらが強いように感じるだろうし
既に病んでるのに他の男と仲良くしてたら、何このメンヘラって思うだろうし

390:名無しさん@ピンキー
09/01/28 16:46:00 51dAGuv0
もう暫くここ見てなかったけど、今基本ヒロインが障害持ちっていうSSはあるんかな。

主人公が医者もしくは教師で、病院か養護学級で障害持ちヒロイン達と接していくうちに、
ヒロイン達が主人公無しではいられなくなるという電波を受信してしまったのだが。

主人公が盲目とか後半でヒロインが障害持ちになる作品は有った気がするんだけどな。
作品が被っても申し訳ないしどうしたものか。

391:名無しさん@ピンキー
09/01/28 16:47:00 yN8u2/3J
>>390
いいから、書くのだ、世界のために。


392:名無しさん@ピンキー
09/01/28 18:12:29 2KuXRjZ8
>>362
「愛してるよ、○○。」
ポイントは、ヤンデレの名前じゃなく他の友達(男もアリか)の名前を呼ぶこと

393:名無しさん@ピンキー
09/01/28 19:01:34 O2no3x0D
>>392
男の名前を言ったら尻狂いに調教されそうだな
ペニバンを使うヤンデレって意外といないような気がする

394:名無しさん@ピンキー
09/01/28 20:08:46 flFalb51
ヤンデレだったら自分の体のみを駆使して尻を責めると考察。



395:名無しさん@ピンキー
09/01/28 20:44:33 T0b05xKG
ベアー・クロー!

396:名無しさん@ピンキー
09/01/28 20:45:10 8Fs12Pdz
某エロゲでは、BADENDでヤンデレヒロインに女装させられて、
主人公が手を使わずにバイブをひり出す事が出来る変態に調教されてたな。

397:名無しさん@ピンキー
09/01/28 21:13:35 KPTq8m8C
それkwsk

398:名無しさん@ピンキー
09/01/28 22:34:03 ScNHV4tf
俺たちのリアルよりよっぽどハッピーエンド

399:名無しさん@ピンキー
09/01/28 22:44:46 anbvzjb7
ここの過去作品でヒロインが弓を使って恋敵を攻撃したり、車に轢かれたりするのってなかったっけ?

タイトルが思い出せない……

400:名無しさん@ピンキー
09/01/28 22:52:24 XFHmMVwj
ヒロインが千里眼みたいなのもってるやつか?

401:名無しさん@ピンキー
09/01/28 22:54:05 J0OEWu1e
なんだったかなー・・・
沃野かな?
たしか修羅場スレの作品だったはず

402:名無しさん@ピンキー
09/01/28 22:57:08 anbvzjb7
>>400
それです
確か恋敵の策略で轢かれるんだけど、追ってきて弓で追撃だったような

>>401
修羅場スレでしたか
最近覗いてなかったから間違えた……、サンクス

403:名無しさん@ピンキー
09/01/28 22:59:41 XFHmMVwj
このスレができるまではヤンデレものもあのスレの管轄だったからなぁ

404:兎里 ◆j1vYueMMw6
09/01/28 23:20:35 H3mhe9QE
投下させてもらいます。

405:Tomorrow Never Comes ◆j1vYueMMw6
09/01/28 23:21:32 H3mhe9QE
6話「学園急降下(スクールデイズダイブ)・入り口」.txt


今日が普通だからといって、明日に変化がないとはいえない。
宝くじに当選し、大金を手にする人もいれば、突然視力を失う人だっている。
ただ、平平凡凡を地で行く俺だけは、そこから外れている存在だと思っていた。
黒崎家を襲った悲劇は、俺たち斎藤家の人生まで変えてしまった。だが、俺たちにとっては悲しむと同時に喜ばしいこともあった。
黒崎くるみが、家族になった。
多分、一番喜んでいるのは俺だ。 家を出るときはいってらっしゃい、家に帰ればおかえり。これがどれだけ俺の心を幸せにするか、分かるまい。
しかし、くるみの状態は良いとは言い難い。 朝に突然、俺の部屋に駆け込んできて、泣きじゃくることもあった。学校から帰ると、目を真っ赤に腫らしていることもあった。
その度、俺は自分の至らなさを痛感するはめになった。
くるみが俺と同じ高校を受験すると言ったとき、思わず胸を撫で下ろした。同じ高校ならばこまめに気を遣ってやれるし、一緒に登校も出来る。
ただ、兄としての分は弁えているつもりだ。恋愛事情には首を突っ込まない。
それと、叔母さんが目を覚ます可能性を考慮して苗字は変えなかったのだが、ヘタレな俺は未だに事実を言えていない。信じたくないが、俺は時折、伝えるということを忘れる。
今の状況に浸り、甘えている証拠だ。身を引き締めるため、冷水に顔を漬けて、両頬を引っ叩く。
状況を見極める、というのは悪いことではない。これほど重大なことならば尚更だ。・・・重大にした責任の8割は俺にあるのだが。


変化といえば、俺自身にも直接、いくつかの変化があった。
俺は生徒会長になってしまった。
平平凡凡と、耳にタコが出来るほど言っている俺が自ら立候補などするはずがなく、立候補者を募るボックスに『推薦・斎藤憲輔』と、まるで脅迫状のように新聞の切り抜きが貼られていた紙が入っていたせいだ。某魔法学校にでも通っている気分である。
そのままなし崩し的に行われた選挙はテレビ効果もあってか、俺がストレートで当選してしまった。受かってしまった以上、やるしかあるまい。
半ば道連れのように佐藤登志男と梅本賢三を引き込み、あとは自分から立候補した人たちが無事当選し、その中にはくるみも含まれていた。
連日のニュースとアイパッチの影響が不安だったが、最近の高校生は割と何でも受け入れる気概があるようで、ごく普通に溶け込めたみたいだ。

406:Tomorrow Never Comes ◆j1vYueMMw6
09/01/28 23:23:55 H3mhe9QE


こうして今、4限目の真っ最中に俺が生徒会室にいるのは、決して俺が学校の改革に奔走しているというわけではない。何度でも言うが、平平凡凡を好む俺は現状に充分満足している。
生徒会室という空間の魅力に囚われたのだ。
管理室で集中管理をしているエアコンは、ここと職員室だけが自由に操作できる。さらに、扉に鍵をかけることも可能で、その鍵の管理は顧問の先生と俺、副会長の内の一人、計三人だけなのだ。
楽園、楽園である。
学校に慣れてきた2年目が色々と勝負、と聞いたことがあるが正にその通り。慣れてきた俺は物事の上手い避け方を学び、サボり癖を身につけてしまった。
特に、月曜日には弱い。今日のように。

さて、そんな楽園の鍵が今、開こうとしている。
先生なら慌てるところだが、俺には確信があった。
「うわ、やっぱりいたよ」顔を引きつらせた彼女がいた。予想は的中だ。
彼女は後ろ手にスライド式の扉を閉めると、手際よく鍵も閉める。 なんとなく、このシチュエーションはエロい。シチュエーションだけなら、だ。
「生徒会長が授業をフケていいのかしらねぇ」軽く腕を組み、椅子に埋まりかけている俺を机越しに見下してくる。
「副会長もマズイだろうよ」
「うぐっ」
「っていうか、途中から抜けてきたのか?」時刻は4限目の中ごろ。眠気という獣が最も牙をむきやすい時間帯だ。
「板書してるスキにね。ほら、アタシって廊下側の一番後ろだから」
「なるほど」出席をとられた上で、サボる。なんと効率のいい。
机に潜りかねないほどだらけた身体を起こすと、胸元に乗せた本を机に置いた。
生徒会室は狭い。普通の教室の半分ほどしかなく、机と棚が大半を埋めている。
入り口へ向けて口を開けたU字の机がある。その両脇に3つずつ椅子が並び、全体を見渡せる一番奥に、窓をバックにして会長用の席があった。
会長席から見て右側の壁は資料用の棚で、左側の壁一面にホワイトボードが広がっている。右側の副会長用の席に、会議でもないというに、遊佐杏(ゆさ あんず)は定位置である俺に一番近い席に座った。
「なんの本?」断りもいれず、遊佐は本を取り上げた。「・・・?題名、書いてないんだけど」
「最後まで読むと分かるらしいんだ」
古本屋に置いてあったこの本は、どこか興味を惹いた。真っ白いカバーに黒い兎が一匹だけ描かれており、他にはバーコードすらない。
挙句、古本屋の店員は値段が分からない、データベースに存在しないと焦っていた。最終的に、じゃあ500円くらいで、と言った店員のアバウトさに驚いた表情をすると、300円です、とまけてくれた。
読んでみると、最初に抱いたのはフワフワした、空を漂う綿毛のような印象だった。占いでよくやられるような、核心に触れない抽象的な表現で溢れていたが、不思議と読み続けてしまう。

407:Tomorrow Never Comes ◆j1vYueMMw6
09/01/28 23:24:49 H3mhe9QE
「ふ~ん・・・」
パラパラと捲っていく遊佐を、なんとなく観察していた。首下まである赤茶色の髪を後ろで上に向かって折り曲げ、大きな止め具で止めている。正面から見ると、後頭部からちょろりと飛び出ているのが見える。
前髪は右側に寄せ、軽く目にかかるぐらいの長さとなっている。巷では、これを『田舎ヘアー』と呼ぶらしい。なかなか可愛らしいと思うのだが。
ただ、ブレザーやカーディガンの代わりにジャージを羽織るのはどうかと思う。やや切れ長の目をしており、鼻筋の通った顔はお世辞を抜きにしても綺麗だ。
「・・・あによ?」性格を除けばだが。
「別に。天は二物を与えないなぁ、と」
「撲殺と絞殺のどっちが好き?」
「死なないほう」
「じゃあ消滅」
「消えるのもいやっス」スタイルもいいのに、本当にもったいない。
遊佐とは中学からの付き合い、らしい。というのも、俺が遊佐を知ったのは高校に入学してからで、遊佐は俺を中学から知っていたと言うからだ。
バレーボールに限らず、大会というのは男子と女子の部を並列して行うことが少なくない。その大会の一つで、ということらしいが俺にはまったく覚えがない。
まぁ、知らない人との会話の糸口を掴むのが苦手な俺としては、向こうからフレンドリーにしてくれるというのはありがたい限りだ。
さすがに、男子・女子バレー部の親睦会で、ここであったが100年目、とベタに言われた時はたじろいだが。
「へぇ~。なるほど、こういう終わりね」何時の間にか、遊佐は一番最後のページに目を通している。
「ばっ、おまっ、言うなよ、絶対言うなよっ」
「むっふっふっ~」
楽しげに、本当に楽しげに笑う遊佐からは、最悪の結果しか想像ができない。

「事件でござる~」
チャイムが鳴った直後、階段の方からやかましい足音と共に、聞きなれた声がしてきた。
「事件、事件でござるぞ~」
「ござるぞ~」
2人分の足音は声と一緒に段段と近づき、案の定、生徒会室の前で止まった。だが、鍵のかかった扉は開かない。
「むむっ、閉じこもろうがそこにいるのは分かっていますぞ」
「いますぞ~」
「開けてくだされ、御大将。逢引の最中と言って下されば邪魔は致しませぬぞ」
「逢引~」
「頼むから黙ってくれ、そして出来れば死んでくれ」嫌気が差しながらも鍵を開け、扉をスライドさせた。
そこに立っているのはやはり、佐藤登志男と梅本賢三だった。
もう一つの変化がこれだ。
俺のあだ名は“大将”から“御大将”へとクラスアップしてしまった。
それはやはりテレビの報道のせいで、お陰で今年のバレー部の新入部員はどいつもこいつも厳つい。まぁ、素直に従ってくれるのはありがたいが。
大将の名付け親である大川俊先輩がこのクラスアップも行ったようで、彼の笑顔はかつてより輝いて見えた。

408:Tomorrow Never Comes ◆j1vYueMMw6
09/01/28 23:25:22 H3mhe9QE
「事件ですぞ、御大将」
「シカトですか」
佐藤はいたっていつも通りだが、梅ちゃんは高揚し、丸顔が赤く染まっている。
「佐藤、梅ちゃんをあんまし引きずりまわすなよ」
「かしこかしこまりましたかしこ~」
「・・・梅ちゃんも嫌なら嫌って言えよ?」
梅ちゃんの顔を覗き込むと、まだ赤みが引いていない。夏手前とはいえ、逆上せるほどの暑さと言うにはまだ早い。
「だい、だいじょーぶだよ」ランナーズハイというのだろうか、心なしか、いつもより声が大きい。
二人は中へ入ると佐藤は副会長側の席の、遊佐とは逆の端に、梅ちゃんは佐藤の反対側に座った。
「で、事件って?」入り口の近くに立ったまま訊く。
「ああ、それなんだがな、まずは今が昼休みで、俺は腹が減ってると言うことを踏まえて聞いて欲しい」そう前置きして、続けた。「だから、先に飯を食う」
「お前っていつ死んでくれるのかね」
予め知っていたら、カレンダーにハートマークを書き込んで指折り数えてしまうだろう。
「アホが揃うと手におえないわ。1年生、早く来て~」歯に衣着せぬ物言いで、遊佐が嘆いた。
「ん、そうか・・・じゃあ」と佐藤が何かを言いかけたところで、 噂をすれば何とやら。
「こんにちはー」
扉が開いて遊佐の期待通り、1年生の役員が来た。元気よく入ってきたのは1年生の書記、窪塚りおだ。それに少し遅れて、同じく1年生で会計の黒埼くるみが入室したことで、本年度の生徒会メンバーが集合した。
手短におさらいすれば、会長が俺、斎藤憲輔。副会長に遊佐杏、佐藤登志男。書記には梅本賢三、窪塚りお、そして会計は黒崎くるみという、俺にとっては仲好しクラブみたいなものになってしまった。
ちなみに席順は、俺の席から見た右側に、手前から遊佐、空き、佐藤。左側はくるみ、りおちゃん、梅ちゃんとなっている。

昼休みに集まって何をするかといえば、別に何もしないのである。俺は居心地が良いから生徒会室に篭る。そうすると自然に2年の3人が寄ってきて、さらにそれにつられるようにして、1年の2人が来るのである。
結果、打ち合わせなどなくても自然と全員が集合するのだ。1人は好きだが、独りが嫌いという我侭な俺からすれば嬉しいことだ。
手探りで出航した船は乗組員に助けられ、何とか潮の流れに乗れている。特徴がないのが特徴である俺は、周りに助けられてばかりで、特に何もやっていない気がするのが申し訳ない。

409:Tomorrow Never Comes ◆j1vYueMMw6
09/01/28 23:26:04 H3mhe9QE


「で、佐藤君。事件って何?」
購買の人気No'1商品であるブルーベリークリームチーズパイを食べながら、遊佐が訊いた。
「ん・・・ああ、そういやそんなのもあったようなかったような」あからさまに言葉を濁したかと思うと、急に笑顔になる。「例えば、ここで俺がそのパイのカロリーを発表したら、事件じゃないか?」
「んぐっ」
どう考えてもヤバイ咽かたをした遊佐に対し、同じ物を食べてるにも関わらず、りおちゃんはどこか余裕すら感じられる。
「私は知ってますよ。カロリー計算してますから」
「りおちゃんのワガママボディの陰なる努力が明らかになったな」
「ちょっ、言わないでよ、カロリー。これ以上食べれなくなっちゃうから」
「カロリー」
楽しげな4人をよそに、くるみは不思議そうな顔で俺を見てきた。
「あれって、そんなに美味しいの?」
「さぁ。俺も食ったことなくてな」遊佐が食べてるのを頻繁に見るが、くれた例がない。「まぁ、すげぇ並んでるからそれに見合うぐらいの味じゃないか?」
「ふーん」
「・・・食いたいのか?」興味なさげに振舞っているつもりだろが、バレバレである。
「いいよ、並ぶの大変だし」
顔を少し赤くしながらそっけない振りをするくるみに、俺が並んでやるよ、と言おうとしたところ、りおちゃんが勢い良く遮った。「私が行ってきますよ、先輩」
「いや、でも悪いよ」勢いに少し、たじろぎながら返事をする。
マネージャーとはいえ、流石にパシる様な真似はしたくない。
「いいんですよ、先輩。自分の分を買うついでですから」
高校に入ってから少し伸びたショートヘアーは、前髪にピンをクロスさせて付けることで邪魔にならないようにしているようだ。
ニコニコと、屈託のない笑顔を浮かべるりおちゃんを見ていると、こっちまで表情が緩んでしまう。

410:Tomorrow Never Comes ◆j1vYueMMw6
09/01/28 23:26:34 H3mhe9QE
ふいに、机の上に置いていた左腕がこぼれる。机の下に目をやれば、くるみの右手が俺のワイシャツの袖を握っていた。
顔を上げてくるみを見ると、驚きで身体が僅かに跳ねてしまった。
顔を俯かせているせいで栗毛が目元にかかり、表情が読めない。だが、俺を睨んでいるということは分かった。ハッキリとした、敵意のようなものを感じ、鳥肌が立つ。
「そだ、くるみちゃん。食べかけだけど、いる?」遊佐が向かいのくるみに、パイを差し出した。
顔を揺すり、髪を掻き分けてから遊佐を見る。右手は俺の袖を握ったまま。
「・・・いいんですか?」
「いいのいいの。あたしはいっつも食べてるし、それに、今日は食べづらくなったからね」今度奢ってもらうから、と言いながら遊佐は俺を見る。
「・・・なんで俺だよ」
平生を保つよう努めるが、背中には変な汗がびっしょりだ。
「ありがとうございます、遊佐先輩」
くるみはようやく袖から手を離し、両手で受け取る。
「あぁ、まどろっこしいなぁ。杏でいいよ」
「はい、杏先輩」
笑顔で返事をして、くるみは3分の1ほどしかないパイをほお張った。「・・・美味しいっ」
「そうでしょう、そうでしょう」
「いやぁ、くるみちゃんの仕草は和むなぁ」
「なぁ~」
「梅本くん、いつまでそれやってるの・・・?」

あれは、誰だ。
くるみはあんな風に感情を剥き出しにしたことは一度もなかった。昔、近所のガキ大将に虐められたときも、くるみはそいつに向かって弱々しく微笑んでいたほどだ。なのに、ましてや俺に対して。
俺が何かしただろうか。くるみが不快に思うようなことをなにかしたか。ない頭を振り絞って考えを巡らす。
和やかな空気の中、俺の体は未だに冷え切っていた。



━あの女だ。
高校に無事入学したことで私は油断していた。
あんなにも近い位置にいるヤツがいるとは、まったく知らなかった。
とはいえ、やるべきことは変わらない。
邪魔なのを1人ずつ消していき、一番最後に私が傍にいればいい。
そのためにも、まず最初のターゲットはあの女。

さて、どうやって殺してやろうか。

411: ◆j1vYueMMw6
09/01/28 23:27:43 H3mhe9QE
とりあえず、投下終了です。
題名の「.txt」はミスです。

前回は自分のマナーのなさでみなさんに迷惑をかけてしまったようです。本当に申し訳ありませんでした。

412:名無しさん@ピンキー
09/01/28 23:48:22 CgWI27eB
GJ

413:名無しさん@ピンキー
09/01/28 23:58:23 1MCfWeDI
>>411
乙乙
これはくるみ怖……いや、可愛くなってきたなw

414:名無しさん@ピンキー
09/01/29 09:21:46 peypaIKI
憲輔「月光蝶であるッ!(子安)」
くるみ「Let's Party!!(中井)」

415:名無しさん@ピンキー
09/01/29 10:32:30 8iM/DB7m
あんまおもしろくない

416:名無しさん@ピンキー
09/01/29 12:42:17 AI5HnE9D
       ( ⌒ ⌒ )                        ( ⌒ ⌒ )
       (、 ,   ,)                        (、 ,   ,)
        || |‘                          || |‘
        _,,....,,_        ここはおにいさんとのゆっくりぷれいすだよ!
    ..,,-''":::::::::::::`''\      ゆっくりできないおねえさんは ゆっくりしないでどっかいってね!
     ヽ::::::::::::::::::::::::::::::\ 
      |::::::;ノ´ ̄\:::::::::::\_,. -‐ァ           __   _____   ______
      |::::ノ   ヽ、ヽr-r'"´  (.__         ,´ _,, '-´ ̄ ̄`-ゝ 、_ イ、
     _,.!イ_  _,.ヘーァ'二ハ二ヽ、へ,_7        'r ´          ヽ、ン、
  _..,,-"::::::rー''7コ-‐'"´    ;  ', `ヽ/`7       ,'==─-      -─==', i
 "-..,,_r-'ァ'"´/  /! ハ  ハ  !  iヾ_ノ       i イ iゝ、イ人レ/_ルヽイ i |
    ,i!イ´ ,' | /__,.!/ V 、!__ハ  ,' ,ゝ       レリイi (ヒ_]     ヒ_ン) | .|、i .|
   ( `!  !/レi' (ヒ_]     ヒ_ン レ'i ノ        !Y! "" ,‐―(   "" 「 !ノ i |
    y'  ノ ! '"    )─-、 "' `、.レ'         L.',.             L」 ノ|.|
  ノノ  ( ,ハ           人!          | ||ヽ、         ,イ| |イ/
 ( ( ,.ヘ,)、 )> ,、 ________, ,.イ  ハ          レ ル` ー---─ ´ルレ レ´


417:名無しさん@ピンキー
09/01/29 12:43:59 AI5HnE9D
ヤンデレ「饅頭の分際であの人に取り入ろうなんて、バカな饅頭」
         _,,....,,_
      -''":::::::::::::`\
      ヽ:::::::::::::::::::::::::::::\
       |::::::;ノ´ ̄\:::::::::::\_,. -‐ァ __   _____   ______
       |::::ノ   ヽ、ヽr-r'"´  (.__  _,, '-´ ̄ ̄`-ゝ 、_ イ、
      _,.!イ_  _,.ヘーァ'二ハ二ヽ、へ,_7´       ..::::::::::::::.、ン、
      ::::::rー''7コ-‐'"´    ;  ', `ヽ/≧-      -─==', i
      r-'ァ'"´/  /! ハ  ハ  ! Σiヾ iゝ、イ人レ/_ルヽイ i |  スパッ
      !イ´ ,' | /__,.!/ V 、!__ハ  ,' i (◯),  、(◯)::::| .|、i .||

`!  !/レi' (◯),  、(◯)Σ'i !て  ,rェェェ、 ".::::「 !ノ i |
,'  ノ   !'"   ,rェェェ、  "' i .レ',.く  |,r-r-|   .::::L」 ノ| |
 (  ,ハ    |,r-r-|   人! :||ヽ、 `ニニ´ .:::::,イ| ||イ| /
,.ヘ,)、  )>,、_`ニニ´_,.イΣハ ル` ー--─ ´ルレ レ´

418:名無しさん@ピンキー
09/01/29 13:12:55 djWZ7B6R
ホラーwww

419:名無しさん@ピンキー
09/01/29 14:40:38 BdCS6Qc3
ワロタwwww

420: ◆UDPETPayJA
09/01/29 16:19:58 KYhmRPCi
投下します。
「天使のような」のほうです。

421:天使のような悪魔たち 第9話 織原 結意 ◆UDPETPayJA
09/01/29 16:21:10 KYhmRPCi
「ふふっ…飛鳥くん、こんばんわ。」

声の主は、やはりというかなんというか……いつものストーカー少女、結意だった。
……後ろ手に何かを隠し持ってるみたいだな、なんだろう? 暗くてよく見えない。

「顔も見たくない、って言ったの忘れたのか?」
「ううん、覚えてるよ。飛鳥くんは優しいから……」
「………は? おれが優しいから、何だってんだ。」
「そう、優しいから、仕方なく言わされたんだよね?」

………相変わらずこいつの言動は支離滅裂つうか……全くもって意味のわからないものばっかりだ。
そういや、今まで結意とまともに会話が成立したことって、一回もなかったような気がするな……。
それにしても、こいつの適応力というか、自分に都合いいように事実を曲解するスキルはもはや尊敬に値するな。

――だが、俺のそんな余裕も長くはもたなかった。

「でももう大丈夫だよ。飛鳥くんを縛り付けてた邪魔者はもういないから。」
「邪魔者? なんだそりゃ………え?」

隠れていた月が雲の谷間から顔を出し、暗い路地に一筋の光が落ちる。月明かりに照らされた結意は……真っ黒な血で汚れていた。
後ろにまわされていた手が前に出される。握られていたのは、同じく血で染まった木刀だった。

「お前……一体何したんだ!? 邪魔者ってなんだ!? ――まさか、明日香に何かしたのか!?」
「あすか……ああ、あの雌猫のこと? 紛らわしい名前だね。安心してよ、そいつならもう殺しちゃったから。」
「……おい、嘘だろ!? 嘘だって言えよ!」
「あははっ……ほんと、飛鳥くんってば優しいんだね。あんな雌猫の心配なんかしちゃって。でも、ダメだよ。飛鳥君には私がいればいいじゃない。
これからはずっと、ずーっと一緒だよ? もう離さないから………ね? うふふふ……あはっ……」

けらけらと不気味な笑みを浮かべながらそう言った結意の目は、暗くよどんでいた。
俺に拒絶されて、ここまで歪んでしまったのだろうか……だが今の俺には、結意の心配なんぞしている暇はなかった。
頭の中にあったのは明日香の安否、それだけ。俺は自宅へと向けて足を動かした。

「おっと……行かせるわけにはいかないぜぇ。」

俺の行く先には、ついさっき別れたばっかりの隼がいた。いつものひょうひょうとした態度で通せん坊をしている。

「………隼? なんでお前がここにいるんだ?」
「言わなかったっけ? 俺は結意ちゃんの協力者だって――ああそうか、亜朱架さんのせいで忘れてるんだったっけ。」
「忘れて……何の話だ!? お前ら、よってたかって何なんだよ! わけわかんねぇよ!」
「大丈夫、すぐに思い出させてやるよ。」

言い終わると隼は、俺の額に手をかざしてきた。奴の手のひらが触れた瞬間、光が瞬いた………様な気がした。
刹那、頭の中がごちゃごちゃと掻き混ぜられる感覚に苛まれ、そのまま俺は意識を手放した。

422:天使のような悪魔たち 第9話 織原 結意 ◆UDPETPayJA
09/01/29 16:22:36 KYhmRPCi
* * * * *


「これでもう大丈夫だよ、結意ちゃん。」

斎木君は、気を失った飛鳥くんを抱えて私にそう言った。

「……本当に? もう飛鳥くんいなくなったりしないんだよね!?」

思い出すだけでも体が震える。大好きなひとに完膚なきまでに拒絶されたときの恐怖で。……本当に、大丈夫なんだよね?

「――ああ…やっぱり、結意ちゃんって俺の姉さんによく似てるよ。」
「…え、斎木君のお姉さん………?」
「そう…そうやって大好きな人に依存しきってるとこなんて、まるっきりそっくりだ。おまけに姿も……写真があれは見せてやりたいくらいだよ。」

依存。斎木君の言ったその一言が気になった。
たしかに私は、飛鳥くんに依存している。それは自分でもよくわかる。じゃあ、斎木君のお姉さんは誰に依存してたのかな? 私はそれを訊いてみた。

「いいぜ、結意ちゃんになら話しても。……同じ過ちを繰り返させないためにも、ね。」
「うん、お願い。」



私たちは、歩き始めた。行く先は斎木君に任せてる。彼曰く「誰も2人の邪魔をできないところ」だとか。
道中、彼の口から昔話を聞かされた。

彼のお姉さん……といっても義理の。斎木君は養子で、そのお義姉さんは、「優衣」って名前なんだって。――私と同じ名前だね。
優衣さんは斎木君に依存してて、斎木君もまた優衣さんを一人の女性として愛していた。
そして、なるべくしてというか……いつしか二人は心身共に結ばれた。それから二人は毎晩のように互いの愛を確かめ合っていた。
優衣さんは斎木君の子供をひどく欲しがっていた。愛の結晶だと言って。それに応えて、お互いに避妊もしなかった。ちなみに当時の優衣さんは高校3年で、斎木君は中学生だとか。
でも、二人が結ばれて半年がたっても子供はできなかった。優衣さんは自分を責めた。子供ができないのは自分の体のせいだと。
斎木君はそんな優衣さんを見て、2人で検査を受けることにした。研究者であり、飛鳥くんのお父様の同僚でもある父親の手引きによって、内密に。
血がつながってはいないとはいえ、姉弟で愛し合っていたことに対しては、世間の目は冷たいからね。

そこで分かったのは、原因は優衣さんではなく…斎木君にあったということ。
斎木君の遺伝子構造は普通の人間とは異なっていて、優衣さんはおろか他のどんな異性とつながったとしても子孫を残せないという事実が知らされた。

3日後、優衣さんは死んだ。そのとき斎木君は初めて飛鳥くんのお姉さま……亜朱架さんと出会った。
彼女はこう言ったらしい。「優衣さんは自分を責めていた。死んで、今度こそ隼くんの子供を産める体になって生まれ変わりたいと言った。だから望むとおりにしてあげた」と。


423:天使のような悪魔たち 第9話 織原 結意 ◆UDPETPayJA
09/01/29 16:23:27 KYhmRPCi
そのとき、斎木君は亜朱架さんを恨んだだろうか……さっきも、私の手伝いをしてくれたし。
実際、斎木君が亜朱架さんの力を相殺してくれなければ私は逆に殺されていたと思う。


「さて…昔話はここまでだ。着いたぜ、結意ちゃん。」

私たちが足を止めたのは、暗い森の中にある大きな建物の前だった。もう何年も使われていないみたい。建物中に走っているつたを見るだけでそれが分かる。


「それと飛鳥ちゃん、寝たふりをしてるのはとっくにバレバレだぜ?」
「まったくもう…飛鳥くんもひとが悪いなぁ。斎木君しんどそうにしてたよ?」
「……悪りいな、まだ体に力が入らないんだ。でも、全部思い出したから。」

飛鳥くんはよろめきながら斎木君の背中から降り、地面に立った。私はとっさに肩を貸してあげる。
飛鳥くんの体温がすぐそばに感じられる。それだけのことなのに私は、嬉しくて……嬉しくて……

「ごめんな結意、今まで忘れてて。俺は今も、お前をちゃんと愛してるから。」
「……ぐす……ばか…ばかぁ……あぁぁぁぁあぁぁぁ……」

もう声にならない。涙が止まらない。やっと、やっと帰ってきてくれた。私の最愛のひと。
泣きじゃくる私を、飛鳥くんはただ黙って抱きしめてくれた。そこには、私が今までずっと待ち望んでいた温かさがあった。


もう絶対離さない。ずっと一緒だよ、飛鳥くん。

424:天使のような悪魔たち 第9話 織原 結意 ◆UDPETPayJA
09/01/29 16:24:13 KYhmRPCi


―エピローグ―



『次のニュースです。二ヶ月前より行方不明になっていた男女二人が、昨日○○市○○区の山中で死亡しているのが発見されました。
警察の発表によりますと、遺体の状態がひどく、所持品と思しきものからようやく身元を割り出すに至ったとのことです。
死亡していた男性は神坂 飛鳥さん、女性は織原 結意さん。神坂 飛鳥さんは二ヶ月前にあった女子中学生殺人事件の被害女性の家族とみなされています。
どちらも私立白曜学園高等部の制服を着用しており、織原 結意さんの制服からはさらに他の人物の血痕が検出されたそうです。
警察の見解では心中事件としており、女子中学生殺人事件との関連性を裏付ける方針で捜査を続ける模様です。

では次のニュースです。
今日未明、人気ロックバンド"フォース"のボーカル、柏木 冬真さんとマネージャーの赤城 羅刹さんが都内のマンションの一室で死亡しているのが発見され………』


俺こと斎木隼は、亜朱架さんとカフェテリアで落ち合っていた。天井に備え付けられたテレビからは、ちょうど今回の件の報道が流れている。
あれからもう二ヶ月になるのか……時が過ぎるのは本当に早いな。クリスマスがついこないだのように思える。今はもう、節分を通り越してチョコレートの季節だというのに。
といっても、13日の金曜日の次の日が某クローン羊の命日、などと言えばきっとそんな熱も冷めちまうだろう。
特に亜朱架さんは二ヶ月前に自分の分身を殺されたばかりだし、単なる皮肉とは聞こえないだろうけど。

「お客様、お待たせいたしました。」

ウェイトレスが注文の品を運んできた。俺は紅茶のホット、亜朱架さんはコーンスープだ。それぞれ口に運び、一息ついたところで亜朱架さんの方から口を開いた。

「これで満足なのかしら、あなたは?」
「ええ…欲を言えば、あなたにも消えていただきたかったんですけどね。」
「無理言わないで。私が死ねない身体だってこと、わかってて言ってるんでしょう? まあ、全身を木刀で殴られ続けたときはさすがに死ぬかと思ったけど。」
「俺もさすがに死んだと思いましたよ、あの時は。どうです? 二人で溶鉱炉にでも飛び込みますか?」
「素敵な提案だけど…辞退させていただくわ。これでも人並みの感情はあるの。きっと、直前で足がすくんでしまうわ。それに、弟と心中なんてあまり美しくないしね。」
「よく言いますよ。あれだけのことしておきながら……悪魔みたいなひとですね、姉さん。」
「悪魔のような…ね。知ってた? 悪魔って、元々は天使が堕天したものが始まりだって。」
「知ってますよ。神話において初の悪魔…堕天使ルシファーは少女漫画の世界では有名ですよ。無駄にビジュアル化されてはいますがね。まさか…かつて自分も"天使"だった、なんて言いたいんですか?」
「ふふ…違うってことは自分でも良く分かっているつもりよ?」
「そうですか……それじゃ、俺はこの辺で。」

財布の中から紅茶代の180円を取り出し、テーブルの上に置く。
亜朱架さんは「それくらい奢るわよ」と言ったが、俺はたとえどんな形でもこの人に借りを作りたくなかったので、やんわりと断って、カフェを後にした。

外は雪が降っていた。今年に入って初めての雪だ。カフェの前に飾られた季節はずれのクリスマスツリーが妙にしっくりくる。

ああ……そういえば今日は2月9日、飛鳥ちゃんの誕生日だった。花でも……いや、飛鳥ちゃんなら新発売のCDを供えた方が喜ぶだろう。
少し歩いた先に、飛鳥ちゃん行きつけのCDショップがあったはず……そこで買っていこう。

なあ、飛鳥ちゃんに結意ちゃん。向こうでも仲良くして…………愚問か。





―True end―

425: ◆UDPETPayJA
09/01/29 16:27:03 KYhmRPCi
終了です。
伏線回収用のルートも考えてます。
もう少しお付き合いください。

426:名無しさん@ピンキー
09/01/29 17:58:30 rD6tMFU0
GJ!!

結意派の自分としては大満足なんだぜ

427:名無しさん@ピンキー
09/01/29 18:07:32 U5gab14U
GJ!
俺も結意派

428:変歴伝 8 ◆AW8HpW0FVA
09/01/29 19:31:14 gdpAMpfC
投稿します。トリップというものはこれでいいのですか?
いいのなら、前の作品のトリップもこれでお願いします。


429:変歴伝 8 ◆AW8HpW0FVA
09/01/29 19:32:48 gdpAMpfC
家宰の業盛いびりは日常的なことである。
業盛にとって、これほど鬱憤の溜まることはない。
いつかは家宰のことを思う存分殴り倒し、溜飲を下げたいと思い描いてきた。
だがそれは、叶わぬ夢であると思い諦めてきた。

しかし、それは思いの外あっけない形で実現した。

清盛の気まぐれで、武術大会を開くことになったのだ。
対象者は館にいる兵士などで、家宰もそれに参加することが分かった。
業盛ももちろん参加した。目指すは優勝ではなく、打倒家宰だった。

大会当日、参加者四十八人は一組十二人に分けられ、勝ち抜き戦をすることになった。
弥太郎はイ組、業盛はロ組、家宰はニ組に分けられた。
外野は既に兵士達で埋まっていた。
だが、聞こえてくるのは誰が優勝するかという賭けの話し声だけだった。
業盛としては家宰と同じ組になりたかったので、この組み合わせは大いに不満だった。
とにかく、業盛はロ組の代表にならない限り、家宰と戦うことが出来なくなった。
業盛は一回戦、二回戦、三回戦と相手を一撃で沈め、勝ち進んだ。
ふと、イ組の試合を見てみると、弥太郎が外野で応援していた。
どうやら既に敗退していたらしい。家宰の方も順調に勝ち進み、今四回戦の相手と対戦中である。
俄然やる気が出てきた業盛は、四回戦、五回戦、六回戦と快勝し、ロ組の代表になった。
家宰の方もニ組の代表になった様で、後は決勝戦で戦うのみとなった。
外野では賭けが未だに続いているらしく、家宰が優勝候補であった。
「弥太、お前はどっちに賭けるんだ?」
外野で応援している弥太郎に、観客の一人が話し掛けてきた。
「俺か?俺は三郎に賭けるよ」
「三郎?確かにあいつも強いが、俺は家宰の野郎が勝つと思うな。
あいつ、口は悪いが、腕は本物だしな」
「さぁ…それはどうかな?世の中、なにが起こるか分からないし…」
弥太郎はしたり顔で答えた。兵士は怪訝な眼差しを弥太郎に向けていた。


430:変歴伝 8 ◆AW8HpW0FVA
09/01/29 19:33:30 gdpAMpfC
一回戦、相手はイ組の代表だった。しかし、業盛の敵ではない。
相手の振り下ろしてきた木刀を躱し、相手の首筋に手刀を打ち込み、昏倒させ、勝利した。
そして決勝戦。
相手はハ組の代表に圧勝した家宰。外野の熱気も最高潮になっていた。
業盛の握る木刀に力が篭もる。
「なんだ、俺の最後の相手がお前だとわな」
家宰は心底馬鹿にした様な目付きと口振りで言った。
だが、業盛は俯いて黙っている。
「なんだ?怖くて声も出ないのか?怖かったら降参して、
さっさと母親のおっぱいでも吸ってるんだな」
家宰の卑下た笑い声がこだました。
「まぁ、仮にお前が降参しても、俺は認めないけどな。
せっかく、この様な公式の場でお前を滅多打ちに出来るのだからな。
せめて、少しぐらいは楽しませてくれよ」
家宰の挑発に業盛は終始無言だった。家宰も挑発を止め、木刀を構えた。

そして…試合開始の太鼓が鳴り響いた。


431:変歴伝 8 ◆AW8HpW0FVA
09/01/29 19:34:25 gdpAMpfC
家宰は先手必勝とばかりに業盛に袈裟切りを仕掛けた。
業盛はそれをしゃがんで躱し、相手の勢いそのままに、鳩尾に突きを打ち込んだ。
家宰の口から空気が漏れる音が聞こえ、持っていた木刀は手から滑り落ちた。
更に業盛は、家宰の利き手を掴み、背負い投げを仕掛けた。
家宰は抵抗することも出来ず、地面に叩き付けられた。
再び、家宰の口から空気が漏れる音がした。
この時点で試合終了だが、業盛にしてはこれでは面白くない。
業盛はおもむろに握っていた家宰の腕をへし折った。
ただでさえ息も整ってないのに、更に追い討ちをかける様に腕をへし折られたのだ。
家宰は悲鳴を上げることも出来ずに、のた打ち回った。
業盛はそんな家宰を見下す様に見ていた。
こんなカスに馬鹿にされ続けていたのかと思うと、馬鹿にされ続けた自分が哀れに思えた。
業盛は家宰に木刀を向けた。
家宰は涙ぐんだ目で、媚びる様に業盛を見つめた。
まるで、今までの無礼の許しを請うかの様な必死の眼差しだ。
「家宰殿…駄目ですよ…」
業盛はニッコリと微笑み掛け、
「そんな目をしたって…誰も助けてくれませんよ。
せめて最後くらい、武士らしく…散ってくださいな」
残酷な最終宣告の後、木刀は家宰の頭上に振り下ろされた。


432:変歴伝 8 ◆AW8HpW0FVA
09/01/29 19:35:28 gdpAMpfC
「三郎、お前やりすぎだ」
武術大会が終わり、館から出た所を、待っていた弥太郎に言われた。
「そうか、あれでも手加減したんだぜ」
「家宰を再起不能にして手加減って…」
「死ななかっただけマシだろ。それに、今はあの家宰に感謝してるんだぜ。
あんなお遊びで、清盛様から大金が貰えたんだからな」
業盛が袋から金の小粒を取り出した。
「これだけあれば、しばらくは果物が好きなだけ食える。
そういえば、この時期の旬は蜜柑だったな。さっそく買ってこよう」
業盛は嬉々として走り出した。
「まぁ…こっちも儲けさせてもらったから、人のこと言えないんだけどな…」
業盛がいなくなって、弥太郎はぼそりと呟いた。


433:変歴伝 8 ◆AW8HpW0FVA
09/01/29 19:36:28 gdpAMpfC
投稿終了です。
主人公が病んでる様に見えますが、
それは気のせいです。


434:名無しさん@ピンキー
09/01/29 20:15:35 kXv1Gr4m
乙かれさん。
トリップはそれでおk、おk。

435:名無しさん@ピンキー
09/01/29 21:45:38 GjWkFT62
何だこの投下ラッシュは…
みんな乙

436:名無しさん@ピンキー
09/01/29 21:58:36 rD6tMFU0
>>433


>>435
しばらく静かだったのに急に三人きたなぁ
また投下の間隔がどうとかの話にならなければ良いけど

437:名無しさん@ピンキー
09/01/29 22:01:26 +sMk/gkf
誰か死なな気がすまんのかね

438:名無しさん@ピンキー
09/01/29 23:52:10 eENXXzr+
死なば諸ともですよ

439:名無しさん@ピンキー
09/01/30 02:48:08 WtKxeZys
>>425
GJ
結意ルートに進んでもBADENDで第3のルートが存在するような予感はしてた
願わくば全員幸せに…とまではいかなくとも不幸にならない結末であらん事を

>>433
こっちもGJ
追跡者が現れるのかそれとも新キャラが現れるのか楽しみだ

440: ◆.DrVLAlxBI
09/01/30 09:12:46 vbnov0E+
投下します

441:ワイヤード 第十八話  ◆.DrVLAlxBI
09/01/30 09:13:29 vbnov0E+
第十八話『遥か久遠の彼方に・後編』

「ちとせ……」
膝をつき、がくがくと振るえる千歳。久遠が不安げにその名を呼ぶが、答えない。
轟三郎は得意げに千歳を見下す。
「足が動かねえだろ。小僧、それがお前の覚悟の軽さだぜ」
「……違う」
うつむき、呟く千歳。
「ああ? なんだって?」
「俺の覚悟なんて、確かに所詮こんなもんかもしれねえ。でもな……。違う……! 俺は……」
「久遠のためにやった。ってか? だからよ、小僧。そんなもん理由になりゃしねえんだ。お前がやりたいからやった。ただそれだけだろ」
「そうだ。俺は俺の考えを押し通しただけだ……。だけどな……!」
床に手をつき、ゆっくりと身体を起こし始める千歳。
「やめときな、小僧。これ以上動くと二度と足がうごかねえ身体になるぜ」
「それでも……!」
轟三郎の忠告を無視して、千歳は動かない足を鞭打ち、無理矢理立ち上がった。
「ほー。やるもんだな。小僧が」
「それでも……許せないんだよ! 親が子供を見捨てるっていうのはな!!」
「そんなお前の正義が、なんの力になるってんだ」
「なににもなりゃしない。だけどな……。それがあるから、俺は今、立ってる」
「……なら、さっさと沈めや」
ごっ!
轟三郎の拳が千歳の腹部にめり込む。
そのスピードと重さに、千歳の胃液が逆流し、口から吐き出された。
その中には、赤い色も混じっている。
「弱いやつが肩肘張って、久遠を守るナイトにでもなったつもりかよ」
今の一撃で内臓を傷つけた千歳。当然、倒れるべき場面だった。
だが。
「……だとしても」
千歳は、立っていた。
「くだらねー。くだらねえよ、小僧。なんでそんなに頑張る? 俺が気に入らないからか? 久遠に惚れたからか? それとも……お前はお前が守らなきゃならねえ確かな『何か』があるって、本気で思ってんのか?」
「その、どれでもない……それと、どれでもある」
「……」
「俺は……別に誰かを救える人間じゃねえ。誰かに尊敬されたりもしない。だけど……俺は、それでも……」
千歳はそれ以上言わなかった。それ以上の言葉がなかったのか。
それとも、あったのに言えなかったのか。それは定かではない。
だが、轟三郎もそれ以上は聞かなかった。


442:ワイヤード 第十八話  ◆.DrVLAlxBI
09/01/30 09:13:59 vbnov0E+
「じゃあ、そのまま死んでいけよ、小僧」
轟三郎の拳が迫る。凶悪なまでの闘気が込められた一撃。
当たれば、千歳の身体など一瞬で粉みじんになる。
千歳は防御姿勢をとることもままならないまま、その攻撃を、ただ見ていることしかできなかった。
(―俺は……やっぱり……)
そうして、千歳の短く、幸福ではなかった人生は閉じようとしていた―。
―その瞬間、千歳の目に、信じられないものが映った。
千歳の身体を破壊しようとしていた拳が、『吹っ飛んだ』。
腕が。
腕が、肘から切り取られ、回転しながら宙を舞っていた。
目を疑う。
だが、目を擦るまでも無い。武道家の千歳には、これが現実であることがわかった。
「なっ……がっ……!!」
無い腕を押さえ、うずくまる轟三郎。
「な……なんで……」
それを問いかけ終わる前に、千歳の目には答えが映りこんでいた。
久遠が、いつのまにか轟三郎と千歳の間に割り込んでいたのである。
その手には、血塗られた刀が握られている。
―久遠が、轟三郎の腕を切ったのだ。
「ぱぱ……」
久遠から発せられた声に、千歳の背中が粟立つ。
父を呼ぶその声の、あまりに冷徹で、高圧的で、感情がこめられていないことか。
千歳は、久遠の顔をそっと覗き込む。
無。
傷付いた父を見下ろす久遠の瞳には、何の感情も浮かんではいなかった。
口元だけが、ゾッとする程に魅力的な笑みを浮かべていた。
「ぱぱ、ちとせきずつけた」
事実を淡々と述べる久遠。裁判官が判決を述べるかのように、なんの感慨もない、事務的な、抑揚の無い声。
「だから、しんでよ」
そう言ったと同時に、畳と、その先の壁が真っ二つに分かれた。
久遠が刀を振り上げたことも、振り下ろしたことも、千歳には全く近くできなかった。
驚異的な速度の斬撃。
轟三郎は反応したらしく、腕を押さえながらも受け身をとり、ギリギリのところでそれを避けていた。
「親分!」
さっき千歳が吹き飛ばした、轟三郎の部下達と、さらに警備担当の者達が一気に押し寄せてきて、千歳と久遠を取り囲む。
数人の男が刀を振り上げ、久遠に振り下ろした。
「じゃま」
本当に邪魔臭そうに久遠はつぶやく―と、同時に久遠の姿が消えた。
千歳が驚くまもなく、久遠は男達の後ろに現れていて、男達の刀と足が切られていた。
「チャカ持ってこい!」
ヤクザの中の誰かが避けぶ。
すばやくそれに答えた者が拳銃を取り出し、久遠に向けて発射していた。
久遠は発射後にそれを認識した。にも関わらず、恐るべき速度で刀を銃弾の進行方向と入射角度にあわせて向きなおし、銃弾を弾いた。
そのまま銃を持つ男に瞬間移動のごときスピードで接近し、銃ごとその腕を切り裂いた。
(……うそだろ)
千歳は腰が抜けて動けなかった。
ぽやっとしてふわふわして、砂糖菓子みたいだった久遠が。こんな。
「や、やめろ、久遠!」
ぴたり。
千歳が思わず声を張り上げると、久遠の動きが嘘のようにとまった。
「……ちとせ」
「久遠、お前は……。親を傷つけたいのか?」
久遠はふるふると首を横にふった。
「ちがうよ。ぜんぜんちがうよ。ちとせがすき。ちとせがすきなだけ」
「なら、もうやめてくれ……。俺は、お前に親を殺させるためにここに来たんじゃない」
「……うん」
あれだけ強烈だった気迫も消え、久遠は最初と同じ、おどおどした少女に戻っていた。

 ♪ ♪ ♪


443:ワイヤード 第十八話  ◆.DrVLAlxBI
09/01/30 09:14:30 vbnov0E+
騒動は終わり、九音寺轟三郎の部屋には、轟三郎、千歳、そして千歳にぴったりとくっついて離れない久遠が残された。
久遠は傷つけた親を前に萎縮しているのか、振るえたまま動かない。さっきの剣幕はどこへいったのか。
「……おっさん。病院いかなくていいのかよ」
「なんだ、心配してんのかよ。小僧」
「あ、当たり前だ!」
「変わった奴だな、お前さんはよぉ」
轟三郎は肘から先を失った腕を、平気そうにぷらぷらとふる。
「止血はした。お抱えの医者も呼んだ。こんな痛みでは俺はどうもしやしねえ。それで充分だろうがよ」
「で、でも。この業界は腕っ節が命なんだろ!? 俺のせいで、腕が……」
「うぬぼれんなよ、小僧が。さっきから言ってんだろうが。俺の腕がどうなるかは、俺が決める。俺の腕一本をささげる価値が、お前さんにあったってことよ」
「俺に……?」
「お前さん、名前は?」
「千歳……。鷹野、千歳」
「千歳。おめえはもう小僧じゃねえな。立派な男だぜ」
轟三郎は懐からキセルを取り出し、吹かせ始めた。
「女のために、殴られても立ち上がる。俺の組のやつにも、そこまで気概のあるやつはいねえ」
「……勝ったのは久遠だ。俺じゃない」
「いや、お前だよ、千歳」
轟三郎は、優しい目で千歳を見つめる。
「この『目』はよ」
そして、潰れているほうの目を指差した。
「こいつは、久遠にやった」
「どういうことだ……?」
「久遠はな。『鬼』だ」
「鬼……?」
「時々、さっきみてえにあばれやがんのさ。そのたびに、久遠は何人も怪我人を出してやがる。―死んだ奴もいた」
「死んだ……」
「まあ、今日ほど強くなったのは今日を含めて二回目だ。いつもは俺が止めてる。前は、俺の目がぶっ潰れてやっと取り押さえた」
千歳は目を伏せる。
久遠は『鬼』。つまり、計り知れない凶暴性と戦闘力を秘めた存在ということだろう。
だからだ。だから、九音寺家は久遠を山に閉じ込めた。被害者をださないように。
―間違ってたのは、俺だ。
「久遠は山が好きでよ。特に、あの御神木が好きだ。あれにふれてりゃ、あばれねえ。だから、あそこに閉じ込めてるってわけだ」
「……おっさん」
千歳は頭を畳につけた。
「なんだ? そりゃ」
「俺が間違ってた。俺が勝手に思い込んで……。勝手に、久遠のしあわせを作ろうとした。……親のあんたが、それを一番望んでいるはずなのに」
「……バカが。なんで謝る? 千歳、お前の行動を評価すんのは、俺じゃねえ。久遠だ」
「久遠……」
千歳は久遠に向き直る。そして、また頭を下げた。
「久遠……。俺が悪かった。俺が……」
「ちとせ。くおん、ちとせのおかげでここにいる。ちとせ、くおんしんぱいしてくれた。だから、すき」
久遠が千歳の頭をそっと撫でた。
「ちとせ、わるくないよ」
そう言って、久遠は父に向き直り、千歳と同じく、手をついて頭を下げた。
「ごめんなさい、ぱぱ。ちとせ、ゆるして!」
轟三郎は、一瞬微笑んで、照れたように口をとんがらせた。
「別に、怒っちゃいねえよ。ただ……。ひとつだけ、お前らに言っておくことがある」
「……?」
「ここまで見せ付けてくれたんだ。もちろん、千歳、お前は男らしく責任とって、久遠を嫁にすんだよなぁ?」
「なっ!?」
「じゃねえと俺の腕の分、ゆるさねえぞこらぁ!」
「え、ええ!?」
「くおんもさんせい。くおん、ちとせのおよめさんになる!」

 ♪ ♪ ♪


444:ワイヤード 第十八話  ◆.DrVLAlxBI
09/01/30 09:15:01 vbnov0E+
そんなこんなで、千歳と九音寺家の付き合いは始まった。
結局山で暮らすのが一番いいとされた久遠は、山小屋に逆戻りとなった。
ただ、九音寺組は千歳の意見を聞き入れ、ある程度は久遠のもとに人をやって、久遠が淋しくないようにすることとなった。
轟三郎も、以前よりもずっと多く久遠のもとを訪れるようになったという。
また、ろくな教育を受けていなかった久遠は、千歳が教育することとなった。これは九音寺組の受けた被害の賠償だとのことだ。
久遠はぽけっとしているが、知能は低くは無い。覚えも早いほうで、学力自体は年齢相応になった。
ただ、話し方はもともとのぽやぽやしたものが引き継がれている。
さて、久遠が『鬼』だとされる根拠について、補足しなければなるまい。
数百年前のことである。
九音寺家党首だった久遠聖人は、若くして出家をし、山奥の庵へこもった。
人柄もよく、仏道の知識も多く、もしや悟りに近いのではないかと囁かれ、一部の伝承では晩年悟りを開いたとされる彼だが、九音寺家に伝わる、ある伝説では、全く違う人生を辿っている。
久遠聖人は出家をしたが、その目的は悟りではなく、妖魔たちに苦しめられる人々の救済だったという説。
その説話では、久遠聖人の住む山には『鬼』が住んでおり、時折村に下りてきて人々を苦しめたという。
これは農作物を食い荒らす虫の大群を意味しているのだろうと言われているが、事実は不明だ。
とにかく、久遠聖人は、その生涯を鬼との闘いに費やした。そう語られている。
その末路には、救いが無い。
久遠聖人は鬼を自らの体のうちに封じ込めることに成功するが、鬼の意思は死なず、久遠聖人の子孫代々に乗り移っていったという。
僧侶である久遠聖人がなぜ子を残したのかは全くわからないが、悟りが目的ではなかったという説である、無い話ではない。
轟三郎が言うには、実際に九音寺家に生まれる子の中には一人だけ必ず他を遥かに超越した力を持つものが現れるという。
それが、轟三郎であり、久遠なのだった。
久遠は特にその傾向が顕著で、幼少時から卓越した力を持つがその代わり感情が爆発した時の凶暴性も半端ではないのだ。
それが、久遠が『鬼』と呼ばれる所以である。

ただ、千歳はその説を疑わしいと思っている。
久遠が何らかの爆弾を抱えているとはいっても、久遠の屈託のない笑顔をみていると、そんな話も笑い話に思えるのだった。
久遠は、血生ぐさい世界から、本人の努力次第で切り離せるのではないか。
それを信じて、千歳は久遠を育てていくのだった。

だが、それは久遠が千歳に依存していくことを促進しているだけだという事実には、まだ、だれも気付いていない。

445:ワイヤード 第十九話  ◆.DrVLAlxBI
09/01/30 09:15:36 vbnov0E+
第十九話『イロリ日記』

高崎は、あるアパートの『西又』という表札が掲げられた一室の前にいた。
(鷹野氏の学友に、一人不可解な経歴を持つものがいた)
それが、『西又イロリ』。先ほど高崎は主人のもとにゲームのデータを渡しに行ったが、その際に主人と一緒にいたのも、その人物だった。
本来カナメに指示されたのは鷹野千歳のデータだったが、高崎は長年裏社会で働いてきた中で養った感覚に、何かひっかかるものを感じていた。
この西又イロリという人物のデータはほとんどが闇につつまれている。
先ほどにも述べたように主人に指示された範囲では不必要な人物でもあるのだが、高崎にとってはもはやそうではなかった。
―あの女には、何らかの邪悪がある。
高崎が初めて西又イロリの現物をみたとき抱いた感想である。
純粋無垢な笑顔と振る舞いにかき消されているが、その本質は、なにより邪悪な、凶悪な狂気に包まれている。
高崎は当初自身の疑心暗鬼ではないかともちろん疑ったが、その疑念は完全には消すことが出来ない。
故に、こうして未だ調査を続けている。
無論、この行動には全く意味が無いかもしれないし、カナメの利益になるようなことではないかもしれない。
故に、この調査はあくまで高崎個人の、独断によるものだと、そういう建て前にしている。
さて、高崎はこのアパートをよく観察したが、高崎の感覚にはセンサーや、見えない範囲のカメラは感じられない。
あまり警戒しなくてもよさそうだった。
なにより、鍵が旧式であけやすい。
ちょいちょいと、数秒作業すると、イロリの部屋の鍵は簡単に開いた。
「失礼」
盗聴器、カメラ、赤外線センサーの類いの波長は、高崎の感覚にも、高崎の持つミカミエレクトロニクス社製の高感度センサーにも引っ掛かっていない。
あまり用心はされていない。
西又イロリは一人暮らしで、今はカナメと遊んでいるということは知っている。
誰かが中にいることも無いだろう。
中に踏み込む。
暗い部屋。今まで調査してわかっていたが、カーテンは常に閉められている。
独特の湿っぽい雰囲気がただよっている。
「ふむ」
狭い部屋であり、中が人目で見渡せる……わけでもない。暗すぎて見えない。
高崎はペンライトでスイッチを探し当て、オンにした。
「っ……!? これは……!?」
思わず、高崎は声をあげて飛びのいた。
異様な雰囲気だとは思ったが、蓋を開けてみると、高崎の予想を遥かに越えた混沌がそこにあった。
イロリの部屋の一面に、写真が張ってあったのだ。
それだけなら、ジャーナリスト的な意味合いがあると、無理に納得できるかもしれない。
しかし、その写真の内容は、もはやどうあがいてもイロリの異常性を弁護できないものにしていた。
「これは……鷹野氏か」
その全てに、鷹野千歳の姿が映っていた。
写真はほとんど幼少期のころのもの。高崎は千歳のデータを隅々まで調べたため、幼少期でも判別することが出来た。
写真は、壁だけではなく天井、床、中に置かれているテーブルの上、裏、イスにまで貼り付けられている。
ご丁寧に透明なシートで保護までされて、だ。
よく見ると、ほぼ全ての写真に小さな文字が書き込まれている。
高崎が目を近づけてみる。
"ちーちゃんかわいいよちーちゃんかわいいよちーちゃんかわいいよちーちゃんかわいいよ……"
延々と繰り返されている。めくり上げて裏を見ると、裏にもびっしりと書き込まれていた。
他の写真を見る。
幼少時のイロリと千歳のツーショット。
"お似合いの二人! 結婚確定だね!"
裏を見ると、イロリの可愛らしい丸文字で、千歳とイロリのどこがどう相性がいいのか、ご丁寧に説明がなされていた。
性格や容姿はともかく、性的なことまで書き込まれている。性的な相性など、交渉をもったことがないのにどうやって知るのだろうか。
―恐らくは妄想だろう。
高崎はそう結論づけた。そしてそれは間違いではない。


446:ワイヤード 第十九話  ◆.DrVLAlxBI
09/01/30 09:16:21 vbnov0E+
他の写真を見る。
珍しく、最近の写真。苦笑いの千歳と、千歳に無理矢理だきついて満面の笑みのイロリ。
"帰ってきた記念の一枚!"
裏を見ると、京都から帰ってきて千歳を見たときの感想のようなものが書かれていた。
ちーちゃんが非常にかっこよくなっただの、やっぱり優しいだの、天才だのフルーツポンチだの、実に甘ったるい内容。
と、そこに気になる文言を見つけた。
"大人になったちーちゃんの良さは語り尽くせない! 続きは日記に!"
「日記……か」
ここで写真を見るのをやめる。高崎は小型のカメラを取り出し、かしゃかしゃと部屋の全体像と、何枚かの写真の書き込みを写した。
そして、『日記』とやらを探し始める。
日記はすぐに見つかった。端の本棚にびっしりと詰め込んであったからだ。
書き込み癖のあるらしいイロリらしく、『日記』は数十冊にも及んでいた。
左斜め上、おそらく最初の日記をひっぱりだす。
『いろりにっき・いち』とかわいらしい文字でかかれたそのノート。高崎は一ページ目を開いた。
"すてきなおとこのこにあったよ。だから、いろりはにっきをつけて、そのかんどうをのこします"
一ページ目は大きくそれだけ書いて終わっていた。
ページをめくる。
"たかのちとせ。としはあたしとおなじ。かおはかっこいい。こえもかっこいい。なにもかもかっこいい。せいかくはかわいい。やさしい。にっくねーむはちーちゃん。いっかげつまえにあった。さいしょは、だいきらいだった"
大嫌い。
イロリらしからぬ表現に、一瞬疑問を感じる高崎。だが、次の瞬間にそれは消え去った。
"あたしは、いっかげつまえのあたしをけしたい。ちーちゃんをすきじゃないあたしなんて、さいてー。ごみ。ちーちゃんをすこしでもきらいだったあたしは、ほんとうにはずかしい"
やはり。高崎はある意味納得した。
"いまは、だいすき。あいしてる。けっこんしたい。する。けっこんする。あたしとちーちゃんは、ぜったいけっこんする。まだやくそくはしてないけど、いつか、こんやくしちゃう!"
ほほえましいじゃないか。子供なのだから当たり前だ。高崎は自分にツッコミを入れた。
パラパラとページをめくる。
"ちーちゃんは、あたしをいっちゃんとよんでくれる。いっちゃん。ちーちゃんだけだよ。そうよんでいいのはね"
"ちーちゃんとあそんだ。ちーちゃんはあたしをいろんなところにつれてってくれる。たのしい! どこでもたのしい! ちーちゃんといっしょなら、どこでもたのしいよ! ちーちゃんも、そうでしょ!"
"あたしがわるいことをしちゃった。ちーちゃんはあたしをおこった。あたしはないてあやまった。ちーちゃんはゆるしてくれた。ちーちゃんのかお、かなしそうだった。あたしはちーちゃんにそんなかお、してほしくない"
"あたしはわるいこ。だから、かみそりでてくびをきってみた。おいしゃさんにおこられた。おとうさんとおかあさんにおこられた。あとでちーちゃんにもおこられた"
"ちーちゃんはあたしがきずつくのはいやだっていった。ちーちゃんも、あたしがすきなんだね! じゃあ、しにたくない!"
"ちーちゃんがかわいいいちにちだった"
"ちーちゃんはおはしのもちかたがまちがってる。こんどただしいもちかたをおしえてあげよう"
"ちーちゃんにおはしのもちかたをおしえてあげた。ちーちゃんのてにふれると、なんだかむねがどきどきした。しばらくてをあらわなかったら、おかあさんにおこられた"
などなど。始終この調子だった。
千歳を好きすぎる感はあるが、危険というほどでもない。イロリの人格の本質に迫るには、不十分らしい。


447:ワイヤード 第十九話  ◆.DrVLAlxBI
09/01/30 09:17:07 vbnov0E+
『イロリにっき・5』まで、飛ばしてみる。この時期からカタカナと数字を使うようになっている。
"ちーちゃんはかくとうぎをはじめた。どうじょうにかようらしい。あたしとあそぶじかんがすこしへった。うらめしい"
"ちーちゃんのうで、ちょっとたくましくなった。さわりたい"
"ちーちゃんのからだをなめまわしたい"
"ちーちゃんがおんなのこをつれていたのをみた。だれ?"
"しね"
"しねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしね……"
それ以降のページは、全て涙の跡と、『しね』の文字で埋まっている。ご丁寧に赤鉛筆でだ。
『イロリにっき・6』に移行する。
"そうてんいん りかこ。にっくきどろぼうねこのなまえ。あたしはこのこをころしたい。でも、ころすのはわるいこと。わるいことをしたらちーちゃんがかなしむ"
"ちーちゃんは、りかこをあたしにしょうかいした。ちーちゃんのどうじょうのおししょうさんのむすめらしい。くやしいけどかわいい。くさってしまえ"
"ちーちゃんはりかこを、りっちゃんとよんだ。ちーちゃんにしたがってあたしもりっちゃんとよぶ。りっちゃんはうれしそうなかおをした。ともだちになったとおもってるのか。こういうのをあさはかっていうらしい"
"りっちゃんはかわいい。くやしい。ちーちゃんのめは、りっちゃんをむいてる"
"りっちゃんをころす"
"りっちゃんとおりょうりをした。てがすべったふりをしてりっちゃんにほうちょうをさそうとした。そしたら、りっちゃんはすででほうちょうをくだいた。くやしい! くやしい! くやしい!"
"りっちゃんはバケモノだ。ころせない"
"ちーちゃんは、りっちゃんのこと、すきなのかな……"
"こわいよ"
"ちーちゃんがりっちゃんのことすきになったらどうしよう"
その後は、イロリが蒼天院理科子に対して抱いた嫉妬と不安と、理科子を殺そうとして全て失敗したことが長々と書かれていた。
さらに飛ばし、『イロリにっき・9』。
"もうなにもこわくない"
"ちーちゃんとキスしちゃった。ちーちゃんがねてるときに、こっそりくちびるをくっつけた"
"ながいことそうしてたら、たりなくなってきて、ちーちゃんのくちびるをしたでなめた"
"それでもまんぞくできないから、ちーちゃんのくちびるをむりやりあけて、したをいれた"
"ちーちゃんのくちのなかでしたをうごかした。くちのなかはあったかくて、あまくて、すごかった。とにかくすごかった"
"ちーちゃんのしたをぺろぺろして、ちーちゃんのくちびるをすった"
"ちーちゃんはおいしい"
"やめらんない"
"それから、くせになった。ちーちゃんはねるとなかなかおきない。ちーちゃんがおひるねすると、いつもあたしはちーちゃんとキスする"
"あたしはりっちゃんよりもちーちゃんをしってる"
"りっちゃんにかった!"
はいはい、良かった良かったと、高崎は次の日記を手にとる。『イロリにっき・13』。
"ちーちゃんとおわかれ……"
その日記は、それだけぽつんと書かれていて、あとは涙でぐしゃぐしゃになっているだけだった。
次の日記からは、散文的だった今までと変わり、日付けがかかれている。千歳と幼稚園の終わりごろに分かれてから、数年後のようだ。



448:ワイヤード 第十九話  ◆.DrVLAlxBI
09/01/30 09:17:54 vbnov0E+
『イロリ日記・14』。この頃から漢字が徐々に使われ始めている。
"ひさしぶりに日記を書く。私は京都大学のけんきゅうじょで、変なおくすりのじっけんだいになっている。とうごうきょうだんっていうグループと協力しているらしい"
"お父さんとお母さんは、それでいっぱいおかねをもらえるらしい。そんな理由で、あたしとちーちゃんを別れさせた。人間のクズ"
"でも、かまわない。お別れの前に、けっこんするって約束した。ちーちゃんは約束をまもるひとだから!"
"ちーちゃんのことを思い出すと、胸がドキドキする"
"ちーちゃんに会いたい"
比較的まともな人間になっている……のか? それほど過激ではない内容で、その日記は終わった。
が、次の高崎は次の日記を見て、思わず吹き出しそうになった。完全に油断していた。
"ちーちゃんを想うと、おまたがむずむずする"
"ちーちゃんのくちびるにふれたことを思い出すと、おまたがむずむずする"
"ちーちゃんの手にふれた私の手を見ていると、おまたがむずむずする"
"あまりにもむずむずするから、手でさわってみた。なんだかあつくて、ビクッとした。でも、きもちいい。私、変になっちゃったかも"
"ちーちゃんのことを思い出すたびに、おまたが変になる。しめってきて、ぱんつがぬれちゃう"
"あまりにもむずむずするから、机のかどにこすりつけてみた。そしたら、すっごくきもちよかった!"
"もしかしたら、私は変なのかもしれないと思うけど、きもちよくてやめられない"
"ちーちゃんのくびすじがたまらない"
"ちーちゃんの指はきれい"
"ちーちゃんの足にさわりたい"
"ちーちゃんの……おまたにも、ふれてあげたい。こんなにきもちいいことがあるんだから、してあげたい"
その後、延々とイロリのオナニーライフが綴られていた。
それ以降の何冊かも、似たような内容だったので、高崎は再び飛ばした。
『イロリ日記・23』
"一応、学校には行かされる。けど、友達はいない。いらない"
"女の子は好き。かわいい。けど、将来ちーちゃんをたぶらかす可能性をみんな持ってると思うと、なんかやだ"
"男の子はどうでもいい。ちーちゃん以外の男の子はみんなバカ。ちーちゃんみたいな紳士はいない"
"今日、男の子に告白された。「好きな人がいるから、ごめん」と言ったら、次の日、教室中で、私の好きな人が誰なのかをみんなが勝手に予想していた。はっきり言うけど、この学校にはいないよ"
"学校の中で一番かっこいいとか言われている男の子が、私に告白してきた。自信たっぷりでうざったらしい。「好きな人がいるから」と断ったら、「僕のどこがいけないの?」と訊いてきた。「全部」と答えた"
"ちーちゃんの好きなところはどこかって訊かれると、「全部」って答えると思う。詳しく答えてたら、一生かかっても終わらない"
"いつのまにか、私は学校で一番かわいい子ってことになっていたらしい。そんなあだ名いらないから、ちーちゃんが欲しい"
"私がいくらかわいくても、ちーちゃんに振り向いてもらわないと意味無い"
"ちーちゃんが気に入る見た目じゃなかったら、私はただのブスだ"
"そもそも、この学校の子は、誰も人の内面に興味が無い。私が勉強ができることとか、私が運動ができることとか、私の見た目が美しい部類だとか、そういうことにしか目がいかない。子供っぽすぎる"
"学校で性教育を受けた。私は、子供の作り方と、私が今までちーちゃんを思ってしていたことが、その欲求を自分で満たすための行為だと知った"
"ちーちゃんの子供が欲しい"
"ちーちゃんと、子作りしたい"
"ちーちゃんとえっちなことをしたい"
その後には、千歳との初夜の妄想が100ページ近くにも渡って書かれていた。
それからの数冊は、何度も繰り返される初夜妄想によって消費された。
"もちろん、えっちな意味だけでちーちゃんが好きなわけじゃない。ちーちゃんの心を好きになったのが、始まり"
最後にそうかかれ、初夜妄想ラッシュは沈静化した。




次ページ
最新レス表示
レスジャンプ
類似スレ一覧
スレッドの検索
話題のニュース
おまかせリスト
オプション
しおりを挟む
スレッドに書込
スレッドの一覧
暇つぶし2ch