ヤンデレの小説を書こう!Part21at EROPARO
ヤンデレの小説を書こう!Part21 - 暇つぶし2ch50:名無しさん@ピンキー
09/01/12 10:14:37 EAWUoW1i
グッジョブ!!

51:名無しさん@ピンキー
09/01/12 10:49:44 WFSrqLvP
GJ-

52:名無しさん@ピンキー
09/01/12 11:14:00 FHldhcFj
キター!!!!!!
GJ!

53:名無しさん@ピンキー
09/01/12 11:15:26 SVOaVGJ9
やはり、ヤンデレはレナみたいな女の子に限るわ

54:名無しさん@ピンキー
09/01/12 11:24:37 cpwpISGN
>>53
帰れ

55:名無しさん@ピンキー
09/01/12 12:51:33 1qV+KQ5J
GJ!
そういやジムリーダーで思いだしたけど
金銀にはアカネにミカンが・・・ゴクリ。

56:変歴伝 3
09/01/12 13:59:19 +i2fP80o
投稿します。
前回は管理者、閲覧者の人たちに迷惑をかけて申し訳ありませんでした。
コピペの意味がよく分からず、しばらく考え込みました。
次からはこのようなことがないようにがんばります。
ではどうぞ。

57:変歴伝 3
09/01/12 14:01:12 +i2fP80o
休憩時間が終わり、作業が再開した。
こつをつかんだ業盛は、速度を上げて稲を刈り取っていき、さらに刈り取った稲を干す作業も行った。
全作業を終わらせ家に帰る頃、すでに日は沈んでいた。
「あーよく働いた。今日はぐっすり寝て明日の出発に備えるとするか」
「…そうですね…」
なにやら平蔵が暗い。その理由は考えるまでもない。少し鎌をかけてみるか…。
「そんなに葵さんと離れるのが嫌か?」
「い…いえ、そんなことは…」
動揺しているな。分かり安すぎる。
「そう隠すな。今日、お前等二人を見ていたが、よっぽど気が合った様に見えたぞ」
「た…確かにそうですが…これ以上出発を延期するのは…」
まったく、そんなことを心配しているのか。だったら仕事を手伝うなどと言わなければいいものを…。
まあ、仕方がない。少し助け舟を出してやるか。
「菊乃さん、もうしばらくここに滞在したいのですが、よろしいですか?」
「えっ…まあ…いいですけど…どうかしたのですか?」
「いえいえ、たいしたことではありません」
平蔵は驚いて業盛を見ている。ここは一つ、いいことを言っておかないと。
「お前の決心が付くまでここにいるがいい。お前が葵さんとどうなろうと、私はなにも言わないよ。まあ、悔いを残さないことだな」
そう言うと、平蔵が泣きながら「ありがとうございます」と頭を下げて言った。
そんな顔を見て、いまさら見返りを期待しているなど口が裂けても言えない、と業盛は思った。
次の日から、平蔵がニコニコしながら農作業に向かっている。
農作業は葵さんと話すための口実でもあるが、まあ、作業自体はやっているので文句は言われないだろう。二人の仲が深まっていくのは、遠くから見ていても察することができる。
そして、見ているこっちは非常にいらいらした。
帰り道、平蔵が駆け寄ってきて言った。
「業盛様、明日、葵さんに家に招待されることになりました」
速いなあ、おい。平蔵、お前、彼女になにを言ったんだ。いくらなんでも展開が速すぎるだろう。
「これも全て業盛様のおかげです。本当にありがとうございました」
平蔵が笑顔で頭を下げた。前言撤回。やっぱり見返りを要求しよう。それも倍の量を。
家に帰ってから、平蔵から散々のろけ話を聞かされ続けた。むかむかしてきたので業盛は夜風に当たりながら散歩にしゃれ込むことにした。


58:変歴伝 3
09/01/12 14:02:07 +i2fP80o
急がなくては。決心が付くのに時間が掛かってしまった。
私は胸の辺りを少し撫でた。冷たい、ひんやりとした感触が伝わってきた。
これは決別の証。今までの全てと決別するための証。
あの女はまだ待っているのだろうか。私は待ち合わせている森に向かった。あそこならば誰にも見られる心配はないからだ。
女は待っていた。腕を組んで、さぞ不機嫌そうな顔をして。
「あんた、私をこんな時間に呼び出してなんの用だい」
女の顔は怒りで酷く歪んでいる。醜い。彼はなぜこのような女に声を掛けたのだろう。こんな女と話すのも虫酸が走るが、言わなければならない。
「…あ…あの…」
このような時に、私はいつものようにどもってしまう。それが口惜しかった。
「…もう…これ以上…景正様に声を掛けないで…ください」
言った。途切れ途切れだけど言えた。すると女の顔が少しずつ赤くなってい
った。
「はあ、あんたなに言ってんの?私が誰に声を掛けようと私の勝手でしょう。なんで私があんたにそんなことを咎められなきゃなんないのよ」
やはりこれだけでは分からないらしい。低脳な女だ。ならば低脳でも分かるように説明しなければなるまい。
「…どうしても…どうしてもなんです…。…私…景正様が他の女性と話しているのを見ていると…胸が苦しくて…苦しくて耐えられなくなるんです。…だから、もう景正様に声を掛けないでください。それだけでいいんです。お願いします」
「はあ?あんた、頭おかしいんじゃないの?そんなことで胸が苦しくなる?医者に見てもらったほうがいいんじゃないの?そんなくだらないことに呼び出して…時間の無駄だったわ」
これだけ言っても分からないか…。所詮はけだもの。けだものは男に腰を振るしか能がないのだ。私が理解を求めたのが間違いだったのかもしれない。
女は私に背を向けている。考えるより先に、私は胸から包丁を取り出して女にぶつかった。
女が振り向いて驚いたような顔をした。その顔は滑稽だった。
最初からこうすればよかったのかもしれない。けだものと交渉してもなんの進展もないことぐらい初めから分かっていた。でも、やはりどこかに良心が残っていたのかもしれない。でも、それも吹っ切れた。
私は包丁を捻りながらさらに深く、深く突き刺していく。グチュ…グチュという嫌な音が響く。
女は私に抵抗らしいことをしなかった。ただ「やめて…助けて」と、か細くつぶやくだけだった。
いい加減その声も聞き飽きてきた。私は突き刺している包丁をえぐるようにして引き抜いた。勢いよく血が噴き出してくる。包丁には太い管が巻きついていた。
「…見て…包丁引き抜いたら、あなたのはらわたも出てきちゃった。…もう、助からないわね…」
私はおどけて言ってみせた。女はこの世の終わりでも見るような顔をして自ら血の海にその身を浮かべた。
私は女の脇腹からはみ出ているはらわたを踏み潰した。グチャ…という音と鼻を突き刺す悪臭がした。
私は笑っていた。変わった。変われたのだ。今だったらなんでも出来そうだ。こんなにすがすがしい気持ちは何年ぶりだろう。
「あーあ、服が汚れちゃった」
服は女の返り血で黒く染め上げられていた。
「この服はまたいつかのために取っておこっと」
またいつか、この服を着なければならないときが来るかもしれないし…。
そういえば景正様、いつも菊乃さんと一緒に来てたなあ。あの人とはどんな関係なんだろう?
…もし付き合っていたら…どうしよう?その時は…。
私は月を見上げて笑っていた。月は狂おしいほど美しい満月だった。


59:変歴伝 3
09/01/12 14:04:39 +i2fP80o
とんでもないものを見てしまった。あの葵さんが…蚊も殺せそうにない葵さんが人を殺したのだ。
森に入っていく葵さんを付けてみただけなのに、なぜこのようなことになってしまったのだろう。
このことを平蔵に告げねば。そして二人を別れさせなければならない。
恨まれるだろうなぁ。しかし、これも平蔵のことを考えてのことだ。
家に帰るなり、平蔵に今さっきあったことをすべて告げた。平蔵はポカンと口を開けている。
「業盛様、なにを言っているのですか?葵さんがそんなことをするわけないでしょう」
「本当のことなのだ。葵さん…いや、葵に近付くのは危険だ。明日は葵に話しかけられても無視しろ。家にも行くな。いいな」
「なんで業盛様にそのようなことを言われなければならないのですか。業盛様、言いましたよね。
『お前が葵さんとどうなろうと、私はなにも言わない』と。あれは嘘だったのですか?」
「嘘じゃない。本当だったさ。しかし状況が変わったのだ。お前がこのまま葵と付き合ったら、お前は間違いなく殺される。
私はお前のためを思って言っているのだ。頼むから言うことを聞いてくれ」
これだけ言っても平蔵は首を縦に振らなかった。再び説得しようとしたが平蔵は聞きたくないとばかりに横になって寝てしまった。
こうなってしまっては平蔵はてこでも起きない。仕方がない。明日、時間いっぱい説得しよう。それで駄目なら強硬手段に出るしかない。
来てほしくない朝が来た。今日、平蔵が帰らぬ人になるかも知れないのだ。
目の前で知人が死ぬのはとても後味が悪いことだ。朝起きて再び平蔵を説得する。しかし平蔵はしつこいとばかりにさっさと支度して出て行ってしまう。
人がこれほど言っても話を聞かない平蔵にいい加減いらいらしてくる。
平蔵は今、葵としゃべっている。今まではなんとも感じなかったが、葵の平蔵の見る目がおかしい。目に輝きがなく、まるで底なし沼でも覗くかのように淀んでいる。
それは背筋をなめられるかのような嫌悪感を抱かせた。
もう時間がない。早く説得せねば。
「平蔵、考え直したか?」
葵の家に行く準備をしている平蔵に問い掛ける。
「まだ言っているのですか?いい加減にしてください。私は考えを改める気はありません。そろそろ時間なので失礼します」
やはり駄目か…。仕方ない。やはりこうするしかないらしい。
「平蔵…」
平蔵に呼びかける。平蔵が不機嫌そうに振り向く。
俺は平蔵の腹部に殴り掛かった。
「な…業盛様、なんのつもりですか!」
平蔵は跳躍して避けた。当然のように平蔵が驚き、非難の声を上げる。
「もはや…もはやこれしか方法がないのだ」
再び一歩踏み込んで平蔵に殴り掛かる。しかしそれは誘いの手だ。本命は平蔵が一歩引いた直後に回し蹴りを叩き込むことだ。だが平蔵はこれを読んでいた。回し蹴りを腕でいなした。
「業盛様、あなたがそこまでして私と葵さんの仲を裂きたいのは分かります。ですがお願いします。行かせてください」
「駄目だ。何度も言うが行ったら殺される。私は助けられる友を助けずに後悔をしたくないのだ。そのためなら、私はお前の手足をへし折ってでもこの村から出て行く」
平蔵は構えを崩さない。今まで平蔵と組み手をして、平蔵が俺に勝ったことはない。構えを崩すことは敗北に繋がる。
しかし、平蔵が構えを解いた。諦めてくれたのだろうか。
「業盛様、私があなたと戦って勝てるとは思いません。今まで何度も負けているのですからね。…ですけど、私にもあなたに勝てるものがある」
平蔵が足元を蹴り上げた。砂が舞い上がり一瞬平蔵を見失った。平蔵はその隙に逃げ出した。
しまった。平蔵は俺より足が速かったのだ。くそ、撒かれたら探すのが面倒になる。
そう思い走り出そうとすると誰かに手を掴まれた。
「き…菊乃さん…」
手を掴んだのは菊乃さんだった。
「放してください。このままでは平蔵を見失ってしまう」
「業盛…様、行かないで…ください…」
なぜこのような時そのようなことを言い出すのだろう。菊乃さんは保護欲を掻き立てるような潤んだ瞳で見つめてくる。しかし、今はそれ所ではない。平蔵の…友の危機なのだ。
俺は菊乃さんの手を振り払った。後ろから声が聞こえる。泣き叫ぶ悲痛な声だ。胸が痛くなったが、今はそれを拭い去り平蔵を追った。


60:変歴伝 3
09/01/12 14:06:40 +i2fP80o
投稿終了です。
とりあえずこれでいいのでしょうか。
非常に不安です。
また、少し忙しいので、しばらく書けません。
では、またいつか。


61:名無しさん@ピンキー
09/01/12 14:43:28 8N0NcqAz
GJ

62:名無しさん@ピンキー
09/01/12 15:43:42 oVR3cw+d
>>60
乙乙、盛り上がってまいりました。
菊乃さんにもぜひ病んでもらいたいw

63:名無しさん@ピンキー
09/01/12 18:53:23 YCbnbYKd
パソコン慣れしてないのかな?
ともかく応援するぜ

64: ◆UDPETPayJA
09/01/12 20:49:02 ZYnT4MCg
お久しぶりです。
本来ならもうすこし間隔をあけて投下すべきなんですが、
パソコンの利用時間が限界に迫っていて、次はいつ使えるか分からないので今投下します。
ご容赦下さい。

65:名無しさん@ピンキー
09/01/12 20:49:53 LwRP0GbY
GJ!!
葵さん病むの早いなw

66:天使のような悪魔たち 第9話 神坂 明日香 ◆UDPETPayJA
09/01/12 20:51:24 ZYnT4MCg
「迎えに来たよ、お兄ちゃん。」

声の主は身長145cm・茶髪のツインテールで、フリフリのスカートを身につけた幼女…そう、明日香だった。
お兄ちゃん、なんて呼ばれたのは小学校時代以来だ。懐かしいなぁ。

「こんな時間に一人で出歩くなんて、変なオジサンに捕まっちゃうぞ?」

俺は軽くジョークを飛ばす。こういうときの明日香のリアクションもお決まりだ。

「私だっていつまでも子供じゃないんだからね!」
「いや子供だろ、見た目は。」

すかさず的確な突っ込みを入れる。明日香は「もー!お兄ちゃんてば!!」と怒って――

ばふっ、といきなり俺に抱きついてきた。かすかに石鹸の香りが漂う。月明かりに照らされた茶髪が、とてもきれいだ。何で今日はそんなことが気になったんだろう……

「お兄ちゃん…すき。」
「…俺もだよ、明日香。」

くしゃくしゃ、と髪を撫でてやる。明日香はまるで額を撫でられた猫のように身をよじる。猫にしては少々大きいが…かわいい。
だが、次の言葉で俺の中からそんな余裕は消し飛んだ。

「ちがうの…私はお兄ちゃんを、お兄ちゃんとしてじゃなくて…」
「…え?」
「異性として、一人の男の子として……神坂飛鳥を………、愛してます。」

――おい明日香、冗談にしてはちょっと重すぎないか?
たしかにちっちゃいときはよく「大人になったらお兄ちゃんとケッコンする!」なんて言ってたけど、
大きくなるにつれて、この国の婚姻制度を詳しく知るようになってからは言わなくなったはず…俺の記憶が正確ならば。

「ずっと昔から…ううん、産まれた時から好きだったのかもしれない。いつでもお兄ちゃんとひとつになるのが夢だったの。
 ……でもお兄ちゃんはいつもいつも、私を妹としてしか見てくれなかった! もう我慢できないの…胸が痛くて苦しくて裂けちゃいそうで…。」
「………本気、なのか? ――だとしても、それだけはだめだ明日香! 俺たちは兄妹だぞ!?」

俺は明日香の肩をつかんで、引き離した。明日香の眼からは涙が流れている。…おかしい、明日香の瞳はもっと澄んでいた。なのになんで、こんなにくすんでいるんだ?
……分からない。いったい何を考えているんだ?

67:天使のような悪魔たち 第9話 神坂 明日香 ◆UDPETPayJA
09/01/12 20:52:02 ZYnT4MCg
「やっぱりお兄ちゃんはそう言うんだね? でも大丈夫だよ。お兄ちゃんをばかにする奴がいたら私が消し去ってあげる。
 こんな婚姻制度を作ったやつらがいけないんだよね、だったらみんな殺してあげる。お兄ちゃんは私だけのもの……誰にも渡さない。」

それだけ言って明日香は、俺の眼前に手をかざしてきた。そして瞬いたのは…黒い光だ。
なんで"黒い光"なんて言葉が出てきたのかは自分でも分からない。だが、もっとも近しい表現だと思う。

――もしかして……俺は、この光を知っているのか?



68:天使のような悪魔たち 第9話 神坂 明日香 ◆UDPETPayJA
09/01/12 20:52:54 ZYnT4MCg
* * * * *

次に目が覚めたとき、俺はベッドに横たわっていた。起き上がろうとする、だが、それは叶わなかった。手首足首を何かでベッドの脚に拘束されていたからだ。
じゃら、と金属質の音がする。これは…極限まで実用性を重視した以下略の………

「おふぁよ、おにいひゃん。」――明日香だ。
さっきまで身に纏っていた可愛らしい服はどうしたんだろうか。何で明日香は裸なんだろうか? そして、ソコで何をしているんだ?

ぴちゃ…ぺろ…じゅる…

とても卑猥な音がする。そして、俺の相棒に何か生温かい、ぬるぬるした感触が与えられている。――っ! ダメだ、もう!

どぷっ…びゅる… 俺は迸りをそこに…明日香の口内に放ってしまった。明日香はソレを、実に旨そうに飲み下した。
その上気した表情はもはや妹などではなく、立派に一人の女としてのものだった。その姿に、俺の情欲も掻き立てられてしまう。……だめだ、妹に感じるなんて絶対に!

「…まだ、できるよね。ほら、見てお兄ちゃん。」

明日香は俺に跨がり、自分の大事な部分を俺に見せびらかすようにして拡げた。
初めてみるソコはピンク色で、お漏らししたかのように糸をひきながら粘液が垂れ落ちている。産毛すら見当たらない分、細かいところまでくっきりとわかる。
そして、その真下には俺の………

「――もうやめろ、明日香! 今ならまだ引き返せる!」
「引き返して、どこに行くっていうの? 私の帰るところはココだよ。」

明日香は、ゆっくりと腰を落とした。その狭い入り口に尖端が埋まり、徐々に進行してゆく。そして、とうとう………

「――っ!」

純潔の証である鮮血が流れた。もう引き返せない、俺たちは…堕ちてしまった。

「…うふふ……やっとひとつになれたね、お兄ちゃん。」

明日香の目尻にはうっすら涙がにじんでいる。痛いのだろうか、もしくはそれ以上に感動しているのか…?
ゆっくりと、運動が再開された。
はっきり言って、首を締め付けられかのようにきつい。明日香のなかは、体格相応に狭かった。

「~~~~っ!! はぁ、はぁ…っ…ああああああっ!」
「……やめてくれ…明日香、痛いんだろう!? なんでそこまでするんだよ!」
「はぁ…はぁ…きまって、るじゃ、ない…っ! すき、だから…あああっ!」

もはや苦痛をこらえるその姿を見てはいられなかった。だから俺は顔を背けた。………後悔したよ。またもや信じられないものを見つけたから。

69:天使のような悪魔たち 第9話 神坂 明日香 ◆UDPETPayJA
09/01/12 20:53:51 ZYnT4MCg
そこに転がっていたのは、結意だった。ただし、ナイフを心臓の部分にに突き立てられた状態の。
…もう訊くまでもないだろう。誰がやったかなんて、明白だ。

「…ああ、そいつね…邪魔だか、らっ……ころ、しちゃった……あぁん!いい!もっと、もっと突いて!お兄ちゃあん!」

いつの間にか苦痛をこらえた声は、嬌声に変わっていた。さっきまでよりスムーズにピストン運動が行われている。分泌される液も、徐々に量が増している。
明日香が動くたびに、にちゃ、にちゃと粘っこく糸をひく。…俺は悪い夢でも見ている気分だった。夢なら早く覚めてくれ――

「ふふふふ…あは、あはははははははっ! 気持ちいい、気持ちいいよお兄ちゃん! あはははははは!あはははははははははっ!!!」

この世のものとは思えない、不気味な笑い声を上げながら欲望をぶつけてくる明日香。
…もう、我慢できなかった。俺は再び迸りを、今度は明日香のなかに直接放つ形になった。

「あはっ…いーっぱいでてるねぇ…お兄ちゃん。」

明日香は再び、結合部を見せつけてきた。そこは、明日香の透明な粘液と俺の迸とわずかな鮮血とでべとべとになっていた。

そして明日香は、もう一度手を額にかざしてきた。



70:天使のような悪魔たち 第9話 神坂 明日香 ◆UDPETPayJA
09/01/12 20:54:51 ZYnT4MCg

―エピローグ―

あれから1ヶ月が経った。

明日香の力は私のソレを上回っていた。なぜなら、対象物を消滅させるだけではなく…
自らの力によって消し去ったものに限り、もとどおり再生できる力を持っていたのだから。でも、その力には心当たりが有る。……彼が、その力の持ち主だから。

あの日からずっと明日香は、飛鳥を完全に手中に納めていた。朝は普通にご飯を食べ、学校へ行く。帰宅し、夕食を済ませたあとで記憶を"すり替える"。

それがどういうことなのかって? 簡単よ。今の飛鳥は、二つの別の記憶を交互に与えられてるの。
昼は今まで通り、仲の良い兄妹。その中に、妹と"繋がった"記憶は含まれていない。
夜になれば、再び…いえ、飛鳥にしてみれば、あの日以来ずっと犯され続けているようなものね。明日香はうまい具合に、夜の記憶だけを繋げているの。
ちゃんと学校には行っているから、行方不明なんてことにはならないし…
飛鳥も、そのときは記憶自体がないのだから振る舞いも至って普通、誰にもバレはしない。さすがは私の妹ね。
でも、それも長くは続かないだろう。

なぜなら、明日香の命は……もう長くはないから。
もともと、私の中にある3本の染色体は突然変異によるもの。遺伝性のものなのか、そうではないのか、未だにはっきりしない。では飛鳥と明日香は?

二人目まではまさに奇跡だった。都合よく、私と同じように3本多く持って生まれたのだから。
ただ、私とは能力が異なっていたはず…当然ね。そう簡単に全く同じとはいくはずもないわ。
でも、母さんはその子を実験の道具にはさせたくなかったみたい。だから当時父さんの研究グループの一員だった、斉木博士にその子を託した。それが、斉木 隼くん。

飛鳥は、もともとは斉木博士の子供。交換を提案したのは、むしろ斉木博士からだった。隼くんと同い年だし…もちろん染色体は46本、一般的な人間。
飛鳥と明日香は、実は血が繋がっていなかったの。ただ、それは絶対に秘密にしなければいけなかった。今となっては、多少後悔しているけれど…

では明日香は? その答えは簡単だ。私と瓜二つな容姿。加えてほぼ同じ能力、成長の停止…ことごとく私と同じ。
もうお分かりでしょう。明日香は、父さんが私のバックアップとして造り上げた、クローン体。
ただ今の技術では完璧なクローンなんてものは造れない。結果、明日香の細胞はあちこち穴だらけ、欠けたパズルのよう。
もうすでに細胞の劣化が始まっているわ。このままなら、あと数ヵ月で……

でも、お兄ちゃんと幸せになれて幸せよね、明日香。大丈夫よ…ちゃんと、あとから飛鳥も同じところに送ってあげるから。そうしたら、独りぼっちじゃなくなるでしょ?

私が全ての罪を背負ってあげる。だから…精一杯今を生きなさい、明日香。


-Bad end-

71: ◆UDPETPayJA
09/01/12 20:57:20 ZYnT4MCg
明日香ルート終了です。
お騒がせしてすみませんでした、以後気をつけます。>>60へのgjは僕をすっ飛ばしてお願いします。

>>60 gj! wktkで期待してます。


72:名無しさん@ピンキー
09/01/12 22:30:36 16arPOqI
GJ!!!
明日香…ブワッ

73:名無しさん@ピンキー
09/01/12 22:31:20 16arPOqI
sage忘れ…orz

74:名無しさん@ピンキー
09/01/12 22:32:46 NHpBVS3D
>73(´;ω;`)ブワワッ

75:名無しさん@ピンキー
09/01/12 22:40:01 QiAJufK1
>>71 GJ! 結意派の俺にはつらいけど、別ルートでの救済を……!
あと、いろいろ残ってる謎が気になります。続き待ってます。

76:名無しさん@ピンキー
09/01/12 22:54:22 5H3nrFKn
GJ!!

77: ◆UDPETPayJA
09/01/13 00:11:07 DHmMVECW
携帯からです。
>>70の"幸せになれて幸せよね"を、"幸せになれてよかったわね"に脳内保管しといてください。
日本語おかしいことに気付きましたorz

78:名無しさん@ピンキー
09/01/13 00:50:23 SQFSy48l
前スレの埋めがちょっと怖い

79:名無しさん@ピンキー
09/01/13 04:23:55 cGqRGD6A
いつもまとめサイトの更新だけチェックしてこのスレにはあまり来ないんだけど
更新された作品読んでたら笑ってついこっちに来てしまった
スレ内のちょっとした揉め事も一緒に転載されるんだなw

80:名無しさん@ピンキー
09/01/13 08:06:16 z4rkLFjT
>>71
GJ!
ちょっと弟くんに冷たくない?って思ってたが実弟じゃなかったのか
あれ、じゃあ子ども作れないってのは嘘? 続き気になります

81:名無しさん@ピンキー
09/01/13 12:29:48 KP4MJRMS
>>79
消すの忘れてた(´・ω・`)

82:名無しさん@ピンキー
09/01/13 16:27:37 nKyzD1Jz
書くのここじゃないかもだが、保管庫にログを置いてくれた方に激しくGJといいたい!マジ嬉しい。

83:名無しさん@ピンキー
09/01/13 19:30:28 zUdDulz3
そういやpart16以降のログは保管されてないの?

84:名無しさん@ピンキー
09/01/14 20:58:31 SuPxi5IE
ヤンデレ家族と傍観者の兄楽しみだわあ
最終話も近いみたいだし裸でいるのも我慢できそうだ

85:名無しさん@ピンキー
09/01/14 21:08:23 Xv2m5oKr
なんと甘い見通しだろうか
貴様にヤンデレの心が読めるのか

86:名無しさん@ピンキー
09/01/14 21:12:55 rO5Tw7Au
84「読めない・・・けど、85の考えてることは分かるよ」

って事だろ。
裸で待機の84(*´Д`)ハァハ(PAN!!

87:名無しさん@ピンキー
09/01/14 21:20:40 SuPxi5IE
>>85
ブログにオチは考えてあるって書いてあったからつい分かったような気になっちまったようだ
ちょっとヤンデレの邪魔して刺されてくる

88:名無しさん@ピンキー
09/01/15 03:02:57 oMf9LPPg
朝歌さんを待ちくたびれたんですが…

89:ヤンデレウイルスβ2 ◆iIldyn3TfQ
09/01/16 00:10:35 OWRYLE9i
久々なのでID間違えてるかも、はわわっ。
投稿予告で、いいんだっけ。投稿しますよー。

90:ヤンデレウイルスβ2 ◆iIldyn3TfQ
09/01/16 00:11:15 OWRYLE9i
TIPS
金城康二 保菌形態β 主人公
金城さとる 保菌形態α ヤンデレ好きのキ▲ガイ科学者。
金城篝 αの感染者。
佐藤亜麻 βの感染者。

蒲公英:該当情報、皆無。

外見的にちょっと背が伸びて精神年齢↑なとらドラの大河・・・ロングヘアーが好きなだけですサーセン。




誰だってハレムの夢を抱くことが、ある/あった/あるかもしれない。
だが、このウイルスの保菌者は墓穴を掘ることになりかねない。
俺だって好きで何股してる訳じゃないんだ。
人は問うだろう。「ならば何故なんだ」と。

<s>単純明快。ハーレムを築きたいから。</s>

感染者を一人でも放置プレイすることは、悲惨な結末を招くからだ。
異性とは彼にとって爆弾。感染者の扱いはさながら無数のリード線。
ただ爆発を解除することができず遅延させるだけの効果しか意味を成さない。
それしか期待できないのは、映画と違い皮肉ではあったが。

『運命に、邂逅する夜』英訳の如く結末が転がりかねる状況で彼は生きる。
「え?結末ってデッドエンドのことですよ。」


金城康二のとある独白。



91:ヤンデレウイルスβ2 ◆iIldyn3TfQ
09/01/16 00:12:10 OWRYLE9i
「はははぁー、やぁ蒲公英ちゃん。お久しぶり」
「・・・どうも」

金城夫妻の家にして、悟の研究所であり、康二の実家。
研究室を彷彿させる長方形型な白の建物の目前には、悟と篝二人、それと年頃の女性がいた。

たんぽぽ、タンポポ、蒲公英。
可憐だとか、飾り気のない栗色の髪は色艶やかなものではなく、
むしろ粗暴な様を際立だった顔立ちに、肩口に掛かったくせっ毛の少女だ。

「しかし、蒲公英さんも変わりましたね」微笑む金城篝。
「・・・いつまでも子供では要られませんから」ぷいっと顔をそらす蒲公英。

目は吊り上っており、そこはかとなく猫か虎を連想させた。
全体的な体つきはパーカーによって遮られるが至って平均的に見える。

「ささっ、とりあえず入ってよ」手招きする悟。
「ぇ? 」吃驚した様子で開口したままの蒲公英。
「ささ、どうぞ」篝に背を押され、仕方なく玄関へと。

おっとりとした容姿と雰囲気の篝だが、
意外にも押しが強いことを今更ながら蒲公英の脳裏に浮かび上がる。

「あ、ちょっ・・・えっ?」
「ははは、いっつもギャップで驚かれるんだよねー」

白のコントラストな病院ちっくな外見とは打って変わって和風な作り。
彼女が悟を訝しげな表情で睨めば篝がお盆を持って開口一言。

「ふふ、悟さん。でもこれ以上感染させたら八つ裂きにしますよ」
「ははは、母さんや。果物ナイフが首に当たってるんですけど?」
「当ててるんですよ」「さよですか・・・あ、一応定員にはなってるけど」


92:ヤンデレウイルスβ2 ◆iIldyn3TfQ
09/01/16 00:13:25 OWRYLE9i

まったく顔の笑ってはいない伴侶に、苦笑いしつつも悟はコーヒーを啜った。

「なら、今回勘弁してあげますね、あなた」
「さて、こんかい呼んだのはだね・・・」

かなり使い込んだ様子の大学ノートを取り出す悟。
その表面にはでかでかと"にっき。かねしろこうじ"と明記してある。

「実は、我が息子に面白いことを発見してねっ。まぁノートなのだけれども」
「古ぼけた日記帳じゃないですか?それがどうしたと?」

したり顔で悟は少女の眼前でプラプラと左右に振らした。
案の定に蒲公英は顔こそ伏せれど、目はノートを追っている。

「昔、うちの息子が君を不用意に傷つけたことはなかったかい?
 遠ざけたことは? 嫌悪したことは? 無視したことは?」

思い当たる節があるのだろう、彼女の瞳は意識的にとある方向へと向く。
眸には明らかな困惑と、一握りの焦燥の色が浮かべられた。
半ば奪い取ろうとする蒲公英の手から逃れると、
悟はさらにはもったいぶるような素振りで。

「その事実は、ここに入っている。
 もっとも、私が知ってはいるのだけれども君が見たほうが面白いだろしね」
「も~悟さんったら悪趣味ですね~♪」

万年バカップルの二人を見やって蒲公英は訝しげな表情。

「精々面白い展開に発することを祈るよ。そろそろ、かn」
「あいつ、・・・いや、そんなわけ、・・・でも・・・」
沈黙が場を制すること数分、少女の顔には驚愕、焦燥、恥辱、安心、様々なモノが入り混じっていた。


93:ヤンデレウイルスβ2 ◆iIldyn3TfQ
09/01/16 00:14:33 OWRYLE9i


「さて・・・」

悟が眼鏡を掛け直し、口を開いた瞬間。
蒲公英は茶渋の立たない茶に眸を写すと呆然とした少女の顔が浮かんだ。
湯飲みを包み込むと振動を表す波動が起きていた。
上方を見上げようとして顔を上げると勢い良く和室の戸が開く。
バタンッと地を振るわす轟音が和室に響く。

「おいっ、親父。なんなんだっ、バイト先に電話までして呼び出して!!
 今日給料日だってのにッ!」
「おお、当事者が来たことだし、失礼するよ」

ノートの持ち主が現れたのだ。
当の本人は息子の心情などそ知らぬ様子で離れへと移動する。
息が荒くなった青年は、久しい幼馴染を視線の端に捕捉して。

「っ!? お前、それは俺の」なにやら拙い事だけは理解し。
「ふぅ~ん、そんなに見られたくないのか」

長らく顔を合わせなかった彼方の顔が驚愕のあまり目を見開く。
その様子に満足してか見せびらかして蒲公英はニヤつく。

「ッ!!!てめぇ、人んちに入って何をしているっ!?」

彼は、蒲公英に近寄って手ごとノートを掴む。
蒲公英の手からノートを弾いたことに安堵して前のめりで畳みにぶつかる。
足を払われたことに気づくのは世界[しかい]が九十度変わってから。

畳の上に無様な受身を取る康二に対して、蒲公英はすぐ馬乗りになって彼の両手を塞いだ。
こころなしか、彼方の表情が崩れ、朱色に染まっている。


94:ヤンデレウイルスβ2 ◆iIldyn3TfQ
09/01/16 00:14:58 OWRYLE9i

彼の心臓は、ドクッ、と少し異常な速度で鼓動を早めた。
ドクッ、ドクッ、ドクッと異常動作を繰り返す臓器に、
ハッと我に返って康二は蒲公英を振り払おうとする。

幾ら中肉中背の青年とはいえ、馬乗りになって両手を封じる少女に。
否、少女の真実を知りたいという決意に、青年は勝てないのだ。

「この感覚っ!! たんぽぽっ、どけっ!」

自らの体[たいえき]がうごめくような感触。
わだかまる不可思議な感触、感覚を、彼は理解っている。

ヤンデレ、ウイルス、タイプβ

だが突き放そうとするも、鍛える筈の身体でも暴力幼馴染の方が腕力で勝っていた。

「おいっ、これ以上近寄るなよっ!!」
「なんだって、こーじ君? え、どけたらいいじゃ、ぐすっ、ないか」

彼女から雨が降ってきた、ぽつり、ぽつりと。
次第に、どしゃ降りへと変わり、康二自身は辿りそれが何なのかを知る。

「お前、泣い――」
「――泣いてなんかないっ!」
「大体、なんなんだよっ! あの日記。
お前はあの時も、オレ様の思いを踏みにじってっ!!」
「仕方ないじゃないかっ!」
「人の想いを切り捨てることが仕方ないっていうのかよ、テメェは!?」


(あの時は愛おしかった君が歪むのを恐れて。
でも、不器用な助け方しか俺にはできなかっんだよっ)

金城康二の事情を知らない。だからこそ、よりあの行為は最低最低だった。


95:ヤンデレウイルスβ2 ◆iIldyn3TfQ
09/01/16 00:17:32 OWRYLE9i


「さて・・・」

悟が眼鏡を掛け直し、口を開いた瞬間。
蒲公英は茶渋の立たない茶に眸を写すと呆然とした少女の顔が浮かんだ。
湯飲みを包み込むと振動を表す波動が起きていた。
上方を見上げようとして顔を上げると勢い良く和室の戸が開く。
バタンッと地を振るわす轟音が和室に響く。

「おいっ、親父。なんなんだっ、バイト先に電話までして呼び出して!!
 今日給料日だってのにッ!」
「おお、当事者が来たことだし、失礼するよ」

ノートの持ち主が現れたのだ。
当の本人は息子の心情などそ知らぬ様子で離れへと移動する。
息が荒くなった青年は、久しい幼馴染を視線の端に捕捉して。

「っ!? お前、それは俺の」なにやら拙い事だけは理解し。
「ふぅ~ん、そんなに見られたくないのか」

長らく顔を合わせなかった彼方の顔が驚愕のあまり目を見開く。
その様子に満足してか見せびらかして蒲公英はニヤつく。

「ッ!!!てめぇ、人んちに入って何をしているっ!?」

彼は、蒲公英に近寄って手ごとノートを掴む。
蒲公英の手からノートを弾いたことに安堵して前のめりで畳みにぶつかる。
足を払われたことに気づくのは世界[しかい]が九十度変わってから。

畳の上に無様な受身を取る康二に対して、蒲公英はすぐ馬乗りになって彼の両手を塞いだ。
こころなしか、彼方の表情が崩れ、朱色に染まっている。

彼の心臓は、ドクッ、と少し異常な速度で鼓動を早めた。
ドクッ、ドクッ、ドクッと異常動作を繰り返す臓器に、
ハッと我に返って康二は蒲公英を振り払おうとする。

幾ら中肉中背の青年とはいえ、馬乗りになって両手を封じる少女に。
否、少女の真実を知りたいという決意に、青年は勝てないのだ。



96:ヤンデレウイルスβ2 ◆iIldyn3TfQ
09/01/16 00:19:04 OWRYLE9i

いつの間にか彼女の手からノートが零れ落ちていた。

『○月△日、キチガイからおしえられた。
 ぼくのからだはへんだって。だれかをふこうにするって。
 たんぽぽをきづつける? いやだ、いやだ。そんなの。
 それぐらいならっ』

「なぁ、オレ様がどんな思いしたと思ってんだッ!?
どれだけお前のことを考えていたと思ってるんだ!?
幾星霜の月日がお前への告白で埋め尽くされたっ!

オレ様がどんな思いでお前からの告白を、
待ち望んで、渇望して、あの日をになったと思う!?

思いもしなかったさ!

拒絶をこめたものだなんてよっ!」

目を逸らそうとした俺に覆いかぶさるようにしながら。
蒲公英は一度言葉を切り、口調を変え――否、戻した。

それは、青年が過去に知っていた、少女そのものの貌。

興奮した様子の少女は、むしろ幅を狭めるように。
近づく唇、高鳴る鼓動、うごめくウイルス。

馬乗りになった幼馴染を俺は、
振り払うことなんて出来るはずもなかった。

「ボクは君の事とても好きだったよ。今でも愛しています。
君が遠ざけた理由なんてもうどうでもいい。

君がたとえ亜修羅の道を、悪道の道を進もうとも、
私はあなたのためだけに、尽くし続けます。

だから、ボクに誓いの口付けをさせて下さい」





97:ヤンデレウイルスβ2 ◆iIldyn3TfQ
09/01/16 00:20:41 OWRYLE9i
そして少女からは自らの花言葉を篭めて永久の誓言となる、
青年からは好いているからこそ危惧した最悪の口づけを交わした。

無垢な生娘のぎこちない仕草のまま、
だけども濃厚で、淫妖に貪るように。

接吻を終え、たらり引いた銀糸を拭うと彼は独白するように、口を滑らす。

「俺は、お前をまきこみたくなかったのに・・・」
「なんで?   ボクなら君のウィルスに掛かってもいいよ。
ねぇ? 知ってる、ボクの、蒲公英の花言葉って」
「どーでもいいっ、お前はコレの凶悪さを知らないからいえるんだよ」


生を享けてから、四捨五入して二十年。
彼はウイルスを自意識である程度抑えることは可能になった。
だが、自意識を制御できない条件下、それも粘膜接触となれば感染を免れない。

頭が蕩けたように、視線が定まらない表情で蒲公英は虚空を見つめていた。
目が濁ったように、どろどろした何かを以って少女は彼方を睨んでいた。

「はーい。おめでとー。」クラッカーを鳴らす馬鹿が登場する。
『カップル誕生おめでとー☆』と掲げる母親、篝もいた。

「ッ!? ・・・糞親父ぃーーー!」
「あらあら、大変わねーあなた。でも、お腹を痛めた子と旦那がするなんて母さんうれし泣きしちゃうわ」

どうにも今回の主犯格だと確信し、蒲公英を押しのけて。

「蒲公英良く聴け。ここ、数日。多分胸が心理的に締付けられるような感覚になるが、気にするな。
 それはまやかしだ。いつわりだ。何一ついい事などない」



だが、遅かった。

すでに彼女の胸には感染が相乗して、恋慕が募り、そして――.





98:ヤンデレウイルスβ2 ◆iIldyn3TfQ
09/01/16 00:21:45 OWRYLE9i
ヤンデレウイルスとは感染者にとってみれば麻薬そのものだ。
母さんたち慢性的な感染者になれば異なるが初期の感染は重い。
躯の芯まで蕩ける快感、保菌者への緊縛する一筋の喪失感。

一度感染すれば保菌者との接触を是が非でもしたくなる。
だが、感染者が一定期間距離を保つことで死滅させることができる。
だが一定期間保菌者との接触を行えば定期的な菌の育成が出来てしまう。

次第に、想いは黒く冥く、濁った想いが拡張させていくのだ。
そこが恋患いと違う最大の点である。

金城さとるの効果は十人というリミッターが掛かるが、
金城康二の場合は無尽蔵に感染を広めていくことが可能だ。

先天性遺伝子 ・・・固体値によった誤差。
金城康二が安全に暮らすには感染を最小限に留めておきたいのだ。
それだから洗脳ともいえる選択肢の誘導や心理学で亜麻を左右させた。
善悪を置いてなお、彼が生き残るためには仕方の無いことであろう。



少なくとも行動を起こすのは彼の目の届く範囲だけと確約させている。
むしろだからこそ亜麻一同のようなに過激行為を起こす場合があるのだが。

「あなたの体の一部ホルマリン漬けにさせて」とか
「私の体(もしくは体液)入りのご飯食べて」とか
「あの、・・・その、私いじめられたいから切り裂いてください」
とか

自己主張をやんわりと趣向を改悪して、正して。
とりあえず血液の見ない方向へ回避している事実はあったりなかったり。




99:ヤンデレウイルスβ2 ◆iIldyn3TfQ
09/01/16 00:22:13 OWRYLE9i
感染が一次症状となった幼馴染を押しのけて。
白衣姿の父親を鷲掴みにして外へと連れ出した。

「てめぇ、好い加減にしろよ」
「お父さんに向かっててめぇはないでしょぉ♪」
「・・・もう一度繰り返す、好い加減にしろ」
「なーんのことっかなー♪」
「とぼけるな。何故だっ!てめぇ、あんなモノ模造しやがった!」

金城康二に日記を綴るメルヘン染みた趣味はない。
ならば、だ。巫山戯たことを仕出かす人間に検討が付く。

「何故、お前があんなもの書きやがった」
「おやおや、僕は嘘をついた覚えは無いよ?
 蒲公英ちゃんには『ここに事実が入っている』とはいったケド、
 でもしかし康二自身が書いた日記だとは言ってない」

「それが僕お手製の悪戯でもネ」すっ呆けた様子の実父。
「はハHA、葉刃派ハhaは。ふざけ」

渾身の一撃を見舞おうとして康二が躯を捻ると、
的確な掌底が水月へと間髪なく打ち込まれる。

「かハッ!?」肺から消費するはずだった空気が吐き出され膝を突く。
「やっぱり君は理解してないね・・・」
「はぁっ、何がだ、糞親父」強がる位みせるのが男の意地だ。

達観した眼差しで、眼鏡を押し上げる
光が乱射する硝子の向こうで覗くのは漆黒の眸。

「君は我が愛しのヤンデレ篝との息子だ。
 だが、それと同時に君は永遠の研究材料なんだよ」

否。漆黒と云うには違和感がある。

濁り。

精神を摩耗しきったような、
濁りきった濁流のようなその眸――深淵[ふかみ]に覗きこまれ。

それはそう、実験対象を見る冷静な/冷徹な/冷酷な瞳で。
にこやかな表情とは裏腹に感情の篭ることを知らない。





100:ヤンデレウイルスβ2 ◆iIldyn3TfQ
09/01/16 00:22:52 OWRYLE9i
背筋に伝う冷気と、何かを感じた康二は悪態をつく。

「ほざいてろ、キチガイマッド」
「うん、ありがと~♪ 天才とキチガイは紙一重なのだよー」

自らが望むのは振り切れた所だ、と称すキチガイ。


燦然たる夕日から逃げる吸血鬼のように、
混濁とした闇黒へ生者を誘うかのように、

白衣を翻して玄関の戸をゆっくりと開ける。
悟の背中からは何も察することはできない。

「本当にね、人間って二種類しかいないんだよ。
 異常を許容するか、それとも異物と知りながら奥底に仕舞うか」

世界一大嫌いで、異物である筈の親父の背中が、
扉の向こう側へと消えていった実父のそれが、
何故か少しだけ寂しく感じ取れたのだった。





金城康二、つまり俺は已むに得ない状況で、遺憾なくヤンデレウイルス送信中。
なお公共電波では感知できないので無視してよろしい。
拝啓、天国に逝って欲しいお父様、蒲公英は真心の愛を意味するらしいです。


―――管理人さんへお願い――――――
<s></s>のタグなっているところは、取り消し線が表現できるようお願いします。

101:ヤンデレウイルスβ2 ◆iIldyn3TfQ
09/01/16 00:24:33 OWRYLE9i
>>95 ミスりました、すいません。_|~|○

二話目もお疲れ様だじぇー。というわけで、お疲れ様でした。

102:名無しさん@ピンキー
09/01/16 11:52:27 uXP8Z887
ぐっじょぶ!

103:名無しさん@ピンキー
09/01/16 16:37:05 4+Y8MHtT
ヤンデレウイルス大好きだ!

GJ!

104:名無しさん@ピンキー
09/01/16 18:40:57 q6d36th+
よかった
GJ

105:変歴伝 4
09/01/16 19:51:43 kcgAUQqH
余暇が出来たので投稿します。
お願いします。

106:変歴伝 4
09/01/16 19:53:01 kcgAUQqH
ここまで来れば大丈夫だろう。業盛様は葵さんの家を知らない。
撒いてしまえばこっちのものである。
それにしても業盛様はどうしたのだろう?あれほど応援してくれていたのに。
業盛様は嘘を言うような人ではない。
だから葵さんが人を殺したと聞いた時、
馬鹿なという気持ちと、もしやという気持ちが同時に浮かんだ。
しかし、その気持ちはすぐに消えた。
葵さんがそんなことをするはずない。きっと業盛様が見間違えたのだ。
そうでも考えないと自分の考えを正当化できなかった。
葵さんは今まで見たこともないような笑顔で出迎えてくれた。
この笑顔を見ると葵さんが人を殺したなどとは露にも思えない。
やはり、業盛様の勘違いなのだろう。
中に入ると料理が準備されていた。囲炉裏には鍋が掛けられている。
そこから食欲をそそるいい匂いが漂う。
早速料理にがっつく。
旨い。それしか言えなかった。菊乃さんの料理も旨かったが葵さんの料理はもっと旨かった。
食べながら葵さんが尋ねてきた。
景正様、き…菊乃さんとはどんな関係なのですか…?」
「菊乃さん?菊乃さんは私達が今滞在している家の主人だよ。それがどうかしたのですか?」
「い…いえ、景正様は菊乃さんのことをどう思っているのかな、と思いまして…」
「どう思うって…それはやっぱり美人だと思うけど…」
「…私よりも…ですか…?」
平蔵は彼女の放つ威圧感に一瞬圧倒された。なんなんだ。このどす黒くて嫌な空気は。
「ねえ…景正様…。私、今日奮発してお酒を買ってきたのですけど…飲みますよね…?」
この時、彼女の言動、仕草に気付くべきだったのだ。
平蔵は気付けなかった。単なる嫉妬だと思ったのだ。
しかし、それは嫉妬の一言で片付けられるようなものではなかった。それはなにもかもを憎悪し、そして破壊する狂気だった。
平蔵は酒が飲めなかった。しかし、断れるような空気ではなかった。
仕方なく、平蔵は猪口に注がれた酒を一息で飲み干した。
飲み干した時、葵の口が半月の様にゆがんで見えた。
「あ…あれ…?」
手から猪口が滑り落ちた。…体が…痺れて…。
「景正様…どうしたのですか…」
葵が言った。心なしかその言葉にはおかしみが含まれていた。
「あ…あお…あお…い…」
舌が痺れてうまくしゃべれない。目もかすんできた。
「景正様…眠たければ眠ってもいいのですよ…。
これからは私が…いつまでもずっと…ずっと…ずっと…一緒にいてあげますから…」
その場に崩れ落ちた。指先一つ動かすことも出来ない。
ああ…業盛様…申し訳ありません…。
あなたの言葉を聞いていれば…こんなことには…こんなことには…。
もう…私は…私は…私は…
視界がどんどん薄れる中、最後に聞こえたのは葵さんの心底嬉しそうな笑い声だった。


107:変歴伝 4
09/01/16 19:54:02 kcgAUQqH
「くそ、平蔵の野郎、どこに行きやがった」
いらいらして思わず素が出てしまう。
もう平蔵は葵の家に行ってしまったのだろうか?だとしたらもう手遅れだろう。
もう殺されているだろうか?いや…違うかもしれない。
わざわざ家に招くのだから、もしかしてじっくりと殺そうとしているのかもしれない。
拷問だろうか…。
竹串、やきごて、鞭打ち、爪剥ぎ…考えてみればいろいろな拷問が思い浮かぶ。
考えるだけで指を隠したくなる。
業盛は嫌な想像を振り払い、再び葵の家を探す。
日が暮れて始め、辺りの家が蝋燭に火を灯し始めた。
うっすらとした蝋燭の火の光が星の様に見えた。
「どうすればいいんだ!ちくしょう」
お手上げだった。もう少しで完全に日が暮れる。
そうなれば葵の家を見つけるのは不可能だ。業盛はその場にへたり込みたくなった。
完全に日が暮れて、空も地上も星だらけになった。
業盛は松明を片手に葵の家を探していた。
いい加減に諦めようと思っていると、おかしなことに気付いた。
行灯の付いていない家が一つあったのだ。
直感だったが、業盛はその家に足を運んでいた。
戸の近くに来てみて、業盛はその異変に気付いた。
戸を通しても漂ってくる、鼻を刺すような…血の臭い。
葵の家はここだ。どうやら拷問ではないらしい。
しかし、遅かったのには違いない。
それにしても、どんな殺され方をすればこんなに臭いが漂ってくるんだ。
打ち首か?串刺しか?もしくはバラバラか?
見たくはなかったが、せめて平蔵の墓ぐらい立ててやらねばならない。
意を決して戸を開けた。


108:変歴伝 4
09/01/16 19:55:13 kcgAUQqH
目の前には葵がいた。いや、倒れていた。
頭はいびつな形にゆがんで、目玉が飛び出し、歯も折れている。
背中は何度も刺され、際限なく流れる血が血溜りを作っている。
戸を何度も引っ掻いたらしく、爪は剥がれて、戸には引っ掻き傷と血が生々しく残っていた。
平蔵はいなかった。家の中は激しく争ったらしく、鍋や椀が散乱していた。
平蔵がやったのだろうか。一瞬の隙を突き、頭を砕いて逃げた…。
あれ…おかしいぞ。平蔵ほどの力のある男が、
女性のような柔らかい頭を殴れば一撃で殺せるはずだ。
しかし、この死体は殴られた後、激しく抵抗しているのだ。
平蔵がわざと力を抜いた。いや、ましてや平蔵がここまでやるはずがない。
せいぜい気絶させるぐらいだろう。
平蔵ではないのなら、これは第三者がやったのだろう。
だとすれば、ずいぶんと残酷な性格であることが分かる。
力を抜いて何度も何度も、まるで、いたぶるかの様に殺している。
よっぽどの恨みがあるのか、もしくは無差別か…。
だとすれば、平蔵はどこにいるのだろう?
その第三者が殺してしまったのだろうか?
ならばここに平蔵の死体があるはずなのに…。もしくは連れ去ったのかも…。
だが、なんのために…?
さまざまな考えが浮かんでは消えていく。
結局分かったのは、葵が誰かに殺され、平蔵が消えたということだけだった。


109:変歴伝 4
09/01/16 19:56:28 kcgAUQqH
投稿終わりです。
今回は少し調整するため少し短めです。
申し訳ありません。

110:名無しさん@ピンキー
09/01/16 20:23:42 +6CEGLo5
>>109
GJ……しかしこれは怖いなw

111:名無しさん@ピンキー
09/01/16 20:52:49 q6d36th+
GJ!

112: ◆UDPETPayJA
09/01/17 19:44:08 ADEi3wlQ
投下します。
注意点として、
・擬人化のような表現がありますが、擬人化ではありません。そこは後々…
・主人公の設定上、女装する場面がのちのち出てくるかも。アッーな展開には絶対しませんが。



113:血塗られしソードマスター 第壱話:御影 ◆UDPETPayJA
09/01/17 19:45:48 ADEi3wlQ
佐久本 朱里(しゅり)は、一言でいうと風変わりな男だ。

中性的…やや女性的な顔立ち。加えて、肩にかかるくらいの長さで、生まれつき色素が薄いのか、やや茶がかった色をしている髪の毛。
そのせいで幼少の頃から頻繁に女子と勘違いされ、高校一年になった今でもそれは変わらずにいる。
文化祭の出し物として、朱里の属する1年3組ではメイド喫茶を開いたが、そこで男子生徒のなかでただ一人女装させられてメイドとして働かされたことは有名だ。
何しろ、3組の売上高はその年では2位以下に倍以上の差をつけたのだから。
朱里は世間で言う、いわゆるモテるタイプだが、女子に告白された回数と男子に告白された回数はさほど変わらないという事実が、朱里がそこいらの女子生徒よりも美女…も

とい、美人であるという裏づけとなっている。
両親は朱里が4歳のときに交通事故で他界。祖父に引き取られ、今の今まで育てられてきた。当時、朱里を引き取ろうという親族はいくらでもいたのだが、
財産目当ての者は一人としておらず、生前朱里の両親に世話になったというあるという人ばかりだった。
しかし祖父が名乗りを挙げれば、あっさりとそれに従った。否、それがベストだと皆思ったのだ。
祖父の教育の賜物か、はたまた両親に似たのか、朱里は人当たりのよい性格を持っており、誰とでも分け隔てなく接することができた。
それは昨今の社会情勢からしたら希少価値、天然記念物クラスといえよう。
朱里がモテるのは単に容姿だけではなく、そういった要素が手伝っている部分もあるのだろう。

 そんな朱里がソレの存在を知ったのは、東京に今年初めての雪が降り積もった二月半ばのこと。―祖父、佐久本 武雄の葬儀が執り行われた日であった。
 葬列は式場いっぱいにまで及び、その中にはテレビニュースなどでよく見かける、財界の顔ぶれもわずかながら含まれていた。
 式自体はとてもシンプルなものだった。武雄は晩年より「儂は昔から念仏というものが退屈で仕方なかった」と愚痴をこぼすかのごとく言っていたので、
念仏はまるごと省略されることとなったのだ。にも関わらず、焼香を済ませ、遺影に一礼をして席に戻るという行程だけで二時間は費やされた。
 朱里は武雄の人徳を、今更ながら実感したのだった。

 夜、宴会室を借りきって行われた、いわゆる"故人を偲ぶ会"。生前の武雄を懐かしむ人もいれば、涙を見せる者も…
まさに、十人十色を体現したかのような空間となっていた。
 だが、朱里は浮かない表情をしていた。彼の頭に今あるのはひとつの思念だけ。それは、武雄のことではなく…ある一本の刀のことだった。。


その刀は、代々佐久本家に伝えられてきた逸品だ。鍛え上げられてからすでに三百年は経っているらしいが刃こぼれどころか錆びひとつなく、
鞘から抜けばぬるりとした鈍い光沢…見事な職人業だ。
 鍔のすぐそばにはこう刻まれている。それはこの刀に付けられた名前なのだろう。

<松代 鳩蔵作 / 御影>


114:血塗られしソードマスター 第壱話:御影 ◆UDPETPayJA
09/01/17 19:46:43 ADEi3wlQ
 祖父の遺言は、"偲ぶ会"の直前になって顧問弁護士より親族に伝えられた。残された遺産は法にのっとり分配。当然、孫である朱里は多く受けとることになるが、
反対するものはいなかった。これも朱里の両親、そして武雄の育て方がよかったからだろう。朱里は、十分すぎるほどに信頼されていたのだ。
 財産分与については何の滞りもなく完了した。だが、最後に弁護士が伝えた一文には、一同はわずかにどよめいた。

「"御影"を朱里に継がせること。ただし、これに関しては代理人ではなく必ず本人が所有せよ、とのことです」

 朱里は誰に対してというわけでもなく、漠然とこう呟いた。

「みかげ、って何?」

 御影は、祖父の居間に飾られていた。実は朱里も何度か目にしたことはあるのだ。しかし、ソレ=御影だとは思わず、今の今まで全く気にも止めなかった。
だからこそ、御影が何であるかが分からなかったのだ。
 その疑問に答えたのは祖父の弟であり、代理人として朱里の継ぐ財産を預かり成人するまで管理する財産管理人を選任された、仁司(ひとし)だった。

 仁司の語るところによると、御影とは300年以上昔、江戸時代末期に松代 鳩蔵という職人によって鍛えられた太刀だそうだ。
しかし鳩蔵は御影を鍛え終わると、完成したばかりのソレを使い、実の娘を殺害するという凶行―むしろ、狂行というべきか―を犯し、自らもそのまま腹を斬り、果てた。
 それ以来御影は色んな…主に侍と呼ばれる人たちの手に渡ることとなるが、所有者となった者たちは皆、変死している。
変死というのは、乱心し御影を辺り構わず振り回し、血の海を作ってなお飽きたらず、自害して果ててしまうという悲惨な死に方を指している。
御影は俗に言う、"呪いの太刀"というものなのだ。
だが唯一例外があった。それこそが武雄の…そして朱里の先祖にあたる、矢坂 晋太朗という侍だ。 彼はこのいわくつきの刀を手にしたが、
終生誰一人として殺すことはなかった。故に、御影はその男の一族に代々受け継がれることとなった。
 実際、晋太郎の血を引く者のなかで、御影に"飲まれた"ものは今日まで一人も現れなかった。この話をそのまま受け止めるなら、
次の御影の継承者には確かに朱里こそが相応しいが…彼はまだ成人すらしていない。
皆が皆、太刀の呪いなんてものの存在を鵜呑みにしているわけではないが、単純に、刀なんてものを与えていいのだろうか、という思慮がこの空間を占めていた。
 だが一同は朱里を見やり、そして安堵すを覚える。この子なら大丈夫だ。呪いが実在したとしても、ちゃんと己を御せるだろう。
そういった、確信めいた期待を朱里に抱いていた。


115:血塗られしソードマスター 第壱話:御影 ◆UDPETPayJA
09/01/17 19:47:45 ADEi3wlQ
そして今に至る。朱里はテーブルに盛られた料理のなかから、好物である鶏料理を皿にとり、もぐもぐと食べていた。
これも武雄が生前から言っていたのだが、「儂は葬式でしけた面をされるのはごめんだ。せめて、料理くらいは豪華にしよう。満腹は人を笑顔にするものだ」と。
故人の意思を尊重したのか、宴席に出された料理は懐石弁当なんて無粋なものではなく、本格的なバイキング形式のものだった。
武雄のこういった性格も、親子三代に遺伝しているのだろうか。武雄は長い生涯のなかで、明確な敵対関係を作ったことはなかった。
その息子…朱里の父親、佐久本 健司(けんじ) も然り。朱里は、冒頭で説明したとおりだ。

 定められた全ての日程が終わり、家路につく朱里。頭の中には未だに"御影"のことが巡っていた。
―どうすればいいんだろう…とりあえず、僕の部屋に飾っておけばいいかなあ。朱里はそんなことを考えていた。祖父に比べると割と能天気な性格のようだ。
がちゃり、と玄関のドアの鍵を回し開ける。日付が変わって午前一時、家のなかは真っ暗だ。外同様に冷えた空気が充満しており、廊下は氷のように冷え切っている。
素足で踏み入ると、とたんに足が冷たくなる。
 慣れた手付きで電気をつける。十年以上ここで暮らしているのだ。目を瞑ってもこれくらいたやすい。そのまま朱里は祖父の居間の襖を開いた。
武雄が入院して以来、この部屋へは久しく入らなかったが…御影の存在が気になったのだ。なんだかんだ言っても朱里も年頃の青少年、好奇心は人並みにある。
ただ、珍しいことにそれが性的関心に向けられたことは一度もないのだが。

そして、ソレはすぐに見つかった。掛け軸の下に飾ってある、黒い鞘に納められた太刀。朱里はそれを手にとり、抜いてみた。
ずしり、と手に伝わる重さ。きっとそれは御影自身の重さに加えて、今までに御影によって流されてきた血の重さも含まれているのだろう。
見つめていると、吸い込まれそうなほどの艶。朱里はとたんに身震いし、すぐに鞘に納めようとした。だが―

「―痛っ…」

 わずかに指先を切ってしまった。この程度なら絆創膏で大丈夫なのだが、朱里は、必要以上に狼狽してしまった。
朱里は決して臆病なわけではない。むしろ、どんな困難にも立ち向かう、祖父譲りの強い精神の持ち主だ。
その朱里がこれなのだから、常人なら足が震えて立てなくなるだろう。
朱里は、御影をもとの場所に置き、自室へと向かった。普段の朱里ならそんなことはないのだが、今は家に独りきりという、この状況が怖かった。
だから、部屋に入ってすぐお気に入りのアーティストのCDをかけ、特に何を見るというわけでもないのにテレビをつけた。
たとえ電気がもたらす擬似的なものでも、人の声がするというのはそれなりに心強いものだ。
 朱里はそのままベッドに伏し、恐怖心が薄くなるにつれて、逆に増してくる睡魔に身を任せ、夢の世界に墜ちた。


116:血塗られしソードマスター 第壱話:御影 ◆UDPETPayJA
09/01/17 19:48:45 ADEi3wlQ
 ――朝、朱里は目覚まし時計が鳴るより早く目を醒ました。昨晩からつけっぱなしだったテレビは、ちょうど星座占いを映し出していた。
それによれば、今日のワースト1位は乙女座。奇しくも、朱里の生まれ月だった。挽回のラッキーアイテムは、紫のニーソックス……朱里は朝っぱらから複雑な気分になった


とりあえず朱里は、学校の制服に着替えることにした。クローゼットからエンジ色のブレザーとチェック柄のズボンを取りだし、代わりに喪服を収納する。
……一瞬、星座占いの解説を思い出した朱里。今日はその通りに紫色のニーソックスを履くことに決めた。
なぜそんなものを持っているかというと、文化祭にて女装メイドに扮したときに用いたからに他ならない。

 着替えを終え、パンでも食べようと台所に向かった。時計の針は6時57分を指している。学校に行くときははいつも7時半に出発しているのだ。
少し時間がなかったため、今日は買い弁にしようと考えていると、台所の方から香ばしい薫りが漂ってきた。
―なんだろう…ここには今は僕しかいないはず。誰かいるのか? 朱里は歩を早め、台所にいる侵入者の姿を捉えた。

その侵入者…いや、少女は腰まで長く伸びた銀色の髪をもち、すらりと引き締まったスタイルをしていた。背は朱里と同じくらい、170センチ前後といったところか。
きりっとした切れ長の瞳をはじめとする、端正な…まるで人形のような顔立ち。まさに、美少女という呼び名がふさわしかった。

「おはよう、朱里」美少女は口を開いた。「朝ごはん、今できたところなんだ。温かいうちに食べてほしいな」
「…君は、いったい誰?」

当たり前の質問だ。朱里の記憶の中には、この少女の存在は含まれていなかったのだから。しかも、飛びきりの美少女だ。
そんな少女がいきなり朝ごはんを作ってくれているなんて、まったく意味が分からないだろう。
 だが…次に少女の口から発せられた名前は、聞き覚えのあるものだった。

「ボクは美景だよ。美しい景色って書いて"みかげ"って読むんだ」
「……みか…げ…!? まさか、そんな!?」
「そう、君が思ってるとおり。ボクの父は松代 鳩蔵。銘刀・御影を作ったそのひとだよ」
「じゃあ君は…御影なのか!? 本当、に…っ」

朱里の唇に、突然温かく、柔らかいものが触れた。…それは美景の唇だった。舌を無理やりねじ込み、朱里の口内を食いつくさんばかりに舐め回す。
朱里はわけがわからず、ただなすがままにされる。
 ちゅ…といやらしい音を立てて唇が離される。唇と唇に、唾液の橋がかかっている。朱里は、自分の心臓の鼓動が激しくなっているのを感じた。

「つれない顔しないでくれ。ボクはもう、キミだけのものなんだよ。自分で言うのもなんだけど、こんな美少女を独占できるんだよ?
 それとも、オンナノコには興味ないのかな?」
「そ…ういうわけじゃないよ。…わけがわからないだけ」
「そう…じゃあ、期待して待ってるよ。とりあえず、学校に行かなきゃ、だね。ほら早く食べて? 今朝は朱里の好きな鶏肉にしたんだよ」

美景から離れた朱里は、おぼつかない足取りで椅子に座り、コップに注がれた牛乳を流し込み、料理に箸をつけた。
夢か現か、今の朱里にはわからないことだらけだ。だが、そんな中でもひとつ発見があった。

 美景は、料理が上手だ。

(続)


117: ◆UDPETPayJA
09/01/17 19:50:40 ADEi3wlQ
終了です。
「天使のような」の方は完成しだい投下します。

118:名無しさん@ピンキー
09/01/17 21:49:19 5zpBYqME
GJ

119:名無しさん@ピンキー
09/01/18 09:38:41 Ece7CzbX
これはいいお嫁さん

120:名無しさん@ピンキー
09/01/18 20:04:03 j3P7y22b
なんてうまやらしい。

121:名無しさん@ピンキー
09/01/18 22:36:41 GxVa5xTH
馬がやらしいとな!?


122:名無しさん@ピンキー
09/01/18 22:42:31 dNA4qiOw
雌馬
これは新しい

123:名無しさん@ピンキー
09/01/18 23:02:01 UXU0J9nK
馬はどちらかというと男に使う感じだよな、種馬、馬並とか

124:名無しさん@ピンキー
09/01/18 23:17:20 SKad6gzg
女が男に馬乗りになって

「あなたの…馬並みに大きい……」
「私だけの種馬になって下さいね…」



ここまで浮かんだ。

125:名無しさん@ピンキー
09/01/18 23:24:15 /S1MgeEh
「私の愛馬は凶暴です」

126:名無しさん@ピンキー
09/01/19 00:04:35 jFccUO2o
「なるほど…エロい事…するんだ…」

127:名無しさん@ピンキー
09/01/19 00:05:38 KhWuHvzR
「そう…エロい事だ。」

128:名無しさん@ピンキー
09/01/19 00:44:17 ww8ryHt0
不愉快だわ

129:名無しさん@ピンキー
09/01/19 14:55:52 r8K70LR9
どこかにヤンデレ美少女に変化する妖刀落ちてないかなと思いました。

130:名無しさん@ピンキー
09/01/19 16:19:00 NUg0CoQv
>>117
ストーリー的には面白そうだし、全然GJなんですが、気になった点を一つ。

>御影とは300年以上昔、江戸時代末期に松代 鳩蔵という職人によって鍛えられた~~

大政奉還が1867年。
現在が西暦2009年。
300年前は幕末(江戸時代末期)ではありえません。
重箱の隅をつつくようで申し訳ないのですが、
ヒロインの出自に関わる重要な設定事項だと思ったので一応申し上げました。
お気を悪くしたら申し訳ありません。
では、続編期待しております。



131:名無しさん@ピンキー
09/01/19 17:00:48 zFUjXq86
家に日本刀が2本あるが可愛い女の子に化けてくれないかな?
ついでに言えば、飼ってるクロの縞縞柄のぬこがぬこまたとかになって、(性的な意味で)襲ってくれないかな?
ついでに言えば、できればヤンデレで(ry

132:名無しさん@ピンキー
09/01/19 17:22:24 9BMJUVZx
木刀と模擬刀ならあるんだけどだめかな?

小太刀はロリになりそうだけど

133:名無しさん@ピンキー
09/01/19 18:35:29 hQpp5fme
刀擬人化は修羅場スレの九十九の想いがあるな

134:名無しさん@ピンキー
09/01/19 20:18:40 7UBIesI3
>>131
猫又とかババアじゃねえか
お前も物好きだな

135:名無しさん@ピンキー
09/01/19 20:27:10 zFUjXq86
>>134
人間に10年ぐらい買われた猫が・・・じゃ、なかったっけ?
猫にとっての10年ではない、人間にとっての10年なのだ。
つまり、炉利ッ子というわ(ry

136:名無しさん@ピンキー
09/01/19 20:44:47 7UBIesI3
>>135
20年じゃなかったか?
10年くらいだと普通に生きるだろ

137:名無しさん@ピンキー
09/01/19 20:56:42 zFUjXq86
ほう?20年とな!食べごろではないか!(以下自重

138:名無しさん@ピンキー
09/01/19 21:48:46 TpyT12wL
バレンタインのチョコに尿を仕込む女子集合
URLリンク(imijiki.blog7.fc2.com)

139:名無しさん@ピンキー
09/01/19 23:01:30 /LjFmKVp
擬人化と言えばこのスレでは妖しの呪縛が近いか
一話で中断してるのが惜しい

140:名無しさん@ピンキー
09/01/19 23:24:48 Q5JcWH0o
>>133
あれ好きなんだけど止まってるなぁ
と言うよりあのスレ全体が止まってると言った方が良いかな・・・

141:名無しさん@ピンキー
09/01/19 23:27:27 hQpp5fme
全盛期は勢い50以上あって日に投下5本とか来てたのにな…
悲しいもんだ…

142:名無しさん@ピンキー
09/01/19 23:30:16 /LjFmKVp
他スレの話はその辺りで止めとけ

143:名無しさん@ピンキー
09/01/20 00:37:51 67fNEbgL
擬人化+ヤンデレか…
物凄く良い…

144:名無しさん@ピンキー
09/01/20 03:15:09 vweVORex
そういや自分は3スレとも見てるけど何で分割したんだろう・・・
キモ姉妹スレは分かるけどココと嫉妬ではどういう風に
使い分けてるのだろうか?


145:名無しさん@ピンキー
09/01/20 04:18:19 +qHSBRMA
>>144
ここ…ヤンデレならOK
嫉妬スレ…嫉妬や三角関係などが絡んでいればOK(病んでなくても)
キモウトスレ…キモ姉・キモウトが出ればOK

深く考える必要はないと思われる。現状でも混合してるし。

とりあえず、ここに居る俺らは皆ヤンデレが大好きだ!それで十分じゃないか!
とキモウトヤンデレ好きな俺が叫んでみる。

146:名無しさん@ピンキー
09/01/20 06:00:57 Vb1w8Ak8
まぁもともとはスレ数からみてもわかるように嫉妬修羅場が最初にできたんだが
ヒロインが2人以上いて修羅場をしなくてもいいから
ヤンデレを出せと言うことで分派してヤンデレスレができて

そのヤンデレスレからキモウトキモ姉スレが特化スレとしてまた分派した感じじゃね?

147:名無しさん@ピンキー
09/01/20 06:19:53 yUWuCmEf
キモスレはあそこの初代>>1が荒らし誘導で勝手に立てたんだ、
おかげで初期は重複だなんだで散々揉めた。
今もあるかは知らないが荒らしが便乗してストーカースレとか言うのも立ててた。

148:144
09/01/20 09:50:35 vweVORex
成る程 そういう棲み分けだったのか
アリガト エロい人方。

149:名無しさん@ピンキー
09/01/21 10:31:37 gIhlGT0P
ヤンデレに『さっきのどういう事ですか?ねぇねぇ』とか言われたいものだ

150:名無しさん@ピンキー
09/01/21 13:11:51 e+dNf17c
姉か妹、もしくは従姉妹と一緒に外出してるところをヤンデレに見られたい

151:名無しさん@ピンキー
09/01/21 15:34:23 BKFgU1gH
誰かいますか?投下しようと思うのですが・・・

152:名無しさん@ピンキー
09/01/21 15:39:40 FViU4SmV
>>151
何をしている?早く投下したまえwktk

153:名無しさん@ピンキー
09/01/21 15:41:18 BKFgU1gH
>>152
ありがとうございます。生意気にも、初投下で長編です。

前置き
・内容はすごく浅い。あくまでみなさんの作品が投下されるまでの繋ぎ的なものとして見てください。
・gdgd
・なにも始まらないくせに長い一話
・登場人物無駄に多い
・批判/指摘はガンガンください。直せる限り努力します。
・でもキツイと凹みます。ダメ人間です
・ぶっちゃけ作者の自己満
以上を踏まえて読んでいただけると幸いです。


では投下します。



154:Tomorrow Nver Cmoes一話「平平凡凡」 ◆j1vYueMMw6
09/01/21 15:47:21 BKFgU1gH
「はい、じゃあ各自念入りにダウンしといて。レギュラー外の一年は手伝うか片付け。最後の子は戸締りをして、一階のラウンジに集合」
今日も部活が終わった。相変わらずの完全不燃焼で、不満が募るばかりだ。
季節は冬、12月。ごく普通に中学を卒業した俺は、ごく普通の高校に、特に何の波乱も無く入学し、大きな変化も無いまま一年が終わろうとしていた。
現に、今年の授業は今日で収めとなり、明日からは冬休みが始まる。冬休みはカレンダーで見るよりもずっと早く、あっという間に年が明けるだろう。

「さて、と」
散らばったボールを籠に戻すと、俺は体育館を見渡した。梅ちゃんが舞台のほうへと向かったので、おそらくモップを持ってくるはずだ。
シバちゃんがコーンを片付けており、続いて、ネットを下ろしている佐藤の姿が目に入ってきた。小走りでそちらへ向かう。
「お、悪いな」俺を見て佐藤が笑ったので、気にすんな、と言って俺も笑った。

俺は中学校からずっとバレーボールを続けており、自慢じゃないが中学生の頃は主将を勤めていた。
ただ、高校では普通にやれれば満足なので黙っているつもりだったが、アイツが━浅井の野郎が新入部員の歓迎会でわざわざ言いやがった。
幸い、悪い方向には転がらずにすんだが。
「たいしょ~。マッサージして~」
「あ、俺も、大将」
「はいはい。今片付けっスから、ミーテの時にしますよ」
結果、これだ。念のため言うが、俺の名前は“大将”ではない。
主将をやっていたことが転じ、気付けば周りの人間は俺をそう呼び始めた。まぁ、これだけなら一向に構わないのだが、これに託けて、何かと俺に甘えてくる。
もしそれを断るものなら、「え~。だって主将やってたんでしょ」という意味のわからない責任を押し付けられる。1年生は5人もいるのだから、俺以外にも頼めばいいだろうに。
「モテモテだな、大将」佐藤登志男(さとう としお)はネットを支えるポールによじ登り、高い位置の紐を解きながら言ってきた。
「お前まで言うかよ」
「まあまあ、プラスに考えろよ。先輩に好かれてるなんてオイシイじゃないか」
「先輩だけなら、な」 事実、先輩だけではない。

我が校の部活は互いに関係が深い部活が多く、特に同じ競技なら尚更である。
男子バレー部と女子バレー部もその例に漏れず、非常に友好的だ。健全な高校男児なら手放しで喜ぶところだが、今の俺には不愉快としか言い様が無い。
部活同士で仲がよければ当然、部活の枠を越えてカップルが出来たりもする。
バレー部では、二年の池松先輩と城崎先輩がそれにあたり、主に二人を掛け橋にして関係が築かれている。“大将”は、その掛け橋を本人の知らぬ間に渡ってしまい、橋から橋へ、部活から部活へと一人歩きを始めたことに気付いた時には、もう手遅れ。
学年どころか、学校の大半の生徒に知れ渡ってしまった。『斎藤憲輔(さいとう けんすけ)=大将=なんでも頼める人』という式は、もう崩せそうにない。


155:Tomorrow Nver Cmoes一話「平平凡凡」 ◆j1vYueMMw6
09/01/21 15:49:31 BKFgU1gH
佐藤がネットを取り外すと、いつのまにか戻ってきたシバちゃんがネットを丸め始めた。
俺と佐藤はポールを運ぶ事にした。最近のはアルミだかなんだかで作られており非常に軽いのだが、歴史が深いらしいこの学校は未だに鉄製のものも所有し、男子バレー部はそちらを使わされている。
顧問曰く、これも筋トレの一貫らしいが、女子バレー部の若いコーチに言い寄られ、最新のは女子が使っちゃってください、と顧問が言っていた現場を俺は見ていた。あの時のイイ笑顔は忘れられそうにない。
「ほっ、と」若干、ふらつきながらもポールを倉庫の定位置に置いて固定した。横でも佐藤が同じ作業を終え、右手のこぶしで腰を叩いていた。
「かぁ~、腰にくるなぁ。そういや、今日はりおちゃん来なかったな」
「ん?・・・あぁ、そういえば」
「うわっ、今の間は何よ。聞いてたら傷つくぞ」
「今日はいないから大丈夫」
そう言いながら倉庫を出た矢先、彼女の声が聞こえた。
「遅れて申し訳ありませんっ」体育館に入るや否や、土下座でもしそうな勢いで頭を下げている。
そこへ、現主将の浦和先輩が寄っていく。「もっぉ~、りおっち遅いって~。今日は終わっちゃったよ」
「ご、ごめんなさいっ。なかなか用事が済まなくて・・・」
「ま、いいからいいから。今日はお休みってことで」
「いえ、せめて片づけだけでも手伝いますっ」
「・・・りおちゃん、スゲーな」舞台横の時計を見ながら、佐藤が言う。
つられて見ると、時刻は6時過ぎだった。「俺だったから確実に来ねーよ、なぁ?」
「それよりも、6時間部活やって汗をろくにかいてない自分にびっくりだよ」
言いながら、俺は体育着の首元をひっぱり、匂いを嗅いだ。未だに洗剤の匂いがした。
「ん?・・・冬だからジャン?」
「お前、それ本気で言ってたら殴るぞ」
「んなこと言っても仕方ねぇだろうよ。俺らレギュラー外だもん」
佐藤は、俺の最大の悩みをあっさりと口にしてくれた。

そう。俺は大将と呼ばれているクセに、レギュラーではない。
部員数が100を超えていたり、全国に名を轟かす強豪校だというのなら、俺は甘んじてこの状況を受け入れよう。
ただ、現実は1,2年生合わせて20人ちょっとの部活で、全国どころか、地区大会を勝ち抜いたことすらない。
顧問の高橋先生は、俺のことが嫌いだ。ミーティングの時に俺の顔を見ないし、練習のときは俺に対する球筋がやたら緩い。
あんなもん、素人でも取れる。差し入れを持ってきたときは俺の分だけ足りなかったし、俺がいるのに体育館の鍵を閉めたこともあった。
りおちゃんがいなかったら確実に一泊していただろう。元大学選抜選手らしいが、その御眼鏡には俺のことが悪く映っているらしい。
確かに、俺はそれほどバレーが上手いわけではない。弱小校で頭を張っていただけで、主将に選ばれた理由も、おそらく実力ではないだろう。
バレーに限らず、スポーツ全般において優劣を分ける体格も、恵まれているとは言い難い。
一言で言うなれば、平平凡凡。誉められることも、怒られることもなくここまで成長してきた俺は、たかだか16年間生きただけで、己の人生の行く末を把握した。
ドラマティックも、スペクタクルも俺には用意されていない。
遠い、隣の世界の話だ。

156:Tomorrow Nver Cmoes一話「平平凡凡」 ◆j1vYueMMw6
09/01/21 15:52:24 BKFgU1gH
「大将、ギャラリー頼んでもいい?」

ナーバスになっていたところ、突然後ろから声を掛けられて、思わず体が跳ねた。
向き直ると、大川俊(おおかわ しゅん)先輩がいた。大川先輩はバレー部だということを疑うほどに身長が低く、無駄に声が高い。

「ああ、はい。大丈夫っス」

「ホント?悪いねぇ。俺ちょっと、今日は用事があってさぁ」先輩は満面の笑みを浮かべると、そのまま走り去った。

はぁ、とため息を一つ吐く。

「俺が行こうか?」心配したのか、佐藤が気を遣ってくれる。

「私がっ。私が行きますっ」また後ろから声がして驚く。そこにはりおちゃん、窪塚りおが高く右手を挙げて立っていた。

「あ、いや、いいよ」二人の申し出を断ると、りおちゃんはどこか悲しげな表情をし、佐藤はあからさまに呆れていた。
「頼まれたのは俺だし。それに、りおちゃんは今日休みな、って言われてたでしょ」

「でも・・・」

「ムダムダ、りおちゃん。コイツは人一倍意地っ張りだからさ」やれやれ、と言って首を振る。

「あぁそうだよ。どうせ俺は意地っ張りだっつうの」

「で、でも、でも・・・」りおちゃんは両手を胸の前で擦り合わせながら、モジモジとしている。

俺もたいがいだが、りおちゃんもなかなかだ。そしてりおちゃんは胸がデカイ。

「ほら、ミーテ始まるから先に行ってくれ。鍵も俺が閉めとく」

雑念を振り払って舞台袖へ向く。後ろから佐藤が「無理すんなよ」とふざけたトーンで言ってきた。それがどれだけありがたいか、アイツ自身は知らないだろう。


集会などで使われる舞台の下の両脇に、扉がある。
そこから裏方へ上がり、さらに階段を上ることで、大会などの時に保護者が来たり、横断幕を張るような通路、通称ギャラリーへと行ける。窓ガラスに沿って体育館の二階を、ぐるりと一周している通路だ。
バレーボールは、稀に、球を弾き過ぎてボールが乗ってしまうことがある。部活が終わってから、カーテンをしめたり窓を閉じたりするついでにまとめて回収するのだ。
また、今日はたまたまいないが、体育館で二つの部活が活動するときは、反面ずつに分かつ網状のカーテンをギャラリーから下ろすため、それをしまうこともこの時にする。
扉を開けて裏方に入ろうとすると、モップをしまっている梅ちゃんと目が合った。「あ、ギャラリー」
数秒待ったが、続きを言おうとしないので、解読することにした。
つまりは、俺が来たことでギャラリーという仕事を思い出し、もしかしたら、そのことを謝ったりもしているかもしれない。

「ああ、いいよ、気にしないで。俺いくから」できるかぎりの優しい顔と口調で返事をした。

「あ、う、あり、ありがとう」そう言うと、梅ちゃんは走っていってしまった。

お礼を言われるとは、予想外だった。同学年である梅本賢三(うめもと けんぞう)は内向的な性格のようで、いつも小動物のようにビクビクしている。
それでも、俺の努力の甲斐あって、先ほどのように心を開きつつある。
あれだな、テレビでやってる動物と触れ合いを中心に据えた番組。なんたら動物園。
あれでよくやっている、芸能人が珍しい動物を飼う企画。最初は脅えたり、拒絶していた動物が、初めて飼主の足元に擦り寄ってきた瞬間、あの時のような感動が今押し寄せてきている。
そうか、そのうち梅ちゃんも動物園に帰ってしまうのか、と不謹慎なことを考えながら階段を上った。

157:Tomorrow Nver Cmoes一話「平平凡凡」 ◆j1vYueMMw6
09/01/21 15:54:35 BKFgU1gH
薄暗い階段を抜けて視界が開けると、またもや驚いた。体育館の入り口に、りおちゃんが立っている。先にミーティングに行きなと言ったのに、なんと律儀なことか。
歩きながら暫く彼女を見ていたが、彼女はこっちに気付いていないようだ。ここぞとばかりに直視してみる。
りおちゃんは丸い。太っているというわけではない。普通よりほんのりと丸い程度で、体型的には普通といっても問題ないかも知れない。もしかしたら、雰囲気なども相まって、そう見えるのかもしれない。
クリクリとした瞳と割と大きめの唇が印象的で、黒のショートヘアーは爽やかさを醸し出している。身長は低めだが、その割には胸が・・・
りおちゃんと目が合い、慌てて逸らした。バカか、俺は。マネージャー、それも人様の彼女になに欲情してやがる。
もういちど見ると、彼女は笑顔で手を振っていた。濃い緑色のブレザー越しに、胸が揺れる。俺のバカ。
りおちゃんは主将、浦和好紀(うらわ よしき)先輩の彼女で、推薦での合格が出ているものの、まだ高校生ではない。
中学での授業が終わるとかけつけ、マネージャー業務をしてくれているのだ。正直、ありがたすぎて足を向けて眠れないが、やはり愛する彼氏のためなのだろう。
しかし、こうして一端の部員でしかない俺にまで優しくしてくれているあたり、浦和先輩がうらやましい。



「うしっ、完璧」

体育館の各所にある扉、窓、足元の小窓。順に指差し確認をしてから、防犯システムのスイッチを入れ、入り口の鍵を閉めた。
今なら某偉人に「してますか?」と訊かれても胸を張って返事が出来る。

「お疲れ様です」横にいるりおちゃんが微笑む。花が咲くよう、とはまさにこれで、一瞬見とれてしまった。

「ありがと。じゃ、行こうか」と言うと元気良く、はいっ、と答えてくれた。

ミーティングはもう始まっているだろう。ぜひとも走りたいのだが、りおちゃんがいる手前、それはやめておく。
柔道場と剣道場の前を通り、本館に移る渡り廊下を抜ける。あとは道なりに、視聴覚室、図書室の前を行けばラウンジがある。
下駄箱の前にあるラウンジは、壁が一面ガラス張りになっており、昼間はラウンジ全体が柔らかな日差しに包まれる。逆に、夜は不気味なことこの上ない。
柔道場を通り過ぎたあたりで、りおちゃんが急に言う。「先輩は好きな人とかいないんですか?」

「いきなりだねぇ」

「ダメですか?」

「ダメ、というか」『“彼女”いないんですか?』では ないあたりが寂しい。

「どうなんですか?」

「好きな人ね、いないよ」

「ホントですか~?」上目遣いで、少し近づいてきた。
口元に手を当てて反対側を向く。これ、だれかに見られたら誤解されるな。

「りおちゃんは・・・って、いるか。浦和先輩だ」相当混乱しているみたいだ、俺。

「ん・・・そうですね」りおちゃんは急にテンションが下がり、俯いた。上手くいっていないのだろうか。
苦し紛れで、浦和先輩が羨ましいね、と言うと、りおちゃんは勢いよく顔を上げ、何故、と言うような顔で俺を見てきた。

「りおちゃんは気が利くし、優しいし、か・・・たづけも上手いし」『可愛いしね』と言おうとして止めた。他人の彼女に言うのもどうかと思ったからでヘタレだからではない。断じて。

「私、優しくなんかないですよ。そうだな・・・例えば、好きな人に彼女がいたら、その人をころ・・・押しのけてでも付き合うだろうし」

「すごいなぁ」一瞬、マズイワードが聞こえそうだったが、空気を呼んで、ここは流す。ヘタレだからではない。多分。「じゃあ、もし好きな人が付き合うのを拒否したら?」
言ってから、後悔した。りおちゃんはいつも通り、いや、いつも以上の笑顔を浮かべたが、目は一切笑っておらず、瞳の黒がより濃く見えた。「どんな手を使っても、好きになってもらいます」

「すごいなぁ」具体的にどんな手を使うのか気になったが訊かなかった。ヘタレだからだ。絶対。

158:Tomorrow Nver Cmoes一話「平平凡凡」 ◆j1vYueMMw6
09/01/21 15:56:02 BKFgU1gH
学校から電車に乗って最寄駅まで帰り、そこから自転車に乗った。学校までも自転車で行けるのだが、朝はどうもテンションのせいでその気にならない。
冬の夜は、朝のような刺すような寒さとは裏腹に、どこか清々しい、気持ちのいい寒さと言える。

ミーティングはいつも通り行われ、いよいよ5日後に控えた地区大会についての説明があっただけだった。
今年は高橋先生の存在もあってか、期待がかかっているそうだ。メンバーもここ最近では最も粒揃いで、地区大会は勝ち抜ける、と先生は言っていた。俺はといえば、どうせ出ない試合なので興味が無く、りおちゃんへの失言をいつ謝るかを悩んでいた。
話の流れから推察するに、浦和先輩と上手くいっていないのだろう。そこへ、あの言い方はなかった。怒るのも当然だろう。
ミーティングが終わり、すぐ謝ろうとしたのだが、先ほどマッサージを約束した先輩につかまり、結局、りおちゃんは帰ってしまった。
電車の中、メールで謝ろうかとも思ったが、電池が切れていることを確認させられただけだった。さすがに、そろそろ替え時だろうか。

十字路を抜け、坂を下る。寺、酒屋、和菓子屋がいつも通りの順番で流れていく。信号で止まり、ふと横を見ると、一軒家の窓からあたたかな光が漏れていた。
帰る家に、あのような光が灯っていたのはいつまでだったか。車用の信号が黄色になった。赤になる前に、答えは出た。最初っから灯ってなどいない。
母は介護関係の仕事をしており、朝6時から、早くても夜9時まで家を開ける。
父に至っては、母よりも早く家を出て、母より遅くに帰るというハードスケジュールだ。
それ故、俺とは週に一度程度、それもニアミス程度の関わりしかない。何の仕事をしているか、知りたくても訊く機会が無いので諦めている。
3歳上の姉もいる。いや、いた。
母に代わって、我が家の家事全てを受け持っていたが、大学進学を機に県外に逃亡してしまった。それでも、「寂しい~」と泣きながら電話してきたり、「寂しかった~」とか言いながら、頻繁に帰ってくる。

断っておくが、家族間の中は悪いわけではなく、むしろ模範的な仲の良さである。
父か母、どちらかが休みだと聞けば、誰が言い出すでもなく全員が休みを合わせ、一日中一緒に過ごすというのも、もはや習慣となっている。姉は彼氏との約束をドタキャンしたほどである。逆に、その仲のよさが辛いと思うこともある。
いかんせん、父と母は忙しすぎるのだ。幼稚園の頃は閉園まで待っても誰も俺を迎えに来なかったし、小学校では授業参観などあったかどうかすら曖昧だ。

そのため、家に帰ったら家族が食卓についていて、遅いじゃないか憲輔、お疲れケンちゃん、今日はお鍋よ~、うふふ、あはは。などというのに憧れていたりはする。

「せめて、おかえりくらいはなぁ」
ぼんやりと呟いた言葉は白い靄になって浮かび、すぐに見えなくなった。


159:Tomorrow Nver Cmoes一話「平平凡凡」 ◆j1vYueMMw6
09/01/21 15:57:25 BKFgU1gH
案の定と言うべきか、いつも通りというべきか、家は暗かった。母の中途半端なガーデニング趣味が災いし、壁には正体不明の蔓が巻きついているのは相変わらずだ。

明かりの無いまま、おぼつかない手つきで鍵を開けると、まずは玄関、廊下、階段、居間、キッチンの電気を点ける。玄関の明かりを点けた時、大きめの何かがあったが、気にしないことにした。どうせ母が通販でまた何か頼んだのだろう。

「洗濯物入れて、掃除機かけて、風呂やって、飯作って・・・」居間でカバンを下ろしつつ、やるべきことを反芻する。こうでもしないと、スイッチが切り替わらない。

庭のほうからどんっ、という激突音がした。目をやると、シベリアンハスキーがガラス戸に前足をのせ、後ろ足で立っている。「待ってろ、マエダ。飯食ったら散歩に行くから」

ある日、突然にシベリアンハスキーを貰ってきたのは父だ。
その数日後、帰省した姉は黒いラブラドールレトリーバーを抱えていた。
飼い始めてから知ったのだが、我が家はどうも動物好きの血が流れているらしい。
帰りの遅い母が、帰ってきてから散歩に行ったり、ただでさえ家を出るのが早い父は、わざわざもっと早くに起きて散歩に行っている。
犬の世話に熱中して倒れて貰っても困るので、自粛するように呼びかけているが、あまり聞いてくれていない。

ちなみに、ハスキーがマエダで、レトリーバーがルイス。さらに言えばレトリーバーはメスで、どちらとも名付け親は俺だ。
とりあえず、先に二人にえさをやろう。そうでもしないと鳴き始めて大変なご近所迷惑になる。

こうやって、いつもどおりの一日が終わり、いつもどおりの明日が来る。そう思っていた。
テーブルの上の書置きと一枚の切符を見てから、少しだけ、捩れ始めた。

数時間前、彼女の人生は大きく捩れ、ブツリ、という音を発てて引きちぎれたのを、まだ知らないまま。

160:Tomorrow Nver Cmoes一話「平平凡凡」 ◆j1vYueMMw6
09/01/21 15:59:43 BKFgU1gH
とりあえず、終わりです。

何も始まってねぇし、意味わかんねぇし、ヤンデレいねぇし
とお怒りでしょうが、長い目で見てあげてください。
今日中に2話めも投下できると思います

161:名無しさん@ピンキー
09/01/21 17:54:37 M4jOJvBB
GJ!!!

wktkwktw

162:名無しさん@ピンキー
09/01/21 17:58:19 wJgdN0uL
>>160
続きが気になる長編だな。

GJ

163:名無しさん@ピンキー
09/01/21 18:04:18 v01au8A3
>>161
帰れ

164:名無しさん@ピンキー
09/01/21 18:24:45 TbCvjw54
>>160
りおちゃん可愛いしこれは続きに期待
あと、あまり自虐的になる必要はないと思われ

165:名無しさん@ピンキー
09/01/21 20:29:07 oT4LIDKF
>>160

GJっす!

wktkしながらお待ちしております

166:名無しさん@ピンキー
09/01/21 20:40:23 MDBiexYr
>>160
GJです

ところで題名が『Tomorrow Nver Cmoes』になってるのは携帯で見てるせい?

167:名無しさん@ピンキー
09/01/21 21:53:22 15sdnR5c
GJ!!
でも、最後の行の彼女って誰のこと?

168:兎里 ◆j1vYueMMw6
09/01/21 22:20:58 BKFgU1gH
みなさん、応援ありがとうございます。遅れ申し訳ないです。
2話をなんとか書き終えたのですが、「あれ、話進んでねぇ・・・」と気付いたため、急遽、3話も書き上げました。
これでようやくスレの意義に追いつけた感じです

>>164
悪い癖ですね。申し訳ないです。
・・・りおちゃんがメインじゃないなんて言えない(ノω;)

>>166
いいえ、作者がアホだからです。ごめんなさい、修正します。

>>167
それは2話3話で・・・むふふ

では、投下させていただきます

169:Tomorrow Never Comes2話「捩れ」 ◆j1vYueMMw6
09/01/21 22:22:18 BKFgU1gH
大きな、壁のように圧倒的な何かを見たのを最後に、私の意識は一度途絶えた。

熱さと生臭さで目が覚めた私が最初に見たのは、赤。左頬が赤い何かにぐっちょりと浸かっていた。
鉄のような匂いと生暖かさから、血だと理解するのに、時間はかからなかった。

反射的に退いて、横になった体を起こそうとしたが、体はまったく持ち上がる気配が無い。頭だけでも、と思い動かすと、想像を絶する激痛が顔の右側を襲った。

今の私は、左半身を下にして横になっている。激痛と血を考慮すると、私は怪我をしているのかもしれない。
ただ、起き上がれないのは怪我のせいではないように思える。右側に何かが圧し掛かってきているのを感じているのだが、何故か視界が黒く、よく見えない。それで起きようとすれば激痛。八方塞とはこのことか。

私は今どこにいるのだろうか。確か、今日は学校が終業式だった。家に帰るや否や、父と母は満面の笑みを浮かべ、私を制服のまま車に押し込んだ。

今日はお出かけよ。

なんでも欲しいものを買ってあげるからな。

そう言った両親は本当に嬉しそうで、私はクリスマスが近いことを思い出した。普段は助手席に乗る母が、今日は後ろの私の右側に座り、私の頭を撫でてくれて、父は運転席で羨ましそうな声をあげている。

少し遠くのショッピングモールへ行くため、車は国道に乗った。

━そして、壁を見た。
あの壁は黒かった。目のようなライトがあった。口のようなバンパーがあった。フロントガラスがあった。トラックだった。

血の気が引く、というのをリアルに体験する。体を恐怖が占領する。心臓が唸る。

ずるっ、という擦れる音がすると、右側の重さがなくなった。
同時に、何かが前のシートとの間に落ちる。
栗毛の髪、白い肌、ピンクのセーター、ベージュのロングスカート。
普段は助手席に乗る母が、今日は後ろの私の右側に座り、私の頭を撫でてくれた。

━ハハガ、ワタシノミギガワニ。

運転席に目を向ける。
ヒビだらけフロントガラスの向こうには、ひしゃげたエンジン部分と、トラックの一部があった。というより、トラックはすでにこちら側まで入ってきており、運転席は完全に潰れている。
一本、血まみれで、所々ガラス片の刺さった血まみれの何かが間から伸びている。
父は運転席で羨ましそうな声をあげていた。

━チチハ、ウンテンセキニ。

母と、目が合った。

170:Tomorrow Never Comes2話「捩れ」 ◆j1vYueMMw6
09/01/21 22:23:15 BKFgU1gH
テレビを点けると、過剰なまでに脚色された再現VTRが流れていた。テレビを信じるな、と唯一教え込まれてきた俺は、すっかりアンチマスメディアとなってしまった。

庭ではマエダとルイスが、軽く引いてしまうぐらいの勢いでドッグフードを貪っており、ガラス戸越しでも、はっきりと聞こえている。まぁ、朝7時に食べて、今まで何も食べないというのは辛いだろう。

言っておくが、昼を食べさせないのは普通のことである。犬は一日二食、朝と晩だけだ。何故かは知らない。

何も手を加えない、生まれたままの姿の食パンを咥えながら、二階へ上がろうとした所でようやく、ソレに気付いた。

「なんだ、これ?」テーブルの真中に置かれた紙を持ち上げる。一枚は掌と同程度のサイズの横長で、『東京-岡山』と大きく書かれてあり、『サンライズ出雲』とも書かれてあった。

「切符、だよな」時刻的には、あと二時間もすれば出発する。「なんでこんなタイムリーなもんが・・・?」

次に、A4サイズの紙を手に取る。家にあるコピー用紙と同じ感触がしたので、それだろう。紙には腹が立つほどの丸文字で一言、『乗れ』とだけ、太いマジックで書いてあった。

「意味わかんねぇよ、母さん・・・」

丸文字が母のものなのはわかるが、意味がわからない。

突然、マエダが吠えた。

直後、チャイムが鳴った。

171:Tomorrow Never Comes2話「捩れ」 ◆j1vYueMMw6
09/01/21 22:24:05 BKFgU1gH
「お待たせっ。ほら、時間ないから、早くっ」

訪問してきたのは股引姿に鉢巻を巻いた、どこかで見たようなおっさんで、いきなり俺の腕を掴むと軽トラックに引き込もうとした。当然、抵抗する。

「ちょっ、まっ・・・待て、よっ」

手を振り解こうとするも、おっさんはなかなか離れない。自称スポーツ少年の高校生が、股引鉢巻のおっさんに翻弄されている姿は、さぞかし茶の間の笑いを誘うことだろう。

「待てないって。電車が出ちゃうでしょうが」

「電車、って」俺が抵抗を止めたからか、おっさんも引っ張るのを止めた。俺は手に持ちっぱなしだった切符を見せる。「もしかして、コレ?」

おっさんは目を細め、顔を近づけたり離したりを何度か繰り返してから、これだよ、とだけ答えて俺を車に押し込んだ。

「のぉっ」頭からダイブした座席は、きんぴら煮の匂いがした。

「荷物は・・・これかな。ほいよっ」

ドサリ、という音と共に、車体が僅かに揺れた。すぐにおっさんが運転席に乗り込んできて、再び揺れた。

「ほらほら、シートベルトしないと。おじさんが罰金取られちゃうよ」

身の安全よりも金とは。どこか物悲しい気分で、シートベルトを締めた。・・・じゃない。流される所だった。

「っつうか、おっさん、」

「舌噛むよ~」おっさんがそういい終わるよりも早く、俺は強烈な衝撃を受けて、シートの背もたれに叩きつけられた。

172:Tomorrow Never Comes2話「捩れ」 ◆j1vYueMMw6
09/01/21 22:24:53 BKFgU1gH
「っは・・・」

あまりに突然で、一瞬、呼吸すらあやふやになってしまった。

落ち着いてから窓の外を見ると、ありえないとしか言い様が無かった。景色が流れていく、というような甘っちょろい表現じゃない。景色が認識できない。

あ、街灯。あ、傘を差した人。そんなのが車だと思っていた。

あ、青っぽい何か。あ、赤っぽい何か。俺の目がおかしいのではないかと疑うが、背もたれからビクともしない体が、そうではないと告げている。軽トラがこんな速度出せるわけねぇだろ。

さらに信じられないのが、車線という、交通ルールの基本を完全に、全快バリバリにシカトしているということだ。

夜とはいえ、それなりに車は走っている。こんなバカみたいな速度で走っていれば追いつくのも当たり前なわけで、そのたびに反対車線に乗り上げ追い抜かしている。
まるで魔法のように、車の間を縫うように走っていく。魔法の軽トラに乗った、股引鉢巻の魔法使い。吐き気がする。

「おっと、俺のクリスチーナに吐くなよ」

「吐きませんよ」この速度なら、吐いたら顔面に戻ってきそうだ。「っつうか、クリスチーナって」

「おじさんの愛車よ。奥さんと同じ名前付けてんの」

「グローバルですね」

「ぐろー・・・?ちがうちがう、クリスチーナ」どうやら会話は出来そうにない。


状況を冷静に考えようにも、頭が回らない、回せない。マジでGがパネェ。

ヒントを得ようにも、相手は魔法の国出身なので会話が出来ない。

何なんだ、この状況は。今日は終業式で、昼飯を食べたらすぐに部活だった。レギュラーではない俺は、いつものようにサポートばかりの退屈な部活で、それで家に帰ったら謎の切符があって、魔法使いに拉致られた。

シュールだ。

右手に持ちっぱなしの切符を見る。『東京-岡山』『サンライズ出雲』の他に、『寝台券』『個室』と言ったワードも書かれていた。
切符、というからには何かに乗るための物で、『寝台』という言葉などから考えるに、電車だろう。つまり、岡山行きの夜行列車か。

岡山と言えば、降水量少なかったり、備中松山城、桃や葡萄、吉備津神社など、色々あるだろうが、我が家では黒崎家が一番最初に挙がる。

黒崎は母の弟、つまり俺にとっての叔父さんの家族だ。今となっては、母にとっての唯一の血縁になってしまった。そのせいか、昔から仲が良く、なかなか遠い距離でありながらも、黒崎の一家が我が家によく訪問してきた記憶がある。
斎藤の一家はというと、覚えている限り、一回しか行った記憶がない。

「あ・・・」唐突に思い出した。

「漏らしたか?」

「いや、大丈夫です」

「よかった~」

「わかりましたから、前を向いてください」クリスチーナが電柱と浮気しますよ、と小声で付け足して、俺は意識が途絶えた。

173:Tomorrow Never Comes2話「捩れ」 ◆j1vYueMMw6
09/01/21 22:25:39 BKFgU1gH
「起きんしゃい、ほら、起きんしゃいって」

「んっ・・・」ゆさゆさと体を揺すられる度に、きんぴらの匂いが強くなる。

寝ぼけ眼が最初に捉えたのは古くなった明太子のような色の唇だった。吐き気がする。

「うぅっ」勢いよくドアを開けると、遠慮なく吐いた。昼から何も食べていないのに、驚くほど出た。

「いやぁ、車の中ではしっかり我慢するなんて、偉いねぇ」

愛車が汚れなかったのがそんなに嬉しいのか、おっさんはやたらと素敵な笑顔を浮かべ、フェンスの金網を掴みながら戻し続ける俺を見ていた。

「目的地についたら助手席の前に袋が出るシステムを投入したらいかがですか」

「おっ、それいいかもねぇ」

「冗談でしょ?」そのうち荷台にロケットエンジンでもつくのではなかろうか。

辺りを見渡すと、ここが駐車場だと言うことは理解できた。背の高いビルに挟まれているせいで薄暗く、スペースも4台分しかないという狭さ。
建物の隙間からは、止まない轟音とともに絶え間なく行き交う車が見えた。さらにその向こうには、目を疑うほどに高いビルが乱立してる。

「ここ、どこっスか?」

「ほら、急いで」おっさんは質問には答えずに、荷台に乗って、大きなスポーツバッグを投げてきた。
慌てて受け止めると、合宿の時に買ったものだと気付いた。「玄関にあるから持ってきたけど、それであってるよね?」

あってる、というのは俺の物、という意味だろうか。よくわからないまま中を見てみると、入れた覚えのない部屋着や歯ブラシなどがあった。
なんとなく、状況が理解できてきた。

「おっさ・・・オジサンは、もしかして父の知り合いですか?」

「そうだよ、さっきいきなり電話で頼まれてねぇ」

ようやくことの全貌が見えてきた。要するにこれは両親なりの気遣いで、独りで冬休みを過ごす寂しい俺に、せめて家族同然の黒崎家で楽しく過ごさせようとしているのだろう。
それならば、わざわざ寝台特急に乗せる理由もわかる。

もしかしたら、両親も後から駆けつけるかもしれないし、姉は既に行っているという事もありうる。ただ、俺に予定がないと決め付けられているのは寂しい。

父にはどういう繋がりか、変な友人が多い。このオジサンもそうだろう。類は友を呼ぶ、だ。こんな変人を呼び寄せるのは父しかいない。

「ほら、早く早く。電車出ちゃうよ」

そうとわかれば割り切ろう。部活には葬式がどうとか言えばいい。俺は冬休みを満喫させてもらう。

駅へと走りながら、いったいオジサンの奥さんはどれだけ恐い人なのかを想像していた。

174:Tomorrow Never Comes2話「捩れ」 ◆j1vYueMMw6
09/01/21 22:26:33 BKFgU1gH
間一髪とはまさにこれで、俺が乗車してから、座席を見つける前に電車は出発した。

夜行列車、というと何故か物悲しいイメージがあるが、このサンライズ出雲は違う。いや、もしかしたら最近のは全部そうかもしれないが、俺はコレにしか乗ったことがないので比べ様がない。

内装は細部まで気が遣われており、そこら辺のしょぼいホテルよりは格段良い。シャワー室や、時間は限定されているが売店もある。談話室や喫煙室、なかにはツインベッドの二人用の部屋まである。

部屋を見つけるのに、大した時間はかからなかった。親切な案内図の存在もあるが、やはり二度目というのが強みだ。

昔、たった一度だけの家族旅行が、このサンライズ出雲に乗っての旅行だった。幼かったので記憶は曖昧だが、物凄くテンションが高かったのだけは覚えている。
そのせいか、まだ9時間以上もあるのに、高揚して眠れなかった。


なんとなく談話室に赴くと、一人の男性がいた。ハイになっている俺に、恐いものはない。「こんばんは」

男性は突然の訪問者に驚き、ビクついたものの、すぐに「こんばんは」と返事をしてくれた。ほんの少し、警戒しているよう見えるのは、俺が制服姿だからだろうか。

初見はどこか梅ちゃんを彷彿とさせたが、弱々しくも、全てを許容するような笑顔は、男の俺でさえドキリとするものだった。

目にかかるほどの黒髪に隠れがちだが、よくみると瞳はくすんだ色をしている。端整とまではいかずとも、どちらかと言えば美形に入る顔つきだろう。歳は二十歳ぐらいか。

テーブルを挟んで向かい合う形で座ると、彼は佐藤と名乗った。一瞬、佐藤登志男が浮かぶが、佐藤という苗字は五万といるので、関係はないだろう。
何より、登志男は美形ではない。
彼が苗字だけ名乗ったので、俺も斎藤とだけ名乗った。彼は、似てますね、と笑った。

夜行列車という場所がそうさせるのか、お互いに聞いてもいない身の上話を交互に語り、気付けば日付は変わっていた。
そろそろ退散し様かと思った所で、突然女性が現れた。

長い黒髪を頭の横で一本に束ねている彼女は、アマネと名乗った。
佐藤さんとの会話を聞く限り、二人は知り合い、もしくはそれ以上の仲らしい。パッチリとした瞳と笑顔が可愛らしい。
流石にお邪魔かとも思ったが、彼女が話したいと言ってくれたので、お言葉に甘えることにした。


結局、一睡もできないまま、岡山駅のホームに下りた。閉まった扉を見ると、変わらぬ笑顔のアマネさんと、会ったときよりも若干やつれて見える佐藤さんが手を振ってくれていた。
二人を見送ると、俺は改札へ向かった。

あれから7時間ちょい。アマネさんのマイクパフォーマンスは素晴らしかった。話を途絶えさせない質問の嵐と、意欲をそそるような聞き方、そして退屈させない巧みな話術。
是非ともMCとして、最近の低迷気味のバラティ番組をを改革していただきたい

175:Tomorrow Never Comes2話「捩れ」 ◆j1vYueMMw6
09/01/21 22:27:24 BKFgU1gH
半ば眠りながら改札を抜けると、明らかに異端な黒服が目に付いた。

黒い上下のスーツに、黒いサングラスをかけた角刈り。避けたほうがよさそうだが、さっきから写真を片手にチラチラこちらを見てくる。
挙句、人を押しのけながらこっちまで来る。「斎藤憲輔さんですね」

「ええ、まぁ、はい」

こちらへと言って、再び人の波をかき分けながら進む黒服についていくと、駅前のロータリーでタクシーを拾った。運転手に行き先を告げていたが、あとから乗り込んだ俺は、他の車の音でよく聞こえなかった。

走り出したタクシーの中、なんとなく気まずい空気に戸惑う。
身を細くしながら扉によりかかり、この人も父さんの知り合いだな、とぼんやりと、しかし、確かな自信を持って考えていた。

「この度は、残念でしたね」

黒服が突然言うが、意味がわからなかった。顔を合わせると、黒服が首を傾げた。「ご存知でない?」

「なんのことかさっぱり」先ほど、チラリと見た売店の朝刊に『米大統領、就任前の期待は何処へ』という一面があったが、まさかそんな話題を高校生には振るまい。

「お父上からご連絡は?」

「連絡・・・あ、昨日から携帯の電池が切れっぱなしで」

「なるほど、そうでしたか」口調は丁寧だが、目は明らかに俺に失望していた。仕方ないじゃないか。メールを2通受信したら電池が2になるようなオンボロだぞ。それに、終業式という退屈なイベントもあったのだ。

黒服が実は、と切り出した所で、タクシーは停車し、俺のほうだけ扉が開いた。

「・・・ご自身でご確認するべきでしょう」そう言って、紙切れを渡された。302、とだけ書いてある。「行って下さい」

タクシーは駐車場に止まっていた。最初に見えたのは、少し汚れた白い壁で、見上げて初めて病院だと理解した。
楽しい気分や、うきうきした気持ちで病院に来ることは少ない。僅かに、胸が苦しい。

176:Tomorrow Never Comes2話「捩れ」 ◆j1vYueMMw6
09/01/21 22:28:21 BKFgU1gH
こんな時間から面会はしてないんですよねぇ、と言う白髪の医者を押し退けた。
エレベーターを待ちきれず、階段を駆け上がる。4階は大した高さではないが、息切れを起こすには充分だった。

息を整えようともせず、また走る。番号が若いわりに、302号室は遠く、たどり着いたときには過呼吸になりかねないほど酸素を求めていた。

扉に手を当て、息を整える。吸って、吐いて。顔を上げる。

表札には『黒崎くるみ』と書かれていた。

ヒュッ、という音が聞こえたかと思うと、呼吸が出来なくなり、膝を突いた。本当に過呼吸になりやがった、このアホ。

「憲輔さんっ」エレベーターの扉が開いた音の後、黒服が駆け寄ってくるのが分かった。どんだけ遠回りしてたんだよ、俺は。

彼は俺の手を取ると、両手で口を覆わせた。さらに、その上から黒服の手が覆い被さり、指と指の隙間が完全に隠れた。

1分せずに、俺の呼吸は落ち着きを取り戻した。今のは、ビニール袋を当てるのと同じ原理だろうか。

「ありがとうございます」

人より過呼吸になりやすい体質とはいえ、情けない。不安や衝撃もあったが、それにしたって・・・なぁ。

「いえ、それよりも」彼は表札に目をやる。

もう一度見ても、書いてある文字は変わらない。

『黒崎くるみ』

177:Tomorrow Never Comes2話「捩れ」 ◆j1vYueMMw6
09/01/21 22:29:00 BKFgU1gH
私は外で待ちます。

そういった黒服を置いて、病室へと入った。意を決してスライドさせたドアは軽く、どこか空回りした気分だった。

真っ白な空間。壁も、天井も、ベッドも、備品も。ゆったりとした個室を見て、多分、俺の部屋より広いな、と場違いなことを考えた。

大きなベッドの枕もとには、小さな山が出来ていた。いわゆる体育座りをして膝に顔を埋めており、長い栗毛だけが見えた。

再び過呼吸になりかねないほどの締め付けを胸に感じ、それに堪えながら、口を開く。「くるみ」

栗毛が揺れ、顔が上がる。

中学3年生の割に、まだ幼い顔つき。細く、小さい体。一家全員がおそろいの亜麻色の髪。

━そして

「・・・お兄ちゃん?」

久しぶりに見た従妹の顔には包帯が巻かれていた。



(続いて、3話いきます)

178:名無しさん@ピンキー
09/01/21 22:30:34 MHFWGQie


179:Tomorrow Never Comes3話「Mement-Mori」 ◆j1vYueMMw6
09/01/21 22:31:42 BKFgU1gH
目が覚めると、見覚えのない天井にたじろいだ。周囲を囲む全てが白で、その不自然さに恐怖を覚えた。

しばらくぼんやりと辺りを見回して、ここが病室で、自分がベッドの上にいることを理解した。

そして、事故に遭ったことを思い出した。

母の目を、父の腕を思い出した。

━右目が、みえない。

震えた指先で右眼の位置にそっと触れると、ザラリと布の感触がした。包帯だ。

「あ゛ぁぁぁあ゛あ゛ぁぁあ゛ぁぁぁぁあ゛ぁあ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!!」

叫びたくもないのに、声が出てきた。お腹の奥の方から、内臓を、喉を押し退けながら、黒くドロドロとした叫びが溢れてくる。

さながらFBIのように突入してきた看護士によって取り押さえられ、注射を打たれたことでまたもや私の意識は飛んだ。

180:Tomorrow Never Comes3話「Mement-Mori」 ◆j1vYueMMw6
09/01/21 22:32:14 BKFgU1gH
次に目覚めたのは、朝日がゆっくりと昇り始めた時間帯で、明かりのない暗闇にぼんやりと浮かぶ白い部屋は、さっきとは違う恐怖があった。

頭が幾分か冷静になったのを確認してから、恐る恐る右目に触れた。

感触は変わらない。湧き上がる衝動を押さえつけて、深呼吸をした。

右目が見えない。その事実は、昨日まで何の不自由もなく生きてきた私にとって、この世の終わりとも言える程の絶望だった。

そう、何不自由なく生きてきたのだ。

母は私の相談を何でも、真摯に受け止めてくれた。時に笑い飛ばし、時に叱り、時に泣いてくれた。

父は母よりも、誰よりも大きな愛情を私に注いでくれた。風邪をひけば会社を休んで看病し、虐められれば肩を怒らせて乗り込んでいき、欲しいものがあれば何でも買ってくれた。

両親は私には過ぎるものだった。二人は私を宝物と言ってくれたが、むしろ逆で、私にとっての宝物が両親であった。

さらに、私にはもう一つ家族があった。少し変わり者だが、優しい伯父さんと伯母さん。いつも元気なお姉ちゃん。

そして、私を可愛がってくれるお兄ちゃん。

断言できる。私ほど恵まれた環境にいる人はいなかった。

今、かつての私ほど恵まれた環境にいる人はいない。


膝を抱えるように、自らを抱きしめるようにして座る。

もういないのだ。かつての私は、もういない。

見えるはずのない右眼に、あの惨事が映る。左眼を開けようが閉じようが、決して消えない光景。

「恐いよぉ・・・お母さん、お父さぁん・・・・」

左眼から、涙がボロボロと零れる。顔をシーツに埋める。

「助けて・・・お兄ちゃん・・・・」

ズドンッ、という重い音が病室に響く。刹那、あの惨事が目だけでなく、体全体に染み渡る。ひっ、と小さな悲鳴をあげ、より強く自分を抱きしめた。

「くるみ」

恐怖が霞む。何か暖かなものが、私の心を優しくノックしてきた。

「・・・お兄ちゃん?」顔を上げる。

顔を真っ赤に高揚させ、涙目で息を切らした、私が兄のように慕っている人物。

斎藤憲輔がいた。


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