09/02/20 23:41:38 nihhmszL
こんばんわです。今回は猟血の狩人の続きなのです
今回もご拝読していただくと幸いです
☆
「部屋の中に、賊が入った?!」
朝の剣の稽古の後、ララディアから昨夜の賊の侵入を聞かされたアレクサンダーは驚きで目を見開いた。
「はい…。まさかこんな高い窓からは入ってこないだろうと思って油断をしておりました。申し訳ありません…」
ララディアは自分の失態にしょげ返っているようだが、アレクサンダーはそんなことを気にしてはいなかった。
このメルキルは他の国に比べ治安は非常にいい。四方を山で囲まれた盆地で外部の人間が入りにくいということもあるのだが
アレクサンダーの父である王が善政を敷いているおかげで国内に貧困に苦しむ人間が殆どおらず、いても福祉事業が
充実しているので喰うに困るということはまずない。
そのため盗みを働かないと食べていけないということが起こりにくく、結果犯罪の発生率も非常に低い水準を保っており
警備が厳重な王城に侵入するような輩が出るなんて思いも寄らなかったのだ。
でもそんなことは、今朝に話題にもならなかった。それほど重大な事件をララディアが上のほうに報告しないはずもない。
そして、もしされていれば今頃城内は蜂の巣を突付いたような大騒ぎになっているはずだ。
「ちょっと待て!それって、勿論報告したんだろ?!まさか、今僕に初めて話しましたって、そんな間抜けな話は許さないぞ!」
「ええ。それなんですが、実は……」
ララディアは、その後に起こった奇怪な出来事をとうとうと語った。
曰く、明らかに自分が標的だったこと。
曰く、目処から飛び降りた無謀さ。
曰く、落ちた遺体が見つからなかった。
「ですから何の証拠も残っていないので、言うだけ無駄と思い報告は控えていたのです」
「………」
聞けば聞くほど奇妙な出来事に、アレクサンダーの顔はどんどんと険しさを増していった。
(そいつ、何でララディアを狙う必要があったんだ?別にララディアはこの国の浮沈を握る重要人物ではないし、わざわざ殺した
ところで何かメリットがあるわけじゃない。
でも、もし物取りの類だとしたらそもそもララディアを襲う意味がない。例えララディアの部屋の窓しか開いていなかったとしても
ララディアを無視して部屋を出て行けばいいのだから……)
そうなると、やっぱり賊の目的はララディアだったということになる。でも、ララディアを狙う理由がわからない。
「あえて聞くけれど…、それは全部ララディアの夢の中、っていうオチじゃあないよね」
奇しくもアレクサンダーは、昨夜衛兵がララディアに放ったのと同様の答えに行き着いた。まあ、それ以外の答えは状況から浮かび
にくいのであるが。
そして、ララディアもこの予想された答えに昨夜とは違う毅然とした態度をとった。
「無論です。この頬の傷が何よりの証拠ですから」
ララディアが指差した頬には、昨夜よりは酷くないものの三条ほどの鋭い切り傷が走っている。てっきり枯れ枝か何かで出来た傷だ
と思っていたアレクサンダーは改めてその傷口を近くで見てみた。
「…この傷…」
確かに、枝キズにしてはその傷口は鋭利で細く、まるで剣でなぞったかのようなものに見える。それが等間隔で付けられているとい
うことは、相手は鉤爪のようなものを身につけていたというのか。
「あと、魔法か何かはわかりませんが賊は目を赤く光らせて目潰しをしてきました。
ただ、完全に不意を突かれて焦ったら、相手もどうしたのかその隙に襲ってこないで………」
(?!)
ララディアのその言葉に、アレクサンダーはビクッと反応した。アレクサンダーの頭に、ある単語が浮かんでくる。
(まさか…?でも、それが……。こうなって……!)